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特許7060522ボツリヌス神経毒素の精製及び活性化のための方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ボツリヌス神経毒素の精製及び活性化のための方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20220419BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20220419BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20220419BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220419BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220419BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220419BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220419BHJP
   C07K 14/33 20060101ALI20220419BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20220419BHJP
   C07K 17/00 20060101ALI20220419BHJP
   C07K 17/10 20060101ALI20220419BHJP
   C12N 15/63 20060101ALN20220419BHJP
   C07K 5/037 20060101ALN20220419BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220419BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C07K19/00
C12N15/31
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/33
C12P1/00 A
C07K17/00
C07K17/10
C12N15/63 Z
C07K5/037
C07K7/06
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2018560214
(86)(22)【出願日】2017-05-16
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-07-04
(86)【国際出願番号】 US2017032985
(87)【国際公開番号】W WO2017201105
(87)【国際公開日】2017-11-23
【審査請求日】2020-05-15
(31)【優先権主張番号】62/336,958
(32)【優先日】2016-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507244910
【氏名又は名称】プレジデント・アンド・フェロウズ・オブ・ハーバード・カレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【弁理士】
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】ドン ミン
(72)【発明者】
【氏名】バークホー スリマン
(72)【発明者】
【氏名】タオ リアン
【審査官】小田 浩代
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-249840(JP,A)
【文献】Sagane, Y. et al.,Small-angle X-ray scattering reveals structural dynamics of the botulinum neurotoxin associating protein, nontoxic nonhemagglutinin,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2012年,Vol. 425(2),pp. 256-260
【文献】Lee, K. et al.,Molecular basis for disruption of E-cadherin adhesion by botulinum neurotoxin A complex,Science,2014年,Vol. 344(6190),pp. 1405-1410
【文献】Miyata, K. et al.,Expression and stability of the nontoxic component of the botulinum toxin complex,Biochem. Biophys. Res. Commun.,2009年,Vol. 384(1),pp. 126-130
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)タンパク質またはBoNTの受容体結合ドメインを含むポリペプチドを溶液から単離及び精製するのに使用するための、
異種親和性部分に共有結合した、非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)ポリペプチド
を含む分子を含む、組成物であって、
前記分子が、前記親和性部分を介して結合標的にさらに結合され、かつ前記NTNHAポリペプチドが、適合性のボツリヌス神経毒素(BoNT)またはその受容体結合ドメインを含むポリペプチドと複合体を形成し、かつ前記親和性部分が、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)から成る群から選択される、前記組成物
【請求項2】
前記複合体が、pH6での溶液中ではそのままであり、かつpH8での溶液中では崩壊する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記適合性のBoNTまたはBoNTの受容体結合ドメインを含むポリペプチドが、NTNHAポリペプチドとの複合体の状態を維持しながら、プロテアーゼへの曝露によって活性化することができる、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記NTNHA及び親和性部分が融合タンパク質として発現される、請求項1に記載の組成物
【請求項5】
i)前記親和性部分が、NTNHAアミノ酸配列のN末端、NTNHAアミノ酸配列のC末端、及び前記NTNHAアミノ酸配列の内部から成る群から選択される位置に位置する;及び/または
ii)前記親和性部分が、pH6~pH8の条件下で結合標的に効果的に結合す
求項1~のいずれか1項に記載の組成物
【請求項6】
i)前記NTNHAが、血清型B、A、C1、D、E、F、またはG由来である;および/または
ii)前記NTNHAが血清型B由来である、
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物
【請求項7】
記結合標的がマトリックスに安定的に結合している、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の組成物を含む、水溶液。
【請求項9】
請求項4~7のいずれか1項に記載の機能性NTNHA及び親和性部分の融合タンパク質をコードする核酸を含みかつ適合性のボツリヌス神経毒素(BoNT)をさらに発現する、宿主細胞であって、前記細胞が、
i)原核生物または真核生物である;または
ii)細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、または両生類細胞である、
前記宿主細胞。
【請求項10】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)を精製する方法であって、
(a)BoNTを、異種親和性部分に共有結合した適合性の非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)ポリペプチドを含む分子に、前記BoNTと前記NTNHAの結合に適した条件下で接触させることによって、NTNHA-BoNT複合体を形成する工程
を含み、かつ
i)前記親和性部分が、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)から成る群から選択される;及び/または
ii)前記親和性部分がGSTであり、前記結合標的がグルタチオンである、
前記方法。
【請求項11】
前記BoNTが溶液中に存在し、前記分子がマトリックスに結合していることにより、前記溶液を前記マトリックスに接触させることで前記BoNTが前記NTNHAに接触する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
(b)前記マトリックスを洗浄して、非結合物質を除去する工程;及び
(c)前記マトリックスを、前記NTNHA-BoNT複合体から前記BoNTを解離する水溶液と接触させることによって、前記マトリックスから前記BoNTを溶出する工程
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(b)前記マトリックスを洗浄して非結合物質を除去する工程;
(c)前記NTNHA-BoNT複合体を保存し、かつ前記NTNHA-BoNT複合体内の前記BoNTを切断するのに適切な条件下で、前記マトリックスをプロテアーゼと接触させる工程;
(d)前記マトリックスを洗浄して前記プロテアーゼ及び非結合物質を除去する工程;及び
(e)前記マトリックスを、前記NTNHA-BoNT複合体から前記切断されたBoNTを解離させる水溶液と接触させることにより、前記マトリックスから前記切断されたBoNTを溶出する工程
をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記マトリックスが前記親和性部分の結合標的に連結され、かつ前記分子が、前記親和性部分と前記結合標的との相互作用を介して前記マトリックスに非共有結合している、請求項11~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記水溶液が≧7.5のpHを有する、請求項12~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
i)前記BoNTを含む前記溶液が、BoNT発現細胞に由来する清澄化細胞抽出物である;または
ii)前記BoNTを含む前記溶液が、BoNT発現細胞に由来する清澄化細胞抽出物であり、かつ前記清澄化細胞抽出物が、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)をさらに含む、
請求項11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
結合に適切な前記条件が、生理学的イオン強度及び<7.5のpHを有する結合緩衝液という環境下で前記BoNTを接触させることを含む、請求項10~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記洗浄が、<7.5のpHを有する生理学的イオン強度の洗浄緩衝液による、請求項12~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
i)前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、100~200mMのKClまたはNaClである;
ii)前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が6のpHを有する;
iii)前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、50mMのMES、150mMのNaCl、pH6を含む;
iv)前記水溶液が、50mMトリス、150mM NaClの溶出緩衝液である;及び/または
v)前記水溶液がpH8の溶出緩衝液である、
請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
i)前記プロテアーゼがトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである;
ii)前記プロテアーゼが、前記NTNHAに対して1:2~1:1000のモル比で添加される;
iii)前記プロテアーゼを室温でマトリックスに接触させる;及び/または
iv)前記プロテアーゼを前記マトリックスに10分間~18時間接触させる、
請求項13~19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記分子がグルタチオン被覆マトリックスに結合しており、前記親和性部分がグルタチオン-S-トランスフェラーゼであり;
接触させる工程である工程(a)が、
前記BoNTを含有する清澄化細胞抽出物を、6のpHを有する結合緩衝液中で、前記マトリックスと接触させる工程であって、それによって前記NTNHA-BoNT複合体を形成する、工程;
を含み、かつさらに
前記方法が以下の工程:
(b)6のpHを有する洗浄緩衝液で前記マトリックスを洗浄し、それによって非結合物質を除去する工程;及び
(c)pHが≧7.5である溶出緩衝液と前記マトリックスを接触させることにより、前記マトリックスから前記BoNTを溶出し、それにより、前記BoNTを前記NTNHA-BoNT複合体から解離させる、工程;
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項22】
前記分子がグルタチオン被覆マトリックスに結合しており、前記親和性部分がグルタチオン-S-トランスフェラーゼであり;
接触させる工程である工程(a)が、
前記BoNTを含有する清澄化細胞抽出物を、6のpHを有する結合緩衝液中で、前記マトリックスと接触させる工程であって、それによってNTNHA-BoNT複合体を形成する、工程;
を含み、かつさらに
前記方法が以下の工程:
(b)6のpHを有する洗浄緩衝液で前記マトリックスを洗浄し、それによって非結合物質を除去する工程;
(c)6のpHを有する緩衝液中で前記マトリックスをプロテアーゼと接触させることにより、前記NTNHA-BoNT複合体内の前記BoNTを切断する工程;
(d)6のpHを有する洗浄緩衝液で前記マトリックスを洗浄することによって前記プロテアーゼ及び非結合物質を除去する工程;及び
(e)pHが≧7.5である溶出緩衝液と前記マトリックスを接触させることにより、前記BoNTを前記マトリックスから溶出し、それにより、前記BoNTを前記NTNHA-BoNT複合体から解離させる工程
を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項23】
i)前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、50mMのMES、150mMのNaClを含む;
ii)前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、50mMのMES、150mMのNaClを含み、かつ前記結合緩衝液が、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)をさらに含む;
iii)前記溶出緩衝液が50mMトリス、150mM NaClを含み、8のpHを有する;
iv)前記グルタチオン被覆マトリックスがグルタチオン結合アガロースビーズである、または前記グルタチオン被覆マトリックスがカラムである;
v)前記グルタチオン被覆マトリックスが、5mg/mlの結合NTNHAを有する;及び/または
vi)前記プロテアーゼがトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである、
請求項21または22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記BoNTまたは前記ポリペプチドが、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物
【請求項25】
前記BoNTまたは前記ポリペプチドが、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む、請求項に記載の宿主細胞。
【請求項26】
前記BoNTまたは前記ポリペプチドが、クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む、請求項14~23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドを精製する方法における、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、2016年5月16日に出願された米国仮出願第62/336,958号の利益を主張する。
【0002】
配列表
本明細書は、配列表(2017年5月16日に「0342941-0584_SL.TXT」と命名された.txtファイルとして電子的に提出される)を参照する。txtファイルは2017年5月16日に生成され、96,153バイトのサイズである。配列表の内容全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0003】
発明の分野
本発明は、神経毒素の治療的使用の分野に関する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、ヒトに知られている最も有毒な物質である。BoNT(A~G)の7つの血清型が同定されており、各血清型の中に多くのサブタイプがある。BoNTは、細菌クロストリジウム・ボツリヌム(Clostridium botulinum)の様々な株によって産生される約150kDaのタンパク質である(Montal 2010)。これらの毒素は動物でボツリヌス中毒を引き起こし、これは重度の弛緩性麻痺及び死亡の可能性という形で現れる重度の神経系疾患である。この毒性の分子的基盤は、BoNTが運動ニューロンに結合して入り込み、酵素ドメインを細胞質基質に放出し、これが神経筋接合部(NMJ)におけるシナプス小胞融合を担う細胞機構を切断し、アセチルコリン放出を阻止することによって神経伝達を阻害するという能力にある。
【0005】
BoNTの神経抑制機能は、斜視から多様なジストニアの管理に及ぶ、多くの筋肉疾患の治療戦略として検討されており(Masuyer et al.2014)、顔の筋肉の弛緩性麻痺を誘発してしわを伸ばすためのBoNT(A)の美容用途の急激な増加は、言うまでもない。BoNTの市場は20億ドルに達しており、依然として速いペースで成長している。
【0006】
現在、BoNTの生産においていくつかの課題が存在する。BoNTは細菌で産生され、細菌溶解物から単離される必要がある。現在の治療用BoNTは、依然として実験室で調製されたBoNT/Aの最初のバッチが記載された50年以上前の方法論に類似した、古い方法論を利用して生産及び単離されている(Bonventre&Kempe 1959、Pickett 2014)。これらの方法は、典型的には、これらの毒素を産生する天然の細菌株(芽胞形成クロストリジウム株)の長期間のインキュベーション/発酵、及びそれに続いて労力を要する多くのクロマトグラフィー工程が含まれる。エンジニアリングや封じ込めの課題とは別に、これらの方法はBoNT製剤の最終的な収量、有効性、及び再現性を損ない得る。
【0007】
近年、大腸菌(E.coli)及び昆虫細胞など、製造業でのタンパク質生産に用いられる典型的な宿主系から、組換え的にBoNTを発現させることが検討されている。His-6(配列番号1)またはGSTなどのアフィニティータグは、通常、BoNTに融合されてアフィニティー精製による精製を容易にする。アフィニティータグを用いた組換えBoNTの単離は精製工程を単純化するが、それは新たな問題をもたらす。このタグは、毒素の生物学的活性に悪影響を及ぼし、及び/または望ましくない抗原性を有し得る。その結果、タグは精製後に除去されていなければならず、これにはさらなる酵素処理及び精製工程が必要となる。さらに多くの場合、切断されたタグ由来の毒素に結合した余分な残基が残され、これは活性に影響を及ぼし得るか、または患者において免疫学的帰結を促進し得る非天然のN末端またはC末端を生成する。
【0008】
天然型のBoNTの単離は非常に好ましいが、労力と時間を要するプロセスである。
【0009】
精製されたBoNTは、使用する前に、限定されたタンパク質分解によってさらに活性化されなければならない。組換えBoNTは通常、精製後にトリプシンなどのエンドプロテイナーゼとのインキュベーションによって活性化される。このような活性化により、非特異的分解が生じ、そして活性化エンドプロテイナーゼを除去するための追加の精製工程が必要となり、その両方によって毒素活性及び収量が損なわれる。
【発明の概要】
【0010】
本開示を読む当業者には明らかであるように、本発明は、ボツリヌス神経毒素(BoNT)またはその一部もしくは断片の産生、精製及び/または活性化のための組成物及び方法に関する問題の認識を包含する。とりわけ、本発明は、所望の特性(例えば、比較的妥協のない生物学的活性、望ましくない抗原性の限定された導入、望ましくないエンドプロテイナーゼ及び/または分解産物などの限定された夾雑物、ならびに所望のBoNTの高い品質、力価、及び/または再現性)を有するBoNTの産生、精製及び/または活性化を促進する材料及び手順を提供する際の課題を特定すると同時に、以前のアプローチの限界(例えば、限定される生産効率、時間のかかる及び/または面倒な工程、及び/または過酷な条件)を低減させる。
【0011】
本発明の一態様は、異種親和性部分に共有結合した非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)ポリペプチドを含む分子に関する。一実施形態では、NTNHA及び親和性部分は、融合タンパク質として発現される。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、親和性部分は、NTNHAアミノ酸配列のN末端、NTNHAアミノ酸配列のC末端、及びNTNHAアミノ酸配列の内部から成る群から選択される位置にある。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、親和性部分は、約pH6~約pH8の条件下で結合標的に効果的に結合する。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、親和性部分は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)から成る群から選択される。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、NTNHAは血清型A、B、C1、D、E、FまたはG由来である。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、NTNHAは血清型B由来である。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、分子は、適合性のボツリヌス神経毒素(BoNT)またはその受容体結合ドメインを含むポリペプチドと複合体を形成する。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、BoNTまたはポリペプチドは、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、分子は、親和性部分を介して結合標的にさらに結合される。本明細書に開示される組成物の一実施形態において、結合標的はマトリックスに安定的に結合する。
【0012】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の分子の1つを含む水溶液に関する。
【0013】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の機能性NTNHA及び親和性部分融合タンパク質の1つをコードする核酸に関する。
【0014】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の機能性NTNHA及び親和性部分融合タンパク質の1つをコードする核酸を含む発現ベクターに関する。
【0015】
本発明の別の態様は、本明細書に記載の機能性NTNHA及び親和性部分融合タンパク質の1つをコードする核酸を含み、発現する宿主細胞に関する。一実施形態において、宿主細胞は、適合性のボツリヌス神経毒素(BoNT)をさらに発現する。本明細書に記載の宿主細胞の一実施形態において、BoNTは、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む。本明細書に記載の宿主細胞の一実施形態において、宿主細胞は原核生物または真核生物である。本明細書に記載の宿主細胞の一実施形態において、宿主細胞は、細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、または両生類細胞である。
【0016】
本発明の別の態様は、ボツリヌス神経毒素(BoNT)を精製する方法に関し、BoNTを適合性の非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)に対して、BoNTとNTNHAの結合に適した条件下で接触させることによってNTNHA-BoNT複合体を形成させることを含む。一実施形態において、BoNTは溶液中に存在し、NTNHAはマトリックスに結合されており、それにより溶液をマトリックスに接触させることでBoNTはNTNHAに接触する。本明細書に記載の方法の一実施形態において、この方法は、マトリックスを洗浄して非結合物質を除去することと、マトリックスをNTNHA-BoNT複合体からBoNTを解離する水溶液と接触させることによって、マトリックスからBoNTを溶出することを更に含む。本明細書に記載の方法の1つの代替実施形態において、BoNT溶液をNTNHAマトリックスに接触させた後、本方法は、マトリックスを洗浄して非結合物質を除去すること、NTNHA-BoNT複合体を維持してNTNHA-BoNT複合体内のBoNTの切断に適切である条件下で上記マトリックスをプロテアーゼと接触させること、マトリックスを洗浄することによってプロテアーゼ及び非結合物質を除去すること、ならびにマトリックスをNTNHA-BoNT複合体からBoNTを解離する水溶液と接触させることにより、マトリックスからBoNTを溶出することを含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHAは親和性部分と共有結合しており、マトリックスは親和性部分の結合標的に結合しており、及びNTNHAは、親和性部分と結合標的との相互作用を介してマトリックスに非共有結合している。本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHAはマトリックスに共有結合している。本明細書に記載の方法の一実施形態において、BoNTは、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHA-BoNT複合体からBoNTを解離する水溶液は、≧7.5のpHを有する。本明細書に記載の方法の一実施形態において、BoNTを含む溶液は、BoNT発現細胞に由来する清澄化細胞抽出物である。本明細書に記載の方法の一実施形態において、清澄化細胞抽出物は、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)をさらに含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、結合に適した条件には、生理学的イオン強度及び<7.5のpHを有する結合緩衝液の環境下でBoNTを接触させることを含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、洗浄には、<7.5のpHを有する生理的イオン強度の洗浄緩衝液を用いる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液は、100~200mMのKClまたはNaClである。本明細書に記載される方法の一実施形態において、結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液は、約6のpHを有する。本明細書に記載される方法の一実施形態において、結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液は、50mM MES、150mM NaCl、pH6で構成される。本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHA-BoNT複合体からBoNTを解離する水溶液は、約50mMトリス、150mM NaClの溶出緩衝液である。本明細書に記載の方法の一実施形態において、水溶液は約pH8の溶出緩衝液である。本明細書に記載の方法の一実施形態において、親和性部分は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)から成る群から選択される。
【0017】
本明細書に記載の方法の一実施形態において、親和性部分はGSTであり、結合標的はグルタチオンである。
【0018】
本明細書に記載される方法の一実施形態において、NTNHAは、BoNTに対して約1:1~約10:1のモル比、例えばBoNTに対して約2:1、3:1、4:1または5:1である。本明細書に記載の方法の一実施形態において、BoNT及びNTNHAは、同じ宿主細胞、例えばE.coliで同時発現される。本明細書に記載される方法の一実施形態において、BoNT及びNTNHAは、異なる宿主細胞で発現される。本明細書に記載される方法の一実施形態において、BoNTは、E.coliなどの異種宿主細胞において組換え方法で産生される。本明細書に記載の方法の一実施形態において、BoNTは、その天然のクロストリジウム細胞において産生される。本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHAは、E.coliなどの異種宿主細胞において組換え方法で産生される。本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHAはその天然のクロストリジウム細胞で産生される。
【0019】
本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは、トリプシン、ペプシン、Lys-Cエンドプロテイナーゼ、Lys-Nエンドプロテイナーゼ、アルギニルエンドペプチダーゼ、プラスミン、オンプチン及びEP2524963に記載されるようなクロストリジウムプロテアーゼから選択される。好ましい実施形態において、プロテアーゼはトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである。一実施形態において、プロテアーゼは、BoNTの非天然(すなわち、外因性)切断部位を切断するプロテアーゼである。そのようなクロストリジウム毒素において、天然プロテアーゼ切断部位(活性化部位としても知られる)は、クロストリジウム毒素にとって天然ではないプロテアーゼ切断部位に改変または置換される。使用され得る変性プロテアーゼには、エンテロキナーゼ(DDDDK↓(配列番号2))、第Xa因子(IEGR↓(配列番号3)/IDGR↓(配列番号4))、TEV(Tobacco Etch virus)(ENLYFQ↓G(配列番号5))、トロンビン(LVPR↓GS(配列番号6))及びPreScission(LEVLFQ↓GP(配列番号7))が含まれる。
【0020】
本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは、NTNHAに対して約1:2~約1:1000、好ましくはNTNHAに対して約1:5~約1:100、例えば約1:10、1:20、1:30、1:40、または1:50のモル比で添加される。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは、BoNTに対して約1:2~約1:1000、好ましくはBoNTに対して約1:5~約1:100、例えば約1:10、1:20、1:30、1:40、または1:50のモル比で添加される。使用される特定のプロテアーゼのための適切な条件は、当業者によって決定される。プロテアーゼへの曝露時間の長さもまた、プロテアーゼ、使用される濃度、及び温度によって異なる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは約2℃~約40℃、好ましくは約4℃~約37℃、例えば4℃、16℃、20℃または37℃の温度でマトリックスに接触させる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは室温(約20~22℃)でマトリックスに接触させる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは約10分~約18時間、好ましくは約30分~約5時間、例えば約30分、1時間、2時間、3時間、4時間または5時間マトリックスに接触させる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは約5.5~約8.5、好ましくは約6~8のpH、例えば約6、7または8のpHでマトリックスに接触させる。一実施形態において、プロテアーゼはプロテアーゼであるトリプシン及びLys-Cエンドプロテイナーゼから選択され、室温で約30分~2時間、6~7のpHでマトリックスに接触させる。
【0021】
本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼは、NTNHAに対して約1:10のモル比で添加される。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼはマトリックスに室温で接触させる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼはマトリックスに約30分~12時間接触させる。
【0022】
本発明の別の態様は、BoNTを含む清澄化細胞抽出物を、pHが約6の結合緩衝液中で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼに融合した適合性の非毒性非血球凝集素(NTNHA)が結合しているグルタチオン被覆マトリックスに接触させて、NTNHA-BoNT複合体を形成させること、約6のpHを有する洗浄緩衝液でマトリックスを洗浄することで非結合物質を除去すること、マトリックスを約6のpHを有する緩衝液中のプロテアーゼと接触させることによってNTNHA-BoNT複合体内のBoNTを切断すること、マトリックスを約6のpHを有する洗浄緩衝液で洗浄することによってプロテアーゼ及び非結合物質を除去すること、及びマトリックスをpH≧7.5を有する溶出緩衝液と接触させることによりBoNTをマトリックスから溶出させ、それにより、BoNTをNTNHA-BoNT複合体から解離させること、を含むボツリヌス神経毒素(BoNT)を精製する方法に関する。本明細書に記載の方法の一実施形態において、BoNTは、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインを含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液は、50mMのMES、150mMのNaClを含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、結合緩衝液は、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)をさらに含む。本明細書に記載の方法の一実施形態において、溶出緩衝液は50mMのトリス、150mMのNaClを含み、約8のpHを有する。本明細書に記載の方法の一実施形態において、グルタチオン被覆マトリックスは、グルタチオン結合アガロースビーズである。本明細書に記載の方法の一実施形態において、グルタチオン被覆マトリックスはカラムである。本明細書に記載の方法の一実施形態において、グルタチオン被覆マトリックスは、約5mg/mlの結合NTNHAを有する。本明細書に記載の方法の一実施形態において、プロテアーゼはトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである。
【0023】
本発明の別の態様は、ボツリヌス神経毒素の受容体結合ドメイン(Hcポリペプチド)を含むポリペプチドを精製する方法に関し、これには、Hcポリペプチドを含む溶液を適合性の非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)が結合したマトリックスに、NTNHAとHcポリペプチドの結合に適した条件下で接触させることにより、NTNHA-Hcポリペプチド複合体を形成させる工程、マトリックスを洗浄して非結合物質を除去する工程、及びNTNHA-Hcポリペプチド複合体からHcポリペプチドを解離させる水溶液とマトリックスを接触させることにより、マトリックスからHcポリペプチドを溶出させる工程が含まれる。本明細書に記載の方法の一実施形態において、Hcポリペプチドの受容体結合ドメインは、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H)の改変受容体結合ドメインである。本明細書に記載の方法の一実施形態において、Hcポリペプチドは、ボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドである。本明細書に記載の方法の一実施形態において、Hcポリペプチドは、キメラボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドである。
【0024】
本発明の別の態様は、方法またはボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドの精製において、本明細書に記載される分子の使用に関する。
[本発明1001]
異種親和性部分に共有結合した、非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)ポリペプチド
を含む、分子。
[本発明1002]
前記NTNHA及び親和性部分が融合タンパク質として発現される、本発明1001の分子。
[本発明1003]
前記親和性部分が、NTNHAアミノ酸配列のN末端、NTNHAアミノ酸配列のC末端、及び前記NTNHAアミノ酸配列の内部から成る群から選択される位置に位置する、本発明1001~1002のいずれかの分子。
[本発明1004]
前記親和性部分が、約pH6~約pH8の条件下で結合標的に効果的に結合する、本発明1001~1003のいずれかの分子。
[本発明1005]
前記親和性部分が、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)から成る群から選択される、本発明1001~1004のいずれかの分子。
[本発明1006]
前記NTNHAが、血清型B、A、C1、D、E、F、またはG由来である、本発明1001~1005のいずれかの分子。
[本発明1007]
前記NTNHAが血清型B由来である、本発明1001~1006のいずれかの分子。
[本発明1008]
前記分子が、適合性のボツリヌス神経毒素(BoNT)またはその受容体結合ドメインを含むポリペプチドと複合体を形成している、本発明1001~1007のいずれかの分子。
[本発明1009]
前記BoNTまたは前記ポリペプチドが、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H )の改変受容体結合ドメインを含む、本発明1008の分子。
[本発明1010]
前記親和性部分を介して結合標的にさらに結合している、本発明1001~1009のいずれかの分子。
[本発明1011]
前記結合標的がマトリックスに安定的に結合している、本発明1009の分子。
[本発明1012]
本発明1001~1011のいずれかの分子を含む、水溶液。
[本発明1013]
本発明1002~1007のいずれかの機能性NTNHA及び親和性部分の融合タンパク質をコードする、核酸。
[本発明1014]
本発明1013の核酸を含む、発現ベクター。
[本発明1015]
本発明1013~1014のいずれかの核酸を含みかつ発現する、宿主細胞。
[本発明1016]
適合性のボツリヌス神経毒素(BoNT)をさらに発現する、本発明1014の宿主細胞。
[本発明1017]
前記BoNTが、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H )の改変受容体結合ドメインを含む、本発明1016の宿主細胞。
[本発明1018]
原核生物または真核生物である、本発明1015~1016のいずれかの宿主細胞。
[本発明1019]
細菌細胞、酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞、植物細胞、または両生類細胞である、本発明1015~1016のいずれかの宿主細胞。
[本発明1020]
ボツリヌス神経毒素(BoNT)を精製する方法であって、
(a)BoNTを適合性の非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)に、前記BoNTと前記NTNHAの結合に適した条件下で接触させることによって、NTNHA-BoNT複合体を形成する工程
を含む、前記方法。
[本発明1021]
前記BoNTが溶液中に存在し、前記NTNHAがマトリックスに結合していることにより、前記溶液を前記マトリックスに接触させることで前記BoNTが前記NTNHAに接触する、本発明1020の方法。
[本発明1022]
(b)前記マトリックスを洗浄して、非結合物質を除去する工程、及び
(c)前記マトリックスを、前記NTNHA-BoNT複合体から前記BoNTを解離する水溶液と接触させることによって、前記マトリックスから前記BoNTを溶出する工程
をさらに含む、本発明1021の方法。
[本発明1023]
(b)前記マトリックスを洗浄して非結合物質を除去する工程、
(c)前記NTNHA-BoNT複合体を保存し、前記NTNHA-BoNT複合体内の前記BoNTを切断するのに適切な条件下で、前記マトリックスをプロテアーゼと接触させる工程、
(d)前記マトリックスを洗浄して前記プロテアーゼ及び非結合物質を除去する工程、ならびに
(e)前記マトリックスを、前記NTNHA-BoNT複合体から前記BoNTを解離させる水溶液と接触させることにより、前記マトリックスから前記BoNTを溶出する工程
をさらに含む、本発明1021の方法。
[本発明1024]
前記NTNHAが親和性部分に共有結合しており、前記マトリックスが前記親和性部分の結合標的に連結され、かつ前記NTNHAが、前記親和性部分と前記結合標的との相互作用を介して前記マトリックスに非共有結合している、本発明1021~1023の方法。
[本発明1025]
前記BoNTが、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H )の改変受容体結合ドメインを含む、本発明1020~1024の方法。
[本発明1026]
前記水溶液が≧7.5のpHを有する、本発明1022または1023の方法。
[本発明1027]
前記BoNTを含む前記溶液が、BoNT発現細胞に由来する清澄化細胞抽出物である、本発明1021~1026のいずれかの方法。
[本発明1028]
前記清澄化細胞抽出物が、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)をさらに含む、本発明1027の方法。
[本発明1029]
結合に適切な条件が、生理学的イオン強度及び<7.5のpHを有する結合緩衝液という環境下で前記BoNTを接触させることを含む、本発明1020~1027のいずれかの方法。
[本発明1030]
洗浄が、<7.5のpHを有する生理学的イオン強度の洗浄緩衝液による、本発明1020~1029のいずれかの方法。
[本発明1031]
前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、100~200mMのKClまたはNaClである、本発明1029または1030の方法。
[本発明1032]
前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が約6のpHを有する、本発明1029~1031のいずれかの方法。
[本発明1033]
前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、50mMのMES、150mMのNaCl、pH6を含む、本発明1029~1032のいずれかの方法。
[本発明1034]
前記水溶液が、約50mMトリス、150mM NaClの溶出緩衝液である、本発明1029~1033のいずれかの方法。
[本発明1035]
前記水溶液が約pH8の溶出緩衝液である、本発明1029~1034のいずれかの方法。
[本発明1036]
前記親和性部分が、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)から成る群から選択される、本発明1024~1035のいずれかの方法。
[本発明1037]
前記親和性部分がGSTであり、前記結合標的がグルタチオンである、本発明1024~1036のいずれかの方法。
[本発明1038]
前記プロテアーゼがトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである、本発明1024~1037のいずれかの方法。
[本発明1039]
前記プロテアーゼが、前記NTNHAに対して約1:2~約1:1000のモル比で添加される、本発明1024~1038のいずれかの方法。
[本発明1040]
前記プロテアーゼを室温でマトリックスに接触させる、本発明1024~1039のいずれかの方法。
[本発明1041]
前記プロテアーゼを前記マトリックスに約10分間~18時間接触させる、本発明1024~1039のいずれかの方法。
[本発明1042]
ボツリヌス神経毒素(BoNT)を精製する方法であって、
(a)前記BoNTを含有する清澄化細胞抽出物を、約6のpHを有する結合緩衝液中で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼに融合した適合性の非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)が結合しているグルタチオン被覆マトリックスと接触させ、それによってNTNHA-BoNT複合体を形成する工程、
(b)約6のpHを有する洗浄緩衝液で前記マトリックスを洗浄し、それによって非結合物質を除去する工程、
(c)pHが≧7.5である溶出緩衝液と前記マトリックスを接触させることにより、前記マトリックスから前記BoNTを溶出し、それにより、前記BoNTを前記NTNHA-BoNT複合体から解離させる工程
を含む、前記方法。
[本発明1043]
ボツリヌス神経毒素(BoNT)を精製する方法であって、
(a)前記BoNTを含有する清澄化細胞抽出物を、約6のpHを有する結合緩衝液中で、グルタチオン-S-トランスフェラーゼに融合した適合性の非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)が結合しているグルタチオン被覆マトリックスと接触させ、それによってNTNHA-BoNT複合体を形成する工程、
(b)約6のpHを有する洗浄緩衝液で前記マトリックスを洗浄し、それによって非結合物質を除去する工程、
(c)約6のpHを有する緩衝液中で前記マトリックスをプロテアーゼと接触させることにより、前記NTNHA-BoNT複合体内の前記BoNTを切断する工程、
(d)約6のpHを有する洗浄緩衝液で前記マトリックスを洗浄することによって前記プロテアーゼ及び非結合物質を除去する工程、
(e)pHが≧7.5である溶出緩衝液と前記マトリックスを接触させることにより、前記BoNTを前記マトリックスから溶出し、それにより、前記BoNTを前記NTNHA-BoNT複合体から解離させる工程
を含む、前記方法。
[本発明1044]
前記BoNTが、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H )の改変受容体結合ドメインを含む、本発明1042または1043のいずれかの方法。
[本発明1045]
前記結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液が、50mMのMES、150mMのNaClを含む、本発明1042または1043のいずれかの方法。
[本発明1046]
前記結合緩衝液が、1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)をさらに含む、本発明1045の方法。
[本発明1047]
前記溶出緩衝液が50mMトリス、150mM NaClを含み、約8のpHを有する、本発明1042~1046のいずれかの方法。
[本発明1048]
前記グルタチオン被覆マトリックスがグルタチオン結合アガロースビーズである、本発明1042~1047のいずれかの方法。
[本発明1049]
前記グルタチオン被覆マトリックスがカラムである、本発明1042~1047のいずれかの方法。
[本発明1050]
前記グルタチオン被覆マトリックスが、約5mg/mlの結合NTNHAを有する、本発明1042~1049の方法。
[本発明1051]
前記プロテアーゼがトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである、本発明1043~1050のいずれかの方法。
[本発明1052]
ボツリヌス神経毒素の受容体結合ドメイン(Hcポリペプチド)を含むポリペプチドを精製する方法であって、
(a)前記Hcポリペプチドを含む溶液を、前記NTNHAを前記Hcポリペプチドに結合させてNTNHA-Hcポリペプチド複合体を形成するのに適した条件下で、それに適合する非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)が結合したマトリックスに接触させる工程、
(b)前記マトリックスを洗浄して非結合物質を除去する工程、
(c)前記マトリックスを、前記NTNHA-Hcポリペプチド複合体から前記Hcポリペプチドを解離させる水溶液と接触させることによって、前記マトリックスから前記Hcポリペプチドを溶出する工程
を含む、前記方法。
[本発明1053]
前記Hcポリペプチドの受容体結合ドメインが、クロストリジアル・ボツリヌム(Clostridial botulinum)血清型B(B-H )の改変受容体結合ドメインである、本発明1052の方法。
[本発明1054]
前記Hcポリペプチドが、ボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドである、本発明1052~1053の方法。
[本発明1055]
前記Hcポリペプチドが、キメラボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドである、本発明1052~1053の方法。
[本発明1056]
ボツリヌス神経毒素(BoNT)ポリペプチドを精製する方法における、本発明1001~1019のいずれかの分子の使用。
【図面の簡単な説明】
【0025】
本特許または出願書類には、カラーで作成された少なくとも1つの図面が含まれる。本特許または特許出願の刊行物のカラー図面(複数可)の写しは、請求及び必要な手数料の支払いに応じて特許庁により提供される。
【0026】
図1図1A及び図1Bは、本明細書に記載のBoNTの精製原理及びプロトコルの実施形態を示す図である。図1A)BoNTとNTNHAのpH依存性の二分子複合体形成の模式図。LC:軽鎖、HN:転位置ドメイン、HCN、HCC:それぞれ、受容体結合ドメインのN末端及びC末端部分。NTNHAは、BoNTと同じドメイン含有量を有し、グルタチオン-アガロース樹脂上に固定化されたGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)融合タンパク質として示される。図1B)天然結合パートナーであるNTNHAを用いたBoNTの包括的な精製、活性化、及び溶出プロトコルを説明するフローチャートである。
図2図2A及び図2Bは、ゲル分画されたタンパク質の画像である。実験結果は、BoNTのモデル複合体としてNTNHA/Bを用いたBoNT/Bの良好な精製を示す。2A)BoNT/Bに対するモノクローナル抗体を用いて、図1Bに記載の各精製工程に沿ってBoNT/Bの存在をモニターする(但し、ここでのサンプルはトリプシンで処理されなかった)。図2B)クーマシーで染色した選択サンプルのSDS-PAGEゲルは、パネルAに記載のように精製したBoNT/Bの純度を示す。BoNT/Bに対応する主要バンド(約150kDa)が溶出画分に観察される。
図3図3A及び図3Bは、ゲル分画したタンパク質の2組の画像である。実験結果は、NTNHA/B・BoNT/B複合体においてBoNT/Bが効率的に活性化されることを示している。図3A)BoNT/Bを2つの断片(それぞれ100kDa及び50kDa)に分離させるトリプシンによる、NTNHA結合BoNT/B活性化の代表的なイムノブロット。BoNT/Bの2つの断片は、単一のジスルフィド結合によって互いに結合したままである。ジスルフィド結合を減少させるためにDTTを添加すると、それらは互いに分離する。図3B)クーマシー染色された溶出画分は、切断された毒素断片(それぞれ100及び50kDa)に対応する毒素バンドを示す。150kDaバンドは、切断されないままである完全長の毒素の部分である。
図4図4は、ゲル分画されたタンパク質の画像である。実験結果は、NTNHA/Bを用いたキメラBoNT/A1B毒素の良好な精製を証明する。BoNT/Aに対するポリクローナル抗体を使用して、BoNT/B由来の受容体結合ドメインを有するBoNT/A1軽鎖及び転位置ドメインから成るキメラ毒素BoNT/A1Bの精製工程を追跡した。完全長BoNT/A1B(溶出画分中の150kDaバンド)は、NTNHA/Bを用いて良好に精製及び溶出された。本発明者らは、100kDaの顕著なバンドは、このキメラ毒素の分解産物であり、E.coliの内因性プロテアーゼによって切断される可能性が高いことに注目した。
図5-1】図5A~5C(配列番号22~24)は、NTNHAの種々の血清型及びその変異体のアミノ酸配列表である。
図5-2】図5C~5D(配列番号24~25)は、NTNHAの種々の血清型及びその変異体のアミノ酸配列表である。
図5-3】図5E~5F(配列番号26~27)は、NTNHAの種々の血清型及びその変異体のアミノ酸配列表である。
図5-4】図5G(配列番号28)は、NTNHAの種々の血清型及びその変異体のアミノ酸配列表である。
図5-5】図5H~5I(配列番号29~30)は、NTNHAの種々の血清型及びその変異体のアミノ酸配列表である。
図6図6A~6Cは、本明細書に記載のBoNTの精製原理及びプロトコルの実施形態を示す図である。図6A)BoNT及びNTNHAのpH依存性の二分子複合体の模式図。LC:軽鎖、H:転位置ドメイン、HCN、HCC:それぞれ、受容体結合ドメインのN末端及びC末端部分。NTNHAは、BoNTと同じドメイン含有量を有し、かつグルタチオン-アガロース樹脂上に固定化され得るGST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)融合タンパク質として示される。弱酸性条件(例えば、約pH6)下でのBoNTとNTNHAとの相互作用は、緩衝液条件を中性~アルカリ性pHの方へ操作することによって妨害することができる。図6B)BoNT単離及び活性化プロトコル。NTNHAを用いた粗溶解物に由来する標識BoNT及び非標識BoNTの精製、活性化、及び溶出のための戦略を説明する流れ図。図6C)グルタチオンアガロースビーズ上に固定化したGST-NTNHA/Bを用いた、清澄化E.coli溶解物からの不活性BoNT(BoNT/B(RY))の典型的な単離法であるSDS-PAGE分析。結合工程及び洗浄工程はpH6で行い、緩衝液をpH8に交換することによって溶出した。
図7図7A及び図7Bは、固定化されたNTNHAを用いて単離されたBoNT/Bが純粋であり、その標準的な神経受容体に結合することを示す。図7A)SDS-PAGE分析(左)は、3つの溶出画分がプールされ濃縮された画分(レーン5)を示す。全工程における毒素を検出するためのBoNT/Bに対するモノクローナル抗体(WB、右)。溶出された画分には、約150kDaの主要バンドとして非活性化BoNT/Bが含まれ、これは一本鎖BoNT/B(RY)毒素に相当する。図7B)偏光により検出される結合、すなわち溶出された完全長毒素は、その標準的な小胞受容体であるシナプトタグミン1(Syt 1)のFITC標識断片に対して、その組換えHドメインと類似の親和性を示したが、BoNT/A Hは、Sytに結合しない。エラーバーは、3つのサンプルの平均+SEMを表す。
図8図8A~8Cは、複合体形成したBoNTが効率的に活性化されているが、非特異的切断から保護されていることを示す。図8A)トリプシンにより媒介されるBoNT/B(RY)の活性化(切断)を、8%SDS-PAGE上で可視化する。一本鎖(SC)毒素の経時的切断により、単一のジスルフィド結合で連結した重鎖(HC)及び軽鎖(LC)が2つの断片となる。図8B)WB分析は、BoNT/Bの活性化は、BoNT/BがNTNHA/Bと複合体形成している間は、非特異的なトリプシン処理から保護されると同時に、効率的な洗浄やエンドプロテイナーゼの除去を可能にすることを示す。図8C)Lys-Cエンドプロテイナーゼは、特異的な活性化剤として使用することもでき、この方法を用いて活性型の二本鎖毒素が産生される。
図9図9は、NTNHA/Bを用いたキメラBoNT/A1B1毒素の単離を示す。BoNT/Aに対するポリクローナル抗体を使用してBoNT/B Hドメインに融合したBoNT/A(LC(RY)、H)で作製したキメラ毒素の精製を追跡する。溶出画分は、約150kDaの非活性化BoNT/A1B1タンパク質を含む。約70kDaの顕著なバンドは、ポリクローナル抗体によって認識されるNTNHA/Bの断片と思われる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明のある態様の詳細な説明
ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、芽胞形成クロストリジウム・ボツリヌムによって産生される非常に強力なタンパク質毒素である。過去数十年間で、これらの致死性の薬剤は、多くの神経筋障害の治療及び注射した筋肉での神経伝達物質放出の阻止による美容用途において有用であることが見出されている。現在確立されている治療薬であるBoNTは、世界中のいくつかの製造業者によって広く大規模に生産されている。利用可能なデータから、製造手順は数十年前の方法論に依拠していることを示唆しており、これは胞子形成株を利用しており、そして毒素の単離は多くの面倒で非効率なバルク精製工程によって達成される。治療用BoNTの直接的な精製及び活性化のための改善された方法が必要である。
【0028】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、ヒトに知られている最も有毒な物質である。BoNT(A~G)タンパク質の7つの血清型は、細菌クロストリジウム・ボツリヌムの異なる株の約150kDaの産物として同定されている(Montal 2010)。これらの毒素は、動物でボツリヌス中毒を引き起こし、重度の神経筋疾患が重度の弛緩性麻痺という形で現れる。この毒性の分子的基盤は、神経筋接合部(NMJ)で運動ニューロン上の受容体に強力に結合し、エンドサイトーシスによって内部移行し、エンドソーム膜を通り抜けて酵素鎖を細胞質基質に放出させる毒素の能力にある。その後、放出されたプロテアーゼは、NMJにおいてシナプス小胞融合を担う細胞機構(SNAREタンパク質)を断つことで、アセチルコリン放出を阻止することによって神経伝達を阻害する(Blasi et al.1993、Borden Lacy et al.1998、Rossetto et al.2014)。
【0029】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、筋肉活動、とりわけ制御されていない活動または筋痙攣による異常を局所的に制御するためのツールとして使用することもできる(Masuyer et al.2014)。BoNTのこの神経抑制機能は、斜視ならびに多様なジストニア及び下部尿路機能障害(LUTD)の管理を含む、多くの筋肉疾患の治療戦略として検討された(Jankovic&Brin 1991、Truong&Jost 2006、Visco et al.2012、Jiang et al.2015)。治療薬及び/または美容剤として、BoNTは、しわを伸ばす目的で顔の筋肉を麻痺させるために使用され得る(Hexsel et al.2011)。毒素のさらなる用途は、うつ病を緩和及び片頭痛の予防的に治療することを目的としている(Finzi&Rosenthal 2014、Jackson et al.2012)。毒素の臨床的利用は多くの社会的関心を得ている(Sifferlin 2017)。
【0030】
ボツリヌス神経毒素(BoNT)は、芽胞形成クロストリジウム株の培養から単離し、続いて最終産物まで精製することができる(Pickett 2014)。BoNTの生産プロセスと単離に関する利用可能なデータは、製造業者が数十年前のものと同じ未変性株の培養及び増殖条件の方法論を利用していることを示唆している(Pickett&Perrow 2009、Snipe&Sommer 1928、Duff,Wright,et al.1957、Duff,Klerer,et al.1957、Bonventre&Kempe 1959、Schantz&Johnson 1992、Pickett 2014)。このような方法は、毒素を産生することができ、そして典型的には毒素の天然供給源(芽胞形成クロストリジウム株)の長い発酵期間の後に、多くの場合、いくつかの酸/アルコール沈殿、結晶化及び/または複数のクロマトグラフィー工程を含む厳しい条件下での面倒な毒素単離手順が含まれる、天然のクロストリジウム株の効率により制限される(DasGupta&Boroff 1967、Tse et al.1982、Schantz&Johnson 1992、Malizio et al.2000)。
【0031】
アフィニティークロマトグラフィーを用いた毒素精製を促進するために、アフィニティータグ(例えば、His6XまたはGST-融合物)を含むことにより、標識BoNTを組換え的に産生することは可能である。しかしながら、このようなアプローチは、例えば治療用生物製剤としてBoNTを使用する際に、不利益となる。例えば、アフィニティータグは、毒素の生物学的活性に悪影響を及ぼし、及び/または望ましくない抗原性を有し得る。精製後のタグの除去により、さらなる酵素及び精製工程も必要になると同時に、最終産物中に非天然のN末端またはC末端が生成する。さらに、組換えBoNTは、機能的かつ強力な二本鎖毒素を得るために、精製後にエンドプロテイナーゼにより活性化される必要がある。このタンパク質分解工程は、非特異的分解をもたらし、これはエンドプロテイナーゼ及び/または分解産物を除去するためのさらなる精製工程を必要とする。芽胞形成株からの毒素産生、及びその後の精製のためのエンジニアリング及び封じ込めの課題とは別に、(Malizio et al.2000、Pickett 2014)、これらの組換えアプローチは、品質及び効力から効率的な再現性に至るまで、最終産物のほとんどの特性を損なう可能性がある。活性な治療用BoNTを安全かつ効率的に単離するための新しい戦略は、BoNTの大規模生産及び容易な単離にとって有益となろう。
【0032】
クロストリジウム神経毒素が神経の細胞質基質に入り込む生化学的性質と細胞機構に関する研究により、クロストリジウム神経毒素の構造的、分子的及び機構的機能の理解が幾分もたらされた(Blasi et al.1993、Borden Lacy et al.1998、Dong et al.2006、Rossetto et al.2014)。食物媒介性のボツリヌス中毒は、細菌のインタクトな毒素及び他の産物が宿主の消化管を介して通過することを必要とする。分解を回避するこの能力の分子的及び構造的基盤は、標的生物が遭遇する完全な毒性剤を構成するために、「前駆毒素複合体」(PTC)と呼ばれるより大きな複合体が特性決定された最近まで、謎のままであった。タンパク質分解活性の毒素に加えて、これらの複数のタンパク質複合体は、典型的には、血清型特異的非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)タンパク質及び3つの赤血球凝集素タンパク質(HA)から成る(Lee et al.2014)。以前は毒素機能を補助すると考えられていた(Schantz&Johnson 1992)、PTCは、今では過酷な胃腸環境からBoNTを物理的に遮蔽し、保護することで無事にその目的地に到達させることが知られている(最初は上皮性関門に、そしてその後NMJに移行させ、そこでBoNTはシナプス小胞の再循環機構を介して細胞質基質に内部移行され得る)。構造研究において(Gu et al.2012)Gu及び共同研究者は原子の詳細において、非共有複合体のBoNT/A:NTNHA/Aに、僅かに有効なPTC(m-PTC)を示した。毒素:NTNHA複合体の共結晶構造は、pH依存性の複合体形成を示した。BoNT/A及びNTNHA/Aは、わずかに酸性の条件下(約pH6)でナノモルレベルの親和性を有する緊密な複合体を形成することができると報告されている。しかしながら、そのような複合体形成は中性~アルカリ性のpHでは生じないと言われている。
【0033】
本明細書では、非毒性非赤血球凝集素(NTNHA)タンパク質に対するBoNT分子の本来の親和性を利用するBoNTの精製に関する組成物及び方法が開示される。BoNTは、NTNHAシャペロンタンパク質と二量体複合体を自然に形成し、これは胃腸管のプロテアーゼ及び酸性分解から保護される。結合は可逆的であり、pHに依存する(pH<7で結合かつpH>7.4で解離する)。NTNHAタンパク質は、BoNTを含む混合物に結合を促進するpHで添加される。BoNT:NTNHA複合体は、複合体内のNTNHAの固定化によって混合物の他の成分から単離される。洗浄後、解離を促進するためにpHを上げることによってBoNTを複合体から放出させる。この方法はBoNTの親和性修飾によるものではないので、毒素の非標識形態を精製することができる。
【0034】
本明細書に記載の精製方法はまた、BoNT:NTNHA複合体でいる間のBoNTの活性化も可能にする。活性化の後、BoNTは複合体から放出され、それにより精製された毒素の活性化形態がもたらされ得る。
【0035】
本発明の態様は、BoNTを精製する方法に関する。典型的には、BoNTは、細胞抽出物などの夾雑成分を含む水溶液の環境下にある。本方法は、BoNTのNTNHAへの結合に適した条件下で溶液をNTNHA分子と混合することを含む。実際に、これには、NTNHA分子を水溶液(例えば、細胞抽出物または清澄化細胞抽出物)と混合させることを含めることができる。BoNTは、NTNHA分子によって単離することができる。一般に、これはNTNHAをマトリックスに固定することによって達成される。非結合物質は、例えばマトリックスを洗浄することによって複合体から除去される(例えば、マトリックスの3~4容量の洗浄緩衝液量を用いて)。洗浄後、BoNTは複合体から放出され、例えば、マトリックスに結合したNTNHAからの溶出により精製されたポリペプチドが生成する。
【0036】
BoNTは、プロテアーゼによる消化によって活性化された後に複合体から放出されることができる。これは、BoNTの切断に適しており、その他には複合体を破壊しない(例えば、必要なpHを維持する)条件下で、マトリックス結合複合体をプロテアーゼと接触させることによって達成することができる。プロテアーゼは、マトリックスを洗浄することによって(例えば、洗浄緩衝液を用いて)他の非結合物質と共に除去される。次いで活性化され精製されたBoNTは、NTNHA複合体からBoNTを解離する水溶液(例えば、溶出緩衝液)をマトリックスと接触させることによって溶出することができる。いくつかの実施形態において、ポリペプチドの活性化は必要ではないか、望ましくない。
【0037】
その方法で使用されるNTNHAは、BoNTと適合性でなければならない。適合性という用語は、NTNHA及びBoNTに関して使用される場合、互いに緊密で安定な複合体を形成することができる分子を指す。一実施形態において、BoNT及びNTNHAは、同一の自然に生じるBoNT血清型タンパク質複合体の成分である。これは、BoNT及びNTNHAのコード配列が同じオペロンに由来する場合に生じる。用語「血清型」は、NTNHA分子を記載するために本明細書で使用される場合「血清型由来」となり、これは、BoNTの特定の血清型をコードするオペロンに由来するNTNHA分子を指す。適合性とは、NTNHAと適合性のある領域(例えば、Hc領域)を有するBoNTまたはキメラポリペプチドも指し得る。一実施形態において、NTNHA及びBoNTのHc領域は両方とも、同一の自然に生じるBoNT血清型複合体に由来する。
【0038】
マトリックスへのNTNHAの固定化は、BoNTの結合の前後で行うことができる。一実施形態において、NTNHAをマトリックスに結合させ、そしてBoNTを含む溶液をマトリックスに添加することで、HcポリペプチドをNTNHAと接触させて複合体形成を促進させる。一実施形態において、NTNHA及びBoNTは複合体になった後に、NTNHAをマトリックスに結合させる。
【0039】
一実施形態において、親和性部分をNTNHAタンパク質に導入し(例えば、融合タンパク質としての発現により)、その標識タンパク質を用いてBoNT:NTNHA結合を促進する条件下でBoNTを結合及び単離させる。BoNT:NTNHA複合体は、複合体内のNTNHAのアフィニティー精製によって単離される。
【0040】
結合緩衝液、インキュベーション緩衝液、洗浄緩衝液、及びプロテアーゼ消化緩衝液は、Hc-NTNHA複合体の形成及び保存に適した条件を促進する。これには、複合体形成を促進するpHを有するものが含まれるが、これに限定されない。典型的には、これは7.5未満、例えば6未満のpHである。一実施形態において、緩衝液のpHは2~8である。一実施形態において、緩衝液のpHは5~7である。一実施形態において、pHは約5、約6、または約7である。結合緩衝液、インキュベーション緩衝液及び洗浄緩衝液は、全て非常に似ているか、同じであってもよい。緩衝液は、本明細書に明記した成分以外の追加の成分をさらに含み得る。一実施形態において、緩衝液は、BoNTポリペプチドのための安定化剤をさらに含有する(例えば、血清アルブミン、多糖類、トレハロース、または界面活性剤)。緩衝液のpHは、種々の成分について指定された範囲内で最適化することができる。当業者は、緩衝液のpHは、タンパク質を沈殿させ得るタンパク質のPIに近いpHになることを避けて、全体のタンパク質構造を保存させなければならないことを理解するであろう。
【0041】
緩衝液は、生理的イオン強度(例えば、100~200mM KClまたはNaClの範囲内)を有することが好ましい。必要なイオン強度を作り出すために様々な塩が利用可能である。高すぎる塩濃度は、極性/イオン干渉による相互作用を乱す可能性がある。一実施形態において、塩濃度は400mM以下である。低い塩条件でも十分に機能すると予想される。一実施形態において、塩濃度は150mMである。一実施形態において、緩衝液は、50mMのMES、150mMのNaClを含み、pH6を有する。一実施形態において、結合が生じる緩衝液(結合緩衝液)は、さらに1つ以上のプロテアーゼ阻害剤(例えば、フェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF))を含む。一実施形態において、結合緩衝液は、約0.1~1mMの濃度のPMSFを含む。一実施形態において、PMFSは約1mMである。
【0042】
洗浄は、例えば洗浄緩衝液を用いて行うことができる。洗浄のための典型的な量はマトリックスの3~4倍量である。
【0043】
BoNT分子はいくつかのドメインを含み、その受容体結合ドメイン(その他にはHcドメインとも呼ばれる)を介してNTNHA分子に結合する。このように、本明細書に記載の方法は、ボツリヌス神経毒素の受容体結合ドメイン(Hcポリペプチド)を含む任意のポリペプチド(例えば、完全長BoNTまたはHcポリペプチドを含むその断片、またはHcドメインを含むキメラポリペプチド)の精製に適用可能である。
【0044】
本明細書に記載の方法の一実施形態において、NTNHAは、BoNTまたはその受容体結合ドメインに対して約1:1~約10:1のモル比、例えばBoNTまたはその受容体結合ドメインに対して約2:1、3:1、4:1または5:1で存在する。
【0045】
結合したBoNTまたはその断片の活性化は、BoNT:NTNHA複合体(例えば、マトリックスに結合した場合)を適切なプロテアーゼと接触させることによって達成される。一実施形態において、プロテアーゼは、リジン残基の後ろでタンパク質を切断する。一実施形態において、プロテアーゼはトリプシン、ペプシン、Lys-Cエンドプロテアーゼ、Lys-Nエンドプロテイナーゼ、アルギニルエンドペプチダーゼ、プラスミン、オンプチン、またはEP2524963に記載されるようなクロストリジウムプロテアーゼであるが、これらに限定されない。好ましい条件では、NTNHA、任意の関連する親和性部分、またはそれらの結合標的の実質的な分解を生じないであろう。切断に適切な条件には、プロテアーゼの適切な濃度、及びプロテアーゼの活性のための適切な条件(例えば、温度、インキュベーション時間、緩衝液成分など)が含まれる。そのような条件は、適切なプロテアーゼ消化緩衝液の使用によって達成することができる。使用されるプロテアーゼの量は、NTNHA分子の量またはBoNT分子の量によって決定することができる。一実施形態において、プロテアーゼは、NTNHA分子に対して約1:2~約1:1000のモル比で存在する。一実施形態において、プロテアーゼは、NTNHA分子に対して約1:5~約1:100、例えば約1:10、1:20、1:30、1:40または1:50のモル比で存在する。本明細書中に記載される方法の一実施形態において、プロテアーゼは、BoNTに対して約1:2~約1:1000(例えば、BoNTに対して約1:5~約1:100)または約1:10、1:20、1:30、1:40、または1:50のモル比で添加される。
【0046】
使用される特定のプロテアーゼのための適切な条件は、当業者によって決定される。プロテアーゼへの曝露時間の長さもまた、プロテアーゼ、使用される濃度、及び温度によって異なる。一実施形態において、プロテアーゼは、2℃~40℃、好ましくは4℃~37℃(例えば、4℃、16℃、20℃または37℃)の温度で接触させる。一実施形態において、プロテアーゼは室温(約20~22℃)で接触させる。
【0047】
一実施形態において、プロテアーゼは約10分~約18時間、好ましくは30分~5時間(例えば約30分、1時間、2時間、3時間、4時間または5時間)接触させる。一実施形態において、プロテアーゼは約4時間接触させる。一実施形態において、プロテアーゼはLys-Cエンドプロテアーゼであり、インキュベーション時間は約30分である。
【0048】
一実施形態において、プロテアーゼは、約5.5~約8.5のpHでマトリックスに接触させる。一実施形態において、プロテアーゼは、約6~約8(例えば、約6、7または8)のpHでマトリックスに接触させる。
【0049】
一実施形態において、プロテアーゼは、プロテアーゼのトリプシン及びLys-Cエンドプロテイナーゼから選択され、6~7のpHで約30分~2時間、室温にてマトリックスに接触させる。
【0050】
BoNT-NTNHA複合体からのBoNTの溶出は、複合体の解離を促進するpHを有する水溶液(本明細書において溶出緩衝液と称する)を用いて達成される。好ましくは、溶出緩衝液は、適切なpHであることと同時に、その他にHcポリペプチドの完全性を実質的に保存すること、及びNTNHAの固定化を実質的に維持すること(例えば、NTNHAのマトリックスへの結合を維持する)により、BoNT-NTNHA複合体を分裂させる。溶出緩衝液は、生理学的イオン強度を有することがさらに好ましい。利用可能な様々な緩衝液(例えば、トリス、MOPS、HEPES、リン酸緩衝液など)が使用に適している。一実施形態において、溶出緩衝液は、結合緩衝液及び/または洗浄緩衝液と同じであり、pHのみが異なる。一実施形態において、溶出緩衝液は、本明細書で論じられる適切なpH(例えば、pH8)を有する約50mMトリス、150mM NaClである。
【0051】
使用される溶出緩衝液(例えば、本明細書に記載の溶出緩衝液)は、約pH7~約pH11であり得る。一実施形態において、pHは7.5以上である。一実施形態において、pHは約8である。溶出緩衝液は、本明細書に明記された成分以外の追加の成分をさらに含み得る。溶出緩衝液のpHは、その中の様々な成分に対して最適化することができる。
【0052】
典型的には、BoNTは細胞抽出物から精製される。一実施形態において、細胞抽出物は清澄化細胞抽出物である。「清澄化細胞抽出物」という用語は、遠心分離及び/または濾過によって除去される場合など、全ての粒子状物質を実質的に含まない抽出物を指す。
【0053】
BoNT及びNTNHAは、同じ宿主細胞、例えばE.coliにおいて共発現され得る。本方法は、BoNTと共にそこで発現するNTNHAを利用することができる。代替的には、BoNT及びNTNHAを異なる宿主細胞で発現させることができる。それぞれの細胞抽出物を用いて、それぞれのタンパク質を産生/単離することができる。BoNTは、E.coliのような異種宿主細胞において組換え法で産生され得るか、またはその天然のクロストリジウム細胞で産生され得る。NTNHAは、E.coliのような異種宿主細胞またはその天然のクロストリジウム細胞において組換え法で産生され得る。
【0054】
「精製」または「精製された」は、本明細書で使用される場合、調製物の他の成分(例えば、他のポリペプチド)に対して「実質的に純粋」であるBoNTまたはその断片を指す。これは、BoNTまたはその断片が他の成分に対して少なくとも約50%、60%、70%、または75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、及び最も好ましくは少なくとも約95%純粋であることを意味し得る。BoNTまたは断片に関して「実質的に純粋な」または「本質的に精製された」という用語の書き換えは、1つ以上の成分(例えば、他のポリペプチドまたは細胞成分)の約20%未満、より好ましくは約15%、10%、8%、7%未満、最も好ましくは約5%、4%、3%、2%、1%未満、または1%未満を含む調製物を指す。
【0055】
本発明の他の態様は、本明細書に記載の方法で使用される成分に関する。本発明の一態様は、BoNTを結合させるために使用する、NTNHAポリペプチドに関する。NTNHAポリペプチドは、完全長のNTNHAまたはその機能的断片であり得る。NTNHAの機能的断片は、適合性のBoNT Hcドメインへの結合特性を保持し、そしてBoNTを分解から保護すると同時に活性化を可能にすると考えられている。NTNHAポリペプチドは、付加的な異種アミノ酸をさらに含み得る。この用語が本明細書で使用される場合、異種とは異なる起源の分子を指す。例えば、異種親和性部分は、NTNHA分子に元々存在する任意の内在的な親和性部分とは異なる。
【0056】
異種配列は、NTNHAに共有結合していてもよい(例えば、融合タンパク質としての発現により、またはNTNHA分子の翻訳後修飾により)。一実施形態では、付加的な異種アミノ酸配列は、異種親和性部分である。
【0057】
異種アミノ酸配列は、N末端、C末端、または内部に存在し得る。そのような配列が存在する場合、NTNHAとBoNT Hcドメインとの相互作用を保存するように設計されるべきである。一実施形態において、異種配列は親和性部分であり、親和性部分とNTNHA配列との間に介在配列は存在しない。一実施形態において、異種アミノ酸は、NTNHAのN末端に位置する。
【0058】
一実施形態において、異種アミノ酸は、融合タンパク質からアフィニティータグを除去するために典型的に使用されるような機能的タンパク質切断部位を欠いている。一実施形態において、本発明は、N末端に融合されたmycタグを含むNTNHAポリペプチド、例えば、NTNHA-A1を除外する(Gu et al.,Science 335:977-981(2012))。
【0059】
本発明の一態様において、NTNHAポリペプチドは、マトリックスに安定的に結合する。安定した結合とは、本明細書に記載される様々な緩衝液の条件によって崩壊されない結合を指す。マトリックスへの結合は、共有結合性または非共有結合性の相互作用を介することができる。一実施形態において、マトリックスへの結合は、NTNHAポリペプチド上の異種親和性部分とマトリックス上の対応する結合部分(例えば、マトリックス上に存在するグルタチオンを含むNTNHA上のGST親和性部分)との相互作用を介する。
【0060】
一実施形態において、本明細書に記載される様々な形態のNTNHAポリペプチド(例えば、親和性部分に連結、及び/またはマトリックスに安定的に結合される)は、適合性のBoNTまたはその受容体結合ドメイン(Hc)を含むポリペプチドとさらに複合体を形成している。一実施形態において、BoNTまたはHcは天然のタンパク質である。一実施形態において、BoNTまたはHcは、遺伝子改変した受容体結合ドメイン(例えば、特異的な受容体に対して結合の増加を有する)である。
【0061】
一実施形態において、親和性部分を含むNTNHAポリペプチドは、親和性部分の結合を介して結合標的にさらに結合する。結合標的は、さらにマトリックスに安定的に結合し得る。
【0062】
本発明の別の態様は、本明細書に記載のNTNHAポリペプチドを含有する水溶液に関する。溶液中のNTNHAポリペプチドは、例えば親和性部分に連結されるような、マトリックスに安定的に結合されるような、及び/または親和性部分を介して結合標的に結合されるような本明細書に記載される任意の形態であり得、これらのいずれもが適合性のBoNTにさらに結合されていてもよい。
【0063】
本明細書に記載のNTNHA及び親和性部分融合タンパク質をコードする核酸配列も本発明に包含される。タンパク質をコードする核酸配列は、E.coli発現のために最適化することができる。一実施形態において、核酸配列はベクターの環境下(例えば、発現ベクター)にある。ベクターは、核酸を増殖及び/または発現させることが意図される宿主細胞と適合性がなければならない。
【0064】
NTNHA
NTNHAは、クロストリジウム・ボツリヌムによって合成される、140kDaのタンパク質である。NTNHA遺伝子は、特定の血清型BoNTタンパク質をコードするオペロン内で生じる。BoNTと同じオペロンから産生されたNTNHAは、同一の自然に生じるBoNTタンパク質複合体の成分であり、互いに緊密で安定した複合体を形成する。NTNHAはBoNTと約30.8nMのKで1:1の化学量論にて結合する(Shenyan et al.,Science 335:977-981(2012))。好ましくは、NTNHAは、精製されるBoNTまたはHc断片の血清型(及びサブタイプ)(A、A1、A2、A3、A4-A、A4-B、タイプB、C、C1、D、E、F、またはG)を産生する同じクロストリジウム・ボツリヌム株に由来する。血清型間には、いくつかの結合の重複が予想される。異なるNTNHAタンパク質のアミノ酸配列は、当業者に利用可能であり、BoNT血清型をコードするオペロン由来のNTNHAタンパク質などのコード核酸配列(A1(YP_001253341.1)、A2(WP_012704905)、B(WP_003404192.1)、C1(YP_398515.1)、D(BAA75083.1)、E(WP_003409842)、F(YP_001390122.1)、及びG(CAA61228.1))も当業者に利用可能である。一実施形態では、本発明は、NTNHA/A(NTNHA/A1)分子及びコード核酸の使用を除外する。
【0065】
BoNT
当技術分野で公知の様々な血清型のボツリヌス神経毒素(A~G)には、多くのサブタイプも存在する(A1、A2、A3、A4-A、A4-B)。本明細書中に記載される方法は、天然BoNT(クロストリジウム細菌によって産生される)または組換えタンパク質を精製するために使用され得る。組換えBoNTは、他の原核細胞、真核細胞、組織または生物などの別の種の宿主で産生することができる。
【0066】
BoNTの変異型変異体(例えば、アミノ酸置換、挿入または欠失から生じる)もまた単離され得る。一実施形態において、変異体は、(例えば、細胞受容体への結合の増加により)増大した毒性を有する。このような変異型変異体には、「改変受容体結合ドメイン」または「改変H」を含めることができる。その用語が本明細書で使用される場合、改変Hcは、それが含まれるC.ボツリヌム(C.botulinum)神経毒素分子の、標的細胞の表面上に位置するC.ボツリヌム神経毒素の受容体に対する結合を増強させる、1つ以上の自然に生じない置換変異を有する。そのような分子は、典型的には、遺伝子組換え技術によって産生される。改変Hは、その野生型のものより強いC.ボツリヌム神経毒素と受容体の結合活性を有する。改変受容体結合ドメインの例は、米国特許出願第2015/166972号に開示されており、その内容は、参照により本明細書に組み込まれる。本発明はさらに、ボツリヌス毒素の生物学的活性を保有または保持する任意の分子、例えば、融合(またはキメラ)タンパク質、切断型タンパク質、タンパク質断片、または付加、欠失もしくは置換された1つ以上のアミノ酸を有するタンパク質などのボツリヌス毒素の変異型変異体を単離するのに更に有用である。
【0067】
一実施形態において、本明細書に記載の方法によって単離されたBoNTは毒性活性を有する。BoNTの活性は、適切な基質でタンパク質分解活性を測定することによって決定することができる。ボツリヌス毒素A型及びE型毒素は、タンパク質SNAP-25を切断する。ボツリヌス毒素のB型、D型、F型及びG型は、小胞関連膜タンパク質(VAMP、シナプトブレビンと呼ばれる)を切断する。ボツリヌス毒素C1型は、SNAP25とタンパク質のシンタキシンの両方を切断する。この活性を決定するために用いることができるアッセイは、WO95/33850に記載されるように当分野で公知であり、その内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0068】
親和性部分
NTNHAは、親和性部分に結合することができる。親和性部分は、本明細書に記載の方法の条件下(例えば、約pH6~約pH8)で結合標的に特異的に結合する。様々な親和性部分が当分野で公知であり、本発明での使用に利用できる。親和性部分は、抗体によって特異的に認識されるエピトープなどの特異的結合対のメンバーであり得る。エピトープが親和性部分として使用される場合、抗体は結合標的として使用される。このような多くの親和性部分:抗体の組み合わせは、当技術分野で公知であり、市販されている。例として、c-myc(Roth et al,(1991)J.Cell Biol.115:587-596)、myc(EQKLISEEDL(配列番号8)、Evan G I,et al.(1985)Mol.Cell Biol.5:3610-3616、Munro S.and Pelham H R B,(1987)Cell 48:899-907、Borjigin J.and Nathans J.,(1994)269:14715-14727、Smith D J,(1997)BioTechniques 23:116-120)FLAG.RTM.(米国特許第4,703,004号、第4,851,341号及び第5,011,912号)、インフルエンザのヘマグルチニンタンパク質に由来するHA(Wilson I A,et al.,(1984)Cell,37:767、Field J.et al.Mol.Cell Biol.(1988)8:2159-2165、Xu Y,et al.(2000)Mol Cell Biol.20:2138-2146)、IRS(RYIRS(配列番号9)、Liang T C et al.(1996)329:208-214、Luo W et.al.(1996)Arch.Biochem.Biophys.329:215-220)、AU1及びAU5((DTYRYI(配列番号10)及びTDFLYK(配列番号11))、Lim P S et al.(1990)J.Infect.Dis.162:1263-1269、Goldstein D J et al.(1992)190:889-893、Koralnik I J et al.(1993)J.Virol.67:2360-2366)、glu-glu(ポリオーマウイルス培地T抗原由来の9アミノ酸のエピトープ(EEEEYMPME 配列番号12))、Grussenmeyer,T.et al.(1985)PNAS.USA 82:7952-7954、Rubinfeld.B.et al.(1991)Cell 65:1033-1042)、KT3(SV40ラージT抗原由来の11アミノ酸のエピトープ(KPPTPPPEPET(配列番号13))、MacArthur H.and Walter G.(1984)J,Virol.52:483-491、Martin G A et al.(1990)63:843-849、Di Paolo G et al.(1997)272:5175-5182)、T7(T7の主要なカプシドタンパク質由来の11アミノ酸リーダーペプチド(MASMTGGQQMG(配列番号14)))、S-TAG、HSV(単純ヘルペスウイルスの糖タンパク質D由来の11アミノ酸ペプチド(QPELAPEDPEDC(配列番号15)))、VSV-G(水疱性口内炎ウイルス糖タンパク質のカルボキシ末端由来の11アミノ酸のエピトープ、(YTDIEMNRLGK(配列番号16))、Kreis T.(1986)EMBO J.5:931-941、Turner J R et al(1996)271:7738-7744)、Anti-Xpress(8アミノ酸のエピトープ、(DLYDDDK(配列番号17)))、及びVS(パラモキシウイルスSV5由来の14アミノ酸のエピトープ、(GKPIPNPLLGLDST(配列番号18)))が含まれるが、これらに限定されない。
【0069】
親和性部分として一般に使用される別のエピトープは、FLAG(登録商標)である。この配列は、典型的には、DYKDDDDK(配列番号19)であるが、3~6個のアスパラギン酸残基またはグルタミン酸残基の任意の組み合わせもFLAG(登録商標)配列とみなされる。FLAG(登録商標)アフィニティータグは、種々の発現系において組換え融合タンパク質の精製のために効果的に使用されている(Brizzard et al.(1994)BioTechniques 16:730-735、Lee et al.(1994)Nature 372:739-746、Xu et al.(1993)Development 117:1223-1237、Dent et al.(1995) Mol.Cell Biol.15:4125-4135、Ritchie et al.(1999)BioChem Journal 338:305-10.)。
【0070】
エピトープをベースとしない多くの親和性部分も存在し、これらもまた本発明に使用することができる。GST(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)は、本発明での使用が想定される親和性部分である(米国特許第5,654,176号、第6,303,128号及び第6,013,462号)。ポリヒスチジン親和性部分は、米国特許第5,284,933号及び第5,310,663号に開示される任意の対応するペプチドを含む、ヒスチジンアミノ酸残基の自然にはない連続配列である。典型的には、そのような配列は4~10のヒスチジン残基(配列番号20)を含む。
【0071】
一実施形態において、親和性部分は、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、ストレプトアビジン結合タンパク質(SBP)、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、ヒスチジンアフィニティータグ(HAT)、ポリ-His、及びマルトース結合タンパク質(MBP)である。一実施形態において、親和性部分はGST、C-mycタグ、キチン結合ドメイン、SBP、セルロース結合ドメイン、カルモジュリン結合ペプチド、S-tag、Strep-tag II、FLA、プロテインA、プロテインG、HAT、ポリ-HisまたはMBPではない。一実施形態において、親和性部分はAviTag(商標)、V5、Myc、T7、FLAG、HSV、VSV-G、ポリHis(典型的にはHis(配列番号1))、ビオチン、またはSTREP(WSHPQFEK(配列番号21))である。一実施形態において、親和性部分はAviTag(商標)、V5、Myc、T7、FLAG、HSV、VSV-G、ポリHis、ビオチン、またはSTREPではない。
【0072】
NTNHAに自然に結合する抗体、または肝臓及び/または腎臓のトランスポーターによって認識される分子などの哺乳類動物(ヒト)の体と相互作用する、または哺乳類動物(ヒト)の体内で自然に見出される結合対のメンバーは、本明細書に記載の組成物から除外される。
【0073】
親和性部分に対する結合標的
結合標的は、親和性部分の結合を介してNTNHAポリペプチドを固定化するために使用される。結合標的は、典型的には、所定の親和性部分に対して特異的である。結合標的は、親和性部分に対するそれらの結合親和性が保存されるようにマトリックスに結合する。例えば、エピトープタグの結合標的は、エピトープタグに特異的に結合する抗体である。GSTの結合標的はグルタチオンである。ビオチンの結合標的は、アビジンまたはストレプトアビジンである。STREPの結合標的はStrep-tactinである。ポリヒスチジンの結合標的は、二価のニッケルまたはコバルトイオンである。プロテインGの結合標的は、IgGのFc部分である。プロテインAの結合標的は、様々な種の免疫グロブリンのFc部分である。
【0074】
マトリックス
物理的結合を介して分子を固定化するために典型的に使用される種々の不活性物質は、本発明においてマトリックスとして使用することができる。マトリックスは、その他には基材とも呼ばれ、多種多様な材料から作製することができ、様々な形態を取ることができる。材料には、金属、金属合金、ポリマー、プラスチック、紙、ガラス、布、包装材料、細胞、組織、ヒドロゲル、タンパク質、ペプチド、核酸、及びそれらの任意の組み合わせなどの生物学的材料が含まれるが、これらに限定されない。マトリックスがとることのできる形態には、ビーズ(ポリマーマイクロビーズ、磁気マイクロビーズなどを含む)、フィルター、繊維、スクリーン、メッシュ、チューブ、中空繊維、足場、プレート、チャネル、及びこれらの任意の組み合わせが含まれるが、これらに限定されない。当技術分野で公知の基材マトリックスの他の例には、核酸足場、タンパク質足場、脂質足場、デンドリマー、微粒子またはマイクロビーズ、ナノチューブ、及びマイクロタイタープレートが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、マトリックス成分はカラムの形態である。
【0075】
一実施形態において、NTNHAポリペプチドは、NTNHA上に存在する親和性部分をマトリックス表面上に存在する結合標的にカップリングさせることによってマトリックスに結合する。様々な親和性部分及び結合標的が使用可能であり、その例は本明細書で論じられる。一実施形態において、マトリックスは、結合標的としてのグルタチオン(例えば、グルタチオン結合アガロースビーズ)で覆われる。一実施形態において、グルタチオンで覆われたマトリックスは、カラムの形態である。
【0076】
一実施形態において、NTNHAポリペプチドは、共有結合性または非共有結合性の相互作用を介してマトリックス表面に直接的に結合する。これは、N末端、C末端またはその分子の内部を通して起こり得る。基材への結合を容易にするために、NTNHAポリペプチド上にリンカーを含むことは、さらに有用であり得る。
【0077】
基材への結合は、当技術分野の様々な方法を用いて達成することができる。共有結合の例としては、シランカップリング(Weetall,15 Adv.Mol.Cell Bio.161(2008)、Weetall,44 Meths.Enzymol.134(1976))、及びNHS反応または抱合剤の使用が挙げられる。非共有結合は、イオン相互作用、ファンデルワールス相互作用、双極子-双極子相互作用、水素結合、静電相互作用、及び/または形状認識相互作用に基づくことができる。コンジュゲーションには、安定な結合もしくは不安定な結合または抱合剤のいずれかが含まれるが、これらに限定されない。例示的なコンジュゲーションには、共有結合、アミド結合、炭素-炭素多重結合への付加、アジドアルキンのヒュスゲン環付加、ディールス-アルダー反応、ジスルフィド結合、エステル結合、マイケル付加、シラン結合、ウレタン、求核開環反応(エポキシド)、非アルドールカルボニル化学反応、環付加反応(1,3-双極子環付加)、温度感受性、放射線(IR、近IR、UV)感受性結合または抱合剤、pH感受性結合剤または抱合剤、非共有結合(例えば、イオン電荷複合体形成、水素結合、π-π相互作用、シクロデキストリン/強固なホストゲスト相互作用)などが含まれるが、これらに限定されない。本明細書で使用される場合、用語「抱合剤」は、化合物の2つの部分を連結する有機部分を意味する。リンカーは、典型的には、直接結合または酸素もしくは硫黄などの原子、NR1、C(O)、C(O)NH、SO、SO2、SO2NHまたは原子の鎖などの単位を含み、式中1つ以上のメチレンがO、S、S(O)、SO2、NH、C(O)N(R1)2、C(O)、切断可能な連結基、置換または非置換アリール、置換または非置換ヘテロアリール、置換または非置換の複素環で割り込みされるか終結され、式中R1は水素、アシル、脂肪族または置換脂肪族である。
【0078】
様々な抱合化学反応が、2つの分子を共に抱合させるために利用可能であり、NTNHAポリペプチドをマトリックスに連結するために使用することができる。少なくとも1つの操作された微生物の標的化分子を基材に結合させるための例示的なカップリング分子及び/または官能基には、ポリエチレングリコール(PEG、種々の長さXのPEGスペーサーアームを有することができるNH2-PEGX-COOH、ここで、1<X<100、例えばPEG-2K、PEG-5K、PEG-10K、PEG-12K、PEG-15K、PEG-20K、PEG-40Kなど)、マレイミド共役剤、PAS化、HES化、ビス(スルホスクシンイミジル)スベリン酸共役剤、DNA結合剤、ペプチド結合剤、シラン結合剤、多糖共役剤、加水分解性共役剤、及びこれらの任意の組合せが含まれるが、これらに限定されない。
【0079】
マトリックスに結合したNTNHAの量は、当業者によって決定され最適化され得る。一実施形態において、マトリックスは約20mg/mlのNTNHAポリペプチドを有する。一実施形態において、マトリックスは、約5mg/mlのポリペプチド、または約2mg/mlのポリペプチドを有する。
【0080】
プロテアーゼ
BoNTを切断する任意のプロテアーゼは、本明細書に記載の方法において使用することができる。そのようなプロテアーゼには、トリプシン、ペプシン、Lys-Cエンドプロテイナーゼ、Lys-Nエンドプロテイナーゼ、アルギニルエンドペプチダーゼ、プラスミン、オンプチン及びEP2524963に記載のクロストリジウムプロテアーゼが挙げられるが、これらに限定されない。一実施形態では、プロテアーゼはトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼである。一実施形態において、プロテアーゼは、BoNTの非天然(すなわち、外因性)切断部位を切断するプロテアーゼである。そのようなクロストリジウム毒素において、天然プロテアーゼ切断部位(活性化部位としても知られる)は、クロストリジウム毒素に固有でないプロテアーゼ切断部位に改変または置換される。使用され得る非天然プロテアーゼには、エンテロキナーゼ(DDDDK↓(配列番号2))、第Xa因子(IEGR↓(配列番号3)/IDGR↓(配列番号4))、TEV(Tobacco Etch virus)(ENLYFQ↓G(配列番号5))、トロンビン(LVPR↓GS(配列番号6))及びPreScission(LEVLFQ↓GP(配列番号7))、(↓は、切断部位を示す)。
【0081】
核酸ベクター
本発明の別の態様は、本明細書に記載のNTNHAポリペプチドをコードする、核酸分子を含む核酸ベクターに関する。このベクターは、生物または細胞における核酸配列の伝播のためだけのベクターであってもよく、またはその生物もしくは細胞におけるポリペプチドなどの核酸配列の発現用であってもよい。
【0082】
一実施形態では、ベクターは発現ベクターである。そのような発現ベクターは、本明細書では発現構築物と呼ばれ、細胞または無細胞抽出物の核酸分子の発現に有用な発現ベクターに作動可能に連結された、本明細書に開示される核酸分子を含む。本明細書に記載のNTNHAポリペプチドをコードする核酸分子を発現させるために使用することができる多種多様な発現ベクターには、ウイルス発現ベクター(例えば、レトロウイルス、ワクシニアウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、またはウシ乳頭腫ウイルス)、原核生物発現ベクター、例えば、酵母発現ベクター、昆虫発現ベクター、哺乳動物発現ベクター、及び無細胞抽出物発現ベクターのような真核生物発現ベクターが含まれるが、これらに限定されない。一実施形態において、発現ベクターは、バキュロウイルス発現ベクターである。適切な発現ベクターには、Okayama-Berg cDNA発現ベクターpcDV1(Pharmacia)、pBluescript(Stratagene)、pCDM8、pRc/CMV、pcDNA1、pcDNA3(Invitrogen)もしくはpSPORT1(Invitrogen)またはバキュロウイルス由来ベクターが含まれるが、これらに限定されない。ウイルス由来の発現ベクターは、本発明の核酸を標的細胞集団に送達するために使用され得る。本明細書に記載されるような、親和性部分を有する融合体を産生するための多数の発現ベクターが、当分野で利用可能である。適切な発現ベクターの選択、作製及び使用は、当業者によって行われる慣例的な手順である。
【0083】
宿主細胞
本発明の別の態様は、本明細書に記載の分子(例えば、NTNHAポリペプチド及び/またはBoNTポリペプチド)の1つ以上が伝播及び/または発現される細胞に関する。そのような細胞は、宿主細胞と呼ばれる。宿主細胞は、タンパク質をコードするベクターを用いたトランスフェクションなどにより、本明細書に記載の分子を発現するように遺伝子改変され得、及び/または1つ以上の分子(例えば、BoNT)を自然に発現し得る。一実施形態において、宿主細胞は、NTNHAポリペプチドをコードする核酸を含む(例えば、ベクターの環境内に)。一実施形態において、宿主細胞は核酸を発現する(例えば、発現ベクターから)。いくつかの実施形態において、本発明に従って使用される細胞には、原核細胞及び真核細胞が含まれる。原核細胞の非限定的な例は、大腸菌(Escherichia coli)細胞、クロストリジウム・ボツリヌム細胞、クロストリジウム・テタニ(Clostridium tetani)細胞、クロストリジウム・ベラッティ(Clostridium beratti)細胞、クロストリジウム・ブチリクム(Clostridium butyricum)細胞、またはクロストリジウム・パーフリンジェンス(Clostridium perfringens)細胞である。真核細胞の非限定的な例は、昆虫細胞、酵母細胞、両生類細胞、哺乳動物細胞、植物細胞である。昆虫細胞の非限定的な例は、ヨトウガ(Spodoptera frugiperda)細胞、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)細胞、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)細胞、キシタゴマダラヒトリ(Estigmene acrea)細胞、カイコ(Bombyx mori)細胞及びキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)細胞である。酵母細胞の非限定的な例は、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)細胞、シゾサッカロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)細胞、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)細胞、ハンゼヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)細胞、クリベロマイセス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)細胞及びヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)細胞である。
【0084】
本明細書において別に定義されない限り、本出願と関連して使用される科学用語及び技術用語は、当業者によって一般的に理解される意味を有するものとする。さらに、文脈によって別に必要とされない限り、単数形の用語は複数形を含み、複数形の用語は単数形を含むものとする。
【0085】
本発明は、本明細書に記述される特定の手順、慣習、及び試薬等に制限されず、したがって変化し得ることを理解するべきである。本明細書で使用される用語は、特定の実施形態のみを説明する目的のためであり、請求項によってのみ定義される本発明の範囲を限定するものではない。
【0086】
操作の実施例、または他に指示がある場合を除き、本明細書で使用される成分量または反応条件を表す全ての数字は、全ての場合において「約」という用語によって修飾されると理解されるべきである。百分率に関して、本発明を説明するために使用される場合、「約」という用語は、±1%、±5%、または±10%を意味し得る。
【0087】
一態様において、本発明は、本明細書に記載された組成物、方法、及びそのそれぞれの構成要素(複数可)に関して、本発明に必須である場合、さらに、明記されていない必須または必須ではない要素を包含することに解放的である(「~を含む(comprising)」)。いくつかの実施形態において、組成物、方法またはそのそれぞれの構成要素の説明に含まれる他の要素は、本発明の基本的及び新規の特徴(複数可)に実質的に影響を与えない要素に限定される(「から本質的になる(consisting essentially of)」)。これは、記載された方法の範囲内の工程ならびにその中の組成物及び成分に等しく適用される。他の実施形態において、本明細書に記載された発明、組成物、方法、及びそのそれぞれの構成要素は、構成要素、組成物または方法に必須の要素とみなされない任意の要素を排除することを意図する(「~から成る(consisting of)」)。
【0088】
全ての特許及び特許出願、及び出版物は、例えば、本発明と関連して使用され得る、かかる出版物などに記載される方法論を説明及び開示する目的で参照することにより、明白に本明細書に組み込まれる。これらの出版物は、本出願の出願日以前のそれらの開示にのみ提供される。この点のいかなる内容も、先行発明、または任意の他の理由によって、発明者らがかかる開示に先行する権利がないことを承認すると、解釈するべきではない。日付に関する記載、または、これらの文書の内容に関する表現の全ては、出願人が利用可能な情報に基づき、日付または、これらの文書の内容の正確性に関していずれも承認とみなされない。
【0089】
本発明は、以下の実施例によってさらに説明されるが、これはさらなる限定と解釈されるべきではない。
【実施例
【0090】
実施例1
BoNTの精製及び活性化のための新しい方法
本明細書では、簡単な工程のアフィニティー精製により、非標識の天然形態のBoNTを精製及び活性化するための新しい方法が提案される。この方法は、BoNTの独特な特性に基づいており、これらの毒素は、NTNHAとして知られるそのシャペロンタンパク質と自然に二量体の複合体を形成する。この二量体の生物学的目的は、プロテアーゼ及び胃腸(GI)管における過酷な酸性環境から毒素を保護することである。BoNTとNTNHA間の相互作用はpH依存性であり、pH<7で結合し、pH>7.4で互いに解離する。したがって、NTNHA上にアフィニティータグを導入することにより、pH<7の溶液中で天然型のBoNTを単離するのに利用することができる。その後、ただ溶液のpHを>pH7.4に上げるだけで結合したBoNTを放出させることができる。つまり、BoNTにアフィニティータグを付ける代わりに、その結合パートナーを標識することができる。これにより、簡便なアフィニティー精製法を通してBoNTの天然形態の産生が可能となる。
【0091】
精製に加えて、BoNTは、限定したタンパク質分解によって活性化される必要がある。組換えBoNTは、通常、精製後にエンドプロテイナーゼ(トリプシンなど)で活性化される。この方法は、1)毒素の活性及び収量を損なわせるエンドプロテイナーゼによる非特異的切断の可能性がある、2)エンドプロテイナーゼは、反応が完了した後に除去する必要があり、毒素の収量及び活性を損なう追加の分離工程を必要とする、といういくつかの欠点を有する。
【0092】
BoNT上の活性化部位は、依然としてBoNT-NTNHA複合体の表面上に露出しているが、BoNTの他の感受性部位は、多くの場合、複合体内で保護される。これにより、毒素が依然としてNTNHAと複合体を形成していながらも、エンドプロテイナーゼで毒素を処理する機会がもたらされる。このアプローチは、これまでの方法の両方の問題に対処しており、すなわち、1)NTNHAは、エンドプロテイナーゼによる非特異的切断から毒素を保護し得、2)エンドプロテイナーゼは、NTNHAに結合しない他の全ての非毒素タンパク質とともに、単一の洗浄工程で容易に除去され得る。
【0093】
結果
自然に存在する各BoNTは、自然に存在するNTNHAそれぞれのパートナーを有する。BoNT/B及びNTNHA/Bは、本発明者らのアプローチの実行可能性を証明するためのプロトタイプとして使用した。要約すると、NTNHA/Bは、一般に使用されるGSTタグ(グルタチオン-S-トランスフェラーゼ)との融合タンパク質として発現させた。GST-NTNHA/Bを精製し、グルタチオンビーズ上に固定化し、続いて毒素結合緩衝液(pH=6)で平衡化した。次いで、この樹脂を組換えで発現させたBoNT/Bを含有するE.coli細胞溶解物に加え、pH6の条件下で複合体形成させるために4℃で1時間インキュベートした。続いて、ビーズ結合複合体を結合緩衝液で洗浄して、非特異的な夾雑物及び非結合タンパク質を除去した。結合したBoNT/Bは、pH8溶出緩衝液を用いてビーズから溶出させるか、またはトリプシン処理に供して活性化させた。
【0094】
精製の原理及び工程は図1A及び図1Bに図式的に示される。結果から、BoNT/Bは、粗細菌溶解物からこの方法を用いて効率的に精製することができ(図2A)、最終タンパク質が高収量及び高純度であることを示した(図2B)。NTNHA/B:BoNT/B複合体を含有する樹脂の画分をトリプシンにより媒介される切断に供した。図3A及び図3Bに示される結果は、複合体のビーズにおいてBoNTを数時間以内で効率的に活性化させることができ、続いてビーズから溶出させて天然の活性型毒素を生成することができることを示す。
【0095】
1つの血清型に特異的なNTNHAを、その毒素の部分、特に受容体結合ドメインを含むキメラ毒素を精製するために使用できるかどうか検討した。受容体結合ドメインは、NTNHAとBoNT間の相互作用の大部分を媒介する。図4に示される結果は、BoNT/B受容体結合ドメインを含有するハイブリッド毒素(BoNT/A1B)を精製するための成功したNTNHA/Bの使用を示す。
【0096】
これらの実験結果は、広く使用されている治療用毒素である、BoNT/A(NTNHA/Aを用いて)及びBoNT/Bを(NTNHA/Bを用いて)精製するため、BoNTの他の血清型を(適切なNTNHAを用いて)精製するため、変異を含む組換えBoNTを精製するため、キメラBoNTを(受容体結合ドメインに結合するNTNHAまたは設計された特異的なキメラNTNHAタンパク質を用いて)精製するために使用することができる方法の概念の証明として役立つ。この方法の利点は、1)簡便なアフィニティー精製によって組換えで発現される天然のN末端及びC末端を有するBoNTを精製する能力、2)穏やかな緩衝液条件(pH6~8)により毒素への任意の潜在的ダメージが最小限に抑えられる、3)特定のpHに依存する結合及び溶出により高純度の毒素が容易に得られ、さらなる精製の必要性が低くなること、4)NTNHAによる保護作用が、活性化工程中の活性化プロテアーゼによる非特異的切断を減少させること、及び5)プロテアーゼによる活性化後の毒素の溶出によりプロテアーゼを別々に除去する必要性が排除されること、である。
【0097】
材料及び方法
タンパク質の発現及び精製。NTNHA/Bは、GSTがNTNHA/Bタンパク質のN末端に融合されたグルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合タンパク質(GST-NTNHA/B)としてE.Coliで発現させ、BoNT/Bは、C末端Hisタグ(配列番号1)を有するE.Coliで発現させた。細菌培養物(1L)を37℃で増殖させ、600nm(OD600)での培養物の吸光度が約0.6AUに達したときにイソプロピルβ-D-1-チオガラクトピラノシド(IPTG)(250μM)を添加してタンパク質発現を誘導した。次いで、培養物を一晩の発現(約16時間)のために20度の振盪培養器に移した。細菌を5500×gでの遠心分離によって回収し、得られたペレットを精製まで凍結させた。
【0098】
BoNT/Bペレットを解凍し、乾燥バクテリアペレット1gグラムあたり5mlの結合緩衝液(50mM MES、150mM NaCl、pH6)に可溶化した。NTNHA/Bペレットを解凍し、異なる結合緩衝液(50mMトリス、150mM NaCl、pH8)に可溶化した。1mMのフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を添加してから、15分間(3×5分、50%出力)の氷上での超音波処理(Branson Sonifier 250)により溶解させた。次いで、粗溶解物を遠心分離(30,000×g、15分)により清澄化し、上清は0.45μmシリンジフィルター(Nalgene)を用いて濾過した。
【0099】
GST-NTNHA/Bの精製。結合緩衝液で平衡化した600μLのPierce Glutathione-Agaroseビーズ(50%スラリー、Thermo)を約20mLのGST-NTNHA/B上清に添加し、4℃で1時間バッチ結合させた。ビーズを遠心分離(700×g)により回収し、3倍樹脂床容量の結合緩衝液(50mMトリス、150mM NaCl、pH8)で2回洗浄した。精製したGST-NTNHA/Bの推定濃度は約0.6mg/mLであった(BCAアッセイ及びSDS-PAGE分析)。
【0100】
pH依存性複合体形成、プロテアーゼ活性化、及び精製したBoNTの溶出。GST-NTNHA/Bを保有するアガロースビーズを、約5mLの清澄化E.Coli溶解物のBoNT/Bに添加し、揺動させているコニカルチューブ内で、4℃にて2時間バッチ結合させた。ビーズを(700×g)で回収し、3倍樹脂床容量の結合緩衝液(50mM MES、150mM NaCl、pH6)で2回洗浄した。
【0101】
トリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼ(Sigma-Aldrich)を1:10のモル比でpH6(ビーズ上で)にて添加し、NTNHA結合毒素を最終容量500μLで活性化した。反応は室温にて回転プラットフォーム上で進行させ、その後の分析のために少量のアリコートをサンプリングすることにより4時間モニターした。樹脂を結合緩衝液で2回洗浄して、プロテアーゼ及び未結合の不純物を除去した。精製され活性化されたBoNTは、2倍樹脂容量の高pH緩衝液(50mMトリス、150mM NaCl、pH8)で溶出された。
【0102】
SDS-PAGE及びWB分析。全てのサンプル(還元剤のDTT有りまたは無し)10μLを9%SDS-PAGEゲルにアプライした。分離後、ゲルをクーマシー染色で染色するか、または標準的な免疫ブロッティング分析に供した。ヒトモノクローナル抗体を用いてBoNT/Bを検出し、ポリクローナルウサギ抗体を用いてBoNT/A1Bキメラ毒素を検出した。
【0103】
実施例2
粗製細菌溶解物由来の組換えBoNTの容易で直接的な単離
BoNTとNTNHA間の結合は、特異的な表面認識を形成する2つの分子上の多数のpHセンサーによって促進される(Gu et al.2012)。この結合複合体は、活性毒素を過酷な酸性環境から保護し、それによって活性毒素を目的地の細胞に到達させる。
【0104】
本実施例は、本明細書に記載されるように、E.coliで発現される組換え完全長BoNT(不活性BoNT/B、以後BoNT/B{RY}と称する)を単離することの実行可能性を確認する。毒素単離を促進する複合体パートナーは、GST標識された、適合性の血清型のその組換え複合体パートナーであるNTNHA/Bである。GST標識NTNHA-B分子及びBoNT/B{RY}をE.coli宿主中で別々に発現させ、標準的な自動誘導法(Studier 2005)を用いてタンパク質産生を達成した。GST-NTNHA-B単離については、アガロース-グルタチオンビーズを用いた一工程のバッチ精製を、方法に記載されるように実施した。固定化されたGST-NTNHA-Bは、約1週間4℃での短期~中期間の貯蔵に対して安定であったが、以前に報告されているように(Sagane et al.2002、Gu et al.2012)、より長期間の貯蔵では自発的なニッキングが起こり得る。続いて、この試薬を、BoNT/BRY及びキメラBoNT/A1{RY}B1をシンプルなワークフローで単離するために用いた(図6B)。ここで、アガロースビーズは、好ましい条件(例えば、pH6.0、150mMのNaCl)下で粗溶解物から組換え毒素を引き離すためのベイトであった。精製スキームからの関連画分のSDS-Page分析を図6Cに示す。溶出後の再生GST-NTNHA/Bは、別の精製サイクルで容易に使用することができ、新たなまたは代替の抽出物に由来する、より多くの適合性の毒素を単離する。溶出された完全長毒素は、ビーズ上の緩衝液交換時に複合体から選択的に放出され、SDS-PAGEまたはウェスタンブロット(WB)分析によって視覚化することができる(図7A)。さらに、完全長(FL)毒素を単離するためのそのような穏やかな条件は、そのプロテアーゼ活性及びその細胞標的との結合における機能的役割をより保存しやすい。BoNT/Bに対する通常の神経受容体として、シナプトタグミン由来の標識ペプチドは、in-vitro蛍光異方性結合アッセイにおいて単離された完全長毒素と相互作用することが示されている(図7B)。
【0105】
外因性プロテアーゼによって効率的に活性化できる複合体化毒素
二本鎖(AB)毒素として、BoNTは単一のポリペプチド鎖として発現され、これは活性化を受けて重鎖と軽鎖との間の1つのジスルフィド架橋によって連結される1つの機能的分子を生成する。外因性または内在性のプロテアーゼによる「ニッキング」は、LCとHC間の共有結合の架橋を維持する、2つの保存されたシステイン間のポリペプチド鎖を切断することで力価を改善することができ、最大力価に必要とされ得る(図6A)。本実施例では、このようなプロテアーゼ(例えば、具体的には外因性プロテアーゼ)の添加を本明細書に記載の精製プロトコルワークフローに組み込むことができ、そしていくつかの実施形態において、活性毒素の回収を最大にすることを実証する。例えば、複合体化GST-NTNHA/B:BoNT/B{RY}は、室温での穏やかな条件下で触媒量のトリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼによって切断され得、ニックの入った毒素は高pH緩衝液中で選択的に放出され得る。図8A~8Cは、ジチオスレイトール(DTT)を含有する試料における、約50kDのプロテアーゼドメイン(LC)及び約100kDaのHCを放出する複合体化一本鎖BoNT//B{RY}の活性化の経時変化を示す。より低いpHの結合条件及びより低いプロテアーゼ活性(Kasserra&Laidler 1969、Jekel et al.1983)は、毒素及び/またはNTNHAの非特異的/過剰な分解からの保護的役割を果たす(図8B)。毒素のニッキングの純度及び量はSDS-PAGEゲル上で視覚化することができるか、またはWB分析によって検出することができる(図8A及び図8C)。
【0106】
一般的なNTNHA血清型を用いて単離することができるキメラ組換え毒素
本実施例は、キメラ組換えボツリヌス神経毒素が、将来の生物製剤のための治療的土台として貢献し得る種々の標的を使用して、本明細書に記載されるような複合体をベースとした精製プロトコルを用いて精製されることを確認する。BoNTの受容体結合ドメインは、NTNHAと最大の極性接触を媒介する(Gu et al.2012)。本実施例は、組換えボツリヌス神経毒素がNTNHAとの複合体形成を介して精製され得ることを確認する。不活性BoNT/A LC、BoNT/A H及びBoNT/B Hから構築されたキメラ組換えタンパク質(BoNT/A1{RY}B1)を実証実験に使用した。上記の同じ組換えGST-NTNHA/Bを用いて、NTNHAビーズ上のキメラ毒素の複合体化及び濃縮を、毒素の発現レベルが低いにもかかわらず検出することができた(図9)。キメラ毒素の清澄化溶解物は、多くの場合、固定化されたNTNHAとの効率的な複合体形成を妨げる分解産物及び大きな不純物を含有した。そのため、BoNT/A1{RY}B1溶解物を1回通過させてNi-NTA樹脂から溶出させた後、アガロース樹脂上の固定化されたNTNHAに曝露した。このキメラ毒素を用いたその後の活性化特性は、BoNT/B{RY}の活性化特性と類似している可能性があるが、おそらく効率が異なる。
【0107】
考察
本実施例は、NTNHA/Bを非共有結合性の前駆体複合体のパートナーとして使用する、組換えで発現したBoNTの単離を説明する。BoNT/B{RY}及びNTNHA/Bはともに、E.coli宿主で別々に過剰発現させた。NTNHA/Bは、固体アガロース-グルタチオン樹脂に対する親和性部分として、そのN末端に付加されたGSTタグを有する融合タンパク質として発現させた。BoNT/B{RY}(及びキメラBoNT/A1{RY}B1)を、不活性化変異及びC末端His6Xタグを除いた野生型配列として発現させた。低pH緩衝液中での細菌溶解により、GST-NTNHA/Bを保有するアガロースビーズと共にインキュベートされた溶解物中に、これらの毒素は放出された。複合体形成後、固形媒体を何度も洗浄して不純物を除去し、その後、毒素を高pH緩衝液置換によって溶出するか、または外因性エンドプロテアーゼが樹脂結合複合体に用いられる追加の工程を介して活性化することができる。
【0108】
本実施例で実証された知見によって確認されるように、本開示は、穏やかな条件下で様々な供給源から活性型の治療用BoNTを効率的に単離するための解決策を提供する。精製されたBoNTを単離、活性化及び溶出するために高められた方法論は、治療用BoNTの大規模生産など、非常に有用であり得る。潜在的な利点には以下のこと、すなわち1)現行の条件と異なる穏やかな条件下での粗溶解物からの組換えBoNTの効率的な単離(Malizio et al.2000、Donovan 2007)、2)不純物の大規模な洗浄及び複数のクロマトグラフィー工程を回避することが可能であるため、単一の精製スキームを使用して高純度の活性化毒素を製造することができること、3)固定化されたNTNHAは、(一般的な精製後活性化とは対照的に)精製プロトコルに容易に組み込むことができる活性化工程において、毒素の非特異的切断から適切に保護することができること、が挙げられる。これにより、最終の活性化毒素の最終収量及び均一性を高めることができ、そして4)固定化されたGST-NTNHAは、各サイクルの終わりにほとんど損失を伴わずに再生されるので、複数回の連続的な精製を行うことができ、そして5)このような方法論は、適合性の受容体結合ドメインを有するキメラ治療用毒素の単離に発展させることができる。
【0109】
材料及び方法
タンパク質の発現及び精製
NTNHA/Bは、pGEXベクター中でグルタチオン-S-トランスフェラーゼ融合タンパク質(GST-NTNHA/B)として発現させ、BoNT/B{RY}及びBoNT/A1{RY}B1は、E.coli(BL21DE3)のpET32-aベクターにC末端(His6x)タグを用いて発現させた。細胞培養物(典型的には300mL)は、37℃でバッフル付き2Lフラスコにおいて、自己誘導培地(Formedium(商標)、UK)中で激しく振盪(>250RPM)させながら増殖させた。培養物が約0.6のODに達したとき、細胞培養物を一晩発現(約16時間)のために20℃の振盪インキュベーターに移した。細胞を5500×gでの遠心分離によって回収し、得られたペレットを精製まで-20℃で凍結させた。
【0110】
BoNT/B{RY}細胞ペレットを解凍し、5ml/g乾燥細胞ペレットを有する結合緩衝液(50mM MES、150mM NaCl、pH6)に可溶化した。GST-NTNHA/B細胞を解凍し、TBS結合緩衝液(50mMトリス、150mM NaCl、pH8)に可溶化した。可溶化細胞に0.1mMの最終濃度でフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF)を添加した後に、氷上での15分間(3×5分)、30%出力の超音波処理(Branson Sonifier 250)により溶解させた。次いで、粗溶解物を遠心分離(30,000×g、15分間)により清澄化し、上清は0.45μmシリンジフィルター(Nalgene)を用いて濾過した。
【0111】
GST-NTNHA/Bの精製
600μLのPierce Glutathione-Agaroseビーズ(50%スラリー、Thermo)を結合緩衝液で平衡化し、約20mLのGST-NTNHA/B上清に添加して穏やかなロッキングプラットフォーム上で4℃にて1時間バッチ結合させた。ビーズを遠心分離(700×g)によって回収し、3倍樹脂床容量の結合緩衝液(1×TBS)で2回洗浄した。精製されたGST-NTNHA/Bの推定濃度は、典型的に約0.5mg/mLであった(BCAアッセイ及びSDS-PAGE分析)。
【0112】
精製されたBoNTの結合、活性化、及び溶出
GST-NTNHA/Bを保有するアガロースビーズを、10~25mLのBoNT/B{RY}またはBoNT/A1{RY}B1清澄化溶解物(MES、pH6中)緩衝液に添加することにより、ロッキングプラットフォーム上の50mLコニカルチューブの中で4℃にて2時間バッチ結合を進行させた。ビーズを(700×g)で回収し、3倍樹脂床容量の結合緩衝液(MES、pH6)で2回洗浄した。活性化が望ましくない場合、結合した精製毒素は以下に記載されるように、この段階で溶出されても良い。
【0113】
トリプシンまたはLys-Cエンドプロテイナーゼ(Sigma-Aldrich)を、pH6(ビーズ上)で1:10のエンドプロテイナーゼ:GST-NTNHA/Bのモル比にて添加し、結合した毒素を500~1000μLの最終容量で活性化した。反応は室温にて、回転(転回)プラットフォーム上で進行させ、その後の分析のために少量の一定分量をサンプリングすることにより、(図8A及び図8Cのように2~4時間、または図8Bのように4℃で一晩)モニターした。樹脂を結合緩衝液で2回洗浄して、プロテアーゼ及び不純物を除去した。精製及び活性化したBoNT/B{RY}は、高pH緩衝液(TBS:50mMトリス、150mM NaCl、pH8)の2つの樹脂容量の画分で溶出させた。
【0114】
SDS-PAGE及びWB分析
(還元剤DTTまたはβMEを含むまたは含まない)全てのサンプル10μLを8~12%SDS-PAGEゲルにアプライした。分離後、ゲルはクーマシー染色で染色するか、または標準的なウエスタンブロッティング手順に供した。モノクローナルウサギ抗体(1:5000)を用いてBoNT/B{RY}を検出し、そして、BoNT/Aに対して産生させたポリクローナルウサギ抗体(1:2000)を用いてBoNT/A1{RY}B1を検出した。
【0115】
蛍光偏光測定
ヒトシナプトタグミン1(Syt1)由来ペプチド(AA33~53)を、N末端FITC標識(GenScript、Piscataway NJ)を用いて合成し、結合実験における受容体として50~100nMで使用した。溶出された完全長毒素をVivaspin6ろ過ユニット(10K MWCO、GE)で濃縮した。結合実験(50μL)は、フィルターベースのプレートリーダー(励起485nm/発光520nm)を用いて黒色96ウェルプレート(Corning)で測定した。BoNT/A及びBoNT/B Hcを別々に発現させて精製し、それぞれ陰性対照及び陽性対照として供した。
【0116】
参考文献
図1
図2
図3
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
図6
図7
図8
図9
【配列表】
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