(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】炭素クラスター製造用の成形体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 35/532 20060101AFI20220418BHJP
C01B 32/20 20170101ALI20220418BHJP
C01B 32/154 20170101ALI20220418BHJP
【FI】
C04B35/532
C01B32/20
C01B32/154
(21)【出願番号】P 2021507343
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011497
(87)【国際公開番号】W WO2020189632
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2021-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2019053728
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503272483
【氏名又は名称】ビタミンC60バイオリサーチ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】302069734
【氏名又は名称】本荘ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591098798
【氏名又は名称】日本電極株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅之
(72)【発明者】
【氏名】林 裕一
(72)【発明者】
【氏名】疋田 博久
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-219506(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102060290(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/532
C01B 32/20
C01B 32/154
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスを主原料とし、前記バイオマスと結合剤とを由来原料に含み黒鉛化され、電気比抵抗が100μΩm以下であり、かつ、粉末X線回折法による回折パターンが、2θ(θはブラッグ角)が26~27°の間に1本のピークを有するとともに前記ピークの1/3幅÷底辺の値が0.68以下となることを特徴とする炭素クラスター製造用の成形体。
【請求項2】
かさ比重が0.8~2g/cm
3である、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
黒鉛化前の前駆体を作製するときの水分の含有量が前駆体全体の3.2質量%より大きく、12.6質量%より小さい、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
黒鉛化前の灰分が15質量%以下である請求項1から3のいずれかに記載の成形体。
【請求項5】
前記結合剤が糖類を含む、請求項1から4のいずれかに記載の成形体。
【請求項6】
炭素クラスターはフラーレンである、請求項1から5のいずれかに記載の成形体。
【請求項7】
以下の工程を含む、請求項1から6のいずれかに記載の炭素クラスター製造用の成形体の製造方法:
バイオマスの仮焼成体と、結合剤とを含む、成形された前駆体を得る工程;
任意に、前記前駆体を更に焼成する工程;及び
前記前駆体を2500℃以上の温度で黒鉛化する工程。
【請求項8】
前記バイオマスの仮焼成体は、1300℃以下の温度で焼成したものである、請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素クラスター製造用の成形体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フラーレンは、ダイヤモンドや黒鉛と同じ炭素のみからなる同素体であり、従来、化粧品等に利用されてきた。
【0003】
フラーレンの製造方法として、アーク放電法や燃焼法等が実用化されているが、これらの製造のための原料として、炭素電極やベンゼンなど、石油・石炭由来の原料が用いられてきた(特許文献1、2)。
【0004】
石油石炭系の材料は、生成に莫大な時間がかかる資源であることから、有限であり枯渇が叫ばれる中、世界的にその使用量の低減が求められている。
【0005】
炭素電極は一般的に石炭あるいは石油から製造されたコークスとピッチを混合して練り合わせ成形して焼成し、黒鉛化することで製造される。ここで「黒鉛化」とは、一般には、非黒鉛質炭素が1500℃程度以上の熱処理によって主として物理的変化によってその積層構造を発達させ、黒鉛の三次元規則構造をもつ黒鉛質炭素に変換することをいう(非特許文献1)。炭素電極の原料となる石炭は、古代(数億年前)の植物が完全に腐敗/分解する前に地中に埋もれ、そこで長い期間地熱や地圧を受けて変質(石炭化)したことにより生成した物質の総称である。また、燃焼法の材料となるベンゼンやトルエン等の芳香族化合物は、石油より蒸留されたナフサより産業的に生産されている。石油は、古代のプランクトンの死骸が変質して生成した液体と考えられている。
【0006】
一方、化粧品の業界では、従来、石油・石炭由来の材料よりも、天然由来の材料の方がそのイメージの良さから多くの消費者に好まれる傾向がある。
【0007】
炭素電極や芳香族化合物は、石炭・石油系原料を用いて産業的に生産されているが、植物から直接炭素電極の元となる炭素材料を産業的に生産する技術は知られていない。チップや粒状の炭素材料を陽極電極として用いて実験的に最大で212mgのフラーレンの生産が可能であることが報告されており(非特許文献2)、その中で木炭や墨を1時間乾燥させたブロックを作成し使用している。しかし、スート(煤)中のフラーレンの量が最大で3%で、その中にフラーレン以外の不純物が多いと報告されている。また、非特許文献2のようにブロックを陽極として直流アーク放電した場合には、特にブロック材料を補充したときの位置を正確に決めることが難しいため、安定した放電を継続的に得ることが困難で、結果的に消費電力が大きくなることが考えられ、実用性に課題がある。このように、産業的に利用可能な技術としての検討は十分にされていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3337313号
【文献】特許第4786829号
【非特許文献】
【0009】
【文献】「カーボン用語辞典」炭素材料学会カーボン用語辞典編集委員会編(アグネ承風社)114-115頁、2000年10月5日、第1版第1刷発行
【文献】チップ原料アーク合成装置を用いた木炭、墨、合成ゴム、カーボンブラック、活性炭からのフラーレン合成、フラーレン総合シンポジウム講演要旨集、1999、16、136-141頁
【文献】https://www.maff.go.jp/kyusyu/kikaku/baiomasu/teigitou.html
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、従来の石油・石炭由来原料に変えて植物由来原料を用いた、サスティナブルかつエコロジカルな、産業的な利用に適した炭素クラスター製造用の成形体とその製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するものとして、本発明の炭素クラスター製造用の成形体は、バイオマスを主原料とし、前記バイオマスと結合剤とを由来原料に含み黒鉛化され、電気比抵抗が100μΩm以下であり、かつ、粉末X線回折法による回折パターンが、2θ(θはブラッグ角)が26~27°の間に1本のピークを有するとともに前記ピークの1/3幅÷底辺の値が0.68以下となることを特徴としている。
【0012】
本発明の炭素クラスター製造用の成形体の製造方法は、上記の炭素クラスター製造用の成形体を製造する方法であって、以下の工程を含むことを特徴としている:
バイオマスの仮焼成体と、結合剤とを含む、成形された前駆体を得る工程;
任意に、前駆体を更に焼成する工程;および
前駆体を2500℃以上の温度で黒鉛化する工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明の炭素クラスター製造用の成形体は、植物由来原料を用いていることからサスティナブルかつエコロジカルであり、炭素クラスター製造に際して産業的な利用にも適している。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】異なる材料に由来する各ロッドのX線回折の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
1.炭素クラスター製造用の成形体
本発明の炭素クラスター製造用の成形体(以下、本発明の成形体ともいう。)は、バイオマスを主原料として黒鉛化されたものである。
【0016】
本発明の成形体は、炭素クラスターを製造するために使用される。炭素クラスターの製造方法は、本発明の成形体を電極とするアーク放電、レーザー蒸発、抵抗加熱、高周波誘導加熱等が挙げられる。これらの具体的条件等は、従来の石油・石炭由来原料を用いた従来技術が参照される。
【0017】
本発明の成形体を電極とするアーク放電では、例えば、ヘリウムガスやアルゴンガス等の不活性ガス等を用いた非酸化性雰囲気で、陽極または陰極として本発明の成形体を用いて、雰囲気ガスの圧力を調整し、また電源によって電圧を印加しつつ、材料の蒸発に合わせて電極間距離を適宜に制御し出力を調整することで放電を一定に安定させるようにし、目的とする炭素クラスターを含む煤を得る。炭素クラスターを含む煤(ロースート)は、例えば、密閉容器の壁面に堆積する。この煤から溶媒抽出法等により炭素クラスターを分離する。
【0018】
本発明の成形体の形状は、炭素クラスターの製造に適した形状であれば特に限定されない。例えば、電極として単一物である角柱状、円柱状、その他、不定形状等が挙げられる。その中でも、アーク放電等により安定して効率的に炭素クラスターを製造する観点では、放電する先端部から、炭素材料の蒸発によって断面が先端部となる部分が延びる、長尺体(ロッド)が好ましい。ここで単一物とは、チップのような多数の微細物(破砕物等)の集合体ではなく、炭素クラスターの製造を考慮し目的とする形状に成形(賦形)したものを意味する。
【0019】
本発明の成形体は、黒鉛化して製造した後、更に切削等により加工して、電極に適した所望の形状としたものであってもよい。
【0020】
本発明の成形体において、炭素クラスターは、特に限定されないが、例えば、C60、C70、高次フラーレン等のフラーレン、カーボンナノチューブ、これらに金属や金属化合物を内包もしくは付着させた化合物等が挙げられる。
【0021】
本発明の成形体に使用されるバイオマスは、再生可能な生物由来の有機性資源であって、化石資源を除いたものである。特に本発明では、植物由来のバイオマスが必須のものとして使用される(非特許文献3等)。植物由来のバイオマスとしては、特に限定されないが、例えば、光合成に起因する、木質類、草本類、農作物類、厨芥類、海藻等が挙げられる。このようなバイオマスは、セルロース、ヘミセルロースおよびリグニンを主成分として構成され、サスティナブルかつエコロジカルな原料として、林業系資源、農業系資源、廃棄物系資源が好適に使用できる。
【0022】
木質類としては、例えば、木、枯葉やこれらの廃棄物である林地残渣、剪定・葉刈り材、流木、紙等が挙げられる。木質類のうち林業系資源として、例えば、木材、樹皮、製材端材、間伐材、剪定材、伐根材等が挙げられる。製材副産物を圧縮成形した小粒の木質ペレットや、木質基材を培地としてキノコ等を栽培する菌床や、木質類を炭化させた炭、あるいは、半炭化させた固形物等を原料として用いてもよい。
【0023】
草本類としては、例えば、ケナフ、ヒマワリの茎等が挙げられる。
【0024】
農作物類としては、例えば、パームヤシ、オオバ茎、ゴマ茎、芋づる、籾殻、サトウキビ、甜菜、トウモロコシ、小麦、稲などのイネ科植物等が挙げられる。農業系資源の有効利用の観点において、これらの非食部位は好適に使用できる。
【0025】
厨芥類としては、例えば、コーヒー粕、茶殻、オカラ等が挙げられる。
【0026】
本発明において「バイオマスを主原料として」とは、本発明の成形体の全原料のうち、後述するような前駆体を焼成し黒鉛化する工程において、この前駆体における結合剤を除いたバイオマス、あるいは、バイオマス由来原料の含有量が、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは80質量%以上、殊更好ましくは90質量%以上であることを意味する。また、前駆体におけるバイオマスの含有量が、バイオマスと結合剤の合計量に対して、好ましくは60質量%以上、より好ましくは65質量%以上であることを意味する。
【0027】
この前駆体におけるバイオマスと結合剤以外の原料としては、石油・石炭由来の炭素材料、例えばバイオマスと同様に骨材となる石炭、コークス、カーボンブラック等が挙げられる。
【0028】
本発明の成形体において、かさ比重は、特に限定されないが、0.8~2g/cm3が好ましい。かさ比重が上記範囲であると、(1)成形体が緻密となり割れや崩壊が抑制され、電極等としての成形体を固定して炭素クラスターの製造を行うのに適している、(2)単位体積あたりの材料量が多くなり、炭素クラスターの製造効率も高めることができる、(3)耐スポーリング性が良好で、放電の際の熱衝撃によるクラック発生や成形体の破損を抑制できる、という利点がある。これらの観点において、かさ比重は、0.8~1.8g/cm3がより好ましく、1.0~1.8g/cm3が更に好ましい。
【0029】
本発明の成形体において、電気比抵抗は、特に限定されないが、100μΩm以下が好ましい。電気比抵抗がこの範囲のようにある程度小さいことで、電流が効率的に流れるため、より効率的に、すなわち高収率で炭素クラスターを製造できる。下限は特に限定されないが、アーク放電に必要な発熱に適し、電極として用いる炭素材料の蒸発を効率的に行う観点では8μΩm以上が好ましい。
【0030】
本発明の成形体において、黒鉛化前、すなわち上記前駆体における灰分は、特に限定されないが、15質量%以下が好ましい。灰分がこの範囲のようにある程度小さいことで、成形体の割れやかさ比重の低下を抑制できる。また、灰分の下限は、特に制限されないが、0.1質量%程度が好ましい。
【0031】
本発明の成形体は、粉末X線回折法による回折パターンが、2θ(θはブラッグ角)の26~27°の間に1本のピークを有し、ピークの1/3幅÷底辺の値が0.68以下となることが好ましい。ピークの1/3幅÷底辺の値の下限は炭素クラスターの効率的な生産のために、0.1程度である。ピークの1/3幅とは、ピーク1/3の高さの幅を示している。当該値がこの範囲のようにある程度小さく、明瞭な1本のピークを有する場合、より効率的に、すなわち高収率で炭素クラスターを製造できる。2θが26~27°のピークは黒鉛構造をもつものに観察されるピークである。本発明を限定的に解釈するものではないが、明瞭なピークを有する場合、黒鉛化処理が十分に進行し、高収率で炭素クラスターを製造できると考えられる。また、26~27°以外で、26~27°のピークに重なるように他のピークを有する場合であっても、26~27°のピークが他のピークの2倍以上の高さを有する場合には、明瞭な1本のピークとみなすことができる。
【0032】
好ましい態様において、本発明の成形体は、バイオマスと、結合剤とを由来原料に含み、黒鉛化されたものである。結合剤(バインダーと称される場合もある。)は、骨材としてのバイオマス等と混練することで、緻密で強度の高い成形体を得ることができる。
【0033】
結合剤は、特に限定されないが、炭素を含み、好ましくは更に水素、酸素を含む成分が好適である。結合剤は、成分が1種単独であってもよく、2種以上を組み合わせたものであってもよい。結合剤の性状は、骨材と混合して賦形する観点から、常温において流動性を持つことが好ましく、水等のように他の結合剤成分を溶解または分散する液状物を含んでもよい。
【0034】
結合剤の一部または全部として、糖類、油脂、天然樹脂(松脂など)、ポリアミノ酸等の天然由来有機物、フェノール樹脂等の合成樹脂、ピッチ類(石油ピッチ、コールタールピッチ等)、膠、ゼラチン等が挙げられる。
【0035】
これらの中でも、糖類が好ましい。糖類としては、特に限定されないが、例えば、単糖類、オリゴ糖(二糖類、三糖類など)、多糖類(セルロース、デンプン、デキストリンなど)、糖蜜等が挙げられる。常温で固体の糖類は、水等の溶解または分散する液状物と混合して結合剤としてもよい。
【0036】
2.炭素クラスター製造用の成形体の製造方法
本発明の炭素クラスター製造用の成形体の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう。)は、以下の工程(A)、(B)、(C)を含む。
(A)バイオマスの仮焼成体と、結合剤とを含む、成形された前駆体を得る工程
(B)任意に、前駆体を更に焼成する工程
(C)前駆体を2500℃以上の温度で黒鉛化する工程
【0037】
工程(A)において、バイオマスの仮焼成体は、好ましくは1300℃以下の温度で焼成したものである。特に、600~1300℃、その中でも1000~1300℃で焼成したものが好ましい。仮焼成時間は、原料によっても異なるが、通常、1時間~数日間程度である。仮焼成体は、主に非酸化性雰囲気下で焼成して得られる。非酸化性雰囲気としては、例えば、黒鉛製の箱にバイオマスを入れ、その箱をコークスブリーズ中に埋没する方法を用いることができる。工程(A)において仮焼成体を得るために、あるいは工程(B)において前駆体の焼成を行う際には、その装置構成は特に限定されないが、例えば、従来公知の焼成炉等を用いて行うことができる。予め工程(A)や(B)の焼成を行うことで、バイオマスや結合剤の揮発分を除去することができ、緻密で炭素クラスターの製造に適した原料が得られる。
【0038】
工程(A)において仮焼成体を得るために焼成する工程は、便宜のため、粉砕により粉状にしたバイオマスをプレス機等により成形したものを用いて行ってもよい。このような成形物は、木質ペレットであってもよい。木質ペレットは、木質材料の粉末を円柱形に成形した固形燃料であり、木屑や樹皮等の木質材料を粉砕する粉砕工程と、粉砕された木質粉末を加熱乾燥させる乾燥工程と、乾燥した木質粉末を圧縮成形する成形工程とを経て製造される。
【0039】
その他、入手したバイオマスが備長炭等のように予め上記の温度で焼成したものである場合には、仮焼成体としてそのまま次工程に供してもよい。
【0040】
成形された前駆体を得る際には、仮焼成体と結合剤を混合する。結合剤と混合する際には、バイオマスの仮焼成体は、粉砕により粉状にするのが好ましい。粉状にすることにより、緻密な成形体を得ることができ、また、同程度の粒径を有する石炭等の他の骨材と混合した場合、均一に混合することができ、成形性が向上する。
【0041】
前駆体におけるバイオマスは、繊維質の長さが好ましくは10mm以下、より好ましくは3mm以下である。繊維質の長さをこのような範囲に調整することで、成形性および圧壊強度が良好である。
【0042】
骨材であるバイオマス等と、流動性を持つ結合剤を適宜の温度で混練し、結合剤を含浸、均一に混合した後、この混合物を、プレス機等を用いた型込めなど任意の成形方法によって成形し、前駆体とする。
【0043】
結合剤の種類等の詳細については、前記において説明したとおりである。
【0044】
前駆体における結合剤の含有量は、炭素クラスター製造用の成形体における原料の種類や各種の製造条件等により特に限定されないが、好ましくは15~50質量%であり、最も好ましいのは30~42質量%である。あるいは、前駆体中の水分が、3~15質量%であることが好ましく、3.2質量%より大きく、12.6質量%より小さくなるように調整して水分を添加して結合剤として配合することがより好ましい。結合剤の含有量、あるいは、水分量がこのような範囲であることで、前駆体の段階で崩れてしまったり、成形体の機械的強度が低下することを抑制し、アーク放電等の際に形状を維持することに適している。
【0045】
前記において説明したように、前駆体における灰分は、15%以下が好ましい。
【0046】
工程(A)の後、任意に、前駆体を更に焼成する工程(B)を行うことができる。工程(B)は、揮発分を除去し、工程(C)において黒鉛化が十分に進行する温度で行うことが好ましい。工程(B)は、工程(A)における焼成と同様の温度範囲で、主に非酸化性雰囲気で行う。
【0047】
工程(C)では、前駆体を2500℃以上の温度、好ましくは2500~3000℃の温度で1~24時間熱処理して黒鉛化する。黒鉛化を行う際には、その装置構成は特に限定されないが、例えば、従来公知の熱焼成炉、電気炉等を用いて行うことができる。黒鉛化の温度の上限は、特に限定されないが、電力消費や黒鉛化を円滑に行う点等を考慮すると、3000℃以下が好ましい。黒鉛化は、主に非酸化性雰囲気で行うことができる。
【0048】
このようにして得られる黒鉛化した成形体は、必要に応じて機械加工することにより、所望する形状の成形体としてもよい。
【0049】
本発明の製造方法によって得られる炭素クラスター製造用の成形体における、かさ比重、電気比抵抗、粉末X線回折法による回折パターンの詳細は、前記において説明したとおりである。
【0050】
以上に説明した本発明の炭素クラスター製造用の成形体とその製造方法によれば、従来の石油・石炭由来原料に変えて植物由来原料を用いた、サスティナブルかつエコロジカルな材料として、またロースート中の炭素クラスターの含有率が高く、少ない消費電力でも高収率で得られ、生産量が向上し、コストの低減可能となることから、各種の産業分野への適用が可能である。例えば、天然由来の原料として、化粧品の配合成分に好適に使用できる。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
炭素クラスター製造用の成形体であるロッドを作製するための原料として、パームヤシ、菌床、ヒノキ・杉混合のそれぞれより得られたチップをシリンダーに詰めて加圧し、200℃に加熱した後、放冷して10cmの大きさとした固形体を用いた。また、乾燥した木材を細粉化し圧力をかけて直径6~8mm、長さ3~40mmとした木質ペレット(杉由来、都農ペレット工業製)および備長炭も用いた。
【0053】
各原料を1200~1300℃の非酸化性雰囲気COガス下で2日間仮焼成した後、粒径1mm以下に粉砕した。
【0054】
この焼成ペレットに対し、表1の組成で結合剤(バインダー)として市販の上白糖、コーンスターチ、液状デキストリン(マルトフレッシュ、水分量30%)、蒸留水を加えて、加圧型ニーダー内で50~70℃で10分間混練を行った。得られた混練物を、型込めプレス機を用いて、20MPaの加圧力で成形し前駆体を得た。
【0055】
上記前駆体をコークスブリーズ中に埋没し、1200~1300℃の非酸化性雰囲気下で2日間仮焼成して焼成体を得た。その後2500~3000℃の非酸化性雰囲気下で3時間熱処理しロッドを得た。ヒノキ、杉混合由来のロッドについては、仮焼成後に1500~2000℃で熱処理した。なお備長炭については、その製造工程にて既に1000℃程度の熱をかけているため、最初の仮焼成を行わずに直接粉砕してバインダーと混合し成形した。焼成前、焼成体、ロッドの各パラメーターを測定して表1及び表2に示した。
【0056】
また、参考例としてコークスとピッチを用いて製造した炭素クラスター製造用のロッドの特性は、灰分0.1%、かさ比重1.72、電気比抵抗8μΩmで、煤変換効率は34.1%、C60+C70量は約7%であった。
【0057】
各試料の測定および評価は次の条件で行った。
(かさ比重)
ノギスで成形体の各辺の長さを測り、それぞれ各辺の平均寸法から体積を求め、重量を測った。重量÷体積によりかさ比重を算出した。
【0058】
(電気比抵抗)
JIS R 7222に規定されたケルビンダブルブリッジ法により測定した。
【0059】
(X線回折の測定方法)
粉末X線回折法(装置名:MiniFlex II、X線源:CuKα、出力:0.45kW、取込み幅:0.02°)により回折パターンを得て、各サンプルの2θの26~27°の間のピークを比較して黒鉛化度合を判定した(〇:明瞭な1本のピークあり、×:ピークなし、あるいは、他のピークが重なっており、他のピークの2倍以上の強度がない)。
【0060】
(灰分の測定方法)
JIS Z 7302-4に従って測定した。すなわち原料を粉砕し、その1gを試料として、空気中で815℃±10℃に加熱したとき残留する灰の質量を試料に対する重量百分率で示した値を灰分とした。
【0061】
(アーク放電)
アーク放電は、次の方法によって行った。
炭素材料からなる成形体を断面が46mm×46mmの直方体状に加工し、Heガス中で直流アーク放電により蒸発させることで合成を行い、フラーレン類を含有する煤を得た。ロッドが割れていても、可能な場合には、24mm×24mmの直方体状に切り出してアーク放電を行った。合成は壁面を水冷した密閉容器内で行った。この際、炭素材料の蒸発に合わせて、電極間距離を制御し、出力を一定に安定させるようにした。
【0062】
Heガスの充填圧力を4kPaとし、出力を約25.5kWとなるように電極間距離を制御した。得られた煤中のフラーレン含有率および消費した炭素材料に対するフラーレン収率は表2に示す通りであった。
【0063】
フラーレンの量は、得られた煤100mgを量り取り、トルエンにて抽出し、ろ過後のろ液について高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でC60およびC70の量を測定し、煤中のC60、C70を算出し表1に示した(C60およびC70の量が1%以上生成している場合を〇とした)。
【0064】
上記の各測定および評価の結果を表1及び表2に示す。
【0065】
【0066】
【0067】
表2に示すように、菌床及びヒノキ、杉混合より作製したロッドでは、煤中のフラーレン量は、1%以下と生成量が少ないのに対して、パームヤシ、木質ペレット、備長炭より得られたロッドで得られた煤中のフラーレンは1%以上得られており、より効率的にフラーレンを生成できる傾向が確認された。
【0068】
またロッドの特性分析結果より、フラーレンが効率的に生成されるロッド(パームヤシ、木質ペレット、備長炭由来)の電気比抵抗は100μΩm以下であるのに対して、フラーレンを効率的に生成できないロッド(菌床、ヒノキ、杉混合)の電気比抵抗は100μΩmを超えるものであった。
【0069】
更に、各ロッドのX線回折の結果を
図1に示し、測定したピークの1/3幅÷底辺の値を原料種の横に記載した。
【0070】
フラーレンを効率的に生成したパームヤシ由来および木質ペレット由来では一般的に利用されているコークス由来のロッドと同様に黒鉛に由来する2θの26~27°の間に1本のピークを有し、ピークの1/3幅÷底辺の値が0.68以下となっていた。
【0071】
また、何の処理を行わない備長炭そのものでは、2θの26~27°の間のピークはないことが確認されたが、前記の仮焼成、焼成(黒鉛化)の熱処理を施したロッドではX線回折の結果、2θの26~27°の間に1本のピークが確認され、ピークの1/3幅÷底辺の値が0.68以下となっていた。
【0072】
表2において、比較例(No.A-7)の原料がヒノキ、杉混合由来のロッドで、X線回折のデータで黒鉛化度を示すピークが見られず、フラーレン合成に失敗したのは、原料の種類が原因ではなく、ヒノキ、杉由来のロッドを仮焼成後に1500~2000℃の熱処理を行ったため、黒鉛化のための熱処理温度が低かったことによると考えられる。
【0073】
また、原料組成等の製造条件にもよるが、ロッド割れを防止する観点から、ロッドを作製する前の焼成体の灰分は15質量%以下であることが望ましい傾向が確認された。
【0074】
また、前駆体中を作製するときの前駆体中の結合剤の適切な量を調べるべく、A-4、A-5と同じ組成の結合剤を焼成木質ペレットに添加して前駆体を作製したところ、原料組成等の製造条件にもよるが、結合剤の量は、好ましくは15~50質量%、最も好ましくは30~42%であることが成形体作製に望ましいことが判明した。
【0075】
この時の前駆体中の水分の適切な量を調べたところ、原料組成等の製造条件にもよるが、3.2質量%より大きく12.6質量%より小さい量とすることが成形体作製に好ましいことが判明した。