IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-光透過性導電性シートの製造方法 図1
  • 特許-光透過性導電性シートの製造方法 図2
  • 特許-光透過性導電性シートの製造方法 図3
  • 特許-光透過性導電性シートの製造方法 図4
  • 特許-光透過性導電性シートの製造方法 図5
  • 特許-光透過性導電性シートの製造方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-15
(45)【発行日】2022-04-25
(54)【発明の名称】光透過性導電性シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20220418BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20220418BHJP
【FI】
C23C14/34 U
C23C14/08 D
C23C14/34 C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021574330
(86)(22)【出願日】2021-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2021011147
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020090595
(32)【優先日】2020-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103517
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 寛之
(74)【代理人】
【識別番号】100149607
【弁理士】
【氏名又は名称】宇田 新一
(72)【発明者】
【氏名】藤野 望
(72)【発明者】
【氏名】鴉田 泰介
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/115237(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152808(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/161095(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
B32B 7/023
B32B 9/00
B32B 37/14
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のターゲットのそれぞれに電力を印加する複数回のスパッタリングによって、光透過性導電層を、基材シートの厚み方向一方面に形成する工程を備え、
前記光透過性導電層を形成する工程は、
前記複数のターゲットに含まれる第1ターゲットであって、酸化インジウムと酸化スズとを含み、前記酸化スズの含有率が8質量%を越えるインジウム-スズ複合酸化物からなる前記第1ターゲットに電力を印加して、内側層を前記基材シートの前記厚み方向一方面に形成する第1工程と、
前記第1ターゲット以外のターゲットに電力を印加して、外側層を前記内側層の厚み方向一方面に形成する第2工程とを備え、
前記複数のターゲットにおける合計の電力密度Pに対する、前記第1ターゲットにおける電力密度P1の比(P1/P)が、0.10以下であることを特徴とする、光透過性導電性シートの製造方法。
【請求項2】
前記第1工程では、反応性ガスを含むスパッタリングガスの雰囲気下、スパッタリングし、
前記第2工程では、反応性ガスを含むスパッタリングガスの雰囲気下、スパッタリングし、
前記第2工程における前記スパッタリングガスにおける反応性ガスの割合R2に対する、前記第1工程における前記スパッタリングガスにおける反応性ガスの比R1の比(R1/R2)が、1以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光透過性導電性シートの製造方法。
【請求項3】
前記第2工程の後に、前記光透過性導電層を結晶化する第3工程をさらに備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の光透過性導電性シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性導電性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材フィルムの表面に、ITOからなる透明導電膜を備える透明導電性フィルムが知られている。
【0003】
例えば、基材フィルムの上面に、2回のスパッタにより、下層と上層とを順に積層する方法が提案されている。(例えば、下記特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-174746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、透明導電膜には、低い比抵抗が求められる。しかし、特許文献1の記載の透明導電膜は、上記した要求を満足できないという不具合がある。
【0006】
本発明は、比抵抗が低い光透過性導電層を備える光透過性導電性シートの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明(1)は、複数のターゲットのそれぞれに電力を印加する複数回のスパッタリングによって、光透過性導電層を、基材シートの厚み方向一方面に形成する工程を備え、前記光透過性導電層を形成する工程は、前記複数のターゲットに含まれる第1ターゲットであって、酸化インジウムと酸化スズとを含み、前記酸化スズの含有率が8質量%を越えるインジウム-スズ複合酸化物からなる前記第1ターゲットに電力を印加して、内側層を前記基材シートの前記厚み方向一方面に形成する第1工程と、前記第1ターゲット以外のターゲットに電力を印加して、外側層を前記内側層の厚み方向一方面に形成する第2工程とを備え、前記複数のターゲットにおける合計の電力密度Pに対する、前記第1ターゲットにおける電力密度P1の比(P1/P)が、0.20以下である、光透過性導電性シートの製造方法を含む。
【0008】
この光透過性導電性シートの製造方法では、複数のターゲットにおける合計の電力密度Pに対する、第1ターゲットにおける電力密度P1の比(P1/P)が、0.20以下であるので、内側層より緻密な外側層を形成でき、これによって、光透過性導電層の比抵抗を低減できる。その結果、比抵抗が低い光透過性導電層を備える光透過性導電性シートを製造することができる。
【0009】
また、この光透過性導電性シートの製造方法では、酸化スズの含有率が8質量%を越えるインジウム-スズ複合酸化物からなる第1ターゲットに電力を印加して、内側層を形成するので、光透過性導電層の比抵抗を十分に低減できる。
【0010】
本発明(2)は、前記第1工程では、反応性ガスを含むスパッタリングガスの雰囲気下、スパッタリングし、前記第2工程では、反応性ガスを含むスパッタリングガスの雰囲気下、スパッタリングし、前記第2工程における前記スパッタリングガスにおける反応性ガスの割合R2に対する、前記第1工程における前記スパッタリングガスにおける反応性ガスの比R1の比(R1/R2)が、1以下である、(1)に記載の光透過性導電性シートの製造方法を含む。
【0011】
本発明(3)は、前記第2工程の後に、前記光透過性導電層を結晶化する第3工程をさらに備える、(1)または(2)に記載の光透過性導電性シートの製造方法を含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製造方法によれば、比抵抗が低い光透過性導電層を備える光透過性導電性シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の光透過性導電性シートの製造方法の一実施形態で用いられるスパッタリング装置の概略図である。
図2図2は、図1のスパッタリング装置により製造される光透過性導電性シートの断面図である。
図3図3は、図1に示すスパッタリング装置の変形例の概略図である。
図4図4は、図3のスパッタリング装置により製造される光透過性導電性シートの断面図である。
図5図5は、実施例1のTEM写真の画像処理図である。
図6図6は、比較例1のTEM写真の画像処理図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の光透過性導電性シートの製造方法の一実施形態)
本発明の光透過性導電性シートの製造方法の一実施形態を、図1図2を参照して説明する。
【0015】
光透過性導電性シート1の製造方法は、複数のターゲット51、52、53、54のそれぞれに電力を印加するスパッタリングによって、光透過性導電層3を基材シート2の厚み方向一方面に形成する工程を備える。なお、この実施形態では、複数のターゲット51、52、53、54は、第1ターゲット51と、第2ターゲット52と、第3ターゲット53と、第4ターゲット54とを含む。
【0016】
(スパッタリング装置)
まず、スパッタリングに用いるスパッタリング装置30を説明する。図1に示すように、スパッタリング装置30は、繰出部35と、スパッタ部36と、巻取部37とを順に備える。
【0017】
繰出部35は、繰出ロール38を備える。
【0018】
スパッタ部36は、成膜ロール40と、第1成膜室41と、複数の成膜室42、43、44とを備える。この実施形態では、複数の成膜室42、43、44は、第2成膜室42と、第3成膜室43と、第4成膜室44とである。
【0019】
成膜ロール40は、成膜ロール40を冷却するように構成される図示しない冷却装置を備える。
【0020】
第1成膜室41は、第1ターゲット51と、第1ガス供給機61と、第1ポンプ91の排出口とを収容する。第1ターゲット51と、第1ガス供給機61と、第1ポンプ91の排出口とは、成膜ロール40に対して間隔を隔てて配置されている。第1成膜室41において、第1ターゲット51に対する成膜ロール40の反対側には、図示しないマグネットが配置されている。マグネットの磁場強度は、第1ターゲット51上の水平磁場強度が、例えば、10mT以上、200mT以下になるように、調整されている。
【0021】
第1ターゲット51の材料は、ITO(インジウム-スズ複合酸化物)である。ITOは、酸化インジウムと酸化スズとを含む。
【0022】
ITOにおける酸化スズの含有率は、8質量%を越える。他方、酸化スズの含有率が8質量%以下であれば、光透過性導電層3の比抵抗を十分に低減できない。
【0023】
ITOにおける酸化スズの含有率は、好ましくは、8.5質量%以上、より好ましくは、9質量%以上、さらに好ましくは、9.5質量%以上であり、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、25質量%以下、より好ましくは、20質量%以下、さらに好ましくは、15質量%以下である。酸化スズの含有率が上記した上限以下であれば、安定的に比抵抗を低減できる。
【0024】
ITOにおける酸化インジウムの含有率は、酸化スズの含有率の残部である。
【0025】
なお、ITOは、必要に応じて、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、PdおよびWからなる群より選択される少なくとも1種が微量(例えば、5質量%以下)ドープされていてもよい。
【0026】
第1ターゲット51の材料は、導電性酸化物の焼結体を含む。第1ターゲット51をスパッタリング装置30に設置し、所定の電力密度P1を第1ターゲット51に印加することで、第1ターゲット51の構成材料をスパッタリングすることができる。
【0027】
第1ガス供給機61は、スパッタリングガスを、第1成膜室41に供給するように構成されている。スパッタリングガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの不活性ガス、例えば、不活性ガスと、酸素などの反応性ガスとを含む混合ガスなどが挙げられ、好ましくは、混合ガスが挙げられる。スパッタリングガスが混合ガスであれば、第1ガス供給機61は、第1不活性ガス供給機71と、第1反応性ガス供給機72とを含んでおり、それぞれから、不活性ガスと、反応性ガスとが第1成膜室41に供給される。
【0028】
第2成膜室42は、成膜ロール40の周方向において、第1成膜室41に隣接して配置される。第2成膜室42は、ターゲットの一例としての第2ターゲット52と、第2ガス供給機62と、第2ポンプ92の排出口とを収容する。第2ターゲット52と、第2ガス供給機62と、第2ポンプ92の排出口とは、成膜ロール40に対して間隔を隔てて配置されている。第2成膜室42において、第2ターゲット52に対する成膜ロール40の反対側には、図示しないマグネットが配置されている。マグネットの磁場強度は、第2ターゲット52上の水平磁場強度が、例えば、10mT以上、200mT以下になるように、調整されている。
【0029】
第2ターゲット52の材料は、ITOである。ITOにおける酸化スズの含有率は、特に限定されない。ITOにおける酸化スズの含有率は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、8質量%超過であり、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、25質量%以下、より好ましくは、20質量%以下、さらに好ましくは、15質量%以下である。好適には、第2ターゲット52の材料における酸化スズの含有率は、第1ターゲット51の材料における酸化スズの含有率と同様である。
【0030】
第2ターゲット52の材料は、導電性酸化物の焼結体を含む。第2ターゲット52をスパッタリング装置30に設置し、所定の電力密度P2を第2ターゲット52に印加することで、第2ターゲット52の構成材料をスパッタリングすることができる。
【0031】
第2ガス供給機62は、スパッタリングガスを、第2成膜室42に供給するように構成されている。スパッタリングガスとしては、例えば、上記した不活性ガス、上記した混合ガスが挙げられ、好ましくは、混合ガスが挙げられる。スパッタリングガスが混合ガスであれば、第2ガス供給機62は、第2不活性ガス供給機73と、第2反応性ガス供給機74とを含んでおり、それぞれから、不活性ガスと、反応性ガスとが第2成膜室42に供給される。
【0032】
第3成膜室43は、成膜ロール40の周方向において、第3成膜室43に隣接しており、第2成膜室42に対する第1成膜室41の反対側に配置されている。第3成膜室43は、ターゲットの一例としての第3ターゲット53と、第3ガス供給機63と、第3ポンプ93の排出口とを収容する。第3ターゲット53と、第3ガス供給機63と、第3ポンプ93の排出口とは、成膜ロール40に対して間隔を隔てて配置されている。第3成膜室43において、第3ターゲット53に対する成膜ロール40の反対側には、図示しないマグネットが配置されている。マグネットの磁場強度は、水平磁場強度が、例えば、10mT以上、200mT以下になるように、調整されている。
【0033】
第3ターゲット53の材料は、ITOである。ITOにおける酸化スズの含有率は、特に限定されない。ITOにおける酸化スズの含有率は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、8質量%超過であり、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、25質量%以下、より好ましくは、20質量%以下、さらに好ましくは、15質量%以下である。好適には、第3ターゲット53の材料における酸化スズの含有率は、第1ターゲット51の材料における酸化スズの含有率と同様である。
【0034】
第3ターゲット53の材料は、導電性酸化物の焼結体を含む。第3ターゲット53をスパッタリング装置30に設置し、所定の電力密度P3を第3ターゲット53に印加することで、第3ターゲット53の構成材料をスパッタリングすることができる。
【0035】
第3ガス供給機63は、スパッタリングガスを、第3成膜室43に供給するように構成されている。スパッタリングガスとしては、例えば、上記した不活性ガス、上記した混合ガスが挙げられ、好ましくは、混合ガスが挙げられる。スパッタリングガスが混合ガスであれば、第3ガス供給機63は、第3不活性ガス供給機75と、第3反応性ガス供給機76とを含んでおり、それぞれから、不活性ガスと、反応性ガスとが第3成膜室43に供給される。
【0036】
第4成膜室44は、成膜ロール40の周方向において、第3成膜室43に隣接しており、第3成膜室43に対する第2成膜室42の反対側に配置される。これによって、スパッタ部36では、第1成膜室41と、第2成膜室42と、第3成膜室43と、第4成膜室44とが周方向に順に配置される。第4成膜室44は、ターゲットの一例としての第4ターゲット54と、第4ガス供給機64と、第4ポンプ94の排出口とを収容する。第4ターゲット54と、第4ガス供給機64と、第4ポンプ94の排出口とは、成膜ロール40に対して間隔を隔てて配置されている。第4成膜室44において、第4ターゲット54に対する成膜ロール40の反対側には、図示しないマグネットが配置されている。マグネットの磁場強度は、水平磁場強度が、例えば、10mT以上、200mT以下になるように、調整されている。
【0037】
第4ターゲット54の材料は、ITOである。ITOにおける酸化スズの含有率は、特に限定されない。ITOにおける酸化スズの含有率は、例えば、1質量%以上、好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、8質量%超過であり、また、例えば、30質量%以下、好ましくは、25質量%以下、より好ましくは、20質量%以下、さらに好ましくは、15質量%以下である。好適には、第4ターゲット54の材料における酸化スズの含有率は、第1ターゲット51の材料における酸化スズの含有率と同様である。
【0038】
第4ターゲット54の材料は、導電性酸化物の焼結体を含む。第4ターゲット54をスパッタリング装置30に設置し、所定の電力密度P4を第4ターゲット54に印加することで、第4ターゲット54の構成材料をスパッタリングすることができる。
【0039】
第4ガス供給機64は、スパッタリングガスを、第4成膜室44に供給するように構成されている。スパッタリングガスとしては、例えば、上記した不活性ガス、上記した混合ガスが挙げられ、好ましくは、混合ガスが挙げられる。スパッタリングガスが混合ガスであれば、第4ガス供給機64は、第4不活性ガス供給機77と、第4反応性ガス供給機78とを含んでおり、それぞれから、不活性ガスと、反応性ガスとが第4成膜室44に供給される。
【0040】
巻取部37は、巻取ロール39を備える。
【0041】
(光透過性導電層を基材シートに形成する工程)
次に、スパッタリング装置30により、光透過性導電層3を基材シート2に形成する工程を具体的に説明する。
【0042】
この工程では、まず、基材シート2を準備する。
【0043】
基材シート2は、厚みを有し、厚み方向に直交する面方向に延びる。具体的には、基材シート2は、面方向に延びるフィルム形状を有する。基材シート2は、可撓性を有する。
【0044】
基材シート2は、少なくとも基材層4を含む。具体的には、基材シート2は、基材層4と、ハードコート層5とを厚み方向一方側に向かって順に備える。なお、この一実施形態において、光透過性導電性シート1に備えられる基材シート2の数は、1である。
【0045】
基材層4は、面方向に延びるフィルム形状を有する。基材層4は、基材シート2の厚み方向他方面を形成する。基材層4の材料は、特に限定されず、例えば、ポリマー、ガラスなどが挙げられる。好ましくは、ポリマーが挙げられる。ポリマーとしては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー(COP)などのオレフィン樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル樹脂、例えば、ポリアクリレートおよび/またはポリメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂(アクリル樹脂および/またはメタクリル樹脂)、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、メラミン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂などの樹脂が挙げられ、好ましくは、ポリエステル樹脂、より好ましくは、PETが挙げられる。基材層4の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、30μm以上であり、また、例えば、300μm以下、好ましくは、100μm以下、より好ましくは、75μm以下である。
【0046】
ハードコート層5は、光透過性導電層3に擦り傷を生じ難くするための擦傷保護層である。ハードコート層5は、基材シート2の厚み方向一方面を形成する。ハードコート層5は、基材層4の厚み方向一方面の全部に接触している。ハードコート層5の材料としては、特開2016-179686号公報に記載のハードコート組成物(アクリル樹脂、ウレタン樹脂など)の硬化物が挙げられる。ハードコート層5の厚みは、例えば、0.1μm以上、好ましくは、0.5μm以上であり、また、例えば、10μm以下、好ましくは、5μm以下である。
【0047】
(基材の物性)
基材シート2の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、15μm以上、さらに好ましくは、30μm以上であり、また、例えば、310μm以下、好ましくは、210以下、より好ましくは、110μm以下、さらに好ましくは、80μm以下である。
【0048】
基材シート2の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上であり、また、例えば、100%以下である。
【0049】
(基材シートのスパッタリング装置へのセット)
次いで、基材シート2をスパッタリング装置30にセットする。具体的には、基材シート2を、繰出ロール38、成膜ロール40および巻取ロール39に掛け渡す。
【0050】
次いで、第1ポンプ91を駆動しながら、第1ガス供給機61からスパッタリングガスを第1成膜室41に供給する。スパッタリングガスが混合ガスであれば、混合ガスにおける、不活性ガスに対する反応性ガスの比R1は、体積基準で、例えば、0.001以上、好ましくは、0.005以上であり、また、例えば、0.2以下、好ましくは、0.1以下である。第1成膜室41の圧力は、例えば、0.01Pa以上、1Pa以下である。
【0051】
第2ポンプ92を駆動しながら、第2ガス供給機62からスパッタリングガスを第2成膜室42に供給する。スパッタリングガスが混合ガスであれば、混合ガスにおける、、不活性ガスに対する反応性ガスの比R2は、体積基準で、例えば、0.001以上、好ましくは、0.005以上であり、また、例えば、0.2以下、好ましくは、0.1以下である。第2成膜室42における混合ガスにおける反応性ガスの比R2に対する、第1成膜室41における混合ガスにおける反応性ガスの比R1の比(比R2に対する比R1の比)(R1/R2)は、例えば、3.0以下、好ましくは、2以下、より好ましくは、1以下、より好ましくは、0.9以下、さらに好ましくは、0.8以下、とりわけ好ましくは、0.7以下であり、また、例えば、0.01以上、好ましくは、0.1以上、より好ましくは、0.5以上である。R1/R2が上記した下限以上であれば、光透過性導電層3の比抵抗をより一層低くすることができる。第2成膜室42の圧力は、例えば、0.01Pa以上、1Pa以下である。
【0052】
第3ポンプ93を駆動しながら、第3ガス供給機63からスパッタリングガスを第3成膜室43に供給する。スパッタリングガスが混合ガスであれば、混合ガスにおける反応性ガスの比R3は、上記した第2成膜室42における反応性ガスの比R2と同一である。第3成膜室43の圧力は、例えば、0.01Pa以上、1Pa以下である。
【0053】
第4ポンプ94を駆動しながら、第4ガス供給機64からスパッタリングガスを第4成膜室44に供給する。スパッタリングガスが混合ガスであれば、混合ガスにおける反応性ガスの比R4は、上記した第2成膜室42における反応性ガスの比R2と同一である。第4成膜室44の圧力は、例えば、0.01Pa以上、1Pa以下である。
【0054】
また、冷却装置を駆動して、成膜ロール40(の表面)を冷却する。成膜ロール40の温度(表面温度)は、例えば、20℃以下、好ましくは、10.0℃以下、好ましくは、0.0℃以下であり、また、例えば、-50℃以上、好ましくは、-25℃以上である。
【0055】
(各ターゲットへの電力の印加、および、各成膜室におけるスパッタリングの開始) 第1ターゲット51と第2ターゲット52と第3ターゲット53と第4ターゲット54とのそれぞれに電力を印加する。具体的には、第1ターゲット51に電力密度P1で電力を印加する。第2ターゲット52に電力密度P2で電力を印加する。第3ターゲット53に電力密度P3で電力を印加する。第4ターゲット54に電力密度P4で電力を印加する。
【0056】
なお、第1ターゲット51と第2ターゲット52と第3ターゲット53と第4ターゲット54とのそれぞれに印加する電源は、特に限定されず、例えば、DC、RFなどが挙げられる。電源は、好ましくは、DCである。
【0057】
第1ターゲット51における電力密度P1、第2ターゲット52における電力密度P2、第3ターゲット53における電力密度P3、第4ターゲット54における電力密度P4の合計の電力密度P(=P1+P2+P3+P4)に対する第1ターゲット51における電力密度P1の比(P1/P)は、0.20以下である。他方、合計の電力密度Pに対する第1ターゲット51の電力密度P1の比(P1/P)が0.20を超過すれば、光透過性導電層3の比抵抗を低減できない。合計の電力密度Pに対する第1ターゲット51の電力密度P1の比(P1/P)は、好ましくは、0.18以下、より好ましくは、0.15以下、さらに好ましくは、0.10以下、とりわけ好ましくは、0.05以下である。
【0058】
また、合計の電力密度Pに対する第1ターゲット51の電力密度P1の比(P1/P)は、例えば、0.001以上、好ましくは、0.01以上である。合計の電力密度Pに対する第1ターゲット51の電力密度P1の比(P1/P)が上記した下限以上であれば、第1成膜室41におけるスパッタリングを確実に実施できる。
【0059】
第3ターゲット53における電力密度P3は、第2ターゲット52における電力密度P2に近似し、第4ターゲット54における電力密度P4は、第3ターゲット53における電力密度P3に近似する。好ましくは、電力密度P2と、電力密度P3と、電力密度P4とは、同一である。
【0060】
電力密度P1は、例えば、0.1W/cm以上であり、また、例えば、10W/cm以下である。電力密度P2、電力密度P3および電力密度P4のそれぞれは、例えば、0.1W/cm以上であり、また、例えば、15W/cm以下である。
【0061】
続いて、繰出ロール38と、成膜ロール40と、巻取ロール39とを駆動することにより、繰出ロール38から基材シート2が繰り出される。基材シート2は、成膜ロール40の表面に接触しながら、第1成膜室41と第2成膜室42と第3成膜室43と第4成膜室44とを順に移動する。この際、基材シート2は、成膜ロール40の表面との接触によって、冷却される。
【0062】
第1ターゲット51の近傍において、第1ターゲット51に対する電力密度P1での電力の印加によって、スパッタリングガスをイオン化させて、イオン化ガスを生成する。続いて、イオン化ガスが、第1ターゲット51に衝突し、第1ターゲット51のITOが粒子となって叩き出され、粒子が、基材シート2に付着(堆積)して、内側層6が形成される(第1工程)。
【0063】
続いて、第2ターゲット52の近傍において、第2ターゲット52に対する電力密度P2での電力の印加によって、スパッタリングガスをイオン化させて、イオン化ガスを生成する。続いて、イオン化ガスが、第2ターゲット52に衝突し、第2ターゲット52のITOが粒子となって叩き出され、粒子が、内側層6に付着(堆積)して、第1層7が形成される。
【0064】
続いて、第3ターゲット53の近傍において、第3ターゲット53に対する電力密度P3での電力の印加によって、スパッタリングガスをイオン化させて、イオン化ガスを生成する。続いて、イオン化ガスが、第3ターゲット53に衝突し、第3ターゲット53のITOが粒子となって叩き出され、粒子が、第1層7に付着(堆積)して、第2層8が形成される。
【0065】
続いて、第4ターゲット54の近傍において、第4ターゲット54に対する電力密度P4での電力の印加によって、スパッタリングガスをイオン化させて、イオン化ガスを生成する。続いて、イオン化ガスが、第4ターゲット54に衝突し、第4ターゲット54のITOが粒子となって叩き出され、粒子が、第2層8に付着(堆積)して、第3層9が形成される(第2工程)。
【0066】
第2工程によって、第1層7と、第2層8と、第3層9とから構成される外側層22が形成される。つまり、この外側層22は、内側層6に接触する第1層7と、第2層8と、第3層9とを厚み方向一方側に向かって順に備え、互いに隣接する層は、接触している。
【0067】
合計の電力密度Pに対する第1ターゲット51の電力密度P1の比(P1/P)が0.20以下であり、つまり、合計の電力密度Pが、第1ターゲット51の電力密度P1に対して格段に高い。そのため、内側層6の膜質と、外側層22の膜質とは、異なり、そのため、内側層6と、第1層7との境界は、例えば、TEMなどによって、明瞭に観察される場合がある。
【0068】
内側層6の厚みは、例えば、1nm以上、好ましくは、2nm以上であり、また、例えば、30nm以下、好ましくは、20nm以下である。光透過性導電層3の厚みに対する内側層6の厚みの比は、例えば、0.005以上、好ましくは、0.01以上であり、また、例えば、0.2以下、好ましくは、0.1以下である。
【0069】
第1層7と第2層8と第3層9とからなる外側層22の合計厚みは、例えば、10nm以上、好ましくは、30nm以上、より好ましくは、50nm以上であり、また、例えば、480nm以下、好ましくは、250nm以下、より好ましくは、200nm以下、さらに好ましくは、145nm以下である。光透過性導電層3の厚みに対する外側層22の厚みの比は、光透過性導電層3の厚みに対する内側層6の厚みの比の残部である。
【0070】
なお、第1層7および第2層8の境界は、明確に観察されない。第2層8および第3層9の境界は、明確に観察されない。
【0071】
そして、上記した内側層6と、外側層22とが、光透過性導電層3を形成する。内側層6は、光透過性導電層3における厚み方向他方面を形成する。外側層22は、内側層6の厚み方向一方面の全部に接触する。
【0072】
光透過性導電層3の厚みは、例えば、15nm以上、好ましくは、30nm超過、より好ましくは、40nm以上、さらに好ましくは、50nm以上、ことさら好ましくは、80nm以上、とくに好ましくは、100nm超過であり、また、例えば、500nm以下、好ましくは、300nm以下、より好ましくは、300nm未満、さらに好ましくは、200nm以下、ことさら好ましくは、150nm未満である。
【0073】
成膜直後の光透過性導電層3は、例えば、非晶質である。
【0074】
これにより、基材シート2と、光透過性導電層3とを厚み方向に順に備える光透過性導電性シート1が得られる。なお、光透過性導電層3が非晶質であることから、光透過性導電性シート1は、非晶質光透過性導電性シート10として得られる。
【0075】
その後、必要により、光透過性導電層3を結晶化させる(第3工程)。
【0076】
光透過性導電層3を結晶化させるには、例えば、非晶質光透過性導電性シート10を加熱する。加熱温度は、例えば、80℃以上、好ましくは、110℃以上、より好ましくは、140℃以上、さらに好ましくは、160℃以上あり、また、例えば、250℃以下、好ましくは、200℃未満、より好ましくは、180℃以下であり、また、加熱時間は、例えば、1分間以上、好ましくは、5分間以上、より好ましくは、1時間以上、さらに好ましくは、1.5時間以上であり、また、例えば、5時間以下、好ましくは、3時間以下である。または、非晶質光透過性導電性シート10を常温で長時間放置することもできる。例えば、非晶質光透過性導電性シート10を、20℃以上、40℃以下の雰囲気で、例えば、500時間以上、好ましくは、1500時間以上、また、例えば、3000時間以下、放置する。
【0077】
(光透過性導電層の物性)
光透過性導電層3(具体的には、結晶化した光透過性導電層3)の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上であり、また、例えば、100%以下である。
【0078】
光透過性導電層3(具体的には、結晶化した光透過性導電層3)の表面抵抗は、例えば、200Ω/□以下、好ましくは、100Ω/□以下、より好ましくは、50Ω/□以下、さらに好ましくは、20Ω/□以下であり、また、例えば、0Ω/□超過である。表面抵抗は、JIS K7194に準拠して、4端子法により測定する。
【0079】
光透過性導電層3(具体的には、結晶質の光透過性導電層3)の比抵抗は、例えば、4.0×10-4Ωcm以下、好ましくは、2.5×10-4Ωcm以下、より好ましくは、2.3×10-4Ωcm以下、さらに好ましくは、2.2×10-4Ωcm以下、ことさら好ましくは、2.1×10-4Ωcm以下であり、また、例えば、0Ωcm超過、さらに、0.1×10-4Ωcm以上、さらに、0.5×10-4Ωcm以上、さらには、1.0×10-4Ωcm以上である。比抵抗は、表面抵抗に厚みを乗じて得られる。
【0080】
(光透過性導電性シートの物性)
光透過性導電性シート1の厚みは、例えば、1μm以上、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、20μm以上、さらに好ましくは、40μm以上であり、また、例えば、310μm以下、好ましくは、210μm以下、より好ましくは、120μm以下、さらに好ましくは、90μm以下である。
【0081】
光透過性導電性シート1の全光線透過率(JIS K 7375-2008)は、例えば、60%以上、好ましくは、80%以上、より好ましくは、85%以上であり、また、例えば、100%以下である。
【0082】
(光透過性導電性シートの用途)
この光透過性導電性シート1(結晶化した光透過性導電層3を備える光透過性導電性シート)は、種々の物品に用いられる。物品としては、例えば、タッチセンサ、電磁波シールド、調光素子(例えば、PDLC、PNLC、SPDなどの電圧駆動型調光素子、例えば、エレクトロクロミック(EC)などの電流駆動型調光素子)、光電変換素子(有機薄膜太陽電池や色素増感太陽電池に代表される太陽電池素子の電極など)、熱線制御部材(例えば、近赤外線反射および/または吸収部材、例えば、遠赤外線反射および/または吸収部材)、アンテナ部材(光透過性アンテナ)、ヒータ部材(光透過性ヒータ)、画像表示装置、照明などに用いられる。
【0083】
物品は、光透過性導電フィルム10と、各物品に対応する部材とを備える。
【0084】
このような物品は、光透過性導電フィルム10と、各物品に対応する部材とを固定することにより得られる。
【0085】
具体的には、例えば、光透過性導電フィルム10における光透過性導電層1(パターン形状を有する光透過性導電層1を含む)と、各物品に対応する部材とを、固着機能層を介して固定する。
【0086】
固着機能層としては、例えば、粘着層および接着層が挙げられる。
【0087】
固着機能層としては、透明性を有するものであれば特に材料の制限なく使用できる。固着機能層は、好ましくは、樹脂から形成されている。樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリビニルエーテル樹脂、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン樹脂、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、天然ゴム、および、合成ゴムが挙げられる。特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性などの粘着特性を示し、耐候性および耐熱性などにも優れるという観点から、樹脂として、好ましくは、アクリル樹脂が選択される。
【0088】
固着機能層を形成する樹脂には、光透過性導電層1の腐食およびマイグレーション抑制するために、公知の腐食防止剤、および、マイグレーション防止剤(例えば、特開2015-022397号に開示の材料)を添加することもできる。また、固着機能層(固着機能層を形成する樹脂)には、物品の屋外使用時の劣化を抑制するために、公知の紫外線吸収剤を添加してもよい。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン化合物、ベンゾトリアゾール化合物、サリチル酸化合物、シュウ酸アニリド化合物、シアノアクリレート化合物、および、トリアジン化合物が挙げられる。
【0089】
また、光透過性導電フィルム10における樹脂層11と、各物品に対応する部材とを、固着機能層を介して固定することもできる。このような場合には、光透過性導電フィルム10において、光透過性導電層1(パターン形状を有する光透過性導電層1を含む)が露出する。そのため、光透過性導電層1の厚み方向一方面にカバー層を配置することもできる。
【0090】
カバー層は、光透過性導電層1を被覆する層であり、光透過性導電層1の信頼性を向上させ、キズによる機能劣化を抑制できる。
【0091】
カバー層の材料は、好ましくは、誘電体である。カバー層は、樹脂および無機材料の混合物から形成されている。樹脂としては、固着機能層で例示する樹脂が挙げられる。無機材料としては、後述する中間層の材料で例示する材料が挙げられる。
【0092】
また、上記した樹脂および無機材料の混合物には、上記した固着機能層と同様の観点から、腐食防止剤、マイグレーション防止剤、および、紫外線吸収剤を添加することもできる。
【0093】
上記した物品は、上記した光透過性導電フィルム10を備えるため、信頼性に優れる。具体的には、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ、電磁波シールド部材、画像表示装置、ヒータ部材、および、照明は、上記した光透過性導電フィルム10を備えるため、信頼性に優れる。
【0094】
(一実施形態の作用効果)
そして、この光透過性導電性シート1の製造方法では、合計の電力密度Pに対する、第1ターゲット51における電力密度P1の比(P1/P)が、0.20以下であるので、結晶性の高い内側層6を形成でき、これによって、光透過性導電層3の光透過性導電層を低減できる。その結果、比抵抗が低い光透過性導電層3を備える光透過性導電性シート1を製造することができる。
【0095】
また、この光透過性導電性シート1の製造方法では、酸化スズの含有率が8質量%を越えるインジウム-スズ複合酸化物からなる第1ターゲット51に電力を印加して、内側層6を形成するので、光透過性導電層3の比抵抗を十分に低減できる。
【0096】
また、第2成膜室42のスパッタリングガスにおける反応性ガスの割合R2に対する、第1成膜室41のスパッタリングガスにおける反応性ガスの比R1の比(R1/R2)が、1以下であるので、内側層6の結晶性を向上でき、その結果、比抵抗がより一層低い光透過性導電層3を備える光透過性導電性シート1を製造することができる。
【0097】
また、この光透過性導電性シート1の製造方法は、光透過性導電層3を結晶化する第3工程を備えるので、比抵抗がより一層低い光透過性導電層3を備える光透過性導電性シート1を製造することができる。
【0098】
(変形例)
変形例において、一実施形態と同様の部材および工程については、同一の参照符号を付し、その詳細な説明を省略する。また、変形例は、特記する以外、一実施形態と同様の作用効果を奏することができる。さらに、一実施形態およびその変形例を適宜組み合わせることができる。
【0099】
スパッタリングガスを構成する不活性ガスは、単一の不活性ガスであっても、複数の不活性ガスが混合された混合不活性ガスであってもよい。具体的には、例えば、不活性ガスがアルゴンだけでもよく、また、不活性ガスがアルゴン、クリプトン、キセノンが任意の割合で混合された混合不活性ガスであってもよい。
【0100】
また、各成膜室に供給される不活性ガスの種類は、それぞれ異なっていてもよい。例えば、第1ガス供給機61の不活性ガスがアルゴンであり、また、第2ガス供給機62の不活性ガスがクリプトンであってもよい。
【0101】
複数のターゲットの数は、2、3、または5以上でもよい。複数のターゲットの数が2であれば、合計の電力密度Pは、P1+P2である。この変形例では、図3に示すように、スパッタリング装置30は、第1成膜室41と、第2成膜室42とのみを備える。図3に示すスパッタリング装置30によって形成される光透過性導電層3では、図4に示すように、内側層6と、外側層22とが、厚み方向一方側に向かって順に配置される。
【0102】
基材シート2は、他の機能層をさらに備えることができる。例えば、図2の仮想線で示すように、基材層4の厚み方向他方面に配置されるアンチブロッキング層25を備えることができる。
【0103】
複数のターゲットの数が3であれば、合計の電力密度Pは、P1+P2+P3である。
【0104】
複数のターゲットの数が5であれば、合計の電力密度Pは、P1+P2+P3+P4+P5である。
【0105】
一実施形態として、成膜ロール40(の表面)を冷却する製造方法を開示している。一方、変形例では、成膜ロール40の温度を加温する。成膜ロール40の温度は、例えば、20℃超過、180℃以下である。
【実施例
【0106】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載において用いられる配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなどの具体的数値は、上記の「発明を実施するための形態」において記載されている、それらに対応する配合割合(含有割合)、物性値、パラメータなど該当記載の上限値(「以下」、「未満」として定義されている数値)または下限値(「以上」、「超過」として定義されている数値)に代替することができる。また、以下の記載において特に言及がない限り、「部」および「%」は質量基準である。
【0107】
実施例1
長尺のPETフィルム(東レ社製、厚み50μm)からなる基材層4の厚み方向一方面に、アクリル樹脂を含む紫外線硬化性のハードコート組成物を塗布し、これを紫外線照射して硬化させて、厚みが2μmであるハードコート層5を形成した。これにより、基材層4と、ハードコート層5とを備える基材シート2を準備した。
【0108】
次いで、基材シート2をスパッタリング装置30にセットした。成膜ロール40の温度を、-8℃にした。第1ポンプ91と第2ポンプ92と第3ポンプ93と第4ポンプ94とを駆動した。スパッタリング装置30において、第1ターゲット51と第2ターゲットと第3ターゲット53と第4ターゲット54との材料は、いずれも、酸化インジウムと酸化スズとの焼結体であった。焼結体における酸化スズ濃度は、10質量%であった。
【0109】
第1不活性ガス供給機71からアルゴンを第1成膜室41に供給し、第1反応性ガス供給機72から酸素を第1成膜室41に供給した。第1成膜室41の気圧は、0.4Paであった。第1成膜室41の混合ガス(アルゴンおよび酸素)における、アルゴンに対する酸素の比R1(体積基準)は、0.010であった。第1ターゲット51に電力密度P1(0.7W/cm)で電力を印加し、第1ターゲット51をスパッタリングした。第1ターゲット51上の水平磁場強度は、90mTであった。第1ターゲット51に印加する電源は、DCを用いた。
【0110】
第2不活性ガス供給機73からアルゴンを第2成膜室42に供給し、第2反応性ガス供給機74から酸素を第2成膜室42に供給した。第2成膜室42の気圧は、0.4Paであった。第2成膜室42の混合ガス(アルゴンおよび酸素)における、アルゴンに対する酸素の比R2(体積基準)は、0.017であった。第2ターゲット52に電力密度P2(5.0W/cm)で電力を印加し、第2ターゲット52をスパッタリングした。第2ターゲット52上の水平磁場強度は、90mTであった。第2ターゲット52に印加する電源は、DCを用いた。
【0111】
第3不活性ガス供給機75からアルゴンを第3成膜室43に供給し、第3反応性ガス供給機76から酸素を第3成膜室43に供給した。第3成膜室43の気圧は、0.4Paであった。第3成膜室43の混合ガス(アルゴンおよび酸素)における、アルゴンに対する酸素の比R4(体積基準)は、0.017であった。第3ターゲット53に電力密度P2(5.0W/cm)で電力を印加し、第3ターゲット53をスパッタリングした。第3ターゲット53上の水平磁場強度は、90mTであった。第3ターゲット53に印加する電源は、DCを用いた。
【0112】
第4不活性ガス供給機77からアルゴンを第4成膜室44に供給し、第4反応性ガス供給機78から酸素を第4成膜室44に供給した。第4成膜室44の気圧は、0.4Paであった。第4成膜室44の混合ガス(アルゴンおよび酸素)における、アルゴンに対する酸素の比R4(体積基準)は、0.017であった。第4ターゲット54に電力密度P2(5.0W/cm)で電力を印加し、第4ターゲット54をスパッタリングした。第4ターゲット54上の水平磁場強度は、90mTであった。第4ターゲット54に印加する電源は、DCを用いた。
【0113】
第1ターゲット51の電力密度P1と、第2ターゲット52の電力密度P2と、第3ターゲット53の電力密度P3と、第4ターゲット54の電力密度P4との合計の電極密度Pに対する、第1ターゲット51における電力密度P1の比(P1/P=P1/(P1+P2+P3+P4))は、0.04であった。
【0114】
これによって、内側層6と、外側層22とを基材シート2の厚み方向一方側に順に形成した。内側層6と、外側層22とは非晶質の光透過性導電層3をなす。これによって、基材シート2と、光透過性導電層3を厚み方向一方側に向かって順に備える光透過性導電性シート1(非晶質光透過性導電性シート10)を製造した。
【0115】
実施例2~実施例6、比較例1、比較例2
第1ターゲット51の酸化スズの濃度、各ターゲットの電力密度(P1、P2、P3、P4)、混合ガスにおける酸素の比R1~R4、内側層6および外側層22の合計厚みなどを、表1に従って変更した以外外は、実施例1と同様にして、光透過性導電性シート1(非晶質光透過性導電性シート10)を製造した。
【0116】
(評価)
各実施例および各比較例の光透過性導電性シート1を、熱風オーブンで165℃、2時間加熱して、光透過性導電層3を結晶化した。この光透過性導電層3について、以下の項目を評価した。結果を表1に記載する。
【0117】
(表面抵抗)
光透過性導電層3の表面抵抗を、JIS K7194(1994年)に準じる四端子法により測定した。
【0118】
(比抵抗)
光透過性導電層3の表面抵抗に、光透過性導電層3の厚みを乗じて、比抵抗を取得した。
【0119】
(内側層等の同定と厚み)
FIBマイクロサンプリング法により、光透過性導電性シート1を断面が露出するように処理した後、断面のFE-TEM観察を実施した。
【0120】
FIB装置: Hitachi製 FB2200、 加速電圧: 10kV
FE-TEM 装置: JEOL製 JEM-2800、加速電圧: 200kV
【0121】
実施例1のTEM写真を図5に示す。比較例1のTEM写真を図6に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
なお、上記発明は、本発明の例示の実施形態として提供したが、これは単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。当該技術分野の当業者によって明らかな本発明の変形例は、後記請求の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0124】
光透過性導電性シートは、例えば、タッチセンサ、調光素子、光電変換素子、熱線制御部材、アンテナ、電磁波シールド部材、画像表示装置、ヒータ部材、および、照明に用いられる。
【符号の説明】
【0125】
1 光透過性導電性シート
2 基材シート
3 光透過性導電層
6 内側層
22 外側層
30 スパッタリング装置
51 第1ターゲット
P1 第1ターゲットの電力密度
P 電力密度の合計
R1 混合ガスにおける酸素の比(第1工程)
R2 混合ガスにおける酸素の比(第2工程)
【要約】
光透過性導電性シート1の製造方法では、複数のターゲット51、52、53、54のそれぞれに電力を印加する複数回のスパッタリングによって、光透過性導電層3を、基材シート2に形成する。この方法は、酸化スズの含有率が8質量%を越えるインジウム-スズ複合酸化物からなる第1ターゲット51に電力を印加して、内側層6を基材シート2に形成する第1工程と、インジウム-スズ複合酸化物からなる第2ターゲット52、インジウム-スズ複合酸化物からなる第3ターゲット53、および、インジウム-スズ複合酸化物からなる第4ターゲット54のそれぞれに電力を印加して、外側層22を内側層6に形成する第2工程とを備える。第2ターゲット52、第3ターゲット53および第4ターゲット54の合計の電力密度Pに対する、第1ターゲット51における電力密度P1の比(P1/P)が、0.20以下である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6