(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】ノンコートエアバッグ用織物およびエアバッグ
(51)【国際特許分類】
D03D 1/02 20060101AFI20220418BHJP
B60R 21/235 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
D03D1/02
B60R21/235
(21)【出願番号】P 2018542815
(86)(22)【出願日】2017-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2017035081
(87)【国際公開番号】W WO2018062333
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2016189238
(32)【優先日】2016-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】小寺 翔太
(72)【発明者】
【氏名】蓬莱谷 剛士
【審査官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-011660(JP,A)
【文献】特開平06-184856(JP,A)
【文献】特開2002-146647(JP,A)
【文献】特開平10-219543(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/02
B60R 21/235
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンコートエアバッグ用織物であって、
前記織物は、ポリエチレンテレフタレートを主原料とする繊維により製織され、
前記織物のカバーファクターFが2300以上であり、
前記織物の厚みDが0.28~0.35mmであり、
前記織物の厚みD(mm)及び前記カバーファクターFが、F/D≧8200を充足し、
前記織物を構成する糸の単繊維繊度が1.0~3.5dtexであり、
前記織物表面の凹凸における高低差が130μm未満である、
ノンコートエアバッグ用織物。
【請求項2】
前記F/Dが10000以下である、請求項1に記載のノンコートエアバッグ用織物。
【請求項3】
請求項1または2に記載のノンコートエアバッグ用織物により形成された少なくとも一枚の本体基布によって形成された、エアバッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突時の乗員保護装置として普及しているエアバッグに用いられる織物に関し、特にノンコートエアバッグ用織物およびそれを用いてなるエアバッグに関する。
【背景技術】
【0002】
車両が衝突した時の衝撃から乗員を保護する乗員保護用の安全装置として、車両へのエアバッグ装置搭載が普及している。従来は、インフレーターから放出されるガスがバッグ内より漏れ出さないように、樹脂材料によりコーティングされた織物が主流であったが、燃費改善等の要求から軽量であること、ステアリングホイールデザインの流行などからコンパクトに収納できることが要求されており、ノンコート布の採用が広がっている。
【0003】
また、これまではナイロン66(PA66)製のエアバッグが主流であったが、コストの低減を目的として、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のエアバッグが採用され始めている。
【0004】
しかし、ナイロン66と比較してモジュラスの高いポリエチレンテレフタレートは折り畳み性が悪いという課題があった。また、モジュラスの高さから織糸間の厚み方向に隙間が出来やすく、低通気が得られにくいという課題もあった。
【0005】
これらの課題に対し、特許文献1には、織物を構成するフィラメントの繊度、フィラメントの単繊維繊度、単位面積当たりの繊維量、通気度、厚み、カンチレバー法で測定される剛軟度を規定した、優れた収納性、膨張応答性を示すエアバッグ用ノンコート織物に関する技術が開示されている。しかし、この技術によって得られるエアバッグ用ノンコート織物は、通気度がフラジール法にて0.5~3.0ml/cm2・sec(実施例ではフラジール法にて0.9ml/cm2・sec以上)であり、低通気と言えるものではなく、エアバッグ用織物として十分な性能を有していなかった。
【0006】
また、特許文献2には、海島型複合紡糸によって得られる複合繊維糸条から繊維構造物とした後に極細繊維化を行うことで、毛羽や糸切れが少なく、柔軟性、折り畳み性、低通気性を有する織物を得る技術が開示されている。しかし、この技術で得られる織物の通気度は低通気とは言えず(実施例ではフラジール法にて0.7ml/cm2・sec以上)、また海島複合糸を原糸として使用することから原糸コストが高く、脱海加工が必要なことから製造コストも高い。さらに、脱海が不十分な場合には難燃性が低下する可能性があり、エアバッグ用織物としては不向きであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-309396号公報
【文献】特開平7-258940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、折り畳み性が良く、かつ優れた低通気性を有するノンコートエアバッグ用織物、および、それからなるエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明のノンコートエアバッグ用織物は、ポリエチレンテレフタレートを主原料とする繊維により製織され、カバーファクターFが2300以上であり、前記織物の厚みD(mm)及び前記カバーファクターFが、F/D≧8200を充足し、前記織物表面の凹凸における高低差が130μm未満であることを特徴とする。
【0010】
上記ノンコートエアバッグ用織物においては、前記織物を構成する糸の単繊維繊度を、1.0~3.5dtexとすることができる。
【0011】
また、本発明は、前記記載のノンコートエアバッグ用織物により形成された少なくとも1つの本体基布によって形成された、エアバッグに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、折り畳み性が良く、かつ優れた低通気性を有するノンコートエアバッグ用織物、及び、エアバッグを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】評価用エアバッグの取付け口側本体基布に環状布3枚を縫合した状態を示した正面図
【
図3】評価用エアバッグの取付け口側本体基布に環状布4枚を縫合した状態を示した正面図
【
図4】評価用エアバッグの取付け口側本体基布と乗員側本体基布の重ね方を示した正面図
【
図5】評価用エアバッグの取付け口側本体基布と乗員側本体基布とを縫合した状態を示した正面図
【
図6】折り畳み性評価試験の折り畳み手順を説明する評価用エアバッグの正面図
【
図7】折り畳み性評価試験の折り畳み方法を示す断面図
【
図8】折り畳み性評価試験の折り畳み方法を示す断面図
【
図9】折り畳み性評価試験の折り畳み方法を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のノンコートエアバッグ用織物は、主として、ポリエチレンテレフタレートで形成された織物である。この織物は、カバーファクターFが2300以上であり、このカバーファクターFと織物の厚みBについて、下記式から算出される充填度Zが8200以上である。また、織物表面の凹凸における高低差が130μm未満であることを特徴とする。
充填度Z=カバーファクターF/厚みB(mm)
【0015】
以下、この織物について、さらに詳細に説明する。まず、織物のカバーファクターFは2300以上であることが肝要である。カバーファクターFを2300以上とすることで、織糸間の隙間が小さくなり、優れた低通気性を得ることが出来る。また、カバーファクターFが2800以下であると織物の柔軟性を損ないにくく、良好な折り畳み性を得ることが出来、好ましい。折り畳み性が良好とは、折り畳んだときの高さが低く、コンパクトになることをいう。なお、本発明において、カバーファクターFは以下の式で算出される値である。
カバーファクターF=織物の経密度×√経糸の総繊度+織物の緯密度×√緯糸の総繊度
【0016】
また、上記のように、織物のカバーファクターFを織物の厚みBで除して得られるZは8200以上であることが肝要である。Zは織物の表面および厚み方向の充填度を示す値であり、この値が高いことは、織物の厚み方向に隙間が無い状態になっていることを意味する。したがって、Zを8200以上とすることで、優れた折り畳み性と低通気性を両立することができる。織物の厚みBは、特には限定されないが、例えば、0.24~0.35mmとすることができ、0.25~0.33mmであることが好ましく、0.28~0.32mmであることがさらに好ましい。なお、織物の厚みBは、例えば、JIS L 1096 8.4 A法に準じて測定することができる。
【0017】
また、織物表面の凹凸における高低差が130μm未満であることが肝要であり、120μm未満であることがより好ましい。高低差が130μm未満であることで、織物を折り重ねた際の隙間が少なくなり、優れた折り畳み性を得ることが出来る。なお、織物表面の凹凸における高低差は表面粗さ測定機を使用して求めることが出来る。例えば、織物を平坦な面に両面テープなどで全面を固定した上で、表面粗さ測定機によって織物表面の凹凸の高低差を測定することができる。
【0018】
なお、凹凸の高低差の調整は、例えば、密度、総繊度、フィラメント数(単繊維繊度)を調整することで行なうことができる。具体的には、例えば、密度が高いと、打ちこみ時に糸のうねりが強くなり、高低差が大きくなると考えられる。また、総繊度が大きいと、糸が太くなるため、高低差が大きくなると考えられる。一方、例えば、フィラメント数が多く、単繊維繊度が小さいと、糸がつぶれやすくなるため、高低差が小さくなると考えられる。
【0019】
本発明の織物の通気性は、フラジール法によって測定される通気性が0.5ml/cm2・sec以下であることが好ましく、0.3ml/cm2・sec以下であることがより好ましい。上記の値とすることで、本発明の織物でエアバッグ用の基布を形成した場合、その基布表面からのガス漏れが少なくなり、インフレーターの小型化や迅速な展開が可能となる。
【0020】
本発明の織物を構成する糸の総繊度は280dtex以上であることが好ましい。糸の総繊度が280dtex以上であると、織物の強力がエアバッグとして優れた水準となる。また、軽量な織物が得られやすい面で、総繊度は560dtex以下であることが好ましく、470dtex以下であることがより好ましい。
【0021】
織物を構成する糸は、同一のものを使用しても異なっていてもいずれでもよい。例えば、単繊維繊度(=総繊度/フィラメント数)の異なる糸により織物を構成することができる。具体的には、たとえば、1.0~3.5dtexの範囲の単繊維繊度の糸を用いることが好ましい。単繊維繊度を3.5dtex以下にすることにより、織物の柔軟性が向上しエアバッグの折畳み性が改良され、通気性を低くすることができる。また、紡糸工程、製織工程などで単繊維切れが起こりにくいため、1.0dtex以上であることが好ましい。
【0022】
また、単繊維の断面形状は、円形、楕円、扁平、多角形、中空、その他の異型などから選定すればよい。必要に応じて、これらの混繊、合糸、併用、混用(経糸と緯糸で異なる)などを用いればよく、紡糸工程、織物の製造工程、あるいは織物の物性などに支障のない範囲で適宜選定すればよい。
【0023】
これら繊維には、紡糸性や、加工性、耐久性などを改善するために通常使用されている各種の添加剤、たとえば、耐熱安定剤、酸化防止剤、耐光安定剤、老化防止剤、潤滑剤、平滑剤、顔料、撥水剤、撥油剤、酸化チタンなどの隠蔽剤、光沢付与剤、難燃剤、可塑剤などの1種または2種以上を使用してもよい。
【0024】
織物の組織は、平織、斜子織(バスケット織)、格子織(リップストップ織)、綾織、畝織、絡み織、模紗織、あるいはこれらの複合組織などいずれでもよい。必要に応じて、経糸、緯糸の二軸以外に、斜め60度を含む多軸設計としてもよく、その場合の糸の配列は、経糸または緯糸と同じ配列に準じればよい。なかでも構造の緻密さ、物理特性や性能の均等性が確保できる点で、平織が好ましい。
【0025】
織物の織密度は、経糸および緯糸がともに48~75本/2.54cmであることが、製織性および通気性等の性能面で好ましく、55~68本/2.54cmであることがより好ましい。なお、経糸と緯糸の数はできるだけ同数であることが好ましく、これにより、経糸と緯糸とのバランスがよくなり、高圧時の通気性を低下することができる。この観点から、経糸と緯糸の一インチ(2.54cm)当たりの数の差は、例えば、3本以内であることが好ましい。
【0026】
本発明のエアバッグは、本発明の織物を所望の形状に裁断した少なくとも1枚の本体基布を接合することによって得られる。エアバッグを構成する本体基布のすべてが、前記織物からなることが好ましいが、一部であってもよい。また、エアバッグの仕様、形状および容量は、配置される部位、用途、収納スペース、乗員衝撃の吸収性能、インフレーターの出力などに応じて選定すればよい。さらに、要求性能に応じて補強布を追加しても良く、補強布に使用する基布としては、本体基布と同等のノンコート織物のほか、本体基布とは異なるノンコート織物、あるいは本体基布とは異なる樹脂のコーティングが施された織物から選択することができる。
【0027】
前記本体基布の接合、本体基布と補強布や吊り紐との接合、他の裁断基布同士の固定などは、主として縫製によって行われるが、部分的に接着や溶着などを併用したり、製織あるいは製編による接合法を用いたりしてもよい。すなわち、エアバッグとしての堅牢性、展開時の耐衝撃性、乗員の衝撃吸収性能などを満足するものであれば、接合方法は特には限定されない。
【0028】
裁断基布同士の縫合は、本縫い、二重環縫い、片伏せ縫い、かがり縫い、安全縫い、千鳥縫い、扁平縫いなどの通常のエアバッグに適用されている縫い方により行えばよい。また、縫い糸の太さは、700dtex(20番手相当)~2800dtex(0番手相当)、運針数は2~10針/cmとすればよい。複数列の縫い目線が必要な場合は、縫い目針間の距離を2mm~8mm程度とした多針型ミシンを用いればよいが、縫合部の距離が長くない場合には、1本針ミシンで複数回縫合してもよい。エアバッグ本体として複数枚の基布を用いる場合には、複数枚を重ねて縫合してもよいし、1枚ずつ縫合してもよい。
【0029】
縫合に使用する縫い糸は、一般に化合繊縫い糸と呼ばれるものや工業用縫い糸として使用されているものの中から適宜選定すればよい。たとえば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ポリエステル、高分子ポリオレフィン、含フッ素、ビニロン、アラミド、カーボン、ガラス、スチールなどがあり、紡績糸、フィラメント合撚糸またはフィラメント樹脂加工糸のいずれでもよい。
【0030】
さらに、必要に応じて、外周縫合部などの縫い目からのガス抜けを防ぐために、シール材、接着剤または粘着材などを、縫い目の上部および/または下部、縫い目の間、縫い代部などに塗布、散布または積層してもよい。
【0031】
本発明のエアバッグは、各種の乗員保護用バッグ、たとえば、運転席および助手席の前面衝突保護用、側面衝突保護用のサイドバッグ、センターバッグ、後部座席着座者保護用(前突、後突)、後突保護用のヘッドレストバッグ、脚部・足部保護用のニーバッグおよびフットバッグ、乳幼児保護用(チャイルドシート)のミニバッグ、エアーベルト用袋体、歩行者保護用などの乗用車、商業車、バス、二輪車などの各用途の他、機能的に満足するものであれば、船舶、列車・電車、飛行機、遊園地設備など多用途に適用することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例の中で行ったエアバッグ用織物の特性および性能評価の方法を以下に示す。
【0033】
<糸の総繊度>
JIS L 1013 8.3.1 B法に準じて測定した。
【0034】
<糸のフィラメント数>
JIS L 1013 8.4に準じて測定した。
【0035】
<単繊維繊度>
糸の総繊度を、糸のフィラメント数で除することで得た。
【0036】
<織物の織密度>
JIS L 1096 8.6.1 A法に準じて測定した。
【0037】
<織物の厚み>
JIS L 1096 8.4 A法に準じて測定した。
【0038】
<織物の表面凹凸における高低差>
得られた織物の表面凹凸を、株式会社ミツトモ製のCNC表面粗さ測定機(SV-3000CNC)を用いて測定した。得られた織物を50mm×50mmで裁断したものを測定用サンプルとし、サンプルは生地の巾方向に200mm以上の間隔をあけて5箇所から採取した。サンプルは、ガラス板に両面テープ(3M社製、KRE-19)で全面貼り付けた状態にして表面粗さ計のステージに載せた。測定は、先端半径0.002mmの触針をサンプル上にセットし、押さえ力0.75mNで生地表面に触れた状態で直線に移動させ、触針が上下に動いた距離を測定し、これを表面の凹凸状態とした。測定条件は、測定長さ10mm、測定速度0.1mm/sec、測定ピッチ0.001mm、とした。1点のサンプルから測定位置を変えながら5回測定を行うことで、織物1水準から25点の測定結果を得た。それぞれの測定結果における最高点と最低点の差を求め、これらの平均を表面凹凸における高低差とした。
【0039】
<織物の通気性1>
JIS L 1096 8.26.1 A法(フラジール法)に準じて測定した。
【0040】
<織物の通気性2>
得られた織物の20kPa差圧下における通気量を、
図1に示される生布通気量測定機(京都精工製、流量計6:コスモ計器製DF2810P、層流管5:コスモ計器製LF2-100L、圧力計8:コスモ計器製DP-330BA)を用いて測定した。
図1に示すように、得られた織物を20cm×20cmで裁断したものをサンプル1とし、加圧装置4と接続された内径50mmの円筒状クランプ3aにリング状の留め具2で固定し、層流管5と接続された内径50mmの円筒状クランプ3bで挟んだ。その後、円筒状クランプ3a側より加圧し、圧力計8の表示が20kPaとなる様に圧力調整弁7を操作した。前記の状態においてサンプルを通過する通気量を層流管5に接続された流量計6によって検出し、20kPa差圧下における通気量により、通気性を評価した。
【0041】
<評価用エアバッグの作製方法>
評価用エアバッグの作製方法を
図2~
図5を用いて以下に説明する。準備した織物から、直径が702mmである円形の第1本体基布9および第2本体基布10を裁断した。第1本体基布9には、中央部に直径67mmのインフレーター取付け口11、および、前記取付け口11の中心から上方向に125mm、左右方向に115mmの位置を中心とした直径30mmの排気口12を2箇所(左右一対)設けた。さらに、第1本体基布9には、前記取付け口11の中心から上下方向に34mm、左右方向に34mmの位置を中心とした直径5.5mmのボルト固定用穴13を設けた(
図2参照)。なお、第2本体基布10は、乗員側を向く基布であり、取付け口、排気口、及びボルト固定用穴は設けられていない。
【0042】
また、補強布として、470dtex72fのナイロン66繊維を用いて作製した織密度53本/2.54cmであるノンコート基布と、470dtex72fのナイロン66繊維を用いて作製した織密度46本/2.54cmの基布にシリコーン樹脂を45g/m2を塗布して得られたコート基布とを準備した。インフレーター取付け口11の補強布として、外径210mm、内径67mmの環状布14aを前記ノンコート基布から3枚、同一形状の環状布14bを前記コート基布から1枚裁断した。
【0043】
環状布14a、14bには全て、第1本体基布9のボルト固定用穴13と対応する位置に直径5.5mmのボルト固定用穴を設けた。そして、3枚の環状布14aを、インフレーター取付け口11を設けた本体基布9に、本体基布9の織糸方向に対して補強布の織糸方向が45度回転するように(
図2織糸方向AB参照)、かつ、ボルト固定用穴の位置が一致するように重ね合わせた。ここで、
図2に示すAが第1本体基布9の織糸方向であり、Bが環状布の織糸方向である。そして、取付け口11を中心として、直径126mm(縫製部15a)、直径188mm(縫製部15b)の位置で円形に縫製した。さらに、その上から同一形状の環状布14bを環状布14aと同様に同じ織糸方向にして重ね合わせ、直径75mm(縫製部15c)の位置で4枚の環状布14a、14bを本体基布9に円形に縫い合わせた。縫合後の本体基布9を
図3に示す。なお、環状布の本体基布9への縫い付けには、ナイロン66ミシン糸を使用し上糸を1400dtex、下糸を940dtexとして、3.5針/cmの運針数で本縫いにより行った。
【0044】
次に、両本体基布9、10は、環状布を縫い付けた面が外側になるように、かつ、本体基布10の織糸方向に対して本体基布9の織糸方向が45度回転するように重ねた(
図4)。ここで、
図4に示すAが第1本体基布9の織糸方向であり、Cが第2本体基布10の織糸方向である。そして、これらの外周部を縫い目間2.4mm、縫い代を13mmとして二重環縫い2列にて縫合(縫製部15d)した。縫合した状態を
図5に示す。縫合後に取付け口11からバッグを引き出して内外を反転させ、内径φ676mmの円形エアバッグを得た。外周部縫製の縫い糸は、上記本縫いと同じ縫い糸を用いた。
【0045】
<エアバッグ展開試験>
前述の方法にて作製したエアバッグにインフレーターを挿入し、インフレーター位置で重なるように左右、及び上下から折り畳み、評価用の台座にボルトで固定した後、テープ(NICHIBAN 布粘着テープ No.121)で折りが解消されないように固定した。この状態でインフレーターに点火し、バッグを展開させた。インフレーターは、ダイセル社製EH5-200型を使用した。評価は、展開時の内圧測定により行った。展開試験における二次ピークの最大内圧が35kPa未満をB、35kPa以上をAとした。
【0046】
<エアバッグ折り畳み性評価>
前述の方法にて作製したエアバッグを、
図6から
図8に示す手順にて折り畳んだ。
図6は評価用エアバッグを折り畳む際の手順について乗員側を正面として示した図であり、
図7は評価用エアバッグを折り畳む前の形態16から中間形態17に折り畳む際の手順を示したD-D断面図である。
図6の中間形態17におけるE-E断面図は
図7の最終形態20である。
図8は評価用エアバッグを中間形態17から折り畳み完了後の形態18に折り畳む際の手順を示したF-F断面図である。
図6の折り畳み完了後の形態18におけるG-G断面図が
図8の最終形態22である。
【0047】
折り畳みの際、中間形態17の通り巾が110mmとなるように調整し、折り畳み完了後形態18の通り巾が105mmとなるように調整した。その後、
図9に示すように130mm×130mm×2mmのアルミ板24を畳んだエアバッグ23に乗せ、更にその上に1kgのおもり25を乗せた状態で、折り畳んだエアバッグ23の高さを測定した。評価は、折り畳み後の高さの大小で行い、45mm以上をB、45mm未満をAとした。なお、45mmとは、一般的なエアバッグの収納スペースを考慮したものである。
【0048】
次に、実施例及び比較例について、説明する。以下では、実施例1~4及び比較例1,2に係るノンコートエアバッグ用織物について説明し、これらのノンコートエアバッグ用織物で作成したエアバッグについて行った上記評価について説明する。結果は、表1に示すとおりである。
【0049】
[実施例1]
経糸、緯糸にいずれも総繊度470dtex、フィラメント数182、単繊維繊度2.58dtexのポリエチレンテレフタレート糸を用いて平織物を作製し、精練、セットを行い、織密度が経62本/2.54cm、緯60本/2.54cmである織物を得た。得られた織物は、カバーファクターFが2645、充填度Zが8560、表面凹凸の高低差が121μmであった。この織物の通気性を測定したところ、フラジール法で0.10ml/cm2・sec、20kPa差圧下で0.10L/cm2・minと、非常に低い通気性が得られた。また、この織物を使用して評価用エアバッグを作製し、展開試験および折り畳み性評価を行ったところ、2次ピークの最大内圧が43kPaと十分な内圧を示し、折り畳み後の高さが42.9mmと折り畳み性も優れていた。
【0050】
[実施例2]
経糸、緯糸にいずれも総繊度470dtex、フィラメント数144、単繊維繊度3.26dtexのポリエチレンテレフタレート糸を用いて平織物を作製し、精練、セットを行い、織密度が経62本/2.54cm、緯59本/2.54cmである織物を得た。得られた織物は、カバーファクターが2623、充填度Zが8462、表面凹凸の高低差が128μmであった。この織物の通気性を測定したところ、フラジール法で0.12ml/cm2・sec、20kPa差圧下で0.11L/cm2・minと、非常に低い通気性が得られた。また、この織物を使用して評価用エアバッグを作製し、展開試験および折り畳み性評価を行ったところ、2次ピークの最大内圧が41kPaと十分な内圧を示し、折り畳み後の高さが43.8mmと折り畳み性も優れていた。
【0051】
[実施例3]
経糸、緯糸にいずれも総繊度470dtex、フィラメント数182、単繊維繊度2.58dtexのポリエチレンテレフタレート糸を用いて平織物を作製し、精練、セットを行い、織密度が経55本/2.54cm、緯55本/2.54cmである織物を得た。得られた織物は、カバーファクターが2385、充填度Zが8252、表面凹凸の高低差が102μmであった。この織物の通気性を測定したところ、フラジール法で0.39ml/cm2・sec、20kPa差圧下で0.35L/cm2・minと、エアバッグの性能を満足出来る通気性であった。また、この織物を使用して評価用エアバッグを作製し、展開試験および折り畳み性評価を行ったところ、2次ピークの最大内圧が38kPaと実施例1、2と比較すると若干低いものの十分な内圧を示し、折り畳み後の高さが41.3mmと折り畳み性は非常に優れていた。
【0052】
[実施例4]
経糸、緯糸にいずれも総繊度470dtex、フィラメント数144、単繊維繊度3.26dtexのポリエチレンテレフタレート糸を用いて平織物を作製し、精練、セットを行い、織密度が経55本/2.54cm、緯55本/2.54cmである織物を得た。得られた織物は、カバーファクターが2385、充填度Zが8223、表面凹凸の高低差が108μmであった。この織物の通気性を測定したところ、フラジール法で0.49ml/cm2・sec、20kPa差圧下で0.45L/cm2・minと、エアバッグの性能を満足出来る通気性であった。また、この織物を使用して評価用エアバッグを作製し、展開試験および折り畳み性評価を行ったところ、2次ピークの最大内圧が36kPaと実施例1、2と比較すると低いものの十分な内圧を示し、折り畳み後の高さが42.0mmと折り畳み性は非常に優れていた。
【0053】
[比較例1]
経糸、緯糸にいずれも総繊度470dtex、フィラメント数120、単繊維繊度3.92dtexのポリエチレンテレフタレート糸を用いて平織物を作製し、精練、セットを行い、織密度が経61本/2.54cm、緯54本/2.54cmである織物を得た。得られた織物は、カバーファクターが2493、充填度Zが8095とやや低く、表面凹凸の高低差が132μmとやや大きいものであった。この織物の通気性を測定したところ、フラジール法では0.36ml/cm2・sec十分であったが、20kPa差圧下においては1.23L/cm2・minと大きく、エアバッグの性能を満足出来るものではなかった。また、この織物を使用して評価用エアバッグを作製し、展開試験および折り畳み性評価を行ったところ、2次ピークの最大内圧が32kPaと低く、折り畳み後の高さが45.5mmと折り畳み性も若干劣っていた。折り畳み性が悪いことについては、表面凹凸の高低差が大きいことが影響していると考えられる。また、充填度Zが低いため、2次ピークの最大内圧が低くなったと考えられる。後述する比較例2よりも2次ピークの最大内圧が低いのは、経糸と緯糸のバランスが悪いことが要因と考えられる。
【0054】
[比較例2]
経糸、緯糸にいずれも総繊度560dtex、フィラメント数96、単繊維繊度5.83dtexのポリエチレンテレフタレート糸を用いて平織物を作製し、精練、セットを行い、織密度が経55本/2.54cm、緯51本/2.54cmである織物を得た。得られた織物は、カバーファクターが2508、充填度Zが7533と低く、表面凹凸の高低差が143μmと大きいものであった。この織物の通気性を測定したところ、フラジール法では0.22ml/cm2・sec十分であったが、20kPa差圧下においては0.82L/cm2・minとやや大きく、エアバッグの性能面で懸念のある通気性を示した。また、この織物を使用して評価用エアバッグを作製し、展開試験および折り畳み性評価を行ったところ、2次ピークの最大内圧が35kPaと実施例1、2と比較すると低いものの十分な内圧を示したが、折り畳み後の高さが56.4mmと折り畳み性は非常に劣っていた。折り畳み性が悪いことについては、表面凹凸の高低差が大きいことが影響していると考えられる。また、充填度Zが低いため、2次ピークの最大内圧が低くなったと考えられる。
【0055】
【符号の説明】
【0056】
1 通気性測定用サンプル
2 リング状留め具
3a、3b 円筒状クランプ
4 加圧装置
5 層流管
6 流量計
7 圧力調整弁
8 圧力計
9 取付け口側本体基布
10 乗員側本体基布
11 インフレーター取付け口
12 通気孔
13 ボルト固定用穴
14a、14b 環状布
15a、15b、15c、15d 縫製部
16 折り畳む前の形態
17 折り畳み中間状態の形態
18 折り畳み完了後の形態
19 16におけるD-D断面図
20 17におけるE-E断面図
21 17におけるF-F断面図
22 18におけるG-G断面図
23 エアバッグ
24 アルミ板
25 おもり
A 本体基布9の織糸方向
B 環状布14aの織糸方向
C 本体基布10の織糸方向