(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料に濃醇さと味のマイルド感を付与する方法
(51)【国際特許分類】
C12C 5/02 20060101AFI20220419BHJP
C12G 3/02 20190101ALI20220419BHJP
C12C 11/00 20060101ALI20220419BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C12C5/02
C12G3/02
C12C11/00 A
A23L2/00 B
(21)【出願番号】P 2017093137
(22)【出願日】2017-05-09
【審査請求日】2020-05-01
(73)【特許権者】
【識別番号】303040183
【氏名又は名称】サッポロビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【氏名又は名称】坂西 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100135242
【氏名又は名称】江守 英太
(72)【発明者】
【氏名】新開 哲朗
(72)【発明者】
【氏名】松井 雄太
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-028007(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038437(WO,A1)
【文献】橋本直樹,ビールのはなし Part2,技報堂出版株式会社,1998年04月05日,pp.43-57
【文献】サッポロビール株式会社,発泡酒「サッポロ 麦100%生搾り」新発売について ~初めての協働契約栽培原料100%新商品、しかも糖質50%オフ~,NEWS RELEASE ,04008,2004年01月21日
【文献】100%Mugi Namashibori、(ID#)267267、Mintel GNPD 、 [online]、2004年4月,[検索日:2021.02.25],<URL:https://www.gnpd.com/sinatra/recordpage/267267/?utm_source=fed_search>
【文献】T. Hoki et al.,Breeding of Lipoxygenase-1-less Malting BarleyVariety CDC PolarStar and Effect of Lipoxygenase-1-less Trait on Beer Quality at Pilot and Commercial Scale Brewing,BrewingScience,Vol. 66,2013年,pp.37-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12C、C12G、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料中の麦原料の比率が70質量%以上であり、麦原料が大麦及び麦芽を含み、
原料中の麦芽の比率が50質量%以上であり、糖質含有量が
0.5g/100ml以上2.5g/100ml未満である、ビールテイスト飲料。
【請求項2】
原料中の大麦の比率が1質量%以上である、請求項1に記載のビールテイスト飲料。
【請求項3】
カプロン酸エチル濃度が0.8ppm以下である、請求項1
又は2に記載のビールテイスト飲料。
【請求項4】
原料中の麦原料の比率が70質量%以上であり、かつ麦芽及び大麦を含む麦原料を用い、
原料中の麦芽の比率が50質量%以上であり、
ビールテイスト飲料の糖質含有量が
0.5g/100ml以上2.5g/100ml未満となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項5】
麦原料として大麦及び麦芽を用いること、及び糖質含有量が
0.5g/100ml以上2.5g/100ml未満となるように調整することを含む、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であ
り、原料中の麦芽の比率が50質量%以上であるビールテイスト飲料に、濃醇さと味のマイルド感を付与する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビールテイスト飲料、ビールテイスト飲料の製造方法、及びビールテイスト飲料に濃醇さと味のマイルド感を付与する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性の多様化から、ビール、発泡酒、リキュールなどのビールテイスト飲料が広く消費されている。このようなビールテイスト飲料の消費拡大に伴って、ビールテイスト飲料の香味を向上させる方法が種々報告されている。例えば特許文献1には、ビールテイスト飲料のキレを維持しつつ、コクを増強する方法として、水溶性食物繊維と、一定量の高甘味度甘味料を含有するビールテイスト飲料が開示されている。
【0003】
一方で、近年の健康志向の上昇から、糖質含有量の低いビールテイスト飲料の需要が高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低糖質でありながら、濃醇さと味のマイルド感を併せ持つビールテイスト飲料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であり、麦原料が大麦及び麦芽を含み、糖質含有量が2.5g/100ml未満である、ビールテイスト飲料を提供する。本発明のビールテイスト飲料は、上記構成を備えることにより、濃醇さと味のマイルド感を有している。
【0007】
上記ビールテイスト飲料は、原料中の大麦の比率が1質量%以上であることが好ましい。原料中の大麦の比率が上記範囲であることにより、ビールテイスト飲料の濃醇さと味のマイルド感がより良好なものとなる。
【0008】
上記ビールテイスト飲料において、原料中の麦芽の比率が50質量%以上である場合、カプロン酸エチル濃度が0.8ppm以下であることが好ましい。これにより、ビールテイスト飲料の味の冗長さ(味をだらだらと感じ続けること)がより低減される。
【0009】
上記ビールテイスト飲料において、原料中の麦芽の比率が50質量%未満である場合、アセトアルデヒド濃度が15ppm以下であることが好ましい。これにより、ビールテイスト飲料の未熟的な香り(熟していない果実の有する青臭い香り)がより低減される。
【0010】
本発明はまた、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であり、かつ麦芽及び大麦を含む麦原料を用い、ビールテイスト飲料の糖質含有量が2.5g/100ml未満となるように調整することを含む、ビールテイスト飲料の製造方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、麦原料として大麦及び麦芽を用いること、及び糖質含有量が2.5g/100ml未満となるように調整することを含む、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であるビールテイスト飲料に、濃醇さと味のマイルド感を付与する方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低糖質でありながら、濃醇さと味のマイルド感を併せ持つビールテイスト飲料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本明細書において「原料」とは、酒税法(平成二八年三月三一日法律第一六号)に基づいて決定されたビールテイスト飲料の製造に用いられる全原料のうち、水及びホップ以外のものを意味する。
【0015】
本明細書において「約」とは、±3%の範囲内の数値を示す。
【0016】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であり、麦原料が大麦及び麦芽を含み、糖質含有量が2.5g/100ml未満である。
【0017】
本明細書において、ビールテイスト飲料とは、ビール様の香味を有する飲料を意味する。ビールテイスト飲料は、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であってもよく、アルコール度数が1v/v%未満であるノンビールテイストアルコール飲料であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、ビールテイスト飲料としてのアルコール感を担保する観点から、アルコール度数が1v/v%以上であるビールテイストアルコール飲料であることが好ましい。なお、本明細書においてアルコールとは、特に言及しない限りエタノールを意味する。
【0018】
ビールテイストアルコール飲料としては、例えば、酒税法(平成二八年三月三一日法律第一六号)上のビール、発泡酒、その他の発泡性酒類、リキュールに分類されるものが挙げられる。
【0019】
ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の下限は、例えば、1v/v%以上、2v/v%以上、3v/v%以上、4v/v%以上、又は5v/v%以上であってもよい。また、ビールテイストアルコール飲料のアルコール度数の上限は、例えば、20v/v%以下、15v/v%以下、10v/v%以下、9v/v%以下、8v/v%以下、7v/v%以下、6v/v%以下、5v/v%以下、4v/v%以下、又は3v/v%以下であってもよい。
【0020】
ノンアルコールビールテイスト飲料は、実質的にアルコールを含有しないビールテイスト飲料である。ノンアルコールビールテイスト飲料のアルコール度数は、1v/v%未満であればよく、0.5v/v%以下であってよく、0.1v/v%以下であってよく、0.005v/v%未満(0.00v/v%)であってもよい。
【0021】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であってもよく、非発泡性であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、発泡性であることが好ましい。本明細書において発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)以上であることをいい、非発泡性とは、20℃におけるガス圧が0.049MPa(0.5kg/cm2)未満であることをいう。発泡性とする場合、ガス圧の上限は0.294MPa(3.0kg/cm2)程度であってもよく、0.235MPa(2.4kg/cm2)程度であってもよい。
【0022】
本明細書において麦原料とは、麦又は麦加工物をいう。麦としては、例えば、大麦、小麦、ライ麦、カラス麦、オート麦、ハト麦、エン麦が挙げられる。麦加工物としては、例えば、麦エキス、麦芽が挙げられる。麦エキスは、麦から糖分及び窒素分を含む麦エキス分を抽出することにより得られる。麦芽は麦を発芽させることにより得られる。麦芽にはモルトエキスが含まれる。モルトエキスは、麦芽から糖分及び窒素分を含むエキス分を抽出することにより得られる。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、麦原料として大麦及び麦芽を含む。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、麦原料として大麦及び麦芽に加えて他の麦原料を含んでもよいが、麦原料として大麦及び麦芽のみを含むことが好ましい。
【0023】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であればよく、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、99質量%以上、又は100質量%であってよい。原料中の麦原料の比率が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の濃醇さと味のマイルド感がより良好なものとなる。
【0024】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の大麦の比率が1質量%以上であることが好ましい。原料中の大麦の比率が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の濃醇さと味のマイルド感がより良好なものとなる。原料中の大麦の比率は、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、50質量%以上、66質量%以上、67質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。
【0025】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が1質量%以上、3質量%以上、5質量%以上、10質量%以上、20質量%以上、25質量%以上、50質量%以上、66質量%以上、67質量%以上、70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、95質量%以上、又は99質量%以上であってよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料中の麦芽の比率が99質量%以下、95質量%以下、90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下、67質量%以下、66質量%以下、50質量%以下、50質量%未満、25質量%以下、25質量%未満、20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、3質量%以下、又は1質量%以下であってよい。
【0026】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、原料が麦原料以外のものを含んでもよい。麦原料以外の原料は、例えば、とうもろこし、米類、コウリャン等の穀類;馬鈴薯、サツマイモ等のイモ類;大豆、エンドウ等の豆類等の植物原料であってよく、スターチ、グリッツ、液糖等の糖質原料(糖類)であってもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、より濃醇な味わいを担保する観点から、原料としてとうもろこしを用いないことが好ましい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、甘みのべとつきを抑える観点から、原料として糖質原料(糖類)を用いないことが好ましい。さらに、本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、より濃醇な味わいを担保する観点、甘みのべとつきを抑える観点から、原料としてとうもろこし及び糖質原料(糖類)を用いないことが好ましい。
【0027】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、糖質含有量が2.5g/100ml未満である。本明細書において糖質とは、食品の栄養表示基準(平成15年厚生労働省告示第176号)に基づく糖質をいう。具体的には、糖質は、食品から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分を除いたものをいう。ビールテイスト飲料中の糖質含有量は、当該ビールテイスト飲料の重量から、タンパク質、脂質、食物繊維、灰分、水分及びアルコール分の量を控除することにより算定される。タンパク質、脂質、灰分、水分の量は、栄養表示基準に掲げる方法により測定する。アルコール分の量は、水分量とともに測定することができる。具体的には、タンパク質の量は改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法で測定し、脂質の量はエーテル抽出法、クロロホルム・メタノール混液抽出法、ゲルベル法、酸分解法又はレーゼゴットリーブ法で測定し、食物繊維の量は高速液体クロマトグラフ法又はプロスキー法で測定し、灰分の量は酢酸マグネシウム添加灰化法、直接灰化法又は硫酸添加灰化法で測定し、水分及びアルコール分の量はカールフィッシャー法、乾燥助剤法、減圧加熱乾燥法、常圧加熱乾燥法又はプラスチックフィルム法で測定することができる。
【0028】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の糖質含有量は、2.0g/100ml以下、1.8g/100ml以下、1.6g/100ml以下、又は1.5g/100ml以下であってもよい。また、本実施形態に係るビールテイスト飲料の糖質含有量は、0.1g/100ml以上、0.2g/100ml以上、0.3g/100ml以上、0.5g/100ml以上、1.0g/100ml以上、1.2g/100ml以上、又は1.3g/100ml以上であってもよい。糖質含有量は、酵素(特に多糖分解酵素)の添加量、原料の種類及び使用量等によって調整することができる。
【0029】
本実施形態に係るビールテイスト飲料において、原料中の麦芽の比率が50質量%以上である場合、カプロン酸エチルの濃度は0.8ppm以下であることが好ましい。カプロン酸エチルの濃度が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の味の冗長さがより低減される。本実施形態に係るビールテイスト飲料のカプロン酸エチルの濃度は、0.5ppm以下であることがより好ましく、0.4ppm以下であることが更に好ましく、0.3ppm以下であることが特に好ましい。カプロン酸エチルの濃度は、0.1ppm以上、又は0.2ppm以上であってよい。カプロン酸エチルの濃度は、酵素添加量、原料の種類及び使用量、発酵条件等によって調整することができる。
【0030】
カプロン酸エチルの濃度は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.22 低沸点香気成分」に記載の方法によって測定することができる。
【0031】
本実施形態に係るビールテイスト飲料において、原料中の麦芽の比率が50質量%未満である場合、アセトアルデヒドの濃度は15ppm以下であることが好ましい。アセトアルデヒドの濃度が上記範囲であると、ビールテイスト飲料の未熟的な香り(熟していない果実の有する青臭い香り)がより低減される。本実施形態に係るビールテイスト飲料のアセトアルデヒドの濃度は、13ppm以下、10ppm以下、7ppm以下、5ppm以下、3ppm以下、又は2ppm以下であることがより好ましい。アセトアルデヒドの濃度は、0.1ppm以上、0.5pppm以上、1ppm以上、又は2ppm以上であってよい。アセトアルデヒドの濃度は、酵素添加量、原料の種類及び使用量、発酵条件等によって調整することができる。
【0032】
アセトアルデヒドの濃度は、改訂BCOJビール分析法(公益財団法人日本醸造協会発行、ビール酒造組合国際技術委員会〔分析委員会〕編集、2013年増補改訂)の「8.22 低沸点香気成分」に記載の方法によって測定することができる。
【0033】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の食物繊維含有量は、1.0g/100ml未満、0.7g/100ml未満、0.5g/100ml未満、0.3g/100ml未満、又は0.2g/100ml未満であってよい。食物繊維含有量は、高速液体クロマトグラフ法又はプロスキー法で測定することができる。食物繊維含有量は、原料の種類及び使用量等によって調整することができる。
【0034】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、植物原料由来の食物繊維のほか、原料として別途用いた食物繊維を含んでいてもよい。このような食物繊維としては、例えば難消化性デキストリンが挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料においては、後味の質(後味がしっかりしたものであり、かつ渋味が少ないものであること)がより良好なものとなる観点から、原料として食物繊維を用いないことが好ましい。
【0035】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酵母エキスを原料として使用してもよいが、酵母エキス特有の香りをビールテイスト飲料に持ち込まない観点から、原料として酵母エキスを使用していないことが好ましい。
【0036】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、高甘味度甘味料を含んでいてもよい。高甘味度甘味料としては、例えば、人工甘味料、ステビア等が挙げられる。人工甘味料としては、例えば、アセスルファムカリウム、スクラロース、アスパルテーム、アドバンテーム、ネオテーム等が挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、人工甘味料特有の味質をビールテイスト飲料に持ち込まない観点から、人工甘味料を含まないことが好ましい。
【0037】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、着色料を含んでいてもよい。着色料としては、例えば、カラメル色素、クチナシ色素、果汁色素、野菜色素、合成色素等が挙げられる。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、着色料特有の味質をビールテイスト飲料に持ち込まない観点から、着色料を含まないことが好ましい。
【0038】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、上述した人工甘味料、着色料に加えて、飲料に通常配合される酸化防止剤、香料、酸味料、塩類等の添加剤を含んでいてもよい。本実施形態に係るビールテイスト飲料は、酸化防止剤、香料、酸味料、塩類を含まないことが好ましい。
【0039】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、容器に入れて提供することができる。容器は密閉できるものであればよく、金属製(アルミニウム製又はスチール製など)のいわゆる缶容器・樽容器を適用することができる。また、容器は、ガラス容器、ペットボトル容器、紙容器、パウチ容器等を適用することもできる。容器の容量は特に限定されるものではなく、現在流通しているどのようなものも適用することができる。なお、気体、水分及び光線を完全に遮断し、長期間常温で安定した品質を保つことが可能な点から、金属製の容器を適用することが好ましい。
【0040】
本実施形態に係るビールテイスト飲料の製造方法は、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であり、かつ大麦及び麦芽を含む麦原料を用い、ビールテイスト飲料の糖質含有量が2.5g/100ml未満となるように調整することを含む。
【0041】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、例えば、大麦及び麦芽を含む麦原料、水、並びに必要に応じて酵素、各種添加剤を混合して麦原料を糖化し、糖化液を濾過して得られた麦汁に、必要に応じて、ホップの添加、煮沸、冷却等を行って発酵前液を得る仕込工程、発酵前液にビール酵母を添加し、必要に応じて酵素を添加して発酵させる発酵工程を経ることで製造することができる。ビールテイスト飲料中の糖質含有量は、例えば、上記仕込工程及び/又は発酵工程において、酵素(特に多糖分解酵素)の添加量、原料の種類及び使用量等を適宜調整することによって、2.5g/100ml未満となるように調整することができる。
【0042】
上記仕込工程及び/又は発酵工程で添加する多糖分解酵素としては、例えば、α-アミラーゼ、β-アミラーゼ、プルラナーゼ、グルコアミラーゼ、α-グルコシダーゼ、イソアミラーゼ、セルラーゼ(β-グルカナーゼを含む)、ヘミセルラーゼが挙げられる。多糖分解酵素は、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。多糖分解酵素の添加量は、使用する酵素の種類、酵素活性、原料の種類等に応じて適宜調節することができる。多糖分解酵素の添加量は、例えば、原料の総量に対して0.001質量%以上、0.01質量%以上、0.05質量%以上、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、1.0質量%以上、又は2.0質量%以上であってよく、5.0質量%以下、3.0質量%以下、1.0質量%以下、0.5質量%以下、0.4質量%以下、0.3質量%以下、又は0.1質量%以下であってよい。
【0043】
上記仕込工程で添加するプロテアーゼとしては、例えば、酸性プロテアーゼ、中性プロテアーゼ、アルカリプロテアーゼ、カルボキシペプチダーゼ、アミノペプチダーゼ、エキソ型プロテアーゼ、エンド型プロテアーゼが挙げられる。また、エンド型及びエキソ型両方の性質を有するプロテアーゼが挙げられる。プロテアーゼは、1種を単独で使用してもよく、複数種を併用してもよい。プロテアーゼの添加量は、使用する酵素の種類、酵素活性、原料の種類等に応じて適宜調節することができる。
【0044】
仕込工程で添加するホップとしては、例えば、乾燥ホップ、ホップペレット、ホップエキスを用いることができる。ホップは、ローホップ、ヘキサホップ、テトラホップ、イソ化ホップエキス等のホップ加工品であってもよい。
【0045】
本実施形態に係るビールテイストアルコール飲料の製造方法は、上記発酵工程で得られた発酵後液に対して濾過、加熱(殺菌)、アルコールの添加、カーボネーション等を行う発酵後工程を含んでもよい。
【0046】
発酵後工程で添加するアルコールとしては、例えば、スピリッツを用いることができ、中でも大麦スピリッツが好ましい。一実施形態として、ビールテイスト飲料はスピリッツ(好ましくは、大麦スピリッツ)を含んでもよい。発酵後工程で添加するアルコールの量は、発酵後液の総量に対して1v/v%未満、0.5v/v%未満、0.1v/v%未満、又は0.05v/v%未満であってよい。
【0047】
本実施形態に係るノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、上記発酵工程を含まなくてもよい。また、本実施形態に係るノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、上記発酵工程において、発酵期間を短くしてアルコールの生成を抑制することを含んでもよく、上記発酵工程で得られた発酵後液を蒸留又は希釈することによりアルコールを除去又は低減させることを含んでもよい。さらに、本実施形態に係るノンアルコールビールテイスト飲料の製造方法は、上記仕込工程で得られた発酵前液(麦汁)又は実質的にアルコールを含有しない発酵後液に対して、濾過、加熱(殺菌)、カーボネーション等を行う工程を含んでもよい。
【0048】
本実施形態に係るビールテイスト飲料は、良好な濃醇さと味のマイルド感を有するという効果を奏する。したがって、本発明の一実施形態として、麦原料として大麦及び麦芽を用いること、及び糖質含有量が2.5g/100ml未満となるように調整することを含む、原料中の麦原料の比率が70質量%以上であるビールテイスト飲料に、良好な濃醇さと味のマイルド感を付与する方法が提供される。
【実施例】
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
〔試験例1:ビールテイスト飲料の製造及び評価(1)〕
(比較例1及び実施例1~3のビールテイスト飲料の製造)
表1に示す比率の大麦及び麦芽、水、並びに多糖分解酵素を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させ、比較例1及び実施例1~3のビールテイスト飲料を製造した。
【0051】
(実施例4及び5のビールテイスト飲料の製造)
表1に示す比率の大麦及び麦芽、水、多糖分解酵素並びにプロテアーゼを仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁にホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させ、実施例4及び5のビールテイスト飲料を製造した。
【0052】
(比較例3のビールテイスト飲料の製造)
表1に示す比率の大麦及び麦芽、水、並びに多糖分解酵素を仕込槽に投入し、常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を濾過して麦汁を得た。得られた麦汁に、糖類(原料中の比率約50質量%)、及びホップを添加して煮沸し、沈殿物を分離、除去した後、冷却した。得られた発酵前液(冷麦汁)にビール酵母を添加し、所定期間発酵させ、比較例3のビールテイスト飲料を製造した。
【0053】
(糖質量の算出)
上記製造した各ビールテイストアルコール飲料の水分、アルコール分、タンパク質、灰分の量をそれぞれ測定した。水分とアルコール分は常圧加熱乾燥法により測定した。タンパク質量は、改良デュマ法による全窒素(タンパク質)の定量法により測定した。灰分量は、直接灰化法により測定した。ビールテイストアルコール飲料中の脂質量を0g/100ml、食物繊維量を0g/100mlとみなし、ビールテイストアルコール飲料の重量から、水分、アルコール分、タンパク質量及び灰分量を引いた値をビールテイストアルコール飲料の糖質量(g/100ml)として算定した。結果を表1に示す。
【0054】
(官能評価)
上記製造した各ビールテイストアルコール飲料及び市販のビールテイスト飲料(比較例2)について、訓練された4名のパネルにより官能評価を行った。官能評価は、濃醇さ及び味のマイルド感の評価項目について、1~5の5段階で行い、その平均値を評価スコアとした。濃醇さ及び味のマイルド感ともに、数値が高いほど良好に感じられることを示す。結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
原料中に大麦を含まない市販のビールテイスト飲料(比較例2)では、濃醇さ及び味のマイルド感ともに不十分であった。また、原料中の麦原料比率が100質量%であり、かつ原料中の麦芽比率が100質量%である比較例1のビールテイスト飲料では、味のマイルド感に優れている一方、濃醇さにおいては不十分であった。これに対し、原料中の麦原料比率が100質量%であり、かつ麦原料中に大麦を配合した実施例1~5のビールテイスト飲料では、良好な濃醇さと味のマイルド感を併せ有していた。なお、原料中に大麦を含むものの、原料中の麦原料比率が50質量%である比較例3のビールテイスト飲料では、原料中の麦原料比率が100質量%である実施例1~5のビールテイスト飲料と比較して、濃醇さ及び味のマイルド感ともに劣る結果となった。
【0057】
〔試験例2:ビールテイスト飲料の製造及び評価(2)〕
実施例2のビールテイスト飲料に、飲料中のカプロン酸エチルが表2に示す濃度となるようにカプロン酸エチルを適宜添加し、実施例6~8のビールテイスト飲料を調製した。調製したビールテイスト飲料について、試験例1と同様に官能評価を行った。また、評価項目として味の冗長さを加えて評価した。味の冗長さの評価は1~5の5段階で行い、その平均値を評価スコアとした。味の冗長さとは、味をだらだらと感じ続けることであり、数値が高いほど味の冗長さがより感じられないことを示す。結果を表2に示す。
【0058】
【0059】
カプロン酸エチル濃度が0.5ppm以下である実施例2、6及び7のビールテイストアルコール飲料は、濃醇さ及び味のマイルド感ともに良好であり、味の冗長さもあまり感じられなかった。一方、カプロン酸エチル濃度が1.0ppmである実施例8のビールテイストアルコール飲料では、実施例2、6及び7と比較して味の冗長さがやや強く感じられるものの、濃醇さ及び味のマイルド感ともに良好であった。
【0060】
〔試験例3:ビールテイスト飲料の製造及び評価(3)〕
実施例5のビールテイスト飲料に、飲料中のアセトアルデヒドが表3に示す濃度となるようにアセトアルデヒドを適宜添加し、実施例9~11のビールテイスト飲料を調製した。調製したビールテイスト飲料について、試験例1と同様に官能評価を行った。また、評価項目として未熟的な香りを加えて評価した。未熟的な香りの評価は1~5の5段階で行い、その平均値を評価スコアとした。未熟的な香りとは、熟していない果実の有する青臭い香りであり、数値が高いほど未熟的な香りをより感じないことを示す。結果を表3に示す。
【0061】
【0062】
アセトアルデヒド濃度が10ppm以下である実施例5、9及び10のビールテイストアルコール飲料は、濃醇さ及び味のマイルド感ともに良好であり、未熟的な香りもあまり感じられなかった。一方、アセトアルデヒド濃度が20ppmである実施例11のビールテイストアルコール飲料では、実施例5、9及び10と比較して未熟的な香りがやや強く感じられるものの、濃醇さ及び味のマイルド感ともに良好であった。