(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】絶縁回路基板用接合体の製造方法および絶縁回路基板用接合体
(51)【国際特許分類】
H01L 23/36 20060101AFI20220419BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20220419BHJP
H05K 3/46 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H01L23/36 C
H05K7/20 C
H05K3/46 U
(21)【出願番号】P 2020510021
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(86)【国際出願番号】 JP2019012326
(87)【国際公開番号】W WO2019188885
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2018058136
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】湯本 遼平
(72)【発明者】
【氏名】大開 智哉
(72)【発明者】
【氏名】北原 丈嗣
(72)【発明者】
【氏名】長友 義幸
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-211125(JP,A)
【文献】特開2015-170825(JP,A)
【文献】特開2014-160799(JP,A)
【文献】特開2016-167548(JP,A)
【文献】特開2015-170826(JP,A)
【文献】特開2011-216533(JP,A)
【文献】特開2016-072563(JP,A)
【文献】特開2016-018887(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00-20/26
B32B 1/00-43/00
C04B 37/00-37/04
H01L 23/12-23/15
H01L 23/29
H01L 23/34-23/36
H01L 23/373-23/427
H01L 23/44
H01L 23/467-23/473
H05K 3/46
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックス基板の一方の面に複数のアルミニウム回路層を形成するアルミニウム回路層形成工程と、
前記アルミニウム回路層のそれぞれの上に回路層用銅板を個別に積層し
て積層体を形成し、少なくとも一方の面に凸曲面を有しこれら凸曲面を互いに対向させて配置された一対の当て板の間に前記積層体を配置して、前記当て板を対向方向に移動することにより前記積層体を積層方向に加圧し、その加圧状態で加熱することにより、前記アルミニウム回路層に前記回路層用銅板を固相拡散接合した銅回路層を形成する銅回路層形成工程と
を有し、
前記銅回路層形成工程では、前記凸曲面のいずれかが、前記積層体において隣接する複数の前記回路層用銅板にまたがって当接するように前記当て板を配置する
ことを特徴とする絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項2】
前記当て板の前記凸曲面は、8000mm以上60000mm以下の曲率半径であることを特徴とする請求項1記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項3】
前記当て板は炭素材シートからなることを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項4】
前記炭素材シートは、1枚以上のカーボンシートと1枚以上のグラファイトシートとの積層板であることを特徴とする請求項3に記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項5】
前記当て板は、前記一方の面が前記凸曲面、他方の面が平面であることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項6】
前記凸曲面は球面であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項7】
前記凸曲面は円筒面であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項8】
1対の前記当て板を、前記積層方向に対向する1対の加圧板の間に配置し、
1対の前記加圧板を、前記積層方向に沿って設けた少なくとも2本のガイドポストに、前記積層方向に沿って互いに接近離間可能に保持させ、
前記銅回路層形成工程において、1対の前記加圧板同士を接近させることにより1対の前記当て板を介して前記積層体を加圧する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の絶縁回路基板用接合体の製造方法。
【請求項9】
セラミックス基板と、
前記セラミックス基板の一方の面に接合された複数のアルミニウム回路層と、
各前記アルミニウム回路層の上に個別に固相拡散接合された銅回路層と、
各前記アルミニウム回路層と各前記銅回路層との間に介在する金属間化合物層と
を有し、
前記金属間化合物層は、隣接する前記銅回路層の間隙に臨む端部から50μmの位置を境界として、該境界より中央側の平均厚みをt1、前記境界より端部側の平均厚みをt2としたときに、これら厚みの比率t2/t1が30%以上である
ことを特徴とする絶縁回路基板用接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流、高電圧を制御する半導体装置に用いられるパワーモジュール用基板などの絶縁回路基板用接合体の製造方法および絶縁回路基板用接合体に関する。本願は、2018年3月26日に出願された特願2018-58136号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュール用基板として、窒化アルミニウムを始めとするセラミックス基板からなる絶縁層の一方の面に回路層が接合されるとともに、他方の面に放熱のための金属層が接合されたものが知られており、金属層にはヒートシンクが接合される。
【0003】
例えば特許文献1に開示されているヒートシンク付パワーモジュール用基板は、セラミックス基板からなる絶縁層の一方の面にアルミニウム層と銅層との二層構造の回路層が形成され、セラミックス基板(絶縁層)の他方の面には、アルミニウム層と銅層との二層構造の金属層が接合されており、この金属層の銅層にアルミニウムからなるヒートシンクが接合される。
【0004】
このヒートシンク付パワーモジュール用基板の製造方法では、セラミックス基板の両面にまずアルミニウム板をろう付けし、その後、一方側に銅板を積層し、他方側には銅板とヒートシンクのアルミニウム板とを積層して、この積層体を積層方向に加圧しながら加熱することにより、アルミニウムと銅とを固相拡散接合する。その際、特許文献1では、ヒートシンクの接合面を、ヒートシンク接合温度で生じるパワーモジュール用基板の金属層表面の反りに合わせ、凸形状に形成して接合している。
【0005】
この固相拡散接合においては、バネにより付勢される一対の加圧板の間に積層体を配置し、セラミックス基板の外周より外側に設けられた一対のガイドポストに固定された固定板で付勢することにより加圧板間を接近させて、積層体に荷重を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ガイドポストは、積層体の直上には設置することはできないため、セラミックス基板の外周よりも内側では荷重が付与されにくい傾向がある。セラミックス基板とアルミニウム板との接合は、ろう付けにより液相が生じるため、全面でほぼ均一に接合されるが、アルミニウム層と銅層との間は固相による接合であるため、その接触状態が接合に大きく影響する。上記の加圧板を用いた接合では、回路層の外周に荷重が集中しやすい反面、それより内側では荷重が付与されにくく、金属層の外周部以外では接合不良が発生するおそれがある。特に、回路層が複数に分離している場合に、隣接する回路層用銅板の間隙に臨む内側の端部において固相拡散接合による十分な金属間化合物層が形成されずに、接合不良が発生し易い。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、隣接する回路層用銅板の間隙に臨む内側の端部にも均一な荷重を付与して、接合不良の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の絶縁回路基板用接合体の製造方法は、セラミックス基板の一方の面に複数のアルミニウム回路層を形成するアルミニウム回路層形成工程と、前記アルミニウム回路層のそれぞれの上に回路層用銅板を個別に積層し、少なくとも一方の面に凸曲面を有しこれら凸曲面を互いに対向させて配置したされた1対の当て板の間に前記積層体を配置して、前記当て板を対向方向に移動することにより前記積層体を積層方向に加圧し、その加圧状態で加熱することにより、前記アルミニウム回路層に前記回路層用銅板を固相拡散接合した銅回路層を形成する銅回路層形成工程とを有し、前記銅回路層形成工程では、前記凸曲面のいずれかが、前記積層体において隣接する複数の前記回路層用銅板にまたがって当接するように前記当て板を配置する。
【0010】
この製造方法によれば、銅回路層形成工程において、隣接する回路層用銅板にまたがって当て板の凸曲面が当接するので、従来、荷重が付与されにくかったセラミックス基板の中央部における回路層用銅板の端部にも、外周端部と同様に荷重が付与されやすくなる。
【0011】
本発明の絶縁回路基板用接合体の製造方法の好ましい実施態様は、前記当て板の前記凸曲面は、8000mm以上60000mm以下の曲率半径であるとよい。この範囲の曲率半径であると、隣接する銅回路層の端部にまで十分な厚さで金属間化合物層を形成して、良好な接合を得ることができる。
【0012】
本発明の絶縁回路基板用接合体の製造方法の好ましい実施態様は、前記当て板は炭素材シートからなるとよい。また、炭素材シートとしては1枚以上のカーボンシートと1枚以上のグラファイトシートとの積層板を用いることができる。
【0013】
炭素材シートを用いることにより、当て板と積層体との固着を防止できる。また、炭素材シートのクッション性により、凸曲面の外周側から中央部に向かって、荷重が徐々に大きくなる緩やかな加圧勾配が得られ、回路層用銅板を全面にわたってより均一に加圧し接合することができる。
【0014】
本発明の絶縁回路基板用接合体の製造方法において、前記凸曲面は球面であってもよく、あるいは円筒面であってもよい。凸曲面の形状は積層体の回路層用銅板の数や配置状態に応じて適宜に設定するとよい。
【0015】
本発明の絶縁回路基板用接合体において、前記当て板は、前記一方の面が前記凸曲面、他方の面が平面であってもよい。例えば、当て板を挟んで積層された複数組の積層体の最外部に配置された当て板においては、回路層用銅板を押圧しない面は平面であってもよく、この平面全面で加圧板からの押圧力を受けることができる。
【0016】
本発明の絶縁回路基板用接合体の製造方法の好ましい実施態様は、1対の前記当て板を、前記積層方向に対向する1対の加圧板の間に配置し、1対の前記加圧板を、前記積層方向に沿って延設した少なくとも2本のガイドポストに、前記積層方向に沿って互いに接近離間可能に保持させ、1対の前記加圧板同士を接近させることにより1対の前記当て板を介して前記積層体を加圧するとよい。
【0017】
2本のガイドポストに保持させた1対の加圧板間では積層体を均一に加圧することが難しいが、当て板の凸曲面を用いることにより、積層体の中央部にも十分な荷重を加えることができる。
【0018】
本発明の絶縁回路基板用接合体は、セラミックス基板と、前記セラミックス基板の一方の面に接合された複数のアルミニウム回路層と、各前記アルミニウム回路層の上に個別に固相拡散接合された銅回路層と、各前記アルミニウム回路層と各前記銅回路層との間に介在する金属間化合物層とを有し、前記金属間化合物層は、隣接する前記銅回路層の間隙に臨む端部から50μmの位置を境界として、該境界より中央側の平均厚みをt1、前記境界より端部側の平均厚みをt2としたときに、これら厚みの比率t2/t1が30%以上である。
【0019】
複数の銅回路層の間隙に臨む部分の金属間化合物層の平均厚みt2が、それより中央側の金属間化合物層の平均厚みの30%以上であるので、端部まで十分に固相拡散接合されており、十分な接合状態を維持することができる。
【0020】
なお、この絶縁回路基板用接合体は、複数の回路層を有する絶縁回路基板としてそのまま用いる、あるいは、隣接する銅回路層の間でセラミックス基板にスクライブラインを形成しておき、これを分割することにより絶縁回路基板単体とする、などの使用形態が可能である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、隣接する銅回路層の間隙に臨む内側の端部にも均一な荷重を付与して、接合不良の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態に係る絶縁回路基板用接合体の製造方法により製造された絶縁回路基板用接合体を示す側面図である。
【
図2】
図1に示した絶縁回路基板用接合体の平面図である。
【
図3A】絶縁回路基板用接合体の製造方法を工程順に示す側面図である。
【
図3B】絶縁回路基板用接合体の製造方法を工程順に示す側面図である。
【
図3C】絶縁回路基板用接合体の製造方法を工程順に示す側面図である。
【
図3D】絶縁回路基板用接合体の製造方法を工程順に示す側面図である。
【
図6】他の実施形態の絶縁回路基板用接合体(パワーモジュール用基板)を示す平面図である。
【
図7】試料4の回路層の端部におけるアルミニウム層と銅層との界面付近の断面顕微鏡写真である。
【
図8】試料10の回路層の端部におけるアルミニウム層と銅層との界面付近の断面顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1及び
図2は、本発明の製造方法により製造される絶縁回路基板用接合体の例として複数個のパワーモジュール用基板(絶縁回路基板)1を製造するための絶縁回路基板用接合体10を示す。図示例では、4個のパワーモジュール用基板1を製造することができる。
【0024】
絶縁回路基板用接合体10は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の一方の面(表面)に接合された複数の回路層12と、セラミックス基板11の他方の面(裏面)に接合された複数の放熱層13とを有する。平面サイズは、個々の回路層12において1辺が5mm以上100mm以下の正方形であり、各回路層12の間隙gは1mm以上20mm以下である。この実施形態では、放熱層13も同じ間隙gで配置されている。
【0025】
セラミックス基板11は、回路層12と放熱層13の間の電気的接続を防止する絶縁材であって、例えば窒化アルミニウム(AlN)、窒化珪素(Si3N4)等により形成され、その板厚は0.2mm~1.5mmである。
【0026】
この実施形態においては、セラミックス基板11には、これを4個に等分割するためのスクライブライン15が平面視十字状に形成されている。
【0027】
回路層12及び放熱層13は、いずれもアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミニウム層と、銅又は銅合金からなる銅層との二層構造とされている。
【0028】
この場合、回路層12においては、スクライブライン15により分割される各領域ごとに、アルミニウム回路層121と銅回路層122とが積層状態に接合されており、隣接する回路層12の間隙gに沿ってスクライブライン15がセラミックス基板11上に形成される。
【0029】
回路層12となるアルミニウム層をアルミニウム回路層121、放熱層13となるアルミニウム層をアルミニウム放熱層131とするが、特に区別しない場合は、単にアルミニウム層と称す。
【0030】
これらアルミニウム層121,131は、アルミニウム又はアルミニウム合金を用いることができるが、純度99.00質量%以上又は純度99.99質量%以上の純アルミニウムが応力緩和のために好ましい。また、これらアルミニウム層121,131の厚みは0.1mm~1.0mmが好適である。アルミニウム回路層121とアルミニウム放熱層131とは同じ厚みでもよいが、異なる厚みとしてもよい。
【0031】
これらアルミニウム層121,131は、セラミックス基板11の両面に例えばAl-Si系のろう材を介してアルミニウム板を積層し、これらを積層方向に加圧して加熱するろう付けによって接合されることにより形成される。
【0032】
一方、回路層12となる銅層及び放熱層13となる銅層についても、アルミニウム層と同様、回路層12となる銅層を銅回路層122、放熱層13となる銅層を銅放熱層132とするが、特に区別しない場合は、単に銅層と称す。
【0033】
これら銅層122,132には、銅又は銅合金を用いることができるが、無酸素銅が好適である。平面サイズは、アルミニウム層と同じでもよいが、図示例では、アルミニウム層よりわずかに小さく形成されている。板厚は0.1mm以上6.0mm以下が好適であり、銅回路層122と銅放熱層132とは同じ厚みでもよいが、異なる厚みとしてもよい。
【0034】
銅回路層122は、各アルミニウム回路層121のそれぞれの上に個別に銅板を固相拡散接合することにより形成され、銅放熱層132は、アルミニウム放熱層131に銅板を固相拡散接合することにより形成される。
【0035】
次に、この絶縁回路基板用接合体10の製造方法について説明する。この実施形態の場合は、
図3A~3Dに示すように、スクライブライン形成工程(
図3A)、アルミニウム層接合工程(
図3B)、銅層接合工程(
図3C)、分割工程(
図3D)の順で製造される。
【0036】
(スクライブライン形成工程)
セラミックス基板11に、複数のパワーモジュール用基板1に分割するためのスクライブライン15を形成する。スクライブライン15は、
図3Aに示すように、レーザ加工により形成できる。具体的には、セラミックス基板11の表面に、CO
2レーザ、YAGレーザ、YVО4レーザ、YLFレーザ等のレーザ光Lを照射することにより、スクライブライン15の加工を行う。
【0037】
(アルミニウム層形成工程(アルミニウム回路層形成工程))
図3Bに示すように、セラミックス基板11の表面に、複数の回路層用アルミニウム板21をろう材箔50を介して積層するとともに、セラミックス基板11の裏面に、複数の放熱層用アルミニウム板31をろう材箔50を介して積層する。複数の回路層用アルミニウム板21および複数の放熱層用アルミニウム板31は、セラミックス基板11のスクライブライン15により区画されたそれぞれの形成領域に積層する。ここではろう付けにろう材箔50を用いるが、セラミックス基板11の表面にろう材のペーストを塗布してもよい。
【0038】
そして、これら回路層用アルミニウム板21、放熱層用アルミニウム板31、セラミックス基板11及びろう材箔50の積層体を真空雰囲気中で積層方向に加圧した状態で640℃~650℃に加熱することによりろう付けする。
【0039】
これにより、セラミックス基板11の一方の面に複数のアルミニウム回路層121が形成され、他方の面に複数のアルミニウム放熱層131が形成される。
【0040】
(銅層形成工程(銅回路層形成工程))
図3Cに示すように、セラミックス基板11の表面に接合された各アルミニウム回路層121の上に、回路層用銅板22を積層する。同様にして、セラミックス基板11の裏面に接合されたアルミニウム放熱層131に放熱層用銅板32を積層する。
【0041】
回路層用銅板22は、複数のアルミニウム回路層121のそれぞれに個別に積層する。放熱層用銅板32も、複数のアルミニウム放熱層131のそれぞれに個別に積層する。
【0042】
そして、この積層体40を積層方向に加圧した状態で銅とアルミニウムの共晶温度未満で加熱し、各アルミニウム回路層121と回路層用銅板22との間、及びアルミニウム放熱層131と放熱層用銅板32との間をそれぞれ固相拡散接合する。
【0043】
図4及び
図5は、この固相拡散接合時に用いられる加圧装置60を示している。この加圧装置60は、ベース板(固定側加圧板)61と、ベース板61の上面に垂直に取り付けられた複数のガイドポスト62と、これらガイドポスト62の上端部にガイドポスト62に沿って移動自在に支持されたバックアップ板63と、これらベース板61とバックアップ板63との間で上下移動自在にガイドポスト62に支持された加圧板(可動側加圧板)64と、バックアップ板63と加圧板64との間に設けられて加圧板64を下方に付勢するばね等の付勢手段65とを備えている。バックアップ板63および加圧板64は、ベース板61に対して平行に配置される。
【0044】
ガイドポスト62は、少なくとも2本が、ベース板61の上面に垂直に設けられている。各ガイドポスト62の上端にねじ部62aが形成されており、バックアップ板63の上面でねじ部62aにナット66が螺合している。本実施形態では、ベース板61と加圧板64との間に、複数組の積層体40が上下に重ねて配置される。この場合、積層体40は、ガイドポスト62の内側に配置され、ナット66をガイドポスト62のねじ部62aにねじ込むことにより、両加圧板61,64の間で積層方向に加圧される。
【0045】
なお、ガイドポスト62は、2本には限定されず、ベース板61の上面の四隅に1本ずつ、4本設けられてもよい。また、積層体40は、一組のものがベース板61と加圧板64との間に配置されてもよい。ガイドポスト62のねじ部62aにナット66をねじ込むことにより加圧することとしたが、加圧のための手段は、この構成に限らず、ホットプレス等も用いることができる。
【0046】
この工程において、積層体40の両面には、積層体40の面方向の中央部に加圧力を有効に作用させるために当て板70が配置される。
【0047】
当て板70は、両面が凸曲面70aに形成されている。凸曲面70aは、曲率半径Rが8000mm以上60000mm以下の曲面とされる。
【0048】
当て板70は、積層体40の隣接する回路層12の間隙g、及び放熱層13の間隙gに、凸曲面70a(
図3参照)が対向するようにして配置される。なお、回路層12に接しない当て板70の表面(例えばベース板61や加圧板64に接する面)は平面であってもよい。
【0049】
凸曲面70aは、本実施形態では平面視矩形状の回路層12が、その一つの隅部を相互に接近させた状態で4個配置されているので、この4個の隅部が集合する部分で最も突出する球面状に形成されているが、回路層12の配置数等によって球面以外に、円筒面も用いることができる。例えば、2個の回路層が並んで配置される場合には、凸曲面を円筒面状に形成し、その円筒の軸方向を2個の回路層の間の間隙に沿わせて配置すればよい。また、球面、円筒面以外にも、回転楕円体表面などの曲面であってもよい。その曲率半径R=8000mm~60000mmの範囲内で、単一の曲率半径のもの、あるいは複数の曲率半径の組み合わせからなるものとしてもよく、回路層の数や配置に合わせて適宜に設定することができる。
【0050】
当て板70は、炭素材シートからなる。炭素材シートとしては、例えばカーボンシートとグラファイトシートとの積層板を用いることができる。カーボンシートは、例えば、旭グラファイト株式会社製G-347(熱伝導率116W/mK、弾性率10.8GPa)を用いることができる。グラファイトシートは、例えば、旭グラファイト株式会社製T-5(熱伝導率75.4W/mK、弾性率11.4GPa)や東洋炭素株式会社製黒鉛シートPF(圧縮率47%、復元率14%)などを用いることができる。
【0051】
このように構成した加圧装置60に、複数の積層体40を当て板70を介在させた状態で配置する。この場合、各積層体40の回路層用銅板22及び放熱層用銅板32にそれぞれ当て板70の凸曲面70aが当接するように配置する。
【0052】
そして、0.3MPa以上3.5MPa以下の圧力で加圧保持し、真空雰囲気中で400℃以上548℃末満の加熱温度で5分以上240分以下保持することにより、銅とアルミニウムとの固相拡散によって回路層用銅板22及び放熱層用銅板32をそれぞれアルミニウム回路層121及びアルミニウム放熱層131に接合する。
【0053】
このようにして製造された絶縁回路基板用接合体10は、セラミックス基板11の一方の面にアルミニウム回路層121、銅回路層122が順次積層状態に接合され、セラミックス基板11の他方の面にアルミニウム放熱層131、銅放熱層132が順次積層状態に接合されている。
【0054】
そして、アルミニウム回路層121と銅回路層122との間、及びアルミニウム放熱層131と銅放熱層132との間には、アルミニウムと銅との固相拡散接合による金属間化合物層M(
図7参照)が形成されている。
【0055】
この銅板接合工程において、回路層用銅板22及び放熱層用銅板32に当て板70の凸曲面70aを当接させて加圧したことにより、金属間化合物層Mは、アルミニウム回路層121と銅回路層122との間、及びアルミニウム放熱層131と銅放熱層132との間の全面にわたってほぼ均一な厚みで形成される。
【0056】
この金属間化合物層Mの平均厚みは12μm以上40μm以下であり、隣接する銅回路層122の間隙gに臨む端部から50μmの位置を境界として、その境界より中央側の平均厚みをt1、境界より端部側の平均厚みをt2としたときに、これら厚みの比率t2/t1が30%以上である。
【0057】
(分割工程)
最後に、
図3Dに示すように、セラミックス基板11をスクライブライン15に沿って複数に分割して個片化する。
【0058】
以上説明したように、本実施形態の製造方法によれば、回路層用銅板22及び放熱層用銅板32に当て板70の凸曲面70aを当接させて加圧したことにより、アルミニウム回路層121と銅回路層122との間、及びアルミニウム放熱層131と銅放熱層132との間に、固相拡散接合による金属間化合物層Mを全面にわたってほぼ均一な厚みで形成することができ、接合不良を生じることなく、強固に接合することができる。
【0059】
この場合、凸曲面70aの曲率半径Rが8000mm未満では、曲率半径が小さすぎることから、間隙gに臨む銅回路層122及び銅放熱層132の端部付近に荷重が集中し過ぎて、逆に、外周縁部付近の荷重が不足して、外周縁部に接合不良を招くおそれがある。凸曲面70aの曲率半径Rが60000mmを超えると、平面に近くなるので、間隙gに臨む銅回路層122及び銅放熱層132の端部付近の接合の改善効果が乏しくなる。
【0060】
なお、上記実施形態では、セラミックス基板11にスクライブライン15を形成して、複数個のパワーモジュール用基板1を製造する方法としたが、スクライブライン15を有しないセラミックス基板11により、1個のパワーモジュール用基板(絶縁回路基板)1を製造する場合(
図6)でも、回路層12が複数に分離されている場合には本発明を適用することができる。
【0061】
図6の絶縁回路基板用接合体100は、セラミックス基板11の一方の面に、回路層12が二つに分離された状態に形成されており、それぞれアルミニウム回路層121を介して銅回路層122が積層状態に接合されている。セラミックス基板11の他方の面には、一つのアルミニウム放熱層131を介して一つの銅放熱層132が積層状態に接合されてなる一つの放熱層13が形成されている。
【0062】
この絶縁回路基板用接合体100も、セラミックス基板11にアルミニウム回路層121及びアルミニウム放熱層131をろう付けにより接合状態に形成した後、アルミニウム回路層121に回路層用銅板22及びアルミニウム放熱層131に放熱層用銅板32を固相拡散接合する。その際に、凸曲面70aを有する当て板70を用いて加圧することにより、回路層用銅板22の間隙gに臨む端部付近にも加圧力を作用させて、アルミニウム回路層121に強固に接合した銅回路層122を形成することができる。
【0063】
この場合、個々の回路層12の平面サイズは、5mm以上100mm以下の正方形であり、回路層12の間隙gは1mm以上20mm以下とされる。
【0064】
この絶縁回路基板用接合体100は、銅回路層122及び銅放熱層132を形成後、そのままパワーモジュール用基板(絶縁回路基板)1として適用される。
【0065】
その他、本発明は、セラミックス基板の一方の面にアルミニウム層と銅層との二層構造からなる回路層を形成する場合に適用することができ、セラミックス基板の他方の面に実施形態のように二層構造の放熱層を有しない場合でもよい。
【実施例】
【0066】
アルミニウム板接合工程として、絶縁層を形成するセラミックス基板(40mm×80mm、板厚0.635mmのAlN)の表面に、2枚のアルミニウム板(38mm×38mm、板厚0.25mmの4N-Al)を2mmの間隙をあけて積層し、セラミックス基板の他方の面に1枚のアルミニウム板(38mm×7
8mm、板厚0.25mmの4N-Al)を積層して、それぞれろう付けにより接合してアルミニウム層を形成した。ろう材としては、Al-Siろう箔(厚さ14μm)を使用し、積層方向に0.3MPaの圧力を加え、温度640℃で40分加熱して接合した。
【0067】
銅板接合工程として、セラミックス基板の表面に形成されたアルミニウム層の上に銅板(37mm×37mm、板厚0.3mm、無酸素銅)を位置決めして積層するとともに、セラミックス基板の裏面に形成されたアルミニウム層の上に銅板(37mm×77mm、板厚0.3mm、無酸素銅)を積層し、表1に示す各曲率半径の当て板を用いて、積層方向に1MPaの圧力を加え、真空雰囲気中において温度540℃で90分加熱し、固相拡散接合した。
【0068】
このようにして作製した試料1~11につき、回路層の略中央を通過し端面に略直交する切断面を顕微鏡にて観察し、回路層におけるアルミニウム層と銅層との間に介在する金属間化合物層を確認した。隣接する回路層の間隙に臨む端部から50μm位置より中央側の金属間化合物層の平均厚みt1と、端部から50μm位置より端部側の金属間化合物層の平均厚みt2とを測定し、その厚み比率t2/t1を求めた。
【0069】
また、接合性の評価として、得られた試料1~11の銅回路層の上にはんだを搭載し、285℃×10分のリフロー後に、
図2に示すB-B線(回路層の略中央を通過し端面に略直交する線上)に沿う矢視断面部の顕微鏡観察により、金属間化合物層を確認した。20倍の株式会社キーエンス製VK-X210顕微鏡観察により、端部の金属間化合物層に破壊(クラック)が認められたものを「不良」とし、クラックが認められなかったものを「良」とした。これらの結果を表1に示す。
【0070】
【0071】
凸曲面の曲率半径Rが8000mm~60000mmの試料1~8は、接合性の評価が全て「良」であった。その場合の金属間化合物層の厚み比率は33.3%以上であり、30%以上であれば良好な結果が得られると認められる。
【0072】
図7は、はんだリフロー前の試料4のアルミニウム層と銅層との端部におけるB-B線に沿う矢視断面部の顕微鏡写真であり、
図8は、はんだリフロー前の試料10の顕微鏡写真である。
図7では端部の縁まで金属間化合物層Mが形成されてアルミニウム層と銅層とが接合されているのに対して、
図8では端部の縁に未接合部分が生じている。
【産業上の利用可能性】
【0073】
絶縁回路基板用接合体において、隣接する銅回路層の間隙に臨む内側の端部にも均一な荷重を付与して、接合不良の発生を防止できる。
【符号の説明】
【0074】
1 パワーモジュール用基板(絶縁回路基板)
10 絶縁回路基板用接合体
11 セラミックス基板
12 回路層
13 放熱層
15 スクライブライン
21 回路層用アルミニウム板
22 回路層用銅板
31 放熱層用アルミニウム板
32 放熱層用銅板
40 積層体
50 ろう材箔
60 加圧装置
61 ベース板(固定側加圧板)
62 ガイドポスト
62a ねじ部
63 バックアップ板
64 加圧板(可動側加圧板)
65 ナット
70 当て板
70a 凸曲面
100 絶縁回路基板用接合体(パワーモジュール用基板)
121 アルミニウム回路層(アルミニウム層)
122 銅回路層(銅層)
131 アルミニウム放熱層(アルミニウム層)
132 銅放熱層(銅層)
M 金属間化合物層