(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
B60W 40/064 20120101AFI20220419BHJP
A01B 69/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B60W40/064
A01B69/00 303A
A01B69/00 303J
(21)【出願番号】P 2020144894
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2020-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【氏名又は名称】松田 正道
(74)【代理人】
【識別番号】110000899
【氏名又は名称】特許業務法人新大阪国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長友 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】松澤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】平山 秀孝
(72)【発明者】
【氏名】栗原 大器
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107930(JP,A)
【文献】国際公開第2014/045365(WO,A1)
【文献】特開2004-161116(JP,A)
【文献】特開昭62-166151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/064
A01B 69/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
機体(2)に設けた慣性計測部(14)の計測値に基づいて算出した実走行速度(A,A’)と、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数に基づいて算出した走行速度(B,B’)にてスリップ率(C,C’)を算出する制御部(15)を設け、
慣性計測部(14)の計測値に基づいて前進方向の実走行速度(A)を算出し、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数に基づいて前進方向の走行速度(B)を算出し、前進方向の実走行速度(A)と前進方向の走行速度(B)に基づいて前進方向のスリップ率(C)を算出し、
スリップ率(C)が予め設定されたスリップ率閾値よりも低下するまで走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げるが、
走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数が予め設定された回転数閾値よりも低下すると、報知するとともに、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げることを停止し、
回転数閾値は、作業者が主変速レバー(5b)で操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸(1a)の回転数に基づいて決定される、
ことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
機体(2)に設けた慣性計測部(14)の計測値に基づいて算出した実走行速度(A,A’)と、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数に基づいて算出した走行速度(B,B’)にてスリップ率(C,C’)を算出する制御部(15)を設け、
慣性計測部(14)の計測値に基づいて機体左右方向の実走行速度(A’)を算出し、左右走行装置(1,1)の左右駆動軸(1a,1a)の回転数に基づいて機体左右方向の走行速度(B’)を算出し、機体左右方向の実走行速度(A’)と機体左右方向の走行速度(B’)に基づいて機体左右方向のスリップ率(C’)を算出し、
スリップ率(C’)が予め設定されたスリップ率閾値よりも低下するまで走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げるが、
走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数が予め設定された回転数閾値よりも低下すると、報知するとともに、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げることを停止し、
回転数閾値は、作業者が主変速レバー(5b)で操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸(1a)の回転数に基づいて決定される、
ことを特徴とする作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場の穀稈を刈り取りながら脱穀するコンバインや耕耘作業をするトラクタや苗の移植作業をする苗移植機や土木作業機等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、GNSS信号を受信して算出した実走行速度と駆動車軸の回転数から算出した走行速度に基づいて、スリップ率を判定するものがある。(特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
GNSS信号を受信して実走行速度を算出するのは、GNSS信号を受信して算出した自車位置の推移により実走行速度を算出するものであり、該算出には所定の走行距離が必要であって、リアルタイムでスリップ率を算出できず、また、GNSS信号を受信して自車位置を算出して行なう為に誤差も比較的大きくなる課題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、リアルタイムで誤差の少ないスリップ率を算出できる作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の本発明は、
機体(2)に設けた慣性計測部(14)の計測値に基づいて算出した実走行速度(A,A’)と、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数に基づいて算出した走行速度(B,B’)にてスリップ率(C,C’)を算出する制御部(15)を設け、
慣性計測部(14)の計測値に基づいて前進方向の実走行速度(A)を算出し、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数に基づいて前進方向の走行速度(B)を算出し、前進方向の実走行速度(A)と前進方向の走行速度(B)に基づいて前進方向のスリップ率(C)を算出し、
スリップ率(C)が予め設定されたスリップ率閾値よりも低下するまで走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げるが、
走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数が予め設定された回転数閾値よりも低下すると、報知するとともに、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げることを停止し、
回転数閾値は、作業者が主変速レバー(5b)で操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸(1a)の回転数に基づいて決定される、
ことを特徴とする作業車両である。
第2の本発明は、
機体(2)に設けた慣性計測部(14)の計測値に基づいて算出した実走行速度(A,A’)と、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数に基づいて算出した走行速度(B,B’)にてスリップ率(C,C’)を算出する制御部(15)を設け、
慣性計測部(14)の計測値に基づいて機体左右方向の実走行速度(A’)を算出し、左右走行装置(1,1)の左右駆動軸(1a,1a)の回転数に基づいて機体左右方向の走行速度(B’)を算出し、機体左右方向の実走行速度(A’)と機体左右方向の走行速度(B’)に基づいて機体左右方向のスリップ率(C’)を算出し、
スリップ率(C’)が予め設定されたスリップ率閾値よりも低下するまで走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げるが、
走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数が予め設定された回転数閾値よりも低下すると、報知するとともに、走行装置(1)の駆動軸(1a)の回転数を漸次下げることを停止し、
回転数閾値は、作業者が主変速レバー(5b)で操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸(1a)の回転数に基づいて決定される、
ことを特徴とする作業車両である。
本発明に関連する第1の発明は、機体2に設けた慣性計測部14の計測値に基づいて算出した実走行速度A,A’と、走行装置1の駆動軸1aの回転数に基づいて算出した走行速度B,B’にてスリップ率C,C’を算出する制御部15を設けた作業車両である。
【0007】
本発明に関連する第1の発明によれば、機体2に設けた慣性計測部14の計測値に基づいて算出した実走行速度A,A’と走行装置1の駆動軸1aの回転数に基づいて算出した走行速度B,B’にてスリップ率C,C’を算出する制御部15を設けたので、リアルタイムでスリップ率C,C’を算出でき、然も、誤差が少ない。
【0008】
本発明に関連する第2の発明は、慣性計測部14の計測値に基づいて前進方向の実走行速度Aを算出し、走行装置1の駆動軸1aの回転数に基づいて前進方向の走行速度Bを算出し、前進方向の実走行速度Aと前進方向の走行速度Bに基づいて前進方向のスリップ率Cを算出する本発明に関連する第1の発明の作業車両である。
【0009】
本発明に関連する第3の発明は、慣性計測部(14)の計測値に基づいて機体左右方向の実走行速度(A’ )を算出し、左右走行装置(1,1)の左右駆動軸(1a,1a)の回転数に基づいて機体左右方向の走行速度(B’ )を算出し、機体左右方向の実走行速度(A
’ )と機体左右方向の走行速度(B’ )に基づいて機体左右方向のスリップ率(C’)を算出することを特徴とする本発明に関連する第1の発明の作業車両である。
【0010】
本発明に関連する第4の発明は、スリップ率C,C’がスリップ率閾値よりも低下するまで走行装置1の駆動軸1aの回転数を漸次下げる本発明に関連する第1~3のいずれかの発明の作業車両である。
【0011】
本発明に関連する第4の発明によれば、スリップ率C,C’が予め設定されたスリップ率閾値よりも低下するまで走行装置1の駆動軸1aの回転数を漸次下げるので、リアルタイムで算出した誤差の少ないスリップ率C,C’に基づいて、適正な走行制御が行なえ、作業が良好に行なえる。
【0012】
本発明に関連する第5の発明は、走行装置1の駆動軸1aの回転数が予め設定された回転数閾値よりも低下すると、報知する本発明に関連する第4の発明の作業車両である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態にかかる作業車両のコンバインの側面図である。
【
図4】同コンバインの要部の作用説明用平面図である。
【
図5】同コンバインにおけるスリップ率算出及び走行制御のフローチャートである。
【
図6】同コンバインの実施形態2の要部の作用説明用平面図である。
【
図7】同実施形態2のスリップ率算出及び走行制御のフローチャートである。
【
図8】同コンバインの引起し装置8の駆動制御ブロック図である。
【
図9】同コンバインの電動モータ20の作動図である。
【
図10】同コンバインの電動モータ20の作動図である。
【
図11】同コンバインの電動モータ20の作動図である。
【
図12】同コンバインの引起し装置8の他の例を示す駆動制御ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本願の開示するコンバインの実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
<全体構成>
まず、
図1~
図3に基づいてコンバインの全体構成について説明する。
【0015】
走行装置としての左右走行クロ-ラ1を具備する機体2上には、前部に昇降可能な刈取部3を、後部に脱穀部(脱穀機)4を搭載している。刈取部3の後方右側部には操作パネル5や運転席6等からなる運転部が設置されている。
【0016】
そして、運転部の前側及び側部の操作パネル5には、左右走行クロ-ラ1のサイドクラッチ及びサイドブレーキを操作して機体の操向操作を行なう操向レバー5aと、左右走行クロ-ラ1,1へエンジンからの駆動力を変速して伝達する静油圧式無段変速装置HSTを中立及び前後進変速操作する主変速レバー5bと、刈取部3及び脱穀部4への駆動を入り切り操作する刈脱クラッチレバー5cと、排出オーガ13を入り切り操作するオーガ排出レバー5dと、左右走行クロ-ラ1や刈取部3を駆動させずに脱穀クラッチを入りにして脱穀部4のみを駆動させる手扱ぎ作業に切り換える手扱ぎレバー5eが設けられている。
【0017】
そして、エンジンからの駆動力を変速して伝達する静油圧式無段変速装置HSTから駆動力が伝達される左右駆動軸1a,1aにて左右走行クロ-ラ1,1の駆動スプロケットが駆動回転されて、左右走行クロ-ラ1,1は駆動回転する。
【0018】
また、運転部の後方にはグレンタンクGが装備されている。脱穀部4の後方部には脱穀処理後の排藁を所定長さに切断処理する排藁カッターが設置されている。
【0019】
刈取部3は、立毛穀稈を引き起す引起し装置8と、引起し後の穀稈を刈り取る刈取装置9と、刈取後の穀稈の株元部を挟持して揚上搬送する株元搬送チエン及び穀稈の穂先側を係止保持して揚上搬送する穂先搬送チエンとからなる構成としている。
<脱穀部4>
脱穀部4は、扱胴を内装軸架した扱室の下半周部に沿って受網を張設している。扱室の上方部を覆う扱胴カバー10は、扱胴軸方向に平行な軸芯回りに揺動開閉可能に構成している。
【0020】
扱室の扱口側一側には穀稈を挟持搬送するフイ-ドチエン11とこの上側に対設する挟持レ-ル12を配設している。この挟持レ-ル12は扱胴カバー10側に装着して該扱胴カバー10と共に揺動開閉する構成としている。扱室のフイ-ドチエン11側とは反対側他側には2番処理胴を内装軸架した2番処理室を並設している。また、前記2番処理胴の後方にはこれと同一軸芯上において排塵処理胴を内装軸架した排塵処理室を構成して設けている。
【0021】
扱室の下方及び排塵選別室の下方には揺動可能に架設した揺動選別装置(揺動選別棚)が設けられてあり、更に、その下方には選別方向の上手側から順に、唐箕と、1番移送螺旋、2番移送螺旋と、その上方に前記排塵フアンを配置して選別室を構成している。なお、1番揚穀装置は1番移送螺旋で回収された穀物を揚送してグレンタンクG内に収容し、タンク内の穀粒はオーガ排出レバー5dにて入り切り操作される排出オーガ13によって取り出すことができるようになっている。また、2番揚穀装置は2番移送螺旋で回収された2番処理物を2番処理胴の室内へ還元するようになっている。
【0022】
そして、揺動選別装置は、扱室からの脱穀処理後の処理物、つまり、被処理物を受け入れて揺動移送しながらふるい選別する構成であり、選別方向上手側から移送棚、チャフシ-ブ、ストロ-ラックの順に配置し、且つ、前記チャフシ-ブの下方にグレンシ-ブ及び1番戻し棚を配置して一体的に設け、唐箕及び排塵フアンによる選別風と揺動との共同作用によって扱室から漏下してきた処理物を受け入れて揺動移送しながらふるい選別処理するように構成している。
<スリップ率と走行制御>
図4及び
図5に基づいて、本実施形態のスリップ率Cの算出と走行制御について説明する。
【0023】
機体2中央部に慣性計測部(IMU:Inertial Measurement Unit)14を設けて、前進方向の計測値である加速度を制御部15にて時間積分して実走行速度Aを算出する(ステップ1)。そして、左右走行クロ-ラ1,1の片方の駆動軸1aに対して近接配置した車速センサ(駆動軸回転センサ)16により該駆動軸1aの回転数を検出して、制御部15にて左右走行クロ-ラ1,1による走行速度Bを算出する(ステップ2)。
【0024】
そして、制御部15にて実走行速度Aを走行速度Bで割算してスリップ率Cを算出する(ステップ3)。
【0025】
該スリップ率Cが、スリップ率閾値である10%以下であれば(ステップ4)、収穫作業に悪影響が少ないので、作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTの駆動速度(駆動軸1aの現回転数)のままで左右走行クローラ1,1を駆動して走行する(ステップ10)。
【0026】
スリップ率Cが、スリップ率閾値である10%よりも大きければ(ステップ5)、適正な収穫作業が行ない難いので、作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTの駆動速度(駆動軸1aの現回転数)から20~30%回転数を減らした駆動速度になるように静油圧式無段変速装置HSTを制御して左右走行クローラ1,1を駆動して走行する(ステップ6)。
【0027】
ステップ6で20~30%回転数を減らした駆動軸1aの回転数がクローラ回転数閾値である作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸1aの回転数の50%以上であれば(ステップ7)、ステップ3に戻り、再度、スリップ率Cを算出し、上記制御を行なう。
【0028】
ステップ6で20~30%回転数を減らした駆動軸1aの回転数がクローラ回転数閾値である作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸1aの回転数の50%未満であれば(ステップ8)、その走行速度は遅すぎて収穫作業には不適切であるので、操作パネル5に設けた報知部17や自立走行制御しているコンバインであれば管理者端末の報知部(報知モニタ、報知ランプ又は報知ブザー)にて操縦者、作業者又は管理者に警報を発する(ステップ9)。
【0029】
従って、慣性計測部(IMU)14を用いて算出した実走行速度Aに基づいてスリップ率Cを算出するので、リアルタイムでスリップ率Cを算出でき、然も、誤差が少ないので、適正な走行制御が行なえ、収穫作業が良好に行なえる。
<他の実施形態>
【0030】
(1)
図6及び
図7に基づいて、実施形態2の機体左右方向スリップ率C’の算出と走行制御について説明する。
【0031】
機体2中央部に慣性計測部(IMU)14を設けて、機体左右方向の計測値である加速度を制御部15にて時間積分して機体左右方向の方向と実走行速度A’を算出する(ステップ1)。そして、左右走行クロ-ラ1,1の各駆動軸1a,1aに対して近接配置した車速センサ(駆動軸回転センサ)16a,16bにより各駆動軸1a,1aの各回転数を検出して、制御部15にて該各回転数の差(16aの出力回転数-16bの出力回転数)から左右走行クロ-ラ1,1による機体左右方向の方向と走行速度B’を算出する(ステップ2)。
【0032】
そして、制御部15にて実走行速度A’を走行速度B’で割算してスリップ率C’を算出する(ステップ3)。
【0033】
該スリップ率C’が、スリップ率閾値である10%以下であれば(ステップ4)、収穫作業に悪影響が少ないので、作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTの駆動速度(駆動軸1aの現回転数)のままで左右走行クローラ1,1を駆動して走行する(ステップ10)。
【0034】
スリップ率C’が、スリップ率閾値である10%よりも大きければ(ステップ5)、適正な収穫作業が行ない難いので、作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTの駆動速度(駆動軸1aの現回転数)から20~30%回転数を減らした駆動速度になるように静油圧式無段変速装置HSTを制御して左右走行クローラ1,1を駆動して走行する(ステップ6)。
【0035】
ステップ6で20~30%回転数を減らした各駆動軸1a,1aの回転数がクローラ回転数閾値である作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸1aの回転数の50%以上であれば(ステップ7)、ステップ3に戻り、再度、スリップ率C’を算出し、上記制御を行なう。
【0036】
ステップ6で20~30%回転数を減らした各駆動軸1a,1aの回転数がクローラ回転数閾値である作業者が主変速レバー5bで操作設定した静油圧式無段変速装置HSTによる駆動軸1aの回転数の50%未満であれば(ステップ8)、その走行速度は遅すぎて収穫作業には不適切であるので、操作パネル5に設けた報知部17や自立走行制御しているコンバインであれば管理者端末の報知部(報知モニタ、報知ランプ又は報知ブザー)にて操縦者、作業者又は管理者に警報を発する(ステップ9)。
【0037】
従って、慣性計測部(IMU)14を用いて算出した実走行速度A’に基づいてスリップ率C’を算出するので、リアルタイムでスリップ率C’を算出でき、然も、誤差が少ないので、適正な走行制御が行なえ、収穫作業が良好に行なえる。
【0038】
(2)上記実施形態1及び2では、実走行速度A,A’を算出するのに慣性計測部(IMU)14を設けて、前進方向又は機体左右方向の加速度を制御部15にて時間積分する手段を用いたが、慣性計測部(IMU)14に換えてGNSS受信機(又はGPS受信機)を設けて、GNSS信号(又はGPS信号)を受信して算出した自車位置の推移により実走行速度A,A’を算出しても良い。そして、該GNSS受信機(又はGPS受信機)を用いて算出した実走行速度A,A’に基づいて、実施形態1及び2と同様にして走行制御を行なう。
【0039】
(3)機体2に機体前後方向の傾斜を検出する傾斜センサを設け、主変速レバー5bにて静油圧式無段変速装置HSTを中立に操作して機体を停止した時、傾斜センサが機体の前後傾斜を検出すると、制御部15は左右走行クロ-ラ1,1を制動する駐車ブレーキを作動させる。
【0040】
従って、坂道での停車やトラックの積み降ろし時に、主変速レバー5bにて静油圧式無段変速装置HSTを中立に操作して機体を停止した時、傾斜センサが機体の前後傾斜を検出して、制御部15が左右走行クロ-ラ1,1を制動する駐車ブレーキを作動させるので、機体が不用意に進行してしまうことを防止し事故等を回避できる。
【0041】
更に、キーによりメインスイッチを切っても、上記の駐車ブレーキは作動状態を維持するようにすれば、より安全である。なお、主変速レバー5bを中立から他の操作位置(前進又は後進位置)に操作すると、該駐車ブレーキの作動を解除するようにすれば良い。また、傾斜センサの機体前後傾斜の検出に換えて、主変速レバー5bにて静油圧式無段変速装置HSTを中立に操作して機体を停止した時、左右走行クロ-ラ1,1の駆動軸1a,1aの回転を検出する車速センサ(駆動軸回転センサ)16が駆動軸1a,1aの回転を検出すると、制御部15が左右走行クロ-ラ1,1を制動する駐車ブレーキを作動させても良い。
【0042】
(4)上記までのコンバインにおいて、駆動源をエンジンに換えて電動モータにして電動コンバインとし、刈取部3の引起し装置8の駆動を各条毎の電動モータ20にて行なう。
【0043】
図8に基づいて説明すると、1条~N条(本実施形態では4条)の各条の引起し装置8は、各条毎に電動モータ20、モータ制御部21及び近接センサ等のデジタルセンサからなる穀稈侵入センサ22を設けて駆動している。
【0044】
即ち、収穫作業で圃場を前進すると、1条~N条(本実施形態では4条)の各条の引起し装置8に刈取穀稈が侵入してくるが、その各条毎の侵入してくる刈取穀稈を穀稈侵入センサ22が検出すると、各条毎のモータ制御部21が各条毎の電動モータ20を作動させて、各条毎に引起し装置8を駆動する。
【0045】
従って、1条~N条(本実施形態では4条)の各条の引起し装置8に刈取穀稈が侵入した時にのみ各条毎に引起し装置8が各条毎の電動モータ20で駆動されるので、エネルギー的に効率的な作業が行なえる。また、電動モータ20による駆動なので、環境汚染のリスクも軽減できる。
【0046】
また、1条~N条(本実施形態では4条)の引起し装置8のうちの何条が駆動されているかが必然的に制御部15で判断できるので、脱穀部4に入ってくる穀稈量が算出でき、該脱穀部4に入ってくる穀稈量に応じて唐箕駆動モータや扱胴駆動モータの回転速度を制御でき、効率的な収穫作業が行なえる。
【0047】
また、
図9及び
図10に示すように、各条毎の電動モータ20の作動は、穀稈侵入センサ22の穀稈検出時に直ちにフル作動するのではなく、穀稈検出後に徐々に回転速度を上げていくようにし、穀稈侵入センサ22が穀稈を検出しなくなった時に直ちに停止するのではなく、徐々に回転数を低下させて停止するようにすれば、駆動負荷を軽減できる。
【0048】
また、
図11に示すように、穀稈侵入センサ22が穀稈を検出するピッチP1が短いピッチP2になった場合は、刈取穀稈の侵入速度が速くなったものとみなして(刈取穀稈量が増加したとみなして)、電動モータ20の回転速度を上げ、逆に、穀稈侵入センサ22が穀稈を検出するピッチP2が長いピッチP1になった場合は、刈取穀稈の侵入速度が遅くなったものとみなして(刈取穀稈量が減少したとみなして)、電動モータ20の回転速度を下げるように制御すると、適正な負荷で引起し装置8を作動させることができ、良好な収穫作業が行なえる。
【0049】
また、
図12に示すように、各引起し装置8に各々伝動機構(クラッチ)30を設け、1つの電動モータ20にて各引起し装置8を駆動する構成にしても良い。即ち、収穫作業で圃場を前進すると、1条~N条(本実施形態では4条)の各条の引起し装置8に刈取穀稈が侵入してくるが、その各条毎の侵入してくる刈取穀稈を穀稈侵入センサ22が検出すると、制御部15は各条毎の伝動機構を動力伝達状態(クラッチ入り)にして電動モータ20の駆動力で各条毎に引起し装置8を駆動する。
【0050】
なお、穀稈侵入センサ22をデジタルセンサの例を示したが、刈取穀稈に接触して有無を検出する接触部とマイクロスイッチ等からなるアナログセンサにしても良い。
【符号の説明】
【0051】
1 走行装置(走行クロ-ラ)
1a 駆動軸
2 機体
14 慣性計測部
15 制御部
A 前進方向の実走行速度
B 前進方向の走行速度
C 前進方向のスリップ率
A’ 機体左右方向の実走行速度
B’ 機体左右方向の走行速度
C’ 機体左右方向のスリップ率