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特許7059583エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、および電力需給計画最適化プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、および電力需給計画最適化プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20220419BHJP
   H02J 3/32 20060101ALI20220419BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20220419BHJP
   H02J 7/35 20060101ALI20220419BHJP
   G06Q 50/06 20120101ALI20220419BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/32
H02J3/38 120
H02J3/00 130
H02J3/00 180
H02J7/35 K
G06Q50/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017223103
(22)【出願日】2017-11-20
(65)【公開番号】P2019097267
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2020-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】小熊 祐司
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-304402(JP,A)
【文献】特開2015-037355(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-1787538(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 3/32
H02J 3/38
H02J 7/35
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対するエネルギーマネジメントシステムであって、 所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測部と、
前記予測部による予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性を考慮して最適化する最適化部とを有し、
前記最適化部は、最適化により、前記一定時間毎に、充放電の予実差のうち前記エネルギー貯蔵装置の充放電において補償すべき割合を示す予実差補償計画を導くエネルギーマネジメントシステム。
【請求項2】
電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対するエネルギーマネジメントシステムであって、
所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測部と、
前記予測部による予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性と、電力需要および再生可能エネルギー発電電力の前記少なくとも一方の実際の値と前記予測結果との間の予実差のうちどれほどの割合を前記エネルギー貯蔵装置の充放電で補償するか、を考慮して最適化する最適化部と、
を有するエネルギーマネジメントシステム。
【請求項3】
前記最適化部は、最適化により、前記一定時間毎に、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電電力を示す前記充放電計画を導く、
請求項1又は2記載のエネルギーマネジメントシステム。
【請求項4】
電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対する、コンピュータによる電力需給計画最適化方法であって、
所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測ステップと、
前記予測ステップによる予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性を考慮して最適化する最適化ステップとを有し、
前記最適化ステップでは、最適化により、前記一定時間毎に、充放電の予実差のうち前記エネルギー貯蔵装置の充放電において補償すべき割合を示す予実差補償計画を導く電力需給計画最適化方法。
【請求項5】
電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対して、コンピュータに、
所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測ステップと、
前記予測ステップによる予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性を考慮して最適化する最適化ステップとを実行させ、
前記最適化ステップでは、最適化により、前記一定時間毎に、充放電の予実差のうち前記エネルギー貯蔵装置の充放電において補償すべき割合を示す予実差補償計画を導く電力需給計画最適化プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、および電力需給計画最適化プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光発電や水力発電などの再生可能エネルギー発電システムの普及に伴い、蓄電池などのエネルギー貯蔵装置を適切に制御することによって、電源系統の安定化を図ったり、電力の供給にかかるコストを削減したりするための研究がなされている。例えば、マイクログリッドに対する、エネルギーマネジメントシステム(EMS)によるエネルギー貯蔵装置の充放電計画の最適化に関する研究分野において、現時点から特定の将来の時点までの期間を複数の一定期間に小分けし、当該一定期間ごとの、負荷の電力需要および再生可能エネルギーの発電量をそれぞれ予測し、エネルギー貯蔵装置の出力や容量、逆潮の可否、および契約電力などを制約条件としたうえで、電力料金の差額などに基づいてマイクログリッドの一定期間ごとの運転コストが最小となるような充放電計画を、数理最適化手法を用いて求める方法が数多く提案されている。
【0003】
しかしながら、電力需要や再生可能エネルギー発電量を正確に予測することが、そもそも困難であることが一般に知られている。とくに再生可能エネルギーは、発電量が気象条件から多大な影響を受ける、不確実性が極めて高い電源である。例えば、太陽光発電では、太陽に少し雲が差し掛かっただけであっても発電量は大きく変化する。
これらの予測の不確実性によって、必ずしも、数理最適化手法によって得られた充放電計画が示す充放電を実行することが、マイクログリッドの運転コストを最小化することに繋がるとは限らない。予測の不確実性により、場合によっては、エネルギー貯蔵装置の充電残量の枯渇、および契約電力の超過などの、制約条件における違反が発生する可能性もある。それゆえ、予測の不確実性を考慮した上で、確実に制約条件を遵守することができ、かつ、マイクログリッドの運転コストが低くなるような、充放電計画の最適化手法の開発が求められている。
【0004】
予測の不確実性を考慮してエネルギー貯蔵装置の運転計画を策定する従来の技術として、例えば、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載の分散型エネルギーシステムは、予測が的中するケースのほか、予測が途中で一定以上逸脱する予測逸脱ケースを予め複数想定しておく。そして、特許文献1に記載の分散型エネルギーシステムは、予測逸脱ケースが発生する度に、予測逸脱ケース発生時以降の制御動作シミュレーションを行って運転コストを評価し、各ケースの運転コストの加重和(各ケースの発生確率の重み)が最小となるように運転計画を定める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4245583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、予測逸脱ケースが発生する度にシミュレーションを行う必要があることから、シミュレーションの実行に多くの計算時間を要するという課題がある。例えば、天候が変わりやすい日には、エネルギー貯蔵装置の運転計画の修正が頻繁に発生し、その都度シミュレーションが行われるため、多大な計算時間を要することになる。また、エネルギー貯蔵装置の運転計画の修正が頻繁に発生した場合、シミュレーションの実行が天候の変化の速さに追い付かなくなり、運転計画の修正が困難になることがある。これにより、特許文献1に記載の技術では、負荷の電力需要や再生可能エネルギーの発電量が急変したような場合に対して、電力の充放電を最適に追従させることができないという課題がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、より短い計算時間で予測の不確実性を考慮した運転計画の策定を行うことができる、エネルギーマネジメントシステム、電力需給計画最適化方法、および電力需給計画最適化プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のエネルギーマネジメントシステムは、電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対するエネルギーマネジメントシステムであって、所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測部と、前記予測部による予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性を考慮して最適化する最適化部と、を有する。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記のエネルギーマネジメントシステムであって、前記最適化部は、最適化により、前記一定時間毎に、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電電力を示す前記充放電計画を導く。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記のエネルギーマネジメントシステムであって、前記最適化部は、最適化により、前記一定時間毎に、充放電の予実差のうち前記エネルギー貯蔵装置の充放電において補償すべき割合を示す予実差補償計画を導く。
【0011】
また、本発明の電力需給計画最適化方法は、電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対する、コンピュータによる電力需給計画最適化方法であって、所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測ステップと、前記予測ステップによる予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性を考慮して最適化する最適化ステップと、を有する。
【0012】
また、本発明の電力需給計画最適化プログラムは、電力負荷および再生可能エネルギー発電システムの少なくとも一方と、エネルギー貯蔵装置と、を備えるマイクログリッドに対して、コンピュータに、所定期間内における電力需要および再生可能エネルギー発電電力の少なくとも一方と、電力料金とを、一定時間毎に予測する予測ステップと、前記予測ステップによる予測結果を用いて、前記エネルギー貯蔵装置の最適な充放電計画を予測の不確実性を考慮して最適化する最適化ステップと、を実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、より短い計算時間で予測の不確実性を考慮した運転計画の策定を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態によるマイクログリッドの全体構成を示すシステム構成図である。
図2】本発明の一実施形態によるエネルギーマネジメントシステムの動作を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態によるマイクログリッド内電力と記号との対応関係を示す図である。
図4】本発明の一実施形態によるエネルギーマネジメントシステムによる充放電計画最適化結果(電力の推移)を示す図である。
図5】本発明の一実施形態によるエネルギーマネジメントシステムによる充放電計画最適化結果(充電残量の推移)を示す図である。
図6】本発明の一実施形態によるエネルギーマネジメントシステムによる充放電計画最適化結果(補償割合の推移)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<実施形態>
以下、本発明の一実施形態によるマイクログリッドについて説明する。
【0016】
[マイクログリッドの全体構成]
以下、本実施形態によるマイクログリッド1の全体構成について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態によるマイクログリッドの全体構成を示すシステム構成図である。図1に図示するように、マイクログリッド1は、エネルギーマネジメントシステム10と、少なくとも1つ以上のエネルギー貯蔵装置20(例えば、蓄電池など)と、少なくとも併せて1つ以上の負荷30(電力負荷)および再生可能エネルギー発電システム40と、を備えている。なお、説明を簡単にするため、以下、エネルギー貯蔵装置20と、負荷30と、再生可能エネルギー発電システム40と、がそれぞれ1つずつマイクログリッド1に備えられているものとして説明する。
【0017】
ここで言うエネルギーマネジメントシステム10とは、マイクログリッド1の運転コストを最小化するような、エネルギー貯蔵装置20の充放電計画を導くためのシステムである。
【0018】
図1に図示するように、エネルギーマネジメントシステム10が管理対象とするマイクログリッド1は、外部系統2と接続している。また、マイクログリッド1内のエネルギー貯蔵装置20は、インバータ21を通じて交流電力網に接続されている。また、マイクログリッド1内の負荷は交流電力網に接続されている。また、マイクログリッド1内の再生可能エネルギー発電システム40は、パワーコンディショナ41を通じて交流電力網に接続されている。
【0019】
図1に図示するように、エネルギーマネジメントシステム10は、充放電計画最適化部11と、データベース12とにより構成されている。また、充放電計画最適化部11は、予測部111と、最適化部112と、により構成されている。
なお、充放電計画最適化部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit;中央演算処理装置)などのプロセッサを含んで構成される。
【0020】
エネルギーマネジメントシステム10は、マイクログリッド1内の電力計50-1から、再生可能エネルギー発電システム40の発電電力を示す情報を受信する。また、エネルギーマネジメントシステム10は、電力計50-2から、負荷の電力需要を示す情報を受信する。また、エネルギーマネジメントシステム10は、電力計50-4から、エネルギー貯蔵装置20の充放電電力を情報として受信するほか、エネルギー貯蔵装置20のSOC(State of Charge;充電状態)を情報として受信する。
なお、エネルギーマネジメントシステム10は、外部のシステムから、電気料金に関する情報や、天気予報に関する情報などを受信可能である。
【0021】
エネルギーマネジメントシステム10が受信した、上記の各種情報は、データベース12に蓄積され、充放電計画最適化のための計算において必要に応じて利用される。エネルギーマネジメントシステム10は、エネルギー貯蔵装置20の充放電計画の最適化を行い、充放電計画および予実差補償計画(後に詳しく説明する)を、予測正味電力需要とあわせてエネルギー貯蔵装置20へ送信する。
【0022】
なお、データベース12は、例えば、HDD(Hard Disk Drive;ハードディスクドライブ)、フラッシュメモリ、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read Only Memory;イーイーピーロム)、RAM(Random Access read/write Memory;読み書き可能なメモリ)、ROM(Read Only Memory;読み出し専用メモリ)などの記憶媒体、またはこれらの記憶媒体の任意の組み合わせによって構成される。
【0023】
また、図1に図示するように、マイクログリッド1には、負荷30からの負荷と再生可能エネルギー発電システム40からの再生可能エネルギーとの合流地点に、電力計50-3が備えられている。電力計50-3により、正味の電力需要が測定される。エネルギー貯蔵装置20は、計測された(実際の)正味電力需要を参照することができ、当該正味電力需要とエネルギーマネジメントシステム10から受信した予測正味電力需要との比較から、予実差を把握することができる。
【0024】
[エネルギーマネジメントシステムの動作]
以下、エネルギーマネジメントシステム10の動作について、図面を参照しながら説明する。
図2は、本発明の一実施形態によるエネルギーマネジメントシステムの動作を示すフローチャートである。本フローチャートが示す処理は、例えば、エネルギーマネジメントシステム10の電源がオンになることにより、エネルギーマネジメントシステム10による処理が実行開始した際に開始する。
【0025】
(ステップS01)エネルギーマネジメントシステム10による処理を継続する場合(例えば、エネルギーマネジメントシステム10が、ユーザの操作入力などによる、処理を停止させるための指示などを受け付けていない場合)、ステップS02へ進む。そうでない場合、本フローチャートの処理が終了する。
【0026】
(ステップS02)充放電計画の更新時刻である場合、ステップS03へ進む。そうでない場合、ステップS02に留まる。
【0027】
(ステップS03)エネルギーマネジメントシステム10の予測部111は、(1)電力需要、再生可能エネルギー発電電力、および電力料金の予測処理を実行する(なお、当該予測処理については、後に詳しく説明する)。その後、ステップS04へ進む。
【0028】
(ステップS04)エネルギーマネジメントシステム10の最適化部112は、(2)充放電計画の最適化処理を実行する(なお、当該最適化予測処理については、後に詳しく説明する)。その後、ステップS05へ進む。
【0029】
(ステップS05)エネルギーマネジメントシステム10は、最適化処理によって得られた計算結果を、エネルギー貯蔵装置20へ送信する。その後、ステップS01へ戻る。
【0030】
上述したように、エネルギーマネジメントシステム10は、定期的に(例えば、15分ごとに)、一定時間先までの(例えば、24時間先までの)エネルギー貯蔵装置20の充放電計画の最適化を行い、最適化結果である充放電計画を示す情報をエネルギー貯蔵装置20へ送信する。そして、エネルギー貯蔵装置20は、エネルギーマネジメントシステム10から受信した情報に基づく充放電計画に従って充放電を実行する。
【0031】
エネルギーマネジメントシステム10は、充放電計画最適化部11によって、上述した「(1)電力需要、再生可能エネルギー発電電力、および電力料金の予測処理」および「(2)充放電計画の最適化処理」を実行する。これらの処理について、以下に詳しく説明する。
【0032】
[(1)電力需要、再生可能エネルギー発電電力、および電力料金の予測処理]
エネルギーマネジメントシステム10の予測部111は、一定時間先までの(例えば、24時間先までの)期間を、複数の一定期間に小分けし(例えば、15分間隔に区切り)、電力需要、再生可能エネルギー発電電力、および電力料金を、一定期間ごとに(時間ステップ単位で)予測する。
【0033】
なお、電力料金には、例えば、従量制の電力料金(円/kWh)、デマンドチャージ(円/kW)、再生可能エネルギーの売電インセンティヴ(円/kWh)、および、系統周波数安定化のための電力需給調整貢献インセンティヴ(kW/円)などが含まれる。
【0034】
予測部111は、データベース12に蓄積された情報、およびインターネットなどを介して外部のシステムから受信した情報を用いて予測を行う。予測部111は、例えば、より簡単な予測手法として、直近24時間の実績値に対して上述の時間ステップ単位で平均値を計算し、その計算結果を予測値とする。
【0035】
また、電力需要、再生可能エネルギー発電電力に関しては、予測部111は、予測値と併せて、予測値の不確実さを示す、各時間ステップ間の共分散行列を計算する。たとえば時間刻みを15分、予測期間を24時間(1440分)とする場合、予測期間の時間ステップ数は1440/15=96であり、共分散行列は96×96の正定値対称行列となる。
【0036】
例えば、12時の時点で予測値が実績値を大きく上回っている場合、次の時間ステップ(例えば、12時15分)の時点においても予測値が実績値を上回っている可能性が高いことが想定される(少なくとも予測値が実績値を大きく下回っている可能性が極めて低いと考えられる)。このように、上記の共分散行列は、時間ステップ間の予実差の相関を考量するものである。
【0037】
[(2)充放電計画の最適化処理]
エネルギーマネジメントシステム10の最適化部112は、予測の不確実性を考慮した充放電計画最適化問題を解く処理を実行する。
なお、説明を簡単にするため、以下の説明においては、電力コストが従量制電力料金(kWhコスト)およびデマンドチャージ(kWコスト)のみからなるものとする。また、制約条件としては、エネルギー貯蔵装置20の充放電電力および充電残量に関するもののみを想定したものとする。
以下の説明において用いる記号を、以下の表1にまとめる。
【0038】
【表1】
【0039】
また、図3は、本発明の一実施形態によるマイクログリッド内電力と記号との対応関係を示す図である。
表1に示した記号のもとで、解くべき最適化問題を以下のように定義する。なお予実差ωAC(h)は平均ゼロ、共分散Cの正規分布N(0,C)にしたがうものと仮定する。
【0040】
【数1】
【0041】
subj.to
【0042】
【数2】
【0043】
【数3】
【0044】
【数4】
【0045】
where
【0046】
【数5】
【0047】
【数6】
【0048】
【数7】
【0049】
and
【0050】
【数8】
【0051】
【数9】
【0052】
【数10】
【0053】
【数11】
【0054】
本最適化問題を解くことにより、以下の1)および2)の値が得られる。
1)将来の各時間ステップh(h=h,・・・,h+H-1)における、エネルギー貯蔵装置の最適な充放電電力PDC (h)
2)将来の各時間ステップh(h=h,・・・,h+H-1)における、予実差のうちエネルギー貯蔵装置の充放電で補償すべき割合(0≦α(h)≦1)(予実差補償計画)
【0055】
本定式化のポイントは以下のa.~d.の4点である。
a.「予実差が生じたとき、どのくらいの割合をエネルギー貯蔵装置の充放電で補償するか」の割合を示す決定変数α(h)(予実差補償計画)が導入されている。なお、エネルギー貯蔵装置による予実差の補償を行わない場合、式(10)より、予実差がそのまま受電電力の予実差につながり、たとえば電気料金の高い時間帯に想定以上の受電をおこないマイクログリッドの運転コストが大きくなる、大きな電力ピークが生じデマンドチャージが大きくなる、といったことが起こり得る。
b.予測通りに推移した場合のケースのモデル(式(5)~式(7))と、予実差が生じ、エネルギー貯蔵装置の充放電によりこれを補償することを見込んだモデル(式(8)~式(11))の2つが同時の考慮されている。
c.目的関数は、e(h)に関する期待値と分散を用いて定義されている。式(1)において、n>0は不確実性をどれだけ見込むかを決めるパラメータであり、nが大きいほど不確実性を大きく見込むこととなる。
d.制約条件(式(2)~式(3))はそれぞれエネルギー貯蔵装置の充放電電力、充電残量に関する制約条件であり、「制約条件を逸脱する確率がε以下であること」という確率的な制約としている。
【0056】
本最適化問題は、制約条件(式(2)~式(3))の左辺の確率を、以下の式(12)~式(17)のように近似することができるため、汎用の数理最適化アルゴリズム(例えば、逐次二次計画法、または主双対内点法など)によって解くことができる。
【0057】
【数12】
【0058】
【数13】
【0059】
where
【0060】
【数14】
【0061】
【数15】
【0062】
【数16】
【0063】
【数17】
【0064】
上記のnは、上述したc.と同様に、不確実性をどれだけ見込むかを決めるパラメータであり、nを大きくとることとεを小さくすることとは等価である。
【0065】
[エネルギー貯蔵装置の動作]
エネルギー貯蔵装置20では、エネルギーマネジメントシステム10から、将来の各時間ステップh(h=h,・・・,h+H-1)に対応する充放電電力PDC (h)、予実差補償計画α(h)、および予測正味消費電力を受信し、実時間tにおいて、電力計50-4によって計測された正味消費電力から、予実差ωDC(t)を式(11)により求め、以下の式(18)となるように充放電電力PDC(t)を逐次定め充放電を制御する。ただし、hは実時間tに対応する時間ステップとする。
【0066】
【数18】
【0067】
[充放電計画最適化結果の例]
本発明を適用することで得られる充放電計画最適化の一例を図4図6に示す。
図4図6は、本発明の一実施形態によるエネルギーマネジメントシステムによる充放電計画最適化結果を示す図である。なお、図4は電力の推移を、図5は充電残量の推移を、および、図6は補償割合の推移を示した図である。
【0068】
これらの図は、エネルギー貯蔵装置20、負荷30、および再生可能エネルギー発電システム40を有するマイクログリッド1において、ある1日における24時間(1ステップ15分、96ステップ)の、エネルギー貯蔵装置20の充放電計画を最適化した場合のシミュレーション結果の一例を示したものである。
【0069】
なお、各電力料金については、以下のように設定した。
従量制電力料金については、日中(6~18時)における料金を「20円/kWh」とし、それ以外の時間帯における料金を「12円/kWh」として、日中の料金をそれ以外の時間帯における料金よりもより高くなるように設定した。
デマンドチャージについては、全時間帯で一律「1500円/kW」とした。
【0070】
エネルギー貯蔵装置20の出力は、充放電ともに「250kW」であり、容量は「500kWh」とした。エネルギー貯蔵装置20の充電残量は、計画起点(0:00時点)において満充電の半分の「250kWh」であるものとし、24時間後には「250kWh」以上まで戻すように制約をした。
【0071】
負荷の電力需要および再生可能エネルギーの発電電力は不確実性を有しているものとし、図4図6の各図においては、この不確実性によって影響を受ける量について、最適化計画に対して±3σのずれが生じた場合の系列を示している。図4および図5に示されているように、とくに充放電電力および充電残量については、±3σの予実差があっても制約を遵守できる計画が得られている。
【0072】
本最適化結果では、±3σの不確実さを見込んだうえで、マイクログリッド1の運用コスト(ここでは、充電量電力料金およびデマンドチャージを想定)が最小になるような充放電計画となっている。このマイクログリッド1の場合、再生可能エネルギー発電の効果により、正味電力需要は、朝および夜間に高く、昼間は低い、といった傾向にある。この傾向と図6に示す補償割合の推移から、得られた充放電計画に関して、以下に示すX.およびY.の特徴が伺える。
【0073】
X.朝および夜間の時間帯は、予実差に対してエネルギー貯蔵装置20の充放電を積極的に行う戦略となっている(補償割合α(h)の値が大)。これは、デマンドチャージを抑制するためである。
Y.昼間の時間帯の予実差に対しては、エネルギー貯蔵装置による補償は行わない戦略となっている(補償割合α(h)=0)。これは、受電電力が小さく、エネルギー貯蔵装置20の充放電で対処してもデマンドチャージの抑制につながらないためである。また、この時間帯に充放電を行うと、夜間の正味電力需要の大きい時間帯での充電残量の不確実性が大きくなり(±3σの幅が広がり)充放電の自由度が小さくなるため、これを避けるような戦略となっている。
【0074】
上述したように、本実施形態によるエネルギーマネジメントシステム10によれば、不確実性を考慮したエネルギー貯蔵装置20の最適な充放電計画のみならず、予実差が生じた場合にエネルギー貯蔵装置20をどう制御するか、という動作則が得られる。
【0075】
<その他の実施例>
[1]目的関数は適用先の電力制度などを考慮して任意に設定してもよい。例えば、以下の(1-1)および(1-2)のような目的関数をもつ最適化問題として考えることもできる。
(1-1)受電電力を平滑化する(連続する2ステップ間の受電電力の変化を小さくする)目的関数
【0076】
【数19】
【0077】
(1-2)需給調整予備力を最大化する(計画上の蓄電池の充放電電力をなるべく抑える)目的関数
【0078】
【数20】
【0079】
なお、目的関数は、上述した、従量制電力料金およびデマンドチャージや、目的関数式(式(19)~式(20))において、(重みつき和をとることにより)適宜組み合わせて定義することができる。なお、式(20)のような最大化すべき目的関数を、最小化すべき目的関数と組み合せる場合には、負の重みを付けて、最大化問題を最小化問題に変換するようにすればよい。
【0080】
[2]不確実性を示す共分散行列は、不確実さに関する情報がない場合には、適当な対角行列を使用してもかまわない。例えば、電力需要が500kW程度の負荷に対して、各時刻で±50kWの誤差を見込むならば、共分散行列の対角行列を(50kW)=2500kWと設定すればよい。
【0081】
[3]電力料金についても、予測の不確実性がある場合には、正味消費電力と同様に共分散行列を導入して、(コストの観点から)保守的な最適化をするようにしてもよい。保守的に計算するためには、例えば、上述した最適化問題の定式化における式(1)において、CkW(h)およびCkWh(h)を、それぞれ以下に示す式(21)および式(22)のようにすればよい。
【0082】
【数21】
【0083】
【数22】
【0084】
[4]上述した最適化問題の定式化は一例であり、等価問題(かつ、解きやすい問題)に変形することができる。例えば、新たな決定変数yを導入したうえで、目的関数を以下に示す式(23)のように変形し、制約条件として、以下に示す式(24)を追加する方法が考えられる(なお、以下は、式の直観性を重視した定式化を記述したものである)。
【0085】
【数23】
【0086】
【数24】
【0087】
[5]複数のエネルギー貯蔵装置20を備えるようなマイクログリッドに対しても、上述した最適化問題の定式化と同様なアプローチで定式化が可能であり、本発明を適用することができる。なお、複数のエネルギー貯蔵装置20は、容量や出力がそれぞれ異なっていてもかまわない。
【0088】
以上説明したように、本発明の一実施形態によるマイクログリッド1およびエネルギーマネジメントシステム10によれば、予測の不確実性および予測が外れたときのエネルギー貯蔵装置の動作則を直接考慮した最適化問題を直接解くことによって、シミュレーションが不要となり、計算時間が短縮される。また、本発明によれば、上記最適化問題における計算の副産物として、「予実差のうち、エネルギー貯蔵装置の充放電による補償する割合」の最適値も得ることができる。これにより、計画直後に、負荷の電力需要や再生可能エネルギー発電電力の急変が生じた場合(予実差が急に拡大した場合)であっても、変化に追従して充放電計画を更新することができる。
【0089】
すなわち、本発明による電力需給計画最適化方法は、最適化問題を解く段階で、予測の不確実性を予め考慮し、さらに予測から逸脱した際にエネルギー貯蔵装置をどのように制御すればリカバーをすることができるかを考慮したうえで最適化問題を解くものである。これにより、予め複数の予測逸脱シナリオを想定したり、予測から逸脱した際に複雑なシミュレーションをその都度、実行したりする必要がなくなるため、電力需給計画最適化にかかる計算時間を短縮することができるという効果を奏する。また、上記電力需給計画最適化にかかる計算の副産物として、発電量の予実差のうち何割を蓄電池の充放電で吸収し、残りの何割を外部系統からの受電で吸収することが最適な割合であるかを求めることができる。これにより、コスト的にも最適な運転が可能になる。
【0090】
上述したように、充電池などのエネルギー貯蔵装置を使った制御システムの一般的な課題として、予測結果に基づいてエネルギー貯蔵装置の充放電制御を行っても、そもそも予測が外れることも多いため、適切な充放電制御とはならない場合がある。この場合、その予測から外れた部分の電力を、外部系統から購入してくるのか、あるいは、充放電計画を修正するのか、どちらが方法をとった方が適切であるかは、時間帯や環境などにも依存する。本発明による電力需給計画最適化方法は、このような予測が外れた場合を織り込んだうえで最適化を行うため、より堅牢な充放電計画を導くことができるという特徴がある。
【0091】
以上、本発明の一実施形態による加工装置について説明したが、本発明は上記実施形態に制限されず、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。
【0092】
なお、上述した実施形態におけるエネルギーマネジメントシステム10の一部(例えば、充放電計画最適化部11)又は全部をコンピュータで実現するようにしてもよい。その場合、この制御機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、エネルギーマネジメントシステム10に内蔵されたコンピュータシステムであって、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
【0093】
さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信回線のように、短時間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0094】
また、上述した実施形態におけるエネルギーマネジメントシステム10の一部又は全部を、LSI(Large Scale Integration)等の集積回路として実現してもよい。エネルギーマネジメントシステム10の各機能ブロックは個別にプロセッサ化してもよいし、一部、または全部を集積してプロセッサ化してもよい。また、集積回路化の手法はLSIに限らず専用回路、または汎用プロセッサで実現してもよい。また、半導体技術の進歩によりLSIに代替する集積回路化の技術が出現した場合、当該技術による集積回路を用いてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…マイクログリッド
2…外部系統
10…エネルギーマネジメントシステム
11…充放電計画最適化部
12…データベース
20…エネルギー貯蔵装置
21…インバータ
30…負荷
40…再生可能エネルギー発電システム
41…パワーコンディショナ
50-1~50-4…電力計
111…予測部
112…最適化部
図1
図2
図3
図4
図5
図6