(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】脱免疫化リゾスタフィン及び使用方法
(51)【国際特許分類】
C12N 9/52 20060101AFI20220418BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20220418BHJP
A61K 39/085 20060101ALI20220418BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20220418BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20220418BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220418BHJP
C12N 15/57 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C12N9/52 ZNA
A61K38/48
A61K39/085
A61K45/00
A61P31/04
A61P43/00 121
C12N15/57
(21)【出願番号】P 2017512860
(86)(22)【出願日】2015-05-14
(86)【国際出願番号】 US2015030765
(87)【国際公開番号】W WO2015175774
(87)【国際公開日】2015-11-19
【審査請求日】2018-04-18
【審判番号】
【審判請求日】2020-06-25
(32)【優先日】2015-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-05-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509239956
【氏名又は名称】トラスティーズ・オブ・ダートマス・カレッジ
(73)【特許権者】
【識別番号】516340375
【氏名又は名称】ステルス・バイオロジックス・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】カール・イー・グリスウォールド
(72)【発明者】
【氏名】クリス・ベイリー-ケロッグ
(72)【発明者】
【氏名】ユンジョ・チェ
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ・ブラザノヴィチ
(72)【発明者】
【氏名】ホンリャン・ジャオ
(72)【発明者】
【氏名】ディープタック・ヴェルマ
【合議体】
【審判長】森井 隆信
【審判官】中島 庸子
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/105826号
【文献】国際公開第99/05289号
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2014年,80(9):2746-2753
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC A61K, C07K, C12N
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
JST7580/JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
UniProt/GenBank/EMBL/DDDJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異:
a)配列番号49のAsn232Gln、Arg186Thr、Ala169Gly、Tyr160His、Ser126Pro、Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Ile99Gln、Lys95Glu、Leu83Met、Ile41Glu、およびAsn12Gly;
b)配列番号49のAsn236Asp、Asn232Gln、Arg186Thr、Ala169Gly、Ser166Asn、Tyr160His、Ser126Pro、Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Ile99Gln、Leu83Met、Ile41Glu、およびAsn12Gly;
c)配列番号49のAsn236Asp、Asn232Gln、Arg186Thr、Ala169Gly、Ser166Asn、Tyr160His、Ser126Pro、Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Ile99Gln、Lys95Glu、Leu83Met、Ile41Glu、およびAsn12Gly;
d)配列番号49のSer122Asp、Asn121Gly、Ile99Gln、およびLys46His;
e)配列番号49のSer124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Ile99Gln、Lys95Glu、Leu83Met、Ile41Glu、およびAsn12Gly;
f)配列番号49のSer234Lys、Asn219Tyr、Ile200Thr、Ser122Gly、Asn121Gly、Ser84Tyr、Val75Gln、Asn72His、Phe38Ser、およびTyr33Thr;または
g)配列番号49のAsn236Asp、Asn219Tyr、Ile200Thr、Ser191Ala、Arg186Thr、Ala169Gly、Ser166Thr、Ser122Thr、Val120Asp、Ser84Gly、Val75Glu、Ile70Lys、およびAsn40Thr
を含む、脱免疫化リゾスタフィンまたはその断片であって、前記断片は、リゾスタフィンの触媒活性ドメインを含
む、脱免疫化リゾスタフィンまたはその断片。
【請求項2】
前記脱免疫化リゾスタフィンまたはその断片が、非グリコシル化される、請求項1に記載の脱免疫化リゾスタフィンまたはその断片。
【請求項3】
請求項1に記載の脱免疫化リゾスタフィンまたはその断片および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【請求項4】
抗生物質をさらに含む、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記抗生物質が、β-ラクタム、セファロスポリン、アミノグリコシド、スルホンアミド、葉酸代謝拮抗薬、マクロライド、キノロン、グリコペプチド、ポリペプチド、またはそれらの組み合わせを含む、請求項
4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
微生物感染を予防または治療するための、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記感染が、細菌感染である、請求項
6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記細菌感染が、Staphylococcus属の細菌により引き起こされる、請求項
7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
Ser126、Thr127、および/またはSer234における変異を含む、請求項2に記載の非グリコシル化リゾスタフィンまたはその断片。
【請求項10】
変異Ser126Pro、Thr127Ala、および/またはSer234Lysを含む、請求項2に記載の非グリコシル化リゾスタフィンまたはその断片。
【請求項11】
配列番号218~220のいずれか1つに示されるアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の脱免疫化リゾスタフィンまたはその断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
緒言
本出願は、2014年5月14日に出願された米国特許出願第61/993,056号、2014年5月27日に出願された米国特許出願第62/003,256号、2015年2月12日に出願された米国特許出願第62/115,326号、及び2015年4月30日に出願された米国特許出願第62/155,079号の利益を主張し、この内容は、全体として、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、アメリカ国立衛生研究所によって授与された助成金番号1R21AI098122のもと、政府の支援で行った。政府は、本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌)は、ヒト及び動物の皮膚及び粘膜にコロニーを作り、Staphylococcus(ブドウ球菌)属の他のメンバーと共に、多種多様な数々の感染に関与している。S. aureus(黄色ブドウ球菌)は、表面への付着を容易にし、感染を開始する「接着性マトリックス分子を認識する微生物表面コンポーネント」と表記される表面タンパク質を含む多くの毒性因子を含む(Gordon及びLowy (2008) Clin. Infect. Dis. 46:S350-S359)。S. aureusは、それに免疫系及び抗生物質の両方を回避させるバイオフィルムも形成できる(Donlan及びCosterton (2002) Clin. Microbiol. Rev. 15:167-193)。ほとんどの株は、多糖類カプセルを有し、感染時に細菌の拡散を強化させるために使用される種々の酵素を分泌する(Foster (2005) Nat. Rev. Microbiol. 3:948-958)。S. aureusは、毒性ショック症候群も引き起こすことができ、研究は、ペプチドグリカン及びS. aureus細胞壁のリポテイコ酸が、ラットにおいて毒性ショックを引き起こすために共に作用することを示している(Kimpeら(1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10359-10363)。
【0004】
ブドウ球菌における抗生物質耐性は、ペニシリンがブドウ球菌感染の治療に最初に使用された後に現れる。1960年代後半までに80%を超える臨床分離株に存在した耐性のこの発達(Lowy (2003) J. Clin. Invest. 111:1265-1273)は、日和見病原体と戦うための新しいより強力な薬物の開発を促した。これらの取り組みは、ブドウ球菌感染の負担を緩和するように設計された狭域ペニシリナーゼ耐性薬物であるメチシリンの製造につながった。しかし、最初のメチシリン耐性S. aureus(MRSA)臨床分離株が発見されるまでに、たった1年しか、かからなかった。
【0005】
最初は、MRSA感染は、長期の病院治療及び侵襲的外科的処置のみと関連しており、院内感染型MRSA(HCA-MRSA)に分類された。しかし、近年、MRSAはまた、競技選手、軍の新兵、及び保育所の子供などの高強度の物理的接触を有するグループに影響を及ぼす市中感染型感染(CA-MRSA)として出現している(Romanoら(2006) J. Athl. Train. 41:141-145; Kazakovaら(2005) New Engl. J. Med. 352:468-475; Zindermanら(2004) Emerg. Infect. Dis. 10:941-944; Adcockら(1998) J. Infect. Dis. 178:577-580)。
【0006】
S. aureus細胞壁は、N-アセチルグルコサミン及びN-アセチルムラミン酸の交互多糖類サブユニットからなり、N-アセチルムラミン酸はペプチド鎖と連結されている。ペプチドグリカンの架橋は、ペンタグリシンインターペプチドブリッジを介してムロペプチド鎖を連結する4つの主要なペニシリン結合タンパク質(PBP1、2、3、及び4)により達成される。メチシリン耐性は、トランスペプチダーゼ活性を有するが、ペニシリン及びβ-ラクタム抗生物質に対する親和性が低いペニシリン結合タンパク質PBP2AをコードするmecA遺伝子を、S. aureusが取得した時に、生じた。耐性株細胞は、PBPを依然として産生するが、PBP2Aの発現を考えると、ペプチドグリカン合成がメチシリン及び他のβ-ラクタムの存在下で継続する(Hiramatsuら(2001) Trends Microbiol. 9:486-493)。
【0007】
リゾスタフィンは、ペンタグリシンインターペプチドクロスブリッジを選択的に標的とする、Staphylococcus simulansにより産生されるグリシル-グリシン亜鉛依存性エンドペプチダーゼである。リゾスタフィンに対する遺伝子は、単離され、特性決定されている。例えば、E. coliのペリプラズムへの単一種のリゾスタフィンの分泌を可能にするために、36残基シグナルペプチド及び224残基長プロペプチドを除去して、それにより、細胞内発現のための開始メチオニンまたは外因性シグナル配列のいずれかへの融合を促進する遺伝子切断が行われている(例えば、US2005/0118159を参照のこと)。成熟した247残基酵素は、C末端細胞壁結合ドメイン(92アミノ酸)と18残基リンカーを介して連結しているN末端触媒ドメイン(138アミノ酸)からなる(Luら(2013) Antimicrob. Agents Chemother. 57:1872-1881)。
【0008】
リゾスタフィンは、S. aureus感染の治療のための治療薬としての将来性を示している。ブドウ球菌株(Schindler及びSchuhardt (1964) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 51:414421)及び臨床分離株(Cropp及びHarrison (1964) Can. J. Microbiol. 10:823-828)を溶解するタンパク質が示されており、このタンパク質は、ブドウ球菌バイオフィルム(Kokai-Kunら(2009) J. Antimicrob. Ther. 64:94-100)のものを含む、動物モデルにおける顕著な有効性を実証した(Schuhardt及びSchindler (1964) J. Bacteriol. 88:815-816; Schaffnerら(1967) Yale J. Biol. Med. 39:230-244; Goldbergら(1967) Antimicrob. Agents Chemother. 7:45-53; Kokai-Kunら(2007) J. Antimicrob. Ther. 60:1051-1059; Placenciaら(2009) Ped. Res. 65:420-424; Climoら(1998) Antimicrob. Agents Chemother. 42:1355-60)。これらの研究のいくつかにおいて、リゾスタフィンに対する抗体が、長期間、薬物を受けた動物で観察された(Climoら(1998) Antimicrob. Agents Chemother. 42:1355-1360)。同様に、経鼻リゾスタフィンでのヒト臨床試験は、抗リゾスタフィン抗体力価のわずかな上昇を示した(Kokai-Kun (2012) in Antimicrobial Drug Discovery: Emerging Strategies (Tegos及びMylonakis編) Ch. 10,147-165)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許出願第61/993,056号
【文献】米国特許出願第62/003,256号
【文献】米国特許出願第62/115,326号
【文献】米国特許出願第62/155,079号
【文献】US2005/0118159
【文献】US2008/0095756
【非特許文献】
【0010】
【文献】Gordon及びLowy (2008) Clin. Infect. Dis. 46:S350-S359
【文献】Donlan及びCosterton (2002) Clin. Microbiol. Rev. 15:167-193
【文献】Foster (2005) Nat. Rev. Microbiol. 3:948-958
【文献】Kimpeら(1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92:10359-10363
【文献】Lowy (2003) J. Clin. Invest. 111:1265-1273
【文献】Romanoら(2006) J. Athl. Train. 41:141-145
【文献】Kazakovaら(2005) New Engl. J. Med. 352:468-475
【文献】Zindermanら(2004) Emerg. Infect. Dis. 10:941-944
【文献】Adcockら(1998) J. Infect. Dis. 178:577-580
【文献】Hiramatsuら(2001) Trends Microbiol. 9:486-493
【文献】Luら(2013) Antimicrob. Agents Chemother. 57:1872-1881
【文献】Schindler及びSchuhardt (1964) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 51:414421
【文献】Cropp及びHarrison (1964) Can. J. Microbiol. 10:823-828
【文献】Kokai-Kunら(2009) J. Antimicrob. Ther. 64:94-100
【文献】Schuhardt及びSchindler (1964) J. Bacteriol. 88:815-816
【文献】Schaffnerら(1967) Yale J. Biol. Med. 39:230-244
【文献】Goldbergら(1967) Antimicrob. Agents Chemother. 7:45-53
【文献】Kokai-Kunら(2007) J. Antimicrob. Ther. 60:1051-1059
【文献】Placenciaら(2009) Ped. Res. 65:420-424
【文献】Climoら(1998) Antimicrob. Agents Chemother. 42:1355-1360
【文献】Kokai-Kun (2012) in Antimicrobial Drug Discovery: Emerging Strategies (Tegos及びMylonakis編) Ch. 10,147-165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
薬物動態を改善し、免疫原性を低減するためには、リゾスタフィンは、分枝状ポリエチレングリコール(PEG)に連結されている。PEG化が免疫反応性を低減させるが、酵素のPEG化は、その活性を有意に低減させる(Walshら(2003) Antimicrob. Agents Chemother. 47:554-558)。加えて、US2008/0095756は、リゾスタフィンの細胞壁結合ドメインの脱免疫化について記載する。しかし、脱免疫化触媒ドメインを有する多様体は、記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、配列番号49のSer124、Ser122、Asn121、Arg118、Ile99、Lys95、Tyr93、Leu83、Lys46、Ile41、Asn13、Asn12のうちの1つ以上の変異を有する脱免疫化リゾスタフィンである。一実施形態では、リゾスタフィンは、非グリコシル化されている。別の実施形態では、変異は、Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Arg118Thr、Ile99Gln、Lys95Glu、Tyr93His、Leu83Met、Lys46His、Ile41Glu、Asn13His、Asn12Gly、またはそれらの組み合わせである。さらなる実施形態では、脱免疫化リゾスタフィンは、C末端結合ドメインに1つ以上のアミノ酸置換をさらに含む。脱免疫化リゾスタフィン及び抗生物質を含有する医薬組成物が提供され、微生物感染を予防または治療する方法も提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1A】
図1A~1Eは、本発明のリゾスタフィン多様体の配列アライメントを示す。
【
図1B】
図1A~1Eは、本発明のリゾスタフィン多様体の配列アライメントを示す。
【
図1C】
図1A~1Eは、本発明のリゾスタフィン多様体の配列アライメントを示す。
【
図1D】
図1A~1Eは、本発明のリゾスタフィン多様体の配列アライメントを示す。
【
図1E】
図1A~1Eは、本発明のリゾスタフィン多様体の配列アライメントを示す。
【
図2】リゾスタフィン触媒ドメインのエピトープマップを示す。予測される結合イベントの総数が、リゾスタフィン一次配列に対してプロットされる。EpiMatrixを使用して、MHCクラスII対立遺伝子DRB*0101、0301、0401、0701、0801、1101、1301、及び1501に対するエピトープを予測した。最大スコアは、8であり、全ての8つの対立遺伝子に結合すると予測されるエピトープを表す。このようなエピトープが、116位で観察された。EpiSweep変異の部位を、矢印及び残基番号で示す。エピトープ群を、5つの異なるクラスタに分けた。後で断念したものであるが、リゾスタフィン発現及び活性に有害であることが判明した変異(Phe38Gly及びSer124Tyr)も示される。
【
図3】完全長の設計に対して計算された免疫原性スコアの集計を示す。設計中の各ペプチドを、8つのMHCクラスII対立遺伝子に対する強バインダー(IC
50<1μM)、中バインダー(1μM<IC
50<10μM)、または弱バインダー(10μM<IC
50<100μM)と評価した。次に、強バインダー、中バインダー、及び弱バインダーを、図に示される集計スコアを得るために、合計した。「a」を伴う線は、野生型リゾスタフィン触媒ドメイン中の強バインダーの数を示す一方、「b」を伴う線は、中バインダーの数を示す。バー上の数は、各設計の変異負荷を表す。*は、復帰設計を示す。
【
図4A】
図4A~4Cは、Flex5及びFlex9多様体のインビボでの有効性及び免疫原性分析を示す。
図4A、S. aureusに感染後のC57Bl/6マウスの肺への細菌が与える負担(Bacterial burden)、及び、野生型LST、多様体Flex5、多様体Flex9、またはPBS対照での治療。グループ毎にN=6である。
【
図4B】
図4B、HUMIマウス(全て単一のドナーからヒト化された)を、野生型LST(WT)、多様体Flex5、または多様体Flex9のいずれかで皮下免疫化し、脾細胞を採取し、同じタンパク質またはDMSOでエクスビボ再刺激した。増殖を、トリチウム化チミジンの取り込みとして測定した。グループ毎にN=4であり、プールして、3回測定した。
【
図4C】
図4C、トランスジェニックDR4マウスを、野生型LSTの複数の皮下注射で免疫化した。最後のブースト後に、マウスを、20週間回復させ、2グループに分け、マウスに野生型LSTまたは多様体Flex5のいずれかで再チャレンジをした。脾細胞を採取し、再チャレンジのタンパク質またはDMSOでエクスビボ再刺激し、増殖をトリチウム化チミジンの取り込みとして測定した。グループ毎にN=5であり、プールして、3回測定した。統計的有意性を、一元ANOVA(
図4A)または二元ANOVA(
図4B及び4C)で評価した。*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001、****P<0.0001。
【
図5】多様体Lib5(上)、Opt4(中)、及びLST
WT(野生型)(下)に対する予測されたDR4T細胞エピトープを示す。ノナマーエピトープを、LSTアミノ酸配列(X軸)の対応する位置で横線として示す。LST
WTは、16の推定エピトープを含有し、Opt4は、5つ含有し、Lib5は、3つだけ含有する。LST
WTにおける重なり合ったエピトープ密度の領域は、X軸上の塗りつぶされたブロックで強調される。Lib5(上)及びOpt4(中)における脱免疫化変異の位置は、塗りつぶした縦バーとして示される。各設計に対する変異(M)及びエピトープ(E)の総数は、右に示される。
【
図6A】
図6A及び6Bは、リゾスタフィン触媒及び細胞壁結合ドメインのグローバルエピトープマップをそれぞれ示す。HLA対立遺伝子DRB1*0101、0301、0401、0701、0801、1101、1301、及び1501に対するエピトープを予測した。9つの残基ペプチドエピトープは、実線(1~2%の閾値)及び破線(3~5%の閾値)で示される。リゾスタフィン触媒ドメイン一次配列は、X軸上に示され、各ペプチドエピトープと関連したHLA対立遺伝子は、Y軸上に示される。設計性分析に対するリスク領域の高い方は、塗りつぶされたボックスで上部にマークされる。破線を伴うボックスは、脱免疫化Flex9の脱免疫化触媒ドメインの開発中に、さらに再設計された中程度のリスク領域を表す。
【
図6B】
図6A及び6Bは、リゾスタフィン触媒及び細胞壁結合ドメインのグローバルエピトープマップをそれぞれ示す。HLA対立遺伝子DRB1*0101、0301、0401、0701、0801、1101、1301、及び1501に対するエピトープを予測した。9つの残基ペプチドエピトープは、実線(1~2%の閾値)及び破線(3~5%の閾値)で示される。リゾスタフィン触媒ドメイン一次配列は、X軸上に示され、各ペプチドエピトープと関連したHLA対立遺伝子は、Y軸上に示される。設計性分析に対するリスク領域の高い方は、塗りつぶされたボックスで上部にマークされる。破線を伴うボックスは、脱免疫化Flex9の脱免疫化触媒ドメインの開発中に、さらに再設計された中程度のリスク領域を表す。
【
図7】MRSA株USA400に対するF11、F12、及びF13の最少阻害濃度(MIC)を示す。
【
図8】C57BL/6マウスにおけるF11多様体のインビボ有効性。2×10
8のMRSA株SA400の腹腔内注射で、マウスにチャレンジし、1時間後に、マウスを100μgの野生型LST、F11、またはPBSで治療した。生存率が示される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
酵素活性を有意に変更させることなく、リゾスタフィンの触媒ドメインが、脱免疫化できることは、目下示されている。特に、リゾスタフィンのEpiSweep分析を使用して、MHCクラスII結合イベントを同定した。触媒ドメインに変異を含有する脱免疫化リゾスタフィン多様体を生成し、発現させ、精製し、市販のリゾスタフィンと同等の活性レベルを有することを示した。触媒ドメインの変異を、細胞壁結合ドメインの変異と組み合わせることにより、本発明は、微生物感染を治療するための完全脱免疫化リゾスタフィン多様体及びその使用方法を提供する。
【0015】
本明細書で使用される場合、リゾスタフィンに関して使用される時の用語「脱免疫化」は、免疫原性が高い領域または残基の特異的除去及び/または修飾が起こっているリゾスタフィン(例えば、リゾスタフィン多様体、誘導体、及び/またはそれらのホモログ)に関する。用語「脱免疫化」は、当該技術分野でよく知られており、とりわけ、抗体を含む他の治療分子からのT細胞エピトープの除去に用いられている(例えば、WO98/52976またはWO00/34317を参照のこと)。
【0016】
体液性抗体形成は、ヘルパーT細胞の抗原特異的B細胞との共同を必要とする。分子の免疫原性を低減させるためには、1つのアプローチは、抗原の、B細胞と相互作用、B細胞を刺激する能力を低減させること及び/または抗原のヘルパーT細胞を刺激する能力を低減させることである。しかし、B細胞エピトープの同定は、問題があり、それらが不確定な長さであるという事実を考えると、は多くの場合、標的抗原の三次構造に依存する。対照的に、T細胞エピトープは、短い(9~15アミノ酸)、直鎖状ペプチド(例えば、Doytchinova及びFlower (2006) Mol. Immunol. 43(13):2037-44を参照のこと)である。加えて、T細胞活性化の低減が、より容易に達成し、抗体産生に大きく影響する能力を有する(例えば、Tangrら(2005) J. Immunol. 174:3187-3196を参照のこと)ことを証拠が示唆している。T細胞を刺激する抗原決定基を含むアミノ酸配列は、T細胞エピトープと呼ばれ、抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子との関連でディスプレイされる。(例えば、エピトープのMHC分子への結合を阻害すること、エピトープ及びMHC分子の間の親和性を変更すること、エピトープの配向が変更され、その上、MHC分子の結合領域内にあるような方法で、エピトープを変更すること、またはMHC分子によるエピトープの提示が変更されるようにエピトープを変更することにより)T細胞エピトープのMHC分子に結合する能力を変更することは、免疫原性応答を刺激する(例えば、ヘルパーT細胞及びB細胞応答を刺激する)ことができない、または、できなくなる、変更されたエピトープを与える可能性を有する。従って、本明細書で記載される方法を使用して、リゾスタフィンのエピトープを同定し、続いて、リゾスタフィンの免疫原性及び体液性抗体応答を誘導する能力を低減させるために変更した。
【0017】
従って、脱免疫化は、T細胞エピトープ、好ましくは、ヘルパーT細胞エピトープ、の同定、修飾、及び/または除去を含む。本文脈中での、用語T細胞エピトープは、MHCクラスI及び/またはクラスII分子との関連で、T細胞により認識されるT細胞エピトープ(すなわち、小さいペプチド)に関する。T細胞エピトープの同定のための方法は、当該技術分野で知られている(例えば、WO98/52976、WO00/34317、及びUS2004/0180386を参照のこと)。同定の種々の方法は、ペプチドスレッディング、ペプチドMHC結合、ヒトT細胞アッセイ、サイトカイン発現パターンの分析、ELISPOTアッセイ、クラスII四量体エピトープマッピング、MHC結合モチーフデータベースの調査、及びT細胞エピトープのさらなる除去/修飾を含むが、これらに限定されない。特定の実施形態では、EpiSweep法により用いられるものなどの構造誘導型脱免疫化のアプローチが使用される。EpiSweepは、構造ベースのタンパク質設計、配列ベースのタンパク質脱免疫化、及び設計空間のパレートフロンティアを見つけるためのアルゴリズムを統合する(Parkerら(2013) J. Comput. Biol. 20:152-65)。
【0018】
上述の技術の適用によるT細胞エピトープを同定した時、本明細書にさらに記載されるように、同定されるMHC結合ペプチド内の1つ以上のアミノ酸置換により、リゾスタフィンまたはそのフラグメント(複数可)(例えば、触媒ドメイン)から、エピトープを、排除、置換、及び/または修飾できる。一部の実施形態では、MHCクラスI及び/若しくはクラスII分子への結合を排除若しくは大幅に低減するか、または、代わりにMHC結合ペプチドをMHCクラスI若しくはクラスII分子に結合する能力を保持するが、T細胞活性化及び/若しくは増殖を誘発できない配列に変更する1つ以上のアミノ酸置換が生じる。
【0019】
成熟リゾスタフィンは、2つの機能ドメイン、S. aureusの外側細胞壁に結合する92残基のC末端ドメイン及びエンドペプチターゼ活性を有するN末端活性部位を有することが示されている(Baba及びSchneewind (1996) EMBO J. 15:4789-4797)。リゾスタフィンは、部分的には2つの別々のドメインの異なる溶媒特性に起因して、結晶化に成功していない。しかし、本明細書で記載されるインシリコ方法を使用して、変異の種々の組み合わせを含む高機能性リゾスタフィンタンパク質が生成されている。(活性部位残基を除く)触媒ドメインの各位置で可変なアミノ酸を選択し、免疫原性が低いと予測され、その上、安定性を保持するリゾスタフィン多様体を生成した。各変異を、発現及び活性ついて評価した。両方の点で基準を満たしたとみられる変異のみを選択し、脱免疫化プロセスを再度繰り返した。得られる計画の適切なエネルギーの最小化後に、最良の予測エネルギースコアを有する設計を選択し、実験的に試験した。次に、発現させることができるリゾスタフィン多様体を精製し、活性、安定性、及び免疫原性についてさらに特性決定した。
【0020】
従って、本発明は、活性を保持し、その上、同時に免疫原性の減少を示す免疫原性エピトープの修飾(例えば、アミノ酸置換などの変異)を含む種々のリゾスタフィン多様体を提供する。本明細書で使用される場合、用語「リゾスタフィン」は、完全長リゾスタフィンまたはその部分をコードするアミノ酸配列及び/または核酸配列、任意のリゾスタフィン変異体または多様体(例えば、配列番号1~48または218~220の任意の1つのリゾスタフィン)、任意のリゾスタフィン切断(例えば、1つ以上のアミノ酸が、タンパク質のアミノ末端、カルボキシ末端、またはその両方から除去されている)、ならびにブドウ球菌の細胞壁ペプチドグリカンのグリシン含有ブリッジに対するタンパク質分解攻撃のインビトロ及びインビボでのタンパク質分解能を保持する組換え発現させた任意のリゾスタフィンタンパク質を指す。リゾスタフィン多様体(例えば、本明細書に記載される脱免疫化リゾスタフィン)はまた、切断型で発現させても良い。修飾された完全長リゾスタフィンまたはリゾスタフィン多様体は、(宿主細胞株に存在する酵素、または、プロセスの任意の段階で導入される酵素若しくは試薬、のいずれかによる)タンパク質の翻訳後処理により、または、構造遺伝子の変異により、生成されても良い。本明細書に記載するように、リゾスタフィン多様体は、欠失変異、挿入変異、ドメイン除去変異、点変異、及び交換/置換変異を含んでも良い。
【0021】
本発明は、任意の特定のリゾスタフィン多様体に限定されない。確かに、実施例に記載され、
図1A~1Eに示されたものを含むが、これらに限定されない種々の多様体は、本発明により提供される。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、野生型配列:
AATHEHSAQWLNNYKKGYGYGPYPLGINGGMHYGVDFFMNIGTPVKAISSGKIVEAGWSNYGGGNQIGLIENDGVHRQWYMHLSKYNVKVGDYVKAGQIIGWSGSTGYSTAPHLHFQRMVNSFSNPTAQDPMPFLKSAGYGKAGGTVTPTPNTGWKTNKYGTLYKSESASFTPNTDIITRTTGPFRSMPQSGVLKAGQTIHYDEVMKQDGHVWVGYTGNSGQRIYLPVRTWNKSTNTLGVLWGTIK(配列番号49)と比較した時に、単一のアミノ酸置換(例えば、本明細書に記載されるアミノ酸置換の任意の1つ)を有する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、野生型配列と比較した場合に、2つのアミノ酸置換を有する。他の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、野生型配列と比較した時に、3つのアミノ酸置換を有する。さらなる実施形態では、リゾスタフィン多様体は、野生型配列と比較した時に、4つ以上のアミノ酸置換を有する。特定の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、触媒ドメインに1つ以上のアミノ酸置換を有する。一部の実施形態では、リゾスタフィン変異体は、Ser124、Ser122、Asn121、Arg118、Ile99、Lys95、Tyr93、Leu83、Lys46、Ile41、Asn13、Asn12、またはそれらの組み合わせに、変異を有する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、次の変異:Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Arg118Thr、Ile99Gln、Lys95Glu、Tyr93His、Leu83Met、Lys46His、Ile41Glu、Asn13His、及びAsn12Gly、のうちの1つまたは組み合わせを有する。他の実施形態では、リゾスタフィン多様体はまた、C末端結合ドメインに、1つ以上のアミノ酸置換を有する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、Asn236、Arg186、Ala169、Ser166、Tyr160、またはそれらの組み合わせに、C末端結合ドメイン変異を有する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、C末端結合ドメイン変異の次の変異:Asn236Asp、Arg186Thr、Ala169Gly、Ser166Asn、及びTyr160His、のうちの1つまたは組み合わせを有する。C末端結合ドメインにおける他の好適なアミノ酸置換は、US2008/0095756に開示されているものを含むが、これらに限定されない。
【0022】
同様に、本発明は、任意の特定タイプの変異に限定されない。本発明の変異は、アミノ酸交換(複数可)、挿入(複数可)、欠失(複数可)、付加(複数可)、置換(複数可)、逆位(複数可)、及び/または重複(複数可)を含むが、これらに限定されない。これらの変異/修飾(複数可)は、保存的及び/またはホモログのアミノ酸交換(複数可)も含む。表現型的に/機能的にサイレントなアミノ酸置換を行う方法についてのガイダンスが記載されている。(例えば、Bowie (1990), Science 247:1306-1310を参照のこと)。
【0023】
本発明は、
図1(配列番号1~48)または配列番号218~220に示されるポリペプチド配列と、少なくとも60%、より好ましくは、少なくとも70%、より好ましくは、少なくとも80%、より好ましくは、90%、より好ましくは、少なくとも95%、最も好ましくは、99%同一または相同であるアミノ酸配列を有するリゾスタフィン多様体も提供する。
【0024】
一部の実施形態では、本発明のリゾスタフィン多様体は、非脱免疫化リゾスタフィンにより誘発された免疫応答(例えば、抗リゾスタフィン抗体力価により測定される場合)の90%未満、より好ましくは、80%未満、より好ましくは、70%未満、より好ましくは、60%未満、より好ましくは、50%未満、より好ましくは、40%未満、より好ましくは、30%未満、より好ましくは、20%未満、さらにより好ましくは、10%未満を誘発する。
【0025】
一部の実施形態では、本発明は、脱免疫化リゾスタフィン多様体をコードする核酸配列を含むプラスミドを提供する。特定の実施形態では、プラスミドは、(例えば、殺菌活性及び免疫原性の低減を示す)リゾスタフィン多様体をコードする核酸配列を含む発現ベクターである。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、例えば、精製を容易にする配列と融合された、融合タンパク質(例えば、ヒスチジン伸展)として発現される。一部の実施形態では、本発明の発現ベクターは、配列番号1~48(
図1A~1E)または配列番号218~220に記載されるようなアミノ酸配列を有する脱免疫化リゾスタフィン多様体をコードする核酸配列を含む。
【0026】
リゾスタフィン多様体核酸に加えて、本発明のプラスミドは、制御配列、例えば、プロモーター、転写エンハンサー、及び/またはリゾスタフィン多様体の発現の誘導を可能にする配列、も含んでも良い。例えば、1つの好適な誘導システムは、テトラサイクリン制御性遺伝子発現システム(例えば、Gossen及びBujard (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551; Gossenら(1994) Trends Biotech. 12:58-62を参照のこと)である。一部の実施形態では、誘導システムは、イソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG)誘導性プロモーターである。
【0027】
発現プラスミドを使用して、本発明のリゾスタフィン多様体は、多数の既知の方法により産生させることができる。例えば、リゾスタフィン多様体は、Bacillus sphaericus(US4,931,390);Lactococcus lactis NICE発現システム(NIsin制御遺伝子発現)(Mierauら(2005) Microb. Cell Fact. 4:1-9);pET23b(+)及びpBAD/Thio-TOPO E. coli発現システム(Szwedaら(2005) J. Biotechnol. 117:203-213);BL21(DE-3) E. coli(Sharmaら(2006) Prot. Exp. Purific. 45:206-215);または、本明細書及び治療用タンパク質の産生のため他の文献に記載されるようなPichia pastoris(Gasserら(2013) Future Microbiol. 8:191-208; Walsh (2010) Nature Biotechnol. 28:917-924; Shekhar (2008) Chem. Biol. 15:201-202; Meyerら(2008) Bioproc. Internat. 6:10-21)から発現させ、単離できる。特定の実施形態では、本発明のリゾスタフィン多様体P. pastorisにおける発現により得られ、これは、効率的及び選択的な分泌、高タンパク質力価、ならびに、高細胞密度培養を特徴とする(Voglら(2013) Curr. Opin. Biotechnol. 24:1094-1101)。さらに、P. pastorisは、安全(GRAS)生体と考えられており、タンパク質分泌に使用できるいくつかのシグナル配列を有し、最も強力な既知のプロモーター(AOX)の1つである。P. pastorisは、直接培地へのタンパク質分泌を可能にするので、タンパク質回収及び下流の精製を大幅に単純化する。
【0028】
本発明のリゾスタフィン多様体は、多数の既知の方法により精製できる。例えば、リゾスタフィンは、高い正電荷のために、陽イオン交換工程を使用して、S. simulans、B. sphaericus、またはL. lactisなどの細菌宿主から精製されている(Recseiら(1990) supra(上記); Mierauら(2005) supra; Fedorovら(2003) Biochemistry (Moscow) 68:50-53)。E. coliで発現された時、リゾスタフィンは、アフィニティークロマトグラフィーを使用して精製されている(Szwedaら(2005) supra; Sharmaら(2006) supra)。
【0029】
リゾスタフィン活性は、いくつかの異なる手段:最少阻害濃度(MIC)、最小殺菌濃度(MBC)、ディスク拡散、及び濁度減少(Kusuma及びKokai-Kun (2005) Antimicrob. Agents Chemother. 49:3256-3263)で測定できる。MICアッセイは、S. Aureus細胞の成長を防ぐために必要とされるリゾスタフィンの最小濃度を得るために実施される一方、MBCアッセイは、S. aureusを死滅させるのに必要とされる薬物の最小濃度を測定するためのMICアッセイの後に、通常行われる。MICアッセイは、治療薬の価値を決定する黄金基準と考えられる。ディスク拡散アッセイは、リゾスタフィン含有ディスクが、S. Aureusのローン(lawn)上に置かれ、経時的にプレート媒体中に拡散させられる時に生じるクリアランスゾーンの直径を測定することにより、活性を測定するために行われる。濁度減少アッセイは、細胞の溶解が進むに従った、経時的なS. aureus培地の光学的吸収の減少を測定することを含む(Schindler及びSchuhardt (1964) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 51:414-421)。
【0030】
タンパク質安定性は、いくつかの異なる方法を使用して測定できる。熱安定性を測定するための3つの確立された方法は、例えば、示差走査熱量測定(DSC)、示差走査光散乱(DSLS)、及び示差走査蛍光測定(DSF)を含む。全ての方法は、タンパク質安定性の尺度である、温度の増加に伴いアンフォールドするタンパク質の割合を測定することに基づいている。例えば、温度の小さい増加がタンパク質のアンフォールドをもたらす場合、タンパク質は、非常に安定であると考えられない。DSCは、熱変性と関連する熱吸収を直接測定し、タンパク質治療薬の安定性の評価に十分定量的であることが証明されている(Wenら(2011) J. Pharmaceut. Sci. 101:955-964)。DSLS法は、タンパク質が、温度の増加にさらされる場合に、不可逆的に変性するという仮定に基づいて、タンパク質安定性を測定する。光散乱を使用して、この方法は、変性の結果として生じる凝集をモニタリングする。DSFでは、疎水性残基と結合する際に蛍光を発する蛍光染料が使用される。温度が増加するにつれて、タンパク質は、アンフォールドし始め、そのコアに見出される疎水性残基を露出させて、蛍光シグナルの増加を引き起こす。シグナルのこの増加は、ある範囲の温度にわたって、モニタリングされ、Tm値を測定するために使用される。
【0031】
免疫原性を評価するために、インビトロ及びインビボのモデルが生成されている。MHC分子が、T細胞依存性免疫応答において重要な役割を果たすので、インビトロアッセイは、ペプチドのMHCに結合する能力を試験するために使用できる(Salvatら(2014) J. Vis. Exp. 85)。加えて、ラット、マウス、及び非ヒト霊長類などのいくつかの動物モデルは現在、タンパク質治療約の前臨床評価に使用されており、モデルがヒトに近い程、患者における望ましくない抗体産生を予測することにおいてより正確になるであろう(Brinksら(2013) Pharma. Res. 30:1719-1728)。
【0032】
一部の実施形態では、本発明は、本発明のリゾスタフィン多様体を含有する医薬組成物を提供する。例えば、一部の実施形態では、本発明は、リゾスタフィン多様体及び薬学的に許容される担体を含有する組成物を提供する。特定の実施形態では、本発明は、(例えば、皮膚、創傷、若しくは器官の)ブドウ球菌感染の治療若しくは予防のための医薬組成物に使用される、または、種々の活性S. aureus感染に対する治療法としての、リゾスタフィン多様体(例えば、脱免疫化リゾスタフィン)を提供する。好ましい実施態様では、本発明の医薬組成物は、本発明の治療的有効量のリゾスタフィンを、薬学的に許容される担体と共に含む。本発明は、利用される薬学的に許容される担体のタイプにより限定されない。確かに、水;石油、動物油、植物油、落花生油、大豆油、鉱油、ゴマ油などを含む油などの滅菌液体を含むが、これらに限定されない種々の担体は、当該技術分野においてよく知られている。生理食塩水、水性デキストロース、及びグリセロール溶液はまた、特に、注射用溶液製剤のための液体担体として用いることができる。好適な薬学的担体は、Remington’s Pharmaceutical Sciences, 第18版に記載されている。
【0033】
治療的有効量は、感染の治療における救助、援助、予防、または防止効果のいくつかの尺度を提供すると合理的に考えられているリゾスタフィン多様体の量である。治療的有効量は、細菌のコロニー形成または感染を遮断するのに十分と考えられる量であって良い。同様に、治療的有効量は、既存の細菌感染を緩和(例えば、根絶)するのに十分と考えられる量であって良い。本発明の医薬組成物は特に、細菌感染を予防、改善、及び/または治療するのに有用であって良い。
【0034】
本発明の組成物は、局部的に(例えば、局所的に)または全身的に(例えば、静脈内に)投与されても良い。非経口投与のための製剤は、滅菌水性、または非水溶液、懸濁液、及びエマルションを含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、及びオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルである。水性担体は、水、アルコール/水溶液、エマルション、または生理食塩水及び緩衝媒体を含む懸濁液を含む。非経口ビヒクルは、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース、及び塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または不揮発性油を含む。静脈内ビヒクルは、流体及び栄養補充液、電解質補充液(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)などを含む。例えば、抗菌剤、酸化防止剤、キレート剤、及び不活性ガスなどの防腐剤及び他の添加剤も存在しても良い。さらに、本発明の医薬組成物は、医薬品組成物の意図される使用に応じて、さらなる薬剤も含んでも良い。
【0035】
本発明によれば、用語「治療」、「治療すること」などは、本明細書では一般に、所望の薬理学的及び/または生理学的効果を得ることを意味するために使用される。効果は、感染を完全に若しくは部分的に予防する観点から防止的であって良く、及び/または、細菌感染を完全に若しくは部分的に治療する(例えば、根絶する)観点から治療的であって良い。本明細書で使用される用語「治療」は、細菌感染が(例えば、感染(例えば、院内感染)しやすい素因があり得るが、感染しているとまだ診断されていない)対象において生じることを予防すること;細菌感染を阻害する;及び/または(c)感染を和らげること(例えば、感染の原因となる細菌の存在を完全に若しくは部分的に低減させること)、を含む。
【0036】
S. aureusにより引き起こされるようなブドウ球菌感染は、特に、病院、学校、及び診療所などの環境において、罹患率及び死亡率の重要な原因である。特にリスクのある患者は、幼児、高齢者、免疫不全者、免疫抑制者、及び頻繁な入院を必要とする慢性的な状態の患者を含む。ブドウ球菌感染を発症するリスクのある患者は、入院または外来手術を受けている患者、集中治療室(ICU)内の患者、連続血液透析中の患者、HIV感染に罹患している患者、AIDSに罹患している患者、やけど患者、(例えば、薬物治療または疾患から生じる)免疫力が低下した人々、慢性的病気の患者または衰弱した患者、高齢者、免疫系が未熟な幼児、及び血管内デバイス(例えば、埋め込みデバイス)を有する人々も含む。従って、一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体を含有する組成物は、これらのタイプの対象の任意の1つに、及び(例えば、S. aureusまたはS. epidermidisにより引き起こされる)細菌感染を有する、または、これにかかりやすい他の対象に投与される。
【0037】
一部の実施形態では、本発明のリゾスタフィン多様体は、水溶液、半固体製剤、または再構成のための(例えば、凍結乾燥された、結晶若しくは非晶質の、浸透圧の平衡のための追加の溶質を用いる若しくは用いない)乾燥製剤のいずれかとして製剤化される。製剤は、例えば、従来のプロトコール及びレジメによる投与のための、pHが約3~8、通常は5~8である、無毒の安定な薬学的に許容される水性担体媒体中に、または、クリームなどの半固体製剤中に、存在または再構成しても良い。送達は、例えば、眼内投与、静脈内(iv)、筋肉内、皮下、若しくは腹腔内経路を介する、またはくも膜下腔内、または吸入による、または、医療用具、カテーテル、及び埋め込み型デバイスをコーティングするために使用される、または(例えば、感染を治癒、緩和、若しくは予防するための微生物力価の低減をもたらすために)活性薬剤の最小阻害濃度(MIC)を超える血液及び組織レベルを可能にするために、感染部位に直接導入することによる可能性がある。一部の実施形態では、抗菌剤は、(例えば、局所または鼻腔内製剤に使用される)クリームなどの半固体製剤として製剤化される。
【0038】
さらに、リゾスタフィン多様体は、感染症をより有効に治療するために、他の抗菌剤と同時にまたは交互に、同時投与できる。製剤は、局所、眼内、または経鼻用途用の半固体製剤;眼内投与、静脈内ボーラス投与、または末梢注射に適した液体中に存在しても良く、若しくはこれらの中で再構成されても良く、または大量の静脈内点滴溶液に加えることにより、または、低速静脈内注入により投与されることになるより大量の中に存在しても良く、若しくはこれらの中で再構成されても良い。例えば、リゾスタフィン多様体は、細胞壁合成を妨げる、または阻害する抗生物質、例えば、ペニシリン、ナフシリン、及び他のアルファ-ラクタムまたはベータ-ラクタム抗生物質;セファロチン、アミノグリコシド、スルホンアミド、葉酸代謝拮抗剤、マクロライド、キノロンなどのセファロスポリン;バンコマイシン及びポリペプチドなどのグリコペプチドと共に、投与できる。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、タンパク質合成を阻害する1つ以上の抗生物質(例えば、ストレプトマイシン、テトラサイクリン、及びストレプトグラミンなどのアミノグリコシド)と共に投与される。本発明は、脱免疫化リゾスタフィンと同時投与される薬剤のタイプにより限定されない。確かに、US6,028,051、US6,569,830、及びUS7,078,377(これらのそれぞれは全体として本明細書で参照により組み込まれる)に記載されるこれらの薬剤を含むが、これらに限定されない種々の薬剤は、同時投与しても良い。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、モノクローナル抗体;リゾスタフィン、リゾチーム、ムタノリシン、及びセロジル(cellozyl)ムラミダーゼなどの他の非コンジュゲート抗菌酵素;ペプチド(例えば、デフェンシン);ならびにランチビオティック(例えば、ナイシン);または任意の他のランチオニン含有分子(例えば、サブチリン)と投与される。
【0039】
リゾスタフィン多様体と同時投与される薬剤は、固定された組み合わせとしてのリゾスタフィン多様体と共に製剤化されても良く、または、利用可能で実用的であるいかなる製剤においても、及び、感染部位で適切なレベルのこれらの薬剤を提供することが知られているいかなる投与経路によっても、即時に使用されても良い。
【0040】
好ましい実施態様では、本発明によるリゾスタフィン多様体は、対応する非脱免疫化抗菌剤の抗菌活性の少なくとも一部分を有する。本発明のリゾスタフィン多様体は、増加した投薬量及び/または減少した免疫原性のために頻繁ではない間隔で、投与されても良い。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも10%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも20%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも30%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも40%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも50%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも60%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも70%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも80%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の少なくとも90%を保持する。一部の実施形態では、リゾスタフィン多様体は、非脱免疫化抗菌剤の活性の90%以上(例えば、95%、97%、99%またはそれ以上)を保持する。
【0041】
脱免疫化リゾスタフィンの好適な投薬量及びレジメは、感染の重症度及び感染生体の感受性に伴って変化しても良く、併用療法の場合には、同時投与された特定の薬剤(例えば、抗ブドウ球菌剤)に依存しても良い。投薬量は、約0.05~約500mg/kg/日の範囲に及んでも良く、(例えば、一部の実施形態では、0.1~10mg/kg/日の範囲で変動し、一部の実施形態では、10~100mg/kg/日の範囲に及び、一部の実施形態では、100~200mg/kg/日の範囲に及び、一部の実施形態では、200~400mg/kg/日の範囲に及び、一部の実施形態では、400~500mg/kg/日の範囲に及ぶ)、但し、より高い(例えば、500~1000mg/kg/日)、またはより低い(例えば、0.1~0.5mg/kg/日)用量は、提供されるか、単回投薬若しくは分割投薬として与えられるか、または連続注入により与えられても良い。一部の実施形態では、脱免疫化リゾスタフィンは、1日1回、1日2回、1日3回、またはそれ以上の頻度(例えば、1日4回以上)で投与される。一部の実施形態では、脱免疫化リゾスタフィンは、週に1回、週に2回、または1日おきに投与される。一部の実施形態では、脱免疫化リゾスタフィンは、隔週に1回、月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、4ヶ月に1回、5ヶ月に1回、6ヶ月に1回、9ヶ月に1回、1年に1回、またはそれ以下の頻度で投与される。
【0042】
特定の実施形態では、本発明の脱免疫化リゾスタフィンは、非グリコシル化される。非グリコシル化は、本明細書で記載されるように実施でき、残基Ser126及び/またはThr127に変異を含むことができる。例示的変異としては、Ser126Pro及びThr127Alaが挙げられる。
【0043】
一部の実施形態では、本発明の脱免疫化リゾスタフィンは、抗菌活性を保持しながら、リゾスタフィン分子の免疫原性をさらに減少させるために、さらに修飾されても良い。例えば、一部の実施形態では、脱免疫化リゾスタフィンは、水溶性ポリマーにコンジュゲートされる。本発明は、脱免疫化リゾスタフィンがコンジュゲートされる水溶性ポリマーのタイプにより限定されない。確かに、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリオキシエチル化ポリオール、及びポリ(ビニルアルコール)を含むが、これらに限定されない種々の水溶性ポリマーが使用されても良い。ポリ(アルキレンオキシド)としては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポロキサマー、及びポロキサミンが挙げられるが、これらに限定されない。本発明は、(例えば、脱免疫化リゾスタフィンを1つ以上の水溶性ポリマー(例えば、PEG)に連結させるために)使用されるコンジュゲートのタイプにより限定されない。一部の実施形態では、ポリ(アルキレンオキシド)は、ポリ(アルキレンオキシド)の(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミドエステルなどの活性エステルから形成された)アミド結合を介して遊離アミノ基にコンジュゲートされる。一部の実施形態では、エステル結合は、コンジュゲートされた後に、コンジュゲートの中に残る。一部の実施形態では、結合は、脱免疫化リゾスタフィン分子に存在するリシン残基を介して生じる。一部の実施形態では、コンジュゲートは、短時間作用性分解可能な結合を介して生じる。本発明は、利用される分解可能な結合のタイプにより限定されない。確かに、エステル、炭酸エステル、カルバメート、サルフェート、ホスフェート、アシルオキシアルキルエーテル、アセタール、及びケタール結合を含む生理学的に切断可能な結合を含むが、これらに限定されない種々の結合は、本発明において有用であると考えられる。一部の実施形態では、脱免疫化リゾスタフィンは、US4,424,311;US5,672,662;US6,515,100;US6,664,331;US6,737,505;US6,894,025;US6,864,350;US6,864,327;US6,610,281;US6,541,543;US6,515,100;US6,448,369;US6,437,025;US6,432,397;US6,362,276;US6,362,254;US6,348,558;US6,214,966;US5,990,237;US5,932,462;US5,900,461;US5,739,208;US5,446,090及びUS6,828,401;ならびにWO02/02630及びWO03/031581に記載される方法、試薬、及び/または結合のいずれかを利用するPEGにコンジュゲートされる。一部の実施形態では、本発明の脱免疫化リゾスタフィン-水溶性ポリマーコンジュゲートは、サードパーティ(例えば、NEKTAR、カリフォルニア州サンカルロス)により製造される。一部の実施形態では、コンジュゲートは、(例えば、切断された時、ポリマーの部分または結合が、脱免疫化リゾスタフィン分子に残らないように)ポリマー及び脱免疫化リゾスタフィンの間の結合に存在する切断可能な結合を含む。一部の実施形態では、コンジュゲートは、(例えば、切断された時、ポリマーの小さな部分または結合が、脱免疫化リゾスタフィン分子に残るように)ポリマー自体に存在する切断可能な結合を含む。
【0044】
一部の実施形態では、本発明の脱免疫化リゾスタフィンは、(例えば、US2003/0215433及びWO03/082148に記載されるように)バイオフィルムの治療及び/または予防のために使用される。他の実施形態では、本発明の脱免疫化リゾスタフィンは、Staphylococcus属のメンバーによる細菌感染を含む微生物感染の予防及び/または治療に使用される。このような方法に従って、治療の必要な対象(例えば、S. aureus感染に罹患するまたはこれを発症するリスクのある対象)に、微生物感染が予防または治療されるように有効量の脱免疫化リゾスタフィンが投与される。この治療の恩恵を受ける対象は、感染の臨床的徴候または症状を示すものを含み、対象は、細菌(例えば、S. aureus)に曝露されるか、または対象は、細菌(例えば、S. aureus)に曝露されている疑いがある。有効な治療は、よく知られている感染の徴候または症状の減少、減弱、阻害、または改善をもたらすであろう。一部の実施形態では、治療は、例えば、US2003/0211995に記載されているような経鼻用途、または、US2004/0192581に記載されているような局所用途を含む。
【0045】
選択された投薬量レベルは、用いられる特定の脱免疫化リゾスタフィンの活性、投与経路、投与の時期、排泄率または特定の脱免疫化リゾスタフィンの代謝、治療期間、用いられる特定の脱免疫化リゾスタフィンと組み合わせて使用される他の薬物、化合物、及び/または材料、年齢、性別、体重、状態、一般的な健康状態、ならびに治療されている患者の過去の病歴を含む種々の要因、ならびに、医学分野でよく知られている類似の要因に依存するであろう。
【0046】
当該技術分野で通常の技能を有する内科医または獣医は、必要とされる医薬組成物の有効量を容易に決定及び処方できる。例えば、内科医または獣医は、所望の治療効果を達成するために必要とされるレベルよりも低いレベルで、脱免疫化リゾスタフィンの用量を開始でき、所望の効果が達成されるまで、投薬量を徐々に増加させることができた。これは、当業者の範囲であると考えられる。
【0047】
有効な用量はまた、S. aureus感染の当該技術分野で認識されるモデルにおいて測定できる。有効性をさらに実証するために当業者が使用でき、ヒトにおいて安全及び有効の両方であることになる用量の特定に役立つ、多くの異なるインビボモデル系がある。このような動物モデル系は、よく受け入れられ、新しいヒト医薬品の開発中に使用される。このようなモデル系の例としては、S. aureus創傷感染のモルモットモデル(Kernodle及びKaiser (1994) Antimicrob. Agents Chemother. 38:1325-1330);ウサギにおけるS. aureus膿瘍のウサギモデル(Fernandezら(1999) Antimicrob. Agent Chemother. 43:667-671);S. aureus皮膚感染のマウスモデル(Gisby及びBryant (2000) Antimicrob. Agents Chemother. 44:255-260);深部真皮のS. aureus感染のマウスモデル(Godinら(2005) J. Antimicrob. Chemother. 55:989-994);及びマウス腹腔内感染モデル(Patelら(2004) Antimicrob. Agents Chemother. 48:4754-4761)が挙げられるが、これらに限定されない。このようなモデルでは、治療薬は、感染に対し試験することができ、確立された感染は、S. aureusの種々の株を有する動物の接種によるものである。このようなモデルにおける有効性の実証は、様々な方法で測定され、死亡率の減少、動物から採取された組織若しくは血液サンプルの顕微鏡検査により測定された細菌細胞数の低減、またはさらに、動物における創傷治癒の評価を含むが、これらに限定されないであろう。
【0048】
次の非限定例は、本発明をさらに説明するために提供される。
【実施例】
【0049】
実施例1:リゾスタフィン触媒ドメインの脱免疫化
材料及び方法
試薬及び培地
プライマーを、IDT Technologies(アイオワ州コーラルビル)に、標準脱塩装置と共に注文した。PCRクリーンアップキット及びゲル抽出キットは、Zymo Research(カリフォルニア州アーバイン)製であった。市販のリゾスタフィンを、Sigma(ミズーリ州セントルイス)から購入した。プラスミド精製を、QIAPREP Spin Miniprep Kit(Qiagen; カリフォルニア州バレンシア)を使用して実施した。別途記載のない限り、全ての酵素を、New England BioLabs(マサチューセッツ州イプスウィッチ)から入手し、全ての試薬をVWR Scientific(ペンシルベニア州フィラデルフィア)から入手した。リゾスタフィン触媒ドメインから誘導されたペプチドを、GenScript(ニュージャージー州ピスカタウェイ)に注文し、これは、純度85%以上であった。MHCクラスIIDR分子を、Benaroya Research Institute(ワシントン州シアトル)から購入し、抗MHCクラスIIDR抗体をBiolegend(カルフォルニア州サンディエゴ)から購入し、DELFIA Eu標識ストレプトアビジンを、PerkinElmer(マサチューセッツ州ボストン)から購入した。
【0050】
エピトープ予測
リゾスタフィン触媒ドメインのT細胞エピトープの含有量を、EpiMatrix、スコアリングマトリックスを使用して予測した。この予測は、臨床的に観察される治療薬の免疫原性とよく相関することが示されている。EpiMatrixは、HLA結合を予測するために使用されたポケットプロファイル法である(Groot及びMoise (2007) Curr. Opin. Drug Discover. Dev. 10)。このアプローチでは、タンパク質は、重複するノナマーペプチドに分けられ、次に、これらのそれぞれは、HLA対立遺伝子に対する結合能について評価される。90%を超えるヒト個体群を代表する、最も一般的な8つのHLA対立遺伝子(DRB1*0101、DRB1*0301、DRB1*0401、DRB1*0701、DRB1*0801、DRB1*1101、DRB1*1301、DRB1*1501)(Southwoodら(1998) J. Immunol. 160:3363-3373)を考慮した。結合能に基づいて、各ペプチドに、対応する標準化されたZスコアを割り当て、次に、各ペプチドを、クラスタ免疫原性スケールにマッピングした。これらは、無作為に生成されたペプチドに対して予想されることになるものからのエピトープ含有量における偏差を表す(Grootら(2013) Exp. Rev. Clin. Pharmacol. 6:651-662)。EpiMatrix「Z」スケール上の1.64を上回るペプチドスコアリング(約上位5%)は、対応するMHC分子に結合する可能性があると考えられた一方、上位1%のペプチドスコアリング(スケール上で2.32を超える)は、結合する可能性が非常にあった(Korenら(2007) Clin. Immunol. 124:26-32)。ペプチドが、4つ以上の対立遺伝子に対し、1.64より高いスコアを有した場合、EpiBarを含有すると言われていた(Weberら(2009) Adv. Drug Deliv. Rev. 61:965-976)。
【0051】
リゾスタフィンのホモロジーモデリング
EpiSweepは、2つの定量化された測定値:エピトープスコア及び力場エネルギー値、に基づいて脱免疫化多様体を分析する。しかし、アルゴリズムは、エネルギーを計算するためにタンパク質の構造を使用する。リゾスタフィンの結晶構造が知られていないので、リゾスタフィンの触媒ドメインに類似したタンパク質の利用可能な結晶構造に基づいて、リゾスタフィンモデルを作製した。リゾスタフィンの配列を、PDBデータベースと比較して、3つの非常に類似したタンパク質(PDBアクセッションコード:2B0PA、2B44A、及び1QWYA)を選択することにより、テンプレートを選択した。ホモロジーモデリングの目的の場合、30%を超える配列同一性は、十分に正確であると考えられる(Rost (1999) Prot. Eng. Design Select. 12:85-94)。全てのテンプレート構造は、S. aureusからの自己溶菌酵素であるLytMに属し、これは、リゾスタフィンの触媒ドメインと48%の配列同一性及び63%の類似性を有する(Luら(2013) supra)。
【0052】
テンプレート構造の座標に基づくタンパク質の3次元構造を構築するホモロジーモデリングプロトコールであるMODELLERを用いることにより、LytM結晶構造を使用して、触媒ドメインモデルを構築した(Shen及びSali (2006) Protein Sci. 15:2507-2524)。250のモデルを作製し、最も正確なものを、DOPE統計ポテンシャルの観点から選択した(Shen及びSali (2006) supra)。
【0053】
モデルの完全で正確な構造を可能にするための十分な座標情報がないタンパク質領域の場合、タンパク質ループモデリング法FREADを使用して、既存のギャップをリモデリングした(Choi及びDeane (2010) Proteins 78:1431-1440)。得られたホモロジーモデルを、陰溶媒モデル(GB/SA)を伴うAMBER99sbに対し最小化した。Scwrl4を使用して、インシリコ変異を元のモデルに適用することにより、非グリコシル化野生型(125NPT)をモデル化し(Krivovら(2009) Proteins: Struct. Funct. Bioinform. 77:778-795)、続いて、エネルギーの再最小化を行った。
【0054】
進化情報
脱免疫化のプロセスは、MHC結合に寄与すると予測される残基の変異を必要とする。しかし、T細胞エピトープは、タンパク質の任意の部分に存在する可能性がある。従って、変異のランダム選択は、適切なフォールディング及び機能の阻害をもたらすことができた。この問題は、標的配列とわずかに類似している配列に見出される点変異を採用することにより、軽減できる。どの変異が脱免疫化プロセスに使用できるかを決定するために、LSTCATに対する10,000のホモログの合計を、PSI-BLASTを実行して収集した(3回繰り返し、e-value(値)<0.001)。これらの配列を、フィルタリングして、野生型と>50%のギャップまたは<35%の配列同一性を有するものを除去した。互いに多くとも90%の配列同一性を有するように、218の代表的な配列の多様なセットをサブセレクトした。許容される変異は、バックグラウンド確率分布の観点から予想される程度、頻繁に現れるが、少なくとも1つの推定エピトープを欠失させると予測されるものであった(McCaldon及びArgos (1988) Proteins 4:99-122)。さらなるフィルタは、Pro及びCysへの/Pro及びCysからの変異である活性部位残基を含む変異(32His、36Asp、82His、113His、及び115His)、ならびに以前に有害であることが判明した変異(Thr43Asp、Ser50Asp、Asn121Asp、及びLeu135Ser)を除外した。
【0055】
EpiSweep
構造ベースのEpiSweepは、タンパク質の脱免疫化を可能にし、その上、タンパク質の安定性及び機能性を保持するタンパク質再設計ツールである。アルゴリズムは、最高の免疫原性、安定性、及び活性スコアを目指して、その時点で実験的に選択される可能性があるパレート最適設計を作製するための検証された免疫情報及び構造モデリングを兼ね備える。EpiSweepが最適の設計を選択する方法は、記載されている(Parkerら(2013) J. Computation. Biol. 20:152-165)。要約すると、アルゴリズムは、タンパク質バックボーンが、剛性があると仮定し、回転異性体の離散集合から最良の側鎖コンフォメーションを選択することによる安定性の懸案事項を扱い、これは、全タンパク質のエネルギーを最小化するように選択される。全ての回転異性体及び回転異性体対は、バックボーンとの可能性のある衝突及び互いの可能性のある衝突について評価される。例えば、有意なファン・デル・ワールス半径の重なりを伴う回転異性体、または、回転異性体間エネルギー若しくは回転異性体内エネルギーが例外的に高い回転異性体を含むことが判明したコンフォメーションは、廃棄される(Parkerら(2013) supra)。
【0056】
リゾスタフィン触媒ドメインのEpiSweep分析の場合、変異負荷を2~8変異で変動させ、活性部位(His32、Asp36、His82、His113、及びHis115)での変異を認めないようにアルゴリズムを制約した。さらに、アルゴリズムは、各変異負荷でのパレート最適計画(可能な限り低い回転異性体のエネルギーを有する設計)だけでなく、追加の19の次善計画(パレート最適計画と比較して逐次悪化する回転異性体エネルギーを有する設計)も生成するものであった。タンパク質は高度の柔軟性を特徴とするので、この分析を実行して、剛性バックボーンの仮定により起こり得る可能なあらゆる間違いを修正した。実際には、さらなる側鎖の最適化は、EpiSweep設計のパレート最適性を変更させ、それにより設計の選択に影響し得ることが観察されている(Parkerら(2013) supra)。
【0057】
Ser126ProバックボーンのEpiSweep分析
Ser126Proリゾスタフィンバックボーンを使用する分析の場合、アルゴリズムは、12の許容性の高い変異(Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Arg118Thr、Ile99Gln、Lys95Glu、Tyr93His、Leu83Met、Lys46His、Ile41Glu、Asn13His、及び Asn12Gly)のみを考慮した。Ser122Asp変異が、極めて有効なエピトープ除去剤(表6)であるので、アルゴリズムを、生成された全ての計画でこの変異を含むようにさらに制約した。AMBER(AMBER99sb)力場及び陰溶媒モデル(GB/SA)に対して、分子モデリングソフトウェアTINKERを使用して、EpiSweep設計のさらなるポスト処理エネルギーの最小化を実行した。
【0058】
プラスミド及び株
P. pastoris株GS115及び発現ベクターpPIC9を、Invitrogen(ニューヨーク州グランドアイランド)から入手した。S. aureus株SA113及びS. aureus subsp. aureus(ATCC 25923)を、American Type Culture Collection(バージニア州マナッサス)から入手した。S. aureusの他の株(メチシリン感受性株6445及び3425-1、ならびにMRSA株3425-3)は、臨床分離株であった。
【0059】
P. pastoris発現のために最適化されたリゾスタフィン遺伝子の合成
合成リゾスタフィン遺伝子の合成を、記載されるように実施した(Zhaoら(2014) Appl. Environ. Microbiol. 80:2746-53)。P. pastorisによるコドン選好性を反映するために、コドンの大部分を交換した(Zhaoら(2000) Sheng Wu Gong Cheng Xue Bao 16:308-11)。遺伝子配列中のA+Tヌクレオチド伸長を阻害するために、二番目に頻度の高いコドンを必要に応じて導入した。
【0060】
単一点変異体のPCRベースの合成
リゾスタフィン単一変異体を、記載されるように合成した(Zhaoら(2014) supra)。要約すると、表1に示されるプライマーを用いるスプライスオーバーラップ伸長PCRを使用して、変異を導入した。例えば、Syn_F及びS122G_R、ならびにS122G_F及びSyn_Rプライマーを使用して、リゾスタフィン遺伝子を最初に増幅することにより、Ser122Gly変異を導入した。次に、得られる(ゲル精製された)遺伝子フラグメントを、等モル比で混合し、Syn_F及びSyn_Rプライマーを使用する後続反応においてテンプレートとして使用した。最終生成物は、Ser122Gly変異を有する完全長リゾスタフィン遺伝子であった。PHUSION高忠実度DNAポリメラーゼを使用して、全てのPCR反応を実施した。次に、所望の変異を含むリゾスタフィン遺伝子を、EcoRI及びXhoIで消化し、T4 DNAリガーゼを使用して、pPIC9プラスミドにライゲーションした。ライゲーションの最終産物は、Saccharomyces cerevisiaeからのα交配因子分泌シグナルと融合されたリゾスタフィン遺伝子であった。得られるプラスミドを、E. coli DH5αエレクトロコンピテントセル(F- Φ80lacZΔM15 Δ(lacZYA-argF) U169 recA1 endA1 hsdR17 (rK
-, mK
+) phoA supE44 λ- thi-1 gyrA96 relA1)に形質転換させた。クローンを、Syn_F及びSyn_Rプライマーを使用してリゾスタフィン遺伝子の存在について評価し、変異の存在確認するために配列決定した(primers AOX1_F及びAOX1_R)。
【0061】
【0062】
LST統合設計のクローニング
スクリーニングの第1ラウンドで発現せず、Arg118Thr変異を含有するリゾスタフィン多様体を、その変異なしに合成し、発現について再試験した。スプライスオーバーラップ伸長PCRを使用して、プライマーT118R_F及びT118R_Rを用いて、Arg118Thr変異を野生型(Thr118)に復帰させた(表1)。
【0063】
合成遺伝子の挿入のためのpPIC9プラスミドを調製するために、サイレント変異を、リゾスタフィンリンカー(残基135~136)に導入して、制限酵素AflIIのための切断部位を収容した。必要な変異を導入するために、プライマーAflII_F及びAflII_Rを用いるスプライスオーバーラップ伸長PCRを使用した(表1)。合成遺伝子を、XhoI及びAflII制限酵素で消化し、T4 DNAリガーゼを使用して、同様に消化されたpPIC9プラスミドにライゲーションした。得られるプラスミドを、E. coli DH5αエレクトロコンピテントセルに形質転換させ、得られるクローンを、変異の存在を確認するために配列決定した。
【0064】
P. pastoris発現及び精製。
配列分析により、正しい触媒ドメイン変異の存在について、DH5αクローンを確認した後、P. pastoris株GS115に電気穿孔する前に、精製されたプラスミドを、SacI高忠実度制限酵素で消化した。得られる形質転換体をMDプレート(1.34%の酵母ニトロゲンベース、0.000004%のビオチン、2%のデキストロース、及び1%のアガー)上で成長させた。発現研究の場合、酵母への酸素流量を強化するために4層のチーズクロスで覆われた500mlの振とうフラスコ中30℃で、BMGY培地(1%の酵母抽出物、2%のペプトン、1.34%の酵母ニトロゲンベース、0.000004%のビオチン、1%のグリセロール、100mMのリン酸緩衝液、pH6)中で、クローンを成長させた。24時間後、細胞を、10分間テーブルトップ遠心分離機で3,000rpmの遠心分離にかけた。次に、細胞を100mlのBMMY誘導培地(1%の酵母抽出物、2%のペプトン、1.34%の酵母ニトロゲンベース、0.000004%のビオチン、0.5%のメタノール、100mMのリン酸緩衝液、pH6)に再懸濁し、30℃で次の48時間成長させた。12時間間隔で、100%のメタノールを、1%の最終濃度を目指して加えた。誘導の48時間後、振とうフラスコ培養物を、15分間3000rpmのテーブルトップ遠心分離機で遠心分離した。得られる上清を濾過して、任意の酵母細胞を除去し、pH7.5のKH2PO4緩衝液10mMで、1:5に希釈した。500μlのSP-SEPHAROSE Fast Flow resin(GE Healthcare;オハイオ州クリーブランド)を充填した重力カラムに、希釈された上清を流した。pH7.5のKH2PO4緩衝液10mM中の50mMのNaCl 5mlで、カラムを洗浄した。pH7.5のKH2PO4緩衝液10mM中の200mMのNaClのアリコート500μlで、タンパク質を溶出した。SDS-PAGEを使用して、リゾスタフィンの純度を測定した。ND-1000分光光度計(NanoDrop Technologies;デラウェア州ウィルミントン)を使用して、タンパク質濃度を定量化した。精度を確保するために、野生型リゾスタフィン及びその多様体の両方に対し、0.4の吸光度調整係数を使用して、タンパク質吸光度測定値を調整した。要約すると、調整係数を、報告されたAbs0.1%(=1g/L)値の逆数として計算した(ProtParam、ExPASy)。
【0065】
培養上清の溶解アッセイ
振とうしながら、37℃で、トリプチックソイブロス(TSB)において、ミッドログ(mid-log)または飽和のいずれかまで、S. aureus細胞を成長させた。細胞を、遠心分離により採取し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS:2.7mMのKCl、1.5mMのKH2PO4、8.9mMのNa2HPO4、136.9mMのNaCl、pH7.4)で1回洗浄した。Greiner Bio-One(ノースカロライナ州モンロー)製96ウェルプレート(黒・透明底)中で、アッセイを実施した。最終(250μl)反応物は、10μlのP. pastorisの培養上清、OD600=1.5のS. aureus細胞、及び5μMのSYTOX Green(Thermo Fisher Scientific;マサチューセッツ州ウォルサム)(全てPBS中)からなった。励起504nm/発光523nmを使用するSPECTRAMAX GEMINI蛍光マイクロプレートリーダー(Molecular Devices;カルフォルニア州サニーベール)を使用して、データを収集し、トレースの最も急勾配な直線の傾きから割合を測定した。内部対照としての500ngの市販のリゾスタフィン(ssLys)を用いて、各アッセイを実施した。
【0066】
各アッセイで使用されるタンパク質の量を、SDS-PAGEゲルから見積もった。要約すると、10μlの培養上清を、別のレーン上の0.5μg、0.7μg、及び1μgのssLysの基準と共に、SDS-PAGE上で実行した。Thermo Fisher Scientific(カリフォルニア州カールスバッド)製GELCODE Blue Stain Reagentを使用して、ゲルを染色し、Image Lab 5.1ソフトウェア(Bio-Rad Laboratories;カリフォルニア州ヘラクレス)のQuantityツールを使用して、バンドを定量化した。
【0067】
精製タンパク質を使用する溶解アッセイ
第2章第3.2.6節で上述したようにSYTOX(登録商標)動態アッセイを使用して、精製リゾスタフィン多様体の活性を試験した。(培養上清の代わりに)200ngの精製酵素を、各反応物において使用した。
【0068】
MICアッセイ
2%のNaCl及び0.1%のウシ血清アルブミンが補充されて総量100μlになったミューラーヒントンブロス(BD)中の~40,000S. aureus SA113(またはS. aureus 6445、3425-1、3425-3)細胞を含有するポリプロピレンの96ウェルプレート(Costar 3879)のウェルに、2倍連続希釈の酵素を加えることにより、野生型リゾスタフィン及びその多様体のMICを測定した。Orbit P4 orbital shaker(ニュージャージー州エジソン)上、900rpmで振とうしながら、37℃で一晩プレートを成長させた。細菌増殖を完全に阻害する酵素の濃度により、精製リゾスタフィンの阻害活性を測定した。アッセイを、各酵素に対し3回実施した。
【0069】
PNGase F処理
1μlの10XG7緩衝液及び同じ量のREMOVE-IT PNGase Fで、P. pastoris培養上清を処理した。37℃で1時間反応物をインキュベーションし、結果をSDS-PAGEにより分析した。
【0070】
飽和変異誘発
既知の方法(Zhaoら(2014) supra)を使用して、リゾスタフィン触媒ドメインの125位での飽和変異誘発を実施した。要約すると、テンプレートとしてのリゾスタフィン合成遺伝子及び縮重NNKプライマーを使用するスプライスオーバーラップ伸長PCRにより、飽和変異誘発を実施した。得られる32メンバーライブラリを、P. pastorisに形質転換し、48時間30℃でYPD培地(1%の酵母抽出物、2%のペプトン、1%のメタノール、1%のアガー)上で形質転換体を成長させた。活性酵素を発現する酵母クローンを見出すために、S. aureus SA113細胞を含有する溶解したトップアガー(0.5%の酵母抽出物、1%のペプトン、1%のNaCl、0.75%のアガー)を、YPM酵母プレートに注ぎ、10時間37℃でインキュベーションした。ハロ形成コロニーを採取し、プライマーSyn_F及びSyn_Rを使用して増幅し、プライマーAOX1_F及びAOX1_Rを使用して、遺伝子を配列決定した。
【0071】
P. pastoris培養上清を使用するMICアッセイ
記載される(Zhaoら(2014) supra)ようにリゾスタフィンMICを実質的に測定した。要約すると、P. pastoris培養上清の100μlのアリコートを、TBSで連続希釈した。各ウェルに、TSB中~106CFU/mlのS. aureus SA113を100μl接種した。24時間37℃でマイクロプレートをインキュベーションした。培養上清中の阻害活性をMIC50として評価し、処理希釈は、50%の成長の阻害をもたらした。マイクロプレートリーダーで650nmの光散乱を測定することにより、MIC50を定量化した。
【0072】
熱安定性
上述したように、示差走査蛍光測定により、リゾスタフィン多様体の相対的な熱安定性を測定した(Niesenら(2007) Nat. Protocols 2:2212-2221)。タンパク質及びSYPROオレンジをPBSで希釈し(それぞれ100μg/mlの最終濃度及び5×20μlの反応量)、Applied Biosystems ABI 7500 fastリアルタイムPCRシステムを使用して、25℃から94℃まで1℃ずつ増加して、蛍光を定量化した。Fast Thermocyclers(VWR;ペンシルベニア州ラドノール)用PCRプレートを使用して、反応物を実施した。予め設定されたTAMRAパラメータを使用して、蛍光を定量化した。『DSF Analysis v3.0.xlsx』エクセルシート及びGraphPad Prism v.6.02ソフトウェアを用いたデータ分析により、融解温度を測定した。
【0073】
MHC結合アッセイ
上述したように(Salvatら(2014) supra)、384ウェルハイスループットアッセイを使用して、MHCクラスII競合結合アッセイを実施した。8つの対立遺伝子:DRB1*0101、0301、0401、0701、0801、1101、1301、及び1501に対し、結合アッセイを実施した。要約すると、50nMの精製された組換えMHCクラスIIタンパク質及びLSTの連続希釈物または多様体ペプチドフラグメント(100μM~10nM)の入ったポリプロピレン384ウェルプレート中で、各MHCクラスII対立遺伝子に対する既知のペプチド抗原からなる100nMのビオチン化対照ペプチドをインキュベーションした。高結合ELISAプレート上にコーティングされたコンフォメーション特異的抗HLA-DR抗体L243を使用して、平衡化された溶液から、ペプチド-MHCクラスII複合体を捕獲した。DELFIAストレプトアビジン-ユーロピウムコンジュゲート及び時間分解蛍光(SpectraMax Gemini蛍光マイクロプレートリーダー)を使用して、結合された対照ペプチドを定量化した。
【0074】
バイオフィルム分解アッセイ
振とうしながら、37℃、TSB中で、一晩、S. aureus SA113を成長させた。次に、5%のエタノール及び0.1%のグルコースが補充されたTSBで1:100に細胞を希釈し、100μlの細胞懸濁液を、96ウェルプレート(Costar 3595)のウェルに添加した。振とうなしに、37℃で一晩、細胞を放置してバイオフィルムを形成した。次に、得られるバイオフィルムを水で3回洗浄し、75分間、100μl中200ngの酵素で処理した。無処理ウェルは、0.1%BSAの入ったPBSを含有していた。処理後に、プレートを水で3回洗浄し、15分間0.1%のクリスタルバイオレットで染色した。次に、プレートを、再度水で3回洗浄し、乾燥させた。30%の酢酸200μlを、各ウェルに加え、振とうしながら、25℃で15分間、クリスタルバイオレット染色液に溶解させた。デスティン(150μl)を新しい96ウェルプレートへ移し、550nmのSPECTRAMAX 190分光分析装置(Molecular Devices;カルフォルニア州サニーベール)で、各ウェルの吸光度を測定した。
【0075】
マウス肺感染モデル
一晩S. aureus株ATCC 25923のLB培養物を、ペレット化し、PBSで2回洗浄し、懸濁して、40μlのPBS中の108~109コロニー形成単位(CFU)を得た。LBアガー(DIFCO)上での投入細菌懸濁液の連続希釈により、実際の接種物を測定し、続いて、24時間37℃でインキュベーションを行った。成体雌C57BL/6Jマウス(8~12週齢;Jackson Laboratories、ミシガン州デトロイト)を、イソフルランで簡易麻酔し、これらのマウスに、口腔咽頭吸引で40μlの細菌懸濁液を接種させた。感染の1時間後に、2.5μgの野生型LST、2.5μgの多様体Flex5、2.5μgの多様体Flex9、またはブランク対照のいずれかを含有する2回目の40μlのPBS接種。感染の24時間後に、マウスを死亡させ、肺を切除し、1mlの冷PBS中に置き、均質化した。連続希釈物をLBアガー上にプレーティングし、次に、24時間37℃のインキュベーションを行うことにより、肺ホモジネートの生菌数を測定した。
【0076】
HUMIマウスの免疫原性研究
(Brainardら(2009) J. Virol. 83:7305-21)に記載されるように、ヒト骨髄、肝臓、及び胸腺組織を、NOD/SCID/γc
-/-マウス(Dartmouthトランスジェニック及び遺伝的構築物共有リソース)に外科移植することにより、HUMIマウスを作製した。全ての動物を、同じヒトドナーからヒト化した。実験的に使用されるマウスは、最低25%の全末梢血白血球として、ヒトリンパ球を有した。移植の14週間後、12匹の雌HUMIマウスを各4匹ずつの3グループに分け、完全フロイントアジュバント(CFA)中の100μgの野生型LST、100μgの多様体Flex5、または100μgの多様体Flex9の50μlの単回皮下注射で免疫化した。免疫化の2週間後、マウスを死亡させ、各グループに対し脾細胞を採取してプールした。プールされた脾細胞(5×105/ウェル)を、5%のウシ胎児血清、L-グルタミン、抗生物質、及び最終濃度10μg/mlのLST若しくは多様体(または対照としての1%のDMSO)を含有する培地の入った96ウェルプレートに3回プレーティングした。インキュベーションの72時間後、ウェルを1μCiの[3H]チミジン(Dupont NEN、マサチューセッツ州ボストン)とパルスし、シンチレーションカウンティング(Packard MicroSant NXT counter)によるチミジン取り込みの評価のために、UNIFILTER96ウェルGF/Cプレートで6時間後に採取した。
【0077】
トランスジェニックDR4マウスの免疫原性研究
12匹の雌6~8週齢DR4トランスジェニックマウス(Abbノックアウト/トランスジェニックHLA-DR4;B6.129S2-H2-Ab1tm1GruTg(HLA-DRA/H2-Ea、HLA-DRB1*0401/H2-Eb)1Kito;Taconic Farms、ニューヨーク州ジャーマンタウン)を各3匹ずつの4グループに分け、次の4つのスキームのうちの1つを使用して、野生型LSTの50μlの皮下注射で免疫化した。(i)CFA中の100μgの酵素で初回の免疫化した後、14及び28日目に、不完全フロイントアジュバント(IFA)100μgでブーストする;(ii)CFA中の20μgの酵素で初回の免疫化した後、14及び28日目に、IFA20μgでブーストする;(iii)PBS緩衝液中の100μgの酵素で初回の免疫化した後、7、14、21及び28日目に、PBS緩衝液100μgでブーストする;(iv)PBS緩衝液中の20μgの酵素で初回の免疫化した後、7、14、21及び28日目に、PBS緩衝液20μgでブーストする。野生型LSTに対する血清IgG抗体力価を、13、20、27、34、及び62日目に測定した。最終ブーストの5週間後に、12匹のマウス全ては、1:40の血清希釈で、最大のELISAシグナルを示し、全てのシグナルは、1:160の希釈で、20%以内であった。マウスを、研究から23週まで、さらなる操作なしに収容し、この時点で、IgG抗体力価を再度測定し、マウスを同等の平均抗体力価を有する2つの実験群に分けた。9週~23週の回復期間に、2匹のマウス(100μgのアジュバントなしでの最低力価及び100μgのアジュバントでの高力価のうちの1匹)は脱毛、体重喪失、及び移動性の低下を受け始め、IACUC承認プロトコールにより死亡させたことに注意を要する。24週目に、1つの群を、IFA中の100μgの野生型LSTで、もう1つの群を、IFC中の100μgの多様体Flex5で、再チャレンジした。26週目に、マウスを死亡させ、各グループに対して脾細胞を採取してプールした。増殖アッセイを、上記のように行った。
【0078】
バイオインフォマティクス分析
ClustalWを使用して、リゾスタフィン及びその相同配列ALE-1及びLytMの配列アライメントを実施した。
【0079】
エピトープ予測
Asn125Gln変異体のリゾスタフィン触媒ドメイン(Zhaoら(2014) supra)のEpiMatrix分析は、ドメインが、合計エピトープスコア46を有する、多くの予測されたT細胞エピトープを有することを示す。タンパク質は、14例の予測された上位1%のバインダー(score(スコア)>2.32)及び32例の上位5%のバインダー(score>1.64)を有していた。配列はまた、3つのEpiBars(最低4つの対立遺伝子に対して1.64以上のスコアを有するペプチド)を含有することが判明し、ペプチド116FQRMVNSFS124(配列番号88)は、全ての8つの対立遺伝子に対して高度に免疫原性があると予測された(表2)。
【0080】
【0081】
予備的設計分析に対する最も頻度の高い変異の選択
EpiSweepは、合計1,533の計画をもたらし、これらのうちの81を、2~8の変異の変異負荷でのパレート最適計画として評価した。この時点で、一連の設計を単に選択することは可能であったが、次に、これを、適切なフォールディング及び活性について、実験的分析にかけるであろう。しかし、配列ベースのEpiSweepに基づく脱免疫化リゾスタフィンを生成する以前の取り組みは、活性多様体をもたらさなかった。構造ベースのEpiSweepを、代替方法として設計し、これは、良好な結果を生じると想定された。不正確なリゾスタフィン表現がエラーを生じることがあることを考えると、反復フィードバック戦略を用いて、(個別に)15の最も頻度の高い変異を、タンパク質フォールディング(発現)及び活性の影響について試験した。
【0082】
結果(表3)は、最も頻度の高い15の変異が、全計画の9~67%に、及びパレート最適計画の1~65%に、存在したことを示した。変異は全て、触媒ドメインの表面に見出された。埋め込まれた残基は、EpiSweepにより頻繁には使用されなかった。確かに、埋め込まれた残基Ser49Gly及びSer49Alaはそれぞれ、18番目及び20番目の変異として、位置を占める。MHC結合に寄与すると予測されたアミノ酸は、塩基性残基(Arg/Lys)、無極性残基(Ser/Asn/Tyr)、及び非極性残基(Phe/Leu/Ile)を含んだ。これらの残基を、非極性(Gly/Met)、酸性(Asp/Glu)、塩基性(His)、または無極性(Thr/Gln/Tyr)アミノ酸と交換した。
【0083】
【0084】
変異は、ペプチドのHMCへの結合を有意に低減させ、免疫原性の小さい多様体を生じることが予測された(表4)。全ての生成されたペプチドでは、変異体ヒット数(ペプチドが結合すると予測された対立遺伝子の数)は、野生型ペプチドのものよりも小さいことを認めることができた。例えば、野生型QRMVNSFSQ(配列番号107)ペプチドの118位でのArgからThrへの変異を、両方のエピトープを欠失するように予測して、全ての対立遺伝子にわたって0のZスコアがもたらされた。より大きい免疫原性領域のいくつかは、単一変異で取り組むことが困難であった。さらに、単一変異が、合計の免疫原性スコアを低減させることに意味のある影響がある可能性があることが観察された。例えば、Ser122Asp変異は、2つのエピトープを欠失し、全体のヒット数を14から8に低減させた。
【0085】
【0086】
P. pastoris発現に対するリゾスタフィン配列の修飾
P. pastoris中でS. simulansリゾスタフィン作製する初期の試みは、タンパク質発現の不足により、妨げられた。従って、P. pastoris中の発現に対する遺伝子を、修飾した(Zhaoら(2014) supra)。要約すると、野生型リゾスタフィンの配列を、P. pastorisのコドン選好性を反映するように調整した。さらに、配列における不均衡なA+T含有物を有する長いセグメントを、特定して阻害した。新しいバージョンの遺伝子(SYNリゾスタフィン)は、振とうフラスコ培養物中に多くとも80mg/Lのタンパク質を生じ、2Lのバイオリアクター中に500mg/Lのタンパク質を生じることが判明した(Zhaoら(2014) supra)。
【0087】
SYNリゾスタフィンで行った後続の発現実験は、タンパク質がSDS-PAGE中で二重線として移動したことを示した。観察された二重線は、タンパク質のN-グリコシル化に起因するものであることが推測された。リゾスタフィン配列の詳細な検査により、それが125位にグリコシル化シークオン(sequon)を含有したことが明らかとなった。培養上清のPNGase処理により、N-グリカンの存在が確認された。一旦処理されると、タンパク質は、SDS-PAGE中で一重線として移動した。
【0088】
保存的なAsn→Gln、Asn→Ser、及びAsn→Aspの単一点変異を導入することにより、Asn125のグリコシル化シークオンを阻害するための試みがなされた。この分析の結果は、これらの変異が同様の発現レベルを示したが、それぞれ、野生型酵素よりも10分の1、20分の1、及び40分の1に低下したことを示した。
【0089】
後続の研究では、Asn以外の他のどの残基が、125位で許容される可能性があり、さらに、N-グリコシル化配列の阻害を可能にするかを判定するために、飽和変異誘発によるライブラリを作製した(Zhaoら(2014) supra)。ライブラリの結果、ならびに、後続の、リゾスタフィン配列のそのホモログ(ALE-1及びLytM)との配列アライメントは、Asn125が保存された残基であることを示し、その結果、グリコシル化シークオンの他の残基を変異させることに焦点を置く必要があった。従って、2つの他の変異体、Ser126Pro及びThr127Alaは合成され、N-グリコシル化を効率よく妨げることが判明した。変異体を野生型リゾスタフィンと比較して、同等の活性を示すことが判明した。完全に活性な非グリコシル化変異体が所望されるので、EpiSweepアルゴリズムでのさらなる実験的評価のためにリゾスタフィンSer126Proを選択した。
【0090】
非グリコシル化リゾスタフィンに対するEpiSweep補正
エピトープスコアを測定するために、及び、最も頻度の高い変異を比較するために、Ser126Proリゾスタフィンバックボーンを、EpiMatrix及びEpiSweepで分析した。結果は、Ser126Pro変異体に切り替えると、予測されたエピトープスコアが増加したことを示した。Ser126Proは、Asn125Glnバックボーンに対する46のエピトープスコアと比較して、50の合計エピトープスコアを有する(表2)。EpiMatrix分析はまた、Ser126Proが5つのEpiBars(最低4つの対立遺伝子に対して、1.64以上のZスコアを有するペプチド)を有する一方、Asn125Glnが3つのEpiBarsを有したことを示した。Ser126Proバックボーンは、15例の予測された上位1%のバインダー(score>2.32)及び35例の上位5%のMHCバインダー(score>1.64)を有していた。ペプチド116FQRMVNSFS124(配列番号88)は、Asn125Glnバックボーンと同程度に問題が残り、8つの対立遺伝子全てに対してより高い免疫原性があると予測された。Ser126Proバックボーン中に存在する4つの新しいエピトープを、ペプチド119MVNSFSNPT127(配列番号142)及び120VNSFSNPTA128(配列番号143)に導入した(表5)。
【0091】
【0092】
Ser126ProバックボーンのEpiSweep分析は、合計2,333計画をもたらし、このうちの96を、(合計1,533計画をもたらし、これらのうちの81がパレート最適であるAsn125Glnと比較して)2~8の変異の変異負荷で、パレート最適計画として評価した。表6は、Asn125Gln及びSer126Proバックボーンに見出される最も頻度の高い変異を比較する。変異パターンは、新しいバックボーンに切り替えた後に、有意に変化しなかった。ほとんどの変異は、4つの変異:それぞれ16、18、23、及び24位に移動したSer122Gly、Ser124Gly、Leu83Met、及びIle99Glnのみを除いて、上位15に残った。最も頻度の高い変異Arg118Thrは、両方のバックボーンにおいて主要なものとして残った。Asn125Glnバックボーンにおいて、15の最も頻度の高い変異全てが、表面露出残基であるが、新しいバックボーンが、埋め込まれた残基Ser49Glyを上位15に押し込んだ。Ser124Glyを除くほとんどの変異は、総計画及び最適計画に同様に表され、これは、計画の72%に存在することから、Ser126Proバックボーンで選択された最適計画のいずれかにも存在しないことに変わった。(Asn125Glnバックボーンに基づいて評価された)最も頻度の高い15の変異は、Ser126Proバックボーンを使用して生成された全計画の2~82%、及びパレート最適計画の0~88%に存在した。
【0093】
【0094】
Asn125Glnバックボーンに基づいた15の変異は、残基のMHCクラスIIへの結合を有意に低減させ、Ser126Proバックボーンにおける免疫原性が低い多様体を産生することがさらに予測された(表7)。予測される欠失は、Asn125Glnで得られたものと大部分は類似していた。2つのバックボーンがおおよそ同じ数のエピトープを標的にしたので、全体のAsn125Glnとの変異ヒット率は35(Ser126Proとは40)であり、野生型のヒット率は84(Ser126Proとは88)であった。
【0095】
観察された1つの重要な差異は、Asn125Glnバックボーンにおいて2つのエピトープを欠失するArg118Thr変異が、Ser126Proバックボーンにおいて任意のエピトープを欠失しなかったことであった。しかし、より詳細な検査は、Arg118Thrが、他の変異がより多くのエピトープを欠失することを助けたことを示した。例えば、Arg118ThrをSer122Aspと結合した時、2つの変異は、合計13のエピトープを欠失した。そのようなものであるから、Arg118Thr変異は、さらなる研究から排除されなかった。しかし、Ser122Gly変異は、Ser122Aspと同じ残基を標的にしたが、(Ser122Aspが除去すると予測された10ではなく)3つのエピトープを欠失したのみであったので、除外された。
【0096】
【0097】
リゾスタフィン多様体の発現レベル及び活性
例え、アルゴリズムが、触媒ドメインのみの脱免疫化に焦点を当てたとしても、適切なタンパク質フォールディングを保証する完全長成熟タンパク質との関連で、単一点変異体を試験したことに注意することが重要である。リゾスタフィンが、培地に分泌されるので、培養上清からのリゾスタフィン活性の単一分析を、タンパク質上の単一点変異の効果の十分な評価とみなした。
【0098】
リゾスタフィン単一点変異体の分析は、全ての多様体が、P. pastoris中に発現されることを明らかにした。従って、最も頻度の高いEpiSweep変異は、発現を無効にするものはない。発現レベルが最も低い2つの変異は、Arg118Thr及びSer124Tyrであり、それぞれ、野生型の発現レベルの47%及び35%である。さらに、リゾスタフィン多様体のうちの13が、野生型酵素のものに等しい活性か、またはこれを超過した活性のいずれかを有した。点変異体Phe38Glyは、野生型よりも低い活性(69%)を有する2つの変異のうちの1つであった。活性が低いもう1つの変異は、野生型活性の16%を有するSer124Tyrであった。Phe38Gly及びSer124Tyrが、野生型活性の>70%の閾値活性レベルを満たさなかったので、いずれの酵素も、さらなる研究に含まれなかった。Arg118Thr変異の発現レベルは、野生型酵素の50%未満であったが、この変異により除去されたエピトープの数を考慮して、この酵素をさらに分析した。
【0099】
バックボーンの柔軟性の調整
EpiSweepを使用して得られた全ての設計は、剛性バックボーンを想定していた(本明細書において、「剛性」バックボーン設計と称する)。しかし、タンパク質は、高いレベルの柔軟性で知られているので、ポスト処理エネルギーの最小化工程において、バックボーンを固定したままにすることは、不正確なエネルギー評価をもたらすことにより、脱免疫化多様体の正確性を損なう可能性があることが肯定された。完全に剛性のある設計が、最小化の間、側鎖を緩ませた(一方、バックボーンを固定した)設計と、エネルギーエピトープスコア状況において大幅に異なることが観察されている(Parkerら(2013) supra)。従って、計算上許容される方法において、柔軟性を得るためには、EpiSweep設計のさらなるポスト処理エネルギーの最小化を実施した(本明細書において、「柔軟性」バックボーン設計と称する)。この分析の結果は、2つのバックボーンの間に、実際に目に見える動きがあったことを示した。
【0100】
選択された変異のEpiSweep分析
上記のように、15の最も頻度の高い変異の発現及び活性を分析した。この分析に基づいて、不満足な活性値のために、2つの変異を断念した。加えて、Ser122Glyは、Ser122Gly変異の3つのエピトープと比較して、10エピトープを欠失させたSer122Aspと同じ残基を標的としたので、除去された。最も頻度の高い変異Arg118Thrは、Ser126Proバックボーンとの関連で任意のエピトープを欠失せず、発現レベルが比較的低かった。しかし、Arg118Thrは、標的エピトープにおいて他の変異を助けるので、維持された。例えば、Ser122Aspと組み合わせた場合、Arg118Thr変異は、合計13のエピトープを標的とした。その結果、データセットは、12の異なる変異:Ser124Gly、Ser122Asp、Asn121Gly、Arg118Thr、Ile99Gln、Lys95Glu、Tyr93His、Leu83Met、Lys46His、Ile41Glu、Asn13His、及びAsn12Glyを含有した。
【0101】
EpiSweep分析をもう一度実施したが、アルゴリズムを、12の耐性の高い変異のみを使用するように制約した。変異負荷を2~8変異に変動させ、アルゴリズムを、活性部位(His32、Asp36、His82、His113、及びHis115)で変異を導入しないように制約した。Ser122Asp変異が、極めて有効なエピトープ除去剤であることが観察されたので、アルゴリズムを、生成された全ての計画にこの変異を含むように制約した。従来通り、アルゴリズムは、変異負荷毎に、パレート最適計画及び追加の19の次善計画を生成した。最も低いエピトープスコアは、24であることが判明し、8つの変異を含有する計画でしか達成できなかった。最も高いエピトープスコアは40であり、このスコアを有する計画は、強制Ser122Asp変異のみを有した。
【0102】
パレート最適曲線に沿った多数の計画(固定されたエピトープスコア及び変異負荷で、可能な限り低い回転異性体エネルギーを有する設計)を選択した。EpiSweep分析は、剛性バックボーン計画を生成し、(最も低い)24から36の範囲のエピトープスコアを有する、2~8変異の範囲の変異負荷での合計14のパレート最適計画を選択した。野生型リゾスタフィンバックボーンは50のエピトープスコアを有するので、この範囲が有意に脱免疫化された設計をカバーしたことが肯定された。
【0103】
タンパク質の柔軟性の懸案事項に対処するために、エネルギーが最小化されたポスト処理である14の設計(柔軟性バックボーン設計)も含んだ。剛性バックボーン設計と同じエピトープスコア及び変異負荷での設計を選択し、その結果、多様体を得る2つの異なる方法が直接評価できた。例えば、8つの変異及び24のエピトープスコアを有するパレート最適な剛性のある計画を選択した場合、同じ変異負荷及びエピトープスコアでの柔軟性バックボーン設計を選択した。いくつかの選択肢に直面した時、回転異性体エネルギーの最も低い柔軟性バックボーン設計を選択した。それらのエネルギーを最小化したので、これらの設計は、パレートフロンティア上に現れなかった。2つの変異計画を、剛性バックボーン設計及び柔軟性バックボーン設計の間で共有したという点に留意すべきである。
【0104】
合成多様体の発現レベル及び活性
各リゾスタフィン多様体を、振とうフラスコ中で成長させ、SDS-PAGEにより発現レベルについて試験した。(SDS-PAGE検出による)培養上清中の意味のあるレベルで発現することが判明した計画を、相対的な特定の活性についてさらに特性決定した。結果は、28の剛性バックボーン計画及び柔軟性バックボーン計画のうち11のみが発現したことを示した。Rigid1を除く全ての多様体の発現レベルは、野生型リゾスタフィンのものよりも低いことが判明した。
【0105】
全ての計画(Flex1;配列番号32を除く)は、野生型酵素のものよりも低い活性を有したが、2つのみが、市販のE. coli産生リゾスタフィンよりも低い活性を有した。P. pastorisで産生される野生型リゾスタフィンの活性及びssLysの活性の間に有意差があることが確認できた。合計11の発現計画のうち、6つが柔軟性バックボーン設計であり、5つが剛性バックボーン設計であった。剛性のある設計の変異負荷は、2~6の範囲であり、柔軟性のある設計の変異負荷は、2~8の範囲であった。
【0106】
変異の数が増加するにつれて、計画の活性レベルが減少した。この傾向は、剛性バックボーン設計よりも、柔軟性バックボーン設計において、さらに多く観察された。同様に、柔軟性のある計画では、変異負荷の増加に伴い、発現レベルが減少したことが判明した。この傾向は、剛性バックボーン設計では、観察されなかった。というのは、それらの発現レベルが、変異負荷にかかわらず低いままあったからである。高い発現レベルを有する唯一の剛性のある設計が、2つの変異設計Rigid(リジッド)1であった。これは、剛性のある設計及び柔軟性のある設計(Flex(フレックス)14とも称される)の間で共有された。
【0107】
非発現変異体の分析
合成設計の半分未満が、意味のあるレベルで発現したので、非発現設計を、変異パターンについて分析した。この分析は、発現設計及び非発現設計は、変異の大部分を共有したことを示した。Leu83Met、Tyr93His、及びLys95Gluなどの一部の変異は、非発現計画のほとんどに存在したが、ごく少ない発現計画にしか存在しなかった。同様に、Arg118Thrは、ほんのわずかの発現計画に存在したが、(強制Ser122Asp変異が除外された)他の任意の変異とは異なり、それは非発現計画の全てにおいて見出すことができた。
【0108】
【0109】
以前の結果は、変異Arg118Thrが比較的低い発現レベル(野生型の50%未満)を有することを示したので、合成計画の大部分で、観察された発現の不足が、Arg118Thr変異に起因していることがあることが肯定された。これを試験するために、この変異を有する全ての計画において、変異を、野生型に復帰させた。
【0110】
元の計画及び復帰計画の特性評価
表された全ての計画を、活性及び安定性のさらなる特性評価のために洗練させた。さらに、Arg118Thr変異をもともと有していたが、目下同じ位置に野生型残基を有していた全ての設計(復帰計画)を評価した。この分析の結果を表9に示した。
【0111】
【0112】
合計32の(元の及び復帰の)計画のうち、28が発現すると判明した。よく発現した28を洗練させて、活性及び安定性について特性決定した。予備的分析の間、Rigid3及びRigid14は、培養上清にわずかに発現することが判明した。Rigid8及びRigid12の復帰バージョンは、発現を有意に改善しなかった。4つの計画は、Arg118Thr以外の他の変異の存在に起因して、発現レベルが低かったが、明らかな変異パターンは見出せなかった可能性がある。Arg118Thr変異が野生型配列に戻った他の全ての計画は、よく発現することが判明した。そのようなものであるから、Arg118Thr変異が、計画の大部分に対する発現に影響するようにみえた。
【0113】
結果は、多様体が、野生型酵素と比較して、高レベルの活性及び安定性を有したことを示した。活性値は、野生型活性の%として表現され、92%(Rigid13*)から36%(Flex4*)までの範囲に及んだ。観察されたMIC値は、野生型に近く、最も高いものは、0.25μg/mlであった(Flex3*、Flex7*、及びRigid4*)。Tm値はまた、野生型酵素で観察されたものと類似しており、最も低いTmは、12.3℃の安定性の減少を示した(Rigid13、表9)。
【0114】
この分析は、変異負荷の増加が、多様体の活性/Tm値の減少及びMIC値の増加をもたらしたことを示した。概して、剛性のある設計は、柔軟性のある設計よりも高い比活性度及び低いMIC値を有した。しかし、柔軟性のある設計は、高い平均Tm値により証明されるように、剛性のある設計よりも全体的な安定性がより良好であった。両側t検定の結果に基づいて、2つの設計グループの間で観察された差異は、統計学的に有意であった(p値<0.03)。
【0115】
設計を、さらなる特性評価のために、7つの異なるグループ(表10)に分けた。表9のデータを使用して、設計グループに対する、柔軟性/剛性のエネルギー、変異負荷、活性、及び安定性の間のピアソン相関関数を計算した。
【0116】
【0117】
一緒に考えた場合、全ての28の設計は、変異の数及びMIC値の間に弱い正相関を示した(表10の全ての設計)。従って、多様体の変異負荷が増加するにつれて、それらの活性は増加した(MIC値が増加した)。変異の数及びMICの間の強い正相関は、剛性のある復帰計画及び全ての剛性のある計画で見出された。
【0118】
全ての計画を一緒に分析した時に明らかでない他の相関は、設計を個別に評価した時に明らかになった。例えば、強い負相関が元の柔軟性のある計画、剛性のある復帰計画、及び全ての剛性のある計画の変異負荷及び活性の間に存在することが観察された。強い負相関はまた、柔軟性のある元の計画、柔軟性のある復帰計画、及び全ての柔軟性のある計画の変異の数及びTm値の間に見出された。
【0119】
全体的に、強い相関は、全ての設計を一緒に考えた時、エネルギー及び活性/安定性項目の間に観察されなかった。観察された唯一の意味のある相関が、柔軟性エネルギー及びTmの間の弱い負相関であった(表10の全ての設計)。柔軟性エネルギー及び活性項目の間に観察される相関は、予想されたものとは反対の徴候を有した。他方では、剛性エネルギー及び活性の間の相関は、有意ではない一方、剛性エネルギー及びTmの間の相関は、不正確な徴候を有した。従って、エネルギーが信頼性の高い予測ツールであるかどうかをさらに試験するためには、エネルギーコンポーネントならびに実験的に決定された活性及び安定性値の間の相関を評価した。
【0120】
柔軟性及び剛性エネルギーは、活性の重要な予測手段ではないものの、それは、溶媒相互作用に起因するエネルギーが代わりに使用できることが判明した(表11)。機能的な予測手段として期待されるように、溶媒エネルギーは、活性との(弱いが)負相関及びMIC値との強い正相関を有した。
【0121】
【0122】
総合すると、これらの結果は、柔軟性バックボーンエネルギーが、安定性の比較的良好な予測ツールであった一方、溶媒相互作用に起因するエネルギーは、MICアッセイを使用して観察された実験的活性に対する最良の予測手段であるように見えたことを示した。
【0123】
リゾスタフィン多様体の免疫反応性の特性決定
野生型リゾスタフィン触媒ドメイン中の予測されたエピトープは、リゾスタフィン配列の全体にわたって広く分布したが、エピトープの大部分が、5つのクラスタにグループ化することができた(
図2)。ほとんどのエピトープは、多数の結合イベントを有することが予測された。
【0124】
多様体の相対免疫原性を評価するために、リゾスタフィン触媒ドメインの配列にまたがる合計26の合成ペプチドを設計した。特に、焦点を、
図2に示される5つの免疫原性クラスタに置いた。記載された各クラスタに対し、野生型ペプチド及び対応する変異ペプチドを設計した。変異ペプチドは、計画に現れた単一変異及び変異の組み合わせの両方を含有した。
【0125】
合成ペプチドに照らして、各変異を、エピトープを排除する予測された可能性について評価した。EpiBars(EpiMatrix免疫原性スケールにおいて最低4つの対立遺伝子に対して、1.64以上のZスコアを有するペプチド)を、クラスタ2(45VKAISSGKI53、配列番号97)、クラスタ3(80WMHLSKYNV88、配列番号147)、ならびにクラスタ5(116FQRMVNSFS124、配列番号88;119MVNSFSNPT127、配列番号142;及び120VNSFSNPTA128、配列番号143)に見出した。
【0126】
各ペプチドを、高スループットのMHCクラスII結合アッセイにおいて、8つのMHCクラスII対立遺伝子に対する結合能について実験的に評価した。EpiSweepで生成された変異は一般に、ペプチドのMHCへの結合を減少させた。168ペアワイズの比較のうち、変異は、73の場合に結合親和性を減少させ、60の場合に効果がなく、35の場合に結合を増加させた。ペプチドを、0.1μM未満のIC50値が観察された場合に強バインダー、IC50値が0.1~1μMの範囲にある場合に中バインダー、IC50値が1~10μMの範囲にある場合に弱バインダーに分類した。10μMを超える全てのペプチドを、非バインダーとみなした。
【0127】
10μMのカットオフを使用して、バインダーを非バインダーから分離し、(5%の閾値での)EpiMatrixの予測をMHCクラスII結合結果と比較した。真陽性(正確に予測されたバインダー)、真陰性(正確に予測された非バインダー)、偽陽性(不正確に予測されたバインダー)、及び偽陰性(不正確に予測された非バインダー)の割合を計算した。結果は、全体的な予測成功率は、予測率を、以前に公表された研究(~76%として引用する)よりもわずかに低い結果である70%であったことを示した(Grootら(2011) Immunome Res. 7:2-7; Moiseら(2013) Humm. Vaccin. Immunother. 9:2060-2068)。対立遺伝子特異的試験は、予測は、DRB1*0101、0301、0401、及び0701に対し、以前に観察された範囲にあったことを明らかにした。0801に対するデータは、見出すことができなかった。1301の場合、ペプチドの大部分は、弱いまたは非バインダーのいずれかに登録されたことが観察された。この観測結果は、1301に使用される試験ペプチドが、本当に強バインダーである可能性があり、そのようなものであるから、データを予測成功率の小さい方に歪めたことを示唆するであろう。同様に、1101及び1501に対する予測率は、以前に報告されたものよりも低く、全体的な低率の一因となったとも考えられた。
【0128】
クラスタ1野生型(C1WT)エピトープは、試験された8つのMHCクラスII対立遺伝子のうちの4つに結合すると予測された。予測に従って、Asn12Gly及びAsn13His変異の両方は、MHCクラスII結合を阻害した。Asn13His変異は、DRB1*0801及び1101エピトープを除去することにおいて良好であり、変異は、DRB1*1501エピトープを除去することにおいて、等しく良好であった。しかし、変異は、DRB1*0101(Asn12Gly)に対する強い結合及びDRB1*1301(Asn13His)に対する弱い結合ももたらす(表12)。
【0129】
【0130】
クラスタ2野生型(C2WT)エピトープの場合、DRB1*0101、0301、0401、0701、及び1501に対する複数のエピトープを有する、7つのMHCクラスII対立遺伝子に対する結合を予測した(表13)。変異は、DRB1*0101及び0701を除く7つの対立遺伝子を標的とすると予測され、(0401に加えて)これらの3つの対立遺伝子に対し、結合の増加が観察された。1つの例外は、0101への結合が2分の1に減少したことを示したLys46His変異体であった。Lys46Hisはまた、1101への結合を減少させた一方、Ile41Glu及びIle41Glu/Lys46Hisは、強い結合をもたらした。全ての変異体は、予測されたように、0301に対する親和性が低い。Ile41Glu及びLys46Hisは、1501への結合の減少を示した一方、Ile41Glu/Lys46Hisは、強バインダーとして出現した。変異の組み合わせは、特に悪かった。というのは、それが、0301を除く全ての対立遺伝子に対する結合の減少をもたらすからである。このクラスタの高い結合親和性は、多数のエピトープにより説明できた。8つの対立遺伝子にわたる合計13のエピトープのうち、変異は、4つのエピトープのみを阻害すると予測された。さらに、この特定の領域は、EpiBarを含有し、以前の研究は、これらのエピトープが、EpiBarsを含有するエピトープよりも免疫原性が高い傾向にあることを示した(Grootら(2011) supra)。
【0131】
【0132】
クラスタ3野生型(C3WT)エピトープは、0801及び1501に対する複数のエピトープを有する、DRB1*0101、0701、及び1101の予測されたバインダーであった(表14)。C3WTは、1301に弱く結合することも実験的に示された。Leu83Met変異は、0801及び1501のみの結合を阻害することが予想された。予測と一致して、0801に対する結合が約5分の1に減少したことが見出された。しかし、0701において2分の1未満に減少したこと(強から中へ)、1101に対して10分の1に減少したこと、及び0101に対して~2000分の1に低下したこと(強から弱へ)も観察された。結合の増加が、(予測されたものの反対の)1501、1301、及び0301に対し検出された。1501の場合、弱バインダーから中バインダーへのシフトが観察された一方、1301は依然として弱バインダーであり、0301は非バインダーあった。従って、Leu83Met変異は、4つの対立遺伝子への結合を減少させ、2つの他の対立遺伝子の分類の変更を引き起こさなかったので、大いに生産的であった(ペプチドは依然として弱バインダーまたは非バインダーであった)。
【0133】
【0134】
クラスタ4野生型(C4WT)エピトープは、試験された8つのMHCクラスII対立遺伝子のうちの3つ:DRB1*0101、0401、及び0801に結合すると予測された。0101及び0401に加えて、0301に対する結合(弱)、1101に対する結合(強)、1301に対する結合(弱)、及び1501に対する結合(強)が観察されたが、0801に対する結合は観察されなかった(表15)。予測に従って、変異は、MHCクラスII結合を阻害した。1つの例外は、変異Lys95Gluであり、これは、0101及び080への結合を減少させたが、代わりに、8つの全ての対立遺伝子にわたって、強い結合をもたらした(または強バインダーとして残った)ことが予測された。変異は、0101への結合を有意に減少させ:Tyr93His、Ile99Gln、及びTyr93His/Lys95Glu/Ile99Glnは、強バインダーを弱バインダーまたは非バインダーに変化させ、Tyr93His/Lys95Gluは、強バインダーを中バインダーに変化させた。全ての変異及びそれらの組み合わせは、0301に対する結合を弱バインダーから非バインダーに減少させた。同様に、Tyr93His/Ile99Glnを除く全ての変異は、1101への結合に有意な減少(強バインダーから弱バインダー/非バインダーに)をもたらし、Tyr93His/Lys95Gluを除く全ての変異体は、1301に対する結合を減少させた。最後に、Ile99Gln及びTyr93His/Lys95Glu/Ile99Glnのみが、1501への結合を排除した(強バインダーから弱バインダー/非バインダーに)。変異Ile99Gln、Tyr93His/Ile99Gln、及びTyr93His/Lys95Gluは、非バインダーC4WTを弱バインダーに変化させることにより、0701に対する結合親和性をわずかに増加させた。全体的な変異Tyr93His、Ile99Gln、Tyr93His/Lys95Glu、Lys95Glu/Ile99Gln、及びTyr93His/Lys95Glu/Ile99Glnは、全ての8つの対立遺伝子にわたって最も生産的であった。Tyr93His/Lys95Glu/Ile99Glnは、全ての8つの対立遺伝子に対する結合を排除したので、特に良好であった。
【0135】
【0136】
クラスタ5野生型(C5WT)エピトープは、DRB1*0301及び0801を除く全てに対する複数のエピトープを有する、全ての8つの対立遺伝子に結合することが予測された。結合は、0301及び1301を除く全てにおいて実験的に観察され、0701及び0801は弱バインダーとして測定された(表16)。最も高い脱免疫化変異は、Arg118Thr/Ser122Asp/Ser124Gly及びAsn121Gly/Ser122Asp/Ser124Glyであった。というのは、それらがそれぞれ、6つの対立遺伝子への結合親和性を有意に減少させたからである。0301対立遺伝子の場合、変異体のIC50値は、わずかに減少したが、ペプチドは、非バインダーとして残った。この結果は、変異が全ての8つの対立遺伝子に対する結合を阻害したEpiSweep予測と一致した。Asn121Glyは、4つの対立遺伝子への結合を減少させた一方、Ser124Gly及びAsn121Gly/Ser122Aspは、3つの対立遺伝子への結合を減少させた。Asn121Gly/Ser122Aspはまた、0301への結合をわずかに増加させた(非バインダーから弱バインダーに)。同様に、Arg118Thr及びR118T/S122Dは、2つの対立遺伝子への親和性を減少させたが、0301への結合における増加(非バインダーから弱バインダーに)を示した。変異の組み合わせにおける、0301対立遺伝子に対する結合親和性の観察された増加は、Ser122Aspが対立遺伝子に対する1つのエピトープを導入すると予測されたという事実により説明できた。実際には、Ser122Aspは、非バインダーペプチドC5WTを中バインダーに変化させた。
【0137】
【0138】
完全長設計の間の免疫原性を比較するために、各設計に対する集計エピトープスコアを計算した(
図3)。この分析は、野生型リゾスタフィン触媒ドメインが合計26の結合相互作用(またはエピトープ):14の強いもの、1つの中程度のもの、及び11の弱いもの、を有したことを示した。酵素は、14の非結合相互作用も有した。比較において、設計のうち18は、野生型よりも低いエピトープスコアを有し、6つは、同じスコアを有し、4つのみが、(最大2つのエピトープだけ)野生型を上回ったエピトープスコアを有した。3つを除く全ての設計はまた、野生型と比較して、より多くの非結合相互作用を有した。エピトープの最小数は、18であり、それは、多様体のうちの3つ:Flex4*(5変異)、Flex11*(7変異)、及びFlex13*(6変異)、に存在した。さらに、設計のうち18は、野生型と比較して、強バインダーの数の減少を示した。
【0139】
強い負相関が、変異の数及び実験的に観察された強バインダーの数の間に認められた(ピアソン計数-0.69)。同様に、正相関が、エピトープスコア及び強バインダーの数の間に観察された(ピアソン計数0.52)。同時に、変異負荷/エピトープスコア及びバインダーの総数の間に、相関は認められなかった。この結果は、アルゴリズムが、結合を減少させるだけでなく、主として強いエピトープを標的としていたことも示した。
【0140】
一般に、より多くの脱免疫化計画が、剛性バックボーン設計よりも、柔軟性バックボーン設計に見出された。概して、数少ない強いもの、中程度のもの、弱いものがあり、全結合相互作用が剛性のある計画よりも柔軟性のある計画で見出された。この傾向は、ほとんどの剛性のある設計が復帰して、1つの変異を失ったという事実により、部分的に説明されても良い。強バインダーの最も少ない数8は、Flex11*及びRigid5*で観察された。予想通り、合計でわずか22の結合相互作用:9つの強いもの、6つの中程度のもの、及び7つの弱いもの、を有する最も積極的な計画Flex9は、免疫原性の有意な減少を示した。
【0141】
Flex5及びFlex9多様体のインビトロ分析
多様体Flex5及びFlex9を発現させ、精製し、生物学的複製において特性決定した。さらなる対照として、野生型LSTを、商業的供給元から入手し、平行して分析した。多様体の両方の見かけの融解温度は、予備的試験中に得られた値と一致したが、細菌溶解の特異的な割合は、より厳密な分析時にやや高いことが見出された(表17)。重要なことに、脱免疫化多様体は、両方のアッセイにおいて、商業的に供給されるLSTと同等かまたはこれよりも良好であった。酵素の抗菌活性を、S. aureusの4つ株に対する最小阻害濃度(MIC)を評価することにより、さらに定量化した。株SA113に対するFlex5のMICは、野生型及び市販のLSTのものと同等であり、それは、MRSA株3425-3を含む3つの臨床分離株に対する1回の2倍連続希釈内であった。多様体Flex9はまた、良好な殺菌/静菌活性を保持して、200ng/ml(~7nM)以下で、4つの株全ての副産物を防止した。LSTCAT多様体が4つまたは8つの変異をそれぞれコードしたという事実を考えると、それらの高レベルの抗ブドウ球菌活性が顕著であった。
【0142】
【0143】
Flex5及びFlex9多様体のインビボ有効性及び免疫原性
より臨床的に関連する方法において抗菌活性を評価するためには、S. aureus臨床分離株を使用するマウス肺感染モデルを用いた。マウスを、口腔咽頭吸引により、生きているバクテリアに感染させ、1時間後に、2.5μgの野生型LST、多様体Flex5、または多様体Flex9を含有する溶液で同じ経路から治療した。感染の24時間後に、マウスを死亡させ、肺を採取し、生菌数を、肺のホモジネートの連続希釈物をプレーティングすることにより、測定した。全ての3つの酵素は、生理食塩水緩衝液対照と比較して、細菌が与える負担において統計的有意に10分の1に減少した(一元ANOVA P=0.007、テューキーの後検定)が、3つの治療の間に有意差はなかった(
図4A)。従って、脱免疫化候補は、感染した及び炎症をおこした肺環境において、野生型の有効性を保持した。
【0144】
ヒト免疫細胞、肝臓組織、及び胸腺組織で外科的にヒト化されていたNOD/SCID/γ
c
-/-マウス(HUMIマウス)を使用して、インビボの免疫原性を評価した。6週齢でのヒト組織の移植後に、HUMIマウスを成熟及び成長させ、ヒトB細胞及びT細胞レパートリーを広めた。移植の14週後に、マウスを各4匹ずつの3グループに分け、アジュバント中の100μgの野生型LST、Flex5、またはFlex9で皮下免疫した。免疫化の13日後に、マウスを死亡させ、各グループに対し脾細胞を採取して、プールし、プールした細胞を、それらの同族タンパク質を用いてエクスビボ再刺激にかけた。72時間でトリチウム化チミジン取り込みにより、細胞増殖を測定した。刺激指数(タンパク質対DMSO増殖応答)は、野生型LSTに対し2倍未満であった(
図4B)が、ヒト化マウス由来のT細胞が機能障害を示すことが広く知られていることは注目に値する。特に、ヒト化マウス脾細胞は、フィトヘムアグルチニン、イオノマイシン-PMA、抗CD3/抗CD28抗体カクテルなどの強力な刺激剤の存在下でさえも、不十分なエクスビボ増殖応答を示したことが示されている(Watanabeら(2009) Internatl. Immunol. 21:843-858)。さらに、完全フロイントアジュバント(CFA)中の強力な抗原キーホールリンペットヘモシアニンで2~3回のインビボ免疫化後、再刺激されたヒト化マウス脾細胞は、IFN-γまたはIL-4を産生できず(Watanabeら(2009) Internatl. Immunol. 21:843-858)、2~6倍のエクスビボの刺激指数のみを示した(Tonomuratら(2008) Blood 111:4293-6)。従って、野生型LST脾細胞の有意な(P=0.0005、二元ANOVA)1.6倍の刺激指数は、特に、今回の研究のマウスがたった1回の免疫化を受けたという事実を考えると、抗原特異的免疫応答の合理的な指標である。野生型免疫化されたグループと比較して、Flex5及びFlex9由来のプールされた脾細胞で免疫化されたマウスは、増殖の有意な減少を示した(
図4B)。バックグラウンド除去後、Flex5のプールされた細胞は、50%の応答減少を示し、Flex9のプールされた細胞は、65%の応答減少を示した。
【0145】
ナイーブ免疫系との関連での特有の免疫原性に加えて、脱免疫化タンパク質が、天然配列対する確立された記憶応答を回避する程度についても考えた。このような研究の長い時間枠及びHUMIマウスの短い寿命のために、トランスジェニックDR4マウスにおける記憶応答を評価した。このホモ接合型株は、ヒトHLA DRA及びDRB1*0401ペプチド結合ドメインに基づくキメラMHCクラスIIを有するという点を除いて、ネズミの完全な免疫系を有する(Itoら(1996) J.Exp.Med.183:2635-44)。この安定なトランスジェニックモデルは、長期研究を可能にする正常な健康的な寿命を有し、さらに、その抗原提示細胞は、ヒトペプチド結合特異性を示す。10個のDR4マウスを免疫化し、野生型LSTの皮下注射で繰り返しブーストした。最後のブーストの19週間後に、各グループが同様の平均抗体力価を示すように、それらを各5匹ずつの2つのグループに分けた。次に、マウスを、100μgの野生型LSTまたは100μgの多様体Flex5のいずれかで再チャレンジした。13日後に、各グループに対し脾細胞を採取して、プールし、最後の再チャレンジからの同族タンパク質を用いてエクスビボ再刺激にかけた。HUMIマウスにおける結果と同様に、野生型LST用いたDR4脾細胞のエクスビボ再刺激は、1.8倍の刺激指数をもたらした(
図4C)。DR2、DR3、及びDQ8トランスジェニックマウスにおける同様に小さい刺激指数は、抗原特異的抗体産生と相関すること及び抗原特異的免疫応答を示すことが、示されていることは注目に値する(Depilら(2006) Vaccine 24:2225-9)。従って、本明細書に見られる有意な(P=0.0002、二元ANOVA)1.8倍の刺激指数は、抗薬物免疫応答の合理的な指標であった。野生型LSTが再チャレンジされたマウスと対照的に、Flex5チャレンジグループ由来のプールされた脾細胞の増殖は、バックグラウンドレベル以下であった(
図4C)。従って、野生型LSTを認識するように用意された免疫細胞は、Flex5での再チャレンジ時に活性の低減を示し、脱免疫化多様体が、野生型酵素に対する記憶応答を効果的に回避することを示した。
【0146】
実施例2:HLA対立遺伝子DRB1*0401に対するリゾスタフィン触媒及び細胞壁結合ドメインの脱免疫化
概要
LST中の推定T細胞エピトープの枯渇が抗薬物抗体応答を軽減し、結果として治療有効性を強化することになることを実証するために、この分析を実施した。エピトープ枯渇多様体は、2つの異なる計算的に導かれた戦略を使用して開発された:これらは、経験的な改善が続く、個々の脱免疫化多様体(「opt」多様体と表記される)の構造ベースの設計ならびに機能的に脱免疫化されたメンバー(「lib」多様体と表記される)が強化された組み合わせのライブラリの構造ベースの設計及びスクリーニングである。ヒト化HLAトランスジェニックマウスを使用して、各方法が推定免疫原性エピトープを欠失し、それによりインビボでの抗LST抗体の形成を妨げる効率性を評価した。続いて、再発性菌血症モデルを使用して、LST脱免疫が全身性S. aureus感染のクリアランスを可能にする程度を測定した。脱免疫化多様体及びその野生型対応物の間のこの体系的な比較は、推定T細胞エピトープ、インビボ免疫原性、及び治療有効性の間の臨床関連の接続の直接実験的証拠を提供する。
【0147】
概念の証明として、焦点を、北アメリカ人種及びヨーロッパ人種において非常に優性な対立遺伝子DRB1*0401(以後DR4)に置いた。5%の閾値(すなわち、予測されたバインダーの上位5%のペプチド)で、ProPred分析ツール(Singh及びRaghava (2001) Bioinformatics 17:1236-7)は、野生型LSTの内の16のDR4制限T細胞エピトープを予測した(LST
WTエピトープスコア=16)。タンパク質配列及び構造全体に分布した重なり合ったクラスタ及び孤立したノナマーの両方として、ペプチドエピトープを配置した(
図5)。興味深いことに、ProPredは、7つの他の代表的なDRB1対立遺伝子:0101、0301、0701、0801、1101、1301、及び1501のいずれよりも、DR4のためのより多くのエピトープを予測した。それ故、任意の単一対立遺伝子を考慮して、全体的なタンパク質再設計に対してDR4モデルは高い制約を示した。
【0148】
材料及び方法
材料
プライマーを、IDT Technologies(アイオワ州コーラルビル)に、標準脱塩装置と共に注文した。分子クローニングのための制限酵素及びPhusion DNAポリメラーゼを、New England Biolabs(マサチューセッツ州イプスウィッチ)から購入した。他の全ての試薬及び用品は、別途明記のない限り、VWR Scientific(ペンシルベニア州フィラデルフィア)製であった。
【0149】
P. pastoris発現ベクターpPIC9及びP. pastoris株GS115(his4)を、Invitrogen(ニューヨーク州グランドアイランド)から購入した。E. coli DH5α [F- Φ80lacZΔM15 Δ(lacZYA-argF) U169 recA1 endA1 hsdR17 (rK
-, mK
+) phoA supE44 λ- thi-1 gyrA96 relA1]、S. aureus株SA113、及びMRSA株USA400は、American Type Culture Collection(バージニア州マナッサス)製であった。
【0150】
LSTホモロジーモデル
リゾスタフィンの結晶構造を利用できなかったので、2つのドメインのためのホモロジーモデルを作製した。触媒ドメイン(2B0P:A、2B44:A、及び1QWY:A)に対するLytMからの3つのテンプレート構造を、選択した(Firczukら(2005) J. Mol. Biol. 354:578-90; Odintsovら(2004) J. Mol. Biol. 335:775-85)。3つのテンプレート構造は、有意な配列同一性(95%~97%)を共有し、さらに、それらは、保存された活性部位周辺に高度な可動性ループ(Firczukら(2005) J. Mol. Biol. 354:578-90)を有する。リゾスタフィン触媒ドメインに対する最も高い配列同一性は、優良なモデル構造を構築するのに十分である46.7%であった(Baker及びAndrej (2001) Science 294:93-96)。MODELLERを使用して、最初のホモロジーモデルを構築した。ループモデリング法FREAD(Choi及びDeane (2010) Proteins 78:1431-1440)を使用して、テンプレートなしの領域(24PLGINGG30;配列番号168)をモデル化し、これは、1GMN:A(180PRGEEGG186;配列番号169)から配列類似ループを選択した(Liethaら(2001) EMBO J. 20:5543-5555)。配列同一性が高い(83.5%)単一テンプレート構造(1R77:A、リゾスタフィンホモログであるALE-1の細胞壁標的ドメイン構造)を使用して、細胞壁結合ドメインを作製した(Luら(2006) J. Biol. Chem. 281:549-558)。DOPE統計ポテンシャル関数のスコア(Shen及びSali (2006) Protein Sci. 15:2507-2524)の観点から、良好なモデルを選択した。予測されたループを緩ませるために、GB/SAを伴うAMBER99sbに対し、触媒ドメインモデルを最小化した(Hornakら(2006) Proteins 65:712-725; Stillら(1990) J. Am. Chem. Soc. 112:6127-6129)。
【0151】
変異選択の前処理
各ドメインの場合、ホモログを見つけるために、非冗長のデータベースに対して、PSI-BLASTの3回の繰り返し(Altschulら(1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402)を実行した。同定された配列に対する複数の配列アライメントを作製し、あまりギャッピーでないもの(多くとも25%)、及びLSTと十分に類似する(少なくとも35%)が、互いに十分に異なる(多くとも90%同一)ものを同定するために処理した。一連の114の代表的な触媒ドメインホモログ及び23の代表的な結合ドメイン配列が残った。アミノ酸を、各複数配列アライメント中の各位置で同定し、続いて設計のための可能な変異として使用した。機能的に重要とみられる特定の位置及び変異を、変異させなかった(32、36、82、113、115、117、118、119、125、126、127位はロックされ;Y33T、F38A、F38G、M39A、I41R、S124Y、及びR118Tは許容されなかった)。第2のフィルタリング工程は、5%の閾値で、ProPredを使用して決定されるように、少なくとも1つのエピトープを欠失すると予測されたそれらの変異のみを保った。推定される有害な影響を避けるために、プロリン及びシステインへの変異、ならびに、プロリン及びシステインからの変異も排除した。
【0152】
スクリーニングが危険性の高い置換を可能にするので、変異の選択肢を、ライブラリ設計のために拡張した。特に、1.5の厳しい閾値に従って、Chou-Fasman(Chou及びFasman (1974) Biochem. 13:222-45)性向を使用して、野生型二次構造環境に受け入れられる可能性のある残基を同定した。加えて、所望のアミノ酸を超える追加のアミノ酸を組み込むことができる縮重オリゴヌクレオチドを有するライブラリを作製したので、縮重オリゴヌクレオチド内の望ましいアミノ酸対望ましくないアミノ酸の比率が2:3を超えたままである限り、これらの追加は許容された。
【0153】
個々の多様体構造ベースの設計
エピトープ枯渇設計を生成するために、構造ベースの脱免疫化方法EpiSweepを、実施例1に記載されるように、各ドメインに適応した。AMBER力場(Pearlmanら(1995) Comput. Phys. Commun. 91:1-41)及び基準エネルギー(Lippow及びTidor (2007) Curr. Opin. Biotechnol. 18:305-311)に従い、OSPREY(ver.2.0)(Chenら(2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 106:7678-7678)を使用して、変異の選択肢のための可能な回転異性体(Lovellら(2000) Proteins 40:389-408)に対する1体及び2体エネルギー項を評価した。5%の閾値で、ProPred(Singh及びRaghava (2001) Bioinformatics 17:1236-7)を使用して、バインダーまたは非バインダーのいずれかとして、各ノナマーを特徴づけるDR4エピトープ(HLA Allele DRB1*0401)の含有量を評価した。少なくとも7つの変異は、触媒ドメイン中の全ての予測されたDR4エピトープを枯渇させる必要があり;6つの変異が、細胞壁結合ドメインを完全に枯渇させる必要があったことが判明した。一連の20のエネルギー最適な及びほぼ最適な完全枯渇設計を、EpiSweep最適化アルゴリズムにより、各ドメインに対して同定した。最もエネルギー最適な触媒ドメイン設計は、分析が潜在的に有害であると特定するSer124に変異を含有する。しかし、代替二重変異Asn121Gly及びSer122Glyが、同じエピトープを除去することが予測され、さらに、これらの2つの変異は、実験的に決定された活性がLSTWTよりも高いことを表す。(有害なSer124変異を含有する)最もエネルギー最適な設計及び代替二重変異設計の間のエネルギー差は、わずかであった(-294.94及び-293.9)。従って、細胞壁結合ドメインに対する最もエネルギー最適な設計及び触媒ドメインのC末端部分の代替二重変異(Asn121Gly及びSer122Gly)を有するように、設計(Opt1)を選択した。
【0154】
脱免疫化ライブラリの構造ベースの設計
安定な脱免疫化多様体が強化された組み合わせのライブラリを設計するために、EpiSOCoMと称される方法を開発した。これは、エピトープ分析を用いてSOCoM構造ベースのライブラリ設計アプローチを向上させ、エネルギー及びエピトープ含有量の両方を同時に最適化するために、スイープベースのパレート最適価アルゴリズム(Parkerら(2013) J. Comput. Biol. 20:152-65)を用いる所望のライブラリサイズと共に、一連の変異する可能な位置及びそれらの位置に組み込む可能なアミノ酸を考えると、EpiSOCoMは、位置のサブセット及びそれらの位置における置換のサブセットを選択する。その結果、それは、置換の全ての組み合わせ及び対応する野生型残基からなるライブラリの作製を具体的に述べる。EpiSOCoMは、その構成多様体に対する平均エネルギースコア及び平均エピトープについて、ライブラリを最適化し、そのため、一般に、多様体は「良好」であるであろう。そのパレート最適化アルゴリズムは、2つのスコアの間の無制限のトレードオフをする全てのライブラリ設計(位置及び置換)を同定し、そのため、他のいかなるライブラリ設計も、両方のスコアに対し良好でない。
【0155】
各多様体の明確な回転異性体のモデリングなしに、構造ベースのエネルギーの迅速な評価を可能にするために、SOCoMは、アミノ酸配列のタンパク質特異的機能の観点から、構造ベースの特性を発現させるクラスタ拡張(Grigoryanら(2009) Nature 458:859-64; Grigoryanら(2006) PLoS Comput. Biol. 2:e63)(CE)手法を用いる。ここで、許容される変異選択に基づいて、ランダムLST多様体のエネルギーをモデル化及び評価するために、前処理工程で、Rosetta(Rohlら(2004) Methods Enzymol. 383:66-93)を用いた。これらの構造トレーニングセットにより、CEが、位置特異的な1体及び2体配列ポテンシャルの合計で可能なLST多様体Sに対するエネルギーΨを表現できる。
【0156】
【数1】
(式中、和は、位置iにアミノ酸a
i及び位置jにa
jを含む。)CEガイドラインに従って、合計で9000の触媒ドメイン及び6000の細胞壁結合ドメインモデルを使用して、CEモデルをトレーニングした。次に、これらは、触媒ドメインに対する0.8及び細胞壁結合ドメインに対する0.9の、CE配列ポテンシャル及びRosettaエネルギーの間の相関を達成する(トレーニングセットの~20%サイズの)重複しないテストセットで、新しいランダムな多様体のエネルギーに対する正確な予測をすることができた。従って、このモデリング工程は、設計最適化の「内部ループ」内のエネルギーの迅速で正確な予測を可能にする。
【0157】
(可能なライブラリの広範な設計空間にわたって最適化する時に扱いにくい)全てのその多様体を列挙することなくライブラリを評価するために、SOCoMは、ライブラリ平均位置特異的スコアを用いる。例えば、セット{Arg、Lys}が1つの位置に組み込まれた場合、次に、全ての多様体に対し平均されたその位置のエネルギー的寄与は、Argエネルギー及びLysエネルギーの平均になり;同様に、ライブラリ対し平均されたその位置及び別の{Asp、Glu}の組み込みからのペアワイズ寄与は、Arg:Asp、Arg:Glu、Lys:Asp、及びLys:Gluの平均になるであろう。従って、許容される変異を考えると、SOCoMは、位置iで選択できるアミノ酸の可能なサブセットの平均エネルギー寄与であるΨi及び位置i及びjのペアに対する平均であるΨi,jを事前計算した。次に、単一多様体に対する等式と類似した等式で、全ライブラリTにわたる平均エネルギーΨを評価した。
【0158】
【数2】
(式中、ここで、和は、位置iにアミノ酸T
i及び位置jにT
jを含む。)従って、最適化内のライブラリの評価は、単一多様体の評価と同様に有効である。
【0159】
EpiSOCoMを開発するために、エネルギースコアのSOCoM’s処理に対する類似の方法で、ライブラリ平均寄与に対するエピトープスコアを「向上させる」ことも必要であった。次に、アミノ酸{T
i、T
i+1、…、T
i+8}が、iで始まる9つの連続した位置に組み込まれた場合、アミノ酸の種々のノナマーの組み合わせからの平均エピトープスコア寄与
【数3】
は、
【数4】
(式中、和は、アミノ酸のそれぞれの組み合わせにわたり、各セットからの1つ、関数e(・)は、9マーのエピトープスコアを与える)として計算される。次に、ライブラリの平均エピトープスコア
【数5】
は、単純に全ての9マーの和である。
【0160】
【0161】
SOCoMは、ライブラリサイズの制約を受ける式2を最適化するために、最適な位置のセット及びアミノ酸のセットを選択する整数線形計画法を使用する。EpiSOCoMの場合、2つの目的であるエネルギー(式2)及びエピトープスコア(式4)がある。これらの不整合特性間の最良のバランスを決定する先験的手段がないので、EpiSOCoMは、最良のバランスを表す全てのパレート最適設計を生成し、後続のトレードオフの特性評価及び好適なデザインの選択が可能になる。パレート最適設計を特定するために、それは、EpiSweepのものに基づくスイープアルゴリズムを用いる。スイープの各工程で、平均ライブラリエネルギーは、平均エピトープスコア(式4)の制約に従い、最適化される(式2)。制約は、引き続き厳しくなり、その結果、各ライブラリは、以前のものよりも良好なエピトープスコア(及び、それによる不適当なエネルギー)を有さなければならない。パレート最適化は、SOCoMの制約されたバージョンで、反復レイヤーとして実施され、それにより、各設計を最適化するために、IBM CPLEX整数計画ソルバーを使用する。
【0162】
タンパク質の発現、精製、及び特性評価
LST及びその誘導体を、P. pastorisから分泌させた。要約すると、2.5Lのバイオリアクター(Applicon Biotechnology)中で、組換えPichia株を培養し、ポリエチレングリコール-6000(PEG-6000)沈殿による上清から、タンパク質を捕獲し、SP SEPHAROSE F.F.陽イオン交換クロマトグラフィーにより、均質になるまで精製した。TRITON-X114抽出によりタンパク質製剤から、内毒素を除去した(Liuら(1997) Clin. Biochem. 30:455-63)。SDS-PAGEゲルのデンシトメトリー分析により、タンパク質発現レベルを推定した。S. aureus株SA113に対する最小阻害濃度(MIC)の決定により、タンパク質の活性を評価した。タンパク質の活性は、LSTWTに対して決定されたMIC希釈物と比較して、正規化された百分率として報告される(すなわち、50%の活性は、野生型と比較して、2倍高いMICであり、25%の活性は、野生型と比較して4倍高いMICである)。
【0163】
ライブラリの作製及びスクリーニング
表18に示されるプライマーを用いるスプライスオーバーラップ伸長PCRにより、LSTライブラリを作製した。
【0164】
【表18-1】
【表18-2】
【表18-3】
【表18-4】
【0165】
PCR産物を、pPIC9ベクターにライゲーションし、DH5αに形質転換した。構築物は、確認された配列であり、電気穿孔法により、P. pastorisに形質転換した(Wu及びLetchworth (2004) Biotechniques 36:152-4)。反復指向進化戦略として、ライブラリ作製及びスクリーニングを実施した。中程度のスループットのプレートハロ形成アッセイを使用して、活性ライブラリメンバーを同定した。要約すると、ライブラリ作製の各ラウンドからのP. pastoris形質転換体を、YPMアガー培地(1%の酵母抽出物、2%のペプトン、1%のメタノール、1%のアガロース)上に広げ、2日間30℃でインキュベーションした。表示用トップアガロース(0.5%の酵母抽出物、1%のペプトン、1%のNaCl、0.1のOD600 SA113、1%の低融解アガロース)を、YPM酵母プレートに注ぎ、10時間37℃でプレートをインキュベーションした。特徴的なハロまたはクリアランスゾーンにより、活性酵素を発現する酵母クローンを同定した。各ラウンドに対して、約10,000クローンをスクリーニングした。最も大きいハロを示す10の多様体をコードする遺伝子を、ゲノムに組み込まれたカセットからPCR増幅し、pPIC9にサブクローニングし、配列決定し、MICの測定による機能検証のために、新たに調製されたP. pastoris細胞に再形質転換した。最も脱免疫化され機能的な多様体を、後続のライブラリ作製及びスクリーニングのラウンドに向けた出発点として使用した。
【0166】
インビボ研究
動物感染、治療、及び免疫化に対するプロトコールを、動物の苦痛を最小限にするように実施した。C57Bl/6マウスを、Jackson Laboratory(メイン州バーハーバー)から購入した。C57Bl/6バックグラウンドAbbノックアウト/トランスジェニックHLA-DR4マウス(B6.129S2-H2-Ab1tm1Gru Tg(HLA-DRA/H2-Ea,HLA-DRB1*0401/H2-Eb)1Kito)を、Taconic Farms(ニューヨーク州ジャーマンタウン)から購入した。
【0167】
インビボ免疫原性
完全フロイントアジュバント(CFA)中の100μgの精製された野生型または多様体酵素100μl量を、DR4(グループ毎にN=5)またはC57Bl/6(グループ毎にN=4)マウスのいずれかに皮下注射した。免疫化の13日後、血清を回収し、ELISAにより、(野生型または多様体タンパク質に特異的な)抗LSTIgG抗体力価を測定した。要約すると、野生型または多様体タンパク質抗原を、高結合ELISAプレート上にコーティングし、次にBSAでブロッキングを行った。マウス由来の免疫血清は、コーティングされたプレートに連続希釈し、次に、これを、1:1000の実用的濃度でヤギ抗マウスIgG-HRPコンジュゲート(Santa Cruz Biotechnology、テキサス州ダラス)を使用してプローブした。続いて、TMB基質(Santa Cruz Biotechnology)を使用して、プレートを成長させた。報告された力価を、1.5倍の吸光度をもたらす血清倍希釈として定義した。
【0168】
インビボ有効性
細菌のチャレンジの前に、DR4マウス(グループ毎にN=3)の免疫系を、滅菌リン酸緩衝生理食塩水(PBS: 2.7mMのKCl、1.5mMのKH2PO4、8.9mMのNa2HPO4、136.9mMのNaCl、pH7.4)中の100μgのLSTWTまたはLib5多様体を週1回の皮下注射で、3回プライムした。これらの免疫化及びブーストは、アジュバントを含有しない。抗LST抗体力価を、上記のように測定した。感染及び治療の最初のサイクルの場合、ブタムチンの3%懸濁液中の2×108CFUのStaphylococcus aureus株USA400の腹腔内投与で、マウスにチャレンジし、1時間後、滅菌PBS中の500μgのLSTWTまたはLib5多様体の静脈内(尾静脈内)投与によりマウスを治療した。酵素治療により救助したマウスは、後続の感染及び週1回の間隔での治療サイクルを受けた。最初の細菌曝露後に、生来のネズミ抗菌免疫の発達を補うために、マウスに、2及び3サイクル目に、1×109CFUのUSA400でチャレンジしたが、治療は、500μgの適切なタンパク質にとどまった。各サイクルにおける致死細菌用量を確認するための対照として、1匹のマウスにPBSの疑似治療を与えた。
【0169】
個々の多様体の構造ベースの設計
EpiSweepアルゴリズム(Parkerら(2013) J. Comput. Biol. 20:152-65)を使用して脱免疫化された多様体を最適化し、ProPredにより評価されたエピトープ含有量の予測された減少、及び、構造ベースの回転異性体エネルギーにより評価されたタンパク質安定性の予測された維持の間で良好なトレードオフを行った。20の完全枯渇設計のパネル(すなわち、DR4エピトープスコア=0)を、触媒及び細胞壁結合ドメインの両方に対し別々に生成した。各ドメインから、低エネルギー設計を組み合わせた多様体Opt1(表19)を実験的分析のために選択し、最適化されたPichia pastoris発現システムにクローニングした。残念ながら、この14変異設計は、機能性タンパク質を生成することができなかった(表20)。
【0170】
【0171】
【0172】
実施例1のLST再設計研究は、単一変異が、別途、安定で活性な脱免疫化多様体を損なう可能性があったことを示している。それ故、変異体及び変異の組み合わせを体系的に復帰させることにより、Opt1設計中の有害な変異を同定した。分離されたOpt1変異の分析は、Met119Argが、タンパク質分泌を単独で無効化したが、設計Opt2(表19)におけるこの単一変異の復帰が、発現を復元できなかった(表20)ことを明らかにした。最終的に、3つの変異の組み合わせSer166Glu、Ser168Lys、及びVal193Trpは、発現及びこれらの3つの部位での野生型への復帰を害し、Met119が、発現可能な10の変異多様体Opt3(表20)を生成したことが判明した。
【0173】
Opt3が、妥当な発現レベルを達成する(表20)が、SDS-PAGEによる純度分析は、2つバンドを明らかにした。1つバンドは、予想された25kDaにあり、もう1つのバンドは、約30kDaにあった。実施例1の結果に基づいて、C末端細胞壁結合ドメイン(232NKS234)における潜在的N結合グルコシル化シークオンが活性化されていたことが推測された。それ故、Asn236Asp変異の脱免疫化は、C末端エピトープ及びN結合グリコシル化シークオンの両方を欠失させるSer234Lys変異と交換された。得られる10の変異多様体Opt4は、5つの予測されたDR4エピトープのみを産生し、単一の25kDaバンドとして表されたが、Opt3よりも低い収率であった(表20)。高度に操作されたOpt4多様体がフォールディングされて分泌能力のある状態で生成されたが、続いて、野生型酵素の抗菌活性のほんの小さい画分しかもたないことが判明した(表20)。
【0174】
計算ライブラリ設計による構造ベースの脱免疫化
個々の多様体の設計と並行して、代替の組み合わせアプローチを探求し、このアプローチで、計算設計を使用して、機能性脱免疫化多様体が強化されることが予測されるLSTライブラリを生成した。残基位置及び変異を同定するために、構造ベースのライブラリ設計法SOCoMを、エピトープ分析と共に向上させ、それらの組み合わせが、Rosettaモデルで潜在的にトレーニングされたクラスタ拡張ポテンシャルにより評価された場合の良好なエネルギーに加えて、ProPredにより評価された場合の低いエピトープスコアを有する多様体を生成した。最初のラウンドでは、設計は、野生型標準に基づいた一方、続くラウンドでは、標準を、以前のライブラリスクリーニングから選択されたリードクローンに変えた。
【0175】
ライブラリAは、触媒ドメイン中の9つの部位を標的とし、相補的なライブラリB集団は、細胞壁結合ドメイン中の8つの部位を標的とした(表18)。脱免疫化LST設計空間が広範であったが、ライブラリサイズ及びアガープレートハロ形成アッセイのスクリーニング能力の間のいくつかのパリティを維持するために、最初のライブラリを、40,000未満のメンバーに制約した。ライブラリA及びBの両方から、約10,000のクローンをスクリーニングし、それぞれからの10の大きいハロ形成クローンを配列決定し、機能を確認した。ライブラリAからの最も有望な多様体(クローンLib1)は、触媒ドメインに4つの変異を含有し、LSTWTと等しい抗菌活性をもたらした(表19及び20)。同様に、ライブラリBからの最も有望な多様体(クローンLib2)は、細胞壁結合ドメイン中に4つの変異を有し(表19)、野生型抗菌活性も有した(表20)。
【0176】
多様体の対応する脱免疫化ドメインLib1及びLib2を組み合わせて、8つの変異(表19)、予測されたエピトープ含有量において50%の減少、及び50%の野生型活性の保持(表20)を含有する多様体Lib3を生成した。続いて、2つのLib3ドメインの構造を、モデル化し、別のラウンドの脱免疫化ライブラリ設計のテンプレートとして使用した。得られるライブラリCは、触媒ドメインの5つの部位及び細胞壁結合ドメイン中の3つの部位を標的とした(表19)。10,000クローンの機能的なスクリーニングは、10/16のDR4エピトープを欠失した多様体Lib4をもたらした。そのLib3の出発テンプレートと比較して、Lib4は、触媒及び細胞壁結合ドメイン中に1つのさらなる変異をそれぞれ含有し、同等の抗菌活性を保持した(表20)。モデル化の別の反復ラウンド及び脱免疫化ライブラリ設計でLib4のドメインを使用してライブラリDを生成し、これから、10,000クローンをスクリーニングして多様体Lib5を単離した。多様体Lib5は、13/16の推定DR4エピトープ(表19)を欠失し、さらに、50%の野生型発現及び50%の抗菌活性(表20)を保持した。多様体Opt4と比較して、個々のタンパク質設計取り組みからの最良の酵素Lib5は、低い予測されたエピトープスコア及び高い測定された機能性の両方を示した。
【0177】
さらなるライブラリ作製及びスクリーニングの取り組み(ライブラリE)は、さらなる機能的構築物を同定することができなかった。それ故、13変異Lib5多様体は、さらなる分析に対するリード候補に指定された。多様体Lib5中に残る3つの推定エピトープ(33YGVDFFMTI41、配列番号215;38FMTIGTPVK46、配列番号216;及び116FQRMDNTFS124、配列番号217)は、活性部位Zn2+配位(His32、Asp36、及びHis115)を占めるアミノ酸を包含するか、またはこれらに隣接するかのいずれかであることに注意するのは興味深い。この事実は、これらの領域内の機能的変異の理解しにくい性質を説明し得る。多様なライブラリ集団のスクリーニングは、領域33~46の唯一の機能的置換、及び領域116~124の2つの機能的置換を同定した(表19)。
【0178】
エピトープ枯渇設計は、インビボでの免疫原性の有意な減少を示す。
続いて、エピトープ枯渇がインビボ免疫原性に影響を及ぼす程度を評価した。C57Bl/6及びトランスジェニックDR4マウスの両方における抗LST抗体応答を決定し、これらの後者は、内因性マウスMHCクラスIIに対して効力がなかったが、ヒトHLA DRB1*0401から誘導されるキメラMHCクラスII受容体を有した(Itoら(1996) J. Exp. Med. 183:2635-44)。脱免疫化に対する厳しいベンチマークとして、マウスを、強力な免疫賦活剤である完全フロイントアジュバント中のタンパク質で皮下免疫化した。LSTWTでの単回の免疫化の2週間後に、全てのDR4マウスは、1:150及び1:1700の力価を有する強力な抗LSTIgG抗体応答を備えた。対照的に、Opt4で免疫化されたマウスは、顕著な力価低減を示し、2/5のマウスのみが、任意の検出可能な抗LST抗体を示し、それらでさえ、LSTWTで免疫化された動物と比較して実質的に減少した。多様体Lib5はまた、減少した抗体応答を誘発し;1匹の動物しか、高い抗体力価(1:1200)を示さず、3匹のマウスは、著しく低い抗体力価を示し(1:15~1:26)、1匹のマウスは、抗LST抗体のバックグラウンドレベルの付近を示した。重要なことに、C57Bl/6研究室マウス株において、LSTWT及びOpt4の両方は、等しく免疫原性を有した一方、Lib5は実際、LSTWTよりも免疫原性が高かった(それぞれ、IgG力価1:4400~1:15,000対1:560~1: 2100)。従って、Opt4及びLib5の免疫原性の顕著な低減は、天然マウスMHCクラスIIとは対照的に、ヒトDR4による分子認識の阻害と本質的に関連した。
【0179】
対立遺伝子DR4を除く全てに対するタンパク質設計プロセスが伏せられているが、ProPred予測は、Opt4またはLib5のいずれもが、7つの他の代表的なヒトDRB1対立遺伝子に対するネオエピトープを含有しなかったことを示した(補足
図S1)。実際には、Opt4から欠失された11の推定DR4エピトープに加えて、予測は、対立遺伝子DR1、DR3、DR7、DR13、及びDR15と関連する12のエピトープも欠失されていたことを示唆した。Lib5と同様に、13のDR4制限エピトープの欠失に加えて、ProPredは、他の7つのDRB1対立遺伝子に関連するさらなる18のエピトープの欠失を予測した。
【0180】
リゾスタフィン脱免疫化は、治療有効性が改善された。
一部の実施形態では、LSTの治療的適用は、S. aureus感染を完全に根絶するために、反復投与を必要としても良い。それ故、可能な臨床適用をより密接に模倣するために、アジュバントの不存在下で、週1回の投薬中に、LSTWT及びLib5の免疫原性をモニタリングした。3回目の免疫の7日後に、LSTWTを受ける全てのDR4マウスは、1:40~1:160の範囲の抗LST力価を有する比較的強い免疫応答を備えていた。同じ時間枠中で、Lib5で免疫化された3匹のマウスのうち1匹のみが、高抗体力価(1:120)を獲得し、他の2匹のLib5マウスは、バックグラウンドをほんのわずかにしか超えない力価を示した。
【0181】
続いて、S. aureus再発性菌血症モデルを使用して、LST免疫原性が、インビボの有効性に影響を及ぼす程度を評価した。3週目の抗体力価の測定後に、上記DR4マウスを、2×108コロニー形成単位(CFU)のメチシリン耐性S. aureus(MRSA)株USA400の腹腔内投与で感染させた。1時間後に、マウスに、500μgのLSTWTまたはLibをそれぞれ静脈内ボーラスで与えた。両方の酵素は、この初期感染から、それぞれのグループを救助したが、PBS疑似治療を与えられた対照マウスは、過度の罹患故に、死亡しなければならなかった。
【0182】
1週間後、LSTWTグループ(1:300~1:650)及びLib5グループ(1匹のマウスは>1:1000で、残りの2匹のマウスは1:15~1:20の間)の両方に対する抗体力価は、増加していたが、後者は、全体的に低い傾向を示し続けた。ここで、マウスを、109CFUのMRSAに感染させ、1時間後に、それぞれの酵素500μgの静脈内ボーラスで再度治療した。この2回目の感染サイクルでは、マウスは、より高い抗体力価を獲得し、LSTWTは、3匹の治療されたマウスのうちいずれも救助できなかった。同様に、高い抗体力価を示す1匹のLib5マウスは、感染に屈したが、2つの低力価のLib5マウスを2回目のMRSAチャレンジから救助した。
【0183】
翌週、2匹の生存しているLib5マウスの抗体力価は、さらにもう一度増加している(1:70及び1:120)ことが判明したが、特に、それらは、4週目のLSTWT力価以下のままであった。MRSAでの3回目の感染サイクルの後に、1匹のマウスを、Lib5で治療して生存させた。これに対して、もう1匹のマウスに、疑似PBSを与え、これは、感染に屈した。全体として、これらの結果は、ヒト化DR4マウスは、アジュバントの不存在下でさえ、LSTWTに対する強い免疫応答を備えたことを示した。反復投与中に、抗LSTWT抗体力価における毎週の増加は、有効性の喪失と相関した。逆に、Lib5脱免疫化多様体を受けた3匹のマウスのうち2匹において、免疫応答を減弱させ、もう一度、インビボ有効性を、抗LST抗体力価で調査した。Lib5は、MRSAでの3回の連続チャレンジに対してだけ強力な抗菌有効性を発揮した。
【0184】
研究の全体にわたって、1:256以下の抗LST抗体力価は、S. aureus感染からの酵素の媒介する救助と相関した一方、256を超える力価は一般に、抗菌酵素療法の失敗に関連していた。それ故、多様体Lib5の抗薬物抗体応答を軽減する能力は、LSTWTと比較して、有効性の強化を示した。
【0185】
実施例3:ヒト集団におけるHLA結合特異性を代表するHLA対立遺伝子に対するリゾスタフィン触媒及び細胞壁結合ドメインの脱免疫化
ヒトHLA対立遺伝子DRB1*0101、0301、0401、0701、0801、1101、1301、及び1501に対するLSTを脱免疫化するために、機能性脱免疫化多様体で強化されることが予測される個々の多様体及びライブラリを生成した。触媒ドメイン(
図6A)及び細胞壁結合ドメイン(
図6B)のエピトープマッピングを、実施例2に記載されるように実施した。この情報ならびに溶媒の近づきやすさ及び進化的保存を使用して、脱免疫化LST変異体を生成した。
【0186】
特に、細胞壁結合ドメインの変異(表21)を、Flex9変異体(実施例1)またはFlex9誘導体の触媒ドメインにおける変異と組み合わせた。
【0187】
【0188】
多様体をスクリーニングして、目的の3つの多様体F11、F12、及びF13を同定した(表22)。
【0189】
【0190】
MRSA株USA400に対しインビトロ阻害活性について、F11、F12、及びF13をスクリーニングした(
図7)。この分析は、多様体F11及びF13が、野生型LSTと比較して、12.5%のMIC活性を保持した一方、多様体F12が、野生型LSTと比較して、25%のMIC活性を保持したことを示した。さらに、MRSA株USA400に対する活性の測定前に、1時間50℃で多様体を加熱した時、野生型LSTが完全MIC活性を保持し、F13は、元のMIC活性の25%を保持し、F12は、元のMIC活性の50%を保持したことが判明した。
【0191】
C57BL/6マウスにおけるF11多様体のインビボ有効性も分析した。2×10
8のMRSA株USA400の腹腔内注射でマウスにチャレンジし、1時間後に、単回ボーラス静脈内注射として投与される100μgの野生型LST、F11、またはPBSでマウスを治療した。両方のタンパク質治療に対する生存率は1/3であった。野生型LSTがこの用量で部分的にのみ有効であることが知られているので、100μgの投薬量を選択した。この用量を使用することにより、F11多様体に対する明らかな有効性の同等性を実証できた。この分析は、両方のタンパク質がインビボでの同等の有効性有したことを示した(
図8)。
【0192】
DR4 HLAトランスジェニックマウス、すなわち、部分的にヒト化された免疫系を有するマウス、におけるF13多様体の免疫原性を、野生型LSTと比較した。100μgの野生型LSTまたは多様体F13を、完全フロイントアジュバントと混合し、DR4マウスに皮下注射した。14日後、ELISAにより抗体力価を測定した。多様体F13は、野生型LSTと比較して200分の1以下に低下した抗体力価をもたらした。抗菌有効性への抗体力価の影響を評価するために、2×108のMRSA株USA400の腹腔内注射でマウスにチャレンジし、1時間後、単回ボーラス静脈内注射として投与される500μgの野生型LST、多様体F13、またはPBSでマウスを治療した。PBS疑似治療を受けたマウスの両方が死亡し、野生型LSTで治療されたマウスの両方も同じく死亡した。対照的に、多様体F13で治療された両方のマウスは生存していた。従って、F13の免疫原性の低減により、インビボの治療有効性の強化が与えられた。
【0193】
同様の一連の実験では、多様体F12の免疫原性及び有効性を、DR4 HLAトランスジェニックマウスを使用して、アジュバントの不存在下で、野生型LSTと比較した。0週目に、2×108のMRSA株USA400の腹腔内注射で、マウスにチャレンジし、1時間後、単回ボーラス皮下注射として与えられる500μgの野生型LSTまたは500μgの多様体F12で、マウスを治療した。続いて、1×109のMRSA株USA400の腹腔内注射で、マウスに週1回チャレンジし、上記のように治療した。抗体力価を2週目から毎週測定した。野生型LSTは、合計4回再発性全身性MRSA感染からマウスを救助できたが、5回目の感染からいずれのマウスも救助できなかった(表23)。多様体F12は、4回の再発性全身性MRSA感染から全てのマウスを救助できた(表24)。多様体F12により誘発された抗体力価の大幅な低下は、この多様体が、野生型LSTよりも効果的であることを示す。
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