(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】レーザーレーダー装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/486 20200101AFI20220419BHJP
H01L 31/107 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01S7/486
H01L31/10 B
(21)【出願番号】P 2019507501
(86)(22)【出願日】2018-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2018008253
(87)【国際公開番号】W WO2018173712
(87)【国際公開日】2018-09-27
【審査請求日】2020-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017055292
(32)【優先日】2017-03-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 裕一
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032552(JP,A)
【文献】特表2016-526295(JP,A)
【文献】特開2014-130890(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0291682(US,A1)
【文献】特開2009-124145(JP,A)
【文献】特開2011-222874(JP,A)
【文献】国際公開第2018/021126(WO,A1)
【文献】MORSE M. et al.,Performance of Ge/Si receivers at 1310nm,Physica E,2009年05月,Volume 41, Issue 6,1076-1081
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48 - 7/51
G01S17/00 -17/95
H01L31/107
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光を対象物に対して照射する投光部と、前記対象物で散乱した前記レーザー光の散乱光を受光する受光部と、を備えたレーザーレーダー装置であって、
前記レーザー光の波長が、1400~2600nmの範囲内であり、
前記受光部は、基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層及び反射防止層がこの順に積層されてなり、前記散乱光を受光する受光素子を有し、
前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、
前記吸収層が、
真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、
当該吸収層の厚さが、前記レーザー光の80%以上を吸収する厚さであるレーザーレーダー装置。
【請求項2】
前記吸収層が、前記i-Ge層と前記増幅層との間に、第2のp-Ge層を有する請求項
1に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項3】
前記吸収層が、前記p-Ge層よりも高濃度でp型にドープされたp
+-Ge層を有し、前記p-Ge層上に前記p
+-Ge層が積層されている請求項1
又は請求項2に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項4】
前記増幅層が、n-Si層とp-Si層との間に、真性領域であるi-Si層を有する請求項1から請求項
3までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項5】
前記反射防止層を形成する材料の屈折率が、1.2~3.5の範囲内である請求項1から請求項
4までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項6】
前記反射防止層の表面には、微細な凹凸構造が形成されている請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項7】
前記微細な凹凸構造は、モスアイ構造である請求項
6に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項8】
前記反射防止層が、複数の反射防止層が積層された多層構造を有する請求項1から請求項
7までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項9】
前記基板の前記吸収層が設けられた側とは反対側に、前記吸収層で受光対象となる光の少なくとも一部を反射する光反射層が形成されている請求項1から請求項
8までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項10】
前記受光部が、複数の前記受光素子が1次元又は2次元アレイ状に配列されてなる近赤外光検出器を備える請求項1から請求項
9までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項11】
前記レーザー光のレーザー光源が、半導体レーザー又はファイバーレーザーである請求項1から請求項
10までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項12】
前記投光部から照射された前記レーザー光を主走査方向に走査するための走査部を更に備える請求項1から請求項
11までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【請求項13】
前記走査部として、ポリゴンミラー又はMEMSミラーを用いる請求項
12に記載のレーザーレーダー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー照射に対する散乱光を検出し、対象物までの距離を計測するレーザーレーダー装置に関する。具体的には、本発明は、ゲルマニウム(Ge)の吸収層を有し、生産性が高くて製造コストが低く、かつ自由空間からの光を効率的に受光できる受光素子を用いたレーザーレーダー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザーレーダー(ライダー)等の計測機器においては、例えば、目の網膜まで達しにくい波長1400~2600nmの範囲内の光を光源から投光し、その光を受光素子により受光することによって対象物の計測が行われている。現在、光源に関しては様々な選択肢があるものの、受光素子については選択肢が限られており、課題も多い。
【0003】
これらの近赤外光に受光感度をもつ従来の受光素子としては、低ノイズであり、かつ応答速度が速いという観点から、例えば、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)といった化合物半導体が用いられることが多い。
しかし、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いる方法は、生産性が非常に悪く、かつ製造コストを要するという問題がある。そこで、生産性が高く、かつ製造コストを抑えられる新しい受光素子が求められている。
【0004】
ところで、インジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いずに、波長1550nm付近の近赤外線領域に受光感度をもつ受光素子としては、ゲルマニウム(Ge)を吸収層に用いた受光素子が知られている。
【0005】
このような受光素子としては、真性半導体として、ゲルマニウム(Ge)や、シリコン(Si)-ゲルマニウム(Ge)を用いることで、近赤外線領域の波長の光を吸収し、光通信等の用途で好適に使用できる光学素子が開示されている(特許文献1)。特許文献1では、pドープ領域、真性領域及びnドープ領域を有し、pドープ領域及びnドープ領域の少なくとも一方がアレイ状に配置されたアバランシェフォトダイオード(APD:avalanche photodiode)が開示されている。
【0006】
また、他の受光素子の例としては、シリコン(Si)層上にゲルマニウム(Ge)を成長させることで、ゲルマニウム(Ge)を吸収層、シリコン(Si)を増幅層としたアバランシェフォトダイオード(APD)の構成が開示されている(非特許文献1)。非特許文献1の受光素子によれば、ゲルマニウム(Ge)はノイズが多いことが知られているものの、シリコン(Si)を増幅層とすることで、低ノイズであり、かつ上述した近赤外線領域の波長に感度を持つセンサーを製造することができることが記載されている。
【0007】
これらの光学素子は光通信用の用途に用いることを想定したものであるため、低消費電力であり、かつ応答速度が速くなるように構成されている。そのため、通常、導波路状に形成された吸収層を用いて光を伝播、吸収する構成となっている(
図15参照)。導波路状の吸収層は、層厚を薄くしても、光を吸収するための相互作用長(
図15のL2)を長くとることができるので、暗電流等に起因するノイズを抑え、応答速度が速くすることができる。また、印加電圧を抑えられるため、消費電力も抑えることができる。
【0008】
しかし、これらの光学素子は、光通信用の用途に用いることを想定したものであり、自由空間からの光を受光する用途に用いることは難しい。
特に、ゲルマニウム(Ge)は屈折率が4程度と非常に大きく、自由空間からの光は、入射角度が大きいものも多いため、吸収層表面で反射してしまう割合も大きく、吸収層にて効率的に吸収することができない。
また、光通信用の用途に用いられる受光素子は、上述したように、吸収層が薄くなっているため、自由空間からの光の受光するための受光素子に用いる場合には、光を吸収するための相互作用長(
図8のL1)が短くなり、吸収層において、十分に光を吸収することができないという問題が生じる。また、ゲルマニウム(Ge)からなる吸収層は、ノイズが非常に大きいため、単に吸収層の層厚を厚くしただけでは、応答速度が遅くなるとともに、ノイズが非常に大きくなるため、自由空間からの光を受光する用途に用いることはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Nature Photonics,2010,4,527-534.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、生産性が高くて製造コストが低く、かつ自由空間からの光を効率的に受光できるレーザーレーダー装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、基板上に、増幅層、吸収層及び反射防止層を順に有し、前記増幅層は少なくともp-Si層及びn-Si層を有し、前記吸収層は少なくともp-Ge層を有する受光素子とすることによって、当該吸収層の受光感度の大きい近赤外光を自由空間から効率的に受光できることを見いだし、本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0013】
1.レーザー光を対象物に対して照射する投光部と、前記対象物で散乱した前記レーザー光の散乱光を受光する受光部と、を備えたレーザーレーダー装置であって、
前記レーザー光の波長が、1400~2600nmの範囲内であり、
前記受光部は、基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層及び反射防止層がこの順に積層されてなり、前記散乱光を受光する受光素子を有し、
前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、
前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、
当該吸収層の厚さが、前記レーザー光の80%以上を吸収する厚さであるレーザーレーダー装置。
【0015】
2.前記吸収層が、前記i-Ge層と前記増幅層との間に、第2のp-Ge層を有する第1項に記載のレーザーレーダー装置。
【0016】
3.前記吸収層が、前記p-Ge層よりも高濃度でp型にドープされたp+-Ge層を有し、前記p-Ge層上に前記p+-Ge層が積層されている第1項又は第2項に記載のレーザーレーダー装置。
【0017】
4.前記増幅層が、n-Si層とp-Si層との間に、真性領域であるi-Si層を有する第1項から第3項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0018】
5.前記反射防止層を形成する材料の屈折率が、1.2~3.5の範囲内である第1項から第4項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0019】
6.前記反射防止層の表面には、微細な凹凸構造が形成されている第1項から第5項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0020】
7.前記微細な凹凸構造は、モスアイ構造である第6項に記載のレーザーレーダー装置。
【0021】
8.前記反射防止層が、複数の反射防止層が積層された多層構造を有する第1項から第7項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0022】
9.前記基板の前記吸収層が設けられた側とは反対側に、前記吸収層で受光対象となる光の少なくとも一部を反射する光反射層が形成されている第1項から第8項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0023】
10.前記受光部が、複数の前記受光素子が1次元又は2次元アレイ状に配列されてなる近赤外光検出器を備える第1項から第9項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0024】
11.前記レーザー光のレーザー光源が、半導体レーザー又はファイバーレーザーである第1項から第10項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0026】
12.前記投光部から照射された前記レーザー光を主走査方向に走査するための走査部を更に備える第1項から第11項までのいずれか一項に記載のレーザーレーダー装置。
【0027】
13.前記走査部として、ポリゴンミラー又はMEMSミラーを用いる第12項に記載のレーザーレーダー装置。
【発明の効果】
【0028】
本発明の上記手段によれば、生産性が高くて製造コストが低く、かつ自由空間からの光を効率的に受光できるレーザーレーダー装置を提供することが可能となる。
上記効果の作用機構は、以下のとおりである。
【0029】
本発明の受光素子は、基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層及び反射防止層がこの順に積層されている。
ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層は、屈折率が非常に大きいため、自由空間からの光は、吸収層表面で反射しやすいが、反射防止層によって、受光素子表面での反射を防止することで、受光素子内部への入光量を増やすことができる。
また、本発明の受光素子は、吸収層が、p型にドープされたp-Ge層を少なくとも有している。p-Ge層は、キャリアの移動は遅いもののノイズが少ないので、例えば、p-Ge層の割合を多くして吸収層を厚く設けることで、受光感度(量子効率)を向上させるとともに、ノイズも抑えることができる。
また、本発明は、シリコン(Si)を含有する増幅層を有しているので、吸収層から移動したキャリアの移動を増幅させ、より大きな電流を流すことができる。また、Siを増幅層とすることで、ゲルマニウム(Ge)の吸収波長の光に感度を有しつつ、低ノイズであるセンサーとすることができる。
【0030】
また、本発明の受光素子は、シリコン(Si)層にゲルマニウム(Ge)を積層した受光素子であるため、ウエハサイズの大きなシリコンウエハを用いて生産することができる。そのため、ウエハサイズの小さいシリコンインジウム・ガリウム・ヒ素(InGaAs)を用いる方法よりも、生産性が高く、かつ製造コストを低くおさえることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】レーザーレーダー装置の構成を示すブロック図
【
図2】レーザーレーダー装置の概略構成の一例を示す模式図
【
図3】走査部におけるレーザーの走査について説明するための模式図
【
図4】レーザーレーダー装置の概略構成の他の一例を示す模式図
【
図5】レーザーレーダー装置の概略構成の他の一例を示す模式図
【
図6】光学素子がアレイ状に配列された近赤外光検出器の概略構成を示す平面図
【
図7】
図6の近赤外光検出器のVII-VII部分の断面図
【
図8】光学素子の吸収層で自由光を吸収する様子を模式的に示した断面図
【
図10】
図9の受光素子の層構成におけるバンドギャップ図
【
図13】吸収層の層厚と光の吸収率の関係を示したグラフ
【
図14】反射防止層の有無と光反射率の関係を示したグラフ
【
図15】導波路状の吸収層を有する従来例に係る光学素子において、吸収層で光を吸収する様子を模式的に示した断面図
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明のレーザーレーダー装置は、レーザー光を対象物に対して照射する投光部と、当該対象物で散乱した当該レーザー光の散乱光を受光する受光部と、を備えたレーザーレーダー装置であって、前記レーザー光の波長が、1400~2600nmの範囲内であり、前記受光部は、基板上に、シリコン(Si)を含有する増幅層、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層及び反射防止層がこの順に積層されてなり、前記散乱光を受光する受光素子を有し、前記増幅層が、n型にドープされたn-Si層と、p型にドープされたp-Si層とを前記基板上に少なくともこの順に有しており、前記吸収層が、真性領域であるi-Ge層と、p型にドープされたp-Ge層とを前記増幅層上に少なくともこの順に有しており、当該吸収層の厚さが、前記レーザー光の80%以上を吸収する厚さであることを特徴とする。この特徴は、下記実施態様に共通する又は対応する技術的特徴である。
【0034】
また、本発明の実施態様としては、前記吸収層が、前記p-Ge層よりも高濃度でp型にドープされたp+-Ge層を有し、前記p-Ge層上に前記p+-Ge層が積層されていることが好ましい。これにより、キャリアの移動度を向上させ、応答速度を速くすることができる。また、バンド構造で、p-Ge層とp+-Ge層でフェルミ準位が異なるためバンド間で傾きが生じ、電極から電子を取り出しやすくなる。また、p-Ge層上にp+-Ge層が積層されていると、電子が増幅層側に導入しやすくなることが期待できる。さらに、電極との接触抵抗を下げることもできる。
【0035】
また、本発明の実施態様としては、増幅層をpin構造とすることでより大きな増幅作用を得る観点から、前記増幅層が、n-Si層とp-Si層との間に、真性領域であるi-Si層を有することが好ましい。
【0036】
また、本発明の実施態様としては、反射を抑えて受光感度を向上させる観点から、前記反射防止層を形成する材料の屈折率が、1.2~3.5の範囲内であることが好ましい。
【0037】
また、本発明の実施態様としては、反射を抑えて受光感度を向上させる観点から、前記反射防止層の表面には、微細な凹凸構造が形成されていることが好ましい。また、前記微細な凹凸構造は、モスアイ構造であることが好ましい。
【0038】
また、本発明の実施態様としては、反射防止性能を向上させることで受光感度を向上させる観点から、前記反射防止層が、複数の反射防止層が積層された多層構造を有することが好ましい。
【0039】
また、本発明の実施態様としては、前記基板の前記吸収層が設けられた側とは反対側に、前記吸収層で受光対象となる光の少なくとも一部を反射する光反射層が形成されていることが好ましい。これにより、吸収層を通過した光を反射することで再度吸収層を通過させることができるため、光の吸収量を増加させることができ、受光感度を向上させることができる。
【0040】
また、本発明の実施態様としては、本発明の効果をより有効に得る観点から、前記受光部が、複数の前記受光素子が1次元又は2次元アレイ状に配列されてなる近赤外光検出器を備えることが好ましい。
【0041】
また、本発明の実施態様としては、小型でかつ高出力が可能であるという観点から、前記レーザー光のレーザー光源が、半導体レーザー又はファイバーレーザーであることが好ましい。
【0043】
また、本発明の実施態様としては、投光可能な角度を広げる観点から、前記投光部から照射された前記レーザー光を主走査方向に走査するための走査部を更に備えることが好ましい。
【0044】
また、本発明の実施態様としては、投光可能な角度を広げる観点から、前記走査部として、ポリゴンミラー又はMEMSミラーを用いることが好ましい。
【0045】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための形態・態様について詳細な説明をする。なお、本願において、数値範囲を表す「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用している。
【0046】
[レーザーレーダー装置]
本実施形態に係るレーザーレーダー装置100は、
図1に示すように、例えば、レーザー光Lを対象物500に対して照射する投光部200と、対象物500で散乱したレーザー光Lの散乱光Sを受光する受光部300と、投光部200から照射されたレーザー光Lを主走査方向D1に走査する走査部400とを備える。
また、本実施形態のレーザーレーダー装置100は、走査部400を設けずに、投光部200から出射したレーザー光Lを対象物500に直接照射する構成とすることもできる。しかし、投光可能な角度を広げる観点からは、レーザーレーダー装置100には、走査部400を備えることが好ましい。
【0047】
また、
図1において、矢印の方向はレーザー光L又は散乱光Sが進む向きを示しており、具体的には、投光部200から照射されたレーザー光Lが走査部400を介して対象物500に照射された後、対象物500で散乱した散乱光Sが走査部400を介して受光部300に戻ることを意味している。
【0048】
また、レーザーレーダー装置100では、投光部200からレーザー光Lの照射を開始してから、受光部300で散乱光Sを受光するまでの時間を計測し、当該計測した時間と光速とから、対象物500までの距離を算出することができる。
【0049】
[投光部]
投光部200は、レーザー光源210と、投光光学系(例えば、コリメータレンズ220)とを備える(
図2等参照)。
レーザー光源210から照射されるレーザー光Lは、波長1400~2600nmの範囲内(アイセーフ波長)のアイセーフレーザーであることが好ましい。アイセーフレーザーとは、目に対する障害閾値の大きなレーザーの総称である。目に障害を与えないレーザー光の強度については、国際電気標準会議(International Electrotechnical Commission, IEC)やアメリカ規格協会などにより安全基準が設定されており、レーザー光に対する最大許容露光量については、レーザー光の波長やレーザーの動作条件等に依存する。例えば、IEC 60825-1:2007規格によれば、波長が1400~2600nmの近赤外線レーザー光は、パルス幅、繰り返し周波数等を変えても他の波長よりも高い許容量を示すため、一般にアイセーフ波長とはこの波長を指す。
【0050】
レーザー光源210は、小型でかつ高出力が可能であるという観点から、半導体レーザー又はファイバーレーザーであることが好ましい。高出力が可能であると、より遠方までの物体を検出することが可能となるため好ましい。
半導体レーザーとしては、複数の光源を2次元に配列させて高出力のレーザー光Lを照射することができる観点から、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting LASER)を用いることが好ましい。
ファイバーレーザーとしては、例えば、エルビウムファイバーレーザーが挙げられる。
【0051】
また、投光部200では、レーザー光源210から照射されたレーザー光Lが、投光光学系としてのコリメータレンズ220に入射する。コリメータレンズ220に入射されたレーザー光Lは、レーザー光Lの焦点の位置を調整して平行光線に変換され、走査部400に出射される。
また、投光光学系の構成は適宜変更可能であり、例えば、コリメータレンズ220と走査部400の間に、コリメータレンズ220から出射される平行光の一部のみを通過させることで、平行光を整形し、光量を調節するアパーチャーを設けることとしてもよい。
【0052】
[走査部]
走査部400は、投光部200から照射されたレーザー光Lを、主走査方向D1に走査(スキャン)する。走査部400を備えることにより、投光・受光可能な角度が広がり、広範囲への投光・受光が可能となる。走査部400としては、ポリゴンミラー又はMEMSミラーなどの二次元ミラーを用いることが好ましい。
図2には、走査部400としてポリゴンミラーを用いた例を示している。また、
図3には、走査部400におけるレーザー光Lの走査を説明する模式図を示す。
図3に示すように、ポリゴンミラーでは、当該ポリゴンミラーの中心軸部410を中心にして回動させることによって、レーザー光Lを所定の方向に反射することで、レーザー光Lを主走査方向D1に走査する。これにより、対象物500に対してレーザー光Lをより高い、広い角度で投光することが可能となる。
なお、
図3では、ポリゴンミラーで反射される前のレーザー光Lを実線で示しており、ポリゴンミラーで反射された後のレーザー光Lを一点鎖線で示している。
【0053】
また、
図4には、走査部400としてMEMSミラーを用いた例を示している。MEMSミラーでは、平板形状のミラーの角度を、中心軸部410を中心にして回動させることによって、
図3で示したポリゴンミラーの場合と同様に、レーザー光Lを主走査方向D1に走査することができる。
【0054】
また、ポリゴンミラー及びMEMSミラーによって、主走査方向D1の走査を行うことについて説明したが、これに限られず、例えば、更に別の反射ミラーを設けて、主走査方向に交差する方向である副走査方向についても走査するようにしてもよい。
【0055】
また、走査部400はポリゴンミラー又はMEMSミラーに限定されず、レーザー光を走査できるものであれば良い。例えば、車に装着されるなど、走査部400に振動の影響が及ぶような場合、又は走査部400自体が投光又は受光の妨げとなり得る場合は、これらのミラーの代わりに、例えば、電圧に応じて屈折率が変わる素子を介してレーザー光を伝搬し、当該素子に電圧を加えてその屈折率を変更させることにより、レーザー光の進行方向を変更させてレーザー光を走査させても良い。
【0056】
また、投光可能な角度がより狭くなるが、
図5に示すように、レーザーレーダー装置100に走査部400を設けない構成とし、投光光学系から出射したレーザー光を、対象物500に直接照射することも可能である。
【0057】
[受光部]
受光部300は、近赤外光検出器310と、受光光学系(例えば、集光レンズ320)とを備える。
受光光学系としての集光レンズ320は、対象物500で散乱された散乱光Sを近赤外光検出器310の受光面310sに集光する。
また、受光光学系の構成は適宜変更可能であり、例えば、結像レンズ、光学フィルター等を更に有する構成としてもよい。
【0058】
近赤外光検出器310には、近赤外光を受光して電気に変換する受光素子10が配置されている。また、近赤外光検出器310は、受光素子10が1次元又は2次元アレイ状に配列されていることが好ましい。
図6にはその一例として、2行×5列の計10個の受光素子10がアレイ状に配列された構成を示す。また、
図7には、
図6のVII-VII部分の断面図を示す。
近赤外光検出器310の各受光素子10は、ゲルマニウム(Ge)の吸収層40を有しているため、自由空間からの近赤外光を受光し検出する用途に好適に用いることができる。
【0059】
近赤外光検出器310は、例えば、SOI(Silicon on Insulator)ウエハに、公知の方法を用いてパターニングすることによって製造することができる。
具体的には、例えば、米国特許第6812495号明細書、米国特許第6946318号明細書に記載されているように、シリコン(Si)の基板20上に、公知のUHV-CVD法を用いてゲルマニウム(Ge)を成長させることにより製造することができる。
【0060】
[受光素子]
本発明の受光素子10は、基板20上に、シリコン(Si)を含有する増幅層30、ゲルマニウム(Ge)を含有する吸収層40及び反射防止層50がこの順に積層されており、増幅層30が、n型にドープされたn-Si層31と、p型にドープされたp-Si層33とを基板20上に少なくともこの順に有しており、吸収層40が、p型にドープされたp-Ge層42を少なくとも有することを特徴とする。
【0061】
受光素子10の層構成としては、具体的には、以下の例を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
(i) 基板/n-Si層/p-Si層/p-Ge層/反射防止層
(ii) 基板/n-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(iii) 基板/n-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/p+-Ge層/反射防止層
(iv) 基板/n-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(v) 基板/n-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/p+-Ge層/反射防止層
(vi) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/p-Ge層/反射防止層
(vii) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(viii)基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/p+-Ge層/反射防止層
(ix) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/反射防止層
(x) 基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/p-Ge層/i-Ge層/p-Ge層/p+-Ge層/反射防止層
【0062】
また、以下に一例を示すように、基板20の底面側(吸収層40が設けられた側とは反対側)に、さらに光反射層60が積層された構成とすることも好ましい。
(xi) 光反射層/基板/n-Si層/i-Si層/p-Si層/i-Ge層/p-Ge層/p+-Ge層/反射防止層
【0063】
図9には、一例として、上記(viii)の層構成である、基板20上に、n-Si層31、i-Si層32及びp-Si層33から形成される増幅層30と、i-Ge層41、p-Ge層42及びp
+-Ge層43から形成される吸収層40と、反射防止層50とがこの順で積層された受光素子10を示した。
また、
図9に示すように、例えば、n-Si層31に接する箇所と、吸収層40の上面に、それぞれ電極70,71が設けられている。これらの電極70,71は図示しない配線等により回路を形成しており、電極間に電位差を生じさせることができるとともに、吸収層40が光を吸収することによって生じた電子を取り出すことができるようになっている。
なお、電極70,71を設ける位置は、上述したように、電位差を生じさせることができ、光を吸収することによって生じた電子を取り出すことができれば、適宜変更可能である。
【0064】
また、
図10には、
図9に示した上記(viii)の層構成とした受光素子10について、逆バイアスの電圧を印加した際のバンド構造を示した。
【0065】
基板20としては、本発明の効果が得られるものであれば特に限られないが、例えば、シリコン基板が用いられる。
【0066】
増幅層30は、n型にドープされたn-Si層31と、p型にドープされたp-Si層33とを基板20上に少なくともこの順に有しており、吸収層40から移動したキャリアの移動を増幅させ、より大きな電流を流させる機能を果たしている。
また、増幅層30は、増幅量を増やす観点から、n-Si層31と、p型にドープされたp-Si層33との間に、真性領域であるi-Si層32を有する構成とし、pin構造によって形成されていることが好ましい。
【0067】
また、受光素子10に設けられた電極間に高い逆バイアスをかけることで、アバランシェフォトダイオード(APD:avalanche photodiode)として動作させることが好ましい。アバランシェ効果により、10~100倍程度の増倍率といった増幅効果を得ることができる。
n-Si層31やp-Si層33のドープ領域は、例えば、公知のイオン注入法や熱拡散法による方法によって、形成することができる。
【0068】
増幅層30の厚さは、印加電圧に応じて適宜変更可能であり、用途に応じて十分な増幅効果を得られれば、特に制限はない。
【0069】
吸収層40は、p型にドープされたp-Ge層42を少なくとも有しており、ゲルマニウム(Ge)の吸収波長の光を吸収する機能を果たしている。本発明の吸収層40では、特に近赤外線領域である波長1400~1550nmの範囲内の光を吸収するのに適している。
【0070】
また、吸収層40は、使用用途に応じて求められるノイズレベルや応答速度によって、以下のように適宜層構成を変更して用いることが好ましい。
例えば、ノイズを小さくすることが求められる場合には、吸収層40のうち、p-Ge層42の占める割合を大きくすることが好ましく、全てをp-Ge層42によって形成してもよい。
また、応答速度を速くすることが求められる場合には、吸収層40が、真性領域であるi-Ge層41を有する構成とし、具体的には、増幅層30上に、i-Ge層41、p-Ge層42がこの順に積層された構成とすることが好ましい。i-Ge層41は、p-Ge層42とp-Si層33の間に位置しているため、p-Ge層42とp-Si層33のフェルミ準位の差によって、逆バイアスの電圧をかけると、バンド構造では
図10に示すような傾きが生じる。したがって、i-Ge層41において、キャリアの移動速度を速め、応答速度を速くすることができる。
【0071】
また、吸収層40が、i-Ge層41と増幅層30との間に、第2のp-Ge層44を有する構成とすることもできる(
図11)。
【0072】
また、p-Ge層42の上に、p-Ge層42よりも高濃度でp型にドープされたp+-Ge層43を有する構成とすることが好ましい。これにより、キャリアの移動度を向上させ、応答速度を速くすることができる。また、バンド構造で、p-Ge層42とp+-Ge層43でフェルミ準位が異なるためバンド間で傾きが生じるため、電極71から電子を取り出しやすくなる。また、p-Ge層42上にp+-Ge層43が積層されていると、電子を増幅層30側に導入しやすくできることが期待できる。さらに、電極71との接触抵抗を下げることもできる。
また、本明細書でいうp+-Ge層43とは、上述したように、p-Ge層42よりも高濃度でp型にドープされたGe層であると定義している。
【0073】
p-Ge層42やp+-Ge層43のドープ領域は、例えば、公知のイオン注入法や熱拡散法による方法によって、形成することができる。
【0074】
吸収層40は、例えば、基板20及び増幅層30を600℃程度に加熱をして、ゲルマニウム(Ge)の原料ガスであるGeH4を用いて、エピタキシャル成長によってGeを増幅層30上に堆積することによって形成することができる。
【0075】
吸収層40の厚さLは、受光対象とする光の波長におけるゲルマニウム(Ge)の吸収係数をαとしたとき、下記式を満たすことが好ましい。
exp(-L×α)>0.8
〔αは、受光対象とする光の波長におけるゲルマニウム(Ge)の吸収係数を表す。〕
また、上記式をLについて計算すると下記式(1)のようになる。
式(1):L<(ln0.8)/α
【0076】
上記式(1)を満たすということは、吸収層40の厚さをLとした場合に、受光対象の光の80%を、吸収層40で吸収できる厚さであることを意味している。
【0077】
また、吸収層40の厚さが200nm、500nm、3μm(3000nm)、5μm(5000nm)である場合について、複素屈折率の虚部にk=0.123を使用して、吸収波長(nm)と吸光度の関係を計算した結果を
図13に示す。
図13からわかるように、例えば、1550nmの光の吸収を計算すると、3μmの厚さで、90%を超え、100%近くの光を吸収することができる。
以上より、光を十分に吸収し受光感度を向上させる観点からは、吸収層40の厚さLが、3μm以上であることが好ましい。
【0078】
ところで、仮に吸収層40の全てをp-Ge層42とした場合、吸収層40に電界をかけない場合には、電子は拡散速度で吸収層40を移動することとなる。この場合、電子が正孔と再結合して消滅するまで平均時間(いわゆる少数キャリア寿命)の間、電子が拡散速度で移動するとした場合、移動距離は約7μm程度となる。したがって、吸収層40から増幅層30に電子にキャリアを移動させやすくする観点からは、吸収層40の厚さが7μm以下であることが好ましい。また、吸収層40の厚さを7μm以下とすることで、計測用のデバイスに使用する際に十分な応答速度を得ることができる。
【0079】
反射防止層50としては、吸収層40表面での反射を効率的に抑える観点から、反射防止層50を形成する材料の屈折率が、1.2~3.5の範囲内であることが好ましく、1.4~3.0の範囲内であることが特に好ましい。
ここで、反射防止層50の有無と光反射率の関係を示したグラフを
図14に示す。反射防止層50を設けなかった場合の吸収層40での光反射率は、
図14の(a)に示すとおり、約36%である。また、屈折率が、それぞれ(b)1.2、(c)1.4、(d)2.0、(e)3.0、(f)3.5の材料からなり、厚さが最適化された反射防止層50を設けた場合の光反射率(%)をそれぞれ
図14に示す。
図14の(d)からわかるとおり、屈折率2.0の材料からなる反射防止層50では、波長約1550nmの光の反射率をほぼ0程度に抑えることができ、吸収層40表面での反射を効率的に抑えることができる。また、屈折率が1.2~3.5の材料によって形成された反射防止層50を設けた場合には、本発明に係る吸収層40に適した波長1400~1550nmの範囲内の光の反射を好適に抑えることができる。
屈折率が1.2~3.5の範囲内となる材料としては、例えば、屈折率約2.0の窒化ケイ素(SiN)や屈折率約1.5の二酸化ケイ素(SiO
2)、屈折率約3.5のケイ素(Si)を用いることが好ましい。
【0080】
また、反射防止層50としては、吸収層40表面での反射を効率的に抑える観点から、微細な凹凸構造51が形成されることも好ましい。微細な凹凸構造51としては、例えば、吸収層40に近づくにつれて実質的な屈折率が上昇する形状を有することが好ましく、このような凹凸構造51として、モスアイ構造を用いることが好ましい。
モスアイ構造としては、
図12に模式図を示すように、例えば、錐体形状の凸部を複数設けることにより形成することができる。
また、モスアイ構造における錐体形状は、特に限定されるものではなく、円錐形状、角錐形状、円錐台形状、角錐台形状、釣鐘形状、楕円錐台形状など、反射防止機能を有する錐体形状であれば適宜選択可能である。
【0081】
モスアイ構造における実質的な屈折率は、モスアイ構造を形成する材料の材質、錐体形状の厚さ方向における構造体と空間の割合の変化率、凹凸のピッチ及び深さなどにより決定されるため、これらを適宜調節することで、屈折率を上述した1.2~3.5の範囲内となるように調整すればよい。凹凸のピッチは、例えば、1000~1600nmであることが好ましく、凹凸の深さは、ピッチの0.5~5倍であることが好ましく、1~3倍であることがさらに好ましい。
【0082】
また、反射防止層50としては、反射防止性能を向上させることで受光感度を向上させる観点から、複数の反射防止層50が積層された多層構造を有する構成とすることが好ましい。
また、吸収層40表面での反射を効率的に抑える観点からは、受光対象となる光の波長をλとしたとき、光学層厚が(λ/4)の奇数倍の反射防止層50が、1層又は複数層積層されていることが好ましい。これにより、反射防止層50に設けた各層における上面及び下面で反射した光が打消しあうため、光の反射を効果的に防止することができる。
【0083】
(反射率とSN比の関係について)
光学素子に逆バイアスをかけてアバランシェフォトダイオード(APD)として動作させる際に、SN比を以下式(A1)によって計算することができる。
【0084】
【0085】
上記式(A1)において、S:信号、N:ノイズ、q:電荷、η:量子効率、Popt:入射光のパワー、h:プランク定数、ν:光周波数、Ip:ショットノイズ電流、IB:背景光ノイズ電流、ID:暗電流、F(M):ノイズファクター、B:帯域、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、Req:負荷抵抗、M:増倍率を表す。
なお、シリコン(Si)によって構成される増幅層30でのノイズは、ゲルマニウム(Ge)によって構成される吸収層40のノイズの1/100以下であるため、上記計算では無視している。
【0086】
本発明の受光素子10では、
図14に示したように、反射防止層50を設けない場合には、吸収層40における波長1550nmの光の反射率は約36%程度であり、屈折率約2.0の窒化ケイ素(SiN)により形成された反射防止層50を設けた場合の反射率は、ほぼ0%とすることができる。
このとき、上記式(A1)によって、SN比が1となる入射光のパワー(W)を計算すると、反射率が仮に40%の場合は100nW程度であり、反射率が仮に0%の場合は20nWとなる。また、反射率40%と反射率0%では、吸収層40に入光する光の強さは、(1.0-0.4):(1.0-0)=3:5となる。ここで、SN比には、入射光のパワーが(Popt)2乗で効果があるため、反射防止層50によって反射率を40%から0%にした場合には、受光感度は52/32倍、すなわち約2.8倍程度向上することができる。
【0087】
光反射層60は、基板20の下面(吸収層40が設けられた側とは反対側)に設けられており、吸収層40を通過した光があった場合に、基板20を通過した光の少なくとも一部を反射させて再度吸収層40を通過できるようにしている。これにより、吸収層40における吸収率を向上させることができる。
光反射層60としては、受光対象となる近赤外光の少なくとも一部を反射することができれば特に限られず、無機、有機いずれの材料を用いて形成しても良く、形成方法も特に限定されない。
具体的には、例えば、無機材料としてはITO(酸化インジウムスズ)やATO(アンチモンドープ酸化スズ)等を、また、有機材料としてはポリカーボネート樹脂等を用いることができる。
【0088】
以上で説明した本発明の実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。すなわち、本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、レーザー照射に対する散乱光を検出し、対象物までの距離を計測するレーザーレーダー装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0090】
10 受光素子
20 基板
30 増幅層
31 n-Si層
32 i-Si層
33 p-Si層
40 吸収層
41 i-Ge層
42 p-Ge層
43 p+-Ge層
44 第2のp-Ge層
50 反射防止層
51 凹凸構造
60 光反射層
100 レーザーレーダー装置
200 投光部
210 レーザー光源
300 受光部
310 近赤外光検出器
400 走査部
500 対象物
L レーザー光
S 散乱光
D1 主走査方向