IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニプロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-ステントデリバリーシステム 図1
  • 特許-ステントデリバリーシステム 図2
  • 特許-ステントデリバリーシステム 図3
  • 特許-ステントデリバリーシステム 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ステントデリバリーシステム
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/958 20130101AFI20220419BHJP
【FI】
A61F2/958
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018009594
(22)【出願日】2018-01-24
(65)【公開番号】P2019126519
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷川 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】宮村 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】中野 巧
【審査官】鈴木 洋昭
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530788(JP,A)
【文献】特開2013-46828(JP,A)
【文献】特表2009-530788(JP,A)
【文献】米国特許第5292321(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0033524(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/958
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントと、
前記ステントを拡張するバルーンを有するバルーンカテーテルとを備え、
前記ステントは、ガラス転移温度が40℃以上、70℃以下の生分解性の樹脂組成物により形成され、
前記バルーンカテーテルは、前記ステントを前記ガラス転移温度以上に加温する加温部を有し、
前記加温部は、前記バルーン内に設けられ光を受光して発熱する光吸収発熱体と、前記光吸収発熱体に光を照射するレーザ光源とを有している、ステントデリバリーシステム。
【請求項2】
前記樹脂組成物は、ポリ乳酸を含む、請求項1に記載のステントデリバリーシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、管腔内の狭窄部位にステントを留置するためのステントデリバリーシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管等の管腔に狭窄や閉塞などの異常が発生した場合に、血管の狭窄部位を拡張し、血流を回復させるためにステントが用いられる。狭窄部位にステントを挿入して拡張することにより、狭窄部位を拡げることができる。ステントは、血管以外の種々の体内の管腔においても用いられる。
【0003】
ステントの一種に、バルーン拡張型ステントがある。バルーン拡張型ステントは、折り畳まれた状態のステントをバルーンに被せた状態で、狭窄部位に配置し、バルーンを膨らませることによりステントを拡張する。ステントは塑性変形するように形成されており、バルーンを除去した後もステントは拡張した状態を維持する。
【0004】
塑性変形させるために、金属製のステントが広く用いられている。しかし、金属製のステントは、不要になった後も血管内に残留し続ける。このため、ステントを生分解性の樹脂により形成することが検討されている(例えば、特許文献1を参照。)。このような生分解性を有するステントは、体内に残留し続ける金属製のステントとは異なり、所定期間管腔内に留置されることによって、次第に分解されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2017/010250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、樹脂製のステントには再収縮しやすいという問題がある。ポリマーの物性を調整することにより、再収縮を抑えることが検討されているが十分とはいえない。
【0007】
本開示の課題は、生分解性のステントにおける再収縮を生じにくくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のステントデリバリーシステムの一態様は、ステントと、ステントを拡張するバルーンを有するバルーンカテーテルとを備え、ステントは、ガラス転移温度が40℃以上、70℃以下の生分解性の樹脂組成物により形成され、バルーンカテーテルは、ステントをガラス転移温度以上に加温する加温部を有している。
【0009】
ステントデリバリーシステムの一態様によれば、ステントを拡張した後、一旦ガラス転移温度以上に加温することができる。これにより、拡張したステントの再収縮を大幅に低減することができる。
【0010】
ステントデリバリーシステムの一態様において、樹脂組成物は、ポリ乳酸を含む構成とすることができる。これにより、必要な特性を有するステントが容易に実現できる。
【0011】
ステントデリバリーシステムの一態様において、加温部は、バルーン内に設けられ、光を受光して発熱する光吸収発熱体と、光吸収発熱体に光を照射するレーザ光源とを有していてもよい。このような構成とすることにより、加温部を小型化できると共に、局所的な加温が容易となる。
【0012】
また、加温部は、バルーン内に設けられた発熱体電極と、発熱体電極に高周波電力を供給する高周波電源とを有している構成としてもよい。このような構成としても、加温部を小型化できると共に、局所的な加温が容易となる。
【発明の効果】
【0013】
本開示のステントデリバリーシステムによれば、生分解性ステントの再収縮を生じにくくできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】一実施形態に係るステントデリバリーシステムを示す模式図である。
図2】加温部の一例を示す模式図である。
図3】加温部の一例を示す模式図である。
図4】ステントのパターンの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1に示すように、本実施形態のステントデリバリーシステム100は、生分解性の樹脂組成物により形成されたステント110と、ステント110を拡張するバルーン121を有するバルーンカテーテル120とを備えている。バルーンカテーテル120は、ステント110をガラス転移温度(Tg)以上に加温する加温部127を有している。
【0016】
本実施形態のステントデリバリーシステム100は、以下のようにして使用することができる。まず、折り畳まれてバルーン121に取り付けられた状態のステント110を、血管等の狭窄部に配置する。次に、バルーン121を膨らませ、ステント110を所定の径に拡張する。この後、加温部127によりステント110をTg以上の温度にまで加温する。次に、加温を止め、ステント110がTgよりも低い温度になった後、バルーン121を収縮させて除去し、ステント110を留置する。
【0017】
拡張した状態において、柔軟性を有するステント110をTg以上の温度に加温して拡張した状態を維持させた後、再びステント110をTgよりも低い温度とすることにより、拡張した状態の維持が容易となる。常温において拡張した場合の再収縮率(リコイル率)が10%程度のステントを、拡張した状態でTg以上の温度にさらすことにより、リコイル率を3%以下程度とすることができる。
【0018】
ステント110は、所定の径に拡張された状態で、一旦Tg以上の温度となればよい。生体組織へのダメージを低減する観点からは、拡張した後、Tg以上の温度に加温することが好ましい。
【0019】
加温する温度は、Tg以上であればよいが、周囲の生体組織を傷つけないようにする観点から75℃以下とすることが好ましい。通常はTgよりも5℃程度高い温度とすることが望ましい。Tgよりも5℃程度高い温度にするとは、例えば後述する温度センサが示す温度がTgよりも5℃程度高くなるようにすることを含む。温度センサは通常バルーン内にあるため、Tgよりも5℃程度高い温度であればバルーン表面からステントに熱を伝え、ステントをTg以上の温度にできる。また、加温時間は周囲の生体組織を傷つけないようにする観点から、できるだけ短くすることが好ましく、45秒以下とすることが好ましく、30秒以下とすることがさらに好ましい。リコイル率を抑える観点からは10秒以上が好ましく、15秒以上がより好ましい。
【0020】
ステント110は、生分解性の樹脂組成物により形成されていればよいが、Tg以上の温度に加温する際に、周囲の生体組織を傷つけないようにする観点から、樹脂組成物のTgは70℃以下、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下である。また、人体内においてTg以下の温度が維持されるようにする観点から、樹脂組成物のTgは40℃以上、好ましくは45℃以上である。樹脂組成物のTgは、示差走査熱量測定(DSC)により測定することができる。
【0021】
このような条件を満たす生分解性の樹脂組成物としては、ポリ乳酸、ポリグリコール酸及びこれらの共重合体が挙げられる。このような樹脂組成物として、例えばEvonik Health Care社からRESOMERの名称で販売されているものや、BMG社からBioDegmerの名称で販売されているもの等を用いることもできる。また、抗血栓性の薬剤等を添加することにより、これらの薬剤が徐放されるようにすることもできる。この他、X線不透過性の金属粒子等を添加することもできる。
【0022】
樹脂組成物のTgは、樹脂成分の組成及び分子量等により調整することができる。また、添加剤の種類及び量等によっても調整することができる。
【0023】
ステント110の形状は特に限定されず、バルーンにより拡張できる種々の形状を採用することができる。また、ステント110の大きさは、適用する部位に応じて任意に設計することができる。
【0024】
ステント110の少なくとも一部にX線マーカ114を設けることができる。例えば、ステント110を形成する際に、その一部又は全部をX線不透過性の材料により形成すればよい。また、ステント110を形成した後、所定の位置にX線不透過性の材料を埋め込むことによりX線マーカ114を形成することもできる。
【0025】
バルーンカテーテル120は、バルーン121と加温部127とを有し、ステント110の拡張と加温とができれば、種々の構成を採用することができる。バルーン121は、樹脂膜により形成された膨張及び収縮が可能な通常のものを用いることができる。加温部127は、ステント110をTg以上の温度にすることができればどのような構成としてもよいが、操作性の観点から、バルーン121の内部に設けることが好ましい。
【0026】
加温部127として、例えば図2に示すような、光吸収発熱体151とレーザ光源155とを組み合わせた構成を用いることができる。このような構成の加温部127としては、例えば特開2004-180934や特開2006-15064等の構成が挙げられる。レーザ光源155からのレーザ光は、カテーテルシャフト123を通した光ファイバ152によりバルーン121内に設けられた光吸収発熱体151に照射される。これにより光吸収発熱体151が発熱し、ステント110をTg以上の温度に加温することができる。光吸収発熱体151とレーザ光源155とを用いることにより、加温部127を小型化できると共に、迅速に局所的な加温を行うことができる。
【0027】
また、図3に示すような、バルーン121内に発熱体電極161を設け、高周波電源165から配線162を介して高周波電力を供給し、体外に対電極164を設けることにより発熱体電極161を発熱させる構成とすることもできる。このような構成の加温部127としては、例えば特開平7-213621や特開2002-11101等が挙げられる。この他、加温部127を通常の抵抗発熱体とし、配線を介して直流又は交流電力を印加することもできる。
【0028】
バルーン121には、ステント110の温度を測定するための温度センサ128を設けてもよい。温度センサ128は、ステント110の温度を直接測定する構成としたり、加温部127の温度等を測定することによりステント110の温度を推定する構成としたりすることができる
バルーン121には、必要に応じて冷却機構やX線マーカ等を設けることもできる。バルーンカテーテル120のカテーテルシャフト123の基端側には、ガイドワイヤ用開口部124及びインフレーション用ポート125等を設けることができる。
【0029】
以下に実施例を用いて本発明についてさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、本発明を限定することを意図するものではない。
【0030】
(実施例1)
Tgが57℃のポリ乳酸を用いて、図4に示すような、平均外径8.5mmのステントを形成した。室温にてバルーン膨張させ、ステントを拡張し、70℃に加温して30秒間放置し、室温に戻した後、バルーンを収縮させて除去した。拡張時の平均外径は8.9mmであり、バルーン除去後の平均外径は8.8mmであり、リコイル率は1.5%であった。
【0031】
(比較例1)
実施例1と同型のステントを、室温にて拡張し、30秒間放置した後、そのままバルーンを収縮させて除去した。拡張時の平均外径は8.7mmであり、バルーン除去後の平均外径は7.8mmであり、リコイル率は10.8%であった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本開示のステントデリバリーシステムは、生分解性のステントの収縮を押させることができ、ステント治療等の分野において有用である。
【符号の説明】
【0033】
100 ステントデリバリーシステム
110 ステント
114 X線マーカ
120 バルーンカテーテル
121 バルーン
123 カテーテルシャフト
124 ガイドワイヤ用開口部
125 インフレーション用ポート
127 加温部
128 温度センサ
151 光吸収発熱体
152 光ファイバ
155 レーザ光源
161 電極
162 配線
164 対電極
165 高周波電源
図1
図2
図3
図4