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  • 特許-歯科用治療椅子 図1
  • 特許-歯科用治療椅子 図2
  • 特許-歯科用治療椅子 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】歯科用治療椅子
(51)【国際特許分類】
   A61G 15/00 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
A61G15/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018084797
(22)【出願日】2018-04-26
(65)【公開番号】P2019187875
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】502080704
【氏名又は名称】長田電機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】特許業務法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】生田 健太郎
【審査官】松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5425381(US,A)
【文献】実開昭63-174828(JP,U)
【文献】実開昭61-54827(JP,U)
【文献】特表2010-515475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61G 13/00-15/18
A61F 5/37
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バックシートと該バックシートの左右両端から延在するベルトとを有する歯科用治療椅子であって、前記バックシートは、患者の背中側に配置されるクッション部材を固着されたサポート部材からなり、該サポート部材は、中央に配置されるバックサポートと当該バックサポートの両側に左右回動自在に配置されているサイドサポートとからなることを特徴とする歯科用治療椅子。
【請求項2】
前記ベルトが、自由端側に締結部材を備える帯材からなり、任意の位置でベルトを相互に締結できることを特徴とする請求項1に記載の歯科用治療椅子。
【請求項3】
前記歯科用治療椅子がさらにバックレストを有し、前記バックサポートが、前記バックレストに固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載の歯科用治療椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用治療椅子に関し、詳しくは、治療中の患者における不用意な体勢移動を抑制して、医療事故の発生を抑止する歯科用治療椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科用治療椅子は、術者が患者の治療を行う際に、バックレストを倒して治療をしやすくするが、例えば、感覚障害を有する自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ患者の場合は、治療中に興奮により暴れることがないように落ち着かせる必要があり、また、脳性麻痺等のために体幹が不安定な患者の場合には、歯科用資料椅子からの転落を防止する必要が生じる。
【0003】
このため、例えば、特許文献1では、基部シートと治療用椅子背もたれ部に装着するために基部シートに縫合された複数のベルトと、小児患者を治療用椅子に保持するために基部シートに縫合された肩ベルトと躯幹ベルトを備えた小児用患者の治療用椅子固定具が開示されており、診察及び治療等にかかる人手、時間を要することなく極めて容易に、迅速に、且つ充分に処置ができ、更に小児患者が一人で嫌がらずに治療が受けられるとされている。
【0004】
また、特許文献2には、ヘッドレストの両側に左右に開閉自在なサイドプレートを備え、さらにこれらを架橋固定するヘッドベルトを備えた頭部固定具と、肩部の動きを抑制する緊締ベルトを備えた歯科治療台装置が開示されており、心身障害者や子供の患者の頭部および/または両肩部を静止状態に抑制して歯科治療を実施できるとされている。
【0005】
さらに、テンプル・グランディンほか著「我、自閉症に生まれて」(1994)学研には、圧迫刺激により自閉症児・者の情緒が安定することが示されており、さらにまた、Edelson, S.M.,Edelson, M.G., Kerr, D.C.R., Grandin, T.,“Behavioral and physiological effects of deep pressure on children with autism : A pilot study evaluating the efficacy of Grandin‘s hug machine”, AJOT 53(2)145-152.1999.には、締め付け器を用いた圧迫により自閉症児の緊張と不安が減少することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】登録実用新案第3017832号公報
【文献】公開実用新案昭61-54827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示された椅子では、患者の体の無駄な動きを、単純にベルトで締め付けることによって抑制するものであり、背もたれ部と患者の肩および腕との間に空間が出来るため、腕に可動範囲が生じて抑制が不十分となり、また、感覚障害を有する自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ患者を落ち着かせる効果を期待することはできない。
【0008】
また、特許文献2に開始された歯科治療台装置では、頭部固定具は頭部を固定するものであって、体幹が不安定な患者の転落防止を期待できず、肩部の動きを抑制する緊締ベルトを用いる場合であっても、治療台と患者の肩および腕との間に空間が出来るため、腕に可動範囲が生じて抑制が不十分である。さらに、いずれを用いた場合であっても、感覚障害を有する自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ患者を落ち着かせる効果を期待することはできない。
【0009】
さらに、自閉症児・者に関する各研究書・論文には、圧迫により情緒、緊張、不安が改善されることは示されているが、歯科治療の場面への具体的な応用法についてはまったく記載されていない。
【0010】
本発明は、これらの実情に鑑みてなされたものであり、患者を側部から圧迫、固定することにより、感覚障害を有する自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ患者を落ち着かせて体の無駄な動きを抑制し、体幹が不安定な患者の転落を防止することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、バックシートと該バックシートの左右両端から延在するベルトとを有する歯科用治療椅子であって、前記バックシートは、患者の背中側に配置されるクッション部材を固着されたサポート部材からなり、該サポート部材は、中央に配置されるバックサポートと当該バックサポートの両側に左右回動自在に配置されているサイドサポートとからなることを特徴とするものである。
【0012】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記ベルトが、自由端側に締結部材を備える帯材からなり、任意の位置でベルトを相互に締結できることを特徴とするものである。
【0013】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2の発明において、前記歯科用治療椅子がさらにバックレストを有し、前記バックサポートが、前記バックレストに固定されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ベルトを患者の胸の前で締結してサイドサポートを患者側に回動させ患者の体を側部から圧迫、固定することにより、感覚障害を有する自閉症スペクトラム障害(ASD)を持つ患者を落ち着かせるとともに、体幹が不安定な患者の転落を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る歯科用治療椅子の一例を説明するための概略図である。
図2】本発明に係る歯科用治療椅子のバックシートの一例を示す概略構成図である。
図3】本発明に係る歯科用治療椅子を用いて患者を圧迫固定した状態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の歯科用治療椅子に係る好適な実施の形態について説明する。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0017】
図1は、本発明に係る歯科用治療椅子の一例を説明するための概略図である。歯科用治療椅子10は、基台20と、基台20に設けられたコンターシート(座席シート)30、バックレスト40、ヘッドレスト50およびレッグレスト60などからなる着座部を有している。
【0018】
また、バックレスト40の前部には、バックシート70が設けられている。このバックシート70は、サポート部材72とクッション部材71からなるが、クッション部材71はサポート部材の患者の背中側に配置されるとともに、サポート部材72に固着されている。さらに、このサポート部材72は、中央に配置されるバックサポート72aとこのバックサポートの両側に左右回動自在に配置されているサイドサポート72bとから構成されている。
【0019】
図2は、本発明に係る歯科用治療椅子のバックシートの一例を示す概略構成図である。図2(a)(b)で示すバックシート70は、患者の背中側に配置されるクッション部材71を固着したサポート部材72から構成されている。
サポート部材72にクッション部材71を固着する場合、クッション部材71の表面にサポート部材72を接着等により固着してもよいが、クッション部材71の中にサポート部材72が埋設させて固着してもよい。また、クッション部材71は、全体が一体でなくてもかまわない。
【0020】
いずれの場合であっても、サポート部材72を構成するバックサポート72aおよびサイドサポート72bは、板状で変形しにくい素材、例えば金属、木材または硬質樹脂等から形成されていることが好ましい。
【0021】
また、クッション部材71はスポンジ等の変形が容易で患者に苦痛を与えない柔らかい素材から形成されており、サポート部材72に固着されている。このため、バックサポート72aの両側にサイドサポート72bを配置すれば、おのずからバックサポート72aに対してサイドサポート72bが左右に回動自在となるが、バックサポート72aとサイドサポート72bの両者を、ヒンジや可撓性を有する連結部材により連結してしてもよい。
【0022】
バックシート70は、クッション部材71とサポート部材72全体をカバー90で包み込むことにより一体性を高めるとともに、患者からの見栄えをよくしている。カバー90は、皮革、合成樹脂または布等の素材から形成することができる。
【0023】
バックシート70をバックレスト40に固定する際には、少なくともバックサポート72aがバックレスト40に対して固定するように、羅合、嵌合等の方法により強固に結合させておくことが好ましい。これに対し、サイドサポート72bは、左右に回動自在となるよう、バックレスト40に対して直接固定しない構成となっている。
【0024】
バックシート70の左右両端にはそれぞれベルト80が長手方向を横向きにして結合、すなわち延在している。それぞれのベルト80は、帯材81と帯材81の自由端側に設けられた締結部材82とから構成されている。帯材81は、例えば合成繊維のように長手方向に伸縮せず、可撓性を有する帯状の素材から構成することが好ましい。また、締結部材82は、面ファスナーのように左右の帯材81の自由端同士を任意の位置で相互に簡便に締結して患者を抑制できる構成とすることが好ましいが、ベルトの長さを調節することができれば、ボタン、フックその他の長さ調節機構を用いるものであってかまわない。
【0025】
図2(c)に示すように、バックシート70を使用しないときには、ベルト80をバックレスト40の後ろ側に巻回して、締結部材82を用いてバックレスト40の外側で締結することができる。
【0026】
図2(d)に示すように、バックシート70を使用する場合には、ベルト80をコンターシート30に腰かけている患者の胴回りに巻き付けると、左右のサイドサポート72bがベルト80に引き寄せられるように患者側に回動する。この際、クッション部材71は、バックサポート72aとサイドサポート72bの境界部に対応する位置で屈曲して患者の体の横側に当接するため、サイドサポート72bがクッション部材71を介して患者の体の側面を圧迫し、体の動きを抑制することとなる。
【0027】
図3のように、ベルト80をコンターシート30に腰かけている患者の胴回りに巻き付けると、左右のサイドサポート72bが患者を横から挟むように回動し、クッション部材71が患者の体の横側に当接するため、患者の体の側面を圧迫、抑制するため、患者が自閉症児・者の場合には、情緒が安定し、緊張と不安が和らぐ効果がある。
また、患者が脳性麻痺等により体幹が不安定であっても、転落を防止することができる。
【0028】
上述の実施形態では、ベルト80は左右に1本ずつ一対で構成しているが、上下に分割して2対以上の構成にしてもよい。この場合は、患者の体の形状に応じて、ベルト80ごとにより適切な位置で締結して患者を体側から圧迫し抑制することが可能となる。
【0029】
また、上述の実施形態ではバックサポート72aの両側に、それぞれ1つのサイドサポート72bを設けたが、サイドサポート72bを例えば縦方向に2分割し、バックサポート72aの両側に、それぞれ2つずつのサイドサポート72bを設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0030】
10…歯科用治療椅子、20…基台、30…コンターシート、40…バックレスト、50…安頭台、60…レッグレスト、70…バックシート、71…クッション部材、72…サポート部材、72a…バックサポート、72b…サイドサポート、80…ベルト、81…帯材、82…締結部材、90…カバー。
図1
図2
図3