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特許7059963圧力容器の製造方法及び圧力容器の製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】圧力容器の製造方法及び圧力容器の製造装置
(51)【国際特許分類】
   F16J 12/00 20060101AFI20220419BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20220419BHJP
   B29C 70/54 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
F16J12/00 A
F17C1/06
B29C70/54
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019023772
(22)【出願日】2019-02-13
(65)【公開番号】P2020133666
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-04-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】原田 亮
(72)【発明者】
【氏名】神谷 隆太
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-113864(JP,A)
【文献】特開2018-187775(JP,A)
【文献】特開2017-043045(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
F16J12/00-13/24
F17C1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維製の繊維強化基材に含浸させた熱硬化性樹脂が熱硬化して形成された繊維強化複合材層によってライナの外側が覆われている圧力容器の製造方法であって、
前記繊維強化基材に含浸させた、熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させる熱硬化工程では、前記ライナの内部に供給する流体との熱交換によって熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させるとともに、前記繊維強化基材の外表面側からの加熱によって熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させ、
前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記繊維強化基材の外表面側からの加熱温度よりも高くし、ライナ寄りの内表面の方から外表面よりも先に熱硬化性樹脂を熱硬化することを特徴とする圧力容器の製造方法。
【請求項2】
前記繊維強化基材で覆われた前記ライナを成形型のキャビティに配置し、前記繊維強化基材の外表面側からの加熱は、前記成形型からの加熱によって行われる請求項1に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化工程の前に前記キャビティ内に熱硬化前の熱硬化性樹脂を供給して前記繊維強化基材に熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程を有し、
前記含浸工程では、前記ライナの内部に供給する流体との熱交換によって前記熱硬化性樹脂を加熱する請求項2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項4】
前記熱硬化性樹脂が熱硬化して製造された前記圧力容器を冷却する冷却工程を有し、
前記冷却工程では、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記成形型の温度より低い温度に調節する請求項2又は請求項3に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項5】
強化繊維製の繊維強化基材に含浸させた熱硬化性樹脂が熱硬化して形成された繊維強化複合材層によってライナの外側が覆われている圧力容器の製造装置であって、
前記ライナの内部に流体を供給する流体供給装置と、
前記繊維強化基材の外表面側から前記熱硬化性樹脂を加熱するための加熱装置と、
前記繊維強化基材に含浸させた、熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させるとき、前記ライナの内部に供給する流体の温度を前記加熱装置による加熱温度よりも高くし、ライナ寄りの内表面の方から外表面よりも先に熱硬化性樹脂を熱硬化する温度に調節する温度制御部と、を備えることを特徴とする圧力容器の製造装置。
【請求項6】
前記繊維強化基材で覆われた前記ライナを配置するキャビティを有する成形型を備え、当該成形型は前記加熱装置として機能し、前記流体供給装置は、前記成形型に設けられた流入路を介して前記キャビティに連通しており、
前記キャビティに熱硬化前の熱硬化性樹脂を供給し、熱硬化前の熱硬化性樹脂を前記繊維強化基材に含浸させるとき、前記温度制御部は、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度に調節する請求項5に記載の圧力容器の製造装置。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂が熱硬化して製造された前記圧力容器を前記成形型から取り出す前、前記温度制御部は、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記成形型の温度より低い温度に調節する請求項6に記載の圧力容器の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維製の繊維強化基材に含浸した熱硬化性樹脂が熱硬化して形成された繊維強化複合材層によってライナの外側が覆われている圧力容器の製造方法及び圧力容器の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、天然ガスを燃料とする自動車が低公害車として注目されており、より低公害のものとして、燃料電池を動力源とする自動車も注目されている。燃料電池の燃料として水素ガスを燃料タンクに収容する自動車もあるが、燃料タンクとなる圧力容器の重量が重く燃費が悪くなる。この不都合を解消するため、ガスバリア性を有するライナ(内殻)を耐圧性の繊維強化複合材層で覆った圧力容器が提案されている。このような圧力容器内には数十MPaの圧力になるようにガスが充填されるが、繊維強化複合材層により、ライナが補強されている。
【0003】
このような圧力容器の製造方法としては、RTM(Resin Transfer Molding)法による製造方法が挙げられる(例えば、特許文献1参照)。この方法では、成形型のキャビティ内に繊維強化基材で覆われたライナを配置する。ライナの外側を覆う繊維強化基材に、熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させた後、成形型からの加熱によって熱硬化性樹脂を熱硬化させ、ライナを覆う繊維強化複合材層を形成する。
【0004】
又は、例えば、特許文献2に記載されるように、ライナの外側に、フィラメントワインディング法により、熱硬化性樹脂を含浸させた繊維を巻き付け、ライナの外側を覆う繊維強化基材を形成する。そして、繊維強化基材で覆われたライナをオーブン内に配置し、そのオーブン内で熱硬化性樹脂を熱硬化させ、ライナを覆う繊維強化複合材層を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-209510号公報
【文献】特開2015-59123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱硬化性樹脂が熱硬化する際に、繊維強化複合材層の内表面に硬化歪が生じる虞がある。繊維強化複合材層の内表面に硬化歪が生じると、繊維強化複合材層による補強性能が低下し、圧力容器としての強度が得られず、好ましくない。
【0007】
本発明の目的は、圧力容器の強度低下を抑制できる圧力容器の製造方法及び圧力容器の製造装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記問題点を解決するための圧力容器の製造方法は、強化繊維製の繊維強化基材に含浸させた熱硬化性樹脂が熱硬化して形成された繊維強化複合材層によってライナの外側が覆われている圧力容器の製造方法であって、前記繊維強化基材に含浸させた、熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させる熱硬化工程では、前記ライナの内部に供給する流体との熱交換によって熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させるとともに、前記繊維強化基材の外表面側からの加熱によって熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させ、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記繊維強化基材の外表面側からの加熱温度よりも高くし、ライナ寄りの内表面の方から外表面よりも先に熱硬化性樹脂を熱硬化することを要旨とする。
【0009】
これによれば、熱硬化工程では、ライナの内部に供給する流体の温度は、繊維強化基材の外表面側からの加熱温度よりも高くなるように調節される。このため、繊維強化基材に含浸させた熱硬化性樹脂は、ライナ寄りの内表面の方から外表面よりも先に熱硬化する。すると、製造された繊維強化複合材層において、熱硬化時に生じやすい硬化歪が内表面側に形成されることを抑制でき、繊維強化複合材層としての補強性能を発現させることができる。このため、ライナが内圧を受けたときの荷重を繊維強化複合材層で好適に受けることができ、圧力容器の強度低下を抑制できる。
【0010】
また、圧力容器の製造方法について、前記繊維強化基材で覆われた前記ライナを成形型のキャビティに配置し、前記繊維強化基材の外表面側からの加熱は、前記成形型からの加熱によって行われてもよい。
【0011】
これによれば、成形型を型閉めした状態では、キャビティを区画する成形型の内面が繊維強化基材に接触又は近い状態となる。このため、成形型の熱を熱硬化性樹脂に伝えやすく、熱硬化性樹脂を効率良く熱硬化させることができる。
【0012】
また、圧力容器の製造方法について、前記熱硬化工程の前に前記キャビティ内に熱硬化前の熱硬化性樹脂を供給して前記繊維強化基材に熱硬化前の熱硬化性樹脂を含浸させる含浸工程を有し、前記含浸工程では、前記ライナの内部に供給する流体との熱交換によって前記熱硬化性樹脂を加熱してもよい。
【0013】
これによれば、含浸工程において、ライナに供給する流体の温度を調節し、熱硬化性樹脂を加熱することにより、繊維強化基材に熱硬化性樹脂が含浸していく途中で、当該熱硬化性樹脂が冷えることを抑制し、熱硬化性樹脂が冷えることによる粘度上昇を抑制できる。その結果、繊維強化基材への熱硬化性樹脂の含浸が滞ることを抑制でき、熱硬化性樹脂を含浸させるのに要する時間を短くできる。
【0014】
また、圧力容器の製造方法について、前記熱硬化性樹脂が熱硬化して製造された前記圧力容器を冷却する冷却工程を有し、前記冷却工程では、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記成形型の温度より低い温度に調節してもよい。
【0015】
これによれば、冷却工程により、熱硬化性樹脂の熱硬化のために加熱された圧力容器を強制冷却することができ、例えば、圧力容器を自然冷却させる場合と比べると、圧力容器の製造に要する時間を短くできる。
【0016】
上記問題点を解決するための圧力容器の製造装置は、強化繊維製の繊維強化基材に含浸させた熱硬化性樹脂が熱硬化して形成された繊維強化複合材層によってライナの外側が覆われている圧力容器の製造装置であって、前記ライナの内部に流体を供給する流体供給装置と、前記繊維強化基材の外表面側から前記熱硬化性樹脂を加熱するための加熱装置と、前記繊維強化基材に含浸させた、熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させるとき、前記ライナの内部に供給する流体の温度を前記加熱装置による加熱温度よりも高くし、ライナ寄りの内表面の方から外表面よりも先に熱硬化性樹脂を熱硬化する温度に調節する温度制御部と、を備えることを要旨とする。
【0017】
これによれば、熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させるとき、温度制御部は、ライナの内部に供給する流体の温度が加熱装置による加熱温度よりも高くなるように流体の温度を調節する。このため、繊維強化基材に含浸させた熱硬化性樹脂は、ライナ寄りの内表面の方から外表面よりも先に熱硬化する。すると、製造された繊維強化複合材層において、熱硬化時に生じやすい硬化歪が内表面側に形成されることを抑制でき、繊維強化複合材層としての補強性能を発現させることができる。このため、ライナが内圧を受けたときの荷重を繊維強化複合材層で好適に受けることができ、圧力容器の強度低下を抑制できる。
【0018】
また、圧力容器の製造装置について、前記繊維強化基材で覆われた前記ライナを配置するキャビティを有する成形型を備え、当該成形型は前記加熱装置として機能し、前記流体供給装置は、前記成形型に設けられた流入路を介して前記キャビティに連通しており、前記キャビティに熱硬化前の熱硬化性樹脂を供給し、熱硬化前の熱硬化性樹脂を前記強化繊維に含浸させるとき、前記温度制御部は、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記熱硬化性樹脂を加熱する温度に調節してもよい。
【0019】
これによれば、熱硬化性樹脂を繊維強化基材に含浸させるとき、温度制御部によって、ライナに供給する流体の温度を調節し、熱硬化性樹脂を加熱する温度に制御することにより、繊維強化基材に熱硬化性樹脂が含浸していく途中で、当該熱硬化性樹脂が冷えることを抑制し、熱硬化性樹脂が冷えることによる粘度上昇を抑制できる。その結果、繊維強化基材への熱硬化性樹脂の含浸が滞ることを抑制でき、熱硬化性樹脂を含浸させるのに要する時間を短くできる。
【0020】
また、圧力容器の製造装置について、前記熱硬化性樹脂が熱硬化して製造された前記圧力容器を前記成形型から取り出す前、前記温度制御部は、前記ライナの内部に供給する流体の温度を、前記成形型の温度より低い温度に調節してもよい。
【0021】
これによれば、熱硬化性樹脂の熱硬化のために加熱された圧力容器を強制冷却することができ、例えば、圧力容器を自然冷却させる場合と比べると、圧力容器の製造に要する時間を短くできる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、圧力容器の強度低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】高圧タンクを模式的に示す断面図。
図2】繊維構造体を模式的に示す図。
図3】高圧タンクの製造装置を模式的に示す図。
図4】成形型を型閉めした状態を模式的に示す図。
図5】ライナに湯を供給した状態を模式的に示す図。
図6】熱硬化性樹脂を注入した状態を模式的に示す図。
図7】オーブンによる高圧タンクの製造方法を模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、圧力容器の製造方法及び製造装置を、高圧タンクの製造方法及び製造装置に具体化した一実施形態を図1図6にしたがって説明する。
図1又は図2に示すように、圧力容器としての高圧タンク10は、細長中空状のライナ12と、ライナ12の外側を覆う繊維強化基材19と、を有する繊維構造体21における繊維強化基材19にマトリックス樹脂(ドットハッチングに示す)を含浸硬化させて構成されている。高圧タンク10は、マトリックス樹脂としての熱硬化性樹脂が含浸硬化した繊維強化基材19よりなる繊維強化複合材層11によってライナ12を補強し、高圧タンク10の耐圧性(機械的強度)を確保している。
【0025】
ライナ12は、樹脂製であり、細長中空状である。ライナ12の中心軸線Lの延びる方向を軸方向Yとする。ライナ12は、円筒状の胴体部13を備える。胴体部13の中心軸線はライナ12の中心軸線Lと一致する。ライナ12は、胴体部13の軸方向Y両端にドーム部14を有する。ドーム部14の軸方向は、ライナ12の軸方向と一致する。各ドーム部14は、ライナ12の軸方向Yに沿って各ドーム部14の先端に向かうに従い先すぼみとなる形状である。ライナ12の中心軸線Lに直交する方向をライナ12の径方向Xとする。
【0026】
また、ライナ12は、各ドーム部14の先端側に口金部15を備える。各口金部15は金属製(例えばステンレス製)である。各口金部15は、ドーム部14との接続部15aを備えるとともに、ライナ12内の空間と連通する孔部15bを備える。ライナ12の軸方向Y一端側の口金部15の孔部15bにはバルブ(図示せず)が装着され、ライナ12の軸方向Y他端側の口金部15の孔部15bには螺子(図示せず)が螺合され、閉塞されている。各口金部15の接続部15aの外面は曲面状であり、接続部15aの外面はドーム部14の外面の一部を構成している。
【0027】
繊維強化基材19は、この実施形態では炭素繊維を強化繊維として備える。なお、強化繊維は炭素繊維に限らず、ガラス繊維や炭化ケイ素系セラミック繊維やアラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を使用してもよい。
【0028】
図2に示すように、繊維強化基材19は、複数本の経糸22と、複数本の緯糸23とを平織りして製織された織物24を捲回した構造である。経糸22と緯糸23は互いに直交して配列されている。複数本の経糸22は、ライナ12の軸方向Yへ互いに平行な状態で胴体部13及び各ドーム部14に配列されている。各経糸22の糸主軸方向X1は、胴体部13及びドーム部14においてライナ12の周方向Zへ直線的に延びている。
【0029】
複数本の緯糸23は、ライナ12の周方向Zへ互いに平行な状態で胴体部13及び各ドーム部14に配列されている。経糸22と緯糸23は直交して配列され、経糸22の糸主軸方向X1の延びる方向をライナ12の周方向Zに一致させることで、経糸22によりライナ12を径方向Xに補強し、緯糸23の糸主軸方向X2をライナ12の軸方向Yに一致させることで、緯糸23によりライナ12を軸方向Yに補強している。
【0030】
次に、高圧タンク10の製造装置について説明する。
図3又は図4に示すように、高圧タンク10の製造装置は、クローズドモールドで高圧タンク10を製造するための成形型31を備える。成形型31は下型32及び上型33で構成されており、成形型31は、型閉め状態で、形成すべき高圧タンク10の形状に対応したキャビティ34を備える。キャビティ34は、下型32に設けられた下型凹部32cと、上型33に設けられ上型凹部33cとを組み合わせて形成される。
【0031】
下型32には熱媒通路32aが設けられ、下型32の熱媒通路32aは、下型凹部32cの下面に沿って複数設けられている。上型33には熱媒通路33aが設けられ、上型33の熱媒通路33aは、上型凹部33cの上面に沿って複数設けられている。下型32には、下型32の温度を測定する下型温度センサ32bが設けられ、上型33には、上型33の温度を測定する上型温度センサ33bが設けられている。
【0032】
熱媒通路32a,33aには、熱媒体として、温度調節された水(湯)が熱媒体供給装置29から供給される。熱媒体供給装置29から供給された湯Wは、熱媒通路32a,33aを流れ、湯Wとの熱交換により下型32及び上型33の温度が調節される。本実施形態では、湯Wとの熱交換により下型32及び上型33は加熱される。そして、加熱された下型32及び上型33により、キャビティ34内の繊維構造体21において、繊維強化基材19が外表面側から加熱されるようになっている。
【0033】
上型33には、型閉め状態でキャビティ34に連通する注入孔35及び排出孔36が形成されている。注入孔35は一端がキャビティ34と対応する位置に形成され、他端が注入管37を介して樹脂注入装置38に接続されている。樹脂注入装置38は、公知の装置が使用され、タンク内に貯蔵された熱硬化性樹脂をキャビティ34に向けてポンプで送り出すように構成されている。排出孔36は一端がキャビティ34と対応する位置に形成され、他端が吸引管41を介して減圧ポンプ40に接続されている。
【0034】
また、下型32には、型閉め状態でキャビティ34に連通する流入路42及び流出路43が形成されている。流入路42と流出路43は、キャビティ34を挟んで対向する位置に設けられている。そして、流入路42とキャビティ34と流出路43は一繋がりの空間である。流入路42及び流出路43は、下型32の下型凹部32cに連通するように、下型32を貫通している。
【0035】
流入路42は一端がキャビティ34と対応する位置に形成され、他端が第1配管44を介して流体供給装置45に接続されている。流体供給装置45は、ライナ12の内部に流体としての湯Wを供給するとともに、供給する湯Wの温度を調節する。高圧タンク10の製造装置は、第1配管44を流れる湯Wの温度を測定する第1温度センサS1を備える。
【0036】
また、流出路43は一端がキャビティ34と対応する位置に形成され、他端が第2配管46を介して流体排出タンク47に接続されている。流体排出タンク47には、流出路43を介して成形型31から排出された湯Wが流れ込む。高圧タンク10の製造装置は、第2配管46を流れる湯Wの温度を測定する第2温度センサS2を備える。
【0037】
高圧タンク10の製造装置は、下型温度センサ32b、上型温度センサ33b、第1温度センサS1及び第2温度センサS2に信号接続された温度制御部50を備える。温度制御部50には、下型温度センサ32b、上型温度センサ33b、第1温度センサS1及び第2温度センサS2の測定値が入力される。
【0038】
温度制御部50は、流体供給装置45及び熱媒体供給装置29に信号接続されている。温度制御部50は、第1温度センサS1及び第2温度センサS2の測定値に基づいて、流体供給装置45を制御し、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を調節する。また、温度制御部50は、下型温度センサ32b及び上型温度センサ33bの測定値に基づいて、熱媒体供給装置29を制御し、熱媒通路32a,33aに供給する湯Wの温度を調節する。
【0039】
次に、高圧タンク10の製造方法について説明する。
高圧タンク10の製造方法は、キャビティ34に繊維構造体21を配置する配置工程と、熱硬化前の熱硬化性樹脂を繊維強化基材19に含浸させるための含浸工程と、熱硬化前の熱硬化性樹脂を熱硬化させる熱硬化工程と、を有する。さらに、高圧タンク10の製造方法は、熱硬化性樹脂が熱硬化して製造された高圧タンク10を冷却する冷却工程と、キャビティ34から高圧タンク10を取り出す取出工程と、を有する。
【0040】
図4に示すように、配置工程では、キャビティ34内(成形型31内)に繊維構造体21を配置する。まず、下型32の下型凹部32cに繊維構造体21を配置し、下型凹部32cに軸方向Y両端の口金部15を支持させる。この支持状態では、ライナ12の軸方向Y一端側の口金部15の孔部15bに流入路42が連通し、流入路42及び第1配管44を介して流体供給装置45が接続される。また、ライナ12の軸方向Y他端側の口金部15の孔部15bに流出路43が連通し、流出路43及び第2配管46を介して流体排出タンク47が接続される。
【0041】
次に、上型33が下型32に接触し、キャビティ34の密閉性が確保されるまで型閉めを行う。すると、下型凹部32cと上型凹部33cによってキャビティ34が区画され、キャビティ34内に繊維構造体21が配置される。また、キャビティ34内の繊維構造体21の繊維強化基材19に対し、下型凹部32cの内面及び上型凹部33cの内面が近い状態となる。
【0042】
図5に示すように、キャビティ34に繊維構造体21を配置する前から、温度制御部50によって温度調節された湯Wを熱媒体供給装置29から熱媒通路32a,33aに供給し、熱媒通路32a,33aを流れる湯Wとの熱交換によって下型32及び上型33を加熱(温度調節)する。温度制御部50は、下型32及び上型33の温度が所望する温度になるように、熱媒通路32a,33aに供給する湯Wの温度を調節する。本実施形態では、下型温度センサ32bによって測定された下型32の温度、及び上型温度センサ33bによって測定された上型33の温度が80~150℃になるように、温度制御部50は、熱媒通路32a,33aに供給する湯Wの温度を調節する。
【0043】
なお、樹脂製のライナ12が、下型32及び上型33からの加熱によって変形することを回避するため、温度制御部50は、下型32及び上型33の温度がライナ12の耐熱温度より低くなるように、熱媒通路32a,33aに流す湯Wの温度を調節する。一方で、下型32及び上型33の温度が低すぎると、熱硬化する前の熱硬化性樹脂が下型32及び上型33によって冷やされてしまい、繊維強化基材19への熱硬化性樹脂の含浸の妨げになる。熱硬化性樹脂が冷やされることを避けるため、温度制御部50は、下型32及び上型33の温度を調節する。
【0044】
また、図6に示すように、キャビティ34内に繊維構造体21を配置した後、流体供給装置45からキャビティ34内のライナ12の内部に湯Wを供給する。湯Wは、後工程においてキャビティ34内を減圧したときにライナ12が膨脹することを抑制するため、ライナ12の内部に供給される。このとき、流体供給装置45から供給する湯Wの温度が、後工程となる含浸工程に適した温度となるように、温度制御部50は流体供給装置45を制御する。具体的には、温度制御部50は、第1温度センサS1及び第2温度センサS2から取得した湯Wの温度に基づいて、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を、後工程の含浸工程に適した温度となるように調節する。温度制御部50は、ライナ12の内部に供給される前の湯Wの温度と、ライナ12から排出された湯Wの温度の差から、ライナ12の温度を推定し、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を決定する。なお、含浸工程に適した温度とは、熱硬化する前の熱硬化性樹脂が、冷えて粘度上昇することを抑制できる温度である。このときの湯Wの温度は、本実施形態では80~150℃である。
【0045】
次に、減圧ポンプ40を駆動して、排出孔36を介してキャビティ34内を真空に近い状態まで減圧する。このとき、ライナ12に供給された湯Wにより、ライナ12が膨脹することが回避される。
【0046】
次に、図6に示すように、含浸工程を行う。含浸工程では、キャビティ34内が減圧された状態で、樹脂注入装置38から熱硬化前の熱硬化性樹脂57を注入孔35からキャビティ34内に注入する。樹脂注入装置38は、送り出される熱硬化性樹脂57が一定流量となるように熱硬化性樹脂57を送り出す。キャビティ34内に注入された、熱硬化前の熱硬化性樹脂57は、繊維強化基材19の周りとキャビティ34の内面との間の隙間に充填されるとともに、熱硬化性樹脂57がキャビティ34を下から次第に満たしていく。なお、キャビティ34内に熱硬化性樹脂57が注入されると、注入された熱硬化性樹脂57によってライナ12が加圧されるが、ライナ12の内部に供給された湯Wにより、ライナ12が内側から加圧されており、ライナ12の収縮が抑制される。
【0047】
含浸工程では、ライナ12の内部に供給された湯Wにより、熱硬化前の熱硬化性樹脂57がライナ12側から加熱されるとともに、加熱された下型32及び上型33により、熱硬化性樹脂57が下型32及び上型33側から加熱される。このため、熱硬化前の熱硬化性樹脂57は、ライナ12側及び成形型31側の両側から加熱された状態で、繊維強化基材19に含浸していく。
【0048】
キャビティ34への熱硬化性樹脂57の注入が継続されて、キャビティ34内の繊維構造体21全体が熱硬化性樹脂57によって覆われるまでキャビティ34内への熱硬化性樹脂57の注入が行われた後、樹脂注入装置38及び減圧ポンプ40の運転を停止する。その後、さらなる型閉めが行われ、下型32と上型33の隙間が狭められる。すると、熱硬化性樹脂57が繊維強化基材19に向けて押し出され、キャビティ34の内面と熱硬化性樹脂57の層との間に隙間が形成されることを抑制する。
【0049】
熱硬化性樹脂57の注入完了後、流体供給装置45からライナ12の内部に供給する湯Wの温度が、熱硬化性樹脂57を熱硬化させるのに適した温度となるように、温度制御部50は流体供給装置45を制御する。具体的には、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給される前の湯Wの温度と、ライナ12から排出された湯Wとの温度の差から、ライナ12の温度を推定し、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を決定する。熱硬化に適した温度とは、熱硬化性樹脂57の熱硬化を促進させる温度である。
【0050】
また、温度制御部50は、熱媒通路32a,33aを流れる湯Wの温度も、熱硬化性樹脂57の熱硬化を促進させるのに適した温度となるように熱媒体供給装置29を制御する。具体的には、温度制御部50は、下型温度センサ32b及び上型温度センサ33bから取得した下型32及び上型33の温度に基づいて、熱媒通路32a,33aに流す湯Wの温度を調節し、下型32及び上型33を、熱硬化性樹脂57の熱硬化を促進させる温度に調節する。
【0051】
ここで、熱硬化性樹脂57を、繊維強化基材19の外表面側よりも内表面側を先に熱硬化させるため、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を、下型32及び上型33による加熱温度より高くする。例えば、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を100℃に調節し、下型32及び上型33の温度を80℃に調節する。
【0052】
ライナ12の内部に供給する湯Wと、加熱された下型32及び上型33との温度差は、5~20℃が好ましい。そして、ライナ12の内部に供給する湯Wと、下型32及び上型33との温度差が5℃以上になると、熱硬化性樹脂57は、ライナ12からの加熱により、繊維強化基材19の内表面側から外表面よりも先に熱硬化する。その後、ライナ12からの加熱及び成形型31からの加熱によって、繊維強化基材19に含浸させた熱硬化性樹脂57全体が熱硬化する。したがって、熱硬化性樹脂57が熱硬化して形成される繊維強化複合材層11は、繊維強化複合材層11の内表面がライナ12の外表面に接触した状態に形成され、繊維強化複合材層11によってライナ12が補強される。
【0053】
そして、高圧タンク10が完成すると、高圧タンク10を冷却する冷却工程を行う。冷却工程では、温度制御部50による流体供給装置45の制御により、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を、高圧タンク10を成形型31から取り外すのに適した温度に温度調節される。具体的には、温度制御部50は、第1温度センサS1及び第2温度センサS2から取得した湯Wの温度に基づいて、ライナ12内での湯Wの温度を冷却工程に適した温度となるように調節する。例えば、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を30~80℃に調節する。冷却工程では、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度は、下型32及び上型33の温度より低い温度に調節される。なお、冷却工程では、温度制御部50は、熱媒通路32a,33aへ供給する湯Wの温度は変更せず、下型32及び上型33の温度は含浸工程と同じである。よって、下型32及び上型33の温度が80~150℃であるため、下型32及び上型33の温度が80℃の場合は、温度制御部50は、冷却工程でライナ12の内部に供給する湯Wの温度を80℃より低く調節する。
【0054】
そして、ライナ12が内表面側から冷却され、高圧タンク10が冷却される。その後、取出工程では、成形型31を開き、成形型31内から高圧タンク10を取り出す。
上記実施形態によれば、以下のような作用効果を得ることができる。
【0055】
(1)熱硬化工程において、流体供給装置45からライナ12の内部に供給される湯Wの温度は、温度制御部50によって、下型32及び上型33による熱硬化性樹脂57の加熱温度よりも高くなるように調節される。このため、繊維強化基材19に含浸された熱硬化性樹脂57は、外表面側よりも先に内表面側が熱硬化する。すると、製造された繊維強化複合材層11において、硬化歪が内表面側に形成されることを抑制でき、製造された繊維強化複合材層11の内表面とライナ12の外表面との間に隙間が形成されることを抑制できる。このため、繊維強化複合材層11としての補強性能を発現させることができ、ライナ12が内圧を受けたときの荷重を繊維強化複合材層11で好適に受けることができ、高圧タンク10の強度低下を抑制できる。その結果として、高圧タンク10の強度を高めるため、繊維強化基材19を厚くしたり、熱硬化性樹脂57を多くしたりする必要がなく、高圧タンク10の軽量化も図ることができる。
【0056】
(2)含浸工程では、繊維強化基材19に熱硬化性樹脂57を含浸させるのに適した温度となるように、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を調節する。このため、繊維強化基材19に熱硬化性樹脂57が含浸していく途中で冷えて粘度上昇してしまい、繊維強化基材19への含浸が滞ることを抑制でき、熱硬化性樹脂57を含浸させるのに要する時間を短くできる。
【0057】
(3)熱硬化性樹脂57の硬化後の冷却工程では、高圧タンク10を成形型31から取り出せる温度となるように、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を調節する。このため、例えば、高圧タンク10を自然冷却させる場合と比べると、高圧タンク10を成形型31から取り出すまでに要する時間を短くできる。よって、冷却工程により、高圧タンク10の生産に要する時間を短くして高圧タンク10の生産性を向上させることができる。
【0058】
(4)熱硬化工程では、熱媒通路32a,33aに流れる湯Wとの熱交換によって下型32及び上型33が加熱される。そして、キャビティ34に配置された繊維構造体21の繊維強化基材19は、キャビティ34の内面に近い状態にあるため、成形型31の熱を、繊維強化基材19に含浸させた熱硬化性樹脂57に伝えやすく、熱硬化性樹脂57はライナ12の外表面側からも効率良く加熱される。このため、熱硬化性樹脂57は、ライナ12側と成形型31側の両側から熱硬化が促進され、例えば、成形型31側のみから加熱される場合と比べると、熱硬化性樹脂57を熱硬化させるのに要する時間を短くし、高圧タンク10の生産に要する時間を短くして高圧タンク10の生産性を向上させることができる。
【0059】
(5)成形型31を用いたRTM法によって高圧タンク10を製造する。成形型31のキャビティ34に熱硬化性樹脂57を供給し、成形型31による加熱によって熱硬化性樹脂57を外表面側から加熱できる。例えば、オーブン内で熱硬化性樹脂57を加熱する場合と比べると、成形型31では熱硬化性樹脂57の加熱が効率良く行うことができ、熱硬化しやすい熱硬化性樹脂57を用いることができる。その結果として、熱硬化性樹脂57を硬化させるのに要する時間を短くし、高圧タンク10の生産に要する時間を短くして高圧タンク10の生産性を向上させることができる。
【0060】
(6)キャビティ34に熱硬化性樹脂57を供給する前、キャビティ34を減圧する。キャビティ34に熱硬化性樹脂57を供給するとき、キャビティ34の圧力変化によってライナ12が膨脹することを抑制するため、ライナ12内には流体(湯W)が供給される。また、キャビティ34に熱硬化性樹脂57を注入するとき、注入される熱硬化性樹脂57による加圧によってライナ12が収縮することを抑制するためにも、ライナ12内には流体(湯W)が供給される。そして、このライナ12内に供給される湯Wを温度制御部50によって温度調節することにより、含浸工程、熱硬化工程、及び冷却工程に要する時間を短くできる。したがって、ライナ12に供給する湯Wを利用して、ライナ12の膨脹及び収縮の抑制と、生産性の向上を達成できる。
【0061】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
○ 高圧タンク10の製造は、クローズドモールドであるRTM法ではなく、オープンモールドで行ってもよい。例えば、図7に示すように、ライナ12の外側に、フィラメントワインディング法により、熱硬化性樹脂を含浸させた強化繊維を巻き付け、ライナ12の外側を覆う繊維強化基材19を形成する。そして、繊維強化基材19で覆われたライナ12、つまり繊維構造体21を、加熱装置としてのオーブン60内に配置して配置工程を行う。
【0062】
なお、オーブン60内には流体供給装置45及び流体排出タンク47が配置されており、流体供給装置45からライナ12に流体が供給可能である。含浸工程では、流体供給装置45からオーブン60内のライナ12に流体を供給する。このとき、流体供給装置45から供給する流体の温度が、熱硬化工程に適した温度となるように、温度制御部50は流体供給装置45及びオーブン60の温度を制御する。
【0063】
そして、熱硬化工程において、流体供給装置45からライナ12の内部に供給される湯Wの温度は、温度制御部50によって、オーブン60による熱硬化性樹脂57の加熱温度よりも高くなるように調節される。例えば、オーブン60による加熱温度を、80~160℃に調節し、このオーブン60による加熱温度より高くなるようにライナ12の内部に供給される湯Wの温度を80~160℃の範囲内で調節する。
【0064】
このため、繊維強化基材19に含浸された熱硬化性樹脂57は、外表面側よりも先に内表面側が熱硬化する。すると、製造された繊維強化複合材層11において、硬化歪が内表面側に形成されることを抑制でき、製造された繊維強化複合材層11の内表面とライナ12の外表面との間に隙間が形成されることを抑制できる。このため、繊維強化複合材層11によって、ライナ12が内圧を受けたときの荷重を受けることができ、高圧タンク10の強度低下を抑制できる。その結果として、高圧タンク10の強度を高めるため、繊維強化基材19を厚くしたり、熱硬化性樹脂57を多くしたりする必要がなく、高圧タンク10の軽量化も図ることができる。
【0065】
そして、熱硬化性樹脂57の熱硬化完了後、ライナ12の外側に繊維強化複合材層11が形成され、高圧タンク10が完成する。次に、高圧タンク10を冷却する冷却工程を行う。冷却工程では、高圧タンク10をオーブン60から取り出せる温度となるように、温度制御部50は、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度を、例えば30~80℃の範囲内で調節する。このため、例えば、高圧タンク10を自然冷却させる場合と比べると、高圧タンク10をオーブン60から取り出すまでに要する時間を短くできる。
【0066】
○ 冷却工程は、ライナ12の内部に湯Wを供給せず、自然冷却によって行ってもよい。
○ 冷却工程では、ライナ12の内部に供給した湯Wによる冷却に加え、熱媒通路32a,33aに流す湯Wの温度調節によって冷却された下型32及び上型33による冷却を行ってもよい。
【0067】
○ 含浸工程では、ライナ12の内部に湯Wを供給せず、下型32及び上型33による加熱のみで熱硬化性樹脂57の含浸を促進させてもよい。
○ 含浸工程では、ライナ12の内部に湯Wを供給し、繊維強化基材19の内表面側からの加熱のみで熱硬化性樹脂57の含浸を促進させ、下型32及び上型33による熱硬化性樹脂57の加熱はなくてもよい。
【0068】
○ 流体供給装置45からライナ12に供給する流体は、蒸気や油、非圧縮性流体であってもよい。また、熱媒体供給装置29から下型32の熱媒通路32a及び上型33の熱媒通路33aに供給する流体は、蒸気や油、非圧縮性流体であってもよい。
【0069】
○ 下型32及び上型33の加熱は、流体による加熱以外の方法でもよい。例えば、下型32及び上型33の加熱は、下型32及び上型33の外部に配置された加熱装置としてのヒータによる加熱や、加熱装置としての熱風機によって温風を送ることによる加熱であってもよい。
【0070】
○ ライナ12が熱によって軟化しやすい樹脂製の場合、熱硬化性樹脂57を硬化させる際に生じる樹脂発熱により、ライナ12が軟化する場合がある。この場合は、ライナ12の軟化が生じる前に、ライナ12に供給する流体の温度を低くして(例えば、30~80℃)、ライナ12を冷却してもよい。
【0071】
○ ライナ12に供給する流体の温度を、第1温度センサS1及び第2温度センサS2による測定値に基づいて調節したが、温度制御部50に予め記憶した温度となるように調節してもよい。
【0072】
○ 温度制御部50により、熱媒体供給装置29及び流体供給装置45から供給する湯Wの温度を調節したが、熱媒体供給装置29及び流体供給装置45それぞれが温度制御部を備えていてもよい。この場合、熱媒体供給装置29の温度制御部によって、熱媒通路32a,33aに供給する湯Wの温度が調節され、流体供給装置45の温度制御部によって、ライナ12の内部に供給する湯Wの温度が調節される。
【0073】
○ ライナ12の外側に、例えばフィラメントワインディング法やブレーディング法により、強化繊維を、熱硬化性樹脂を含浸さずに巻き付けて繊維強化基材19を形成して繊維構造体21とし、その繊維構造体21をRTM法で熱硬化性樹脂57を含浸硬化させて高圧タンク10としてもよい。
【0074】
○ 高圧タンク10は燃料電池搭載電気自動車の水素源として搭載されて使用するものに限らず、例えば、水素エンジンの水素源やヒートポンプ等に適用してもよい。また、家庭用電源の燃料電池の水素源として使用してもよい。
【0075】
○ 圧力容器として水素を貯蔵する高圧タンクに限らず、例えば窒素、圧縮天然ガス等の他のガスを貯蔵す圧力容器に適用してもよい。
○ ライナ12は樹脂製に限らず、金属製であってもよい。
【符号の説明】
【0076】
W…流体としての湯、10…圧力容器としての高圧タンク、11…繊維強化複合材層、12…ライナ、19…繊維強化基材、31…加熱装置としての成形型、34…キャビティ、42…流入路、45…流体供給装置、50…温度制御部、57…熱硬化性樹脂、60…加熱装置としてのオーブン。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7