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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/439 20100101AFI20220419BHJP
【FI】
F16H61/439
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021017468
(22)【出願日】2021-02-05
(62)【分割の表示】P 2017116426の分割
【原出願日】2017-06-14
(65)【公開番号】P2021073417
(43)【公開日】2021-05-13
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】川上 修平
(72)【発明者】
【氏名】後藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】浜野 友佑
(72)【発明者】
【氏名】西風 聖也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 学
(72)【発明者】
【氏名】山口 信
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-058060(JP,A)
【文献】特開2008-273249(JP,A)
【文献】特開2016-101146(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/14
F16H 61/40-61/478
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場作業の作業機(4,5)と内燃機関による原動部(20)とを備えた機体を走行車輪(10,11)によって支持し、前記原動部(20)から受けた動力を前後進調節レバー(17)の操作に応じて無段変速する静油圧式無段変速伝動機構(23)を備え、この無段変速伝動機構(23)の変速動力を前記走行車輪(10,11)と前記作業機(4,5)に伝動して作業走行する作業車両において、
前記前後進調節レバー(17)の中立操作時に前記無段変速伝動機構(23)を微小前後動作する圧抜き制御および、前記作業機(4)が、圃場面に対して接地の有無を検出するリンクセンサ(55s)を設け、前記接地の有無により前記圧抜き制御が異なり、
前記リンクセンサ(55s)により、前記作業機(4)が圃場面に対して接地していない「非検知」の場合は、規定値より前記圧抜き制御の量が少ないことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記リンクセンサ(55s)により、前記作業機(4)が圃場面に対して接地している「検知状態」の場合は、規定値より前記圧抜き制御の量が多いことを特徴とする請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
機体位置を検知するGPS(1p)と、情報処理用端末装置(1t)とを備え、前記圧抜き制御調節手段による前記圧抜き量と機体位置の情報を表示可能に前記情報処理用端末装置(1t)に記録し、
前記無段変速伝動機構(23)の変速動力を所定の負荷範囲内に規制する圧逃げ部(23p)と、この圧逃げ部(23p)による規制を解除可能に切替える切替部(23m,23n)とを備え、
前記切替部(23m,23n)の切替えによる規制解除を所定時間内に限定して再度の切替えにより規制を再開する復帰制御を備えることを特徴とする請求項1または2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン動力を正逆転無段変速する静油圧式無段変速機を備えて圃場を作業走行する作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
先行特許文献に記載の作業車両は、圃場で苗の植付け等の作業を行う際に用いる苗移植機等の作業車両に駆動輪である左右の前輪および後輪を備える四輪駆動車両である。走行車体の車体骨格を構成するメインフレームの前側には、作業機等に駆動力を伝達するミッションケースと、エンジンから供給される駆動力をミッションケースに出力する油圧式の無段変速装置とが設けられる。この無段変速装置はいわゆるHST(Hydro Static Transmission)と呼ばれる静油圧式の無段変速機である。
【0003】
エンジンの回転動力が、ベルト伝動部および無段変速装置を介してトランスミッションに伝達される。このトランスミッションにより変速回転動力は、走行動力と外部取出動力とに分離され、走行を停止する時は、HSTレバー(前後進レバー)を中立位置に操作すると圧抜き制御によって機体を確実に停車することができる。すなわち、圧抜き制御により、トラニオンを微小範囲で前後動作(5秒間)してHSTの油温上昇や部品劣化による走行動力への伝達精度低下や制動性の低下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-3696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、圧抜き制御は圃場ないでも行われ、走行車輪等に負荷かが掛かった状態では、圧抜き制御によっても圧が抜け切らず、特に、湿田や圃場が深い場合など走行車輪の負荷が大きい圃場では圧抜きが不十分になり、HSTを傷め制動性の低下の原因になり機体が安全に停止しない虞があり、その一方で、圧抜きの継続時間や圧の抜き量を大きくすると、機体を停止操作しても機体が前後進動作する虞がある。
【0006】
本発明の目的は、圃場作業等の走行車輪に負荷を受ける状況においても、静油圧式無段変速部の適切な圧抜きを可能とする作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、圃場作業の作業機(4,5)と内燃機関による原動部(20)とを備えた機体を走行車輪(10,11)によって支持し、前記原動部(20)から受けた動力を前後進調節レバー(17)の操作に応じて無段変速する静油圧式無段変速伝動機構(23)を備え、この無段変速伝動機構(23)の変速動力を前記走行車輪(10,11)と前記作業機(4,5)に伝動して作業走行する作業車両において、
前記前後進調節レバー(17)の中立操作時に前記無段変速伝動機構(23)を微小前後動作する圧抜き制御および、前記作業機(4)が、圃場面に対して接地の有無を検出するリンクセンサ(55s)を設け、前記接地の有無により前記圧抜き制御が異なり、
前記リンクセンサ(55s)により、前記作業機(4)が圃場面に対して接地していない「非検知」の場合は、前記圧抜き制御の量が少ないことを特徴とする。
【0008】
(削除)
【0009】
請求項に係る発明は、請求項1記載の発明において、前記リンクセンサ(55s)により、前記作業機(4)が圃場面に対して接地している「検知状態」の場合は、前記圧抜き制御の量が多いことを特徴とする。
【0010】
請求項に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、機体位置を検知するGPS(1p)と、情報処理用端末装置(1t)とを備え、前記圧抜き制御調節手段による前記圧抜き量と機体位置の情報を表示可能に前記情報処理用端末装置(1t)に記録し、
前記無段変速伝動機構(23)の変速動力を所定の負荷範囲内に規制する圧逃げ部(23p)と、この圧逃げ部(23p)による規制を解除可能に切替える切替部(23m,23n)とを備え、
前記切替部(23m,23n)の切替えによる規制解除を所定時間内に限定して再度の切替えにより規制を再開する復帰制御を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明は、作業機(4)が圃場面に対して接地の有無を検出するリンクセンサ(55s)を設け、前記接地の有無により前記圧抜き制御が異なることで、作業機(4)が圃場面に接地している作業中の場合は、大きな走行負荷に対応して圧抜きが可能となり、また、作業機(4)が圃場面に接地していない非作業中の場合は、走行負荷が小さいので、規定値未満の圧抜き量で圧抜きすることで圧抜き動作に連動して機体が動く事態を防止できる。
【0012】
また、作業機(4)が圃場面に接地していない非作業中「非検知」の場合は、走行負荷が小さいので、規定値未満の圧抜き量で圧抜きすることで圧抜き動作に連動して機体が動く事態を防止できる。
【0013】
請求項に係る発明は、請求項1記載の発明の効果に加え、作業機(4)が圃場面に接地している作業中「検知状態」の場合は、大きな走行負荷に対応して圧抜きが可能となる。
【0014】
請求項に係る発明は、請求項1または2に記載の発明の効果に加え、情報処理用端末装置(1t)の記録による圧抜き量と機体位置の関係から圃場におけるHST負荷の範囲が分かるため、圃場の深さや泥濘具合を把握できる。また、肥料の散布量や植付深さ及び泥濘で直進安定性が乱れる位置等を次年度に活かすことができるとともに、経過の表示に基づいて機器の摩耗具合を把握できるので、メンテナンス性が向上し、交換及び修理時期が容易に把握できる。
【0015】
また、圧逃げ部(23p)による負荷規制を切替部(23m,23n)によって解除可能に構成したことから、泥濘等の走行によって走行車輪(10,11)に作用する過大な負荷について圧逃げ部(23p)が負荷規制して走行できなくなることから、切替部(23m,23n)によって負荷規制を解除することで大動力で走行車輪(10,11)を駆動することができ、泥濘からの機体脱出が可能となる。
【0016】
また、切替部(23m,23n)の復帰制御により、規制解除から所定時間後の規制再開により、走行動力を所定範囲内に再び規制することから、無段変速伝動機構(23)を中心とする機器の破損防止、誤操作防止、耐久性・安全性向上が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】走行調節レバー周りの正面図(a)と側面図(b)
図2】HSTのトラニオン調節部の拡大平面図
図3】システム入出力ブロック図
図4】中立操作時の制御フローチャート
図5】片側作用(a)と両側作用(b)のHSTの保護回路図
図6】HST周りの平面図
図7】エンジン周りの平面図
図8】エンジン周りの側面図
図9】ケース部の平面図(a)と正面図(b)
図10】ケース部の正面図(a,b)と平面図(a)
図11】植付伝動ケースの要部側面図(a)とそのS-S線断面図(b)
図12】作業機の平面図(a)と側面図(b)
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記技術思想に基づいて具体的に構成された実施の形態について、以下に図面を参照しつつ説明する。
【0019】
苗移植機等の作業車両1は、後掲の図12に作業機の平面図(a)と側面図(b)を示すように、ディーゼルエンジン等の内燃機関による原動部20と、その動力を受けて前後進調節レバー17等の操作部の操作に応じて走行動力と作業動力とを無段変速出力する変速伝動部12と、その走行動力を受ける走行車輪10,11と、作業動力を受ける植付装置4、施肥装置5等の作業部等を備えて構成され、また、作業走行に必要な各種センサを備える。
【0020】
(HST制御)
変速伝動部12は、「HST」と略称される静油圧式無段変速機23をミッションケース12aと一体に構成し、上記無段変速機23は、前後進調節レバー17の操作位置と対応して車速調節可能に構成し、また、安定停止のための圧抜制御を設けるとともに、この圧抜制御を走行状況に応じて調節可能に圧抜き制御調節手段を構成する。
【0021】
詳細には、図1の走行調節レバー周りの正面図(a)と側面図(b)および、図2のHSTのトラニオン調節部の拡大平面図に示すように、無段変速機23の可変ポンプを調節するトラニオンアーム23aに電動調節ロッド23rを連結し、前後進調節レバー17の操作と対応して車速調節可能に構成し、前後進調節レバー17を中立位置に操作すると圧抜制御を適用し、電動調節ロッド23rにより短時間(約5秒間)の微小前後動作出力制御を行い、電動調節ロッド23rによる圧抜き制御振幅を負荷状況に応じて変更する。
【0022】
また、ブレーキペダルの踏込み操作と対応してトラニオンアーム23aを中立位置に戻すために、前進時に作用するワイヤ23bおよび後進時に作用するワイヤ23cをトラニオンアーム23aに連結する。
【0023】
(システム構成)
具体的なシステム構成は、図3のシステム入出力ブロック図に示すように、各種センサおよび作業機スイッチ等に基づいて判別される負荷に対応して圧抜き制御振幅を切替え調節する圧抜き制御調節手段を設ける。
【0024】
例えば、圃場作業中であることの判別手段として、後述の植付装置4のクラッチ4cの作動スイッチ、植付装置4の回転検出センサ、苗タンク51の横送り検出、施肥装置5の作動検出、整地ロータ27a,27bの作動検出、深度センサ10s、GPS1pによる機体位置検出、フロートセンサ(リンクセンサ)55s等を用いることにより、負荷の程度に対応して安定停止を確保しうる制御システムを構成することができる。
【0025】
(深度センサ)
深い圃場内で走行を停止する際は、車輪10,11とその伝動系とによる走行部に負荷が掛かっているため、前後進調節レバー17を中立操作した際の通常の圧抜制御によっては十分な圧抜きができず、機器破損の事態を招くことから、深度センサ10sによって圃場の深さを検出しつつ、大きな走行負荷が想定される深さ(例えば、30cm以上)の場合に限り、圧抜き振幅巾3bitを4bitに広げ、トラニオン23aの入力を大きくして適切な圧抜きが可能となり、また、負荷が少ない路上走行や通常の深さの圃場であれば、通常の圧抜制御の適用により、停止時に機体の前後動作を招くことなく安定停止することができる。
【0026】
この場合において、既存の機体構成に深度センサ10sを追加することによってシステムを構成することができ、また、可変施肥田植機にあっては、装備されている超音波センサを共用することによって同様のシステムを構成することができる。
【0027】
なお、植付装置4は、機体後進時にクラッチ4cが「切」となることから、トラ二オン23aの摺動による後進動作時の逆回転が防止される。
【0028】
(リンクセンサ)
また、植付装置4の高さを検知するリンクセンサ55sによって圃場深さを算出することができることから、特段の深度センサ10sの追加を要することなく、前記同様のシステムを構成することができる。
【0029】
この場合において、リンクセンサ55sと深度センサ10sの両方で検知することで車輪に掛かる負荷の検出精度を上げることができ、また、深度センサを複数(2台)設けて算出した平均深度を用いることで、負荷検出精度を確保することができる。
【0030】
(フロートセンサ)
また、植付装置4の接地具合を検知するフロートセンサによって圃場深さを検出することができることから、前記同様に、特段の深度センサ10sの追加を要することなく、システムを構成することができる。
【0031】
また、フロート55の接地をフロートセンサ55sで検出することにより、圃場内の作業中であることを判別できることから、これに基づいてトラニオン23aの入力を大きくするようにして前記同様のシステムを構成することができる。
【0032】
その他に、圃場作業中であることの判別手段として、植付装置4の作動スイッチ、植付装置4の回転部や苗タンク51の横送り部の動作検出、施肥装置5や整地ロータ27あ、27bの作動検出、GPS1pの機体位置情報等を用いることができる。
【0033】
(制御処理)
圧抜き調節の制御処理は、図4の圧抜き制御のフローチャートに示すように、前後進調節レバー17の中立操作に際して、機体位置を判定する第一の処理ステップ(以下において、「S1」の如く略記する。)において、GPS1p情報から圃場外の判定であれば、深さの判定(S1a)によって深度センサが深さ非検知の場合に圧抜き制御振幅を「小」または0(S1b)とする。
【0034】
次いで、機体位置が圃場内の場合または深度センサが深さを検出した場合は、その深さ判定(S2)が所定深さ未満であればリンクセンサの高さ判定(S2a)に応じて、所定高さ未満であれば圧抜き制御振幅を「小」(S2b)とし、また、所定高さ以上であれば 圧抜き制御振幅を「中」(S2c)とする。
【0035】
次いで、深度センサが所定深さ以上の場合は、リンクセンサの高さ判定(S3)により所定高さ未満であれば圧抜き制御振幅を「中」(S2c)とし、また、所定高さ以上であれば圧抜き制御振幅を「大」(S3a)とする。
【0036】
このように、前後進調節レバー17の中立操作時の状況によって圧抜き制御振幅を「大、中、小」に切替え、電動調節ロッド23rによってHST23を制御することにより、負荷状況に応じた適切な圧抜きが可能となる。
【0037】
(HSTダメージ量)
次に、HSTダメージ量測定機能付きの田植機について、GPS1p等の位置情報を取得できる機器を設け、スマートデバイス等の情報機器上で位置情報とHST圧力情報との関連付けを行い、圃場の作業走行の過程において、HST負荷が過大となる場所や領域の判別手段を設けることにより、以後の作業において、作業者の変更を含め、深みに嵌る等の作業走行トラブルに対する事前対応が可能となる。
【0038】
例えば、代掻き作業において、作業機に負荷が掛かる位置は圃場が深いことがわかるので、浅めに代掻きすることによって作業性向上が可能となり、また、収穫作業時の作業負荷に伴う直進安定性の乱れの事前把握が可能となる。
【0039】
また、負荷に伴う機器の摩耗具合の把握により、交換及び修理時期等を含め、メンテナンス性の向上が可能となる。
【0040】
HST圧力情報については、圧力とその継続時間の情報によってHSTのダメージ量をスマートデバイス等の情報機器によって算出積算することにより、機器寿命の判定が可能となるとともに、必要なメンテナンスの実施によって機械寿命の増加が可能となる。
【0041】
(リリーフバルブ)
次に、HST保護のためのリリーフバルブについて説明する。
【0042】
図5(a)のHSTの片側作用の保護切替回路図に示すように、リリーフバルブ23pを設けて過大な油圧からHST23を保護するとともに、リリーフバルブ23pを遮断可能に前進側回路に手動式切替弁23mを設け、圃場の状態が悪い場合(深い場所や沼地)に切替弁23mを遮断側に切替え操作することにより、前進走行による非常脱出が可能となる。
【0043】
なお、図において、Bはチャージ吸込ポート、Tはタンクポート、α、βはメイン圧力ゲージポート(HST内圧センサ23g)である。
【0044】
また、図5(b)のHSTの両側作用の保護切替回路図に示すように、リリーフバルブ23pの両側にソレノイド式切替弁23n,23nを設けることにより、信号制御により前後進について非常脱出の切替を適用することができる。
【0045】
この場合において、切替弁23m,23nの切替が規定時間(例えば、5分)以上になると警告し、また、油圧が規定値以上に上昇すると切替弁23nを強制復帰することでHST23の保護を確保することができる。
【0046】
(オイル冷却)
次に、オイル冷却について説明する。
【0047】
HST23の経年劣化や摩耗に伴うガタによって制動性や伝達精度が低下し(圧抜きによりガタ取り)、作動油が高温になりHST23内部の部品が摩耗や劣化しガタが生じる原因の一つであるため、オイル冷却により油温上昇を抑えることで、HST23の耐久性を向上させることができる。
【0048】
具体的には、図6のHST周りの平面図に示すように、HST23の前後位置に板材によるカバー24p,24pを設置してクーリングファン24fからの気流を案内することで、HST23を包み込んで流れることから、HST23を効率よく冷却することができる。
【0049】
また、エンジン周りの平面図および側面図を図7図8に示すように、エンジン20の左側のクーリングファン20f横にオイルクーラ24rを設置することで、40℃程度の排熱風により十分な冷却性を確保することができる。
【0050】
また、エンジンカバー上側に開放口を設けることで、外気を吸気し、オイルクーラ24rに当てる排熱風自体の温度低下が可能となる。
【0051】
(ケース共用構成)
次に、後輪11の回転力を後輪ケース18を介して外部に伝達する「伝達ケース」を左右共用化する例について説明する。
【0052】
例えば、左右一方又は両方の後輪11の回転力を利用し、整地ロータや施肥装置に動力を伝達することができる。
【0053】
しかし、型式の違いにより、整地ロータや施肥装置(以下、外部出力装置と云う)が搭載されていない機体や、外部出力装置が複数備えている機体がある。従来は、外部出力装置が非搭載の型式から、後付けで搭載することが不可能であった。
【0054】
そこで、すべての型式に図9,10の「伝達ケース(後輪ケース18も含む)」を設け、部品共用化によるコスト削減及び生産時の誤組防止と、外部出力装置後付けが可能になり、需要の変化に対応が可能となる。
【0055】
すなわち、後輪ケースおよび施肥機、ロータ仕様機の構成において、図9の平面図(a)と背面図(b)に示すように、ケース関係をL・R、ロータ・施肥相互で共用可能に構成することにより、専用部品として必要な4種の型を半減できるとともに、急激な需要変化にも対応が可能となる。
【0056】
詳細には、図10に示すように、後輪ケース18のカバーを共用、インナーを素材共用し、入力部として利用しない側の穴は給油用に利用する。
【0057】
この場合において、穴部が大径となるため、給油が容易となり、かつ、中のギヤを目視できるので、給油目安となるギヤの中心まで油量を確認しながら確実に給油することができる。
【0058】
(テンショナ)
植付装置の伝動ケース50は、疎植の際にシャクリが出ないように、強い張力設定を適用していることから、大きな駆動負荷が避けられないという問題があり、その解決のために、図11の植付伝動ケースの要部側面図(a)およびそのS-S線断面図(b)に示すように、電動式ケーブル50wにより、前後進調節レバー17の操作と連動して制御可能にテンショナを構成し、株間位置認識により、疎植に限定してテンション調節制御を適用する。
【0059】
すなわち、各テンショナ50tの支軸50aを回動可能にスプリング50sを介してケーブル50wを連結し、全伝動ケース50…のテンショナ50t…を個別のモータユニット50m…により、または、単一のモータユニットで一括して、車速の増減に応じて張緩制御することにより、必要な車速以上で適切なテンションが各チェーン50cに作用することから、駆動負荷の低減による省エネに寄与することができる。
【0060】
また、圧抜き制御中は植付クラッチ4cを切、または、各伝動ケース50のテンショナ50tの伝達を切る(緩める)ことにより、植付部に動力が伝達されない状態になる。圧抜き制御やレバー操作以外による機体後進に伴う、植付部の逆回転を防止して機器を保護することができる。
【0061】
なお、圧抜き制御中に前後進操作があった場合は、圧抜き制御を中止してレバー操作を優先し、また、圧抜き制御終了後は、元の作業状態に復帰する(植付部入りの場合は入にする)。
【0062】
(作業車両全体構成)
次に、上記発明の適用対象となる作業車両について、関連する機器を中心に説明する。
【0063】
図12は作業車両の一実施例形態である乗用型苗移植機の平面図(a)及び側面図(b)である。この乗用型苗移植機1は、走行車体の後側に昇降リンク装置3を介して作業部としての植付装置4が昇降可能に装着されている。
【0064】
この乗用型苗移植機1は、駆動輪である左右一対の前輪10,10及び左右一対の後輪11,11を備えた四輪駆動車両であって、機体の前部にミッションケース12aが配置され、そのミッションケース12aの左右側方に前輪ファイナルケース13,13が設けられ、これら左右前輪ファイナルケース13,13の操向方向を変更可能に構成され、走行車体2の後部上側に施肥装置5の本体部分が設けられている。
【0065】
さらに、ミッションケース12aの背面部にメインフレーム15の前端部が固着されており、不図示の後輪ローリング軸を支点にして後輪ケース18,18がローリング自在に支持されて後輪11,11が取り付けられている。
【0066】
エンジン20はメインフレーム15の上に搭載されており、エンジン20の回転動力が、静油圧式無段変速装置(HST)23などを介してミッションケース12aに伝達される。ミッションケース12aに伝達された回転動力は、該ミッションケース12a内の主変速装置及び副変速装置により変速された後、走行動力と外部取り出し軸に分離して取り出される。
【0067】
エンジン20からHST23を介して伝達される走行動力は、一部が前輪ファイナルケース13,13を経て前輪10,10を駆動すると共に、残りが後輪ケース18,18を経て後輪11,11を駆動する。また、外部取出動力は、走行車体2の後部に設けた不図示の植付クラッチケース、植付伝動軸を経て植付装置4へ伝動される。
【0068】
エンジン20の上部には操縦席31が設置された操縦部33があり、該操縦部33にはHST23を操作して走行車体2の前後進、停止及び走行速度を変速する前後進調節レバー(HST操作レバー)17等が配置されている。
【0069】
操縦席31の前方には前輪10,10を操向操作するハンドル34が設けられ、また、走行車体2の前部左右両側には、補給用の苗を載せておく複数段の予備苗載台38を前後展開可能に設ける。
【0070】
また、昇降リンク装置3を平行リンクに構成して植付装置4がほぼ一定姿勢のまま昇降し、後下がりの苗タンク51を左右方向にスライド支持し、その下端部に臨む2条用の植付装置52をそれぞれの伝動ケース50によって全幅に支持し、また、植付装置4の下部には、整地用のロータ27a,27bと、センターフロート55およびサイドフロート56,56がそれぞれ設けられている。
【0071】
これらフロート55,56,56は、圃場の泥面に接地させた状態で機体を進行させると、フロート55,56,56が泥面を整地しつつ、圃場表土面の凹凸に応じて前端側が上下動するように回動自在に取り付けられており、植付作業時にはセンターフロート55の前部の上下動がフロート傾斜角センサ(図示せず)により検出され、その検出結果に応じて植付装置4を昇降させることにより、苗の植付深さを常に一定に維持する。
【0072】
施肥装置5は、肥料ホッパ60に貯留されている粒状の肥料を繰出部61,…によって一定量ずつ繰り出し、その肥料を施肥ホース62,…でフロート55,56,56の左右両側に取り付けた施肥ガイド(図示せず),…まで導き、施肥ガイド,…の前側に設けた作溝体64…によって苗植付条の側部近傍に形成される施肥溝内に落とし込むようになっている。ブロア用電動モータ53で駆動するブロア58で発生させたエアが左右方向に長いエアチャンバ59を経由して施肥ホース62に吹き込まれ、施肥ホース62内の肥料を風圧で強制的に搬送するようになっている。
【0073】
(構成上の要点)
上記構成による作業車両について構成上の要点をまとめると以下のとおりである。
【0074】
前後進調節レバー17の中立操作時に静油圧式無段変速伝動機構23を規定値未満の圧抜き量で微小前後動作する圧抜き制御および、作業機4,5の作動検知手段を設け、この作動検知手段による作動検知の範囲で前記圧抜き量を規定値以上に切替える圧抜き制御調節手段を備えることにより、作業機が作動していない場合は圃場作業中でないため、走行車輪10,11に掛かる負荷が小さいことから圧抜きが規定値以下でも圧を抜くことが可能であるとともに、圧抜き量が作業機の状態で判断でき、走行車輪10,11に掛かる負荷が小さい場所において、規定値以上の圧抜き量によって機体が圧抜き動作に連動して微動する事態を防止できる。
【0075】
また、前後進調節レバー17の中立操作時に無段変速伝動機構23を規定値未満の圧抜き量で前後に微小動作する圧抜き制御および、圃場面距離を検出する深度センサ10sを設け、圃場面距離が規定距離以上の範囲で圧抜き量を規定値以上に切替える圧抜き制御調節手段を備えることにより、走行条件や圃場条件によって走行車輪10,11に掛かる負荷を深度センサ10sによって検出し、圧抜き制御調節手段により負荷に合わせた圧抜き制御が行えるため圧抜きが確実に行えるので、圧抜き量が過大なために圧抜き動作に連動して機体が動く事態を防止できる。
【0076】
また、前後進調節レバー17の中立操作時に無段変速伝動機構23を規定値未満の圧抜き量で微小前後動作する圧抜き制御および、作業機4の圃場高さを検出するリンクセンサ55sを設け、圃場高さが規定値以上の範囲で前記圧抜き量を規定値以上に切替える圧抜き制御調節手段を備えることにより、走行条件や圃場条件によって走行車輪10,11に掛かる負荷を深度センサ55sによって検出し、圧抜き制御調節手段により負荷にあわせた圧抜き制御が行えるため圧抜きが確実に行え、過大な圧抜き量によって機体が圧抜き動作に連動して動く事態を防止できる。
【0077】
また、機体位置を検知するGPS1pと、情報処理用端末装置1tとを備え、圧抜き制御調節手段によって調節した圧抜き量と機体位置の情報を表示可能に情報処理用端末装置1tに記録することにより、圃場におけるHST負荷の範囲がわかるため、圃場の深さや泥濘具合を把握できる。また、次年度の作業について、肥料の散布量や植付深さ及び泥濘で直進安定性が乱れる位置等を活かすことができるとともに、表示に基づいて関連機器の摩耗具合を把握できるので、メンテナンス性が向上し、交換及び修理時期が容易に把握できる。
【0078】
また、無段変速伝動機構23の変速動力を所定の負荷範囲内に規制する圧逃げ部23pと、この圧逃げ部23pによる規制を解除可能に切替える切替部23m,23nとを備えることにより、泥濘等の走行によって走行車輪10,11に負荷が掛かった時に圧逃げ部23pによる負荷規制が作動すると以後の走行できなくなることから、切替部23m,23nによって負荷規制を解除することで大動力で走行車輪10,11を駆動することができ、泥濘からの機体脱出が可能となる。
【0079】
また、切替部23m,23nの切替えによる規制解除を所定時間内に限定して再度の切替えにより規制を再開する復帰制御を備えることにより、走行動力が所定範囲内に再び規制されることから、無段変速伝動機構23を中心とする関係機器の破損防止、誤操作防止、耐久性・安全性向上が可能となる。
【符号の説明】
【0080】
1 作業車両(乗用型苗移植機)
1p GPSセンサ
1t 情報処理用端末装置
4 作業機(植付装置)
5 作業機(施肥部)
10 走行車輪(前輪)
10s 深度センサ
11 走行車輪(後輪)
17 前後進調節レバー
20 原動部(内燃機関)
23 静油圧式無段変速伝動機構(HST)
23m 切替部(手動式切替弁)
23n 切替部(ソレノイド式切替弁)
23p 圧逃げ部(リリーフ弁)
55s リンクセンサ
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