(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】透明誘電性フィルム、静電容量式タッチパネル及びフレキシブルディスプレイ
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20220419BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20220419BHJP
G06F 3/044 20060101ALI20220419BHJP
H01B 3/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C08J5/18 CER
C08J5/18 CEZ
G06F3/041 400
G06F3/041 490
G06F3/044 Z
H01B3/00 A
(21)【出願番号】P 2015106489
(22)【出願日】2015-05-26
【審査請求日】2018-03-16
【審判番号】
【審判請求日】2020-08-21
(73)【特許権者】
【識別番号】501426046
【氏名又は名称】エルジー ディスプレイ カンパニー リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 治
(72)【発明者】
【氏名】戸木田 雅利
【合議体】
【審判長】加藤 友也
【審判官】植前 充司
【審判官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-106129(JP,A)
【文献】国際公開第2005/108451(WO,A1)
【文献】特開2014-203151(JP,A)
【文献】特開2011-162718(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/18
G06F3/041
H01B3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子が前記高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列されていることを特徴とする透明誘電性フィルムであって、
前記透明誘電性フィルムは1μm~250μmの厚さを有する自立性フィルムとして形成され、
前記高誘電体微粒子は30以上の比誘電率を持ち、
前記高誘電体微粒子の体積含有率が2体積%~30体積%であり、
前記高分子グラフト鎖のグラフト密度が
、0.1本鎖/nm
2以上であり
、
前記高誘電体微粒子の平均粒子径が100nm以下であることを特徴とする、透明誘電性フィルム。
【請求項2】
前記高誘電体微粒子が、BaTiO
3微粒子、TiO
2微粒子及びZrO
2微粒子からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の透明誘電性フィルム。
【請求項3】
周波数1kHzにおける比誘電率が4以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の透明誘電性フィルム。
【請求項4】
550nmにおける光透過率が80%以上であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルム。
【請求項5】
前記高分子グラフト鎖が、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、スチレン誘導体、酢酸ビニル及びアクリルニトリルから選択される1種以上の化合物のリビングラジカル重合によって形成されることを特徴とする請求項1~
4のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルム。
【請求項6】
互いに隣接する前記高誘電体微粒子の前記高分子グラフト鎖間に化学結合が形成されていることを特徴とする請求項1~
5のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルム。
【請求項7】
前記高分子グラフト鎖と前記高誘電体微粒子とは、以下の式(1)または式(2)で表される連結部を介して結合され、
【化1】
【化2】
ここで、R2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり、mは2~10の整数であり、nは3~10の整数であり、
前記連結部において、(A)のうちの少なくとも1つは前記高誘電体微粒子と結合され、(B)は前記高分子グラフト鎖が結合される、請求項1~
6のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルム。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルムを製造する製造方法であって、
前記透明誘電性フィルム
を、前記高誘電体微粒子の濃度が1質量%~10質量%の範囲の分散液を用いて形成
する
、透明誘電性フィルム
の製造方法。
【請求項9】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルムを有することを特徴とする静電容量式タッチパネル。
【請求項10】
請求項1~
7のいずれか一項に記載の透明誘電性フィルムを有することを特徴とするフレキシブルディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明誘電性フィルム、静電容量式タッチパネル及びフレキシブルディスプレイに関する。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、テレビ、携帯電話機、携帯情報端末などに使用される各種ディスプレイにおいて広く用いられている。タッチパネルの方式としては、抵抗膜式、静電容量式などが知られているが、特に、マルチ入力が容易に可能である静電容量式タッチパネルに注目が集まっている。
従来、静電容量式タッチパネルが装備されたディスプレイでは、静電容量式タッチパネルの上面(タッチ面側)に配置されるカバー材として、透明性が高いと共に、誘電率が高く、感度に優れているという理由から、一般に、化学強化ガラスが用いられてきた。しかしながら、化学強化ガラスは高価であるため、ディスプレイの製造コストが上昇するという問題がある。一方、化学強化ガラスは、十分な柔軟性を有していないため、静電容量式タッチパネルを備えたフレキシブルディスプレイのカバー材として用いることができない。また、タッチパネルの電極からタッチ面までの間に配置された部材の誘電率がタッチ感度に影響を与えるため、一般的な誘電率を有する樹脂フィルムをカバー材として用いると、タッチパネルの感度が低下するという問題が生じる。さらに、同様の理由のため、タッチパネルの基板のうちタッチパネルの電極とタッチ面との間に位置する基板として、一般的な誘電率を有する樹脂フィルムを用いる場合にも、タッチパネルの感度が低下するという問題が生じる。そこで、タッチパネルの基板又はフレキシブルディスプレイのカバー材として、チタン酸バリウムなどの高誘電体微粒子を樹脂フィルム中に含有させた透明誘電性フィルムを用いることが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、高誘電体微粒子は、樹脂フィルム中に均一に分散させることが難しい。例えば、高誘電体微粒子を含有する樹脂フィルムは、高誘電体微粒子を含む樹脂材料をフィルム状に成形することによって製造されるところ、高誘電体微粒子が樹脂材料中で凝集及び/又は沈殿することがあるため、高誘電体微粒子が均一に分散した樹脂フィルムを得ることが難しい。そして、樹脂フィルム中の高誘電体微粒子の凝集は、樹脂フィルムが白濁する原因となるため、樹脂フィルムの透明性が十分に確保されない。
【0005】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、誘電率が高く且つ透明性に優れた透明誘電性フィルムを提供することを目的とする。また、本発明は、当該特性を有する透明誘電性フィルムを備える静電容量式タッチパネル及びフレキシブルディスプレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子を、高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列させることにより、上記の問題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子が前記高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列されていることを特徴とする透明誘電性フィルムである。
また、本発明は、前記透明誘電性フィルムを有することを特徴とする静電容量式タッチパネル及びフレキシブルディスプレイである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、誘電率が高く且つ透明性に優れた透明誘電性フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、当該特性を有する透明誘電性フィルムを備える静電容量式タッチパネル及びフレキシブルディスプレイを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1及び2、並びに比較例1で得られた自立性フィルムの可視領域における光透過率の測定結果である。
【
図2】実施例1及び2、並びに比較例1で得られた自立性フィルムの比誘電率の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の透明誘電性フィルムは、高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子が、高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列されていることを特徴とする。
ここで、本明細書において「高分子グラフト鎖」とは、高誘電体微粒子表面から重合反応によって伸長して形成された鎖長が2個以上のポリマー鎖を意味し、ポリマーブラシとも称される。
【0010】
本明細書において「高誘電体微粒子」とは、比誘電率が10以上、好ましくは20以上、さらに好ましくは30以上の誘電体粒子のことを意味する。高誘電体微粒子の例としては、BaTiO3(チタン酸バリウム)微粒子(比誘電率1200)、TiO2(二酸化チタン)微粒子(比誘電率100)、ZrO2(酸化ジルコニウム)微粒子(比誘電率30)などが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でも、透明誘電性フィルムの誘電率の観点から、BaTiO3微粒子が好ましい。
【0011】
本明細書において「微粒子」とは、1μm以下の平均粒子径を有する粒子のことを意味し、微粒子の「平均粒子径」とは、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した50%累積粒径のことを意味する。
高誘電体微粒子は、平均粒子径が小さくなるほど、透明誘電性フィルムの透明性を向上させることができる一方、粒子自体の誘電率が低下する。そのため、高誘電体微粒子の平均粒子径は、好ましくは1nm~500nm、より好ましくは2nm~100nm、さらに好ましくは3nm~50nm、最も好ましくは4nm~30nmである。
【0012】
高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子は、リビングラジカル重合による表面グラフト重合法によって形成することができる。この方法を用いることにより、鎖長及び鎖長分布が規制された高分子グラフト鎖を高密度で高誘電体微粒子の表面に形成することができる。高誘電体微粒子の表面近傍では、高分子グラフト鎖は、隣接する高分子グラフト鎖間の立体反発により、高誘電体微粒子の表面に対して垂直な方向に伸長した状態(濃厚ポリマーブラシ状態)となる。高誘電体微粒子の表面からある程度離れると、高分子グラフト鎖間の立体反発が緩和されるため、高分子グラフト鎖は、濃厚ポリマーブラシ状態に比べて伸張度合が低い状態(準希薄ポリマーブラシ状態)となる。濃厚ポリマーブラシ状態では、高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm2以上、好ましくは0.1~1.2本鎖/nm2となり、準希薄ポリマーブラシ状態では、高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm2未満、好ましくは0.01本鎖/nm2以上0.1本鎖/nm2未満となる。
【0013】
なお、高分子グラフト鎖のグラフト密度は、当該技術分野において公知の方法に準じて算出することができる。具体的には、元素分析によって高誘電体微粒子にグラフトされた高分子グラフト鎖の量(グラフト量)を求め、そのグラフト量と、高誘電体微粒子の比重及び表面積と、高分子グラフト鎖の数平均分子量を用いることにより、高分子グラフト鎖のグラフト密度を算出することができる。
【0014】
高誘電体微粒子に形成される高分子グラフト鎖は、濃厚ブラシ状態のみを有していること、すなわち、高分子グラフト鎖のグラフト密度が0.1本鎖/nm2以上であることが好ましい。濃厚ブラシ状態のみの高分子グラフト鎖を有する微粒子を用いることにより、形成される透明誘電性フィルムの耐熱性などの特性を向上させることができる。濃厚ブラシ状態のみの高分子グラフト鎖は、重合度を調整することによって得ることができる。
【0015】
ここで、本明細書において「リビングラジカル重合」とは、ラジカル重合反応において、連鎖移動反応及び停止反応が実質的に起こらず、ラジカル重合性モノマーが反応し尽くした後も連鎖成長末端が活性を保持する重合反応を意味する。この重合反応では、重合反応終了後でも生成重合体の末端に重合活性を保持しており、ラジカル重合性モノマーを加えると再び重合反応を開始させることができる。また、リビングラジカル重合は、ラジカル重合性モノマーと重合開始剤との濃度比を調節することにより、任意の平均分子量をもつ重合体の合成ができ、そして、生成する重合体の分子量分布が極めて狭いなどの特徴がある。
【0016】
本発明に用いられるリビングラジカル重合の代表例は、原子移動ラジカル重合(ATRP)である。例えば、原子移動ラジカル重合を行う場合、重合開始剤を高誘電体微粒子の表面に固定した後、ハロゲン化銅/リガンド錯体を用いてラジカル重合性モノマーの原子移動ラジカル重合を行うことにより、高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子を得ることができる。
【0017】
重合開始剤を高誘電体微粒子の表面に固定する方法としては、特に限定されず、例えば、高誘電体微粒子と重合開始剤とを接触させればよい。
本発明に用いられる重合開始剤としては、高誘電体微粒子の表面に固定することが可能なものであれば特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。本発明において用いるのに好ましい重合開始剤としては、末端にハロゲンを有する化合物であり、例えば、下記の一般式(1)又は(2)で表される化合物を用いることができる。
【0018】
【0019】
【0020】
一般式(1)及び(2)中、R1はそれぞれ独立してC1~C3のアルキル基、好ましくはメチル基又はエチル基であり;R2はそれぞれ独立してメチル基又はエチル基であり;Xはハロゲン原子、好ましくはBrであり;mは2~10、好ましくは3~8の整数であり;nは3~10の整数、好ましくは4~8の整数である。一般式(1)の化合物の具体例としては、2-ブロモ-2-メチル-N-(3-トリエトキシシリル)プロピル)プロパンアミド(BPA)などが挙げられ、一般式(2)の化合物の具体例としては(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)などが挙げられる。
【0021】
リビングラジカル重合に用いられるラジカル重合性モノマーは、有機ラジカルの存在下でラジカル重合を行い得る不飽和結合を有するものであり、例えば、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、スチレン誘導体、酢酸ビニル及びアクリロニトリルなどが挙げられる。具体的には、メチルメタクリレート(MMA)、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレートなどのメタクリレート系モノマー;メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、ブトキシエチルアクリレート、メトキシテトラエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレート、ジエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチルアクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどのアクリレート系モノマー;スチレン、o-、m-、p-メトキシスチレン、o-、m-、p-t-ブトキシスチレン、o-、m-、p-クロロメチルスチレン、プロピオン酸ビニル、ビニルメチルケトン、ビニルヘキシルケトン、メチルイソプロペニルケトン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルピロール、N-ビニルカルバゾール、N-ビニルインドール、アクリロニトリル、メタアクリロニトリル、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メタクリルアミド、塩化ビニル、塩化ビニリデン、テトラクロロエチレン、ヘキサクロロプレン、フッ化ビニルなどを用いることができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるハロゲン化銅としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。ハロゲン化銅の例としては、CuBr、CuCl、CuIなどが挙げられる。
ハロゲン化銅/リガンド錯体を与えるリガンド化合物としては、特に限定されることはなく、リビングラジカル重合で一般的に公知のものを使用することができる。リガンド化合物の例としては、トリフェニルホスファン、4,4’-ジノニル-2,2’-ジピリジン(dNbipy)、N,N,N’,N’N”-ペンタメチルジエチレントリアミン(PMDETA)、1,1,4,7,10,10-ヘキサメチルトリエチレンテトラアミンなどが挙げられる。
【0023】
高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子の製造にあたり、使用する高誘電体微粒子、重合開始剤、ラジカル重合性モノマー、ハロゲン化銅、リガンド化合物の量は、それらの種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。また、製造条件も、使用する原料の種類などに応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0024】
なお、リビングラジカル重合は、無溶媒で行ってもよいが、リビングラジカル重合で一般的に使用される溶媒を使用してもよい。使用可能な溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、アニソール、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メトキシエタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどの有機溶媒、水などが挙げられる。溶媒の量は、使用する原料の種類に応じて適宜調節すればよく、特に限定されない。
【0025】
リビングラジカル重合によって形成される高分子グラフト鎖の分子量は、反応温度、反応時間、使用する原料の種類や量によって調整可能であるが、一般的に数平均分子量が500~1,000,000、好ましくは1,000~500,000、重量平均分子量が1,000~2,000,000、好ましくは2,000~1,000,000である。また、高分子グラフト鎖の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、1.05~2.80、好ましくは1.20~2.50である。
【0026】
本発明の透明誘電性フィルムは、上記のような特徴を有する高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子を、高分子グラフト鎖を介して2次元又は3次元に配列させた構造を有する。
また、本発明の透明誘電性フィルムは、自立性フィルムとして形成することができる。ここで、本明細書において「自立性フィルム」とは、支持体を用いることなく、単独で形状を十分に保持することが可能なフィルムを意味する。
【0027】
本発明の透明誘電性フィルムは、当該技術分野において公知の方法を用いて製造することができる。例えば、溶媒キャスト法を用いる場合、高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子を溶媒に分散させ、その分散液を基板上に塗布して溶媒を蒸発させることで透明誘電性フィルムを形成した後、形成された透明誘電性フィルムを基板から剥離することによって製造することができる。
【0028】
高誘電体微粒子を溶媒に分散させた分散液を塗布する基板としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。基板の例としては、ガラス板、ステンレス板、ステンレスベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが用いられる。これらの基板には、透明誘電性フィルムの剥離性を向上させるために、必要に応じて鏡面加工や表面離型剤処理などを施してもよい。
【0029】
高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子を分散させる溶媒としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。溶媒の例としては、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル;トルエン;アニソール;水などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0030】
分散液中の高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子の濃度としては、特に限定されないが、一般に0.1~30質量%、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは1~10質量%である。
【0031】
基板に対する分散液の塗布量としては、透明誘電性フィルムが使用される用途に応じて適宜調整すればよく、特に限定されない。また、所望の厚さの透明誘電性フィルムを得るために、分散液の塗布及び溶媒の蒸発を複数回行ってもよい。フレキシブルディスプレイのカバー材に適した透明誘電性フィルムの厚さは、一般に0.1μm~500μm、好ましくは0.5μm~300μm、より好ましくは1μm~250μmである。透明誘電性フィルムの厚さが0.1μmよりも薄いと、カバー材として使用可能な機械的強度が得られないことがある。一方、透明誘電性フィルムの厚さが500μmを超えると、透明誘電性フィルムの柔軟性及び透明性が損なわれることがある。また、透明誘電性フィルムの厚さは、キャスト法によって得られた透明誘電性フィルムを積層し、加熱、加圧して一体化することで調整することも可能である。
【0032】
また、分散液を蒸発させる際の条件については、特に限定されず、分散液に使用する溶媒の種類に応じて適宜調節すればよい。一般的には、溶媒の沸点よりも高い温度に加熱すればよい。
【0033】
上記のようにして製造される本発明の透明誘電性フィルムは、高分子グラフト鎖が形成された高誘電体微粒子を用いているため、透明誘電性フィルム中で高誘電体微粒子が凝集などすることなく均一に分散しており、誘電率が高いだけでなく透明性にも優れている。
【0034】
本発明の透明誘電性フィルムにおける高誘電体微粒子の体積含有率は、特に限定されないが、好ましくは2体積%~30体積%、より好ましくは3体積%~20体積%、さらに好ましくは4体積%~15体積%、最も好ましくは5体積%~12体積%である。ここで、本明細書において「高誘電体微粒子の体積含有率」とは、TGA(熱重量測定)によって算出された高誘電体微粒子の体積分率のことを意味する。具体的には、透明誘電体フィルムを10℃/分で450℃まで昇温し、450℃における残渣量から高誘電体微粒子の体積分率を求めることができる。
【0035】
本発明の透明誘電性フィルムは、互いに隣接する高誘電体微粒子の高分子グラフト鎖間に化学結合が形成されていてもよい。例えば、リビングラジカル重合に用いるラジカル重合性モノマーとして、光又は熱などの外部刺激によって架橋又は重合する官能基を側鎖に導入したモノマーを用い、自立性フィルムに光又は熱などの外部刺激を与えることで、互いに隣接する微粒子の高分子グラフト鎖間に化学結合を形成することができる。これにより、透明誘電性フィルムの機械的特性を向上させることができる。
【0036】
本発明の透明誘電性フィルムは、周波数1kHzにおける比誘電率(25℃)が3.5以上、好ましくは4.0以上である。比誘電率は、市販の比誘電率測定装置によって測定することができる。
【0037】
本発明の透明誘電性フィルムは、可視領域(波長400nm~800nm)における光透過率の平均値が80%以上である。特に、本発明の透明誘電性フィルムは、550nmにおける光透過率が80%以上、好ましくは85%以上である。ここで、本明細書において「光透過率」とは、厚さ100μmの透明誘電性フィルムを光が透過する割合のことを意味し、数値が大きいほど透明度が高いことを示す。光透過率は、市販の光透過率測定装置によって測定することができる。
【0038】
本発明の透明誘電性フィルムは、誘電率が高く且つ透明性に優れているため、静電容量式タッチパネルを備えた各種ディスプレイのカバー材として用いることができる。特に、本発明の透明誘電性フィルムは、柔軟性にも優れているため、静電容量式タッチパネルを備えたフレキシブルディスプレイのカバー材として適用することもできる。また、本発明の透明誘電性フィルムは、静電容量式タッチパネルの基材として適用することもできる。さらに、本発明の透明誘電性フィルムは、本出願人らによって2014年10月17日に出願された日本国特許出願第2014-212174号に記載されているように、耐熱性、表面硬度にも優れ、リタデーション値も小さいため、フレキシブルディスプレイに用いられる基板としても用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明の詳細を説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
平均粒子径が7nmのチタン酸バリウム(BaTiO3)微粒子の2-メトキシエタノール分散液(日揮触媒化成株式会社製、BaTiO3微粒子の含有量8質量%)15.5gにアンモニア水1.5mLを加え、40℃で15分攪拌した。次に、この混合液に、2-メトキシエタノール2.0gに溶解した重合開始剤(BPA)1.00gをゆっくり滴下し、40℃で18時間攪拌した。次に、この混合液からエバポレータを用いて溶媒を除去した後、水を少量加え、4500rpmで10分間、遠心分離を行うことにより、BPAが表面に固定されたBaTiO3微粒子(以下、「BPA-BaTiO3微粒子」と略す。)を得た。
【0040】
次に、BPA-BaTiO3微粒子204.9mgに、MMA500mg、DMF6.00g、PMDETA33.7mgを加え、ホモジナイザーを用いて氷浴下で攪拌した。次に、この混合液を2口フラスコに入れて凍結融解法により3回脱気した後、CuBr24.6mgを加えて窒素置換を行い、70℃で1時間重合反応を行った。反応終了後、混合液をバブリングしてCuを失活させた。次に、混合液をTHFに溶解し、メタノール/0.1MのEDTA水溶液の混合溶液(体積比20/1)で再沈殿を行い、4500rpmで10分間、遠心分離を行った。再沈殿及び遠心分離を3回繰り返した後、80℃で一晩、真空乾燥させることにより、PMMA鎖が形成されたBaTiO3微粒子(以下、「PMMA-BaTiO3微粒子」と略す。)を得た。
【0041】
上記で得られたPMMA-BaTiO3微粒子をフッ酸に浸漬し、BaTiO3微粒子を溶解させることによって分離したPMMA(高分子グラフト鎖)の分子量を、GPC測定装置(日本分光株式会社製LC-2000plus)を用いて評価した。標準試料にはポリスチレンを用い、検出器にはUV検出器を用いた。その結果、数平均分子量が39,500、重量平均分子量(Mw)が92,000であった。
また、PMMA-BaTiO3微粒子のグラフト密度を当該技術分野において公知の方法に準じて算出した結果、0.18本鎖/nm2であった。
【0042】
次に、アニソールを溶媒として用い、1質量%のPMMA-BaTiO3微粒子を含む分散液を調製した。次に、この分散液を室温にて基板上に塗布した後、真空下にて80℃で乾燥させることにより、厚さが100μmの自立性フィルムを得た。
得られた自立性フィルムは、直径6mmの棒に巻き付けることが可能であり、十分な柔軟性を有していることが確認された。また、自立性フィルムについて、BaTiO3微粒子の体積含有率をTGA(熱重量測定)によって算出した結果、BaTiO3微粒子の体積含有率は10.0体積%であった。また、自立性フィルムについて、小角X線散乱(SAXS)測定及び走査型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果、PMMA-BaTiO3微粒子は凝集などしておらず、均一に分散していることが確認された。
【0043】
(実施例2)
重合条件として、BPA-BaTiO3微粒子とMMAの混合比率(質量比)を1:10となるように調整し、重合時間を3時間に変えたこと以外は、実施例1と同様にしてPMMA-BaTiO3微粒子を作製して自立性フィルムを得た。
上記で得られたPMMA-BaTiO3微粒子について、PMMA(高分子グラフト鎖)の分子量を実施例1と同様にして評価した結果、数平均分子量が38,700、重量平均分子量(Mw)が61,800であった。
また、PMMA-BaTiO3微粒子のグラフト密度を当該技術分野において公知の方法に準じて算出した結果、0.43本鎖/nm2であった。
【0044】
次に、アニソールを溶媒として用い、1質量%のPMMA-BaTiO3微粒子を含む分散液を調製した。次に、この分散液を室温にて基板上に塗布した後、真空下にて80℃で乾燥させることにより、厚さが100μmの自立性フィルムを得た。
得られた自立性フィルムは、直径6mmの棒に巻き付けることが可能であり、十分な柔軟性を有していることが確認された。また、自立性フィルムについて、BaTiO3微粒子の体積含有率をTGA(熱重量測定)によって算出した結果、BaTiO3微粒子の体積含有率は4.7体積%であった。また、自立性フィルムについて、小角X線散乱(SAXS)測定及び走査型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果、PMMA-BaTiO3微粒子は凝集などしておらず、均一に分散していることが確認された。
【0045】
(実施例3)
重合条件として、BPA-BaTiO3微粒子とMMAの混合比率(質量比)を1:4となるように調整し、重合時間を3時間に変えたこと以外は、実施例1と同様にしてPMMA-BaTiO3微粒子を作製して自立性フィルムを得た。
上記で得られたPMMA-BaTiO3微粒子について、PMMA(高分子グラフト鎖)の分子量を実施例1と同様にして評価した結果、数平均分子量が125,000、重量平均分子量(Mw)が159,100であった。
また、PMMA-BaTiO3微粒子のグラフト密度を当該技術分野において公知の方法に準じて算出した結果、0.10本鎖/nm2であった。
【0046】
次に、アニソールを溶媒として用い、1質量%のPMMA-BaTiO3微粒子を含む分散液を調製した。次に、この分散液を室温にて基板上に塗布した後、真空下にて80℃で乾燥させることにより、厚さが100μmの自立性フィルムを得た。
得られた自立性フィルムは、直径6mmの棒に巻き付けることが可能であり、十分な柔軟性を有していることが確認された。また、自立性フィルムについて、BaTiO3微粒子の体積含有率をTGA(熱重量測定)によって算出した結果、BaTiO3微粒子の体積含有率は6.2体積%であった。また、自立性フィルムについて、小角X線散乱(SAXS)測定及び走査型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果、PMMA-BaTiO3微粒子は凝集などしておらず、均一に分散していることが確認された。
【0047】
(実施例4)
重合条件として、BPA-BaTiO3微粒子とMMAの混合比率(質量比)を1:4となるように調整し、重合時間を20時間に変えたこと以外は、実施例1と同様にしてPMMA-BaTiO3微粒子を作製して自立性フィルムを得た。
上記で得られたPMMA-BaTiO3微粒子について、PMMA(高分子グラフト鎖)の分子量を実施例1と同様にして評価した結果、数平均分子量が64,900、重量平均分子量(Mw)が100,700であった。
また、PMMA-BaTiO3微粒子のグラフト密度を当該技術分野において公知の方法に準じて算出した結果、0.13本鎖/nm2であった。
【0048】
次に、アニソールを溶媒として用い、1質量%のPMMA-BaTiO3微粒子を含む分散液を調製した。次に、この分散液を室温にて基板上に塗布した後、真空下にて80℃で乾燥させることにより、厚さが100μmの自立性フィルムを得た。
得られた自立性フィルムは、直径6mmの棒に巻き付けることが可能であり、十分な柔軟性を有していることが確認された。また、自立性フィルムについて、BaTiO3微粒子の体積含有率をTGA(熱重量測定)によって算出した結果、BaTiO3微粒子の体積含有率は9.1体積%であった。また、自立性フィルムについて、小角X線散乱(SAXS)測定及び走査型電子顕微鏡(TEM)観察を行った結果、PMMA-BaTiO3微粒子は凝集などしておらず、均一に分散していることが確認された。
【0049】
(比較例1)
比較例1では、BaTiO3微粒子を含有しないPMMAのみからなる厚さ100μmの自立性フィルムを作製した。
得られた自立性フィルムは、直径6mmの棒に巻き付けることが可能であり、十分な柔軟性を有していることが確認された。
【0050】
次に、実施例1及び2、並びに比較例1で得られた自立性フィルムについて、株式会社島津製作所製V-570を用いて可視領域における光透過率を測定した。その結果を
図1に示す。
また、実施例1及び2、並びに比較例1で得られた自立性フィルムについて、株式会社東陽テクニカ製SH2-Zサンプルホルダーを接続したSolatron 1255Bインピーダンスアナライザーを用いて25℃にて比誘電率を測定した。その結果を
図2に示す。
【0051】
図1に示されているように、実施例1及び2の自立性フィルムは、可視領域における光透過率の平均値が80%以上であり、十分な透明性を有することが確認された。その中でも実施例1の自立性フィルムは、550nmにおける光透過率が85%以上であり、透明性が特に優れていることが確認された。
また、
図2に示されているように、実施例1及び2の自立性フィルムは、比較例1の自立性フィルムに比べて誘電率が高いことが確認された。その中でも実施例1の自立性フィルムは、周波数1kHzにおける比誘電率が4.0以上と高く、誘電率が特に高いことが確認された。
【0052】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、誘電率が高く且つ透明性に優れた透明誘電性フィルムを提供することができる。また、本発明によれば、当該特性を有する透明誘電性フィルムを備える静電容量式タッチパネル及びフレキシブルディスプレイを提供することができる。