(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】過給システム
(51)【国際特許分類】
F02B 37/00 20060101AFI20220419BHJP
F02B 37/12 20060101ALI20220419BHJP
F02B 37/007 20060101ALI20220419BHJP
F02B 37/24 20060101ALI20220419BHJP
F02D 23/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
F02B37/00 400C
F02B37/12 303Z
F02B37/007
F02B37/24
F02D23/00 A
(21)【出願番号】P 2019016042
(22)【出願日】2019-01-31
【審査請求日】2021-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小関 知史
【審査官】北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-151102(JP,A)
【文献】特開2009-250057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00
F02B 37/12
F02B 37/007
F02B 37/24
F02D 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンから排出される排気によって駆動される第1タービンと、前記第1タービンへ流入する排気の流速を開度によって調整する第1可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する第1過給機と、
前記エンジンから排出される排気によって駆動される第2タービンと、前記第2タービンへ流入する排気の流速を開度によって調整する第2可変ノズル機構とを含み、前記エンジンへの吸気を過給する第2過給機と、
前記第1過給機において過給された空気が前記エンジンに供給されるシングル過給モードと、前記第1過給機において過給された空気と前記第2過給機において過給された空気とが前記エンジンに供給されるツイン過給モードとのうちのいずれか一方から他方に過給モードを切替える制御装置とを備え、
前記制御装置は、前記ツイン過給モードに切替えられているときに、前記第1過給機および前記第2過給機が目標過給圧を得るために必要な前記第1可変ノズル機構および第2可変ノズル機構の目標開度を、吸気経路および排気経路の状態量から算出し、算出した目標開度が制御可能な範囲外である場合、過給モードを前記シングル過給モードに切替える、過給システム。
【請求項2】
前記制御装置は、目標開度を算出する計算式として、前記エンジンの吸気経路および排気経路の物理法則に基づくシミュレーションの計算式を用いる、請求項1に記載の過給システム。
【請求項3】
前記制御装置は、目標開度を算出するときの吸気経路および排気経路の状態量としては、それぞれ、前記第1過給機および前記第2過給機への分岐前の吸気経路の状態量、および、前記第1過給機および前記第2過給機からの合流後の排気経路の状態量を用いる、請求項1に記載の過給システム。
【請求項4】
前記第1過給機および前記第2過給機は、同じ型式であり、
前記制御装置は、前記第1過給機および前記第2過給機を1つの過給機と見なし、1つの目標開度を算出し、算出した1つの目標開度を、前記第1可変ノズル機構および前記第2可変ノズル機構の目標開度とする、請求項1に記載の過給システム。
【請求項5】
前記制御装置は、算出した目標開度が制御可能な範囲外である状態が所定時間、継続した場合、過給モードを前記シングル過給モードに切換える、請求項1に記載の過給システム。
【請求項6】
前記第1過給機は、前記エンジンへの吸気を過給する第1コンプレッサを含み、
前記第1コンプレッサの特性を示すコンプレッサマップを示すデータを記憶する記憶部をさらに備え、
前記コンプレッサマップは、前記第1過給機の前記第1コンプレッサに吸入される空気量の第1軸と、前記第1コンプレッサの吸入圧力に対する吐出圧力の圧力比の第2軸とを含み、
前記制御装置は、前記ツイン過給モードに切替えられているときに、算出した目標開度が制御可能な範囲外である状態が前記所定時間、継続していない場合、前記記憶部に記憶された前記コンプレッサマップにおいて前記圧力比と前記空気量とによって特定される動作点が、前記コンプレッサマップ上の所定ラインを下回ったことが示される場合、過給モードを前記シングル過給モードに切替える、請求項5に記載の過給システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、過給システムに関し、特に、並列に接続された複数の過給機を有する過給システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、並列に接続された2つの過給機を有する過給システムがあった(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1の過給システムでは、エンジンの負荷に応じて、1つの過給機でエンジンの吸気を過給するシングル過給モードと、2つの過給機でエンジンの吸気を過給するツイン過給モードとを切替える。
【0003】
低速域では、プライマリ過給機のみ駆動するシングル過給モードとする。排気エネルギが小さい速度域では、1つの過給機で過給圧の応答性を向上させるためである。高速域では、プライマリ過給機およびセカンダリ過給機を駆動するツイン過給モードとする。排気エネルギが大きい速度域では、2つの過給機で高過給圧を実現するためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、シングル過給モードからツイン過給モードへの切替えにおける特徴的な技術が開示されている。しかし、特許文献1においては、ツイン過給モードからシングル過給モードへの切替えの特徴的な技術については開示されていない。このように、従来は、ツイン過給モードからシングル過給モードへの切替えにおいて特徴的な技術はあまり考えられていなかった。よく用いられる技術では、エンジンの回転速度と負荷(燃料の噴射量)とに応じて、ツイン過給モードからシングル過給モードへ切替えられていた。
【0006】
図14は、従来のツイン過給モードからシングル過給モードへの切替えを説明するための図である。
図14(A)は、エンジンの回転速度の変化を示す。
図14(B)は、燃料の噴射量の変化を示す。
図14(C)は、過給圧の変化を示す。時刻T1において、アクセルのオフ等によって、エンジンの回転速度が徐々に減速し始め、燃料の噴射量は、急激にカットされる。このため、エンジンの回転速度および燃料の噴射量で決まる目標過給圧も急激に下がる。しかし、実過給圧の減少には遅れがあり、実過給圧は徐々に減少するため、エンジンの回転速度および燃料の噴射量で決定された目標過給圧と実過給圧とに乖離が生じる。このため、エンジンの回転速度および燃料の噴射量に応じたツイン過給モードからシングル過給モードへの切替は、エンジンの回転速度や燃料の噴射量が変化している過渡的な状態には対応できない。
【0007】
この開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、過渡的な状況であっても適切にツイン過給モードからシングル過給モードに切替えることが可能な過給システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この開示による過給システムは、エンジンから排出される排気によって駆動される第1タービンと、第1タービンへ流入する排気の流速を開度によって調整する第1可変ノズル機構とを含み、エンジンへの吸気を過給する第1過給機と、エンジンから排出される排気によって駆動される第2タービンと、第2タービンへ流入する排気の流速を開度によって調整する第2可変ノズル機構とを含み、エンジンへの吸気を過給する第2過給機と、第1過給機において過給された空気がエンジンに供給されるシングル過給モードと、第1過給機において過給された空気と第2過給機において過給された空気とがエンジンに供給されるツイン過給モードとのうちのいずれか一方から他方に過給モードを切替える制御装置とを備える。
【0009】
制御装置は、ツイン過給モードに切替えられているときに、第1過給機および第2過給機が目標過給圧を得るために必要な第1可変ノズル機構および第2可変ノズル機構の目標開度を、吸気経路および排気経路の状態量から算出し、算出した目標開度が制御可能な範囲外である場合、過給モードをシングル過給モードに切替える。
【0010】
好ましくは、制御装置は、目標開度を算出する計算式として、エンジンの吸気経路および排気経路の物理法則に基づくシミュレーションの計算式を用いる。
【0011】
好ましくは、制御装置は、目標開度を算出するときの吸気経路および排気経路の状態量としては、それぞれ、第1過給機および第2過給機への分岐前の吸気経路の状態量、および、第1過給機および第2過給機からの合流後の排気経路の状態量を用いる。
【0012】
好ましくは、第1過給機および第2過給機は、同じ型式である。制御装置は、第1過給機および第2過給機を1つの過給機と見なし、1つの目標開度を算出し、算出した1つの目標開度を、第1可変ノズル機構および第2可変ノズル機構の目標開度とする。
【0013】
好ましくは、制御装置は、算出した目標開度が制御可能な範囲外である状態が所定時間、継続した場合、過給モードをシングル過給モードに切換える。
【0014】
さらに好ましくは、第1過給機は、エンジンへの吸気を過給する第1コンプレッサを含む。過給システムは、第1コンプレッサの特性を示すコンプレッサマップを示すデータを記憶する記憶部をさらに備える。コンプレッサマップは、第1過給機の第1コンプレッサに吸入される空気量の第1軸と、第1コンプレッサの吸入圧力に対する吐出圧力の圧力比の第2軸とを含む。
【0015】
制御装置は、ツイン過給モードに切替えられているときに、算出した目標開度が制御可能な範囲外である状態が所定時間、継続していない場合、記憶部に記憶されたコンプレッサマップにおいて圧力比と空気量とによって特定される動作点が、コンプレッサマップ上の所定ラインを下回ったことが示される場合、過給モードをシングル過給モードに切替える。
【発明の効果】
【0016】
この開示に従えば、過渡的な状況であっても適切にツイン過給モードからシングル過給モードに切替えることが可能な過給システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】この実施の形態におけるエンジンの概略構成の一例を示す図である。
【
図2】シングル過給モード時の過給システムの動作を説明するための図である。
【
図3】助走モード時の過給システムの動作を説明するための図である。
【
図4】ツイン過給モード時の過給システムの動作を説明するための図である。
【
図5】この実施の形態におけるシングル過給モードへの切替処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図6】過給機の物理式を説明するための第1の図である。
【
図7】過給機の物理式を説明するための第2の図である。
【
図8】物理式で算出される目標VN開度の変化の例を説明するための図である。
【
図9】プライマリ過給機のコンプレッサの吸入空気量とコンプレッサの前後の圧力比との関係を示すコンプレッサ動作マップの一例を示す図である。
【
図10】コンプレッサ動作マップの動作点が切替ラインL1に達した場合と達していない場合との再加速での過給圧の変化を説明するための図である。
【
図11】コンプレッサ動作マップ上の定常時のアクセル開度による動作点の違いを説明するための図である。
【
図12】減速後のアクセル開度ごとの再加速での過給圧の違いを説明するための図である。
【
図13】変形例における目標VN開度の算出を説明するための図である。
【
図14】従来のツイン過給モードからシングル過給モードへの切替えを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、この開示の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号が付されている。それらの名称および機能も同じである。したがってそれらについての詳細な説明は繰返されない。
【0019】
[過給システムの構成について]
図1は、この実施の形態におけるエンジン1の概略構成の一例を示す図である。
図1を参照して、このエンジン1は、たとえば、走行のための駆動源として車両に搭載される。この実施の形態においては、エンジン1は、ディーゼルエンジンである場合を一例として説明するが、たとえば、ガソリンエンジンであってもよい。
【0020】
エンジン1は、バンク10A,10Bと、エアクリーナ20と、インタークーラ25と、吸気マニホールド28A,28Bと、プライマリ過給機30と、セカンダリ過給機40と、排気マニホールド50A,50B(以下「エキマニ」ともいう)と、排気処理装置81と、制御装置200とを備える。
【0021】
バンク10Aには、複数の気筒12Aが形成される。バンク10Bには、複数の気筒12Bが形成される。各気筒12A,12B内にはピストン(図示せず)が収納されており、ピストンの頂部と気筒の内壁とによって燃焼室(燃料が燃焼する空間)が形成されている。各気筒12A,12B内をピストンが摺動することによって燃焼室の容積が変化される。各気筒12A,12Bには、インジェクタ(図示せず)が設けられており、エンジン1の動作中においては、制御装置200によって設定されたタイミングおよび量の燃料を各気筒12A,12B内に噴射する。なお、各インジェクタから噴射する燃料の噴射量およびタイミングは、たとえば、エンジン回転数NE、吸入空気量Qin、アクセルペダルの踏み込み量あるいは車両の速度等から制御装置200によって設定される。
【0022】
各気筒12A,12Bのピストンは、コネクティングロッドを介して共通のクランクシャフト(図示せず)に連結される。各気筒12A,12B内において所定の順序で燃料が燃焼することによってピストンが各気筒12A,12B内を摺動し、ピストンの上下運動がコネクティングロッドを経由してクランクシャフトの回転運動に変換される。
【0023】
プライマリ過給機30は、コンプレッサ31とタービン32とを含むターボチャージャである。プライマリ過給機30のコンプレッサ31は、エンジン1の吸気通路(すなわち、エアクリーナ20から吸気マニホールド28A,28Bまでの通路)に設けられる。プライマリ過給機30のタービン32は、エンジン1の排気通路(すなわち、排気マニホールド50A,50Bから排気処理装置81までの通路)に設けられる。
【0024】
コンプレッサ31内には、コンプレッサホイール33が回転自在に収納される。タービン32内には、タービンホイール34と可変ノズル機構35とが設けられる。タービンホイール34は、回転自在にタービン32内に収納される。コンプレッサホイール33と、タービンホイール34とは、回転軸36によって連結されており、一体的に回転する。コンプレッサホイール33は、タービンホイール34に供給される排気のエネルギ(排気エネルギ)によって回転駆動される。
【0025】
可変ノズル機構35は、タービン32を作動させる排気の流速を変化させる。可変ノズル機構35は、タービンホイール34の外周側に配置され、排気流入口から供給される排気をタービンホイール34に導く複数のノズルベーン(図示せず)と、複数のノズルベーンの各々を回転させることによって隣接するノズルベーン間の隙間(以下の説明においてこの隙間をVN開度と記載する)を変化させる駆動装置(図示せず)とを含む。可変ノズル機構35は、たとえば、制御装置200からの制御信号VN1に応じて駆動装置を用いてノズルベーンを回転させることによってVN開度を変化させる。
【0026】
セカンダリ過給機40は、コンプレッサ41とタービン42とを含むターボチャージャである。この実施の形態においては、セカンダリ過給機40は、プライマリ過給機30と同じ構造およびサイズであることとする。セカンダリ過給機40のコンプレッサ41は、エンジン1の吸気通路において、コンプレッサ31に並列して設けられ、エンジン1の吸気を過給する。セカンダリ過給機40のタービン42は、エンジン1の排気通路において、タービン32に並列して設けられる。
【0027】
コンプレッサ41内には、コンプレッサホイール43が回転自在に収納される。タービン42内には、タービンホイール44と可変ノズル機構45とが設けられる。タービンホイール44は、回転自在にタービン42内に収納される。コンプレッサホイール43と、タービンホイール44とは、回転軸46によって連結されており、一体的に回転する。コンプレッサホイール43は、タービンホイール44に供給される排気エネルギによって回転駆動される。
【0028】
なお、可変ノズル機構45は、可変ノズル機構35と同様の構成を有するため、その詳細な説明は繰り返さない。可変ノズル機構45は、たとえば、制御装置200からの制御信号VN2に応じて駆動装置を用いてノズルベーンを回転させることによってVN開度を変化させる。
【0029】
エアクリーナ20は、吸気口(図示せず)から吸入された空気から異物を除去する。エアクリーナ20には、吸気管23の一方端が接続される。吸気管23の他方端は、分岐して吸気管21の一方端および吸気管22の一方端に接続される。
【0030】
吸気管21の他方端は、プライマリ過給機30のコンプレッサ31の吸気流入口に接続される。プライマリ過給機30のコンプレッサ31の吸気流出口には、吸気管37の一方端が接続される。吸気管37の他方端は、インタークーラ25に接続される。コンプレッサ31は、コンプレッサホイール33の回転によって吸気管21を通じて吸入される空気を過給して吸気管37に供給する。
【0031】
吸気管22の他方端は、セカンダリ過給機40のコンプレッサ41の吸気流入口に接続される。セカンダリ過給機40のコンプレッサ41の吸気流出口には、吸気管47の一方端が接続される。吸気管47の他方端は、吸気管37の途中の接続部C3に接続される。コンプレッサ41は、コンプレッサホイール43の回転によって吸気管22を通じて吸入される空気を過給して吸気管47に供給する。
【0032】
吸気管47の途中には第1制御弁62が設けられている。第1制御弁62は、たとえば、制御装置200からの制御信号CV1に応じてON(開)/OFF(閉)制御されるノーマリオフのVSV(負圧切替弁)である。
【0033】
また、吸気管47において第1制御弁62よりも上流側(コンプレッサ41側)に位置する接続部C4に、還流管48の一方端が接続されている。また、還流管48の他方端は吸気管21に接続されている。還流管48は、吸気管47を流れる空気の少なくとも一部をプライマリ過給機30のコンプレッサ31よりも上流側に還流させるための通路である。還流管48を通じて吸気管21に還流した空気は、コンプレッサ31に供給される。
【0034】
還流管48の途中には第2制御弁64が設けられている。第2制御弁64は、たとえば、制御装置200からの制御信号CV2に応じてON(開)/OFF(閉)制御されるノーマリオフの電磁弁(ソレノイドバルブ)である。
【0035】
接続部C3には、コンプレッサ31によって過給された空気と、コンプレッサ41によって過給され、第1制御弁62を通過した空気とが供給される。これらの空気は、接続部C3で合流してインタークーラ25に流入する。
【0036】
インタークーラ25は、流入した空気を冷却するように構成される。インタークーラ25は、たとえば空冷式又は水冷式の熱交換器である。インタークーラ25の吸気流出口には、ディーゼルスロットル68を介して、吸気管27Aの一方端および吸気管27Bの一方端が接続される。ディーゼルスロットル68は、電動アクチュエータを用いて開度が調整可能に構成され、制御装置200からの制御信号に応じて吸気の流量を調整する。吸気管27Aの他方端は、吸気マニホールド28Aに接続される。吸気管27Bの他方端は、吸気マニホールド28Bに接続される。
【0037】
吸気マニホールド28A、28Bは、それぞれバンク10A、10Bにおける気筒12A、12Bの吸気ポート(図示せず)に連結される。一方、排気マニホールド50A,50Bは、それぞれバンク10A,10Bにおける気筒12A,12Bの排気ポート(図示せず)に連結される。
【0038】
各気筒12A,12Bの燃焼室から排気ポートを通じて気筒外に排出された排気(燃焼後のガス)は、エンジン1の排気通路を経由して外に排出される。上記の排気通路は、排気マニホールド50A,50B、排気管51A,51Bと、接続部C1と、排気管52A,52B,53A,53Bと、接続部C2とを含む。排気管51Aの一方端は、排気マニホールド50Aに接続される。排気管51Bの一方端は、排気マニホールド50Bに接続される。排気管51Aの他方端と、排気管51Bの他方端とは、接続部C1において一旦合流した後に、分岐して排気管52Aの一方端および排気管52Bの一方端に接続される。
【0039】
排気管52Aの他方端は、タービン32の排気流入口に接続される。タービン32の排気流出口には、排気管53Aの一方端が接続される。排気管52Bの他方端は、タービン42の排気流入口に接続される。タービン42の排気流出口には、排気管53Bの一方端が接続される。
【0040】
排気管52Bの途中には第3制御弁66が設けられる。第3制御弁66は、たとえば、制御装置200からの制御信号CV3に応じてON(開)/OFF(閉)制御されるノーマリオンのVSV(負圧切替弁)である。
【0041】
排気管53Aの他方端と排気管53Bの他方端とは、接続部C2において合流し、排気処理装置81に接続される。排気処理装置81は、たとえば、SCR触媒、酸化触媒、あるいは、PM除去フィルタ等によって構成され、排気管53Aおよび排気管53Bから流通する排気を浄化する。
【0042】
エンジン1の動作は、制御装置200によって制御される。制御装置200は、各種処理を行なうCPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよびデータを記憶するROM(Read Only Memory)およびCPUの処理結果等を記憶するRAM(Random Access Memory)等を含むメモリと、外部との情報のやり取りを行なうための入出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。入力ポートには、各種センサ類(たとえば、エアフローメータ102、第1圧力センサ106および第2圧力センサ108等)が接続される。出力ポートには、制御対象となる機器(たとえば、複数のインジェクタ、可変ノズル機構35,45、第1制御弁62、第2制御弁64、第3制御弁66等)が接続される。
【0043】
制御装置200は、各センサおよび機器からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいて、エンジン1が所望の運転状態となるように各種機器を制御する。なお、各種制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)により処理することも可能である。また、制御装置200には、時間の計測を行うためのタイマ回路(図示せず)が内蔵されている。
【0044】
エアフローメータ102は、吸入空気量Qinを検出する。エアフローメータ102は、検出した吸入空気量Qinを示す信号を制御装置200に送信する。
【0045】
エンジン回転数センサ104は、エンジン回転数NEを検出する。エンジン回転数センサ104は、検出したエンジン回転数NEを示す信号を制御装置200に送信する。
【0046】
第1圧力センサ106は、吸気管37の接続部C3における圧力(以下、第1過給圧と記載する)Ppを検出する。第1圧力センサ106は、検出した第1過給圧Ppを示す信号を制御装置200に送信する。
【0047】
第2圧力センサ108は、吸気管47の接続部C4における圧力(以下、第2過給圧Psと記載する)を検出する。第2圧力センサ108は、第2過給圧Psを示す信号を制御装置200に送信する。
【0048】
この実施の形態において、プライマリ過給機30とセカンダリ過給機40と制御装置200とによって「過給システム」が構成される。
【0049】
制御装置200は、第1制御弁62、第2制御弁64および第3制御弁66を制御することにより、プライマリ過給機30(プライマリターボ)のみで過給を行なうシングル過給モードと、プライマリ過給機30(プライマリターボ)およびセカンダリ過給機40(セカンダリターボ)の両方で過給を行なうツイン過給モードとのうちのいずれか一方から他方に切替える切替制御を実行可能に構成される。また、制御装置200は、シングル過給モードからツイン過給モードに切替える場合には、シングル過給モードから、セカンダリ過給機40による過給圧を一定以上に上昇させる助走モードでの運転を実行した後に、過給モードをツイン過給モードに切替える。
【0050】
以下、シングル過給モード、助走モードおよびツイン過給モードの各々における過給システムの動作について
図2、
図3および
図4を参照しつつ説明する。
【0051】
<シングル過給モードについて>
制御装置200は、所定の実行条件が成立する場合に、シングル過給モードで過給システムを動作させる。所定の実行条件とは、たとえば、エンジン回転数NEおよび吸入空気量Qinに基づくエンジン1の運転状態が低負荷運転状態であるという条件を含む。制御装置200は、過給モードがシングル過給モードである場合には、第1制御弁62、第2制御弁64および第3制御弁66をいずれも閉状態(オフ状態)にする。
【0052】
図2は、シングル過給モード時の過給システムの動作を説明するための図である。
図2の矢印に示すように、排気マニホールド50A,50Bを流通する排気は、排気管52Aを経由してプライマリ過給機30のタービン32に流れ、排気管53Aを経由して排気処理装置81に流れる。タービン32に供給された排気によって、タービンホイール34が回転し、タービンホイール34の回転にともなってコンプレッサホイール33が回転する。
【0053】
エアクリーナ20から吸入される空気は、吸気管23および吸気管21を経由してコンプレッサ31に流れる。コンプレッサ31から吐出された吸気は、吸気管37を経由してインタークーラ25に流れる。インタークーラ25に流れた吸気は、吸気管27A,27Bに分岐して吸気マニホールド28A,28Bの各々に流れる。
【0054】
<助走モードについて>
制御装置200は、たとえば、過給モードがシングル過給モードであって、かつ、プライマリ過給機30の回転数がしきい値を超える場合に、シングル過給モードからツイン過給モードへの切替要求があると判定する。
【0055】
制御装置200は、シングル過給モードからツイン過給モードへの切替要求がある場合には、ツイン過給モードに切替える前に助走モードを実行する。すなわち、制御装置200は、第2制御弁64および第3制御弁66の両方を開状態(オン状態)にし、第1制御弁62を閉状態(オフ状態)にする。
【0056】
図3は、助走モード時の過給システムの動作を説明するための図である。
図3の矢印に示すように、排気マニホールド50A,50Bを流通する排気は、接続部C1で一旦合流した後に排気管52A,52Bに分岐し、プライマリ過給機30,セカンダリ過給機40のタービン32,42の両方に流れ、排気管53A,53Bを経由して排気処理装置81に流通する。
【0057】
タービン32に供給された排気によって、タービンホイール34が回転し、タービンホイール34の回転にともなってコンプレッサホイール33が回転する。タービン42に供給された排気によって、タービンホイール44が回転し、タービンホイール44の回転にともなってコンプレッサホイール43が回転する。
【0058】
エアクリーナ20から吸入される空気は、吸気管23から吸気管21,22に分岐してコンプレッサ31,41の両方に流れる。コンプレッサ31から吐出された吸気は、吸気管37を経由してインタークーラ25に流れる。コンプレッサ41から吐出された吸気は、吸気管47から接続部C4を経由して還流管48に流れ、還流管48から吸気管21を経由してコンプレッサ31に流れる。
【0059】
インタークーラ25に流れた吸気は、吸気管27A,27Bに分岐して吸気マニホールド28A,28Bの各々に流れる。助走モードにおいては、プライマリ過給機30によってインタークーラ25に流れる吸気を過給しつつ、セカンダリ過給機40の回転数が上昇される。セカンダリ過給機40の回転数が上昇するにつれてセカンダリ過給機40のコンプレッサ41から吐出される吸気の圧力が上昇していく。
【0060】
<ツイン過給モードについて>
制御装置200は、助走モード中におけるセカンダリ過給機40の過給能力が十分高くなったタイミングで、ツイン過給モードで過給システムを動作させる。制御装置200は、過給モードがツイン過給モードである場合には、第1制御弁62を開状態(オン状態)にするとともに、第2制御弁64を閉状態(オフ状態)にする。
【0061】
図4は、ツイン過給モード時の過給システムの動作を説明するための図である。助走モード時においては、セカンダリ過給機40のコンプレッサ41から吐出された吸気が吸気管47の途中から還流管48を経由して吸気管21に流れていたのに対して、ツイン過給モード時においては、
図4の矢印に示すように、セカンダリ過給機40のコンプレッサ41から吐出された吸気が吸気管47から吸気管37を経由してインタークーラ25に流れる。
【0062】
なお、上述以外の排気および吸気の流れは助走モード時の排気および吸気の流れと同様である。そのため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0063】
[従来の課題について]
従来よく用いられる技術では、エンジンの回転速度と負荷(燃料の噴射量)とに応じて、ツイン過給モードからシングル過給モードへ切替えられていた。前述の
図14で説明したように、エンジンの回転速度および燃料の噴射量に応じたツイン過給モードからシングル過給モードへの切替は、エンジンの回転速度や燃料の噴射量が変化している過渡的な状態には対応できない。
【0064】
[この実施の形態での制御について]
そこで、この実施の形態においては、制御装置200は、ツイン過給モードに切替えられているときに、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40が目標過給圧を得るために必要な可変ノズル機構35および可変ノズル機構45の目標開度を、吸気経路および排気経路の状態量から算出し、算出した目標開度が制御可能な範囲外である場合、過給モードをシングル過給モードに切替える。これにより、過渡的な状況であっても適切にツイン過給モードからシングル過給モードに切替えることができる。
【0065】
また、この実施の形態においては、制御装置200のメモリは、第1コンプレッサの特性を示すコンプレッサマップを示すデータを記憶する。コンプレッサマップは、第1過給機の第1コンプレッサに吸入される空気量の第1軸と、第1コンプレッサの吸入圧力に対する吐出圧力の圧力比の第2軸とを含む。制御装置200は、ツイン過給モードに切替えられているときに、メモリに記憶されたコンプレッサマップにおいて圧力比と空気量とによって特定される動作点が、コンプレッサマップ上の所定ラインを下回ったことが示される場合、過給モードをシングル過給モードに切替える。これにより、過渡的な状況であっても適切にツイン過給モードからシングル過給モードに切替えることができる。
【0066】
このような制御を実行するために、具体的には以下の処理が実行される。
図5は、この実施の形態におけるシングル過給モードへの切替処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図5を参照して、制御装置200は、過給モードフラグがツイン過給モードを示す値であるか否かを判断する(ステップS101)。過給モードフラグは、現在制御されている過給モードを示すフラグであって、制御されている過給モードとして、シングル過給モード、ツイン過給モード、および、助走モードのいずれかを示す値を取り得る。
【0067】
過給モードフラグがツイン過給モードであることを示さない(ステップS101でNO)と判断した場合、制御装置200は、実行する処理を、この処理の呼出元の処理に戻す。
【0068】
過給モードフラグがツイン過給モードであることを示す(ステップS101でYES)と判断した場合、制御装置200は、過給機の物理式を用いて各部の状態量から目標VN開度を算出する(ステップS112)。目標VN開度を算出するときの吸気経路および排気経路の状態量としては、それぞれ、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40への分岐前の吸気経路の状態量、および、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40からの合流後の排気経路の状態量を用いる。
【0069】
図6は、過給機の物理式を説明するための第1の図である。
図6を参照して、過給機の物理式においては、まず、目標ディーゼルスロットル前圧と、インタークーラ圧力損失とから目標コンプレッサ後圧力P3を算出する。目標ディーゼルスロットル前圧は、ディーゼルスロットル68とインタークーラ25との間の目標の圧力である。インタークーラ圧力損失は、インタークーラ25による圧力損失である。目標ディーゼルスロットル前圧(以下「目標Dスロ前圧」という)にインタークーラ圧力損失を加算することで、目標コンプレッサ後圧力P3を算出する。
【0070】
次に、目標コンプレッサ後圧力P3と、新気量Gaと、吸気温度Thaと、コンプレッサ前圧力P2とから、数式(1)を用いて目標コンプレッサ仕事を算出する。なお、Cpa:定温比熱(0.24)、k:空気の比熱比(1.4)である。吸入空気量Gaは、エアフローメータ102からの検出信号に応じて特定される。
【0071】
【0072】
次に、目標コンプレッサ仕事と、ターボ総合効率ηtotとから、数式(2)を用いて目標タービン仕事を算出する。なお、ターボ総合効率ηtotは、制御装置200により状態量から公知の計算式を用いて算出される。
【0073】
【0074】
次に、目標タービン仕事と、エキマニガス温度T4と、ターボ後圧力P6と、タービン通過ガス量Ga+Gfとから、数式(3)を用いて目標エキマニ圧力を算出する。なお、Cpg:定圧比熱(0.26)、K:排気ガスの比熱比(1.33)である。噴射燃料の質量流量Gfは、燃料の噴射のために制御装置200により算出される燃料噴射量から算出される。
【0075】
【0076】
図7は、過給機の物理式を説明するための第2の図である。
図7を参照して、目標エキマニ圧力P4に制約ガードを掛ける。この制約ガードでは、目標エキマニ圧力P4が制限エキマニ圧力より高い場合は、P4は制限エキマニ圧力とされる。制限エキマニ圧力は、排気バルブのバルブステムのオイルシールが吹き抜けたり、排気バルブが開弁したりしない値として予め定められる。
【0077】
そして、目標エキマニ圧力P4と、エキマニガス温度T4と、ターボ後圧力P6と、タービン通過ガス量Ga+Gfとから、数式(4)のノズル式を用いて目標有効開口面積μAを算出する。なお、A:実開口面積、μA:目標有効開口面積、R:気体定数(287)、a,b:P6/P4の値ごとに予め定められた定数である。
【0078】
【0079】
次に、VN開度と有効開口面積との関係を示す開度特性マップを用いて、算出された目標有効開口面積μAから目標VN開度を算出する。
【0080】
図5に戻って、制御装置200は、算出された目標VN開度が制御可能範囲外か否かを判断する(ステップS113)。VN開度は、ノズルベーンの構造上、完全に閉じた状態(100%)や完全に開いた状態(0%)には制御できない。このため、VN開度の制御可能範囲は、たとえば、10%から96%の範囲である。算出された目標VN開度がこの制御可能範囲外である(ステップS113でYES)と判断した場合、制御装置200は、目標VN開度が制御可能範囲外である状態が、所定期間、継続したか否かを判断する(ステップS114)。
【0081】
所定期間、継続した(ステップS114でYES)と判断されると、制御装置200は、過給モードフラグをシングル過給モードを示す値に変更し(ステップS117)、実行する処理を、この処理の呼出元の処理に戻す。これにより、シングル過給モードに切替えられる。
【0082】
図8は、物理式で算出される目標VN開度の変化の例を説明するための図である。
図8を参照して、
図8(B)で示されるように、アクセルがオフとされたりして、燃料の噴射量が急激に下げられると、
図8(A)で示されるように、エンジン1の回転速度が徐々に減少する。これにより、エンジン1の回転速度および燃料の噴射量で決定される目標Dスロ前圧も急激に下がり、目標過給圧(=目標コンプレッサ後圧力P3)も急激に下がる。これに伴い、上述の物理式で算出される判定用の目標VN開度も減少するが、時刻T1で、目標過給圧が実過給圧を上回ると、判定用の目標VN開度は上昇に転じる。その後、目標VN開度が制御可能範囲の閉め側の上限の所定値を上回った状態で所定期間、継続した時刻T2で、過給モードが、ツイン過給モードからシングル過給モードに切替えられる。
【0083】
図5に戻って、算出された目標VN開度が制御可能範囲外でない(ステップS113でNO)と判断した場合、または、算出された目標VN開度が制御可能範囲外である状態が、所定期間、継続していない(ステップS114でNO)と判断した場合、制御装置200は、プライマリ過給機30の吸入空気量Gaが、プライマリ過給機30のコンプレッサ前圧力P2に対するコンプレッサ後圧力P3の圧力比から算出される閾値以下となったか否かを判断する(ステップS115)。
【0084】
図9は、プライマリ過給機30のコンプレッサ31の吸入空気量とコンプレッサ31の前後の圧力比との関係を示すコンプレッサ動作マップの一例を示す図である。
図9を参照して、コンプレッサ動作マップは、プライマリ過給機30のコンプレッサ31の吸入空気量と圧力比とをパラメータとして、コンプレッサ31の動作領域を示すマップである。このマップの横軸および縦軸は、それぞれコンプレッサ31の吸入空気量および圧力比を示す。なお、コンプレッサ31の吸入空気量は、たとえばエアフローメータ102で検出される吸入空気量から推定することができる。
【0085】
「サージライン」(二点鎖線)は、プライマリ過給機30においてサージングが発生しやすいサージ領域との境界線を示す。「等回転速度ライン」(細実線)は、コンプレッサ31の回転速度が等しい動作点を繋ぎ合わせた線を、コンプレッサ31の回転速度ごとに示した線群である。なお、コンプレッサ31の回転速度は、コンプレッサ31の吸入空気量が多いほど、また圧力比が大きいほど、高い値となる。また、コンプレッサ31の回転速度は、シングル過給モード中において、エンジン回転速度が高いほど、高い値となる。
【0086】
「切替ラインL2」(太実線)は、シングル過給モードからツイン過給モードへの切替が行われるラインである。加速時に、コンプレッサ31の動作点が、
図9で示す動作線に沿って移動し、切替ラインL2に達すると、シングル過給モードからツイン過給モードに切替える準備段階の助走モードに切替えられ、その後、ツイン過給モードに切替えられる。
【0087】
「切替ラインL1」(太実線)は、ツイン過給モードからシングル過給モードへの切替が行われるラインである。減速時に、コンプレッサ31の動作点が、
図9で示す動作線に沿って移動し、切替ラインL1に達すると、ツイン過給モードからシングル過給モードに切替えられる。
【0088】
図5に戻って、動作点が切替ラインL1に達したときに、プライマリ過給機30の吸入空気量Gaが、プライマリ過給機30の圧力比から算出される閾値以下となった(ステップS115でYES)と判断し、制御装置200は、過給モードフラグをシングル過給モードを示す値に変更し(ステップS117)、実行する処理を、この処理の呼出元の処理に戻す。これにより、シングル過給モードに切替えられる。
【0089】
一方、動作点が切替ラインL1に達しておらず、吸入空気量Gaがプライマリ過給機30の圧力比から算出される閾値以下となっていない(ステップS115でNO)と判断した場合、制御装置200は、過給モードフラグをツイン過給モードを示す値のままとし(ステップS116)実行する処理を、この処理の呼出元の処理に戻す。
【0090】
図10は、コンプレッサ動作マップの動作点が切替ラインL1に達した場合と達していない場合との再加速での過給圧の変化を説明するための図である。
図10を参照して、
図10(A)で示されるように、アクセル開度が100%から20%に減少されると、
図10(B)で示されるように、目標過給圧が急激に下げられる。しかし、
図10(B)で示されるように、実過給圧は、徐々に減少する。
【0091】
従来のように、エンジン1の回転速度および燃料の噴射量に応じてツイン過給モードからシングル過給モードへの切替を判定する場合、目標過給圧が急激に下げられた時刻T1において、シングル過給モードに切替えられる。切替え後、すぐに再加速する場合、目標過給圧が実過給圧と乖離しているため過給圧の応答性が悪い。
【0092】
一方、この実施の形態においては、コンプレッサ動作マップの動作点が切替ラインL1を下回ったとき(
図10で時刻T3)にツイン過給モードからシングル過給モードへ切替える。
図10の(I)の太破線で示すように、時刻T3の直前の時刻T2で、アクセル開度を100%として再加速した場合、動作点が切替ラインL1に達する前であるので、ツイン過給モードのままであっても、過給圧の応答性が良い。
【0093】
また、
図10の(II)の太実線で示すように、時刻T3でシングル過給モードに切替えられた後の時刻T4で、アクセル開度を100%として再加速した場合、動作点が切替ラインL1を下回った後であるので、シングル過給モードで再加速が開始されるため、過給圧の応答性が良い。その後、時刻T5で、シングル過給モードである程度、コンプレッサ31の回転速度が上がり、吸入空気量が増えたときに、ツイン過給モードへの切替えのための助走モードへ切替えられるため、過給圧を上昇させることができる。
【0094】
図11は、コンプレッサ動作マップ上の定常時のアクセル開度による動作点の違いを説明するための図である。
図11を参照して、アクセル開度は、A1%~A5%で示され、A1>A2>A3>A4>A5である。コンプレッサ動作マップにおいて、定常時にはアクセル開度が大きい程、動作点が吸入空気量および圧力比P3/P2が高い右上の方向に移動する。アクセル開度A3%の動作点は、切替ラインL1上となる。アクセル開度A4%の動作点は、切替ラインL1を下回った位置となる。
【0095】
図12は、減速後のアクセル開度ごとの再加速での過給圧の違いを説明するための図である。
図12を参照して、
図12(A)で示されるように、ツイン過給モードのまま、時刻T1でアクセル開度A4%から再加速した場合、太実線で示されるようにコンプレッサ後圧力P3が上昇する。シングル過給モードに切替えられた後に、時刻T1でアクセル開度A4%から再加速した場合、太破線で示されるようにコンプレッサ後圧力P3が上昇する。
図12(A)で示されるように、アクセル開度A4%から再加速する場合は、シングル過給モードに切替えた後の方が、ツイン過給モードのままよりも、過給圧の応答性が良い。
【0096】
図12(B)で示されるように、ツイン過給モードのまま、時刻T1でアクセル開度A3%から再加速した場合、太実線で示されるようにコンプレッサ後圧力P3が上昇する。シングル過給モードに切替えられた後に、時刻T1でアクセル開度A3%から再加速した場合、太破線で示されるようにコンプレッサ後圧力P3が上昇する。
図12(B)で示されるように、アクセル開度A3%から再加速する場合は、シングル過給モードに切替えた後と、ツイン過給モードのままとで、過給圧の応答性がほぼ等しい。
【0097】
なお、
図12(A)および
図12(B)で示されるように、アクセル開度A3%およびA4%のいずれの場合も、シングル過給モードで再加速される場合は、コンプレッサ後圧力P3が、ある程度、上昇した後、第2制御弁64が開状態に切替えられ、助走モードとされた後に、第1制御弁62が開状態に切替えられることで、ツイン過給モードに切替えられる。
【0098】
図12の結果より、定常時のアクセル開度A3%の動作点を通る等回転速度ラインを下回った場合は、シングル過給モードに切替えた方が過給圧の応答性が良くなるため、この等回転速度ラインを切替ラインL1と定めることができる。
【0099】
[変形例]
(1) 前述した実施の形態においては、
図6および
図7で説明したように、Dスロ前圧力から算出したコンプレッサ後圧力P3をそのまま用いて目標VN開度を算出するようにした。
図13は、変形例における目標VN開度の算出を説明するための図である。
図13を参照して、この場合、
図13(A)で示されるように、アクセル開度が増加されたときに、
図12(B)で示されるように、実過給圧は徐々に上昇するが、目標過給圧は、急激に上昇させられる。これにより、
図13(C)で示されるように、
図6および
図7で説明した物理式で目標VN開度を算出すると、目標VN開度が急激に閉め側の値として算出されてしまう。その結果、
図5のステップS113の目標VN開度の判定が不安定となってしまう。
【0100】
このような状況に対処するために、
図13(D)で示されるように、目標過給圧になまし処理を施したものを目標VN開度の算出に用いるようにしてもよい。これにより、目標VN開度の判定を安定化させることができる。
【0101】
(2) 前述した実施の形態では、エンジン1の吸気通路には、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40が設けられるものとして説明したが、エンジン1の吸気通路には、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40に加えて、たとえば、吸気絞り弁や排気再循環装置のEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガス流入口が設けられてもよい。
【0102】
(3) 前述した実施の形態では、エンジン1は、V型6気筒のエンジンを一例として説明したが、たとえば、その他の気筒レイアウト(たとえば、直列型あるいは水平型)のエンジンであってもよい。
【0103】
(4) 前述した実施の形態では、過給システムとして2つの過給機を備えるものとして説明したが、3つ以上の過給機を有するものであってもよい。
【0104】
(5) 前述した実施の形態を、プライマリ過給機30とセカンダリ過給機40と制御装置200とによって構成される過給システムの開示、エンジン1等の内燃機関の開示、エンジン1等の内燃機関のECU100等の制御装置の開示、このような制御装置による制御方法の開示、または、このような内燃機関と制御装置とを含む内燃機関システムの開示として捉えることができる。
【0105】
[効果]
(1-1)
図1から
図4で示したように、過給システムは、エンジン1から排出される排気によって駆動されるタービン32と、タービン32へ流入する排気の流速を開度によって調整する可変ノズル機構35とを含み、エンジン1への吸気を過給するプライマリ過給機30と、エンジン1から排出される排気によって駆動されるタービン42と、タービン42へ流入する排気の流速を開度によって調整する可変ノズル機構45とを含み、エンジン1への吸気を過給するセカンダリ過給機40と、プライマリ過給機30において過給された空気がエンジン1に供給されるシングル過給モードと、プライマリ過給機30において過給された空気とセカンダリ過給機40において過給された空気とがエンジン1に供給されるツイン過給モードとのうちのいずれか一方から他方に過給モードを切替える制御装置200とを備える。
【0106】
図5のステップS112,ステップS113,ステップS117、
図6および
図7で示したように、制御装置200は、ツイン過給モードに切替えられているときに、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40が目標過給圧を得るために必要な可変ノズル機構35および可変ノズル機構45の目標VN開度を、吸気経路および排気経路の状態量から算出し、算出した目標VN開度が制御可能な範囲外である場合、過給モードをシングル過給モードに切替える。
【0107】
これにより、過渡的な状況であっても適切にツイン過給モードからシングル過給モードに切替えることができる。また、従来のエンジンの回転速度および噴射量を用いた制御では環境変化に対して補正マップを用いていたが、この開示では、判定に用いる目標VN開度を物理式で算出しているので、環境補正の必要を無くすることができる。また、補正マップを作成する手間を削減することができる。
【0108】
(1-2)
図6および
図7で示したように、制御装置200は、目標VN開度を算出する計算式として、エンジン1の吸気経路および排気経路の物理法則に基づくシミュレーションの計算式を用いる。これにより、適切に判定用の目標VN開度を算出することができる。
【0109】
(1-3) 制御装置200は、目標VN開度を算出するときの吸気経路および排気経路の状態量としては、それぞれ、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40への分岐前の吸気経路の状態量、および、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40からの合流後の排気経路の状態量を用いる。これにより、適切に判定用の目標VN開度を算出することができる。
【0110】
(1-4)
図1から
図4で示したように、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40は、同じ型式である。制御装置200は、プライマリ過給機30およびセカンダリ過給機40を1つの過給機と見なし、1つの目標VN開度を算出し、算出した1つの目標VN開度を、可変ノズル機構35,45の目標VN開度として判定する。これにより、目標VN開度の算出および過給モードの制御を簡略化できる。
【0111】
(1-5)
図5のステップS114で示したように、制御装置200は、算出した目標VN開度が制御可能な範囲外である状態が所定期間、継続した場合、過給モードをシングル過給モードに切換える。これにより、過給モードの切替のハンチングを防止することができる。
【0112】
(2-1)
図1から
図4で示したように、過給システムは、エンジン1から排出される排気によって駆動されるタービン32と、タービン32へ流入する排気の流速を開度によって調整する可変ノズル機構35と、エンジン1への吸気を過給するコンプレッサ31とを含むプライマリ過給機30と、エンジン1から排出される排気によって駆動されるタービン42と、タービン42へ流入する排気の流速を開度によって調整する可変ノズル機構45とを含み、エンジン1への吸気を過給するセカンダリ過給機40と、プライマリ過給機30において過給された空気がエンジン1に供給されるシングル過給モードと、プライマリ過給機30において過給された空気とセカンダリ過給機40において過給された空気とがエンジン1に供給されるツイン過給モードとのうちのいずれか一方から他方に過給モードを切替える制御装置200と、コンプレッサ31の特性を示すコンプレッサ動作マップを示すデータを記憶するメモリとを備える。
図9で示したように、コンプレッサ動作マップは、プライマリ過給機30のコンプレッサ31に吸入される吸入空気量の第1軸と、コンプレッサ31の吸入圧力に対する吐出圧力の圧力比P3/P2の第2軸とを含む。
【0113】
図5のステップS115,ステップS117で示したように、制御装置200は、ツイン過給モードに切替えられているときに、メモリに記憶されたコンプレッサ動作マップにおいて圧力比P3/P2と吸入空気量とによって特定される動作点が、コンプレッサ動作マップ上の切替ラインL1を下回ったことが示される場合、過給モードをシングル過給モードに切替える。
【0114】
これにより、過渡的な状況であっても適切にツイン過給モードからシングル過給モードに切替えることができる。また、従来のエンジンの回転速度および噴射量を用いた制御では環境変化に対して補正マップを用いていたが、この開示では、コンプレッサ動作マップを用いて判定しているので、環境補正の必要を無くすることができる。また、補正マップを作成する手間を削減することができる。
【0115】
(2-2)
図11および
図12で示したように、切替ラインL1は、エンジン1で燃料の噴射が再開されたときに、シングル過給モードよりもツイン過給モードの方が圧力比の上昇が速い領域と、ツイン過給モードよりもシングル過給モードの方が圧力比の上昇が速い領域との境界線である。これにより、切替ラインL1を適切に設定することができる。
【0116】
(2-3)
図9で示したように、切替ラインL1は、プライマリ過給機30の定常走行時の等回転速度のラインである。
【0117】
今回開示された各実施の形態は、適宜組合わせて実施することも予定されている。そして、今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
1 エンジン、10A,10B バンク、12A,12B 気筒、20 エアクリーナ、21,22,23,27A,27B,37,47 吸気管、25 インタークーラ、28A,28B 吸気マニホールド、30 プライマリ過給機、31,41 コンプレッサ、32,42 タービン、33,43 コンプレッサホイール、34,44 タービンホイール、35,45 可変ノズル機構、36,46 回転軸、40 セカンダリ過給機、48 還流管、50A,50B 排気マニホールド、51A,51B,52A,52B,53A,53B 排気管、62 第1制御弁、64 第2制御弁、66 第3制御弁、68 ディーゼルスロットル、81 排気処理装置、102 エアフローメータ、104 エンジン回転数センサ、106 第1圧力センサ、108 第2圧力センサ、200 制御装置。