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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】船舶用ハイブリッドシステム
(51)【国際特許分類】
   B63H 21/20 20060101AFI20220419BHJP
   B63H 23/12 20060101ALI20220419BHJP
   B63J 3/02 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
B63H21/20
B63H23/12
B63J3/02 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018207743
(22)【出願日】2018-11-02
(65)【公開番号】P2020070001
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006781
【氏名又は名称】ヤンマーパワーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 利光
(72)【発明者】
【氏名】吉田 篤史
【審査官】伊藤 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特許第6125124(JP,B1)
【文献】特開2004-257294(JP,A)
【文献】特許第5764411(JP,B2)
【文献】特開2010-235049(JP,A)
【文献】特開2011-140272(JP,A)
【文献】特開2017-178290(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 21/17,21/20,23/10
B63J 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、前記エンジンをトルクアシスト可能に構成されるモータと、前記エンジン及び前記モータの動作を制御する制御ユニットと、を備える船舶用ハイブリッドシステムであって、
前記制御ユニットは、船舶の加速が指示されたときに、当該加速の指示が、第1加速指示であるか、前記第1加速指示よりも前記エンジンの目標回転数の増加が急激な第2加速指示であるか、を判定し、
前記制御ユニットは、通常モードと、キャリブレーションモードと、の間で切換可能であり、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードにおいて船舶の加速が指示された場合は、前記トルクアシストを行わず、前記エンジンによって船舶を推進するように制御し、
アクセルレバーの操作位置の変化、又は、前記アクセルレバーの操作位置に基づいて得られる目標回転数の変化が、しきい値以上である場合は前記第2加速指示、しきい値を下回る場合は前記第1加速指示と判定し、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第1加速指示が行われたときのエンジン回転数の増加に伴うセンサ検出値の変化に基づいて、前記通常モードで前記第1加速指示が行われたときに前記モータが前記エンジンをトルクアシストするエンジン回転数の領域である第1アシスト領域を設定し、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第2加速指示が行われたときのエンジン回転数の増加に伴うセンサ検出値の変化に基づいて、前記通常モードで前記第2加速指示が行われたときに前記モータが前記エンジンをトルクアシストするエンジン回転数の領域である第2アシスト領域を設定することを特徴とする船舶用ハイブリッドシステム。
【請求項2】
請求項1に記載の船舶用ハイブリッドシステムであって、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第1加速指示が行われたときのエンジン負荷の検出結果に基づいて、前記第1アシスト領域を設定し、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第2加速指示が行われたときのエンジン負荷の検出結果に基づいて、前記第2アシスト領域を設定することを特徴とする船舶用ハイブリッドシステム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の船舶用ハイブリッドシステムであって、
前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第2加速指示が行われたときのエンジン給気圧の検出結果に基づいて、前記第2アシスト領域を設定することを特徴とする船舶用ハイブリッドシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶を推進させるためのプロペラを駆動する船舶用ハイブリッドシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶の動力源としてエンジンの他にモータ等を備えた船舶用ハイブリッドシステムが知られている。この船舶用ハイブリッドシステムにおいては、特許文献1に開示される船舶推進装置のように、モータによりエンジンをトルクアシストすることができる。
【0003】
特許文献1の船舶推進装置は、プロペラと、ガバナで制御される主機関(エンジン)と、インバータでトルク制御されるモータと、コントローラと、を有する。コントローラのPIDレギュレータは、主機関出力の現在値と目標値の偏差をPID演算して得たアシストトルク指令値でインバータを制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6125124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1とは異なり、エンジンに対してモータによるアシストを行うエンジン回転数の領域を事前に設定しておき、エンジン回転数に基づいてトルクアシストの有無を自動的に切り換える運用も考えられる。しかしながら、この場合、ハイブリッドシステムが適用される船舶の用途、船型、重量等によって、モータがエンジンをアシストすべき領域が異なるので、船舶毎に個別にキャリブレーションを行う必要があった。従って、キャリブレーション作業の簡素化が望まれていた。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、搭載された船舶に適したアシスト領域を容易に設定することができるハイブリッドシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の観点によれば、以下の構成の船舶用ハイブリッドシステムが提供される。即ち、このハイブリッドシステムは、エンジンと、モータと、制御ユニットと、を備える。前記モータは、前記エンジンをトルクアシスト可能に構成される。前記制御ユニットは、前記エンジン及び前記モータの動作を制御する。前記制御ユニットは、船舶の加速が指示されたときに、当該加速の指示が、第1加速指示であるか、前記第1加速指示よりも前記エンジンの目標回転数の増加が急激な第2加速指示であるか、を判定する。前記制御ユニットは、通常モードと、キャリブレーションモードと、の間で切換可能である。前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードにおいて船舶の加速が指示された場合は、前記トルクアシストを行わず、前記エンジンによって船舶を推進するように制御する。アクセルレバーの操作位置の変化、又は、前記アクセルレバーの操作位置に基づいて得られる目標回転数の変化が、しきい値以上である場合は前記第2加速指示、しきい値を下回る場合は前記第1加速指示と判定する。前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第1加速指示が行われたときのエンジン回転数の増加に伴うセンサ検出値の変化に基づいて、前記通常モードで前記第1加速指示が行われたときに前記モータが前記エンジンをトルクアシストするエンジン回転数の領域である第1アシスト領域を設定する。前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第2加速指示が行われたときのエンジン回転数の増加に伴うセンサ検出値の変化に基づいて、前記通常モードで前記第2加速指示が行われたときに前記モータが前記エンジンをトルクアシストするエンジン回転数の領域である第2アシスト領域を設定する。
【0009】
これにより、異なる種類の加速のそれぞれについて、モータがエンジンをトルクアシストするエンジン回転数の領域を、簡単なキャリブレーション作業によって、個々の船舶の運動特性等を考慮して適切に定めることができる。
【0010】
前記の船舶用ハイブリッドシステムにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第1加速指示が行われたときのエンジン負荷の検出結果に基づいて、前記第1アシスト領域を設定する。前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第2加速指示が行われたときのエンジン負荷の検出結果に基づいて、前記第2アシスト領域を設定する。
【0011】
これにより、船舶の加速時において、水等の抵抗によってエンジンに掛かる負荷が増大した場合のエンジン回転数の領域において、モータによるトルクアシストを適切に行うことができる。
【0012】
前記の船舶用ハイブリッドシステムにおいては、前記制御ユニットは、前記キャリブレーションモードで前記第2加速指示が行われたときのエンジン給気圧の検出結果に基づいて、前記第2アシスト領域を設定することが好ましい。
【0013】
これにより、急激な加速が指示された場合に、給気が不足するエンジン回転数の領域において、モータによるトルクアシストを適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るハイブリッドシステムの概略な構成を示す模式図。
図2】ハイブリッドシステムの構成を示すブロック図。
図3】船舶の加速時において、低中高のそれぞれの速力における船舶の状態を示す図。
図4】船舶の加速に関するスウィープ指示及び急加速指示を説明するグラフ。
図5】水上試運転におけるスウィープ指示に対応する第1負荷率曲線の例を示すグラフ。
図6】水上試運転における急加速指示に対応する第2負荷率曲線の例を示すグラフ。
図7】水上試運転における急加速指示に対応する給気圧曲線の例を示すグラフ。
図8】ハイブリッドシステムの駆動モードの自動切換に関する処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るハイブリッドシステム1の概略な構成を示す模式図である。図2は、ハイブリッドシステム1の構成を示すブロック図である。
【0016】
図1に示すハイブリッドシステム(船舶用ハイブリッドシステム)1は、船舶に搭載され、プロペラ2を回転させて船舶を推進させる。ハイブリッドシステム1は、プロペラ2を駆動するための2種類の駆動源(即ち、エンジン5及びモータ6)を備える。更に、ハイブリッドシステム1は、モータドライバ7と、ハイブリッドユニット11と、マリンギア12と、ECU(制御ユニット)9と、を備える。ECUは、Engine Control Unitの略称である。
【0017】
プロペラ2は、複数のブレードから構成され、プロペラシャフト3に固定されている。プロペラ2は、プロペラシャフト3を介してエンジン5及びモータ6から伝達された駆動力を回転軸方向における推進力に変換する。
【0018】
エンジン5は、船舶用の公知のディーゼルエンジンから構成され、船舶に動力を提供する主機関として機能する。詳細は図示しないが、エンジン5には、シリンダやピストン等によって区画された燃焼室が形成される。各燃焼室では、図略の過給機を介して供給された空気を圧縮し、図略のインジェクタを介して、高温になった圧縮空気に燃料を噴射することにより、燃料を自然着火燃焼させ、ピストンを押して運動させる。
【0019】
エンジン5には、出力軸であるクランクシャフト21が支持されている。クランクシャフト21は、ピストンの往復運動を受けて回転運動する。これにより、クランクシャフト21を通じてエンジン5から動力を取り出すことができる。
【0020】
ここで、過給機について簡単に説明する。過給機は、公知のタービンと、シャフトと、コンプレッサと、を備える。シャフトの一端はタービンと接続され、他端はコンプレッサと接続されている。タービンは、燃焼室で燃料が燃焼することによって発生した排気ガスを利用して回転するように構成される。シャフトを介してタービンと連結されているコンプレッサは、タービンの回転に伴って回転する。コンプレッサの回転により、外部空気が圧縮されながら強制的に吸入される。
【0021】
モータ6は、船舶に動力を提供するサブ機関として機能する。モータ6は、モータドライバ7を介してバッテリー8に接続されている。バッテリー8に蓄えられた電力が、モータドライバ7を介してモータ6に供給されることによって、モータ6のモータ出力軸60を回転駆動することができる。また、モータ出力軸60を外力によって回転させることで、モータ6を発電機として機能させ、バッテリー8を充電することができる。
【0022】
モータドライバ7は、モータ6の制御装置である。モータドライバ7はインバータを備えており、モータ6に流れる電流の電流量、方向、タイミング等を制御することによって、モータ6の回転方向(正転/逆転)、回転数等を制御する。モータドライバ7は、ECU9と電気的に接続され、ECU9からの制御指令に従って、モータ6の動作を制御する。
【0023】
ハイブリッドユニット11は、エンジン5及びモータ6からの駆動力を合成してマリンギア12に伝達することができる。
【0024】
ハイブリッドユニット11は、入力軸22と、駆動伝達軸23と、を備える。入力軸22と駆動伝達軸23は、ハイブリッドユニット11が備えるハウジングに回転可能に支持されている。入力軸22は、エンジン5のクランクシャフト21に、カップリング24を介して相対回転不能に結合される。
【0025】
入力軸22と駆動伝達軸23とは、同軸で配置されている。入力軸22と駆動伝達軸23の間には、エンジンクラッチ41が配置されている。エンジンクラッチ41は、エンジン5から駆動伝達軸23までの駆動伝達経路の途中に位置している。
【0026】
エンジンクラッチ41は、公知の油圧クラッチとして構成されている。エンジンクラッチ41は、入力軸22の動力を駆動伝達軸23に伝達する伝達状態と、入力軸22の動力を駆動伝達軸23に対して遮断する遮断状態と、の間で切換可能に構成されている。
【0027】
ハイブリッドユニット11には、モータ6が取り付けられている。モータ6のモータ出力軸60には、モータ出力ギア25が固定されている。当該モータ出力ギア25と噛み合う伝達ギア26は駆動伝達軸23に固定されている。
【0028】
マリンギア12は、ハイブリッドユニット11から入力された回転を減速してプロペラシャフト3に出力する。マリンギア12は、ハイブリッドユニット11を挟んでエンジン5とは反対側に取り付けられている。
【0029】
マリンギア12は、減速入力軸29と、伝達軸30と、減速出力軸31と、を備える。減速入力軸29、伝達軸30及び減速出力軸31の何れも、マリンギア12が備えるハウジングに回転可能に支持されている。減速入力軸29は、ハイブリッドユニット11の駆動伝達軸23に、カップリング32を介して相対回転不能に結合される。減速出力軸31は、プロペラシャフト3に、カップリング33を介して相対回転不能に結合される。
【0030】
減速入力軸29と伝達軸30とは、同軸で配置されている。減速入力軸29と伝達軸30の間には、伝達クラッチ42が配置されている。伝達クラッチ42は、駆動伝達軸23からプロペラ2までの駆動伝達経路の途中に位置している。
【0031】
伝達クラッチ42は、上記のエンジンクラッチ41と同様に、公知の油圧クラッチとして構成されている。伝達クラッチ42は、減速入力軸29の動力を伝達軸30に伝達する伝達状態と、減速入力軸29の動力を伝達軸30に対して遮断する遮断状態と、の間で切換可能に構成されている。
【0032】
伝達軸30には、第1減速ギア36が固定されている。当該第1減速ギア36と噛み合う第2減速ギア37は減速出力軸31に固定されている。
【0033】
ECU9は、CPU、ROM、RAM等を備えるコンピュータである。ROMには、エンジン5及びモータドライバ7(言い換えれば、モータ6)を制御するためのプログラムや、予め設定された様々な閾値等が記憶されている。
【0034】
ECU9は、エンジン5の状態に関する情報を検出する様々なセンサ90からの検出値に基づいて、エンジン5の回転数、ブースト圧(給気圧)、負荷率等の情報を得ることができる。ECU9は、得られた上記の情報に基づいて、エンジン5の動作を制御する。
【0035】
例えば、ECU9は、ポジションセンサ91を介して検出されたアクセルレバー10の操作位置(即ちアクセル開度)に応じて、燃焼室に供給する燃料噴射量、給気量等を制御する。これにより、エンジン5の回転数が調整される。簡単に言えば、ECU9は、操船者が操作したアクセルレバー10の操作量に応じてエンジン5の回転数を調整する。
【0036】
センサ90は、図2に示すように、過給機内のブースト圧を検出するブースト圧センサ(給気圧センサ)92、エンジン5(クランクシャフト21)の回転数を検出する回転センサ93、エンジン5の負荷を検出するトルクセンサ94等を含む。
【0037】
ハイブリッドシステム1は、複数の駆動モードを切り換えながら減速出力軸31(即ちプロペラシャフト3)を回転駆動することができる。この駆動モードには、電動推進モードと、エンジン推進モードと、推進充電モードと、ハイブリッド推進モードと、停止充電モードと、が含まれる。
【0038】
電動推進モードでは、ECU9は、エンジン5を停止状態とするとともに、バッテリー8からの電力でモータ6を駆動するように、モータドライバ7を制御する。そして、ECU9は、エンジンクラッチ41を遮断状態とし、伝達クラッチ42を接続状態とする。
【0039】
この電動推進モードでは、モータ6からの駆動力が、モータ出力ギア25、伝達ギア26、駆動伝達軸23、減速入力軸29、伝達軸30、第1減速ギア36、第2減速ギア37、及びプロペラシャフト3を介して、プロペラ2に伝達される。
【0040】
エンジン推進モードでは、ECU9は、エンジン5を運転状態とするとともに、バッテリー8の電力をモータ6に供給せず、且つ、モータ6が生成した電力をバッテリー8に供給しないように、モータドライバ7を制御する。そして、ECU9は、エンジンクラッチ41及び伝達クラッチ42を接続状態とする。
【0041】
このエンジン推進モードでは、エンジン5からの駆動力が、入力軸22、駆動伝達軸23、減速入力軸29、伝達軸30、第1減速ギア36、第2減速ギア37、減速出力軸31、及びプロペラシャフト3を介して、プロペラ2に伝達される。
【0042】
推進充電モードでは、ECU9は、エンジン5を運転状態とするとともに、モータ6が生成した電力をバッテリー8の充電のために供給するように、モータドライバ7を制御する。そして、ECU9は、エンジンクラッチ41及び伝達クラッチ42を接続状態とする。
【0043】
この推進充電モードでは、エンジン5からの駆動力が、入力軸22、駆動伝達軸23、減速入力軸29、伝達軸30、第1減速ギア36、第2減速ギア37、減速出力軸31、及びプロペラシャフト3を介して、プロペラ2に伝達されるとともに、モータ出力ギア25を介してエンジン5から得られた駆動力によってモータ出力軸60が回転する。モータ出力軸60の回転によって生成した電力がバッテリー8の充電のために供給される。
【0044】
ハイブリッド推進モードでは、ECU9は、エンジン5を運転状態とするとともに、バッテリー8からの電力でモータ6を駆動するように、モータドライバ7を制御する。そして、ECU9は、エンジンクラッチ41及び伝達クラッチ42を接続状態とする。
【0045】
このハイブリッド推進モードでは、エンジン5からの駆動力が、入力軸22、駆動伝達軸23、減速入力軸29、伝達軸30、第1減速ギア36、第2減速ギア37、減速出力軸31、及びプロペラシャフト3を介して、プロペラ2に伝達される。また、モータ6からの駆動力が、モータ出力ギア25及び伝達ギア26を介して、駆動伝達軸23に伝達される。この結果、エンジン5はモータ6の補助を得てプロペラシャフト3を回転させることができる(トルクアシスト)。
【0046】
停止充電モードでは、ECU9は、エンジン5を運転状態とするとともに、モータ6が生成した電力をバッテリー8の充電のために供給するように、モータドライバ7を制御する。そして、ECU9は、エンジンクラッチ41を接続状態とし、伝達クラッチ42を遮断状態とする。
【0047】
この停止充電モードでは、エンジン5からの駆動力が、入力軸22、駆動伝達軸23、伝達ギア26及びモータ出力ギア25を介して、モータ6のモータ出力軸60に伝達される。モータ出力軸60が回転することによって生成された電力がバッテリー8の充電のために供給される。
【0048】
本実施形態のハイブリッドシステム1においては、操船者が図略のモード切換ボタンを操作することによって、上述の駆動モードの間で自由に切り換えることができる。また、ハイブリッドシステム1は、所定の条件を満たした場合、エンジン推進モードとハイブリッド推進モードとの間で自動的に切り換える機能を有している。この機能は、トルクアシスト自動切換機能と呼ぶことができる。
【0049】
トルクアシスト自動切換機能について説明する。船舶の加速途中では、ハイブリッドシステム1のECU9は、エンジン回転数が所定の条件を満たす場合には、モータ6を動作させ、エンジン5のトルクアシストを行う(即ち、ハイブリッド推進モードとする)。一方で、上記の条件を満たさない場合には、モータ6を停止させ、エンジン5のトルクアシストを止める(即ち、エンジン推進モードとする)。これにより、水の抵抗等によってエンジン5の負荷が増大したり、エンジン5の給気圧が不足したりする状況において、モータ6からの駆動力によってエンジン5の回転をアシストすることができる。従って、軽快な加速フィーリングを実現することができる。
【0050】
船舶の加速過程において水の抵抗が変化する現象について説明する。図3は、船舶の加速時において、低中高のそれぞれの速力における船舶の状態を示す図である。図3に示すように、滑走型の船舶が低速状態から加速していくと、その途中で、船舶は、船首が上がった姿勢となる(ハンプ状態)。その後、船舶の速度が更に上がると、ハンプ状態から船首が下がった姿勢となり、高速滑走状態となる。ハンプ状態では、低速状態及び高速滑走状態と比較して水の抵抗が大きくなるため、推進のスムーズ感が得られにくい。
【0051】
次に、加速時にエンジンの給気が不足する現象について簡単に説明する。エンジンの回転数が十分に低い状態から加速を指示した場合、排気ガスの流量が増加するのに応じて過給機の回転数も増加する。しかし、タービン、シャフト、及びコンプレッサ等が有する慣性によって過給圧の上昇に遅れが生じるため(いわゆるターボラグ)、一時的に給気が不足する。給気不足は、エンジン5の回転数が増加する勢いが強い場合に顕著になる。給気が不十分であると、エンジン5のトルク不足を引き起こすため、これを補うことが望まれる。
【0052】
良好な加速フィーリングを実現するためには、ハンプ状態において水の抵抗が大きくなる現象、及び、急加速時に給気不足となる現象が生じるのに合わせて、特に強い推進力を得ることが求められる。なお、上記の現象が生じる条件は船種、船型、重量等によってそれぞれ異なるので、このような船舶の個体差を考慮する必要がある。
【0053】
この点、本実施形態のハイブリッドシステム1は、船舶の加速時において、上述した水の抵抗の増大及び給気不足の現象を考慮して、適切なタイミングでモータ6を動作させてエンジン5をトルクアシストするように制御する。
【0054】
具体的には、本実施形態のハイブリッドシステム1において、ECU9が備える不揮発性メモリには、船舶の加速時におけるアシスト領域が記憶されている。アシスト領域は、予め設定されたエンジンの回転数領域である。船舶が加速する際、エンジン5の回転数が上記アシスト領域(回転数領域)内である場合、モータ6が動作し、エンジン5の回転をアシストする。これにより、船舶の円滑な航行を実現している。
【0055】
本実施形態において、操船者が船舶を加速させる指示は、スウィープ指示(第1加速指示)と、急加速指示(第2加速指示)と、の何れかに分類される。スウィープ指示を行う場合、操船者は例えば図4(a)に示すように、アクセルレバー10をゆっくり高速側に倒す。急加速指示を行う場合、操船者は例えば図4(b)に示すように、アクセルレバー10を一気に最高速まで倒す。
【0056】
エンジン5の回転数は、アクセルレバー10が指示する目標回転数に追従するように制御される。急加速指示は、スウィープ指示よりも、指示される目標回転数の変化が急激であるということができる。
【0057】
船舶の加速が指示されたとき、ECU9は、当該指示がスウィープ指示であるか急加速指示であるかを判定する。この判定は、例えば、アクセルレバー10の操作位置に基づいて得られる目標回転数の変化を計算することで行うことができる。ただし、アクセルレバー10の操作位置の変化を検知することにより、加速の指示がスウィープ指示であるか急加速指示であるかを判定することもできる。
【0058】
次に、アシスト領域を設定するキャリブレーション作業について、図5及び図6等を参照して詳細に説明する。図5は、水上試運転におけるスウィープ指示に対応する第1負荷率曲線の例を示すグラフである。図6は、水上試運転における急加速指示に対応する第2負荷率曲線の例を示すグラフである。
【0059】
アシスト領域は、船舶にスウィープ指示がされた場合と、急加速指示がされた場合と、で異なる。スウィープ指示に対応するアシスト領域(第1アシスト領域)、及び、急加速指示に対応するアシスト領域(第2アシスト領域)は、ハイブリッドシステム1のキャリブレーションモードでそれぞれ設定される。
【0060】
キャリブレーションモードとは、メンテナンスモードの一種であって、トルクアシストを行うエンジン回転数の領域を、船舶の個体差等を考慮して較正するモードである。当該キャリブレーションモードは、例えば、図略のキャリブレーションスイッチを操作することにより、通常モードから切り換えられる。
【0061】
本実施形態のハイブリッドシステム1においては、当該システムが船舶に搭載された後、船舶を試運転する段階で、上記アシスト領域が設定される。具体的に説明すると、操船者は、ハイブリッドシステム1をキャリブレーションモードとした後、当該船舶を実際に航行させる。この試運転時において、操船者は、指示された2つの手順に従ってアクセルレバー10を操作し、船舶を2回加速させる。このキャリブレーションモードでは、ハイブリッドシステム1の駆動モードはエンジン推進モードに固定される(即ち、モータ6は停止しており、エンジン5の駆動力だけで船舶が推進する)。なお、このときに操船者が行う操作の詳細は後述する。
【0062】
この航行の過程で、ECU9は、センサ90から各種のデータを取得する。ECU9は、取得したデータを分析した結果に基づいてアシスト領域を取得し、このアシスト領域を不揮発性のメモリに記憶する。
【0063】
これにより、同一のハイブリッドシステム1が搭載される場合でも、船型、重量等が異なる船舶のそれぞれに適したアシスト領域を容易に設定することができる。
【0064】
続いて、キャリブレーションモードでの、第1アシスト領域及び第2アシスト領域の設定について詳細に説明する。
【0065】
操船者が船舶を試運転するとき、操船者は、ハイブリッドシステム1をキャリブレーションモードに切り換え、船舶のスウィープ指示の典型的なケースを実現するように、アクセルレバー10を所定の手順に従って操作する。
【0066】
この手順を具体的に説明すると、先ず操船者は、低速(例えば、エンジン5の回転数が500min-1)で航行している船舶に対して、エンジン5の目標回転数が3000min-1となるようにアクセルレバー10をゆっくり(例えば、1秒以上の時間を掛けて)高速側に倒す。
【0067】
こうして実現されるスウィープ指示での加速の過程において、ECU9は、回転センサ93及びトルクセンサ94を用いて、回転数及びトルク(負荷率)を検出する。得られたトルクは、センサ検出値の一種である。
【0068】
例えば、ECU9は、エンジン回転数が500min-1となっている状態を検出すると、その時点でのトルクを検出する。ECU9は、この検出処理を、エンジン回転数が1000min-1、1500min-1、・・・となる場合も同様に反復する。ECU9は、この検出結果に基づいて、図5の実線に示す第1負荷率曲線を求める。この第1負荷率曲線は、回転数と負荷率の関係を表している。
【0069】
ハイブリッドシステム1のメーカは、ハイブリッドシステム1を工場から出荷するにあたって、船舶のスウィープ指示による加速を想定したベンチ試験を行い、得られた基準負荷率曲線(図5の点線に示す曲線)をECU9の不揮発性のメモリに記憶させている。このベンチ試験は、エンジン5を船舶に搭載しない状態で行われる。
【0070】
ECU9は、キャリブレーションモードにおいて第1負荷率曲線を求めた後、当該第1負荷率曲線と、スウィープ指示での基準負荷率曲線と、を比較する。ECU9は、第1負荷率曲線が基準負荷率曲線から所定以上乖離した回転数の領域を、第1アシスト領域として記憶する。図5に示す例では、概ね1000min-1から2000min-1までの回転数の範囲において、第1負荷率曲線が基準負荷率曲線から上方に乖離している。この回転数の範囲は、上述のハンプ状態に対応していると考えられる。第1アシスト領域は、図5の白抜き矢印に示すように、1000min-1から2000min-1までの回転数の範囲となる。
【0071】
次に、操船者は、船舶の急加速指示の典型的なケースを実現するように、アクセルレバー10を所定の手順に従って操作する。
【0072】
具体的に説明すると、先ず操船者は、エンジン5の目標回転数が500min-1となるようにアクセルレバー10を操作するとともに、操作した後の状態を所定時間以上保持する。次に、操船者は、エンジン5の目標回転数が3000min-1となるようにアクセルレバー10を素早く(例えば、1秒以内で)倒すとともに、倒した状態を所定時間以上保持する。
【0073】
こうして実現される急加速指示での加速の過程においても、ECU9はスウィープ指示と同様に、回転センサ93及びトルクセンサ94を用いて、回転数及びトルク(負荷率)を検出する。得られたトルクは、センサ検出値の一種である。
【0074】
具体的には、ECU9は、500min-1から増加していくエンジン回転数が、1000min-1、1500min-1、・・・に到達する時点でのトルクをそれぞれ検出する。ECU9は、この検出結果に基づいて、図6の実線に示す第2負荷率曲線を求める。この第2負荷率曲線は、回転数と負荷率の関係を表している。
【0075】
ハイブリッドシステム1のメーカは、スウィープ指示だけでなく、急加速指示に対応した加速を想定したベンチ試験を行い、得られた基準負荷率曲線(図6の点線に示す曲線)をECU9の不揮発性のメモリに記憶させている。
【0076】
ECU9は、キャリブレーションモードにおいて第2負荷率曲線を求めた後、当該第2負荷率曲線と、急加速指示での基準負荷率曲線と、を比較する。これに基づき、ECU9は、第2負荷率曲線が基準負荷率曲線から所定以上乖離した回転数の領域を取得する。図6に示す例では、当該領域は、図6の白抜き矢印で示すように、500min-1から2000min-1までの回転数の範囲となる。
【0077】
なお、急加速指示に関しては、負荷に着目した考え方だけではなく、給気圧にも着目して、アシスト領域の設定を行っている。具体的に説明すると、ECU9は、キャリブレーションモードでの急加速時に、トルクを上述のように検出するのと並行して、ブースト圧センサ92が検出する給気圧を取得する。得られた給気圧は、センサ検出値の一種である。その後、ECU9は、エンジン回転数及び給気圧の時間推移を求める。図7には、検出されたエンジン回転数及び給気圧と、所定のタイミングからの経過時間と、の関係の例が太線で示されている。
【0078】
ECU9は、加速に伴って増加するエンジン回転数が所定の回転数に到達したときの給気圧を、図7の曲線から求める。所定の回転数としては、本実施形態では、定格回転数としている。ただし、これに代えて、実用最大回転数に所定の係数(例えば、0.8)を乗じた回転数を上述の所定の回転数としても良い。図7の例では、定格回転数である2400min-1に対応する給気圧が130kPaである。従って、給気圧が130kPa以下であるエンジン回転数領域においてトルクアシストを行えば、エンジン5の給気圧が十分に上昇せず、燃焼に必要となる空気量が十分に得られない状況下において、モータ6による補助を適切に得ることができる。図7に示す例では、当該領域は白抜き矢印で示すように、700min-1から2400min-1までの回転数の範囲となる。
【0079】
ただし、単純に給気圧だけを考慮したのでは、トルクアシストを行う回転数領域を良好に定めることが困難な場合もある。例えば、エンジン回転数が低い領域で比較的大きい給気圧になったり、急加速の途中で給気圧が急上昇した後に下がったりする特性を示すケースでは、適切にトルクアシストすることができない。
【0080】
そこで、ECU9は、上記のようにトルクアシストを良好に行うことができない場合には、給気圧の時間推移から瞬間勾配を計算し、この瞬間勾配が所定値以上になるタイミングでのエンジン回転数を求める。この回転数以下の領域においてトルクアシストを行うように制御すれば、適切な状況下でのトルクアシストを実現することができる。
【0081】
図7の曲線のような給気圧の時間推移をエンジン5が示している場合は、瞬間勾配を計算する必要はなく、給気圧の値が130kPa以下という条件を用いればキャリブレーションとしては十分である。ここでは、説明のために、図7の曲線において瞬間勾配を求めることを仮定する。図7には、給気圧の勾配の時間推移が、太い破線で示されている。この例では、瞬間勾配のピークは、回転数が2500min-1付近となるタイミングで現れ、ピーク値は80kPa/sec程度である。従って、瞬間勾配が80kPa/sec以上になるタイミングでのエンジン回転数を求め、当該回転数以下の領域でトルクアシストを行うようにすることもできる。
【0082】
ECU9は、負荷に着目した回転数の領域と、給気圧に着目した回転数の領域と、を論理和の形で合成することで、第2アシスト領域を計算する。図6及び図7の結果から、第2アシスト領域は、500min-1から2400min-1までの回転数の範囲となる。
【0083】
キャリブレーションが完了すると、操船者はハイブリッドシステム1を通常モードに切り換える。その後、船舶が出荷され、オーナに引き渡される。
【0084】
引渡し後の船舶の航行時に、通常モードのハイブリッドシステム1は、エンジン5の回転数を監視する。船舶を加速させるときは、ECU9は、上記のように取得した第1アシスト領域又は第2アシスト領域に基づいて、適切なタイミングでハイブリッド推進モードに切り換わり、モータ6を動作させてエンジン5の駆動をアシストする。
【0085】
次に、図8を参照して、トルクアシストに関する制御の詳細について説明する。図8は、ハイブリッドシステム1の駆動モードの自動切換に関する処理を示すフローチャートである。
【0086】
図8に示すフローチャートが開始されると、ECU9は、船舶に対して加速指示がされているか否かを判断する(ステップS101)。加速指示がされていない場合は、ステップS101に戻り、上記の判断を反復する。
【0087】
ステップS101の判断で、加速指示がされていると判定された場合、ECU9は、当該加速指示がスウィープ指示であるか否かを判断する(ステップS102)。
【0088】
ステップS102の判断で、船舶への加速指示がスウィープ指示であると判定された場合、ECU9は、回転センサ93から検出されたエンジン回転数が、第1アシスト領域として定められた回転数の範囲に含まれているか否かを判断する(ステップS103)。
【0089】
ステップS103の判断で、エンジン回転数が第1アシスト領域内(即ち、1000min-1から2000min-1までの範囲内)である場合、ECU9は、モータ6を動作させてエンジン5をトルクアシストする(ステップS104)。その後、処理はステップS101に戻る。
【0090】
一方、ステップS103の判断で、エンジン回転数が第1アシスト領域から外れている場合、ECU9は、モータ6を動作させない(ステップS105)。その後、処理はステップS101に戻る。
【0091】
即ち、船舶への加速指示がスウィープ指示である場合、ハイブリッドシステム1は、エンジン回転数が1000min-1以上かつ2000min-1以下であるときは、ハイブリッド推進モードでプロペラ2を駆動する。即ち、トルクアシストが行われる。一方で、ハイブリッドシステム1は、エンジン回転数が1000min-1より小さいとき、又は、2000min-1より大きいときは、エンジン推進モードでプロペラ2を駆動する。即ち、トルクアシストが行われない。
【0092】
ステップS102の判断で、船舶への加速指示がスウィープ指示でないと判定された場合(言い換えれば、加速指示が急加速指示である場合)、ECU9は、回転センサ93により検出されたエンジン回転数が、第2アシスト領域として定められた回転数の範囲に含まれているか否かを判断する(ステップS106)。
【0093】
ステップS106の判断で、エンジン回転数が第2アシスト領域内(即ち、500min-1から2400min-1までの範囲内)である場合、ECU9は、モータ6を動作させてエンジン5をトルクアシストする(ステップS107)。その後、処理はステップS101に戻る。
【0094】
一方、ステップS106の判断で、エンジン回転数が第2アシスト領域から外れている場合、ECU9は、モータ6を動作させない(ステップS108)。その後、処理はステップS101に戻る。
【0095】
即ち、船舶への加速指示が急加速指示である場合、ハイブリッドシステム1は、エンジン回転数が500min-1以上2400min-1以下であるときは、ハイブリッド推進モードでプロペラ2を駆動する。即ち、トルクアシストが行われる。一方で、ハイブリッドシステム1は、エンジン回転数が500min-1より小さいとき、又は、2400min-1より大きいときは、エンジン推進モードでプロペラ2を駆動する。即ち、トルクアシストが行われない。
【0096】
このように、船舶の加速時において、エンジン回転数が、水からの抵抗によってエンジン5に掛かる負荷が比較的大きい領域、又は給気量が不足しがちな領域となると、モータ6によるトルクアシストが自動的に行われる。この結果、船速をスムーズに増加させることができ、加速フィーリングを向上することができる。また、トルクアシストが行われるエンジン回転数の領域が、キャリブレーション作業によって、スウィープ指示と急加速指示とで別々に、船舶の個体差を考慮して設定される。従って、どのような船舶においても良好なタイミングでトルクアシストを行うことができる。また、上記のキャリブレーション作業は、船舶を加速操作する簡単な作業によって行うことができる。従って、アシスト領域を少ない工数で適切に定めることができる。
【0097】
以上に説明したように、本実施形態のハイブリッドシステム1は、エンジン5と、モータ6と、ECU9と、を備える。モータ6は、エンジン5をトルクアシスト可能に構成される。ECU9は、エンジン5及びモータ6の動作を制御する。ECU9は、船舶の加速が指示されたときに、当該加速の指示が、スウィープ指示であるか、前記スウィープ指示よりもエンジン5の目標回転数の増加が急激な急加速指示であるか、を判定する。ECU9は、通常モードと、キャリブレーションモードと、の間で切換可能である。ECU9は、キャリブレーションモードにおいて船舶の加速が指示された場合は、トルクアシストを行わず、エンジン5によって船舶を推進するように制御する。ECU9は、キャリブレーションモードでスウィープ指示が行われたときのエンジン回転数の増加に伴うセンサ90の検出値の変化に基づいて、通常モードでスウィープ指示が行われたときにモータ6がエンジン5をトルクアシストするエンジン回転数の領域である第1アシスト領域を設定する。ECU9は、キャリブレーションモードで急加速指示が行われたときのエンジン回転数の増加に伴うセンサ90の検出値の変化に基づいて、通常モードで急加速指示が行われたときにモータ6がエンジン5をトルクアシストするエンジン回転数の領域である第2アシスト領域を設定する。
【0098】
これにより、異なる種類の加速のそれぞれについて、モータ6がエンジン5をトルクアシストするエンジン回転数の領域を、簡単なキャリブレーション作業によって、個々の船舶の運動特性等を考慮して適切に定めることができる。
【0099】
また、本実施形態のハイブリッドシステム1において、ECU9は、キャリブレーションモードでスウィープ指示が行われたときのエンジン負荷の検出結果に基づいて、第1アシスト領域を設定する。ECU9は、キャリブレーションモードで急加速指示が行われたときのエンジン負荷の検出結果に基づいて、第2アシスト領域を設定する。
【0100】
これにより、水の抵抗等によってエンジン負荷が比較的大きくなるエンジン回転数の領域において、モータ6によるトルクアシストを適切に行うことができる。
【0101】
また、本実施形態のハイブリッドシステム1において、ECU9は、キャリブレーションモードで急加速指示が行われたときのエンジン給気圧の検出結果に基づいて、第2アシスト領域を設定する。
【0102】
これにより、急加速時に給気が不足するエンジン回転数の領域において、モータ6によるトルクアシストを適切に行うことができる。
【0103】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0104】
定格回転数、給気圧の条件、給気圧の勾配の条件等に関して、上記の説明で示した値は例であって、エンジン5等に応じて様々に変化し得る。
【0105】
キャリブレーション作業において操船者に要求される操作は、上記に限定されず、任意に定めることができる。例えば、スウィープ指示の場合、500min-1ではなく300min-1ずつ目標回転数を増加させるように操作しても良い。
【0106】
第2アシスト領域は、トルクだけを考慮して設定しても良いし、給気圧だけを考慮して設定しても良い。
【0107】
ECU9とは別途に制御ユニットを設けても良い。この場合、ハイブリッドシステム1は、制御ユニットを用いて、ECU9及びモータドライバ7を制御する。
【0108】
試運転時に船舶の用途をECU9に入力し、設定されるアシスト領域が、用途に応じて適したものとなるように設定されても良い。
【符号の説明】
【0109】
1 ハイブリッドシステム(船舶用ハイブリッドシステム)
5 エンジン
6 モータ
9 ECU(制御ユニット)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8