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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】トレッド用ゴム組成物およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/06 20060101AFI20220419BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220419BHJP
   C08L 45/00 20060101ALI20220419BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220419BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20220419BHJP
   C08K 5/11 20060101ALI20220419BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20220419BHJP
   C08J 5/00 20060101ALN20220419BHJP
【FI】
C08L9/06
C08K3/04
C08L45/00
C08K3/36
C08K3/22
C08K5/11
B60C1/00 A
C08J5/00 CEQ
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018020079
(22)【出願日】2018-02-07
(65)【公開番号】P2018131611
(43)【公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017025933
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】特許業務法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 祐美
(72)【発明者】
【氏名】中園 健夫
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-277307(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン含量が20~50質量%、ビニル含量が15~65%のスチレンブタジエンゴムを70質量%以上含むゴム成分100質量部に対し、
5~30質量部のカーボンブラック、
95質量部以上200質量部以下のシリカ、
25質量部以上50質量部以下の下記式(甲)で表され、平均一次粒子径が10μm以下である無機化合物粉体、および
2~15質量部のクマロン系樹脂を含む70質量部以上150質量部以下の軟化剤を含有するトレッド用ゴム組成物。
M・αSiO2・βH2O (甲)
(式中のMは、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物または金属水酸化物であり、αおよびβは共に0~10の整数である。)
【請求項2】
前記シリカの含有量が95質量部以上150質量部以下であり、前記無機化合物粉体の含有量が25質量部以上45質量部以下であり、前記軟化剤の含有量が70質量部以上140質量部以下である、請求項1記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項3】
前記軟化剤が、11~20質量部のビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含む請求項1または2記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項4】
前記無機化合物粉体が、酸化アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウムである請求項1~3のいずれか1項に記載のトレッド用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか1項に記載のトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はトレッド用ゴム組成物および当該トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム組成物のウェットグリップ性能を向上させる手段の一つとして、レジンを添加してガラス転移温度(Tg)を上げる方法が挙げられるが、初期グリップが低下してしまうという問題がある。また、他のウェットグリップ性能を向上させる手段として、シリカの増量、可塑剤に対するフィラー含有量の増加、水酸化アルミニウムの添加などが知られているが、これらの場合は、耐摩耗性が低下するという問題がある。
【0003】
特許文献1には、少なくともスチレンブタジエンゴムを含むジエン系ゴム成分、特定の無機化合物粉体、シリカ、および不飽和カルボン酸エステルを所定量含有することで、耐摩耗性等の耐破壊性およびウェットグリップ性能を改善できるゴム組成物が記載されているが、いまだ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-9250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐摩耗性およびウェットグリップ性能に優れたトレッド用ゴム組成物、および当該トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スチレン含量が20~50質量%、ビニル含量が15~65%のスチレンブタジエンゴムを70質量%以上含むゴム成分100質量部に対し、5~30質量部のカーボンブラック、95質量部以上のシリカ、25質量部以上の下記式(甲)で表され、平均一次粒子径が10μm以下である無機化合物粉体、および2~15質量部のクマロン系樹脂を含む70質量部以上の軟化剤を含有するトレッド用ゴム組成物。
M・αSiO2・βH2O (甲)
(式中のMは、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物または金属水酸化物であり、αおよびβは共に0~10の整数である。)
【0007】
前記軟化剤が、11~20質量部のビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含むことが好ましい。
【0008】
前記無機化合物粉体が、酸化アルミニウムおよび/または水酸化アルミニウムであることが好ましい。
【0009】
また、本発明は前記トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
スチレン含量が20~50質量%、ビニル含量が15~65%のスチレンブタジエンゴムを70質量%以上含むゴム成分100質量部に対し、5~30質量部のカーボンブラック、95質量部以上のシリカ、25質量部以上の下記式(甲)で表され、平均一次粒子径が10μm以下である無機化合物粉体、および2~15質量部のクマロン系樹脂を含む70質量部以上の軟化剤を含有する本発明の一実施形態であるトレッド用ゴム組成物、ならびに当該トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有する本発明の一実施形態であるタイヤは、耐摩耗性およびウェットグリップ性能に優れる。
【0011】
さらに、前記軟化剤が、11~20質量部のビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含むトレッド用ゴム組成物、ならびに当該トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、より耐摩耗性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態であるトレッド用ゴム組成物は、スチレン含量が20~50質量%、ビニル含量が15~65%のスチレンブタジエンゴムを70質量%以上含むゴム成分100質量部に対し、5~30質量部のカーボンブラック、95質量部以上のシリカ、25質量部以上の下記式(甲)で表され、平均一次粒子径が10μm以下である無機化合物粉体、および2~15質量部のクマロン系樹脂を含む70質量部以上の軟化剤を含有することを特徴とする。
M・αSiO2・βH2O (甲)
(式中のMは、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物または金属水酸化物であり、αおよびβは共に0~10の整数である。)
【0013】
本実施形態に係るトレッド用ゴム組成物は、所定のスチレンブタジエンゴム(SBR)を含有するゴム成分に対し、無機化合物粉体とクマロン系樹脂とを含有することで、無機化合物粉体の近くにクマロン系樹脂が存在するため、耐摩耗性の悪化が抑制できると考えられる。
【0014】
さらに、軟化剤がビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含む他の実施形態では、SBRおよびクマロン系樹脂との相溶性が高く、かつ可塑化効果が高いビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含むことで、ゴム組成物の均一性が向上し、耐摩耗性がより向上していると考えられる。
【0015】
前記ゴム成分は、所定のスチレン含量およびビニル含量を満たすSBRを含有する。SBRとしては特に限定はなく、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)などが挙げられる。変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物などでカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するものなど)、水素添加されたSBR(水添S-SBR、水添E-SBR)などが挙げられる。なかでもS-SBRが好ましい。
【0016】
前記SBRのスチレン含量は、20質量%以上であり、25質量%以上が好ましい。20質量%未満の場合は、十分なグリップ性能が得られない傾向がある。また、スチレン含有量は、50質量%以下であり、47質量%以下が好ましい。50質量%を超える場合は、耐摩耗性が低下するだけでなく、温度依存性が増大し、温度変化に対する性能変化が大きくなってしまい、走行中の安定したウェットグリップ性能が良好に得られなくなる傾向がある。なお、本明細書中のSBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される値である。
【0017】
前記SBRのビニル含量は、15%以上であり、20%以上が好ましい。15%未満の場合は、十分なウェットグリップ性能が得られない傾向がある。また、ビニル含有量は、65%以下であり、63%以下が好ましい。65%を超える場合は、Tgが高くなりすぎ、温度依存性が増大する傾向がある。なお、本明細書のSBRのビニル含量(1,2-結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定される値である。
【0018】
ゴム成分中の前記SBRの含有量は、70質量%以上であり、80質量%以上が好ましい。SBRの含有量が70質量%未満の場合は、十分なウェットグリップ性能が得られない傾向がある。最も好ましい態様においては、SBRの含有量は100質量%である。
【0019】
本実施形態に係るゴム成分は、直鎖状SBR以外のゴム成分(他のゴム成分)を含有してもよい。他のゴム成分としては、天然ゴム(NR)およびポリイソプレンゴム(IR)を含むイソプレン系ゴム、直鎖状SBR以外のSBR、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのSBR以外のジエン系ゴムやブチル系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。低燃費性や耐摩耗性、耐久性、ウェットグリップ性能のバランスの観点からNR、BRを含有することが好ましい。
【0020】
カーボンブラックを含有することが、着色効果、補強効果などが得られる点から好ましい。カーボンブラックとしては、例えば、オイルファーネス法により製造されたカーボンブラックなどが挙げられ、2種類以上のコロイダル特性の異なるものを併用してもよい。具体的にはGPF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられる。
【0021】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、グリップ性能の観点から、100m2/g以上が好ましく、105m2/g以上がより好ましく、110m2/g以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性の観点から、カーボンブラックのN2SAは、600m2/g以下が好ましく、250m2/g以下がより好ましく、180m2/g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2:2001に準拠して求められる値である。
【0022】
カーボンブラックのDBP吸油量は、耐摩耗性の観点から、50ml/100g以上が好ましく、100ml/100g以上がより好ましい。また、カーボンブラックのDBP吸油量は、グリップ性能の観点から、250ml/100g以下が好ましく、200ml/100g以下がより好ましく、135ml/100g以下がさらに好ましい。なお、カーボンブラックのDBP吸油量は、JIS K 6217-4:2008に準拠して測定される値である。
【0023】
カーボンブラックのゴム成分100質量部に対する含有量は、5質量部以上であり、10質量部以上が好ましい。含有量が5質量部未満の場合は十分な耐摩耗性およびグリップ性能が得られないおそれがある。また、カーボンブラックの含有量は、30質量部以下であり、20質量部以下が好ましい。含有量が30質量部を超えると、グリップ性能が低下するおそれがある。
【0024】
前記シリカとしては、一般的に使用されるものであれば構わない。例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)等が挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0025】
前記シリカのチッ素吸着比表面積(N2SA)は、加硫後の破壊強度の観点から、40m2/g以上が好ましく、50m2/g以上がより好ましく、100m2/g以上がさらに好ましく、130m2/g以上がさらに好ましく、160m2/g以上が特に好ましい。また、シリカのN2SAは、低発熱性およびゴム加工性の観点から、500m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましく、200m2/g以下が最も好ましい。なお、シリカのチッ素吸着比表面積は、ASTM D3037-81に準じてBET法で測定される値である。
【0026】
シリカのゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、95質量部以上であり、100質量部以上が好ましい。また、シリカの含有量は、混練時の分散性向上の観点、圧延時の加熱や圧延後の保管中にシリカが再凝集して加工性が低下することを抑制するという観点から、200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0027】
シリカを含有する場合はシランカップリング剤を併用することが好ましい。シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができ、例えば、エボニックデグッサ社製のSi75、Si266(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド)、同社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)などのスルフィド系、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、Momentive社製のNXT-Z100、NXT-Z45、NXTなどのメルカプト系(メルカプト基を有するシランカップリング剤)、ビニルトリエトキシシランなどのビニル系、3-アミノプロピルトリエトキシシランなどのアミノ系、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのグリシドキシ系、3-ニトロプロピルトリメトキシシランなどのニトロ系、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどのクロロ系などが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、スルフィド系、メルカプト系がシリカとの結合力が強く、低発熱性において優れるという点から好ましい。
【0028】
シランカップリング剤を含有する場合のシリカ100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が2質量部未満の場合は、シリカ分散性の改善効果が十分に得られない傾向がある。また、シランカップリング剤の含有量は、25質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましい。シランカップリング剤の含有量が25質量部を超える場合は、コストに見合った効果が得られない傾向がある。
【0029】
前記無機化合物粉体は、下記式(甲)で表され、平均一次粒子径が10μm以下である。この無機化合物粉体を含有することで優れたウェットグリップ性能が得られる。
M・αSiO2・βH2O (甲)
(式中のMは、Al、Mg、Ti、Caから選ばれる少なくとも一つの金属酸化物または金属水酸化物であり、αおよびβは共に0~10の整数である。)
【0030】
式(甲)で表される無機化合物粉体としては、酸化アルミニウム(アルミナ)、アルミナ水和物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、タルク、チタン白、チタン黒、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化アルミニウムマグネシウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウムなどがあげられる。これらの無機化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、上記式(甲)において、Mが、Al、Mg、TiおよびCaからなる群より選ばれた少なくとも1つの金属の水酸化物であることが好ましく、Mが、Alの酸化物または水酸化物であることがより好ましい。本発明に用いる水酸化アルミニウムは、アルミナ水和物も含むものである。
【0031】
前記無機化合物粉体の平均一次粒子径は10μm以下であり、0.05~5μmが好ましく、0.1~3μmがより好ましい。無機化合物の平均一次粒子径を10μm以下とすることにより、良好な耐破壊特性、より良好な耐摩耗性が得られる傾向がある。なお、本発明において、無機化合物の平均一次粒子径は、数平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡により測定される。
【0032】
式(甲)で表される無機化合物粉体のゴム成分100質量部に対する含有量は、25質量部以上であり、30質量部以上が好ましく、35質量部以上がより好ましい。無機化合物粉体の含有量が25質量部未満の場合は、十分なウェットグリップ性能が得られないおそれがある。無機化合物粉体のゴム成分100質量部に対する含有量は、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下がさらに好ましい。無機化合物紛体の含有量を50質量部以下とすることにより、良好な耐摩耗性能が得られる傾向がある。無機化合物粉体の含有量を30質量部以下とすることにより、より良好な耐摩耗性能が得られる傾向がある。
【0033】
前記軟化剤はクマロン系樹脂を含む。無機化合物粉体とクマロン系樹脂とを併用することで、無機化合物粉体による耐摩耗性の悪化を改善できる。本明細書におけるクマロン系樹脂は、クマロン、インデン、スチレンの共重合体である。このようなクマロン系樹脂としては、ニットレジンクマロン(日塗化学(株)製)、エスクロン(新日鉄住金化学(株)製)、ネオポリマー(新日本石油化学(株)製)、NOVARES C100(ルトガーケミカル社製)が挙げられる。
【0034】
クマロン系樹脂の軟化点は、ウェットグリップ性能の観点から、60℃以上が好ましく、70℃以上がより好ましい。また、ウェットグリップ性能の観点から、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。なお、本発明のクマロン系樹脂の軟化点は、JIS K 6220-1:2001に規定される軟化点を環球式軟化点測定装置で測定し、球が降下した温度である。
【0035】
クマロン系樹脂のゴム成分100質量部に対する含有量は、2質量部以上であり、3質量部以上が好ましい。2質量部未満の場合は、十分なウェットグリップ性能が得られないおそれがある。また、クマロン系樹脂の含有量は15質量部以下であり、12質量部以下が好ましい。15質量部を超える場合は、耐摩耗性が低下するおそれがある。
【0036】
前記軟化剤はさらに、ビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含むことが好ましい。ビス(2-エチルヘキシル)セバケートは、SBRおよびクマロン系樹脂との相溶性が高く、かつ可塑化効果が高いことから、ゴム組成物の均一性が向上し、耐摩耗性をより向上させることができると考えられる。
【0037】
ビス(2-エチルヘキシル)セバケートを含有する場合の、ゴム成分100質量部に対する含有量は、ウェットグリップ性能の観点から、11質量部以上が好ましく、15質量部以上がより好ましい。また、耐摩耗性の観点から、20質量部以下が好ましい。
【0038】
前記軟化剤は、前述のクマロン系樹脂およびビス(2-エチルヘキシル)セバケート以外の軟化剤(他の軟化剤)を含有することができる。他の軟化剤としては、オイル、液状ジエン系重合体などが挙げられる。オイルとしては、例えば、パラフィン系、アロマ系、ナフテン系プロセスオイルなどのプロセスオイルが挙げられる。本明細書の軟化剤の含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0039】
前記液状ジエン系重合体は、常温(25℃)で液体状態のジエン系重合体である。液状ジエン系重合体は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が、耐久性および生産性の観点から、1.0×103~2.0×105であることが好ましく、3.0×103~1.5×104であることがより好ましい。なお、本発明において、液状ジエン系重合体のMwは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算値である。液状ジエン系重合体としては、液状スチレンブタジエン共重合体(液状SBR)、液状ブタジエン重合体(液状BR)、液状イソプレン重合体(液状IR)、液状スチレンイソプレン共重合体(液状SIR)などが挙げられる。なかでも、耐摩耗性と走行中の安定したグリップ性能がバランスよく得られるという理由から、液状SBRが好ましい。
【0040】
ゴム成分100質量部に対する軟化剤の合計含有量は、70質量部以上であり、75質量部以上が好ましい。70質量部未満の場合は、十分なウェットグリップ性能が得られないおそれがある。また、軟化剤の合計含有量は、耐摩耗性およびウェットグリップ性能の観点から、150質量部以下が好ましく、140質量部以下がより好ましい。
【0041】
本実施形態のトレッド用ゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される他の成分、例えば、ステアリン酸、酸化亜鉛、各種老化防止剤、ワックス、加硫剤、加硫促進剤などを適宜配合することができる。
【0042】
前記酸化亜鉛としては特に限定されず、タイヤなどのゴム分野で使用されているものなどが挙げられる。ここで、酸化亜鉛のなかでは、微粒子酸化亜鉛を好適に使用できる。具体的には、平均一次粒子径200nm以下の酸化亜鉛を使用することが好ましく、より好ましくは100nm以下である。該平均一次粒子径の下限は特に限定されないが、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上である。なお、酸化亜鉛の平均一次粒子径は、窒素吸着によるBET法により測定した比表面積から換算された平均粒子径(平均一次粒子径)を表す。
【0043】
酸化亜鉛を配合する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5~10質量部が好ましく、1~5質量部がより好ましい。酸化亜鉛の含有量が上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0044】
前記老化防止剤としては特に限定されず、ゴム分野で使用されているものが使用可能であり、例えば、キノリン系、キノン系、フェノール系、フェニレンジアミン系老化防止剤などが挙げられる。
【0045】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、0.8質量部以上がより好ましい。また、老化防止剤の含有量は、充填剤等の分散性、破断時伸び、混練効率の観点から、2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましく、1.2質量部以下がさらに好ましい。
【0046】
前記加硫剤としては、硫黄やカプロラクタムジスルフィドなどの硫黄含有化合物が用いられる。加硫剤としての硫黄としては、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、オイル処理硫黄などが挙げられる。これらはそれぞれ単独または2種以上を混合して用いることができる。
【0047】
加硫剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、良好な加硫反応の観点から、0.5質量部以上が好ましく、0.6質量部以上がより好ましい。また、加硫剤の含有量は、グリップ性能、耐摩耗性の観点から、3質量部以下が好ましく、2質量部以下がより好ましい。
【0048】
前記加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド-アミン系、アルデヒド-アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物などが挙げられる。なかでも、本発明の効果が好適に得られるという理由から、チアゾール系またはチウラム系加硫促進剤を有する加硫促進剤が好ましい。
【0049】
チアゾール系加硫促進剤としては、例えば、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾールのシクロヘキシルアミン塩、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィドなどが挙げられ、なかでも、ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィドが好ましい。また、チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)、テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド(TOT-N)などが挙げられる。
【0050】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫速度を確保するという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上が好ましい。また、加硫促進剤の含有量は、ブルーミングを抑制するという観点から、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0051】
本実施形態のトレッド用ゴム組成物は、一般的な方法で製造できる。例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロールなどの一般的なゴム工業で使用される公知の混練機で、前記各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練りした後、これに、加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りし、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0052】
他の実施形態である、前記トレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有するタイヤは、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して前記の配合剤を必要に応じて配合した前記トレッド用ゴム組成物を、トレッドの形状にあわせて押出し加工し、タイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより製造することができる。
【実施例
【0053】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0054】
実施例および比較例で使用した各種薬品について説明する。
SBR:旭化成(株)製のタフデン4850(未変性S-SBR、スチレン含量:40質量%、ビニル含量:46%、ゴム固形分100質量部に対してオイル分50質量部含有)
BR:宇部興産(株)のBR150B(ハイシスBR、シス含量97質量%、トランス含量2質量%、ビニル含量1質量%)
カーボンブラック:東海カーボン(株)製のシースト9SAF(N2SA:142m2/g、DBP吸油量:115ml/100g)
シリカ:エボニックデグサ社製のウルトラシルVN3(N2SA:175m2/g)
水酸化アルミニウム:昭和電工(株)製のハイジライトH-43(平均一次粒子径:0.78μm)
酸化アルミニウム:住友化学(株)製のA-26(平均一次粒子径:1μm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
クマロン系樹脂:Rutgers Chemicals社製のNOVARES C100(クマロンインデン樹脂、軟化点:100℃)
DOS:大八化学工業(株)製(ビス(2-エチルヘキシル)セバケート)
オイル:H&R社製のVivatec500(TDAEオイル、Tg:-58℃)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の酸化亜鉛2種
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
硫黄:軽井沢硫黄(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:フレキシス社製のPERKACIT DPG(1,3-ジフェニルグアニジン)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーTOT-N(テトラキス(2-エチルヘキシル)チウラムジスルフィド)
【0055】
実施例および比較例
表1および2に示す配合処方にしたがい、1.7Lの密閉型バンバリーミキサーを用いて、加硫剤および加硫促進剤以外の薬品を排出温度170℃になるまで5分間混練りし、混練物を得た。さらに、得られた混練物を前記バンバリーミキサーにより、排出温度150℃で4分間、再度混練りした(リミル)。次に、2軸オープンロールを用いて、得られた混練物に硫黄および加硫促進剤を添加し、4分間、105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を所定の形状の口金を備えた押し出し機でタイヤトレッドの形状に押し出し成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、プレス加硫することにより、試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を製造した。得られた試験用タイヤについて下記の評価を行った。評価結果を表1および2に示す。
【0056】
ウェットグリップ性能
各試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車の全輪に装着し、1周3kmのウェットアスファルト路面のテストコースを10周走行した。その際におけるベストラップ時のコントロールをテストドライバーが評価し、基準比較例を100とする指数で表示する。指数が大きいほどウェット路面におけるグリップ性能が高いことを示す。
【0057】
耐摩耗性
各試験用タイヤを排気量2000ccの国産FR車の全輪に装着し、1周3kmのドライアスファルト路面のテストコースを10周走行した後のタイヤ、ならびに前記ウェットグリップ性能評価後のタイヤの合計8本のタイヤのトレッドゴム残溝を計測し(新品時15mm)平均値を求めた。基準比較例を100とする指数で表示する。指数が大きいほど耐摩耗性が高いことを示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
表1および2の結果より、本発明のトレッド用ゴム組成物、ならびにこのトレッド用ゴム組成物により構成されたトレッドを有する本発明のタイヤは、耐摩耗性およびウェットグリップ性能に優れることがわかる。