(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】可変減衰器
(51)【国際特許分類】
H03H 11/24 20060101AFI20220419BHJP
H01P 1/22 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
H03H11/24 B
H01P1/22
(21)【出願番号】P 2017157186
(22)【出願日】2017-08-16
【審査請求日】2020-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2017032039
(32)【優先日】2017-02-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000154325
【氏名又は名称】住友電工デバイス・イノベーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】大矢 章雄
(72)【発明者】
【氏名】近藤 誠
【審査官】▲高▼橋 徳浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-525007(JP,A)
【文献】米国特許第08736344(US,B1)
【文献】特開2009-055438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0239440(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/22
H03H11/00-H03H11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波信号が入力する入力端子と、
前記高周波信号を減衰した信号が出力する出力端子と、
一端が前記入力端子に他端が前記出力端子に接続された伝送線路と、
第1端子が前記伝送線路内の位置が互いに異なる複数のノードにそれぞれ接続され、第2端子が基準電位端子に接続された複数のFETと、
を備え、
前記複数のFETのうち前記入力端子の最も近くに接続されたFETは、前記複数のノードのうち前記入力端子に最も近いノードと前記基準電位端子との間に直列接続された少なくとも2つのFETを含み、
前記複数のFETのうち前記出力端子の最も近くに接続されたFETは、前記複数のノードのうち前記出力端子に最も近いノードと前記基準電位端子との間に接続された単一のFETであ
り、
前記複数のFETのうち少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧は、前記複数のFETのうち他のFETの制御端子に印加される電圧とは異なる、可変減衰器。
【請求項2】
前記少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧の掃引幅および掃引幅の中心は、前記他のFETの制御端子に印加される電圧の掃引幅および掃引幅の中心と異なる請求項
1に記載の可変減衰器。
【請求項3】
前記複数のFETのうち前記入力端子の最も近くに接続されたFETの制御端子に印加される電圧は、前記複数のFETのうち他のFETの制御端子に印加される電圧と異なる請求項1
または請求項
2に記載の可変減衰器。
【請求項4】
単一の制御信号に基づき前記複数のFETのうち少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧と前記複数のFETのうち他のFETの制御端子に印加される電圧とを生成する電圧生成回路を備える請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の可変減衰器。
【請求項5】
前記電圧生成回路は、
前記単一の制御信号が印加される制御信号端子と、
アノードが基準電位端子に接続され、カソードが前記制御信号端子と前記他のFETの制御端子との間のノードに接続されたダイオードと、
を備える請求項
4記載の可変減衰器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変減衰器に関し、例えば制御電圧により高周波信号の減衰量を可変とする可変減衰器に関する。
【背景技術】
【0002】
制御電圧により高周波信号の減衰量を可変とする可変減衰器は、電圧可変アッテネータ(VVA:Voltage Variable Attenuator)として知られている(特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-124709号公報
【文献】特開2009-200671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、可変減衰器では、減衰量の可変幅を大きくしようとすると通過する高周波信号が歪んでしまう。このように、減衰量の可変幅を大きくすることと歪の抑制がトレードオフの関係となる。
【0005】
本可変減衰器は、減衰量の可変幅を大きくしかつ歪特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態は、高周波信号が入力する入力端子と、前記高周波信号を減衰した信号が出力する出力端子と、一端が前記入力端子に他端が前記出力端子に接続された伝送線路と、第1端子が前記伝送線路内の異なる複数のノードにそれぞれ接続され、第2端子が基準電位端子に接続された複数のFETと、を備え、前記複数のFETのうち少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧は、前記複数のFETのうち他のFETの制御端子に印加される電圧とは異なる可変減衰器である。
【発明の効果】
【0007】
本可変減衰器によれば、減衰量の可変幅を大きくしかつ歪特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、比較例1に係る可変減衰器の回路図である。
【
図2】
図2は、比較例2に係る可変減衰器の回路図である。
【
図3】
図3(a)および
図3(b)は、比較例1および2における制御信号Vcontに対するそれぞれIIP3および通過量を示す図である。
【
図4】
図4は、比較例1における制御信号Vcontの所定の変化に対するドレイン電流の変化ΔIdを示す図である。
【
図5】
図5は、実施例1に係る可変減衰器の回路図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、それぞれ比較例1および実施例1における制御信号Vcontの所定の変化に対するドレイン電流の変化ΔIdおよびIIP3を示す図である。
【
図7】
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ比較例1および実施例1の制御信号Vcontに対する通過量を示す図である。
【
図8】
図8は、実施例2に係る可変減衰器の回路図である。
【
図9】
図9(a)および
図9(b)は、比較例2および実施例2における制御信号Vcontに対するIIP3および通過量を示す図である。
【
図11】
図11(a)および
図11(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および実施例4に係る可変減衰器の回路図である。
【
図12】
図12(a)および
図12(b)は、実施例1の変形例1における制御信号Vcontに対するそれぞれFETの制御電圧および通過量を示す図である。
【
図13】
図13(a)および
図13(b)は、実施例4における制御信号Vcontに対するそれぞれFETの制御電圧および通過量を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例4の変形例1に係る可変減衰器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施形態の内容を列記して説明する。
(1)本願発明の一実施例は、高周波信号が入力する入力端子と、前記高周波信号を減衰した信号が出力する出力端子と、一端が前記入力端子に他端が前記出力端子に接続された伝送線路と、第1端子が前記伝送線路内の異なる複数のノードにそれぞれ接続され、第2端子が基準電位端子に接続された複数のFETと、を備え、前記複数のFETのうち少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧は、前記複数のFETのうち他のFETの制御端子に印加される電圧とは異なる可変減衰器である。
これにより、複数のFETの間で、制御端子に印加される電圧が異なることで、インピーダンスの乱れが最も大きくなる制御信号の電圧が複数のFETの間で異なる。よって、減衰量の可変幅を大きくしかつ歪特性を改善できる。
(2)前記少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧の掃引幅および掃引幅の中心は、前記他のFETの制御端子に印加される電圧の掃引幅および掃引幅の中心と異なることが好ましい。これにより、歪特性をより改善できる。
(3)前記複数のFETのうち前記入力端子の最も近くに接続されたFETの制御端子に印加される電圧は、前記他のFETの制御端子に印加される電圧と異なることが好ましい。これにより、歪特性をより改善できる。
(4)前記複数のFETのうち前記入力端子の最も近くに接続されたFETは、前記ノードと前記基準電位端子の間に直列接続された少なくとも2つのFETを含むことが好ましい。これにより、歪特性をより改善できる。
(5)前記複数のFETのうち前記出力端子の最も近くに接続されたFETは、前記ノードと前記基準電位端子の間に接続された単一のFETであることが好ましい。これにより、減衰量の可変幅をより大きくできる。
(6)単一の制御信号に基づき前記少なくとも1つのFETの制御端子に印加される電圧と前記他のFETの制御端子に印加される電圧とを生成する電圧生成回路を備えることが好ましい。これにより、FETごとに異なる制御電圧を与えなくてもよい。
(7)前記電圧生成回路は、前記単一の制御信号が印加される制御信号端子と、アノードが基準電位端子に接続され、カソードが前記制御信号端子と前記他のFETの制御端子との間のノードに接続されたダイオードと、を備えることが好ましい。これにより、単一の制御信号に対する減衰量の傾きを緩やかにできる。
【0010】
[本願発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態にかかる半導体装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0011】
[比較例1]
図1は、比較例1に係る可変減衰器の回路図である。
図1に示すように、比較例1に係る可変減衰器110は、入力端子Tin、出力端子Tout、伝送線路L0、FET10、20、30および制御電圧生成回路40を備えている。伝送線路L0の一端および他端はそれぞれ入力端子Tinおよび出力端子Toutに接続されている。入力端子Tinと伝送線路L0との間、および出力端子Toutと伝送線路L0との間には直流成分を除去するキャパシタが設けられていてもよい。
【0012】
伝送線路L0は、入力端子Tinと出力端子Toutとの間に互いに直列に接続された複数の伝送線路L1からL4を含む。伝送線路L1からL4の間にそれぞれノードN1からN3が設けられている。FET10、20および30の第1端子はそれぞれグランド端子に、第2端子はそれぞれノードN1からN3に接続されている。すなわち、複数のFET10、20および30の第1端子は伝送線路L0内の異なる複数のノードN1からN3にそれぞれ接続され、第2端子がグランド電位(すなわち基準電位が与えられた基準電位端子)に接続されている。
【0013】
制御電圧生成回路40はFET10、20、30の制御端子に制御電圧を印加する。制御電圧生成回路40は、抵抗R11からR13、R4およびR5を有している。抵抗R11からR13はそれぞれFET10、20および30の制御端子とノードN5との間に接続されている。抵抗R4はノードN5とグランド端子との間に接続されている。抵抗R5はノードN5と制御信号端子Tcとの間に接続されている。制御信号端子Tcに印加された制御信号Vcontの電圧は、抵抗R4とR5で分圧され、FET10、20および30の制御端子に制御電圧として供給される。
【0014】
FET10、20および30の第1端子はソースおよびドレインの一方であり、第2端子はソースおよびドレインの他方である。制御端子はゲートである。以下の比較例および実施例のFETも同様である。
【0015】
入力端子Tinに入力した高周波信号は伝送線路L0を伝送する。制御電圧が大きくなりFET10、20および30の第1端子と第2端子との間のインピーダンスが低くなると、伝送線路L0を伝送する高周波信号の一部がFET10、20および30を介しグランドに流れる。これにより、出力端子Toutから出力される高周波信号の強度が小さくなる。すなわち、入力端子Tinに入力した高周波信号が減衰して出力端子Toutから出力される。制御電圧がFET10、20および30のピンチオフ電圧より小さくなると、FET10、20および30がピンチオフし、伝送線路L0を伝送する高周波信号はグランドにほとんど流れない。すなわち、入力端子Tinから入力した高周波信号はほとんど減衰せず出力端子Toutから出力される。
【0016】
[比較例2]
図2は、比較例2に係る可変減衰器の回路図である。
図2に示すように、比較例2に係る可変減衰器112は、比較例1に比べFET12、22および32を備えている。FET12、22および32は、それぞれノードN1からN3とグランド端子との間にFET10、20および30と直列に接続されている。制御電圧生成回路40は、比較例1に比べFET12、22および32の制御端子とノードN5との間に接続された抵抗R21、R22およびR23を備えている。その他の構成は比較例1と同じであり説明を省略する。
【0017】
比較例2では、ノードN1とグランドとの間にFET10と12とが直列に接続(すなわちカスコード接続)されている。同様にFET20と22、FET30と32とが直列に接続されている。
【0018】
比較例1および比較例2についてシミュレーションを行った。FET10、12、20、22、30および32は電子走行層がInGaAs、電子供給層がAlGaAsのHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた。ゲート長は0.1μm、ゲート幅は160μmとした。入力端子Tinに入力する高周波信号は周波数が20GHz、電力が0dBmとした。相互変調歪を算出する周波数間隔を10MHzとした。制御信号Vcontを-3Vから0Vまで掃引した。各抵抗R11からR13、およびR21からR23の抵抗値を各々1kΩとし、抵抗R4およびR5の抵抗値をそれぞれ2kΩおよび6kΩとした。
【0019】
図3(a)および
図3(b)は、比較例1および2における制御信号Vcontに対するそれぞれIIP3および通過量を示す図である。IIP3は、3次相互変調歪のインターセクトポイントの入力電力である。通過量は、入力端子Tinに入力される高周波信号に対する出力端子Toutから出力される高周波信号の比を示し、0dBからの減少量が減衰量に対応する。
【0020】
図3(a)に示すように、比較例1ではIIP3が小さい。特に、Vcontが-2Vから-1Vの範囲でIIP3が小さい。比較例2では、比較例1に比べ全体的にIIP3が大きく歪が抑制されている。特に、Vcontが-2Vから-1.5VにおいてIPP3が改善している。
【0021】
図3(b)に示すように、比較例1では、Vcont=-3Vにおける通過量は-4dBでありVcont=0Vでは-40dBである。減衰量の可変幅を36dB確保できる。比較例2では、Vcont=-3Vでの通過量は比較例1と同程度であるが、Vcont=0Vでは-26dBである。減衰量の可変幅は22dBと比較例1より小さい。
【0022】
このように、比較例2のようにFETをカスコード化すると比較例1より歪特性を改善することができる。しかし、Vcontが大きい領域での減衰量が比較例1より小さくなってしまう。このように、歪特性と減衰量の可変幅が小さくなってしまう。
【0023】
この理由を調査するため、伝送線路L0から各FET10、20および30を介しグランドに流れる高周波信号のドレイン電流成分の制御信号Vcontの所定の変化に対する変化量|ΔId|/ΔVcontをシミュレーションした。伝送線路L0にはバイアス電圧は印加されておらず、FET10、20および30の第1端子と第2端子との間には実質的なバイアスは印加されていない。よって、|ΔId|/ΔVcontは、無バイアス状態でのドレイン電流Idの、制御信号Vcontの微小変化ΔVcontに対する変化量となる。
【0024】
図4は、比較例1における制御信号Vcontに対する|ΔId|/ΔVcontを示す図である。各ノードN1からN3からFET10、20および30に流れるドレイン電流の変化量と、FET10、20および30のFETのドレイン電流の変化量の合計を示す。
【0025】
図4に示すように、入力端子Tinに近いFET10は遠いFET20および30より|ΔId|/ΔVcontが大きい。これは、伝送線路L0からグランドに流れる高周波信号のうちFET10を介して流れる高周波信号が最も大きいことに対応する。各FET10、20および30の|ΔId|/ΔVcontはVcont=-1.7V付近で最大となる。各FET10、20および30の|ΔId|/ΔVcontのピーク位置がほぼ一致しているため、FET合計の|ΔId|/ΔVcontはVcont=-1.7V付近で鋭いピークとなる。Vcont=-1.7±0.3Vの範囲では合計の|ΔId|/ΔVcontが大きい。
【0026】
|ΔId|/ΔVcontが大きいことは、伝送線路L0からFET10、20および30をみたドレインインピーダンスが制御信号Vcontの変化に対し大きく変化することを示している。このようなドレインインピーダンスの乱れにより、伝送線路L0のインピーダンスが影響を受け伝搬する高周波信号の歪特性が劣化しIIP3が小さくなってしまうと考えられる。よって、ドレインインピーダンスの乱れが最も大きくなる制御信号Vcontのとき、歪特性が最も劣化する。
【0027】
比較例2のように、FET10、20および30をカスコード化すると、カスコード化したFETのうち伝送線路L0側のFETのドレインインピーダンスの変化が小さくなる。このため、比較例2では比較例1に比べ歪特性が改善する。しかし、比較例2では伝送線路L0からグランドに流れる高周波信号は複数のFETを直列に通過するため、1個のFETを通過する比較例1に比べ高周波信号が流れにくくなる。このため、制御信号Vcontが0Vに近いとき(すなわちFETが導通状態のとき)、比較例2では比較例1に比べ減衰量が小さくなる。よって、減衰量の可変量が小さくなる。
【実施例1】
【0028】
そこで、各FETの制御端子に印加される制御電圧をオフセットすることで、FET間で|ΔId|/ΔVcontのピークの位置を分散させることを考えた。
図5は、実施例1に係る可変減衰器の回路図である。
図5に示すように、実施例1に係る可変減衰器100では、各FET10、20および30に供給する制御電圧を生成するための抵抗をFET10、20および30ごとに設けている。制御信号端子Tcとグランドとの間に直列に抵抗R41およびR51が接続され、FET10の制御端子は抵抗R41およびR51との間のノードN51に接続されている。同様に、制御信号端子Tcとグランドとの間に直列に抵抗R42およびR52が接続され、FET20の制御端子は抵抗R42およびR52との間のノードN52に接続されている。制御信号端子Tcとグランドとの間に直列に抵抗R43およびR53が接続され、FET30の制御端子は抵抗R43およびR53との間のノードN53に接続されている。
【0029】
これにより、FET10の制御電圧は、制御信号Vcontが抵抗R41とR51により分圧された電圧となる。FET20およびの制御電圧は、制御信号Vcontがそれぞれ抵抗R42とR52により分圧された電圧および抵抗R43とR53により分圧された電圧となる。抵抗R41とR51との比、抵抗R42とR52との比、および抵抗R43とR53との比、を異ならせることで、FET10、20および30に供給される制御電圧を異ならせることができる。その他の構成は比較例1と同じであり説明を省略する。
【0030】
実施例1についてシミュレーションを行った。抵抗R41およびR51の抵抗値をそれぞれ2kΩおよび6kΩ、抵抗R42、R52、R43およびR53の抵抗値を各々4kΩとした。その他のシミュレーション条件は比較例1と同じであり説明を省略する。
【0031】
比較例1の各FETおよび実施例1のFET10では、制御信号Vcontを-3Vから0Vまで掃引すると、制御電圧は-0.75Vから0Vまで掃引される。一方、FET20および30では、制御電圧は-1.5Vから0Vまで掃引される。
【0032】
図6(a)および
図6(b)は、それぞれ比較例1および実施例1における制御信号Vcontに対する|ΔId|/ΔVcontおよびIIP3を示す図である。|ΔId|/ΔVcontはFETの合計の|ΔId|/ΔVcontである。
図6(a)に示すように、比較例1では、|ΔId|/ΔVcontはVcont=-1.7V付近で鋭いピークを有する。IIP3はVcont=-2Vから-1V付近で小さくなる。
【0033】
図6(b)に示すように、実施例1では、合計の|ΔId|/ΔVcontのピーク性(ピークング特性)が鈍っている。これは、実施例1では、FET10とFET20および30とでVcontの掃引幅が異なるため、FET10の|ΔId|/ΔVcontがピークとなる制御信号VcontとFET20および30の|ΔId|/ΔVcontがピークとなる制御信号Vcontが異なっているためである。これにより、Vcont=-2Vから-1VにおけるIIP3が比較例1に比べ約5dB改善している。
【0034】
このように、実施例1では、FET10とFET20および30とで、ドレインインピーダンスの乱れが生じる制御信号Vcontが異なる。よって、いずれの制御信号Vcontにおいてもドレインインピーダンスの乱れが小さく、比較例1に比べ歪特性が改善する。
【0035】
図7(a)および
図7(b)は、それぞれ比較例1および実施例1の制御信号Vcontに対する通過量を示す図である。
図7(a)および
図7(b)に示すように、比較例1および実施例1ともに、Vcont=-3Vでの通過量は約-4dB、Vcont=0Vでの通過量は-40dBである。このように、実施例1の減衰量の可変量は比較例1と同程度である。これは、FET10、20および30をカスコード化していないためと考えられる。
【0036】
実施例1によれば、複数のFET10、20および30のうち少なくとも1つのFET10の制御端子に印加される電圧は、他のFET20および30の制御端子に印加される電圧とは異なる。これにより、ドレインインピーダンスの乱れが大きくなる制御信号VcontがFET10とFET20および30との間で異なる。このため、減衰量の変動幅を小さくすることなく、歪特性を改善することができる。
【0037】
また、FET10の制御端子に印加される電圧の掃引幅(例えば-0.75Vから0V)および掃引幅の中心(例えば-0.375V)は、他のFETの制御端子に印加される電圧の掃引幅(例えば-1.5Vから0V)および掃引幅の中心(例えば-0.75V)と異なる。これにより、減衰量の変動幅を小さくすることなく、歪特性が改善される。実施例1では、FET10とFET20および30とで、制御電圧を異ならせたが、制御電圧が異なるFETの組み合わせは、他の組み合わせでもよい。入力端子Tinに近いFET10の制御電圧の掃引幅をFET20および30の掃引幅より小さくしたが、FET10の制御電圧の掃引幅をFET20および30の掃引幅より大きくしてもよい。FET10の制御電圧の掃引幅の中心をFET20および30の掃引幅の中心より高くしたが、FET10の制御電圧の掃引幅の中心をFET20および30の掃引幅の中心より低くしてもよい。
【0038】
図4のように、入力端子Tinに最も近いFET10の|ΔId|/ΔVcontのピークが最も大きい。例えば、FET10の|ΔId|/ΔVcontのピークの大きさはFET20と30との|ΔId|/ΔVcontのピークの大きさの合計と同程度である。そこで、複数のFET10、20および30のうち入力端子Tinの最も近くに接続されたFET10の制御端子に印加される電圧を、他のFET20および20の制御端子に印加される電圧と異ならせる。これにより、FET10、20および30の合計の|ΔId|/ΔVcontのピークをより鈍らせることができる。よって、歪特性をより改善することができる。
【0039】
制御電圧生成回路40は、単一の制御信号Vcontに基づきFET10の制御端子に印加される電圧とFET20および30の制御端子に印加される電圧とを生成する。これにより、FETごとに異なる制御電圧を与えなくてもよい。
【実施例2】
【0040】
実施例2は、FETの一部をカスコード化した例である。
図8は、実施例2に係る可変減衰器の回路図である。
図8に示すように、実施例2に係る可変減衰器102では、ノードN1とグランドとの間にFET10に直列にFET12が接続されている。FET12の第1端子はグランドに、第2端子はFET10の第1端子に接続されている。同様にノードN2とグランドとの間にFET20に直列にFET22が接続されている。ノードN3とグランドとの間には単一のFET30が接続されている。FET12および22とノードN51およびN52との間にそれぞれ抵抗R21およびR22が接続されている。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0041】
実施例2についてシミュレーションを行った。抵抗R41およびR51の抵抗値をそれぞれ2kΩおよび6kΩ、抵抗R42、R52の抵抗値をそれぞれ4kΩおよび4kΩ、抵抗R43およびR53の抵抗値をそれぞれ6kΩおよび2kΩとした。その他のシミュレーション条件は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0042】
実施例2において、制御信号Vcontを-3Vから0Vまで掃引すると、FET10、20および30の制御電圧は、それぞれ-0.75Vから0V、-1.5Vから0V、および-2.25Vから0Vまで掃引される。このように、実施例2では、FET10および20をカスコード化し、FET10、20および30の制御電圧を互いに異ならせている。
【0043】
図9(a)および
図9(b)は、比較例2および実施例2における制御信号Vcontに対するIIP3および通過量を示す図である。
図9(a)に示すように、実施例2では、比較例2に比べVcont=-2Vから-1Vの範囲においてIIP3が約4dB改善されている。
【0044】
図9(b)に示すように、Vcont=-3Vにおける通過量は実施例2と比較例2とで同程度である。Vcont=0Vにおける実施例2の通過量は比較例2より4dB程度小さい。これにより、実施例2は比較例2に比べ減衰量の可変幅を4dB大きくできる。このように、実施例2は比較例2に比べ、歪特性および減衰量の可変幅のいずれも改善できる。実施例1と比べると、実施例2は、IIP3を約10dB改善できる。
【0045】
実施例2によれば、複数のFET10、20および30のうち入力端子Tinの最も近くに接続されたFETは、ノードN1とグランドとの間に直列接続されたFET10および12を含む。最も大きな高周波信号が加わるFETをカスコード化することで、歪特性をより改善できる。
【0046】
また、出力端子Toutに最も近いFET30には大きな高周波信号は加わらず、歪特性にはあまり影響していない。そこで、FET30をカスコード化しない。すなわち、複数のFET10、20および30のうち出力端子Toutの最も近くに接続されたFET30は、ノードN3と基準電位端子の間に接続された単一のFETである。これにより、減衰量の可変幅を大きくできる。入力端子Tinに最も近いFET10のみをカスコード化し、他のFETはカスコード化しなくてもよい。
【0047】
さらに、複数のFET10、20および30の制御電圧をすべて異ならせる。これにより、FET10、20および30の|ΔId|/ΔVcontのピーク位置をすべて異ならせることができる。よって、歪特性をより改善できる。直列接続されるFETの個数は、3以上でもよい。
【0048】
実施例1および2では、伝送線路L0に3つのFETの経路が接続される例を説明したが、FETの経路は複数であればよい。実施例1および2の可変減衰器は同一半導体基板上にMMIC(Monolithic Microwave Integrated Circuit)として実現されてもよい。外部回路から制御信号端子Tcに単一の同じ制御信号Vcontが与えられる例を説明したが、外部から各FETの制御端子にそれぞれ制御電圧を与えてもよい。入力端子Tinに入力される高周波信号として、マイクロ波、準ミリ波またはミリ波を用いることができる。
【実施例3】
【0049】
実施例3は、可変減衰器を用いた電子回路の例である。
図10は、実施例3に係る電子回路の回路図である。
図10に示すように、電子回路104は、可変減衰器50,52、方向性結合器54および56を備えている。可変減衰器50および52は、実施例1または2の可変減衰器である。キャパシタC1およびC2は直流カット用キャパシタである。方向性結合器54は、端子T1から入力した高周波信号を位相が90°シフトした信号に分離し可変減衰器50および52に出力する。可変減衰器50および52は制御信号Vcontに応じて高周波信号を減衰させる。方向性結合器56は減衰した高周波信号の位相を合わせ合成し端子T2に出力する。
【0050】
電子回路104は、特許文献1のように動作する可変減衰器として機能してもよいし、他の機能を有してもよい。このように、実施例1および2を、電子回路に用いてもよい。
【実施例4】
【0051】
実施例4は、電圧生成回路の一部にダイオードを用いる例である。
図11(a)および
図11(b)は、それぞれ実施例1の変形例1および実施例4に係る可変減衰器の回路図である。
図11(a)に示すように、実施例1の変形例1の可変減衰器105では、伝送線路L0に接続されたFET10および20が2個である。その他の構成は実施例1の
図5と同じであり説明を省略する。
【0052】
図11(b)に示すように、実施例4に係る可変減衰器106では、ダイオードD1がノードN52とグランドとの間に接続されている。ダイオードD1のカソードはN52にアノードはグランドに接続されている。
【0053】
実施例1の変形例1と実施例4についてシミュレーションを行った。FET10および20並びにダイオードD1は、電子走行層がGaN、電子供給層がAlGaNのHEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた。ゲート長を0.15μmとした。FET10および20のゲート幅を400μm、ダイオードD1のゲート幅を150μmとした。抵抗R11およびR12の抵抗値を3kΩ、抵抗R41およびR42の抵抗値を10kΩ、抵抗R51の抵抗値を6kΩ、および抵抗R52の抵抗値を0.2kΩとした。入力端子Tinに入力する高周波信号は周波数が14GHz、電力が0dBmとし、制御信号Vcontを-5Vから0Vまで掃引した。その他のシミュレーション条件は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0054】
図12(a)および
図12(b)は、実施例1の変形例1における制御信号Vcontに対するそれぞれFETの制御電圧および通過量を示す図である。
図12(a)においてVg1およびVg2はそれぞれFET10および20の制御端子(ゲート)に加わる制御電圧(ゲート電圧)である。通過量は入力端子Tinと出力端子Toutの間の高周波信号の通過量である。
【0055】
図12(a)に示すように、FET10の制御端子には抵抗R41とR51とで抵抗分割された電圧が制御電圧Vg1として印加される。FET20の制御端子には抵抗R42とR52とで抵抗分割された電圧が制御電圧Vg2として印加される。このため、制御信号Vcontが0Vのとき、制御電圧Vg1およびVg2はいずれも0Vである。制御電圧Vg1およびVg2は制御信号Vcontに対し直線的に変化する。制御信号Vcontに対する制御電圧Vg2の傾きは、制御電圧Vg1に比べ急峻になる。
【0056】
図12(b)に示すように、制御信号Vcontが-5Vでは、FET10および20のソースとドレイン間のインピーダンスが高い。よって、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の通過量は0dB付近である。制御信号Vcontが-3V付近でFET10のソースとドレインとの間のインピーダンスが低くなる。このため、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の通過量が小さくなる。このときの制御信号Vcontに対する通過量の傾き60は通過量1dB当たりの制御信号Vcontで表すと59mV/dBである。
【0057】
制御信号Vcontが-2V付近でFET10に加えFET20のソースとドレインとの間のインピーダンスが低くなる。このため、入力端子Tinと出力端子Toutとの間の通過量がさらに小さくなる。このときの制御信号Vcontに対する通過量の傾き62は通過量1dB当たりの制御信号Vcontで表すと27mV/dBである。Vcontが-2V付近では傾き62はVcontが-3V付近の傾きより急峻になる。これは、
図12(a)のように、制御信号Vcontに対する制御電圧Vg2の傾きが制御信号Vcontに対する制御電圧Vg1の傾きより急峻なためである。
【0058】
さらに、
図12(b)のように、制御信号Vcontに対する通過量は階段状となる。傾き62が急峻であると、減衰量の制御が難しくなる。また、減衰量が制御信号Vcontに対し階段状に変化すると、減衰量の制御がさらに難しくなる。通過量が階段状となることを抑制するために、制御電圧Vg1とVg2とを近づけると、制御信号Vcontに対し通過量が急峻に変化してしまう。また、比較例1に近づくことになり、歪特性が劣化する。
【0059】
図13(a)および
図13(b)は、実施例4における制御信号Vcontに対するそれぞれFETの制御電圧および通過量を示す図である。
図13(a)に示すように、制御信号Vcontが-1.5V以下ではVcontに対するVg1およびVg2の傾きはほぼ同じである。これは、抵抗R41とR51との抵抗値の比と、抵抗R42とR52との抵抗値の比とがほぼ等しいためである。制御電圧Vg1とVg2との差は、ダイオードD1のオフセット電圧(すなわち順方向電圧降下)に起因する。また、制御信号Vcontが-1.5V以上において、Vg2の傾きが変わるのは、ダイオードD1が作動し、抵抗R42とR52との抵抗比による電圧が制御電圧Vg2として印加されるからである。
【0060】
図13(b)に示すように、制御信号Vcnotが-3V付近の制御信号Vcontに対する通過量の傾き60は通過量1dB当たりの制御信号Vcontで表すと49mV/dBである。制御信号Vcnotが-2V付近の制御信号Vcontに対する通過量の傾き62は通過量1dB当たりの制御信号Vcontで表すと53mV/dBである。このように、傾き60と62はほぼ同程度に緩やかである。これは、Vcontに対するVg1の傾きおよびVg2の傾きがほぼ同じためである。また、制御信号Vcontが-3.2Vから-1.5Vの範囲において、通過量は制御信号Vcontに対しほぼ一様に変化する。これにより、減衰量の制御が容易となる。
【0061】
[実施例4の変形例1]
図14は、実施例4の変形例1に係る可変減衰器の回路図である。
図14に示すように、可変減衰器108では、ノードN1とグランドとの間にFET10およびFET12が直列接続されている。ノードN2とグランドとの間にFET20およびFET22が直列接続されている。FET12の制御端子とノードN51との間に抵抗R21が接続され、FET22の制御端子とノードN52との間に抵抗R22が接続されている。抵抗R21およびR22の抵抗値は例えば1kΩである。その他の構成は実施例4と同じであり説明を省略する。実施例4の変形例1のように、複数のFET10および12が直列接続されていてもよく、複数のFET20および22が直列接続されていてもよい。
【0062】
実施例4およびその変形例によれば、制御電圧生成回路40は、単一の制御信号Vcontが印加される制御信号端子Tcと、アノードが基準電位端子に接続され、カソードが制御信号端子TcとFET20の制御端子との間のノードN52に接続されたダイオードD1と、を備える。これにより、制御信号Vcontに対する減衰量の傾きを緩やかにでき、かつ減衰量を制御信号Vcontに対し一様に変化させることができる。よって、減衰量の制御が容易となる。
【0063】
制御電圧Vg1とVg2の傾きをほぼ同じとするため、抵抗R41とR51との比と、抵抗R42とR52との比と、はほぼ同じであることが好ましい。抵抗R42とダイオードD1とはノードN52とグランドとの間に直列に接続されていればよく、ノードN52側にダイオードD1を接続しグランド側に抵抗R42を接続してもよい。
【0064】
制御電圧Vg1とVg2とのオフセット量は、ダイオードD1のオフセット電圧で調整できる。例えばダイオードD1を複数個直列接続することでオフセット量を大きくすることができる。また、ダイオードD1の種類を変えることで、オフセット量を変更できる。制御電圧を高くする(0Vに近づける)FETにダイオードD1を接続することが好ましい。
【0065】
伝送線路L0とグランドとの間に並列に接続されたFET10および20が2個の例を説明したが、3個以上でもよい。実施例3に係る電子回路に実施例4およびその変形例の可変減衰器を用いてもよい。
【0066】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0067】
10、12、20、22、30、32 FET
40 制御電圧生成回路
50、52 可変減衰器
54、56 方向性結合器