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特許7059063洗浄器、水素製造装置及び電力供給システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】洗浄器、水素製造装置及び電力供給システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0656 20160101AFI20220418BHJP
   C25B 15/08 20060101ALI20220418BHJP
   C01B 3/52 20060101ALI20220418BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20220418BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220418BHJP
   B01D 47/00 20060101ALI20220418BHJP
   B01D 47/14 20060101ALI20220418BHJP
   H01M 8/0662 20160101ALI20220418BHJP
【FI】
H01M8/0656
C25B15/08 302
C01B3/52
C25B1/04
C25B9/00 A
B01D47/00 D
B01D47/14
H01M8/0662
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018056681
(22)【出願日】2018-03-23
(65)【公開番号】P2019169366
(43)【公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】山辺 純成
(72)【発明者】
【氏名】村山 博俊
(72)【発明者】
【氏名】原野 朋美
(72)【発明者】
【氏名】土門 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】大原 正浩
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-223590(JP,A)
【文献】特開昭62-193601(JP,A)
【文献】特開2000-237537(JP,A)
【文献】特開2007-131514(JP,A)
【文献】特開2005-11563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
B01D 47/00,47/14
C01B 3/52
C25B 1/04,9/00,15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶液を電気分解して得られた水素ガスから、前記水溶液の溶質成分を除去する洗浄器であって、
前記水素ガスが流入し、前記水素ガスが排出される筐体と、
前記筐体内に配置され、貫通孔が形成された仕切板と、
前記筐体内の前記水素ガスに、前記仕切板を介して、冷却した洗浄液を液流として供給する洗浄液の供給機構と、
前記仕切板の中心に取り付けられ、前記仕切板の下面と連通し、前記仕切板から上方に突出したパイプと、
を備え
前記仕切板の前記パイプが取り付けられていない部分には前記貫通孔が複数形成されており、
前記供給機構は、当該供給機構から供給される前記液流が前記仕切板上で渦を形成するような位置に設定される洗浄器。
【請求項2】
前記洗浄液の供給機構は、前記筐体から回収した洗浄液を、前記仕切板を介して、冷却した液流として供給する循環機構を有した請求項1記載の洗浄器。
【請求項3】
水溶液を電気分解して得られた水素ガスから前記水溶液の溶質成分を除去する洗浄器であって、
下部から前記水素ガスが流入し、上部から前記水素ガスが排出される筐体と、
前記筐体内に配置され、貫通孔が形成された仕切板と、
前記筐体の下部から回収した洗浄液を前記仕切板上に液流として供給する循環器と、
前記仕切板の中心に取り付けられ、前記仕切板の下面と連通し、前記仕切板から上方に突出したパイプと、
を備え
前記仕切板の前記パイプが取り付けられていない部分には前記貫通孔が複数形成されており、
前記循環器は、当該循環器から供給される液流が前記仕切板上で渦を形成するような位置に設定される洗浄器。
【請求項4】
前記筐体の形状は円筒状であり、
前記仕切板の形状は円板状である請求項1~3のいずれか1つに記載の洗浄器。
【請求項5】
前記パイプは1本のみ設けられ、
前記貫通孔は同心円状に配列された請求項1~4のいずれか1つに記載の洗浄器。
【請求項6】
前記筐体内における前記仕切板よりも前記水素ガスが流入する方の位置に配置された充填材をさらに備えた請求項1~5のいずれか1つに記載の洗浄器。
【請求項7】
前記水溶液はアルカリ性水溶液である請求項1~6のいずれか1つに記載の洗浄器。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1つに記載の洗浄器と、
加熱された前記水溶液を電気分解し、生成した水素ガスを前記洗浄器に供給する電解槽と、
前記洗浄器から流出した水素ガスを圧縮する圧縮機と、
を備えた水素製造装置。
【請求項9】
前記洗浄器に直上に設けられたフィルタをさらに備えた請求項8記載の水素製造装置。
【請求項10】
前記電解槽から前記洗浄器まで前記水素ガスを流通させる管の周囲に設けられた保温材をさらに備えた請求項8または9に記載の水素製造装置。
【請求項11】
請求項8~10のいずれか1つに記載の水素製造装置と、
前記水素製造装置によって製造された水素ガスを貯蔵するタンクと、
前記タンクに貯蔵された水素ガスから電力を生成する電池と、
を備えた電力供給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、洗浄器、水素製造装置及び電力供給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生可能エネルギーを利用した水素の製造が試みられている。再生可能エネルギーとは、水力、風力及び太陽光等の自然界によって永続的に補充されるエネルギーをいう。再生可能エネルギーを利用した発電施設、例えば、河川やダムなどの水源に併設された水力発電機、山間部に設けられた風力発電機、及び砂漠に設けられた太陽電池パネル等の近傍に水素製造装置を設置し、これらの発電施設から供給される電力を用いて水を電気分解することにより水素を製造し、貯蔵する。そして、この水素を燃料電池に供給することにより、電力を生成する。又は、この水素を水素自動車若しくは燃料電池自動車に供給する。
【0003】
このようなシステムを確立することにより、既存の電力系統が到達していない僻地に発電施設を建設し、再生可能エネルギーを有効に収集することができる。また、再生可能エネルギーの出力は不安定であることが多いが、電力を一旦水素に変換することにより、貯蔵が容易になり、発電時と消費時を一致させる必要がなくなる。
【0004】
水素の製造方法としては、アルカリ性水溶液を用いた電気分解法が比較的コストが低く一般的である。アルカリ性水溶液を電気分解して得られた水素ガスには、アルカリ性水溶液の微小な水滴が含まれているが、これが下流側の機器を損傷するため、除去する必要がある。アルカリ性水溶液の水滴を除去する方法としては、洗浄液を水素ガスに接触させる方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-001117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
実施形態の目的は、電気分解に用いる水溶液の溶質成分を効果的に除去する洗浄器、水素製造装置及び電力供給システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る洗浄器は、電気分解に用いる水溶液の一例をアルカリ性水溶液として、水素を製造する。実施形態に係る洗浄器は、水溶液を電気分解して得られた水素ガスから、前記水溶液の溶質成分を除去する洗浄器である。前記洗浄器は、前記水素ガスが流入し、前記水素ガスが排出される筐体と、前記筐体内に配置され、貫通孔が形成された仕切板と、前記筐体内の前記水素ガスに、前記仕切板を介して、冷却した洗浄液を液流として供給する洗浄液の供給機構と、前記仕切板の中心に取り付けられ、前記仕切板の下面と連通し、前記仕切板から上方に突出したパイプと、を備え、前記仕切板の前記パイプが取り付けられていない部分には前記貫通孔が複数形成されており、前記供給機構は、当該供給機構から供給される前記液流が前記仕切板上で渦を形成するような位置に設定される。
【0008】
実施形態に係る水素製造装置は、前記洗浄器と、加熱された前記水溶液を電気分解し、生成した水素ガスを前記洗浄器に供給する電解槽と、前記洗浄器から流出した水素ガスを圧縮する圧縮機と、を備える。
【0009】
実施形態に係る電力供給システムは、前記水素製造装置と、前記水素製造装置によって製造された水素ガスを貯蔵するタンクと、前記タンクに貯蔵された水素ガスから電力を生成する電池と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る電力/水素供給システムを示すブロック図である。
図2】実施形態に係る水素製造装置を示すブロック図である。
図3】実施形態に係る洗浄塔を示す斜視図である。
図4】実施形態に係る洗浄塔における下段の仕切板を示す上面図である。
図5】(a)は実施形態に係る洗浄塔における上段の仕切板及びパイプを示す上面図であり、(b)はその側面図である。
図6】(a)は、実施形態に係る水素製造装置において、洗浄塔内に進入する前の水素ガスの状態を示す模式図であり、(b)は、洗浄塔の筐体の中間部内において、水素ガスと水滴が分離される様子を示す模式図である。
図7】(a)~(d)は、比較例における水素ガスの状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態について説明する。
先ず、本実施形態に係る電力/水素供給システムについて説明する。
図1は、本実施形態に係る電力/水素供給システムを示すブロック図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態に係る電力/水素供給システム1は、再生可能エネルギーを利用した発電施設101の近傍に設置されている。発電施設101は、例えば、河川やダム等の水源に併設された水力発電施設、山頂に設置された風力発電施設、又は、砂漠に設置された太陽光発電施設等である。発電施設101は、例えば僻地に設置されている。本明細書において「僻地」とは、既存の電力系統に接続されていない土地をいう。又は、発電施設101は、既存の電力系統が接続されている土地に設置されていてもよい。図1には、発電施設101の他に、既存の電力系統102が存在する場合を示している。
【0013】
電力/水素供給システム1においては、蓄電池11、水素製造装置10、タンク12及び燃料電池13が設けられている。蓄電池11は、発電施設101及び既存の電力系統102のうち、少なくとも一方から電力が供給され、水素製造装置10に対して電力を出力する。水素製造装置10は、後述するように、アルカリ電解方式により水を電気分解することにより、水素ガスを製造する。タンク12は、水素製造装置10が製造した水素ガスを貯蔵する。燃料電池13は、タンク12に貯蔵された水素ガスを用いて発電し、電力を出力する。電力/水素供給システム1は、タンク12に貯蔵された水素ガスを水素ローリー車若しくはパイプライン等を介して出荷するか、又は、燃料電池13が生成した電力を出力する。
【0014】
次に、本実施形態に係る水素製造装置について説明する。
図2は、本実施形態に係る水素製造装置を示すブロック図である。
図3は、本実施形態に係る洗浄塔を示す斜視図である。
図4は、本実施形態に係る洗浄塔における下段の仕切板を示す上面図である。
図5(a)は本実施形態に係る洗浄塔における上段の仕切板及びパイプを示す上面図であり、(b)はその側面図である。
【0015】
図2に示すように、本実施形態に係る水素製造装置10においては、電解槽21、電解液タンク22、前フィルタ23、洗浄器の一例としての洗浄塔24、後フィルタ25及び圧縮機26が設けられている。
【0016】
電解槽21は、電解液であるアルカリ性水溶液A、例えば、水酸化カリウム水溶液(KOH)又は水酸化ナトリウム水溶液(NaOH)を保持している。アルカリ性水溶液Aの濃度は20質量%以上、例えば、25質量%である。電解槽21は、アルカリ性水溶液Aを70℃以上100℃未満、例えば80℃の温度に保持している。電解液タンク22は電解槽21の下方に設置されている。電解液タンク22には、アルカリ性水溶液Aが保持されている。
【0017】
電解槽21は、蓄電池11(図1参照)から直流電力が供給されると、アルカリ性水溶液Aを電気分解し、水素ガス(H)及び酸素ガス(O)を生成する。電解槽21の内部は、隔膜21aによって複数のセルに区画されている。隔膜21aは、水は通過させるが気体はほとんど通過させない膜であり、例えば、PET(PolyEthylene Terephthalate)からなる高分子フィルムの両面に高分子不織布が貼り合わされた膜である。各セル内には、陰極電極21b又は陽極電極21cが配置されており、隔膜21aを介して対向している。電解槽21は密閉されており、陰極電極21bが配置されたセルの天井部分には、水素管51の一端が接続されており、陽極電極21cが配置されたセルの天井部分には、酸素管52の一端が接続されている。
【0018】
水素管51は、電解液タンク22及び前フィルタ23の入側に接続されている。酸素管52は、電解液タンク22及び水素製造装置10の外部に連通している。前フィルタ23においては、例えば網状のフィルタが複数枚重ねられている。各フィルタの網目のサイズは、例えば、1~10mm(ミリメートル)である。前フィルタ23の出側は、水素管53の一端に接続されている。水素管53の他端は、洗浄塔24に接続されている。
【0019】
電解槽21から洗浄塔24までの間には、水素ガスを冷却する冷却手段は設けられていない。電解槽21から洗浄塔24までに設けられた水素管51及び53の周囲には、保温材59が巻き付けられている。なお、電解槽21から洗浄塔24までの間には、水素ガスを加熱するヒーターが設けられていてもよい。
【0020】
図3に示すように、洗浄塔24においては、例えば略円筒形の筐体30が設けられている。筐体30内には、例えば円板形の仕切板31及び32が設けられている。仕切板32は仕切板31よりも上方に配置されている。仕切板31及び32により、筐体30の内部は、下部30a、中間部30b及び上部30cの3つのスペースに区画されている。筐体30内における仕切板31よりも下方の空間、すなわち、下部30a内には、水素管53の他端が引き込まれている。
【0021】
図4に示すように、仕切板31には、多数の貫通孔31aが形成されている。貫通孔31aは、例えば同心円状に配列されている。
【0022】
図5(a)及び(b)に示すように、仕切板32の中心には、仕切板32を貫通して上方に引き出されたパイプ33が取り付けられている。仕切板32におけるパイプ33が取り付けられていない部分には、貫通孔32aが複数形成されている。貫通孔32aは、例えば同心円状に配列されている。貫通孔32aの数は、貫通孔31aの数よりも少ない。
【0023】
図3に示すように、筐体30内における仕切板31と仕切板32との間の空間、すなわち、中間部30b内には、多数の充填材40が収納されている。充填材40は、仕切板32の貫通孔32aを介して落下してくる洗浄液Cをランダムに分岐させて流通させるための立体構成物である。充填材40は、耐アルカリ性の材料により形成されている。充填材40のサイズは、仕切板31の貫通孔31aを通過しないようなサイズであり、内部に大きな隙間ができないように、例えば、フレームが組み合わされて構成されている。一例では、充填材40として、高性能不規則充填物「プラスチック製CMR」を用いることができる。なお、図を簡略化するために、図3においては、充填材40を単純な円で示しているが、実際には、より複雑な形状である。
【0024】
洗浄塔24には、筐体30の外部に、ポンプ35及び冷却器36が設けられている。ポンプ35及び冷却器36は、洗浄液管54によって連結されている。洗浄液管54の一端は、下部30a内に連通されており、他端は、筐体30内における仕切板32よりも上方の空間、すなわち、上部30c内に連通されている。ポンプ35、冷却器36及び洗浄液管54により、筐体30の下部30aと上部30cとの間で洗浄液Cを循環させる循環器37が構成されている。
【0025】
循環器37は、筐体30の下部30aから回収した洗浄液Cを、洗浄液管54の他端から、仕切板32上に液流Fとして供給する。仕切板32と洗浄液管54と位置関係は、洗浄液管54から吐出された液流Fが、仕切板32上に渦を形成するように設定されている。筐体30及び循環器37においては、例えば、60リットルの洗浄液Cが循環する。
【0026】
後フィルタ25は洗浄塔24の直上に設置されている。後フィルタ25は、筐体30の上部30c内と連通されている。後フィルタ25においては、網状のフィルタが、複数枚、例えば21枚重ねられている。各フィルタの網目のサイズは、例えば、1~10mmである。後フィルタ25の出側は、水素管55の一端に接続されている。
【0027】
図2に示すように、水素管55の他端は圧縮機26に接続されている。圧縮機26は、水素管55を介して後フィルタ25から送られてきた水素ガスを例えば2気圧以上に圧縮する。圧縮機26の出側には、水素管56の一端が接続されている。水素管56の他端は、タンク12(図1参照)に接続されている。
【0028】
次に、本実施形態に係る電力/水素供給システム1の動作について説明する。電力/水素供給システム1の動作は水素製造装置10の動作を含み、水素製造装置10の動作は洗浄塔24の動作を含む。
【0029】
初期状態においては、図2に示すように、電解槽21内及び電解液タンク22内に、アルカリ性水溶液Aが保持されている。アルカリ性水溶液Aは例えば濃度が25質量%、温度が80℃の水酸化カリウム水溶液である。また、洗浄塔24内には、洗浄液Cが保持されている。洗浄塔24においては、ポンプ35及び冷却器36を稼働させることにより、洗浄液管54を介して、筐体30の下部30aから回収した洗浄液Cを冷却し、上部30c内に液流Fとして供給する。洗浄液Cは、初期状態においては純水である。
【0030】
図1に示すように、発電施設101又は電力系統102から電力が蓄電池11に供給される。蓄電池11は水素製造装置10の電解槽21(図2参照)に対して直流電力を出力する。
【0031】
図2に示すように、蓄電池11(図1参照)から電解槽21に直流電力が供給されると、電解槽21の陰極電極21bと陽極電極21cとの間に電流が流れ、アルカリ性水溶液A中の水分が電気分解されて、陰極電極21b側に水素ガスが発生すると共に、陽極電極21c側に酸素ガスが発生する。この結果、電解槽21内のアルカリ性水溶液A中の水分が消費され、陰極電極21bを含むセルの上部に水素ガスが溜まり、陽極電極21cを含むセルの上部に酸素ガスが溜まる。
【0032】
そして、電解槽21における陰極電極21bを含むセルの上部から、水素ガス及びアルカリ性水溶液Aが押し出され、水素管51内に流入し、重力により水素ガスとアルカリ性水溶液Aとに分離され、水素ガスは前フィルタ23に送られ、アルカリ性水溶液Aは電解液タンク22に落ちる。一方、電解槽21における陽極電極21cを含むセルの上部から、酸素ガス及びアルカリ性水溶液Aが押し出され、重力により酸素ガスとアルカリ性水溶液Aとに分離され、酸素ガスは水素製造装置10の外部に排出され、アルカリ性水溶液Aは電解液タンク22に落ちる。電解液タンク22に落ちたアルカリ性水溶液Aは、ポンプ(図示せず)により、電解槽21に再供給される。
【0033】
前フィルタ23に流入する水素ガスには、水素分子の他に、水蒸気及び水滴が含まれている。水素ガスの温度は例えば70~80℃である。水蒸気は気体であるため不純物は含まれていないが、水滴は液体のアルカリ性水溶液Aからなる。アルカリ性水溶液Aが圧縮機26に流入すると、圧縮機26の内部機構に損傷を与えるため、水滴は圧縮機26の手前でできるだけ除去する必要がある。そこで、水素製造装置10においては、前フィルタ23及び洗浄塔24を設け、水素ガスからアルカリ性水溶液Aの水滴を除去する。
【0034】
前フィルタ23は、水素ガスと共に流入してくる水滴のうち、比較的大きなもの、例えば、直径が2μm(マイクロメートル)以上のものを捕獲し、電解液タンク22に落下させる。
【0035】
前フィルタ23を通過した水素ガスは、水素管53を介して、洗浄塔24における筐体30の下部30a内に流入する。電解槽21から洗浄塔24までの水素ガスの経路には、冷却手段は設けられていないため、水素ガスの温度は例えば60~70℃であり、水滴と多量の水蒸気を含んでいる。水素ガスは、下部30a内に溜められた洗浄液C内でバブリングされた後、仕切板31の貫通孔31a内を通過して、中間部30b内に進入する。中間部30b内に進入した水素ガスは、中間部30b内を上昇する。
【0036】
一方、循環器37は、ポンプ35によって筐体30の下部30a内から洗浄液Cを回収し、冷却器36によって洗浄液Cを冷却した後、洗浄液管54を介して、上部30c内における仕切板32上に液流Fとして吐出する。液流Fは、仕切板32上において渦を形成しながら、貫通孔32aを介して中間部30b内に落下する。中間部30b内に落下した洗浄液Cは、充填材40によって落下を妨害され、落下速度を抑制されつつランダムに分岐し、中間部30b内を下降する。
【0037】
これにより、中間部30b内において、上昇する水素ガスと下降する洗浄液Cとの間で熱交換が行われると共に、水素ガスに含まれるアルカリ性水溶液Aの水滴及び水蒸気が洗浄液Cによって除去される。このときのメカニズムについては後述する。水滴は洗浄液C内に取り込まれ、洗浄液Cは徐々にアルカリ性になる。洗浄液CのpHは14程度まで到達する。
【0038】
そして、中間部30b内において水滴の大部分及び水蒸気の大部分が除去された水素ガスは、主にパイプ33内を通過して上部30cに進入し、上部30cから排出される。このようにして洗浄塔24から排出された水素ガスの温度は、例えば20~25℃程度である。また、この水素ガスには、若干量の水滴及び水蒸気が不可避的に含まれるが、水滴のpHは9程度であり、洗浄液CのpHよりも低い。
【0039】
洗浄塔24から排出された水素ガスは、後フィルタ25に到達する。後フィルタ25は、水素ガスと共に流入してくる水滴のうち、比較的大きなもの、例えば、直径が2μm以上のものを捕獲し、筐体30内に落下させる。後フィルタ25から排出された水素ガスは、水素管55を介して圧縮機26に送られる。圧縮機26は水素ガスを例えば2気圧以上の圧力に圧縮し、タンク12(図1参照)に貯蔵する。
【0040】
図1に示すように、タンク12に貯蔵された水素ガスは、適宜、水素ローリー車若しくはパイプライン等によって出荷されるか、又は、電力が必要なタイミングに燃料電池13に供給される。燃料電池13は水素ガスを用いて発電し、電力を出力する。このようにして、電力/水素供給システム1は、発電施設101又は電力系統102から供給される電力に基づいて、任意のタイミングで水素ガス又は電力を生成する。
【0041】
次に、洗浄塔24内において、水素ガスから水滴が除去されるメカニズムについて説明する。このメカニズムは、以下のように推定されている。
図6(a)は、本実施形態に係る水素製造装置において、洗浄塔内に進入する前の水素ガスの状態を示す模式図であり、(b)は、洗浄塔の筐体の中間部内において、水素ガスと水滴が分離される様子を示す模式図である。
【0042】
図6(a)に示すように、洗浄塔内に進入する前の水素ガスには、水素分子H、アルカリ性水溶液Aからなる水滴L及び水蒸気Sが含まれている。この水素ガスの温度は例えば60~70℃と高く、多量の水蒸気Sが含有されている。
【0043】
図3及び図6(b)に示すように、筐体30の中間部30b内に、冷却器36によって冷却された洗浄液Cが供給されると、この洗浄液Cによって水素ガスが冷却される。すると、水蒸気Sが過飽和となり、水滴Lを核として凝縮し、大きな水滴Lに成長する。水滴Lは、水素ガス中に浮遊していられなくなり、落下する。これにより、水素ガス中から水滴Lが除去される。また、水滴Lの一部は、洗浄液Cの水流に巻き込まれる。これによっても、水素ガス中から水滴Lが除去される。一方、洗浄液Cは、仕切板32上に液流Fとして吐出されるため、洗浄液Cが微小な水滴となって洗浄塔24から排出されることは少ない。
【0044】
次に、本実施形態の効果について説明する。
本実施形態においては、洗浄塔24内において、洗浄液Cによって水素ガスを冷却し、水蒸気Sを水滴Lの周囲に凝縮させることにより、水滴Lを大きな水滴Lに成長させ、落下させている。このように、本実施形態においては、洗浄液Cを水素ガスとの熱交換のために用いており、水滴Lの溶質を洗浄液Cに拡散させて除去しているわけではない。このため、洗浄液Cは必ずしも純水である必要がなく、アルカリ性の水溶液を用いることができる。例えば、洗浄液CのpHを14以下としても、洗浄塔24から排出される水素ガス中の水滴のpHは9以下とすることができる。
【0045】
また、洗浄液Cをアルカリ性とすることにより、凝固点降下が生じ、洗浄液Cが凍結しにくくなる。洗浄液Cが凍結しなければ、洗浄液Cの凍結に起因して洗浄液管54が破裂することがない。従って、水素製造装置10を含む電力/水素供給システム1を寒冷地に設置することが容易になる。
【0046】
更に、水素製造装置10の稼働開始時には、洗浄液Cとして純水を補給したとしても、水素製造装置10の稼働に伴ってアルカリ性水溶液Aが混入していくため、洗浄液Cはアルカリ性になっていく。仮に、洗浄液Cの液性を中性付近で維持しようとすると、洗浄液Cを頻繁に純水に入れ替えなくてはならず、大量の純水が必要となる。この結果、水素の製造コストが増加する。また、電力/水素供給システム1を僻地に設置すると、純水の搬入及び使用済みの洗浄液Cの廃棄のコストも高いため、水素の製造コストがより増加する。これに対して、本実施形態によれば、洗浄液Cを中性に保つ必要がないため、純水の使用量が少なく、コストが低い。
【0047】
また、本実施形態においては、電解槽21と洗浄塔24との間に冷却手段を設けておらず、水素管51及び53の周囲に保温材59を設けている。このため、水素ガスを高温のまま洗浄塔24内に流入させることができる。これにより、水素ガスは、多量の水蒸気を含んだまま、筐体30内に導入されるため、筐体30内で水素ガスを冷却することによる水蒸気の凝縮効果が大きい。
【0048】
更に、本実施形態においては、洗浄液Cを仕切板32上に液流Fとして供給しているため、洗浄液Cから飛沫が生じにくく、洗浄液C自体が浮遊水滴となることを抑制できる。また、仕切板32に上方に突出したパイプ33が取り付けられているため、水素ガスは主としてパイプ33内を通過して、中間部30bから上部30cに移動する。このため、この水素ガスが洗浄液Cと干渉することがなく、洗浄液Cの飛沫が生じにくい。
【0049】
更にまた、筐体30の中間部30b内に充填材40を設けているため、洗浄液Cの流れが細かく分岐し、水素ガスとの接触面積が増える。また、充填材40によって洗浄液Cの落下速度が緩和されるため、洗浄液Cの飛沫が生じにくい。
【0050】
更にまた、前フィルタ23に目の粗いフィルタを設けることにより、圧力をほとんど損失することなく、電解槽21から上がってきた大きな水滴を捕獲し、電解液タンク22に戻すことができる。同様に、後フィルタ25に目の粗いフィルタを設けることにより、圧力をほとんど損失することなく、洗浄塔24から後フィルタ25に上がってきた大きな水滴を捕獲し、洗浄塔24に戻すことができる。これにより、水滴をより効果的に除去することができる。
【0051】
上述の本実施形態におけるアルカリ性水溶液Aを除去する効果をより明確にするために、比較例について説明する。
図7(a)~(d)は、比較例における水素ガスの状態を示す模式図である。
【0052】
図7(a)に示すように、洗浄塔内において、霧吹61により、洗浄液Cを霧状にして水素ガスに吹き付けることが考えられる。これにより、洗浄液Cの一部は、水滴Lと合体して、大きな水滴Lになり、落下する。しかしながら、この場合は、霧状の洗浄液Cの他の一部は、水素ガスと共に洗浄塔から排出される。従って、洗浄液Cが純水であればよいが、アルカリ性であると、水素ガス中のアルカリ成分が十分に除去されない。上述の如く、洗浄液Cを純水に保つには、大量の純水を供給し続ける必要がある。
【0053】
図7(b)に示すように、洗浄塔内において、スクラバ62により、洗浄液Cと水素ガスとを撹拌して、水滴Lの溶質を濃度平衡により洗浄液Cに移動させて除去することが考えられる。しかしながら、水滴Lの大部分を洗浄液Cに接触させるためには、強力なスクラバ62が必要になり、コストが増加する。また、洗浄液Cの飛沫が水滴として水素ガスに混合されるため、洗浄液Cを純水に保つ必要があり、大量の純水が必要となる。
【0054】
図7(c)に示すように、前フィルタ23及び後フィルタ25において、目が細かいフィルタ63を使用することが考えられる。これにより、サイズの小さい水滴Lをフィルタによって物理的に除去することができる。しかしながら、この場合は、フィルタによる水素ガスの圧力損失が大きくなるため、強力な圧縮機が必要となる。この結果、設備コストが増加すると共に、圧縮機を作動させるために大電力が必要となり、運転コストも増加する。
【0055】
図7(d)に示すように、前フィルタ23と洗浄塔24との間の水素管53を冷却し、水素ガス中の水分を結露させて除去することも考えられる。しかしながら、この場合は、水素管53の内面において結露するのは水蒸気Sであり、水蒸気Sは純水である。一方、アルカリ性水溶液Aからなる水滴Lは、水素管53の内面に偶然接触したもの以外は、水素ガスの気流に乗って水素管53を通過してしまう。このため、溶質を効率よく除去することが困難である。
【0056】
これに対して、本実施形態によれば、洗浄液Cは水素ガスの冷却用に用いるため、成分は特に限定されず、アルカリ性であってもよい。また、前フィルタ23及び後フィルタ25におけるフィルタの目が粗く、圧力損失が少ないため、コンパクトな圧縮機26を用いることができる。更に、水滴Lを核として水蒸気を凝縮させているため、水滴Lを直接的なターゲットとして除去することができる。
【0057】
このように、本実施形態によれば、洗浄液Cが凍結しにくく、水素ガスの製造コストが低い電力/水素供給システム1を実現することができる。このため、発電施設101を再生可能エネルギーを取得できる土地に広く展開することが容易になる。この結果、社会全体の電力需要に占める再生可能エネルギーの割合を増加させることが可能となる。また、既存の電力系統102から電力の供給を受ける場合でも、電力コストが低い時間帯に水素ガスを製造しておき、電力需要が多い時間帯に発電することができる。
【0058】
再生可能エネルギーを用いた発電施設101は、環境負荷及び持続可能性の点では優れているが、出力が不安定であることが多い。例えば、風力発電施設であれば風に依存し、太陽光発電施設であれば日照に依存する。本実施形態によれば、発電施設101によって発電された電力を電力/水素供給システム1が水素ガスに変換して貯蔵することにより、任意のタイミングで水素ガス又は電力として取り出すことができる。
【0059】
なお、本実施形態に係る水素製造装置10においては、洗浄塔24及び後フィルタ25からなる組を複数設け、直列に配列してもよい。これにより、複数の洗浄塔24の間で冷却温度に差をつけて、水滴の回収付加を分散させてもよい。
【0060】
以上説明した実施形態によれば、電気分解に用いる水溶液の溶質成分を効果的に除去する洗浄器、水素製造装置及び電力供給システムを実現することができる。本実施形態では、一例としてアルカリ性水溶液の溶質成分を効果的に除去する洗浄器、水素製造装置及び電力供給システムを実現することができる。
【0061】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明及びその等価物の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
1:電力/水素供給システム
10:水素製造装置
11:蓄電池
12:タンク
13:燃料電池
21:電解槽
21a:隔膜
21b:陰極電極
21c:陽極電極
22:電解液タンク
23:前フィルタ
24:洗浄塔
25:後フィルタ
26:圧縮機
30:筐体
30a:下部
30b:中間部
30c:上部
31:仕切板
31a:貫通孔
32:仕切板
32a:貫通孔
33:パイプ
35:ポンプ
36:冷却器
37:循環器
40:充填材
51、53、55、56:水素管
52:酸素管
54:洗浄液管
59:保温材
61:霧吹
62:スクラバ
63:フィルタ
101:発電施設
102:電力系統
A:アルカリ性水溶液
C:洗浄液
F:液流
H:水素分子
:水滴
:水滴
:水滴
S:水蒸気
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7