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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】消毒剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 47/44 20060101AFI20220419BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20220419BHJP
   A01N 37/40 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/155 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/235 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 31/085 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 8/43 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 8/37 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 8/36 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 8/34 20060101ALI20220419BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20220419BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20220419BHJP
   A01N 31/04 20060101ALI20220419BHJP
   A01N 31/14 20060101ALI20220419BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20220419BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
A01N47/44
A01N25/02
A01N37/40
A61K31/155
A61K31/235
A61K47/12
A61K47/10
A61K31/085
A61P31/04
A61P31/12
A61K8/43
A61K8/37
A61K8/36
A61K8/34
A61Q19/10
A01N37/36
A01N31/04
A01N31/14
A01P3/00
A01P1/00
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018195857
(22)【出願日】2018-10-17
(65)【公開番号】P2020063210
(43)【公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【弁理士】
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】島村 佳久
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【審査官】奥谷 暢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-118352(JP,A)
【文献】特表2004-500385(JP,A)
【文献】特開2013-129611(JP,A)
【文献】国際公開第2004/093859(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A61K
A61P
A61Q
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)クロルヘキシジンまたはその塩を0.01~1質量%、
(b)パラオキシ安息香酸エステルを0.001~0.5質量%、
(c)炭素数2~6のカルボン酸を0.1~10質量%、
(d)炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコールを0.1~30質量%含有し、
pHが2~5であり、1価の低級アルコールを含まない消毒剤。
【請求項2】
さらに、(e)フェノキシエタノールを0.1~10質量%含有する、
請求項1に記載の消毒剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殺菌力及びウイルス不活化効果に優れた消毒剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、細菌やウイルスを原因とした感染症が問題となっており、感染予防の観点から各種の消毒剤が市販されている。
消毒剤は、エタノールやイソプロパノールに代表される1価の低級アルコール配合消毒剤、塩化ベンザルコニウムに代表される界面活性剤配合消毒剤、グルコン酸クロルヘキシジンに代表されるビグアニド系配合消毒剤、の3種類に大別される。このうち、ビグアニド系配合消毒剤は、臭気が少ない、皮膚に対する刺激が少ないこと等が特徴として知られている。
【0003】
例えば、特許文献1ではグルコン酸クロルヘキシジンを、イソプレングリコール等の溶剤に溶解した消毒剤が、大腸菌に対する殺菌力の持続性に優れることを開示している。
特許文献2では、グルコン酸クロルヘキシジン、グリセリン、シリコーンポリマーを水に溶解させた消毒剤が、グラム陽性およびグラム陰性細菌を減少させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-161001号公報
【文献】特表2012-500195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の消毒剤は、大腸菌以外の菌種に対しては効果が確認されていない。大腸菌以外にも病原性の細菌は多く存在し、例えば黄色ブドウ球菌は、血流感染、手術部位感染、および肺炎を含む感染の主な原因として報告されている。したがって、広範な殺菌スペクトルを有する、殺菌力の高い消毒剤が求められている。
特許文献2に記載の消毒剤は、グラム陽性およびグラム陰性細菌に対して効果があるものの、ウイルスに対しては不活化効果がない。ここで、ウイルス不活化効果とは、ウイルスの感染力や毒性等の活性を失わせることをいう。
ウイルスによる感染症も重篤な健康被害をもたらすことがあり、例えばインフルエンザウイルスは世界中で流行している呼吸器感染症の原因ウイルスである。したがって、広範な殺菌スペクトルを有しているだけでなく、ウイルスに対しても不活化効果を有する消毒剤であることが望ましい。
【0006】
また、ウイルスに対する不活化効果を消毒剤に付与するにあたり、1価の低級アルコールを配合することがある。その場合、アルコール過敏体質の使用者にとっては、皮膚への影響を懸念し、使用を敬遠する傾向がある。そのため、1価の低級アルコールを含有せず、ウイルスに対して不活化効果を有する消毒剤が望ましい。
【0007】
そこで、本発明は、1価の低級アルコールを用いなくても、殺菌力及びウイルス不活化効果に優れる消毒剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記の問題点に鑑み鋭意検討した結果、(a)クロルヘキシジンまたはその塩、(b)パラオキシ安息香酸エステル、(c)炭素数2~6のカルボン酸、(d)炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコールをそれぞれ特定量含有し、pHが一定範囲であり、かつ1価の低級アルコールを含まない消毒剤により上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の[1]~[2]を要旨とするものである。
[1](a)クロルヘキシジンまたはその塩を0.01~1質量%、(b)パラオキシ安息香酸エステルを0.001~0.5質量%、(c)炭素数2~6のカルボン酸を0.1~10質量%、(d)炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコールを0.1~30質量%含有し、pHが2~5であり、1価の低級アルコールを含まない消毒剤。
[2]さらに、(e)フェノキシエタノールを0.1~10質量%含有する、上記[1]に記載の消毒剤。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、殺菌力が高く、ウイルス不活化効果にも優れる消毒剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を更に詳細に説明する。
なお、本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量など)を段階的に記載した場合、各下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~100、より好ましくは20~90」という記載において、「好ましい下限値:10」と「より好ましい上限値:90」とを組み合わせて、「10~90」とすることができる。
【0012】
本発明の消毒剤は、(a)クロルヘキシジンまたはその塩を0.01~1質量%、(b)パラオキシ安息香酸エステルを0.001~0.5質量%、(c)炭素数2~6のカルボン酸を0.1~10質量%、(d)炭素数3~8、かつ2価又は3価の多価アルコールを0.1~30質量%含有し、pHが2~5であり、1価の低級アルコールを含まない消毒剤である。
以下、本発明の消毒剤について詳細に説明する。
【0013】
本発明の消毒剤は、1価の低級アルコールを含まないものである。1価の低級アルコールを含まないことにより、皮膚への刺激が少なくなり、アルコール過敏体質の使用者にとって使用しやすい消毒剤となる。ここで、1価の低級アルコールとは、1価の炭素数1~5のアルコールを意味する。なお、1価の低級アルコールを含まないとは、1価の低級アルコールを意図的に配合しないという意味であり、例えば、消毒剤中に不可避的な不純物として含有されうる1価の低級アルコールは許容される。
【0014】
<(a)クロルヘキシジンまたはその塩>
本発明の消毒剤は、(a)クロルヘキシジンまたはその塩(以下、単に成分(a)ということもある)を含有する。
成分(a)は、クロルヘキシジン、またはその塩であり、例えば、グルコン酸クロルヘキシジン、パルミチン酸クロルヘキシジン、ホスファニル酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジン、塩化クロルヘキシジン、ヨウ化水素酸クロルヘキシジン、過塩素酸クロルヘキシジン、硝酸クロルヘキシジン、硫酸クロルヘキシジン、亜硫酸クロルヘキシジン、チオ硫酸クロルヘキシジン、リン酸水素クロルヘキシジン、フルオロリン酸クロルヘキシジン、ギ酸クロルヘキシジン、プロピオン酸クロルヘキシジン、ヨード酪酸クロルヘキシジン、n-バレリアン酸クロルヘキシジン、カプロン酸クロルヘキシジン、マロン酸クロルヘキシジン、コハク酸クロルヘキシジン、リンゴ酸クロルヘキシジン、酒石酸クロルヘキシジン、モノグリコール酸クロルヘキシジン、ジグリコール酸クロルヘキシジン、乳酸クロルヘキシジン、α-ヒドロキシイソ酪酸クロルヘキシジン、グルコヘプトン酸クロルヘキシジン、イソチオン酸クロルヘキシジン、安息香酸クロルヘキシジン、ケイ皮酸クロルヘキシジン、マンデル酸クロルヘキシジン、イソフタル酸クロルヘキシジン、2-ヒドロキシナフトエ酸クロルヘキシジン等が挙げられる。これらの中でも、グルコン酸クロルヘキシジン、酢酸クロルヘキシジン、塩酸クロルヘキシジンが好ましく、グルコン酸クロルヘキシジンがより好ましい。
【0015】
成分(a)の消毒剤中の含有量は、0.01~1質量%である。含有量が0.01質量%より低い場合、消毒剤は広範な殺菌スペクトルを発揮できないおそれがある。含有量が1質量%より高い場合、成分(a)を増量することによる殺菌力の大きな改善が見込めず、費用対効果の関係から好ましくない。成分(a)の含有量として、好ましくは0.05~0.5質量%、より好ましくは0.1~0.3質量%である。
【0016】
<(b)パラオキシ安息香酸エステル>
本発明の消毒剤は、(b)パラオキシ安息香酸エステル(以下、単に成分(b)ということもある)を含有する。
成分(b)としては、パラオキシ安息香酸のアルキルエステルであることが好ましく、パラオキシ安息香酸の炭素数1~4のアルキルエステルであることがより好ましい。
具体的には、成分(b)としては、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含有することが好ましく、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピルからなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることがより好ましい。これらの中でも、パラオキシ安息香酸メチル及びパラオキシ安息香酸プロピルを併用することが特に好ましい。
【0017】
消毒剤中の成分(b)の合計含有量は、0.001~0.5質量%である。含有量が0.001質量%より低い場合、殺菌力とウイルス不活化効果が低くなる。含有量が0.5質量%より高い場合、使用感の悪化を招く可能性がある。成分(b)の含有量は、好ましくは0.1~0.5質量%である。
成分(b)として、パラオキシ安息香酸メチル及びパラオキシ安息香酸プロピルを併用する場合は、パラオキシ安息香酸メチルをパラオキシ安息香酸プロピルと同量以上用いることが好ましい。パラオキシ安息香酸プロピルに対するパラオキシ安息香酸メチルの質量比(パラオキシ安息香酸メチル/パラオキシ安息香酸プロピル)は、1~50であることが好ましく、5~25であることがより好ましい。
【0018】
<(c)炭素数2~6のカルボン酸>
本発明の消毒剤は、(c)炭素数2~6のカルボン酸(以下、単に成分(c)ということもある)を含有する。
成分(c)としては、炭素数2~6のカルボン酸であれば特に制限されないが、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、グルコン酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸、マレイン酸、ソルビン酸、酢酸、プロピオン酸からなる群から選択される少なくとも1種を含有することが好ましい。なお、カルボン酸はD体、L体およびDL体いずれであってもよい。
成分(c)は、価数が3以上のカルボン酸(以下、カルボン酸Aともいう)を含有することが好ましく、カルボン酸Aと価数が2以下のカルボン酸(以下、カルボン酸Bともいう)とを併用することがより好ましい。併用する場合、カルボン酸Bに対するカルボン酸Aの質量比(カルボン酸A/カルボン酸B)は、1/20~20/1が好ましく、1/10~10/1がより好ましい。カルボン酸Aとしてはクエン酸が好ましく、カルボン酸Bとしては乳酸またはリンゴ酸が好ましい。
【0019】
消毒剤中の成分(c)の合計含有量は、0.1~10質量%である。含有量が0.1質量%より低い場合、カルボン酸による殺菌力、ウイルス不活化効果の改善が見込めない。カルボン酸の含有量が10質量%より高い場合、消毒剤のpHは成分(c)のみに依存するわけではないが、目標とするpHに制御することが困難となる。消毒剤中の成分(c)の合計含有量は、好ましくは0.2~8質量%であり、より好ましくは0.5~5質量%である。
【0020】
<(d)炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコール>
本発明の消毒剤は、(d)炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコール(以下、単に成分(d)ということもある)を含有する。
成分(d)は炭素数3~8であり、かつ2価又は3価の多価アルコールであれば特に限定されない。成分(d)は、1,2-オクタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、及びグリセリンから選択される、少なくとも1種の化合物を含有することが好ましく、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンから選択される少なくとも1種の化合物を含有することがより好ましい。これらの中でも、成分(d)は、1,3-ブチレングリコールを含有することが特に好ましい。
【0021】
消毒剤中の成分(d)の合計含有量は、0.1~30質量%である。含有量が0.1質量%より少ない場合、消毒剤の殺菌力が低く、また消毒剤を手指に塗布し、伸ばして使用することが難しくなるなど、消毒剤が使用し難くなる。含有量が30質量%より高い場合、使用時にべたつき等が現れ、使用感が悪化する可能性がある。成分(d)の含有量として、好ましくは0.5~20質量%、より好ましくは4~15質量%である。
【0022】
<(e)フェノキシエタノール>
本発明の消毒剤は、(e)フェノキシエタノール(以下、単に成分(e)ということもある)を含有してもよい。消毒剤中の成分(e)の含有量は、0.1~10質量%であることが好ましい。この範囲であれば、殺菌力を特に高めることができる。成分(e)の含有量は、より好ましくは0.1~1質量%である。
【0023】
本発明の消毒剤は、溶媒としての水を含有する組成であってもよい。水としては、精製水を使用するのが好ましい。
【0024】
消毒剤は、25℃におけるpHが2~5である。pHが5より大きい場合、殺菌力及びウイルス不活化効果が低下する。pHが2より小さい場合、殺菌力及びウイルス不活化効果は低下しないが、皮膚への刺激が強くなるおそれがある。pHは、第十七改正日本薬局方 一般試験法2.54に準拠して測定する。
【0025】
本発明の消毒剤は、本発明の効果を阻害しない限り、成分(a)~(d)、及び必要に応じて配合される成分(e)並びに水以外に、その他の任意成分として、保湿剤、pH調整剤等、可溶化剤、安定剤等を含有してもよい。
【0026】
保湿剤としては、例えば、N-ココイル-L-アルギニンエチルエステルDL-ピロリドンカルボン酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩、乳酸ナトリウム、尿素等、さらには式(1)で表される2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン70~90モル%とメタクリル酸ブチル30~10モル%とを共重合させた、重量平均分子量50,000~1,000,000の共重合体(以下、共重合体A)が挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。このうち、特に共重合体Aの使用が好ましい。
【化1】
【0027】
本発明のpH調整剤は、成分(c)と組み合わせることでpHを調整することが可能な水溶性の塩基性化合物であり、例えば、塩基性の無機塩、アミン、塩基性のアミノ酸等を挙げることができる。pH調整剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムのようなアルカリ金属の水酸化物;クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、乳酸カルシウム、酒石酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムのようなカルボン酸の塩;水酸化アンモニウムのようなアンモニウムの水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミンのようなアルカノールアミン;2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1,3-プロパンジオールのようなアルキルアミン;リジン、アルギニンのような塩基性アミノ酸;POEアルキルアミン等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。このうち、特にクエン酸ナトリウムの使用が好ましい。
【0028】
可溶化剤としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノラウリン酸ポリエチレングリコール、モノステアリン酸ポリエチレングリコール、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。このうち、モノステアリン酸ポリエチレングリコールの使用が好ましい。
【0029】
安定剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、グリチルリチン酸二ナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、グリシン等を挙げることができ、これらの1種以上を含むことができる。
【0030】
消毒剤の調製方法としては、特に限定されないが、成分(d)中に成分(b)を攪拌溶解させた事前混合液(1)を調製した後、精製水中に事前混合液(1)、成分(a)、成分(c)を加え、混合することで調製できる。
【0031】
上記で説明した組成を有する消毒剤の製品形態(外観)は、特に限定されず、液状、ジェル状、泡状、およびペースト状などの形態を例示できる。中でも消毒剤の使用時に手指からこぼれ落ちづらく、かつ手指全体に広げやすい、泡状が好ましい。
【0032】
消毒剤の使用方法は特に限定されないが、例えば、適当なボトルに充填し、そのまま適量を手に取り使用する方法、ポンプフォーマー等により吐出して適量を手に取り使用する方法、不織布等に含漬させて皮膚に使用する方法等を適用することができる。
【0033】
上記説明した組成、および製品形態を有する消毒剤は、上記例示した使用方法で使用することにより、通常の生活環境において、ヒトに対して感染症等の疾患を引き起こす原因菌、原因ウイルスに対して効果を発揮する。これら原因菌、原因ウイルスについて、その種類には特に制限はない。具体的に、菌としては、大腸菌、緑膿菌、黄色ブドウ球菌、カンジダ、ウイルスとしては、インフルエンザウイルス、ヘルペスウイルス等を例示することができる。
【実施例
【0034】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0035】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
[消毒剤の各成分]
<成分(a)>
グルコン酸クロルヘキシジン
<成分(b)>
パラオキシ安息香酸メチル
パラオキシ安息香酸プロピル
<成分(c)>
カルボン酸A(価数が3以上のカルボン酸)・・クエン酸
カルボン酸B(価数が2以下のカルボン酸)・・DL-乳酸、DL-リンゴ酸
<成分(d)>
1,3-ブチレングリコール
<成分(e)>
フェノキシエタノール
【0036】
<水>
精製水
<保湿剤>
共重合体A:2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン80モル%とメタクリル酸ブチル20モル%とを共重合させた、重量平均分子量600,000の共重合体
<pH調整剤>
クエン酸ナトリウム
<可溶化剤>
モノステアリン酸ポリエチレングリコール
【0037】
(実施例1)
1,3-ブチレングリコール(成分(d))に、パラオキシ安息香酸メチル(成分(b))及びパラオキシ安息香酸プロピル(成分(b))を加えて、25℃でこれらが溶解するまで攪拌して事前混合液(1)を調製した。次いで、精製水中に、事前混合液(1)、グルコン酸クロルヘキシジン(成分(a))、クエン酸(成分(c)、カルボン酸A)、フェノキシエタノール(成分(e))、保湿剤、pH調整剤、及び可溶化剤を加え、均一になるまで混合させて、消毒剤を得た。なお各成分の配合量は、消毒剤中の量が表1のとおりとなるように調整した。pH調整剤は、0.05~1.0質量%の範囲で所望のpHになるように適量配合した。
得られた消毒剤について、以下の各評価を行った。結果を表1に示した。
【0038】
1.殺菌力の評価
殺菌力の評価は、以下の通り実施した。
<試験菌種>
大腸菌(Escherichia coli NBRC3972)
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa NBRC13275)
黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC13276)
カンジダ(Candida albicans NBRC1594)
<試験菌液の調製>
上記で挙げた各菌種に対し、滅菌した生理食塩液を用いて、一定濃度(1×10-8CFU/mL)となるよう試験菌液を調製した。なお前記CFUとは、Colony Forming Unitのことであり、コロニーを形成する能力がある単位数のことである。
【0039】
<MIC(最小発育阻止濃度)試験>
上記のとおり得られた消毒剤を検体として、検体100μLをSCD培地で2倍ずつ段階希釈し、検体最終濃度を0.05%とする希釈系列を作製した。作製した希釈系列に、各試験菌液50μLを添加した後、24時間、37℃で培養した。培養終了後、培地の濁りを肉眼で判定し、菌の発育を認めない最小濃度(μg/mL)をもって、MICとした。MICが7.8以下であるとき、対象菌種に対する殺菌力を有すると判断した。結果を表1に示す。
【0040】
2.インフルエンザウイルス不活化効果の評価
上記のとおり得られた消毒剤について、消毒剤0.8mLに、MDCK細胞(イヌ腎臓由来細胞)で感染培養したA型インフルエンザウイルスH1N1(A/PR/8/34; TC adapted ATCC VR-1469)の懸濁液0.1mL、さらに汚濁物質(0.03g/L ウシ血清アルブミン)0.1mLを加えた混合液1を調製し、20℃で15秒間放置した。また、この際用いる試験ウイルスの懸濁液、汚濁物質および消毒剤は、あらかじめ試験温度(20±1℃)に調整しておいた。
つづいて、混合液1の0.5mLを薬剤不活性化剤(ウシ胎児血清を10%としたSCDLP培地)4.5mLに加え、混合して混合液2を調製した。混合液2の0.1mLをEMEM(Eagle’s minimal essential medium)0.9mLに加え、混合して混合液3を調製した。この混合液3についてプラーク測定法にてウイルス感染価を測定し、ウイルス不活化率を算出した。ウイルス不活化率については、その不活化率が99.99%より大きいとき「◎」、99.99%以下で、99.9%より大きいとき「○」、99.9%以下であるとき「×」とした。結果を表1に示す。
【0041】
3.ヘルペスウイルス不活化効果の評価
上記のとおり得られた消毒剤について、次に示す方法で単純ヘルペスウイルスに対する不活化効果を評価した。
消毒剤0.8mLに、Vero細胞(アフリカミドリザル腎臓由来細胞)で感染培養した単純ヘルペスウイルス1型(Human herpesvirus 1; Herpes simplex virus 1; Strain: KOS ATCC VR-1493)の懸濁液0.1mL、さらに汚濁物質(0.03g/L ウシ血清アルブミン)0.1mLを加えた混合液1を調製し、20℃で60秒間放置した。また、この際用いる試験ウイルス懸濁液、汚濁物質および消毒剤は、あらかじめ試験温度(20±1℃)に調整しておいた。
つづいて、混合液1の0.5mLを薬剤不活性化剤(ウシ胎児血清を10%としたSCDLP培地)4.5mLに加え、混合して混合液2を調製した。混合液2の0.1mLをEMEM(Eagle’s minimal essential medium)0.9mLに加え、混合して混合液3を調製した。この混合液3についてプラーク測定法にてウイルス感染価を測定し、ウイルス不活化率を算出した。ウイルス不活化率については、その不活化率が99.99%より大きいとき「◎」、99.99%以下で、99.9%より大きいとき「○」、99.9%以下であるとき「×」とした。結果を表1に示す。
【0042】
(実施例2~12、比較例1~4)
消毒剤の配合を表1のとおりに変更した以外は実施例1と同様にして、消毒剤を調製し、各評価を行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
各実施例で用いた本発明の消毒剤は、1価の低級アルコールを含有していないにもかかわらず、ウイルスに対する不活化効果が高く、かつ種々の菌種に対して殺菌効果があり、広範な殺菌スペクトルを有し、殺菌力に優れることが分かった。
これに対して、成分(a)~(d)のいずれかを含有していない、比較例1~4に示す消毒剤は、ウイルスに対する不活化効果及び殺菌力の少なくともいずれかに劣る結果となった。