(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】メタン発酵液の後処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20060101AFI20220419BHJP
C02F 1/20 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C02F1/58 S
C02F1/58 P
C02F1/58 J
C02F1/20 A
(21)【出願番号】P 2018113415
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110711
【氏名又は名称】市東 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100078798
【氏名又は名称】市東 禮次郎
(72)【発明者】
【氏名】原田 淳
(72)【発明者】
【氏名】前田 均
(72)【発明者】
【氏名】岡部 元宣
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-062491(JP,A)
【文献】特開2004-195453(JP,A)
【文献】特表2011-507673(JP,A)
【文献】特開2009-226250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/58- 1/64
C02F 1/20- 1/26
C02F 1/30- 1/38
C02F 3/28- 3/34
C02F 11/00-11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスのメタン発酵処理後の発酵液を取り入れて一時滞留させ
る発酵液調整槽の流入口の内側に周囲から仕切って有底チャンバーを設け,前記有底チャンバー内に曝気して発酵液中の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させ,前記有底チャンバー内に交換可能に沈設した金属製の枠体網に曝気中の析出結晶の少なくとも一部分を付着させ,前記結晶析出後の発酵液を有底チャンバーから
前記発酵液調整槽へ溢流させて一時滞留させ,前記発酵液調整槽内に曝気して発酵液中の未析出の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させたのち,結晶析出後の発酵液を後続の後処理工程へ
送ってなるメタン発酵液の後処理方法。
【請求項2】
バイオマスのメタン発酵処理後の発酵液を取り入れて一時滞留させる
発酵液調整槽,前記発酵液調整槽の流入口の内側に周囲から仕切って設けた有底チャンバー,前記有底チャンバー内に曝気して発酵液中の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させる曝気装置,前記有底チャンバー内の曝気装置の上方に交換可能に沈設する金属製の枠体網,前記結晶析出後の発酵液を有底チャンバーから
前記発酵液調整槽へ溢流させる溢流堰
,及び前記発酵液調整槽内に曝気して発酵液中の未析出の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させる曝気装置を備えてなるメタン発酵液の後処理装置。
【請求項3】
請求項
2の装置において,前記発酵液調整槽に傾斜底面を設け,当該傾斜底面の下端部に前記析出結晶の収集溝を形成してなるメタン発酵液の後処理装置。
【請求項4】
請求項
2又は3の装置において,一対の前記有底
チャンバー付き発酵液調整槽を設け,前記メタン発酵処理後の発酵液の流入路を前記有底
チャンバー付き発酵液調整槽の何れかの流入口に接続する切換え弁を設けてなるメタン発酵液の後処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメタン発酵液の後処理方法及び装置に関し,とくにバイオマスのメタン発酵処理後に発生する発酵液の後処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
循環型社会を形成する観点から,生ごみ,高濃度有機性排水,余剰汚泥,家畜糞尿のような有機物を含むバイオマスSを微生物により嫌気的に分解し,エネルギー源となるバイオガスGを生成するメタン発酵処理技術が実用化されている(特許文献1,非特許文献1参照)。
図4を参照して,従来のメタン発酵プラントの流れを本発明の理解に必要な程度において説明する。先ず処理対象のバイオマスSを原料タンク1に蓄え,必要に応じて異物分離・粉砕・希釈等の前処理を施したうえで,原料ポンプ1aによりメタン発酵槽(バイオリアクタ)2へ投入してメタン発酵処理に供する。
【0003】
メタン発酵槽2におけるメタン発酵処理(有機物の消化過程)は,多くの微生物群の共生によりタンパク質,炭水化物,脂質等の様々な有機物を分解する複雑な反応過程であるが,一般的には第1段階において分子量の大きな有機物が低分子量のアルコール,脂肪酸,水素等に分解され,第2段階において脂肪酸等が酢酸に酸化分解され,第3段階において酢酸,水素等から最終的にバイオガスGが生成される。図示例は固形物濃度が比較的小さいバイオマスSを処理対象とする湿式のメタン発酵槽2を示しているが,固形物濃度が比較的高いバイオマスSを処理する場合は乾式のメタン発酵槽とすることも可能である。
【0004】
メタン発酵槽2では,バイオガスGが生成されると共に,発酵処理後に発酵液ないし発酵残渣(以下,両者をまとめて発酵液という)Fが発生する。発酵液Fは後処理を施すことにより,コンポスト(堆肥)や土壌改良材等として再資源化し,又は適当な排水処理等により無害化することができる。図示例の後処理工程では,先ずメタン発酵処理で発生した発酵液Fを流入路2a経由で発酵液調整槽20に送って一旦貯留し,調整槽20の発酵液Fを発酵液ポンプ29により固液分離装置(例えば脱水機等)30へ送って固相と液相とを分離している。固液分離時には,図示例にように,凝集剤ポンプ31aにより凝集剤タンク31から凝集剤を添加してもよい。固液分離後の液相は濾液タンク32に一旦蓄え,濾液ポンプ33により排水処理装置(例えば活性汚泥処理装置等)34に送って所定環境基準値まで無害化処理することができ,無害化した発酵液Fは例えば排水ポンプ35により下水道等の環境中に放流することができる。また,固液分離後の固相は適当な堆肥化装置に投入して再資源化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-167523号公報
【文献】特開2004-195453号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】財団法人新エネルギー財団編「バイオマス技術ハンドブック~導入と事業化のためのノウハウ~ 第3章メタン発酵」株式会社オーム社,平成20年10月25日,pp.206~447
【文献】独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構プレスリリース「養豚で発生するリンの再利用技術を開発」2008年6月18日発行,インターネット<http://www.naro.affrc.go.jp/publicity_report/press/laboratory/nilgs/012887.html>
【文献】島村和彰ほか「2槽式流動層MAPリアクタによる高効率りん回収方法の検証」エバラ時報No.206,2005年発行,インターネット<https://www.ebara.co.jp/about/technologies/abstract/detail/__icsFiles/afieldfile/2016/04/25/206_P23_1.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし,従来のメタン発酵処理には,メタン発酵処理後の発酵液F中に溶解した結晶化成分が後処理工程(とくに,
図4の点線で囲まれた発酵槽貯留槽20から濾液ポンプ33に至る工程)において析出し,析出した結晶が処理槽・配管の内部の閉塞を引き起こしてプラントの稼働に影響を与えうる問題点がある。析出する結晶の主なものは,処理対象のバイオマスSにリン酸イオン(PO
4
3-),アンモニウムイオン(NH
4
+),マグネシウムイオン(Mg
2+)等の結晶化成分が含まれている場合に,それらが結合して形成されるリン酸マグネシウムアンモニウム(MgNH
4PO
4;以下,MAPという)である。
【0008】
メタン発酵の処理対象は多くの緩衝剤が含まれる複雑な緩衝溶液であり,後処理工程における結晶の析出は複数の条件(圧力,温度等)が重なって生じるものなので,MAP等の結晶の析出反応を単純に定式化することは困難である。もっとも,
図4の原料タンク1では乳酸発酵反応により通常pH4~5程度の酸性に維持されており,メタン発酵槽2では上述したバイオイオガスGへの分解反応により通常pH7.5程度に維持されているのが一般的であるのに対し,メタン発酵槽2から排出後の発酵液Fは溶解した炭酸ガス(H
2CO
3)が二酸化炭素(CO
2)となって徐々に放出されるため,後処理工程ではpHが上昇して通常pH8以上となっている。後処理工程においてMAP等の結晶が析出する一つの原因は,このような発酵液FのpH8以上の上昇(アルカリ化)にあると考えられる。すなわち,MAP等の結晶を形成するリン酸イオン,アンモニウムイオン,マグネシウムイオン等は,pH上昇により析出する結晶化成分(以下,高pH結晶化成分ということがある)である。
【0009】
従来の高pH結晶化成分が含まれるバイオマスSのメタン発酵プラントでは,後処理工程で析出するMAP等の結晶が処理槽・配管の閉塞につながることを避けるため,定期的に又は必要に応じて内部を清掃することが不可欠である。ただし,メタン発酵槽2は稼働を一旦停止すると再起動に長い時間がかかるので,メタン発酵槽2の稼働を停止せずに後処理工程の清掃を求められることがあり,後処理工程を短時間で手間をかけずに清掃できる技術の開発が求められている。
【0010】
本発明者は,メタン発酵処理の後処理工程の前段部分において高pH結晶化成分を集中的・効率的に析出させることに着目した。例えば養豚業等で発生する高濃度有機性排水(豚舎汚水)の処理に際して,有機性排水中に含まれるリン酸をMAPとして回収する技術が開発されている(特許文献2,非特許文献2~3参照)。このような結晶の回収技術をメタン発酵処理の後処理工程に適用し,後処理工程の前段部分において高pH結晶化成分を集中的・効率的に析出させることができれば,後処理工程の後段部分における結晶の析出を小さく抑え,後処理工程の全体の清掃作業を簡単化することが期待できる。
【0011】
そこで本発明の目的は,後処理工程の清掃の簡単化を図ることができるメタン発酵液の後処理方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
図1(B)の実施例を参照するに,本発明によるメタン発酵液の後処理方法は,バイオマスSのメタン発酵処理後の発酵液Fを取り入れて一時滞留させ
る発酵液調整槽20の流入口21の内側に周囲から仕切って有底チャンバー11(図1(A)も参照)を設け,有底チャンバー11内に曝気して発酵液F中の高pH結晶化成分(例えばリン酸イオン,アンモニウムイオン,マグネシウムイオン)をpH上昇により析出させ,有底チャンバー11内に交換可能に沈設した金属製の枠体網17に曝気中の析出結晶(例えばMAP)の少なくとも一部分を付着させ,結晶析出後の発酵液Fを有底チャンバー11から
発酵液調整槽20へ溢流させて一時滞留させ,発酵液調整槽20内に曝気して発酵液F中の未析出の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させたのち,結晶析出後の発酵液Fを後続の後処理工程へ
送ってなるものである。
【0013】
また,
図1(B)の実施例を参照するに,本発明によるメタン発酵液の後処理装置は,バイオマスSのメタン発酵処理後の発酵液Fを取り入れて一時滞留させる
発酵液調整槽20,発酵液調整槽20の流入口21の内側に周囲から仕切って設けた有底チャンバー11
(図1(A)も参照),有底チャンバー11内に曝気して発酵液F中の高pH結晶化成分(例えばリン酸イオン,アンモニウムイオン,マグネシウムイオン)をpH上昇により析出させる曝気装置15,有底チャンバー11内の曝気装置15の上方に交換可能に沈設する金属製の枠体網17,結晶析出後の発酵液Fを有底チャンバー11から
発酵液調整槽20へ溢流させる溢流堰14
,及び発酵液調整槽20内に曝気して発酵液F中の未析出の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させる曝気装置26を備えてなるものである。
【0016】
望ましい実施例では,
図1(B)に示すように,発酵液調整槽20に傾斜底面23を設け,その傾斜底面23の下端部に析出結晶の収集溝24を形成する。
【0017】
更に望ましい実施例では,
図2(B)に示すように,一対の有底
チャンバー11付き発酵液調整槽20a,20bを設け,メタン発酵処理後の発酵液Fの流入路2aを有底
チャンバー11付き発酵液調整槽20a,20bの何れかの流入口21に接続する切換え弁40を設ける。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるメタン発酵液の後処理方法及び装置は,バイオマスSのメタン発酵処理後の発酵液Fを取り入れて一時滞留させる発酵液調整槽20の流入口21の内側に周囲から仕切って有底チャンバー11を設け,有底チャンバー11内の曝気装置15より曝気して発酵液F中の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させ,有底チャンバー11内の曝気中に金属製の枠体網17を交換可能に沈設して析出結晶(例えばMAP)の少なくとも一部分を付着させ,結晶析出後の発酵液Fを有底チャンバー11から発酵液調整槽20へ溢流させて一時滞留させ,発酵液調整槽20内に曝気して発酵液F中の未析出の高pH結晶化成分をpH上昇により析出させたのち,結晶析出後の発酵液Fを後続の後処理工程へ送るので,次の有利な効果を奏する。
【0019】
(イ)メタン発酵処理の後処理工程の前段部分において高pH結晶化成分を集中的に析出させ,後処理工程の後段部分における結晶の析出を小さく抑えることにより,後処理工程の全体の清掃作業を簡単化することができる。
(ロ)また,メタン発酵処理の後処理工程の前段部分に高pH結晶化成分を集中的に析出させる有底チャンバー11を設け,有底チャンバー11の内部に析出結晶を付着させる金属製の枠体網17を設けることにより,必要に応じて有底チャンバー11又は枠体網17を交換する簡単な短時間作業によって後処理工程の処理槽・配管の閉塞を避けることができる。
【0020】
(ハ)発酵液Fの流入路2aに切換え弁40を介して一対の有底チャンバー11a,11bを接続すれば,一方の有底チャンバー11aの接続時に他方の有底チャンバー11bを清掃することができ,発酵液Fの流入を停止させることなく後処理工程を清掃することができる。
(ニ)また,有底チャンバー11を発酵液調整槽20の流入口21の内側に周囲から仕切って設けた溢流堰14付き有底小部屋11とすることにより,高pH結晶化成分の析出のための別途スペースが確保できない場合であっても,従来の発酵液調整槽20の設置スペースの一部分を利用して高pH結晶化成分を集中的に析出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
以下,添付図面を参照して本発明を実施するための形態及び実施例を説明する。
【
図1】本発明によるメタン発酵液の後処理方法の一実施例の説明図である。
【
図2】本発明によるメタン発酵液の後処理方法の他の実施例の説明図である。
【
図3】本発明で用いる曝気装置15及び枠体網17の一例の説明図である。
【
図4】従来のメタン発酵液の後処理方法の一例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1(A)は,本発明によるメタン発酵液の後処理方法の実施例を示す。図示例の後処理方法では,
図4を参照して上述したメタン発酵槽2と発酵液調整槽20との間に析出槽10を設けている。メタン発酵槽2で発生したメタン発酵処理直後の発酵液Fを析出槽10に取り入れ,析出槽10において発酵液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させ,結晶析出後の発酵液Fを後続の後処理工程である発酵液調整槽20へ溢流させる。メタン発酵槽2の直後に析出槽10を設けることにより,後処理工程の前段部分において高pH結晶化成分を集中的に析出させ,後処理工程の後段部分における結晶の析出を小さく抑え,後処理工程の全体の清掃作業を簡単化することができる。析出槽10の設置位置は,図示例のように発酵槽2の直後に限定されるわけではなく,後処理工程の前段部分において適当に選択することができる。
【0023】
図示例の析出槽10は,発酵液Fを取り入れて一時滞留させる有底チャンバー11と,有底チャンバー11の底部に設けた曝気装置15と,曝気装置15の上方の発酵液F中に交換可能に沈設した金属製の枠体網17とを有する。有底チャンバー11には,発酵液流入路2aに接続する取入口12と,後続の発酵液調整槽20に接続する溢流堰14とが設けられており,取り入れた発酵液Fを所定時間滞留させることができる。有底チャンバー11の容量は,発酵液Fの取入流量に応じて発酵液F中の高pH結晶化成分が十分に析出する時間だけ滞留するように設計できるが,大きくなると清掃に手間がかかるので,清掃の手間・時間を考慮して設計することが望ましい。
【0024】
図示例の曝気装置15は,発酵液Fに溶解した炭酸ガス(H2CO3)を曝気ガスPと置換して追い出すことにより,発酵液F中の高pH結晶化成分(リン酸イオン,アンモニウムイオン,マグネシウムイオン)が析出する程度にまで有底チャンバー11内のpHを上昇させるものである。曝気ガスPの一例は空気であるが,窒素ガスその他の無害ガスを用いることも可能である。上述したように従来のメタン発酵処理では発酵液FがpH8以上となる後処理工程においてMAP等の結晶が析出することから,例えば曝気装置15の曝気によって有底チャンバー11内の発酵液FをpH8~9程度又はそれ以上まで上昇させることにより,有底チャンバー11内において高pH結晶化成分の集中的・効率的な析出を促進ができる。
【0025】
曝気装置15は有底チャンバー11内の適当な位置に設置できるが,望ましくは有底チャンバー11の底部に設ける。曝気装置15を有底チャンバー11の底部に設けることにより,発酵液Fの全体を攪拌しながら曝気し,有底チャンバー11の内部の発酵液FのpHを全体的に上昇させることができる。また,発酵液Fを攪拌しながら曝気することにより,発酵液F中の高pH結晶化成分の析出効率を全体的に高め,有底チャンバー11から溢流する発酵液F中の未析出の高pH結晶化成分を低減し,後続の後処理工程における結晶の析出を小さく抑えることができる。図示例では,有底チャンバー11の底部に単独の曝気装置15を設けているが,有底チャンバー11の底部には複数の曝気装置15を設けることが可能である。
【0026】
図示例の金属製枠体網17は,従来のメタン発酵処理の後処理工程において析出するMAP等の結晶が処理槽・配管の金属表面に付着し,その表面で更なる析出が進行して成長することから,曝気装置15の散気(気泡)と交差する上方に結晶の析出・付着・成長する環境を作り出すものである。枠体網17は,適用するメタン発酵プラントに応じて結晶が付着・成長しやすい材質を選択できるが,例えばアルミニウム製,ステンレス製,又は銅製とすることができる。また枠体網17は,曝気装置15の散気との接触面積が大きくなるように,散気が自在に通過できる網状又は籠状とすることが望ましい。更に枠体網17の表面は,結晶の付着・成長には滑面よりも粗面が適していることから,適当な粗面処理を施すことが望ましい。
【0027】
図示例の金属製枠体網17は,曝気装置15の上面に固定治具17aで固定して取り付けることができ,必要に応じて固定治具17aを解除して曝気装置15から取り外すことができる。曝気装置15の上方で析出した結晶は,一部分は枠体網17に付着せず沈殿するものもあるが,多くは枠体網17の表面に付着する。従って,必要に応じて枠体網17を交換する簡単な短時間作業で析出した結晶を回収することができ,後処理工程の清掃作業の簡単化を図ることができる。ただし,枠体網17の曝気装置15への固定は本発明に必須のものではなく,曝気装置15から独立した枠体網17を,例えば曝気装置15の上方に吊り下げて沈設してもよい(
図1(B)の曝気装置26を参照)。
【0028】
図3は,本発明に適した曝気装置15及び金属製枠体網17の実施例を示す。
図3(A)及び(B)に示す曝気装置15は,一端に吸気口15aを形成すると共に他端を封止端15bとした中空管状の送気管15cを有し,その送気管15cの周壁に多数の吹出し孔15dを形成したものである。吸気口15aに曝気ホース16(
図1参照)を接続して空気を送り込むことにより,周壁の多数の吹出し孔15dから散気(気泡)を供給することができる。送気管15cの中心軸方向に沿った片側には有底チャンバー11の底面に安定的に着座させるための脚部が形成されており,中心軸方向に沿った反対側には金属製枠体網17を取り付ける取付け板15eが設けられている。必要に応じて曝気装置15に複数本の送気管15cを含めることができ,有底チャンバー11の内部の発酵液FのpHを全体的に上昇させることができる。
【0029】
図3(C)及び(D)は,上述した曝気装置15の取付け板15eに金属製枠体網17を取り付け,固定治具17aで固定した状態を示す。図示例のように,取付け板15eに金属製枠体網17を固定した状態で,曝気装置15を有底チャンバー11の底面に着座させることにより,枠体網17の全体を曝気装置15の散気(気泡)と交差させ,枠体網17の沈設空間を結晶の析出・付着・成長しやすい環境とすることができる。有底チャンバー11の底部には複数の曝気装置15及び枠体網17を設けることが可能であり,複数の曝気装置15及び枠体網17を設けることにより,有底チャンバー11の内部空間全体を結晶の析出・付着・成長しやすい環境とすることができる。
【0030】
図1(A)のように,後処理工程の前段部分において高pH結晶化成分を集中的に析出させ,必要に応じて枠体網17を交換することにより,後処理工程の清掃作業を簡単化することができる。
図1(A)において,枠体網17の交換に代えて,予め複数の析出槽10を用意しておき,必要に応じて析出槽10を交換することにより,後処理工程の清掃作業を簡単化することも可能である。上述したように析出槽10の内部で析出した結晶の多くは枠体網17の表面に付着するが,一部分は付着せずに有底チャンバー11の底部に沈殿するため,後処理工程の閉塞を避けるためには枠体網17の交換だけでは足らず,有底チャンバー11の内部の清掃も必要となり得る。析出槽10自体を交換することにより,後処理工程の清掃作業の更なる簡単化を図ることができる。
【0031】
好ましくは,
図2(A)に示すように,析出槽10に一対の有底チャンバー11a,11bを含める。各有底チャンバー11a,11bにはそれぞれ曝気装置15と金属製枠体網17とを設け,取入口12と溢流堰14とを設ける。また,発酵液の流入路2aを有底チャンバー11a,11bの何れか一方の取入口12に接続する切換え弁40(V1,V2)を設け,有底チャンバー11a,11bの何れか一方の溢流堰14を後続の発酵液調整槽20に接続する切換え弁40(V3,V4)を設ける。
【0032】
図2(A)の実施例では,例えば切換え弁V1,V3を開放(切換え弁V2,V4を閉鎖)して有底チャンバー11aを後処理工程に組み込み,有底チャンバー11aにおいて処理液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させる。析出した結晶が枠体網17の表面に十分析出したのち,切換え弁V1,V3を閉鎖(切換え弁V2,V4を開放)して有底チャンバー11aを後処理工程から切り離すと共に他方の有底チャンバー11bを組み込み,他方の有底チャンバー11bにおいて処理液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させる。有底チャンバー11aは,後処理工程から切り離した状態で内部を清掃することができる。
【0033】
有底チャンバー11bの枠体網17の表面に析出した結晶が十分析出した場合は,切換え弁V1,V3を開放(切換え弁V2,V4を閉鎖)して有底チャンバー11bを後処理工程から切り離すと共に有底チャンバー11aを再度組み込み,有底チャンバー11aにおいて処理液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させる。このように有底チャンバー11a,11bの切り替えを繰り返すことにより,メタン発酵槽2の稼働を停止せずに発酵液Fを連続的に受入ながら後処理工程を簡単に清掃することができ,後処理工程の処理槽・配管の閉塞を避けることができる。
【0034】
こうして本発明の目的である「後処理工程の清掃の簡単化を図ることができるメタン発酵液の後処理方法及び装置」の提供を達成することができる。
【実施例1】
【0035】
図1(B)は,
図1(A)の析出槽10の有底チャンバー11を,後続の後処理工程である発酵液調整槽20の流入口21の内側に組み込んだ本発明の他の実施例を示す。
図1(A)を参照して上述したように,析出槽10は,メタン発酵槽2と発酵液調整槽20との間に設置して発酵液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させることにより後続の後処理工程における結晶の析出を小さく抑えるものであるが,従来の発酵液調整槽20に比べて追加的な設置スペースが必要となる。
図1(B)のように析出槽10の有底チャンバー11を発酵液調整槽20の内側に組み込むことにより,追加的な設置スペースを確保できない場合であっても,発酵液調整槽20の設置スペースの一部分を利用して高pH結晶化成分を集中的に析出させることができる。
【0036】
図1(B)の実施例では,発酵液調整槽20の流入口21の内側に周囲から仕切って溢流堰14付き有底小部屋11を設け,その有底小部屋11に曝気装置15と金属製枠体網17とを配置して析出槽10としている。発酵液調整槽20の流入口21を発酵液流入路2aに接続し,メタン発酵槽2で発生したメタン発酵処理後の発酵液Fを発酵液調整槽20の流入口21から取り入れる。図示例の有底小部屋11は上面開放型であり,発酵液調整槽20の流入口21から取り入れた発酵液Fは,流入口21の内側の有底小部屋11に所定時間滞留し,有底小部屋11において高pH結晶化成分を集中的に析出したのち,有底小部屋11の溢流堰14から発酵液調整槽20へ送られる。有底小部屋11の容量も,高pH結晶化成分が十分に析出する時間だけ発酵液Fの滞留するように設計できるが,短時間で清掃できる大きさとすることが望ましい。
【0037】
また
図1(B)の実施例では,発酵液調整槽20にも曝気装置26を設け,有底小部屋11において未析出の発酵液F中の高pH結晶化成分を発酵液調整槽20において析出させている。すなわち,発酵液F中の高pH結晶化成分はできるだけ有底小部屋11において析出させるが,有底小部屋11の容量だけでは析出が不十分となり,発酵液調整槽20に溢流する発酵液F中に未析出の高pH結晶化成分が残りうる。発酵液調整槽20においても,曝気装置26により発酵液F中のpHを上昇させて高pH結晶化成分の析出を促進することにより,発酵槽調整槽20の流出口22から送り出される発酵液F中の未析出の高pH結晶化成分を低減し,発酵槽調整槽20の後続の後処理工程における結晶の析出を小さく抑えることができる。
【0038】
図1(B)に示す曝気装置26は,後述する発酵液調整槽20の傾斜底面23に着座させることが難しいため,発酵液調整槽20の頂面から吊り下げて発酵液Fに沈設している。また,有底小部屋11では曝気装置15に金属製枠体網17を取り付けて析出した結晶を付着・成長させているのに対し,発酵液調整槽20の曝気は発酵液F中の未析出の高pH結晶化成分の補充的な析出を目的としているので,曝気装置26に金属製枠体網17を取り付けておらず,析出した結晶を発酵液調整槽20の底面23に沈殿させている。ただし,発酵液調整槽20の曝気装置26にも金属製枠体網17を取り付けて析出した結晶を付着・成長させることも可能である。
【0039】
図1(B)に示す発酵液調整槽20は,傾斜させた底面23を有し,その傾斜底面23の下端部に堰き止め板23aを設置することにより,底面下端部に沈殿した析出結晶の収集溝24を形成している。上述したように発酵液調整槽20では析出結晶を沈殿させているため,適宜に発酵液調整槽20の内部の清掃,とくに底面全体の清掃が必要となりうる。図示例のように底面23を傾斜させ,沈殿した析出結晶が収集溝24に集まる構造とすることにより,その収集溝24の周辺の清掃によって析出結晶を回収することができ,清掃作業を簡単化・短時間化を図ることができる。
【0040】
好ましくは,
図2(B)に示すように,一対の発酵液調整槽20a,20bを設け,各調整槽20a,20bにそれぞれ有底小部屋11を組み込んで析出槽10a,10bとする。各調整槽20a,20bの有底小部屋11にはそれぞれ曝気装置15と金属製枠体網17とを設け,溢流堰14を設ける。また,発酵液の流入路2aを発酵液調整槽20a,20bの何れか一方の流入口21に接続する切換え弁40(V1,V2)を設け,発酵液調整槽20a,20bの何れか一方の流出口22を後続の後処理工程(例えば
図4の発酵液ポンプ29及び固液分離装置30)に接続する切換え弁40(V3,V4)を設ける。
【0041】
上述した
図2(A)の場合と同様に,
図2(B)の実施例においても,例えば切換え弁V1,V3を開放(切換え弁V2,V4を閉鎖)して発酵液調整槽20aを後処理工程に組み込み,発酵液調整槽20aの有底小部屋11において処理液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させ,更に有底小部屋11の外側の発酵液調整槽20aにおいて未析出の高pH結晶化成分を補充的に析出させる。結晶が十分析出したのち,切換え弁V1,V3を閉鎖(切換え弁V2,V4を開放)して発酵液調整槽20aを後処理工程から切り離すと共に他方の発酵液調整槽20bを組み込み,他方の発酵液調整槽20bの有底小部屋11において処理液F中の高pH結晶化成分を集中的に析出させ,更に有底小部屋11の外側の発酵液調整槽20aにおいて未析出の高pH結晶化成分を補充的に析出させる。
【0042】
更に,発酵液調整槽20bにおいて結晶が十分析出した場合は,切換え弁V1,V3を開放(切換え弁V2,V4を閉鎖)して発酵液調整槽20bを後処理工程から切り離すと共に発酵液調整槽20aを再度組み込み,発酵液調整槽20aにおいて処理液F中の高pH結晶化成分を析出させる。このように発酵液調整槽20a,20bの切り替えを繰り返すことにより,発酵液調整槽20a,20bの内部の清掃に時間がかかってもメタン発酵プラントの稼働に影響を与えるおそれはなくなる。また,メタン発酵槽2の稼働を停止せずに発酵液Fを連続的に受入ながら後処理工程を簡単に清掃することができ,後処理工程の処理槽・配管の閉塞を避けることが可能となる。
【符号の説明】
【0043】
1…原料タンク 1a…原料ポンプ
2…メタン発酵槽(バイオリアクタ) 2a…発酵液流入路
10…析出槽(析出室) 11…有底チャンバー(有底小部屋)
12…取入口 14…溢流堰
15…曝気装置 15a…吸気口
15b…封止端 15c…送気管
15d…吹出し孔 15e…取付け板
16…曝気ホース
17…金属製枠体網 17a…固定治具
20…発酵液調整槽
21…流入口 22…流出口
23…内部底面(傾斜底面) 23a…堰き止め板
24…収集溝
26…曝気装置 27…曝気ホース
28…吊り下げ部材 29…発酵液ポンプ
30…固液分離装置
31…凝集剤タンク 31a…凝集剤ポンプ
32…濾液タンク 33…濾液ポンプ
34…排水処理装置 35…排水ポンプ
40,41…切換弁
S…バイオマス
F…発酵液
G…バイオガス
P…曝気ガス