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特許7059261水生生物付着防止剤、水生生物付着防止用樹脂組成物、水生生物付着防止用塗料及び水生生物付着防止用樹脂組成物を用いてなる成形体、並びに水生生物付着防止方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】水生生物付着防止剤、水生生物付着防止用樹脂組成物、水生生物付着防止用塗料及び水生生物付着防止用樹脂組成物を用いてなる成形体、並びに水生生物付着防止方法
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20220418BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20220418BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20220418BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20220418BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220418BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20220418BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
A01N59/06 Z
A01P17/00
A01N25/10
C09D5/16
C09D7/61
C09D201/00
C08K3/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019513675
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2018016047
(87)【国際公開番号】W WO2018194108
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2020-12-18
(31)【優先権主張番号】P 2017083071
(32)【優先日】2017-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000119988
【氏名又は名称】宇部マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001612
【氏名又は名称】きさらぎ国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 高行
(72)【発明者】
【氏名】横田 光司
【審査官】早乙女 智美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191036(JP,A)
【文献】特開昭61-213252(JP,A)
【文献】特開平09-255897(JP,A)
【文献】特開平05-065433(JP,A)
【文献】特開昭60-011223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/06
C08K 3/30
C08L 101/00
C09D 5/16
C09D 7/61
C09D 201/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性硫酸マグネシウムを含有することを特徴とする水生生物付着防止剤。
【請求項2】
請求項1に記載の水生生物付着防止剤を含有することを特徴とする水生生物付着防止用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の水生生物付着防止剤を含有する事を特徴とする水生生物付着防止用塗料。
【請求項4】
水生生物付着防止剤を1~70質量%含有する請求項3に記載の水生生物付着防止用塗料。
【請求項5】
水生生物付着防止剤を3~70質量%含有する請求項3に記載の水生生物付着防止用塗料。
【請求項6】
請求項1に記載の水生生物付着防止剤を使用して水生生物の付着を防止することを特徴とする水生生物付着防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水生生物付着防止剤、水生生物付着防止用樹脂組成物、水生生物付着防止用塗料及び水生生物付着防止用樹脂組成物を用いてなる成形体、並びに水生生物付着防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶や各種港湾施設、あるいは漁網、生簀等の漁獲施設等、海水や淡水に曝されているものには、各種海草、フジツボ、イガイ等の水生生物が付着棲息し、これら施設等の機能低下や耐久性の劣化をもたらしている。
【0003】
水生生物の付着を防止するための水生生物付着防止剤として、亜酸化銅を有効成分として含有するものが従来用いられている。しかしながら、亜酸化銅は水生生物に対し毒性があり、水生生物を殺傷することにより付着を防止するものである。また、亜酸化銅より溶出した銅は分解することなく環境中に残留するため、環境汚染が問題視されている。以上のことから、亜酸化銅を含有せず、生体や環境への影響が少ない代替材料の開発が求められている。
【0004】
特許文献1には、海水中に溶存している陽イオンと陰イオンとから成る塩を塗料成分の一部として含有することで、水生生物が忌避する環境を生成して水生生物の付着を防止することが記載されている。海水中に溶存している塩として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、又は硫酸マグネシウムを含有する水生生物の付着防止剤が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、被覆対象物表面を覆う被覆材に塩基性物質を担持させ、被覆材の表面に作用する水分の塩基性度を高めることにより水生生物の付着を防止する水生生物付着防止被覆材が開示されている。被覆材に担持される塩基性物質として、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化ランタン等の水酸化物が好ましいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平5-65433号公報
【文献】特開平9-255897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の付着防止剤は、有効成分として水溶性の塩を用いているため、付着防止効果の持続性が良くないという問題がある。また、特許文献2に記載の水生生物付着防止被覆材は、実施例に記載のように、有効成分として強塩基である水酸化カルシウムを用いていることから、水生生物や、水酸化カルシウムを担持する樹脂に対し悪影響を及ぼす虞がある。
【0008】
そこで、本発明は、生体及び環境への安全性が高く、且つ水生生物付着防止効果の持続性に優れる水生生物付着防止剤、水生生物付着防止用樹脂組成物、水生生物付着防止用塗料及び水生生物付着防止用樹脂組成物を用いてなる成形体、並びに水生生物付着防止方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、有効成分として塩基性硫酸マグネシウムを使用することで、生体及び環境への安全性が高く、且つ水生生物付着防止効果の持続性が良くなることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明に係る水生生物付着防止剤は、塩基性硫酸マグネシウムを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、生体及び環境への安全性が高く、且つ水生生物付着防止効果の持続性に優れる水生生物付着防止剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る水生生物付着防止剤は、有効成分として、塩基性硫酸マグネシウムを含有する。塩基性硫酸マグネシウムは、MgSO・5Mg(OH)・3HOで示される化合物である。塩基性硫酸マグネシウムは、従来有効成分として用いられている亜酸化銅等と比較して毒性が低いため、水生生物を殺傷することなく、付着のみを防止することができる。また、塩基性硫酸マグネシウムは、人体内での残留性が低く、発がん性を有しないため、人体においても安全であり、当該塩基性硫酸マグネシウムを含有する水生生物付着防止剤を製造、使用する際の取り扱いも容易である。さらに、環境中での分解性も高く、残留性が低いため、環境への影響も少ない。
【0013】
本発明に係る水生生物付着防止剤中の塩基性硫酸マグネシウムの水への溶解度は0.046g/L(20℃)である。塩基性硫酸マグネシウムの水への溶解度が0.046g/Lであることにより、硫酸マグネシウムや塩化ナトリウム、塩化カリウム等の水溶性塩と比較して溶解度が低いため、水生生物付着防止効果の持続性に優れ、水酸化マグネシウムを使用した場合と比較して溶解度が高いため、より優れた水生生物付着防止効果を示す。
【0014】
また、塩基性硫酸マグネシウム水溶液のpHは9.5である。塩基性硫酸マグネシウム水溶液のpHが9.5であることにより、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム、水酸化バリウムを使用した場合と比較して塩基性が低いため、水生生物に対する安全性が高く、硫酸マグネシウムや塩化ナトリウム、塩化カリウム等の塩を使用した場合と比較して塩基性が高いため、優れた水生生物付着防止効果を示す。また、pHが9.5であることにより、水生生物付着防止剤中の他の成分、例えば樹脂等への影響も少ない。
【0015】
本発明に係る水生生物付着防止剤中の塩基性硫酸マグネシウムとしては、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを用いることが好ましい。繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維長は1~100μmであり、1~50μmであることが好ましく、8~30μmであることが特に好ましい。平均繊維長が8~30μmであることにより、水生生物付着防止剤に強度を付与することができ、持続性が向上する。また、繊維状であることにより、塗料等の液状樹脂に添加した場合、チキソトロピック性を付与することができるため、施工性が向上し、液だれを防止することができる。
【0016】
本発明に係る水生生物付着防止剤中の繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維径は0.01~5μmであり、0.1~3μmであることが好ましく、0.3~2.0μmであることが特に好ましい。繊維状塩基性硫酸マグネシウムの平均繊維長及び平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による拡大画像から、繊維状塩基性硫酸マグネシウム100本の繊維長及び繊維径を測定し、その個数平均値を求めることにより算出することができる。
【0017】
本発明に係る水生生物付着防止剤中の塩基性硫酸マグネシウムは、公知の方法により製造することができ、例えば、水酸化マグネシウムと硫酸とを原料として生成することができる。具体的には、硫酸マグネシウム水溶液に水酸化マグネシウム又は酸化マグネシウムを分散させて水熱反応させる方法、可溶性硫酸塩含有水溶液に酸化マグネシウム粉末を分散させた分散液を加熱反応させて繭状物を生成させ、これを強い剪断力で解砕する方法、塩基性硫酸マグネシウムの種粒子と水酸化マグネシウム粒子とを分散させた分散液を硫酸マグネシウム水溶液に混合して加熱することで塩基性硫酸マグネシウムを種粒子の表面に析出させる方法などを挙げることができる。
【0018】
本発明に係る水生生物付着防止剤中の塩基性硫酸マグネシウムの含有量は、特に限定されるものではないが、水生生物付着防止剤全体を100質量%として、80質量%以上であることが好ましく、90質量%であることがより好ましい。
【0019】
本発明の水生生物付着防止剤は、塩基性硫酸マグネシウム以外の有効成分として、従来水生生物付着防止剤の有効成分として用いられている公知の化合物を含有することができる。このような化合物としては、例えば銅粉、チオシアン酸第一銅、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸ニッケルなどの無機化合物;オキシン銅、酢酸銅、ナフテン酸銅、銅ピリチオンなどの有機銅系化合物;酢酸ニッケル、ジメチルジチオカルバミン酸ニッケルなどの有機ニッケル系化合物;酢酸亜鉛、カルバミン酸亜鉛、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジンクピリチオンなどの有機亜鉛系化合物、N-トリクロロメチルチオフタルイミド、N-フルオロジクロロメチルチオフタルイミドなどのN-トリハロメチルチオフタルイミド;ビス(ジメチルチオカルバモイル)ジスルフィド、N-メチルジチオカルバミン酸アンモニウム、エチレンビス(ジチオカルバミン酸)アンモニウムなどのジチオカルバミン酸;N-(2,4,6-トリクロロフェニル)マレイミド、N-4-トリルマレイミド、n-3-クロロフェニルマレイミドなどのN-アリールマレイミド;3-ベンジリデンアミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン、3-(4-メチルベンジリデンアミノ)-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオンなどの3-置換アミノ-1,3-チアゾリジン-2,4-ジオン;ジチオシアノメタン、ジチオシアノエタン、2,5-ジチオシアノチオフェンなどのジチオシアノ系化合物;2-メチルチオ-4-t-ブチルアミノ-6-シクロプロピルアミノ-S-トリアジンなどのトリアジン系化合物;2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル、N,N-ジメチルN’-ジクロロフェニル尿素、4,5-ジクロロ-2-n-オクチル-イソチアゾリン-3-オン、N,N-ジメチル-N’-フェニル-(N-フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、テトラメチルチウラムジスルフィド、3-ヨード-2-プロピニルブチルカルバメート、2-(メトキシカルボニルアミノ)ベンズイミダゾール、2,3,5,6-テトラクロロ-4-(メチルスルフォニル)ピリジン、ジヨードメチルパラトリルスルホン、フェニル(ビスピリジン)ビスマスジクロライド、2-(4-チアゾリル)ベンズイミダゾール、ピリジントリフェニルボランなどを使用することができる。
【0020】
上記のような塩基性硫酸マグネシウム以外の有効成分の含有量は、特に制限なく任意の量を含むことができる。
【0021】
本発明に係る水生生物付着防止剤は、上記塩基性硫酸マグネシウム及びその他の有効成分を担持するための分散媒を使用することができる。分散媒として特に限定はなく、液体又は固体の分散媒を使用することができる。分散媒として、例えば溶媒、樹脂、油脂、セラミック、セメント、モルタル、コンクリート、金属等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0022】
溶媒としては、公知のあらゆる溶媒を使用することができ、例えば水、石油系混合溶媒、ミネラルスピリット、アルコール系溶媒、炭化水素系溶媒、芳香族化合物系溶媒、ケトン化合物系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ハロゲン系溶媒、非プロトン性極性溶媒などを挙げることができる。これらのうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0023】
樹脂として特に限定はないが、水生生物付着防止効果の持続性という観点から、耐水性、耐久性、耐候性に優れるものを使用することが好ましく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンアクリル樹脂、フェノール樹脂、ゴム系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、種々のゴム及び熱可塑性エラストマー等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0024】
また、本発明に係る水生生物付着防止剤は、本発明の効果を阻害しない程度に、任意の添加剤を含有することができる。添加剤として、例えば分散剤、乳化剤、乾燥剤、増粘剤、熱安定剤、光安定剤、消泡剤、可塑剤、界面活性剤、染料、顔料、触媒、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、滑剤、充填剤、架橋剤、発泡剤、ワックス、油脂、脂肪酸、各種溶媒等を、任意の配合割合で含有させることができる。これらのうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0025】
本発明に係る水生生物付着防止剤は、例えば水生生物付着防止用樹脂組成物、水生生物付着防止用塗料、水生生物付着防止用水中構造物、水生生物付着防止用コーティング、水生生物付着防止用接着剤等のあらゆる形態で、水中で用いられる種々の防汚目的物に使用することができる。防汚目的物としては、例えば、船底、スクリュウ、取水管、ブイ、鎖、いかだ、アンカー、魚網、魚礁、養殖生け簀用網、係留ロープ、海中建造物、護岸材、浮き岸壁、固定岸壁、海洋ケーブル、送電線、各種工業プラントの海水取水管や送水管、水槽、ろ過砂、泡用の管などが挙げられる。
【0026】
水生生物付着防止用樹脂組成物は、本発明に係る水生生物付着防止剤及び樹脂を含有する。水生生物付着防止用樹脂組成物に用いられる樹脂として、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等、特に限定はなく、例えばポリプロピレン、ポリブテン、ポリエチレンなどのオレフィン樹脂、塩化ゴム樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、各種変性アルキド樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、酢酸ビニルなどのビニル樹脂、アクリル樹脂、各種合成ゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、アミノ樹脂などが挙げられる。
【0027】
水生生物付着防止用樹脂組成物における塩基性硫酸マグネシウムの含有量は、水生生物付着防止用樹脂組成物全体の重量に対して0.1~75質量%とするのが好ましく、水生生物付着防止効果と樹脂組成物の機械強度等の物性のバランスの点から、1~50質量%とするのがより好ましい。0.1質量%未満では水生生物付着防止効果をほとんど示さない傾向があり、75質量%を超えると樹脂成形物の機械強度等の物性が低下する傾向がある。また、水生生物付着防止用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない程度に、可塑剤等の添加剤を含有していてもよい。
【0028】
水生生物付着防止用樹脂組成物の製造方法として特に制限はなく、公知の方法により製造することができる。例えば、水生生物付着防止用樹脂組成物は、各成分を混練することにより調製することができる。混練の方法として特に限定はなく、例えば二軸混練機、バンバリーミキサー、ニーダー、ヘンシェルミキサー等の混練機を用いる方法、二軸押出機、単軸押出機等の押出機を用いる方法、混合機と押出機を組み合わせて製造する方法等を挙げることができる。
【0029】
また、水生生物付着防止用樹脂組成物は、射出成形機などを用いて成形し、成形体とすることができる。成形体の形状として、例えば板状、シート状、パイプ状、綱状、網状、海水や淡水中で用いられる様々な防汚目的物の形状とすることができる。また、水生生物付着防止用樹脂組成物を用いてなる成形体を、防汚目的物の表面に貼り付け等の方法により設けることもできる。また、上記方法により得られた成形体は、適宜その表面を研磨して用いてもよい。
【0030】
以上のように、本発明の水生生物付着防止剤及び水生生物付着防止方法、水生生物付着防止用樹脂組成物及びそれを用いてなる成形体は、生体及び環境への安全性が高く、且つ持続性に優れた付着防止効果を示す。
【0031】
また、本発明に係る水生生物付着防止剤は、これを含有する水生生物付着防止用塗料とすることができる。水生生物付着防止用塗料は、本発明に係る水生生物付着防止剤の他、樹脂などの塗膜形成成分、溶媒、顔料、可塑剤などの塗料に一般に用いられる成分、及び必要に応じて公知の他の有効成分等を含有する。水生生物付着防止用塗料は、例えばペイントコンディショナーやホモミキサー等を用いて、上記の各成分を混合分散することにより調製することができる。
【0032】
水生生物付着防止用塗料に用いられる樹脂などの塗膜形成成分としては、各種天然樹脂や合成樹脂を使用することができ、具体的には、ロジン、ボイル油、クロロプレンゴムなどの塩化ゴム樹脂、塩化ビニル樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、各種変性アルキド樹脂、酢酸ビニルなどのビニル樹脂、アクリル樹脂、ポリブテン等のオレフィン樹脂、各種合成ゴム、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリイミド樹脂、エチルアクリレート-スチレン共重合樹脂、メチルアクリレート-酢酸ビニル共重合樹脂等などの合成樹脂乳濁液、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合ゴムなどの合成ゴム乳濁液等が挙げられる。これらの樹脂のうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0033】
水生生物付着防止用塗料に用いられる溶媒としては、塗膜形成成分との反応性がなく、樹脂を溶解又は分散するものであれば特に制限はなく、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチルなどのエステル系溶媒、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、へキサン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル系溶媒、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどの鎖状エーテル系溶媒、メタノール、エタノール、ブタノールなどのアルコール系溶媒、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素などのハロゲン系溶媒、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒等が使用できる。これらの溶媒のうち1種を単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0034】
水生生物付着防止用塗料に用いられる顔料としては、例えば、べんがら、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラックなどの無機顔料、アゾ系、シアニン系、フタロシアニン系、キナクリドン系などの有機顔料、硫酸バリウム、酸化マグネシウム、アルミナ、ゼオライト、炭酸カルシウム、タルクなどの体質顔料、アルミニウムペースト、ガラスビーズ、マイカなどの特殊機能顔料等を用いることができる。
【0035】
水生生物付着防止用塗料に用いられる可塑剤としては、塗膜形成成分との反応性がないものであれば特に制限はなく、例えば、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジブチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、トリオクチルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフェート等が使用できる。これらの可塑剤は、単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0036】
水生生物付着防止用塗料における塩基性硫酸マグネシウムの含有量は、1~70質量%、好ましくは3~20質量%、より好ましくは3~15質量%、さらに好ましくは4~12質量%である。1質量%未満では水生生物付着防止効果をほとんど示さない傾向があり、70質量%を超えると良好な塗膜が形成されにくい傾向がある。
【0037】
上記顔料の使用量は特に制限はないが、使用する場合、水生生物付着防止用塗料における塗膜形成成分100重量部に対して200重量部以下であることが好ましい。200重量部を超えると、塗膜の安定性に劣る傾向があるため好ましくない。
【0038】
水生生物付着防止用塗料は、防汚目的物の表面に塗布、含浸、吹付けなどの方法により、塗膜として用いることができる。
【0039】
また、本発明に係る水生生物付着防止剤は、これを含有する水生生物付着防止用構造物とすることができる。水生生物付着防止用構造物は、本発明に係る水生生物付着防止剤をモルタルやセメント、コンクリート等に混合して成形することにより製造できる。水生生物付着防止用構造物として、具体的には、港湾設備、海底油田の付属設備、ダムの付属設備、化学工業プラントの熱交換器冷却水の取水路などが挙げられる。
【0040】
また、水生生物の付着繁殖を防止する目的で、本発明の水生生物付着防止剤を懸濁液として、導排水路管等の中へ直接流してもよい。
【実施例
【0041】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、これらは本発明の目的を限定するものではない。
【0042】
以下の材料を用いて、実施例及び比較例に係る水生生物付着防止用樹脂組成物を作成した。
繊維状塩基性硫酸マグネシウム(MgSO・5Mg(OH)・3HO)・・・宇部マテリアルズ株式会社製、モスハイジ(登録商標) A-1(顆粒品)、P粉状品(非造粒品)、何れも平均繊維長15μm、平均繊維径0.5μm
ポリプロピレン樹脂・・・MFR(温度230℃、荷重2.16kg):45g/10分
【0043】
[実施例1]
(試験板の作成)
ポリプロピレン樹脂を90質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウム[MOS・HIGE A-1、宇部マテリアルズ(株)製、平均繊維長:15μm、平均繊維径:0.5μm]を10質量%の割合で混合した。得られた混合物を、二軸混練押出機を用いて溶融混練し、溶融混練物をストランド状に押し出した後、切断して、樹脂ペレットを作成した。当該樹脂ペレットを射出成型機にて射出成形することにより、15mm×30mmの平板を作成した。繊維状塩基性硫酸マグネシウムを樹脂表面に出す目的で、500番のSiC耐水研磨紙にて平板の表面を研磨し、実施例1に係る試験板とした。
【0044】
(水生生物付着試験)
実施例1に係る試験板の裏面と、ポリプロピレン製試験容器(80mm×80mm×45mm)の底面とを、ホットボンド(大洋電気産業社製)を用いて固定し、ポアサイズ0.45μmの混合セルロースメンブレン(東洋濾紙社製)でろ過した天然海水(塩分濃度2.93%、pH8.11)100mL、及びタテジマフジツボのキプリス幼生約40個体を投入した。試験板の試験容器への浸漬は、22℃±2℃、暗条件下において12日間行った。タテジマフジツボのキプリス幼生の行動及び状態について、試験開始後1、2、4、5、7、9及び12日後に、顕微鏡を用いて目視にて観察した。試験開始12日後の試験板への付着数及びキプリス幼生の投入数により、下記数1により付着率を求めた。実施例1に係る試験板へのフジツボ付着率は、0%であった。結果を表1に示す。
【0045】
[実施例2]
ポリプロピレン樹脂を70質量%、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを30質量%としたこと以外は実施例1と同様にして試験板を作成し、水生生物付着試験を行った。結果を表1に示す。
【0046】
[実施例3]
実施例2と同様の配合にて平板を作成し、当該平板の表面を研磨せずに実施例3に係る試験板とした。実施例3に係る試験板に対し、実施例1と同様に水生生物付着試験を行った。結果を表1に示す。
【0047】
[比較例1]
繊維状塩基性硫酸マグネシウムを添加せず、ポリプロピレン樹脂を100質量%としたこと以外は実施例1と同様にして試験板を作成し、水生生物付着試験を行った。結果を表1に示す。
【0048】
[比較例2]
試験板の代わりに30mm×30mmのガラス板を用いて、実施例1と同様に水生生物付着試験を行った。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
表1に示す結果から明らかなように、繊維状塩基性硫酸マグネシウムを含有する実施例1~3に係る試験板は、フジツボ幼生の付着率が小さく、防汚効果に優れることがわかる。なお、すべての水生生物付着試験において、試験終了時にフジツボ幼生の胸肢突出や無反応などのダメージは見られなかった。
【0051】
[実施例4]
(1)塩基性硫酸マグネシウム含有塗料の作製
エポキシ樹脂[日新レジン(株)製、低粘度エポキシ樹脂・Z-1、ビスフェノールA型液状エポキシ樹脂]を79.2質量%、硬化剤[日新レジン(株)製、50分型・硬化剤]を15.8質量%と繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子[MOS・HIGE P粉状品、宇部マテリアルズ(株)製、平均繊維長:15μm、平均繊維径:0.5μm]を5.0質量%の割合にて混合しエポキシ樹脂を主成分とする実施例4に係る塗料を得た。
【0052】
(2)試験板の作製
上記(1)で作成した塗料を、すき間300μmのフィルムアプリケータを用いて塩ビ板(48×48×5mmT)に塗布し、23℃、50%RHで48時間、次いで50℃で5時間硬化させ、試験板を作製した。作製した試験板は、塩基性硫酸マグネシウム粒子を樹脂表面に出す目的で、#1200のSiC耐水研磨紙にて樹脂表面を研磨し、水生生物付着試験用の試験板とした。
【0053】
(3)水生生物付着試験
上記(2)で作成した水生生物付着試験用試験板を前記と同様に海水、フジツボキプリス幼生が投入された試験容器内(22℃±2、暗条件下)へ浸漬した。フジツボキプリス幼生の行動及び状態については顕微鏡を用いて目視にて観察し、14日後に塗料の塗布層表面に付着した要請の付着数より下記数1により付着率を求めた。その結果を表2に示す。
【0054】
【数1】
【0055】
[実施例5]
エポキシ樹脂を75.0質量%、硬化剤を15.0質量%と繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を10.0質量%の割合にて混合したこと以外は、実施例4と同様にして試験板を作製して、水生生物付着試験を行った。その結果を表2に示す。
【0056】
[実施例6]
エポキシ樹脂を75.0質量%、硬化剤を15.0質量%と繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を10.0質量%の割合にて混合したことと、試験片の樹脂表面を#1200のSiC耐水研磨紙にて研磨しなかったこと以外は実施例4と同様にして試験板を作製し、水生生物付着試験を行った。その結果を表2に示す。
【0057】
[比較例3]
エポキシ樹脂を83.3質量%、硬化剤を16.7質量%の割合にて混合し、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を配合しないこと以外は、実施例4と同様にして試験板を作製して、水生生物付着試験を行った。その結果を表2に示す。
【0058】
【表2】