(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】磁気識別装置
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20220418BHJP
G07D 7/04 20160101ALI20220418BHJP
G07D 7/00 20160101ALI20220418BHJP
【FI】
G01R33/02 Q
G01R33/02 D
G07D7/04
G07D7/00 D
(21)【出願番号】P 2018074413
(22)【出願日】2018-04-09
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000104652
【氏名又は名称】キヤノン電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 純喜
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 匠
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-017696(JP,A)
【文献】特開2015-200523(JP,A)
【文献】国際公開第98/038792(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第104282072(CN,A)
【文献】国際公開第2013/121870(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/014546(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/083457(WO,A1)
【文献】特開2008-249369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
G07D 7/04
G07D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板に対し間隔をあけて配置された複数の磁石
および前記磁石に取り付けられた保持部材によって構成される磁石ユニットと、
前記磁石同士の間に配置され、
前記回路基板上に
実装される複数の磁気検出素子と、
前記磁石ユニットおよび前記回路基板を取り付けるガイド部材と
を備え、
前記ガイド部材は、
前記磁石ユニットに設けられた当接面
と当接
し、前記磁石ユニットの移動または回動を制限する制限部を有
し、
前記制限部は、前記当接面に対して垂直に第1の抗力を及ぼすことで、前記磁石ユニットの前記当接面に垂直な方向への移動または回動を制限する第1の制限部と、
前記磁石ユニットに対して前記第1の抗力とは垂直な第2の抗力を及ぼすことで、前記磁石ユニットの移動を制限する第2の制限部とを有し、
前記磁石ユニットにおける前記磁石側では、前記制限部によって前記第1の抗力および前記第2の抗力の両方に垂直な前記回路基板の法線方向における前記磁気検出素子に対する相対位置が調整可能に規制されているとともに、
前記磁石ユニットにおける前記磁石とは反対側には前記第2の制限部が設けられておらず、前記回路基板の法線方向に対し傾くように前記第1の制限部に沿って前記磁石ユニットが回動させられて、前記磁石の磁極の傾きが調整されている
ことを特徴とする磁気識別装置。
【請求項2】
前記磁石ユニットは、前記当接面と、前記
回路基板とが、概ね直交するように配置された
ことを特徴とする請求項1に記載の磁気識別装置。
【請求項3】
前記磁石ユニットは、
前記当接面の法線方向を軸とし、
前記磁石の磁化方向の中点を中心に当接面内で所定の角度回転させられた状態で、前記回路基板
または前記ガイド部材に固定された
ことを特徴とする請求項2に記載の磁気識別装置。
【請求項4】
前記磁石ユニットは、前記
回路基板と垂直な方向に磁化方向を有する
ことを特徴とする請求項3に記載の磁気識別装置。
【請求項5】
前記磁石ユニットは、隣り合う複数の磁石の磁化方向が、互いに反平行である
ことを特徴とする請求項4に記載の磁気識別装置。
【請求項6】
前記第2の制限部は、前記磁石ユニットを挟持するように対向して設けられた第1の支持部と第2の支持部とにより構成される
ことを特徴とする請求項
1から5のいずれか一項に記載の磁気識別装置。
【請求項7】
前記ガイド部材は、
前記第1の制限部が設けられる第1部材と、
前記第2の制限部が設けられる第2部材とで構成され、
前記第2部材は、前記第1部材とは別体に設けられている
ことを特徴とする請求項
5または
6に記載の磁気識別装置。
【請求項8】
前記ガイド部材は、
板状の材料を曲げて形成された板状部材である
ことを特徴とする請求項
1から7のいずれか一項に記載の磁気識別装置。
【請求項9】
前記ガイド部材は、
前記板状部材で前記第1の制限部をなしている
ことを特徴とする請求項
8に記載の磁気識別装置。
【請求項10】
請求項1から
9のいずれか一項に記載の磁気識別装置を備えた
紙葉類識別装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石を近傍に配した磁気検出素子を用いて、磁性体を含んだ磁気インクの印刷物等媒体に対して種類判別や真贋判定を行う磁気識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の紙幣の識別方法としては、紙幣に印刷された磁気インクを磁気センサ内の磁石等の磁界印加手段により磁化して、周囲への磁場の変化を磁気検出素子により検知し、磁気パターンを認識することで、紙幣の種類判別や真贋判定を行っていた。このような従来の紙幣の識別方法においては、光学ラインセンサから読み取った光学パターンと、磁気センサから読み取った磁気パターンと、を照合する上で、磁気センサの出力がベースラインから一方向に振れるような波形となることが望ましい。
【0003】
このような磁界検出を行う装置として例えば特許文献1が開示されている。特許文献1では、複数の磁石を磁極逆転して交互に並べて配置し、隣り合う磁石の間には、隣り合う各磁石でそれぞれ形成される磁場変化と、隣り合う磁石間で形成される磁場変化とをそれぞれ受ける磁気検出素子を配置し、多チャンネル化に適応し、且つ、不感帯のない磁気識別センサが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-200523号公報
【文献】特開2018-017696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の磁気識別センサの求められる基本性能(感度・分解能・出力ムラ)は、磁気検出素子と磁石の相対位置関係に強く依存する。高い感度・高い分解能・ムラの無い出力を実現するためには、磁気検出素子と磁石の相対位置関係ができるだけ精密であることが求められる。特許文献2では、この要求に対応するために、磁気検出素子と磁石の相対位置関係を精密に定める方法について開示している。しかし、本構成では各部品の寸法精度だけでなく、磁石の着磁の精度も求められることが想定される。つまり磁石の結晶粒の配向などにより、必ずしも形状と磁化方向が完全に一致せず各方向に僅かな磁化方向の傾きが生じ、この磁化方向の傾きは一律とならないため、磁石を所定の位置に調整する際にその調整の難易度が著しく上がってしまう。
【0006】
従って、磁気識別装置の基本性能を容易に引き出すためには、この磁石の形状と磁化方向の傾きを吸収できる磁気検出素子と磁石の相対位置関係を定める構成が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を鑑み、
回路基板に対し間隔をあけて配置された複数の磁石および磁石に取り付けられた保持部材によって構成される磁石ユニットと、磁石同士の間に配置され、回路基板上に実装される複数の磁気検出素子と、磁石ユニットおよび回路基板を取り付けるガイド部材とを備え、ガイド部材は、磁石ユニットに設けられた当接面と当接し、磁石ユニットの移動または回動を制限する制限部を有し、制限部は、当接面に対して垂直に第1の抗力を及ぼすことで、磁石ユニットの当接面に垂直な方向への移動または回動を制限する第1の制限部と、磁石ユニットに対して第1の抗力とは垂直な第2の抗力を及ぼすことで、磁石ユニットの移動を制限する第2の制限部とを有し、磁石ユニットにおける磁石側では、制限部によって第1の抗力および第2の抗力の両方に垂直な回路基板の法線方向における磁気検出素子に対する相対位置が調整可能に規制されているとともに、磁石ユニットにおける磁石とは反対側には第2の制限部が設けられておらず、回路基板の法線方向に対し傾くように第1の制限部に沿って磁石ユニットが回動させられて、磁石の磁極の傾きが調整されていることを特徴とする磁気識別装置を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガイド部材の制限部に磁石ユニットの当接面を当接させることによって磁石ユニットの回路基板に対する傾きを抑えて、磁気識別装置の感度低下や感度のバラつきを抑え、精度良く磁気検出素子と磁石の相対位置を決めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の概念図。
【
図2】本発明の第一実施形態に係る磁気検出素子と磁石の位置関係の磁界検知特性を示す図。
【
図3】本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の磁界分布を示す概念図。
【
図4】本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の他の磁界分布を示す概念図。
【
図6】本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の他の磁界分布を示す概念図。
【
図7】本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の他の磁界分布を示す概念図。
【
図8】本発明の第一実施形態に係る磁気検出素子と磁石の相対位置を示す概念図。
【
図9】本発明の第一実施形態に係る磁気検出素子の配置の拡大図。
【
図10】本発明の第一実施形態に係る磁石ユニットの概念図。
【
図11】本発明の第一実施形態に係るガイド部材の斜視図。
【
図12】本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の要部拡大図。
【
図13】本発明の第一実施形態に係る磁石位置調整の概念図。
【
図14】本発明の第一実施形態に係る磁石位置調整の概念図。
【
図15】本発明の他の実施形態に係るガイド部材の斜視図。
【
図16】本発明に係る磁気識別装置の他の例を示す斜視図。
【
図17】本発明に係る磁気識別装置の他の例を示す斜視図。
【
図18】本発明に係る磁気識別装置を搭載した現金自動取引装置の概念図。
【
図19】本発明に係る磁気識別装置を搭載した現金自動取引装置の構成例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る磁気識別装置を図示の実施形態に基づいて詳細に説明する。
(第一実施形態)
図1は、本発明の第一実施形態に係る磁気識別装置の動作原理を説明するための図である。
図1(A)は、実施形態に係る磁気識別装置の一例及び一部を示す外観斜視図である。本実施形態の磁気識別装置が、被検知媒体としての磁気媒体3を識別する際の様子を示している。
【0011】
磁気媒体3は、一例として、磁性体を含む紙状の媒体である。より具体的には、例えば、磁気媒体3は、紙幣のように紙に磁性体を含んだインクを印刷したものである。また、磁気媒体3は、磁性体の箔帯を織り込んだものであってもよい。また、磁性体は、保磁力が大きい硬磁性体であっても、ほとんど保磁力を持たない軟磁性体であってもよい。例えば、本実施形態では、複数の磁石2a、2b、2cと、複数の磁気検出素子1a、1bとを有する磁気識別装置の一例を示しており、それらの磁気媒体3を検出可能である。複数の磁石2a、2b、2cと複数の磁気検出素子1a、1bとが、交互に並んで構成されている。なお、以下の説明では、磁石2a、2b、2cをまとめて磁石2、磁気検出素子1a、1bをまとめて磁気検出素子1と呼ぶことがある。
【0012】
詳細には、磁石2a、2bの間に磁気検出素子1aが配置され、磁石2b、2cの間に磁気検出素子1bが配置され、各々が磁気媒体3の移動方向と直交する幅方向に略一直線上に配置されている。後述するように、これらの上部(Z軸の正方向)に搬送面を形成する搬送カバーが設けられ、磁石2や磁気検出素子1が配置される直線上でカバーに対向するように搬送ローラや搬送ガイド等が設けられることによって磁気媒体3が移動される。
【0013】
また、各磁石2a、2b、2cは、N極とS極とが磁極を逆転して交互(磁化方向が反平行)に並んで配置されている。すなわち、隣り合う一組の磁石2a、2bとその間に配置される磁気検出素子1aとで1つの磁界検出モジュール(磁気センサ)が実質的に構成され、この磁界検出モジュールを直線的に配置することで、帯状の磁界検出領域が形成される。
【0014】
なお、これら各磁石2a、2b、2cは、Nd-Fe-B系やSm-Co系の希土類の磁石や酸化鉄系のフェライト磁石等であり、直方体状に成形されたものである。また、磁石2a等のNS方向は、媒体搬送面(XY面)に垂直であり、自身と隣接する磁石とは逆の極性を取るように並べられる。
図1(A)では、一例として、媒体搬送面上方(Z軸の正方向側)から見て、磁石2a、2b、2cの順にS極、N極、S極が見えるように並べられている。
【0015】
また、磁石2a、2b、2cは、媒体搬送方向(Y軸方向)と垂直な幅方向(X軸方向)にピッチPで配置されている。さらに、本実施形態における磁気検出素子1a、1bは、それぞれの検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2のNS方向を法線とする平面と略同一となるように配置されている。
【0016】
図1(B)は、磁気検出素子1a、1bの検知面11の拡大図の一例を示す図である。なお、磁気検出素子1の検知面11は、パーマロイ、アモルファス、微結晶構造等の高透磁率の細長い磁性薄膜12と、銅やアルミ等の導電性金属薄膜による平面コイル13とが不図示の絶縁膜を介して積層され、それぞれ電極14に引き出されている。本実施形態に用いられている磁気検出素子1a、1bは、直交フラックスゲート素子である。
【0017】
また、磁気検出素子1は、磁性薄膜12に高周波電流を印加し、磁性薄膜12内の磁束変化を、平面コイル13から電圧に変換した電圧信号として取り出す。磁界検知方向は磁性薄膜12の長手方向であり、
図1(A)に示されるセンサ構成ではこれがX軸方向となるように磁気検出素子1a、1bが配置される。なお、この磁気検出素子1にはバイアス磁界が不要であり、磁界ゼロ近傍でも感度を有しており、本実施形態の磁気識別装置に好適である。当然、この検出方法は一例であり、他の磁気検出方法を用いてもよい。
【0018】
図2は、磁気検出素子1の磁界検知特性の一例を示す図である。
図2の例によれば、本実施形態の磁気検出素子1等では、低磁界(例えば45a)での線形領域(例えば46a)と、高磁界(例えば45b)での非線形領域(例えば46b)を持ち、高磁界領域では所定の磁界(本実施形態で用いる磁気検出素子の場合、およそ±10ガウス)を印加されたところで出力が飽和する。
【0019】
磁気識別装置の磁気センサとして高い感度を引き出すためには、上記線形領域を用いることで実現できる。すなわち、低磁界側で任意の磁界範囲45aを印加したときの出力範囲46aと、高磁界側で45aと概ね同じ幅の範囲である磁界範囲45bを印加したときの出力範囲46bとを比較すると、低磁界側で直線領域を用いた出力範囲46aが大きくなり、すなわち感度良く磁気媒体3の通過に伴う磁界変化を検出することができることが分かる。
【0020】
上記をさらに詳細に説明する。
図3(A)は、磁気検出素子1a、1bのそれぞれの検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2a等のNS方向を法線とする平面と略同一となるように配置されたときの磁界分布の様子を示している。例えば検知面11aには磁石2a、2bの磁界が印加されており、磁極中点に配置された検知面11aでは、Y方向の磁界が印加されるが、検知方向であるX方向には磁界成分が存在しないため、検知面11に印加される磁界は概ねゼロとなる。(
図2における点41の状態)。
【0021】
さらに
図3(B)では、磁気媒体3が磁気検知素子1及び磁石2上に存在し、磁気媒体3による磁界変化を検出する様子を示している。磁気媒体3が磁気検知素子1及び磁石2上に存在するとき、磁気媒体3によって磁石2のつくる磁界分布が変化し、磁気検出素子の検出方向であるX方向の磁界成分が生じる(
図2における点42の状態)。その結果として、出力範囲46aに対応する出力差を得ることができる。
【0022】
しかし、
図4(A)に示すように、磁石2bの中点が他の磁石2a、2cの中点から大きく外れている場合など、検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り磁石2a等のNS方向を法線とする平面上にないとき、検知面11上では、X方向の磁界成分が生じる((
図2における点43の状態)。さらに、
図4(B)のように磁気媒体3が通過すると、さらにX方向の磁界成分が生じ、
図2における点44の状態になる。結果として、磁気媒体3のない初期状態である点41あるいは点43の状態から、磁気媒体3が存在する状態である点42あるいは点44の状態になった場合に、概ね同じ磁界変化である45aあるいは45bに対して、出力範囲46a、46bでは、大きな差が生じ、出力範囲46bの状態では十分に磁気媒体3の通過に伴う磁界変化を検出することが難しくなる。
【0023】
さらに
図6(特に
図6(A))では、磁石の磁化方向が実質的に磁石の形状に対して傾いている状態で、
図3同様に磁気検出素子1a、1bのそれぞれの検知面11a、11bが、磁石2a、2b、2cのNS極の概ね中点を通り、磁石2a等のNS方向を法線とする平面と略同一となるように配置されたときの磁界分布の様子を示している。
【0024】
図5では、磁石の磁化方向が概ね形状Z方向と一致しているときの磁化分布の様子を示している。これまでの説明の通り、磁石のNS中点を通りNS方向を法線とする方向(X方向)のベクトル成分はなく、
図3(A)同様に磁石2と磁気検出素子1を配置した場合、
図2の磁界検知特性のゼロ磁界近傍(
図2における点41)を使用することができる。
【0025】
図6(A)では、磁化方向がZ方向に対して傾いた磁石の磁界分布を示している。NS面の形状上の中点を通り該NS方向(Z方向)を法線とする方向(X方向)の磁界成分が現れる。
【0026】
図6(B)は、
図3(A)同様に磁石2a、2b、2cと磁気検出素子1a、1bを配置し、磁石2bの磁化方向が
図6(A)のように傾いているときを示している。磁気検出素子1a、1b上に矢印で示すように、磁石の磁化方向の傾きに応じたX方向の磁界が検知面11a、11bに印加される。
【0027】
さらに
図7(A)では、
図6(A)の磁石を、磁化方向の傾きの分だけ逆方向に回転(
図6(B)ではXZ平面内で左回転)させたときの磁界分布の様子を示している。当然磁化の傾きと逆の角度だけ磁石を回転させると、磁界分布は実質的に
図3(A)と同様になり、
図7(B)の磁気検出素子1a、1bでは
図2における点41のゼロ磁界近傍の直線領域を用いてセンサを動作させることができる。
【0028】
従って、本発明においてはゼロ磁界に近いところでセンサを動作させることが好ましく、ゼロ磁界近傍に精度良く磁石の磁界を設定することが求められる。
図8は、磁気検出素子1と磁石2の相対位置関係と、センサの感度を十分に引き出すために要求される位置精度を表した概念図である。
【0029】
検出チャンネルを多数化するためには、
図6、
図7のように磁石2の間隔Pを小さくし、多くの磁気検出素子が配置できるようにすることが1つの方法である。
図8(A)と
図8(B)では、磁石を配置するピッチP1とピッチP2とが異なり、ピッチP1が小さく、より多チャンネル化に対応した配置となる。しかし、ピッチP1を小さくし、磁石2と磁気検出素子1の距離が近くなることで、検知面11に印加される磁界変化が大きくなり、例えば磁石2と磁気検出素子1の相対位置がずれた場合に、
図1で示したように、十分な感度を引き出すことができなくなる可能性が生じる。
【0030】
従って、
図8(A)のように、磁気検出素子1と磁石2の距離が近接している場合、磁気検出素子1同士を密に配置することが出来るためセンサ全体(磁気センサが配列される方向)の分解能の向上が可能となるが、センサの感度を十分に引き出す磁気検出素子1と磁石2の位置関係に高い精度が必要となる。
【0031】
センサとして求められる性能「高い感度・高い分解能・ムラの無い出力」を実現するためには、磁気検出素子1と磁石2の距離が近接している状態で、高精度に磁気検出素子1と磁石2の相対位置を決めなければならない。
【0032】
図9は、磁気検出素子1を実装した回路基板5の図である。回路基板5はFPCまたはリジット基板またはリジットフレキシブル基板で構成されている。
図9(A)に示すように、磁気検出素子1は、磁石2を設置するための複数の開口部51を備えた回路基板5に電気的に接続(実装)される。
【0033】
また、磁気検出素子1は、その検知面11が回路基板5側を向いて接続されている。開口部51同士の間に磁気検出素子1が配置され、磁石2がその両脇の開口部51の位置に配置されることによって、磁気検出素子1に及ぼす磁界を形成する。
図9(A)においては、基板5への実装面に検知面11が向いている。また、
図9(B)に示すように、磁石2によって発生する磁界におけるゼロ磁界が基板5の実装面となるように配置される。詳しい配置等については後述する。
【0034】
図10は、磁石2と磁石2に取り付けられた保持部材6とで構成される磁石ユニット21を表した図である。保持部材6には、調整方向に対して角度が保証された1辺以上、あるいは1面以上がガイドとして設けられ、後述のガイド部材8と組み合わされることで磁石の調整方向を除く各種移動・回転を制限出来るようになっている。以下の説明においては、調整方向に対して角度が保証された部分を面として形成した場合の一例を当接面として説明している。
【0035】
図10(A)には調整方向からの投影形状を磁石2と同一とした保持部材6aを示している。これにより、磁石ユニット21における調整方向以外の4辺および4面がガイドとして使用可能となる。但し、保持部材6には調整方向に対して角度が保証された1辺以上、あるいは1面以上が設けられていれば構わないため、
図10(B)や
図10(C)に示す円柱型保持部材6bやD型保持部材6cでも構わない。
【0036】
図11にガイド部材8の概念図を示す。ガイド部材8は、磁石ユニット21と当接する第1の制限部81と、磁石ユニット21を取り付けるためのガイドとなる第2の制限部82からなる。
【0037】
第1の制限部81は、磁石ユニット21と当接する支持面811を有し、支持面811で磁石ユニット21に当接することによって、当接面に垂直に効力(第1の抗力)を及ぼし、磁石ユニット21の移動や回転を規制する。
【0038】
さらに、第2の制限部82では、前記第1の制限部である当接面に対して垂直な柱状体で、磁石ユニット21を挟持するように対向した第1の支持部821a及び第2の支持部821bとで構成される。第2の制限部82では、第1の制限部による第1の抗力の方向(当接面の法線方向)と垂直な第2の抗力を磁石ユニット21に与える。
【0039】
図11(A)では、第1及び第2の支持部(821a~821d)は円柱状で示されているが、角柱でもよく、磁石ユニット21に対して垂直に効力を与え、回動や移動が制限できる形状であれば良い。
【0040】
上記のようにすることにより、第1及び第2の抗力の方向の移動が制限され、第1及び第2の抗力の方向の移動を制限でき、結果的に当接面内で第1及び第2の抗力と垂直な方向への移動と回転を可能とし、前記調整時の調整方向および調整回転可能な平面を規定することができる。
【0041】
つまり、磁石ユニット21の移動及び回転可能な面が一意に規定され、調整のコントロールが容易となり、磁気識別装置の優れた量産性に寄与する。
図11(B)では、ガイド部材の構成の一例を示している。精度の保証された少なくとも1面を持ちその一面を支持面811とした第1の制限部81と、第1及び第2の支持部を連続的に備え櫛歯状の支持部が設けられた第2の制限部82とをそれぞれ別体に形成し、それらを組み合わせてガイド部材8としている。分割して別々に設けることで、支持面と制限部による保証精度を高めることができる。
【0042】
より具体的には、
図11(B)において、第1の制限部81は、第2の制限部82における櫛歯状の支持部821とそれと対向する壁部822との間に設けられた空間に挿入される。第1の制限部81の支持面811は、櫛歯状の支持部821の一部よりも上部に位置するような位置関係となっており、ガイド部材8としては、第1の制限部81の支持面811と第2の制限部82における櫛歯状の支持部821の櫛歯同士の間隙によって櫛歯同士の間隙に磁石2を保持可能となっている。
【0043】
図12は、保持部材6を取り付けた磁石2を、磁気検出素子1を実装した回路基板5の近傍に配したガイド部材8に組み込んだ外観斜視図である。保持部材6がガイド部材8と組み合わされ、その当接面で支持面811と櫛歯状の支持部821とに当接することにより、前述のように磁石2の2方向の平行移動および2軸方向の回転移動を制限することが出来、残された1軸の平行移動及び1軸の回転の位置調整のみで十分なセンサの感度を得ることが可能となる。
【0044】
すなわち、磁石ユニット21がガイド部材8と当接面において当接することで、磁石ユニット21のX軸方向およびY軸方向の平行移動及び、X軸およびZ軸中心の回転を制限し、Z軸方向の平行移動及びY軸方向に所定の角度回転させることで位置調整することによって、磁石ユニット21のガイド部材8に対する相対位置を調整することができる。これによって、磁気検出素子1に対して磁石2が及ぼす磁界を調整し、磁気検出素子1の初期出力値を所望の範囲に調整することが出来る。
【0045】
図13、
図14は、本発明において、保持部材6を取り付けた磁石2を、調整する様子を示した概念図である。
図13(A)では、磁気検出素子1を実装した回路基板5にガイド部材8が取付けられ、磁石ユニット21が取り付けられる様子を示している。磁石ユニット21は磁石ユニット21に設けた当接面とガイド部材8の第1の制限部81が当接して磁石ユニット21のY方向の移動及び傾き(YZ平面での回転)が抑制されている。
【0046】
さらに、回路基板5の開口部51の開口幅と概ね同じ幅の間隔で設けられた櫛歯状の第2の制限部82の空隙に対して、磁石ユニット21を磁石2が取り付けられている側を先端として挿入し、Z軸方向の位置調整を行う。
図13(A)においては磁石ユニット21aを第2の制限部82の空隙に対して挿通させようとしている状態を示しており、この位置において磁石ユニット21aの当接面がガイド部材8の第1の制限部81である規制面に摺接しながら開口部51に向けて移動されている。
【0047】
このとき、第2の制限部82に櫛歯状に設けられた支持部821の支持面821aの間隔は、上記のように開口部51と同一でも良いが、磁石ユニット21のX方向の幅よりも大きい条件で開口部51よりも小さい方が、磁石ユニット21と当接しやすくなり、より調整方向以外の移動・回動を制限できるため好ましい。
【0048】
実際の調整は、大きく分けて2ステップで行う。まず、第1のステップとして磁石ユニット21を平行移動させて調整を行うステップについて説明する。
【0049】
図13(A)の磁石ユニット21bをZ軸方向に進行させて反対側まで挿通させたとすると、磁気検出素子1bの検知面11bでは
図13(B)のような磁界変化を受け、磁気検出素子及び不図示の磁電変換回路を通した出力は概ね
図13(B)同様の出力変化となる。ここでは、まず、Z軸方向に磁石ユニット21aを進行させ、
図13(B)に示す490から、ピークまたはボトム491を通過後、ゼロ点492付近になるように調整する。
【0050】
このとき磁石ユニット21の保持としては、保持部材6を担持し、当接面方向に力を加えながら、磁石2の方向に押す機構であれば良い。当接面が確保され且つ第2の制限部82がリードの役目を果たすため、磁石ユニット21の進退をスムーズに行うことができ、好適である。
【0051】
次に第2のステップについて説明する。前述のように磁石2の磁化方向にずれが生じない理想的な磁石であればステップ1だけで調整は可能となるが、実際には前述のように磁石の磁化方向には傾きが生じることがあるため、
図7のように磁石の角度を回転させその磁化の傾き分を調整するステップとなる。
【0052】
図14は、磁石の磁化がZ軸方向に対して時計回りに任意の角度だけずれた磁石2を調整する様子と送り量に対する、検知面11aと検知面1bとのそれぞれの位置での磁界の様子を示す。XZ平面において、磁石2bに対してX方向に概ね対称な位置に配置され、感磁方向が共にX軸正方向を向いた検知面11aと11bでは、磁石2bの移動に対する磁界が逆の変化となる。
【0053】
また、
図6(A)及び
図14のように磁化方向が傾いた磁石を調整方向(Z軸方向)に変位させると、
図14の実線で示した磁界から点線で示した磁界への変化が生じる。つまり、磁石2のNSの形状の中点が磁気検出素子1の検知面11上にあるときに点495a、点495bの磁界がそれぞれ検知面11a及び11bに印加される。
【0054】
このとき、例えば磁気検出素子1aの磁界検知特性のゼロ点を狙い、ゼロ点付近である点494a付近で調整を止めると、磁気検出素子1bでは点494bの磁界が検知面11bに印加されることになり、ゼロ点から離れた位置に調整がされてしまい、最悪は
図2における直線性の悪いピーク付近に磁石の磁界が調整されてしまう。
【0055】
反対に磁気検出素子1bのゼロ点付近である点496bを狙うと、磁気検出素子1aでは点496aの位置となり、磁界変化のピークに近い位置となってしまう。従って、ステップ1の段階では点495a及び点495bの位置に磁石が来るように出力を見ながら調整を行うことになる。
【0056】
具体的には、
図14で説明すると、磁石2をZ軸方向に進行させた際に、磁気検出素子1aの検出結果からなる出力が極小(極大)となった点からゼロ点に到達した時点における磁気検出素子1bの検出結果からなる出力の値に対し、概ね半値となる程度に磁石2をさらに近づけた位置が点495a(495b)付近である。
【0057】
次に、ステップ2として、その位置において磁気検出素子1aと磁気検出素子1bとの出力がゼロ点付近である点497a、497bになるように磁石2をXZ平面内で回転させることで調整を行う。
【0058】
なお、
図14の例では、Z軸方向に磁石2を進行させた際に、磁気検出素子1a側に先に磁界変化が生じる磁石2の磁化状態における例である。磁化方向のずれによっては逆に磁気検出素子1bの検出結果からなる出力が先に大きくなることがある。従って、先に出力が現れる一方の磁気検出素子の出力がゼロ点を通過した時点における他方の磁気検出素子の出力が半値となる程度にさらに磁石2を近づけ、その位置において磁石2をXZ平面内で回転させることによって磁石の位置調整を行って良い。
【0059】
また、点線で示した磁界変化は磁石2の磁化方向がZ軸方向を向いているとき、つまり磁化方向の傾きに対して磁石をY軸で回転させたときと同義の磁界変化を示している。従ってステップ2では、点495の位置にある磁石をY軸方向に回転させ、ゼロ点付近である点497a及び497bの出力を得るステップとなる。回転量は出力を見ながら適宜判定すれば良く、回転方向は磁極の向きと出力の極性を基に判定すれば良く、一意に決めることができる。
【0060】
このような構成とすることで、磁石の磁化方向にばらつきのある磁石を用いてでも容易に磁石の調整が可能となり生産性が向上する。さらに、磁石の磁化方向がZ軸方向を向くため、磁気媒体に対しても効率良く磁界を印加することができ、磁気識別装置の性能の向上に寄与する。
【0061】
以上説明した磁石2の位置調整については、ロボットを用いて行っても良い。その場合、以上説明した位置調整の流れを、ロボットを操作することで実施しても良く、予めプログラムされた制御部によってロボット自動機を制御することによって位置調整を行っても良い。また、
図13(A)に示すように、本実施形態に係る磁気識別装置においては、直線状に配置された磁気検出素子の間に配置される磁石ユニット21を複数個備えており、それぞれの磁石ユニット21の位置調整を個別に行う。さらに、磁石ユニット21と開口部51および第2の制限部82との間を埋めるように、接着剤を塗布することによってガイド部材8に対して各磁石ユニット21を固定することができる。
【0062】
なお、接着剤を塗布して固定した上で、第1の制限部81との間に各磁石ユニット21が挟持されるような対向部材83を更に備えても良い。対向部材83は、ガイド部材8に固定される各磁石ユニット21すべてを挟持可能なように一体に設けられた板状金属部材でも良く、シリコンやゴム、板バネ等の弾性部材であっても良い。この弾性部材によって第1の制限部81側に対向部材83が付勢されて磁石ユニット21を第1の制限部82側との間に挟持するようにすることが好ましい。対向部材83は、第1の制限部81を始めとするガイド部材8に対して固定されるようにしても良いし、他の部材に対して固定されても良い。例えば、後述する磁気識別装置200や、磁気識別装置が搭載される紙葉類識別装置101や紙葉類取引装置の一部に対して固定されても良い。また、対向部材83自体がゴムなどの磁石ユニット21に沿って変形可能な弾性体によって形成されていると、位置を調整された各磁石ユニット21の角度によらずに容易に挟持することが可能となる。このような構成とすることで、調整を行った磁石ユニットを保護することができ、製品の信頼性に寄与し好適である。
【0063】
(他の実施形態)
図15はガイド部材8を一体で形成した場合の斜視図である。第1の制限部81となる支持面811aを形成する支持部811と、第2の制限部82となる支持面821aを形成する支持部821が1つの板金で形成された板状部材であり、曲げ加工をすることによってガイド部材8を形成している。この構成によれば、部品点数の削減、組立時間の削減ができ、生産性に寄与する。また、第1の制限部81と第の制限部82との間に曲げ溝84ができるため、磁石ユニット21を固定する際に、曲げ溝84が接着剤の溜まりとなり、固定が容易となり有益である。
【0064】
図16には、以上説明した実施形態に係る磁気識別装置の他の例を示す。本例においては、上述した磁気識別装置に加えて周辺構造を設けることで磁気識別装置200を構成している。
図16(A)は磁気識別装置200の斜視図であり、一部を切り欠いて内部構造を示している。その内部には、上記実施形態で説明した磁気識別装置200が配置されている。
【0065】
上記実施形態で説明した通り、回路基板5に対して磁石2と磁気検出素子1とが交互に並んで配置されており、その上部には磁気識別対象となる磁気媒体3を有する紙葉を搬送するための搬送路を形成する搬送カバー9が設けられている。搬送カバー9と対向する位置に設けられたローラなどによって磁気媒体3を有する紙葉が搬送カバー9上に形成された搬送路をY軸正方向に搬送される。搬送カバー9は、リン青銅や洋白等の非磁性の銅合金の薄板を用いることができる。必要により耐摩耗のめっきを施しても良い。
【0066】
搬送カバー9は、搬送カバー支持部材10が当接することによって支持されている。搬送カバー支持部材10の上面は搬送カバー9に当接しており、下面は回路基板5が当接している。従って、回路基板5に対してガイド部材8を介して位置決めされた磁石2や磁気検出素子1と搬送カバー9との位置(距離)を搬送カバー支持部材10によって決めている。
搬送カバー支持部材10は、剛性のあるアルミダイキャストやプラスチック材料などで成形された部材を用いる。
【0067】
図16(B)には、磁気識別装置200のYZ平面での断面図を示している。この図に示すように、上面が搬送面と平行となるように位置、角度が調整された磁石2と搬送カバー9との間には僅かに隙間が空くように搬送カバー支持部材10の高さが設定されている。このように構成することによって、上述した磁石の磁界の調整を行う際に、Y軸方向に回転させることで磁石2の上面が傾き、搬送カバー9と磁石2との距離が変化した場合においても、搬送カバー9と磁石2とが接触することがなく、磁石2などに負荷がかかることがない。従って、磁界を調整した磁石2やそれに固定される回路基板5や磁気検出素子1の相対位置を保証することができる。
【0068】
但し、搬送カバー9と磁石2や磁気検出素子1との間隔は、できるだけ小さい方が、磁気検出感度が向上するため、できるだけ近接させることが好ましい。上述した磁界の調整は、磁石2のZ方向の位置調整と、Y軸方向の回転によって行うが、特に磁石2の磁化方向の傾きをY軸方向の回転によって調整することを想定する場合には、例えば磁石2における搬送カバー9側の頂部にR形状(好ましくはY軸方向の回転中心を中心とする円弧形状)などにすることで、磁石2のY軸方向への回転による磁界調整を行った場合でも、磁石2と搬送カバー9との距離の変動を抑えることができるため、磁石2や磁気検出素子1と搬送カバー9との距離を短くすることができる。
【0069】
一例としては、磁石2が磁気検出素子1よりも搬送カバー9側に突出するようにしつつ、磁石2の形状や磁化方向の精度などによっては搬送カバー9と磁石2との距離を0に設計することができる。
【0070】
また、
図16(B)に示すように、回路基板5と接続される接続部11を示しており、後述する制御基板7と接続され、磁気検出素子1の駆動電流や、磁気検出素子1の磁気検出による物理変化らが制御基板7との間で入出力される。接続部11は金属などの導体ピンや、ケーブル、フレキシブルフラットケーブルなどが適宜選択され得る。
【0071】
図17には、
図16(A)に示した磁気識別装置200の全体図を示しつつ、X方向における一部を省略して示している。磁気識別装置200のX方向の長さは磁気媒体3の向きによって適宜選択し得る。例えば、紙幣の短手方向を搬送方向(Y軸方向)として搬送する紙葉類識別装置に組み込む場合は、磁気識別装置200のX方向の長さはその磁気検知能を有する長さ、すなわち磁石2が直線上に配置される部分の長さが少なくとも紙幣の長手形状以上になるようにすれば良い。
【0072】
図17に示すように、回路基板5の下方には、ガイド部材8の下方に当接する位置に、制御基板7が設けられている。この制御基板7は、磁気検出素子1の検出結果に対する検波回路や増幅回路、マイコンなどが搭載されている。この制御基板7やガイド部材8や回路基板5などを下側から覆うように本体カバー12が設けられており、その上部に搬送カバー9が搭載されている。
【0073】
本体カバー12の一端側からは、制御基板7から引き出される、磁気識別装置200などの上位装置との接続線15が引き出され、磁気識別装置200の磁気検出結果等の情報をやり取りする。
【0074】
(紙葉類識別装置に磁気識別装置を搭載した例)
図18には、以上説明した磁気識別装置を紙葉類取引装置へ搭載した例の概略図を示す。本発明の磁気識別装置200は、このような紙葉類取引装置への組込が想定され、紙葉類取引装置の具体的な例としては銀行等金融機関やコンビニエンスストア等に設置される現金自動取引装置(ATM)がある。以下の説明としては、本発明に係る磁気識別装置200を搭載した現金自動取引装置100を例に挙げて説明する。
【0075】
現金自動取引装置100は、顧客の操作を受け付けるタッチパネル部104が入力手段として装置表面に設置され、その近くの紙幣投入口103より振り込みの場合に紙幣を投入する。
【0076】
紙幣投入口103から投入された紙葉の一例としての紙幣は、搬送路105上をローラー106により搬送されていき、先ず紙葉類識別装置101で金種判別や真偽判別を行う。紙葉類識別装置101は、光学センサ31及び磁気識別装置200等の複数のセンサを搭載したメカユニットとなっている。メカやセンサの制御及び信号の受け取りは制御ユニット102で行い、金種や真偽判別を経て搬送路105下流で振り分けをし、各金種がそれぞれの金種別収納庫108A~108Dに入れられる。偽造券については、スイッチバックでもとに戻すか、リジェクト収納箱107に入れられる。
【0077】
図19に、現金自動取引装置100の制御ユニット102の構成例を示す。CPU201は、ROM202にある鑑別装置制御、金種判定制御、真偽判定制御、閾値設定等のプログラムを利用して、紙葉類識別装置101を制御する。各種センサのデータはRAM203に格納され、それぞれの閾値に照らし合わせて判定を行う。本発明の磁気識別装置200から出力された出力波形も、真偽判定のプログラムに読み込まれ、金種毎に予め記録された磁気波形と照合することによる真偽判定を行うことになる。CPU201は、通信部204を介してホストコンピュータ300とデータの送受信が可能にされている。
【0078】
このように、現金自動取引装置100の紙葉類識別装置101に本発明の磁気識別装置200を組み込むことで、金種判定や真偽判定の精度を向上することができ、好適である。
【0079】
以上に述べた内容は、本発明の好ましい実施態様に過ぎず、本発明を限定するものではない。本発明の思想及び原則内になされたあらゆる修正、均等置換、改良等は、いずれも本発明の保護範囲内に含まれるものとする。
【0080】
例えば、上記各実施形態においては、ローラー等の搬送手段によって紙葉類を搬送カバー上の搬送路に沿って搬送する形態を説明したが、磁気識別装置を移動させることで、紙葉類等の磁気媒体による磁界の変化を検知するようにしても良い。すなわち、磁気識別装置に対して紙葉類を相対的に移動させることができれば良く、紙葉類も移動させつつ、磁気識別装置も移動させるようにしても良い。
【符号の説明】
【0081】
1 磁気検出素子
2 磁石
21 磁石ユニット
3 磁気媒体
5 回路基板
6 保持部材
8 ガイド部材
200 磁気識別装置