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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 53/02 20060101AFI20220419BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20220419BHJP
   C08L 91/00 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L67/02
C08L91/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017247266
(22)【出願日】2017-12-25
(65)【公開番号】P2019112535
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2020-09-04
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000505
【氏名又は名称】アロン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095832
【弁理士】
【氏名又は名称】細田 芳徳
(72)【発明者】
【氏名】亀井 雄希
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-542822(JP,A)
【文献】特開2009-091385(JP,A)
【文献】特開2010-222720(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBとを、60/40~90/10の質量比(A/B)で含有し、該制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aと該ポリエステル系エラストマーBの合計含有量が70質量%以上である熱可塑性エラストマー組成物であって、前記制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aが、スチレン系単量体の重合単位であるブロック単位(ブロック単位S)からなるハードセグメントと、共役ジエンとスチレン系単量体との共重合単位であり、制御分布構造を有するブロック単位(ブロック単位B)からなるソフトセグメントを有するブロック共重合体であり、該ブロック単位Bは、共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域を2個以上、スチレン系単量体単位を主要構成単位として含有する領域を1個以上有し、該ブロック単位Sに隣接する両末端は共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域であり、前記ポリエステル系エラストマーBが、A硬度が90以上、かつ、ビカット軟化温度が150℃以下である、熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
さらに、可塑剤Cを、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBの合計100質量部に対して、1~50質量部含有する、請求項1記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
可塑剤Cが、パラフィンオイル、ナフテン系オイル、及び芳香族系オイルからなる群より選ばれた少なくとも1種である、請求項1又は2記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aの重量平均分子量が、100,000~500,000である、請求項1~3いずれか記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に使用され得る熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・工具・雑貨用品等の各種成形品に有用な組成物として、ポリエステル系エラストマーとスチレン系エラストマーとを含む熱可塑性エラストマー組成物が提案されている。この熱可塑性エラストマー組成物は、成形品の用途に応じて種々の物性が求められる。例えば、ペングリップや電動工具グリップ等のグリップラバーに用いるためには、良好な成形性をはじめとして、複合材料本体を構成するポリブチレンテレフタレート(PBT)等の極性樹脂への熱融着性、良好な触感を得るための高い柔軟性が求められる。
【0003】
特許文献1には、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体が、高分子化合物の加工性を向上するための流動改質剤として使用され、配合比率を上げることで流動性が向上し、より容易に加工することができる高性能ゴム配合物を作製できることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、水添スチレン系ブロック共重合体にポリエステル系エラストマー及び軟化剤を含む熱可塑性エラストマー組成物が、ポリカーボネート等の極性樹脂との熱融着性を有するだけでなく、柔軟性に優れ、表面ベタツキ等を回避できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-84821号公報
【文献】特開2017-88812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体が流動改質剤として使用され、容易に加工することができる高性能ゴム配合物を作製できることが開示されているが、熱融着性については記載がなく、その性能は定かではない。
【0007】
また、特許文献2には、制御分布型ではないスチレン系エラストマーブロック共重合体に、ポリエステル系エラストマーや炭化水素系ゴム用軟化剤を使用することで、極性樹脂において、特に、ポリカーボネート(PC)について、熱融着性を示すことが開示されているが、ポリブチレンテレフタレート(PBT)との熱融着性については記載がなく効果は定かではない。
【0008】
本発明の課題は、ポリブチレンテレフタレートとの熱融着性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが前記課題に対し種々検討した結果、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体が極性樹脂に対して熱融着性を有すること、さらに、特定のポリエステル系エラストマーを併用することで、ポリブチレンテレフタレートに対して良好な熱融着性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBとを、60/40~90/10の質量比(A/B)で含有する熱可塑性エラストマー組成物であって、前記ポリエステル系エラストマーBが、A硬度が90以上、かつ、ビカット軟化温度が150℃以下である、熱可塑性エラストマー組成物に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリブチレンテレフタレートとの熱融着性において、優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBとを含有するものであり、ポリブチレンテレフタレートに対して熱融着性を有することを特徴とするものである。「熱融着」とは、熱可塑性エラストマー組成物に、融点以上の熱を加えて、溶融状態で被着材に熱融着させ、融点以下の温度にして固化することで、融着対象の界面に固着する現象をいい、本発明においては、後述の試験方法により測定した剥離強度が30N/25mm以上であるものを「熱融着性を有する」ものとする。
【0013】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aにおけるスチレン系単量体単位の含有量は、極性樹脂への熱融着性の観点から、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上であり、柔軟性の観点から、好ましくは80質量%以下であり、より好ましくは75質量%以下、さらに好ましくは70質量%以下である。制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aにおけるスチレン系単量体単位の含有量は、ハードセグメントのスチレン系単量体単位とソフトセグメント中のスチレン系単量体単位の合計量とする。また、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとして2種以上が併用されている場合は、それぞれのブロック共重合体のスチレン系単量体の含有量の加重平均値を、前記スチレン系単量体単位の含有量とする。
【0014】
本発明において、スチレン系単量体には、スチレンだけでなく、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、1,3-ジメチルスチレン、α-メチルスチレン等の炭素数1~4のアルキル基により置換されたスチレン誘導体も含まれる。
【0015】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aは、柔軟性と成形性の観点から、ハードセグメントとソフトセグメントを有することが好ましく、例えば、ハードセグメントとしてスチレン系単量体の重合単位であるブロック単位(ブロック単位S)と、ソフトセグメントとして共役ジエンとスチレン系単量体との共重合単位であり、制御分布構造を有するブロック単位(ブロック単位B)とからなるブロック共重合体Zが挙げられる。
【0016】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aにおけるハードセグメントとソフトセグメントの質量比(ハードセグメント/ソフトセグメント)は、好ましくは45/55~80/20、より好ましくは50/50~65/35である。
【0017】
共役ジエンとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。
【0018】
ブロック共重合体Zは、〔ブロック単位S-ブロック単位B〕m-ブロック単位S型の構造を有していることが好ましい。ここで、mは1~5が好ましいが、本発明では、mが1のトリブロック共重合体が好ましい。
【0019】
ブロック単位Bは、共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域を2個以上、スチレン系単量体単位を主要構成単位として含有する領域を1個以上有し、ブロック単位Sに隣接する両末端は共役ジエン単位を主要構成単位として含有する領域であることが好ましい。
【0020】
ブロック共重合体Zは、共役ジエン単量体単位の不飽和結合の一部又は全部が水素添加されていることが好ましい。共役ジエン単量体単位の不飽和結合を水素添加することにより不飽和結合が減少し、耐熱性、耐候性及び機械的特性が向上する。水素添加率は、80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。本発明において、水素添加率は、ブロック共重合体Z中の共役ジエン単量体に由来する炭素-炭素二重結合の含有量を、水素添加の前後において、1H-NMRスペクトルによって測定し、該測定値から求めることができる。
【0021】
共役ジエンがブタジエンである、トリブロック構造のブロック共重合体Zの水素添加物は、制御分布SEBSと呼ばれており、制御分布SEBSの市販品としては、例えば、クレイトンポリマー社製のAシリーズ、MDシリーズ等が挙げられる。
【0022】
なお、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体は、当該技術分野において周知のものであり、例えば、特開2007-84821号公報、特表2013-518170号公報等に記載されている。
【0023】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aの重量平均分子量は、極性樹脂への熱融着性の観点から、好ましくは100,000以上、より好ましくは200,000以上であり、成形性の観点から、好ましくは500,000以下、より好ましくは450,000以下、さらに好ましくは350,000以下である。制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとして2種以上が併用されている場合は、それぞれのスチレン系エラストマーの重量平均分子量の加重平均値を、前記重量平均分子量とする。
【0024】
ポリエステル系エラストマーBとしては、ハードセグメントとして芳香族ポリエステルブロックを有し、ソフトセグメントとして脂肪族ポリエーテルブロックを有するポリエステル-ポリエーテルブロック共重合体が好ましい。
【0025】
ハードセグメントである芳香族ポリエステルブロックは、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,4-又は2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸又はそのアルキルエステルの1種又は2種以上と、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジヒドロキシジビフェニル、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシジフェニル)プロパン等のジオールの1種又は2種以上との重縮合体であることが好ましい。
【0026】
ソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックは主としてポリアルキレンエーテルグリコールからなることが好ましい。ポリエステル-ポリエーテルブロック共重合体のソフトセグメントである脂肪族ポリエーテルブロックの重量平均分子量は、400~60,000が好ましい。脂肪族ポリエーテルブロックの重量平均分子量は、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aと同様に、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0027】
前記ポリエステル-ポリエーテルブロック共重合体の市販品としては、例えば、例えば、「ハイトレル」(東レ・デュポン(株)製、商品名)、「SKYPEL」(SK chemicals製、商品名)等が挙げられる。
【0028】
ポリエステル系エラストマーBのA硬度は、融着の観点から、90以上であり、好ましくは90~100、より好ましくは90~98、さらに好ましくは90~95である。
【0029】
ポリエステル系エラストマーBのビカット軟化温度は、融着の観点から、150℃以下であり、好ましくは120~150℃、より好ましくは125~150℃、さらに好ましくは130~150℃である。
【0030】
熱可塑性エラストマー組成物における、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBの質量比は、熱融着性と射出成形性の両立の観点から、60/40~90/10であり、好ましくは65/35~85/15、より好ましくは70/30~80/20である。
【0031】
制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBの合計含有量は、熱可塑性エラストマー組成物中、好ましくは、70質量%以上、より好ましくは、70~95質量%、さらに好ましくは、75~90質量%である。
【0032】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、柔軟性及び熱融着性の観点から、さらに、可塑剤Cを含有していることが好ましい。
【0033】
可塑剤は、パラフィンオイル、ナフテン系オイル、及び芳香族系オイルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、これらのなかでは、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとの親和性が良好で、ブリードが起きにくいという観点から、パラフィンオイルがより好ましい。
【0034】
可塑剤Cの40℃での動粘度は、高い方が、加熱溶融時の揮発を防ぎ、耐ブリード性も良くなり、極性樹脂への熱融着性が向上する観点から、好ましくは50mm2/s以上、より好ましくは60mm2/s以上、さらに好ましくは70mm2/s以上であり、低い方が取扱いが容易であることから、好ましくは500mm2/s以下、より好ましくは450mm2/s以下、さらに好ましくは400mm2/s以下である。
【0035】
可塑剤Cの含有量は、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーBの合計100質量部に対して、柔軟性の観点から、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、オイルブリード防止及び極性樹脂への熱融着性の観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部以下である。
【0036】
また、熱可塑性エラストマー組成物中の可塑剤Cの含有量は、好ましくは5~45質量%、より好ましくは10~40質量%である。
【0037】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体Aとポリエステル系エラストマーB以外のエラストマーを含有していてもよく、また、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック、シリカ、炭素繊維、ガラス繊維等の補強剤、無機充填剤、絶縁性熱伝導性フィラー、顔料、水和金属化合物、赤燐、ポリリン酸アンモニウム、アンチモン、シリコーン等の難燃剤、帯電防止剤、増粘剤、粘着付与剤、架橋剤、架橋助剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤、シール性改良剤、離型剤、着色剤、香料等の各種添加剤を含有していてもよい。
【0038】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、制御分布型スチレン系エラストマーAとポリエステル系エラストマーB、さらに必要に応じて可塑剤C等を含む原料を混合し、冷却により固化させて得られる。
【0039】
本発明でいう「混合」とは、各種成分が良好に混合される方法であれば特に限定されず、各種成分を溶解可能な有機溶媒中に溶解させて混合してもよいし、溶融混練によって混合してもよいが、原料の混合は、原料が溶融する条件下、好ましくはポリエステル系エラストマーBが溶融する条件下で行うことが好ましい。
【0040】
ポリエステル系エラストマーBが溶融する条件下とは、例えば、ポリエステル系エラストマーBの融点を基に定義することができ、静置状態で融点以上であれば溶融する条件であるが、溶融混練法では必ずしも静置状態で測定された融点ではなく、融点よりも低い温度で溶融することもあり、温度が高いほど溶融粘度が小さくなって混合しやすくなるが、あまり高いと熱分解が起きる恐れがある。これらの観点から、混練を伴うときの好ましい溶融温度範囲は、ポリエステル系エラストマーBの融点に対して-30℃~+150℃であり、より好ましくは融点に対して-20℃~+100℃である。
【0041】
溶融混練する場合には、一般的な押出機を用いることができ、混練状態の向上のため、二軸の押出機を使用することが好ましい。押出機への供給は、予めヘンシェルミキサー等の混合装置を用いて各種成分を混合したものを一つのホッパーから供してもよいし、二つのホッパーにそれぞれの成分を仕込みホッパー下のスクリュー等で定量しながら供してもよい。
【0042】
熱可塑性エラストマー組成物を構成する原料を混合して得られる生成物は、用途に応じて、ペレット、粉体、シート等の形状とすることができる。例えば、押出機によって溶融混練してストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって円柱状や米粒状等のペレットに切断される。得られたペレットは、通常、射出成形、押出成形によって所定のシート状成形品や金型成形品とする。また、溶融混練物をルーダー等でペレットにし成形加工原料とすることもできる。シート状の熱可塑性エラストマー組成物に、台紙等を貼付した中間製品としてもよい。
【0043】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物のA硬度は、柔軟性の観点から、好ましくは85以下、より好ましくは80以下、さらに好ましくは75以下であり、また、ベタツキ抑制の観点から、好ましくは50以上、より好ましくは55以上、さらに好ましくは60以上である。
【0044】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を、常法に従って、適宜加熱成形することにより、成形体が得られる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物を加熱成形して得られる成形体の用途は、特に限定されるものではなく一般的なスチレン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマーやポリエステル系エラストマー等が用いられる分野に用いることができる。
【0045】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体の製造に用いられる装置は、成形材料を溶融できる任意の成形機を用いることができる。例えば、ニーダー、押出成形機、射出成形機、プレス成形機、ブロー成形機、ミキシングロール等が挙げられる。
【0046】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、様々な材料に融着するため、異種材料からなる部材の張り合わせにも好適に用いることができる。例えば、金属、セラミック、ガラス及び極性樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の部材に融着させるために用いられ、特に極性樹脂等に対して良好な熱融着性を示す。
【0047】
金属としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス、鉄、銅、亜鉛めっき鋼、マグネシウム、マグネシウム合金等、また各種めっき処理品等が挙げられる。
【0048】
極性樹脂としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のポリ(メタ)アクリレート系樹脂、ポリエチレンオキサイド系樹脂、ポリプロピレンオキサイド系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、LCP(液晶ポリマー)、アイオノマー等の極性樹脂、これらの2種以上の混合物等が挙げられる。これらの中では、特に、ポリブチレンテレフタレート及びポリカーボネートとの熱融着性は良好であり、なかでも、従来熱融着が困難であったポリブチレンテレフタレートとの熱融着性に優れている。
【0049】
熱可塑性エラストマーを熱融着させるために熱を加える手段には、熱プレス機、加熱ロール機、熱風発生機、加熱蒸気、超音波ウェルダー、高周波ウェルダー、レーザー等を用いることができる。
【0050】
従って、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は部材と一体となって複合成形体とすることもできる。熱融着により、融着部の界面が複雑な立体形状であっても、複雑な立体形状にうまくなじみ成形一体化することができ、複雑な接合面を有する部材や、互いに異なる形状の接合面を有する部材の複合化も可能となる。
【0051】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に熱融着した複合成形体は、射出成形、射出圧縮成形、インサート成形、多色成形、真空成形、圧空成形、ブロー成形、熱プレス成形、発泡成形、レーザー融着成形、押出成形等の方法により、成形加工して得ることができるが、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、接着剤のように自身が粘着性を有するものではなく、取り扱いが容易であるため、射出成形にも適用することができる。
【0052】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物が部材に熱融着した複合成形体としては、熱可塑性エラストマー組成物からなる成形体に極性樹脂がインサートされたインサート成形体、熱可塑性エラストマー組成物と、極性樹脂とを多色成形して得られる複合成形体等が挙げられる。
【0053】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、用途に応じて各種成形品として用いることができるが、ポリブチレンテレフタレート等の極性樹脂の熱融着性に優れ、柔軟性も良好であることがから、ペングリップ、電動工具グリップ、歯ブラシグリップ等のグリップラバー等に好適に用いることができる。
【実施例
【0054】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。実施例及び比較例で使用した原料の各種物性は、以下の方法により測定した。
【0055】
<成分A(制御分布型スチレン系エラストマーブロック共重合体等)>
〔スチレン系単量体単位の含有量〕
核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)によって、プロトンNMR測定を行い、スチレンの特性基の定量を行うことによってスチレン及び/又はスチレン誘導体の含有量を決定する。他の単量体単位の含有量もプロトンNMR測定により求めることができる。
【0056】
〔ハードセグメント/ソフトセグメント(質量比)〕
ハードセグメントとソフトセグメントの質量比は、核磁気共鳴装置(ドイツ国BRUKER社製、DPX-400)を用いて、重クロロホルム溶媒中、3~5vol%濃度、25℃でプロトンNMR測定を行い、分子構造中の各種酸素に隣接するメチレンピークのシグナル強度比から算出する。
【0057】
〔重量平均分子量(Mw)〕
以下の測定条件で、ゲルパーミエーションクロマトグラフにより、ポリスチレン換算で分子量を測定し、重量平均分子量を求める。
【0058】
測定装置
・ポンプ:JASCO(日本分光(株))製、PU-980
・カラムオーブン:昭和電工(株)製、AO-50
・検出器:日立製、RI(示差屈折計)検出器 L-3300
・カラム種類:昭和電工(株)製「K-805L(8.0×300mm)」及び「K-804L(8.0×300mm)」各1本を直列使用
・カラム温度:40℃
・ガードカラム:K-G(4.6×10mm)
・溶離液:クロロホルム
・溶離液流量:1.0ml/min
・試料濃度:約1mg/ml
・試料溶液ろ過:ポリテトラフルオロエチレン製0.45μm孔径ディスポーザブルフィルタ
・検量線用標準試料:昭和電工(株)製ポリスチレン
【0059】
<成分B(ポリエステル系エラストマー)>
〔A硬度〕
JIS K 6253 タイプAにて測定をする。
【0060】
〔ビカット軟化温度〕
ビカット軟化温度試験機(HDT.TESTER 3M-2 東洋精機社製)を用い、JIS K 7206の試験方法に準拠し、荷重2.5N及び昇温速度50℃/hで測定する。
【0061】
〔融点〕
示差走査熱量測定(DSC)装置を用い、JIS K 7121で規定される方法に準拠して10℃/minで昇温して得られる融解ピークの温度を融点とする。融解ピークが複数表れる場合は、より低い温度で表れる融解ピークを融点とする。
【0062】
<成分C(可塑剤)>
〔動粘度〕
JIS Z 8803に従って、40℃の温度で測定する。
【0063】
実施例1~7及び比較例1~9
(1) 熱可塑性エラストマー組成物(ペレット)の作製
成分C以外の表5、6に示す材料をドライブレンドし、これに成分Cを含浸させて混合物を作製した。その後、混合物を下記の条件で、押出機で溶融混練して、ストランドに押出し、冷水中で冷却しつつカッターによって、直径3mm程度、厚さ3mm程度に切断し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを製造した。
【0064】
〔溶融混練条件〕
押出機:KZW32TW-60MG-NH(商品名、(株)テクノベル製)
シリンダー温度:180~220℃
スクリュー回転数:300rpm
【0065】
実施例及び比較例で使用した表5、6に記載の原料の詳細は以下の通り。
【0066】
【表1】
【0067】
【表2】
【0068】
【表3】
【0069】
【表4】
【0070】
(2) 熱可塑性エラストマー組成物の成形体の作製
ペレットを、下記の条件で射出成形し、厚さ2mm×幅125mm×長さ125mmのプレートを作製した。
【0071】
〔射出成条件〕
射出成形機:100MSIII-10E(商品名、三菱重工業(株)製)
射出成形温度:200℃
射出圧力:30%
射出時間:3sec
金型温度:40℃
【0072】
なお、得られたプレートの状態から射出成形性を評価し、さらに、柔軟性と熱融着性を評価した。結果を表5、6に示す。
【0073】
〔射出成形性の評価基準〕
○:プレートの状態が良好なもの
×:プレートの成形はできるが状態が悪いもの
【0074】
〔柔軟性〕
射出成形から1日経過したプレート(125mm角プレート)を用い、JIS K 6253で規定される方法に準拠してデュロメータA硬度を測定し、以下の評価基準に従って、柔軟性を評価した。
<評価基準>
A硬度が
A:75以下
B:75を超えて85以下
C:85を超える
【0075】
〔熱融着性〕
厚さ4mm×幅25mm×長さ125mmの金型内に下記の極性樹脂をインサートし、下記条件で、実施例及び比較例で得られた熱可塑性エラストマー組成物を射出成形し、短冊状の融着試験片を作製した。
【0076】
<インサート材(極性樹脂)>
(1) サイズ:厚さ2mm×幅25mm×長さ120mm
(2) 種類
・全ての実施例及び比較例
ポリブチレンテレフタレート(PBT):ジュラネックス2002、ポリプラスチックス社製
・実施例4~6及び比較例5~8
ポリカーボネート(PC):ユーピロンH-3000、三菱エンジニアリングプラスチックス社製
【0077】
<射出成形条件>
射出成形機:三菱重工業(株)製、100MSIII-10E
射出成形温度:240℃
射出圧力:98MPa、射出速度:50%、保持圧:20%、保持時間:10sec
射出時間:2sec
金型温度:40℃
【0078】
得られた融着試験片を用い、JIS K6854-2「接着剤はく離接着強さ試験方法(180度はく離)」に準拠し、雰囲気温度23℃で剥離強度を測定した。熱可塑性エラストマー層をたわみ性被着材、極性樹脂層を剛性被着材として、エラストマー層を180°方向に50mm/minで引張試験を行い、表皮材層と基材層の剥離強度(単位:N/25mm)を測定し、以下の評価基準に従って、熱融着性を評価した。
【0079】
<評価基準>
剥離強度が、
A:54N/25mm以上
B:40N/25mm以上54N/25mm未満
C:30N/25mm以上40N/25mm未満
D:30N/25mm未満
【0080】
【表5】
【0081】
【表6】
【0082】
以上の結果より、実施例1~7の熱可塑性エラストマー組成物は、良好な柔軟性を備え、比較例1、2の熱可塑性エラストマー組成物と対比して成形性が優れており、また比較例3~9の熱可塑性エラストマー組成物と対比して、ポリブチレンテレフタレートに対する熱融着性に優れていることが分かる。特に、比較例5、6では、ポリカーボネート(PC)に対する熱融着性は良好であるにかかわらず、PBTに対しては熱融着性が不十分であることから、PCに対して熱融着性を有しているからといって、PBTに対する熱融着性も良好であることは限らないことが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、自動車、電子材料、家電、電気機器、医療用具、包装資材、文具・雑貨用品等の各種成形品に有用であり、さらにはグリップ、チューブ、パッキン、ガスケット、クッション体、フィルム、シート等の各種部材に用いられる。