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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】液浸対物レンズ及び液浸顕微鏡検査方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/33 20060101AFI20220418BHJP
   G02B 21/00 20060101ALI20220418BHJP
   G02B 21/02 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
G02B21/33
G02B21/00
G02B21/02 Z
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021066193
(22)【出願日】2021-04-09
(65)【公開番号】P2021173999
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2021-04-09
(31)【優先権主張番号】10 2020 111 715.9
(32)【優先日】2020-04-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506151659
【氏名又は名称】カール ツァイス マイクロスコピー ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】CARL ZEISS MICROSCOPY GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【弁理士】
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】ノブリッヒ,ヨハネス
(72)【発明者】
【氏名】ファルブッシュ,インゴ
(72)【発明者】
【氏名】スティッカー,マルクス
(72)【発明者】
【氏名】ウォレシェンスキー,ラルフ
(72)【発明者】
【氏名】オート,トーマス
【審査官】森内 正明
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-503030(JP,A)
【文献】特開2019-128371(JP,A)
【文献】特開2005-234458(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0101740(US,A1)
【文献】国際公開第2007/135762(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3246741(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 - 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液浸対物レンズであって、
光学構成要素が収容される対物レンズ本体(10)と、
少なくとも1つの浸液タンク(20、20’、20’’)と、
前記対物レンズ本体(10)上の少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部(12)であって、前記浸液タンク(20、20’、20’’)が、前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)を介して脱着可能に支持可能である、対物レンズ本体カップリング接続部と、
前記対物レンズ本体(10)を介して支持され、前記浸液タンク(20、20’、20’’)から対物レンズ前面(15)へ浸液(2)を搬送するために配置される少なくとも1つのポンプ(31)ポンプと、
前記対物レンズ本体(10)を介して支持され、前記少なくとも1つのポンプ(31)を制御するように構成されている制御電子機器構成要素(40)と、
を備える、液浸対物レンズ。
【請求項2】
前記ポンプ(31)が、前記少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部(12)を介して脱着可能に前記対物レンズ本体(10)上に支持される、請求項1に記載の液浸対物レンズ。
【請求項3】
前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)が、少なくとも1つの対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタ(13)を備え、前記対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタを介して前記ポンプ(31)及び前記浸液タンク(20、20’、20’’)の少なくとも一方が電気的に接続される、請求項1又は2に記載の液浸対物レンズ。
【請求項4】
前記液浸対物レンズが、前記液浸対物レンズの装着用の機械的取付接続部(7)と共に電気インターフェイス(5)を備え、
前記制御電子機器構成要素(40)が、前記電気インターフェイス(5)と前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)の両方に電気的に接続される、請求項1~3のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項5】
前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)は、前記浸液タンク(20、20’、20’’)が倒立顕微鏡と正立顕微鏡とで異なる配向で支持可能であるように設計され、対称的に接触可能であり、
前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)が、前記対物レンズ本体(10)上の中間の高さに配置される、請求項1~4のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項6】
前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)が、前記浸液タンク(20、20’、20’’)の構成要素との電気的接続を確立するように構成され、
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)への接続用の嵌合プラグ/ソケット(23)を備え、
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、前記嵌合プラグ/ソケット(23)を介して前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)に電気的に接続することができる充填度センサ(26)を備える、請求項1~5のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項7】
前記少なくとも1つのポンプ(31)が、対応する前記浸液タンク(20、20’、20’’)に収容され、
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、前記ポンプ(31)の反対端で前記浸液タンク(20、20’、20’’)上に配置される排気弁(25)を備える、請求項1~6のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項8】
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、倒立顕微鏡と正立顕微鏡の両方で前記浸液タンク(20、20’、20’’)の脱水性を可能にするために、浸液(2)を有する折畳みバッグを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項9】
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、浸液(2)の補充用の補充孔(28)を備える、請求項1~8のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項10】
前記対物レンズ本体カップリング接続部(12)への装着用の嵌合プラグ/ソケット(33)と、
前記嵌合プラグ/ソケット(33)に電気的に接続される前記ポンプ(31)と、
前記浸液タンク(20、20’、20’’)を脱着可能に支持する支持ブラケット(34)と、を備える、少なくとも1つのポンプアダプタ(30)を更に備える、請求項1~9のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項11】
前記ポンプアダプタ(30)が電気プラグ/ソケットコネクタ(35)を備え、前記浸液タンク(20、20’、20’’)が嵌合プラグ/ソケットコネクタ(22)を備える、請求項10に記載の液浸対物レンズ。
【請求項12】
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、それぞれの前記ポンプ(31)を受容するための受容凹部(29)を下側領域に有し、
各浸液タンク(20、20’、20’’)が、前記ポンプ(31)の流体接続用に構成され、前記ポンプ(31)が接続されていないときの浸液(2)の漏れを防止するポンプカップリング(24)を備え、
機械的支持のための前記受容凹部(29)が、前記ポンプ(31)又はポンプアダプタ(30)に形成される、請求項1~11のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項13】
前記制御電子機器構成要素(40)が、プラグ/ソケットコネクタ(44)を備える制御電子機器ハウジング(41)に収容され、前記制御電子機器ハウジング(41)が、前記プラグ/ソケットコネクタを介して、前記対物レンズ本体(10)上のプラグ/ソケットコネクタ(14)に電気的に接続され、該プラグ/ソケットコネクタによって機械的に支持されることができ、
前記少なくとも1つの浸液タンク(20、20’、20’’)と前記制御電子機器構成要素(40)の制御電子機器ハウジング(41)とが、前記対物レンズ本体(10)の周囲のリングの一部の形状で配置され、前記少なくとも1つの浸液タンク(20、20’、20’’)と前記制御電子機器ハウジング(41)がそれぞれ、前記対物レンズ本体(10)に嵌合する円の一部の形状の内側を有する、請求項1~12のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項14】
異なる浸液(2)を有する少なくとも2つの浸液タンク(20、20’、20’’)が、前記対物レンズ本体(10)上に配置され、
Yチャネルが、前記タンク内に収容された前記浸液(2)を混合するために、前記浸液タンク(20、20’、20’’)のうちの2つに接続される、請求項1~13のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項15】
残留浸液タンク(19)が、前記対物レンズ本体(10)上に追加で配置され、
対物レンズ前面(15)から前記残留浸液タンク(19)へ浸液(2)を吸引するための残留浸液ポンプが設けられ、前記残留浸液ポンプが前記対物レンズ本体(10)を介して支持される、請求項1~14のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項16】
各ポンプ(31)がチューブコネクタ取付具(32)を備え、
前記チューブコネクタ取付具(32)に脱着可能に接続され、前記対物レンズ前面(15)につながる少なくとも1つの交換可能チューブ(45)が設けられる、請求項1~15のいずれか一項に記載の液浸対物レンズ。
【請求項17】
液浸対物レンズを用いる液浸顕微鏡方法であって、
光学構成要素が収容される対物レンズ本体(10)と、
少なくとも1つの浸液タンク(20、20’、20’’)と、
を備え、
前記少なくとも1つの浸液タンク(20、20’、20’’)が、少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部(12)を介して、前記対物レンズ本体(10)上に脱着可能に支持され、
前記方法が、
前記対物レンズ本体(12)を介して支持された少なくとも1つのポンプ(31)によって、前記浸液タンク(20、20’、20’’)から対物レンズ前面(15)へ浸液(2)を搬送することと、
前記対物レンズ本体(10)を介して支持された制御電子機器構成要素(40)によって、前記少なくとも1つのポンプ(31)を制御することと、
を含む方法。
【請求項18】
前記液浸対物レンズ(1)が光学顕微鏡上への取付動作中である間、前記浸液タンク(20、20’、20’’)の補充孔(28)を介して前記少なくとも1つの浸液タンク(20、20’、20’’)を補充することを更に備える、請求項17に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液浸対物レンズ及び液浸顕微鏡検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液浸対物レンズは、多くの光学顕微鏡用途で使用されている。液浸対物レンズは、動作中、前面が液浸媒質(浸液)に浸漬される対物レンズである。浸液は、例えば、分析対象の標本を下に配置するカバースリップに適用される。
【0003】
浸液は一般的に、制御され目標を定めて適用されるべきである。これは手動で行われることが多く、ユーザの熟練を要する。電子制御液浸装置では、特に精密に定義された位置に、精密に設定又は再現された量の浸液を適用できるべきである。長期分析の場合、浸液の精密な添加を可能とすべきである。それと同時に、浸液の不正確な添加につながるおそれのあるユーザの不正確な手作業を含まない、ユーザが使い易い操作性が望まれる。更に、簡易な操作性のために、液浸システム全体のコンパクトな設計が望ましい。浸液に対して使用される各種構成要素が、顕微鏡の取り扱いを邪魔したり妨害したりすることが回避されるべきである。具体的には、他の顕微鏡構成要素の機能が、理想的には、液浸装置に悪影響を及ぼされることがあってはならない。
【0004】
しかしながら、浸液の自動供給用の多くの液浸システムが、従来技術において既知であるが、上述の目的を完全には満たしていない。
【0005】
EP1717628B1は、浸液の供給及び除去用の浸液チューブが固定される液浸対物レンズについて記載している。対応するポンプを備えた浸液タンクは、液浸対物レンズとは別に設けられる。システム全体が比較的大きく、例えば、対物レンズリボルバを介して対物レンズが変更されるとき、又はオーバービューカメラなどの他の顕微鏡構成要素が同時に使用されるとき、チューブの対物レンズへの誘導は障害になり得る。
【0006】
同様に、WO2019/016048A1は、別個の浸液タンクからのチャネルがつながる対物レンズを記載している。必要なポンプと浸液タンクは、顕微鏡の柔軟な取り扱いを制限する。更に、特別な弾性的に取り付けられるアタッチメントが必要とされ、そのアタッチメントは特定の対物レンズに合わせて設計されなければならない。
【0007】
DE10333326B4では、浸液は、対物レンズの前面領域から距離をおいて配置される浸液溜めから供給チューブを介して運ばれる。液浸媒質の除去用の吸引装置が装着される、毛管チャネルを備えたアタッチメントが対物レンズに接続される。
【0008】
DE10123027B4では、液浸媒質は、対物レンズ外に配置された液浸装置を用いて、供給チューブ(毛管)を介してスライドと対物レンズの前面との間に直接供給される。その後に除去される液浸媒質は、チューブと、対物レンズ外に配置された対応する回収装置とを介して除去される。
【0009】
DE102005040828A1は、自動液浸動作に加えて、液浸動作の最後で顕微鏡対物レンズの前面レンズの自動清浄も可能にする完全自動顕微鏡システムについて記載している。浸液の適用及び除去に必要な構成要素は、顕微鏡スタンドの隣に配置される。それに応じて、浸液用のチューブも、浸液の供給及び除去のために配置しなければならない。
【0010】
WO2019/063782A2は、液浸対物レンズと、液浸対物レンズとは別に設けられる液浸装置とについて記載している。スライドと前面レンズとの間の領域へのチャネルを通じて浸液を搬送するため、液浸装置が接続されるチャネルが、液浸対物レンズの前面レンズに形成される。
【0011】
DE102017217380A1は、液浸媒質用の供給構成要素を開示している。供給構成要素は、対物レンズから距離をおいて配置され、ポンプが対物レンズの前面領域まで浸液を搬送するための媒質導管を備える。
【0012】
DE102013011544A1では、液浸フィルム領域からの流体漏れを防止する保護装置と、液浸フィルム領域への浸液の自動供給装置とが、倒立顕微鏡上で使用される。保護装置は、顕微鏡スタンドの本体に静的に配置される。液浸フィルム領域への浸液の供給装置は、保護装置と連通する止水システムを含む。
【0013】
DE102006042088B4及びUS3837731Aはそれぞれ、一種のキャップが固定される対物レンズについて記載している。キャップはチューブを支持する、又は浸液の供給又は除去用のチャネルを備える。同様に、JP2005234458Aは、対物レンズから距離をおいて配置され、そこからチューブが対物レンズへとつながる液浸装置について記載している。
【0014】
DE102015200927A1は、対物レンズとは別に形成される液浸装置について記載している。対物レンズと液浸装置の部品は、対物レンズリボルバ上で相互に隣接するように支持することができる。液浸装置のサイズにより、浸液タンクは、ここでもある距離をおいて配置され、チューブを介して対物レンズリボルバ上の部品に接続される。使用される対物レンズの機械的修正はここでは必要ないため、改良された取り扱い、及び様々な対物レンズでの連続作業が可能になる。この目的で、注入装置は、対物レンズリボルバによる対物レンズの変更や顕微鏡ステージの移動を邪魔されずに行うことができるように、対物レンズから十分に離して配置されなければならない。この目的で、注入装置は、特に、対物レンズリボルバの軸上、又は対物レンズリボルバの設置空間外の顕微鏡スタンド上に直接配置することができる。よって、邪魔されずに液浸媒質をスライドへ注入することができる。この注入装置の顕微鏡スタンド上への配置の結果、浸液流は、約20~30mmの距離にわたって注入されなければならない。この比較的長い距離のため、浸液流は、当該対物レンズに必要な浸液量が、スライド上の所望の衝突場所に完全かつ確実に到達するように、パラメータ(例えば、流速、流径、流特徴)に関して構成されなければならない。ここでの問題の1つは、流自体内だけでなく、出現しつつある浸液メニスカス(初回液浸)又は対物レンズとスライドとの間で既に出現している浸液メニスカス(追加液浸)における衝突場所の両方において、浸液流の流エネルギーに起因して気泡が生じ易いことである。顕微鏡用途の場合、対象野内で可視である気泡は望ましくない。更に、液浸領域内の気泡は、顕微鏡、例えば、自動焦点システムの誤動作を招く可能性がある。その結果、この気泡を伴う注入技術の問題により、気泡を回避し低減するための多彩な手段、例えば、ポンプパラメータの最適化、液浸媒質の脱気又は「気泡除去作業」、顕微鏡ステージの変更などが提案されてきた。
【0015】
DE202017000475U1は、対物レンズとは別個に配置され、注入装置を介して対物レンズの前面領域までの一定距離から浸液を注入する浸液構成要素について記載している。
【0016】
流特性及び可能な限り少ない気泡の液浸という観点から、標本に近接して液浸媒質を導入することが有利である。よって、この目的に必要な機器、少なくともチューブ又はチャネルは、対物レンズ自体に、又は対物レンズに近接して配置又は固定されなければならない。このことは、対物レンズと標本との間の構成要素設置空間が限られているために技術的に困難であり、使用中の衝突リスクを増大させる可能性がある。チューブを介した液浸媒質の供給及び除去も確保しなければならない。このため、顕微鏡、例えば、対物レンズの変更、合焦、操作、又は培養に関する顕微鏡の使用が複雑化する、又は制限される。液浸装置(カニューレ、液浸キャップ、チューブ、浸液容器、外部ポンプなど)の多数の空間要件及び衝突の汚染リスクにより、他の顕微鏡構成要素、例えば、オーバービューカメラ、センサ、又は止水/事故防止装置との組み合わせもまた問題となり得る。特に倒立顕微鏡の場合、浸液又は標本流体の顕微鏡への浸透を防止する保護装置がある。機能上の制約は、場合によっては、例えば、回転方向に関して制限がある対物レンズの変更を招くことがある。また、他の顕微鏡機能の更なる制限を避けるために、使用していないときは液浸装置を停止位置に移動させる必要が生じ得る。
【0017】
一般的な液浸対物レンズでは、比較的コンパクトな設計が得られる。この設計は、光学構成要素が収容される対物レンズ本体、少なくとも1つの浸液タンク、及び対物レンズ本体上の少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部を備える。浸液タンクは、対物レンズ本体カップリング接続部を介して脱着可能に支持することができる。浸液タンクは、対物レンズ本体カップリング接続部上に直接、又は対物レンズ本体カップリング接続部上の中間構成要素を介して間接的に支持されることができる。
【0018】
従って、一般的な液浸顕微鏡は、光学構成要素が収容される対物レンズ本体を有する液浸対物レンズと、対物レンズ本体上の少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部を介して脱着可能に支持される少なくとも1つの浸液タンクと、を備える。
【0019】
一般的な液浸対物レンズは、例えば、JP2010026218A及びWO2008/028475A2から既知である。
【0020】
JP2010026218Aは、浸液容器が対物レンズの外側に別個に装着されている液浸装置について記載している。液浸装置の他の必要な機能及び制御要素は、対物レンズから距離をおいて配置されている。WO2008/028475A2では、浸液タンクは、同じように対物レンズ上に支持され得る。この目的で、浸液チャネルを有するキャップが対物レンズに配置され、浸液タンクがキャップに差し込まれる。液浸装置の他の構成要素(具体的には、ポンプを備えることのできる機能的構成要素と制御電子機器)は、対物レンズとは別に対物レンズリボルバに固定される。
【0021】
対物レンズの機能を高めるため、電気インターフェイスを有する対物レンズソケットが、DE102013006997A1に記載されている。
【0022】
既知の液浸システムは、柔軟性及び取り扱いに関して制限されている。一つには、構成要素の特定かつ正確な配置が実行されなければならない。他には、不注意に使用された場合に、液浸システムの構成要素との衝突リスクがある。
【発明の概要】
【0023】
取り扱いが容易で、他の顕微鏡機能を無理に邪魔することなく、浸液の自動かつ精密な供給を可能にする液浸対物レンズ及び液浸顕微鏡検査方法を示すことが、本発明の目的と考えられる。
【0024】
この目的は、請求項1の特徴を備えた液浸対物レンズと、請求項17の特徴を備えた方法とによって達成される。
【0025】
本発明によると、上述したこの種の液浸対物レンズは、対物レンズ本体を介して支持され、浸液タンクから対物レンズ前面へ浸液を搬送するために配置される少なくとも1つのポンプと、対物レンズ本体を介して支持され、ポンプを制御するように構成されている制御電子機器構成要素と、を備える。
【0026】
本発明によると、上述したこの種の方法は、対物レンズ本体を介して支持される少なくとも1つのポンプによって、浸液タンクから対物レンズ前面へ浸液を搬送することと、対物レンズ本体を介して支持される制御電子機器構成要素によって、少なくとも1つのポンプを制御することと、によって特徴付けられる。
【0027】
本発明によると、液浸に必要な全ての構成要素は、対物レンズ上に配置され、対物レンズによって支持されることができる。これらの構成要素は、少なくとも浸液タンク、浸液用のポンプ、及び対応する制御電子機器構成要素を備える。当該構成要素は、対物レンズ本体上に直接、又は対物レンズ本体上の中間構成要素を介して、支持され得る。既知の従来技術とは全く異なり、これにより、個別の液浸装置を、使用される対物レンズから空間的に分離することが不要になる。これにより、対物レンズの変更中における別個の液浸装置の構成要素との衝突リスクが回避される。対物レンズ上に組み込まれる液浸装置が小型であるため、他の顕微鏡機能は全く又はほとんど阻害されない。浸液構成要素の正確な位置は対物レンズの位置によって既に決定されているため、ユーザは、液浸装置の部品の正確な位置決めに気を配らなくてよい。更に、光学顕微鏡の修正や、顕微鏡スタンド又は対物レンズリボルバ上の浸液構成要素の特別な配置は必ずしも要求されないため、本発明による液浸対物レンズは、様々な異なる光学顕微鏡と共に容易に使用することができる。この点で、別個の液浸装置の部品(例えば、ポンプ)を、対物レンズリボルバ又はスタンド上に必ず配置しなければならない上述の従来技術とは大きく異なる。
【0028】
例えば、本発明は、中には数日間かかることもある長期実験において、具体的には追加液浸の形状で、浸液の自動供給を可能にする。この利点は、追加液浸をユーザによって手動で、例えば、30分毎に実行しなければならない場合に特に関連する。
【0029】
任意の実施形態
本発明による液浸対物レンズ及び本発明による方法の有利な変形例は、従属請求項の目的であり、以下の記載でより詳細に説明する。
【0030】
対物レンズ本体カップリング接続部
対物レンズ本体カップリング接続部は、機械的支持のため及び任意で電気的接続のための接続部として理解することができる。機械的支持及び電気的接続の機能は、接続部の空間的に離れた部品によって実行することができる。例えば、機械的支持は、圧締接続、プラグ/ソケット接続、張力接続、又はねじ込み接続によって提供することができる。電気接点は、例えば、弾性又はばね式の電気接触ピン又は面によって、距離をおいて設けることができる。しかしながら、コンパクトな構造の場合、同じ接続部が、接続された構成要素の電気接点と機械的支持の両方を達成することもできる。対物レンズ本体カップリング接続部は、電気プラグ/ソケットコネクタ(以下、対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタと称する)を備えることができる、又はこのようなプラグ/ソケットコネクタによって構成することができ、設計に応じて、機械的支持を強化する、又は機械的支持のみを担う。
【0031】
対物レンズ本体カップリング接続部はまた、機械的接続の代わりに、又はそれに加えて磁気カップリング点を備えることができる。
【0032】
少なくとも1つの浸液タンクは、少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部を介して支持される。任意選択的に、少なくとも1つのポンプもまた、同じ接続部を介して支持され得る。原則的には、本明細書の対物レンズ本体カップリング接続部は、浸液タンク及びポンプ用の別個の接続部品(例えば、プラグ/ソケットコネクタ)を備えることができる。しかしながら、よりコンパクトな設計は、対物レンズ本体カップリング接続部が、単独の接続部品又は単独の電気的接続部を備え、それを介して浸液タンクとポンプの両方を支持する、又は電気的に接触させることができる設計である。例えば、浸液タンクは、対物レンズ本体カップリング接続部に直接接続されるように設計することができ、ポンプは浸液タンク内又は上に支持させることができる。もしくは、より詳細に後述するポンプアダプタは、対物レンズ本体カップリング接続部に直接接続することができ、浸液タンクはポンプアダプタに接続される。原則的には、他の中間構成要素(例えば、スリーブ、取付ブラケット、制御電子機器構成要素又は部品)はまた、対物レンズ本体カップリング接続部に直接接続することができ、浸液タンク及びポンプは、この/これらの中間構成要素(複数可)を介して対物レンズ本体カップリング接続部に接続される。
【0033】
液浸対物レンズは、液浸対物レンズの装着用の機械的取付接続部、例えば、対物レンズリボルバ又はスタンドへの装着用の差込み取付台又はねじと共に電気インターフェイスを備えることができ、電気接点も設けられる。対物レンズ本体を介して支持される制御電子機器構成要素は、次に、電気インターフェイスと対物レンズ本体カップリング接続部の両方に電気的に接続することができる。それにより、制御電子機器構成要素は、電気インターフェイスを介して制御コマンド及び/又は電気エネルギーを受け取ることができ、対物レンズ本体カップリング接続部を介してポンプを制御することができ、構造に応じて、浸液タンクの任意の電気部品、具体的には充填度センサと通信する。
【0034】
言い換えれば、対物レンズ本体カップリング接続部は、浸液タンクの構成要素、特に、浸液タンクの充填度センサとの電気的接続も確立するように構成されてもよい。
【0035】
いくつかの変形例では、液浸対物レンズは、倒立顕微鏡にも正立顕微鏡にも適する。液浸対物レンズは、このような変換の場合、180度回転させられる。しかしながら、浸液タンクは、浸液タンクが部分的にしか充填されない場合にポンプが浸液ではなく空気を引き込むため、設計によっては、倒立位置(上下逆さま)では正確に動作できない。この問題を解決するために、浸液タンクは、対物レンズ本体に対して180度回転した位置で、対物レンズ本体カップリング接続部上に支持され得ることが好都合である。具体的には、対物レンズ本体カップリング接続部又はその電気的接続部は、浸液タンクが倒立顕微鏡及び正立顕微鏡とで異なる配向で支持可能となるように、対称的に接触可能であるように設計することができる。例えば、対称構造の電気プラグ/ソケットコネクタを使用することができる。また、対物レンズ本体カップリング接続部が2つの別個の機械的取付台(及び/又は2つの別個の電気的接続手段)を備え、一方が倒立顕微鏡のために使用され、他方が正立顕微鏡のために使用される設計も可能である。また、互いに対して180度回転した2つの配向で、浸液タンクと対物レンズ本体を連結する設計も可能である。
【0036】
対物レンズ本体カップリング接続部は具体的には、対物レンズ本体上の中間の高さに、すなわち、対物レンズ本体の高さに対して対称的に配置することができる。これは、倒立顕微鏡と正立顕微鏡の両方で(すなわち、対物レンズ本体カップリング接続部を介して支持される配向に関係なく)、浸液タンクが対物レンズ前面又は対物レンズの取付接続部を超えて突出するのを避けるのに有利である。
【0037】
液浸対物レンズを倒立配置だけでなく正立配置でも使用可能とするため、浸液タンクへの流体接続部は旋回可能とすることができる。流体接続部は具体的には、2つの特定の旋回位置で係止することができる。2つの旋回位置は、対物レンズ前面と対物レンズの取付接続部との間の高さが互いに異なる。倒立及び正立配置の場合、低い方の旋回位置が使用される。それによって、ポンプは、流体接続を介して接続された浸液タンクの下側領域から浸液を吸引する。場合によっては、正立及び倒立配置に対して異なって設計された浸液タンクを使用することが必要であるかもしれない。
【0038】
浸液タンク
浸液タンクは一般的には、流体容器として理解することができる。
【0039】
設計に応じて、各浸液タンクは、直接又は中間構成要素を介して、対物レンズ本体カップリング接続部に接続される。直接接続の場合、各浸液タンクは、対物レンズ本体カップリング接続部に接続し易いように形成された嵌合プラグ又はソケットを備えることができる。設計に応じて、嵌合プラグ/ソケットは、機械的支持のみ、又は電気的接続も提供することができる。この目的で、嵌合プラグ/ソケットは、例えば、電気プラグ/ソケットコネクタとして構成することができる。
【0040】
具体的には、浸液タンクが対物レンズ本体カップリング接続部に直接接続される場合、対応するポンプは上記浸液タンクに収容することができる。よって、マイクロポンプと称されることが多いコンパクトポンプは、少数の機械的プラグイン接続で、空間を節減して収容することができる。
【0041】
各浸液タンクは、排気弁を備えることができる。排気弁は、ポンプの反対端で浸液タンク上に配置することができる。よって、ポンプは、排気弁が上端にある間、動作中、浸液タンクの下側領域に配置することができる。排気弁を用いることで、ポンプによる浸液の精密な量の搬送を邪魔する負圧が、部分的充填状態にあるときの浸液タンクで回避される。
【0042】
各浸液タンクはまた、特に、浸液タンクの嵌合プラグ/ソケットを用いて、対物レンズ本体カップリング接続部に電気的に接続可能な充填度センサを備えることができる。
【0043】
いくつかの実施形態では、各浸液タンクは任意で、浸液の補充用の補充孔を備えることができる。補充孔上の弁又はキャップは、例えば、シリンジを介して浸液を補充できる間、汚染物質が侵入するのを防止することができる。補充孔は有利なことに、ポンプの場所の反対位置、すなわち、浸液タンクの上端に配置される。補充は、液浸対物レンズが光学顕微鏡に取り付けられて、動作中である間に行うことができる。これは、長期実験において大きな利点になり得る。
【0044】
上述の特徴は、浸液タンクが剛体外壁を有するときに特に好適である。しかしながら、あるいは、浸液タンクは、含有する浸液量が減少するにつれて壁が収縮する可撓性タンクとして設計することもできる。可撓性バッグ(折畳み式バッグ)は浸液タンクとしても可能である、又は記載される浸液タンクでは、浸液がバッグ内に収容される。可撓壁を備えたこれらの設計では、含有される浸液量が減少すると、バッグの容積が減少する。よって、ポンプは、バッグ上のポンプ接続の位置に関係なく、バッグを空にすることができる。その結果、ポンプと浸液バッグから成る構造は、有利なことに、対物レンズ本体に対するポンプとバッグの異なる配向を達成する必要なく、倒立顕微鏡と正立顕微鏡の両方で使用することができる。バッグは、両方のケースで、空気を引き込むポンプを必要とせずに、ほぼ完全に空にすることができる。よって、ユーザにとっての使い易さが向上する。
【0045】
ポンプアダプタ
ポンプアダプタは、浸液タンクが、対物レンズ本体カップリング接続部に直接接続されず、具体的にはポンプアダプタであり得る中間構成要素を介して接続されるように設けることができる。ポンプアダプタは、対物レンズ本体カップリング接続部に接続するための嵌合プラグ/ソケットと、嵌合プラグ/ソケットに電気的に接続されるポンプと、浸液タンクを脱着可能に支持する支持ブラケットと、を備える。ポンプアダプタの嵌合プラグ/ソケットは具体的には、電気プラグ/ソケットコネクタとして説明することができる、又は電気プラグ/ソケットコネクタを備えることができる。この設計は、使い捨て浸液タンクとしての浸液タンクの使用に特に適する。ポンプのような比較的コストの高い部品を浸液タンクから分離することで、タンクを使い捨て構成要素として特に簡易にかつコスト効率良く設計することができる。
【0046】
浸液タンク用のポンプアダプタの支持ブラケットは、純粋に機械的であり得る、又は電気的接続も提供することができる。この目的で、支持ブラケットは、例えば、電気プラグ/ソケットコネクタとして設計することができ、浸液タンクは、嵌合プラグ/ソケットコネクタを備えていてもよい。電気的接続は、例えば、充填度センサのために使用することができる。
【0047】
任意選択的に、各浸液タンクは、それぞれのポンプを受容するためのそれぞれの受容凹部を下側領域に有することができる。具体的には、ポンプが配置されるポンプアダプタの部分は、受容凹部に挿入することができる。この配置は、特に空間を節減することができる。更に、受容凹部はまた、ポンプ又はポンプアダプタ上の機械的支持、特に、噛合支持のために形成することができる。よって、受容凹部は、プラグ/ソケットコネクタ(嵌合プラグ/ソケット)に加えて、ポンプアダプタ上の浸液タンクの機械的支持にも寄与することができる。
【0048】
ポンプアダプタは、断面がL字状であってもよく、L字の長辺が対物レンズ本体に嵌合する。ポンプが配置され、長辺から突出する部分は、浸液タンクの受容凹部内へ突出する。
【0049】
各浸液タンクは、その下側領域にポンプカップリングを備えることができる。これは、ポンプの流体接続用に設計されており、ポンプが接続されていないときにポンプカップリングから浸液が漏れるのを防止する。浸液タンクの下側4分の1は、例えば、浸液タンクの下側領域であると理解することができる。従って、浸液タンクの上側4分の1を上側領域と呼ぶことができる。
【0050】
制御電子機器構成要素
制御電子機器構成要素は、ポンプ(複数可)を制御するように構成され、任意選択的に、液浸対物レンズの他の全ての電気的又は電子的構成要素と通信することができる。例えば、制御電子機器構成要素は、充填度センサから浸液タンクの現在の充填度を取得することができる。浸液タンクがそれぞれ、識別データだけでなく含有される浸液に関する情報が記憶されるチップを備える場合、制御電子機器構成要素はそのようなチップのデータを読み取ることもできる。
【0051】
制御電子機器構成要素は任意で、ポンプ又はポンプのうちの1つを選択的に制御して、浸液タンクから対物レンズ前面へ浸液を送り込む、又は逆に対物レンズ前面から浸液タンクへ浸液を送り出すように更に構成することができる。
【0052】
制御電子機器構成要素は、対物レンズ本体から脱着可能になるように設計され得る制御電子機器ハウジングに収容することができる。この目的で、制御電子機器ハウジングは具体的には、プラグ/ソケットコネクタを備え、それを介して、制御電子機器ハウジングは対物レンズ本体に電気的に接続され、任意で対物レンズ本体上に機械的に支持されることができる。これにより柔軟な使用が容易になる。例えば、同じ制御電子機器構成要素を、様々な対物レンズを用いて連続的に使用することができる、又は、制御電子機器構成要素は、液浸対物レンズの他の構成要素を廃棄することなく、新たなものに交換することができる。
【0053】
もしくは、制御電子機器ハウジングはまた、対物レンズ本体に強固に接続される、又は共通スリーブ又はハウジング部品によって形成することができる。
【0054】
対物レンズ本体が制御電子機器ハウジングに接続されるプラグ/ソケットコネクタを備える場合、プラグ/ソケットコネクタは、対物レンズ前面よりも対物レンズの取付接続部の近くに配置することができる。対物レンズ本体カップリング接続部とは全く異なり、制御電子機器ハウジングを対物レンズ本体に接続するためのプラグ/ソケットコネクタは、鍵の形状を有することができる。これにより、単独配向での接続が可能になるため、制御電子機器ハウジングは、対物レンズ本体に対して所望位置に固定され得る。
【0055】
制御電子機器ハウジング又は上述の制御電子機器ハウジングは、断面(液浸対物レンズの長軸に直交)にリングの一部の形状を有することができる。具体的には、円の一部の形状を有する内側は、対物レンズ本体に嵌合することができる。制御電子機器ハウジングの外側も円の一部の形状を有することができ、空間を節約するシステム全体をもたらすとともに、他の顕微鏡構成要素との不所望の衝突が起こりにくくなる。制御電子機器ハウジングのリングの一部の形状は、リングの一部の形状をそれぞれ有する1つ以上の浸液タンクと併せて閉鎖リングを形成することができる。このリングは、断面で略円形である対物レンズ本体を取り囲む。
【0056】
制御電子機器構成要素が、リングの一部の形状を有するハウジング内の空間を効率的に使用できるようにするため、制御電子機器構成要素は、リジッドフレックス技術の回路基板を備えることができる。複数の回路基板は、まとめて見たときにリングの一部を成す形状で延在するように、可撓性広域ワイヤによって接続することができる。
【0057】
浸液タンク(複数可)の配置
制御電子機器ハウジングのように、少なくとも1つの浸液タンクは、リングの一部の形状で対物レンズ本体の周囲に配置することができる。各浸液タンクは、対物レンズ本体に嵌合する円の一部の形状を備えた内側を有することができる。対物レンズ軸から径方向に見て、各浸液タンクの外側は任意で、円の一部の形状を有することができる。
【0058】
また、異なる浸液用に、対物レンズ本体に少なくとも2つの浸液タンクを配置することができる。従って、対物レンズ本体は、複数の浸液タンク用のそれぞれのカップリング接続部を有することができる。
【0059】
Yチャネル(Y分路)は、2つの浸液タンク又は浸液タンクのうちの2つに、直接又は2つのチューブを介して接続することができる。Yチャネルにより、含有される浸液、例えば、グリセリンと水とを混合することができる。次いで、単独のチューブが、混合物を対物レンズ前面へ誘導する。制御電子機器構成要素は、それぞれのポンプの制御により、2つの浸液の混合比を設定することができる。
【0060】
原則としては、例えば、4分の1リング又は半リングの断面を形成する異なるサイズの浸液タンクの変形を使用することができる。2つの小型浸液タンク(例えば、それぞれ4分の1リングの形状)が、対物レンズ本体カップリング接続部に隣接して取り付けられる。対照的に、大型浸液タンク(例えば、半リングの形状)は、対物レンズ本体カップリング接続部の1つのみに電気的に接触し、隣接する対物レンズ本体カップリング接続部のための凹部又は機械的支持ブラケット若しくは電気接点を備える。
【0061】
また、残留浸液タンクは、具体的には、追加の対物レンズ本体カップリング接続部を介して、対物レンズ本体上に配置することができる。残留浸液ポンプは、対物レンズ本体を介して支持され、対物レンズ前面から残留浸液タンクへ浸液を吸引するように構成される。原則としては、残留浸液タンク及び残留浸液ポンプは、記載される浸液タンク及びそのポンプと同じように設計することができる。
【0062】
浸液用チューブ
浸液は、例えば、対物レンズ本体内のチャネル、対物レンズ本体の光学構成要素内のチャネルを介して、及び/又はチューブを介して、ポンプの助けを借りて浸液タンクから対物レンズ前面へ輸送することができる。
【0063】
各ポンプ又は各浸液タンクは、チューブを接続するためのチューブコネクタ取付具を備えることができる。少なくとも1つの交換可能チューブは、チューブコネクタ取付具に脱着可能に取り付けられ、対物レンズ前面につながる。具体的には、1つのチューブをポンプ毎に設けることができる。Yチャネルが2つのポンプの2つのチューブコネクタ取付具に接続される場合、単独のチューブが2つのポンプ(すなわち、2つの浸液タンク)に対して使用される。
【0064】
チューブがチューブコネクタ取付具から対物レンズ前面までずっとつながっている場合、他の構成要素は、浸液残留物やチューブ横で生じる可能性のある細菌によって汚染されない。チューブが交換される場合、従来技術のシステムで要求されるような手間のかかる清浄はもはや不要である。チューブは特に、1度使用後に交換する、又は所定回数の液浸動作後に交換することができる。制御電子機器構成要素は任意に、チューブを変更すべきであるという指示を、(例えば、液浸対物レンズの電気インターフェイスを介して)ユーザに伝えるように構成することができる。チューブコネクタ取付具は、チューブの簡易な接続にとって好都合であるが、機械的噛合又は圧締接続及び/又はチューブ誘導チャネル又は誘導溝を、対物レンズ前面領域に追加で設けることができる。チューブ誘導チャネルはチューブを収容し、それ自体浸液に接触せず、又はごくわずかしか接触せず、それにより、チューブ誘導チャネルの手間のかかる清浄が不要になる、又は頻繁には必要でなくなる。チューブ又はチャネルはまた、任意で、前面レンズの穿孔までつながる。
【0065】
チューブ又はチャネルの端部、すなわち、対物レンズ前面の領域に、フィルタを設けることができる。フィルタは、チューブ自体又は対物レンズ前面上に固定することができる。チューブの一実施形態では、フィルタは、チューブと共に容易に交換することができる。フィルタを用いて、出ていく浸液中の気泡の形成が回避される。気泡は、例えば、自動焦点システム又は標本の観察の邪魔になる。
【0066】
記載されるチューブは、図面の説明においてより詳細に記載するように、一体片として、又は縦に並べて配置される複数のチューブ部分として構成することができる。
【0067】
ポンプ
ポンプは、浸液タンクから浸液を搬送する、又は残留浸液タンクへ浸液を搬送するのに適したあらゆる装置を示すものとして理解することができる。マイクロポンプの形状であるコンパクトな寸法のポンプが有利である。ポンプは、例えば、圧電ポンプ、電気浸透ポンプ、又はチューブポンプとして説明することができる。チューブ又は蠕動ポンプの場合、ポンプは、媒質がチューブ内で搬送されるように、チューブの外部機械的変形(ピロー変形)をもたらす。プロセス中、チューブポンプはそれ自体、搬送される媒質、すなわち、浸液と接触しないため、チューブポンプの汚染が発生しない。浸液タンクが可撓性バッグとして設計される場合、ポンプはまた、バッグに圧力を加える装置であってもよい。
【0068】
特に、ポンプが浸液と接触しないとき、ポンプを交換可能にする必要は全くない。よって、様々な記載の実施形態は、少なくとも1つのポンプが対物レンズ本体内又は上に永久的に設置されるように修正することができる。ポンプはまた、制御電子機器構成要素の隣に、特に制御電子機器ハウジング内に配置することができる。
【0069】
別個のポンプを、浸液タンク毎に設けることができる。原則的には、複数のポンプ又は浸液タンクは、同じ対物レンズ本体カップリング接続部を介して接続することができるが、簡易な取り扱いのため、各浸液タンクを、対応する対物レンズ本体カップリング接続部に接続することもできる。
【0070】
全般的特徴
液浸対物レンズ:液浸対物レンズは、光学顕微鏡に接続され、浸液と共に使用されるように設計された対物レンズを指す。
【0071】
対物レンズ前面:対物レンズ前面は、標本に面する液浸対物レンズの端部を指す。動作中、対物レンズ前面の一部は、浸液に浸漬されるべきである。
【0072】
対物レンズ本体:対物レンズ本体は、光学構成要素、具体的には、レンズ又はミラーが収容されるケース又はハウジングを指す。対物レンズ本体は、2つ以上の部分から成ってもよい。例えば、対物レンズ本体は、光学構成要素を支持するための1つ以上のスリーブと、少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部が形成される別個の外側ケース又は支持部と、を備えることができる。対物レンズ本体によって、又は少なくとも1つの対物レンズ本体カップリング接続部を介して支持される構成要素が、最終的に対物レンズの機械的取付接続部(例えば、差込み又はねじ込み接続部)によって支持されるならば、対物レンズ本体に特有の構造は決定的に重要ではない。
【0073】
例えば、対物レンズリボルバへの接続を可能にするアダプタは、対物レンズ本体の一部とみなすことができる。差込み接続部又はアダプタとして構成される差込み接続部はまた、本発明の文脈では、対物レンズ本体の一部とみなすことができる。対物レンズ本体カップリング接続部はまた、差込み接続部上に形成することができ、浸液タンクはその差込み接続を介して支持することができる。具体的には、ここでの浸液タンクの配向は、対物レンズリボルバの回転軸の方向又は回転軸上に延びるようにすることができる。差込み接続部は、一体型逆止弁を有する流体媒質用のカップリングを備えることができ、それにより、対物レンズが取り外されたときに差込みインターフェイス内へ流体が漏れ出すことがない。対物レンズリボルバの使用を単純化するため、チューブのデカップリングを、回転可能チューブカップリングを有する対物レンズリボルバの回転軸に設けることができる。
【0074】
対物レンズ本体を介した支持は、対応する構成要素の重量が、対物レンズ本体によって、又はその取付接続部を介して(すなわち、例えば、同じe-差込み接続部を介して)対物レンズ本体と併せて支えられることを指す。よって、これらの構成要素、特に制御電子機器構成要素、浸液タンク、及びポンプは、スタンド上で支持されない、又は対物レンズから外される。
【0075】
対物レンズ本体カップリング接続部を介した脱着可能な支持は、任意でツールを使わずに、非破壊的な取り外しが可能であるのを指すことを意図する。これは、例えば、プラグ/ソケット、磁気又は差込み接続部にも当てはまる。設置空間を効率的に使用するため、ポンプと浸液タンクは、対物レンズ本体上の同じ電気的及び機械的カップリング手段を介して支持されることが有利であり得る。しかしながら、原則的には、ポンプ及び浸液タンクのために対物レンズ本体上に別々の電気的及び/又は機械的カップリング手段を設けることもできる。
【0076】
単数での記載は、理解し易くするために採用されており、単独の構成要素が設けられることを必ずしも意味しない。例えば、「ポンプ」が記載される場合、記載されるポンプと同様に形成される別のポンプを任意で設けてもよい。
【0077】
プラグ/ソケットコネクタ:本発明の文脈では、電気プラグ/ソケットコネクタは、一緒に差し込まれることによって電気的接続を確立する接続部を指定するものと理解することができる。本明細書でのプラグ/ソケットコネクタは、外側に向く接触ピン及び/又は内側に向く接触孔を備えることができる。プラグ/ソケットコネクタは任意で、電気的接続に加えて、接続された構成要素の機械的支持も提供することができ、具体的には、プラグ、ソケット、又はカップリングとして設計することができる。
【0078】
液浸対物レンズの追加の特徴として記載される特性は、意図されるように実行されると、本発明による方法の変形例をもたらす。逆に、液浸対物レンズはまた、上述の方法の変形例を実行するように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
本発明の更なる利点及び特徴を、添付の概略図を参照して以下説明する。
図1図1A~1Cは、本発明による液浸対物レンズの例示の一実施形態の各種概略図である。
図2図2A~2Cは、浸液タンクが取り外されている、図1A~1Cの液浸対物レンズの各種概略図である。
図3図3A及び3Bは、本発明による液浸対物レンズの更なる例示の実施形態の各種概略図である。
図4図4A及び4Bは、本発明による液浸対物レンズの更なる例示の実施形態の各種概略図である。
図5A】ポンプが正立配置において浸液タンクに組み込まれる、本発明による液浸対物レンズの例示の一実施形態を示す図である。
図5B】倒立配置における図5Aの液浸対物レンズを示す図である。
図6】図示される液浸対物レンズのうちの1つの浸液タンクに浸液を補充することを示す図である。
図7】制御電子機器構成要素が対物レンズ本体に脱着可能に接続される、本発明による液浸対物レンズの例示の一実施形態を示す図である。
図8図8A及び8Bは、浸液タンクから分離されるように設計された、本発明による液浸対物レンズの更なる例示の一実施形態の各種概略図である。
図9図9Aは、例示の実施形態のうちの1つの液浸対物レンズの一部分の拡大図である。図9Bは、図9Aの対応する断面図である。
図10】様々な対物レンズに関する推定液浸量及び他のパラメータを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0080】
様々な例示の実施形態を、図面を参照して以下説明する。概して、同一の要素及び同じように機能する要素は、同じ参照符号で示す。
【0081】
図1A~1C及び2A~2Cの例示の実施形態
本発明による液浸対物レンズ1の例示の一実施形態を、図1A~1C及び2A~2Cを参照して概略的に示す。図1Aは、液浸対物レンズ1の側面図である。図1Bは、液浸対物レンズ1の接続側から見た液浸対物レンズ1の上面図である。図1Cは、下から見た、すなわち、標本から見た図である。液浸対物レンズ1は、光学顕微鏡において使用することができる。液浸対物レンズは、機械的取付接続部7、例えば、差込み取付台又はねじを備え、それを用いて、対物レンズリボルバ又は光学顕微鏡のスタンド上の他の取付台に取り付けることができる。ここでは、機械的取付接続部7は、例えば、差込みコネクタの場合に設けられる電気インターフェイス5も備える。
【0082】
液浸対物レンズ1では、光学機械的コアシステム(本明細書では対物レンズ本体10と称する)の周囲の環状設置空間が効率的に使用される。潜在的に利用可能な空間は、一般的には顕微鏡の対物レンズリボルバに関する空間条件によって決定され、その最大寸法は、対物レンズリボルバが備えられる場合、隣接する対物レンズと衝突しない領域に収まらなければならない。また、正立及び倒立顕微鏡上の液浸対物レンズ1は、ユーザによって実際に変更可能であるべきである。2つの浸液タンク20、20’と、制御電子機器構成要素40を配置する制御電子機器ハウジング41とが対物レンズ本体10上に支持されるという点で、利用可能な空間が効率的に使用される。図1A~1Cは、それぞれがポンプ(ここでは図示せず)を有する浸液タンク20、20’が取り付けられた状態を示す。チューブはそれぞれ、各浸液タンク20、20’から対物レンズ前面15まで延び、図1Cはチューブのそれぞれのチューブ孔46を示す。動作中、チューブ孔46は、対物レンズ本体10に収容される前面レンズ16の横方向に隣接して配置される。浸液は、チューブ孔46を介して、スライドと対物レンズ前面15との間の空間に導入することができる。チューブ孔46は、例えば、対物レンズ野のサイズ及び浸液円錐がまたがることを意図する自由作動距離に応じて、又は浸液の粘度に応じて、対物レンズ及び浸液に固有の様式で、対物レンズ前面15上に位置決めすることができる。対物レンズ前面15上へのチューブ孔46の位置決めは、適切な無気泡の浸液円錐が、前面レンズ16とスライドとの間で再現可能に形成されるように確保することを目的とする。ポンプがオフに切り換えられると、浸液は、チューブ内部の毛管作用のため、対物レンズの配置に関係なく留まる。
【0083】
図2A、2B、及び2Cは、液浸対物レンズ1の側面図、上面図、及び底面図であり、浸液タンク20、20’は、対物レンズ本体10から取り外されている。矢印は、浸液タンク20、20’を対物レンズ本体10に配置することができる方向を示す。浸液タンク20、20’の脱着性は、以下より詳細に説明するように、正立顕微鏡と倒立顕微鏡の両方で液浸対物レンズ1の使用を可能にするために重要な特徴である。脱着性は、チューブの交換及び浸液タンク20、20’の任意の補充にとっても好都合であり得る。
【0084】
残留浸液タンク(図2B
図2Bに示すように、上述の例示の実施形態の一変形例では、空のタンクは、浸液タンク20‘の代わりに残留浸液タンク19として機能することができる。もはや必要とされない浸液は、対物レンズ前面領域から残留浸液タンク19内へ吸引される。これは、浸液が変更されるとき、又は対物レンズを乾燥させるスイッチの場合に当てはまる。にもかかわらず、対物レンズ前面領域の手動による微細清浄は、未だに必要である。残留浸液タンク19が満杯の場合、残留浸液の排出は、内蔵放出弁を介して行われる。これは、残留浸液タンク19が除去される間、注入針付きのシリンジを用いて、手動吸引により行うことができる。しかしながら、電動放出弁及びポンプを備えた設計は、より便利である。残留浸液タンク19は、この場合、ポンプに電力を供給するため、対物レンズ本体10に搭載されたままである。次に、残留浸液は、放出弁に接続されたチューブを介して、回収容器内に送り込まれる。制御電子機器構成要素は、充填度の機能として自動的に排水を開始させる、又はユーザにそうするように促すことができる。
【0085】
図3A及び3Bの例示の実施形態
本発明による液浸対物レンズ1の更なる例示の一実施形態を、図3A及び3Bに概略的に示す。図3Aは上から見た図であり、図3Bは下から見た図である。例示の本実施形態は、単独の浸液タンク20が設けられるという点で、例示の前述の実施形態と異なる。したがって、チューブ孔46を備えた単独のチューブは、対物レンズ前面15につながる。
【0086】
図3Aはまた、制御電子機器構成要素40をどのように制御電子機器ハウジング41内に配置できるかを示す。制御電子機器ハウジング41は、リングの一部の形状を有する、すなわち、対物レンズ本体10の一部を環状に取り囲む。制御電子機器構成要素40は、環状部分に沿ってハウジングの形状に従って延在することができる。この目的で、複数の配電盤42は、可撓性接続によって連結することができる。制御電子機器構成要素40のこのような設計はまた、他の例示の実施形態でも使用することができる。
【0087】
図示される例では、制御電子機器ハウジング41は、円の一部の形状の外壁を有する。もしくは、この外壁はまた、楕円の一部であってもよい。これは、特に、補正機能が実現されるときに当てはまり、スライド厚、屈折率、及び浸液温度が内部レンズ調整によって補正され得る。レンズ調整用のアクチュエータ又はモータは、制御電子機器ハウジング41内に収容することができる。制御電子機器構成要素40は更に、特に、レンズ調整のためのアクチュエータ/モータを制御する補正制御に関して構成することができる。複雑なワークフローが、このように単独の対物レンズで組み合わされる。このことは、特に長期実験及び培養条件下で、ユーザにとって実際的な利点をもたらす。このようにして、特に、調整エラーが発生しにくく、他の構成要素との衝突を回避することができる。
【0088】
図4A及び4Bの例示の実施形態
本発明による液浸対物レンズ1の更なる例示の一実施形態を、図4A及び4Bを参照して概略的に示す。再度、図4Aは上から見た図であり、図4Bは下から見た図である。例示の本実施形態は、3つの浸液タンク20、20’、20’’が設けられるという点で、例示の前述の実施形態と異なる。タンクの数に応じて、それぞれのチューブ孔46を備えた3つのチューブは、ここでは対物レンズ前面15につながる。
【0089】
様々な例示の実施形態は、それぞれ設けられた浸液タンク20、20‘、20’’が、制御電子機器ハウジング41と併せてリング形状を形成するという点で共通している。具体的には、対物レンズ本体10の周囲に閉鎖リングを形成することができる。これは、他の顕微鏡構成要素との衝突リスクなく、空間を使用するために好都合である。
【0090】
浸液タンク20、20‘、20’’のうちの1つは洗浄流体/液体タンクとして使用することができ、浸液タンク20、20‘、20’’のうちの他の1つは残留浸液タンクとして使用することができる。洗浄流体タンクは、清浄剤を含有する。洗浄動作の場合、残留浸液が任意でまず、残留浸液タンク内に吸引され、次いで、清浄剤が洗浄流体タンクから対物レンズ前面へ、そしてそこから最後に残留浸液タンク内へ送り込まれる。これらの工程は、制御電子機器構成要素40によって開始することができる。
【0091】
図10の表
例示的に示される液浸対物レンズ1に関して、浸液に利用可能な量は、以下の簡易的な表で説明する。典型的な対物レンズの同一焦点距離は、45、60、又は75mmである。対物レンズリボルバ又はチェンジャに関する特定の空間条件を検討すると、以下の内容積が、各浸液タンクの構造の点から考えられる(この推定は、幅×周囲部分×高さ)として、「展開」周囲によって算出される。
【0092】
1浸液タンク:10mm×40mm×25mm=10000mm3=10000μl=10ml
2又は3浸液タンク:10mm×20mm×25mm=5000mm3=5000μl=5ml
図10の表は、液浸に必要な全ての構成要素(特に、浸液タンク、ポンプ、制御電子機器構成要素)が対物レンズ本体を介して支持されるように、本発明により再設計された典型的な対物レンズに関する。よって、本発明による液浸対物レンズ1の場合、典型的な対物レンズは、液浸構成要素(浸液タンク、ポンプ、制御電子機器構成要素)が支持された対物レンズ本体10を特徴とする。
【0093】
この表は以下の名称を含む。
【0094】
10:対物レンズ本体の種類
β:それぞれの液浸対物レンズの倍率又は再現スケール
NA:液浸対物レンズの開口数
d:作動距離(mm)
V:液浸動作に必要な概算流体量(μl)
液浸に必要な流体量Vは、約6mmの液浸円錐径と、示された対物レンズ固有の作動距離とを用いて推定される。
【0095】
タンク充填毎の最大可能液浸数(初回液浸)は、図10に示す量から推定することができる。例えば:
対物レンズC-Apochromat 10x/0.45W(51μl/液浸):1浸液タンクで約190液浸又は2若しくは3浸液タンクで約95液浸
対物レンズLCI Plan-Neofluar 63x/1.3imm Corr PH3(5μl/液浸):1浸液タンクで約2000液浸2若しくは3浸液タンクで約1000液浸。
【0096】
この推定は、実際上、浸液がチューブ内に留まり、例えば、動作の長期中断後又は長期実験前の液浸動作の開始時にチューブを交換する場合、チューブを浸液で充填しなければならないという点で簡易化される。また、潜在的な汚染物質又は気泡を除去するため、浸液構成要素を清浄し脱気する洗浄動作が必要とされる。その結果、実際上、最大可能液浸数は、最終的に上記の推定よりも低くなる可能性がある。
【0097】
しかしながら、浸液タンクの例示の寸法は、動作から生じる浸液追加の必要性が考慮されるときでも、十分量の浸液を対物レンズ上に直接収容できることを実証している。これは、水の液浸で、部分的に培養条件下で、例えば数日間にわたって実行される、生体細胞撮像を用いる長期実験に適用される。このような実験では、追加液浸が、液浸円錐から蒸発した水の代わりに、例えば20分毎に必要となるであろう。追加液浸は、初回液浸の水量の約3分の1を必要とする。上述の量では、浸液の供給は、5日間の実験に対して320の追加液浸で完全に十分であろう。
【0098】
図5A及び5Bの例示の実施形態
図5A及び5Bは、本発明による液浸対物レンズ1の更なる例示の実施形態を示す。図5Aは正立顕微鏡で使用される液浸対物レンズ1の側面図であり、図5Bは倒立顕微鏡で使用される液浸対物レンズ1の側面図である。浸液タンク20は、液浸対物レンズ1を両方のケースで適切にするために、対物レンズ本体10に2つの異なる配向で連結することができる。
【0099】
対物レンズ本体10は、浸液タンク20が支持される対物レンズ本体カップリング接続部12を外部に備える。
【0100】
対物レンズ本体カップリング接続部12は、例えば、機械的噛合要素、フック、クリップ、又は磁石(図示せず)を備えることができる。
【0101】
図示される例では、浸液タンク20は対物レンズ本体カップリング接続部12に直接接続されるが、変形例では、対物レンズ本体カップリング接続部12と浸液タンク20との間に中間構成要素を接続することができる。
【0102】
図示される例では、対物レンズ本体カップリング接続部12はまた、浸液タンク20との電気的接続を確立する対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタ13を備える。対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタ13はまた、浸液タンク20の機械的支持で補助することができる、又は設計に応じて、自身に機械的支持も提供することができる。対物レンズ本体カップリング接続部12への連結のため、浸液タンク20は、本明細書ではプラグコネクタとして例示的に指定される嵌合プラグ/ソケット23を備える。
【0103】
対物レンズ本体カップリング接続部12は、対物レンズ本体10上の中間の高さに配置され、対称的に接触可能であるように設計される。図5A及び5Bに示すように、これにより、対物レンズ本体に対して異なる配向で、同じ浸液タンク20を対物レンズ本体10に固定することができる。対物レンズ本体カップリング接続部12の中間高さは、浸液タンク20が、対物レンズ前面又は取付接続部7を超えていずれの配向にも突出しないことが確保される。
【0104】
図5A及び5Bの側面図では、単独の浸液タンク20が見られるが、任意で追加のタンクを設けることもできる。液浸対物レンズ1の設計に応じて、上から見た図と下から見た図は、図2B及び2C、図3A及び3B、又は図4A及び4Bに対応する。
【0105】
ポンプ31は、ここでは浸液タンク20に一体化されている。その結果、単独の交換可能チューブ45が、チューブ孔46の対物レンズ前面領域15への接続のために必要である。カスタマによるチューブ45の交換し易さは、重要な用途依存の要件である。というのは、チューブ45は、例えば、生体細胞撮像において37℃で、培養条件下で、使用中に汚染される、又は詰まる可能性があるからである。チューブの交換はまた、数日間続く差し迫った長期実験の場合の予防手段としても望ましいであろう。この目的で、チューブ45は単に、タンク側でチューブコネクタ取付具32に固定することができる。対物レンズ側では、チューブ45は、例えば、この目的のために設けられたチャネルを通じてねじ込むことができる。このチャネルは、対物レンズ本体10上又は内に形成することができる。チューブ45とチャネル壁との間の浸液の浸透を防止するため、封止をチャネルに設けることができる。チューブ孔46を備えたチューブ45の端部は、対物レンズ前面領域15と面一にすることができる。
【0106】
浸液タンク20が正立顕微鏡又は倒立顕微鏡のいずれに取り付けられるにしろ、様々なチューブ長が各対物レンズ前面15に到達することが必要であろう。チューブ保管領域が液浸対物レンズ1に設けられるため、両方のケースで同じチューブ45を使用することができる。チューブ45の一部は、正立又は倒立対物レンズ配向の場合にチューブ保管領域に単に支持される(これら2つの対物レンズ配向のいずれかに応じて、より短いチューブ長が必要になる)。チューブ保管領域は、例えば、浸液タンク20(図示せず)上のアンダーカットによって形成することができる。アンダーカットにより、チューブ45の干渉なく、対物レンズ本体10上の浸液タンク20のぴったりとした嵌合及び確実な固定又は噛合係合が可能になる。もしくは、チューブ45の一部を保管するために、浸液タンク20の外壁又は対物レンズ本体10上に圧締要素を設けることもできる。
【0107】
チューブ45の2つの異なる支持位置を可能にするチューブ支持部(図示せず)を設けることもできる。一方の支持位置は顕微鏡の正立動作に対して使用され、他方は顕微鏡の倒立動作に対して使用される。チューブ支持部は、具体的には、対応する浸液タンク上に設けることができる。チューブ支持部は、チューブ及び/又は回転可能接続片を圧締するための噛合要素を備えることができる。回転可能接続片は、小型チューブコネクタであり、倒立及び正立動作にとっての2つの回転位置で係止することができる。
【0108】
浸液タンク20は、機械的脱着可能タンクキャップを備えることができる。電子的に読み取り可能な充填度センサ26と排気弁25は、タンクキャップと一体化することができる。充填度センサ26は、液浸動作中又は対物レンズ本体10の浸液タンク20の充填中の浸液2の充填度27を検出する。排気弁25は、浸液が液浸動作中に気泡を生じずにタンクから送り出されるとき、負圧を補償する。排気弁25はまた、タンクの充填中、正圧も補償する。対応する補充孔28、特に、ゴム封止を備えた補充接続部を、浸液タンク20の外壁に組み込むことができる。詰替式プリンタカートリッジと同様に、充填は、シリンジ注入針を用いて行うことができる。浸液タンク20に組み込まれたポンプ31及び充填度センサ26又は他の一体型センサは、浸液タンク20の外側に配置した電気プラグ/ソケットコネクタ23に接続される。この目的で、絶縁電気接続線(図示せず)は、浸液タンク20の内壁に沿って延びることができる。制御電子機器構成要素40との連結は、電気プラグ/ソケットコネクタ23を介して行われる。
【0109】
初回液浸及び追加液浸の場合の対物レンズ特有の液浸量は、制御電子機器構成要素40の制御フォームウェア又はソフトウェアに記憶させることができる。液浸装置の設定及び保全のための他のソフトウェアツールはまた、制御電子機器構成要素40、例えば、チューブ45の脱気のための清浄又は洗浄プログラムに記憶させることができる。
【0110】
例示の本実施形態の一変形例では、補充孔28は省略される。この場合、ポンプ31は、浸液タンク20が空であるとき一緒に廃棄される。
【0111】
図6の浸液タンクの補充
図6は、注入針を備えたシリンジ60による浸液タンク20への浸液2の補充を示す。このプロセス中、浸液タンク20は、対物レンズ本体10上に取り付ける、又は対物レンズ本体から取り外すことができる。取り外された状態で空の浸液タンク20を充填するとき、プランジャを引く間、タンクを充填するための指定量がシリンジ上の測定マークを介して設定され、その後、浸液タンク20内へと完全に空けられる。対物レンズ本体10に搭載された浸液タンク20を充填するとき、充填量は、充填度センサ26を介してリアルタイムで監視することができる。制御電子機器構成要素によって開始される洗浄動作は、浸液タンク20の充填後に実行される。洗浄動作により、存在し得る気泡が、浸液タンク20及びチューブ45から除去される。
【0112】
図7の例示の実施形態
図7は、本発明の液浸対物レンズ1の更なる例示の実施形態の側面図である。例示の本実施形態は、制御電子機器ハウジング41が、プラグ/ソケットコネクタ44を含み、それにより、対物レンズ本体10上の対応するプラグ/ソケットコネクタ14に脱着可能に接続することができるという点で図5A及び5Bの例示の実施形態と異なる。
【0113】
図8A及び8Bの例示の実施形態
本発明の液浸対物レンズ1の更なる例示の実施形態を、図8Aの側面図と図8Bの上面図に概略的に示す。
【0114】
図5A及び5Bの例示の実施形態とは全く異なり、ポンプ31と浸液タンク20は、強固に接続されていない。むしろ、ポンプ31を備え、対物レンズ本体10と浸液タンク20の両方に脱着可能に接続することができるポンプアダプタ30が使用される。この目的で、ポンプアダプタ30は、対物レンズ本体10上のプラグ/ソケットコネクタ13に合致する嵌合プラグ/ソケット33を形成するプラグ/ソケットコネクタを備える。対物レンズ本体10上の支持部は、噛合要素によって又は磁気的に設けることができる。図8Bに示すように、対物レンズ本体10に面するポンプアダプタ30の内壁は、対物レンズ本体10との完全な面接触を可能にするために凹形状を有することができる。ポンプアダプタ30は、浸液タンク20上の嵌合プラグ/ソケットコネクタ22に接続することのできるプラグ/ソケットコネクタ35を更に備える。
【0115】
ポンプ31と浸液タンク20とを分離することによって、浸液タンクは経済的な使い捨てタンクとして形成することができる。使い捨てタンクはまた、汚染なしに正確な浸液2の可用性を確保することができる。よって、浸液タンク20は対物レンズ本体10に直接ではなくポンプアダプタ30を介して接続され、浸液タンク20はまたポンプアダプタを介して電気的にも接触される。具体的には、使い捨てタンクとして使用されるとき、浸液タンク20は、可撓性バッグとしても設計することができる。
【0116】
ポンプアダプタ30は、浸液タンク20との機械的接続のための支持ブラケット34を備える。例えば、浸液タンク20にぴったり嵌合するように設計されたハウジング形状は、支持ブラケット34として機能することができる。浸液タンク20は、具体的には、受容凹部29を備え、ポンプ31を含むポンプアダプタ30の部分が、ぴったりと嵌合するように受容凹部内へ突出する。プラグ/ソケットコネクタ35はまた、機械的支持ブラケット34の一部であってもよい。
【0117】
ポンプアダプタ30は、対物レンズ前面15につながるチューブ45を接続することのできるチューブコネクタ取付具32を備える。ポンプアダプタ30は、浸液タンク20のポンプカップリング24に接続することができる流体接続部36を更に備える。ポンプ31は、上記接続を介して浸液タンク20から浸液2を搬送することができる。ポンプアダプタ30が接続されていないとき、ポンプカップリング24は流体の漏れを防止する。
【0118】
正立動作と倒立動作の両方を可能にするため、この場合の電気接点は、上述のバージョンのようにして実現され、対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタ13は、中間の高さに、対称的に接触可能になるように設計される。ポンプアダプタ30の嵌合プラグ/ソケット33は、上述した例示の実施形態の浸液タンクの嵌合プラグ/ソケット23と同様に設計することができる。
【0119】
図8A及び8Bの例の変形では、1つの浸液タンク20をそれぞれ備えた複数のポンプアダプタ30を設けることができる。複数の浸液タンク20を同じポンプアダプタに接続することができるように、複数のプラグ/ソケットコネクタ35及び複数のポンプ31を備えるポンプアダプタも可能である。
【0120】
図9A及び9Bのチューブ誘導
図9Aは、対物レンズ前面15の周囲の一部を示す拡大図である。図9Bは、対応する側面図である。ここに示される設計は、任意選択的に、上述の例示の実施形態のいずれにも設けることができる。
【0121】
図9A及び9Bは、チューブ45の、対物レンズ前面15上の前面レンズ16への誘導を示す。チューブ45は、対物レンズ前面15に形成された凹部又は支持溝17に保持することができる。もしくは、支持溝18の代わりに、外周を閉鎖されたチューブチャネルに、例えば、対物レンズ本体10又は対物レンズ本体10の前面カバーの穿孔を設けることもできる。しかしながら、支持溝17の方が、より容易に清浄することができる。
【0122】
支持溝17に加えて、複数の固定点を対物レンズ前面15又は対物レンズ本体10(図示せず)上に設けることによって、チューブ45を支持溝17の所定位置まで誘導することができる。
【0123】
前述の例示の実施形態では、チューブ45は、一体片として形成される。しかしながら、あるいは、チューブ45はまた、直接又は中間構成要素を介して互いに接続される2つのチューブ部分を備えることができる。よって、図9A及び9Bに示すように、一方のチューブ部分は、対物レンズ前面15に配置される。他方のチューブ部分は、ポンプ31又は浸液タンク20上のコネクタ取付具に固定される。2つのチューブ部分は、カップリング点で接続される。一方のチューブ部分が、図5A及び5Bに破線として示される、対物レンズ内部のチャネルに設置することができるチューブ45の部分に対応するように、カップリング点を対物レンズ本体10に形成することができる。他方のチューブ部分は、図5A及び5Bに実線として示されるチューブ45の部分に対応する。このようにして、チューブ部分の対物レンズ前面15への誘導は、正立動作であるか倒立動作であるかに依存しない。
【0124】
図9Bは、任意の加熱要素18、例えば、対物レンズ本体10上の加熱ホイルを更に示す。具体的には、対物レンズ前面15は、この手段によって加熱することができる。温度制御浸液によって最適な光学画質を確保するために、このような温度調整は、典型的には37℃で、培養条件下で行われる生体細胞用途において特に重要である。チューブ45が加熱要素18の隣に誘導される場合、浸液はチューブ45内で既に加熱させておくことができる。
【0125】
記載される例示の実施形態は、添付の請求項の枠組内で変更することができる。具体的には、様々な例示の実施形態の要素は、例えば、記載される浸液タンク数、形状、及び配置は組み合わせることができる。例示の一実施形態においてプラグ/ソケットを介して接続可能と記載されている制御電子機器ハウジング41は、他の例示の実施形態に追加することもできる。もしくは、制御電子機器ハウジング41はまた、対物レンズ本体10の永久的に取り付けられた構成要素として設計することができる。
【0126】
記載される例示の実施形態は全て、特に、必須の浸液構成要素の対物レンズへのコンパクトな直接配置が可能となるという利点をもたらす。よって、液浸対物レンズの取り扱い及び可能な用途が大幅に向上する。
【符号の説明】
【0127】
1:液浸対物レンズ
2:浸液
5:液浸対物レンズの電気インターフェイス
7:液浸対物レンズの機械的取付接続部
10:対物レンズ本体
12:対物レンズ本体カップリング接続部
13:例えば、浸液タンク用の対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタ
14:制御電子機器構成要素用の対物レンズ本体プラグ/ソケットコネクタ
15:対物レンズ前面
16:前面レンズ
17:チューブ用の対物レンズ前面上の支持溝
18:加熱要素
19:残留浸液タンク
20、20’、20’’:浸液タンク
22:浸液タンクのプラグ/ソケットコネクタ
23:浸液タンクの嵌合プラグ/ソケット
24:ポンプカップリング
25:排気弁
26:充填度センサ
27:浸液の充填度
28:補充孔
29:ポンプ用の浸液タンクの受容凹部
30:ポンプアダプタ
31:ポンプ
32:チューブコネクタ取付具
33:ポンプアダプタの嵌合プラグ/ソケット
34:ポンプアダプタの支持ブラケット
35:浸液タンク用のポンプアダプタのプラグ/ソケットコネクタ
36:ポンプアダプタの流体接続部
40:制御電子機器構成要素
41:制御電子機器ハウジング
42:制御電子機器構成要素の接続されたフレキシブル回路基板
44:制御電子機器ハウジング上のプラグ/ソケットコネクタ
45:チューブ
46:対物レンズ前面上のチューブ孔
60:シリンジ
β:液浸対物レンズの倍率又は再現スケール
NA:液浸対物レンズの開口数
d:作動距離(mm)
V:初回液浸の概算流体量

図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10