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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ガス検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
G01N27/12 D
G01N27/12 C
G01N27/12 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018167685
(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公開番号】P2020041833
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-05-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)刊行物名 日本セラミックス協会 第31回秋季シンポジウム 講演予稿集 発行者名 公益社団法人 日本セラミックス協会 該当箇所 3F01 発行年月日 2018年8月27日 (2)刊行物名 日本セラミックス協会 第31回秋季シンポジウム 講演予稿集 発行者名 公益社団法人 日本セラミックス協会 該当箇所 3F05 発行年月日 2018年8月27日 (3)電気通信回線を通じての発表 掲載年月日 2018年8月21日 掲載アドレス https://pubs.acs.org/action/doSearch?AllField=Gas+Sensors&type=within&publication=40025958 https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.analchem.8b03076 https://pubs.acs.org/action/showCitFormats?href=https%3A%2F%2Fpubs.acs.org%2Fdoi%2Ffull%2F10.1021%2Facs.analchem.8b03076&doi=10.1021%2Facs.analchem.8b03076 (4)電気通信回線を通じての発表 掲載年月日 2018年8月29日 掲載アドレス http://www.kyushu-u.ac.jp/ja/university/publicity/pressrelease/latest/ http://www.kyushu-u.ac.jp/f/34011/18_08_29.pdf
(73)【特許権者】
【識別番号】000112439
【氏名又は名称】フィガロ技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】末松 昂一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 賢
(72)【発明者】
【氏名】島ノ江 憲剛
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-020883(JP,A)
【文献】特開平10-019862(JP,A)
【文献】特開平05-340910(JP,A)
【文献】特開平07-140102(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0034910(US,A1)
【文献】特開昭59-108948(JP,A)
【文献】特開2003-156463(JP,A)
【文献】ナカライテスク株式会社,乾燥剤の種類と乾燥能力,カタログ,2000年,[online], [令和4年1月26日検索], インターネット <URL: https://www.nacalai.co.jp/information/trivia2/01.html>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物半導体の厚膜から成る感ガス部とヒータを有するMEMSガスセンサを備えるガス検出装置であって、
サンプルガスの除湿手段と、
ヒータをオフした状態のMEMSガスセンサへ、除湿後のサンプルガスを供給するガス流路と、
MEMSガスセンサがサンプルガスと接触した後に、前記ヒータをオンすることにより前記金属酸化物半導体を動作温度へ加熱し、次いで前記ヒータをオフする、ヒータ制御部と、
加熱開始から30m秒~100m秒の間の前記金属酸化物半導体の抵抗値から、サンプルガス中の検出対象ガスを検出するガス検出部、を有するガス検出装置。
【請求項2】
前記ガス検出部は、前記加熱開始から30m秒~100m秒の間の検出対象ガスを含むサンプルガス中での金属酸化物半導体の抵抗値と、加熱開始から30m秒~100m秒の間でかつ検出対象ガスを含まない空気中での金属酸化物半導体の抵抗値との比から、検出対象ガスを検出するように構成されていることを特徴とする、請求項1のガス検出装置。
【請求項3】
前記金属酸化物半導体は、PdがロードされたSnO2ナノ粒子から成ることを特徴とする、請求項1または2のガス検出装置。
【請求項4】
前記除湿手段は、モレキュラーシーブMS4Aを有する除湿セルを備え、サンプルガスの除湿とサンプルガス中のエタノールの除去を行うことを特徴とする、請求項1のガス検出装置。
【請求項5】
ガス流路は、除湿したサンプルガス中の検出対象ガスを吸着することにより濃縮する濃縮セルと、濃縮セルを加熱し検出対象ガスを脱離させるヒータ、を備えていることを特徴とする、請求項1~4のいずれかのガス検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はガス検出装置に関し、特に低濃度のガスを金属酸化物半導体MEMSガスセンサにより検出する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
呼気中のトルエンをサブppb濃度で検出できると、肺ガンの検査に有効であることが知られている。トルエン以外にも、スチレン、ノナナール、アセトン、水素、メルカプタン等が注目されている。しかしながら既存の金属酸化物半導体MEMSガスセンサでは、医療検査用にこれらのガスを検出するには感度が不足している。
【0003】
発明者らは金属酸化物半導体MEMSガスセンサを研究し、PdをロードしたSnO2のナノ粒子がトルエンの検出に適していることを確認した(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Suematsu,K.; Shin,Y.; Hua,Z.; Yoshida,K; Yuasa,M.; Kida,T; Shimanoe,K. ACS Appl. Mater. Interfaces 2014, 6, 5319-5326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明の課題は、低濃度のトルエン等のガスを金属酸化物半導体MEMSガスセンサにより検出することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明のガス検出装置は、金属酸化物半導体の厚膜から成る感ガス部とヒータを有するMEMSガスセンサと、
サンプルガスの除湿手段と、
ヒータをオフした状態のMEMSガスセンサへ、除湿後のサンプルガスを供給するガス流路と、
MEMSガスセンサがサンプルガスと接触した後に、前記ヒータをオンすることにより前記金属酸化物半導体を動作温度へ加熱し、次いで前記ヒータをオフする、ヒータ制御部と、
加熱時の前記金属酸化物半導体の抵抗値から、サンプルガス中の検出対象ガスを検出するガス検出部、を有する。
【0007】
ガス検出部は好ましくは、加熱開始直後の金属酸化物半導体の抵抗値から、検出対象ガスを検出するように構成されている。
ガス検出部より好ましくはは、加熱開始直後でかつ検出対象ガスを含まない空気中での金属酸化物半導体の抵抗値と、加熱開始直後の金属酸化物半導体の抵抗値の比から、検出対象ガスを検出するように構成されている。
また好ましくは金属酸化物半導体は、PdがロードされたSnO2ナノ粒子から成る。ここにナノ粒子は平均2次粒子径が1μm未満、好ましくは100nm以下の粒子を意味する。特に好ましくは、Pdがロードされ平均粒子径が100nm未満の単分散のSnO2粒子を金属酸化物半導体とする。
【0008】
好ましくは、除湿手段は、モレキュラーシーブMS4Aを有する除湿セルを備え、サンプルガスの除湿とサンプルガス中のエタノールの除去を行う。
より好ましくはガス流路は、除湿したサンプルガス中の検出対象ガスを吸着することにより濃縮する濃縮セルと、濃縮セルを加熱し検出対象ガスを脱離させるヒータ、を備えている。
【0009】
この発明では、MEMSガスセンサのヒータをオフした状態で、除湿したサンプルガスを接触させ、金属酸化物半導体に検出対象成分を吸着させる。次いでヒータをオンし、金属酸化物半導体を加熱すると、高い感度が発現する。この発明ではサブppm濃度のトルエンを検出でき、他のVOCも低濃度から検出でき、同様に水素、アセトン等の生体ガスも高感度に検出できる。従って呼気あるいは皮膚ガス中の検出対象ガスを検出し、医療用の診断に用いることができる。またホルムアルデヒド等のVOCの検出も行うことができる。ただし乾燥雰囲気でないと低濃度のガスを検出できないので、除湿手段によりサンプルガスを除湿する。またMEMSガスセンサの金属酸化物半導体が厚膜でないと、低濃度のガスを検出できないので、金属酸化物半導体は厚膜とする。
【0010】
検出対象ガス中で、MEMSガスセンサ(以下単にガスセンサという)の抵抗値は加熱開始直後に低く、その後数秒間増加する傾向がある。そこで加熱開始直後の抵抗値を用いると、検出下限を低くできる。また検出対象ガスを含まないガス、例えば検出対象ガスを除いた空気中での加熱時の抵抗値を記憶し、この抵抗値との比を用いると、検出下限をより低くできる。
【0011】
除湿は、例えばモレキュラーシーブMS4Aに水蒸気とエタノール等の不要なガスを吸着させることにより行う。MS4Aはトルエンなどの大きな分子を吸着せず、また加熱により再生できる。除湿したサンプルガスをMS13Xなどの吸着剤に接触させ、検出対象ガスを吸着させることにより濃縮し、加熱により脱離させ、ガスセンサの金属酸化物半導体に吸着させることが好ましい。これによって、検出下限をさらに低くできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】20ppmトルエンへの単味のSnO2の応答を示し、動作温度は250℃、ヒータはオン5秒、オフ10秒の15秒周期、Region1は空気中、Region2は20ppmトルエン中である。
図2図1でのヒータオン時の波形を拡大して示し、左側は空気中、右側は20ppmトルエン中である。
図3】20ppmトルエンへの感度をヒータ電圧の関数として示し、ヒータはオン5秒、オフ10秒の15秒周期である。
図4】20ppmトルエンへの感度をヒータオフ期間の関数として示し、ヒータはオン5秒、SnO2温度は250℃である。
図5】1~8ppbトルエンへのPd-SnO2の応答を示し、動作温度は250℃、ヒータはオン5秒、オフ10秒である。
図6図5でのヒータオン時の波形を拡大して示し、左側は空気中、右側は8ppbトルエン中である。
図7図5のデータから求めたトルエン感度を示し、検出下限は0.2ppb程度である。
図8】20ppmトルエンへの単味のSnO2の応答波形を示し、動作温度は300℃、ヒータはオン5秒、オフ10秒である。
図9】20ppmトルエンへの単味のSnO2の応答波形を示し、動作温度は350℃、ヒータはオン5秒、オフ10秒である。
図10】20ppmトルエンへの単味のSnO2の応答波形を示し、動作温度は400℃、ヒータはオン5秒、オフ10秒である。
図11】200ppm水素への単味のSnO2の感度を、ヒータ電圧の関数として示し、ヒータはオン5秒、オフ10秒の15秒周期である。
図12】実施例のガス検出装置のブロック図
図13】実施例でのガスセンサの状態推移を示す図
図14】実施例でのセルとガスセンサの温度パターンを示す図
図15】実施例でのガスセンサの駆動回路のブロック図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。
【実施例
【0014】
金属酸化物半導体の調製
1Mの炭酸水素アンモニウムの水溶液に、1Mの4塩化錫の水溶液を滴下し、遠心分離により塩素イオンを除去した。得られた沈殿に脱イオン水を加え、アンモニアでpHを調整し、透明なスズ酸溶液とした。この溶液を200℃,10MPaで、窒素雰囲気で3時間水熱処理し、単分散のSnO2粒子(平均粒子径は100nm未満)を得、120℃で乾燥した。
【0015】
Pdをロードする場合、Pd[(NO2)2(NH4)2]塩の水溶液を、塩素イオン除去後のスズ酸溶液に加え、pH調整と水熱処理及び乾燥を単味のSnO2の場合と同様に行い、SnO2-Pdとした。Pd濃度は0.2mol%としたが、任意である。
【0016】
MEMSガスセンサは、Si基板のキャビテイ上に絶縁膜を備え、絶縁膜上にPtヒータが設けられ、Ptヒータは第2の絶縁膜で被覆され、一対の櫛の歯電極が第2の絶縁膜上に設けられている。そして櫛の歯電極を覆うように、単味のSnO2あるいはSnO2-Pdの厚膜(いずれも膜厚40μm)を設けた。単味のSnO2及びSnO2-Pdは、MEMSガスセンサのヒータにより450℃で12時間焼成した。
【0017】
乾燥した合成空気、及び200ppm水素、20ppmトルエン、10ppbトルエンのボンベを用意し、これらのガスを混合してサンプルガスとした。MEMSガスセンサを、所定周期でヒータがオンオフするように動作させ、合成空気中(以下単に空気中という)、及びサンプルガス中での加熱時の抵抗値を測定した。なお非加熱時の抵抗値は極めて高く、抵抗値は加熱開始から50m秒毎に測定した。
【0018】
図1,図2はPdを含まない単味のSnO2を用い、金属酸化物半導体の最高温度が250℃、ヒータのオン時間が5秒、オフ時間が10秒の場合の、20ppmトルエンへの応答を示す。金属酸化物半導体は1秒以内に加熱開始から最高温度に達し、動作温度と最高温度は同じである。図1のRegion1は空気中、Region2は20ppmトルエン中である。図2の左側はヒータがオンの状態での空気中の抵抗値を、右側は20ppmトルエン中の抵抗値を示し、いずれもヒータがオンした後オフするまでの5秒間の抵抗値を示す。20ppmトルエンに対し感度は極めて高く、加熱開始直後を添字iで、加熱終了時を添字eで示すと、加熱開始直後のガス感度Ra/Rgiは加熱終了時の感度Ra/Rgeよりも高い。なお添字aは空気中を表す。
【0019】
ヒータ電圧あるいは金属酸化物半導体の動作温度の関数として、ヒータオンが5秒、オフが10秒の場合の、20ppmトルエンへの感度を図3に示す。最高温度を増すと、感度Se=Ra/Rgeは小さくなり、感度Si=Ra/Rgiとの違いが明瞭になる。またヒータのオフ時間の関数として、金属酸化物半導体の最高温度が250℃、ヒータオン時間が5秒の場合の、20ppmトルエンへの感度を図4に示す。オフ時間が5秒以上で感度Si=Ra/Rgiが増すが、感度Se=Ra/Rgeはほぼ一定である。図3図4は、ヒータがオフの間にトルエンがSnO2に吸着し、加熱開始により活性化されてSnO2の抵抗値を低下させ、加熱を続けると蓄積されたトルエンが消費されてSnO2の抵抗値が増加することを意味する。
【0020】
図5図7は、Pd-SnO2(Pd濃度は0.2mol%)の場合の、1~8ppbトルエンへの感度を示す。最高温度は250℃、ヒータはオフ10秒、オン5秒の15秒周期である。Rge/Rgiは大きく、空気中の抵抗値Raと加熱開始直後の抵抗値Rgiの比を用いると、トルエンの検出下限は0.2ppb程度である。また加熱時の抵抗値の終わりの値Rgeと加熱開始直後の値Rgiの比 Rge/Rgi からもトルエンを検出できる。
【0021】
図8図10は、単味のSnO2の20ppmトルエンへの応答を示し、ヒータはオンが5秒、オフが10秒で、最高温度は図8が300℃、図9が350℃、図10が400℃である。400℃でトルエン感度は極めて高い。図8図10図5図6等から、最高温度は200~500℃が好ましい。
【0022】
図11はヒータ電圧の関数として200ppm水素への感度を示し、ヒータはオンが5秒、オフが10秒である。トルエンと水素以外にエタノール、アセトン、スチレン、ノナナール等も検出できる。
【0023】
MEMSガスセンサ
MEMSガスセンサの金属酸化物半導体は厚膜が好ましく、膜厚40μmと4μmとでは、40μmの方が遙かにトルエン感度が高かった。好ましい膜厚は10μm以上100μm以下で、特に20μm以上60μm以下が好ましい。金属酸化物半導体膜の表層は、酸素の拡散、及び検出対象ガスの拡散と反応とに関与するが、半導性は必要ではないと考えられる。このため、金属酸化物半導体を、表層の酸化触媒層と、下層の金属酸化物半導体層の2層に分けても良い。なおMEMSガスセンサにヒータ兼用電極を1個のみ設け、他の電極を設けなくても良い。
【0024】
ガス検出装置の構成
図12図15に実施例のガス検出装置を示す。ボンベBは流路に乾燥クリーンエア(露点:-20℃以下)を供給する。Sは金属酸化物半導体MEMSガスセンサで、ペルティエ素子により加熱と冷却が自在なセンサセルC3に置かれ、マイクロコンピュータ10によりヒータ電力を制御する。V1は6方バルブで、濃縮セルC2からサンプルガスをガスセンサSへ供給する破線の流路と、サンプルガスを除湿セルC1で除湿し、濃縮セルC2に蓄積する実線の流路とを切り替える。V2は3方バルブで、ポートa1を、除湿剤の再生用のポートa2、または常用のポートa3に接続する。V3は3方バルブで、ポートb1をサンプルガスの導入用のポートb2、または除湿剤の再生用のポートb3に接続する。V4は2方バルブで、濃縮セルC2中の吸着剤の再生用のバルブである。MCはマスフローコントローラで、クリーンエアの流量を制御する。またP1~P5はガスを出し入れするポートである。Fはサンプルガスの流量計である。
【0025】
除湿セルC1は例えばモレキュラーシーブMS4Aを除湿剤として有し、ペルティエ素子により除湿時に冷却し、除湿剤の再生時に加熱する。濃縮セルC2は例えばモレキュラーシーブMS13Xを検出対象ガスの吸着剤として有し、ペルティエ素子により濃縮時に冷却し、脱離時に加熱する。除湿剤の種類は任意であるが、MS4Aはトルエン等の検出対象ガスを吸着せず、水蒸気の他に呼気中のエタノール、アセトン等を吸着するので、エタノールやアセトンなどが検出を妨げることを防止できる。MS13Xは芳香族化合物を吸着し、加熱すると芳香族化合物を脱離させる。セルC1,C2は例えばカラム状である。またセルC1を液体窒素などで冷却し、水蒸気をカラムの内壁に吸着させる場合、除湿剤は不要である。
【0026】
セルC1,C2の加熱冷却装置は任意で、加熱と冷却を同じ装置で行うためペルティエ素子を採用した。加熱は除湿剤と濃縮剤の再生用で、セルC1,C2を所定回数使用すると交換する場合、加熱は不要である。冷却は吸着力を高めるために行い、必須ではない。さらに濃縮セルC2は設けなくても良い。またセンサセルC3にペルティエ素子等の加熱冷却装置を設け、加熱によりセルC3を浄化し、冷却により金属酸化物半導体へのトルエン等の吸着を促進する。セルC3には加熱冷却装置を設けなくても良い。
【0027】
図13は金属酸化物半導体14の状態変化を示す。ペルティエ素子により金属酸化物半導体14を-20℃程度に冷却し、検出対象ガスのトルエン等を含むサンプルガスと、例えば5秒以上30秒以下、好ましくは10秒以上30秒以下の時間、接触させる。この時、金属酸化物半導体14は室温以下の温度とし、加熱しない。金属酸化物半導体14との接触時間を10秒程度と長くすると、トルエン等のガスは金属酸化物半導体14の内部まで拡散し吸着する。またサンプルガスを除湿しているので、水蒸気とトルエン等の吸着が競合することはなく、加熱時に発生する水蒸気への感度がトルエンの検出を妨げることもない。
【0028】
MEMSガスセンサは急激な温度変化が可能で、例えば数十m秒以内に室温から400℃程度まで金属酸化物半導体14を加熱できる。この明細書では、金属酸化物半導体14を急激に加熱することをパルス加熱といい、パルス加熱開始直後に、例えば加熱開始から30m秒~100m秒程度の間に、トルエン等への感度のピーク(抵抗値の極小値)が発現し、このピークからトルエン等を検出する。
【0029】
感度ピークの発現後も加熱を続ける。加熱中はガスセンサの周囲にクリーンエアを流し、吸着したトルエン等の影響を解消する。そして加熱期間の最後の抵抗値を、検出対象ガスが無い場合の金属酸化物半導体14の抵抗値とする、あるいは検出前にクリーンエア中でガスセンサを同じ周期で駆動し、加熱時の金属酸化物半導体の抵抗値を記憶する。なお抵抗値の代わりに電気伝導度 などを用いても良い。
【0030】
図14に、セルC1,C2の状態を示し、Cは冷却で除湿と濃縮を、Hは加熱で再生と脱離を表す。センサSの状態は、Cが冷却あるいは室温放置を、Hは加熱を示す。τはガス検出装置の動作周期で例えば30秒で、10秒以上60秒以下が好ましい。なおガスセンサSの動作周期も、除湿と濃縮の周期も、ガス流路の切替周期も、同じ周期τである。セルC1,C2の冷却期間Cは例えば5秒、加熱期間Hは例えば25秒である。ガスセンサSの冷却期間は例えば10秒で、5秒以上30秒以下が好ましく、加熱期間Hは例えば20秒で、5秒以上30秒以下が好ましい。加熱期間Hの間に、金属酸化物半導体14に吸着していたトルエン等のガスは完全酸化されてCO2とH2Oとして脱離し、空気中の酸素が吸着する。なお加熱期間Hでの金属酸化物半導体14の温度が250℃~350℃と低い場合、加熱期間Hの前半で測定し、後半で金属酸化物半導体14を例えば400℃以上に昇温させ、酸素吸着を促進することが好ましい。
【0031】
セルC1,C2を冷却し、呼気等のサンプルガスをポートP1,バルブV3,除湿用のセルC1,バルブV2,バルブV2の実線の流路、濃縮用のセルC2の順に流し、サンプルガス中の検出対象ガスをセルC2に濃縮する。サンプルガスの流量を流量計Fで測定し、100mL~500mL等の所定の流量に達すると、サンプルガスの除湿と濃縮を完了する。次いで、セルC1,C2を加熱し、センさせるC3を冷却する。バルブV2,セルC1,バルブV3,ポートP5の順にクリーンエアを流し、セルC1の除湿剤を再生する。またクリーンエアをバルブV1の破線の流路、セルC2,サンプルセルC3の順に流し、セルC2で昇温脱離した検出対象ガスをガスセンサSに吸着させる。
【0032】
次いでバルブV1を実線の流路に切り替え、センサセルC3にクリーンエアを供給し、ガスセンサSをパルス加熱し、加熱開始直後の金属酸化物半導体の抵抗値Riをマイクロコンピュータ10に記憶させる。ガスセンサSの加熱を継続し、センサセルC3を加熱し、セルC3と金属酸化物半導体14とをクリーニングし、クリーニング終了時の金属酸化物半導体の抵抗値Reをマイクロコンピュータ10に記憶させる。またバルブV4、セルC2,ポートP4の順にクリーンエアを流し、セルC2を再生する。
【符号の説明】
【0033】
S MEMSガスセンサ
B ボンベ
P1~P5 ポート
C1 除湿セル
C2 濃縮セル
C3 センサセル
V1~V3 バルブ
MC マスフローコントローラ
F 流量計

10 マイクロコンピュータ
12 ヒータ
14 金属酸化物半導体
16 スイッチ
17 負荷抵抗
20 ADコンバータ
21 ヒータ制御部
22 バルブ制御部
24 セル温度制御部
26 ガス検出部
28 出力部
30 絶縁膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15