(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】方向性ケイ素鋼板を製造する方法、方向性電磁鋼板およびこれらの使用
(51)【国際特許分類】
C21D 8/12 20060101AFI20220418BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20220418BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20220418BHJP
C22C 38/16 20060101ALI20220418BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C21D8/12 B
C21D9/46 501A
C22C38/00 303U
C22C38/16
H01F1/147 175
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018000245
(22)【出願日】2018-01-04
(62)【分割の表示】P 2015524858の分割
【原出願日】2013-07-30
【審査請求日】2018-02-02
【審判番号】
【審判請求日】2020-03-05
(31)【優先権主張番号】PCT/IB2012/001475
(32)【優先日】2012-07-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IB
(73)【特許権者】
【識別番号】510215651
【氏名又は名称】アルセロルミタル・インベステイガシオン・イ・デサロジヨ・エセ・エレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】バン・ガボル
(72)【発明者】
【氏名】トム・ファン・デ・プッテ
【合議体】
【審判長】平塚 政宏
【審判官】本多 仁
【審判官】井上 猛
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-140698(JP,A)
【文献】特表2011-517732(JP,A)
【文献】特表2011-518947(JP,A)
【文献】国際公開第98/046802(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第102605267(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 8/12
C21D 9/46
C22C38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
800A/mで1.870テスラを超える誘導値および1.7テスラ(T)の特定磁気誘導にて1.3W/kg未満のコア電力損失を示
す方向性
電磁鋼板
であって、
以下からなる連続工程:
-重量パーセンテージで、
2.8≦Si≦4、
0.4≦Cu≦0.6、
0.05≦Mn≦0.4、
0.001≦A1≦0.04、
0.025≦C≦0.05、
0.005≦N≦0.02、
0.005≦Sn≦0.03、
S<0.015、
および0.02未満の累積量において少なくとも1種のTi、Nb、VまたはB、
を含有し、ここでTi、Nb及びVから成る群から選択される少なくとも1種の元素は含まれており:
以下の関係を満たし:
Mn/Sn≦40、
2.0≦C/N≦5.0、
Al/N≧1.20
ならびに、残余がFeおよびその他の不可避の不純物である、鋼組成物を溶融する工程、
-固化後にスラブ表面が5分を超えて850℃未満に冷却しないように厚さ80ミリメートル以下を有するスラブを製造する工程、
-スラブを1080℃から1200℃の温度まで少なくとも20分間再加熱する工程、
-続いて、スラブを熱間圧延し、スラブ温度が1060℃を超えている間に第1の厚さ減少を行い、最終圧延温度950℃超で最後の厚さ減少を行って、熱延鋼帯を得る工程、
-熱延鋼帯を500℃から600℃の範囲の温度まで10秒未満で冷却する工程、次いで
-熱延鋼帯を巻き取る工程であって、60%未満の酸可溶性Alが熱延鋼帯において析出された形態にあり、この析出物は、5nmから150nmのサイズ範囲のAlN析出物を全く含有しない工程、次いで
-熱延鋼帯の表面を洗浄する工程、次いで
-熱延鋼帯を予め焼鈍することなく、少なくとも60%の冷間圧延比で熱延鋼帯の第1の冷間圧延工程を行う工程、次いで
-780℃から920℃の温度T
1
にて一次再結晶焼鈍工程を行う工程であって、鋼が、水素、窒素および水蒸気の混合物を含む雰囲気中、2分の最小時間t
1
の間、T
1
で保持され、次いで室温まで冷却され、冷却後に0.004%未満の鋼炭素含有量および16マイクロメートル未満の一次平均粒径を得る工程、次いで
-少なくとも50%の冷間圧延比で第2の冷間圧延工程を行い、冷間圧延鋼板最終厚さを得る工程、次いで
-冷間圧延鋼板の表面に隔離分離剤の層を堆積させる工程、次いで
-隔離冷間圧延鋼板が、水素および窒素を含有する雰囲気中で二次焼鈍され、鋼加熱割合V1が600℃から1150℃の間で毎時15℃未満であり、板温度が1150℃の最小温度T
2
にて600分の最小時間t
2
の間保持され、焼鈍の総時間が120時間超であり、硫黄および窒素の含有量をそれぞれ0.001%未満に減少させ、ならびに二次平均粒径を15ミリメートル未満にさせる工程、次いで
-室温まで徐々に冷却を行う工程
を含む方法によって得られる、
方向性電磁鋼板。
【請求項2】
請求項
1に記載の方向性
電磁鋼板を用いて
作製された部品を含む電力変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気的特性のFe-Si方向性電磁鋼の製造方法に関する。こうした材料は、例えば変圧器の製造に使用される。
【背景技術】
【0002】
Fe-Si方向性鋼に磁気的特性を付与することは、磁気誘導の最も経済的なソースである。化学組成の観点から、鉄にケイ素を加えることは、電気抵抗率を増大させる非常に一般的な方法であり、こうして磁気的特性を改善し、同時に総電力損失も低減する。現在、電装品用の鋼の構築のために2つの系統が共存している:方向性鋼および無方向性鋼。
【0003】
いわゆるゴス組織{110}<001>は、結晶面{110}が理想的には圧延面に平行であり、結晶方向<001>が理想的には圧延方向に平行である場合に、顕著な磁気的特性を方向性鋼にもたらす。後者の圧延方向は、容易磁化方向に対応する。
【0004】
Fe-Si方向性鋼のマトリックスを構成し、理想の{110}<001>に近い結晶配向を有するフェライト粒は、通常ゴス粒と呼ばれる。
【0005】
以下の特性を使用して、電磁鋼が磁気的特性をおびる場合の電磁鋼の効率を評価する:
・800A/mの適用磁場における測定を参考として、この文書においてJ800と呼ばれるテスラで表される磁気誘導。こうした値は、粒がゴス組織にどの程度近いかを示し、より高い値がより良好である。
【0006】
・W/kg単位で表され、テスラ(T)単位で表される特定の磁気誘導およびヘルツ単位での作用速度で測定されるコア電力損失。総損失が低下するにつれて、より良好になる。
【0007】
多くの冶金パラメータは、上述の特性に影響を与えることがあり、最も一般的なものは:材料組織、フェライト粒径、析出物サイズおよび分布、材料厚さ、隔離コーティングおよび最終的な表面熱処理である。今後、鋳造から最終的な表面熱処理までの熱-機械的加工処理は、目的とする仕様に到達するために必須である。
【0008】
一方で、高磁束密度板に関して、特許文献1には、C:0.010~0.075%、Si:2.95~4.0%、酸可溶性Al:0.010~0.040%、N:0.0010~0.0150%およびSおよびSeの一方または両方0.005~0.1%(バランスは、Feおよび不可避の不純物である。)を用いて、B10≧1.90Tを有する方向性ケイ素等級の製造方法が開示されている。鋳造後に製造されたバーは、20から70mmの範囲の厚さを有する。以下の元素の1つを、上記で与えられる化学組成物に添加できる:Sb:0.005~0.2%、Nb:0.005~0.2%、Mo:0.003~0.1、Cu:0.02~0.2%およびSn:0.02~0.3%。熱間圧延の前に許容される最小温度は1200℃である。鋳造後にバーを1200℃を超えるまたはさらには1250℃を超えるように維持することは、バーが熱間圧延直後であってもより多くのエネルギーを必要とするので、こうした加工処理経路は相当なエネルギー消費型である。
【0009】
他方で、特許文献2は、方向性板にさらに加工処理するための、熱間圧延されたストリップケイ素合金鋼の製造方法およびシステムに関する。鋳造されるスラブは、120mmの最大厚さを有する。この発明は、鋳造生成物の熱間圧延ラインへの取り込み温度が少なくとも1200℃、好ましくは1250℃を超えることを必要とする。この発明は、多機能であることを目的とする方法およびシステムについて言及しているので、化学組成は開示されていない。先に記述されたようにスラブの再加熱は重要な工程であり、2つの要素からなる:第1の予備加熱段階が行われ、この後強力な加熱工程が続く。こうした加工処理経路は、鋳造生成物が、本文書において提示されるシステムのグラフでは番号6として言及される強力な加熱段階にて再加熱されるので、相当なエネルギー消費型である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】欧州特許第2077164号明細書
【文献】米国特許出願公開第2009/0301157号明細書
【発明の概要】
【0011】
本発明は、以下からなる連続工程を含む熱間圧延Fe-Si鋼板の製造方法を提供することを目的とする:
-重量パーセンテージで、
2.8≦Si≦4、
0.20≦Cu≦0.6、
0.05≦Mn≦0.4、
0.001≦A1≦0.04、
0.025≦C≦0.05、
0.005≦N≦0.02、
0.005≦Sn≦0.03、
S<0.015、
および場合により、0.02未満の累積量においてTi、Nb、VまたはB、
を含有し:
以下の関係を満たし:
Mn/Sn≦40、
2.0≦C/N≦5.0、
Al/N≧1.20
ならびに残余がFeおよびその他の不可避の不純物を含有する、鋼組成物を溶融する工程、
-鋼を連続的に鋳造して、固化後にスラブ表面が5分を超えて850℃未満に冷却しないように厚さ80ミリメートル以下のスラブを得る工程、
-スラブを1080℃から1250℃の温度まで少なくとも20分間再加熱する工程、
-続いて、スラブを熱間圧延し、スラブ温度が1060℃を超えている間に第1の厚さ減少を行い、最終圧延温度950℃超で最後の厚さ減少を行って、ホットバンドを得る工程、
-ホットバンドを500℃から600℃の範囲の温度まで10秒未満で冷却する工程、次いで
-ホットバンドを巻き取る工程、次いで
-ホットバンドの表面を洗浄する工程、
-ホットバンドを予め焼鈍することなく、少なくとも60%の冷間圧延比でホットバンドの第1の冷間圧延工程を行う工程、次いで
-780℃から920℃の温度T1にて一次再結晶焼鈍工程を行う工程であって、鋼が、水素、窒素および水蒸気の混合物を含む雰囲気中、2分の最小時間t1の間、T1で保持され、次いで室温まで冷却され、冷却後に0.004%未満の鋼炭素含有量および16マイクロメートル未満の一次平均粒径を得る工程、
-少なくとも50%の冷間圧延比で第2の冷間圧延工程を行い、冷間圧延鋼板最終厚さを得る工程、
-冷間圧延鋼板の表面に隔離分離剤の層を堆積させる工程、
-隔離冷間圧延鋼板が、水素および窒素を含有する雰囲気中で二次焼鈍され、鋼加熱割合V1が600℃から1150℃の間で毎時15℃未満であり、板温度が1150℃の最小温度T2にて600分の最小時間t2の間保持され、焼鈍の総時間が120時間超であり、硫黄および窒素の含有量をそれぞれ0.001%未満に減少させ、ならびに二次平均粒径を15ミリメートル未満にさせる工程、
-室温まで徐々に冷却を行う工程。
【0012】
好ましくは、銅含有量は、0.4%から0.6%である。
【0013】
好ましくは硫黄含有量は0.010%未満である。
【0014】
好ましい実施形態において、鋼炭素含有量が0.025%から0.032%である。
【0015】
好ましくはこのスラブが、毎分4.0メートルの最小速度で鋳造される。
【0016】
好ましい実施形態において、このスラブの再加熱は、1080℃から1200℃の温度範囲にて行われ、この最終圧延温度は少なくとも980℃である。
【0017】
好ましくは熱間圧延工程、迅速な冷却および巻き取り後に形成された析出物構造は、60%未満のAlas(酸可溶性Al)の析出を導き、この析出物構造は、5nmから150nmのサイズ範囲のAlN析出物を全く含有しない。
【0018】
好ましくは、方向性鋼板は、コロイド状シリカエマルションに基づく絶縁および張力コーティングでコーティングされる。
【0019】
好ましくは一次焼鈍の後、鋼の炭素含有量は0.0025%未満である。
【0020】
好ましい実施形態において、一次焼鈍後、一次平均粒径は10マイクロメートル未満である。
【0021】
別の好ましい実施形態において、二次焼鈍後、二次平均粒径は10ミリメートル未満である。
【0022】
好ましい実施形態において、本発明に従う方法によって得られる方向性鋼板は、1.870テスラを超える800A/mでの誘導値および1.7テスラ(T)の特定磁気誘導において1.3W/kg未満のコア電力損失を示す。
【0023】
本発明に従う方向性鋼板で製造された部品は、電力変圧器を得るために使用できる。
【0024】
所望の特性を到達するために、本発明に従う鋼は、以下の元素を含む。
【0025】
まず、本発明の鋼は、ゴス組織を得るためにおよび鋼の電気抵抗率を増大させるために2.8%から4%であるケイ素を含有する。含有量が2.8%未満である場合、方向性鋼の高い磁気的特性および低いコア電力損失値は、得られない。他方で、ケイ素の添加が4%を超える場合、冷間圧延中のクラッキング感受性が、受容不可能なレベルに到達する。
【0026】
硫黄含有量は、鋳造スラブの中心ラインに近い偏析を避けるために、厳密に0.015%(150ppm)未満である。これらの偏析は、製造された熱間圧延マイクロ構造および析出物分布の均一性を損なう。スラブ厚さにわたって硫黄濃度を均質化するために、スラブ再加熱温度は上昇させなければならず、スラブは、長期間、高温にて維持されなければならず、製造性が損なわれ、製造コストが増大する。加えて、硫黄含有量が150ppmを超える場合、高温焼鈍(HTA)中の精製段階は、有害な元素、例えばS、Nなどが75%を超える水素を含有する乾燥雰囲気との相互作用によって除去されるが、非常に長くなり、品質、製造性を損ない、コストを増大させる。事実、この長期間の精製段階はコストがかかり、これはガラスフィルム品質を劣化させる。これらすべての欠点のうちの外観リスクを低減するために、好ましくは硫黄含有量は100ppm未満である。実際のところ、保持している間、雰囲気中の水素濃度は、鋼中に溶解している窒素および硫黄を除去することによって必要な金属精製を確実にするために75%を超えるべきである。これは、鋼中の総窒素および総硫黄濃度が好ましくは100ppm未満であるレベルまでで水素雰囲気と相互作用させることによって生じる。
【0027】
鋼はさらに、0.20から0.6%の銅を含有して、鋼のJ800値を改善する。焼鈍の間、銅は、析出して、AlNのさらなる析出のための核として作用し得るナノメートル析出物を生じる。銅含有量が0.20%未満である場合、Cu析出物の量は低過ぎて、J800値が目標値未満となるが、銅は、金属の飽和分極を低下させることが知られており、結果として1.870TのJ800目標値は、0.6%を超える鋼含有量に関しては達成不可能になる。好ましくは、銅含有量は0.4%から0.6%である。
【0028】
マンガン濃度は、熱間圧延段階の間のクラッキングを回避するために0.05%よりも高くなければならない。さらに、Mnが添加されて再結晶を制御する。0.4%を超えるMn濃度は、不必要に合金化コストを増大させ、飽和磁化を低下させ、目標値未満のJ800値が目標値未満になる。0.05から0.4%の含有量でマンガンを鋼に添加する。この元素は、硫黄と共に析出して、AlNのさらなる析出のための核としても作用し得るMnSの析出物を生じる。このためMnの最小量は、0.05%である。
【0029】
スズ(Sn)は、一次および二次再結晶構造の粒径を制御するために添加できる粒界分離元素である。Sn濃度は、高温の焼鈍中に過剰の粒成長を回避するのに有効であり、故に磁気損失を低下させるように少なくとも0.005%でなければならない。Sn濃度が0.03%を超える場合、再結晶は不規則になる。このためSn含有量は、0.03%の最大値に限定すべきである。スズ含有量は、粒界移動度を低下させる粒界偏析元素として作用するように、好ましい実施形態において0.010%から0.022%である。このため粒成長は阻害される。スズはモリブデンまたはアンチモンによって置き換えることができる。
【0030】
マンガンとスズとの比(Mn/Sn)は、好ましい実施形態において、再結晶を通して粒径分布を制御するために40以下である:Mn/Sn≦20。
【0031】
一次平均粒径目標値は、16マイクロメートル未満、好ましくは10マイクロメートル未満である。
【0032】
アルミニウムは、窒素と析出し、二次再結晶の間に粒成長の阻害剤としてAlNを形成するために0.001~0.04%の範囲で鋼に添加される。Alの量は、酸素と結合しないアルミニウムの量である酸可溶性アルミニウムを指す。好適な量のAlNを有するために、アルミニウムは、析出動力学の制御が一層困難になるので、0.04%未満でなければならない。Al含有量は、十分なAlNを有するために0.001%を超えなければならない。
【0033】
窒素は、十分なAlN析出を形成するために0.005~0.02%の範囲でなければならない。窒素含有量は、所望でないフェロ窒化物または炭窒化物形成により0.02%を超えることはできず、AlNの量は0.005%未満では低過ぎる。
【0034】
アルミニウムと窒素との重量比は、1.20(Al/N≧1.20)以上であり、AlN析出動力学および量のためにAlとNとの良好な原子比を有する。アルミニウムに比べて低量の窒素が、これらの阻害役割について役立つより微細な析出物の形成を導く。好ましくはAl/Nの比は以下の通りである:Al/N≧1.5。
【0035】
好ましい実施形態において、ホットバンドの60%未満の酸可溶性アルミニウムは、AlNとしての析出形態であり、この析出物構造は、5nm~150nmのサイズ範囲のAlN析出物を含有しない。
【0036】
炭素含有量に関して、熱間圧延工程において、C濃度は、熱間圧延中にオーステナイト量に対する制御を通してホットバンドのマイクロ構造および結晶学的組織に顕著な影響を与えることが検証される。炭素濃度はまた、熱間圧延の間にAlNの早期の粗い析出を防止するので阻害剤の形成に影響を与える。C含有量は、0.025%を超えなければならず、溶液中に析出を維持し、ホットバンドマイクロ構造および組織を制御するのに十分なオーステナイトを形成する。0.05の限度は、製造性を遅延するので、経済的な欠点となる脱炭工程が長くなり過ぎないように存在する。好ましくは、炭素含有量は、0.025%から0.032%であり、この濃度範囲は、最終生成物中で最も高いJ800値を得ることが証明された。
【0037】
炭素と窒素との比は、2から5(2≦C/N≦5)であるべきであり、J800値が1.870Tを超えるのを保証する。C/N比が2未満である場合、熱間圧延中のオーステナイト含有量が不十分になる。フェライトよりオーステナイトに可溶性である窒素は、オーステナイトに拡散し、熱間圧延マイクロ構造に最終的に均一に分配されず、アルミニウムとの効率良い析出を損なう。他方では、C/N比が5を超える場合、脱炭工程は、窒素含有量が低過ぎると、高いCまたはAlN形成が不十分な場合に長く困難になる場合がある。好ましくは、C/Nの比は:3≦C/N≦5である。
【0038】
ミクロ合金化元素、例えばチタン、ニオブ、バナジウムおよびボロンは制限され、これらのミクロ合金化元素の合計は0.02%を超えない。実際のところ、これらの元素は、上述されたように窒化アルミニウム阻害剤を形成するために必要とされる窒素を消費する窒化物形成剤であるので、これらの含有量は、不純物レベルと一致する。
【0039】
他の不純物は:As、Pb、Zn、Zr、Ca、O、P、Cr、Ni、Co、Sb、BおよびZn。
【0040】
本発明に従う方法は、液相鋼から最終の熱間圧延ストリップへの製造ワークフローを短縮する。完全な製造方法は、連続的に生じ、達成可能なストリップ厚さは1mmから80mmである。
【0041】
本発明に従う方法は、ミクロ構造の安定性、テクスチャ、熱間圧延されたコイルの長さおよび幅にわたる析出物の観点から、一次材料として優れた品質のホットバンドを提供する。さらにホットバンド焼鈍処理は、ホットバンドの優れた品質によって回避される。
【0042】
実際、本発明に従う方法は、結果として従来のスラブより5倍まで小さいスラブ厚さをもたらす。最大スラブ厚さは80mmである。
【0043】
早期のAlN析出を回避するためにスラブ表面温度が5分より長い期間、850℃未満になることを回避することが必須である。こうした析出は、これらが工程を通してより粗くなるので、AlN阻害役割能の妨げになり、製造中の冶金経路に対して有用でない。こうした場合に、析出物を溶解させ、析出元素、例えば窒素を溶液に戻すための別の熱処理が必須である。この操作は、均質化のために高温および長い保持時間を必要とし、製造性を損ない、製造コストを増大させる。これを達成するために、1つの解決策は、毎分4メートルの最小鋳造速度を選択することである。1250℃未満および1200℃未満にスラブを再加熱させることもまた本発明の重要な特徴の1つであり、これが本発明の強力なコスト削減の特徴である。
【0044】
この後、スラブは、1080℃の最小温度で20分間再加熱される。1080℃未満において、この熱間圧延工程は、AlNの析出が生じ始める950℃未満にてFRTを導く場合がある。こうした早期の析出は、ゴス粒配向および阻害力の低下のために好ましい組織の低下を生じる。阻害力は、総Zenerピン止め力であり、これは、粗大化を防止するために粒界において微細な分布析出によって発揮される。
【0045】
再加熱を使用して、スラブのあらゆる点において同じ温度を有し、潜在的に存在する析出を溶解するように、スラブの温度を均質化する。
【0046】
熱間圧延ミルにおいて、第1の低下圧延温度エントリーは、エントリーから最後のスタンドまで熱間圧延段階全体を通して熱エネルギーのインプットはないので、1060℃を超え、950℃未満のFRT降下を回避する。FRTが950℃未満である場合、テクスチャは、顕著には影響には与えないが、析出物の阻害力は弱過ぎ、1.870TのJ800目標値は、本発明の化学組成および加工処理経路を用いても到達しない。最終仕上げ圧延工程の後、10秒の最大時間枠は、ホットバンド冷却を開始する前に与えられる。この冷却は、粗い窒化アルミニウムの析出を回避することを目的とし、こうした析出は、低温にて形成されるべきである。
【0047】
理想的には、FRTは980℃を超えて、阻害力を最大化し、これはマトリックスに保持され、製造経路の下方で使用され、再結晶および阻害析出を誘発する。
【0048】
巻き取り温度は、500℃から600℃未満で生じるが、これはこの範囲外ではAlNを含有する本発明の目標析出物が適切な分布およびサイズを有していないからである。
【0049】
熱間圧延されたバンドは、この工程において得られる。冷間圧延工程の前に方向性電磁鋼の製造に典型的なホットバンドの焼鈍工程の適用を回避することは、エネルギー消費に関する利益を伴う本発明の追加の特徴である。熱間圧延工程は、以下のミクロ構造特徴を有するホットバンドを導く:
圧延方向を含有するホットバンドの厚さにわたる切断断面は、3つの等しい部分を示す:等軸フェライト粒を含む2つの外側対称性領域および小さい等軸およびより大きなパンケーキ粒の混合物を含有する厚さの3分の1を覆う内部領域。
【0050】
ホットバンドの他の特定の特徴は、2つの外側領域において剪断変形組織、例えばゼータ繊維(110)[x,y,z]ならびにCu(112)[-1,-1,1]が支配的である一方で、内部の第3の区域において、Θ(001)[x,y,z]およびa(u,v,w)[1,-1,0]繊維が最も支配的な構成成分である。
【0051】
ホットバンド品質のさらなる特殊性は、熱間圧延冷却および巻き取り工程中に形成されたAlN析出物の存在にある。上述のAlNにおいて酸可溶性アルミニウムの部分的な析出は、特別な特徴を示す:好ましい実施形態において、析出構造は、5ナノメートルから150ナノメートルの窒化アルミニウム析出物(AlN)を含有しない。この範囲の析出物は、後続の加工処理経路において相当粗粒化し、析出物が粗い場合は、これらの阻害容量が非常に劣り、J800値が低下し、1.870T未満になり得る。
【0052】
ホットバンド表面は、いずれかの酸化物層またはいずれかのタイプの二次スケールの他の残渣を除去するために、ピクリング方法またはいずれかの代替法を用いて洗浄される。
【0053】
続いて、第1の冷間圧延工程が生じる;これは、少なくとも2つの工程パスで適用される60%の最小冷間圧延比を用いて1mm未満の中間厚さを導く。より低い変形度は、活性化して、粒成長のために近づきつつある所望の再結晶および析出レベルに達成するために十分な貯蔵エネルギーを保証しない。
【0054】
第1の冷間圧延工程は、単一または複数工程の方法として本発明のいわゆる一次焼鈍または脱炭焼鈍と呼ばれる中間焼鈍が続き、一次再結晶および材料脱炭を提供する。脱炭後、炭素含有量は、好ましくは0.0025%未満である。元素、例えば炭素および炭化物は磁気ドメイン壁のためのピン止め位置である。加えて、一次焼鈍後の平均粒径は、粒がこの工程にて粗い場合に、これらが16μmを超えることを意味し、インヘリテイジ(inheritage)現象が、小さいおよび大きな粒で製造された顕著に不均質なミクロ構造を有するさらに粗い粒を導くので、16マイクロメートル未満でなければならない。コア損失はまた、一次再結晶構造に関して粒径が16μmを超えると、顕著に増大する。
【0055】
一次焼鈍とも呼ばれるこの中間焼鈍Tlは、2分の最小浸漬時間t1にわたって780℃から920℃で行われる。焼鈍のわずかな酸化雰囲気は、鋼炭素含有量が重量%で0.004%未満に低下するように合わせられた水素、窒素および水蒸気の混合物であり、一次粒径は、16マイクロメートル未満に維持される。本発明の好ましい実施において、炭素含有量は、この段階において、0.0025%未満に維持され、フェライト粒径は、10マイクロメートル未満に維持される。こうした組み合わせは、一次組織を改善し、これがさらに、本発明の化学組成および加工処理経路を用いて1.870テスラを超えるJ800に到達する最良のゴス組織を有するように冷間圧延される。
【0056】
この後、材料は、少なくとも2つの工程パスで適用された50%の最小冷間圧延比で第2の冷間圧延工程を行う。一般に、第2の冷間圧延後の厚さは、0.210.35mm未満である。
【0057】
次の工程は、隔離分離剤コーティング、例えばMgO系コーティングの堆積からなる。こうした分離剤は、第2の冷間圧延電磁鋼の表面に適用され、この後ストリップが巻き取られる。
【0058】
続いて、二次焼鈍とも呼ばれる高温焼鈍(HTA)が行われ、水素および窒素の混合物で構成された雰囲気中で行われる。400℃~1150℃への加熱割合は15℃/s未満である。一旦、1150℃の最小浸漬温度T2に到達したら、10時間の最小保持時間t2を行う。保持の後、遅い冷却が行われ、二次焼鈍時間の総量は120時間を上回る。二次焼鈍が行われたら、マトリックス中の硫黄および窒素含有量は、それぞれ0.001%未満であり、鋼の平均粒径は15mm未満である。好ましい実施形態において、二次焼鈍後、平均粒径は10ミリメートル未満である。こうした平均粒径は、この厚さ依存パラメータが粒径に対してシャープに増大するので、コア損失を最小限にする。
【0059】
二次焼鈍の後、絶縁および張力コーティングを鋼表面に適用する。これはコロイド状シリカエマルションに基づき、最適な張力を保証するとともに、鋼電気抵抗を改善する。
【0060】
本発明に従ういわゆるほぼ高方向性鋼板は、1.870テスラを超える800A/mでの誘導レベルおよび1.3W/kgでのコア電力損失を有する鋼を示す。
【0061】
以下の例は、例示を目的とし、本明細書に開示される範囲を限定するように構成されることを意図しない:
合金の化学物質を表1に示す。鋳造は、本発明に従う方法を用いて行われ、厚さ80mm未満であるスラブを製造する。加熱番号(Heat N°)は、1~10の異なる化学組成を同定する。太字で下線を引いた化学組成元素は、本発明に従う元素ではない。
【0062】
【0063】
以下の表2において、化学組成元素の関連比は、加熱番号1~10について示す:
【0064】
【0065】
固化の後、各鋳造スラブ表面は850℃未満に冷却されない。
【0066】
それぞれの加熱番号(1~10)まで行われた方法パラメータを、ここで以下の表3に示す:
・SRT(℃)は:スラブ再加熱温度である。この温度は、20分から1時間未満の時間保持される。
【0067】
・Flは、第1の厚さ低下の温度である。
【0068】
・FRT(℃)は:最後の厚さ低下を行うスラブ最終圧延温度である。
【0069】
・巻き取りT(℃)は:巻き取り温度である。
【0070】
【0071】
巻き取りの後、ホットバンド表面を洗浄し、次いで第1の冷間圧延(60%を超える。)を行う。一次再結晶焼鈍工程は、それぞれの合金(加熱番号1~10)について、水素、窒素および水蒸気の混合物で構成された雰囲気中、780から920℃未満のT1にて、2分を超える期間(t1)行われ、続いて室温まで冷却させた。すべての合金の炭素含有量は0.004%未満である。
【0072】
次いで、各鋼合金1~10について0.3mmの最終厚さが得られるように第2の冷間圧延を行う(>50%)。
【0073】
最終的に、コロイド状シリカエマルションに基づく隔離分離剤は、鋼表面に堆積させ、次いで鋼は、これ自体が既知の高温焼鈍(HTA)サイクルを行う:これは、10時間を超える期間中、600から1150℃未満を含む温度まで、毎時15℃未満の割合で加熱される。硫黄および窒素含有量は、合金すべてについて0.001%未満である。
【0074】
一次再結晶焼鈍工程および二次焼鈍後の測定された粒径を、J800およびP1.7と共に表4に示す:
・DCA Gsizeは;脱炭焼鈍、即ち一次再結晶焼鈍工程の後の粒径である。これはマイクロメートル単位で表される。
【0075】
・最終GSizeは:二次焼鈍後の最終粒径である。これはミリメートル単位で表現される。
【0076】
・J800は:テスラ単位で表され、800A/mの磁場にて測定される磁気誘導である。
【0077】
・P1.7は:W/kg単位で表され、1.7テスラ(T)の特定磁気誘導にて測定されるコア電力損失である。コア損失は、標準UNI EN 10107およびIEC 404-2に従って測定される。
【0078】
【0079】
表4から示されるように、加熱番号1~6は、本発明に従う:こうした加熱は、本発明に従う合金化元素組成物を示す。加えて、これらは本発明に従う方法パラメータを行い、1.870テスラを超える800A/mでの誘導値および1.7テスラにおいて1.3W/kg未満のコア電力損失を得た。これらは、本発明に従う方法を用いて製造されている。加熱番号1は、これが合金化元素の好ましい比を示すので、磁気誘導において最良の結果を示す。
【0080】
参照7~10は、本発明に従わない:
・参照番号7は、1.20未満のAl/Nの比を表す。結果として、J800値は、1.870テスラ未満である。
【0081】
・参照番号8は、本発明に従う範囲外の炭素およびスズ含有量を示す。加えて、Mn/SnおよびC/Nの比は本発明に従わず、最終的にF1は1060未満である。結果として、J800値は、1.870テスラ未満の最も不良品であり、コア損失は、1.3W/kgの受容される最大値を大きく超える。
【0082】
・参照番号9は、本発明に従わないスズ含有量を示し、Mn/Snの比は40を超える。結果として、J800値は1.870テスラ未満である。
【0083】
・参照番号10は、本発明に従う化学組成を示すが、Mn/Sn比は、40の最大限度を超え、FRTはこの限度未満であり、結果として誘導値J800は1.870テスラ未満である。
【0084】
本発明に従う方向性FeSi鋼板は、有利に、例えば1.870Tから1.90T未満のJ800要件を有する変圧器の製造のために使用できる。