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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】防水シートの診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/27 20060101AFI20220419BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20220419BHJP
   G06T 7/90 20170101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N21/27 A
G06T7/00 610
G06T7/90 D
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018010475
(22)【出願日】2018-01-25
(65)【公開番号】P2019128273
(43)【公開日】2019-08-01
【審査請求日】2020-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】大西 正人
【審査官】赤木 貴則
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第09152863(US,B1)
【文献】特開2011-226947(JP,A)
【文献】特表2006-507483(JP,A)
【文献】特開2012-105090(JP,A)
【文献】特開2007-247341(JP,A)
【文献】特開2003-149227(JP,A)
【文献】特開昭63-007455(JP,A)
【文献】特開平07-318510(JP,A)
【文献】特開2017-217649(JP,A)
【文献】特開2012-238241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0288145(US,A1)
【文献】特許第3968585(JP,B2)
【文献】特開2000-063581(JP,A)
【文献】特開2014-211371(JP,A)
【文献】特開平07-189133(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137172(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G06T 7/00
G06T 7/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物に敷設された防水シートの診断方法であって、
対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、
前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、
前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、
前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、
前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、
を備え、
予め建物毎に当該建物に敷設された防水シートの製品本来の色情報である製品色情報をデータベースに記憶しておき、
前記評価工程は、データベースに記憶された前記対象建物の前記防水シートの前記製品色情報と前記評価対象色情報との差に基づいて前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する工程であることを特徴とする防水シートの診断方法。
【請求項2】
建物に敷設された防水シートの診断方法であって、
対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、
前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、
前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、
前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、
前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、
を備え、
防水シートの製品毎に色の変化と性能劣化との相関関係を示す色性能関係データをデータベースに蓄積しており、
前記評価工程は、前記評価対象色情報と前記色性能関係データとに基づいて前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する工程であることを特徴とする防水シートの診断方法。
【請求項3】
建物に敷設された防水シートの診断方法であって、
対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、
前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、
前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、
前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、
前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、
を備え、
前記補正工程は、前記基準色情報及び前記補正用色情報の明度の差に基づいて前記画像色情報を補正して前記評価対象色情報を取得するものであり、
前記評価工程は、前記評価対象色情報の明度を示す情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価するものであることを特徴とする防水シートの診断方法。
【請求項4】
建物に敷設された防水シートの診断方法であって、
対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、
前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、
前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、
前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、
前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、
を備え、
前記画像色情報取得工程は、前記対象建物の前記防水シートのうち淡色部の色情報を画像色情報として取得することを特徴とする防水シートの診断方法。
【請求項5】
前記画像色情報取得工程及び前記補正用色情報取得工程は、それぞれ日光が直射する日向領域の画像色情報及び補正用色情報を取得することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の防水シートの診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に敷設された防水シートの劣化状況を評価する防水シートの診断方法である。
【背景技術】
【0002】
建物屋根材の点検手法として、当該建物屋根材を撮影し、この撮影した画像の色の違いを利用して劣化部と健全部とを分別して劣化度を評価する方法がある(例えば特許文献1)。この手法では、目視で判断する場合に比べて客観的に屋根材の劣化度が判断できる。特許文献1によると、建物屋根材を撮影する際には、例えばクレーンや高所作業車を用いる場合のほか、飛行物体を用いて上空から撮影することもできる点が開示されており、作業員が高所作業を行う必要がなくなれば、より安全に建物屋根材を点検できる。
【0003】
しかし、撮影した画像の色の違いを利用して劣化度を評価する場合、撮影環境やカメラの設定によって色に変化が生じるため劣化度の評価精度が低下する問題があった。そこで、例えば18%グレーの色既知体を準備して、建物屋根材とともに色既知体を撮影し、撮影した画像の中の色既知体を基準にして、画像の色を補正することで、評価精度を高める技術が提案されている(例えば特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平07-318510号公報
【文献】特開2014-211371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述のような屋根材の診断方法は、現地に赴いて画像を撮影する必要があり、また、屋根材を上から撮影するためには高所撮影を可能とする機材が必要となるので、診断までに手間とコストがかかっていた。
【0006】
ところで、近年では、地図情報サービスとともに広範な地域の航空写真画像がインターネット上で提供されており、このような航空写真画像は、建物の屋根の色が十分に判別可能となっている。
【0007】
そこで、本発明は、自ら撮影することなく、現地に赴くことなく、もともと提供されている航空写真画像を用いて建物に敷設された防水シートの劣化状況を評価する防水シートの診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防水シートの診断方法は、建物に敷設された防水シートの診断方法であって、対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、を備え、予め建物毎に当該建物に敷設された防水シートの製品本来の色情報である製品色情報をデータベースに記憶しておき、前記評価工程は、データベースに記憶された前記対象建物の前記防水シートの前記製品色情報と前記評価対象色情報との差に基づいて前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する工程であることを特徴としている。
【0009】
本発明の防水シートの診断方法は、建物に敷設された防水シートの診断方法であって、対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、を備え、防水シートの製品毎に色の変化と性能劣化との相関関係を示す色性能関係データをデータベースに蓄積しており、前記評価工程は、前記評価対象色情報と前記色性能関係データとに基づいて前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する工程であることを特徴としている。
【0010】
本発明の防水シートの診断方法は、建物に敷設された防水シートの診断方法であって、対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、を備え、前記補正工程は、前記基準色情報及び前記補正用色情報の明度の差に基づいて前記画像色情報を補正して前記評価対象色情報を取得するものであり、前記評価工程は、前記評価対象色情報の明度を示す情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価するものであることを特徴としている。
【0011】
本発明の防水シートの診断方法は、建物に敷設された防水シートの診断方法であって、対象建物の位置情報に基づいて、当該対象建物及び白色道路標示を含む航空写真画像を取得する画像取得工程と、前記航空写真画像から前記対象建物の前記防水シートの色情報である画像色情報を取得する画像色情報取得工程と、前記航空写真画像から前記白色道路標示の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程と、前記白色道路標示の本来の色である基準色情報と前記補正用色情報との差に基づいて、前記画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する補正工程と、前記評価対象色情報を含む情報に基づいて、前記対象建物の前記防水シートの劣化状況を評価する評価工程と、を備え、前記画像色情報取得工程は、前記対象建物の前記防水シートのうち淡色部の色情報を画像色情報として取得することを特徴としている。
【0012】
本発明の防水シートの診断方法は、上述の特徴に加えて、前記画像色情報取得工程及び前記補正用色情報取得工程は、それぞれ日光が直射する日向領域の画像色情報及び補正用色情報を取得することを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の防水シートの診断方法によると、白色道路標示の本来の色である基準色情報と航空写真画像から取得した白色道路標示の補正色情報との差に基づいて、航空写真画像から取得した防水シートの画像色情報を補正して評価対象色情報を取得し、当該評価対象色情報を含む情報に基づいて防水シートの劣化状況を評価するので、画像取得工程で取得される航空写真画像は対象建物及び白色道路標示が含まれるものであれば、撮影環境やカメラの設定などの条件を指定する必要がない。すなわち、撮影環境やカメラの設定の相違から発生する航空写真画像の色の変化は補正工程において補正されるので、診断作業者が自ら撮影することなく、現地に赴くことなく、例えばインターネットなどでもともと提供されている航空写真画像を用いて建物に敷設された防水シートの劣化状況を精度よく評価することができる。
【0015】
本発明の防水シートの診断方法によると、データベースに建物毎に防水シートの製品本来の色情報である製品色情報を記憶しているので、診断する対象建物を特定すれば製品色情報を取得することができ、この製品色情報と評価対象色情報との差が経年による防水シートの色変化を表していることになるので、対象建物の防水シートの劣化状況を客観的に評価することができる。
【0016】
本発明の防水シートの診断方法によると、防水シートの色の変化と性能劣化との相関関係を示す色性能関係データに基づいて評価対象色情報の性能劣化度を判定するので、対象建物の防水シートの劣化状況を客観的に評価できる。
【0017】
本発明の防水シートの診断方法によると、基準色情報及び補正用色情報の明度の差に基づいて画像色情報を補正するので、補正工程が極めて簡単になるとともに、評価工程が評価対象色情報の明度を示す情報に基づいて防水シートの劣化状況を評価するので防水シートの劣化状況を簡単に精度よく判定することができる。
【0018】
本発明の防水シートの診断方法によると、画像色情報及び補正用色情報はそれぞれ日向領域のものを取得するので、防水シートの診断に影の影響を排除することができ、より精度よく防水シートの劣化状況を判定することができる。
【0019】
本発明の防水シートの診断方法によると、画像色情報は、対象建物の防水シートのうち淡色部の色情報である。防水シートは、施工当初には、静電気によって埃が付着し、色が徐々に濃くなり、一定の年数を過ぎると、経年劣化による色落ちによって今度は逆に淡くなっていく。したがって、防水シートの中でも特に淡色部は最も経年劣化が早い部分であると推測され、この淡色部の画像色情報に基づいて防水シートの劣化状況を判断することで、防水シートの最も劣化が進んでいる部分の劣化状況を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】防水シートの診断方法を実行するシステムの一例を示すブロック図。
図2】防水シートの診断方法の工程を示すフローチャート。
図3】建物リスト情報の内容を模式的に示す一覧表図。
図4】画像色情報取得工程の際にPCのディスプレイに表示される航空写真画像の一例を示す図。
図5】補正色情報取得工程の際にPCのディスプレイに表示される航空写真画像の一例を示す図。
図6】防水シート毎のLab表色系の色情報を示すシート別製品色情報を模式的に示す図。
図7】防水シートの色変化と性能劣化の相関関係を示す色性能関係データを示す線グラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る防水シートの診断方法の実施形態に付いて各図を参照しつつ説明する。防水シートの診断方法は建物の屋根部2に敷設された防水シート13の経年劣化の状況を評価する防水シートの診断方法である。本発明における「屋根部」は例えば、陸屋根、勾配屋根、バルコニー床、庇のように、上空に向けて開かれた面構造であり、その上面に防水シート13が敷設される。防水シートの診断方法を実行するシステムは、図1に示すように、予めが情報が蓄積されたデータベース3と、当該データベース3に接続されたPC4(personal computer)と、当該PC4にインターネット5を介して接続可能な航空写真画像提供サーバ6と、を含む。
【0022】
また、データベース3には建物名、建物毎の位置情報、当該建物に使用されている防水シート13の製品名、及び屋根部2の防水処理の施工日が互いに関連付けられて記憶された建物リスト情報7と、防水シート13の製品名毎の製品色情報を記憶したシート別製品色情報8と、防水シート13の製品毎の色変化と性能劣化との相関関係を示す色性能関係データ9とがそれぞれ記憶されている。建物リスト情報7に防水シート13の製品名が記憶されており、シート別製品色情報8には防水シート13の製品名毎に製品色情報が記憶されているので、これら建物リスト情報7及びシート別製品色情報8を参照することで、対象建物1毎の防水シート13の製品色情報を取得することができる。
【0023】
防水シートの診断方法は、図2に示すように、まず、防水シート13を診断する対象建物1を決定し(S20)、その後、対象建物1の航空写真画像12を取得する画像取得工程(S21)と、航空写真画像12から防水シート13の画像色情報を取得する画像色情報取得工程(S22)と、航空写真画像12から白色道路標示10の色情報である補正用色情報を取得する補正用色情報取得工程(S23)と、白色道路標示10の基準色情報と補正用色情報との差に基づいて、画像色情報を補正し評価対象色情報を得る補正工程(S24)と、評価対象色情報を含む情報に基づいて防水シート13の劣化状況を評価する評価工程(S25)とを順次実行する。
【0024】
対象建物1を決定する工程(S20)は、図3に示すように、作業者がPC4を操作してデータベース3の建物リスト情報7にアクセスし、防水シート13の劣化状況の診断が必要な建物を抽出する。具体的には屋根の防水処理の施工日から所定期間経過した建物を防水シート13の劣化状況の診断が必要な対象建物1として抽出する。
【0025】
次に、画像取得工程(S21)では、インターネット5を介して航空写真画像提供サーバ6から対象建物1及び白色道路標示10が含まれる航空写真画像12を取得する。具体的には対象建物1の位置情報に基づいて該当する対象建物1が含まれる航空写真画像12を作業者のPC4のディスプレイに表示し、又は、表示された航空写真画像12をPC4の記憶部に保存する。位置情報は例えば図3に示すように本実施形態においては住所であるが、経度及び緯度によって対象建物1の位置を示すものであっても良い。航空写真画像提供サーバ6は、インターネット5上で航空写真画像12が提供されている従来公知のサービスである。航空写真画像12は航空機、ドローン、人工衛星その他のいかなる飛行体から撮影したものであってもよいが、少なくとも対象建物1の屋根部2が識別可能な解像度を有する必要がある。
【0026】
取得する航空写真画像12は、撮影日が明確であることが望ましいが、防水シート13は長期間かけて経年色変化するものであるから、撮影日が例えば1年前後の範囲で推測できればよい。また、取得する航空写真画像12は撮影日が新しいものが好ましいが、撮影日がある程度古いものであったとしても、撮影時点での防水シート13の劣化状況を評価することはできるので、撮影日以降の経過年数を考慮することで、現時点の防水シート13の劣化状況が推測できる。
【0027】
なお、本発明において「白色道路標示」は、道路交通法に規定されている道路標示のうち白色のペイントで路面に描かれた線、記号又は文字を含むとともに、それ以外にも道路以外の地面に描かれた白色のペイントの線、記号又は文字を含む。例えば私有地の駐車場に描かれた自動車の停車範囲を示す白色ペイントの線なども含まれる。
【0028】
画像取得工程により航空写真画像12を取得すると、次に画像色情報取得工程(S22)を行う。画像色情報取得工程では、画像取得工程で取得した航空写真画像12から対象建物1の防水シート13の色情報である画像色情報を取得する。具体的には、まず、PC4内にインストールされている画像編集ソフトウエアを起動し、防水シート13が表示されている領域を選択して、当該領域の例えばRBG表色系の色成分の数値を抜き出す。より詳細には、図4に示すように、防水シート13が表示されている領域にマウスポインタPを移動させて、マウスポインタPのクリックによって画面上の1又は複数の点のRBGの数値を抜き出し、それぞれの平均値を取得する。又は、防水シート13が表示されている領域内の一定の範囲Aを選択して、当該範囲A内のRBGそれぞれの平均値を取得する。
【0029】
そして、取得したRBGの色成分の数値をL表色系の座標に変換して画像色情報を取得する。なお、L表色系の数値は「L、a、b」であらわされるが、本実施形態においては簡明のためにスター記号は省略して示す。また、RBG表色系の数値をLab表色系に変換したのは、明度を簡便に数値化するためである。Lab表色系においてはL値が明度を表している。本発明における「画像色情報」は本実施形態においてはLab表色系の数値に相当するが、これに限られるものではなく、明度を数値化することができる表色系であればよい。なお、使用する画像編集ソフトウエアがLab表色系に対応している場合は、航空写真画像12からRBG表色系を経ずに直接Lab表色系の数値を取得しても良い。
【0030】
なお、防水シート13は全ての範囲が経年で一様に色変化するわけではなく、シートの重ねしろ部分と一般部分等の部位の違いや環境の違いによって、経年劣化の進行度合いが異なり、濃淡の色ムラが生じるように変化する。したがって画像色情報取得工程で濃色部の色情報と淡色部の色情報のいずれの色情報を取得するかで、得られる画像色情報が異なることとなる。画像色情報取得工程では、防水シート13の濃色部の色情報、濃色部の色情報と淡色部の色情報とを平均化した色情報、淡色部の色情報のいずれかの色情報を画像色情報として取得する。好ましくは、画像情報取得工程は、防水シート13の淡色部の色情報を画像色情報として取得する。防水シート13は、施工当初は灰色であるところ、静電気によって埃が付着して徐々に濃くなって濃灰色となり、一定の年数を過ぎると、経年劣化によって今度は逆に白っぽく淡い灰色になっていく。したがって、経年劣化が進んだ部分は淡い灰色の淡色部となる。したがって、防水シート13の中でも特に淡色部は最も経年劣化が早い部分であると推測され、この淡色部の画像色情報に基づいて防水シート13の劣化状況を判断することで、防水シート13の最も劣化が進んでいる部分の劣化状況を判定することができる。
【0031】
画像色情報取得工程を終えると、次に、補正用色情報取得工程(S23)を行う。補正用色情報取得工程では、航空写真画像12から白色道路標示10の色情報である補正用色情報を取得する。すなわち、図5に示すように、航空写真画像12の白色道路標示10が表示されている領域を例えばマウスポインタPのクリックで指定して、当該領域内の色情報を取得し、Lab表色系の数値を得る。具体的な処理は上述した画像色情報取得工程における処理と同様であるので説明を省略する。なお、画像色情報取得工程及び補正用色情報取得工程を実行する順序は逆であってよい。
【0032】
画像色情報取得工程及び補正用色情報取得工程で、取得する画像色情報及び補正用色情報は、それぞれ日光が直射する日向領域11の画像色情報及び補正用色情報であることが好ましい。「日向領域」は航空写真画像12の撮影時点において周辺の樹木や構造物によって日光が遮られていない領域をいう。このように日向領域11の画像色情報及び補正色情報を用いれば、防水シート13の診断に影の影響を排除することができ、より精度よく防水シート13の劣化状況を判定することができる。なお、航空写真画像12の撮影時の天候が曇りである場合などのように、航空写真画像12の全面で日光が雲によって遮られている場合には、画像色情報取得工程及び補正用色情報取得工程は、雲によって日光が遮られた領域の画像色情報及び補正用色情報を取得するものであってもよい。
【0033】
画像色情報取得工程及び補正用色情報取得工程を終了すると、次に、補正工程(S24)をおこなう。補正工程では、まず、補正用色情報取得工程において取得した補正用色情報と白色道路標示10の本来の色である基準色情報との差に基づいて、画像色情報取得工程(S21)で取得した画像色情報を補正して評価対象色情報を取得する。
【0034】
白色道路標示10の本体の色である基準色情報とは、白色道路標示10が本来有している色のLab表色系の数値である。基準色情報は、例えば(L,a,b)=(100,0,0)である。また、補正用色情報もLab表色系の数値で表されている。本実施形態では補正工程は基準色情報及び補正用色情報のL値を抽出して差を求める。具体的には、仮に補正用色情報が(L,a,b)=(98,1,-3)であった場合、基準色情報のL値である「100」と補正用色情報のL値である「98」との差である値「2」を取得する。すなわち、本来100であるべきL値が航空写真画像12の上では98である場合、当該航空写真画像12の撮影環境やカメラの設定によって明度が2下がったことがわかる。
【0035】
そして、画像色情報取得工程(S21)で取得した画像色情報のL値に、基準色情報のL値と補正用色情報のL値との差を加えることで、画像色情報を補正して評価対象色情報を得る。したがって、評価対象色情報は、画像色情報から航空写真画像12の撮影時の撮影環境やカメラの設定によって変化した色情報の明度の値を補正した値である。このように明度の情報であるL値のみを抜き出して補正することで、より簡便に補正することができる。
【0036】
補正工程を実行すると、次に評価工程(S25)を行う。評価工程では、データベース3に記憶されている対象建物1の製品色情報と評価対象色情報との差に基づいて防水シート13の劣化状況を評価する。具体的には、データベース3の建物リスト情報7にアクセスして、当該対象建物1の防水シート13の製品名の情報を入手し、シート別製品色情報8にアクセスして、当該防水シート13の製品色情報を取得する。製品色情報は防水シート13の製品本来の色情報であり、建物の屋根部11を防水処理した当初の防水シート13の色情報である。製品色情報は、Lab表色系の座標であらわされる。
【0037】
防水シート13の製品色情報を取得すると、対象建物1の製品色情報と評価対象色情報との差を求める。具体的には製品色情報のL値と評価対象色情報のL値との差を求める。製品色情報は屋根部11の防水処理を施工した当初の防水シート13の色情報であり、評価対象色情報は航空写真画像12を撮影した時点での防水シート13の色情報であるので、施工当初からの色の変化量を求めることができる。したがって、製品色情報のL値と評価対象色情報のL値との差が大きい場合は、防水シート13の色の変化量が大きいことがわかり、当該防水シート13が劣化が進んでいる可能性が高いことが推測される。あらかじめ防水性能に問題が疑われる閾値を定めておけば、製品色情報及び評価対象色情報のL値との差を求めることにより、防水シートの防水性能に問題があるか否か評価することができる。
【0038】
なお、評価工程は上述のように、製品色情報と評価対象色情報との差に基づいて防水シート13の劣化状況を評価するものに限られるものではない。例えば、評価工程(S25)は、防水シート13の製品毎の色の変化と性能劣化との相関関係を示す色性能関係データ9を用いて、防水シート13の劣化状況を評価するものであってもよい。色性能関係データ9は図7に示すように防水シート13のLab表色系のL値を縦軸に示し、防水シート13の破断時伸び率を横軸に示した線グラフとして模式的に示すことができる。色性能関係データ9は防水シート13の製品「XXシート」「YYシート」「ZZシート」毎にその色の変化と性能劣化との相関関係を示している。この色性能関係データ9は、実際に防水シート13の引張試験を行って、当該防水シート13の色情報毎の破断時伸び率のデータを蓄積して、相関関係のデータを得るものである。なお、本実施形態においては、防水シート13の製品本来の破断時伸び率は350%であり、例えば、破断時伸び率が150%を下回った場合に、防水シート13の劣化が進み、防水性能に問題が生じる恐れがあるものとする。
【0039】
なお、色性能関係データ9は、本実施形態においては、防水シートの13のLab表色系のL値の変化と防水シート13の破断時伸び率との相関関係を表しているが、防水シート13の例えば破断時伸び率に替えて、防水シート13の可塑剤残存率を防水シート13の性能劣化を示す指標として用いても良い。
【0040】
例えば、製品名「XXシート」の防水シート13の評価対象色情報のL値が「70」である場合、色性能関係データ9を参照すると、破断時伸び率は150%となる。したがって、当該表可能対象となった防水シート13は、防水性能に問題があると評価できる。一方、例えば製品名「XXシート」の防水シート13の評価対象色情報のL値が「63」である場合、色性能関係データ9を参照すると、破断時伸び率は200%となる。したがって、当該表可能対象となった防水シート13は、防水性能に問題がない評価できる。
【0041】
以上のように本実施形態の防水シートの診断方法は、きわめて簡易的に防水シート13の劣化状況を評価することができる診断方法であり、現地に赴いて本格的な防水シート13の診断を行う前のスクリーニングなどに利用することができる。また、目視に頼ることなく、数値化された色情報に基づいて診断しているので、客観的で診断作業に熟練を要することもない。
【0042】
特に、本実施形態の防水シートの診断方法は、インターネット5などで提供されている航空写真画像12を用いて診断できるので、自ら撮影する場合に比べて、撮影コストを節約することができ、しかも、白色道路標示10を用いて補正することで撮影環境やカメラの設定の影響を排除できるので、一般的に提供されている航空写真画像12を用いながら精度の高い診断を行うことができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、「基準色情報と補正用色情報との差」、「製品色情報と評価対象色情報との差」は、それぞれLab表色系のL値の差であり、また、「色性能関係データ」の色の変化の値はL値のみの変化の値を示しているが、それぞれLab表色系のL値に加えてa値及びb値をも考慮した色差に基づいて防水シート13の劣化状況を判断しても良い。
【0044】
本発明の実施の形態は上述の形態に限ることなく、本発明の思想の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することができることは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明に係る防水シートの診断方法は例えば平屋根の住宅の屋根部2の防水シート13の診断方法として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 対象建物
9 色性能関係データ
10 白色道路標示
11 日向領域
12 航空写真画像
13 防水シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7