(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】測量装置、測量用制御装置、測量制御方法および測量制御処理用プログラム
(51)【国際特許分類】
G01C 15/00 20060101AFI20220419BHJP
【FI】
G01C15/00 103A
G01C15/00 103E
(21)【出願番号】P 2017249526
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】西田 信幸
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-223489(JP,A)
【文献】特開2017-009558(JP,A)
【文献】特開2016-212098(JP,A)
【文献】特開2016-223841(JP,A)
【文献】特開2013-190272(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0042977(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、
前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と、
前記三次元座標計測手段
が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段と
を備え、
前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量装置。
【請求項2】
レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、
前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と、
前記三次元座標計測手段が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段と
を備え、
前記マスク角算出手段は、前記レーザースキャナ手段がレーザースキャン光を照射する範囲に前記反射体が複数あった場合、反射体ごとに前記マスク角を算出する測量装置。
【請求項3】
前記マスク角の範囲におけるレーザースキャン光の照射を行わない動作および前記マスク角の範囲におけるレーザースキャン光の受光を行わない動作のうち少なくとも一つの動作を行う請求項1
または2に記載の測量装置。
【請求項4】
測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、
前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と
を制御する測量用制御装置であって、
前記三次元座標計測手段
が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段を備え、
前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量用制御装置。
【請求項5】
測量手段を制御する方法であって、
レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測ステップと、
前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャンステップと、
前記三次元座標計測
ステップにおいて得た前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出ステップと
を有
し、
前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量制御方法。
【請求項6】
コンピュータに読み取らせて実行させる測量制御処理用プログラムであって、
コンピュータを
レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、
前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と、
前記三次元座標計測手段
が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段と
を備える測量装置として機能させ、
前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量制御処理用プログラム。
【請求項7】
測量手段を制御する方法であって、
レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測ステップと、
前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャンステップと、
前記三次元座標計測
ステップにおいて計測された前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出ステップと
を有
し、
前記マスク角の算出において、前記レーザースキャンにおけるレーザースキャン光を照射する範囲に前記反射体が複数あった場合、反射体ごとに前記マスク角を算出する測量制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射プリズムを用いた測量の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
測量装置として、測距光を用いて特定の点の位置を精密に測定する自動視準追尾(モータドライブ)TS(トータルステーション)が知られている(例えば、特許文献1を参照)。また、測量対象(ターゲット)の点群データを得る装置として、レーザースキャナが知られている(例えば、特許文献2を参照)。また、トータルステーションからの測距光を反射する反射プリズムが知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-229192号公報
【文献】特開2010-151682号公報
【文献】特開2000-221032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
自動視準および追尾を持つTS等の装置は、反射プリズム等の光学的な反射体を補足することで自動視準および追尾を行うため、光学的な反射体が必要不可欠である。しかし、自動視準追尾TS(MDTS)とレーザースキャナとが一体となった測量装置においては、測定対象の点群データ取得のためのスキャン(走査)時に、光学的な反射体を測定するとスキャンの受光センサが飽和し、その直後に測定するスキャンデータ(点群データ)が欠測してしまう場合がある。そこで本発明は、光学的な反射体の位置を特定することで、光学的な反射体からの反射光を受光しない技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の発明は、 レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と、前記三次元座標計測手段が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段とを備え、前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量装置である。
【0006】
請求項2に記載の発明は、レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と、前記三次元座標計測手段が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段とを備え、前記マスク角算出手段は、前記レーザースキャナ手段がレーザースキャン光を照射する範囲に前記反射体が複数あった場合、反射体ごとに前記マスク角を算出する測量装置である。
【0007】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の発明において、前記マスク角の範囲におけるレーザースキャン光の照射を行わない動作および前記マスク角の範囲におけるレーザースキャン光の受光を行わない動作のうち少なくとも一つの動作を行うことを特徴とする。
【0008】
請求項4に記載の発明は、 測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段とを制御する測量用制御装置であって、前記三次元座標計測手段が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段を備え、前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量用制御装置である。
【0009】
請求項5に記載の発明は、測量手段を制御する方法であって、レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測ステップと、前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャンステップと、前記三次元座標計測ステップにおいて計測された前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出ステップとを有し、前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量制御方法である。
【0010】
請求項6に記載の発明は、コンピュータに読み取らせて実行させる測量制御処理用プログラムであって、コンピュータをレーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測手段と、前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャナ手段と、前記三次元座標計測手段が計測した前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出手段とを備える測量装置として機能させ、前記マスク角が前記反射体の三次元座標に加えて、前記反射体の寸法に基づき計算される測量制御処理用プログラムである。
【0011】
請求項7に記載の発明は、測量手段を制御する方法であって、レーザー光により測定対象に配置された反射体の三次元座標を計測する三次元座標計測ステップと、前記測定対象に対するレーザースキャンを行うレーザースキャンステップと、前記三次元座標計測ステップにおいて計測された前記反射体の三次元座標に基づき前記反射体のレーザースキャンデータの取得を行わない角度範囲となるマスク角を算出するマスク角算出ステップとを有し、前記マスク角の算出において、前記レーザースキャンにおけるレーザースキャン光を照射する範囲に前記反射体が複数あった場合、反射体ごとに前記マスク角を算出する測量制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学的な反射体を備える測定対象をスキャンした際に、該反射体からの反射光の受光を回避することが可能となる。光学的な反射体からの反射光は、直後の点群データの欠測の原因となるため、従来欠測してしまっていたデータの取得が可能となる。例えば、重力方向と一致する方向で、反射プリズムを一直線にスキャンした場合、本発明の技術を用いなければ、反射プリズムの下側の範囲に点群データが欠測する部分が生じ得るが、本発明の技術を用いれば、欠測部分を減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図5】TSに備えられる反射体マスク制御部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(概要)
本発明は、光学的な反射体を測位(測距および測角)することによって得られる位置データを、該反射体を備える測定対象(ターゲット)をレーザースキャンする際に利用するものである。本実施形態では、光学的な反射体を反射プリズムとして説明をする。
【0015】
図1は、本実施形態の概念図である。
図1には、レーザースキャナ機能を有するTS100、TS100により測位およびスキャンされる測定対象物200が示されている。ここで測定対象物200は、静止している物体であって、TS100による測定対象である。
【0016】
(TSの構成)
図2には、
図1に示すTS100の斜視図が示され、
図3には、正面図が示されている。TS100は、ターゲット(または、ターゲットに備えられる反射プリズム)を探索する探索用レーザースキャン機能、および探索したターゲット(ターゲットに備えられる反射プリズム)を自動視準するための機構を備える。
【0017】
この自動視準のための機構は、追尾光の送受信部を構成する追尾光受光部104、追尾光受光部105、追尾光を用いた視準を行うためのモータ駆動機構を構成する水平回転駆動部108と鉛直回転駆動部109、自動追尾の制御を行う自動視準制御部301(本実施形態では、TS100の演算制御部113が備える反射体マスク制御部300に含まれる。)を有する。なお、TS100が自動視準機能を有することで、オペレータがターゲットを視準する作業を大幅に削減できる。
【0018】
また、TS100は、測距用レーザー光を用いてターゲットまでの距離を測距するレーザー測距機能、レーザー測距されたターゲットの方向(水平角と鉛直角(仰角または俯角))を計測する測角機能、ターゲットまでの距離と方向からターゲットの三次元位置(座標)を算出する機能(測位機能)、点群データを得るためのレーザースキャン機能を有する。上記の測位機能は、TS本来のターゲットの位置を精密に測定する機能(TS機能)である。
【0019】
図2に示すようにTS100は、TS本体20とレーザースキャナ部101を結合(複合化)した構造を有している。TS100は、本体部11を有している。本体部11は、台座12に水平回転が可能な状態で保持されている。台座12は図示しない三脚の上部に固定される。本体部11は、Y軸の方向から見て上方に向かって延在する2つの延在部を有する略コの字形状を有し、この2つの延在部の間に可動部13が鉛直角(仰角および俯角)の制御が可能な状態で保持されている。
【0020】
本体部11は、台座12に対して電動で回転する。すなわち、本体部11は、モータにより台座12に対する水平回転角の角度制御が行われる。また、可動部13は、モータにより鉛直角の角度制御が行なわれる。この水平回転角と鉛直角の角度制御のための駆動は、本体部11に内蔵された水平回転駆動部108および鉛直回転駆動部109(
図4のブロック図を参照)により行われる。なお、水平回転駆動部108および鉛直回転駆動部109についての説明は後述する。
【0021】
本体部11には、水平回転角制御ダイヤル14aと鉛直角制御ダイヤル14bが配置されている。水平回転角制御ダイヤル14aを操作することで、本体部11(可動部13)の水平回転角の調整が行なわれ、鉛直角制御ダイヤル14bを操作することで、可動部13の鉛直角の調整が行なわれる。
【0022】
可動部13の上部には、大凡の照準を付ける角筒状の照準器15aが配置されている。また、可動部13には、照準器15aよりも視野が狭い光学式の照準器15bと、より精密な視準が可能な望遠鏡16が配置されている。
【0023】
照準器15bと望遠鏡16が捉えた像は、接眼部17を覗くことで視認できる。望遠鏡16は、測距用のレーザー光と測距対象(例えばターゲットとなる専用の反射プリズム)を追尾および捕捉するための追尾光の光学系を兼ねている。測距光と追尾光の光軸は、望遠鏡16の光軸と一致するように光学系の設計が行なわれている。この部分の構造は、市販されているTSと同じである。
【0024】
本体部11には、ディスプレイ18と19が取り付けられている。ディスプレイ18は、後述する操作部111と一体化されている。ディスプレイ18と19には、TS100の操作に必要な各種の情報や測量データ等が表示される。前後に2つディスプレイがあるのは、本体部11を回転させなくても前後のいずれの側からでもディスプレイを視認できるようにするためである。なお、説明したTSの詳細な構造については、例えば特開2009-229192号公報、特開2012―202821号公報に記載されている。
【0025】
本体部11の上部には、レーザースキャナ部101が固定されている。レーザースキャナ部101は、第1の塔部21と第2の塔部22を有している。第1の塔部21と第2の塔部22は、結合部23で結合され、結合部の上方の空間(第1の塔部21と第2の塔部22の間の空間)は、スキャンレーザー光を透過する部材で構成された保護ケース24で覆われている。保護ケース24の内側には、第1の塔部21からX軸方向に突出した回転部25が配置されている。回転部25の先端は、斜めに切り落とされた形状を有し、その先端部には、斜めミラー26が固定されている。
【0026】
回転部25は、第1の塔部21に納められたモータにより駆動され、X軸を回転軸として回転する。第1の塔部21には、上記のモータに加え、このモータを駆動する駆動回路と、その制御回路が納められている。なお、回転部25は、第1の塔部21からY軸方向に突出させる構造とすれば、Y軸を回転軸として回転させることもできる。
【0027】
第2の塔部22の内部には、レーザースキャン光(レーザースキャン用のパルスレーザー光)を発光するための発光部、測定対象から反射してきたスキャン光を受光する受光部、発光部と受光部に関係する光学系が納められている。レーザースキャン光は、第2の塔部22の内部から斜めミラー26に向けて照射され、そこで反射され、透明なケース24を介して外部に照射される。また、測定対象から反射したスキャン光は、照射光と逆の経路を辿り、第1の塔部22内部の受光部で受光される。
【0028】
スキャン光の発光タイミングと受光タイミング、さらにその際の回転部25の角度位置と本体部11の水平回転角により、スキャン点(スキャン光の反射点)の測位が行なわれる。
【0029】
レーザースキャン用のパルスレーザー光は、回転部25の回転軸の延在方向に出射され、斜めミラー26で直角に反射される。斜めミラー26で反射されたパルスレーザー光は、透明な保護ケース24から外部に向かって間欠的に出射される。この際、回転部25が
図2におけるX軸を回転軸とした回転(X軸回りの回転)をすることで、Y-Z面に沿った鉛直面をスキャン面としたレーザースキャンが行われる。また、上記のスキャン面に望遠鏡16から出射される測距光(TS本体20の測距光)の光軸が含まれるように全体の構造が決められている。ここで、本体部11を水平回転(
図2におけるZ軸回りの回転)させながら上記のパルスレーザー光の出射を行うことで、周囲全体(あるいは必要とする範囲)のレーザースキャンが行なわれる。なお、複数条のパルスレーザー光を同時に出射する形態も可能である。
【0030】
本体部11を水平回転(
図2におけるZ軸回りの回転)させることは、上述の本体部11を台座12に対して電動で回転させる機構を利用して行う。レーザースキャンのみが目的ならば、本体部11の回転機構とは別にレーザースキャナ部101のみを回転させる専用の機構を備えることで行ってもよい。
【0031】
なお、レーザースキャナに係る技術については、特開2010-151682号公報、特開2008-268004号公報、米国特許第8767190号公報等に記載されている。また、レーザースキャナとして、米国公開公報US2015/0293224号公報に記載されているような、スキャンを電子式に行う形態ものも採用可能である。
【0032】
図4は、TS100のブロック図である。TS100は、レーザースキャナ部101、記憶部102、測距部103、追尾光発光部104、追尾光受光部105、水平角検出部106、鉛直角検出部107、水平回転駆動部108、鉛直回転駆動部109、表示部110、操作部111、通信部112、演算制御部113を備えている。
【0033】
レーザースキャナ部101は、パルスレーザー光を測定対象に対してスキャン(走査)し、その反射光を検出することで、測定対象の概形を三次元座標を有する点群データとして得る。すなわち、レーザースキャナ部101は、市販されている三次元レーザースキャナと同様の機能を備える。なお、点群データに付与される三次元座標の座標系は、後述する測距部103、水平角検出部106および鉛直角検出部107によって得られる座標を扱う座標系と同じものが用いられる。記憶部102は、TS100の動作に必要な制御プログラム、各種のデータ、測量結果等を記憶する。
【0034】
測距部103は、測距用レーザー光を用いたターゲットまでの距離の計測を行う。測距部103は、測距用レーザー光の発光素子、照射光学系、受光光学系、受光素子、測距演算部、測距基準光の光路を備えている。測定対象までの距離は、測定対象から反射された測距光と基準光の位相差から算出される。距離の算出方法は、通常のレーザー測距と同じである。
【0035】
追尾光発光部104および追尾光受光部105は、三角錐型または扇形ビームを有した探索用レーザー光を用いた反射プリズムの探索を行う。反射プリズムは、探索対象(視準目標)に備えられ、反射プリズムが探索およびレーザー照射対象となることで、探索対象(視準目標)の自動視準が行われる。すなわち、追尾光発光部104が発光した探索用レーザー光を反射プリズムに照射し、その反射光を追尾光受光部105の受光素子の中心に位置するよう制御することで、視準目標を追尾する。この制御は、反射体マスク制御部300に含まれる自動視準制御部301で行なわれる。
【0036】
水平角検出部106および鉛直角検出部107は、測距部103が測距したターゲットの水平方向角と鉛直方向角(仰角および俯角)を計測する。測距部103、追尾光発光部104および追尾光受光部105の光学系を備えた筐体部分は、水平回転および仰角(俯角)制御が可能であり、水平方向角と鉛直方向角は、エンコーダにより計測される。このエンコーダの出力が水平角検出部106および鉛直角検出部107で検出され、水平方向角と鉛直方向角(仰角および俯角)の計測が行われる。
【0037】
水平回転駆動部108および鉛直回転駆動部109は、測距部103、追尾光発光部104および追尾光受光部105の光学系を備えた筐体部分の水平回転および仰角制御(および俯角制御)を行うモータ、該モータの駆動回路、該駆動回路の制御回路を含む。なお、この筐体部分と一緒にレーザースキャナ部101も水平回転する構造とされている。
【0038】
表示部110は、TS100を扱うオペレータ等に対して、その処理結果等を視覚的に認識できる状態、例えば、GUI(Graphical User Interface)等の技術により、情報の提供または表示を行う。なお、前述のディスプレイ18と19はこれに該当する。操作部111は、テンキーや十字操作ボタン等が配され、TS100に係る各種の操作やデータの入力が行なわれる。また、表示部110および操作部111は、オペレータが情報表示画面をタッチすることで動作するタッチパネル方式を採用することによって、一体化可能である。
【0039】
通信部112は、通信部112が備えられる機器以外の機器との間で、各種情報およびデータの送受信を行う機能部であって、無線通信機能、有線通信機能および光通信機能のうち少なくとも一つを備える。例えば、前記いずれかの通信機能を用いて、レーザースキャナ部101によって得られた点群データやその点群データから作成されたデータの情報を他の機器(例えば、TS100とは別個のコンピュータなどの外部情報処理装置)との間で送受信を行う。
【0040】
演算制御部113は、後述する反射体マスク制御部300を備えていることに加えて、TS100の各種動作制御に係わる演算処理および記憶部102に記憶するデータの管理の制御を行う。演算制御部113は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)に代表されるPLD(Programmable Logic Device)などの電子回路により構成される。また、一部の機能を専用のハードウェアで構成し、他の一部を汎用のマイコンにより構成することも可能である。
【0041】
演算制御部113の各機能部を専用のハードウェアで構成するのか、CPUにおけるプログラムの実行によりソフトウェア的に構成するのかは、要求される演算速度、コスト、消費電力等を勘案して決定される。なお、機能部を専用のハードウェアで構成することとソフトウェア的に構成することは、特定の機能を実現するという観点からは、等価である。当然のごとく、各機能部を装置として実現することも等価である。
【0042】
本発明の利用においてTS100は、測位機能およびレーザースキャナ機能を有しているものならば、TS等をはじめとする測量装置にも限定されず、他の装置へ代用可能である。例えば、上述の二つの機能を有するカメラや携帯端末等での代用が可能である。
【0043】
(測定対象物の構成)
測定対象物200は、TS100によって自動視準および自動追尾されるために反射プリズム201を備える。測定対象物200の形状は、反射プリズム等の光学的な反射体を備えていれば、特に限定しない。
【0044】
(反射体マスク制御部の構成)
図5は、反射体マスク制御部300のブロック図である。三次元情報処理部300は、本発明における処理を司る部分であって、自動視準制御部301、測位部302、マスク角算出部303、スキャン制御部304を備える。
【0045】
自動視準制御部301は、各機能部または各装置を機能または動作させることにより、測定対象の視準および追尾を行う。例えば、TS100の追尾光発光部104および追尾光受光部105を機能させ、測定対象物200を視準する。
【0046】
測位部302は、各機能部または各装置を機能または動作させることにより、測定対象の三次元座標を得る。例えば、自動視準制御部301の制御によって視準されている測定対象物200に備えられる反射プリズム201に対して、TS100の測距部103、水平角検出部106および鉛直角検出部107を機能させ、TS100を基準とした反射プリズム201の三次元座標を得る。
【0047】
マスク角算出部303は、光学的な反射体の三次元座標および該反射体の寸法(サイズ)を基に、レーザースキャナまたはレーザースキャナ機能部から発せられるパルスレーザー光を射出(照射)しない角度であるマスク角Vを算出する。すなわち、マスク角Vは光学的な反射体をレーザースキャンしない角度であって、測距および測角結果から求められる反射体の三次元座標と反射体の寸法に応じて可変となる。なお、マスク角Vは測距によって得られる反射体までの距離は、短ければ短いほど大きくなり、遠ければ遠いほど小さくなる傾向がある。
【0048】
マスク角Vは、レーザースキャナ部101のパルスレーザー光照射方向に対応した角度となる。例えば、
図2におけるX軸方向を回転軸として回転部25が回転し、Y-Z面上にパルスレーザー光を照射するならば、マスク角VはY-Z面方向に対応した角度となる。マスク角の算出は、上述のパルスレーザー光照射方向に対応した角度とした算出だけでなく、TS100の本体部11が行う水平回転(
図2におけるZ軸回りの回転)に対応した角度として算出してもよい。
【0049】
なお、光学的な反射体の寸法は既知である必要があるため、予め寸法情報を入力または登録等しておく。したがって、マスク角算出部303は反射体の寸法情報を受け付ける機能部である反射体サイズ受付部(図示省略)を備える。反射体サイズ受付部は、マスク角算出部303に反射体の寸法情報を受け渡せれば、マスク角算出部303に備えられることに限定されない。また、レーザースキャナまたはレーザースキャナ機能部からパルスレーザー光を複数条の照射を行う場合は、各パルスレーザー光についてマスク角Vを算出する。
【0050】
マスク角算出部303は、レーザースキャナまたはレーザースキャナ機能部から発せられるパルスレーザー光の照射範囲に光学的な反射体が複数あった場合、反射体ごとにマスク角Vの算出を行う。
【0051】
スキャン制御部304は、レーザースキャナまたはレーザースキャナ機能部を動作または機能させることにより、対象の点群データを得る。なお、得られた点群データには、測位部302で得られる三次元座標データが付与される。例えば、TS100のレーザースキャナ部101を機能させ、測定対象物200についての三次元座標情報を有する点群データを得る。
【0052】
また、スキャン制御部304は、マスク角算出部303が算出したパルスレーザー光を照射しない角度を除いた範囲をレーザースキャン範囲とする制御も行う。例えば、TS100のレーザースキャナ部101から測定対象物200の測定に対応するパルスレーザー光の照射範囲が155°~185°であって、マスク角算出部303で算出されたマスク角度Vmが170°~175°であるならば、スキャン制御部304は、155°~170°および175°~185°の範囲について、レーザースキャナ部101の発光部にパルスレーザー光を照射させる。
【0053】
反射体マスク制御部300は、信号生成部(図示省略)を備えることでレーザースキャナまたはレーザースキャナ機能部に対して、マスク角算出部303で算出されたマスク角の情報を付した信号を送信することで直接的に制御を行ってもよいし、報知装置へ信号を送信することで、本発明の利用者に視覚的または聴覚的に認識させ、本発明の利用者を介して、間接的に制御を行ってもよい。
【0054】
スキャン制御部303において得られた点群データや、マスク角算出部303において用いられる光学的な反射体の寸法(サイズ)データは、反射体マスク制御部300内に備えられる記憶部(図示省略)に記憶してもよいし、反射体マスク制御部300が備えられる装置の記憶部(本実施形態ならば、TS100の記憶部102)や反射体マスク制御部300と通信可能な装置の記憶部に記憶させてもよい。
【0055】
(処理の一例)
本実施形態における処理の一例を
図6に示す。ここで示す処理では、TS100のレーザースキャナ部101は、測定対象物200に対して鉛直方向にスキャン(
図2のY-Z面内でのスキャン)を行い、反射プリズム201の寸法情報は予め得られているものとして説明する。
【0056】
まず、測定対象物200に備えられる反射プリズム201に対して、TS100により自動視準を行う(ステップS101)。次に、自動視準された反射プリズム201に対して測位を行い、反射プリズム201の三次元座標データを得る(ステップS102)。
【0057】
そして、ステップS102で得られる反射プリズム201の三次元座標データ、既知である反射プリズム201の寸法およびレーザースキャナ部101のパルスレーザー光照射範囲から測定対象物200にパルスレーザー光を照射する際に反射プリズムに該当する部分としてマスクするマスク角度を算出する(ステップS103)。
【0058】
ステップS103の処理で得たマスク角に該当しない範囲かつ測定対象物200の測定に対応する範囲について、スキャンを行う(ステップS104)。以上の処理により、反射プリズム201に該当する部分を除いた測定対象物200の点群データを得られたことによって、処理を終了する。
【0059】
上述の処理(ステップS101~ステップS104)においては、移動しない測定対象物200を点群データ取得対象としたが、本発明の技術は測定対象物200が移動体であっても利用可能である。その場合のフローは、
図6と同様ではあるが、ステップS101およびステップS102の処理内容が変わる。
【0060】
測定対象物200が移動体である場合のステップS101では、測定対象物200に備えられる反射プリズム201に対して、TS100により自動視準を行い、測定対象物200の移動に合わせてTS100が自動追尾を行えるようにする。これは、TS100が移動体である測定対象物200を自動追尾できていることで、次のステップで行う測位が可能となるためである。
【0061】
そして、ステップS102では、視準され自動追尾されている反射プリズム201の測位を行い、反射プリズム201の三次元座標データを得る。その後は、上述のステップS103、ステップS104同様の処理を順に行い、処理終了となる。
【0062】
(変形例1)
本発明の実施においては、光学的な反射体からの反射光を受光素子に入れないよう、受光光路に光シャッター等の光路遮断機を設ける実施形態でもよい。この場合は、照射されるパルスレーザー光が反射体に反射されて受光素子に返ってくるタイミングで光路の遮断を行う。
【0063】
反射光が返ってくるタイミングは、パルスレーザー光の速度および測位部302が取得する反射体の三次元座標から算出できる距離によって算出可能である。ここで、パルスレーザー光の速度の算出は、測位部302により距離を算出できる任意の地点に対して、パルスレーザー光を照射(発光)してから受光するまでの時間を計測することで算出可能である。
【0064】
この変形例の場合は、上述のマスク角算出部303に変えて、マスク時刻算出部(図示省略)を反射体マスク制御部300に備える構成にできる。なお、この場合のスキャン制御部304は測定対象物200へのパルスレーザー光の照射をマスク角V等の制限なく行う。
【0065】
なお、マスク角の範囲で受光素子をOFFにする態様も可能である。この場合、マスク角の範囲を光軸が指向するタイミングでスキャン光の受光素子をOFFにし、強度の強い反射光を受光素子が検出しないようにする。
【0066】
本変形例において、光路遮断機による光遮断機能および受光素子をOFFすることによる光遮断機能は、どちらか一つの機能を備えていれば足りるが、二つの機能を併用してもよい。二つの機能を併用することで、より確実に反射光を遮断できる。さらに、上述したレーザースキャナの発光部の動作と併せて、機能させてもよい。
【0067】
(変形例2)
レーザースキャナによる1軸回転スキャンを行いながら、レーザースキャナを備えたTS本体を水平角回転させる場合(例えば、回転部25が
図2におけるX軸方向を回転軸として回転し、かつ本体部11が水平回転(
図2におけるZ軸回りの回転)をする場合)、レーザースキャナの測定範囲は二次元平面から三次元空間へ拡大する。この場合において本発明を利用すると、測定対象を正面だけでなく側面から測定できるため、多様な形状の光学的な反射体に対応ができるようになる。
【0068】
また、点群データを得たい任意の大きさの空間において、該空間内に光学的な反射体が複数存在していた場合、光学的な反射体ごとの三次元座標を測定または取得することで、各反射体の位置に対応するマスク角Vを算出し、算出された各マスク角Vを避けるようにパルスレーザー光の照射することも可能となる。該空間内に移動する光学的な反射体が複数あった場合は、複数台の測位機能を持つ機器により、各反射体の三次元座標を測定し、その三次元座標データを通信等によって取得する形態であってもよい。
【0069】
(汎用性)
反射体マスク制御部300が行う処理(上述の処理の一例のステップS101~ステップS104)は、TS100の演算制御部113を介してTS100の各機能を動作させればよいため、演算制御部113と反射体マスク制御部300の間で信号の送受信が行えるのならば、反射体マスク制御部300の測量機器に備えられることにも限定されない。つまり、反射体マスク制御部300を別個の装置としてもよい。例えば、反射体マスク制御部300を別個の装置として、市販されている三次元レーザースキャナ装置およびTSとを組み合わせて、本発明を実施することが考えられる。
【0070】
(優位性)
本発明の優位性は、受光素子の飽和により、従来取得できない場合が多かった光学的な反射体付近の点群データを取得可能となることが挙げられる。さらに、本発明の技術は、光学的な反射体が複数あったとしても利用できる点においても優位性がある。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、光学的な反射体を用いた測量技術に利用可能である。
【符号の説明】
【0072】
11…本体部、12…台座、13…可動部、14a…水平回転角制御ダイヤル、14b…鉛直回転角制御ダイヤル、15a…照準器、15b…照準器、16…望遠鏡、17…接眼部、18…ディスプレイ、19…ディスプレイ、20…TS本体、21…塔部、22…塔部、23…結合部、24…保護ケース、25…回転部、26…斜めミラー、100…(レーザースキャナ付き)TS、101…レーザースキャナ部、102…記憶部、103…測距部、104…追尾光発光部、105…追尾光受光部、106…水平角検出部、107…鉛直角検出部、108…水平回転駆動部、109…鉛直回転駆動部、110…表示部、111…操作部、112…通信部、113…演算制御部、200…測定対象物、201…反射プリズム、300…反射体マスク制御部、301…自動視準制御部、302…測位部、303…マスク角算出部、304…スキャン制御部。