IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-弾性材料の性能評価方法 図1
  • 特許-弾性材料の性能評価方法 図2
  • 特許-弾性材料の性能評価方法 図3
  • 特許-弾性材料の性能評価方法 図4
  • 特許-弾性材料の性能評価方法 図5
  • 特許-弾性材料の性能評価方法 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】弾性材料の性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/046 20180101AFI20220419BHJP
   G01N 23/083 20180101ALI20220419BHJP
   G01N 23/18 20180101ALI20220419BHJP
   G01N 3/56 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N23/046
G01N23/083
G01N23/18 310
G01N3/56 G
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018127022
(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公開番号】P2020008329
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】間下 亮
(72)【発明者】
【氏名】岸本 浩通
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-83182(JP,A)
【文献】特開2011-140612(JP,A)
【文献】特開2011-46775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-23/046
G01N 23/083
G01N 23/18
G01N 3/56
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法であって、
前記弾性材料からなる試験片に歪みを与えて、前記試験片の内部に複数の低密度領域を形成する工程と、
前記試験片の内部の前記低密度領域を撮像する工程と、
前記撮像されたデータの前記低密度領域の大きさの分布の範囲である低密度分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する工程とを含む、
方法。
【請求項2】
前記評価する工程は、前記低密度分布幅を予め定めた閾値と比較する工程と、前記低密度分布幅が前記閾値よりも小さいときに前記性能が良好であると判断する工程とを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記低密度領域の大きさとして、前記低密度領域の容積、又は、前記低密度領域を球に見立てたときの直径が用いられる、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記低密度分布幅は、下記式(1)で定義される請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
W=FWHM/R0 … (1)
ここで、
W:低密度分布幅
FWHM:低密度領域の大きさを正規分布に近似させた際の半値全幅
0:低密度領域の大きさの平均値
【請求項5】
前記性能は、耐摩耗性能である、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記撮像する工程が、コンピュータートモグラフィー法により行われ、
前記コンピュータートモグラフィー法において用いられるX線の輝度が1010photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw以上である、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記X線を可視光に変換するための蛍光体の減衰時間が100ms以下である、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記低密度領域を形成する工程は、前記試験片を伸長させる工程を含む、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記低密度領域を形成する工程は、前記試験片に0.5MPa以上の応力を作用させる工程を含む、請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を含むゴム材料である、請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記弾性材料は、タイヤ用のゴム材料である、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム又はエラストマーといった弾性材料の性能を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1は、ランボーン摩耗試験機を用いたタイヤの摩耗寿命予測方法を提案している。この予測方法は、先ず、ランボーン摩耗試験機の回転研磨砥石にゴム試験片を所定時間転動させて、ゴム試験片の摩耗量が測定される。そして、ゴム試験片の摩耗量に基づいて、タイヤの摩耗寿命が予測される。
【0003】
しかしながら、下記特許文献1で予測された摩耗寿命は、実際の摩耗寿命とは必ずしも一致しないという問題があった。そこで、本出願人は、下記特許文献2において、弾性材料の耐摩耗性能を評価するための方法を提案している。
【0004】
下記特許文献2の方法では、先ず、弾性材料からなる試験片に歪を印加して、その試験片の投影像が撮影される。試験片には、歪の印加によって空隙を含む複数の低密度領域が形成される。そして、その投影像から密度分布を測定し、その密度分布に基づいて、弾性材料の耐摩耗性能が評価される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2005-308447号公報
【文献】特開2017-83182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献2の方法では、それなりに評価できるが、低密度領域の密度分布が実質的に同じである、数は少ないが大小様々な低密度領域が形成されている試験片と、数は多いが均一の大きさの低密度領域が形成されている試験片との耐摩耗性能の違いを評価できないという問題があった。
【0007】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、弾性材料に形成された低密度領域の大きさの分布の範囲と、弾性材料の諸性能との間に相関があり、その分布の範囲に基づいて、弾性材料を評価することがより有効であることを知見した。
【0008】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、弾性材料の諸性能を高い精度で評価することができる方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能を評価するための方法であって、前記弾性材料からなる試験片に歪みを与えて、前記試験片の内部に複数の低密度領域を形成する工程と、前記試験片の内部の前記低密度領域を撮像する工程と、前記撮像されたデータの前記低密度領域の大きさの分布の範囲である低密度分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する工程とを含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記評価する工程は、前記低密度分布幅を予め定めた閾値と比較する工程と、前記低密度分布幅が前記閾値よりも小さいときに前記性能が良好であると判断する工程とを含んでもよい。
【0011】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記低密度領域の大きさとして、前記低密度領域の容積、又は、前記低密度領域を球に見立てたときの直径が用いられてもよい。
【0012】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記低密度分布幅は、下記式(1)で定義されてもよい。
W=FWHM/R0 … (1)
ここで、
W:低密度分布幅
FWHM:低密度領域の大きさを正規分布に近似させた際の半値全幅
0:低密度領域の大きさの平均値
【0013】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記性能は、耐摩耗性能であってもよい。
【0014】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記撮像する工程が、コンピュータートモグラフィー法により行われ、前記コンピュータートモグラフィー法において用いられるX線の輝度が1010photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw以上であってもよい。
【0015】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記X線を可視光に変換するための蛍光体の減衰時間が100ms以下であってもよい。
【0016】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記低密度領域を形成する工程は、前記試験片を伸長させる工程を含んでもよい。
【0017】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記低密度領域を形成する工程は、前記試験片に0.5MPa以上の応力を作用させる工程を含んでもよい。
【0018】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記弾性材料は、1種類以上の共役ジエン系化合物を含むゴム材料であってもよい。
【0019】
本発明に係る前記弾性材料の性能評価方法において、前記弾性材料は、タイヤ用のゴム材料であってもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法は、前記弾性材料からなる試験片に歪みを与えて、前記試験片の内部に複数の低密度領域を形成する工程と、前記試験片の内部の前記低密度領域を撮像する工程と、前記低密度領域の大きさの分布の範囲である低密度分布幅に基づいて、前記弾性材料の性能を評価する工程とを含んでいる。
【0021】
発明者らの実験によれば、前記弾性材料の諸性能(例えば、耐偏摩耗性能)と、前記低密度分布幅とは一定の相関があることが判明した。すなわち、前記低密度分布幅が大きい(低密度領域の大きさのバラツキが大きい)試験片ほど、例えば、諸性能が低いことが判明した。したがって、本発明の方法は、弾性材料の諸性能を高い精度で評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】弾性材料の性能評価方法に用いられる評価装置の概略構成を示す斜視図である。
図2】弾性材料の性能評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図3】(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片の断面図である。
図4】評価工程の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図5】低密度領域の大きさを測定する工程を示す図である。
図6】(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片について、低密度領域の大きさと、その頻度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
本実施形態の弾性材料の性能評価方法(以下、単に「方法」ということがある。)では、ゴム又はエラストマーを含む弾性材料の性能が評価される。弾性材料としては、適宜採用することができる。本実施形態の弾性材料としては、1種類以上の共役ジエン系化合物を含むゴム材料が挙げられる。また、弾性材料は、例えば、タイヤ用のゴム材料が挙げられる。本実施形態の方法で評価される性能の一例としては、耐摩耗性能が挙げられる。
【0024】
図1は、弾性材料の性能評価方法に用いられる評価装置の概略構成を示す斜視図である。本実施形態の評価装置1は、上記特許文献2の評価装置と同様に、歪印加手段2と、撮影手段5と、評価手段6とを含んで構成されている。
【0025】
歪印加手段2は、弾性材料からなる試験片10に歪みを与えて、試験片10の内部に空隙を含む複数の低密度領域を形成するためのものである。歪印加手段2は、一対の治具21、22と、駆動手段23とを有している。歪印加手段2の構成の詳細については、上記特許文献2に記載されているとおりである。
【0026】
撮影手段5は、試験片10にX線を照射して、投影像を撮影するためのものである。撮影手段5は、X線管51と、検出器52とを含んで構成されている。検出器52は、X線を可視光に変換するための蛍光体52aを有している。撮影手段5の構成の詳細については、上記特許文献2に記載されているとおりである。
【0027】
評価手段6は、投影像から測定される低密度領域に基づいて、弾性材料の性能を評価するためのものである。評価手段6は、例えば、コンピュータ60によって構成されている。コンピュータ60は、本体61、キーボード62、及びディスプレイ装置63を含んでいる。この本体61には、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ及びハードディスクなどの記憶装置が設けられる。記憶装置には、本実施形態の方法を実行するための処理手順(プログラム)が予め記憶されている。
【0028】
図2は、弾性材料の性能評価方法の処理手順の一例を示すフローチャートである。本実施形態の方法では、先ず、図1に示されるように、試験片10が治具21、22に固定される(工程S1)。本実施形態の試験片10は、上記特許文献2と同様に、円柱状に形成されている。試験片10を治具21、22に固定する手順については、上記特許文献2に記載されているとおりである。
【0029】
次に、本実施形態の方法では、試験片10に歪みを与えて、試験片10の内部に複数の低密度領域を形成する(工程S2)。本実施形態の工程S2では、円柱状の試験片10の軸心方向において、歪印加手段2の治具21、22が互いに離れる方向に、治具21、22を相対移動させている。これにより、工程S2では、試験片10を伸長させることができる。
【0030】
工程S2では、試験片10の伸長により、試験片10に応力を作用させることができる。この応力が弾性材料の臨界値を超えると、弾性材料の内部構造破壊が進行し、試験片10の内部に空隙15aを含む複数の低密度領域15(図3(a)、(b)に示す)が形成される。ここで、低密度領域15とは、弾性材料の密度が零、又は、零に近い部分である。本実施形態では、伸長前の弾性材料の平均密度を1としたときに、試験片10に歪みが与えられたときの弾性材料の密度が0.0~0.8である部分を低密度領域15として定義している。
【0031】
本実施形態の低密度領域15は、空隙15aと、低密度ゴム部15bとを含んでいる。本実施形態の空隙15aは、伸長前の弾性材料の平均密度を1としたときに、試験片10に歪みが与えられたときの弾性材料の密度が0.0~0.1(未満)である部分として定義される。一方、低密度ゴム部15bは、試験片10に歪みが与えられたときの弾性材料の密度が0.1~0.8である部分として定義される。
【0032】
試験片10に作用させる応力の大きさについては、適宜設定することができる。なお、応力が小さいと、試験片10に低密度領域15(図3(a)、(b)に示す)を形成できないおそれがある。このような観点より、試験片10には、好ましくは0.5MPa以上の応力を作用させるのが望ましい。一方、応力が大きくても、試験片10を大きく損傷させるおそれがある。このような観点より、試験片10には、好ましくは2.0MPa以下の応力を作用させるのが望ましい。
【0033】
次に、本実施形態の方法では、試験片10の内部の低密度領域15(図3(a)、(b)に示す)を撮像する(工程S3)。工程S3は、コンピュータートモグラフィー法により行われる。
【0034】
工程S3では、先ず、図1に示されるように、X線管51から試験片10にX線が照射される。X線は、試験片10を透過して、検出器52によって検出される。検出されたX線は、電気信号に変換される。電気信号は、コンピュータ60(評価手段6)に出力される。この電気信号が、コンピュータ60によって処理されることにより、試験片10の投影像が取得される。
【0035】
本実施形態の工程S3では、試験片10の軸心回りに、試験片10を回転させて、複数の投影像(回転シリーズ像)が取得される。そして、工程S3では、複数の投影像(回転シリーズ像)が、コンピュータートモグラフィー法によって再構成され、試験片10の三次元の断層画像(図示省略)が取得される。撮像されたデータ(試験片10の投影像、及び、試験片10の断層画像)は、コンピュータ60に記憶される。
【0036】
X線の輝度については、適宜設定することができる。なお、X線の輝度は、X線散乱データのS/N比に大きく関係している。X線の輝度が小さいと、X線の統計誤差よりもシグナル強度が弱くなる傾向にあり、計測時間を長くしても十分にS/N比の良いデータを得ることが困難となるおそれがある。このような観点から、X線の輝度は、1010photons/s/mrad2/mm2/0.1%bw以上が望ましい。
【0037】
X線を可視光に変換するための蛍光体52aの減衰時間については、適宜設定することができる。蛍光体52aの減衰時間は、上記特許文献2と同様に、先に撮影した投影像の残像が、後から撮影する投影像に影響するのを防ぐ観点から、好ましくは100ms以下であり、より好ましくは50ms以下であり、さらに好ましくは10ms以下である。
【0038】
図3(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片10A、10Bについて、取得された断層画像を、軸方向に垂直な任意の平面で切断した断面図である。低密度領域15(空隙15a及び低密度ゴム部15b)は、黒色で示されている。
【0039】
試験片10Aは、図3(a)に示されるように、数は多いが均一の大きさの低密度領域15が形成されている。一方、試験片10Bは、図3(b)に示されるように、数は少ないが大小様々な低密度領域15が形成されている。これらの試験片10A、10Bについて、上記特許文献2の方法で測定される密度分布では、低密度領域15の密度分布(低密度領域15の合計体積)が実質的に同一となり、耐摩耗性能の違いを評価できない場合がある。
【0040】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、弾性材料に形成された低密度領域15の大きさの分布の範囲と、弾性材料の諸性能(本実施形態では、耐偏摩耗性能)との間に相関があり、その分布の範囲に基づいて、弾性材料を評価することがより有効であるとの知見を得た。
【0041】
本実施形態の方法では、撮像されたデータの低密度領域15の大きさの分布の範囲である低密度分布幅に基づいて、弾性材料の性能を評価する(評価工程S4)。図4は、評価工程S4の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【0042】
本実施形態の評価工程S4では、先ず、試験片10の三次元の断層画像から、試験片10に形成された低密度領域15の三次元形状が特定される(工程S41)。工程S41では、試験片10の三次元の断層画像を画像処理することで、図3(a)、(b)に示されるように、低密度領域15が特定される。画像処理では、断層画像について、画像処理の最小単位である微細領域(図示省略)毎に密度を計算して、低密度領域15と、低密度領域15以外の領域とに区分される
【0043】
次に、本実施形態の評価工程S4では、低密度領域15の大きさがそれぞれ測定される(工程S42)。低密度領域15の大きさは、適宜測定することができる。本実施形態では、低密度領域15を球に見立てたときの直径が測定される。図5は、低密度領域15の大きさを測定する工程を示す図である。
【0044】
本実施形態の工程S42では、各低密度領域15を球形に近似させている。各低密度領域15を球形に近似させる方法については、適宜採用することができる。本実施形態では、各低密度領域15について、その外接球16がそれぞれ求められる。そして、これらの外接球16の直径Dが、各低密度領域15の大きさとして測定される。なお、各低密度領域15の内接球(図示省略)の直径が、低密度領域15の大きさとして測定されてもよい。
【0045】
本実施形態では、低密度領域15の大きさとして、低密度領域15を球に見立てたときの直径Dが測定されたが、このような態様に限定されない。例えば、低密度領域15の大きさとしては、低密度領域15の容積が測定(計算)されてもよい。
【0046】
上記のような低密度領域15の大きさは、コンピュータ60に記憶されている画像処理用のソフトウエアを用いることで、容易に測定することができる。低密度領域15の大きさは、コンピュータ60に記憶される。
【0047】
次に、本実施形態の評価工程S4では、低密度領域15の大きさの分布の幅である低密度分布幅Wが取得される(工程S43)。低密度分布幅Wは、下記式(1)で定義される。
W=FWHM/R0 … (1)
ここで、
W:低密度分布幅
FWHM:低密度領域の大きさを正規分布に近似させた際の半値全幅
0:低密度領域の大きさの平均値
【0048】
上記式(1)において、半値全幅FWHMは、低密度領域15の大きさの分布の広がりを示す指標である。半値全幅FWHMは、各低密度領域15の大きさ(直径D)の分布を正規分布に近似させ、その正規分布から求められる。正規分布は、低密度領域15の大きさの標準偏差から容易に求めることができる。
【0049】
低密度分布幅Wは、低密度領域15の大きさについて、その平均値R0に対する相対的なバラツキの大きさを示している。発明者らの実験によれば、弾性材料の諸性能(本実施形態では、耐偏摩耗性能)と、低密度分布幅Wとは一定の相関があり、低密度分布幅Wが大きい(低密度領域15の大きさのバラツキが大きい)試験片10ほど、諸性能が低いことが判明した。
【0050】
図6(a)、(b)は、配合が異なる弾性材料からなる2種の試験片10A、10B(図3(a)、(b)に示す)について、低密度領域15の大きさと、その頻度との関係を示すグラフである。図6(a)に示した試験片10Aは、図6(b)に示した試験片10Bに比べて、低密度領域15の大きさのバラツキが小さい。従って、本実施形態の方法では、試験片10A、10Bの低密度領域15の密度分布(低密度領域15の合計体積)が実質的に同一であったとしても、試験片10Bを、試験片10Aよりも諸性能(本実施形態では、耐編摩耗性能)が低いと判断することができる。したがって、本実施形態の方法は、弾性材料の諸性能を高い精度で評価することができる。
【0051】
次に、評価工程S4では、低密度分布幅Wを、予め定めた閾値Tと比較する(工程S44)。閾値Tについては、例えば、弾性材料に求められる諸性能(本実施形態では、耐摩耗性能)に応じて、適宜設定することができる。閾値Tの一例としては、例えば、2~5(本実施形態では、3)である。
【0052】
工程S44において、低密度分布幅Wが閾値Tよりも小さいときに(W<T)、性能が良好であると判断される(工程S45)。一方、工程S44において、低密度分布幅Wが閾値T以上であるときに(W≧T)、性能が不良であると判断される(工程S46)。この場合、配合を変更した新たな弾性材料が作製され、本実施形態の方法が再度実施される。これにより、諸性能に優れる弾性材料を確実に作製することができる。
【0053】
本実施形態では、耐摩耗性能が評価されたが、このような態様に限定されない。例えば、低密度分布幅Wに基づいて、弾性材料の耐引裂性能や、耐クラック性能が評価されてもよい。
【0054】
本実施形態では、空隙15a及び低密度ゴム部15bを含む低密度領域15の低密度分布幅に基づいて、弾性材料の性能が評価されたが、このような態様に限定されない。例えば、空隙15aのみを対象とする低密度分布幅に基づいて、弾性材料の性能が評価されてもよい。これにより、空隙15aが主として形成される弾性材料の性能を、適切に評価することができる。
【0055】
また、低密度ゴム部15bのみの対象とする低密度分布幅に基づいて、弾性材料の性能が評価されてもよい。これにより、低密度ゴム部15bが主として形成される弾性材料の性能を、適切に評価することができる。
【0056】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例
【0057】
弾性材料A乃至Fについて、本発明の方法で求められる低密度分布幅Wに基づいて耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(実施例)。比較例として、上記弾性材料A乃至Fについて、ランボーン試験機を用いて耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(比較例1)。さらに、上記特許文献2の方法で求められる密度分布評価に基づいて、耐摩耗性能が評価され、実車走行試験による耐摩耗性能の評価との相関が検証された(比較例2)。
【0058】
使用試薬は以下の通りである。
1.重合体(1):(変性基1個)
2.重合体(2):(変性基2個;重合体(1)のモノマー量違い)
3.重合体(3):(変性基3個;重合体(1)のモノマー量違い)
4.SBR :STYRON製のSPRINTAN SLR6430
5.BR :宇部興産(株)製のBR150B
6.変性剤 :アヅマックス(株)製の3-(N,N-ジメチルアミノプロピル)トリメトキシシラン
7.老化防止剤 :大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N-1,3-ジメチルブチル-N'-フェニル-p-フェニレンジアミン)
8.ステアリン酸:日本油脂(株)製のステアリン
9.酸化亜鉛 :東邦亜鉛(株)製の銀嶺R
10.アロマチックオイル:出光興産(株)製のダイアナプロセスAH-24
11.ワックス :大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
12.硫黄 :鶴見化学(株)製の粉末硫黄
13.加硫促進剤(1):大内新興化学工業(株)製のノクセラーCZ
14.加硫促進剤(2):大内新興化学工業(株)製のノクセラーD
15.シリカ :デグッサ製のウルトラジルVN3
16.シランカップリング剤:デグッサ製のSi69
17.カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックLH(N326、N2SA:84m2/g)
【0059】
モノマー及び重合体は、上記特許文献2の「実施例」に記載された方法と同様の手順で合成された。テスト方法のうち、「低密度分布幅W」については、次の通りであり、「ランボーン試験」、「密度分布評価」及び「実車走行試験」については、上記特許文献2の「実施例」に記載されるとおりである。
【0060】
<低密度分布幅W>
弾性材料A乃至Fについて、直径20mm、軸方向の長さが1mmの円柱状の試験片が準備された。そして、図2に示した手順にしたがって、弾性材料の性能が評価された。工程S2では、試験片に0.5MPaの応力を作用させて、試験片の内部に複数の低密度領域(空隙及び低密度ゴム部)を形成した。評価工程S4では、図4に示した手順にしたがって、低密度領域(空隙及び低密度ゴム部)の大きさ(球に見立てたときの直径D)が測定され、空隙及び低密度ゴム部について、低密度分布幅Wがそれぞれ求められた。そして、評価工程S4では、低密度分布幅Wに基づいて、耐摩耗性能が評価された。結果は、弾性材料Aを100とする指数であり、数値が大きい程、耐摩耗性能に優れていることを示す。
テスト結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
テストの結果、表1から明らかなように、実施例の方法は、比較例1に比べて実車走行試験との相関が良好であった。比較例2の方法では、数は多いが均一の大きさの低密度領域が形成されている弾性材料Bと、数は少ないが大小様々な低密度領域が形成されている弾性材料Cとの耐摩耗性能の違いを評価できなかったが、実施例の方法では、弾性材料B、Cの耐摩耗性能の違いを評価することができた。したがって、実施例の方法は、比較例1、2に比べて、弾性材料の諸性能を高い精度で評価できることが確認できた。
【符号の説明】
【0063】
S2 試験片の内部に複数の低密度領域を形成する工程
S3 試験片の内部の低密度領域を撮像する工程
S4 弾性材料の性能を評価する工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6