(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】カーボンブラック分散組成物およびその利用
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220419BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20220419BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220419BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20220419BHJP
C08L 1/08 20060101ALI20220419BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20220419BHJP
H01M 10/05 20100101ALI20220419BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220419BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M10/0566
H01M4/62 Z
C08K3/04
C08L1/08
C08L101/00
H01M10/05
H01M4/139
(21)【出願番号】P 2018144816
(22)【出願日】2018-08-01
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591183153
【氏名又は名称】トーヨーカラー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】平林 穂波
(72)【発明者】
【氏名】坪谷 和彦
【審査官】結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-203244(JP,A)
【文献】特表2016-514080(JP,A)
【文献】特開2004-281096(JP,A)
【文献】国際公開第2014/042266(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188175(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 10/0566
H01M 4/62
C08K 3/04
C08L 1/08
C08L 101/00
H01M 10/05
H01M 4/139
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックと、分散剤と、N-メチル-2-ピロリドンとを含むカーボンブラック分散組成物であって、カーボンブラックの含有量が20.5~30質量%、前記分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対し0.4質量部以上20質量部以下であり、前記分散剤がメチルセルロース及びエチルセルロースからなる群より選択された少なくとも1種であり、かつ、粘度極小値を示すせん断速度が1000s
-1より大きいことを特徴とする、カーボンブラック分散組成物。
【請求項2】
粘度極小値となるせん断速度が1000s
-1より大きく2000s
-1より小さいことを特徴とする、請求項1に記載のカーボンブラック分散組成物。
【請求項3】
カーボンブラック100質量部に対する前記分散剤の含有量が、1質量部以上10質量部以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載のカーボンブラック分散組成物。
【請求項4】
さらに、バインダーを含む請求項1~3いずれかに記載のカーボンブラック分散組成物。
【請求項5】
さらに、活物質を含む請求項1~4いずれかに記載のカーボンブラック分散組成物。
【請求項6】
集電体上に、請求項1~5いずれかに記載のカーボンブラック分散組成物より形成されてなる合剤層を有する電極。
【請求項7】
請求項6記載の電極と、非水電解液とを具備してなる電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散性、導電性、貯蔵安定性に優れたカーボンブラック分散組成物に関する。また、該分散組成物を使用した電池電極合剤層およびリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
電池分野において炭素材料は導電助剤として広く用いられているが、電極を製造する際に生産プロセスを効率化して短縮するためには、炭素材料を溶剤中にいかに高濃度かつ均一に分散して、容易に塗工可能とするかが重要である。
【0003】
近年、特に環境や生産コストへの配慮から、従来よりも、より高濃度かつ均一に分散された炭素材料分散組成物を作製することによって、溶剤使用量を低減することや乾燥時の使用エネルギーを低減することが求められている。これらの要求は、溶剤のコストや乾燥時の使用エネルギーに大きな影響があることから、使用する溶剤が高価であるほど、または、使用する溶剤が高沸点であるほど重要になる。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、自動車用等での利用が広がっており、高容量化のニーズがますます高まっている。高容量化に向けては、塗膜中の活物質量を増やしバインダー量を削減する等の方法が挙げられる。しかしながら、活物質の含有量の増加は、導電助剤の含有量が相対的に低下することを意味するが、この際導電助剤の分散が均一かつ安定でないと導電助剤および活物質が塗膜上に均一に分布できず、結果として電池特性に悪影響を及ぼす。すなわち、活物質含有量の増加に比例して、電池電極板の状態を均一かつ正常に保つ難易度は上昇する。
【0005】
一般に、分散剤を使用してカーボンブラックを分散する場合、分散剤の量が極端に少なくなるとカーボンブラックの分散性は悪化し、逆に分散剤の量が非常に多くなると分散性は良好になるものの、電池用途で使用する場合には、抵抗値が高くなり導電性が悪化するといった電池特性への悪影響が予想される。また、分散組成物の安定性および合剤組成物の塗膜特性は、使用する分散剤に大きく依存することが知られているが、使用する分散剤を変更することなくこれらの特性を大きく改善することは、一般に困難である。
【0006】
また、分散剤の効果は、pH、イオン強度、含有される材料等の因子によって大きく変わる場合があることが知られており、酸や塩基、塩等を添加剤として添加するだけで分散剤の機能や安定性、塗膜特性が悪化する場合がある。
【0007】
例えば、特許文献1には、アセチレンブラック、および分散媒を用いた分散組成物が記載されている。また、特許文献2には、カーボンブラック、非イオン性分散剤、および分散媒を用いた分散組成物が記載されている。しかしながら、特許文献1、2で開示されている分散組成物を用いて形成される電極合剤組成物では電池性能および塗膜の均一性が不十分で、電極合剤層を形成した際、電極合剤層中に導電助剤が均一に分布されず望ましい電池特性は得られない。
【0008】
さらに、特許文献3には、カーボンブラック、分散剤、バインダー、および電極活物質を含む合剤組成物にさらに酸性化合物を含むことで、貯蔵安定性および塗膜物性が改善されると開示されている。しかしながら、合剤組成物への酸性化合物添加は、合剤安定性や均一性に影響を及ぼす懸念がある点において望ましくないため、添加剤等なしでの処方設計が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2014/042266号
【文献】特許5628503号公報
【文献】特開2016-046188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の状況を鑑み、本発明では、カーボンブラック分散組成物の分散安定性を確保しつつ、合剤組成物および電極合剤層として使用した際、塗膜の均一性や電池特性を維持および向上させることができるカーボンブラック分散組成物を提供することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、メチルセルロースもしくはエチルセルロースを分散剤とし、かつ分散組成物の粘度極小値となるせん断速度を一定より高くすることで分散組成物そのものの分散性および安定性と、それを用いた合剤組成物の均一性の両立をなすことができることを見出し、本発明をなすに至ったものである。
【0012】
即ち、本発明の実施態様は、カーボンブラックと、分散剤と、N-メチル-2-ピロリドンとを含むカーボンブラック分散組成物であって、カーボンブラックの含有量が20.5~30質量%、前記分散剤の含有量がカーボンブラック100質量部に対し0.4質量部以上20質量部以下であり、前記分散剤がメチルセルロース及びエチルセルロースからなる群より選択された少なくとも1種であり、かつ、粘度極小値を示すせん断速度が1000s-1より大きいことを特徴とする、カーボンブラック分散組成物に関する。
【0013】
また、本発明の実施態様は、粘度極小値となるせん断速度が1000s-1より大きく2000s-1より小さいことを特徴とする、前記カーボンブラック分散組成物に関する。
【0014】
また、本発明の実施態様は、カーボンブラック100質量部に対する前記分散剤の含有量が、1質量部以上10質量部以下であることを特徴とする、前記カーボンブラック分散組成物に関する。
【0015】
また、本発明の実施態様は、さらに、バインダーを含む前記カーボンブラック分散組成物に関する。
【0016】
また、本発明の実施態様は、さらに、活物質を含む前記カーボンブラック分散組成物に関する。
【0017】
また、本発明の実施態様は、集電体上に、前記カーボンブラック分散組成物より形成されてなる合剤層を有する電極に関する。
【0018】
また、本発明の実施態様は、前記電極と、非水電解液とを具備してなる電池に関する。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の詳細を説明する。尚、本明細書では、「N-メチル-2-ピロリドン」を「NMP」、「正極活物質または負極活物質」を「電極活物質」または「活物質」、「活物質およびバインダーを含むカーボンブラック分散組成物」を「カーボンブラック合剤ペースト」、「合剤ペースト」または「合剤組成物」と略記することがある。
【0020】
<カーボンブラック>
本発明に用いるカーボンブラックとしては、市販のアセチレンブラック、ファーネスブラック、中空カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックなど各種のものを用いることができる。また、通常行われている酸化処理されたカーボンブラックや、黒鉛化処理されたカーボンブラック、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなども使用できる。
【0021】
カーボンブラックの酸化処理は、カーボンブラックを空気中で高温処理したり、硝酸や二酸化窒素、オゾン等で二次的に処理したりすることによって、例えばフェノール基、キノン基、カルボキシル基、カルボニル基のような酸素含有極性官能基をカーボンブラック表面に直接導入(共有結合)する処理であり、カーボンブラックの分散性を向上させるために一般的に行われている。
【0022】
分散組成物の製造に用いるカーボンブラックの平均一次粒子径としては、一般的な分散組成物や塗料に用いられるカーボンブラックの平均一次粒子径範囲と同様に0.01~1μmが好ましく、特に、0.01~0.2μmが好ましく、0.01~0.1μmがさらに好ましい。ここでいう平均一次粒子径とは、電子顕微鏡で測定された算術平均粒子径を示し、この物性値は一般にカーボンブラックの物理的特性を表すのに用いられている。
【0023】
カーボンブラックの物理的特性を表すその他の物性値としては、BET比表面積やpHが知られている。BET比表面積は、窒素吸着によりBET法で測定された比表面積(以下、単に比表面積と記載)を指し、この比表面積はカーボンブラックの表面積に対応しており、比表面積が大きいほど分散剤を必要とする量も多くなる。pHはカーボンブラック表面の官能基や含有不純物の影響を受けて変化する。
【0024】
本発明で用いるカーボンブラックは、BET比表面積が20~1500m2/gのものが好ましく、30~1000m2/gのものがより好ましく、30~500m2/gのものが特に好ましい。
【0025】
市販のカーボンブラックとしては、例えば、トーカブラック#4300、#4400、#4500、#5500等(東海カーボン社製、ファーネスブラック)、プリンテックスL等(デグサ社製、ファーネスブラック)、Raven7000、5750、5250、5000ULTRAIII、5000ULTRA等、Conductex SC ULTRA、Conductex 975 ULTRA等、PUER BLACK100、115、205等(コロンビヤン社製、ファーネスブラック)、#2350、#2400B、#2600B、#3050B、#3030B、#3230B、#3350B、#3400B、#5400B等(三菱化学社製、ファーネスブラック)、MONARCH1400、1300、900、VulcanXC-72R、BlackPearls2000等(キャボット社製、ファーネスブラック)、Ensaco250G、Ensaco260G、Ensaco350G、SuperP-Li(TIMCAL社製)、ケッチェンブラックEC-300J、EC-600JD(ライオン社製)、デンカブラック、デンカブラックHS-100、FX-35(デンカ社製、アセチレンブラック)等、グラファイトとしては、例えば人造黒鉛や燐片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛などの天然黒鉛が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0026】
本発明で用いるカーボンブラックは、特に限定されるものではないが、アセチレンブラックやファーネスブラックなど、高い導電性を有し、かつ工業的に生産されるカーボンブラックが好適に用いられる。
【0027】
<分散剤>
本発明における分散剤は、メチルセルロース及びエチルセルロースから選択された少なくとも1種以上のポリマーである。
【0028】
分散剤の重量平均分子量は、20,000以上200,000以下の範囲にあることが好ましく、40,000以上150,000以下の範囲にあることがより好ましい。さらに、40,000以上100,000以下の範囲になることが特に好ましい。分子量が大きすぎる分散剤を使用すると、得られる分散組成物の粘度が非常に高くなり、加工性や分散組成物およびそれを用いた合剤組成物の均一性が悪化する。一方、分子量が小さすぎる分散剤は分散性が乏しく、分散組成物の製造が難しくなる。限られた分散剤量で分散性と安定性を両立するためにも好ましい範囲の分散剤を使用することが望ましい。
【0029】
<N-メチル-2-ピロリドン>
本発明のカーボンブラック分散組成物は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含む。NMPは、リチウムイオン二次電池の電極製造に用いられている。本発明では、分散剤の効果、電池性能を損なわない範囲で、他の溶剤を1種類以上併用しても良いが、本発明の想定する産業上の利用可能性から、NMPを単独で用いることが好ましい。
【0030】
本発明において、カーボンブラック分散組成物に対する固形分の量は、電池用カーボンブラック分散組成物100質量%に対して、1~90質量%が好ましく、40~85質量%がより好ましく、55~85質量%がさらに好ましく、60~85質量%が特に好ましい。
【0031】
本発明のカーボンブラック分散組成物は、カーボンブラックの含有量が20.5~30質量%であり、分散剤としてのメチルセルロース、エチルセルロースの添加量は、カーボンブラック100質量部に対して、0.4質量部以上、20質量部以下であり、さらにNMPを含む。
【0032】
本発明において、カーボンブラックに対する分散剤としてのメチルセルロース、エチルセルロースの添加量は、カーボンブラック100質量部に対して、0.4質量部以上、20質量部以下であり、1質量部以上、10質量部以下が好ましく、1質量部以上、6質量部以下がより好ましい。
【0033】
カーボンブラック分散組成物における分散剤の添加量は、添加するカーボンブラックの比表面積やカーボンブラック粒子の分散後の平均粒子径、カーボンブラックへの吸着量等により決定される。
【0034】
本発明のカーボンブラック分散組成物は、上述のように、特定の濃度範囲のカーボンブラックかつ特定の分散剤を含有することに加え、さらに、カーボンブラック分散組成物の物性のうち、粘度極小値となるせん断速度を1000s-1より大きいことを特徴とする。粘度極小値となるせん断速度は組成物中のカーボンブラックの分散状態を表している。粘度極小値となるせん断速度を1000s-1より大きくなるような分散状態にすることで、本発明である優れた電池特性を有するカーボンブラック分散組成物を得ることができる。
【0035】
本発明における「粘度極小値となるせん断速度」について詳細に説明する。粘度極小値となるせん断速度とは、せん断速度に対する粘度が極小値となるそのせん断速度を指す。粘度極小値となるせん断速度は、レオメーターによって測定し得られる、組成物中のカーボンブラックの分散状態を表すパラメーターである。
本発明で示す粘度極小値となるせん断速度は、測定装置としてMARSIII(サーモフィッシャーサイ
エンティフィック社製)を使用し、センサーDC60/2、温度20℃一定下、せん断速度0.01~3000s-1の範囲を3分間で掃引したときの、せん断速度に対する粘度値を測定データとして読み取ることで得られる。本測定範囲におけるせん断速度に対する粘度値が減少から増加に変わるとき、本発明におけるカーボンブラック分散組成物が「粘度極小値となるせん断速度を有する」と判断できる。尚、本測定範囲において、粘度極小値となるせん断速度を有することが確認できればよく、上述の測定条件に限定されるものではない。
【0036】
せん断速度と粘度の関係は、流体中の粒子間の相互作用によって決まる。流体にはニュートン流体と非ニュートン流体が区別される。ニュートン流体とは、流れのせん断応力と流れの速度勾配(せん断速度)が比例した粘性の性質を持つ流体をいい、非ニュートン流体とはその性質を示さない流体をいう。すなわち、ニュートン流体はせん断速度を変化させても粘度一定となるが、非ニュートン流体はせん断速度に応じて粘度が変化する。
非ニュートン流体はさらに、せん断速度に応じる流動挙動によって(1)構造粘性、と(2)ダンラタンシー、とに分類される。(1)構造粘性は、せん断速度が大きくなると粘度が低くなる。これは、静置状態では粒子がより安定な凝集構造を作るが、応力が加わるとその凝集が壊れ低粘度化するためである。一方(2)ダイラタンシーは、せん断速度が大きいと粘度が高くなる。これは、静置状態で充填された状態にあるものが外力を加えることで充填構造ではなくなり、粒子同士が直接接触して固体のような挙動を示すためである。
【0037】
本発明のカーボンブラック分散組成物は、ある一定のせん断速度までは(1)構造粘性挙動を示し、ある一定のせん断速度を超えると(2)ダイラタンシー挙動を示す。そのため、粘度極小値をもつ流動挙動を示す。あるせん断速度で流動挙動が変化する(ある一定のせん断速度を超えるとダイラタンシー挙動を発現する)のは、ある一定のせん断速度に達すると、カーボンブラックの動きがそのせん断速度についていけなくなり、カーボンブラック同士が接触して形成する固体のような状態のまま流動しようとするため、である。
分散組成物の分散度が増すほど、カーボンブラック同士の凝集がほぐれて相互作用は小さくなり粘度が低下するため流体中で動きやすくなり、カーボンブラック同士が直接接触して固体のような挙動を示しにくくなる。そのため、流動挙動がダイラタンシー挙動へと変化するせん断速度、すなわち粘度極小値をもつせん断速度はより大きくなる。このような理由で、粘度極小値となるせん断速度は、組成物中のカーボンブラックの分散状態を表すパラメーターとすることができる。
【0038】
リチウムイオン二次電池用の合剤組成物におけるカーボンブラック分散組成物の分散度は重要である。リチウムイオン二次電池用の合剤組成物は、カーボンブラックがより分散されたカーボンブラック分散組成物を使用することで、効果的な導電パスを形成することができ、より良い導電性を発現させる。分散が不十分であると、合剤層においてカーボンブラックの偏在化が起こり、導電性が低下する。それらは電池性能特性やサイクル寿命に影響を与える。
【0039】
本発明におけるカーボンブラック分散組成物は、レオメーターの測定範囲0.01~3000s-1の中で、粘度極小値となるせん断速度が1000s-1より大きいときに、効果的な導電パスを形成することができ、合剤組成物の電池特性が良好となることを見出した。カーボンブラック分散組成物およびそれを用いた合剤組成物の粘度安定性、合剤組成物の塗工性および塗膜均一性をより良好にする点で、粘度極小値となるせん断速度が1000s-1より大きく2000s-1より小さい範囲内であることがより好ましい。
【0040】
<バインダー>
本発明のカーボンブラック分散組成物には、さらに、バインダーを含有させることができる。使用するバインダーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコール、マレイン酸、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリロニトリル、スチレン、ビニルブチラール、ビニルアセタール、ビニルピロリドン等を構成単位として含む重合体または共重合体;ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂;スチレン-ブタジエンゴム、フッ素ゴムのようなゴム類;ポリアニリン、ポリアセチレンのような導電性樹脂等が挙げられる。また、これらの樹脂の変性体や混合物、および共重合体でも良い。特に、耐性面から分子内にフッ素原子を有する高分子化合物、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン等の使用が好ましい。
【0041】
また、バインダーとしてのこれらの樹脂類の重量平均分子量は、10,000~2,000,000が好ましく、100,000~1,000,000がより好ましく、200,000~1,000,000が特に好ましい。分子量が小さいとバインダーの耐性や密着性が低下することがある。分子量が大きくなるとバインダーの耐性や密着性は向上するものの、バインダー自体の粘度が高くなり作業性が低下するとともに、凝集剤として働き、分散された粒子が著しく凝集してしまうことがある。
【0042】
本発明の想定する産業上の利用可能性から、バインダーは、フッ素原子を有する高分子化合物を含むことが好ましく、フッ素原子を有する高分子化合物であることが好ましく、フッ化ビニリデン系共重合体であることがさらに好ましく、ポリフッ化ビニリデンであることが特に好ましい。
産業上は優れた耐性を得るためにこれらのバインダーが主に用いられているが、接着性の弱い樹脂であるために、塗膜にした際の基材に対する密着性が弱く塗工や加工が困難になる場合が多く、さらに、塩基性金属酸化物の存在下で粘性が大きく増大する場合があり、貯蔵安定性に問題が出る場合がある。そのため、フッ化ビニリデン系共重合体やポリフッ化ビニリデンをバインダーとして用いつつも、密着性や貯蔵安定性を良好に維持したカーボンブラック分散組成物が求められている。
【0043】
<電極活物質>
本発明のカーボンブラック分散組成物は、上記分散剤、炭素材料としてカーボンブラック、溶剤としてNMP、およびバインダーを含むカーボンブラック分散組成物に、さらに電極活物質を含有させて使用することができる。
【0044】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定はされないが、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能な金属酸化物、金属硫化物等の金属化合物、および導電性高分子等を使用することができる。
例えば、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属の酸化物、リチウムとの複合酸化物、遷移金属硫化物等の無機化合物等が挙げられる。具体的には、MnO、V2O5、V6O13、TiO2等の遷移金属酸化物粉末、層状構造のニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、スピネル構造のマンガン酸リチウムなどのリチウムと遷移金属との複合酸化物粉末、オリビン構造のリン酸化合物であるリン酸鉄リチウム系材料、TiS2、FeSなどの遷移金属硫化物粉末等が挙げられる。また、ポリアニリン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子を使用することもできる。また、上記の無機化合物や有機化合物を混合して用いてもよい。
【0045】
リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、リチウムイオンをドーピングまたはインターカレーション可能なものであれば特に限定されない。例えば、金属Li、その合金であるスズ合金、シリコン合金、鉛合金等の合金系、LiXFe2O3、LiXFe3O4、LiXWO2、チタン酸リチウム、バナジウム酸リチウム、ケイ素酸リチウム等の金属酸化物系、ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子系、ソフトカーボンやハードカーボンといった、アモルファス系炭素質材料や、高黒鉛化炭素材料等の人造黒鉛、あるいは天然黒鉛等の炭素質粉末、カーボンブラック、メソフェーズカーボンブラック、樹脂焼成炭素材料、気層成長炭素繊維、炭素繊維などの炭素系材料が挙げられる。これら負極活物質は、1種または複数を組み合わせて使用することもできる。
【0046】
本発明で用いる電極活物質は、N-メチル-2-ピロリドン中で塩基性を示すことが好ましく、表面が炭素材料で被覆されていないことがより好ましい。
【0047】
本発明で用いる電極活物質は、リチウムおよびリチウム以外の金属元素を主要構成成分として含有することが好ましく、正極活物質であることがより好ましい。
【0048】
本発明で用いる正極活物質は、Al、Fe、Co、Ni、Mn等の遷移金属を含むリチウムとの複合酸化物であることが好ましく、Al、Co、Ni、Mnのうちいずれかを含むリチウムとの複合酸化物であることがより好ましく、Ni、および/または、Mnを含むリチウムとの複合酸化物であることが特に好ましい。これらの活物質を用いたとき、特に良好な効果を得ることができる。
【0049】
これらの電極活物質は、BET比表面積が0.1~10m2/gのものが好ましく、0.2~5m2/gのものがより好ましく、0.3~3m2/gのものがさらに好ましい。
【0050】
これらの電極活物質は、平均粒子径が0.05~100μmの範囲内であることが好ましく、さらに好ましくは、0.1~50μmの範囲内である。本明細書でいう電極活物質の平均粒子径とは電子顕微鏡で測定した粒子径の平均値である。
【0051】
<カーボンブラック分散組成物の製造方法>
本発明のカーボンブラック分散組成物は、分散剤としてメチルセルロース及びエチルセルロースから選択された少なくとも1種以上のポリマーを用いてカーボンブラックをNMP中に分散したものである。この場合、分散剤とカーボンブラックを同時、または順次添加し、混合することで、分散剤をカーボンブラックに作用(吸着)させつつ分散する。但し、カーボンブラック分散組成物の製造をより容易に行うためには、分散剤をNMP中に溶解、膨潤、または分散させ、その後、液中にカーボンブラックを添加し、混合することで分散剤をカーボンブラックに作用(吸着)させることが、より好ましい。また、NMP中に分散剤およびカーボンブラックを同時に仕込み分散処理を行っても良い。
【0052】
分散装置としては、顔料分散等に通常用いられている分散機を使用することができる。例えば、ディスパー、ホモミキサー、プラネタリーミキサー等のミキサー類、ホモジナイザー(エム・テクニック社製「クレアミックス」、PRIMIX社「フィルミックス」等、シルバーソン社製「アブラミックス」等)類、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、コロイドミル(PUC社製「PUCコロイドミル」、IKA社製「コロイドミルMK」)類、コーンミル(IKA社製「コーンミルMKO」等)、ボールミル、サンドミル(シンマルエンタープライゼス社製「ダイノミル」等)、アトライター、パールミル(アイリッヒ社製「DCPミル」等)、コボールミル等のメディア型分散機、湿式ジェットミル(ジーナス社製「ジーナスPY」、スギノマシン社製「スターバースト」、ナノマイザー社製「ナノマイザー」等)、エム・テクニック社製「クレアSS-5」、奈良機械社製「MICROS」等のメディアレス分散機、その他ロールミル等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0053】
次に、乾式処理により、カーボンブラックを分散剤で表面処理した後、分散組成物を製造する場合について説明する。NMP中に、下記乾式処理により得たカーボンブラックと分散剤の混合物を添加、混合する事により、カーボンブラック分散組成物を得ることが出来る。分散剤により表面処理されたカーボンブラックを得る方法としては、乾式処理による方法が挙げられる。
【0054】
本発明における乾式処理は、常温もしくは加熱下で乾式処理装置により、カーボンブラックおよび分散剤の混合、粉砕等を行いながら、カーボンブラック表面に分散剤を作用(吸着)させるものである。但し、カーボンブラック表面に分散剤が完全に吸着されている必要はなく、ある程度均質に混合出来ていれば、実用上は問題無い場合もある。使用する装置は、特に限定されるものではく、ペイントコンディショナー(レッドデビル社製)、ボールミル、アトライター、振動ミル等のメディア型分散機、ニーダー、ローラーミル、石臼式ミル、プラネタリーミキサー、フェンシェルミキサー、ハイブリダイザー((株)奈良機械製作所)、メカノマイクロス((株)奈良機械製作所)、メカノフュージョンシステムAMS(ホソカワミクロン(株))等のメディアレス分散・混錬機が使用できるが、コンタミ等を考慮し、メディアレスの分散・混錬機を使用するのがより好ましい。
【0055】
また、このとき処理物がゲル状にならない範囲で有機溶剤を添加してもよい。溶剤の添加による分散剤の濡れ、または(一部)溶解、およびカーボンブラックの分散剤に対する濡れが向上することで、カーボンブラックと分散剤間相互作用の促進が期待される。このとき用いる溶剤は特に限定されるものではないが、NMP以外を使用する場合は処理後に乾燥することが望ましい。また、有機溶剤の添加量は用いる材料により異なるが、分散剤の添加量に対して0.5~100質量%である。さらに、必要に応じて窒素ガスなどを流すことで、乾式処理装置内部を脱酸素雰囲気として処理を行っても良い。
【0056】
乾式処理時間は、用いる装置によって、また希望とする混練度に応じて任意に設定できる。これらの乾式処理を行うことにより、粉状もしくは塊状の処理物を得ることができる。得られた処理物については、その後さらに、乾燥、粉砕しても良い。
【0057】
本発明のカーボンブラック分散組成物は、上記分散剤、炭素材料としてのカーボンブラック、溶剤としてのN-メチル-2ピロリドンを含むカーボンブラック分散組成物に、バインダーおよび電極活物質を含有させたカーボンブラック分散組成物(以下、「合剤ペースト」と表記する)として使用することが好ましい。
【0058】
この合剤ペーストは、上記分散剤と、炭素材料と、溶剤と、バインダーと、電極活物質とを混合することにより製造することができる。各成分の添加順序等については限定されるものではなく、例えば、全成分を一括に混合する方法、上述の方法で予め作製した炭素材料分散組成物に残りの成分を投入して混合する方法、上述の方法で予め作製した炭素材料分散ワニスに電極活物質を投入して混合する方法等が挙げられる。
【0059】
合剤ペーストを製造するための装置としては、上述した本発明の分散組成物を作製する際に用いられるものと同様のものを使用することができる。
【0060】
<電池>
次に、本発明の組成物を用いた電池について説明する。本発明の組成物は、特にリチウムイオン二次電池に好適に使用することができる。以下ではリチウムイオン二次電池について説明するが、本発明の組成物を用いた電池はリチウムイオン二次電池に限定されるものではない。
【0061】
リチウムイオン二次電池は、集電体上に正極合剤層を有する正極電極と、集電体上に負極合剤層を有する負極電極と、リチウムを含む電解質からなる非水電解液とを具備する。
【0062】
電極について、使用する集電体の材質や形状は特に限定されず、材質としては、アルミニウム、銅、ニッケル、チタン、ステンレス等の金属や合金が用いられるが、特に正極材料としてはアルミニウムが、負極材料としては銅の使用が好ましい。また、形状としては、一般的には平板上の箔が用いられるが、表面を粗面化したものや、穴あき箔状のもの、およびメッシュ状のものも使用できる。また、集電体には、集電体と合剤層との接触抵抗や密着性を向上させる目的で、導電性の下地層を設けても良い。
【0063】
合剤層は、集電体上に上記の合剤ペーストを直接塗布し、乾燥することで形成できる。合剤層の厚みとしては、一般的には1μm以上、1mm以下であり、好ましくは100μm以上、500μm以下である。塗布方法については特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。具体的には、ダイコーティング法、ディップコーティング法、ロールコーティング法、ドクターコーティング法、スプレーコティング法、グラビアコーティング法、スクリーン印刷法、静電塗装法等が挙げられる。また、塗布後に平版プレスやカレンダーロール等による圧延処理を行っても良い。
【0064】
リチウムイオン二次電池を構成する電解液としては、リチウムを含んだ電解質を非水系の溶媒に溶解したものを用いる。電解質としては、LiBF4、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCF3SO3、Li(CF3SO2)2N、LiC4F9SO3、Li(CF3SO2)3C、LiI、LiBr、LiCl、LiAlCl、LiHF2、LiSCN、LiBPh4(ただし、Phはフェニル基である。)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0065】
非水系の溶媒としては特に限定はされないが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート類、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、γ-オクタノイックラクトン等のラクトン類、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキソラン、4-メチル-1,3-ジオキソラン、1,2-メトキシエタン、1,2-エトキシエタン、1,2-ジブトキシエタン等のグライム類、メチルフォルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート等のエステル類、ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド類、アセトニトリル等のニトリル類、N-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。またこれらの溶媒は、それぞれ単独で使用しても良いが、2種以上を混合して使用しても良い。特に、高誘電率で電解質の溶解力が高いエチレンカーボネートとその他溶媒との混合が好ましく、さらに、その他溶媒としてはプロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートジエチルカーボネート等の直線状のカーボネート系溶媒がより好ましい。
【0066】
更に上記電解液を、ポリマーマトリクスに保持しゲル状とした高分子電解質とすることもできる。ポリマーマトリクスとしては、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するアクリレート系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリホスファゼン系樹脂、ポリアルキレンオキシドセグメントを有するポリシロキサン等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0067】
本発明の組成物を用いた電池の構造については特に限定されないが、通常、正極および負極と、必要に応じて設けられるセパレーターとから構成され、ペーパー型、円筒型、角型、ボタン型、積層型、巻回型など、使用する目的に応じた種々の形状とすることができる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。本実施例中、部は質量部を、%は質量%を、それぞれ表す。
実施例及び比較例で使用したカーボンブラック(「CB」と略記することがある)、分散剤、電極活物質等を以下に示す。
【0069】
<カーボンブラック>
・LITX(登録商標)200(CABOT社製):ファーネスブラック、比表面積130m2/g、以下LITX200と略記する。
・LITX(登録商標)HP(CABOT社製):ファーネスブラック、比表面積100m2/g、以下LITXHPと略記する。
・デンカブラックHS-100(デンカ社製):アセチレンブラック、比表面積39m2/g、以下HS-100と略記する。
・デンカブラック粒状品(デンカ社製):アセチレンブラック、比表面積69m2/g、以下粒状品と略記する。
・デンカブラックFX-35(デンカ社製):アセチレンブラック、比表面積133m2/g、以下FX-35と略記する。
【0070】
<分散剤>
<メチルセルロース・エチルセルロース>
・メトローズSM-15(信越化学社製):メチルセルロース、置換度1.8、20℃における2%水溶液の粘度約15mPa・s、重量平均分子量約7万、以下、MC-1と略記する。
・メトローズSM-4(信越化学社製):メチルセルロース、置換度1.8、20℃における2%水溶液の粘度約4mPa・s、重量平均分子量約2.5万、以下MC-2と略記する。
・メトローズSM-25(信越化学社製):メチルセルロース、置換度1.8、20℃における2%水溶液の粘度約25mPa・s、重量平均分子量約9万、以下、MC-3と略記する。
・エトセルSTD-4(ダウケミカル社製):エチルセルロース、25℃における5%トルエン/エタノール(8/2)溶液の粘度 3.0~5.5mPa・s、重量平均分子量約4万、以下、EC-1と略記する。
・エトセルSTD-10(ダウケミカル社製):エチルセルロース、25℃における5%トルエン/エタノール(8/2)溶液の粘度 9.0~11.0mPa・s、重量平均分子量約8万、以下、EC-2と略記する。
【0071】
<その他>
・クラレポバール PVA-405(クラレ社製):ポリビニルアルコール、けん化度82モル%、平均重合度500、以下PVA-1と略記する。
・PVP K30(日本触媒社製):ポリビニルピロリドン、分子量約4万、以下PVP-1と略記する。
【0072】
<バインダー>
・KFポリマーW7300(クレハ社製):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、重量平均分子量約1000000。以下、PVDFと略記する。
【0073】
<電極活物質>
・LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2(戸田工業社製):正極活物質、ニッケルマンガンコバルト酸リチウム、電子顕微鏡で観察して求めた平均一次粒子径が5.5μm、窒素吸着量からS-BET式で求めた比表面積が0.62m2/g、以下、NCMと略記する。
・LiNi0.8Co0.15Al0.05O2(住友金属社製):正極活物質、ニッケルコバルトアルミ酸リチウム、電子顕微鏡で観察して求めた平均一次粒子径が5.8μm、窒素吸着量からS-BET式で求めた比表面積が0.38m2/g、以下、NCAと略記する。
【0074】
<カーボンブラック分散組成物の評価>
実施例1~14、比較例1~9で得られたカーボンブラック分散組成物の評価は、(1)粘度極小値となるせん断速度、(2)初期粘度値および粘度変化率、の測定により行った。評価方法は以下の通りである。
【0075】
<粘度極小値となるせん断速度>
レオメーター:MARSIII(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)、センサー:DC60/2、20℃一定、測定範囲0.01~3000s-1を使用してフローカーブを測定した。本発明のカーボンブラック分散組成物は、カーボンブラック含有量と、メチルセルロース及びエチルセルロースから選択された少なくとも1種を分散剤としたときのその分散剤量とが上述した範囲であり、かつ、粘度極小値となるせん断速度が1000s-1を超えていれば、その製造方法は限定されない。
【0076】
<初期粘度値および粘度変化率>
本発明で課題である分散安定性は、得られるカーボンブラック分散組成物の経時での粘度変化率より評価できる。粘度変化率は分散後の粘度測定値(初期粘度値)を基準としたときの50℃10日間静置保存した後の粘度測定値の変化率によって評価した。変化の少ないものほど安定性が良好であることを示す。粘度値の測定は、B型粘度計(東機産業社製「BL」)を用いて、分散組成物温度25℃、B型粘度計ローター回転速度60rpmにて、分散組成物をヘラで充分に撹拌した後、直ちに行った。測定に使用したローターは、粘度値が100mPa・s未満の場合はNo.1を、100mPa・s以上500mPa・s未満の場合はNo.2を、500mPa・s以上2000mPa・s未満の場合はNo.3を、2000mPa・s以上10000mPa・s未満の場合はNo.4のものをそれぞれ用いた。粘度変化率は下記の4段階で評価した。
○;粘度変化率の絶対値が20%以内(良好)
△;粘度変化率の絶対値が50%以内(やや不良)
×;粘度変化率の絶対値が50%超え、もしくはゲル化(不良)
-;初期ですでに粘度不良(初期不良)
【0077】
<カーボンブラック分散組成物の調製>
[実施例1]
ガラス瓶にN-メチル-2-ピロリドン75部と分散剤MC-1 1部を仕込み、充分に混合溶解、または混合分散した後、カーボンブラック粒状品24部を加え、ジルコニアビーズをメディアとして、ペイントコンディショナーで分散した。粘度極小値となるせん断速度を測定したところ1300s-1であり、1000s-1を超えていることを確認したため分散を終了し、カーボンブラック分散組成物D-1を得た。
【0078】
[実施例2~16]
表1に示す組成に従い、実施例1と同様の方法でカーボンブラック分散組成物を作製した。全て、粘度極小値となるせん断速度を測定し1000s-1を超えていることを確認して分散を終了し、カーボンブラック分散組成物D-2~16を得た。
【0079】
[比較例1]
実施例1と同様の組成、同様の方法でカーボンブラック分散組成物を作製した。得られた分散組成物D-17は、粘度極小値となるせん断速度750s-1で分散を終了した。
【0080】
[比較例2、3]
組成をカーボンブラック粒状品20部、分散剤MC-1 0.8部、N-メチル-2-ピロリドン79.2部とした以外は実施例1と同様の方法でカーボンブラック分散組成物を作製した。分散組成物は、粘度極小値となるせん断速度違いで2点作製し、カーボンブラック分散組成物D-18は500s-1で分散を終了し、カーボンブラック分散組成物D-19は1300s-1で分散を終了した。
【0081】
[比較例4、5]
組成をカーボンブラック粒状品15部、分散剤MC-1 0.6部、N-メチル-2-ピロリドン84.4部とした以外は実施例1と同様の方法でカーボンブラック分散組成物を作製した。分散組成物は、粘度極小値となるせん断速度違いで2点作製し、カーボンブラック分散組成物D-20は500s-1で分散を終了し、カーボンブラック分散組成物D-21は1300s-1で分散を終了した。
【0082】
[比較例6~9]
表1に示す組成に従い、実施例1と同様の方法でカーボンブラック分散組成物を作製した。カーボンブラック分散組成物D-22(比較例6)は、分散することで高粘度化し、取り出しが困難であった。その他の分散組成物は、粘度極小値となるせん断速度を測定し1000s-1を超えていることを確認して分散を終了し、カーボンブラック分散組成物D-23~25を得た。
【0083】
【0084】
実施例1~16で得られたカーボンブラック分散組成物D-1~16は全て粘度極小値となるせん断速度が1000s-1より大きくなるまで分散しても粘度安定性良好であった。
実施例1と比較例1との比較により、粘度極小値となるせん断速度が1000s-1以下では導電助剤の分散度にばらつきがあるためか分散安定性がやや不良となり、カーボンブラック分散組成物そのものの評価においても、粘度極小値となるせん断速度を1000s-1より大きくすることが有効であることを確認した。
実施例8と比較例2~5との比較により、カーボンブラックの含有量が少ないと、分散の進み具合(粘度極小値となるせん断速度)によらず分散安定性が低下する。
実施例1と比較例6、7との比較により、分散剤を規定量添加することで分散性および安定性のバランスが取れることが確認された。特に、分散剤量が少なすぎると分散性不良となる。
実施例1~5と比較例8,9との比較により、規定した添加量ではPVAやPVPのような分散剤では分散性と安定性を両立することができず、MCもしくはECが分散剤として有効であることを確認した。
【0085】
<正極活物質を含むカーボンブラック分散組成物の調製>
[実施例17~35、比較例10~18]
表2に示す組成に従い、実施例1~16、比較例1~9で得たカーボンブラック分散組成物(D-1~25)に対し、バインダー、正極活物質を仕込み、ディスパーにより充分に混合し、正極活物質を含むカーボンブラック分散組成物(カーボンブラック合剤ペースト)BC-1~28を得た。
【0086】
<正極活物質を含むカーボンブラック分散組成物の評価>
実施例17~35、比較例10~18で得られたカーボンブラック合剤ペーストの評価は、(1)塗膜測色および(2)電池電極膜の抵抗値測定により行った。カーボンブラック合剤ペーストの塗膜測色により塗膜の均一性、得られた電池電極膜の抵抗値測定によりカーボンブラック分散組成物の電池特性を評価できる。評価方法は以下の通りである。
【0087】
<塗膜測色>
上記の各実施例、比較例で得られた、カーボンブラック合剤ペーストBC-1~28をPETフィルム上にドクターブレードを用いて塗工した後、140℃で5分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの塗膜を作製した。得られた塗膜の評価は、分光色差計(日本電色工業社製、SE-6000)を用いて、塗膜の表面および裏面の明度(L値)をそれぞれ測定し、その明度差ΔLを評価した。ΔLが小さいものほど塗膜が均一であることを示す。測定は、C/2光源を用い、測定し、波長範囲を380~780nmとした。
明度差は下記の3段階で評価した。
○(良好):ΔL≦5
△(やや不良):5<ΔL≦10
×(不良):ΔL>10
カーボンブラック分散組成物の分散状態が不十分であると、合剤層において、電極活物質や炭素の偏りが生じる。より均一に分散された分散組成物では、電極活物質と混合したときに均一に混ざり合い、塗膜化しても偏りなく電極活物質中に導電助剤であるカーボンブラックが存在し得る。塗膜の表裏の明度差が小さい、ということはすなわち塗膜がより均一であることを示す。
【0088】
<電池電極膜の抵抗値測定>
上記の各実施例、比較例で得られた、カーボンブラック合剤ペーストBC-1~28をPETフィルム上にドクターブレードを用いて塗工した後、減圧下120℃で30分間乾燥し、乾燥後膜厚100μmの塗膜(電池電極合剤層)を作製した。得られた電池電極膜の評価として、抵抗率計「ロレスタGP」(ロレスタGP MCP-T610型抵抗率計、JIS-K7194準拠、4端子4探針法定電流印加方式、三菱化学アナリテック社製)(0.5cm間隔の4端子プローブ)を用い、電池電極膜の体積抵抗率(Ω・cm)を測定した。
体積抵抗率は下記の4段階で評価した。
◎(優秀):30Ω・cm未満
○(良好):30Ω・cm以上50Ω・cm未満
△(やや不良):50Ω・cm以上70Ω・cm未満
×(不良):70Ω・cm以上
【0089】
【0090】
実施例17~35で得られたカーボンブラック合剤ペーストBC-1~19は、比較例10~18で得られたカーボンブラック合剤ペーストBC-20~28と比較して塗膜の均一性に優れ、電池電極膜の抵抗値も良好であることが明らかとなった。
【0091】
<リチウムイオン二次電池正極評価用セルの組み立て>
[実施例36~54、比較例19~比較例27]
先に調製したカーボンブラック合剤ペーストBC-1~28(実施例17~35、および比較例10~18の合剤ペースト)を、集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧下120℃で加熱乾燥した後、ローラープレス機にて圧延処理し、厚さ100μmの正極合剤層を作製した。これを直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極および対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(厚さ20μm、空孔率50%)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを容量比1:1で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝泉社製HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立ては、アルゴンガス置換したグローブボックス内で行った。
【0092】
<リチウムイオン二次電池正極特性評価>
作製した正極評価用セルを30℃で、充放電装置(北斗電工社製SM-8)を使用して、充電レート1.0Cの定電流定電圧充電(上限電圧4.2V)で満充電とし、充電時と同じレートの定電流で、放電下限電圧3.0Vまで放電を行う充放電を1サイクル(充放電間隔休止時間30分)とし、このサイクルを合計50サイクル行い、充放電を行った。アルゴンガス置換したグローブボックス内で評価後のセルを分解し、電極塗膜の外観(50サイクル後の塗膜外観)を目視にて確認した。評価結果を表3に示した。
塗膜外観の評価基準は以下の通りである。
○(極めて良好);集電体からの剥がれが認められず外観に全く変化が無い場合
△(良好);剥がれてはいないが外観に変化が認められる場合
×(不良);部分的に合剤が集電体より剥がれが認められる場合
また、容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目の放電容量の百分率であり、数値が100%に近いものほど良好であることを示す。
◎(極めて良好);容量維持率が95%以上の場合
〇(良好);容量維持率が90%以上95%未満の場合
△(可);容量維持率が80%以上90%未満の場合
数値無し(-);集電体からの塗膜の剥離やショート等により正常な充放電曲線が得られず、容量が求められなかった場合
【0093】
【0094】
表3より、本発明の電極を使用した実施例36~54は、比較例19~比較例27と比較して、50サイクル後の塗膜外観や容量維持率についても、良好な結果であった。
一方、比較例23~24は、良好な塗膜を得ることが出来なかったため、正極特性を評価することが出来なかった。比較例20、22、25~27は、塗膜を得ることはできたが、サイクル試験の途中で分散剤が電解液へと溶解または大きく膨潤したため、正極特性を評価することが出来なかった。