IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社チップトンの特許一覧

特許7060229ウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管及びオーバーフロー配管の整流モジュール
<>
  • 特許-ウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管及びオーバーフロー配管の整流モジュール 図1
  • 特許-ウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管及びオーバーフロー配管の整流モジュール 図2
  • 特許-ウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管及びオーバーフロー配管の整流モジュール 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管及びオーバーフロー配管の整流モジュール
(51)【国際特許分類】
   B24C 7/00 20060101AFI20220419BHJP
   F16L 55/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B24C7/00 B
F16L55/00 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017242534
(22)【出願日】2017-12-19
(65)【公開番号】P2019107735
(43)【公開日】2019-07-04
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】396019631
【氏名又は名称】株式会社チップトン
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大脇 五郎
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開昭59-187463(JP,A)
【文献】特開2004-148196(JP,A)
【文献】特開2007-319948(JP,A)
【文献】特開平06-320427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24C 1/00-11/00
F16L 55/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエットブラスト用のスラリーが貯留される貯留タンクに設けられ、上端部に上向きに開口する排水口が形成された排水管と、
前記排水管の上端部外周のうち少なくとも前記排水口より下方の領域を包囲する整流部材と、
前記整流部材の内周と前記排水管の外周との間に配され、前記スラリーが流動抵抗を受けながら通過することを許容する減衰部材を備えていることを特徴とするウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管。
【請求項2】
前記整流部材に形成され、前記排水口より高い位置に配された防波部を備えていることを特徴とする請求項1記載のウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管。
【請求項3】
前記減衰部材が、前記排水管の上端と概ね同じ高さに配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管。
【請求項4】
前記排水管は、軸線を鉛直方向に向け且つ外径が一定のパイプ状をなしており、
前記整流部材の内周面は、その全領域に亘り前記排水管の外周面と対向する向きとなっていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管。
【請求項5】
ウエットブラスト用のスラリーが貯留される貯留タンクに設けた排水管本体の上端部に取付けることでオーバーフロー配管を構成するものであり、
上端部に上向きに開口する排水口が形成された排水用筒状部材と、
前記排水用筒状部材の上端部外周のうち少なくとも前記排水口より下方の領域を包囲する整流部材とを備えていることを特徴とするオーバーフロー配管の整流モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管及びオーバーフロー配管の整流モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ワークの表面処理を行う手段として、砥粒と液体とが混合されたスラリーを貯留タンクに貯留しておき、貯留タンク内のスラリーをポンプで吸い上げて高圧ガスにより固気液三相流状態とし、この固気液三相流状態のスラリーを噴射ガンからワークに向けて噴射するウエットブラスト装置が開示されている。ワークは貯留タンクの上方に配置され、ワークに向けて噴射したスラリーは貯留タンク内に戻る。
【0003】
ブラスト噴射後のワークや加工室の壁面には、噴射により飛散したスラリー中の砥粒が付着した状態になるため、ワークや加工室内は定期的に水のみでシャワー洗浄される。シャワー洗浄すると、洗浄液(水)が貯留タンクに流下するため、貯留タンク内のスラリーの液面が上昇していく。貯留タンクにはオーバーフロー配管が設けられており、余剰分の液体がオーバーフロー配管の上端の排水口から排出されることで、貯留タンク内の液面が一定高さに保たれるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5910933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、オーバーフロー配管からは、余剰分の液体と一緒に砥粒も流出してしまうため、貯留タンク内のスラリーの砥粒濃度が低下することになる。そのため、噴射ガンに供給されるスラリーの砥粒濃度が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、貯留タンク内におけるスラリーの砥粒濃度の低下を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明のウエットブラスト用貯留タンクのオーバーフロー配管は、
ウエットブラスト用のスラリーが貯留される貯留タンクに設けられ、上端部に上向きに開口する排水口が形成された排水管と、
前記排水管の上端部外周のうち少なくとも前記排水口より下方の領域を包囲する整流部材と、
前記整流部材の内周と前記排水管の外周との間に配され、前記スラリーが流動抵抗を受けながら通過することを許容する減衰部材をを備えていることを特徴とする。
【0008】
第2の発明のオーバーフロー配管の整流モジュールは、
ウエットブラスト用のスラリーが貯留される貯留タンクに設けた排水管本体の上端部に取付けることでオーバーフロー配管を構成するものであり、
上端部に上向きに開口する排水口が形成された排水用筒状部材と、
前記排水用筒状部材の上端部外周のうち少なくとも前記排水口より下方の領域を包囲する整流部材とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明によれば、スラリーは、整流部材の下端から排水管の外周と整流部材の内周との間の整流空間内を上昇して排水口に向かう。整流空間内では、スラリーが整流されるので、スラリー内の砥粒が沈降し、排水口から排出されるスラリーの砥粒の量が少なくなる。これにより、貯留タンク内におけるスラリーの砥粒濃度の低下が抑制される。また、スラリーが減衰部材を通過するときに流勢が弱まるので、整流効果が高められる。
【0010】
第2の発明によれば、スラリーは、整流部材の下端から排水管本体及び排水用筒状部材の外周と整流部材の内周との間の整流空間内を上昇して排水口に向かう。整流空間内では、スラリーが整流されるので、スラリー内の砥粒が沈降し、排水口から排出される砥粒の量が少なくなる。これにより、貯留タンク内におけるスラリーの砥粒濃度の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のウエットブラスト装置の概略側断面図
図2】整流モジュールの平面図
図3】オーバーフロー配管の断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
第1及び第2の発明は、前記整流部材に形成され、前記排水口より高い位置に配された防波部を備えていてもよい。この構成によれば、貯留タンクの液面が波立っていても、スラリーが整流部材を乗り越えて排水口に至ることを防止できる。
【0014】
第2の発明は、前記整流部材の内周と前記排水用筒状部材の外周との間に配され、前記スラリーが流動抵抗を受けながら通過することを許容する減衰部材を備えていてもよい。この構成によれば、スラリーが減衰部材を通過するときに流勢が弱まるので、整流効果が高められる。
【0015】
第1の発明は、前記減衰部材が、前記排水管の上端と概ね同じ高さに配置されていてもよい。この構成によれば、排水管と整流部材との間の整流空間を長く確保できるので、整流効果に優れている。また、減衰部材の上面に砥粒が一時的に載ることがあっても、その砥粒は、減衰部材を貫通するスラリーの流路から整流空間内に抜け落ちて行くので、減衰部材の上面に砥粒が堆積する虞はない。
【0016】
第2の発明は、前記減衰部材が、前記排水用筒状部材の上端と概ね同じ高さに配置されていてもよい。この構成によれば、排水管本体及び排水用筒状部材と整流部材との間の整流空間を長く確保できるので、整流効果に優れている。また、減衰部材の上面に砥粒が一時的に載ることがあっても、その砥粒は、減衰部材を貫通するスラリーの流路から整流空間内に抜け落ちて行くので、減衰部材の上面に砥粒が堆積する虞はない。
【0017】
第1の発明は、前記排水管は、軸線を鉛直方向に向け且つ外径が一定のパイプ状をなしており、前記整流部材の内周面は、その全領域に亘り前記排水管の外周面と対向する向きとなっていてもよい。この構成によれば、整流部材の内周面には、砥粒が堆積することを可能にする水平な領域が存在しない。
【0018】
<実施例1>
以下、本発明を具体化した実施例1を図1図3を参照して説明する。尚、以下の説明において、上下の方向については、図1,3にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。本実施例1のオーバーフロー配管20は、ウエットブラスト装置10を構成するものである。図1に示すように、ウエットブラスト装置10の加工室11内には、噴射ガン12と、ワークWを載置するためのネット13が設けられている。ネット13は噴射ガン12の下方に配置されている。加工室11の下端部(噴射ガン12及びワークWより下方の領域)は、スラリーSを貯留するための貯留タンク14となっている。
【0019】
スラリーSは、ガラス、ジルコニア、WA(ホワイトアランダム)、樹脂、重曹、スチールグリッド等の各種の粉粒体の中から加工目的に応じて選択された砥粒(図示省略)を、水道水等の液体に10~40%程度混合させたものである。スラリーS内の砥粒濃度はワークWの加工能力に大きく影響するため、良好なウエットブラスト処理を行うためには、スラリーSの砥粒濃度の管理は重要である。
【0020】
本実施例1では、貯留タンク14内のスラリーSの液面がオーバーフロー配管20の上端面(排水口27)と同じ高さになった状態をスラリーSの最大容量とした上で、最大容量の10~40%の体積の砥粒を貯留タンク14内に入れた後、液面が排水口27と同じ高さになるまで水道水を貯留タンク14に貯留したものをスラリーSとしている。貯留タンク14内のスラリーSは、その一部のスラリーSを後述するバイパス流路18を通して貯留タンク14内に圧送することで、撹拌される。
【0021】
加工室11の外部には、ウエットブラスト装置10を構成するポンプ15とコンプレッサ16が設けられている。ポンプ15は、貯留タンク14と噴射ガン12との間に配設されたスラリー圧送路17の途中に設けられ、貯留タンク14内のスラリーSを噴射ガン12に供給する。スラリー圧送路17のうちポンプ15より下流側(噴射ガン12側)には、スラリー圧送路17内のスラリーSを、噴射ガン12を経由させずに貯留タンク14へ戻し、貯留タンク14内のスラリーSを吐出圧で撹拌するためのバイパス流路18が接続されている。コンプレッサ16と噴射ガン12との間にはガス圧送路19が配設されている。コンプレッサ16は、高圧ガス(例えば、空気)を噴射ガン12に圧送する。
【0022】
ワークWに対してウエットブラスト加工を施す際には、噴射ガン12にスラリーSを供給するとともに高圧ガスを圧送する。すると、噴射ガン12に供給されたスラリーSは、高圧ガスの圧力により加速され、固気液三相の整流となってワークWの上面に吹き付けられる。ワークWにスラリーSを高圧で吹き付けることで研磨等のブラスト処理が施される。ワークWに向けて噴射されたスラリーSは、貯留タンク14内に戻る。
【0023】
ブラスト噴射後のワークWや加工室11の壁面には、噴射により飛散したスラリーS中の砥粒が付着した状態になるため、ワークWや加工室11内は定期的にシャワー洗浄される。シャワー洗浄液(図示省略)としては、砥粒を含まない水のみが用いられる。シャワー洗浄すると、貯留タンク14内のスラリーSの液面が上昇していくため、貯留タンク14にはオーバーフロー配管20が設けられている。余剰分の液体をオーバーフロー配管20の上端の排水口27から排出させることで、貯留タンク14内の液面を一定高さに保つようになっている。
【0024】
ところが、オーバーフロー配管20からは、余剰の液体と一緒に砥粒も流出してしまうため、貯留タンク14内スラリーSの砥粒濃度が低下し、その結果、噴射ガン12に供給されるスラリーSの砥粒濃度が低下することが懸念される。本実施例1のオーバーフロー配管20は、貯留タンク14内におけるスラリーSの砥粒濃度の低下を抑制することを実現するものである。
【0025】
オーバーフロー配管20は、図3に示すように、排水管本体21と、排水管本体21の上端部に取り付けた整流モジュール23とから構成されている。整流モジュール23は排水管本体21に対して着脱可能である。排水管本体21は、外径寸法が全長に亘って一定で、軸線と直角に切断した断面形状が円形のパイプ状をなしている。排水管本体21は、その軸線を鉛直方向(上下方向)に向けた状態で設置されている。排水管本体21の下端部は、貯留タンク14の底壁部に対し上下に貫通した状態で固定されている。排水管本体21の上端部外周には、整流モジュール23を取り付けるための雄ネジ部22が形成されている。
【0026】
整流モジュール23は、金属製の排水用筒状部材24と、金属製の整流部材28と、金属製の減衰部材30とを一体化した部材である。排水用筒状部材24は、外径が排水管本体21と概ね同寸法の円筒形をなし、軸線を鉛直方向に向けて配されている。排水用筒状部材24の外径寸法は、その上端から下端に亘って一定寸法であり、排水用筒状部材24の外周面は、上下方向において凹凸や段差のない円周曲面である。
【0027】
排水用筒状部材24の内周には、排水管本体21の雄ネジ部22に螺合可能な雌ネジ部25が形成されている。雌ネジ部25を雄ネジ部22にねじ込むことにより、排水用筒状部材24が排水管本体21の上端部に同軸状に取り付けられて、排水管26が構成される。排水用筒状部材24の上端(即ち、排水管26の上端)は、円形の排水口27として上向きに開口している。
【0028】
整流部材28は、排水管26より大径の円筒形をなし、軸線を鉛直方向に向けて配されている。整流部材28の内径寸法と外径寸法は、いずれも、その上端から下端に亘って一定寸法である。整流部材28の内周面は、上下方向において凹凸や段差のない円周曲面である。整流部材28は、減衰部材30を介すことにより、排水用筒状部材24と一体化され、排水用筒状部材24を同軸状に包囲している。
【0029】
減衰部材30は、外径が整流部材28の内径と同寸法の円板に複数の貫通孔31を形成したパンチングメタルと称される部品である。減衰部材30は整流部材28の内部に収容され、減衰部材30の外周縁と整流部材28の内周面が溶接により固着されている。減衰部材30は排水口27を上から覆うように配され、減衰部材30の下面が、排水口27の開口縁(排水用筒状部材24の上端縁)に溶接により固着されている。排水口27は、複数の貫通孔31を介すことにより、排水用筒状部材24(排水管26)の内部とその上方空間とを連通させている。平面視において、減衰部材30は、整流部材28の内周と排水管26の外周との間の円環形領域と、排水口27の円形の開口領域とに配されている。
【0030】
減衰部材30は、整流部材28の上端より低い位置、即ち貯留タンク14内のスラリーSの液面とほぼ同じ高さに配置されている。したがって、整流部材28の上端は、排水用筒状部材24(排水口27)よりも高い位置に配されている。整流部材28のうち排水口27又は減衰部材30より上方の領域は、防波部29として機能する。整流部材28の下端は、排水用筒状部材24の下端と概ね同じ高さに配されている。尚、整流部材28の下端の位置は、排水用筒状部材24の下端から充分に低い位置に配されていることが好ましい。整流部材28の下端の位置が低いほど、整流空間32の上下寸法を長く確保できるので、整流効果が向上する。
【0031】
排水管26の上端部外周と整流部材28の内周との間の円筒状の空間は、整流空間32となっている。整流空間32は、複数の貫通孔31を介して排水管26より上方の空間(防波部29で包囲された空間)へ開放されている。整流空間32の下端は整流モジュール23より下方の空間へ開放されている。整流部材28の内周面のうち整流空間32を構成する全領域は、排水用筒状部材24(排水管26の上端部)の外周面に対し一定の間隔を空けて水平方向(前後方向又は左右方向)に対向している。
【0032】
本実施例1のオーバーフロー配管20及び整流モジュール23を備えたウエットブラスト装置10では、ブラスト噴射後のワークWや加工室11の壁面に付着したスラリーS中の砥粒を除去するため、ワークWや加工室11内は定期的に水のみでシャワー洗浄される。シャワー洗浄時に貯留タンク14内に流下した洗浄液(水)に相当する量のスラリーSが排水管26から排出される。
【0033】
この間、スラリーSは、直接、排水口27に到達するのではなく、整流部材28の下端から一旦、整流空間32内に流入し、整流空間32内を上昇した後に、排水口27から排水管26へ排出される。整流部材28(整流空間32)の外部ではスラリーSが撹拌作用によって乱流状態となっているため、スラリーSの砥粒濃度は概ね一定に保たれる。これに対し、整流空間32内では、スラリーSが上昇する間に整流されるので、スラリーS内の砥粒は自重によって沈降する。
【0034】
しかも、整流空間32の上端には減衰部材30が配置され、スラリーSが減衰部材30の貫通孔31を通過するときに流動抵抗を受けるので、スラリーSの上昇速度は遅くなっている。このスラリーSの上昇速度の低下によっても、砥粒の沈降が進む。この砥粒の沈降により、整流空間32内では上端側ほどスラリーSの砥粒濃度が低くなり、排水口27から排出される時点で、スラリーS内の砥粒の含有量は少なくなっている。
【0035】
本願の発明者は、オーバーフロー配管20から排出される砥粒の量に関し、本実施例1の整流部材28と減衰部材30を備えたオーバーフロー配管20と、整流部材28と減衰部材30を備えていないオーバーフロー配管(図示省略)との相違を検証するための実験を行った。貯留タンク14内のスラリーS量を30L、スラリーS中の砥粒濃度を30%とした。減衰部材30における貫通孔31の開口率(減衰部材30の全面積に対する貫通孔31の開口総面積の比率)を58%とした。
【0036】
スラリーSに混入する砥粒は、樹脂砥粒180~230μm(#80・真比重1.5)とWA砥粒250~350μm(#60・真比重3.5)の2種類を用意した。ポンプ15を起動し、30分間に亘り、スラリー圧送路17を通して噴射ガン12に供給したスラリーSをワークWに噴射するとともに、バイパス流路18を通して貯留タンク14の底部にスラリーSを圧送することで、貯留タンク14内のスラリーSを撹拌・分散させた。この間、貯留タンク14内に洗浄水としての水道水を連続的に合計20L流入した。
【0037】
最終的にオーバーフロー配管20から貯留タンク14の外部へ排出された全砥粒量を計量カップで測定し、貯留タンク14内のスラリーSの砥粒濃度の変動を確認した。測定の際は、排出されたスラリーSを計量カップに入れて5分間放置し、沈降した砥粒の量を目視確認した。実験の結果、整流部材28と減衰部材30を備えていないオーバーフロー配管の場合、樹脂砥粒の排出量は1.6Lであり、WA砥粒の排出量は0.2Lであった。これに対し、整流部材28と減衰部材30を備えた本実施例1のオーバーフロー配管20の場合、樹脂砥粒の排出量は0.5Lに抑えられ、WA砥粒の排出量は0.025Lに抑えられた。
【0038】
上記の実験結果から、整流部材28と減衰部材30を設けることにより、排出される砥粒の量が少なくなることが確認された。また、比重の小さい樹脂砥粒よりも比重の大きいWA砥粒の方が、排出量の低減の効果が顕著であることが判る。これは、比重の大きいWA砥粒の方が整流空間32内で上昇し難い為であると推察される。
【0039】
また、整流部材28の下端の位置が貯留タンク14の底壁部に近いほど、整流空間32の上下寸法が長くなり、スラリーSの整流化を促進できるとともに、砥粒の沈降に要する時間を長く確保できるので、砥粒の排出をより効果的に抑制できる。尚、減衰部材30の貫通孔31の開口率が75%以上の場合は、減衰効果(流動抵抗)が小さくなり、スラリーSの排出速度が殆ど低下しない為、排出される砥粒の量を低減する効果が小さくなる。
【0040】
上述のように本実施例1のオーバーフロー配管20は、ウエットブラスト用のスラリーSが貯留される貯留タンク14に設けられ、上端部に上向きに開口する排水口27が形成された排水管26と、排水管26の上端部外周のうち、少なくとも排水口27より下方の領域を包囲する筒状の整流部材28とを備えて構成されている。
【0041】
また、整流モジュール23は、貯留タンク14に設けた排水管本体21の上端部に取付けることでオーバーフロー配管20を構成するものであり、上端部に上向きに開口する排水口27が形成された排水用筒状部材24と、排水用筒状部材24の上端部外周のうち少なくとも排水口27より下方の領域を包囲する筒状の整流部材28とを備えている。
【0042】
貯留タンク14内で撹拌されているスラリーSは、整流部材28の下端から排水管26の外周と整流部材28の内周との間の整流空間32内に流入し、整流空間32内を上昇して排水口27に向かう。整流空間32内では、スラリーSが整流されるので、スラリーS内の砥粒が沈降し、排水口27から排出される砥粒の量が少なくなる。これにより、貯留タンク14内におけるスラリーSの砥粒濃度の低下が抑制される。
【0043】
また、砥粒は、ブラスト加工により粉砕され又は摩耗して小さくなっていくのであるが、小さくなった砥粒は、ブラスト加工能力が低下しているため、排出することが望ましい。小さくなった砥粒は、整流空間32内で沈降し難いので、余剰の液体と一緒に排水口27から排出される。したがって、オーバーフロー配管20は、不要粒子(小さくなった砥粒)を貯留タンク14外へ排除する機能も発揮する。
【0044】
また、平面視において、整流部材28の内周と排水管26の外周との間には、スラリーSが流動抵抗を受けながら通過することを許容する減衰部材30が配されているので、スラリーSが減衰部材30の貫通孔31を通過するときにスラリーSの流勢が弱まる。これにより、整流空間32内を上昇するスラリーSの速度が低下するので、整流効果が高められる。しかも、減衰部材30は、排水管26の上端(排水口27)と概ね同じ高さに配置されていて、排水管26と整流部材28との間の整流空間32が、上下方向(スラリーSの上昇方向)に関して長く確保されているので、整流効果に優れている。
【0045】
また、整流部材28には、排水口27より高い位置に配された防波部29が形成されているので、貯留タンク14のスラリーSの液面が波立っていても、スラリーSが整流部材28を乗り越えて排水口27に至ることを防止できる。したがって、スラリーSは、必ず、整流空間32を経由して整流された後に、排水口27に到達することができる。
【0046】
また、排水管26は、軸線を鉛直方向に向け且つ外径が一定のパイプ状をなし、整流部材28の内周面のうち整流空間32を構成する領域は、その全領域に亘り排水管26の外周面と対向する向きとなっている。この構成によれば、整流部材28の内周面には、砥粒が堆積することを可能にする水平な領域が存在しない。これにより、貯留タンク14内のスラリーSの砥粒濃度が低下することを抑制できる。
【0047】
<他の実施例>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施例では、整流部材に排水口より高い防波部を設けたが、整流部材の上端の高さは排水口と同じ高さであってもよい。
(2)上記実施例では、平面視において整流部材の内周と排水管の外周との間に減衰部材を配したが、整流部材の内周と排水管の外周との間に減衰部材を設けない形態としてもよい。
(3)上記実施例では、減衰部材を排水管の上端部に配置したが、減衰部材は排水管の上端より低い高さに配置してもよい。
(4)上記実施例では、排水管は軸線を鉛直方向に向けているが、排水管は、軸線を鉛直方向に対して斜め方向を向いたものであってもよい。
(5)上記実施例では、排水管は外径が一定のパイプ状をなすが、排水管は、外径寸法が軸線方向において変化するパイプ状のものであってもよい。
(6)上記実施例では、整流部材の内周面のうち整流空間を構成する全領域が、排水管の外周面と対向する向きとなっているが、整流部材の内周面のうち整流空間を構成する領域の一部が、排水管の外周面と対向しなくてもよい。
(7)上記実施例では、減衰部材の一部が排水口を覆っているが、減衰部材は排水口を覆わない形態であってもよい。
(8)上記実施例では、排水管が、排水管本体と排水用筒状部材とによって構成されているが、排水管は単一部材であってもよい。
(9)上記実施例では、整流モジュールを排水管本体に対して着脱可能としたが、排水管本体と整流モジュールが一体化したものであってもよい。
(10)上記実施例では、排水管を円筒形としたが、排水管は、角筒形、楕円筒形等であってもよい。
(11)上記実施例では、整流部材を円筒形としたが、整流部材は、角筒形、楕円筒形等であってもよい。
(12)上記実施例において、防波部の上端の開口を蓋板で閉塞してもよい。このようにすれば、スラリーの液面が波立った場合に、スラリーが整流部材(防波部)を乗り越えて排水口に至ることを確実に防止することができる。また、蓋板に貫通形態の通気孔を形成してもよい。尚、蓋板は、防波部に対し溶接等で固着してもよく、防波部に対して着脱可能としてもよい。
(13)上記実施例では、整流部材の全体が貯留タンクとは別体の部材であるが、整流部材は貯留タンクと一体に形成されたものであってもよい。具体的には、整流部材の周方向における一部を、貯留タンクを構成する壁部の一部によって構成し、整流部材のうち貯留タンクで構成されていない囲繞領域を、貯留タンクとは別体の部材で構成し、全体として排水管を全周に亘って包囲する形態としてもよい。
(14)上記実施例では、整流部材が排水管を全周に亘って包囲する筒状のものであるが、整流部材は、排水管の周方向における一部のみを覆う形態であってもよい。
【符号の説明】
【0048】
14…貯留タンク
20…オーバーフロー配管
21…排水管本体
23…整流モジュール
24…排水用筒状部材
26…排水管
27…排水口
28…整流部材
29…防波部
30…減衰部材
S…スラリー
図1
図2
図3