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特許7059405CD19に基づくキメラ抗原受容体及びその利用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】CD19に基づくキメラ抗原受容体及びその利用
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20220418BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220418BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220418BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20220418BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20220418BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20220418BHJP
   C12N 15/867 20060101ALN20220418BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220418BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220418BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20220418BHJP
   C12N 15/55 20060101ALN20220418BHJP
【FI】
C07K19/00
C12N5/10 ZNA
C12N15/86 Z
A61P35/00
A61P35/02
A61K35/17
C12N5/0783
C12N15/867 Z
C12N15/62 Z
C12N15/13
C12N15/12
C12N15/55
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020568017
(86)(22)【出願日】2019-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-07-01
(86)【国際出願番号】 CN2019076050
(87)【国際公開番号】W WO2019161796
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2020-08-21
(31)【優先権主張番号】201810155428.1
(32)【優先日】2018-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520319705
【氏名又は名称】ベイジン・メイカン・ジーノ-イミューン・バイオテクノロジー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING MEIKANG GENO-IMMUNE BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】Room B104, 1st Floor, No. 5,Kaituo Road, Haidian District, Beijing 100085, China
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】ヂァン、ルイ
【審査官】山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0137515(US,A1)
【文献】特表2017-518037(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107245106(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107245107(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107312097(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107312098(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107337737(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K
C12N
A61P
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、誘導性自殺融合ドメインとをタンデム配置で含むCD19に基づくキメラ抗原受容体であって、
前記抗原結合ドメインは腫瘍表面抗原に結合し、前記抗原結合ドメインは腫瘍表面抗原CD19に対する一本鎖抗体であり、前記共刺激シグナル伝達領域はCD27シグナル伝達ドメインを含み、かつ前記誘導性自殺融合ドメインはiCasp9であり、
キメラ抗原受容体は、分泌シグナルペプチド-抗CD19scFv-CD28-CD27-CD3ζ-2A-iCasp9であり、
分泌シグナルペプチド-抗CD19scFv-CD28-CD27-CD3ζ-2A-iCasp9の前記キメラ抗原受容体は、配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する、キメラ抗原受容体。
【請求項2】
前記キメラ抗原受容体は、配列番号5に示される核酸配列によってコードされる、請求項1に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項3】
前記キメラ抗原受容体は、該キメラ抗原受容体をコードする核酸配列による発現のためにT細胞へと形質導入される、請求項1又は2に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項4】
前記形質導入は、ウイルスベクター、真核性発現プラスミド若しくはmRNA配列のいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せを介して行われて、T細胞へとトランスファーされる、請求項3に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項5】
前記ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター若しくはレトロウイルスベクターのいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せである、請求項4に記載のキメラ抗原受容体。
【請求項6】
哺乳動物細胞を、請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体をコードする遺伝子を含むウイルスベクターとパッケージングヘルパープラスミドpNHP及びpHEF-VSVGとで同時トランスフェクションすることによって得られる、組換えレンチウイルス。
【請求項7】
前記哺乳動物細胞は、293細胞、293T細胞若しくはTE671細胞のいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せである、請求項に記載の組換えレンチウイルス。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体及び/又は請求項若しくはに記載の組換えレンチウイルスを含むT細胞。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項若しくはに記載の組換えレンチウイルス、又は請求項に記載のT細胞のいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せを含む組成物。
【請求項10】
求項1~のいずれか一項に記載のキメラ抗原受容体、請求項若しくはに記載の組換えレンチウイルス、又は請求項に記載の組成物を含む腫瘍治療薬。
【請求項11】
前記腫瘍は、血液関連腫瘍性疾患である、請求項1に記載の腫瘍治療薬
【請求項12】
前記血液関連腫瘍性疾患は、白血病又はリンパ腫から選択される、請求項11に記載の腫瘍治療薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、腫瘍のための細胞性免疫療法の分野に関し、特に、CD19に基づくキメラ抗原受容体及びその利用、具体的には、腫瘍特異的標的CD19に基づくキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞技術を構築する方法、及び抗腫瘍療法におけるその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
B細胞急性リンパ性白血病(B-ALL)、B細胞リンパ腫及び慢性リンパ性白血病(CLL)を含むBリンパ球悪性腫瘍は、成人又は小児を問わず血液疾患の大きな割合を占める。これらの患者を治療するための慣例的な方法としては、化学療法、放射線療法、幹細胞移植、小分子薬及び抗体薬の使用が挙げられる。一部の患者はこれらの療法によって治癒し得るが、多くの患者は化学療法及び放射線療法に対する有害反応、薬物への耐性、無効な移植、再発の繰り返し及び遺伝的突然変異から生じる難治性疾患のため死亡した。
【0003】
腫瘍免疫学理論及び臨床技術の発展により、キメラ抗原受容体T細胞免疫療法(CAR-T)は、最も有望な腫瘍免疫療法の1つとなった。キメラ抗原受容体(CAR)は、典型的には、腫瘍関連抗原結合領域と、細胞外ヒンジ領域と、膜貫通領域と、細胞内シグナル伝達領域とからなる。一般的に、CARは、ヒンジ領域及び膜貫通領域を介してT細胞シグナル伝達分子の細胞質ドメインに結合された、腫瘍関連表面抗原(TAA)に特異的な抗体の一本鎖フラグメント可変(scFv)領域又は結合ドメインを含む。最も一般的なリンパ球活性化部には、T細胞エフェクター機能誘発部(例えばCD3ζ)とタンデムに連結されたT細胞共刺激ドメインが含まれる。CARを媒介する養子免疫療法により、CAR移植T細胞は、HLAに制限されずに標的腫瘍細胞上のTAAを直接認識することが可能となる。T細胞が、CARの発現によって腫瘍細胞上に発現した抗原を標的とするように遺伝子改変されており、CARを発現する遺伝子改変細胞を使用してこれらの種類の患者を治療する試みは有望な成功を収めている。
【0004】
CD19分子はBリンパ球における血液悪性腫瘍の治療のための潜在的な標的であり、CAR研究における焦点でもある。CD19の発現は正常B細胞及び悪性B細胞に限定されているため、安全性試験のために広く受け入れられているCAR標的である。CD19分子を標的とするキメラ抗原受容体遺伝子が改変されたT細胞(CD19 CAR-T)は、多くの難治性急性Bリンパ性白血病の治療において大きな成功を収めている。
【0005】
特許文献1は、キメラ抗原受容体hCD19scFv-CD8α-CD28-CD3ζ及びその使用を開示している。該キメラ抗原受容体は、抗ヒトCD19モノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖の可変領域(hCD19scFv)と、ヒトCD8αヒンジ領域と、ヒトCD28膜貫通及び細胞内領域と、ヒトCD3ζ細胞内領域とからタンデム配置で構成されている。しかしながら、従来技術においてCD19に基づくキメラ抗原受容体に起因する免疫因子ストームは、比較的強い毒性及び強い副作用を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許出願公開第104788573号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、副作用が少なく、殺傷効果に優れ、免疫因子ストームを簡単には引き起こさないキメラ抗原受容体を見出すことが特に重要である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願は、CD19に基づくキメラ抗原受容体及びその利用を提供する。本出願で作製されるキメラ抗原受容体は、CAR刺激シグナルに対するT細胞の免疫効果を増強し、T細胞シグナルを遺伝子改変することによりCAR-T細胞の治療効果を増強する。
【0009】
この目的を達成するために、本出願は以下の技術的な解決手段を採用する。
【0010】
1つの態様において、本出願は、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激シグナル伝達領域と、CD3ζシグナル伝達ドメインと、誘導性自殺融合ドメイン(inducible suicide fusion domain)とをタンデム配置で含むCD19に基づくキメラ抗原受容体であって、
前記抗原結合ドメインは腫瘍表面抗原に結合し、前記抗原結合ドメインは腫瘍表面抗原CD19に対する一本鎖抗体であり、前記共刺激シグナル伝達領域はCD27シグナル伝達ドメインを含み、かつ前記誘導性自殺融合ドメインはiCasp9である、キメラ抗原受容体を提供する。
【0011】
本出願では、抗原結合ドメインが腫瘍表面抗原CD19に結合することと、その後のT細胞受容体の細胞内シグナル、すなわちCD27シグナル伝達ドメインに対する特定の遺伝子改変とによって、腫瘍表面抗原は、本出願のキメラ抗原受容体に特異的に結合して、より効果的なT細胞刺激シグナルを伝達することが可能となり、hキメラ抗原受容体及び他の腫瘍抗原より優れた効果を発揮し、標的が高度に発現されることで、CAR-T細胞の免疫効果も高められる。
【0012】
さらに、本発明者らは、T細胞シグナル、すなわちCD27シグナル伝達ドメインの誘導性自殺融合ドメインへの結合と最適化及び再編成とによって、本出願のキメラ抗原受容体がより優れた殺傷効果を発揮し、免疫因子ストームを簡単には引き起こさず、安全な除去メカニズムを伴うことを見出した。これらの改変により、キメラ抗原受容体CD19細胞のより効果的で幅広い安全な利用が可能となる。
【0013】
本出願によれば、遺伝子改変されたT細胞キメラ受容体(CAR)及びCD19抗原結合ドメインに対する一本鎖抗体(scFv)を以下に例示する。
【0014】
本出願では、T細胞受容体シグナル遺伝子は特別に改変されているので、改変された配列によって発現されるT細胞受容体のシグナルはより持続可能であり、免疫因子をゆっくり放出するため、in vivoでの反応の安全性が向上する。
【0015】
本出願によれば、腫瘍表面抗原CD19に対する一本鎖抗体は、配列番号1に示されるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列に対して90%を超えるホモロジーを有するアミノ酸配列を有する。配列番号1に示されるアミノ酸配列は以下の通りである:
DIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDISKYLNWYQQKPDGTVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPYTFGGGTKLEITGSTSGSGKPGSGEGSTKGEVKLQESGPGLVAPSQSLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPRKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTIIKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTSVTVSS
【0016】
本出願によれば、90%を超えるホモロジーを有するアミノ酸配列は、他の一本鎖抗体又はヒト化CD19一本鎖抗体によって置き換えることができる。90%を超えるホモロジーを有するアミノ酸突然変異体は、依然としてCD19一本鎖抗体として機能する。
【0017】
本出願によれば、CD27シグナル伝達ドメインは、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は以下の通りである:
QRRKYRSNKGESPVEPAEPCHYSCPREEEGSTIPIQEDYRKPEPACSP
【0018】
本出願によれば、誘導性自殺融合ドメインiCasp9は、配列番号3に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は以下の通りである:
GSGATNFSLLKQAGDVEENPGPMGVQVETISPGDGRTFPKRGQTCVVHYTGMLEDGKKVDSSRDRNKPFKFMLGKQEVIRGWEEGVAQMSVGQRAKLTISPDYAYGATGHPGIIPPHATLVFDVELLKLEGGGGSGGGGSGAMVGALESLRGNADLAYILSMEPCGHCLIINNVNFCRESGLRTRTGSNIDCEKLRRRFSSLHFMVEVKGDLTAKKMVLALLELARQDHGALDCCVVVILSHGCQASHLQFPGAVYGTDGCPVSVEKIVNIFNGTSCPSLGGKPKLFFIQACGGEQKDHGFEVASTSPEDESPGSNPEPDATPFQEGLRTFDQLDAISSLPTPSDIFVSYSTFPGFVSWRDPKSGSWYVETLDDIFEQWAHSEDLQSLLLRVANAVSVKGIYKQMPGCFNFLRKKLFFKTSAS
【0019】
本出願によれば、誘導性自殺融合ドメインは、2A配列を介してCD3ζシグナル伝達ドメインとタンデムに連結されている。2A配列は、誘導性自殺融合ドメインにより発現されたタンパク質をキメラ抗原受容体タンパク質から切断させ、それによりキメラ抗原受容体がその機能を発揮することを可能にする。自殺融合ドメインは、アクチベーターを注入することによって活性化することができ、それによりキメラ抗原受容体を発現するT細胞は死滅してそれらの機能を失う。
【0020】
本出願によれば、膜貫通ドメインは、CD28膜貫通ドメイン及び/又はCD8α膜貫通ドメインである。幾つかの特定の実施形態では、膜貫通ドメインは選択されるか、又はアミノ酸置換によって改変され得る。
【0021】
本出願によれば、共刺激シグナル伝達領域は、CD28シグナル伝達ドメインを更に含む。当業者は、CD28シグナル伝達ドメイン及びCD27シグナル伝達ドメインの配置を必要に応じて調整することができる。CD28シグナル伝達ドメイン及びCD27シグナル伝達ドメインの異なる配置によっても、キメラ抗原受容体に影響は及ぼされない。本出願では、CD28-CD27の遺伝子改変された配列の組合せが使用される。
【0022】
CD28細胞外シグナル伝達ドメインは、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は、以下の通りである:
IEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKP
【0023】
CD28膜貫通領域誘導ドメイン(transmembrane region conduction domain)は、配列番号7に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は、以下の通りである:
FWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWV
【0024】
CD28細胞内シグナル伝達ドメインは、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は、以下の通りである:
RSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSAS
【0025】
本出願によれば、キメラ抗原受容体は、キメラ抗原受容体の膜貫通輸送を指揮することができるシグナルペプチドであるシグナルペプチドを更に含む。当業者は、当該技術分野で慣用のシグナルペプチドを必要に応じて選択することができる。シグナルペプチドは、配列番号9に示されるアミノ酸配列を有する分泌シグナルペプチドであり、該配列は以下の通りである:
MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIP
【0026】
さらに、分泌シグナルペプチドは、CD8a遺伝子のためのシグナルペプチドであり、該分泌シグナルペプチドは、配列番号10に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は以下の通りである:
MALPVTALLLPLALLLHAARP
【0027】
代替的には、分泌シグナルペプチドは、GMCSFR遺伝子のためのシグナルペプチドであり、該分泌シグナルペプチドは、配列番号11に示されるアミノ酸配列を有し、該配列は以下の通りである:
MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIP
【0028】
本出願のキメラ抗原受容体は、実際の状況に応じて当業者により選択され得るヒンジ領域を更に含み得るが、該ヒンジ領域は本明細書では特に限定されない。ヒンジ領域の存在は、本出願のキメラ抗原受容体の性能に影響を及ぼさない。
【0029】
本出願によれば、前記キメラ抗原受容体は、シグナルペプチドと、抗原結合ドメインと、膜貫通ドメインと、共刺激シグナル伝達ドメインと、CD3ζシグナル伝達ドメインと、2A配列と、誘導性自殺融合ドメインとをタンデム配置で含む。
【0030】
好ましい技術的な解決手段として、前記キメラ抗原受容体は、タンデム配置での、分泌シグナルペプチド、CD19抗原結合ドメイン、CD8α及び/又はCD28膜貫通ドメイン、CD28細胞外シグナル伝達ドメイン、CD28細胞内シグナル伝達ドメイン、CD27細胞内シグナル伝達ドメイン、CD3ζ細胞内シグナル伝達ドメイン、2A配列、並びにiCasp9ドメインであり、以下の特定の配置を有する:
分泌シグナルペプチドCD19scFv-CD28-CD27-CD3ζ-2A-iCasp9
【0031】
本出願によれば、分泌シグナルペプチドCD19scFv-CD28-CD27-CD3ζ-2A-iCasp9(4S-CAR19)のキメラ抗原受容体は、配列番号4に示されるアミノ酸配列又は該アミノ酸配列に対して80%を超えるホモロジーを有するアミノ酸配列を有する。配列番号4に示されるアミノ酸配列は以下の通りである:
MLLLVTSLLLCELPHPAFLLIPDIQMTQTTSSLSASLGDRVTISCRASQDISKYLNWYQQKPDGTVKLLIYHTSRLHSGVPSRFSGSGSGTDYSLTISNLEQEDIATYFCQQGNTLPYTFGGGTKLEITGSTSGSGKPGSGEGSTKGEVKLQESGPGLVAPSQSLSVTCTVSGVSLPDYGVSWIRQPPRKGLEWLGVIWGSETTYYNSALKSRLTIIKDNSKSQVFLKMNSLQTDDTAIYYCAKHYYYGGSYAMDYWGQGTSVTVSSAAAIEVMYPPPYLDNEKSNGTIIHVKGKHLCPSPLFPGPSKPFWVLVVVGGVLACYSLLVTVAFIIFWVRSKRSRLLHSDYMNMTPRRPGPTRKHYQPYAPPRDFAAYRSASGGGGSGGGGSQRRKYRSNKGESPVEPAEPCHYSCPREEEGSTIPIQEDYRKPEPACSPGGGGSGGGGSRVKFSRSADAPAYQQGQNQLYNELNLGRREEYDVLDKRRGRDPEMGGKPRRKNPQEGLYNELQKDKMAEAYSEIGMKGERRRGKGHDGLYQGLSTATKDTYDALHMQALPPRTSGSGATNFSLLKQAGDVEENPGPMGVQVETISPGDGRTFPKRGQTCVVHYTGMLEDGKKVDSSRDRNKPFKFMLGKQEVIRGWEEGVAQMSVGQRAKLTISPDYAYGATGHPGIIPPHATLVFDVELLKLEGGGGSGGGGSGAMVGALESLRGNADLAYILSMEPCGHCLIINNVNFCRESGLRTRTGSNIDCEKLRRRFSSLHFMVEVKGDLTAKKMVLALLELARQDHGALDCCVVVILSHGCQASHLQFPGAVYGTDGCPVSVEKIVNIFNGTSCPSLGGKPKLFFIQACGGEQKDHGFEVASTSPEDESPGSNPEPDATPFQEGLRTFDQLDAISSLPTPSDIFVSYSTFPGFVSWRDPKSGSWYVETLDDIFEQWAHSEDLQSLLLRVANAVSVKGIYKQMPGCFNFLRKKLFFKTSAS、又は本出願によれば、分泌シグナルペプチドCD19scFv-CD28-CD27-CD3ζ-2A-iCasp9(4S-CAR19)のキメラ抗原受容体は、配列番号5に示される核酸配列又は該核酸配列に対して80%を超えるホモロジーを有する核酸配列によってコードされる。配列番号5に示される核酸配列は以下の通りである:
ATGCTGCTGCTGGTCACAAGCCTGCTGCTGTGCGAGCTGCCCCACCCCGCCTTTCTGCTGATCCCCGACATCCAGATGACCCAGACCACCAGCAGCCTGAGCGCCAGCCTGGGCGACAGAGTGACCATCAGCTGCCGGGCCAGCCAGGACATCAGCAAGTACCTGAACTGGTATCAGCAGAAACCCGACGGCACCGTGAA
GCTGCTGATCTACCACACCAGCCGGCTGCACAGCGGCGTGCCCAGCAGATTTTCTGGCAGCGGATCTGGCACCGACTACAGCCTGACCATCTCCAACCTGGAACAGGAAGATATCGCTACCTACTTCTGTCAGCAGGGCAACACCCTGCCCTACACCTTCGGCGGAGGCACCAAGCTGGAAATCACCGGCAGCACCAGCGGCTCCGGCAAGCCTGGATCTGGCGAGGGCAGCACCAAGGGCGAAGTGAAGCTGCAGGAAAGCGGCCCTGGCCTGGTCGCCCCTAGCCAGAGCCTGTCCGTGACCTGTACCGTGTCCGGCGTGTCCCTGCCCGACTACGGCGTGTCCTGGATCAGACAGCCCCCCAGAAAGGGCCTGGAATGGCTGGGCGTGATCTGGGGCAGCGAGACAACCTACTACAACAGCGCCCTGAAGTCCCGGCTGACCATCATCAAGGACAACAGCAAGAGCCAGGTGTTCCTGAAGATGAACAGCCTGCAGACCGACGACACCGCCATCTACTACTGCGCCAAGCACTACTACTACGGCGGCAGCTACGCCATGGACTACTGGGGCCAGGGCACCAGCGTGACAGTCTCTTCTGCGGCCGCAATTGAAGTTATGTATCCTCCTCCTTACCTAGACAATGAGAAGAGCAATGGAACCATTATCCATGTGAAAGGGAAACACCTTTGTCCAAGTCCCCTATTTCCCGGACCTTCTAAGCCCTTTTGGGTGCTGGTGGTGGTTGGGGGAGTCCTGGCTTGCTATAGCTTGCTAGTAACAGTGGCCTTTATTATTTTCTGGGTGAGGAGTAAGAGGAGCAGGCTCCTGCACAGTGACTACATGAACATGACTCCCCGCCGCCCTGGGCCCACCCGCAAGCATTACCAGCCCTATGCCCCACCACGCGACTTCGCAGCCTATCGCTCCGCTAGCGGAGGTGGAGGTTCTGGAGGTGGTGGAAGTCAAAGAAGGAAGTACCGCAGCAACAAAGGAGAATCTCCCGTCGAGCCAGCCGAGCCCTGTCATTATTCATGCCCAAGGGAGGAGGAGGGAAGTACAATCCCAATTCAAGAAGACTACAGGAAGCCCGAACCTGCATGCAGTCCAGGTGGAGGCGGTTCTGGAGGCGGTGGCTCCCGGGTGAAATTCTCACGGTCTGCAGACGCACCCGCTTACCAGCAAGGCCAGAACCAACTCTATAACGAGCTCAATCTAGGACGAAGAGAGGAGTACGATGTTTTGGACAAGAGACGTGGCCGGGACCCTGAGATGGGGGGAAAGCCGAGAAGGAAGAACCCTCAGGAAGGCCTGTACAATGAACTGCAGAAAGATAAGATGGCGGAGGCCTACAGTGAGATTGGGATGAAAGGCGAGCGCCGGAGGGGCAAGGGGCACGATGGCCTTTACCAGGGTCTCAGTACAGCCACCAAGGACACCTACGACGCCCTTCACATGCAGGCCCTGCCCCCTCGCACTAGTGGCTCCGGAGCCACGAACTTCTCTCTGTTAAAGCAAGCAGGAGACGTGGAAGAAAACCCCGGTCCCATGGGAGTGCAGGTGGAAACCATCTCCCCAGGAGACGGGCGCACCTTCCCCAAGCGCGGCCAGACCTGCGTGGTGCACTACACCGGGATGCTTGAAGATGGAAAGAAAGTGGACTCCTCCCGGGACAGAAACAAGCCCTTTAAGTTTATGCTAGGCAAGCAGGAGGTGATCCGAGGCTGGGAAGAAGGGGTTGCCCAGATGAGTGTGGGTCAGAGAGCCAAACTGACTATATCTCCAGATTATGCCTATGGTGCCACTGGGCACCCAGGCATCATCCCACCACATGCCACTCTCGTCTTCGATGTGGAGCTTCTAAAACTGGAAGGTGGAGGCGGTTCAGGCGGCGGCGGCAGCGGCGCCATGGTCGGTGCTCTTGAGAGTTTGAGGGGAAATGCAGATTTGGCTTACATCCTGAGCATGGAGCCCTGTGGCCACTGCCTCATTATCAACA
ATGTGAACTTCTGCCGTGAGTCCGGGCTCCGCACCCGCACTGGCTCCAACATCGACTGTGAGAAGTTGCGGCGTCGCTTCTCCTCGCTGCATTTCATGGTGGAGGTGAAGGGCGACCTGACTGCCAAGAAAATGGTGCTGGCTTTGCTGGAGCTGGCGCGGCAGGACCACGGTGCTCTGGACTGCTGCGTGGTGGTCATTCTCTCTCACGGCTGTCAGGCCAGCCACCTGCAGTTCCCAGGGGCTGTCTACGGCACAGATGGATGCCCTGTGTCGGTCGAGAAGATTGTGAACATCTTCAATGGGACCAGCTGCCCCAGCCTGGGAGGGAAGCCCAAGCTCTTTTTCATCCAGGCCTGTGGTGGGGAGCAGAAAGACCATGGGTTTGAGGTGGCCTCCACTTCCCCTGAAGACGAGTCCCCTGGCAGTAACCCCGAGCCAGATGCCACCCCGTTCCAGGAAGGTTTGAGGACCTTCGACCAGCTGGACGCCATATCTAGTTTGCCCACACCCAGTGACATCTTTGTGTCCTACTCTACTTTCCCAGGTTTTGTTTCCTGGAGGGACCCCAAGAGTGGCTCCTGGTACGTTGAGACCCTGGACGACATCTTTGAGCAGTGGGCTCACTCTGAAGACCTGCAGTCCCTCCTGCTTAGGGTCGCTAATGCTGTTTCGGTGAAAGGGATTTATAAACAGATGCCTGGTTGCTTTAATTTCCTCCGGAAAAAACTTTTCTTTAAAACATCAGCTAGT
【0032】
本出願において、キメラ抗原受容体は、EF1a若しくはCMV又はこれらのいずれか若しくはこれらの少なくとも2つであるプロモーターを更に含む。
【0033】
本出願によれば、キメラ抗原受容体は、該キメラ抗原受容体をコードする核酸配列による発現のためにT細胞へとトランスフェクションされる。
【0034】
本出願によれば、トランスフェクションは、ウイルスベクター、真核性発現プラスミド若しくはmRNA配列のいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せを介して行われて、T細胞へとトランスフェクションされ、好ましくはウイルスベクターを介してT細胞へとトランスフェクションされる。
【0035】
さらに、ウイルスベクターは、レンチウイルスベクター若しくはレトロウイルスベクターのいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せ、好ましくはレンチウイルスベクターである。
【0036】
第2の態様において、本出願は、哺乳動物細胞を、第1の態様のキメラ抗原受容体をコードする遺伝子を含むウイルスベクターとパッケージングヘルパープラスミドpNHP及びpHEF-VSVGとで同時トランスフェクションすることによって得られる、組換えレンチウイルスを提供する。
【0037】
本出願では、組換えレンチウイルスは、T細胞を含む細胞を効果的に免疫化することができ、標的化T細胞を作製することができる。
【0038】
本出願によれば、前記哺乳動物細胞は、293細胞、293T細胞若しくはTE671細胞のいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せである。
【0039】
第3の態様において、本出願は、第1の態様に記載のキメラ抗原受容体及び/又は第2の態様に記載の組換えレンチウイルスを含むT細胞を提供する。
【0040】
本出願では、T細胞は優れた標的化効果を有し、低用量の免疫因子を放出することができ、低毒性反応の特性を有する。
【0041】
第4の態様において、本出願は、第1の態様に記載のキメラ抗原受容体、第2の態様に記載の組換えレンチウイルス、又は第3の態様に記載のT細胞のいずれか1つ、又はこれらの少なくとも2つの組合せを含む組成物を提供する。
【0042】
第5の態様において、本出願は、キメラ抗原受容体T細胞の作製における、第1の態様に記載のキメラ抗原受容体、第2の態様に記載の組換えレンチウイルス、又は第3の態様に記載の組成物の使用、及び腫瘍治療薬におけるその利用を提供する。
【0043】
さらに、腫瘍は血液関連腫瘍性疾患及び/又は固形腫瘍である。腫瘍性疾患は、限定されるものではないが、白血病から選択される。
【0044】
従来技術と比較して、本出願は、以下の有益な効果を有する:
(1)T細胞キメラ受容体遺伝子の特定の改変とT細胞シグナル伝達領域の最適化及び改変とによって、本出願のキメラ抗原受容体はより優れた殺傷効果を発揮することができ、免疫因子ストームを簡単には引き起こさず、安全な除去メカニズムを伴う。これらの改変により、キメラ抗原受容体CD19細胞のより効果的で幅広い安全な利用が可能となる。
(2)白血病及びリンパ腫において高度に発現されるCD19を標的とする本出願のキメラ抗原受容体は、腫瘍表面抗原を特異的に認識することができる。さらに、該キメラ抗原受容体は、腫瘍表面抗原CD19を認識した後に、穏やかで効果的な応答を引き起こすため、該キメラ抗原受容体は他のキメラ抗原受容体よりも安全な効果を有し、こうしてCAR-T細胞の免疫効果だけでなく、CAR-T細胞の安全性も高められる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本出願のキメラ抗原受容体の合成遺伝子配列マップを示す図である。
図2(a)】CD19抗体を使用した初代B-ALL細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すヒストグラムを示す図であり、その際、試料は3人のB-ALL(B細胞急性リンパ芽球性白血病)患者の骨髄から得られ、灰色の領域は同じ型のネガティブコントロールを表す。
図2(b)】CD19抗体で染色された初代B-ALL細胞のフローサイトメトリー分析の結果を示すドットプロットを示す図であり、その際、試料は3人のB-ALL患者の骨髄から得られる。
図3】CAR-T細胞による白血病細胞系統のin vitroのCD19特異的殺傷試験の結果を示す図である。
図4(a)】異なるシグナル伝達ドメインを有するCD19 CAR-T細胞間でのin vitroの殺傷能力の動的比較を示す図である。
図4(b)】異なるシグナル伝達ドメインを有するCD19 CAR-T細胞間での、in vitroで殺傷に際して免疫因子を放出する能力の比較を示す図である。
図5】CD19 CAR-T細胞を使用した臨床試験のフローチャートを示す図である。
図6】本出願のキメラ抗原受容体の効果と他のキメラ抗原の効果との間の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明により採用された技術的手段及びその効果を更に説明するために、本発明の技術的な解決手段を、添付の図面及び具体的な実施形態を参照して以下で更に説明するが、本発明はこれらの実施形態の範囲に限定されない。
【0047】
実施例において、具体的に示されていない技術又は条件は、当該技術分野の文献に記載される技術若しくは条件に従って又は製品の使用説明書に従って行われる。製造業者により示されていない使用される試薬又は機器は、多くの供給元から市販されている慣例的な製品である。
【実施例
【0048】
実施例1 キメラ抗原受容体の構築
(1)図1に示される、分泌シグナルペプチド、CD19抗原結合ドメイン、CD8α及び/又はCD28膜貫通ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン、CD27シグナル伝達ドメイン、CD3ζシグナル伝達ドメイン、2A配列、並びにカスパーゼ9ドメイン、すなわち、分泌シグナルペプチドCD19scFv-CD28-CD27-CD3ζ-2A-iCasp9を、遺伝子合成によって化学的に合成した。
【0049】
実施例2 レンチウイルスのパッケージング
(1)293T細胞を使用して、17時間~18時間培養した。
(2)10%FBSを含有する新たなDMEMを添加した。
(3)滅菌遠心チューブに以下の試薬を添加した:各ウェルにDMEMを取り、ヘルパーDNAミックス(pNHP、pHEF-VSV-G)及びpTYF DNAベクターを添加し、ボルテックスして、振盪した。
(4)Superfect又は任意のトランスジェニック材料を遠心チューブに添加し、室温で7分間~10分間放置した。
(5)各培養細胞に、遠心チューブ内のDNA-Superfect混合物を添加し、ボルテックスして、混合した。
(6)3%のCOインキュベーター内にて37℃で4時間~5時間培養した。
(7)培養培地から上清を抜き取り、培養物を293細胞培地ですすぎ、更なる培養のために培地を添加した。
(8)培養物を5%のCOインキュベーターに戻して、一晩培養した。翌朝及び翌日に、妥当であれば蛍光顕微鏡を用いてトランスフェクション効率を観察した。
【0050】
実施例3 レンチウイルスの精製及び濃縮
1)ウイルスの精製
細胞片を1000gで5分間の遠心分離により除去して、ウイルス上清を得た。ウイルス上清を0.45μm低タンパク質結合フィルターで濾過し、ウイルスを小分けにして、-80℃で貯蔵した。
【0051】
典型的には、培地1ml当たり10超の形質導入単位のレンチウイルスベクターが、トランスフェクションされた細胞によって産生され得る。
【0052】
2)Centriconフィルターを用いたレンチウイルスの濃縮
(1)ウイルス上清をCentriconフィルターチューブに添加した後に、2500gで30分間遠心分離した。
【0053】
(2)フィルターチューブを振盪した後に、400gで2分間遠心分離し、濃縮されたウイルスを収集カップに収集した。最後に、ウイルスを全てのチューブから単一の遠心チューブに収集した。
【0054】
実施例4 CAR-T細胞の形質導入
活性化させたT細胞を培養皿に播種し、標的抗原に対する特異性を有する濃縮されたレンチウイルスを添加し、100gの遠心力速度で100分間遠心分離(スピノキュレーション)し、37℃で24時間培養し、そして細胞培養因子を含むAIM-V培地を添加し、2日間~3日間の培養の後に、細胞を採取し、計数することで、利用可能なCD19 CAR-T細胞を得た。
【0055】
実施例5 in vitroでのCAR-T細胞による白血病細胞系統の殺傷
(1)図2(a)及び図2(b)から、CD19が初代骨髄B-ALL細胞の表面上で高度に発現され、B-ALL患者において広く発現されたことが分かり、本出願で使用するために選択されたCD19キメラ抗原受容体をB-ALLの治療に使用することができることが示唆される。
【0056】
(2)CAR-T細胞の標的細胞に対する認識及び殺傷効果のin vitroでの評価:非特異的T細胞、GD2 CAR-T細胞及び本出願で作製された特定の4S-CD19 CART(4S-CAR19)細胞を、GD2ではなくCD19を発現する標的細胞、すなわちGFPを発現するRS4-11(ヒト急性リンパ芽球性白血病細胞系統)と一緒に(T細胞:RS4-11=3:1)5%のCOインキュベーター内にて37℃で24時間共培養した。
【0057】
(3)共培養の後の異なる時点で、細胞をAnnexin V及びPIで染色し、フローサイトメトリーにより分析した。ここで、Annexin V陽性細胞は、特異的な殺傷の結果としてアポトーシス寸前(初期アポトーシス)の細胞であり、Annexin V及びPIの二重陽性細胞は、特異的な殺傷の結果としてアポトーシス細胞であり、PI陽性細胞は一般的に死細胞であった。
【0058】
これらの結果を図3に示した。GFP蛍光強度を示すフローサイトメトリーグラフから、10以上の蛍光強度を有する細胞が標的RS4-11腫瘍細胞(GFP標識)であることが分かり、こうして更なる分析のためにゲーティングされた。RS4-11細胞をT細胞なしで共培養した場合に、バックグラウンドにおいて、9%の標的細胞はアポトーシス寸前であり、6%の標的細胞はアポトーシス細胞であることが示された。RS4-11細胞を改変されていない一般的なT細胞と共培養した場合に、18.0%の標的細胞がアポトーシス寸前であり、26.4%の標的細胞はアポトーシス細胞であり、これは非特異的殺傷バックグラウンド値として解釈した。RS4-11細胞をGD2 CAR-T細胞と共培養した場合に、17.3%の標的細胞がアポトーシス寸前であり、29.9%の標的細胞はアポトーシス細胞であり、これも非特異的殺傷バックグラウンド値として解釈した。RS4-11細胞を特定のCD19 CAR-T細胞と共培養した場合に、22.3%の標的細胞がアポトーシス寸前であり、52.8%の標的細胞はアポトーシス細胞であり、これは特異的殺傷の効果であった。アポトーシス寸前の標的細胞及びアポトーシス標的細胞の数は、CD19キメラ抗原受容体を有するT細胞の場合に他のコントロール群よりも有意に大きかったため、CD19キメラ抗原受容体は、標的RS4-11細胞に対する高い殺傷効果を有することが示された。
【0059】
実施例6 CD19 CAR-T細胞によるin vitroでの殺傷の動的比較及び安全性試験
(1)41BB CAR19、28-27 CAR19及び本出願の28-27 Caspase9 CAR19(4S-CAR19)を含む、異なるシグナル伝達ドメインを備えた非特異的T細胞又はCD19 CAR-T細胞を、RS4-11と一緒に5%のCOインキュベーター内にて37℃で24時間共培養した。培養の2時間後、6時間後及び24時間後に、生きているRS4-11細胞のパーセンテージを記録し、これらの結果を図4(a)に示した。41BB CAR19、28-27 CAR19及び本出願の28-27 Caspase9 CAR19は、コントロール群のT細胞と比較してRS4-11細胞に対して有意な殺傷効果を有した。培養の2時間後及び6時間後に得られたデータから分かるように、本出願の28-27 Caspase9 CAR19は、培養の24時間後に比較的遅い殺傷動態を有したが、41BB CAR19及び28-27 CAR19と同じ殺傷効果が達成された。本出願の28-27 Caspase9 CAR19によって引き起こされる白血病細胞の除去により、臨床用途において重篤な毒性応答(サイトカイン放出症候群、CRS)が誘発されないことが示された。
【0060】
(2)41BB CAR19、28-27 CAR19及び本出願の28-27 Caspase9 CAR19を含む、異なるシグナル伝達ドメインを備えた非特異的T細胞又はCD19 CAR-T細胞を、RS4-11と一緒に5%のCOインキュベーター内にて37℃で共培養した。6時間後に、異なるCD19 CAR-T細胞によって産生される免疫因子の量及び脱顆粒効果を細胞内因子染色法によって検出し、これらの結果を図4(b)に示した。41BB CAR19、28-27 CAR19及び本出願の28-27 Caspase9 CAR19は、コントロール群のT細胞と比較してより強力な(CD107a)脱顆粒能を示し、より多くのインターフェロン及びインターロイキン-2を産生した。インターフェロンを産生する細胞のパーセンテージは、コントロール群のT細胞では0.6%であり、41BB CAR19では6.9%であり、28-27 Caspase9 CAR19では4.3%であり、28-27 CAR19では6.3%であった。インターロイキン-2を産生する細胞のパーセンテージは、コントロール群のT細胞では2.5%であり、41BB CAR19では8.9%であり、28-27 Caspase9 CAR19では8.8%であり、28-27 CAR19では10.2%であった。共培養の6時間後に、本出願の28-27 Caspase9 CAR19は、他の種類のシグナル伝達ドメインを有するCD19 CAR-T細胞よりも少量の免疫因子を放出したことが分かる。本出願の28-27 Caspase9 CAR19(4SCAR19)は、臨床用途で使用した場合に、重篤な免疫因子ストーム(CRS)を引き起こさず、治療の安全性が高められると推論することができる。
【0061】
実施例7 CAR-T細胞の臨床用途
本研究所は、2013年7月から2016年7月まで22の臨床医療センター及び病院と協力して研究し、登録基準を満たすCD19陽性で化学療法耐性のB-ALL患者102人を治療し、注意深く追跡した。合計55人の小児及び47人の成人がおり、そのうち27人が同種造血幹細胞移植を受けていた。これらの患者は、CAR-Tを投与した時点で骨髄中の初期白血病芽細胞の中央値パーセンテージ14.5%(0%~98%の範囲)を有していた。これらの患者のうち、69人の患者は、50%未満の骨髄中の初期白血病芽球を有し、他の33人の患者は50%超の骨髄中の白血病芽球を有していた。初期診断からCAR-T細胞療法までの中央値期間は17ヶ月(2ヶ月~164ヶ月)であった。
【0062】
臨床試験のフローチャートを図5に示した。患者を最初に病院及び研究所によって評価し、登録条件が満たされたら、自己白血球又はドナーの白血球を収集した。次に、標準的なプロトコルに従って、CD3陽性T細胞をPBMCからスクリーニングし、活性化し、4SCAR19でトランスフェクションすることで、CD19 CAR-T細胞を作製した。患者を、注入前にシクロホスファミド及び/又はフルダラビンで前処置した。注入されるべき細胞の平均数は、体重1キログラム当たり1.05×10個の細胞であった。白血球及びCAR-T細胞の品質、遺伝子トランスフェクション率、CAR-T細胞の増殖及び注入されたCAR-T細胞の有効数を評価し、記録した。CAR-T細胞を患者に注入した後に、免疫因子ストーム及びCARコピー数を、1ヶ月以内で注意深く監視した。治療毒性の結論及び最終的な治療成果は、長期の臨床的評価及び研究所評価によって得られる。毒性評価は、米国国立癌研究所の有害事象共通用語規準(CTCAE v4.03)に基づいて行った。コックス比例ハザードモデルを使用してカテゴリー変数及び連続変数を分析し、生存分析のためにカプラン-マイヤー曲線を使用した。これらの結果を表1~表3に示した。
【0063】
表1は患者の寛解率及び生存日数を示した。
【0064】
【表1】
【0065】
CD19 CAR-T細胞療法を4年間受け、完全なデータを収集した患者は合計110人いた。51人の小児及び45人の成人を含む96人の患者において完全寛解が達成された。再発を伴わない平均日数は100日を超え、全生存日数は200日を超えた。これらの結果は、本出願の4SCAR19 T細胞の良好な治療効果を示した。
【0066】
表2はCAR-T細胞の注入後の患者の免疫因子ストーム状況を示した。
【0067】
【表2】
【0068】
50%未満の骨髄悪性細胞を有する患者のうち、グレード0~1の免疫因子ストーム応答しか有しない患者は55人おり、17人の患者はグレード2~4の応答を有していた。50%以上の骨髄悪性細胞を有する患者のうち、グレード0~1のグレードの免疫因子ストーム応答を有する患者は17人おり、21人の患者はグレード2~4のグレードの応答を有していた。全体として、65%の患者はグレード0~1の免疫因子ストーム応答しか有しておらず、再注入前の応答強度と悪性細胞負荷との間に統計的相関はなかった。これらの結果は、本出願のCD19 CAR-T細胞の安全性を裏付けた。
【0069】
表3はCAR-T細胞のin vivoでの増殖を示す。
【0070】
【表3】
【0071】
CARのコピー数は、患者にCAR-T細胞を注入した後3週間以内に末梢血中で検出することができた。データを収集した101人の患者のうち、コピー数が検出されなかった患者は1人だけおり、更に、検出されたコピー数が1%未満であった患者は60人おり、32人の患者は1%~5%のコピー数を有し、そして依然として8人の患者は5%超の検出されたコピー数を有していた。末梢血細胞の基準数が多いため、CARコピー数の1%の検出は、CAR-T細胞の有意な増幅を表した。この表から、本出願のCD19 CAR-T細胞がin vivoで十分に増殖し、癌細胞を殺傷する機能を十分に発揮し得ることを理解することができる。
【0072】
まとめると、CD19腫瘍表面抗原に対する本出願のキメラ抗原受容体の一本鎖抗体は変異エスケープの傾向がない。図6から、本出願のキメラ抗原受容体は他のキメラ抗原受容体よりも優れた効果を発揮したことが分かる。T細胞シグナル伝達領域の最適化及び改変によって、本出願のキメラ抗原受容体はより優れた殺傷効果を発揮することができ、重篤な免疫因子ストーム(CRS)を誘発せず、安全設計された除去メカニズムを伴うため、CAR-T細胞の免疫効果が増強されるとともに、CAR T細胞の治療効果及び安全性効果が向上する。
【0073】
本出願人は、本出願の詳細な方法が上記実施例を通して説明されたと言明するが、本出願は上記の詳細な方法に限定されない。すなわち、本出願の実施が上記の詳細な方法によるものでなければならないことを意味するものではない。当業者は、原材料の同等物による置き換え又は本出願の生成物への補助成分の追加及び特定の方法の選択等を含む本出願のあらゆる改善が、本出願の保護範囲及び開示範囲に含まれるものと理解すべきである。
図1
図2(a)】
図2(b)】
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6
【配列表】
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