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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】圧延接合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/24 20060101AFI20220419BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20220419BHJP
   C22F 1/18 20060101ALI20220419BHJP
   C22F 1/04 20060101ALI20220419BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20220419BHJP
   B23K 20/04 20060101ALI20220419BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20220419BHJP
【FI】
B23K20/24
C22C21/00 E
C22F1/18 H
C22F1/04 Z
B32B15/01 G
B23K20/04 B
B23K20/04 D
C22F1/00 691B
C22F1/00 630A
C22F1/00 691C
C22F1/00 630K
C22F1/00 661Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 623
C22F1/00 627
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018139377
(22)【出願日】2018-07-25
(62)【分割の表示】P 2017246926の分割
【原出願日】2017-12-22
(65)【公開番号】P2018196906
(43)【公開日】2018-12-13
【審査請求日】2020-12-21
(31)【優先権主張番号】P 2017066268
(32)【優先日】2017-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】貞木 功太
(72)【発明者】
【氏名】神代 貴史
(72)【発明者】
【氏名】畠田 貴文
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-252682(JP,A)
【文献】特開平09-076076(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0113353(US,A1)
【文献】特開2005-021899(JP,A)
【文献】特開2015-196178(JP,A)
【文献】特開2014-223657(JP,A)
【文献】特開昭48-020747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 - 20/26
B32B 1/00 - 43/00
C22F 1/00、1/04、1/18
C22C 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
純チタン層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体であって、純チタン中のチタン以外の添加金属元素の合計含有量が0.5質量%以下であり、アルミニウム合金が、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含有し、添加金属元素の合計含有量が1質量%超であり、圧延接合体のピール強度が40N/20mm以上であり、圧延接合体の引張試験による伸びが25%以上である、前記圧延接合体。
【請求項2】
アルミニウム合金が、JISに規定の5000系のアルミニウム合金である、請求項1に記載の圧延接合体。
【請求項3】
純チタン層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体の製造方法であって、
前記圧延接合体は、純チタン中のチタン以外の添加金属元素の合計含有量が0.5質量%以下であり、アルミニウム合金が、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含有し、添加金属元素の合計含有量が1質量%超であり、圧延接合体のピール強度が40N/20mm以上であり、
純チタン板及びアルミニウム合金板の接合面をスパッタエッチングする工程と、
スパッタエッチングした表面同士を、アルミニウム合金層の圧下率7%以上且つ圧延接合体の圧下率20%以下となるように、常温~150℃で圧接して接合する工程と、
200℃~500℃でのバッチ焼鈍又は300℃~800℃での連続焼鈍を行う工程と
を含む、前記方法。
【請求項4】
アルミニウム合金が、JISに規定の5000系のアルミニウム合金である、請求項3に記載の圧延接合体の製造方法。
【請求項5】
圧延接合体の引張試験による伸びが25%以上である、請求項3又は4に記載の圧延接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延接合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料は様々な分野で利用されており、例えば、モバイル電子機器(モバイル端末)などの電子機器用のプレス成形部品として用いられている。これらの金属材料には高いプレス加工性が要求される。このような金属材料として、単一の金属からなる金属材料に加えて、2種類以上の金属板又は金属箔を積層した圧延接合体(金属積層材、クラッド材)も知られている。圧延接合体は、単独の材料では得られない複合特性を有する高機能性金属材料であり、例えば、ステンレスとアルミニウムとを積層させた圧延接合体が検討されている。
【0003】
ここで、圧延接合体を用いた電子機器用のプレス成形部品において、放熱板などは、一般に曲げ加工により成形されるが、電子機器用の筐体、特に最も外側の筐体は、一般に絞り加工により成形される。絞り加工では、平板な圧延接合体をダイスに固定し、ダイスに設けられた穴にパンチを押し込んで容器形状に成形するため、曲げ加工よりも加工が厳しい。
【0004】
また、ステンレスとアルミニウムの圧延接合体の製造方法として、例えば、冷間圧延や温間圧延を利用する方法が知られている。しかし、冷間圧延の場合、ステンレスに大きな加工ひずみが入り、硬度が高くなりすぎ、また、強度が増すものの伸びが十分でないため、冷間圧延で製造した圧延接合体は、平板での使用や軽度の加工においては用いることができるが曲げ加工による成形は容易ではなく、さらに絞り加工での成形は困難である。また、温間圧延の場合、アルミニウムのハンドリング性が悪く、また、アルミニウムが圧接の際に非常に変形しやすいため、一定の厚みでの製造が困難であり、圧延接合の際に部分的に薄くなることにより加工性が極端に低下する恐れがある。
【0005】
これらの技術に対し、特許文献1には、ステンレスとアルミニウムの圧延接合体の製造において、接合面をスパッタエッチング処理で活性化させることで、ステンレスの硬度上昇を抑制する製造技術が記載されている。
【0006】
しかし、特許文献1の製造方法により製造された圧延接合体において、張り出し加工や曲げ加工では成形できるものであっても、絞り加工により成形すると破断やシワの発生が生じる場合があり、その絞り加工性が十分でない場合があった。
【0007】
また、前記のステンレスとアルミニウムの圧延接合体の他にも、チタンとアルミニウムの圧延接合体についても検討されている。例えば特許文献2には、チタン層の層厚比率を所定の範囲とした建築材料用チタン/アルミニウムクラッド板が記載されている。しかし、従来のチタンとアルミニウムの圧延接合体においては、チタン層とアルミニウム層の密着性が十分ではない場合があり、性能及び製造上のハンドリングの向上が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2015/152041号
【文献】特開平8-336929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の通り、従来の圧延接合体では、十分な曲げ加工性を有している場合であっても、絞り加工性が十分ではない場合があり、プレス加工性の向上が望まれていた。そこで本発明は、プレス加工性に優れる圧延接合体を提供することを目的とする。また、本発明は、性能及び製造上のハンドリングの向上した圧延接合体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、ステンレスとアルミニウムの圧延接合体において、ステンレスとアルミニウムの密着力を高めることにより、圧延接合体の絞り加工性が顕著に向上することを見出し、また、チタンとアルミニウムの圧延接合体において、チタンとアルミニウムの密着力を高めることにより、性能及び製造上のハンドリングが向上することを見出し、発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0011】
(1)ステンレス層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体であって、アルミニウム合金が、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含有し、添加金属元素の合計含有量が1質量%超であり、圧延接合体のピール強度が60N/20mm以上である、前記圧延接合体。
(2)アルミニウム合金層の厚みが0.01mm~2.5mmである、前記(1)に記載の圧延接合体。
(3)引張試験による伸びが35%以上である、前記(2)に記載の圧延接合体。
(4)JIS Z 2201における特別試験片6号を用いた引張試験による引張強さが、3000N以上である、前記(3)に記載の圧延接合体。
(5)限界絞り比が1.20以上である、前記(2)~(4)のいずれかに記載の圧延接合体。
(6)ステンレス層の厚みの標準偏差が2.0μm以下である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の圧延接合体。
(7)アルミニウム合金層の厚みがステンレス層の厚みよりも厚い前記(1)~(6)のいずれかに記載の圧延接合体。
(8)アルミニウム合金がMgを0.3質量%以上含有する、前記(1)~(7)のいずれかに記載の圧延接合体。
(9)前記(1)~(8)のいずれかに記載の圧延接合体の製造方法であって、
ステンレス板及びアルミニウム合金板の接合面をスパッタエッチングする工程と、
スパッタエッチングした表面同士を、アルミニウム合金層の圧下率5%以上且つ圧延接合体の圧下率15%以下となるように圧接して接合する工程と、
200℃~370℃でのバッチ焼鈍又は300~800℃での連続焼鈍を行う工程とを含む、前記方法
(10)ステンレス層と純アルミニウム層からなる圧延接合体であって、純アルミニウムに含まれる添加金属元素の合計含有量が1質量%以下であり、圧延接合体のピール強度が160N/20mm以上である、前記圧延接合体。
(11)前記(10)に記載の圧延接合体の製造方法であって、
ステンレス板及び純アルミニウム板の接合面をスパッタエッチングする工程と、
スパッタエッチングした表面同士を、純アルミニウム層の圧下率10%以上且つ圧延接合体の圧下率20%以下となるように圧接して接合する工程と、
200℃~500℃でのバッチ焼鈍又は300℃~800℃での連続焼鈍を行う工程と
を含む、前記方法。
(12)純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体であって、アルミニウム合金が、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を含有し、添加金属元素の合計含有量が1質量%超であり、圧延接合体のピール強度が40N/20mm以上である、前記圧延接合体。
(13)前記(12)に記載の圧延接合体の製造方法であって、
純チタン又はチタン合金板及びアルミニウム合金板の接合面をスパッタエッチングする工程と、
スパッタエッチングした表面同士を、アルミニウム合金層の圧下率7%以上且つ圧延接合体の圧下率20%以下となるように圧接して接合する工程と、
200℃~500℃でのバッチ焼鈍又は300℃~800℃での連続焼鈍を行う工程と
を含む、前記方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プレス加工性に優れる圧延接合体を提供することができる。この圧延接合体は、高いプレス加工性を利用して、モバイル電子機器(モバイル端末)用筐体などの電子機器プレス成形部品として好適に用いることができる。また、本発明によれば、性能及び製造上のハンドリングが向上した圧延接合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は実施例1、2及び比較例1の圧延接合体の焼鈍前後のピール強度を示す図である。
図2図2は実施例6、7及び比較例3の圧延接合体の焼鈍前後のピール強度を示す図である。
図3図3は本発明に係る電子機器用筐体の第1の実施形態を示す斜視図である。
図4図4は本発明に係る電子機器用筐体の第1の実施形態のX-X’方向における断面斜視図である。
図5図5は実施例8及び比較例4の圧延接合体の焼鈍前後のピール強度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明は、ステンレス層とアルミニウム層からなる圧延接合体、及びチタン層とアルミニウム層からなる圧延接合体に関する。
【0016】
ステンレス層とアルミニウム層からなる本発明の圧延接合体は、ステンレス(SUS)層とアルミニウム合金(Al合金)又は純アルミニウム(純Al)層からなる。したがって、本発明の圧延接合体は、2層以上からなり、好ましくは2~4層からなり、より好ましくは2層又は3層からなる。
【0017】
好ましい実施形態において、圧延接合体は、SUS/Al合金、SUS/純Alの2層からなる圧延接合体、又はSUS/Al合金/SUS、SUS/純Al/SUS、Al合金/SUS/Al合金、純Al/SUS/純Alの3層からなる圧延接合体である。本発明において、圧延接合体の構成は、圧延接合体の用途や目的とする特性に応じて選択できる。
【0018】
I.ステンレス層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体
本発明の第一の実施形態において、圧延接合体は、ステンレス層とアルミニウム合金層からなる。
【0019】
アルミニウム合金層に用いられるアルミニウム合金としては、アルミニウム以外の金属元素として、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を、添加金属元素の合計含有量1質量%超で含有するアルミニウム合金の板材を用いることができる。
【0020】
アルミニウム合金としては、例えば、JISに規定のAl-Cu系合金(2000系)、Al-Mn系合金(3000系)、Al-Si系合金(4000系)、Al-Mg系合金(5000系)、Al-Mg-Si系合金(6000系)及びAl-Zn-Mg系合金(7000系)を用いることができ、プレス成形性、強度、耐食性の観点から3000系、5000系、6000系及び7000系のアルミニウム合金が好ましく、特にこれらのバランスとコストの観点から5000系のアルミニウム合金がより好ましい。アルミニウム合金は、好ましくは、Mgを0.3質量%以上含有する。
【0021】
ステンレス層に用いられるステンレスとしては、特に限定されずに、SUS304、SUS201、SUS316、SUS316L及びSUS430などの板材を用いることができる。
【0022】
圧延接合体の厚みは、特に限定されずに、通常0.045mm~3.0mmであり、上限は好ましくは、2.0mm以下、より好ましくは、1.7mm以下である。下限は好ましくは、0.1mm以上、より好ましくは0.7mm以上である。圧延接合体の厚みとは、ステンレス層とアルミニウム合金層の総厚みをいう。圧延接合体の厚みは、圧延接合体上の任意の30点における厚みをマイクロメータなどで測定し、得られた測定値の平均値をいう。
【0023】
アルミニウム合金層の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、圧延接合体の機械的強度及び加工性の観点から、下限は好ましくは、0.1mm以上、特に好ましくは0.5mm以上である。アルミニウム合金層は厚いほど絞り成形性が高くなりやすいが、厚すぎると用途によっては絞り加工や曲げ加工が入るような用途において曲率が大きくなる為、ステンレス層がのびて破断の起点になる恐れがあり、また、軽量化やコストの観点から好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは2.00mm以下、さらにより好ましくは1.7mm以下、特に好ましくは0.82mm以下である。アルミニウム合金層の厚みは、好ましくは0.01mm~2.5mmである。アルミニウム合金層の厚みは、好ましくは、ステンレス層より厚い。ここで、圧延接合体におけるアルミニウム合金層の厚みが0.6mm以上となるような、材料のアルミニウム合金板の厚みが厚い場合には、一般にアルミニウム合金板は他の金属板と接合しにくいが、本発明では、このようにアルミニウム合金層の厚みが厚い場合であっても、アルミニウム合金板とステンレス板を容易に接合することができ、しかも高いピール強度を有し、絞り加工性に優れる圧延接合体を得ることができる。圧延接合体のアルミニウム合金層の厚みとは、圧延接合体が2層以上のアルミニウム合金層を有する場合、各アルミニウム合金層の厚みをいう。圧延接合体のアルミニウム合金層の厚みは、圧延接合体の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真において任意の10点におけるアルミニウム合金層の厚みを計測し、得られた値の平均値をいう。なお、圧延接合体の製造において、材料のアルミニウム合金板は所定の圧下率にて接合されるため、圧延接合体のアルミニウム合金層の厚みは接合前の材料のアルミニウム合金板よりも薄くなる。
【0024】
アルミニウム合金層の厚みの標準偏差は、好ましくは6.0μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下、特に好ましくは2.0μm以下である。アルミニウム合金層の厚みの標準偏差とは、圧延接合体の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真における幅300μmの断面について、アルミニウム合金層の厚みを等間隔で10点計測し、得られた10点の測定値から求めた標準偏差をいう。
【0025】
ステンレス層の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、下限は絞り成形性と強度の観点から、好ましくは0.045mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。上限は特に制限はないが、アルミニウム層に対して厚すぎると伸び及び絞り成形性が低下する恐れがあるため、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下、さらに軽量化の観点を加えると0.3mm以下が特に好ましい。圧延接合体のステンレス層の厚みとは、圧延接合体が2層以上のステンレス層を有する場合、各ステンレス層の厚みをいう。圧延接合体のステンレス層の厚みは、前記のアルミニウム合金層と同様にして決定することができる。なお、圧延接合体の製造において、材料のステンレス板は所定の圧下率にて圧下されるため、圧延接合体のステンレス層の厚みは接合前の材料よりも薄くなる。
【0026】
ステンレス層の厚みの標準偏差は、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.5μm以下である。ステンレス層の厚みの標準偏差とは、圧延接合体の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真における幅300μmの断面について、ステンレス層の厚みを等間隔で10点計測し、得られた10点の測定値から求めた標準偏差をいう。
【0027】
本発明においては密着強度の指標としてピール強度(180°ピール強度、180°剥離強度ともいう)を用いる。第一の実施形態の圧延接合体は、ピール強度が、60N/20mm以上であり、圧延接合体が優れた絞り加工性を有するという観点から、好ましくは80N/20mm以上であり、より好ましくは100N/20mm以上である。なお、3層以上からなる圧延接合体では、各接合界面において、ピール強度が60N/20mm以上である。なお、ピール強度が顕著に高くなった場合、剥離せずに材料破断となるため、ピール強度の上限値はない。
【0028】
本発明において、圧延接合体のピール強度は、圧延接合体から幅20mmの試験片を作製しステンレス層とアルミニウム層を一部剥離後、厚膜層側又は硬質層側を固定し、他方の層を固定側と180°反対側へ引っ張った際に引きはがすのに要する力を測定し、単位としてN/20mmを用いた。なお、同様の試験において、試験片の幅が10~30mmの間であれば、伸びは変わらず、引張強さは試験片の幅に単純比例する。
【0029】
ここで、ステンレス層とアルミニウム層からなる圧延接合体では、表面活性化接合にてステンレス層とアルミニウム層を接合した場合、ピール強度が小さく、また、ピール強度を上げるために焼鈍温度を上げると、ピール強度に悪影響を与える金属間化合物が接合界面に形成するため、かかる圧延接合体のピール強度を向上させることはこれまで難しかった。特に、アルミニウム層がアルミニウム合金からなる場合、純アルミニウムの場合と比較して、硬度が高く変形しにくいため、接合時にピール強度が上がりにくく、また、焼鈍により金属間化合物を界面に生成しやすいため、極端にピール強度が下がってしまう。
【0030】
一方、本発明では、圧延接合体のピール強度を60N/20mm以上と高くすることができ、これによって圧延接合体が高いプレス加工性を有し、特に、高い絞り加工性を有する。ピール強度が高まる理由は定かではないが、下記のように考えられる。まず、圧延接合時、接合は各層が接触する第1ステップと、接触後に最表層がずれて新生面が現れ、新生面が接触する第2ステップの大きく二段階から成り立つと考えられる。後記のとおり、本発明の圧延接合体では、接合時の圧下率が比較的高いため、まず第1ステップにおいてより接触する面積が大きくなることが考えられる。また後記の通り、特許文献1と同様に酸化物層を残したまま接合する際、第1ステップにおける接触面は酸化物層となるが、本発明においては圧下率が高いため、アルミニウム層がステンレス層に合わせて変形する際に第2ステップにおいて最表層の酸化物層がずれ、酸化物層が薄くなったり金属層が接触面として出てきたりする割合が増加すると考えられる。ここで、従来においてもその後の熱処理において、ステンレス層からアルミニウム層に拡散することにより密着力が高まっていた。これに対し、本発明においては上記のように酸化物層が薄くなったり金属層が接触面として出てきたりすることにより、酸化物層による拡散の阻害が少なくなり、より拡散が広範囲又は深く進みやすくなることにより密着力であるピール強度が格段に向上するものと考えられる。
【0031】
そして、このようにピール強度が高い圧延接合体では、絞り加工の際に、一方の層が他方の層に追随することができ、いずれの層も破断することなく加工可能であり、また、加工の際の接合界面のずれを抑制することができるので、接合界面のずれに起因するシワの発生も防ぐことができる。
【0032】
圧延接合体は、高い絞り加工性を有し、好ましくは、限界絞り比が1.20以上であり、より好ましくは1.63以上であり、さらに好ましくは1.83以上である。本発明において、圧延接合体の限界絞り比とは、円筒絞り加工における円筒の直径dに対するブランク直径Dの比の絞り比D/dにおいて1回の絞りで破断を起こさないで円筒を絞ることのできる最大のブランク直径をDmaxとしたとき、Dmax/dを限界絞り比とする。
【0033】
圧延接合体は、好ましくは、試験片の幅が15mmの引張試験による伸びが35%以上であり、良好なプレス加工性の観点から、より好ましくは40%以上である。引張試験による伸びはJIS Z 2241又はJIS Z 2201に記載される破断伸びの測定に準じて、例えば後記の引張強さ試験の試験片を用いて測定することができる。
【0034】
圧延接合体は、好ましくは、試験片の幅が15mmの引張試験による引張強さが3000N以上であり、十分な強度及びプレス加工性を有するという観点から、より好ましくは3500N以上である。ここで引張強さとは引張試験における最大荷重を指す。引張強さは、例えばテンシロン万能材料試験機 RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用い、JIS Z 2241又はJIS Z 2201(金属材料引張試験方法)に準じて測定することができる。なお、上記試験片の幅15mmはJIS Z 2201における特別試験片6号の仕様を指す。JIS Z 2241においては例えば試験片5号の仕様を用いることが可能である。このとき上記6号試験片における引張強さは、5号試験片での引張強さへ換算するときは、試験片の幅の倍率をかければよいので25mm/15mm、つまり約1.66倍となる。
【0035】
圧延接合体は、好ましくは、引張試験による伸びが35%以上及び引張試験による引張強さが3000N以上である。
【0036】
II.ステンレス層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体の製造方法
ステンレス層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体は、ステンレス板とアルミニウム合金板を用意し、ステンレス板及びアルミニウム合金板の接合面をスパッタエッチングする工程と、スパッタエッチングした表面同士を、アルミニウム合金層の圧下率5%以上且つ圧延接合体の圧下率15%以下となるように圧接して接合する工程と、200℃~370℃でのバッチ焼鈍又は300~800℃での連続焼鈍を行う工程を含む方法によって製造できる。この製造方法では、スパッタエッチング処理工程及び接合工程を行う回数に応じて、得られる圧延接合体が有する層の数を変えることができ、例えば、2層からなる圧延接合体は、スパッタエッチング処理工程及び接合工程の組み合わせを1回行った後、焼鈍を行うことで製造することができ、3層からなる圧延接合体は、スパッタエッチング処理工程及び接合工程の組み合わせを2回繰り返した後、焼鈍を行うことで製造することができる。
【0037】
用いることができるステンレス板は、圧延接合体について前記のステンレスの板材である。絞り加工性の観点から焼鈍材(O材)又は1/2H材が好ましい。
【0038】
接合前のステンレス板の厚みは、通常0.011mm以上であれば適用可能であり、下限は圧延接合体としたときの絞り成形性と強度及びハンドリング性の観点から、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。特に圧延接合体においてステンレス層の方がアルミニウム層よりも薄くなる場合、ステンレス層が薄すぎると絞り成形の際に加工に追随できず破断しやすくなる。上限は特に制限はないが、アルミニウム層に対して厚すぎると圧延接合体としたときの伸び及び絞り成形性が低下する恐れがあるため、好ましくは0.55mm以下、より好ましくは0.44mm以下、さらに軽量化の観点を加えると0.33mm以下が特に好ましい。接合前のステンレス板の厚みは、マイクロメータなどによって測定可能であり、ステンレス板の表面上からランダムに選択した10点において測定した厚みの平均値をいう。
【0039】
用いることができるアルミニウム合金板は、圧延接合体について前記のアルミニウム合金の板材である。
【0040】
接合前のアルミニウム合金板の厚みは、通常0.011mm以上であれば適用可能であり、下限は好ましくは、0.11mm以上、さらに好ましくは0.55mm以上、特に好ましくは0.66mm以上である。アルミニウム合金層は厚いほど絞り成形性が高くなりやすいが、厚すぎると用途によっては絞り加工や曲げ加工が入るような用途において曲率が大きくなる為、ステンレス層がのびて破断の起点になる恐れがあり、また、軽量化やコストの観点から通常3.3mm以下が用いられ、好ましくは2.7mm以下、より好ましくは1.8mm以下、さらに好ましくは1.2mm以下、特に好ましくは0.82mm以下である。アルミニウム合金は純アルミニウムと比較し、強度が高いため薄くしやすいメリットがある。接合前のアルミニウム合金板の厚みは、前記のステンレス板と同様にして決定することができる。
【0041】
スパッタエッチング処理では、ステンレス板の接合面とアルミニウム合金板の接合面をそれぞれスパッタエッチングする。
【0042】
スパッタエッチング処理は、具体的には、ステンレス板とアルミニウム合金板を、幅100mm~600mmの長尺コイルとして用意し、接合面を有するステンレス板とアルミニウム合金板をそれぞれアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1MHz~50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積を前記の他の電極の面積の1/3以下として行う。スパッタエッチング処理中は、アース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防いでいる。
【0043】
スパッタエッチング処理では、真空中でステンレス板とアルミニウム合金板の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、表面の吸着物を完全に除去し、且つ表面の酸化膜の一部又は全部を除去する。酸化膜は必ずしも完全に除去する必要はなく、一部残存した状態であっても十分な接合力を得ることができる。酸化膜を一部残存させることにより、完全に除去する場合に比べてスパッタエッチング処理時間を大幅に減少させ、金属積層材の生産性を向上させることができる。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトンなどや、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。ステンレス板とアルミニウム合金板のいずれについても、表面の吸着物は、エッチング量約1nm程度で完全に除去することができる。
【0044】
ステンレス板についてのスパッタエッチング処理は、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W~1KWのプラズマ出力で1~50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、真空下で、例えば100W~10KWのプラズマ出力、ライン速度1m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、例えば1×10-5Pa~10Paであればよい。スパッタエッチング処理において、ステンレス板の温度は、アルミニウム合金板軟化防止の観点から、好ましくは常温~150℃に保たれる。
【0045】
表面に酸化膜が一部残存するステンレス板は、ステンレス板のエッチング量を、例えば1nm~10nmにすることによって得られる。必要に応じて、10nmを超えるエッチング量としても良い。
【0046】
アルミニウム合金板についてのスパッタエッチング処理は、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W~1KWのプラズマ出力で1~50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、100W~10KWのプラズマ出力、ライン速度1m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、1×10-5Pa~10Paであればよい。
【0047】
表面の酸化膜が一部残存するアルミニウム合金板は、アルミニウム合金板のエッチング量を、例えば1nm~10nmにすることによって得られる。必要に応じて、10nmを超えるエッチング量としても良い。
【0048】
以上のようにしてスパッタエッチングしたステンレス板及びアルミニウム合金板の接合面を、アルミニウム合金層の圧下率5%以上且つ圧延接合体の圧下率15%以下となるように、例えばロール圧接により圧接して、ステンレス板とアルミニウム合金板を接合する。
【0049】
アルミニウム合金層の圧下率は、接合前のアルミニウム合金板の厚みと最終的な圧延接合体のアルミニウム合金層の厚みから求める。すなわち、アルミニウム合金層の圧下率は、以下の式:(接合前の材料のアルミニウム合金板の厚み-最終的な圧延接合体のアルミニウム合金層の厚み)/接合前の材料のアルミニウム合金板の厚み、により求められる。
【0050】
本発明の製造方法において、アルミニウム合金層の圧下率は、5%以上であり、好ましくは6%以上であり、より好ましくは8%以上である。アルミニウム合金層の圧下率が5%以上であると、アルミニウム合金層の圧下率が5%未満と低い場合と比較して、得られる圧延接合体のピール強度を60N/20mm以上と高くすることができ、その結果、絞り加工性が向上し、特に、焼鈍前後のピール強度向上幅が有意に大きくなる。ピール強度が高まる理由は定かではないが、下記のように考えられる。まず、圧延接合時、接合は各層が接触する第1ステップと、接触後に最表層がずれて新生面が現れ、新生面が接触する第2ステップの大きく二段階から成り立つと考えられる。後記のとおり、本発明の圧延接合体では、接合時の圧下率が比較的高いため、まず第1ステップにおいてより接触する面積が大きくなることが考えられる。また後記の通り、特許文献1と同様に酸化物層を残したまま接合する際、第1ステップにおける接触面は酸化物層となるが、本発明においては圧下率が高いため、アルミニウム層がステンレス層に合わせて変形する際に第2ステップにおいて最表層の酸化物層がずれ、酸化物層が薄くなったり金属層が接触面として出てきたりする割合が増加すると考えられる。ここで、従来においてもその後の熱処理において、ステンレス層からアルミニウム層に拡散することにより密着力が高まっていた。これに対し、本発明においては上記のように酸化物層が薄くなったり金属層が接触面として出てきたりすることにより、酸化物層による拡散の阻害が少なくなり、より拡散が広範囲又は深く進みやすくなることにより密着力であるピール強度が格段に向上するものと考えられる。また、その結果、得られる圧延接合体の絞り加工性が向上するものと推察される。
【0051】
アルミニウム合金層の圧下率の上限は、特に限定されずに、例えば18%以下であり、より好ましくは15%以下である。アルミニウム合金層の圧下率の上限がこの範囲であると、熱処理後のピール強度向上の効果を得られつつ、さらにアルミニウム合金層の厚み平坦性を維持することができ、絞り加工性の向上を安定的なものとすることが出来る。
【0052】
ステンレス層の圧下率は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。ステンレス層の圧下率が0.5%以上であると、得られる圧延接合体のピール強度が60N/20mm以上と高くなりやすく、その結果、絞り加工性を向上させることができる。しかしながら、ステンレス層とアルミニウム合金層の接合においては、アルミニウム合金層の方が変形しやすい場合が多く、ステンレス層の圧下率はアルミニウム合金層の圧下率よりも低くなる。また、ステンレス層は圧下率が高くなると加工硬化が生じやすくなるため、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下である。ステンレス層の圧下率の上限がこの範囲であると、加工ひずみが入ることによる加工硬化を抑制できるため、伸びの低下及びプレス加工性の低下を抑制できる。なお、後述のようにステンレス層は圧延接合後の熱処理による軟化の効果は薄いため、圧延接合時の圧下率により加工硬化の影響の制御が必要となる。
【0053】
したがって、ステンレス層の圧下率は、ピール強度の向上効果及びそれに伴う絞り加工性の向上効果と加工硬化によるプレス加工性の低下抑制との両立の観点から、好ましくは0.5~10%である。
【0054】
圧延接合体の圧下率は、15%以下であり、好ましくは14%以下、より好ましくは13%以下である。圧延接合体の圧下率が15%以下であると、ステンレス層の硬度が高くなりすぎず、十分な強度及び伸びを有するため、圧延接合体が高いプレス加工性を有する。また、各層の厚みをある程度均一に保つことが出来るため、高いプレス加工性を有する。すなわち、圧延接合時に厚みの薄いところが生じてしまうと、プレス加工の際に局所的に荷重がかかりやすくなり、破断しやすくなる恐れがある。なお、下限は、特に制限はないが、ピール強度向上効果を得るためのアルミニウム合金層の圧下率を鑑み、好ましくは4%以上、より好ましくは5%以上、さらに好ましくは6%以上、特に好ましくは7.5%以上である。圧延接合体の圧下率は、接合前の材料のステンレス板及びアルミニウム合金板の総厚みと、最終的な圧延接合体の厚みから求める。すなわち、圧延接合体の圧下率は、以下の式:(接合前の材料のステンレス板及びアルミニウム合金板の総厚み-最終的な圧延接合体の厚み)/接合前の材料のステンレス板及びアルミニウム合金板の総厚み、により求められる。
【0055】
ロール圧接の圧延線荷重は、特に限定されずに、アルミニウム合金層及び圧延接合体の所定の圧下率を達成するように設定し、例えば、1.6tf/cm~10.0tf/cmの範囲に設定することができる。例えば圧接ロールのロール直径が100mm~250mmのとき、ロール圧接の圧延線荷重は、好ましくは1.9tf/cm~4.0tf/cmであり、より好ましくは2.3tf/cm~3.0tf/cmである。ただし、ロール直径が大きくなった場合や接合前のステンレス板やアルミニウム合金板の厚みが厚い場合などには、所定の圧下率を達成するために圧力確保のために圧延線荷重を高くすることが必要になる場合があり、この数値範囲に限定されるものではない。
接合時の温度は、特に限定されずに、例えば常温~150℃である。
【0056】
接合は、ステンレス板とアルミニウム合金板表面への酸素の再吸着によって両者間の接合強度が低下するのを防止するため、非酸化雰囲気中、例えばArなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0057】
以上のようにしてステンレス板とアルミニウム合金板を接合して得た圧延接合体について、熱処理を行う。熱処理によって、各層の間の密着性を向上することが可能となり、特に前述のアルミニウム合金層の圧下率の制御との組み合わせにより、密着力向上の効果を格段に高めることが出来る。また、この熱処理により圧延接合体の、特にアルミニウム合金層の焼鈍を兼ねることができるため、以降、この熱処理を焼鈍とも記す。
【0058】
焼鈍温度は、例えばバッチ焼鈍の場合、200℃~370℃であり、好ましくは250℃~345℃であり、また、例えば連続焼鈍の場合、300~800℃であり、好ましくは350℃~550℃である。焼鈍温度をこの範囲とすることによって、圧延接合体のピール強度が60N/20mm以上と高くなり、その結果、絞り加工性が向上する。この焼鈍温度は、ステンレスは未再結晶温度域でありほぼ軟化せず、アルミニウム合金では加工ひずみが除かれて軟化する温度域である。本発明では、接合時のアルミニウム合金層及び圧延接合体の圧下率と、焼鈍温度を所定の範囲とすることによって、圧延接合体のピール強度が有意に向上し、その結果、絞り加工性が向上する。なお、焼鈍温度とは、焼鈍を行う圧延接合体の温度をいう。
【0059】
また、この熱処理では、少なくともステンレスに含まれる金属元素(例えば、Fe、Cr、Ni)がアルミニウム合金層に熱拡散する。また、ステンレスに含まれる金属元素と、アルミニウムとを相互に熱拡散させてもよい。ステンレスとアルミニウムの圧延接合体においてこの熱拡散によってピール強度が向上することは公知であるが、前述のように圧延接合時の圧下率の制御との組み合わせにより向上の効果の幅が異なることを本発明者らは見出した。ピール強度が向上する理由としては前述のように、本願においてはステンレス合金層とアルミニウム合金層との界面の酸化物の薄肉化又は接合界面に金属層が露出することにより、拡散が酸化物層の阻害を受けにくくなり、接合界面の広範囲又は界面から深いところまで拡散が進むことによりピール強度の向上の幅が格段と大きくなるためと考えられる。これにより、本発明は60N/20mm以上のピール強度を有するプレス加工性に優れた圧延接合体を得ることができる。
【0060】
焼鈍時間は、焼鈍方法(バッチ焼鈍又は連続焼鈍)、焼鈍温度や焼鈍を行う圧延接合体のサイズに応じて適宜設定することができる。例えば、バッチ焼鈍の場合、圧延接合体の温度が所定の温度になってから圧延接合体を0.5~10時間均熱保持し、好ましくは2~8時間均熱保持する。なお、金属間化合物が形成されなければ10時間以上のバッチ焼鈍を行っても問題ない。また、連続焼鈍の場合、圧延接合体の温度が所定の温度になってから圧延接合体を20秒~5分間均熱保持する。なお、焼鈍時間とは、焼鈍を行う圧延接合体が所定の温度になってからの時間をいい、圧延接合体の昇温時間は含まない。焼鈍時間は例えば、A4版(用紙サイズ)程度の小さい材料については、バッチ焼鈍では1~2時間程度で十分あるが、長尺もの、例えば幅100mm以上、長さ10m以上のコイル材などの大きい材料については、バッチ焼鈍では2~8時間程度必要である。
【0061】
本発明の製造方法において、目標とする厚みに対して、アルミニウム合金層が厚い圧延接合体を一旦作製した後、圧延接合体のアルミニウム合金層を研削して厚みを薄くし、目標とする厚みに仕上げてもよい。アルミニウム合金層を研削することにより、アルミニウム合金層の最表面を硬化させることができる。また、接合し熱処理を行って得られた圧延接合体について、1~2%程度の伸び率になるようにテンションレベラーによる形状修正を実施しても良い。この形状修正により、厚みが1~2%程度減少し、アルミニウム合金層を硬化させ、硬度を向上させることができる。これらの手段は、適宜組み合わせても良く、例えば、テンションレベラーによる形状修正を実施した後に、アルミニウム合金層の研削を行うことができる。
【0062】
また、圧延接合体のステンレス層の硬度を高めるために、例えば、硬度の高い原材料(硬さが高い順に、調質記号H>3/4H>1/2H>BA)を用意し、これを接合して圧延接合体を作製してもよい。ただし、ステンレス層の硬度が高過ぎると加工が困難となるため留意するものとする。あるいは、接合時の荷重を高くすることで、接合後の圧延接合体のステンレス層の硬度を高めても良い。例えば、ステンレス層の圧下率が0.5~10%になるように接合することで、ステンレス層の硬度は200(Hv)から270(Hv)程度まで増加する。
【0063】
以上のようにして製造した圧延接合体は、プレスによる深絞り加工で外郭を形成し、背面を含む外側は研磨、化成処理、塗装等の表面処理を行うことができる。また内面側は主に内部部品の組み込み用に必要に応じて切削、研削を行い、凹凸を形成してもいい。また、必要に応じて樹脂によるインサート成形を行い、内外面に金属と樹脂との複合部を形成することも可能である。上記方法により筐体へと加工できるがこれに限定されるものではない。
【0064】
III.ステンレス層と純アルミニウム層からなる圧延接合体
本発明の第二の実施形態において、圧延接合体は、ステンレス層と純アルミニウム層からなる。
【0065】
純アルミニウム層に用いられる純アルミニウムとしては、アルミニウム以外の添加金属元素の合計含有量が1質量%以下である純アルミニウムの板材を用いることができる。純アルミニウムとしては、例えば、JISに規定の1000系の純アルミニウムを用いることができる。純アルミニウム中の、アルミニウム以外の添加金属元素の合計含有量は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、特に好ましくは0.15質量%以下である。
【0066】
ステンレス層に用いられるステンレスは、前記の第一の実施形態の圧延接合体の場合と同様である。
【0067】
圧延接合体の厚みは、特に限定されずに、通常0.045mm~3.0mmであり、上限は好ましくは、2.0mm以下、より好ましくは、1.7mm以下である。下限は好ましくは、0.1mm以上、より好ましくは0.7mm以上である。
【0068】
純アルミニウム層の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、圧延接合体の加工性及びハンドリングの観点から、下限は好ましくは、0.1mm以上、さらに強度を必要とする場合には0.5mm以上がより好ましく、特に0.7mm以上が好ましい。軽量化やコストの観点から好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.00mm以下、さらに好ましくは1.7mm以下である。純アルミニウム層の厚みは、好ましくは、ステンレス層より厚い。
【0069】
ステンレス層の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、下限は絞り成形性と強度の観点から、好ましくは0.045mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。上限は特に制限はないが、アルミニウム層に対して厚すぎると伸び及び絞り成形性が低下する恐れがあるため、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下、さらに軽量化の観点を加えると0.3mm以下が特に好ましい。
【0070】
ステンレス層の厚みの標準偏差は、好ましくは2.0μm以下であり、より好ましくは1.5μm以下である。
【0071】
第二の実施形態の圧延接合体は、ピール強度(180°ピール強度)が、160N/20mm以上であり、圧延接合体が優れた絞り加工性を有するという観点から、好ましくは180N/20mm以上であり、より好ましくは200N/20mm以上である。なお、3層以上からなる圧延接合体では、各接合界面において、ピール強度が160N/20mm以上である。圧延接合体のピール強度が160N/20mm以上であると、圧延接合体が非常に高い絞り加工性を有する。
【0072】
圧延接合体は、限界絞り比が好ましくは1.63以上であり、より好ましくは1.83以上である。
【0073】
圧延接合体は、好ましくは、引張試験による伸びが40%以上であり、良好な成形加工性の観点から、より好ましくは50%以上である。
【0074】
圧延接合体は、好ましくは、引張試験による引張強さが2500N以上であり、十分な強度及び加工性を有するという観点から、より好ましくは3000N以上である。
【0075】
なお、第二の実施形態において、各層の厚みの測定方法、圧延接合体のピール強度の測定方法、限界絞り比の求め方、引張試験による伸び及び引張強さの測定方法は、第一の実施形態と同様である。
【0076】
IV.ステンレス層と純アルミニウム層からなる圧延接合体の製造方法
ステンレス層と純アルミニウム層からなる圧延接合体は、接合工程における純アルミニウム層の圧下率及び圧延接合体の圧下率と、焼鈍工程における焼鈍温度を所定の範囲に変更する以外は、前記の第一の実施形態の圧延接合体と同様にして製造できる。
【0077】
具体的には、ステンレス層と純アルミニウム層からなる圧延接合体は、ステンレス板と純アルミニウム板を用意し、ステンレス板及び純アルミニウム板の接合面をスパッタエッチングする工程と、スパッタエッチングした表面同士を、純アルミニウム層の圧下率10%以上且つ圧延接合体の圧下率20%以下となるように、例えばロール圧接により圧接して接合する工程と、200~500℃でのバッチ焼鈍又は300~800℃での連続焼鈍を行う工程とによって製造できる。
【0078】
ロール圧接による接合において、純アルミニウム層の圧下率は、10%以上であり、好ましくは12%以上である。純アルミニウム層の圧下率を10%以上とすることで、純アルミニウム層の圧下率が10%未満と低い場合(例えば、特許文献1の実施例における圧下率1%~5%程度の場合)と比較して、得られる圧延接合体のピール強度を160N/20mm以上と高くすることができ、その結果、絞り加工性が向上し、特に、焼鈍前後のピール強度向上幅が有意に大きくなる。
【0079】
純アルミニウム層の圧下率の上限は、特に限定されずに、例えば20%以下であり、より好ましくは18%以下、純アルミニウム層の変形を抑制し厚み精度をより維持させるという観点からは特に15%未満が好ましい。純アルミニウム層の圧下率の上限がこの範囲であると、熱処理後のピール強度向上の効果を得られつつ、さらに純アルミニウム層の厚み平坦性を維持することができ、絞り加工性の向上を安定的なものとすることが出来る。
【0080】
ステンレス層の圧下率は、好ましくは0.5%以上であり、より好ましくは2%以上であり、さらに好ましくは3%以上である。ステンレス層の圧下率が0.5%以上であると、得られる圧延接合体のピール強度が160N/20mm以上と高くなりやすく、その結果、絞り加工性を向上させることができる。しかしながら、ステンレス層と純アルミニウム層の接合においては、純アルミニウム層の方が変形しやすい場合が多く、ステンレス層の圧下率は純アルミニウム層の圧下率よりも低くなる。また、ステンレス層は圧下率が高くなると加工硬化が生じやすくなるため、好ましくは10%以下、より好ましくは8%以下である。ステンレス層の圧下率の上限がこの範囲であると、加工ひずみが入ることによる加工硬化を抑制できるため、伸びの低下及びプレス加工性の低下を抑制できる。なお、後述のようにステンレス層は圧延接合後の熱処理による軟化の効果は薄いため、圧延接合時の圧下率により加工硬化の影響の制御が必要となる。
【0081】
したがって、ステンレス層の圧下率は、ピール強度の向上効果及びそれに伴う絞り加工性の向上効果と加工硬化によるプレス加工性の低下抑制との両立の観点から、好ましくは0.5~10%である。
【0082】
圧延接合体の圧下率は、20%以下であり、好ましくは18%以下である。圧延接合体の圧下率が20%以下であると、ステンレス層の硬度が高くなりすぎず、十分な強度及び伸びを有するため、圧延接合体が高いプレス加工性を有する。また、各層の厚みをある程度均一に保つことが出来るため、高いプレス加工性を有する。すなわち、圧延接合時に厚みの薄いところが生じてしまうと、プレス加工の際に局所的に荷重がかかりやすくなり、破断しやすくなる恐れがある。なお、下限は、特に制限はないが、ピール強度向上効果を得るためのアルミニウム合金層の圧下率を鑑み、好ましくは9%以上、より好ましくは11%以上である。
【0083】
ロール圧接の圧延線荷重は、特に限定されずに、純アルミニウム層及び圧延接合体の所定の圧下率を達成するように設定し、例えば1.6tf/cm~10tf/cmの範囲に設定することができる。例えば圧接ロールのロール直径が100mm~250mmのとき、ロール圧接の圧延線荷重は、好ましくは1.6tf/cm~3.0tf/cmであり、より好ましくは1.8tf/cm~2.5tf/cmである。ただし、ロール直径が大きくなった場合や金属層の接合前の厚みが厚い場合などには、接合時の圧力確保のために圧延線荷重を高くすることが必要になる場合があり、この数値範囲に限定されるものではない。例えば線荷重が同じ2.0tfであっても、ロール径が100mm~250mmとその約2~3倍のロール径とでは、接触面積が約2~5倍となるため、面積あたりにかかる圧下力は小さくなるため、圧下率が低下する。また、材料幅やラインでの製造時においては抗張力などの影響によっても接触面積および圧下力が異なってくるが、本発明においては圧下率を所定の範囲とすることにより、効果が得られることを見出したものである。
【0084】
焼鈍工程における焼鈍温度は、バッチ焼鈍では200℃~500℃であり、連続焼鈍では300℃~800℃である。焼鈍温度がこの範囲であると、高いピール強度及び高い引張強さを両立することができる。なお、この実施形態では、圧延接合体のピール強度を高める場合には、焼鈍温度は300℃以上とすることが好ましく、350℃以上とすることがより好ましいが、引張強さとの両立を求める場合には、焼鈍温度は200℃~300℃とすることが好ましい。
【0085】
なお、第二の実施形態の圧延接合体の製造方法において、第一の実施形態の圧延接合体の製造方法と同様にして、純アルミニウム層の研削、テンションレベラーによる形状修正、ステンレス層の硬度の調整や筐体への加工を行うことができる。
【0086】
V.純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体
本発明の第三の実施形態において、圧延接合体は、純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる。この圧延接合体は、2層以上からなり、好ましくは2~4層からなり、より好ましくは2層又は3層からなる。本発明において、圧延接合体の構成は、圧延接合体の用途や目的とする特性に応じて選択できるが、純チタン層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体が好ましい。
【0087】
アルミニウム合金層に用いることができるアルミニウム合金としては、アルミニウム以外の金属元素として、Mg、Mn、Si及びCuから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を、添加金属元素の合計含有量1質量%超で含有するアルミニウム合金の板材を用いることができる。
【0088】
アルミニウム合金としては、例えば、JISに規定のAl-Cu系合金(2000系)、Al-Mn系合金(3000系)、Al-Si系合金(4000系)、Al-Mg系合金(5000系)、Al-Mg-Si系合金(6000系)及びAl-Zn-Mg系合金(7000系)を用いることができ、プレス成形性、強度、耐食性の観点から3000系、5000系、6000系及び7000系のアルミニウム合金が好ましく、特にこれらのバランスとコストの観点から5000系のアルミニウム合金がより好ましい。アルミニウム合金は、好ましくは、Mgを0.3質量%以上含有する。
【0089】
純チタン層に用いられる純チタンとしては、チタン以外の添加金属元素の合計含有量が1質量%以下である純チタンの板材を用いることができる。純チタン中の、チタン以外の添加金属元素の合計含有量は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.3質量%以下であり、特に好ましくは0.15質量%以下である。純チタンとしては、例えばJIS H 4600に規定の1~4種の純チタンを用いることができ、1種の純チタン(TP270)が好ましい。
【0090】
チタン合金層に用いられるチタン合金としては、チタン以外の金属元素として、V、
Cr、Sn、Al、Mo、Zr、Pdから選ばれる少なくとも1種の添加金属元素を、添加金属元素の合計含有量1質量%超で含有するチタン合金の板材を用いることができる。チタン合金としては、例えばα型やβ型、α+β型等を用いることができ、加工性の観点からβ型やα+β型が好ましい。
【0091】
圧延接合体の厚みは、特に限定されずに、通常0.045mm~3.0mmであり、上限は好ましくは、2.0mm以下、より好ましくは、1.7mm以下である。下限は好ましくは、0.1mm以上、より好ましくは0.5mm以上である。
【0092】
アルミニウム合金層の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、圧延接合体の加工性及びハンドリングの観点から、下限は好ましくは、0.1mm以上、さらに強度を必要とする場合には0.3mm以上がより好ましく、特に0.5mm以上が好ましい。軽量化やコストの観点から好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.7mm以下である。アルミニウム合金層の厚みは、好ましくは、純チタン層又はチタン合金層より厚い。
【0093】
純チタン層又はチタン合金層の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、下限は強度の観点から、好ましくは0.045mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。上限は特に制限はないが、アルミニウム層に対して厚すぎると伸びが低下する恐れがあるため、好ましくは0.5mm以下、より好ましくは0.4mm以下、さらに軽量化の観点を加えると0.3mm以下が特に好ましい。
【0094】
第三の実施形態の圧延接合体は、ピール強度(180°ピール強度)が、40N/20mm以上であり、好ましくは50N/20mm以上であり、より好ましくは60N/20mm以上である。純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体において、圧延接合体のピール強度が40N/20mm以上であると、純チタン層又はチタン合金層とアルミニウム合金層の密着力が非常に高いため、性能及び製造上のハンドリングが向上し、特に長尺物の製造上のハンドリングが向上する。なお、3層以上からなる圧延接合体では、各接合界面において、ピール強度が40N/20mm以上である。
【0095】
ここで、純チタン又はチタン合金層とアルミニウム層からなる圧延接合体では、表面活性化接合にて純チタン又はチタン合金層とアルミニウム層を接合した場合、ピール強度が小さく、また、ピール強度を上げるために焼鈍温度を上げると、ピール強度に悪影響を与える金属間化合物が接合界面に形成するため、かかる圧延接合体のピール強度を向上させることはこれまで難しかった。特に、アルミニウム層がアルミニウム合金からなる場合、純アルミニウムの場合と比較して、硬度が高く変形しにくいため、接合時にピール強度が上がりにくく、また、焼鈍により金属間化合物を界面に生成しやすいため、極端にピール強度が下がってしまう。
【0096】
一方、本発明では、圧延接合体のピール強度を40N/20mm以上と高くすることができる。純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体においてピール強度が高まる理由については、前記のステンレス層とアルミニウム合金層からなる第一の圧延接合体の場合と同様のメカニズムが推定され、接合時の圧下率が比較的高いことで、熱処理によるピール強度が格段に向上するものと考えられる。
【0097】
圧延接合体は、好ましくは、引張試験による伸びが20%以上であり、加工性の観点から、より好ましくは25%以上である。
【0098】
圧延接合体は、好ましくは、引張試験による引張強さが2500N以上であり、強度の観点から、より好ましくは2600N以上である。
【0099】
なお、第三の実施形態において、各層の厚みの測定方法、圧延接合体のピール強度の測定方法、引張試験による伸び及び引張強さの測定方法は、第一及び第二の実施形態と同様である。
【0100】
VI.純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体の製造方法
純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体は、純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板を用意し、純チタン又はチタン合金板及びアルミニウム合金板の接合面をスパッタエッチングする工程と、スパッタエッチングした表面同士を、アルミニウム合金層の圧下率7%以上且つ圧延接合体の圧下率20%以下となるように、例えばロール圧接により圧接して接合する工程と、200℃~500℃でのバッチ焼鈍又は300~800℃での連続焼鈍を行う工程とによって製造できる。
【0101】
用いることができる純チタン又はチタン合金板は、圧延接合体について前記の純チタン又はチタン合金の板材である。
【0102】
接合前の純チタン又はチタン合金板の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、下限は絞り成形性と強度の観点から、好ましくは0.05mm以上、より好ましくは0.1mm以上である。上限は特に制限はないが、アルミニウム層に対して厚すぎると伸びが低下する恐れがあるため、好ましくは0.55mm以下、より好ましくは0.44mm以下、さらに軽量化の観点を加えると0.33mm以下が特に好ましい。
【0103】
用いることができるアルミニウム合金板は、圧延接合体について前記のアルミニウム合金の板材である。
【0104】
接合前のアルミニウム合金板の厚みは、通常0.01mm以上であれば適用可能であり、圧延接合体の加工性及びハンドリングの観点から、下限は好ましくは、0.1mm以上、さらに強度を必要とする場合には0.3mm以上がより好ましく、特に0.5mm以上が好ましい。軽量化やコストの観点から好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下、さらに好ましくは1.7mm以下である。
【0105】
スパッタエッチング処理では、純チタン又はチタン合金板の接合面とアルミニウム合金板の接合面をそれぞれスパッタエッチングする。
【0106】
スパッタエッチング処理は、具体的には、純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板を、幅100mm~600mmの長尺コイルとして用意し、接合面を有する純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板をそれぞれアース接地した一方の電極とし、絶縁支持された他の電極との間に1MHz~50MHzの交流を印加してグロー放電を発生させ、且つグロー放電によって生じたプラズマ中に露出される電極の面積を前記の他の電極の面積の1/3以下として行う。スパッタエッチング処理中は、アース接地した電極が冷却ロールの形をとっており、各搬送材料の温度上昇を防いでいる。
【0107】
スパッタエッチング処理では、真空中で純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板の接合する面を不活性ガスによりスパッタすることにより、表面の吸着物を完全に除去し、且つ表面の酸化膜の一部又は全部を除去する。酸化膜は必ずしも完全に除去する必要はなく、一部残存した状態であっても十分な接合力を得ることができる。酸化膜を一部残存させることにより、完全に除去する場合に比べてスパッタエッチング処理時間を大幅に減少させ、金属積層材の生産性を向上させることができる。不活性ガスとしては、アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトンなどや、これらを少なくとも1種類含む混合気体を適用することができる。純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板のいずれについても、表面の吸着物は、エッチング量約1nm程度で完全に除去することができる。
【0108】
純チタン又はチタン合金板についてのスパッタエッチング処理は、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W~1KWのプラズマ出力で1~50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、真空下で、例えば100W~10KWのプラズマ出力、ライン速度1m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、例えば1×10-5Pa~10Paであればよい。スパッタエッチング処理において、純チタン又はチタン合金板の温度は、アルミニウム合金板軟化防止の観点から、好ましくは常温~150℃に保たれる。
【0109】
表面に酸化膜が一部残存する純チタン又はチタン合金板は、純チタン又はチタン合金板のエッチング量を、例えば1nm~10nmにすることによって得られる。必要に応じて、10nmを超えるエッチング量としても良い。
【0110】
アルミニウム合金板についてのスパッタエッチング処理は、例えば単板の場合、真空下で、例えば100W~1KWのプラズマ出力で1~50分間行うことができ、また、例えばライン材のような長尺の材料の場合、100W~10KWのプラズマ出力、ライン速度1m/分~30m/分で行うことができる。この時の真空度は、表面への再吸着物を防止するため高い方が好ましいが、1×10-5Pa~10Paであればよい。
【0111】
表面の酸化膜が一部残存するアルミニウム合金板は、アルミニウム合金板のエッチング量を、例えば1nm~10nmにすることによって得られる。必要に応じて、10nmを超えるエッチング量としても良い。
【0112】
以上のようにしてスパッタエッチングした純チタン又はチタン合金板及びアルミニウム合金板の接合面を、アルミニウム合金層の圧下率7%以上且つ圧延接合体の圧下率20%以下となるように、例えばロール圧接により圧接して、純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板を接合する。
【0113】
アルミニウム合金層の圧下率は、7%以上であり、好ましくは8%以上であり、より好ましくは9%以上である。アルミニウム合金層の圧下率が7%以上であると、アルミニウム合金層の圧下率が7%未満と低い場合と比較して、得られる圧延接合体のピール強度を40N/20mm以上と高くすることができ、特に、焼鈍前後のピール強度向上幅が有意に大きくなる。アルミニウム合金層の圧下率は、前記の第一の実施形態の圧延接合体の場合と同様にして求められる。
【0114】
アルミニウム合金層の圧下率の上限は、特に限定されずに、例えば30%以下であり、より好ましくは20%以下、アルミニウム合金層の変形を抑制し厚み精度をより維持させるという観点からは特に15%未満が好ましい。アルミニウム合金層の圧下率の上限がこの範囲であると、熱処理後のピール強度向上の効果を得られつつ、さらにアルミニウム合金層の厚み平坦性を維持することができる。
【0115】
純チタン又はチタン合金層の圧下率は、好ましくは8%以上であり、より好ましくは9%以上であり、さらに好ましくは10%以上である。純チタン又はチタン合金層の圧下率が8%以上であると、得られる圧延接合体のピール強度が40N/20mm以上と高くなりやすい。純チタン又はチタン合金層の圧下率は、純チタン又はチタン合金層の変形を抑制し厚み精度をより維持させるという観点から、好ましくは20%以下、より好ましくは15%以下である。
【0116】
圧延接合体の圧下率は、20%以下であり、好ましくは15%以下である。圧延接合体の圧下率が20%以下であると、各層の変形を抑制し厚み精度をより維持させるである。なお、下限は、特に制限はないが、ピール強度向上効果を得るためのアルミニウム合金層の圧下率を鑑み、好ましくは8%以上、より好ましくは9%以上である。
【0117】
ロール圧接の圧延線荷重は、特に限定されずに、アルミニウム合金層及び圧延接合体の所定の圧下率を達成するように設定し、例えば1.6tf/cm~10.0tf/cmの範囲に設定することができる。例えば圧接ロールのロール直径が100mm~250mmのとき、ロール圧接の圧延線荷重は、好ましくは1.9tf/cm~4.0tf/cmであり、より好ましくは2.3tf/cm~3.0tf/cmである。ただし、ロール直径が大きくなった場合や金属層の接合前の厚みが厚い場合などには、接合時の圧力確保のために圧延線荷重を高くすることが必要になる場合があり、この数値範囲に限定されるものではない。
【0118】
接合時の温度は、特に限定されずに、例えば常温~150℃である。
【0119】
接合は、純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板表面への酸素の再吸着によって両者間の接合強度が低下するのを防止するため、非酸化雰囲気中、例えばArなどの不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。
【0120】
焼鈍工程では、以上のようにして純チタン又はチタン合金板とアルミニウム合金板を接合して得た圧延接合体について、熱処理を行う。熱処理によって、各層の間の密着性を向上することが可能となり、特に前述のアルミニウム合金層の圧下率の制御との組み合わせにより、密着力向上の効果を格段に高めることが出来る。また、この熱処理により圧延接合体の、特にアルミニウム合金層の焼鈍を兼ねることができる。
【0121】
焼鈍温度は、例えばバッチ焼鈍の場合、200℃~500℃であり、好ましくは250℃~450℃であり、また、例えば連続焼鈍の場合、300~800℃であり、好ましくは350℃~550℃である。焼鈍温度をこの範囲とすることによって、圧延接合体のピール強度が40N/20mm以上と高くなる。この焼鈍温度は、純チタン又はチタン合金は未再結晶温度域でありほぼ軟化せず、アルミニウム合金では加工ひずみが除かれて軟化する温度域である。本発明では、接合時のアルミニウム合金層及び圧延接合体の圧下率と、焼鈍温度を所定の範囲とすることによって、圧延接合体のピール強度が有意に向上する。
【0122】
また、この熱処理では、チタンとアルミニウムとが相互に熱拡散する。チタンとアルミニウムの圧延接合体においてこの熱拡散によってピール強度が向上することは公知であるが、前述のように圧延接合時の圧下率の制御との組み合わせにより向上の効果の幅が異なることを本発明者らは見出した。ピール強度が向上する理由としては、本願においては純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層との界面の酸化物の薄肉化又は接合界面に金属層が露出することにより、拡散が酸化物層の阻害を受けにくくなり、接合界面の広範囲又は界面から深いところまで拡散が進むことによりピール強度の向上の幅が格段と大きくなるためと考えられる。これにより、本発明は40N/20mm以上のピール強度を有する圧延接合体を得ることができる。
【0123】
焼鈍時間は、焼鈍方法(バッチ焼鈍又は連続焼鈍)、焼鈍温度や焼鈍を行う圧延接合体のサイズに応じて適宜設定することができる。例えば、バッチ焼鈍の場合、圧延接合体の温度が所定の温度になってから圧延接合体を0.5~10時間均熱保持し、好ましくは2~8時間均熱保持する。なお、金属間化合物が形成されなければ10時間以上のバッチ焼鈍を行っても問題ない。また、連続焼鈍の場合、圧延接合体の温度が所定の温度になってから圧延接合体を20秒~5分間均熱保持する。なお、焼鈍時間とは、焼鈍を行う圧延接合体が所定の温度になってからの時間をいい、圧延接合体の昇温時間は含まない。焼鈍時間は例えば、A4版(用紙サイズ)程度の小さい材料については、バッチ焼鈍では1~2時間程度で十分あるが、長尺もの、例えば幅100mm以上、長さ10m以上のコイル材などの大きい材料については、バッチ焼鈍では2~8時間程度必要である。
【0124】
VII.圧延接合体の用途
本発明のステンレス層とアルミニウム合金又は純アルミニウム層からなる圧延接合体は、電子機器プレス成形部品として利用することができ、高い絞り加工性を有することから、電子機器用筐体として、特にモバイル電子機器(モバイル端末)用筐体として利用することができる。筐体においては外面側の方が加工が厳しく、特にアルミニウム合金又は純アルミニウムからなるアルミニウム層を内面側、ステンレス層を外面側として成形した筐体やステンレス層が薄い筐体への加工は、ステンレス層の破断が起きやすいが、本発明の圧延接合体を用いることにより、ステンレス層がアルミニウム層に追随することにより良好な加工性を有するため、ステンレス層が破断することなく筐体を得ることができる。なお、筐体とした際には、変色抑制や加飾を目的とした処理が施されていてもよく、また、本発明の圧延接合体の用途は上記形態の筐体に限定されるものではない。また、本発明の純チタン又はチタン合金層とアルミニウム合金層からなる圧延接合体も、電子機器用筐体を含めた様々な用途に利用することができる。
【0125】
電子機器用筐体は、好ましくは背面及び/又は側面に本発明の圧延接合体を含む。
【0126】
本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第1の実施形態を図3及び図4に示す。図3は、本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第1の実施形態を示す斜視図であり、図4は、本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第1の実施形態のX-X’方向における断面斜視図である。電子機器用筐体3は、背面30と側面31からなり、背面30と側面31又はその一部が本発明の圧延接合体を含むことができる。ここで背面とは、スマートフォン等の電子機器を構成する筐体における、表示部(ティスプレイ、図示せず)が設けられる側とは反対側の面を指す。また、電子機器用筐体3の内側には圧延接合体とは別の金属材料やプラスチック材料等を積層させても良い。なお、電子機器用筐体3は、圧延接合体を背面30に含む場合、背面30の全体又は一部(例えば、図3の平面部分Aで示すような、2cm×2cm以上、例えば25mm×25mmの平面部分)が、圧延接合体について記載した前記の特性を満たしていれば良い。なお、電子機器用筐体3はその背面30に圧延接合体を含む構造であるが、電子機器の構造によっては本構造に限定されるものではなく、背面30と側面31が圧延接合体からなる構造であっても良く、また、側面31に圧延接合体を含む構造であっても良い。
【0127】
次に、本発明の圧延接合体を用いた電子機器用筐体の第2の実施形態について説明する。本実施形態では、センターフレームである電子機器用筐体が、ガラスや樹脂等の表示部及び背面によって挟まれた電子機器構造を示しており、電子機器用筐体は、側面と、その側面に接続された内部補強フレーム(電子機器用筐体における背面を構成する)から構成される。電子機器用筐体は、側面と内部補強フレーム又はその一部が本発明の圧延接合体を含むことができる。ここで内部補強フレームとは、スマートフォン等の電子機器の内部に位置し、電子機器全体の剛性向上や電池やプリント基板などの部品を実装する支持体としての役割を果たす支持板のことを意味する。内部補強フレームは、通常、接続やアセンブリのための穴を有する。穴は、例えばプレス等によって開けることが可能である。本実施形態においては、側面と内部補強フレームとを一体に構成することができるが、それに限定されるものではなく、側面と内部補強フレームとを一体化しなくても良い。また、側面だけに圧延接合体を適用しても良い。なお、本実施形態の電子機器用筐体についても、前記の電子機器用筐体5と同様に、電子機器の構造に応じて適宜変形することができ、上記で説明したような構造に限定されるものではない。
【実施例
【0128】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0129】
実施例1
ステンレス材としてSUS304(厚み0.2mm)を用い、アルミニウム材としてアルミニウム合金A5052(厚み0.8mm)を用いた。SUS304とA5052に対してスパッタエッチング処理を施した。SUS304についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力700W、13分間の条件にて実施し、A5052についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力700W、13分間の条件にて実施した。スパッタエッチング処理後のSUS304とA5052を、常温で、圧延ロール径130~180mm、圧延線荷重1.9tf/cm~4.0tf/cmの加圧力にてロール圧接により接合して、SUS304とA5052の圧延接合体を得た。この圧延接合体に対し、300℃、2時間の条件でバッチ焼鈍を行った。焼鈍後の圧延接合体について、ステンレス層、アルミニウム合金層及び圧延接合体(全体)の圧下率を、それぞれ、接合前の原板の厚みと最終的な圧延接合体における厚みから算出した。また、圧延接合体のステンレス層の厚みの標準偏差は、0.95μmであった。ステンレス層の厚みの標準偏差は、圧延接合体の断面の光学顕微鏡写真を取得し、その光学顕微鏡写真における幅300μmの断面について、ステンレス層の厚みを等間隔で10点計測し、得られた10点の測定値から求めた。
【0130】
実施例2-4及び比較例1-2
原板のアルミニウム材の厚み、接合時の加圧力を変更することによる接合時の圧下率、及び/又は焼鈍温度を所定の値に変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2-4及び比較例1-2の圧延接合体を得た。ステンレス層の厚みの標準偏差は、実施例1~5では0.3~1.0μmの範囲内であり、比較例1では0.2μmであった。
【0131】
実施例5
ステンレス材としてSUS304(厚み0.25mm)を用い、アルミニウム材としてA5052(厚み0.8mm)を用いた。SUS304とA5052に対してスパッタエッチング処理を施した。SUS304についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力4800W、ライン速度4m/分の条件にて実施し、A5052についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力6400W、ライン速度4m/分の条件にて実施した。スパッタエッチング処理後のSUS304とA5052を、常温で、圧延線荷重3.0tf/cm~6.0tf/cmにてロール圧接により接合して、SUS304とA5052の圧延接合体を得た。この圧延接合体に300℃で8時間のバッチ焼鈍を行った。
【0132】
実施例1-5及び比較例1-2の圧延接合体について、180°ピール強度を、接合後で焼鈍前の圧延接合体と、焼鈍後の最終的な圧延接合体について測定した。また、実施例1-5及び比較例1-2の圧延接合体について、引張強さ及び伸びを測定し、曲げ加工性及び絞り加工性を評価した。180°ピール強度、引張強さ及び伸びの測定、並びに曲げ加工性及び絞り加工性の評価は以下のようにして行った。
【0133】
[180°ピール強度]
圧延接合体から幅20mmの試験片を作製し、ステンレス層とアルミニウム層を一部剥離後、アルミニウム層側を固定し、ステンレス層をアルミニウム層側と180°反対側へ、引張速度50mm/分にて引っ張った際に引きはがすのに要する力(単位:N/20mm)を、テンシロン万能材料試験機 RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用いて測定した。
【0134】
[引張強さ]
テンシロン万能材料試験機 RTC-1350A(株式会社オリエンテック製)を用い、試験片としてJIS Z 2201に記載の特別試験片6号の仕様を用いて、JIS Z 2241(金属材料引張試験方法)に準じて測定した。
【0135】
[伸び]
引張強さ試験の試験片を用い、JIS Z 2241に記載される破断伸びの測定に準じて測定した。
【0136】
[曲げ加工性]
Vブロック法(金具角度60度、押し金具加工R0.5、荷重1kN、試験材幅10mm、JIS Z 2248)により曲げ加工を施した。
【0137】
[絞り加工性]
機械式エリクセン試験機(ERICHSEN社製 万能型薄板成形試験機 モデル145-60)を用いて円筒絞り加工を行い評価した。絞り加工条件は以下のとおりとした。 ブランク径φ:49mm(絞り比1.63)又は55mm(絞り比1.83)
パンチサイズφ:30mm
パンチ肩R:3.0
ダイ肩R:3.0
シワ押さえ圧力:3N
潤滑油:プレス加工油(No.640(日本工作油製))
成形温度:室温(25℃)
成形速度:50mm/秒
絞り加工性は以下の表1に示す5段階で評価した。数値が高い程絞り加工性に優れる。なお、ブランク径55mm(絞り比1.83)の条件は、ブランク径49mm(絞り比1.63)の条件よりも加工が厳しい。
【0138】
【表1】
【0139】
実施例1-5及び比較例1-2の圧延接合体の構成、製造条件及び評価結果を表2に示す。また、実施例1、2及び比較例1の圧延接合体の焼鈍前後のピール強度を図1に示す。なお、図1において、焼鈍前(接合後)のピール強度は便宜上いずれも10N/20mmとして図示した。
【0140】
【表2】
【0141】
表2及び図1より、接合時の加圧力を高くして、アルミニウム合金層の圧下率を高くした実施例1及び2は、アルミニウム合金層の圧下率が5%未満である比較例1と比較して、接合後で焼鈍前のピール強度は同等であるが、焼鈍後のピール強度が顕著に向上しており、絞り加工性が高くなることが示された。また、実施例2、3及び比較例2より、焼鈍後の圧延接合体のピール強度を高くするために適切な焼鈍温度範囲が存在し、これはバッチ焼鈍では200℃~370℃であると考えられる。また、アルミニウム材の厚みが薄い場合についても、圧延接合体のピール強度を高くすることができ、この場合、特に、焼鈍前後でのピール強度向上幅が大きかった(実施例4)。
【0142】
また、以下の純アルミニウムを用いた実施例6、7及び比較例3の結果との比較により、アルミニウム材がアルミニウム合金の場合、純アルミニウムの場合と比較して、ピール強度が高くなりにくいことがわかった。これは、アルミニウム合金は純アルミニウムよりも硬度が高く、変形しにくいため、そもそも接合時にピール強度があがりにくく、また、焼鈍により金属間化合物を接合界面に生成しやすいため、この金属間化合物生成によりピール強度が下がってしまうためであると推定される。
【0143】
実施例6
ステンレス材としてSUS304(厚み0.2mm)を用い、アルミニウム材として純アルミニウムA1050(厚み0.85mm)を用いた。SUS304とA1050に対してスパッタエッチング処理を施した。SUS304についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力700W、13分間の条件にて実施し、A1050についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力700W、13分間の条件にて実施した。スパッタエッチング処理後のSUS304とA1050を、常温で、圧延ロール径130mm~180mm、圧延線荷重1.9tf/cm~4.0tf/cmにてロール圧接により接合して、SUS304とA1050の圧延接合体を得た。この圧延接合体に対し、300℃、2時間の条件でバッチ焼鈍を行った。
【0144】
実施例7及び比較例3
接合時の加圧力を変更することによる接合時の圧下率及び/又は焼鈍温度を所定の値に変更した以外は実施例6と同様にして、実施例7及び比較例3の圧延接合体を得た。
【0145】
実施例6-7及び比較例3の圧延接合体を前記と同様に評価した。実施例6-7及び比較例3の圧延接合体の構成、製造条件及び評価結果を表3に示す。また、実施例6、7及び比較例3の圧延接合体の焼鈍前後のピール強度を図2に示す。なお、図2において、焼鈍前(接合後)のピール強度は便宜上いずれも20N/20mmとして図示した。
【0146】
【表3】
【0147】
表3及び図2より、アルミニウム材が純アルミニウムである場合についても、アルミニウム合金の場合と同様に、接合時の圧下率を上げることにより、接合後のピール強度は同等であるものの、焼鈍後のピール強度を顕著に大きくすることができ、焼鈍前後でのピール強度向上幅を大きくすることができることが示された。
【0148】
実施例8
チタン材として純チタンTP270(厚み0.2mm)を用い、アルミニウム材としてアルミニウム合金A5052(厚み0.6mm)を用いた。TP270とA5052に対してスパッタエッチング処理を施した。TP270についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力700W、13分間の条件にて実施し、A5052についてのスパッタエッチングは、0.1Pa下で、プラズマ出力700W、13分間の条件にて実施した。スパッタエッチング処理後のTP270とA5052を、常温で、圧延ロール径130~180mm、圧延線荷重1.9tf/cm~4.0tf/cmの加圧力にてロール圧接により接合して、TP270とA5052の圧延接合体を得た。この圧延接合体に対し、300℃、2時間の条件でバッチ焼鈍を行った。焼鈍後の圧延接合体について、純チタン層、アルミニウム合金層及び圧延接合体(全体)の圧下率を、それぞれ、接合前の原板の厚みと最終的な圧延接合体における厚みから算出した。
【0149】
比較例4
接合時の加圧力を変更して、接合時の各圧下率を所定の値に変更した以外は実施例8と同様にして、比較例4の圧延接合体を得た。
【0150】
実施例8及び比較例4の圧延接合体を前記のステンレス層とアルミニウム合金層又は純アルミニウムからなる圧延接合体と同様に評価した。実施例8及び比較例4の圧延接合体の構成、製造条件及び評価結果を表4に示す。また、実施例8及び比較例4の圧延接合体の焼鈍前後のピール強度を図5に示す。なお、図5において、焼鈍前(接合後)のピール強度は便宜上いずれも10N/20mmとして図示した。
【0151】
【表4】
【0152】
表4及び図5より、純チタンとアルミニウム合金の圧延接合体においても、接合時の圧下率を上げることにより、接合後のピール強度は同等であるものの、焼鈍後のピール強度を顕著に大きくすることができ、焼鈍前後でのピール強度向上幅を大きくすることができることが示された。
【符号の説明】
【0153】
3 電子機器用筐体
30 背面
31 側面
A 平面部分
図1
図2
図3
図4
図5