(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】掴み帯部付き下衣
(51)【国際特許分類】
A41D 13/12 20060101AFI20220419BHJP
A41D 1/06 20060101ALI20220419BHJP
A41D 13/05 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
A41D13/12 154
A41D1/06 Z
A41D13/05 106
(21)【出願番号】P 2017183718
(22)【出願日】2017-09-25
【審査請求日】2020-07-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.平成29年3月27日 性能試験による公開 2.平成29年3月29日 性能試験による公開 3.平成29年3月31日 性能試験による公開 4.平成29年4月20日~平成29年4月22日「バリアフリー2017」にて公開 5.平成29年6月2日~平成29年6月3日「第26回日本創傷・オストミー・失禁管理学会学術集会」にて公開 6.平成29年9月8日 面談による公開
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120341
【氏名又は名称】安田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴志
(72)【発明者】
【氏名】柳井 里予
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-122161(JP,A)
【文献】特開2009-007720(JP,A)
【文献】特開2017-089045(JP,A)
【文献】特開2006-144140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 1/06- 1/16
A41D13/00-13/12
A41D20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
履き口を形成しているウエスト部と前記履き口に連通する裾口を形成している左右一対の裾部とを有して着用者の下半身に着用させる身頃本体を備えており、
前記身頃本体を形成している身生地は、その全体が一体構造を有した編み生地によって形成され、
前記身頃本体の左右両側面には、長手方向を着用者の身丈方向へ沿わせた帯状の掴み帯部が設けられ、
前記掴み帯部は、前記身頃本体において少なくとも着用者の臀部を覆う部位を形成している身生地に比べて着用者の身丈方向に沿った伸縮性が低い低伸縮性の生地によって形成され、
前記掴み帯部は、前記一体構造を備えた編み生地における伸縮性を変更させて実現され前記編み生地から突出する部位を備えず、
前記掴み帯部において、着用者の腰回り方向に沿った伸縮性が着用者の身丈方向に沿った伸縮性よりも高
く、
前記掴み帯部の前隣には当該掴み帯部に沿って帯状を呈する緩和帯部が左右に設けられ、左右の前側緩和帯部は前面連結部により連結され、
前記前面連結部は、前記身頃本体の正面部を前記ウエスト部の下端に沿うように接触して設けられる
ことを特徴とする掴み帯部付き下衣。
【請求項2】
前記掴み帯部は、前記ウエスト部の下端から少なくとも着用者の上前腸骨棘に相当する部位まで達する長さで形成されていることを特徴とする請求項1記載の掴み帯部付き下衣。
【請求項3】
前記掴み帯部は、前記ウエスト部と前記裾部との間を接続していることを特徴とする請求項2記載の掴み帯部付き下衣。
【請求項4】
前記掴み帯部の下端部には、着用者の臀部に生じている2つの膨らみ下縁に沿うようにしつつ左右両外側から左右間中央へ向けて屈曲した後面持ち上げ部が設けられていることを特徴とする請求項3記載の掴み帯部付き下衣。
【請求項5】
前記身頃本体において少なくとも着用者の臀部を覆う部位を形成している身生地は伸縮性の編み生地であって、
前記掴み帯部は、前記編み生地とは異なる編組織を採用して形成されることによって前記身頃本体が一体成型構造を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の掴み帯部付き下衣。
【請求項6】
前記掴み帯部の前隣及
び後隣には当該掴み帯部に沿って帯状を呈する緩和帯部が設けられており、
前記緩和帯部は、前記掴み帯部を形成している低伸縮性の生地に比べれば着用者の身丈方向に沿った伸縮性が高いが前記身頃本体に用いられたその他の身生地に比べて着用者の身丈方向に沿った伸縮性が低い中伸縮性生地により形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の掴み帯部付き下衣。
【請求項7】
前記身頃本体の前面中央部及び/又は後面中央部には、長手方向を着用者の身丈方向にして下端部を着用者の股間相当部位へ至らせた吊りベルト部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の掴み帯部付き下衣。
【請求項8】
前記身頃本体は、前記一対の裾部が着用者の大腿部上部に配置される長さに形成されたボクサータイプであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の掴み帯部付き下衣。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、掴み帯部付き下衣に関する。
【背景技術】
【0002】
要介護者(介護される側)に対する介護では、要介護者をベッドや椅子等から立ち上がらせたり移動させたりする際の介護者(介護する側)の負担を軽減させるために、要介護者が着用するズボンなどの下衣に対して、ウエスト回りに沿う方向で半輪状に突出する把持部を設けることが提案されている(特許文献1等参照)。
従って、介護者は、この把手部を掴むことで要介護者に対する介護をやり易くなると説明されている。
【0003】
一方、近年では、尿吸収パッドや成人用オムツなどに重ねて着用するためのオムツホルダーが提案されている(特許文献2参照)。このオムツホルダーでは、ホルダー内面(着用者の肌へ向ける面)に対して、要介護者の鼠蹊部に対応させるように弾性部材を設けると共に、この弾性部材のホルダー外に向かう上端部にループ状の取っ手部材を連結させている。
【0004】
従って、要介護者がオムツホルダーを着用した後、介護者がこの取っ手部材を引っ張り上げるようにすることでホルダー内の尿パッド等の位置ズレを簡単に解消させることができると説明されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-297741号公報
【文献】特開2013-220224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、要介護者が着用する下衣において、介護者が把持することを主目的とした把持部や取っ手部材等(以下、「取っ手等」と言う)は、特許文献1や2により公知であった。しかし、これらの取っ手等は、下衣から大きく突出する状態で設けられていた。そのため、要介護者が寝転んで寝返りをした場合などは、要介護者の身体に取っ手等が食い込むようになって要介護者が痛がり、結果として要介護者は寝返りをできないことになる。すなわち、この種の下衣は、いずれも要介護者が寝るためには使用できないものあった。
【0007】
また取っ手等は、非使用時でも常に下衣の外側へ向けて晒されているので、要介護者が要介護の立場にあることが周囲に一見して明らかになってしまうことから、要介護者にとって心理的な負担にもなっていた。
加えて、特許文献1に記載された取っ手等(把持部)では、要介護者の全体重を介護者が支えられるようにしてあるために、下衣に対する取付強度を強くする必要があり、これが要因となって、下衣は丈夫な生地より成るアウターへの取り付けが限定されることになる。すなわち、肌着などの軟らかい生地より成るインナーにおいて実施することはできないものであった。
【0008】
また、特許文献2に記載された取っ手等(取っ手部材)では、要介護者が身につけたオムツの配置を介護者が調整しやすくするためのものであって、要介護者に対するオムツホルダーの着替えなどに使用することはできないものであった。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、要介護者などの着用者が着用したままでも就寝などの動きを拘束することがなく、また着用者にとって着用時の心理的負担が生じず、更にはインナーとしての実施が可能であり、着用者に対する着替えなどにおいて好適に使用することもできるようにした掴み帯部付き下衣を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係る掴み帯部付き下衣は、履き口を形成しているウエスト部と前記履き
口に連通する裾口を形成している左右一対の裾部とを有して着用者の下半身に着用させる身頃本体を備えており、前記身頃本体の左右両側面には、長手方向を着用者の身丈方向へ沿わせた帯状の掴み帯部が設けられ、前記掴み帯部は、前記身頃本体において少なくとも着用者の臀部を覆う部位を形成している身生地に比べて着用者の身丈方向に沿った伸縮性が低い低伸縮性の生地によって形成されていることを特徴とする。
【0010】
前記掴み帯部は、前記ウエスト部の下端から少なくとも着用者の上前腸骨棘に相当する部位まで達する長さで形成されているものとしてもよい。
或いは、前記掴み帯部は、前記ウエスト部と前記裾部との間を接続しているものとしてもよい。
この場合、前記掴み帯部の下端部には、着用者の臀部に生じている2つの膨らみ下縁に沿うようにしつつ左右両外側から左右間中央へ向けて屈曲した後面持ち上げ部が設けられているものとするのが好適である。
【0011】
前記身頃本体において少なくとも着用者の臀部を覆う部位を形成している身生地は伸縮性の編み生地であって、前記掴み帯部は、前記編み生地とは異なる編組織を採用して形成されることによって前記身頃本体が一体成型構造を有しているものとするのが好適である。
前記掴み帯部の前隣及び/又は後隣には当該掴み帯部に沿って帯状を呈する緩和帯部が設けられており、前記緩和帯部は、前記掴み帯部を形成している低伸縮性の生地に比べれば着用者の身丈方向に沿った伸縮性が高いが前記身頃本体に用いられた身生地に比べて着用者の身丈方向に沿った伸縮性が低い中伸縮性生地により形成されているものとしてもよい。
【0012】
前記身頃本体の前面中央部及び/又は後面中央部には、長手方向を着用者の身丈方向にして下端部を着用者の股間相当部位へ至らせた吊りベルト部が設けられているものとするのが好適である。
前記身頃本体は、前記一対の裾部が着用者の大腿部上部に配置される長さに形成されたボクサータイプとすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る掴み帯部付き下衣は、要介護者などの着用者が着用したままでも就寝などの動きを拘束することがなく、また着用者にとって着用時の心理的負担が生じず、更にはインナーとしての実施が可能であり、着用者に対する着替えなどにおいて好適に使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る掴み帯部付き下衣の着用状態を示した斜視図である。
【
図2】本発明に係る掴み帯部付き下衣の着用状態を示した正面図である。
【
図3】本発明に係る掴み帯部付き下衣の着用状態を示した側面図である。
【
図4】本発明に係る掴み帯部付き下衣の着用状態を示した背面図である。
【
図5】本発明に係る掴み帯部付き下衣と着用者の上前腸骨棘との高さ方向の位置関係を説明した正面図である。
【
図6】本発明に係る掴み帯部付き下衣と着用者の上前腸骨棘との周方向の位置関係を説明した平面図(
図6の上が着用者の前)である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至
図6は本発明に係る掴み帯部付き下衣(以下、「本発明下衣」と言う)1の一実施形態を示している。本発明下衣1は、要介護者(高齢者だけでなく障害者や病人、幼児などを含む広い意味において以下では「着用者M」と言う)の下半身に着用させるのに適した形体を有したもので、ウエスト部2と左右一対の裾部3とを有する身頃本体5を核として構成されている。
【0016】
本実施形態で例示する身頃本体5は、一対の裾部3が着用者Mの大腿部Lの上部に配置される長さに形成されたボクサータイプとしてある。
また本実施形態で例示する本発明下衣1は、着用者Mの肌へ尿吸収パッド等(図示略)
を抑え付けるに際して、この尿吸収パッドを予め内張りしたうえで(身頃本体5において着用者Mの肌へ向けられる面に両面テープなどで尿吸収パッドを張り付けること)履くインナーである場合を例示してある。もちろん、尿吸収パッドやオムツを予め、着用者Mが肌側へ装着したうえで本発明下衣1を履くこともできる。インナーであるので、その上からアウターを着用する場合も当然にあり得る。
【0017】
なお、裾部3の長さは本実施形態に限定されるものではなく適宜変更可能である。例えば、裾部3を着用者Mの鼠蹊部に沿わせて配置したブリーフタイプや、裾部3を膝上又は膝下に合わせて配置した半ズボン下タイプ、或いは裾部3を足首まで伸ばして配置した長ズボン下タイプなど、種々のタイプを採用することができる。
また本発明下衣1は、尿吸収パッド抑え付け用のインナーに限定されるものでもなく、例えば着用者Mの肌に直接触れる状態で着用する肌着として実施したり、尿吸収パッド一体型のパンツやオムツ自体として実施したりしてもよい。場合によっては、スポーツ用又はファッション用タイツなどを含むアウター(ズボン類)として実施してもよい。
【0018】
ウエスト部2は、その内側に履き口(着用者Mの腰回りを通すための開口)を形成したものである。本実施形態はボクサーパンツタイプとしたので、ウエスト部2は、着用者Mの腰回り方向に緊締力を生じるように編成した編組織(ゴム編等)を採用したり、ウエストゴム等を組み込んだ構造を採用したりして形成されている。必要に応じて腰紐や腰ベルト等を取り付けたものとしてもよい。
【0019】
また左右の裾部3は、それらの内側に裾口(着用者Mの脚を通すための開口)を形成したものであって、当然ながら各裾口は相互連通し、また身頃本体5内を介してウエスト部2の履き口にも連通するようになっている。これら左右の裾部3についても、着用者Mの脚回り方向に緊締力を生じる編組織を採用したり、ウエストゴム等を組み込んだ構造を採用したりして形成されている。
【0020】
次に、本発明下衣1の全体構成を概説する。
本発明下衣1において、身頃本体5を形成している身生地は、その全体が成型構造(丸編機や横編機等を用いた筒編みを基本形とする一体構造)を有した編み生地によって形成されている。
殊に、少なくとも着用者Mの臀部Tを覆う身生地は、平編やゴム編などの編組織によって形成されており、尿吸収パッドを内張りした状態でも身頃本体5を履きやすくし、且つそれでいて着用した後には確実な尿吸収パッドの抑え込み(位置ズレ防止)が図れるように、豊富な伸縮性を備えたものとなっている。
【0021】
このように、豊富な伸縮性を備えた部位(着用者Mの臀部Tを覆う身生地など)を、以下では「身生地特定部位」と言う。
そして、本発明下衣1では、身頃本体5の左右両側面に対して、長手方向を着用者Mの身丈方向へ沿わせた帯状の掴み帯部7が設けられている。
本実施形態では、掴み帯部7の前隣に、掴み帯部7に沿って帯状を呈する緩和帯部8(以下、「前側緩和帯部8」と言う)が設けられていると共に、掴み帯部7の後隣には、掴み帯部7に沿って帯状を呈する緩和帯部9(以下、「後側緩和帯部9」と言う)が設けられたものとしてある。
【0022】
図2に示すように、左右の前側緩和帯部8は、身頃本体5の正面部をウエスト部2下端に沿うように接触しつつ、着用者Mの腰回り方向に逆台形状を呈して設けられる前面連結部10により、上端部間(前側)が連結されている。
図4に示すように、左右の後側緩和帯部9は、身頃本体5の背面部をウエスト部2下端に沿うように接触しつつ、着用者Mの腰回り方向に太さ一定で設けられる緩和帯連結部11により、上端部間(後側)が連結されている。
【0023】
また、前側緩和帯部8の更に前隣には、前側緩和帯部8に沿って帯状を呈する第二緩和帯部14(以下、「前側第二緩和帯部14」と言う)が設けられていると共に、後側緩和帯部9の更に後隣には、後側緩和帯部9に沿って帯状を呈する第二緩和帯部15(以下、「後側第二緩和帯部15」と言う)が設けられている。
図2に示すように、左右の前側第二緩和帯部14には、身頃本体5の正面部を裾部3上
端に沿うように接触しつつ、下端部から着用者Mの脚回り方向に徐々に細くなりながら伸び出す前面持ち上げ部16が設けられている。
【0024】
図4に示すように、左右の後側第二緩和帯部15は、身頃本体5の背面部を緩和帯連結部11の下端に沿うように接触しつつ、着用者Mの腰回り方向に太さ一定で設けられる第二緩和帯連結部17により、上端部間(後側)が連結されている。
一方、左右の裾部3間には、着用者Mの股間相当部位を左右方向へ連結するようにした股マチ18が設けられている。この股マチ18を設けることで、左右の裾部3の動きの自由度を広げられることは周知であるが、本実施形態では、股マチ18の中央部に前後方向へ通り抜ける配置として、編組織を異ならせたマチ補強帯19が設けられたものとしてある。
【0025】
そして、身頃本体5の前面中央部には、長手方向を着用者Mの身丈方向に向け、且つ下端部を着用者Mの股間相当部位(股マチ18のマチ補強帯19)へ至らせると共に、上端部を前面連結部10の下縁に突き当てた吊りベルト部20(以下、「前側吊りベルト部20」と言う)が設けられている。
また、身頃本体5の後面中央部には、長手方向を着用者Mの身丈方向に向け、且つ下端部を着用者Mの股間相当部位(股マチ18のマチ補強帯19)へ至らせると共に、上端部を第二緩和帯連結部17と一体的に接合させた吊りベルト部21(以下、「後側吊りベルト部21」と言う)が設けられている。
【0026】
次に、本発明下衣1の各部構成とそれらの作用効果を説明する。
掴み帯部7は、本発明下衣1を着用者Mに履かせる際に、当該部位(掴み帯部7)を介護者、或いは着用者Mが自ら掴んで、本発明下衣1を引き上げるようにするための部位である。そのため、この掴み帯部7には、本発明下衣1を引き上げる際に破れが生じないことはもとより、過剰な伸びを防ぐ作用が必要になる。この理由から、この掴み帯部7は、低伸縮性の生地によって形成されている。
【0027】
ここにおいて「低伸縮性の生地」とは、身頃本体5のうち、身生地特定部位(前記のように着用者Mの臀部Tを覆う部位などに採用される豊富な伸縮性を備えた部位)の伸縮性を基準にして、この身生地特定部位よりも着用者Mの身丈方向に沿う方向において伸縮性が低いものであると定義する。
すなわち、身生地特定部位は、着用時の動き易さを邪魔しないだけの伸縮性を確保する必要があるだけでなく、本発明下衣1を履いたり脱いだりする際には、臀部Tの膨らみ等を容易に乗り越えさせる必要がある。ましてや尿吸収パッドを内張りしているときであればこの尿吸収パッドの厚みをも加味して臀部Tの膨らみ等を容易に乗り越えさせる必要があり、尿吸収パッドが尿を吸収して膨張するときを想定してこれを許容するゆとりも必要となる。
【0028】
このように身生地特定部位には、種々様々な状況を考慮することによって適正な伸縮性の範囲は自ずと定まっている。しかし、身生地特定部位では、本発明下衣1を引き上げる際に要求される破れ難さや過剰な伸びの抑制は出来ない。従って、この身生地特定部位を基準にして設定される掴み帯部7の低伸縮性については、わざわざ具体的数値を挙げずとも技術的に明確となり得る。なお、本発明において「低伸縮性の生地」には、非伸縮性の生地を含めるものとする。
【0029】
本実施形態では身頃本体5の全体として成型構造を採用しているため、この掴み帯部7は、身生地の他の部位を形成している生地(身生地特定部位など)とは異なる編組織を採用して形成しており、従って、身生地の他の部位との間に接着箇所や縫製箇所等は生じていない。
例えば、身生地特定部位などを形成している身生地を平編とした場合に、掴み帯部7は5回ウエルトと1回ニットを身丈方向へ繰り返したものを採用するといった具合である。使用する糸には、ウレタンを芯としナイロンをカバーとするSCYと綿糸とを用いることができ、この場合は、SCYが裏面(着用者Mの肌側へ向けられる面)に現れ、綿糸が表面に現れるようにプレーティング編することを挙例できる。
【0030】
言うまでもなく、ウエルト数などの具体的数値は何ら限定されるものではない。また平
編以外の編み組織(ゴム編など)を採用してもよい。使用する糸もDCYやベヤ糸など特に限定されるものではない。
なお、掴み帯部7において、着用者Mの腰回り方向については身生地の他の部位(身生地特定部位など)と同じように伸縮性を有したものとするのが好適であり、そのために前記の例では掴み帯部7に採用する編組織として平編を採用したものである。これにより、尿吸収パッドを内張りした後においても、本発明下衣1を履いたり脱いだりすることが容易となり、また着用時の動き易さを邪魔することがないようにできる。
【0031】
ただ、このように編組織の変更によって掴み帯部7を形成することは限定されない。例えば、身生地に対して、掴み帯部7を配置すべき位置に樹脂等を含浸又は塗布させることで、伸縮性を低下乃至ゼロにさせ、これによって掴み帯部7を形成させてもよい。樹脂等の含浸や塗布に代えて、該当領域に縫製を行ってもよい(別布を張り合わせてもよいが伸び難い糸を縫い付けるだけでもよい)。もとより、低伸縮性の別素材(樹脂シートや生地など)を少なくとも上下両端固定の状態で取り付けるようにしてもよい。
【0032】
このような掴み帯部7は、
図5に示すように、身頃本体5におけるウエスト部2の下端から着用者Mの上前腸骨棘Qに相当する部位まで達する長さhを確保するのが好適とされる。この長さhを確保することで、必然的に介護者や着用者M自身が本発明下衣1を掴み易く、また本発明下衣1を上げ下げし易い配置となる。場合によっては掴み帯部7は、その上端部をウエスト部2の下端とは非接触にすることも可能である。
【0033】
ここにおいて、「上前腸骨棘Q」は、骨盤において左右の位置で前方へ突出した骨であって、ズボンなどの下衣を着用する際には腰ベルトのずり落ちを防ぐためによく利用されている部位を言う。
ただ、掴み帯部7は長くするほど高い効果を期待できる。そのため掴み帯部7は、ウエスト部2と裾部3との間を接続する長さを有したものとするのが一層よい。
【0034】
なお、掴み帯部7の下端部を裾部3まで延ばす場合において、この掴み帯部7の下端部には、着用者Mの臀部T(特に
図4を参照)に生じている2つの膨らみ下縁に沿うようにしつつ、左右両外側から左右間中央へ向けて屈曲した後面持ち上げ部25を設けるのが好ましいとされる。
このような後面持ち上げ部25を設けることで、本発明下衣1を着用者Mに履かせる際に、裾部3をしっかりと上方へ追従させ、臀部Tの膨らみ下縁にフィットさせることができるようになる。また着用後においても、臀部Tや尿吸収パッドに対して、より一層確実なホールド効果が得られて尿吸収パッドの位置ズレやずり落ち等を確実に防止できる利点が得られる。
【0035】
一方、身頃本体5において、掴み帯部7を設けるべき周方向の配置は、着用者Mの左右両側とするのを原則としたうえで、好ましくは
図6に示すように、着用者Mの上前腸骨棘Qに相当させて、その前方を覆う(前方からの投影面内で重なる)ような配置とするのが好適である(上前腸骨棘Qの前方から外れるような配置とすることを排除するものではない)。
【0036】
このような配置とすることで、介護者や着用者M自らが本発明下衣1を引き上げるに際して、着用者Mの上前腸骨棘Qを乗り越えさせるときなどに頗る好都合となる。
前側緩和帯部8及び後側緩和帯部9は、掴み帯部7を形成している低伸縮性の生地に比べれば伸縮性が高いが、身頃本体5に用いられたその他の身生地(前記した身生地特定部位など)に比べて伸縮性が低い中伸縮性生地により形成されている。
【0037】
前側緩和帯部8と後側緩和帯部9とが、互いに同じ生地により形成されることは必ずしも必要ではない。また前側緩和帯部8を省略したり、後側緩和帯部9を省略したり、前側緩和帯部8及び後側緩和帯部9の両方を省略したりすることも可能である。
前側第二緩和帯部14及び後側第二緩和帯部15は、前側緩和帯部8や後側緩和帯部9を形成している中伸縮性生地に比べれば伸縮性が高いが、身頃本体5に用いられたその他の身生地(前記した身生地特定部位など)に比べて伸縮性が低い高伸縮性生地により形成されている。
【0038】
前側第二緩和帯部14と後側第二緩和帯部15とが、互いに同じ生地により形成される
ことは必ずしも必要ではない。また前側第二緩和帯部14を省略したり、後側第二緩和帯部15を省略したり、前側第二緩和帯部14及び後側第二緩和帯部15の両方を省略したりすることも可能である。
これら前側緩和帯部8及び後側緩和帯部9や、前側第二緩和帯部14及び後側第二緩和帯部15の配置は、掴み帯部7を基準にその前後に並行するように配置されるものであり、着用者Mとの位置関係は掴み帯部7を基準に自ずと設定されることになる。
【0039】
このような前側緩和帯部8及び後側緩和帯部9や、前側第二緩和帯部14及び後側第二緩和帯部15を設けることで、掴み帯部7から身生地特定部位へ向けて低伸縮性が徐々に緩和されるようになる(伸びやすい生地配置となっている)ので、身頃本体5の全体として捻れや皺の発生を防止できる利点がある。
また外観的に各部のつなぎ目が不鮮明となるので、周囲から強い違和感を受け難くなっている。そのため、着用者Mにとって、尿吸収パッドを使用していることなどを悟られるおそれが少なくなり、心理的な負担も軽減される。
【0040】
掴み帯部7の下端部に後面持ち上げ部25を設ける場合には、後側緩和帯部9や後側第二緩和帯部15の下端部にも同様の屈曲部を設けるのが好適である。
これらにより、後面持ち上げ部25によりもたらされる作用効果、すなわち、本発明下衣1を着用者Mに履かせる際に、裾部3をしっかりと上方へ引き上げることができる作用効果をはじめ、着用後に尿吸収パッドの位置ズレやずり落ち等を防止できる作用効果は、一層、有効性を増すことになる。また、臀部Tの膨らみを綺麗なシルエットとして保持できる効果もある。
【0041】
前面連結部10は、左右の掴み帯部7を上方へ引き上げた際に、身頃本体5の前面中央部でウエスト部2が下方へ大きく撓むことがないようにする作用を期待したところである。また同時に、この撓み防止作用が得られることを基礎にして、前側吊りベルト部20と股マチ18のマチ補強帯19と後側吊りベルト部21の三者によって身頃本体5の全体を吊り上げようとするのを支える作用をも含ませてある。この際、介護者が前面連結部10を掴むようにすることで、前側吊りベルト部20とマチ補強帯19と後側吊りベルト部21の三者を引き上げ易くする作用も期待される。
【0042】
これらの理由から、この前面連結部10は、前記した身生地特定部位に比べて伸縮性が低い生地によって形成されている。
なお、この前面連結部10をどの程度、伸縮性の低いものにするかは厳密に規定されるものではない。従って、掴み帯部7、前後の緩和帯部8,9、前後の第二緩和帯部14,11のいずれかと同じ生地により形成することができるし、それ以外の素材により形成することもできる。
【0043】
前側吊りベルト部20、マチ補強帯19及び後側吊りベルト部21による一連に連結された三者は、前記したように身頃本体5の全体に対して吊り上げ作用を生じさせるところである
殊に、後側吊りベルト部21を設けていることは、着用者Mの臀部Tについて二つの膨らみを明確に区画してその全体的なシルエットを綺麗に見せ掛けることができるという利点をも有している。
【0044】
これらの理由から、これら前側吊りベルト部20、マチ補強帯19、後側吊りベルト部21の三者についても、前記した身生地特定部位に比べて伸縮性が低い生地によって形成されている。
なお、これら前側吊りベルト部20、マチ補強帯19、後側吊りベルト部21の三者をどの程度、伸縮性の低いものにするかは厳密に規定されるものではない。従って、掴み帯部7、前後の緩和帯部8,9、前後の第二緩和帯部14,11のいずれかと同じ生地により形成することができるし、それ以外の素材により形成することもできる。ただ、三者間では伸縮性を揃えるように同じ素材を選択するのが好適である。
【0045】
次に、本発明下衣1を、介護者により着用者Mに履かせる場合を説明する。
まず介護者は、身頃本体5のウエスト部2及び左右の裾部3を着用者Mの脚へ通す。そして、
図2乃至
図4に示すように、介護者は左手で正面向かって左側の掴み帯部7を把持
すると共に、右手で正面向かって右側の掴み帯部7を把持して、身頃本体5を着用者Mの脚に沿って引き上げる。
【0046】
この身頃本体5の引き上げは、ウエスト部2が二点鎖線で示すように適正な着用位置(着用者Mの上前腸骨棘Qのすぐ上あたり)を超えて、それより高い位置まで到達するように掴み帯部7を引き上げて、股マチ18が着用者Mの股間に当接することを確認する必要がある。
この際、前側吊りベルト部20、マチ補強帯19及び後側吊りベルト部21が一連に連結されて着用者Mの股間を前後に通過するようになっていることが、股マチ18の吊り上げ作用を集中させるので、身頃本体5に対して仮に尿吸収パッドが内張りされていたとしても、この尿吸収パッドを着用者Mの股間に当接させることが容易且つ確実に行えるものとなる。
【0047】
必要に応じて、介護者は前面連結部10を掴んで前側吊りベルト部20、マチ補強帯19及び後側吊りベルト部21の三者を引き上げるようにしてもよい。
また、このとき掴み帯部7は、最も短い長さで形成されていたとしても(
図5の長さhのときでも)、着用者Mの上前腸骨棘Qに相当する部位を超えることができるように設定してあるので、介護者は着用者Mの上前腸骨棘Qを超える位置を把持することができるようになる。
【0048】
勿論、掴み帯部7は、破れることなく、また過剰な伸びも生じないので、身頃本体5の引き上げは容易且つ確実に行えるものとなる。
介護者は、股マチ18が着用者Mの股間に当接することを確認した後、左右の掴み帯部7を離して、ウエスト部2を適正な着用位置へ揃えるようにすればよい。
以上、詳説したところから明らかなように、本発明下衣1は、取っ手等が突出したものではないので、着用者M(要介護者)が着用したままでも就寝などの動きが拘束されることはない。また、取っ手等が突出していないので、仮に尿吸収パッドなどを使用していたとしてもそのことを周囲からは知られ難くなっており、着用者Mにとって着用時の心理的負担が生じない。
【0049】
更に、取っ手等が突出していないのでインナーとしての実施が可能である。
仮に尿吸収パッドなどを使用する場合であっても、掴み帯部7を把持することで着用者Mに履かせたり脱がせたりの着替えが至極容易に行えるものである。
ところで、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【0050】
本発明下衣1は、要は、身頃本体5の左右両側面に低伸長性の素材により形成された掴み帯部7が設けられていることを技術的思想の基本原理とするものであり、前後の緩和帯部8,9をはじめ、前後の吊りベルト部20,21などについては、適宜省略することも可能である。
従って例えば、身頃本体5は織地のカットソーにより形成されたものとしてもよい。
【0051】
なお、言うまでもなく、本発明下衣1は、着用者Mが自ら履いたり脱いだりする際にも掴み帯部7を有効に活用できるものであり、介護者による取り扱いが限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 掴み帯部付き下衣(本発明下衣)
2 ウエスト部
3 裾部
5 身頃本体
7 掴み帯部
8 緩和帯部(前側緩和帯部)
9 緩和帯部(後側緩和帯部)
10 前面連結部
11 緩和帯連結部
14 第二緩和帯部(前側第二緩和帯部)
15 第二緩和帯部(後側第二緩和帯部)
16 前面持ち上げ部
17 第二緩和帯連結部
18 股マチ
19 マチ補強帯
20 吊りベルト部(前側吊りベルト部)
21 吊りベルト部(後側吊りベルト部)
25 後面持ち上げ部
L 大腿部
M 着用者
Q 上前腸骨棘
T 臀部