(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】イオン液体のカチオン成分の回収方法およびイオン液体の再生方法
(51)【国際特許分類】
C07D 487/04 20060101AFI20220419BHJP
C08B 16/00 20060101ALI20220419BHJP
B01D 11/02 20060101ALI20220419BHJP
D21C 3/20 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C07D487/04 140
C07D487/04 150
C08B16/00
B01D11/02 A
D21C3/20
(21)【出願番号】P 2021142173
(22)【出願日】2021-09-01
【審査請求日】2021-11-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004374
【氏名又は名称】日清紡ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 現
【審査官】東 裕子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/043837(WO,A1)
【文献】HANABUSA,Hideki,Green Chemistry,2018年,20,1412-1422
【文献】DIBBLE, Dean C.,Green Chemistry,2011年,13,3255-3264
【文献】ELSAYED, Sherif,ACS Sustainable Chemistry & Engineering,2020年,8,14217-14227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中和塩型イオン液体の水溶液と、水と非相溶の有機溶媒とを混合して水層および有機層の2層分離液体を調製する第1工程と、
前記2層分離液体と水溶性の強アルカリとを強アルカリが前記水層中の水に対して質量比20%以上となる量で混合し、前記水層中に存在する前記中和塩型イオン液体のカチオンを中性物質に再生させるとともに前記水層から前記有機層へと移動させる第2工程と、
分液操作により前記中性物質を含む有機層を回収する第3工程とを備
え、
前記中和塩型イオン液体のカチオンが、下記式(1)または(2)で示されることを特徴とする中和塩型イオン液体のカチオン成分の回収方法。
【化1】
【請求項2】
前記第3工程で回収した有機層と、新たな中和塩型イオン液体の水溶液とを混合する第4工程を備え、
この第4工程後に、前記第2工程および第3工程を再度繰り返し、前記中性物質の含有量を増大させた有機層を回収する第5工程を備える請求項1記載の回収方法。
【請求項3】
前記第2工程において、前記2層分離液体と前記強アルカリとを、強アルカリが前記水に対して質量比25%以上となる量で混合する請求項1または2記載の回収方法。
【請求項4】
前記第2工程において、前記2層分離液体と強アルカリとの混合時の反応液温度が、20℃以下である請求項1~3のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項5】
前記反応液温度が、10℃以下である請求項4記載の回収方法。
【請求項6】
前記第3工程において、前記有機層の回収を前記第2工程の混合終了時から1時間以内に開始する請求項1~5のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項7】
前記第3工程において、前記有機層の回収を前記第2工程の混合終了時から30分以内に開始する6の回収方法。
【請求項8】
前記強アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである請求項1~7のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項9】
前記中和塩型イオン液体のアニオンが、有機酸のアニオンである請求項1~
8のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項10】
前記有機酸が、酢酸である請求項
9記載の回収方法。
【請求項11】
前記中和塩型イオン液体が、セルロース溶解能を有する請求項1~
10のいずれか1項記載の回収方法。
【請求項12】
前記第1工程で用いる中和塩型イオン液体の水溶液が、セルロースの中和塩型イオン液体溶液からセルロース再生後の凝固液である請求項
11記載の回収方法。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか1項記載の回収方法で回収された、前記中性物質を含む有機層と、もとの中和塩型イオン液体を構成するアニオン成分を与える酸とを混合した後に有機溶媒を除去し、中和塩型イオン液体を再生させる中和塩型イオン液体の再生方法。
【請求項14】
請求項1~
12のいずれか1項記載の回収方法で回収された、前記中性物質を含む有機層を蒸留して有機溶媒を除去し、前記中性物質を単離する中性物質の単離方法。
【請求項15】
請求項
14記載の単離方法で得られた前記中性物質と、もとの中和塩型イオン液体を構成するアニオン成分を与える酸とを混合して中和塩型イオン液体を再生させる中和塩型イオン液体の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン液体のカチオン成分の回収方法およびイオン液体の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオ燃料として期待されるセルロースは、水や有機溶剤を用いて溶解したり、抽出したりすることは困難であり、また、強酸とともに高温・高圧下で処理する既存の技術は、多大なエネルギーを必要とするという問題がある。
そこで、近年、温和な条件下でセルロースを溶解できるイオン液体を用いてセルロースの溶解、単離・精製、分解、修飾反応を行うなどの技術が注目されている。
【0003】
一方で、イオン液体は高価な物質であるため、セルロース溶解等に使用した後のイオン液体を回収する技術の開発も重要である。
この点、非特許文献1には、セルロースの中和塩型イオン液体溶液を水中に投入してセルロースを回収した後の中和塩型イオン液体水溶液を加熱して水を留去し、残留分として中和塩型イオン液体を回収する手法が開示されている。
この手法では、加熱による水の留去時にカチオン成分の一部分解が生じ、回収率が低下するという問題があるうえに、大量の水の留去に多大なエネルギーを消費する割には、回収できるイオン液体量が少なくエネルギー効率が非常に悪いという問題もある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】RCS Advance, 2015, Vol. 5, page 69728
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、従来法に比べて安価かつ簡便な方法で高価なイオン液体のカチオン成分を回収できるイオン液体のカチオン成分の回収方法、および回収したカチオン成分にアニオン成分を加えるだけでイオン液体に再生できるイオン液体の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、中和塩型イオン液体の水溶液と、水不溶性の有機溶媒とを混合して調製した2層分離液体を用いる下記手法により、上記目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. 中和塩型イオン液体の水溶液と、水と非相溶の有機溶媒とを混合して水層および有機層の2層分離液体を調製する第1工程と、
前記2層分離液体と水溶性の強アルカリとを強アルカリが前記水層中の水に対して質量比20%以上となる量で混合し、前記水層中に存在する前記中和塩型イオン液体のカチオンを中性物質に再生させるとともに前記水層から前記有機層へと移動させる第2工程と、
分液操作により前記中性物質を含む有機層を回収する第3工程とを備えることを特徴とする中和塩型イオン液体のカチオン成分の回収方法、
2. 前記第3工程で回収した有機層と、新たな中和塩型イオン液体の水溶液とを混合する第4工程を備え、
この第4工程後に、前記第2工程および第3工程を再度繰り返し、前記中性物質の含有量を増大させた有機層を回収する第5工程を備える1の回収方法、
3. 前記第2工程において、前記2層分離液体と前記強アルカリとを、強アルカリが前記水に対して質量比25%以上となる量で混合する1または2の回収方法、
4. 前記第2工程において、前記2層分離液体と強アルカリとの混合時の反応液温度が、20℃以下である1~3のいずれかの回収方法、
5. 前記反応液温度が、10℃以下である4の回収方法、
6. 前記第3工程において、前記有機層の回収を前記第2工程の混合終了時から1時間以内に開始する1~5のいずれかの回収方法、
7. 前記第3工程において、前記有機層の回収を前記第2工程の混合終了時から30分以内に開始する6の回収方法、
8. 前記強アルカリが、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである1~7のいずれかの回収方法、
9. 前記中和塩型イオン液体のカチオンが、下記式(1)または(2)で示される1~8のいずれかの回収方法、
【化1】
10. 前記中和塩型イオン液体のアニオンが、有機酸のアニオンである1~9のいずれかの回収方法、
11. 前記有機酸が、酢酸である10の回収方法、
12. 前記中和塩型イオン液体が、セルロース溶解能を有する1~11のいずれかの回収方法、
13. 前記第1工程で用いる中和塩型イオン液体の水溶液が、セルロースの中和塩型イオン液体溶液からセルロース再生後の凝固液である12の回収方法、
14. 1~13のいずれかの回収方法で回収された、前記中性物質を含む有機層と、もとの中和塩型イオン液体を構成するアニオン成分を与える酸とを混合した後に有機溶媒を除去し、中和塩型イオン液体を再生させる中和塩型イオン液体の再生方法、
15. 1~13のいずれかの回収方法で回収された、前記中性物質を含む有機層を蒸留して有機溶媒を除去し、前記中性物質を単離する中性物質の単離方法、
16. 15の単離方法で得られた前記中性物質と、もとの中和塩型イオン液体を構成するアニオン成分を与える酸とを混合して中和塩型イオン液体を再生させる中和塩型イオン液体の再生方法
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来法に比べて安価かつ簡便な方法で高価なイオン液体のカチオン成分を回収できる。この方法は、多大なエネルギーを消費しないため環境にやさしい方法である。また、回収したカチオン成分にアニオン成分を加えるだけでイオン液体を再生できる。
本発明の回収方法を、セルロース紡糸後のイオン液体回収に用いることで、イオン液体のリサイクルによるコストダウンが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明についてさらに詳しく説明する。
本発明に係る中和塩型イオン液体のカチオン成分の回収方法は、中和塩型イオン液体の水溶液と、水と非相溶の有機溶媒とを混合して水層および有機層の2層分離液体を調製する第1工程と、第1工程で得られた2層分離液体と水溶性の強アルカリとを混合し、水層中に存在する中和塩型イオン液体のカチオンを中性物質に再生させるとともに水層から有機層へと移動させる第2工程と、分液操作により中性物質を含む有機層を回収する第3工程とを備えるものである。
なお、本発明において「水と非相溶の有機溶媒」の「水と非相溶」とは、水と有機溶媒を容積比1:1で混合した際に2層分離するものを意味し、強アルカリとは、水溶液中において電離度が1に近く、塩基解離定数がpKb<0(Kb>1)程度のものを意味する。
【0010】
〔中和塩型イオン液体〕
中和塩型イオン液体とは、酸-塩基の中和反応により得られる塩からなるイオン液体(イオン性液体-開発の最前線と未来-、19~21頁、(株)シーエムシー出版(2003)参照)であり、プロトンが付加してなるカチオンを有するものをいう。
本発明で回収対象となる中和塩型イオン液体は、酸-塩基の中和反応により得られる塩からなるイオン液体であればよく、イオン液体を構成するカチオンおよびアニオンに特に制限はないが、セルロース溶解能を有するイオン液体が好ましく、下記式(1)または(2)で示されるカチオンを有するものがより好ましい。
【0011】
【0012】
アニオンとしては、有機酸のアニオンが好ましく、有機酸としては、蟻酸、酢酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸等のスルホン酸などが挙げられるが、カルボン酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0013】
〔第1工程〕
第1工程は、中和塩型イオン液体の水溶液(以下、単に「水溶液」という場合もある。)と、水と非相溶の有機溶媒(以下、単に「有機溶媒」という場合もある。)とを混合して水層および有機層の2層分離液体を調製する工程である。
第1工程において、中和塩型イオン液体の水溶液と、有機溶媒とを混合する手法に特に制限はなく、水溶液に有機溶媒を加えても、有機溶媒に水溶液を加えてもよいが、水溶液に有機溶媒を加える手法が好ましい。なお、混合時および/または混合後に撹拌してから2層分離させてもよい。
混合時の温度は、水の沸点以下であればよいが、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより一層好ましい。
有機溶媒の使用量としては、2層分離液体を調製できる限り特に限定されるものではないが、水溶液に対し、体積比で10:1~1:10が好ましく、5:1~1:5がより好ましく、2:1~1:2がより一層好ましい。
【0014】
第1工程で用いられる有機溶媒は、第2工程で生じる中性物質の溶解能を少なくとも有し、さらには、回収した中性物質から再生した中和塩型イオン液体の溶解能を有しないものが好適である。
その具体例としては、中和塩型イオン液体(中性物質)の種類によるため一概には規定できないが、脂肪族炭化水素系溶媒(ペンタン、n-ヘキサン、n-オクタン、n-デカン、デカリン等)、芳香族炭化水素系溶媒(ベンゼン、ニトロベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、メシチレン等)、ハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒(クロロベンゼン、ブロモベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、p-ジクロロベンゼン等)、エーテル系溶媒(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)などが挙げられ、これらの溶媒は単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、上述した式(1)または式(2)で表されるカチオンを有する中和塩型イオン液体の場合、脂肪族炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素溶媒が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0015】
また、第1工程で用いる中和塩型イオン液体の水溶液としては、セルロースの中和塩型イオン液体溶液からセルロース再生後の凝固液を用いることが可能であり、これにより、セルロース再生に用いたイオン液体の回収、再生および再利用が可能となる。
【0016】
〔第2工程〕
第2工程は、第1工程で得られた2層分離液体と水溶性の強アルカリとを混合し、水層中に存在する中和塩型イオン液体のカチオンを中性物質に再生させるとともに水層から有機層へと移動させる工程である。
第2工程で使用する水溶性の強アルカリとしては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウムの水酸化物などが挙げられるが、コスト面を考慮すると、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0017】
2層分離液体と、強アルカリとを混合する手法にも特に制限はなく、2層分離液体に強アルカリを加えても、強アルカリに水溶液を加えてもよいが、発熱を伴うことから、水溶液に強アルカリを加える手法が好ましい。この場合、強アルカリは、固体(ペレット)状のものをそのまま用いても、水溶液として用いてもよい。また、混合時および/または混合後に撹拌してもよい。
混合の際の反応液温度は、分解物の生成を抑制して目的物の回収率を向上させることを考慮すると、20℃以下が好ましく、15℃以下がより好ましく、10℃以下がより一層好ましく、この温度範囲を保つため、氷浴、冷媒等を用いて外部から冷却してもよい。
【0018】
強アルカリの使用量は、中性物質の分解を抑制して回収率をより高めるという点から、2層分離液体を構成する水層の水に対し、質量比で20%以上が好ましく、25~50%がより好ましい。
【0019】
〔第3工程〕
第3工程は、第2工程後の中性物質を含む有機層を分液操作により回収する工程である。
分液の手法は、特に制限はなく、公知の手法により行えばよい。
分液は第2工程後なるべく速やかに実施することが好ましく、特に、有機層の回収を第2工程の2層分離液体と水溶性の強アルカリとの混合終了時から1時間以内に開始することがより好ましく、30分以内に開始することがより一層好ましい。
また、分液後の水層に有機溶媒を加えて分液・抽出操作を複数回繰り返してもよい。
【0020】
第3工程後、回収された有機層と、もとの中和塩型イオン液体を構成するアニオン成分を与える酸とを混合した後に有機溶媒を除去することで、中和塩型イオン液体を再生することができる。この場合も、有機層に酸を添加しても、酸に有機層を添加してもよいが、有機層に酸を添加することが好ましく、混合時の温度は30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましく、10℃以下がより一層好ましく、この温度範囲を保つため、氷浴、冷媒等を用いて外部から冷却してもよい。
また、回収された有機層から、蒸留により有機溶媒を除去して中性物質を一旦単離し、この中性物質と、もとの中和塩型イオン液体を構成するアニオン成分を与える酸とを混合することでも、中和塩型イオン液体を再生することができる。この場合も、中性物質に酸を添加しても、酸に中性物質を添加してもよい。
【0021】
〔第4および第5工程〕
また、本発明の回収方法では、第3工程で回収した有機層と、新たな中和塩型イオン液体の水溶液とを混合する第4工程を備えるとともに、この第4工程後に、上述した第2工程および第3工程を再度繰り返して有機層中の中性物質の含有量を増大させた後、これを回収する第5工程を備えていてもよい。
【0022】
第4工程における混合は、有機層に水溶液を加えても、水溶液に有機層を加えてもよいが、回収した有機層に水溶液を加えることが好ましい。また、混合時に必要に応じて有機溶媒を加えてもよい。混合時の温度は、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましく、25℃以下がより一層好ましい。
【0023】
以上説明したとおり、本発明のイオン液体のカチオン成分の回収方法は、有機溶媒と強アルカリとを用いる安価かつ簡便な方法であるうえ、多大なエネルギーを消費しない方法である。また、回収したカチオン成分にアニオン成分を加えるという簡便な手法でイオン液体を再生できる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【0025】
[1]DBU(中性物質)の回収
[実施例1-1]
下記式で示される中和塩型イオン液体DBUH・AcO2.00gに、イオン交換水100mLを加えて撹拌し、完全に溶解させて調製した中和塩型イオン液体の水溶液に、トルエン100mLを加えて2層分離液体を調製した(第1工程)。
調製した2層分離液体に、氷冷下(反応液温度10℃以下)で水酸化ナトリウム(ペレット)30.00gを加え、ペレット投入から20分間撹拌した(第2工程)。なお、水酸化ナトリウムは投入後10分以内に水層に完全溶解していた。
第2工程後の2層分離液体を分液ロートに入れ、2層分離確認後、速やかに分液し、有機層を回収した(第3工程)。なお、回収は2層分離液体と水酸化ナトリウムとを混合し、20分撹拌後すぐに開始した。
回収した有機層から減圧下でトルエンを留去し、DBUを回収した(回収量1.48g、回収率99%)。なお、このDBUは、1H-NMR測定の結果、分解物(DBUの加水分解物 N-(3-アミノプロピル)カプロラクタム、以下同じ。)の含有はほとんどなく、痕跡量以下であることを確認した。
【0026】
【0027】
[実施例1-2]
中和塩型イオン液体DBUH・AcO2.15gにイオン交換水100mLを加えて撹拌し、完全に溶解させて調製した中和塩型イオン液体の水溶液に、トルエン100mLを加えて2層分離液体を調製した(第1工程)。
調製した2層分離液体に、室温下、水酸化ナトリウム(ペレット)10.05gを加え、ペレット投入から20分間撹拌した(第2工程)。なお、水酸化ナトリウムは投入後10分以内に水層に完全溶解していた。この時反応液の温度は50℃以上まで上昇していた。
第2工程後の2層分離液体を分液ロートに入れて2層分離確認後速やかに分液し、有機層を回収した(第3工程)。なお、回収は2層分離液体と水酸化ナトリウムとを混合し、20分撹拌後すぐに開始した。
回収した有機層から減圧下でトルエンを留去し、DBUを回収した(回収量0.81g、回収率53%)。なお、このDBUは1H-NMR測定の結果、分解物を数%程度含有することが認められた。
【0028】
[比較例1-1]
中和塩型イオン液体DBUH・AcO2.10gに、イオン交換水100mLを加えて撹拌し、完全に溶解させた。その後、水酸化ナトリウム(ペレット)30.03gを加え、ペレットが溶解するまで撹拌した。
水酸化ナトリウム投入から20分後にトルエン100mLを加えて20秒程度激しく撹拌した後、この反応液を分液ロートに入れ、2層分離確認後、速やかに分液し、有機層を回収した。なお、水酸化ナトリウムは投入後10分以内に水層に完全溶解していた。
回収した有機層から減圧下でトルエンを留去し、残渣を回収した(回収量1.47g、残渣が全てDBUとして計算すると回収率98%)。なお、この残渣は、1H-NMR測定の結果、DBUの加水分解物をDBU:分解物との比が約1:0.38(積分値からの概算値)で含む混合物であった。
【0029】
実施例1-1,1-2および比較例1-1の結果から、あらかじめトルエンを加えて2層系にすること、強アルカリの濃度を高濃度にすることでDBUを効率的に回収することができることがわかる。特に、実施例1-1のように、低温で水酸化ナトリウムを加えた場合に、DBUの分解がより抑制されてDBUをほぼ定量的に回収できることがわかる。
【0030】
[2]DBUH・AcOの再生
[実施例2-1]
中和塩型イオン液体DBUH・AcO4.11gに、イオン交換水100mLを加えて撹拌し、完全に溶解させて調製した中和塩型イオン液体の水溶液に、ヘキサン100mLを加えて2層分離液体を調製した(第1工程)。
調製した2層分離液体に、氷冷下(反応液温度10℃以下)で水酸化ナトリウム(ペレット)35.00gを加え、ペレット投入から20分間撹拌した(第2工程)。なお、水酸化ナトリウムは投入後10分以内に水層に完全溶解していた。
第2工程後の2層分離液体を分液ロートに入れて2層分離確認後速やかに分液し、有機層を回収した(第3工程)。なお、回収は2層分離液体と水酸化ナトリウムとの混合後、20分撹拌後すぐに開始した。
回収した有機層に再生したDBUと当モルの酢酸1.16gを投入したところ、瞬時に白濁して容器の壁面に透明液滴が付着し、下部にもヘキサンから2層分離したDBUH・AcOが確認できた。この2層分離液をそのままエバポレータ、続いて真空ポンプを用いてヘキサンを除去し、DBUH・AcOを回収した(回収量3.83g、回収率93%)。なお、このDBUH・AcOは、1H-NMR測定の結果、不純物の含有はほとんどなく、痕跡量以下であることを確認した。
また、今回は小スケールでロス分を考慮すると収率低下の恐れがあったため実施しなかったが、2層分離の様子からスケールアップ時には分液操作でヘキサンからDBUH・AcOを充分に回収できることがわかった。
【0031】
[実施例2-2]
中和塩型イオン液体DBUH・AcO2.00gに、イオン交換水100mLを加えて撹拌し、完全に溶解させて調製した中和塩型イオン液体の水溶液に、トルエン100mLを加えて2層分離液体を調製した(第1工程)。
調製した2層分離液体に、氷冷下(反応液温度10℃以下)で水酸化カリウム(ペレット)30.06gを加え、ペレット投入から10分間撹拌した(第2工程)。なお、水酸化カリウムは投入後5分以内に水層に完全溶解していた。
第2工程後の2層分離液体を分液ロートに入れて2層分離確認後速やかに分液し、有機層を回収した(第3工程)。なお、回収は2層分離液体と水酸化カリウムとを混合し、10分撹拌後すぐに開始した。
回収した有機層に再生したDBUと当モルの酢酸0.54gを投入したところ、一瞬白濁した後、ヘイズが掛かったもやもやした溶液となった。この反応液をそのままエバポレータ、続いて真空ポンプを用いてヘキサンを除去し、DBUH・AcOを回収した(回収量1.96g、回収率98%)。なお、このDBUH・AcOは、1H-NMR測定の結果、不純物の含有はほとんどなく、痕跡量以下であることを確認した。
【0032】
実施例2-1,2-2の結果から、本発明の回収方法および再生方法を用いることで中和塩型イオン液体を高収率で再生可能なことがわかる。また、使用する有機溶剤とアミンの組み合わせにより2層分離し、溶媒留去よりも簡便な分液操作で再生分を回収可能なことがわかる。
【要約】
【課題】 従来法に比べて安価かつ簡便な方法で高価なイオン液体のカチオン成分を回収できるイオン液体のカチオン成分の回収方法を提供すること。
【解決手段】 中和塩型イオン液体の水溶液と、水と非相溶の有機溶媒とを混合して水層および有機層の2層分離液体を調製する第1工程と、前記2層分離液体と水溶性の強アルカリとを強アルカリが前記水層中の水に対して質量比20%以上となる量で混合し、前記水層中に存在する前記中和塩型イオン液体のカチオンを中性物質に再生させるとともに前記水層から前記有機層へと移動させる第2工程と、分液操作により前記中性物質を含む有機層を回収する第3工程とを備えることを特徴とする中和塩型イオン液体のカチオン成分の回収方法。
【選択図】 なし