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特許7059256生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植
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  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図1
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図2
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図3
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図4
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図5A
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図5B
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図5C
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図5D
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図5E
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図6
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図7
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図8
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図9
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図9A
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図10
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図11
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図12
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図13
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図14
  • 特許-生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植 図15
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】生来の弁機能の保存、補充、および/または置換のための、隆起した弁部分および単腔固定部を備えた心腔人工弁移植
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/24 20060101AFI20220418BHJP
【FI】
A61F2/24
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019507194
(86)(22)【出願日】2017-08-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 US2017046439
(87)【国際公開番号】W WO2018031857
(87)【国際公開日】2018-02-15
【審査請求日】2020-08-11
(31)【優先権主張番号】62/373,541
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/373,560
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/373,551
(32)【優先日】2016-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】15/674,041
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517290947
【氏名又は名称】4シー メディカル テクノロジーズ,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】チャンバース,ジェフリー ダブリュ.
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0217382(US,A1)
【文献】特表2016-512753(JP,A)
【文献】特表2015-503986(JP,A)
【文献】特開2016-067931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状平面を含む弁輪および弁尖を有する生来の弁と流体連通している心腔内での拡張移植のための装置であって、拡張移植された前記装置は、
前記環状平面上に少なくとも部分的に配置されるよう構成された下面を含む基部であって、前記下面は、前記環状平面の上方に離間して配置されるよう構成された隆起部を含む、基部と、
前記装置が拡張され移植されたときに圧力がかかり前記心腔ルーフと摩擦係合するよう構成された心房ドーム部分と、
前記基部と前記心房ドーム部分とに、動作可能に取り付けられている、中間部と、
下面を含む中央シリンダ弁支持体であって、前記中央シリンダ弁支持体は、前記基部の前記隆起部に動作可能に取り付けられ、その中に動作可能に取り付けられた少なくとも1つの人工弁尖を含み、前記中央シリンダ弁支持体の前記下面は前記基部の前記下面の上方に離間している、中央シリンダ弁支持体と、
を備える、装置。
【請求項2】
前記中央シリンダ弁支持体の前記下面に、前記中央シリンダ弁支持体内に取り付けられた前記少なくとも1つの人工弁尖をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記中央シリンダ弁支持体の前記下面の上方に位置する場所に、前記中央シリンダ弁支持体内に取り付けられた前記少なくとも1つの人工弁尖をさらに備える、請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記心腔が左心房を含み、前記生来の弁が生来の弁尖を含む僧帽弁を含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
前記生来の弁尖と構造上係合を有しないよう構成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項6】
前記生来の弁尖を含む生来の僧帽弁と構造上係合を有しないよう構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項7】
左心室内に構造上存在を有しないよう構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項8】
肺動脈内に構造上存在を有しないよう構成されている、請求項4に記載の装置。
【請求項9】
環状平面を含む弁輪および弁尖を有する生来の弁と流体連通している心腔内での拡張移植のための装置であって、拡張移植された前記装置は、
前記環状平面上に少なくとも部分的に配置されるよう構成された下面を含む基部であって、前記下面は、前記弁輪の周りに位置するよう適合されたアパーチャを画定する、基部と、
前記装置が拡張され移植されたときに圧力がかかり前記心腔ルーフと摩擦係合するよう構成された頂部と、
前記基部と前記頂部とに、動作可能に取り付けられている、中間部と、
下面を含む中央シリンダ弁支持体であって、前記中央シリンダ弁支持体の前記下面は、前記アパーチャを画定する前記下面の一部と動作可能に接続され、前記中央シリンダ弁支持体はその中に動作可能に取り付けられた少なくとも1つの人工弁尖をさらに備え、前記中央シリンダ弁支持体の前記下面は前記環状平面の下には延びていないよう構成されている、中央シリンダ弁支持体と
を備え
前記中央シリンダ弁支持体は、前記基部の内部において、該基部の外面から径方向に離間している、装置。
【請求項10】
前記中央シリンダ弁支持体の前記下面に、前記中央シリンダ弁支持体内に取り付けられた前記少なくとも1つの人工弁尖をさらに備える、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
前記中央シリンダ弁支持体の前記下面の上方に位置する場所に、前記中央シリンダ弁支持体内に取り付けられた前記少なくとも1つの人工弁尖をさらに備える、請求項9に記載の装置。
【請求項12】
前記心腔が左心房を含み、前記生来の弁が僧帽弁を含む、請求項9に記載の装置。
【請求項13】
左心室内に構造上存在しないよう構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
前記生来の弁尖と構造上係合しないよう構成されている、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
肺動脈内に構造上存在しないよう構成されている、請求項12に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2016年8月11日に出願された、HEART CHAMBER PROSTHETIC VALVE IMPLANT WITH STENT,SPRING AND DOME SECTIONSと題する米国仮特許出願第62/373541号、2016年8月11日に出願された、HEART CHAMBER PROSTHETIC VALVE IMPLANT WITH STENT,MESH AND DOME SECTIONSと題する米国仮特許出願第62/373560号、および2016年8月11日に出願された、HEART CHAMBER PROSTHETIC VALVE IMPLANT WITH ELEVATED VALVE SECTIONと題する米国特許仮出願第62/373551号の利益を主張し、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
連邦政府資金による研究開発の記載
該当なし
【0002】
本発明は、装置および心腔内に装置を移植するための方法に関する。より具体的には、本発明は、完全に単腔内に配置された固定構造と、生来の弁機能の保存および/または置換のために配置された人工弁とを含む単腔固定フレームに関する。
【背景技術】
【0003】
人間の心臓は、心臓を通る血液の順方向(順行性)の流れを助ける4つの心腔および4つの心臓弁を含む。心腔は、左心房、左心室、右心房、および左心室を含む。4つの心臓弁は、僧帽弁(mitral valve)、三尖弁(tricuspid valve)、大動脈弁(aortic valve)、および肺動脈弁(pulmonary valve)を含む。一般に図1を参照されたい。
【0004】
僧帽弁は、左心房と左心室との間に配置され、左心房への逆流を防ぐための一方向弁として作用することによって、左心房から左心室への血流の制御を助ける。同様に、三尖弁は右心房と右心室との間に配置され、一方、大動脈弁および肺動脈弁は心臓から血液を流す動脈内に配置される半月弁である。これらの弁はすべて一方向弁であり、順方向(順行性)の血流を可能にするために開く弁尖を有する。正常に機能している弁尖は、逆流した血液によって加えられた圧力の下で閉じて、それがちょうど流出した心腔への血液の逆流(逆行)を防止する。例えば、僧帽弁は、適切に機能するとき、左心房と左心室との間の一方向弁を、左心房から左心室への順行性の流れを可能にするために開き、左心室から左心房への逆行性の流れを防ぐために閉じる。この逆行性の流れが存在する場合、それは僧帽弁逆流として知られている。
【0005】
図2は、僧帽弁尖に対する左心房、弁輪、腱索、および左心室の間の関係を示している。示されるように、弁輪の上面は、左心房腔(left atrial chamber)の床または下面の少なくとも一部を形成し、したがって、本明細書の説明の目的のために、弁輪の上面は、左心房腔の下部境界をマークするものとして規定され、指定された上部環状面上に載置または装着された移植物の一般的な位置を示す少なくとも1つの点Aによって一般的に表され、その指定は以下で詳細に論じられる。実際には、固定構造および人工弁を単一の心腔内に配置する目的で、生来の弁尖と干渉することなく、2つ以上の点Aを使用して上部環状面を指定することができる。
【0006】
左心房と左心室との間で血液が一般に下方の順行方向に流れる弁輪の領域が生じるが、生来の弁尖の屈曲点より上の部分は、本明細書では内輪(inner annulus)と呼ばれる。弁輪、生来の弁尖、指定された上部環状面および内輪の断面図については、図7Aおよび図7Bを参照する。上記の指定された上部環状面は、左心房の少なくとも一部の下部境界を画定することに留意されたい。したがって、指定された上部環状面はまた、例えば当業者に知られているように環状平面を覆うように、それ自体弁輪を横切って延びることができる。しかしながら、指定された上部環状面はまた、以下でさらに説明されるように、ある距離だけ弁輪内に下方(順行性)に延びてもよいが、指定された上部環状面に配置される構造が、例えば、生来の弁尖の屈曲点において、内輪内の生来の弁尖の機能性に悪影響を及ぼし得る点を超えて下方(順行性)に延びてはならない。
【0007】
生来の心臓弁は、限定はしないが、疾患、外傷、先天性奇形、および加齢を含む様々な理由および/または状態のために機能不全になり得る。これらの種類の状態は、僧帽弁が機能不全に陥った場合に、弁構造を適切に閉じることができず、その結果、左心室から左心房への逆行性血流を生じさせる可能性がある。図3および図4は、機能不全の僧帽弁に伴う逆流性血流を示している。図4は、弁尖と左心室から左心房への逆流性血流との間の癒合の喪失を伴う、逸脱する生来の弁を示している。
【0008】
僧帽弁逆流は、少なくともいくらかの逆行性の血流が右心房から左心房に逆流することを可能にする機能不全の僧帽弁から生じる特定の問題である。場合によっては、機能不全は、逆行性の流れを阻止するために接続または接合するのではなく、左心房腔に、すなわち線または平面Aで示されるように弁輪の上面の上方に逸脱する僧帽弁尖から生じる。この血液の逆流は、僧帽弁逆流症の長期の臨床経過の間にかなり変化する心室腔の大きさおよび形状のリモデリングを含む一連の左心室代償的適応および調整(left ventricular compensatory adaptations and adjustments)を招く可能性がある体積負荷で左心室に負担をかける。
【0009】
したがって、一般的に、例えば僧帽弁などの生来の心臓弁は、部分的または完全な置換を含む機能的修復および/または補助を必要とすることがある。そのような介入は、開心術および置換心臓弁の開心移植を含むいくつかの形態をとり得る。侵襲性が高く、患者のリスクを伴い、入院期間の延長だけでなく、非常に痛みを伴う回復期間も必要とされる処置については、例えば、米国特許第4,106,129号明細書(Carpentier)を参照されたい。
【0010】
機能不全の心臓弁を置換するための低侵襲性の方法および装置も知られており、経皮的アクセスおよび置換弁のカテーテル促進送達が含まれる。これらの解決策の大部分は、当技術分野で一般的に知られているステントなどの構造支持体、または送達カテーテルからの解放時に拡張するように設計された他の形態のワイヤネットワークに取り付けられた置換心臓弁を含む。例えば、米国特許第3,657,744号明細書(Ersek);米国特許第5,411,552号明細書(Andersen)を参照されたい。支持ステントの自己拡張型は、弁を位置決めし、拡張された装置を対象の心腔または血管内の所定の位置に保持するのを助ける。この自己拡張された形態はまた、多くの場合そうであるように、装置が最初の位置決めの試みにおいて適切に位置決めされず、したがって再捕捉されそして位置的に調整されなければならないとき問題を提示する。完全にまたは部分的に拡張された装置の場合のこの再捕捉プロセスは、操作者が収縮した装置を送達シースまたはカテーテル内に引き戻し、装置の内向き位置を調整することを可能にする点まで装置を再び収縮させることを必要とし、次に、位置的に調整された装置を送達シースまたはカテーテルから遠位に再配置することによって適切な位置に再拡張する。拡張されたステントまたはワイヤネットワークは一般に、縮小力または収縮力にも抗する拡張状態を達成するように設計されているので、既に拡張された装置を収縮させることは困難である。
【0011】
上述の開心術外科的アプローチに加えて、関心のある弁へのアクセスを得ることは、少なくとも以下の既知のアクセス経路のうちの1つを介して経皮的に達成される:経心尖;経大腿;経心房;および経中隔送達技術(transapical; transfemoral; transatrial; and transseptal delivery techniques)。
【0012】
一般に、当技術分野は、上述の既知のアクセス経路のうちの1つを使用して、収縮した弁装置の部分送達を可能にするシステムおよび方法に焦点を合わせており、装置の一端は、送達シースまたはカテーテルから解放され、そして最初の位置決めのために拡張され、続いて適切な位置決めが達成されたときに完全に解放および拡張される。例えば、米国特許第8,852,271号明細書(Murray,III);米国特許第8,747,459号明細書(Nguyen);米国特許第8,814,931号明細書(Wang);米国特許第9,402,720号明細書(Richter);米国特許第8,986,372号明細書(Murray,III);米国特許第9,277,991号明細書(Salahieh);米国特許出願公開第2015/0272731号明細書(Racchini);および米国特許出願公開第2016/0235531号明細書(Ciobanu)を参照されたい。
【0013】
さらに、すべての既知の人工心臓弁は、生来の心臓弁の完全な置換を意図している。したがって、これらの置換心臓弁および/または固定もしくは係留構造は、僧帽弁の場合には左心房腔の外に物理的に延在し、内輪および/または弁尖と係合して、多くの場合内輪の壁に生来の弁尖をピン止めし、これにより、生来の弁の残りの機能をすべて完全に排除し、患者が完全に置換弁に頼るようにする。さらに、特定の実施形態はまた、1つまたは複数の肺動脈内に延在しない物理的に拡張され移植された構造を含み得る。他の場合では、固定構造は、左心室の中に延び、左心室壁組織および/または左心室の頂部のサブ環状面の中に固定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第4,106,129号明細書
【文献】米国特許第3,657,744号明細書
【文献】米国特許第5,411,552号明細書
【文献】米国特許第8,852,271号明細書
【文献】米国特許第8,747,459号明細書
【文献】米国特許第8,814,931号明細書
【文献】米国特許第9,402,720号明細書
【文献】米国特許第8,986,372号明細書
【文献】米国特許第9,277,991号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/0272731号明細書
【文献】米国特許出願公開第2016/0235531号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
延長、購入、固定、操作、および/または関連する生来の弁機能の同時の減少または排除を伴う左心房の外側の、組織、弁および/またはチャネルおよび/または心腔との、流体連通、作動接続および/または係合を必要とする人工弁移植解決策の各々は、改善を必要とする。便宜上、本明細書ではこれらの解決策をまとめて二腔(two-chamber)解決策と呼ぶ。一般的に言えば、生来の弁尖がいくらかの機能性を保持する場合、好ましい解決策は心臓弁の生来の機能を維持および/または保持するものであり、したがって完全な置換よりも生来の弁およびその機能の補充または増強が好ましい。
【0016】
明らかに、介入移植処置の前に生来の弁が実質的に完全に機能性を失っている場合があり得る。この場合、好ましい解決策は、例えば左心房の外側まで広がらず、生来の弁機能を完全に置換するように機能する移植を含むことになる。しかしながら、他の多くの場合において、生来の弁はある程度機能を残したままであり、そして移植処置後に機能性を失い続けるかもしれないし、しないかもしれない。この場合の好ましい解決策は、生来の弁尖機能を可能な限り保存するために、生来の弁尖機能を損なうことなく、補助弁または増強弁として機能し得る弁装置の送達および移植を含み、一方で、人工弁の移植後にその機能のほとんどまたはすべてをゆっくり失う弁の生来の機能を完全に置換することができる。さらに、特定の実施形態はまた、1つまたは複数の肺動脈内に延びていない、またはそれと係合していない物理的に拡張され移植された構造を含むことができる。
【0017】
二腔解決策にはさらなる問題がある。それらは不必要に嵩張って長く、厳密な構造的観点から送達および位置決め/再捕捉/再位置決めをより困難にする。さらに、二腔解決策は、心室の固定および/または係留接続が位置を保持するのに必要とされる点で困難をもたらす。さらに、これらの解決策は、左心室内に配置されている装置部分が弁輪を通って導かれなければならず、内輪および生来の僧帽弁の少なくとも一部を通過し、それによって必然的に永久的に破壊されるため、上述のように生来の弁機能を妨げ、ある場合には、生来の弁尖の残りの接合能力および機能性を排除する。加えて、多くの二腔解決策は、一般に、いくつかの生来の組織の侵襲的固定を必要とし、その結果、不必要な外傷および潜在的な合併症をもたらす。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本明細書に記載の特定の本発明の実施形態は、他に示さない限り、単腔または二腔解決策に容易に適用可能である。さらに、本明細書で説明される特定の実施形態は、一般的に生来の弁機能の保存および/または置換に適用することができ、したがって僧帽弁に限定されない。
【0019】
本明細書に開示されているいくつかの発明の様々な実施形態は、とりわけこれらの問題に対処する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】心臓の特定の特徴を断面で示す図である。
図2】心臓の左側の断面斜視図である。
図3】正常な血流と比較した僧帽弁逆流から生じる逆行性血流を示す心臓の断面図である。
図4】僧帽弁尖の逸脱と逆流血流を示す心臓の一部の断面図である。
図5A】弁輪および本発明の一実施形態の上面図である。
図5B】弁輪および生来の弁尖ならびに本発明の一実施形態の断面側面図である。
図5C】弁輪および生来の弁尖ならびに本発明の一実施形態の断面側面図である。
図5D】弁輪および生来の弁尖ならびに本発明の一実施形態の断面側面図である。
図5E】弁輪および生来の弁尖ならびに本発明の一実施形態の断面側面図である。
図6】本発明の一実施形態の斜視図である。
図7】本発明の一実施形態の斜視図である。
図8】本発明の一実施形態の底面図である。
図9】本発明の一実施形態の破断斜視図である。
図9A】本発明の一実施形態の斜視図である。
図10】本発明の一実施形態の破断斜視図である。
図11】本発明の一実施形態の斜視図である。
図12】本発明の一実施形態の斜視図である。
図13】本発明の一実施形態の斜視図である。
図14】本発明の一実施形態の斜視部分破断図である。
図15】本発明の一実施形態の斜視部分破断図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の様々な実施形態は、単腔固定部による解決策を含み、この解決策は、(1)生来の弁機能の保存(preservation);(2)その後の生来の弁機能の完全な置換を伴う、生来の弁機能の初期保存;(3)生来の弁機能の完全な置換(replacement);および(4)生来の弁尖機能性を可能な限り保存するために、上部環状面の上方で左心房腔内への逸脱する弁尖の前方偏位(anterior excursion)を防止することによる機能不全弁尖の逸脱距離の緩和、を含む。
【0022】
説明したように、既知の人工心臓弁は、生来の心臓弁(native heart valve)の完全な置換を目的としている。したがって、これらの置換心臓弁は、内輪および/または弁尖と物理的に係合して、多くの場合内輪の壁に生来の弁尖(native leaflets)をピン止めし、これにより、生来の弁の残りの機能をすべて排除し、患者が完全に置換弁に頼るようにする。一般的に言えば、生来の弁尖(native valve leaflets)がいくらかの機能性を保持する場合、好ましい解決策は心臓弁の生来の機能を維持および/または保持するものであり、したがって完全な置換よりも生来の弁およびその機能の補充(supplementation)または増強が好ましい。
【0023】
場合によっては、生来の弁は、介入移植処置の前に実質的に完全な機能性を失っていたはずである。この場合、推奨される解決策は、生来の弁に代わる完全な機能の置換を提供する。
【0024】
他の場合では、生来の弁は、人工弁の移植後にある程度の機能性を保持するが、時間とともに生来の機能性を失い続けることになる。したがって、これらの場合の好ましい解決策は、生来の弁尖機能性を可能な限り保存しかつ維持するために最初は補助機能弁として機能し、時間が経つにつれて、徐々に生来の機能を失うように、弁の生来の機能の代わりとして機能する、弁装置の送達および移植を含む。したがって、これらの場合の好ましい解決策は、最初は必要とされる低い補充または増強支持レベルのみで生来の弁機能を維持し、同時に生来の弁尖機能がゆっくり劣化するにつれて、ますます増加する補充需要に対応するために、徐々に増大する補充または増強支持レベルを提供することができる。最終的には、完全な置換機能が推奨される解決策によって提供され得る。
【0025】
これに関連して、本発明の様々な実施形態の特徴は、逸脱する弁尖が上部環状面の上方および左心房内に上昇するのを防止して、生来の弁尖機能のさらなる支持および長期にわたる保存を提供することである。
【0026】
さらに、単腔(single-chamber)の、拡張され移植された装置構造は、図に示すように特定の実施形態を含む。したがって、拡張され移植された装置構造のこれらの実施形態は、境界、例えば、図面に示され、当技術分野で言及されるような環状平面の下に延びる構造を含んではならない。あるいは、環状スロート内で、さらに論じられるように、いかなる構造も画定された境界の下に延びてはならない。さらに代替的には、特定の実施形態は、心腔(例えば左心房)からそれと流体連通している血管(例えば図に示されるような肺動脈)の中へ延びる拡張され移植された装置構造の構造を含んではならない。
【0027】
したがって、特定の実施形態では、左心房内の、拡張され移植された構造は、生来の弁尖を含む患者の僧帽弁、左心室および肺動脈のうちの1つまたは複数に存在しないか、または係合し得ない。
【0028】
さらに、本発明の実施形態は、収縮した人工心臓弁構造の心腔(heart chamber)、例えば左心房への送達を含み得、これは、生来の弁尖を含む患者の僧帽弁(mitral valve)、左心室、および肺動脈のうちの1つまたは複数の中に存在しないか、または係合しないことを含む。
【0029】
本発明の様々な実施形態は、上記の各状態に対する好ましい解決策を含む。
【0030】
ここで図5A図5Eを参照すると、弁輪(annulus)の上面または上部環状面の指定場所または位置は、少なくとも2つの点Aを指定することによって達成され得、それらの各々は、上部環状面の現在指定された場所になければならない。図5Aおよび図5Bに最もよく示されている平面Bは、左心房の弁輪の指定された上面上に配置された少なくとも2つの指定された点Aとほぼ同一平面上にある平面を表す。指定された少なくとも2つの点Aの重要かつ要求される特徴は、それらが生来の弁尖の屈曲点FPより上に位置することを必要とする。この構成は、次に、弁輪を横切って、または場合によっては内輪の中に延びる構造の最下部を見つけることを容易にする。したがって、指定された少なくとも2つの点にまたはそれより上に位置する最下部を有する構造は、残りの正常な生来の弁機能に悪影響を及ぼさないであろう。当業者であれば、図5Bに示されるように平面Bを一般に環状平面(annular plane)と呼ばれる平面の上に存在するか、またはそれと共線的であるとして認識するが、以下に説明されるように、他の場所が上部環状面に指定されてもよく、それぞれが本発明の範囲内である。
【0031】
さらに、特定の実施形態における内輪を含む、弁輪に対する左心房および/または左心房腔の最下点、または床は、本明細書では、指定された少なくとも2つの点Aを結ぶ直線または曲線の少なくとも1つの線によって見つけられるものと定義される。したがって、曲線または曲線であり得る一連の線の場合、平面Bとして示されるほぼ平坦な平面は、図5Bに示されるように曲線状シートCを形成し得、そしてシートCを横切る曲線状の変化を含み得る。
【0032】
指定された少なくとも2つの点Aによって画定され指定された上部環状面にまたはそれより上に位置する最下部を有する構造、およびそれを接続する平坦な平面Bまたは曲線状シートCは、本明細書では、左心房または左心房腔内にあると画定される。
【0033】
指定された少なくとも2つの点Aおよびそれを接続する平面Bまたは曲線状シートCによって画定されるような弁輪の上面の下に位置する構造は、本明細書では左心房または左心房腔の外側に位置するとして画定される。
【0034】
弁輪に対する左心房の下側境界の画定、および左心房下側境界の内側にあるものと外側にあるもの対応する画定は、少なくとも2つの点の指定を超える単一の要件を有し、すなわち、指定された少なくとも2つの点Aおよび対応する平面Bまたは曲線状シートCの場所は、いかなる点でも生来の弁尖の機能性に悪影響を及ぼし得ない。当業者が容易に認識するように、左心房または左心房腔の残りの境界は、心腔壁および上面またはルーフを含む。ここでは、左心房または左心房腔の境界のこの画定は、左心房または左心房腔の画定された境界の外側に延びる固定構造または他の構造なしに、左心房または左心房腔内でのみ構造を配置および固定するための基礎を形成する。
【0035】
本明細書に記載の人工心臓弁装置の様々な実施形態の最下部は、一部の実施形態では、逸脱する僧帽弁に対する障壁を提供し、それによって、上述のように指定された上部環状面の内輪内の深さに応じて異なる程度に逸脱を防止する。これは、本発明の実施形態の独創的な目的の1つである。しかしながら、内輪内に下方に延びることができる様々な実施形態の最も下の構造は、本明細書で定義されるように設計された上部環状面にまたはそれより上に位置しなければならない。
【0036】
図に示されるように、少なくとも2つの指定された点A、およびそれらを接続する平面Bまたは曲線状シートCは、常に生来の弁尖の屈曲点FPより上に位置することが理解されよう。これは、ある場合には、生来の弁尖の逸脱を様々な程度まで防止し、同時に生来の弁尖の機能性に悪影響を及ぼさないようにすることを可能にする特徴の1つである。なお、図5Cにおいて、弁輪を横切って延びる曲線状シートCの部分は、環状平面として一般に知られているものより下で下向きに湾曲または下降することができるので、指定された上部環状面は内輪への下向きの延長または偏位を含むことができる。指定された上部環状面について上述した要件に従って曲線状シートCがすべての点で、例えば、生来の機能性を妨げないように生来の弁尖の屈曲点PFの上方に位置するように維持される限り、この構成は本発明の範囲内である。
【0037】
あるいは、基部100の下面106の少なくとも一部はまた、弁輪の少なくとも一部を囲む左心房の下面に載ってもよい。
【0038】
さらに代替的な一連の実施形態では、弁尖の少なくとも部分的な接合が可能である限り、設計された上部環状面の一部は、その生来の機能性を依然として維持しながら、生来の弁尖の屈曲点FPより下に延びてもよい。さらに、生来の弁尖の機能性が非常に劣っていると評価される場合、弁構造は内輪を通って下方に延びて生来の弁尖を壁組織に対して効果的にピン止めすることができる。これは稀な場合にのみ可能な解決策とされようが、それは記載されている本発明の範囲内である。この実施形態では、上部環状面もまた、生来の弁尖の屈曲点より下の場所に画定され指定されている。
【0039】
弁輪の上面と少なくとも2つの指定された点Aおよび平面Bとの関係および画定は、図5Dおよび図5Eにさらに示されている。そこでは、弁輪は、高さHを有する弁輪の内部チャネルとして示される内輪を有する側面断面図で示されている。図5Dは、環状平面とほぼ整列した対応する平面Bを有する弁輪の上面を示している。図5Eは、弁輪の上面が図5Dの場所のやや下の平面B’として示される代替案を示している。しかしながら、いずれの場合も、平面Bおよび/または曲線状シートCによって示されるような弁輪の位置および場所指定の上面は、生来の弁尖の屈曲点FPより上になければならないため、少なくとも弁輪の上面に載置されることになる基部100の移植された下面106は、生来の弁尖機能を妨害しない。この別の実施形態は、弁輪の上面を位置決めおよび配置するため、したがって移植の際に基部100の下面106を配置するために、関連する平面Bまたは曲線状シートCを有する複数の指定点Aがあることをさらに説明するためのものである。
【0040】
ここで図6および図7を参照すると、本発明の一実施形態は、当技術分野で知られているように拡張可能かつ収縮可能なウェブまたはセルを有するベースステント100と、図示のような中間ばね状部分200と、心房ドーム300と、を含む収縮可能かつ拡張可能な固定構造(anchoring structure)10を含み、中間ばね状部分200は、ベースステント100および心房ドーム300と動作可能に接続されている。図5は、左心房内にあり、左心房の外側の構造との関与、係合または干渉がない状態の固定構造10を示している。
【0041】
基部100は、内面102、外面104、直径D1を有する下面106、直径D2を有する上面108、および下面106と上面108との間の垂直方向の長さとして一般に定義される高さH1を含む。基部100は、周知のように、収縮および拡張することができるステントまたは他の構造を含むことができる。基部100は、収縮状態から拡張状態を達成するために拡張するように付勢され得るのが好ましいが、他の収縮拡張機構も採用され得る。さらに、基部100は、心腔壁および床の生来の動きに合わせて拡張および収縮するために複数の拡張状態を達成することができる。基部100は、当技術分野で知られているように拡張状態を達成するように付勢された形状記憶材料、例えばニチノールまたは同様のワイヤメッシュ構造または滑り要素構造を含むことができる。同様に、形状記憶ポリマーを基部100の少なくとも一部に使用することができる。
【0042】
好ましくは、左心房に移植されるとき、基部の外面104は、少なくとも、左心房内の左心耳(LAA)を包含する壁の少なくとも周方向領域においてLAAを密封するために心房壁に適合してこれをシールする材料Mで覆われる。
【0043】
図6および図7は、指定された上部環状面を表すものとして上述した例示的な平面Bを占める基部の下面106を示しているが、本明細書でも説明するように他の指定および場所も可能である。人工一方向弁400は、一方向流体連通を可能にするように一般に弁輪と整列しており、基部100内に配置され、上述のように弁輪の上面の指定場所を表す例示的な平面B上に一般に存在するものとして示されている。人工弁400は、少なくとも1つ、好ましくは2つの弁尖402を含み、図8に見られるように、ベースステント下面106を通る一方向開口部404を画定し、それを通る流体の流れとそれに続く弁輪への流れを促進するが、逆流は阻止される。人工一方向弁400は、弁支持体装置、例えば、流体の流れに対して開いており、一方向人工弁が開いているときに心房血液および弁輪と流体連通する中央シリンダ406を備えていてもよい。中央シリンダ406は、弁尖402の支持および取り付けを提供するように構成され、中央シリンダ406は、左心房内で受け取られた流体の流れに対して開き、いくつかの実施形態では、受け取った流体の流れを弁尖402に向けて流し込むまたは集中させるように構成される。
【0044】
図9に見られるように、中央シリンダ406は、中央シリンダ406の下面408またはその近くに配置された弁尖402を含むことができる。代替として、弁尖402は、破線402’によって示される例示的な実施形態を用いて、下面408の上方にある中央シリンダ406内の場所に配置されて動作可能に接続されてもよい。
【0045】
あるいは、アパーチャ、例えば図8の開口部404は、弁輪と実質的に整列され、平面B内または曲線状シートCに沿って少なくとも2つの指定された点Aに沿って配置され、一方向弁の機能を促進するために、それに取り付けられた人工弁尖を設けることができる。弁支持体装置、例えば、存在する場合、中央シリンダ406は、基部100の高さよりも小さい、基部100の高さよりも大きい、または基部の高さに等しい高さH2および下面408を含む。中央シリンダ406はまた、基部100の下面106および上面104の両方の直径よりも小さい直径D3を含む。
【0046】
人工一方向弁400、具体的にはその下面408は、本明細書で定義されるように弁輪の指定された上面より下に延びることができないので、生来の弁機能は、本明細書に記載の稀な場合を除いて排除またはさもなければ低減されないことが好ましい。
【0047】
当然のことながら、特定の実施形態では、中央シリンダ406およびその中に支持された弁尖402は、中央シリンダ406の下面408が、移植時に基部の下面106のものより下に延びることができるように構成および位置決めされ得る。例示的な実施形態の説明については図9Aを参照されたい。また、この構成では、弁尖402は、中央シリンダ406に沿ってその中の任意の場所に配置されてもよい。しかしながら、これらの実施形態では、その上に下面408を含む中央シリンダ406は、可能な限り生来の弁尖の機能を保存するという本発明の目的の1つを達成するために、生来の弁尖機能を侵害するような場所には配置されない。言い換えれば、この実施形態では、中央シリンダ406の下面408は、少なくとも2つの指定点および/または本明細書で定義されるような対応する平面Bもしくは曲線状シートCによって画定される指定された上部環状面に沿って配置され得、一方で、基部100の下面106は、指定された上部環状平面のわずかに上の場所に位置してもよく、あるいは基部100の下面106と中央シリンダ406の下面408の両方が指定された上部環状平面にまたはそれより上に位置してもよい。
【0048】
さらに、中央シリンダ406は、代替的に、広範囲の代替のリーフ接続構造を含んでもよく、単純な円筒形以外の形状、例えば、長方形、楕円形、多角形、円錐形などが、上述の機能を保持しながら使用されてもよい。これらの代替案のそれぞれは本発明の範囲内である。
【0049】
ここで中間ばね状部分200に目を向けると、図6および図7に示されている実施形態は、例えば確かにばねに限定されないが、複数のばね要素(spring element)202を含む。部分200内で使用されるばね要素202は、本明細書では、非弾性的に圧縮することができ、装置が圧縮されている間に付勢力をもたらす機械的エネルギーを蓄えるために使用される構造または装置を含むものとして定義される。したがって、本実施形態のばね要素202がその静止位置から弾性的に圧縮または伸張されると、その長さの変化にほぼ比例する反対方向の力を及ぼす。一般に、部分200のばね要素202は第1の端部204と第2の端部206とを含み、各ばね要素200の第1の端部204は基部200と動作可能に接続し、各ばね要素202の第2の端部204は心房ドーム(atrial dome)300と動作可能に接続している。移植されたとき、ばね要素200のそれぞれは、弾性的に圧縮されていないことが好ましく、その結果、ばね要素200はそれぞれ、心房ドーム300を基部200から分離する傾向がある力を加え、それによって、最終的にばねをその圧縮されておらずかつ伸長されていない平衡位置に戻すために、それらの間の距離D3を増加させるように努める。したがって、移植されたときの心房ドーム300と基部200との間の距離D3は、移植され拡張されていないとき、特定の実施形態では移植され収縮されていないときの心房ドーム300と基部200との間の距離D3より小さい。これらの力は、次に、心房ドーム300と心房腔の上面との間、ならびに基部200と、弁輪の上面および/または心房腔の床との間で伝達され、また、特定の実施形態では心房腔の壁組織に対して伝達される。
【0050】
ばね要素202は、さらに好ましくは、ばね要素202のある程度の圧縮を維持する圧縮状態で移植され、その結果、心房腔内の生来の設置および拡張状態は、複数のばね要素200から設定されたほぼ上向きおよび下向き(軸方向)に付勢される力を含む。
【0051】
ばね要素202は、形状記憶などの弾性または超弾性材料、例えばニチノール、ポリマーなどであり得る。あるいは、ばね要素202は、心房ドーム300と基部200とを分離する傾向がある一定の付勢力を提供するために、機械的もしくはガス圧縮構造、または非弾性圧縮によりエネルギーを蓄えることを可能にする任意の構造のショックアブソーバ構造を含んでもよく、これにより、ばね要素202が非弾性的に圧縮された状態で移植されたとき、心房ドーム300および基部200を心房腔の組織内に押圧する。
【0052】
ばね要素によって生じる付勢力は、装置10の様々な態様、例えば、基部の外面104と下面106および/または心房ドーム300、ならびに心房腔の輪郭、例えば、上部環状面、心房腔の床、および/または心房腔の壁の間の一般的な相補的構造適合との組み合わせにおいて、少なくとも基部100の回転または並進なしに、固定構造が左心房内の適所に留まることを可能にする。加えて、様々な実施形態において、とりわけ、ばね要素202は、心房壁組織内で時間とともに少なくとも部分的に内皮化されてもよく、それにより、さらなる固定支持を提供する。この構成はまた、心房ドーム300および基部100の互いに対する屈曲性のほぼ軸方向の並進運動を可能にし、ばね要素202は中間ばね状部分200の複数の半径方向におけるいくらかのコンプライアンス屈曲を可能にし、それによって移植された人工弁が心臓の生来の動きに合わせて動くことができるようになる。
【0053】
あるいは、図7に示すように、複数のばね要素200を、拡張または収縮特性がほとんどまたは全くない剛性ワイヤ(rigid wire)208と組み合わせて(おそらく交互に)設けてもよく、基部100(ある実施形態では、基部100の上面108)と心房ドーム300の外面302、例えばワイヤ境界(wire boundary)との間に設けてもよい。この構成は、基部100に対する心房ドーム300の実質的な下方への撓みまたは圧縮を防止する傾向がある一方で、構造体に付勢する上方への拡張力を提供し得る。あるいは、複数の剛性ワイヤ208のみが、基部100(ある実施形態では基部100の上面108)と心房ドーム300の外面302、例えばワイヤ境界との間に接続されてもよい。これらの剛性ワイヤ208はまた、追加の固定支持を提供する心房腔組織と共に時間とともに内皮化され得る。
【0054】
この構成はまた、左心房内にしっかりと固定することを可能にし、その一方で、基部100に対する心房ドーム300の軸方向の屈曲ならびに中間ばね状部分200の屈曲コンプライアンスを可能にするが、ばね部材のみの実施形態よりも少ない程度、またはより制御された程度までである。
【0055】
図示のように、ばね要素の第2の端部はドーム構造の外面と動作可能に接続されている。ドーム、例えば心房ドームは、直径を有し、ばね要素の第2の要素に関連するワイヤ境界から形成されてもよく、任意の閉じた幾何学形状、例えば円形、楕円形、三角形、多角形を含んでもよい。ドームは、ドーム構造を横切る直径または最大距離D4を含むことができ、それは好ましくはベースの上面の直径よりも小さい。
【0056】
ある場合には、ベースステント内に配置された中央シリンダの直径と等しい直径、またはドーム構造を横切る最大距離が含まれてもよい。この場合、剛性またはばね状の、あるいはおそらく交互に組み合わせて配置された複数の支持ワイヤまたはストラットが、中央シリンダおよびドーム構造を画定するワイヤ境界と実質的に垂直に整列して動作可能に接続され、さらなる軸方向力および/または支持を提供することができ、これにより、その軸方向の拡張力を心腔ルーフの表面上の比較的小さい領域に集中させるが、その力は一点に集中しない。代わりに、開放構造の場合、軸方向の拡張力はドーム構造の外面の周りに分散される。さらに、例えばドーム内部材料が成形ドームのように不適合性または剛性であるいくつかの閉構造構成では、軸方向拡張力も内部材料自体全体に分散され、これは次に心腔ルーフと圧接する。ドームが成形されている場合には、ワイヤ境界が必要であってもなくてもよい。ワイヤ境界が必要でなければ、必要な接続は成形材料と直接行われる。
【0057】
心房ドーム300は、開放構造、すなわち、ワイヤ境界の内側部分に内部材料がない構造をさらに含んでもよく、または図示のように閉じられている、すなわち内部材料がワイヤ境界の内側部分、例えば組織、ファブリックなどを覆うことができる構造であってもよい。心房ドーム300は、可撓性の適合性ワイヤ境界を備えてもよく、または剛性であってもよい。心房ドーム300は、閉構造の場合、可撓性の内部材料と組み合わせて可撓性の適合性ワイヤ境界をさらに含んでもよい。さらに代替的には、ドームは、閉構造において、可撓性の内部材料または剛性の内部材料と組み合わせた剛性の適合性ワイヤ境界を含んでもよい。あるいは、ドームの閉構造の実施形態は、図示のような形状の成形片を含んでもよく、またはドームの表面から下方に延びる周方向リップ表面を含んでもよい。成形された実施形態は、装置に対してさらなる軸方向の撓み/圧縮保護を提供する。
【0058】
ばね要素は、図6および図7に、おおむね弧状の、わずかに内向きの角度αを有する凹状の外形と、角度αと同じでも異なってもよいわずかに内向きの角度α’を有する剛性ワイヤ部材(存在する場合)とを有する、心腔の壁の形状にほぼ一致するように示されている。あるいは、図10に示すように、ばね要素202、および存在する場合に剛性ワイヤは、付勢されたばね要素202からの心房力伝達、ならびに心腔内での装置の圧力と摩擦の適合をさらに最大にするために、基部100の上面と心房ドーム300の外面、例えばワイヤ境界との間に角度αの内向きの角度を達成するために、より短い長さで設けられてもよい。剛性ワイヤが存在するとき、それらはまた、角度αと等しくても異なっていてもよい角度α’で角度を付けられてもよい。一般に、図10の構造において、角度α,α’は、図6および図7の構造の角度α、α’よりも鋭角である。
【0059】
さらに、基部100は、上部環状面と接触しているか、または上部環状面まで延在していてもよく、心腔表面に対してさらなる圧力と摩擦の適合を達成するための半径方向拡張力を提供する。
【0060】
図11は別の代替の実施形態を示しており、ここではばね要素202、および存在する場合、剛性ワイヤが、比較的小さい領域に集中した軸方向力を利用して、拡張時に達成される圧力と摩擦の適合を最大にする。したがって、ばね要素202および剛性ワイヤは、存在する場合、他の実施形態におけるように弁部分400も含む基部100に対して実質的に90度である。したがって、軸方向の力の集中は心房ドーム300に直接伝達され、ドーム300が開放構造でありかつ心房ドーム300を通るとき、ストラットなどのクロス部材で覆われているか織り交ぜられているとき、および特にカバーが成形材料であるときに、周囲に分散される。この軸方向の力の集中は、支持ストラットがベースステントから心房ドームの外周への本質的に直線の接続部と角度を成すときに最大になる。
【0061】
図12および図13は、代替の固定構造10の構成を示しており、ここでは、中間部200を備える可撓性の、およびいくつかの実施形態では拡張可能なメッシュが、ばね要素または、上述した剛性ワイヤ構成を有するばね要素ではなく、基部100の上面と接続された状態で示されている。上述のように少なくとも1つの人工弁尖をその中で動作可能に接続して支持する弁支持体400が、基部100内で動作可能に接続された状態で示されている。上述の心房ドーム構造体300は、ワイヤメッシュと、および本明細書の様々な実施形態に関して説明した形状および材料と動作可能に接続され得る。上述のように、そして図12に示すように、心房ドーム300は覆われた表面を含むことができ、または図13のように、心房ドームは外面302または境界、例えばワイヤ境界によって画定される開放構造を含むことができ、この境界は、拡張可能構造が拡張され移植されるとき、心腔の上面またはルーフと少なくとも部分的に動作可能に接続することになる。境界、例えばワイヤ境界302は、特に開放心房ドームの実施形態の場合には、可撓性の拡張可能なメッシュ材料のための取り付け点として機能し得る。あるいは、上記のように、心房ドーム300は覆われた領域を含み得る。さらに代替的には、心房ドーム300は、ワイヤメッシュ部分の上部に取り付けられ、かつその上に置かれる別個の構造を含み得、その結果、ワイヤメッシュ部分の上部には開口部または切り欠き部がない。
【0062】
加えて、図13は、図12のメッシュ(図13には示されていないメッシュ)と共に上述したばね要素202および/または剛性ワイヤ要素208を組み込むことを示している。これに関連して、ばね要素202および/または剛性ワイヤ要素208は、メッシュの内面および/またはメッシュの外面に配置されてもよい。あるいは、ばね要素および/または剛性ワイヤをメッシュ構造に一体化するか、またはそれを通して織り込み、そして上述のように、基部と心房ドームとの間に接続することができる。
【0063】
図12はまた、心房ドーム300への軸方向の力の伝達を助け、ドーム300が開放構造でありかつ心房ドーム300を通るとき、覆われているとき、特にカバーが成形材料であるときその力が周りに分散される代替構造を示している。したがって、この代替の実施形態では、ストラット222は破線で示され、固定を助けるために基部100と心房ドーム300との間で軸方向の力を直接伝達する。ストラット222は、剛性であり得るか、またはいくらかの軸方向コンプライアンスおよび/または半径方向の可撓性を含み得る。
【0064】
さらに、存在する場合に中央シリンダとドームとの間に動作可能に接続することができる、上述の剛性および/またはばね状の支持要素を、図12のワイヤメッシュ構造と共に含めることができる。さらに代替的には、剛性および/またはばね状の支持要素が存在する場合、ドーム構造は含まれていない実施形態では、上記のように正面または側面から見たときに実質的に垂直の向きで、中央シリンダをワイヤメッシュと直接接続することができる。
【0065】
本明細書に記載の各実施形態では、拡張および移植後の構造は、生来の弁尖機能性を不利に妨害したり損害を与えたりしない位置で心腔内に配置されている。その配置と位置決めを上に述べた。一般に、本発明の概念は、人工弁構造を生来の弁尖の屈曲点FPにまたはそれより上に位置決めおよび/または配置することを含む。ここで図14図15を参照すると、例示的な弁支持体の中央シリンダ406および人工弁尖402を備えた人工弁部分400が例示された左心房の環状平面(図示の平面B)の上方に位置決めおよび/または配置される装置の例示的形態を提供する代替実施形態が示されており、移植され拡張された装置と内輪IA、生来の弁尖、または左心室のいずれかとの固定、係合、または相互作用が存在しない。
【0066】
したがって、例示的な実施形態が図14に示されており、ここで装置は拡張されて左心房に移植され、基部100は基部100の下部外面106からほぼ中央の隆起部152に移行する外側部分150を含み、少なくともその一部には、中央シリンダ406が弁支持体の例示的な形態として動作可能に取り付けられて示されており、人工一方向弁尖がその中またはそれに動作可能に取り付けられている。中央シリンダ406は、図9に関連して上述される。したがって、基部100の下面の隆起部152は、基部の下面の外側部分の上方に離間しており、そこを通るアパーチャAを画定し、中央シリンダ152は実質的にアパーチャAと整列される。他の実施形態と同様に、中間ばね状部分200が、基部と心房ドーム300とに動作可能に取り付けられている。本明細書に記載されるような他の要素および/または構造が使用されてもよいが、中間部200は例示的なメッシュ構造で示されている。本明細書に記載のすべての中間部200と同様に、部分200は、左右の上部肺静脈(LUP,RUP)および左右の下部肺静脈(LLP,RLP)からの血流に対して開いており、基部は左心耳を密封することができる材料で覆われてもよい。
【0067】
中央隆起部152は、平面Bより上に距離dだけ離れている、つまり左心房の例示的な弁輪および僧帽弁尖MVの上に少なくとも距離dだけ離れている平面B’上に少なくとも部分的に存在するか、または配置され得る。平面Bは、当技術分野で環状平面として知られている左心房の解剖学的特徴を表す。したがって、この実施形態では、例示的な中央シリンダの下面は、平面Bで表される環状平面より距離dだけ上に位置するか、または離間している。したがって、例示的な中央シリンダ弁支持体の下面は、生来の弁尖の上方、特に上述のように生来の弁尖の屈曲点FPの上方に離間している。この構成および間隔は、生来の弁尖の正常の機能性との装置による有害な干渉または係合を確実にしない。
【0068】
さらに、例示的な中央シリンダ弁支持体406内の人工弁尖はまた、平面Bによって表される環状平面の上方に離間している。特定の実施形態では、人工弁尖402は、一般に、例示的な中央シリンダ弁支持体406の下面408に取り付けられ得、その結果、環状平面Bと弁支持体406内の人工弁尖の取り付け点との間の間隔は、例示的な中央シリンダ弁支持体406の下面と環状平面Bとの間の間隔と実質的に同じ距離となる。
【0069】
他の実施形態では、上述のように、人工弁尖402は、例示的な中央シリンダ弁支持体406の管腔内の任意の場所に動作可能に取り付けられてもよく、したがって、図9に関連して説明したように、例示的な中央シリンダの下面408の上方に位置する中央シリンダ406内の場所に取り付けられてもよい。したがって、この場合、環状平面Bと人工弁尖の取り付け点との間の間隔は、環状平面Bと例示的な中央シリンダ弁支持体406の下面408との間の間隔よりも大きくなる。
【0070】
図14は、中央隆起部の第1の側面上の半径方向の遷移または変曲点1,2と、中央隆起部の第2の側面上の2つの半径方向の遷移または変曲点3,4とをさらに提供し、これらは、ベースステントの下面から中央隆起部へ上昇し、次いでベースステントの下面へ戻る遷移を画定する。遷移点1,2,3,4のいずれかは、示されるよりも大きいまたは小さい半径で形成されてもよく、遷移点1の半径は遷移点2,3および/または4と実質的に等しい。あるいは、遷移点1の半径は、遷移点2,3または4の半径よりも小さい、または大きい。さらに、遷移点は1つまたは複数の鋭角を含んでもよく、したがって遷移点1,2,3および/または4は鋭角または丸みを帯びた遷移を含んでもよく、あるいは鋭角と丸みを帯びた遷移点1,2の組み合わせであってもよい。
【0071】
このようにして、例示的な中央シリンダ406の底面408と平面Bで表される環状平面との間に、開放形のサブ人工弁領域OVRが形成される。開放形のサブ人工弁領域の幅は、変曲点1から変曲点4までの距離および/または変曲点2から変曲点3までの距離と一致することが好ましいが、幅は変化してもよい。
【0072】
一般に、例示的な中央シリンダ弁支持体406の下面408は、遷移点2、3または隆起部152の頂部に配置されることが好ましい。しかしながら、隆起した弁部分400を含む実施形態の機能性を依然として維持しながら、例示的な中央シリンダ弁支持体406の下面を遷移点2、3の下方であるが環状平面Bの上方に配置することは本発明の範囲内である。
【0073】
弁支持体の代替の実施形態は、支持構造、例えば、比較的硬い材料、例えばワイヤまたは他の同様の材料を含む支持リング154を含んでもよく、人工弁尖402が基部100の隆起領域または隆起部152内で支持リング154に取り付けられてもよい。この実施形態は、中間部および心房ドームを省略して図15に示されている。
【0074】
さらに代替的には、下側基部の外側部分は、環状平面Bまたはその付近で弁輪とほぼ同一の広がりを有するアパーチャを画定してもよい。図6図7および図10図13に示すように、中央シリンダ406は、アパーチャまたはその付近で基部100に動作可能に取り付けられてもよく、人工弁尖402は、上述のように中央シリンダ内に動作可能に取り付けられてもよい。図9に記載される好ましい実施形態では、中央シリンダ406内の人工弁尖402の取り付け点は、環状平面Bの上方に、したがって例示的な中央シリンダ弁支持体の基部への取り付け点の上方に配置され、離間され、生来の弁尖の環状平面および/または屈曲点FPに対する弁尖の隆起をもたらし得る。
【0075】
これらの実施形態のそれぞれにおいて、拡張および移植されたときの装置自体の構造は、単一の心腔の境界に限定され、例えば、左心房に限定されない。このようにして、これらの実施形態は、その機能性に悪影響を及ぼすことなく、残りの生来の弁および/または弁尖の機能を保存する。さらに、生来の弁および/または弁尖の機能喪失が完全に機能しなくなった点に達すると、隆起した弁部分を有する拡張され移植された装置は、完全に機能しなくなった生来の弁に対する完全な置換機能を引き受ける。
【0076】
例えば中央シリンダ406およびその中に配置された弁尖402などの弁支持体、またはそれに取り付けられた弁尖402を有する支持リング154を備えた隆起弁の実施形態は、上記の任意の実施形態と共に使用され得る。
【0077】
本明細書に記載の各実施形態の使用は、部分的に機能する、したがって部分的に機能不全すなわち機能しなくなった生来の弁を有する患者の場合に新規の治療結果を提供する。したがって、患者への記載された実施形態のうちの1つの拡張された移植は、部分的に機能不全すなわち機能しなくなった生来の弁の正常な機能レベルまたはその近くへの初期補充または増強を可能にし、すなわち対象の心腔への逆流の防止を可能にする。すべての場合において、生来の弁は機能し続けることが許されるので、移植された人工弁は、生来の弁から対象の心腔への逆流を阻止するように働くが、ある程度の逆流は部分的に機能する生来の弁および弁尖によって妨げられる。
【0078】
時間が経つにつれて、生来の弁の機能性が劣化する可能性があり、したがって、生来の弁尖を通る逆流のレベルが上昇する可能性がある。この段階的な逆流プロセスが進行するにつれて、拡張され移植された人工弁装置は着実に増加する逆流または噴流を阻止するように働き、それによって対象の心腔内への逆流または噴流を阻止することによってほぼ完全な機能を維持する。
【0079】
最終的に、生来の弁機能は実質的に完全に失われる可能性がある。この場合、本明細書に記載の移植型人工弁装置は全置換義務を引き継ぎ、順方向に配置された心腔から移植型人工心臓弁への加圧逆流をすべて阻止する。
【0080】
論じたように、本明細書に記載の装置および方法を移植するための例示的な心腔は左心房であり、少なくとも部分的に機能する生来の弁は僧帽弁を含み、順行性の心腔は左心室を含む。
【0081】
また、本明細書の特定の実施形態に記載されるように、逸脱する生来の弁尖は、生来の弁尖が正常の機能を維持するのを助けるために装置構造の一部によってその異常な逸脱を本質的に阻止され得、少なくとも部分的に機能する時間を延長し、機能性の実質的に完全な喪失点を未然に防ぐ。
【0082】
本明細書で論じられ例示されている各実施形態は、肺動脈の管腔内に延在しない、または肺動脈に係合していない拡張され移植された構造をさらに含むことができる。
【0083】
したがって、一般に、本明細書に記載の装置は、逆流の流れが例示的な左心房に達するのを防止し、ゆっくり劣化する生来の弁および/または弁尖の増強または補充を実質的に完全な置換機能が達成されるまで徐々に増大させることによって、残りの生来の弁機能を保存しながら、実質的に完全な弁機能を再確立する。
【0084】
本明細書に記載の本発明の説明およびその用途は例示的なものであり、本発明の範囲を限定することを意図するものではない。様々な実施形態の特徴を、本発明の企図内で他の実施形態と組み合わせることができる。本明細書に開示された実施形態の変形および修正が可能であり、実施形態の様々な要素に対する実際的な代替および等価物は、この特許文書を検討すれば当業者には理解されよう。本明細書に開示された実施形態のこれらおよび他の変形および修正は、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなくなされ得る。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図5D
図5E
図6
図7
図8
図9
図9A
図10
図11
図12
図13
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図15