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特許7060409光学測定セル、光学分析計、及び光学測定セルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】光学測定セル、光学分析計、及び光学測定セルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/09 20060101AFI20220419BHJP
   G01N 21/05 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N21/09
G01N21/05
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018038446
(22)【出願日】2018-03-05
(65)【公開番号】P2019152553
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】中原 達也
(72)【発明者】
【氏名】世古 朋子
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-068746(JP,A)
【文献】特開2011-257146(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0293887(US,A1)
【文献】特開2008-081547(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0139420(US,A1)
【文献】特表2006-503276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00 - G01N 21/958
G01N 15/00
H01L 21/64 - H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液が収容される内部空間を挟む第1透光部材及び第2透光部材を備え、前記第1透光部材に入射した光が、前記内部空間を通過して前記第2透光部材から射出するように構成された光学測定セルであって、
前記第1透光部材の光入射側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第1押え部材と、
前記第2透光部材の光射出側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第2押え部材と、
前記第1透光部材と前記第1押え部材との間、及び、前記第2透光部材と前記第2押え部材との間に介在するシール部材とをさらに備え、
前記各透光部材の表面における一部を除く領域であり、少なくとも前記内部空間を覆う領域に被膜がコーティングされており、その被膜の端部が前記シール部材よりも前記光透過領域側に位置していることを特徴とする光学測定セル。
【請求項2】
前記被膜が、少なくとも前記光透過領域を除く領域にコーティングされている請求項1記載の光学測定セル。
【請求項3】
前記被膜が、前記各透光部材の表面にプライマーを介すことなく形成されたフッ素系樹脂被膜である請求項1又は2記載の光学測定セル。
【請求項4】
前記各透光部材の表面における前記光透過領域とは異なる領域と前記被膜との間に、プライマーが介在している請求項1又は2記載の光学測定セル。
【請求項5】
前記第1透光部材及び前記第2透光部材の間に介在して、これら第1透光部材及び第2透光部材とともに前記内部空間を形成するスペーサをさらに備え、
前記スペーサが、前記第1透光部材及び前記第2透光部材の少なくとも一方と一体的に設けられている請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の光学測定セル。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか一項に記載の光学測定セルと、
前記光学測定セルに対して光を照射する光照射部と、
前記光学測定セルを透過した光を検出する光検出部とを有する光学分析計。
【請求項7】
被検液が収容される内部空間を挟む第1透光部材及び第2透光部材と、前記第1透光部材の光入射側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第1押え部材と、前記第2透光部材の光射出側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第2押え部材と、前記第1透光部材と前記第1押え部材との間、及び、前記第2透光部材と前記第2押え部材との間に介在するシール部材とを備えた光学測定セルの製造方法であって、
前記各透光部材の表面における一部を除く領域であり、少なくとも前記内部空間を覆う領域に被膜をコーティングし、その被膜の端部を前記シール部材よりも前記光透過領域側に位置させることを特徴とする光学測定セルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体等の製造工程においてフッ酸(HF)等の薬液の濃度等を測定するために用いられる光学測定セル、当該光学測定セルを用いた光学分析計、及び当該光学測定セルの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の光学測定セルは、特許文献1に示すように、半導体製造装置の薬液配管に接続されて、内部空間を薬液が通過するものであり、当該内部空間を挟む一対の光学窓を有している。そして、この光学測定セルの一方の光学窓に測定光が照射されて、他方の光学窓から出た透過光が光検出器に受光される。これによって光学測定セルを流れる薬液の透過光強度から当該薬液に含まれる所定成分の濃度等が算出されて、設定すべき薬液濃度への濃度制御が行われる。
【0003】
従来、この光学測定セルにおいて、一対の光学窓を形成する透光部材には、石英が用いられたり、薬液が石英を溶かすフッ酸(HF)等の場合にはサファイアが用いられたりする。
【0004】
ところが、透光部材として石英又はサファイアのどちらを用いたとしても、その透光部材に含まれる主成分(SiやAl)が薬液中に溶け出してコンタミネーション(汚染)が生じてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-1135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本願発明者は、コンタミネーションの抑制を図るべく、透光部材の表面に例えばフッ素コーティング等による被膜を形成することを検討した。
【0007】
しかしながら、透光部材をチャンバ内に配置して例えば蒸着等により透光部材の表面にフッ素コーティング等をする場合、言うまでもなく透光部材を宙に浮かすことはできず、透光部材のどこかを支持体により支持する必要があり、その支持体が接触している箇所には被膜を形成することができない。
【0008】
その結果、透光部材の表面には被膜でコーティングされている領域とコーティングされていない領域との境界が現れ、この境界部分にある被膜の端部から被膜が剥がれてしまい、上述したコンタミネーションの抑制効果を損なうことになる。
【0009】
そこで本発明は、上記問題点を解決すべくなされたものであり、透光部材の表面に薬液等の試料との接触を防ぐ被膜を形成するとともに、その被膜が剥がれてしまうことを防ぐことをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明に係る光学測定セルは、被検液が収容される内部空間を挟む第1透光部材及び第2透光部材を備え、前記第1透光部材に入射した光が、前記内部空間を通過して前記第2透光部材から射出するように構成された光学測定セルであって、
前記第1透光部材の光入射側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第1押え部材と、前記第2透光部材の光射出側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第2押え部材と、前記第1透光部材と前記第1押え部材との間、及び、前記第2透光部材と前記第2押え部材との間に介在するシール部材とをさらに備え、前記各透光部材の表面の一部を除く領域に被膜がコーティングされており、その被膜の端部が前記シール部材よりも前記光透過領域側に位置していることを特徴とするものである。
【0011】
このように構成された光学測定セルであれば、被膜の端部がシール部材よりも光透過領域側に位置しているので、透光部材の表面における被検液が接触し得る領域は被膜でコーティングされており、コンタミネーションの抑制を図れる。
しかも、被膜の端部がシール部材の光透過領域側に位置しているので、被膜を押さえ部材によって押さえることができる。これにより、被膜の端部を押さえれば、被膜が端部から剥がれてしまうことを防ぐことができる。また、被膜の端部が押さえ部材よりも光透過領域側に位置しており、その端部が押さえられておらず剥がれてしまったとしても、その剥がれは押さえ部材により押さえられている部分で進行が止まるので、それ以上被膜が剥がれてしまうことを防ぐことができる。
このように、上述した光学測定セルであれば、透光部材に薬液等の被検液との接触を防ぐ被膜を形成するとともに、その被膜が剥がれてしまうことを防ぐことができる。
【0012】
前記被膜が、少なくとも前記光透過領域を除く領域にコーティングされていることが好ましい。
このような構成であれば、光が透光部材の外向き面を透過する際に、被膜を通過しないので、光学測定セルの透過光の光量が落ちにくい。
【0013】
ところで、被膜としてフッ素系樹脂被膜をコーティングする場合、一般的には被膜の剥がれを防ぐべく、プライマーを下塗りするが、このプライマーを用いると光学測定セルの光透過性が低下してしまう。
そこで、前記被膜が、前記各透光部材の表面にプライマーを介すことなく形成されたフッ素系樹脂被膜であることが好ましい。
このように、プライマーを介すことなくフッ素系樹脂被膜をコーティングしたとしても、上述したように押さ部材が被膜を押さえているので、被膜の剥がれを防ぐことができる。これにより、プライマーを不要にすることができ、光透過性の低下といったプライマーの使用によるデメリットを避けることができる。
【0014】
光透過性を確保しつつ、被膜をより剥がれにくくするためには、前記各透光部材の表面における前記光透過領域とは異なる領域と前記被膜との間に、プライマーが介在していることが好ましい。
【0015】
前記第1透光部材及び前記第2透光部材の間に介在して、これら第1透光部材及び第2透光部材とともに前記内部空間を形成するスペーサをさらに備え、前記スペーサが、前記第1透光部材及び前記第2透光部材の少なくとも一方と一体的に設けられていることが好ましい。
このような構成であれば、一方の透光部材の表面に設定された非コーティング領域を支持しながら被膜をコーティングすることで、スペーサの表面にも被膜をコーティングすることができる。
しかも、スペーサと一方の透光部材とが一体的に設けられているので、スペーサにコーティングされた被膜の剥がれも防ぐことができる。
【0016】
また、本発明に係る光学分析計は、上述した光学測定セルと、前記光学測定セルに対して光を照射する光照射部と、前記光学測定セルを透過した光を検出する光検出部とを有することを特徴とするものである。
【0017】
さらに、本発明に係る光学測定セルの製造方法は、被検液が収容される内部空間を挟む第1透光部材及び第2透光部材と、前記第1透光部材の光入射側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第1押え部材と、前記第2透光部材の光射出側を向く外向き面において前記光が透過する光透過領域の周りを押さえる第2押え部材と、前記第1透光部材と前記第1押え部材との間、及び、前記第2透光部材と前記第2押え部材との間に介在するシール部材とを備えた光学測定セルの製造方法であって、前記各透光部材の表面における一部を除く領域に被膜をコーティングし、その被膜の端部を前記シール部材よりも前記光透過領域側に位置させることを特徴とする方法である。
【0018】
このような光学分析計や光学測定セルの製造方法によれば、上述した光学測定セルと同様の作用効果を発揮させることができる。
【発明の効果】
【0019】
このように構成した本発明によれば、透光部材に被検液との接触を防ぐ被膜を形成することで、コンタミネーションの抑制を図りつつ、その被膜が剥がれてしまうことを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の薬液濃度測定装置(光学分析計)の構成を示す模式図。
図2】同実施形態の光学測定セルの構成を模式的に示す断面図。
図3】同実施形態の透光部材及びスペーサの構成を模式的に示す斜視図。
図4】同実施形態の光学測定セルと従来のPFAセルとの耐圧性を比較した実験結果を示すグラフ。
図5】同実施形態の光学測定セルと従来のPFAセルとの光透過性を比較した実験結果を示すグラフ。
図6】変形実施形態の光学測定セルの構成を模式的に示す断面図。
図7】変形実施形態の光学測定セルの構成を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明に係る光学測定セルの一実施形態について図面を参照して説明する。
【0022】
本実施形態の光学測定セル10は、図1に示すように、半導体製造装置に設けられた配管に接続されて、フッ酸(HF)等の薬液(被検液)の濃度等を測定する光学分析計に用いられる。
【0023】
なお、図1に示す光学分析計100は、光学測定セル10と、光学測定セル10に対して光を照射する光照射部11と、光学測定セル10を透過した光を検出する光検出部12とを有する。ここで、光照射部11は、光源11aと、当該光源11aからの光を光学測定セル10に導く光ファイバ11b及び集光レンズ11c等を有する導光機構とを備えている。また、光検出部12は、光検出器12aと、光学測定セル10を透過した光を光検出器12aに導く光ファイバ12b及び集光レンズ12c等を有する導光機構とを備えている。そして、光検出器12aからの光強度信号を受信した演算部13により、被検液に含まれる所定成分の濃度が算出される。このようにして得られる濃度を用いて、薬液の濃度等が制御される。なお、光照射部11としては、光ファイバ11bを備えていない構成でも良いし、光検出部12としては、光ファイバ12bを備えていない構成でも良い。
【0024】
光学測定セル10は、図2に示すように、被検液が流れる流路(内部空間S)を有するフローセルである。この光学測定セル10には、図示しない外部配管が接続されており、ここでは紙面に垂直な方向に沿って被検液が流れるように構成されている。この光学測定セル10において、光照射部11からの光が内部空間Sを流れる被検液に照射され、被検液を透過した光が光検出部12により検出される。
【0025】
具体的に光学測定セル10は、内部空間Sを挟んで互いに対向する一対の透光部材2、3と、これら一対の透光部材2、3を外側から押さえる一対の押え部材4、5と、一対の透光部材2、3及び一対の押え部材4、5を固定する固定機構6とを備えている。
【0026】
一対の透光部材2、3は、スペーサ7を介して所定の距離で対向配置されており、一方が内部空間Sよりも光入射側に配置された第1透光部材2であり、他方が内部空間Sよりも光射出側に配置された第2透光部材3である。
これらの透光部材2、3は、被検液の温度変化や圧力変動に対して、所望の測定精度を確保できるものであれば良く、例えば石英又はサファイアからなる。透光部材2、3の形状は、図3に示すように、ここでは平面視において略円板形状であるが、平面視において略矩形状や略多角形状など、適宜変更して構わない。また、第1透光部材2の径寸法は、第2透光部材3の径寸法よりも大きいが、径寸法の大小関係は逆であっても良いし、略同一の径寸法であっても良い。
【0027】
スペーサ7は、図2及び図3に示すように、一対の透光部材2、3の対向面21、31同士を平行にするとともに、これらの対向面21、31を所定の距離で対向配置するためのものであり、一対の透光部材2、3とともに内部空間Sを形成している。
本実施形態では、内部空間Sを流れる被検液の流れ方向と直交する方向(図2における上下方向)に一対のスペーサ7が内部空間Sを挟んで対向配置されている。より具体的に説明すると、一対のスペーサ7の対向面71が、一対の透光部材2、3の対向面21、31と直交するように設けられており、一対のスペーサ7の対向面71と、一対の透光部材2、3の対向面21、31とによって囲まれた空間が内部空間Sとなる。なお、一対のスペーサ7は、内部空間Sを流れる被検液の流れ方向と必ずしも直交する方向に配置されている必要はない。また、スペーサ7の対向面71は、透光部材2、3の対向面21、31と必ずしも直交する必要はなく、例えば透光部材2、3の対向面に対して傾斜していても良い。
【0028】
各スペーサ7は、透光部材2、3と同様、被検液の温度変化や圧力変動に対して、所望の測定精度を確保できるものであれば良く、例えば石英又はサファイアからなる。
【0029】
本実施形態のスペーサ7は、透光部材2、3の少なくとも一方と一体的に設けられている。具体的には両方のスペーサ7が、第1透光部材2と例えばオプティカルコンタクトにより一体的に設けられている。これらのスペーサ7は、ここでは平面視において円板の一部をカットした形状であり、具体的には第1透光部材2と略同一形状の円板をカットして形成したものである。これにより、図3に示すように、スペーサ7の部分円形状をなす外縁7aは、平面視において第1透光部材2の外縁2aと重なり合っている。
【0030】
一対の押え部材4、5は、それぞれシール部材8、9を介して一対の透光部材2、3を押さえるものであり、一方が第1透光部材2よりもさらに光入射側に配置された第1押え部材4であり、他方が第2透光部材3よりもさらに光射出側に配置された第2押え部材5である。
【0031】
第1押え部材4は、第1透光部材2の光入射側を向く外向き面22を光射出側に向かって押圧するものであり、外向き面22において光が透過する光透過領域Aの周り、言い換えれば外向き面22における光透過領域Aよりも径方向外側を押圧する押圧面41を有している。具体的に第1押え部材4は、概略円筒形状をなし、その外側周面42と押圧面41との一部を斜めに切り欠いて形成されたテーパ状の傾斜面43とを有する傾斜リングである。また、第1押え部材4の中央部には、第1透光部材2に光を導入するための貫通孔4hが形成されている。
【0032】
第2押え部材5は、第1押え部材4の押圧面41との間で一対の透光部材2、3を押さえるものである。この第2押え部材5は、第2透光部材3の光射出側を向く外向き面32を押圧するものであり、外向き面32において光が透過する光透過領域Aの周り、言い換えれば外向き面32における光透過領域Aよりも径方向外側を押圧する押圧面51を有している。具体的に第2押え部材5は、一対の透光部材2、3や第1押え部材4を収容する収容凹部52が形成されたものである。
【0033】
収容凹部52は、一対の透光部材2、3が嵌る例えば略円筒形(平面視において略円形状)をなし、断面略円形状の内側周面53と、当該内側周面53に直交する面である底面とによって形成された空間であり、この底面が上述した押圧面51である。
押圧面51には、第2透光部材3を通過した光が通過する貫通孔5hが形成されており、この貫通孔5hを通過した光が光検出部12に向かう。
また、内側周面53には、第1透光部材2と一体化されてスペーサ7が嵌る大径部531と、第2透光部材3が嵌る小径部532とが設けられている。このように大径部531及び小径部532を設けることにより、第1透光部材2及び第2透光部材3を径方向に対して位置決めすることができる。
【0034】
第1透光部材2と第1押え部材4との間に介在する第1シール部材8は、収容凹部52の内側周面53と、第1押え部材4の傾斜面43と、第1透光部材2の外向き面22とに囲まれた領域に設けられており、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やFKM(フッ素ゴム)等をからなるOリングである。
【0035】
第2透光部材3と第2押え部材5との間に介在する第2シール部材9は、収容凹部52の底面である押圧面51に形成されたリング状の凹溝54に設けられており、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)やFKM(フッ素ゴム)等をからなるOリングである。
【0036】
かかる構成により、一対の透光部材2、3が一対の押え部材4、5により押えられることにより、第1シール部材8及び第2シール部材9がつぶれ、被検液が内部空間Sから一対の透光部材2、3の間を伝って収容凹部52に漏れ出たとしても、その被検液がシール部材8、9の内側に漏れ出ることを防ぐことができる。これにより、被検液のセル外部への漏出が防止される。
【0037】
固定機構6は、収容凹部52に収容された一対の透光部材2、3及び一対の押え部材4、5を固定するものであり、具体的には収容凹部52を塞ぐ蓋体61と、蓋体61を第2押え部材5に連結する連結部材62とを備えている。
【0038】
蓋体61は、第1押え部材4を光射出側に押圧するものであり、ここでは蓋体61の外周部が、第2押え部材5の光入射側を向く面に当接する。この蓋体61には、光照射部11から射出された光が通過する貫通孔61hが形成されており、この貫通孔61hを通過した光が第1透光部材2の光透過領域Aに向かう。
【0039】
連結部材62は、蓋体61及び第2押え部材5それぞれを貫通する図示しない連通孔に挿通されるものであり、例えばその連通孔に形成された雌ねじ部に螺号するボルトである。本実施形態では、蓋体61と第2押え部材5との複数箇所に連通孔が形成されており、これらの貫通孔それぞれに連結部材62が挿通されている。
【0040】
このように構成された光学測定セル10において、図2及び図3に示すように、一対の透光部材2、3の表面には、被検液と透光部材2、3との接触を防止する被膜Xがコーティングされている。
【0041】
透光部材2、3の表面に被膜Xを形成する場合、透光部材2、3のどこかを支持する必要があり、その支持されている支持面には被膜Xを形成することができない。なお、被膜Xが形成されていない支持面とは異なる第2の支持面を支持して、再び透光部材2、3の表面に被膜Xを形成することで、表面全体に被膜Xを形成することができるように思われるが、この場合は第2の支持面の被膜Xが剥がれてしまい、結局のところ表面全体には被膜Xを形成することができない。
従って、一対の透光部材2、3の表面には、一部を除く領域に被膜Xが形成されることとなり、言い換えれば透光部材2、3の表面には、被膜Xが形成されない非コーティング領域Yが設定されていることになる。
【0042】
本実施形態では、透光部材2、3の表面の非コーティング領域Yを除く領域に被膜Xが形成されており、具体的にはフッ素コーティングによるフッ素系樹脂被膜Xが形成されている。
【0043】
ここで、通常のフッ素コーティングの手順について簡単に説明すると、基材の表面に対して、脱脂、下地処理(ブラスト)、プライマー処理、熱処理をこの順で行った後、コーティング材が塗布される。
一方、本実施形態では透光部材2、3の表面にプライマー等を下塗りすることなく、つまり透光部材2、3の表面とフッ素系樹脂被膜Xとの間にプライマーを介在させることなく、透光部材2、3の表面に直接フッ素系樹脂被膜Xを形成してある。なお、その他の脱脂、下地処理(ブラスト)、熱処理等の工程は必要に応じて適宜行われる。
【0044】
より具体的に説明すると、第1透光部材2は、上述したようにスペーサ7が一体的に設けられているので、第1透光部材2の表面には、非コーティング領域Yとスペーサが接触している領域とを除く領域に被膜Xが形成されており、非コーティング領域Yは、第1透光部材2の外向き面22に設定されている。
【0045】
一方、第2透光部材3の表面には、非コーティング領域Yを除く領域に被膜Xが形成されており、非コーティング領域Yは、第2透光部材3の外向き面32に設定されている。
【0046】
上述した構成により、各透光部材2、3の外向き面22、32には、被膜Xが形成されたコーティング領域と非コーティング領域Yとの境界が位置しており、具体的にこの境界は、上述したシール部材8、9よりも光透過領域A側、すなわちシール部材8、9の内側に位置している。
つまり、透光部材2、3の表面において被検液が接触し得る面、具体的には内部空間Sを形成する対向面21、31と、側周面23、33と、外向き面22、32におけるシール部材8、9よりも外側には被膜Xが形成されている。
【0047】
そして、コーティング領域と非コーティング領域Yとの境界に位置する部分、言い換えれば被膜Xの端部Zは、透光部材2、3の外向き面22、32と押え部材4、5との間に位置しており、押え部材4、5によって透光部材2、3に押さえ付けられている。また、被膜Xの端部Zが透光部材2、3の外向き面22、32と押え部材4、5との間に位置しているので、外向き面22、32における光透過領域Aの全体が、非コーティング領域Yに含まれている。なお、被膜の端部Zとは、コーティング領域と非コーティング領域Yとの境界に位置する被膜端面或いは被膜端面の近傍を有する部分である。
【0048】
ここで、光学測定セル10の耐圧性が低い場合、内部空間Sに供給する被検液の供給圧力が大きくなると、一対の透光部材2、3の間隔が広がって光路長が長くなり、吸光度が変化する。この吸光度の変化は、光学測定セル10の耐圧性が低いほど顕著になる。
そこで、本実施形態の光学測定セル10と、薬液に対する耐蝕性を有するPFAセルとの耐圧性を比較すべく、内部空間Sへの被検液の供給圧力の吸光度に対する影響を比較した。その実験結果を図4に示す。なお、透光部材2、3としてはサファイアを用いた。
【0049】
この実験結果から、PFAセルは、被検査液の供給圧力の増大に伴って吸光度の変化量が大きくなり、上述したように耐蝕性を有するものの耐圧性に劣ることが分かる。一方、本実施形態の光学測定セル10は、被検査液の供給圧力が増大したとしても、吸光度の変化量はごく僅かであり、被膜Xによる耐食性を確保しつつも、PFAセルに比べて耐圧性が飛躍的に向上していることが分かる。
【0050】
次に、本実施形態の光学測定セル10と、従来の光学測定セルであるPFAセルとの光透過性を比較した実験結果を図5に示す。
この実験結果から、短波長領域(例えば紫外線領域)及び長波長領域(例えば近赤外領域)のいずれにおいても、本実施形態の光学測定セル10の方が、従来のPFAセルに比べて、光透過性が高いことが分かり、図4に示した実験結果と合わせると、本実施形態の光学測定セル10は、耐蝕性、耐圧性、及び透過性において優れていることが分かる。
【0051】
このように、本実施形態に係る光学測定セル10によれば、一対の透光部材2、3の表面において被検液が接触し得る領域に被膜を形成しているので、コンタミネーションの抑制や薬液に対する耐蝕性の向上を図れるうえ、押さえ部材4、5が被膜Xの端部を押えているので、被膜Xが剥がれてしまうことを防ぐことができる。
【0052】
また、押え部材4、5によって被膜Xの端部を押さえて剥がれを防いでいるので、透光部材2、3の表面へのプライマーの下塗りを不要にすることができる。これにより、プライマーの塗ることによる光透過性の低下や、プライマーに含まれる有機溶媒によるコンタミネーションの発生などといったプライマーを使うことによるデメリットを避けることができる。
【0053】
さらに、上述したプライマーの下塗りを不要にしたことに加えて、透光部材2、3の外向き面22、32における光透過領域Aの全体が非コーティング領域Yに含まれるようにしているので、図5に示す実験結果に示すように、従来よりも光透過性を向上させることができる。
【0054】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0055】
例えば、前記実施形態では、押え部材4、5が被膜Xの端部Zを押さえていたが、図6に示すように、被膜の端部Zが前記実施形態よりもさらに光透過領域A側に位置しており、その端部Zが押え部材4、5と透光部材2、3との間に介在していない場合は、押え部材4、5は必ずしも被膜Xの端部Zを押さえている必要はなく、端部Zよりもシール部材8、9側を押えていれば良い。
このような構成であれば、仮に被膜Xが端部Zから剥がれたとしても、その剥がれは押さえ部材4、5により押さえられている部分で進行が止まるので、それ以上被膜Xが剥がれてしまうことを防ぐことができる。
【0056】
また、前記実施形態では、各透光部材2、3の外向き面22、32における光透過領域Aの全体が非コーティング領域Yに含まれていたが、光透過領域Aの一部に被膜Xがコーティングされていても構わない。
【0057】
さらに、前記実施形態では、被膜Xがフッ素コーティングによるフッ素系樹脂被膜であったが、被膜Xとしてはこれに限らず、例えばDLC被膜等であっても良い。
【0058】
また、前記実施形態では、一対のスペーサ7が第1透光部材2と一体的に設けられていたが、例えば一方のスペーサ7が第1透光部材2と一体的に設けられ、他方のスペーサ7が第2透光部材3と一体的に設けられていても良いし、一対のスペーサ7が第2透光部材3と一体的に設けられていても良い。
さらに、一対のスペーサ7と各透光部材2、3とを別体としても良い。この場合、スペーサ7としては、石英やサファイアに限らず、例えば被検液が弱酸や弱アルカリなどといった反応性の低いものであれば、フッ素系樹脂などを用いても構わない。
加えて、第1透光部材2、第2透光部材3、及び一対のスペーサ7を例えばオプティカルコンタクト等により一体的に形成し、その後で、これらの外面や内部空間Sを形成する内面に被膜Xを成膜しても良い。この場合、少なくとも第1透光部材2の外向き面22における光透過領域Aと、第2透光部材3の外向き面32における光透過領域Aとを支持した状態で成膜することが好ましい。
【0059】
そのうえ、前記実施形態では、第2押え部材5が収容凹部52を有するものであったが、図7に示すように、収容凹部52を第2押え部材5とは別の部材である収容部材5’に設けても良い。この場合の第2押え部材5としては、例えば第1押え部材4と同様に、傾斜リングとすることができる。
【0060】
加えて、前記実施形態では、蓋体61と第2押え部材5とが連結部材62によって連結されていたが、蓋体61は、図6に示すように、第2押え部材5とは別の部材(ここでは収容部材5’)に連結されていても良い。
【0061】
また、前記実施形態では、透光部材2、3の表面にプライマー処理を行わずにフッ素コーティングしていたが、例えば透光部材2、3の表面における光透過領域とは異なる領域にプライマー処理を行った後、フッ素コーティングしても良い。
このように、被膜Xと透光部材2、3の表面における光透過領域Aとは異なる領域との間に、プライマーを介在させることで、前記実施形態と同等の光透過性を確保しつつ、前記実施形態よりもさらに被膜を剥がれにくくすることができる。
【0062】
さらに加えて、前記実施形態の試料が液体であったが、ガスであっても良い。
【0063】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
100・・・光学分析計
10 ・・・光学測定セル
S ・・・内部空間
2、3・・・透光部材
A ・・・光透過領域
4、5・・・押え部材
7 ・・・スペーサ
8、9・・・シール部材
Y ・・・非コーティング領域
X ・・・被膜
Z ・・・端部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7