(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】音風景構成装置、音風景構成方法、および音風景構成用データ構造
(51)【国際特許分類】
G10K 15/04 20060101AFI20220419BHJP
G06F 16/687 20190101ALI20220419BHJP
【FI】
G10K15/04 302F
G06F16/687
(21)【出願番号】P 2018019546
(22)【出願日】2018-02-06
【審査請求日】2020-10-07
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】赤井 良行
(72)【発明者】
【氏名】宇田 尚典
(72)【発明者】
【氏名】福原 千絵
【審査官】西村 純
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-508487(JP,A)
【文献】特開2006-268930(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00-31/00
G10K 15/00-15/12
G06F 16/60-16/687
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々所定の録音条件と関連付けられた複数の音ファイルを含む音風景構成用データ、および予め定められた対象物に関連する対象物情報が記憶された記憶手段と、
現在の環境情報を取得する取得手段と、
前記対象物への接近に伴い、前記録音条件、前記対象物情報、および前記環境情報に基づいて前記音風景構成用データから少なくとも1つの音ファイルを選択することにより音ファイル列を生成する生成手段と、
前記音ファイル列を再生する再生手段と、
を含み、
前記音風景構成用データは、各々前記対象物を想起させる分類語が付与された複数の音風景構成用データを含んで構成され、
前記生成手段は、前記対象物への接近に伴い、予め設定された前記分類語の組み合わせに従って、前記組み合わせに含まれる分類語が付与された前記音風景構成用データの各々から少なくとも1つの音ファイルを選択し、前記組み合わせに対応する音ファイルを前記音ファイル列として生成し、
前記再生手段は、前記組み合わせの順序に従って前記音ファイル列を再生する
音風景構成装置。
【請求項2】
前記記憶手段には、前記対象物からの距離に応じた複数の領域がさらに記憶され、
前記生成手段は、複数の音ファイルが含まれる前記音ファイル列を生成するとともに、前記複数の領域の各々と前記音ファイル列に含まれる複数の音ファイルの各々とを対応付けて前記音ファイル列を生成し、
前記再生手段は、前記対象物への接近に伴って、侵入した前記領域に対応する前記音ファイルを再生する
請求項1に記載の音風景構成装置。
【請求項3】
前記再生手段は、前記領域に侵入するつど、各々の領域に対応する前記音ファイルを重ねて再生する
請求項2に記載の音風景構成装置。
【請求項4】
前記再生手段は、前記対象物への接近に伴って、再生される前記音ファイルの音量を大きくする
請求項2または請求項3に記載の音風景構成装置。
【請求項5】
前記再生手段は、前記対象物からの離間に伴って、前記音ファイル列に含まれる複数の音ファイルを前記組み合わせの順序とは逆の順序で再生する
請求項2から請求項4のいずれか1項に記載の音風景構成装置。
【請求項6】
前記再生手段は、前記対象物からの離間に伴って、再生される前記音ファイルの音量を小さくする
請求項5に記載の音風景構成装置。
【請求項7】
前記録音条件は、前記複数の音ファイルの各々が録音された際の位置座標、年月日、季節、時刻、天候、および気温のうちの少なくとも1つであり、
前記環境情報は、現在の位置座標と、年月日、季節、時刻、天候、および気温のうちの少なくとも1つとを含み、
前記対象物情報は、前記対象物の位置座標、および種別である
請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の音風景構成装置。
【請求項8】
前記生成手段は、前記録音条件、前記対象物情報、および前記環境情報を用いて算出される前記対象物と前記音ファイルとの間の情報の距離によって前記音ファイル列を生成する
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の音風景構成装置。
【請求項9】
各々所定の録音条件と関連付けられた複数の音ファイルを含む音風景構成用データ、および予め定められた対象物に関連する対象物情報が記憶された記憶手段と、
現在の環境情報を取得する取得手段と、
前記対象物への接近に伴い、前記録音条件、前記対象物情報、および前記環境情報に基づいて前記音風景構成用データから少なくとも1つの音ファイルを選択することにより音ファイル列を生成する生成手段と、
前記音ファイル列を再生する再生手段と、
を含み、
前記記憶手段には、前記対象物からの距離に応じた複数の領域がさらに記憶され、
前記生成手段は、複数の音ファイルが含まれる前記音ファイル列を生成するとともに、前記複数の領域の各々と前記音ファイル列に含まれる複数の音ファイルの各々とを対応付けて前記音ファイル列を生成し、
前記再生手段は、前記対象物への接近に伴って、侵入した前記領域に対応する前記音ファイルを再生する
音風景構成装置。
【請求項10】
記憶手段に、各々所定の録音条件と関連付けられた複数の音ファイルを含む音風景構成用データ、および予め定められた対象物に関連する対象物情報を記憶させ、
取得手段により現在の環境情報を取得し、
生成手段により、前記対象物への接近に伴い、前記録音条件、前記対象物情報、および前記環境情報に基づいて前記音風景構成用データから少なくとも1つの音ファイルを選択することにより音ファイル列を生成し、
再生手段により前記音ファイル列を再生し、
前記音風景構成用データは、各々前記対象物を想起させる分類語が付与された複数の音風景構成用データを含んで構成され、
前記生成手段により、前記対象物への接近に伴い、予め設定された前記分類語の組み合わせに従って、前記組み合わせに含まれる分類語が付与された前記音風景構成用データの各々から少なくとも1つの音ファイルを選択し、前記組み合わせに対応する音ファイルを前記音ファイル列として生成し、
前記再生手段により、前記組み合わせの順序に従って前記音ファイル列を再生する
音風景構成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音風景構成装置、音風景構成方法、および音風景構成用データ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
音風景(Soundscape)とは、一般に、ある音源から物理的に伝わる音を、受け手である人が認知し評価することを通じ、環境と人とが一体化して生じる風景のことをいう。また、音風景構成装置(システム)は、そのような音情報を環境、あるいは位置情報と連動させて構成する装置(システム)をいう。近年、このようなシステムの実現が切望される場合もあるが、その背景には以下のような社会現象がある。すなわち、昔は乗り物の窓を開けることも多かったので、自然と音風景に接することができた。しかしながら、近年では乗り物の窓を開けることも少なくなり、音風景と接する機会も減少し、地域のイメージを想起しにくくなっているという社会現象である。
【0003】
位置情報と音情報とを結びつけたシステムとして、例えば特許文献1に開示された楽曲配信システムが知られている。特許文献1に開示された楽曲配信システムは、楽曲配信装置が、楽曲情報を所定の位置情報と関連付けて記憶し、携帯端末装置から楽曲情報の配信要求を受けた場合に、かかる携帯端末装置の位置情報と関連付けられた楽曲情報を記憶部に記憶された楽曲情報の中から選択して配信し、携帯端末装置が、位置情報を取得するとともに、取得した位置情報を含んだ配信要求を楽曲配信装置へ送信し、楽曲配信装置から配信された楽曲情報を車載装置に対して再生させるように構成されている。すなわち、特許文献1に開示された楽曲配信システムは、ユーザの所在地域に応じた楽曲を紹介するものである。
【0004】
さらに、特許文献2に開示された車載用音楽演奏装置も知られている。特許文献2に開示された車載用音楽演奏装置は、自動車の現在位置を検出し、この検出結果に基づいて現在位置の近くにある少なくとも1つの施設を抽出し、抽出された施設に関連するキーワードを抽出し、抽出されたキーワードに関連する音楽データを演奏する音楽データとして該音楽記憶手段から取得する構成となっている。すなわち、特許文献2に開示された車載用音楽演奏装置は、自動車の位置を特定し、その位置に適した音楽を選択可能としたシステムである。
【0005】
一方、位置情報と音情報とを結びつけたシステムはサービス分野でも一般的になりつつある。位置情報と音情報とを結びつけた代表的なシステムとしてナビゲーションシステムが知られている。また、音楽分野のシステムとして、非特許文献1に開示されたシステムも知られている。非特許文献1に開示されたシステムは、例えば海では海に関係のある曲というように、楽曲の特徴と周囲環境を結びつけるシステムである。さらに、観光分野のシステムとしては、非特許文献2に開示されたシステムが知られている。非特許文献2に開示されたシステムは、GPS(Global Positioning System)の位置情報を利用し、観光情報を音声により提供するサービスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5604153号公報
【文献】特開2007-265563号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】ミュージッククルーズチャンネル-パイオニア株式会社(http://pioneer.jp/carrozzeria/carnavi/cybernavi/avic-zh0999_line_avic-vh0999_line/av/)
【文献】観光音声ガイドサービス-富士ゼロックス株式会社(http://www.fujixerox.co.jp/product/catalog/pdf/audio_guide_service_1502_1.pdf)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上記のナビゲーションシステムにおける音情報の構成方法(サウンド構造)は、位置等の対象物の情報に基づき、「300」、「メートル先」、「○○交差点」、「右折」のような予め録音された短い音情報のデータ(以下、「サウンドファイル」)を組み合わせて文章を生成する方法である。また、特許文献1、2、非特許文献1に係るシステムでは、自動車の位置を特定し、該位置に適した音楽を選択している。非特許文献2に係るシステムでは、人等の位置を特定し、予め用意された観光情報を再生している。
【0009】
つまり、上記システムのうち、ナビゲーションシステムではリアルタイムで提示する情報(コンテンツ)を生成しているものの、その他のシステムでは付与された条件に応じて予め用意された、換言すればすでに完成されたサウンドファイルを選択し、再生しているだけである。ナビゲーションシステムにしても、生成されるサウンドファイルは基本的に音声による文章情報である。一方、本発明で想定する特定の地域を想起させるにふさわしい音風景の生成を目的とした場合、該特定の地域の情報をもとにサウンドファイルをリアルタイムでミキシング(混合)する必要がある。上記システムはこのような用途を意図したものではなく、このような用途には不向きである。
【0010】
また、上記先行技術におけるサウンドフィルは、いずれも専門家によって制作、管理されるのが一般的である。例えばセミの鳴き声のサウンドファイルを例にとると、同じような「音」でもセミの種類が違うことがある。さらに、生息域、季節、あるいは鳴く時間帯についてもそのセミに固有の特徴である場合がある。このような特徴の中には、専門家でなければ判別できない特徴である場合も多い。
【0011】
さらに、サウンドファイルには、目的とする音(例えばセミの鳴き声)以外に、フィールド(環境)のバックグラウンドノイズが録音される場合が多い。このようなバックグランドノイズは地域矛盾を生ずる可能性がある。「地域矛盾」とは、目的とする音とバックグランドノイズで想起される地域との間で生ずる矛盾をいう。例えば、あるセミの鳴き声録音した地域ではバックグランドノイズを含めて矛盾を生ずることはないが、セミの鳴き声に重畳される他の音のバックグラウンドノイズによって地域矛盾が発生する可能性もある。そのような理由から、サウンドファイルは専門家の検証を経てデータベース化する必要があった。
【0012】
これに対し、音風景は日常の環境音を主体に構成されるものであるから、音風景を生成するサウンドファイルは日常生活に根付いたものであることが好ましい。そのため、音風景構成装置で扱うサウンドファイルは、専門家でない一般の人を含む様々な人によって収集され、例えばクラウドのような開放された記憶領域にアップロードされるようなシステムも想定される。上記のような収集、分類に関して専門性を要する従来のサウンドファイル、あるいはその組み合わせでは、音風景を構成する場合にも専門家の介在が必要になり、きわめて柔軟性に乏しいシステムとなってしまう。
【0013】
従って、音風景構成装置では、多くの一般人によって収集された種々雑多な経緯の、音風景を構成するサウンドファイルの新規な収集、分類、管理構造(方法)が求められている。
【0014】
本発明は、上記諸問題に鑑みてなされたものであり、音データを容易に分類することができ、かつ分類された音データを組み合わせて特定の地域を表現する音風景を簡易に構成することが可能な音風景構成装置、音風景構成方法および音風景構成用データ構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る音風景構成装置は、各々所定の録音条件と関連付けられた複数の音ファイルを含む音風景構成用データ、および予め定められた対象物に関連する対象物情報が記憶された記憶手段と、現在の環境情報を取得する取得手段と、前記対象物への接近に伴い、前記録音条件、前記対象物情報、および前記環境情報に基づいて前記音風景構成用データから少なくとも1つの音ファイルを選択することにより音ファイル列を生成する生成手段と、前記音ファイル列を再生する再生手段と、を含み、前記音風景構成用データは、各々前記対象物を想起させる分類語が付与された複数の音風景構成用データを含んで構成され、前記生成手段は、前記対象物への接近に伴い、予め設定された前記分類語の組み合わせに従って、前記組み合わせに含まれる分類語が付与された前記音風景構成用データの各々から少なくとも1つの音ファイルを選択し、前記組み合わせに対応する音ファイルを前記音ファイル列として生成し、前記再生手段は、前記組み合わせの順序に従って前記音ファイル列を再生するものである。
【0016】
本発明に係る音風景構成方法は、記憶手段に、各々所定の録音条件と関連付けられた複数の音ファイルを含む音風景構成用データ、および予め定められた対象物に関連する対象物情報を記憶させ、取得手段により現在の環境情報を取得し、生成手段により、前記対象物への接近に伴い、前記録音条件、前記対象物情報、および前記環境情報に基づいて前記音風景構成用データから少なくとも1つの音ファイルを選択することにより音ファイル列を生成し、再生手段により前記音ファイル列を再生し、前記音風景構成用データは、各々前記対象物を想起させる分類語が付与された複数の音風景構成用データを含んで構成され、前記生成手段により、前記対象物への接近に伴い、予め設定された前記分類語の組み合わせに従って、前記組み合わせに含まれる分類語が付与された前記音風景構成用データの各々から少なくとも1つの音ファイルを選択し、前記組み合わせに対応する音ファイルを前記音ファイル列として生成し、前記再生手段により、前記組み合わせの順序に従って前記音ファイル列を再生するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、音データを容易に分類することができ、かつ分類された音データを組み合わせて特定の地域を表現する音風景を簡易に構成することが可能な音風景構成装置、音風景構成方法および音風景構成用データ構造を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施の形態に係る音風景構成装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態に係る音風景構成装置の動作を説明するため図である。
【
図3】実施の形態に係る音風景構成処理プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】実施の形態に係る、(a)はサウンドファイルの収集について、(b)はサウンドファイルの分類、保管、管理について説明するための図である。
【
図5】実施の形態に係るイベントの制作について説明するための図である。
【
図6】実施の形態に係る情報の距離について説明するための図である。
【
図7】実施の形態に係る情報の距離に基づくサウンドファイルの選択について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0021】
図1から
図7を参照して、本実施の形態に係る音風景構成装置、音風景構成方法、および音風景構成用データ構造について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係る音風景構成装置10は、一例としてCPU(Central Processing Unit)12、ROM(Read Only Memory)14、RAM(Random Access Memory)16、GPS18、記憶部20、表示部22、入力部24、およびスピーカ26を含んで構成され、これらの構成部位はBUS(バス)28によって相互に接続されている。音風景構成装置10を構成するハードウエアとしては、例えばカーナビ、携帯端末等が挙げられる。
【0022】
CPU12は、音風景構成装置10の全体を統括、制御し、ROM14は、音風景構成装置10の制御プログラムや、後述する音風景構成処理プログラム等を予め記憶する記憶手段であり、RAM16は、制御プログラム等のプログラムの実行時のワークエリア等として用いられる記憶手段である。
【0023】
GPS18は、地上における現在位置を測定するための衛星測位システムである。例えば、車両に音風景構成装置10が搭載されている場合、GPS18によって該車両の地図上の位置を取得することができる。
【0024】
記憶部20は、本実施の形態に係る音風景構成装置10で用いる音風景構成用データ構造や、地図情報等を格納するための部位である。記憶部20の形態に特に制限はないが、一例としてHDD(Hard Disk Drive)、フラッシュメモリ等を用いることができる。
【0025】
表示部22は、音風景構成装置10に付随する画像、例えば地図情報、後述するランドマーク等を表示する部位である。表示部22の形態に制限はないが、例えば、液晶モニタ等が用いられる。
【0026】
入力部24は、音風景構成装置10のオン、オフや、動作モードの選択等を行う部位である。入力部24に特に制限はないが、例えば表示部22と一体に構成されたタッチパネルが用いられる。なお、本実施の形態に係る「動作モード」とは、後述する音風景構成処理において「ストーリー」を設定モード、設定しないモード等をいう。
【0027】
スピーカ26は、音風景構成装置10によって構成された音風景を聴覚化する部位である。
【0028】
次に、
図2を参照して、音風景構成装置10の動作について説明する。
図2(a)は、音風景構成装置10を搭載した車両50が、道路Rを走行している状態を示している。
図2(a)に示す図は、実際の車両50の走行の模式図と考えてもよいし、表示部22に表示される画像と考えてもよい。
【0029】
音風景構成装置10が起動されている場合は、
図2(a)に示すように、音風景構成装置10は常時(あるいは、間欠的に)車両50の位置座標や速度等の音風景の構成に必要なデータを収集している。位置座標は例えばGPS18から取得される。一方、音風景構成装置10は、地図上の予め定められた範囲(以下、「地域」)において、予め定められたその地域を特徴づける建造物等の指標(以下、「ランドマーク」)の位置座標等も把握している。地図上の各地域には、地域の区画等の情報の他に該地域に関する情報(以下、「地域情報」)が関連付けられており、本実施の形態では一例としてランドマークを地域情報としている。すなわち、各地域には1つまたは複数のランドマークが関連付けられている。
【0030】
図2(a)に示す例では、ある地域のランドマークAとランドマークBの位置座標が取得されている例を示している。
図2(a)では、2つのランドマークを例示しているが、地域に関連付けられるランドマークの数は1つであっても3つ以上であってもよい。各地域に関連する情報である、各地域の位置座標、地域情報としてのランドマークの位置座標、種別(用途等)は記憶部20等の記憶手段に記憶されている。なお、上記地域情報(ランドマーク)が本発明に係る「対象物」に相当し、地域情報(ランドマーク)の位置座標、種別が本発明に係る「対象物情報」に相当する。
【0031】
次に、本実施の形態に係るイベントについて説明する。本実施の形態において、「イベント」とは、予め定められた手順に則り、本実施の形態に係る音風景構成装置10で生成されたサウンドファイルをさす。一方、ランドマークの各々には1つまたは複数の「地点P」が関連付けられている。本実施の形態において「地点P」とは、ランドマークから一定の距離の領域をいう。地点Pは、例えば
図2(a)に示すように、ランドマークAを中心とする予め定められた半径(または直径)の円の領域で定義される。
図2(a)に示すランドマークAには、地点P1、地点1より半径の小さい地点P2、地点P2より半径の小さい地点P3が関連付けられている。換言すれば、地点PはランドマークAに近づくに従って、地点P1、地点P2、地点P3と変化する。そして、本実施の形態に係る音風景構成装置10では、地点Pごとに再生されるイベントが異なるように構成されている。ここで、各ランドマークに関連付けられるイベントの数は1つまたは複数であってよく、また、各ランドマークごとに関連付けられたイベントの数が異なってもよい。なお、特定のランドマークと関連付けられたイベントの集合が本発明に係る「音ファイル列」に相当する。
【0032】
以下、ランドマークAを例示して、本実施の形態に係る音風景構成装置10の動作について説明する。音風景構成装置10はランドマークの情報およびユーザの位置情報によって再生されるイベントを変えている。音風景構成装置10は、GPS18を用いて車両50とランドマークAとの距離を算出している。車両50が道路Rを走行してランドマークAに近づき、地点P1内の領域に侵入すると、音風景構成装置10はイベント1を生成、再生する。すなわち、音風景構成装置10は、ランドマークA(ランドマークAが存在する地域)に関連付けられた(ランドマークAを想起させる)イベント1を生成、再生する。車両50がランドマークAにさらに近づき、地点P2に侵入すると音風景構成装置10はイベント2を生成、再生し、地点P3に侵入するとイベント3を生成、再生する。この際、車両50がランドマークAから遠ざかるにつれて再生されるイベントが逆をたどり、地点P3でイベント3からイベント2に切り替え、地点P2でイベント2からイベント1に切り替え、地点P1でイベント1の再生を停止させるようにしてもよい。
【0033】
図2(a)の例では車両50のランドマークAへの接近に伴って再生するイベントを変える形態を例示したが、これに限られず、例えばランドマークへの接近に伴ってさらに音量を変える形態としてもよい。
図2(b)は、ランドマーク40への接近に伴って、生成、再生するイベントを変えるとともに音量も変える形態を例示している。すなわち、
図2(b)に示す例ではランドマーク40からの距離が200mの地点が地点P1とされ、ランドマーク40からの距離が150mの地点が地点P2とされ、ランドマーク40からの距離が100mの地点が地点P3とされ、ランドマーク40からの距離が50mの地点が地点P4とされている。そして、地点P1を境にイベント1が生成、再生され、地点P2を境にイベント2が生成、再生され、地点P3を境にイベント3が生成、再生され、地点P4を境にイベント4が生成、再生される。その際、地点P1から地点P4に向けて徐々に音量が大きくなっている。車両50がランドマーク40から遠ざかる場合にはイベント4 → イベント3 → イベント2 → イベント1と遷移させ、音量も徐々に小さくなるように構成してもよい。
【0034】
ここで、イベントの具体例について述べる。音風景構成装置10は、車両50のおかれた現在の環境の客観的な情報(環境情報)によって、異なるイベントを生成し、再生する。本実施の形態において、「環境情報」とは、車両50等の現在の位置座標、年月日、季節、時刻、天候、気温等の情報をさす。つまり、例えば、
図2(b)の例では、地点P1に侵入した時点でイベント1が生成されるが、生成されるイベント1は、季節(年月日)、時刻、天候等によって異なる。このことによって、冬にセミが鳴くというような矛盾(環境矛盾)の発生を抑制される。
図2(b)の例では、一例として、地点P1に侵入するとイベント1としての「風」の音が生成され、スピーカ26で再生される。次に地点P2に侵入するとイベント2としての「子供の遊び声」の音が生成され、スピーカ26で再生される。さらに地点P3に侵入するとイベント3としての「セミの鳴き声」の音が生成され、スピーカ26で再生される。イベント4についても同様にサウンドファイルが生成、再生される。
【0035】
さらに本実施の形態に係る音風景構成装置10では、イベント1~イベント4を順次重畳させて再生してもよい。つまり、
図2(b)に示す例では、車両50の地点P1への侵入によって「風」の音がする。車両50の地点P2への侵入によって「子供の遊び声」がするが、同時に「風」の音もしている。さらに、車両50の地点P3への侵入によって「セミの鳴き声」が加わるが、同時に「風」、「子供の遊び声」の音もしている。つまり、地点P3への侵入によって、「風」+「子供の遊び声」+「セミの鳴き声」の音がする。
この重畳された音は、例えば「夏の公園」をイメージ(想起)させる音となっているので、ランドマーク40が公園のような施設である場合に特に有効である。このように重畳(多重化)することにより、その地域の特徴がより強調された音風景になると考えられる。
この場合も、ランドマーク40から遠ざかるにつれて、「風」+「子供の遊び声」+「セミの鳴き声」(イベント3)の音 → 「風」+「子供の遊び声」(イベント2)の音、「風」(イベント1)の音と順次変化するように構成してもよい。
【0036】
ここで、車両50がランドマーク40の近くを通過する場合、例えば
図2(b)の例では地点P1、P2へ侵入したのち、地点P3に至る前に地点P1に戻ったような場合には、それに応じてイベントを再生する。つまり、
図2(b)の例では、地点P1への侵入によりイベント1を再生し、地点P2への侵入によりイベント2を再生するが、地点P3に至る前に地点P1に戻ったのでイベント3は再生されず、イベント1が再生される。
【0037】
次に、
図3を参照して、本実施の形態に係る音風景構成方法について説明する。
図3は、音風景を構成する音風景構成処理プログラムの流れを示すフローチャートである。
図3に示す音風景構成処理プログラムは、入力部24等を介して実行開始の指示がなされると、CPU12がROM14等の記憶手段から本音風景構成処理プログラムを読み込み、RAM16等の記憶手段に展開して実行する。本実施の形態では、地図情報と連携された地域情報が予め作成され、記憶部20等の記憶手段に格納されている。なお、
図3に示す例では、地域情報に関連付けられたランドマークが2つの場合を例示している。
【0038】
ここで、本実施の形態では、本音風景構成処理プログラムをROM12等に予め記憶させておく形態としているが、これに限られない。例えば、本音風景構成処理プログラムがコンピュータにより読み取り可能な可搬型の記憶媒体に記憶された状態で提供される形態、あるいは、音風景構成装置10に備えられた図示しないネットワークインタフェース等による通信手段を介して配信される形態等を適用してもよい。
【0039】
図3を参照して、まずステップS100で地域情報、すなわちランドマークの情報を取得する。本実施の形態に係るランドマークの情報は、該ランドマークの位置座標、種別等をいう。
【0040】
次のステップS102で、ステップS100で取得された地域情報の地域の外に出たか否かを判定する。当該判定が肯定判定となった場合にはステップS100に戻り、再度地域情報を取得する。一方、当該判定が否定判定となった場合には、次のステップS104に移行する。
【0041】
ステップS104では、接近中のランドマークがあるか否か判定する。当該判定が否定判定となった場合にはステップS102に戻り、肯定判定となった場合には次のステップS106に移行する。
【0042】
ステップS106では、ステップS104で接近中と判定したランドマークの地点1に侵入したか否か判定する。当該判定が否定判定となった場合にはステップS102に戻り、肯定判定となった場合には次のステップS108に移行する。
【0043】
ステップS108では、地点1に対応付けられたイベント1を生成し、再生し、次のステップS110に移行する。イベント1の生成に際しては、各サウンドファイルに付随する後述のメタ情報、上記した対象物情報、および現在の環境情報を考慮して生成する。
【0044】
ステップS110では、地点1の領域外へ出たか否か判定する。当該判定が肯定判定となった場合にはステップS102に戻り、否定判定となった場合には次のステップS112に移行する。
【0045】
ステップS112では、ランドマークの地点2に侵入したか否か判定する。当該判定が否定判定となった場合にはステップS102に戻り、肯定判定となった場合には次のステップS114に移行する。
【0046】
ステップS114では、地点2に対応付けられたイベント2を生成し、再生し、次のステップS116に移行する。イベント2の生成に際しては、各サウンドファイルに付随する後述のメタ情報、上記した対象物情報、および現在の環境情報を考慮して生成する。
【0047】
ステップS116では、地点2の領域外へ出たか否か判定する。当該判定が肯定判定となった場合にはステップS102に戻り、否定判定となった場合にはステップS114に戻ってイベント2の再生を継続する。なお、本音風景構成処理プログラムは、例えば入力部24から実行停止の指示がなされた場合に終了する。また、イベントの数が3つ以上である場合は、イベントの数に応じてステップS106~S110(ステップS112~S116)を増やせばよい。
【0048】
次に、
図4および
図5を参照して、本実施の形態に係るイベントの制作方法について説明する。
【0049】
本実施の形態に係る音風景構成装置10を構成するためには、まず、サウンドファイルを収集し、分類し、音風景構成装置10に適したデータ構造(以下、「音風景構成用データ構造」)に変換して保管、管理する必要がある。
【0050】
上述したように、音風景構成装置10のサウンドファイルは極めて日常的な音環境構成音であり、従って、多数の専門家でない一般の人によってサウンドファイルが収集されることが好ましい。
図4(a)は、本実施の形態に係るサウンドファイルの収集を概念的に示した図である。すなわち、さまざまな人々によって音が録音される(<1>)。この際のデータ形式としては例えばmp3が用いられるが、このデータ形式は統一化されていることが好ましい。録音された音は収集され、サウンドファイルとしてクラウドのような記憶媒体に記憶される(<2>)。収集されたサウンドファイルは後述する分類方法によって分類される(<3>)。分類され、保管管理されたサウンドファイルを組み合わせて、音風景構成装置10がイベントを生成する(<4>)。生成されたイベントは、予め定められた条件が充足された場合にスピーカ26等を介して再生される(<5>)。
【0051】
図4(b)を参照して、本実施の形態に係るサウンドファイルの分類、保管、管理について説明する。本実施の形態では、客観的録音条件(以下、「メタ情報」ともいう)と関連付けられた音データを、予め定められた対象物(=「ランドマーク」)を想起させる分類語(以下、「タグ」ともいう)が付与されたファイルごとに分類する。メタ情報とは、録音された際の位置座標(ランドマークからの距離でもよい)、録音の長さ、年月日(季節)、時刻、天候、気温等の客観的な情報をいう。位置情報は例えばGPS18によって取得され、天候、気温等は例えば図示しないネットワークインタフェース等を介してインターネットサイトから取得される。また「タグ」とは、鳥、犬、電車等の平易なキーワード、主観的なキーワードであり、本実施の形態ではあまり厳密性は要求されない。なお、上記メタ情報が本発明に係る「録音条件」に相当する。
【0052】
タグが付与されたサウンドファイルは、基本的にランドマークごとに作成する。しかしながら、ランドマークはその地域を代表する指標であり、構成する音風景はその地域独自の音風景である。換言すれば、共通のサウンドファイルを用いた他のランドマークを後から自由に追加できる。ランドマークに対応付けられたサウンドファイルが上述のイベントである。
【0053】
図4(b)は、音風景構成用データ30の一例を示している。音風景構成用データ30では、タグの一例として、「鳥」、「虫」、「風」を含んでいる。例えば「鳥」をタグとする音風景構成用データ30には、鳥の鳴き声などが含まれる複数のサウンドファイルが含まれている。複数のサウンドファイルの各々には録音された際の位置情報、時間情報、天候情報等がメタ情報として付与されている。そして、音風景構成用データ30の中のサウンドファイルは特定のランドマーク40と関連付けられて記憶部20等の記憶手段に格納される。一方ランドマーク40の各々には1つまたは複数の地点Pが対応付けられているので、サウンドファイルはさらに地点Pに関連付けられる。対応付けられるサウンドファイルは地点ごとに複数であってもよい。換言すると、ランドマーク40の各々には、地点Pごとに1つまたは複数のサウンドファイルが対応付けられている。
【0054】
一方、イベントを生成、再生する際には、
図4(b)に示すように、車両50が侵入した地域の情報(環境情報)が勘案される。すなわち、上述したように、車両50が侵入した地域が判別された場合、次にランドマークが判別される。むろん、この際地域を判別することなく直接ランドマークを判別してもよい。他方、車両50が侵入した際、現在の時間情報、ランドマークの位置情報、天候等の環境情報が取得される。音風景構成装置10は、メタ情報、対象物情報、および環境情報に基づいて地点Pごとに関連付けられたサウンドファイルから適したものを選択し、再生する。つまりこの場合の音風景構成処理は、上述したように、
図3に示すステップS108(S114)でイベント1(イベント2)を生成する際、現在の環境情報を加味して予め定められたサウンドファイルの中から選択して生成するようにする。
【0055】
次に、
図5を参照して、本実施の形態に係る「ストーリー」について説明する。本実施の形態において「ストーリー」とは、実際のランドマークへの接近に伴ってイベントを生成、再生する際の音風景の構成ルールをいう。より具体的には、「鳥」-「風」-「虫」のような、予め定められたタグ(分類語)の組み合わせをいう。また、ストーリーを構成するタグには各々地点Pが対応付けられている。例えば、
図2(b)の例におけるストーリーは、イベント1に対応付けられたタグ「風」、イベント2に関連付けられたタグ「子供の遊び声」、イベント3に対応付けられたタグ「セミの鳴き声」から構成されている。
【0056】
そして、音風景構成装置10は、車両50がランドマーク40へ接近し、地点P1に到達した場合に、タグ「風」が付与された音風景構成用データ30から「風」のサウンドファイルを選択する。この際、上述したように、音風景構成装置10は、実際に車両50が走行している際の天候等の環境情報を加味してサウンドファイルを選択する。例えば「セミの鳴き声」を選択する場合、天候が晴れであれば大きく明瞭なセミの鳴き声を選択し、雨であれば低く、くぐもったセミの鳴き声を選択する。むろんいずれのセミの鳴き声も実際に録音されたサウンドファイルである。なお、ストーリー作成におけるタグ(分類語)が、本発明に係る「記述語」に相当する。
【0057】
本実施の形態に係るストーリーの設定主体としては、例えば当該地域に精通している地方自治体が挙げられる。ストーリーは設定主体によって各ランドマークに関連付けられる。ここで、ストーリーは必ずしも設定する必要はなく、設定しない場合は、メタ情報、環境情報、対象物情報に基づいて、タグを除いた音風景構成用データ30の集合(後述のデータベース32)の中からサウンドファイルを選択する。なお、ストーリーの設定されたランドマークと、設定されていないランドマークとが混在してもよい。
【0058】
図5は上述した内容を手順図としてまとめた図である。
図5における<1>はサウンドファイルの収集の手順、<2>はストーリー作成の手順、<3>は再生の手順を各々している。
【0059】
<1>に示すように、手順T1でサウンドファイルを録音する。このサウンドファイルの収集はさまざまな人々によって行われ、クラウド等の記憶媒体に自由に格納される。
【0060】
収集されたサウンドファイルは、手順T2、T3でメタ情報(客観的録音条件)と関連付けられる。上述したように、本実施の形態に係るメタ情報は、録音された際の位置座標(ランドマークからの距離)、録音の長さ、年月日(季節)、時刻、天候、気温等の情報である。天候情報は、位置情報、録音日時等を元にして、例えばインターネットサイト等から取得される。
【0061】
手順T4では、サウンドファイルの各々をカテゴリに分類する、すなわちサウンドファイルの各々にタグを付与する。以上の手順によって、
図5<4>に示すデータベース32が構成される。本実施の形態に係るデータベース32は、音風景構成用データ30の集合体(
図5の例では、音風景構成用データ30-1、30-2、30-3の3つの場合を例示している)である。
図2(b)に適用して具体的に説明すると、音風景構成用データ30-1には「風」のサウンドファイルが含まれ、音風景構成用データ30-2には「子供の遊び声」のサウンドファイルが含まれ、音風景構成用データ30-3には「セミの鳴き声」のサウンドファイルが含まれる。
【0062】
一方、
図5<2>に示す手順T5では、ランドマークの各々にストーリーを設定する。
手順T6では、設定したストーリーに基づいて、サウンドファイルのカテゴリ(分類語またはタグ)と、タグに基づいてイベントを構成した場合の順序を設定する。
図2(b)に示す例では、「風」のサウンドファイル、「子供の遊び声」のサウンドファイル、「セミの鳴き声」のサウンドファイルの順序が設定される。
【0063】
図5<3>に示す手順T7では、サウンドファイルの選択が行われる。すなわち、実際に車両50が走行している際の天候等の環境情報を勘案して、音風景構成用データ30-1、30-2、30-3の各々から選択されるサウンドファイルを決定する。手順8では、車両50のランドマーク40への接近に伴い、ランドマーク40からの距離に応じて手順7で決定されたサウンドファイルを再生する。
【0064】
次に、
図6および
図7を参照して、本実施の形態に係る「情報の距離」について説明する。本実施の形態でいう「情報の距離」とは、一例としてクラスタ分析などによって求められたランドマークとサウンドファイルとの間の距離をいう。クラスタ分析とは、一般に、複数の対象(物、変数等)を、その属性によって類似度をはかり、均質な集団に分類する手法である。
【0065】
本実施の形態に係る音風景構成方法では、イベントを生成、再生する条件として「情報の距離」を用いる場合がある。上述の説明では、理解の容易さから、イベントの切替条件をランドマーク40からの距離とした形態を例示して説明した。しかしながら、これに限られず、ランドマーク40を起点とする情報の距離によってイベントを切り替える構成としてもよい。この場合、上記のメタ情報およびタグが、予め定められた対象物(ランドマーク)との間の「情報の距離」を計算する上でのパラメータの一部になる。
【0066】
より具体的には、情報の距離では、実距離、天候、気温、時刻等を総合的に見てデータの類似性を図る。情報の距離を用いてサウンドファイルの選択を行うことにより、より実際の環境に即した音風景を構成することができる。
【0067】
図6(a)はランドマーク40とサウンドファイルA、B、C、D、Eの各々との間のクラスター分析等によって求められた情報の距離の一例を、
図6(b)はランドマーク40とサウンドファイルA、B、C、D、Eの各々が録音された位置との実距離の一例を、各々示している。
図6(a)では情報の距離をツリーで表しており、この枝の長さの合計が長いほど情報の距離が長くなり、関連性が薄くなる。つまり、サウンドファイルB、A、C、DまたはEの順で情報の距離は長くなる。一方、
図6(b)によれば、ランドマーク40との実距離は、サウンドファイルD、E、B、A、Cの順に長くなる。従って、実距離に基づく選択ではサウンドファイルDが選択されるが、情報の距離に基づく選択ではサウンドファイルBが選択される。
【0068】
図7を参照して、情報の距離の適用例について説明する。
図7は、ランドマーク40-1が登録されている地域の道路Rを車両50が走行している状態を示している。車両50の現在の位置Xはランドマーク40-1の地点1の領域内にあるとし、地点1のサウンドファイルとして、録音ポイントAで録音されたサウンドファイルA、および録音ポイントBで録音されたサウンドファイルBが関連付けられているとする。そして、録音ポイントAは録音ポイントBよりもランドマーク40-1に近いとする。さらに、車両50の地点Xにおける環境情報は、年月=10月8日、時刻=12時29分、天候=晴れであり、サウンドファイルAが録音された際のメタ情報は、年月=12月8日、時刻=23時29分、天候=雨であり、サウンドファイルBが録音された際のメタ情報は、年月=10月3日、時刻=11時29分、天候=晴れであるとする。
【0069】
この場合、ランドマーク40-1からより近いポイントで録音されたサウンドファイルはサウンドファイルAである。しかしながら、メタ情報、特に天候を加味すると、同じ晴れであるサウンドファイルBを選択すべきである。つまり、時刻、天候等の情報から分析して実距離よりも情報の距離でサウンドファイルを選択する方が合理的である場合がある。すなわち、情報の距離を用いることによって、より現実に即した音風景を構成することができる。
【0070】
ここで、録音ポイントとサウンドファイルとの距離は、データの重みづけで変えることもできる。また、過去のデータから天候などを参照しデータの重みを変え特定の条件を設定することで、過去の風景に近いであろう音のイベントを構築することもできる。さらに、例えばランドマーク40-2のように新規にランドマークを設定しても、すでにあるサウンドファイルから最も近いものを選択できるため、任意の場所に音のイベント(音風景)を構成することができる。また、情報の距離の判断基準を変えることによって、選択されるサウンドファイルを変更することもできる。
【0071】
以上、詳述したように、本実施の形態に係る音風景構成装置、音風景構成方法、および音風景構成用データ構造によれば、音データを容易に分類することができ、かつ分類された音データを組み合わせて特定の地域を表現する音風景を簡易に構成することが可能な音風景構成装置、音風景構成方法および音風景構成用データ構造を提供することができる。
【0072】
さらに、本実施の形態によれば、現在の場所の状態(環境)に近い環境、もしくは設定した条件(過去の日時など)に近い条件のサウンドファイルを選択するためのデータ構造、あるいは予め定められた音のイベントのシナリオに、現在の場所の環境に近い環境、もしくは設定した条件で録音されたサウンドファイルを効率的に割り当てるためのデータ構造が構成される。そのため、一般の人を含むさまざまな人によってアップロードされたサウンドファイルから、専門家でなくとも簡易に、かつインタラクティブにサウンドファイルを収集、分類、管理することができ、現在の場所の環境、もしくは設定した条件に応じて自動的にサウンドファイルを組み合わせてイベントを発生させ、地域のイメージを想起さる音風景を構成することができる。その際、イベントを構成するサウンドファイルの選択において、対象となるランドマークの位置情報と近い場所で録音された音を選択すれば地域矛盾を解消することもできる。また、録音された際の時刻、天候等の情報によってふるい分けることにより、生態などの整合性も確保できる。
【0073】
さらに、本実施の形態では、時刻、天候、季節等の環境情報とタグ情報を元に音風景を構成するため、現実とは異なる環境情報を設定することで、本実施の形態に係る音風景構成装置、音風景構成方法、および音風景構成用データ構造を、音風景によるエンターテインメントに適用することも可能である。
【0074】
また、上記実施の形態では、ストーリーを構成するサウンドファイルが複数である形態を例示して説明したが、これに限られず、ストーリーを構成するサウンドファイルは1つであってもよい。
【符号の説明】
【0075】
10 音風景構成装置
12 CPU
14 ROM
16 RAM
18 GPS
20 記憶部
22 表示部
24 入力部
26 スピーカ
28 BUS
30 音風景構成用データ
32 データベース
40 ランドマーク
50 車両
A、B ランドマーク
P、P1~P4 地点
R 道路