(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ポリビニルアセタール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 29/14 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
C08L29/14
(21)【出願番号】P 2017191710
(22)【出願日】2017-09-29
【審査請求日】2020-05-18
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 陽介
(72)【発明者】
【氏名】前田 貴之
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-136796(JP,A)
【文献】特開2016-079236(JP,A)
【文献】特開2012-144660(JP,A)
【文献】特開2015-025042(JP,A)
【文献】特開2015-088487(JP,A)
【文献】特開2015-141883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアセタール樹脂を含有す
るポリビニルアセタール樹脂組成物であって、
前記ポリビニルアセタール樹脂は、下記式(4)で表されるエチレンオキサイド基を有する構成単位を含み、水酸基量が50.6モル%以上、98.6モル%以下である
ことを特徴とするセラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【化1】
式(4)中、R
2は、エチレンオキサイド基を有する基を表す。
【請求項2】
ポリビニルアセタール樹脂の水酸基量が、71モル%以上、98.6モル%以下であることを特徴とする請求項1記載のセラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
ポリビニルアセタール樹脂は、エチレンオキサイド基を有する構成単位を0.1~10モル%含有することを特徴とする請求項1又は2記載のセラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
ポリビニルアセタール樹脂は、重合度が250~4000であることを特徴する請求項1、2又は3記載のセラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
ポリビニルアセタール樹脂は、アセタール化度が0.0001モル%以上、50モル%未満であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のセラミックグリーンシート用ポリビニルアセタール樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可塑剤の添加を抑制した場合でも、高い柔軟性を有する成形体を作製することができ、樹脂基材への接着性、貯蔵安定性に優れる水系ポリビニルアセタール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアセタール樹脂は、強靭性、造膜性、顔料等の無機粉体や有機粉体の分散性、塗布面への接着性に優れていることから、種々の用途に利用されている。
具体的なポリビニルアセタール樹脂の用途としては、例えば、インクやコンデンサ等のバインダーが知られており、なかでも積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品の材料として多く用いられている。
【0003】
このような積層電子部品は、一般的には次のような工程を経て製造されている。まず、ポリビニルアセタール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等の有機バインダー樹脂を、有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物を、離型処理したPETフィルムまたはSUSプレート等の支持体面に流延成形する。これを加熱等により溶剤等の揮発分を留去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0004】
得られたセラミックグリーンシート上に、パラジウム、銀、ニッケル等の導電材を含有する電極層用ペーストを所定パターンで印刷する。得られた印刷後のセラミックグリーンシートを複数枚重ねて積層し、プレス切断工程を経てセラミックグリーンチップを得る。そして、得られたセラミックグリーンチップ中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面等に外部電極を形成する工程を経て積層電子部品を製造する。
【0005】
近年、積層電子部品については更なる小型化、大容量化が求められている。積層セラミックコンデンサの薄層化に伴い、セラミックグリーンシートについても、より一層の多層化、薄層化が求められており、シート強度が必要となっている。
セラミックグリーンシートに適度な強度を得るために、ポリビニルアセタール樹脂と、アクリル樹脂を含有する樹脂組成物をバインダーとして用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、アクリル樹脂との相溶性に優れた変性ポリビニルアセタール樹脂が記載されている。また、特許文献2には、エチルセルロース、(メタ)アクリル樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群より選択される少なくとも1種と、特定の有機化合物と、無機微粒子と、有機溶剤とを含有する無機微粒子分散ペーストが記載されており、表面平滑性に優れた焼結層を形成できることが記載されている。
【0006】
一方、近年の環境問題に対する関心の高まりに伴い、有機溶剤は、環境汚染、毒性、爆発事故等の危険性等の問題を抱えていることから、セラミックグリーンシートの製造において、有機溶剤の代わりに水を含有する溶媒を用いることが提案されている。そのため、セラミックグリーンシートに混合するバインダーとしては、水を含有する媒体に溶解させることができる水溶性のバインダーが求められている。
【0007】
しかしながら、水溶性のバインダーとしてポリビニルアセタール樹脂を用いてセラミックグリーンシートを製造した場合、水素結合力が強いため、シートの柔軟性が低下するという問題があった。
これに対して、可塑剤を添加することでシートの柔軟性を確保することが行われているが、可塑剤を添加した場合、ブリードによる不良品率の増加や、製造工程が煩雑になるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2012-241043号公報
【文献】国際公開第2011/016442号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、可塑剤の添加を抑制した場合でも、高い柔軟性を有する成形体を作製することができ、樹脂基材への接着性、貯蔵安定性に優れる水系ポリビニルアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ポリビニルアセタール樹脂を含有する水系ポリビニルアセタール樹脂組成物であって、前記ポリビニルアセタール樹脂は、エチレンオキサイド基を有する構成単位を含む水系ポリビニルアセタール樹脂組成物である。
以下に本発明を詳述する。
【0011】
本発明者らは、鋭意検討の結果、水系バインダーとして、エチレンオキサイド基を有する構成単位を含むポリビニルアセタール樹脂を用いることで、可塑剤の添加を抑制した場合でも、高い柔軟性を有する成形体を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、エチレンオキサイド基を有する構成単位を含む。
上記エチレンオキサイド基を有する構成単位としては、下記式(4)で表される構成単位であることが好ましい。
下記式(4)で表される構成単位を有することで、ポリビニルアセタール樹脂を製膜したフィルムの柔軟性が向上するという利点がある。
【0013】
【化1】
式(4)中、R
2は、エチレンオキサイド基を有する基を表す。
【0014】
上記式(4)で表される構成単位としては、例えば、ポリエチレングリコール等の複数のエチレンオキサイド基を構成単位内に有するもの、またエチレングリコール単位を単独で構成単位内に有するもの、また非連続的に複数個のエチレングリコール単位やポリエチレングリコール単位に有するもの等が挙げられる。
上記式(4)で表される構成単位は、下記式(5)で表されるエチレンオキサイド基を有する構成単位であることが好ましい。
【0015】
【化2】
式(5)中、R
3及びR
4は、C及びOからなる群より選択される少なくとも1種を有する連結基又は単結合を表し、nは整数を表す。
【0016】
上記R3は、C及びOからなる群より選択される少なくとも1種を有する連結基又は単結合である。上記R3は炭素数が1~10のアルキレン基、もしくはカルボニル基が好ましい。上記R3の炭素数が上記範囲内であることで、エチレンオキサイド構成単位が主鎖から大きく離れることがなく、水酸基とエチレンオキサイド単位の酸素原子が相互作用を及ぼすため、効果的にエチレンオキサイドが拡がることが出来る。
上記R3としては、例えば、メチレン基、エチレン基、カルボニル基、エーテル基等が挙げられる。また、上記R3は単結合であってもよい。上記R4は、C及びOからなる群より選択される少なくとも1種を有する連結基又は単結合である。上記R4は炭素数が1~10のアルキレン基、もしくはカルボニル基が好ましい。上記R4としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、カルボニル基、エーテル基等が挙げられる。また、上記R4は単結合であってもよい。
更に、エチレンオキサイドの繰り返し数である整数nは特に限定されないが、2~50が好ましく、5~20がより好ましい。エチレンオキサイドの繰り返し数が上記範囲内であることで、貯蔵安定性の向上、およびポリビニルアセタール樹脂を製膜したフィルムに柔軟性を付与することが可能となる。
【0017】
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記エチレンオキサイド基を有する構成単位の含有量(エチレンオキサイド単位量)の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は10モル%である。上記エチレンオキサイド単位量を0.1モル%以上とすることで高い柔軟性を付与することができる。上記エチレンオキサイド単位量を10モル%以下とすることで水素結合力が強くなり貯蔵安定性を向上することができる。上記含有量のより好ましい下限は0.2モル%、より好ましい上限は8.0モル%である。
【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、水酸基を有する構成単位、アセチル基を有する構成単位、アセタール基を有する構成単位を有する。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、上記水酸基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記水酸基を有する構成単位の含有量(水酸基量)の好ましい下限は50.6モル%、好ましい上限は98.6モル%である。上記水酸基量を50.6モル%以上とすることで、水溶性を維持することができ、98.6モル%以下とすることで、貯蔵安定性を維持することができる。
上記水酸基量のより好ましい下限は54モル%であり、より好ましい上限は97モル%である。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、上記アセチル基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記アセチル基を有する構成単位の含有量(アセチル基量)の好ましい下限は0.2モル%、好ましい上限は15モル%である。上記アセチル基量を0.2モル%以上とすることで、貯蔵安定性を維持することができ、上記アセチル基量を15モル%以下とすることで、貯蔵安定性を維持することができる。上記アセチル基量のより好ましい下限は0.5モル%、より好ましい上限は12モル%である。
【0021】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、上記アセタール基を有する構成単位を有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記アセタール基を有する構成単位の含有量(アセタール化度)は0.0001モル%以上、50モル%未満であることが好ましい。上記アセタール化度を0.0001モル%以上とすることで、貯蔵安定性や柔軟性を向上させることができる。上記アセタール化度を50モル%未満とすることで、水溶性を維持することができる。より好ましくは2~45モル%である。
なお、本明細書において、アセタール化度とは、ポリビニルアルコールの水酸基数のうち、ブチルアルデヒドでアセタール化された水酸基数の割合のことである。また、アセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂のアセタール基が2個の水酸基からアセタール化されて形成されていることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を算出する。
【0022】
上記アセタール基は、アセトアルデヒド及びブチルアルデヒドでアセタール化することで得られたものであることが好ましい。
上記ポリビニルアセタール樹脂は、アセトアルデヒドでアセタール化されたアセトアセタール基の含有量(アセトアセタール化度、A)とブチルアルデヒドでアセタール化されたブチラール基の含有量(ブチラール化度、B)が下記の式(1)を満たすことが好ましい。下記の式(1)を満たすことで、水溶性を維持しつつ、ポリビニルアセタール樹脂を製膜したフィルムに柔軟性を付与することができる。
0.0001≦1/2(1.32/A+B2)≦33.4 (1)
【0023】
また、上記ポリビニルアセタール樹脂におけるアセトアルデヒドでアセタール化されたアセトアセタール基の含有量は0モル%以上、50モル%未満であることが好ましい。上記範囲内とすることで、水溶性を維持することができる。
更に、上記ポリビニルアセタール樹脂におけるブチルアルデヒドでアセタール化されたブチルアセタール基の含有量は0モル%以上、25モル%未満であることが好ましい。上記範囲内とすることで、水溶性を維持することができる。
【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂における上記水酸基量と、上記エチレンオキサイド単位量のモル%比[エチレンオキサイド単位量/水酸基量比]は0.002~1.10であることが好ましい。上記範囲内とすることで、水酸基による水素結合と、エチレンオキサイド基の可塑化効果のバランスが取れて、高い柔軟性を付与することができる。
上記エチレンオキサイド単位量/水酸基量比を0.002以上とすることで、柔軟性を付与することができる。また、上記エチレンオキサイド単位量/水酸基量比が1.10以下であることで、貯蔵安定性を維持することができる。上記エチレンオキサイド単位量/水酸基量比は、0.01~0.8であることがより好ましい。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂の重合度の好ましい下限は250、好ましい上限は4000である。上記重合度が250以上であることで、工業的に入手が容易となる。上記重合度が4000以下であることで、溶液粘度が適度なものとなり、工業的に製造することが可能となる。上記重合度のより好ましい下限は280、より好ましい上限は800である。
【0026】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ガラス転移温度が8~70℃であることが好ましい。
【0027】
本発明の水系ポリビニルアセタール樹脂組成物中の上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は40重量%である。上記ポリビニルアセタール樹脂の含有量を1重量%以上とすることで、接着力が充分なものとなり、40重量%以下であることで、溶液粘度が低く、ハンドリング性が良好な樹脂を得ることができる。より好ましくは5~30重量%、更に好ましくは10~25重量%である。
【0028】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化してなるものである。
特に、上記ポリビニルアセタール樹脂を製造する方法としては、上記式(4)で表される構成単位を予め有するポリビニルアルコールを用意し、その後アセタール化する方法、上記式(4)で表される構成単位を有しないポリビニルアルコールをアセタール化した後、上記式(4)で表される構成単位のR2に相当する部分を付加する方法等が挙げられる。
【0029】
上記式(4)で表される構成単位を有するポリビニルアルコールを作製する方法としては、例えば、オキシアルキレン基を含有するヒドロキシアルキルビニルエーテルと酢酸ビニルとを共重合した後、得られた共重合体のアルコール溶液に酸またはアルカリを添加してケン化する方法等が挙げられる。また、上記ヒドロキシアルキルビニルエーテルのほか、ジエチレングリコールビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル等のポリ(エチレングリコール)ビニルエーテルを使用してもよい。
また、上記式(4)で表される構成単位のR2に相当する部分を付加する方法としては、例えば、上記アルキルビニルエーテルの種類を変更する方法等が挙げられる。
【0030】
上記式(4)で表される構成単位を有しないポリビニルアルコール(以下、単にポリビニルアルコールともいう)は、例えば、ビニルエステルとエチレンの共重合体をケン化することにより得ることができる。上記ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル等が挙げられる。なかでも、経済性の観点から酢酸ビニルが好適である。
【0031】
上記ポリビニルアルコールは、本発明の効果を損なわない範囲で、エチレン性不飽和単量体を共重合したものであってもよい。上記エチレン性不飽和単量体としては特に限定されず、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等が挙げられる。また、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸及びそのナトリウム塩等が挙げられる。更に、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、臭化ビニル、フッ化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、ビニルスルホン酸ナトリウム、アリルスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とエチレンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端変性ポリビニルアルコールも用いることができる。
【0032】
上記ポリビニルアルコールは、上記ビニルエステルとα-オレフィンとを共重合した共重合体をケン化したものであってもよい。また、更に上記エチレン性不飽和単量体を共重合させ、エチレン性不飽和単量体に由来する成分を含有するポリビニルアルコールとしてもよい。また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸等のチオール化合物の存在下で、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体とα-オレフィンを共重合し、それをケン化することによって得られる末端ポリビニルアルコールも用いることができる。上記α-オレフィンとしては特に限定されず、例えば、メチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、ペンチレン、へキシレン、シクロヘキシレン、シクロヘキシルエチレン、シクロヘキシルプロピレン等が挙げられる。
【0033】
本発明の水系ポリビニルアセタール樹脂組成物は、溶媒を含有する。
上記溶媒としては、上記ポリビニルアセタール樹脂を溶解させることができるものであれば特に限定されず、例えば、水のほか、イソプロピルアルコール、メタノール、エタノール等が挙げられる。
上記溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の水系ポリビニルアセタール樹脂組成物中の溶媒の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は90重量%である。
【0034】
本発明の水系ポリビニルアセタール樹脂組成物には、上述したポリビニルアセタール樹脂、溶媒以外にも、必要に応じて、難燃助剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、密着性付与剤のような添加剤を添加してもよい。
【0035】
上記ポリビニルアセタール樹脂は、上記エチレンオキサイド基を有する構成単位を含むことから、水溶性を維持しながら上述したような高いアセタール化度を有することができ、優れた機械的強度及び柔軟性を発現することができる。
本発明の水系ポリビニルアセタール樹脂組成物の用途は特に限定されないが、例えば、セラミックス粉末等の無機微粒子を添加し、必要に応じて添加される添加剤等を含有する水を媒体としたセラミックスラリーを、剥離性の支持体上に塗布し、乾燥することにより、機械的強度及び柔軟性に優れたセラミックグリーンシートを得ることができる。本発明の水系ポリビニルアセタール樹脂組成物を用いることにより、有機溶剤に代えて水を溶剤として使用できることから、環境汚染、毒性、爆発事故等の危険性等の観点からも好ましい。
【0036】
上記セラミックス粉末は特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等からなる粉末が挙げられる。これらのセラミックス粉末は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0037】
上記セラミックスラリーを製造する際の混合方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、ブレンダーミル、3本ロール、ビーズミル等の混合機を用いて混合する方法等が挙げられる。
また、上記剥離性の支持体上にセラミックスラリーを塗布する方法は特に限定されず、例えば、ロールコーター、ダイコーター、カーテンコーター等の従来公知の方法が挙げられる。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、可塑剤の添加を抑制した場合でも、高い柔軟性を有する成形体を作製することができ、樹脂基材への接着性、貯蔵安定性に優れる水系ポリビニルアセタール樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
(ポリビニルアルコール(a)の合成)
攪拌機、温度計、滴下ロートおよび還流冷却器を付したフラスコ中に、酢酸ビニル1000重量部、式(5)で表される化学式のR3がエチレン基であり、n=10であるポリ(オキシエチレン)ビニルエーテル320重量部及びメタノール300重量部を添加し、系内の窒素置換を行った後、温度を60℃まで昇温した。この系に2,2-アゾビスイソブチロニトリル1.1重量部を添加し、重合を開始した。重合開始から5時間で重合を停止した。重合停止時の系内の固形分濃度は53重量%であり、全モノマーに対する重合収率は65重量%であった。減圧下に未反応のモノマーを除去した後、共重合体の45重量%メタノール溶液を得た。得られた共重合体は酢酸ビニル単位96.0モル%、エチレンオキサイドを含有するアルキルビニルエーテル単位4.0モル%を含有することが未反応のモノマーの定量より確認された。
【0041】
この共重合体のメタノール溶液100重量部を40℃で攪拌しながら、3%のNaOHメタノール溶液25重量部を添加して、よく混合した後に放置した。30分後、固化したポリマーを粉砕機で粉砕し、メタノールで洗浄後、乾燥してポリマー粉末を得た(以下、これをポリビニルアルコール(a)と称する)。
ポリビニルアルコール(a)のケン化度は99.5モル%、エチレンオキサイド単位量4.0モル%、重合度は600であった。
【0042】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(a)240gを純水1800gに加え、90℃の温度で約2時間攪拌し溶解させた。この溶液を40℃に冷却し、これに濃度35重量%の塩酸20gとn-ブチルアルデヒド20gを添加した後、液温を40℃に保持してアセタール化反応を行った。その後、液温を40℃のまま3時間保持して反応を完了させ、20重量%水酸化ナトリウム希釈水溶液を15g添加することにより中和して、エチレンオキサイド変性ポリビニルアセタール樹脂溶液(樹脂含有量:20重量%)を得た。
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキシド)に溶解し、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセチル基量、アセタール化度、及び、エチレンオキサイド単位量を測定した。その結果、水酸基量は87.5モル%、アセチル基量は0.5モル%、全アセタール化度(ブチラール化度)は8モル%、エチレンオキサイド単位量は4.0モル%であった。
なお、エチレンオキサイド基を有する構成単位は、上記式(4)で表される構成単位であり、上記式(5)で表される構造(R3=エチレン基、n=10)であった。
【0043】
(実施例2)
ポリビニルアルコール(a)に代えて、重合度600、ケン化度99.5モル%、エチレンオキサイド単位量1.0モル%のポリビニルアルコールを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりエチレンオキサイド変性ポリビニルアセタール樹脂溶液(樹脂含有量:20重量%)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキシド)に溶解し、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセチル基量、全アセタール化度(ブチラール化度)、及び、エチレンオキサイド単位量を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例3)
n-ブチルアルデヒド20gに代えて、n-ブチルアルデヒド20g、アセトアルデヒド35gを添加した以外は、実施例1と同様の方法によりエチレンオキサイド変性ポリビニルアセタール樹脂溶液(樹脂含有量:20重量%)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキシド)に溶解し、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセチル基量、全アセタール化度、アセトアセタール化度、ブチラール化度、及び、エチレンオキサイド単位量を測定した。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例4)
ポリビニルアルコール(a)に代えて、重合度600、ケン化度99.5モル%、エチレンオキサイド単位量20.5モル%のポリビニルアルコールを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりエチレンオキサイド変性ポリビニルアセタール樹脂溶液(樹脂含有量:20重量%)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキシド)に溶解し、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセチル基量、全アセタール化度(ブチラール化度)、及び、エチレンオキサイド単位量を測定した。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
ポリビニルアルコール(a)に代えて、重合度600、ケン化度99.5モル%、エチレンオキサイド単位を有しないポリビニルアルコールを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリビニルアセタール樹脂溶液(樹脂含有量:20重量%)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキシド)に溶解し、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセチル基量、全アセタール化度(ブチラール化度)、及び、エチレンオキサイド単位量を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
(比較例2)
ポリビニルアルコール(a)に代えて、重合度600、ケン化度88モル%、エチレンオキサイド単位を有しないポリビニルアルコールを用いた以外は、実施例1と同様の方法によりポリビニルアセタール樹脂溶液(樹脂含有量:20重量%)を得た。得られたポリビニルアセタール樹脂をDMSO-d6(ジメチルスルホキシド)に溶解し、1H-NMR(核磁気共鳴スペクトル)を用いて水酸基量、アセチル基量、アセタール化度、及び、エチレンオキサイド単位量を測定した。結果を表1に示す。
【0048】
<評価>
実施例及び比較例で得られたポリビニルアセタール樹脂溶液について、以下の評価を行った。結果を表1に示した。
【0049】
(1)伸長性
ポリビニルアセタール樹脂溶液を、コーターを用いて乾燥後の厚みが20μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、乾燥することにより、樹脂シートを得た。
得られた樹脂シートをPETフィルムから剥離し、剥離したシートについてテンシロン引張試験機を用いて破断点伸度を測定した。
【0050】
(2)弾性率
ポリビニルアセタール樹脂溶液を、コーターを用いて乾燥後の厚みが20μmとなるように離型処理したPETフィルム上に塗工した後、乾燥することにより、樹脂シートを得た。
得られた樹脂シートをPETフィルムから剥離し、剥離したシートについて、動的粘弾性測定装置(アイティー計測制御社製、DVA-200)を用い、変形様式は引張りモード、測定温度は-20℃~150℃、昇温速度は5℃/分で引張弾性率測定を行った。
【0051】
(3)ガラス転移温度
上記に示した「弾性率」測定と同様の条件で測定を行い、tanδのピークトップ温度をガラス転移温度とした。
【0052】
(4)接着力
得られたポリビニルアセタール樹脂溶液を各種樹脂基材(ポリカーボネート[PC]、ポリエチレンテレフタレート[PET])に塗工し、160℃で60分間加熱することによりポリビニルアセタール樹脂溶液を乾燥させた。その後、JIS K 5400に準じて、碁盤目試験を行って、試験後に残った碁盤目の個数を数え、基材密着力を評価した。
【0053】
(5)貯蔵安定性
得られたポリビニルアセタール樹脂溶液について、B型粘度計を用いて、作製直後と40℃加温状態で保管し、作製7日後の粘度を測定し、樹脂粘度の変化率を確認し、以下の基準で評価した。
◎:10%未満
○:10%以上、20%未満
△:20%以上、30%未満
×:30%以上
【0054】
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、可塑剤の添加を抑制した場合でも、高い柔軟性を有する成形体を作製することができ、樹脂基材への接着性、貯蔵安定性に優れる水系ポリビニルアセタール樹脂組成物を提供できる。