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特許7060507自己免疫疾患の予防及び/又は治療のためのアジュバントの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】自己免疫疾患の予防及び/又は治療のためのアジュバントの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20220419BHJP
   A61K 9/107 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 9/127 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/22 20060101ALI20220419BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 5/14 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220419BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K9/107
A61K9/127
A61K47/06
A61K47/14
A61K47/22
A61K47/26
A61P1/00
A61P3/10
A61P5/14
A61P17/00
A61P17/06
A61P19/02
A61P25/00
A61P29/00
A61P29/00 101
A61P37/02
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018532169
(86)(22)【出願日】2016-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-14
(86)【国際出願番号】 EP2016081181
(87)【国際公開番号】W WO2017102939
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-11-26
(31)【優先権主張番号】1522329.0
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】305060279
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン バイオロジカルズ ソシエテ アノニム
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】501081362
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モーレル,サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】プシー,シャルロット,ヴェロニーク
(72)【発明者】
【氏名】サロモン,ブノワ,ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ヴァネルヘイド,ナタリー,ラウル,リリアン
【審査官】中村 浩
(56)【参考文献】
【文献】MICHEL W J SADELAIN; ET AL,PREVENTION OF TYPE I DIABETES IN NOD MICE BY ADJUVANT IMMUNOTHERAPY,DIABETES,米国,AMERICAN DIABETES ASSOCIATION,1990年05月,VOL:39, NR:5,PAGE(S):583 - 589,http://dx.doi.org/10.2337/diab.39.5.583
【文献】ABIGAIL C BUENAFE; ET,LIPOPOLYSACCHARIDE PRETREATMENT MODULATES THE DISEASE COURSE IN EXPERIMENTAL AUTOIMMUNE 以下備考,JOURNAL OF NEUROIMMUNOLOGY,NL,ELSEVIER SCIENCE PUBLISHERS BV,2007年01月02日,VOL:182, NR:1-2,PAGE(S):32 - 40,http://dx.doi.org/10.1016/j.jneuroim.2006.09.004,ENCEPHALOMYELITIS
【文献】NATHALIE GARCON; ET AL,VACCINE ADJUVANTS,PERSPECTIVES IN VACCINOLOGY,ELSEVIER,2011年08月,VOL:1, NR:1,PAGE(S):89-113,https://www.researchgate.net/publication/257740126_Vaccine_adjuvants
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 9/00- 9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己免疫疾患の予防及び/又は治療における使用のためのアジュバントであって、該アジュバントは、アルミニウムを含まず、且つリポソーム製剤の中にQS21及び3D-MPLを含み、且つヒト被験体における使用に適しており、且つ、前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患及び中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患から成る群より選択される疾患である、前記アジュバント。
【請求項2】
ステロールを含む、請求項1記載のアジュバント。
【請求項3】
自己免疫疾患の予防及び/又は治療における使用のためのアジュバントであって、該アジュバントは、アルミニウムを含まず、且つスクアレン、並びにアルファ-トコフェロール、及びポリソルベート80を水相の中に含む水中油型エマルジョンを含み、且つヒト被験体における使用に適しており、且つ、前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患及び中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患から成る群より選択される疾患である、前記アジュバント。
【請求項4】
前記自己免疫疾患が多発性硬化症である、請求項1~3のいずれか1項記載のアジュバント。
【請求項5】
前記自己免疫疾患が急性散在性脳脊髄炎である、請求項1~3のいずれか1項記載のアジュバント。
【請求項6】
前記自己免疫疾患が1型糖尿病である、請求項1~3のいずれか1項記載のアジュバント。
【請求項7】
ヒト患者における使用のためのものである、請求項1~6のいずれか1項記載のアジュバント。
【請求項8】
前記自己免疫疾患を発症しやすいヒト患者における前記自己免疫疾患の予防における使用のためのものである、請求項1~7のいずれか1項記載のアジュバント。
【請求項9】
アジュバントを含む、自己免疫疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、該アジュバントがアルミニウムを含まず、且つリポソーム製剤の中にQS21及び3D-MPLを含み、且つヒト被験体における使用のために適しており、且つ、前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患及び中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患から成る群より選択される疾患である、前記医薬組成物。
【請求項10】
アジュバントを含む、自己免疫疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物であって、該アジュバントがアルミニウムを含まず、且つスクアレン、並びにアルファ-トコフェロール、及びポリソルベート80を水相の中に含む水中油型エマルジョンを含み、且つヒト被験体における使用のために適しており、且つ、前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患及び中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患から成る群より選択される疾患である、前記医薬組成物。
【請求項11】
自己免疫疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造におけるアジュバントの使用であって、該アジュバントがアルミニウムを含まず、且つリポソーム製剤の中にQS21及び3D-MPLを含み、且つヒト被験体における使用に適しており、且つ、前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患及び中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患から成る群より選択される疾患である、前記使用。
【請求項12】
自己免疫疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造におけるアジュバントの使用であって、該アジュバントがアルミニウムを含まず、且つスクアレン、並びにアルファ-トコフェロール、及びポリソルベート80を水相の中に含む水中油型エマルジョンを含み、且つヒト被験体における使用に適しており、且つ、前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症、自己免疫性甲状腺疾患及び中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患から成る群より選択される疾患である、前記使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアジュバントに、特に自己免疫疾患の予防及び/又は治療におけるアジュバントの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのワクチンでは、抗原は、その安全性を改善するために、精製されたタンパク質又はサブユニットタンパク質の形態にあるが、これはより低い免疫原性という犠牲を払っている。したがって、効果的な適応免疫応答は、早期の炎症を引き起こし、抗原提示細胞を活性化させるためにアジュバントの追加を必要とする。
【0003】
アルミニウムアジュバント(ミョウバン)は、Th2応答を誘導することによって抗体応答を促進するために幅広く使用されている。スクアレンに基づくアジュバントMF59及びアジュバントシステム(AS)03は、ケモカイン及びサイトカイン放出を誘導するその能力によってTh1及びTh2応答の両方を促進し、免疫細胞の大規模な動員及び活性化をもたらす。Toll様受容体リガンドに基づくアジュバントAS04及びAS01については、それらは、先天性免疫細胞を直接活性化することによってTh1及びTh2応答を誘導する。
【0004】
エフェクター応答に対する効果を超えて、いくつかの研究は、自己免疫疾患におけるある種のアジュバントの免疫調節性の影響の、興味深く逆説的な観察を明らかにした。家畜用ワクチンだけに使用されているコンプリートフロイントアジュバント(CFA)の投与は、非肥満性糖尿病マウス(Sadelain et al. (1990) Diabetes 39: 583)における1型糖尿病の保護と寛解を誘導した。また、家畜用ワクチンのための臨床研究において使用される天然TLR4リガンドであるリポ多糖(LPS)の投与は、多発性硬化症のマウスモデルである実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)からの保護を誘導した(Buenafe et al. (2007) J. Neuroimmunol. 182: 32)。これらは興味深い観察である一方で、CFAとLPSは両方とも毒性のためにヒトへの使用に適していない。
【0005】
自己免疫疾患は、体の自身の組織の構成因子に対する免疫応答によって引き起こされる。80種類を超える自己免疫疾患が公知である。自己免疫疾患の例は、例えば関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(ループス)、炎症性腸疾患(IBD)、多発性硬化症(MS)、1型糖尿病、ギラン・バレー症候群、クローン病及び乾癬を含む。これらの疾患の多くが慢性的であり、著しい病的状態と身体障害を引き起こし得る。自己免疫疾患の治療は一般的に免疫抑制に基づく。自己免疫疾患の治療において著しい進歩がなされてきた一方で、有効性を増し、副作用を減らし、投与が容易であり、安全であり、及びこれらの疾患の長期間の治療又は慢性治療においてさえも使用できる、改善された製品及び方法の必要性が依然として存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Sadelain et al. (1990) Diabetes 39: 583
【文献】Buenafe et al. (2007) J. Neuroimmunol. 182: 32
【発明の概要】
【0007】
ヒトへの使用に適しており、ヒトへの使用のために承認を受けた2種類のミョウバン非含有アジュバントであるAS01及びAS03が、動物モデルにおいて自己免疫疾患のほぼ完全な予防を誘導できることが今や驚くことに見出され、ヒトにおける自己免疫疾患の予防及び/又は治療におけるその使用の根拠となった。
【0008】
したがって、第1の態様では、本発明は自己免疫疾患の予防及び/又は治療における使用のためのアジュバントに関し、ここで該アジュバントはアルミニウムを含まず、ヒト被験体における使用に適している。
【0009】
さらなる態様では、被験体へのアジュバントの投与を含む、自己免疫疾患を予防及び/又は治療するための方法が提供され、ここで該アジュバントはアルミニウムを含まず、ヒト被験体における使用に適している。
【0010】
その上さらなる態様では、本発明は自己免疫疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造におけるアジュバントの使用に関し、ここで該アジュバントはアルミニウムを含まず、ヒト被験体における使用に適している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1-1】図1aは、ワクチンアジュバントの皮下注射(足蹠)の4日後の膝窩流入領域リンパ節(dLN)の代表的写真を示す。図1bは、Treg細胞の典型的フローサイトメトリー解析を示す。図1cは、ワクチンアジュバントの皮下注射の4日後及び7日後のpLNにおける、PBSを注射したマウスに比較した、CD4+細胞中のFoxp3+細胞のパーセンテージの倍率変化を示す。3回の独立した実験からの累積データである。図1dでは、CD4+Foxp3-CD90.1+細胞をアジュバント注射前に養子移入し、供与細胞上のFoxp3の誘導をpTreg細胞のマーカーとして4日目に評価した。AS01処理後のTreg誘導の解析例を代表的に示す。図1e、fは、4日前にAS01を処理したマウスのdLNから精製されたTreg細胞のエクスビボ抑制活性を示す。1:2のTreg:Tconv細胞比率における代表データ(e)と4回の独立した実験からの異なるTreg:Tconv細胞比率における平均±SEM(f)。「Treg」細胞は制御性T細胞のことであり、「Tconv」細胞は通常のT細胞のことである。
図1-2】図1-1の続きである。
図1-3】図1-2の続きである。
図2-1】図2aは、ワクチンアジュバントの皮下注射の4日後のdLNにおけるCD45+細胞の絶対数を示す。3回の独立した実験からの累積データである。図2bは、AS01の皮下注射の4日後のdLNに由来するTreg細胞におけるCD44、ICOS及びKI-67の代表的な発現を示す。図2cは、ワクチンアジュバントの皮下注射の3日後のdLNから精製したTreg細胞のインビトロ抑制活性を示す。図2dは、AS01の皮下注射の3日後のdLNに由来するTreg細胞における代表的なFoxp3発現を示す。図2eは、AS01の皮下注射の7日後のdLNから精製したTreg細胞のインビトロ抑制活性を示す。「Treg」細胞は制御性T細胞のことである。
図2-2】図2-1の続きである。
図3-1】図3aは、0日目にEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を誘発するために免疫し、-3日目及び0日目にアジュバントで処理したマウスにおけるEAEの臨床スコアを示す。3回の独立した実験からの累積データである。図3bは、EAEを誘発するために免疫し(0日目)、アジュバントで処理した(-3日目)マウスにおける移入後3日目の2D2 MOG35-55特異的T細胞の代表的な増殖(2回の独立した実験に由来する)を示す。図3cは、EAEを誘発するために10日前に免疫し(0日目)、AS01又はAS03で処理した(-3日目)マウスのdLNに由来するMOG反応性T細胞によるINF-γ及びIL-17産生を示す。図3dは、0日目にEAEを誘導するために免疫し、PBS、AS01又はAS03で処理したマウスから精製したTreg細胞を前日に移入したマウスにおけるEAEの臨床スコアを示す。図3e、fは、0日目にEAEを誘発するために免疫し、-3日目にAS03で処理したマウスにおける10日目のdLNにおけるTreg細胞のパーセンテージ(e)、並びにTreg及びTconv細胞のうちのインテグリンαL+及びαM+のパーセンテージ(f)を示す。「Treg」細胞は制御性T細胞のことであり、「Tconv」細胞は通常のT細胞のことである。
図3-2】図3-1の続きである。
図4-1】図4a、bは、0日目にEAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を誘発するために免疫し、-3日目(a)又は0日目(b)にAS01又はAS03で処理したマウスにおけるEAEの臨床スコアを示す。3回の独立した実験からの累積データである。図4c、dは、0日目にEAEを誘発するために免疫し、0及び-3日目にAS03で処理したマウスにおける10日目のdLNにおけるTreg細胞及びTconv細胞のうちのCCR6+細胞及びCXCR3+細胞の割合(c)、並びにインテグリンα4+細胞及びインテグリンαL+細胞の割合(d)を示す。「Treg」細胞は制御性T細胞のことであり、「Tconv」細胞は通常のT細胞のことである。
図4-2】図4-1の続きである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述したように、第1態様では、本発明は自己免疫疾患の予防及び/又は治療における使用のためのアジュバントに関し、ここで該アジュバントはアルミニウムを含まず、ヒト被験体における使用に適している。
【0013】
典型的には、本発明の又は本発明の方法の使用の目的は、自己免疫疾患を予防することであり、該疾患の発症を遅らせること、及び/又はそのような疾患を治療すること、すなわち、例えば自己免疫疾患の原因を低減すること及び/又はその症状を低減することによって、そのような疾患の重篤度を低減することを含む。一実施形態では、本明細書における実施例に従って決定する場合に50%超、例えば75%超の症状低減が達成される。
【0014】
本発明における使用のためのアジュバント
いくつかの実施形態では、アジュバントは免疫学的に活性なサポニン、例えばQS21を含む。サポニンを含むアジュバントは当技術分野で記述されている。サポニンは例えばLacaille-Dubois and Wagner(1996)(A review of the biological and pharmacological activities of saponins. Phytomedicine Vol. 2: 363)の中で説明されている。サポニンはワクチン中のアジュバントとして公知である。例えば、Quil A(南アメリカの木キラヤ・サポナリア・モリナ(Quillaja Saponaria Molina)の樹皮に由来する)はDalsgaard et al.(1974)によって、「Saponin adjuvants」(Archiv. fur die gesamte Virusforschung, Vol. 44, Springer Verlag, Berlin, 243)の中でアジュバント活性を有することが説明された。Quil Aに付随する毒性を有さずにアジュバント活性を保持するQuil Aの精製画分がHPLCによって単離されている(Kensil et al. (1991) J. Immunol. 146: 431)。Quil A画分はまたUS 5,057,540及び「Saponins as vaccine adjuvants」(Kensil, C. R., Crit. Rev. Ther. Drug Carrier Syst., 1996, 12 (1-2): 1-55)の中に記載されている。
【0015】
本発明における使用に適した2つのそのような画分はQS7とQS21(QA-7とQA-21としても公知である)である。QS21は本発明における使用のために好ましい免疫学的に活性なサポニン画分である。QS21は「Vaccine Adjuvants: preparation methods and research protocols」(Humana Press, Totowa, New Jersey, Edited by Derek T. O’Hagan, Chapter 15: “QS21 Adjuvant”)に概説されている。QS21及びQS7等のQuil Aの画分を含む微粒子アジュバントシステムは、例えばWO96/33739、WO96/11711及びWO07/068907に記載されている。
【0016】
サポニン成分に加えて、アジュバントは好ましくはステロールを含む。ステロールの存在は、サポニンを含む組成物の反応源性をさらに減少させ得る(例えばEP0822831を参照されたい)。好適なステロールは、ベータ-シトステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、エルゴカルシフェロール及びコレステロールを含む。コレステロールが特に好適である。好適には、免疫学的に活性なサポニン画分はQS21であり、QS21:ステロールの比率は1:100~1:1 w/wであり、例えば1:10~1:1 w/w、例えば1:5~1:1 w/wである。
【0017】
いくつかの実施形態では、本発明に使用されるアジュバントは、TLR(Toll様受容体)アゴニスト、例えばTLR4アゴニスト、例えば3D-MPLを含む。アジュバントにおけるTLRアゴニストの使用は技術分野において周知であり、例えばLahiri et al.(2008, Vaccine 26: 6777)によって概説されている。アジュバント効果を達成するために刺激することができるTLRは、TLR2、TLR4、TLR5、TLR7、TLR8及びTLR9を含む。TLR2、TLR4、TLR7及びTLR8アゴニスト、特にTLR4アゴニストが好ましい。
【0018】
好適なTLR4アゴニストはリポ多糖、例えばモノホスホリルリピドA(MPL)及び3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)を含む。US4,436,727はMPL及びその製造を開示する。US4,912,094及び再審査証明書B1 4,912,094は3D-MPL及びその製造のための方法を開示する。別のTLR4アゴニストはグルコピラノシル脂質アジュバント(GLA)、合成脂質A様分子である(例えばFox et al. (2012) Clin. Vaccine Immunol. 19: 1633を参照されたい)。さらなる実施形態では、TLR4アゴニストは、MPL及び3D-MPLに構造が類似した、合成TLR4アゴニスト、例えば合成二糖分子であってもよく、又は例えばWO98/50399、WO01/34617、WO02/12258、WO03/065806、WO04/062599、WO06/016997、WO06/12425、WO03/066065及びWO01/90129に開示されるアミノアルキルグルコサミニドリン酸(AGP)化合物等の合成単糖分子であってもよい。そのような分子はまた科学および特許文献中で脂質Aミメティックとして記載されている。脂質Aミメティックはいくつかの機能的及び/又は構造的活性を脂質Aと共有し、一面ではTLR4受容体によって認識される。本明細書中に記載されるAGPはときどき当技術分野において脂質Aミメティックとして参照される。好ましい実施形態では、TLR4アゴニストは3D-MPLである。3-O-脱アシル化モノホスホリルリピドA(3D-MPL)等のTLR4アゴニスト、及びワクチンにおけるアジュバントとしてのその使用は、例えば、WO96/33739及びWO07/068907において記載され、Alving et al.(2012, Curr. Opin. in Immunol. 24: 310)において概説されている。
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、アジュバントは、免疫学的に活性なサポニン及びTLR4アゴニストの両方、例えばQS21及び3D-MPLを含む。
【0020】
さらに好ましい実施形態では、アジュバントは、リポソーム製剤の中に免疫学的に活性なサポニン及びTLR4アゴニスト、例えばQS21及び3D-MPLを含む。
【0021】
「リポソーム」という用語は、本明細書において使用するとき、水溶性の内部を包む単層又は多層脂質構造を指す。リポソーム及びリポソーム製剤は当技術分野において周知である。リポソームとしての提示は例えばWO96/33739及びWO07/068907において記載されている。リポソームを形成することが可能な脂質は、脂肪性の又は脂肪様の性質を有するすべての物質を含む。
【0022】
リポソームのサイズは、リン脂質組成、及びその調製のために使用される方法によって30nmから数μmまで変わり得る。本発明の特定の実施形態では、リポソームのサイズは50nm~500nmの範囲であり、さらなる実施形態では、50nm~200nmの範囲である。動的レーザー光散乱は、当業者に周知の、リポソームのサイズを測定するために使用される方法である。
【0023】
特定の好適な実施形態では、本発明に使用されるリポソームはDOPC及びステロール、特にコレステロールを含む。したがって特定の実施形態では、本発明のアジュバントは、リポソームの形態において本明細書中に記載される任意の量のQS21を含み、ここで前記リポソームはDOPC及びステロール、特にコレステロールを含む。
【0024】
一実施形態では、アジュバントは、用量当たり5~100μg、例えば10~75μg、例えば25又は50μgのQS21、及び用量当たり5~100μg、例えば10~75μg、例えば25又は50μgの3D-MPLを含む。
【0025】
非経口投与では、溶液は、細胞の変形又は溶解を避けるために生理学的に等張(すなわち、薬学的に許容可能な浸透圧を有する)であるべきである。「等張剤」は、生理学的に許容され、製剤(例えば、本発明の免疫原性組成物)に好適な浸透圧を与え、本製剤と接触している細胞膜を越える正味の水の流れを防ぐ化合物である。100mM以上の塩化ナトリウムを含有する水溶性アジュバント組成物、例えばWO05/112991及びWO08/142133のアジュバントシステムA(AS)、又はWO07/068907に開示されるリポソームアジュバントが公知である。
【0026】
いくつかの実施形態では、組成物に使用される等張剤は塩である。しかし、他の実施形態では、組成物は非イオン性等張剤を含み、組成物中の塩化ナトリウムの濃度又はイオン強度は、100mM未満、例えば80mM未満、例えば30mM未満、例えば10mM未満、又は5mM未満である。好ましい実施形態では、非イオン性等張剤はポリオール、例えばソルビトールである。ソルビトールの濃度は例えば約3%~約15%(w/v)、例えば約4%~約10%(w/v)であってもよい。免疫学的に活性なサポニン画分、及びTLR4アゴニストを含み、等張剤が塩又はポリオールであるアジュバントは、WO10/142685に記載されており、例えばWO10/142685の中の実施例1及び2を参照されたい。
【0027】
一実施形態では、本発明に使用されるアジュバントは、水中油型エマルジョンを含む。好適には、前記エマルジョンは、全体積の0.5%~20%の量で代謝可能な油を含む。代謝可能な油という用語の意味は当技術分野において周知である。代謝可能とは「代謝によって変換されることが可能である」として定義することができる(Dorland's Illustrated Medical Dictionary, W.B. Sanders Company, 25th edition (1974))。油は、レシピエントに毒性がなく、代謝によって変換されることが可能である任意の植物油、魚油、動物油又は合成油であってもよい。木の実、種子及び穀類は植物油の一般的な原料である。合成油はまた本発明の一部であり、NEOBEE(登録商標)及び他のもの等、市販の油を含んでもよい。特に好適な代謝可能な油はスクアレンである。スクアレン(2,6,10,15,19,23-ヘキサメチル-2,6,10,14,18,22-テトラコサヘキサエン)は、サメの肝油において大量に、並びにオリーブ油、小麦胚種油、ぬか油及び酵母においてより少ない量で見出される不飽和油であり、本発明における使用のために特に好適な油である。スクアレンは、コレステロールの生合成における中間体であるという事実により代謝可能な油である(Merck index, 10th Edition、エントリー番号8619)。
【0028】
水中油型エマルジョンその自体は当技術分野において周知であり、アジュバント組成物として有用であることが示唆されている(EP399843;WO95/17210)。好適には、代謝可能な油は、免疫原性組成物の全体積の0.5%~20%(終濃度)の量、好適には全体積の1.0%~10%の量で、好適には全体積の2.0%~6.0%の量で存在する。
【0029】
特定の実施形態では、代謝可能な油は、最終的な量が免疫原性組成物の全体積の約0.5%、1%、3.5%又は5%で存在する。別の特定の実施形態では、代謝可能な油は最終的な量が免疫原性組成物の全体積の0.5%、1%、3.57%又は5%で存在する。スクアレンの好適な量は用量当たり約10.7mg、好適には用量当たり10.4~11.0mgである。
【0030】
好適には、本発明において使用される水中油型エマルジョンシステムは、1ミクロン未満の範囲の小型油滴サイズを有する。好適には、液滴サイズは直径が120~750nmの範囲であり、好適には120~600nmのサイズである。一般的に水中油型エマルジョンは、強度による少なくとも70%で直径が500nm未満、特に強度による少なくとも80%で直径が300nm未満、好適には強度による少なくとも90%で直径が120~200nmの範囲にある。
【0031】
本発明による水中油型エマルジョンは、ステロール又はトコフェロール、例えばアルファ-トコフェロールを含んでもよい。ステロールは当技術分野において周知であり、例えばコレステロールは周知であり、例えばMerck Index、11th Edition、341ページにおいて、動物脂肪において見出される、天然に発生するステロールとして開示されている。他の好適なステロールは、ベータ-シトステロール、スチグマステロール、エルゴステロール及びエルゴカルシフェロールを含む。好適には、アルファ-トコフェロール又はその誘導体、例えばアルファ-トコフェロールコハク酸が存在する。好ましくはアルファ-トコフェロールは、免疫原性組成物の全体積の0.2%~5.0%(v/v)の量で、好適には0.5ml投与体積における2.5%(v/v)、又は0.5ml投与体積における0.5%(v/v)若しくは1.7~1.9%(v/v)、好適には0.7ml投与体積における1.8%の量で存在する。明確化すれば、v/vで与えられる濃度は以下の変換係数を適用することによってw/vの濃度に変換することができる:5%(v/v)アルファ-トコフェロール濃度は、4.8%(w/v)アルファ-トコフェロール濃度に等価である。アルファ-トコフェロールの好適な量は、用量当たり約11.9mg、好適には用量当たり11.6~12.2mgである。
【0032】
水中油型エマルジョンは、乳化剤を含んでもよい。乳化剤は、免疫原性組成物の重量にして0.01~5.0%の量(w/w)で存在してもよく、好適には重量にして0.1%~2.0%の量(w/w)で存在してもよい。好適な濃度は、組成物全体の重量にして0.5~1.5%(w/w)である。乳化剤は好適には、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(ポリソルベート80又はTween 80)であってもよい。特定の実施形態では、0.5ml投与体積は1%(w/w)Tween 80を含有し、0.7ml投与体積は0.7%(w/w)Tween 80を含有する。別の特定の実施形態では、Tween 80の濃度は0.2%(w/w)である。ポリソルベート80の好適な量は用量当たり約4.9mgであり、好適には用量当たり4.6~5.2mgである。
【0033】
Span 85(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート)もまた、例えば1%のレベルで存在してもよい。本発明における使用のためのSpan85を含む水中油型エマルジョンアジュバントの例は、EP0399843Bにおいて与えられ詳述されており、MF59としても公知である。
【0034】
好ましい実施形態では、アジュバントはスクアレン、アルファ-トコフェロール及び界面活性剤を含む水中油型エマルジョンであり、すなわち該エマルジョンはスクアレン、アルファ-トコフェロール及び界面活性剤、例えばポリソルベート80を水相に含む。そのようなアジュバントの調製は、例えばWO95/17210及びWO06/100109において記載されている。一実施形態では、エマルジョンは2~10%(v/v)スクアレン、2~10%(v/v)アルファ-トコフェロール及び0.3~3%(v/v)Tween 80を含む。好ましくは、エマルジョンは、2.5%スクアレン(v/v)、2.5%アルファ-トコフェロール(v/v)、0.9%ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(v/v)(Tween 80)を含む。
【0035】
予防及び/又は治療される自己免疫疾患
上で説明した通り、本発明は自己免疫疾患の予防及び/又は治療のためのアジュバントの使用に関する。以下の疾患が自己免疫疾患として分類されている:急性散在性脳脊髄炎、アジソン病、無ガンマグロブリン血症、円形脱毛症、アミロイドーシス、強直性脊椎炎、抗GBM/抗TBM腎炎、抗リン脂質症候群(APS)、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患(AIED)、軸索及び神経性ニューロパチー(AMAN)、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、キャッスルマン病(CD)、セリアック病、シャーガス病、慢性炎症性脱髄性多発神経炎(CIDP)、慢性再発性多発性骨髄炎(CRMO)、チャーグ・ストラウス症候群、瘢痕性類天疱瘡/良性粘膜類天疱瘡、コガン症候群、寒冷凝集素症、先天性心ブロック、コクサッキー心筋炎、CREST症候群、クローン病、疱疹状皮膚炎、皮膚筋炎、デビック病(視神経脊髄炎)、円板状ループス、ドレスラー症候群、子宮内膜症、好酸球性食道炎(EoE)、好酸球性筋膜炎、結節性紅斑、本態性混合性クリオグロブリン血症、エバンス症候群、線維筋痛症、線維性肺胞炎、巨細胞性動脈炎(側頭動脈炎)、巨細胞性心筋炎、糸球体腎炎、グッドパスチャー症候群、多発血管炎性肉芽腫症、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、橋本甲状腺炎、溶血性貧血、ヘノッホ・シェーンライン紫斑病(HSP)、妊娠性疱疹又は妊娠性類天疱瘡(PG)、低ガンマグロブリン血症、IgA腎症、IgG4関連硬化症、封入体筋炎(IBM)、間質性膀胱炎(IC)、若年性関節炎、若年性筋炎(JM)、川崎病、ランバート・イートン症候群、白血球破砕性血管炎、扁平苔癬、硬化性苔癬、木質性結膜炎、線状IgA病(LAD)、ループス、慢性ライム病、メニエール病、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、混合性結合組織病(MCTD)、モーレン潰瘍、ムッハ・ハーベルマン病、多発性硬化症(MS)、重症筋無力症、筋炎、ナルコレプシー、視神経脊髄炎、好中球減少症、眼部瘢痕性類天疱瘡、視神経炎、回帰性リウマチ(PR)、PANDAS(レンサ球菌感染性小児自己免疫神経精神障害)、傍腫瘍性小脳変性症(PCD)、発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)、パリー・ロムバーグ症候群、毛様体扁平部炎(末梢ブドウ膜炎)、パーソンネージ・ターナー症候群、天疱瘡、末梢性ニューロパチー、静脈周囲脳脊髄炎、悪性貧血(PA)、POEMS症候群(多発ニューロパチー、臓器肥大、内分泌疾患、単クローン性免疫グロブリン血症、皮膚病変)、結節性多発動脈炎、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎、心筋梗塞後症候群、心膜切開後症候群、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、プロゲステロン皮膚炎、乾癬、乾癬性関節炎、赤芽球癆(PRCA)、壊疽性膿皮症、レイノー現象、反応性関節炎、反射性交感神経性ジストロフィー、ライター症候群、再発性多発軟骨炎、下肢静止不能症候群(RLS)、後腹膜線維症、リウマチ熱、関節リウマチ(RA)、サルコイドーシス、シュミット症候群、強膜炎、強皮症、シェーグレン症候群、精子及び精巣の自己免疫、全身硬直症候群(SPS)、亜急性細菌性心内膜炎(SBE)、スザック症候群、交感性眼炎(SO)、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、血小板減少性紫斑病(TTP)、トロサ・ハント症候群(THS)、横断性脊髄炎、1型糖尿病、潰瘍性大腸炎(UC)、未分化結合組織病(UCTD)、ぶどう膜炎、血管炎、白斑及びウェゲナー肉芽腫症(現在は多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と呼ばれる)。
【0036】
本発明に従って予防及び/又は治療される好ましい疾患は、以下を含む。
【0037】
関節リウマチ
関節リウマチを患う人々では、免疫系は主に、様々な関節を覆う裏打ち(滑膜)を標的とする。滑膜の炎症は通常対称的(身体の両側で等しく起きる)であり、関節の痛み、腫れ及び硬直を引き起こす。これらの特徴により、より一般的であり変性性の「摩滅型」関節炎である変形性関節症から関節リウマチが区別される。現在利用可能な治療法は、抗炎症性又は免疫抑制性薬物によって関節の炎症を低減することに焦点を当てる。ときどき、免疫系はまた肺、血管、又は眼を標的とし得て、たまにシェーグレン炎症、そう痒及びスケーリング等の他の自己免疫疾患の症状を発症し得る。
【0038】
多発性硬化症
多発性硬化症は、免疫系が中枢神経系の神経組織を標的とする疾患である。最も一般的には、中枢神経系への損傷は間欠的に起こり、人はほとんど正常な生活を送ることができる。その一方で、症状は定常的になり、結果的に失明、麻痺及び早死の可能性を伴う進行性の疾患となり得る。ベータインターフェロン等のいくつかの薬物は間欠型の多発性硬化症を患う人々の助けになる。若年成人では、多発性硬化症は神経系を不能にする最も一般的な疾患である。
【0039】
免疫介在性又は1型糖尿病
1型糖尿病は、膵臓のインスリン産生細胞の自己免疫破壊によって生じる。インスリンは、血糖(グルコース)値を制御下に置くために体が必要とする。高レベルのグルコースが、疾患の症状と合併症の原因である。しかし、インスリン産生細胞のほとんどが、患者が糖尿病症状を発症する前に破壊される。症状は、疲労、頻尿、喉の渇きの増大、突然の意識混濁の可能性を含む。1型糖尿病は通常30歳より前に診断され、生後1ヶ月という早期においても診断され得る。2型糖尿病(自己免疫疾患とは考えられていない)と共に、糖尿病は、腎臓損傷、視力の喪失及び下肢切断の主要原因である。血糖値の厳重な管理により、これらの事象の発生率が減少する。
【0040】
炎症性腸疾患
この医学用語は、クローン病と潰瘍性大腸炎の両方に使用され、この2つの疾患では免疫系が腸(腸管)を攻撃する。患者は制御が困難であり得る下痢、吐き気、嘔吐、腹痛及び痛みを有し得る。苦しむ個人における病気は腸炎、及びこの疾患に使用される薬剤の副作用の結果として生じ得る。例えば、高用量コルチコステロイド(プレドニゾン)療法を毎日使用していると(これはクローン病の深刻な症状を制御するために必要である)、患者は感染症、骨が薄くなること(骨粗しょう症)及び骨折を生じやすくなり得る。
【0041】
全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデスを患う患者は、最も一般的には深刻な疲労、発疹及び関節痛を経験する。深刻な場合では、免疫系が腎臓、脳又は肺等のいくつかの器官を攻撃し損傷し得る。多くの個人では、疾患による症状及び損傷は利用可能な抗炎症性薬物で制御することができる。
【0042】
乾癬
乾癬は皮膚、折に触れて眼、爪及び関節に発症する免疫系障害である。乾癬は、プラークと呼ばれる赤い鱗屑の発達によって、皮膚の非常に小さな領域に影響するか、又は全身を覆い得る。プラークは異なるサイズ、形及び重症度であり、痛みを伴う上に人目を惹かないという場合がある。皮膚への細菌感染及び圧力又は外傷は、乾癬を悪化させ得る。ほとんどの治療が炎症、痒み及びスケーリングを軽減するための局所スキンケアに焦点を当てる。
【0043】
強皮症
この自己免疫疾患は皮膚及び血管の肥厚を生じる。強皮症を患うほとんどすべての患者がレイノー病(手指及び足指の血管の攣縮である)を有する。レイノー病の症状は、手指及び足指の寒さに対する感度の増大、皮膚色の変化、痛み、及び折に触れて指先又は足指の潰瘍を含む。強皮症を患う人々では、皮膚及び血管の肥厚によって、運動失調及び息切れ、又はより稀には腎臓、心臓若しくは肺不全を生じ得る。
【0044】
自己免疫甲状腺疾患
橋本甲状腺炎及びグレーブス病は、免疫系の破壊又は甲状腺組織の刺激によって生じる。低い(低-)又は過活動性(高-)甲状腺機能の症状は非特異的であり、ゆっくりと又は突然発症し得て、これらは疲労、神経過敏、寒冷又は熱非耐性、脱力感、毛髪の手触り又は量の変化、及び体重の増減を含む。甲状腺疾患の診断は、適切な臨床検査により容易になされる。甲状腺機能低下症の症状は、甲状腺ホルモン補充剤によって管理されるが、ホルモンの補充過剰、又は補充不足による合併症が起こり得る。甲状腺機能亢進症の治療は、長期間の抗甲状腺薬治療、又は放射性ヨウ素若しくは手術による甲状腺の破壊を必要とする。これらの治療アプローチの両方が一定のリスクと長期間の副作用を伴う。
【0045】
好ましい実施形態では、予防及び/又は治療される自己免疫疾患は神経系、例えば中枢神経系に影響を及ぼす疾患である。さらにより好ましい実施形態では、自己免疫疾患は多発性硬化症である。さらなるより好ましい実施形態では、自己免疫疾患は1型糖尿病である。さらに好ましい実施形態では、自己免疫疾患は急性散在性脳脊髄炎である。
【0046】
特に、水中油型エマルジョンを含む、例えばスクアレン、アルファ-トコフェロール及びポリソルベート80を水相に含む、アジュバントは、神経系、例えば中枢神経系に影響を及ぼす疾患、例えば多発性硬化症の予防及び/又は治療のために好ましい。
【0047】
治療選択肢
好ましい実施形態では、本発明の方法、又は本発明の使用はアジュバントの複数回の投与、例えばアジュバントの少なくとも2回、少なくとも3回、少なくとも4回、少なくとも5回、又は少なくとも10回の投与を含む。一実施形態では、各々の投与の間の時間間隔は1日~6ヶ月、例えば間隔は各投与の間が1週間~1ヶ月であってもよい。
【0048】
好ましい実施形態では、被験体(被験者)はヒト被験体である。本発明の方法を使用して治療されるヒト被験体は任意の年齢である。しかし、一実施形態では、ヒト被験体は、治療開始時に18歳超である。さらなる実施形態では、被験体は40歳超、例えば50歳超、例えば60歳超である。被験体は男性であっても女性であってもよい。
【0049】
一実施形態では、アジュバントは、自己免疫疾患を発症しやすいヒト被験体、例えば多発性硬化症を発症しやすい被験体又は1型糖尿病を発症しやすい被験体において自己免疫疾患の予防における使用のためのものである。自己免疫疾患を発症しやすいヒト被験体は、例えば、自己免疫疾患の早期臨床徴候を示す被験体、自己免疫疾患を発症する遺伝的リスクを有する被験体、又は特異的自己抗体を有する被験体であってもよい。
【0050】
多発性硬化症を発症しやすい人は、例えばCIS(臨床的単離症候群)-特に多発性硬化症に一致する病変がMRIで見られる場合に、少なくとも24時間続く中枢神経系における炎症又は脱髄の最初の単一の神経性エピソード-を有する人である。
【0051】
1型糖尿病を発症しやすい人は、例えば自己抗体、例えば自己抗体GADA、IA-2A及び/又はmIAAを有する人である(Sosenko et al. (2013) Diabetes Care 36: 2615)。
【0052】
アジュバントは非経口投与、例えば筋内、皮内又は皮下投与を含む、様々な適切な経路を介して投与されてもよい。好適には、本発明において使用されるアジュバント組成物は、0.05ml~1ml、例えば0.1~0.5mlのヒト用量体積、特に約0.5ml又は0.7mlの用量体積を有する。
【0053】
アジュバントは単剤療法として与えてもよいし、他の物質、例えば、自己免疫疾患に対する治療又は予防効果を有することが公知である他の物質と組み合わせて与えてもよい。
【0054】
本出願におけるすべての参照の教示は、特許出願及び付与された特許を含めて、参照によりすべてが本明細書に組み込まれる。本明細書における「含む」('comprising'、'comprise'及び'comprises')という用語は、場合によって、「からなる」(それぞれ'consisting of'、'consist of'及び'consists of')という用語と置換可能である。
【0055】
以下、本発明の実施形態を示す。
(1)自己免疫疾患の予防及び/又は治療における使用のためのアジュバントであって、アルミニウムを含まず、且つヒト被験体における使用に適している、前記アジュバント。
(2)免疫学的に活性なサポニンを含む、(1)記載のアジュバント。
(3)QS21を含む、(2)記載のアジュバント。
(4)ステロールを含む、(2)又は(3)記載のアジュバント。
(5)TLR4アゴニスト等のTLRアゴニストを含む、(1)~(4)のいずれか1記載のアジュバント。
(6)3D-MPLを含む、(1)~(5)のいずれか1記載のアジュバント。
(7)リポソーム製剤の中にQS21及び3D-MPLを含む、(1)~(6)のいずれか1記載のアジュバント。
(8)水中油型エマルジョンを含む、(1)~(7)のいずれか1記載のアジュバント。
(9)前記エマルジョンがスクアレンを含む、(8)記載のアジュバント。
(10)前記エマルジョンがアルファ-トコフェロール及びポリソルベート80を水相の中にさらに含む、(9)記載のアジュバント。
(11)前記自己免疫疾患が、多発性硬化症、1型糖尿病、関節リウマチ、炎症性腸疾患、全身性エリテマトーデス、乾癬、強皮症及び自己免疫性甲状腺疾患から成る群より選択される疾患である、(1)~(10)のいずれか1記載のアジュバント。
(12)前記自己免疫疾患が中枢神経系等の神経系に影響を及ぼす疾患である、(1)~(11)のいずれか1記載のアジュバント。
(13)前記自己免疫疾患が多発性硬化症である、(1)~(12)のいずれか1記載のアジュバント。
(14)前記自己免疫疾患が急性散在性脳脊髄炎である、(1)~(13)のいずれか1記載のアジュバント。
(15)前記自己免疫疾患が1型糖尿病である、(1)~(11)のいずれか1記載のアジュバント。
(16)ヒト患者における使用のためのものである、(1)~(15)のいずれか1記載のアジュバント。
(17)自己免疫疾患を発症しやすいヒト患者における自己免疫疾患の予防における使用のためのものである、(1)~(16)のいずれか1記載のアジュバント。
(18)被験体へのアジュバントの投与を含む、自己免疫疾患を予防及び/又は治療するための方法であって、該アジュバントがアルミニウムを含まず、且つヒト被験体における使用のために適している、前記方法。
(19)(2)~(17)に記載されるさらなる特徴を1つ以上含む、(18)記載の方法。
(20)自己免疫疾患の予防及び/又は治療のための医薬の製造におけるアジュバントの使用であって、該アジュバントがアルミニウムを含まず、且つヒト被験体における使用に適している、前記使用。
(21)(2)~(17)に記載されるさらなる特徴を1つ以上含む、(20)記載の使用。
本発明は、以下の非限定的な実施例への参照によってさらに説明される。
【実施例
【0056】
〔実施例1-方法〕
マウス
WTマウスはJanvier Labs(フランス)から購入した。ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質に特異的な、2D2 T細胞受容体トランスジェニックマウスは、Jackson Laboratoryから購入した。Foxp3-IRES-GFPノックイン(Foxp3GFP)マウスはBernard Milissenによって親切に提供された。2D2及びFoxp3GFPマウスはCD90.1コンジェニック動物に戻し交雑した。すべてのマウスはC57Bl/6背景であった。マウスは特定病原体未感染条件下で飼育し、7~14週齢で研究した。すべての実験プロトコルはローカルな倫理委員会によって承認されたし、ヨーロッパ連合の指針に従っている。
【0057】
試薬
AS01はMPL(1mg/ml)、QS-21(1mg/ml)及びリポソームから構成される。AS03はアルファ-トコフェロール(23,72mg/ml)、スクアレンオイル(21.38mg/ml)及びポリソルベート80(9,72mg/ml)から構成される。AS04はMPL(0.1mg/ml)及びミョウバン(1mg/ml)から構成される。フロイントアジュバントはSigma-Aldrichから購入した。インコンプリートフォーム(IFA)は85%のパラフィンオイル及び15%のマンニドモノオレエートを含有する。コンプリートフォーム(CFA)は熱殺菌して乾燥した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)(H37Ra)を1mlg/mlの濃度で加える。
【0058】
アジュバントの投与
マウスは左後足蹠における皮下経路によって30μlのワクチンアジュバント又はPBSを与えられた。その効果を解析するために、左側膝窩流入領域リンパ節(dLN)及び非流入右側上腕リンパ節を異なる時点で回収した。EAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)を誘導するために免疫したマウスでは、マウスは、EAE(実験的自己免疫性脳脊髄炎)誘導の3日前及び当日に、尾の基部及び上背部で皮下経路によって100μlのワクチンアジュバント又はPBSを与えられた。
【0059】
フローサイトメトリー解析
リンパ節に由来する細胞は、機械的に分離してPBS 3% SVF中に再懸濁した。それらは最初に2.4G2抗体で処理してFc受容体をブロックし、以下の抗体で染色した:抗CD45(30-F11)、抗CD3(145-2C11)、抗CD4(RM4-5)、抗CD8(53-6.7)、抗CD25(PC61)、抗Foxp3(MF23)、抗CTLA-4(UC10-4F10-11)、抗GITR(DTA-1)、抗ICOS(17G9)、抗Ki-67(B56)。すべての抗体はBD Biosciencesから取得した。細胞内染色はeBioscienceに由来するIntracellular Fixation & Permeabilization Buffer Setを使用して行った。細胞はBD LSRIIサイトメーターで取得して、FlowJoソフトウェアを使用して解析した。
【0060】
Treg末梢誘導試験
Foxp3GFP CD90.1マウスのリンパ節(上腕、腋窩、頚部、及び鼠径部)及び脾臓細胞を単離し、上述の通り処理し、抗CD4抗体で染色した。CD4+GFP-細胞(Tconv)をBD FACSAria IIを使用して精製し、次にWTマウスに静脈内注射(106細胞/マウス)した。翌日、マウスは左後足蹠における皮下経路によって30μlのワクチンアジュバント又はPBSを与えられた。3日後、dLNを回収し、細胞を抗CD4、抗CD90.1(OX-7)、抗CD90.2(30-H12)及び抗Foxp3抗体で染色した。CD90.1移入細胞におけるFoxp3誘導をフローサイトメトリーによって評価した。
【0061】
インビトロTreg抑制アッセイ
Foxp3GFPマウスに尾の基部及び上背部で皮下経路によって100μlのワクチンアジュバント又はPBSが与えられた。上腕及び鼠径部のリンパ節を3日目又は7日目に回収した。細胞は上述の通り回収し染色した。CD4+GFP-細胞(Tconv)及びCD4+GFP+細胞(Treg)は次にBD FACSAria IIを使用して選別された。Tconv細胞はCellTrace Violet Proliferation Kit(Life technologies)で標識され、96ウェルプレートに2.5×104細胞/ウェルで、CD3-/-マウス由来の脾臓細胞と共に7.5×104細胞/ウェルで蒔かれた。培養培地にBioXCell由来の抗CD3(KT3)を0.05μg/mlで添加した。Treg細胞をその後1:1~1:16の異なる比率で加えた。3日目、CellTrace希釈物をフローサイトメトリーで評価した。
【0062】
EAE誘導
50μgの熱殺菌した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)H37Ra(BD Biosciences)を添加した100μlのCFA(Sigma-Aldrich)中に乳化した100μgのMOG35-55ペプチド(PolyPeptide)を皮下注射してマウスを免疫した。免疫と同時及びその2日後に200ngの百日咳菌(Bordetella pertussis)毒素(Enzo)を追加で動物に静脈注射した。臨床評価は毎日5点スケール(0、臨床的兆候なし;1、尾部引きずり;2、尾部引きずり、正向反射障害、一肢運動麻痺;3、後ろ足麻痺;4、後ろ足及び前足麻痺;5、瀕死)により実施した。
【0063】
サイトカイン測定
EAE誘導の10日後、上腕及び鼠径部のdLNを回収した。細胞を96ウェルプレート中2×105細胞/ウェルで1μg/mlのMOG35-55ペプチドと共に培養した。3日目に、上清を回収してELISA(eBioscience)によってINF-γ及びIL-17分泌を測定した。
【0064】
T細胞プライミングの評価
2D2 CD90.1マウス由来のリンパ節及び脾臓細胞を以下のビオチン標識抗体:抗CD19(6D5)、抗CD11b(M1/70)、抗CD11c(N418)、抗CD8(53-6.7)及び抗CD25(7D4)で染色し、次に抗ビオチンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)でコーティングした。磁気選別後、CD4+濃縮陰性画分の細胞をCellTrace Proliferation Kitで標識し、未処理マウスに静脈注射した(106細胞/マウス)。翌日、マウスをEAE誘導と同様にMOG35-55ペプチドで免疫した。CD4+CD90.1+Vβ11+(T細胞受容体トランスジーン)細胞のCellTrace希釈物を3日目に上腕及び鼠径部リンパ節からのフローサイトメトリーによって評価した。アジュバントを与えられたマウスでは、尾の基部及び上背部で皮下経路によって100μlのワクチンアジュバント又はPBSをマウスに注射した。
【0065】
Treg細胞養子移入
Foxp3GFP CD90.1マウスは、尾の基部及び上背部で皮下経路によって100μlのワクチンアジュバント又はPBSを与えられた。3日目に上腕及び鼠径部リンパ節を回収し、細胞を抗CD4抗体で染色した。CD4+GFP+細胞(Treg)を次にBD FACSAria IIを使用して精製し、WTマウスに静脈注射した(1×106細胞/マウス)。翌日、前にEAE誘導で述べたようにMOG35-55ペプチドでマウスを免疫した。
【0066】
統計学的解析
統計学的解析はGraphPad Prismソフトウェアを使用して行った。統計学的有意性は両側ノンパラメトリックMann-Whitney U検定を使用して決定した。*P<0.05、**p<0.01、***p<0.001。平均±SEMを図全体を通して使用した。
【0067】
〔実施例2-ワクチンアジュバントはTreg細胞の一時的優先的増殖を誘導する〕
CFA、インコンプリートフロイントアジュバント(IFA)、AS01、AS03及びAS04をマウスに皮下投与した。4日後、流入領域リンパ節(dLN)の大規模な炎症と膨張が観察された(図1a)。これらのdLNの細胞充実性は11~20倍増えた(図2a)。対照的に、ミョウバンの注射はdLNのサイズと細胞数に何の影響も与えなかった。
【0068】
Treg細胞を次にフローサイトメトリーで解析した(図1b)。ミョウバン以外では、本発明者らは、異なるアジュバントの注射後にCD4+細胞の中でTreg細胞の割合の急激な増加(4日目)を観察し、これはPBS注射マウスに比べて1.9倍までの増加であった(図1c)。CD44、ICOS及びKi-67の発現増加に示されるように、このTreg細胞増殖は活性化表現型に付随していた(図2b)。これらのTreg細胞増殖と活性化は、IFA以外では7日目にもはや存在しなかったため、一時的だった(図1c)。アジュバント注射によって駆動されるTreg細胞増殖は胸腺Treg(tTreg)の蓄積によるものであり、末梢Tregの誘導増大によるものではなかった。実際、Foxp3発現は、養子移入したCD4+Foxp3-細胞ではアジュバントによって誘導されなかった(図1d)。これらのデータによって、新世代アジュバントによるtTreg細胞のインビボ活性化が明らかになった。
【0069】
本発明者らは次に古典的インビトロ抑制アッセイによってTreg細胞活性に対するワクチンアジュバント投与の効果を評価した。ミョウバン、フロイントアジュバント、AS03及びAS04はTreg細胞機能に何の影響もなかったが(図2c)、一方、AS01はその抑制活性とFoxp3発現を部分的に減少させた(図1e及び1f及び2d)。この効果は、4日目に観察されたが、7日目にはそれ以上観察されなかった(図2e)。したがって、新世代アジュバントの投与は、Treg細胞の抑制機能を損なわないか、又は僅かに損なうだけだった。
【0070】
〔実施例3-AS01及びAS03アジュバントの投与によるEAE予防〕
生理病理学の文脈で耐性誘導に対するワクチンアジュバントの効果を評価するために、本発明者らはEAE自己免疫モデルにおいてアジュバント処理を試験した。驚くことに、免疫の3日前又はそれと同時の、AS01又はAS03の2回の注射は、疾患発症のほぼ完全な予防を誘導した。平均臨床スコアは、対照における1.17に比べて0.14~0.17未満であった。対照的にAS04とミョウバンはEAEに対して何の影響も与えなかった(図3a)。免疫の3日前又はそれと同時に行ったAS01又はAS03の1回限りの注射の後、それぞれ、EAEは有意に遅延又は減少した(図4a及び4b)。したがって、AS01及びAS03はEAEに対して強力な予防効果を有する。
【0071】
本発明者らは次に自己反応性Tconv細胞のプライミングとサイトカイン分極化を検証した。MOG35-55ペプチド(Bettelli et al. (2003) J.Exp.Med.197:1073)に特異的なトランスジェニックI-Ab-制限T細胞受容体を発現する2D2トランスジェニックマウスの養子移入後、EAE誘導の前に、T細胞増殖を評価した。AS01投与は、dLNにおいて3日目にMOG35-55特異的T細胞の増殖をわずかに減少させたが、一方でAS03は何の効果もなかった(図3b)。MOG35-55免疫ペプチドに特異的な自己反応性Tconv細胞によるEAE誘導後の10日目にdLNにおいて、EAEにおける2つの主要病原性サイトカインであるIFNγ及びIL-17の放出を測定することによって、T細胞分極化を評価した。AS01投与はIFNγ産生の減少に付随したが、一方でIFNγ及びIL-17はAS03投与によって影響されなかった(図3c)。したがって、AS01及びAS03投与の両方がEAE発症を予防したが、AS01だけがMOG35-55反応性T細胞のプライミングと分極化を妨害した。
【0072】
本発明者らは次に、アジュバント駆動性EAE予防におけるTreg細胞の役割をさらに解析するために養子移入実験を行った。アジュバント処理したマウスのdLNから精製したTreg細胞をEAE誘導前の未処理マウスに注射した。驚くことに、AS03処理マウスに由来するTreg細胞を与えられたマウスは当該疾患から完全に保護された。対照的に、AS01処理マウスに由来するTreg細胞を移入したレシピエントマウスは、PBS又は未処理マウスに由来するTregを移入した対照マウスと同じEAEを発症したため(図3d)、AS01処理マウスに由来するTreg細胞は何の効果も有しなかった。これらのデータは、AS03投与がEAEを制御するためにTreg細胞の能力を強く増大したことを明らかにする。
【0073】
AS03によるEAE予防の機構についてさらに理解を得るために、本発明者らはT細胞移動に関わるTreg細胞と分子をさらに研究した。EAEを誘導するために免疫し、AS03で処理したマウスのdLNに由来する細胞を10日目に解析した。対照に比べてAS03処理したマウスではTreg細胞の割合が有意に増加した。EAEの間に病原性T細胞の中枢神経系(CNS)への侵入において決定的な役割を果たす(Reboldi et al. (2009) Nat. Immunol. 10: 514; Sporici and Issekutz (2010) Eur. J. Immunol. 40: 2751)Tconv細胞によるCCR6及びCXCR3ケモカイン受容体の発現は、AS03処理によって影響されなかった(図4c)。興味深いことに、CNSホーミングに関わるインテグリンの発現レベル(Yednock et al. (1992) Nature 356: 63; Rothhammer et al. (2011) J. Exp. Med. 208: 2465)は、アジュバントによって有意に変化した。Treg細胞はより高いレベルのインテグリンαLを発現したが、一方でTconv細胞はより低いレベルのインテグリンαMを示した(図3f)。その上、Tconv細胞によるインテグリンα4及びαLの発現レベルは影響されなかった(図4d)。これらの結果は、AS03投与はCNSにおけるTreg及びTconv細胞の移動に影響を与えることを示唆し、これはEAEを抑制するその能力を説明するかもしれない。
【0074】
結論
この仕事は、新世代ワクチンアジュバントのいくつかが強力な免疫制御特性を有し、Treg細胞活性化と機能に影響を与えることを示し、したがって自己免疫障害の治療におけるその可能性を明らかにした。AS01及びAS03投与の両方が、EAEからの保護を誘導した。興味深いことに、それらの抑制機構は相違するようである。AS01は脳炎惹起性Tconv細胞のプライミングとサイトカイン分極化を変化させたが、その一方でAS03はEAEにおけるTreg細胞の保護能力を強力に増大したし、Tconv及びTreg細胞の移動を変化させるかもしれない。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】