(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】監視システム
(51)【国際特許分類】
E01D 19/02 20060101AFI20220419BHJP
G08G 1/00 20060101ALI20220419BHJP
G08B 21/18 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
E01D19/02
G08G1/00 J
G08B21/18
(21)【出願番号】P 2018141329
(22)【出願日】2018-07-27
【審査請求日】2021-04-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591216473
【氏名又は名称】一般財団法人首都高速道路技術センター
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】安川 和利
【審査官】三笠 雄司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-090160(JP,A)
【文献】特開平10-132947(JP,A)
【文献】特開2007-120178(JP,A)
【文献】特開2005-115687(JP,A)
【文献】特開2017-083407(JP,A)
【文献】特開2007-101502(JP,A)
【文献】特開2018-077045(JP,A)
【文献】特開2011-191154(JP,A)
【文献】特開2018-017533(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0784985(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01D 1/00-24/00
G08B 19/00-31/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
道路
、鉄道、またはトンネルを構成する構造物を監視対象とした監視システムであって、
監視対象に取り付けて、当該監視対象の傾斜角度を測定可能な、傾斜計と、
前記傾斜計による測定作業の実行を管理する、測定制御手段と、
前記傾斜計の測定値を少なくとも用いて
前記監視対象の段差量および落橋情報のうち少なくとも何れか一方からなる傾斜情報を生成する、傾斜情報生成手段と、
前記傾斜情報を可視化したマークを地図上に表示する監視画面を生成する、表示手段と、
を少なくとも有
し、
前記マークが、前記監視対象の傾斜方向を示す複数の領域に分割されていることを特徴とする、
道路監視システム。
【請求項2】
前記測定制御手段が、前記傾斜計による測定作業を定期的に実行することを特徴とする、
請求項1に記載の道路監視システム。
【請求項3】
前記測定制御手段が、地震情報を検知または取得した際に、前記傾斜計による測定作業を実行することを特徴とする、
請求項1または2に記載の道路監視システム。
【請求項4】
前記測定制御手段が、前記監視対象に取り付ける震度計を有し、当該震度計でもって地震を検知した際に、前記傾斜計による測定作業を実行することを特徴とする、
請求項3に記載の道路監視システム。
【請求項5】
前記各領域
が、前記傾斜情報に基づいて色分け表示されることを特徴とする、
請求項1乃至4のうち何れか1項に記載の道路監視システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路、鉄道、またはトンネルを構成する構造物の変位による異常を検知するための、監視システムに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、橋梁などの構造物に生じるき裂の進展を監視するための装置として、下記の特許文献1に記載のき裂監視装置を発明した。
このき裂監視装置は、監視対象の構造物に貼り付ける断線ゲージと、断線ゲージからの電気信号から、き裂の進展情報を生成・送信する制御回路および携帯端末を設けて構成し、収集したき裂の進展情報を用いて補修を要する箇所の検討を可能とした発明である。
このき裂監視装置は、小型で低コストであるため、監視場所が多い高速道路などでも導入に際するコスト負担を抑えることができ、かつ5年以上の駆動も可能であるため、作業員による接近監視のための作業足場の設置や、下方の道路を通行止めにするなどの安全対策のコスト負担が頻繁に発生しない点などにおいて優れた効果を有している。
【0003】
出願人は、前記き裂監視装置のような小型の監視装置の派生型として、例えば監視対象の構造物を橋梁と想定した場合に、橋梁の桁ずれや落橋を検知可能とする装置の開発に着手した。
下記の非特許文献1には、橋梁の桁ずれや落橋を検知する技術として、レーザー距離計を橋梁に設置し、隣接する橋梁や橋脚などをレーザーの照射先として、当該照射先との距離の変化を捉える方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「国土技術政策総合研究所 プロジェクト研究報告 第7章 位置計測による構造物の監視・変状探知手法の開発」http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/kpr/prn0050pdf/kp005011.pdf
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記したレーザー距離計は消費電力が大きく、小型の装置に組みこんだ状態だとバッテリーの消耗が激しいため、交換作業を頻繁に行うことのできない現場での長寿命駆動を実現する、という本来の目的が失われてしまう問題を有していた。
【0007】
そこで本発明は、監視対象の変位に伴う異常を低コストかつ長寿命で監視可能とする手段の提供を、少なくとも一つの目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、道路、鉄道、またはトンネルを構成する構造物を監視対象とした監視システムであって、監視対象に取り付けて、当該監視対象の傾斜角度を測定可能な、傾斜計と、前記傾斜計による測定作業の実行を管理する、測定制御手段と、前記傾斜計の測定値を少なくとも用いて前記監視対象の段差量および落橋情報のうち少なくとも何れか一方からなる傾斜情報を生成する、傾斜情報生成手段と、前記傾斜情報を可視化したマークを地図上に表示する監視画面を生成する、表示手段と、を少なくとも有し、前記マークが、前記監視対象の傾斜方向を示す複数の領域に分割されていることを特徴とするものである。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記測定制御手段が、前記傾斜計による測定作業を定期的に実行することを特徴とするものである。
また、本願の第3発明は、前記第1発明または第2発明において、前記測定制御手段が、地震情報を検知または取得した際に、前記傾斜計による測定作業を実行することを特徴とするものである。
また、本願の第4発明は、前記第3発明において、前記測定制御手段が、前記監視対象に取り付ける震度計を有し、当該震度計でもって地震を検知した際に、前記傾斜計による測定作業を実行することを特徴とするものである。
また、本願の第5発明は、前記第1発明乃至第4発明のうち何れか1つの発明において、前記各領域が、前記傾斜情報に基づいて色分け表示されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、以下に記載する効果のうち、少なくとも何れか1つの効果を奏する。
(1)レーザー距離計よりも消費電力の小さい、傾斜計による傾斜角度の変化によって監視対象の変位を捉えるため、電源を確保しにくい橋梁などを監視対象とする場合でも、内蔵のバッテリーで長期間の駆動が可能となる。特に高速道路の橋梁などは、傾斜計の設置のための足場設置作業のために高速道路下の道路を封鎖する必要が生じるため、長期間の駆動を可能とすることで、安全対策のコスト負担を抑えることに寄与する。
(2)監視対象の段差量および落橋情報のうち少なくとも何れか一方からなる傾斜情報を可視化したマークを地図上に表示することで、危険度の高い監視対象の把握が容易となる。
(3)測定制御手段が定期的に傾斜測定作業を実行することで、異常の検知を直ちに把握することができる。
(4)監視対象に別途震度計を設けておき、この震度計による地震の検知後に傾斜測定作業を行うことで、地震発生後に直ちに道路の通行可能性の判断が可能となる。
(5)監視対象の段差量および落橋情報のうち少なくとも何れか一方からなる傾斜情報を可視化したマークを、監視対象の前後左右の傾斜を示す四箇所の領域を少なくとも有するように構成することで、何れの方向に監視対象の変位が発生しているか否かを視覚的に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る道路監視システムの機能ブロック図。
【
図4】本発明に係る道路監視システムの具体例1を示す概略図。
【
図5】本発明に係る道路監視システムの具体例2を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0012】
<1>全体構成(
図1)
本発明に係る道路監視システムは、主に橋梁、橋脚などの、道路を構成する構造物を監視対象とし、監視対象の変位による構造物の異常の有無を監視する。
図1に示すように、本発明に係る道路監視システムは、傾斜計10、測定制御手段20、傾斜情報生成手段30、および表示手段40、を少なくとも有する。
以下、各要素の詳細について説明する。
【0013】
<2>傾斜計(
図1)
傾斜計10は、監視対象の傾斜角度を測定するための装置である。
傾斜計10は、重力加速度の向きを検知することで監視対象の傾斜を検知することが可能な加速度計などの公知の傾斜センサを用いることができる。
【0014】
<2.1>傾斜角度の測定方法
傾斜計10は、監視対象の傾斜角度を絶対値で測定してもよいし、監視対象へ取り付けた初期状態を0°とするようイニシャライズして、初期状態からの相対値を測定してもよい。
【0015】
<3>測定制御手段(
図1)
測定制御手段20は、傾斜計10による測定作業の実施を管理するための手段である。
測定制御手段20は、予めインストールしたプログラムによって所定の情報処理を実行する情報処理装置などによって構成することができる。
【0016】
<3.1>スリープ制御機能
測定制御手段20は、監視端末Aを構成するその他の装置をスリープ状態にしておき、タイマーによって自動的に起動して、その他の装置をスリープ状態から復帰させるように構成することができる。
また、測定制御手段20は、
図4、5に示す監視端末Aに別途設けておいた地震計や、サーバBからの指示によって起動して、その他の装置をスリープ状態から復帰させるように構成してもよい。
【0017】
<4>傾斜情報生成手段(
図1)
傾斜情報生成手段30は、傾斜計10の測定値を少なくとも用いて監視対象の傾斜情報を生成するための手段である。
傾斜情報生成手段30は、予めインストールしたプログラムによって所定の情報処理を実行する情報処理装置などによって構成することができる。
また、傾斜情報とは、傾斜計10から得た測定値を少なくとも用いて求めた、監視対象の段差量や、落橋情報のうち少なくとも何れか一方が含まれた情報である。
【0018】
<4.1>傾斜情報の生成例
例えば、監視対象を橋梁と想定した場合、この橋梁の傾斜情報の生成例としては、傾斜計10から取得する測定値が予め所定の値(しきい値)を超えた場合に、橋梁の段差や落橋が発生している可能性が高いと推測する方法が考えられる。
なお、前記したしきい値は、監視対象の環境や諸元によって適宜設定することができる。例えば同一勾配において、橋梁の全長が長ければ長いほど、橋梁の上下方向の段差量も大きくなるため、傾斜角度による判定のしきい値は相対的に低い値で設定することとなる。
その他の生成例としては、傾斜計10から得た測定値と橋梁の全長(水平方向の長さ)から、都度橋梁の垂直方向の変位量を算出し、この変位量が所定の値(しきい値)を超えた場合に橋梁の桁ずれや落橋が発生している可能性が高いと推測する方法も考えられる。
橋梁の初期状態が水平に設置されている状態から、橋梁の全長をL、傾斜角度をα、変位量(段差量)をΔLとして場合の計算式は[ΔL=L×tanα]で求めることができる。
【0019】
これらのしきい値は、予めデータベース化されている橋梁の諸元を利用して個別に設定しておけば、より適切な監視が可能となる。
【0020】
なお、橋梁が水平のまま落下した場合は、傾斜角度の測定値からは橋梁の変位を検知できないこととなるが、傾斜計として用いる加速度計が常に加速度を測定しているように構成していれば、加速度の変化を捉えることで、橋梁の変位を検知することができる。
【0021】
<5>表示手段(
図1)
表示手段40は、監視対象の傾斜情報を可視化したマーク60を地
図51上に表示してなる画面を生成するための手段である。
表示手段40は、予めインストールしたプログラムによって所定の情報処理を実行する情報処理装置で構成することができる。
【0022】
<5.1>マークの表示例(
図2)
図2に、マーク60の表示例を示す。
各マーク60は、地
図51上に傾斜計10の設置地点を予め登録してある位置にプロットしておいたり、傾斜計10とは別に設けたGPSから取得する座標情報等に基づいて、傾斜計10の設置場所をリアルタイムに地
図51上にプロットしておいたりすることができる。
図2では、マーク60は円形状を呈しており、円の内部が段差量および落橋情報のうち少なくとも何れか一方からなる傾斜情報に基づく危険度の高低によって色分け表示されている。
また、図示しないが、本発明では、危険度の高低によって、マーク60の形状を○、△、×などに変えて表示するように構成してもよい。
上記構成とすると、危険度の高い監視対象の把握が容易となる点で好ましい。
【0023】
<5.2>マークの形状例(
図3)
マーク60は、監視対象の傾斜方向が分かるように、マーク60を複数の領域61に分割した構成としてもよい。
図3に、マーク60のその他の形状例を示す。
図3(a)~(f)の何れも、マーク60が、上下方向(走行方向)および左右方向(幅員方向)の傾斜をそれぞれ示す4箇所の領域61によって構成されている。
領域61毎に、監視対象の段差量および落橋情報のうち少なくとも何れか一方からなる傾斜情報に基づいて表示態様を変更することで、監視対象の段差量の大小や落橋の有無を、より視覚的に把握することができる。
【0024】
<6>構成の具体例1(
図4)
以下、
図4を参照しながら、本発明に係る道路監視システムの構成の具体例1について説明する。
【0025】
<6.1>監視端末
監視端末Aは、監視対象に設ける装置である。
本実施例では、監視端末Aを高速道路の橋梁に取り付けている。
図4に係る監視端末Aは、前述した傾斜計10および測定制御手段20を具備する小型の情報処理装置で構成している。
この情報処理装置は、専用のハードウェアにソフトウェアを組み込んで構成する態様や、既存のスマートフォンや携帯端末などにアプリケーションをインストールして構成する態様などを採用することができる。
【0026】
<6.2>サーバ
サーバBは、前記した各監視端末Aとの間でネットワークを介して接続される装置である。
サーバBの設置場所は特段限定しないが、いわゆるデータセンターなどの情報処理装置の設置・運用に特化した施設に設置されることが通常である。
図4に係るサーバBは、前述した判定情報生成手段および表示手段40を実現するための機能を有している。
【0027】
<6.3>ユーザ端末
ユーザ端末Cは、本発明に係るシステムのユーザが使用する装置である。
図4に係るユーザ端末Cは、ユーザの勤務場所に設置したPCなどの情報処理装置や、ユーザが携行するスマートフォンなどの端末を想定する。
ユーザは、ユーザ端末CからサーバBにアクセスし、サーバBが備える表示手段40でもって、ユーザ端末Cのディスプレイから橋梁の傾斜情報を確認することができる。
この確認方法は、取り付けた監視端末A毎に傾斜計10の測定値や、橋梁の傾斜情報をリスト化した方法や、地
図51に示した監視対象の橋梁の位置に、橋梁の傾斜情報を示すマーク60をプロットする方法などがある。
【0028】
<6.4>運用方法
本構成での運用方法の一例を以下に示す。
<6.4.1>通常時
(1)監視端末Aに備えた測定制御手段20は、定期的に傾斜計10の測定値を取得するためにタイマーによって駆動し、サーバBに送信する。
(2)サーバBに備えた判定情報生成手段は、取得した傾斜計10の測定値に基づいて、傾斜情報を生成する。
(3)サーバBに備えた表示手段40は、前記傾斜情報を、ユーザ端末Cから確認可能な状態とする。
【0029】
<6.4.2>地震発生時
地震が発生した場合、測定制御手段20は、監視端末Aに設けた地震計が所定の震度以上であった場合傾斜計10の測定値を取得してサーバBに送信する。その後の処理は前記した通常時と同様である。
【0030】
<7>構成の具体例2(
図5)
以下、
図5を参照しながら、本発明に係る道路監視システムの構成の具体例2について説明する。
前記した第1構成例(
図4)と異なる点は、サーバB側に測定制御手段20を設け、サーバBから監視端末Aに対し、傾斜計10による測定作業の実行指令を送信する点である。
よって、サーバB側では、通常時には、傾斜計10による測定作業の実行指令を監視端末Aに定期的に送信し、地震発生時には、地震速報信号の受信後、監視対象の橋梁の場所での震度が所定の震度以上であった場合に、傾斜計10による測定作業の実行指令を監視端末Aに送信すればよい。
【実施例2】
【0031】
前記した実施例1では、監視対象を高速道路における橋梁としていたが、本発明は、傾斜状態によって大きな段差の発見や落橋の有無等の異常を検知することが可能なものであれば道路以外の構造物を監視対象とすることができる。
その他の構造物には、例えば、鉄道橋梁、トンネルなどが考えられる。
【符号の説明】
【0032】
10 傾斜計
20 測定制御手段
21 震度計
30 傾斜情報生成手段
40 表示手段
50 表示画面
51 地図
52 監視対象
60 マーク
61 領域
A 監視端末
B サーバ
C ユーザ端末