(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】封入された二元金属クラスターを有するゼオライト材料
(51)【国際特許分類】
C01B 39/02 20060101AFI20220419BHJP
B01J 23/66 20060101ALI20220419BHJP
B01J 23/58 20060101ALI20220419BHJP
C07C 47/07 20060101ALI20220419BHJP
C07C 45/38 20060101ALI20220419BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20220419BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20220419BHJP
【FI】
C01B39/02
B01J23/66 M
B01J23/58 M
C07C47/07
C07C45/38
F01N3/10 A
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2018561495
(86)(22)【出願日】2017-05-23
(86)【国際出願番号】 US2017034024
(87)【国際公開番号】W WO2017205388
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-04-02
(32)【優先日】2016-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506115514
【氏名又は名称】ザ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティ オブ カリフォルニア
【氏名又は名称原語表記】The Regents of the University of California
(73)【特許権者】
【識別番号】503148834
【氏名又は名称】シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】特許業務法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】オットー、トレントン
(72)【発明者】
【氏名】イグレシア、エンリケ
(72)【発明者】
【氏名】ゾーンズ、ステイシー イアン
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-534902(JP,A)
【文献】国際公開第2017/202495(WO,A1)
【文献】RIAHI G,PREPARATION, CHARACTERIZATION AND CATALYTIC ACTIVITY OF GOLD-BASED NANOPARTICLES ON HY ZEOLITES,CATALYSIS TODAY,NL,2002年02月,VOL:72, NR:1-2,,PAGE(S):115 - 121,http://dx.doi.org/10.1016/S0920-5861(01)00485-0
【文献】HUBER, C. et al.,J. Phys. Chem.,Vol.98,1994年,pp. 12067-12074
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/02
B01J 23/66
B01J 23/58
C07C 47/07
C07C 45/38
F01N 3/10
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミノシリケートゼオライトであって、前記アルミノシリケートゼオライトの細孔中に封入された合金化された二元金属クラスターを有
し、
前記アルミノシリケートゼオライトが、CHA、ERI、GIS、KFI、LEV、LTA、RTH、若しくはSOD骨格タイプを有する小細孔ゼオライトであるか、又は
前記アルミノシリケートゼオライトが、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、MFS、MTT、MTW、若しくはTON骨格タイプを有する中細孔ゼオライトである、前記アルミノシリケートゼオライト。
【請求項2】
前記小細孔ゼオライトが、前記骨格タイプLTAを有する、請求項
1に記載のアルミノシリケートゼオライト。
【請求項3】
前記合金化された二元金属クラスターが、1~1.5の分散指数を有する、請求項1に記載のアルミノシリケートゼオライト。
【請求項4】
前記合金化された二元金属クラスター中の金属が、周期表の第8~12族から選択される、請求項1に記載のアルミノシリケートゼオライト。
【請求項5】
第8~12族の金属の総量が、複合体の全重量の0.1~5.0重量%である、請求項
4に記載のアルミノシリケートゼオライト。
【請求項6】
前記合金化された二元金属クラスターが、金及びパラジウム、金及び白金、またはパラジウム及び白金を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
請求項1に記載のアルミノシリケートゼオライトを合成する方法であって、前記方法が、
(a)ゼオライトを形成することが可能な反応混合物を調製する工程であって、前記反応混合物が、酸化ケイ素の供給源;酸化アルミニウムの供給源;第1または2族金属(X)の供給源;水酸化物イオン;元素の周期表の第8~12族の第1の金属前駆体(M
1)及び第2の金属前駆体(M
2)の供給源;チオール基及びアルコキシシリル基を有する連結剤(L);及び水を含む、前記調製する工程;
(b)前記アルミノシリケートゼオライトの結晶が形成されるまで85℃~180℃の温度及び5~250時間の時間を含む結晶化条件下で前記反応混合物を加熱する工程;
(c)工程(b)から前記アルミノシリケートゼオライトを回収する工程;
(d)250℃~500℃の温度及び0.5~5時間の時間を含む酸化条件下で工程(c)の前記アルミノシリケートゼオライトを酸素と接触させる工程;及び
(e)250℃~500℃の温度及び0.5~5時間の時間を含む還元条件下で工程(d)の前記酸化されたアルミノシリケートゼオライトを水素と接触させる工程、を含む、前記方法。
【請求項8】
前記アルミノシリケートゼオライトが、モル比に関して、以下を含む反応から調製されるゼオライトである、請求項
7に記載の方法:
【表1】
【請求項9】
前記反応混合物が、有機テンプレート材料を
0.001重量%以下含む、請求項
7に記載の方法。
【請求項10】
前記連結剤が、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項
7に記載の方法。
【請求項11】
有機化合物を含む供給原料を転化生成物に転化するためのプロセスであって、前記供給原料を有機化合物転化条件で触媒と接触させる工程を含み、前記触媒が、請求項1に記載のアルミノシリケートゼオライトを含む、前記プロセス。
【請求項12】
窒素酸化物(NO
x)を選択的に還元するためのプロセスであって、方法が、NO
xを含有するガス状ストリームを請求項1に記載のアルミノシリケートゼオライトを含む触媒と接触させることを含む、前記プロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゼオライトであって、その中に封入された合金化された二元金属クラスターを有するゼオライト、それを調製するためのプロセス、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
二元金属ナノ粒子触媒は、CO酸化、アルカン脱水素、及びNOx還元のように多様な反応のターンオーバー頻度及び選択性において純金属に対して相乗的な向上をもたらし得る触媒活性混合金属相の特有の電子的及び構造的特性のためにかなりの関心を集めている。これらの速度及び選択性の向上はしばしば、触媒作用の更なる利益を伴う。第2の金属の添加は、第1の金属の還元を補助し、クラスター凝集しやすい金属の熱安定性を改善し、または硫黄もしくは他の毒による失活を妨げ得る。そのような効果は、被吸着物質結合特性を変化させ得る部分的電荷をもたらす、第1の金属と第2の金属との電子的改変によって、または第1の金属の小さな集合体が単離され、希釈金属によって安定化される、結合しているが区別された幾何学的効果を介してもたらされ得る。これらの効果を明確に見分けるか、または二元金属クラスターの反応性の総体的な機械的解釈を提供しようとする徹底的な研究では、サイズ及び組成が均一に分布したナノ粒子が必要とされる。
【0003】
しかしながら、そのような上手く定義された合金を調製するための策略はしばしば、クラスター均一性についてのこれらの厳しい要件の達成を妨げる合成上の課題に直面するか、または多様な元素組成のクラスターに対する一般的な適用可能性を犠牲にしてのみこの均一性を達成し得る。
【0004】
二元金属クラスターは、メソポーラス足場上への金属塩の逐次吸着及び沈殿または共含浸により最も一般的に調製される。しかしながら、そのような技術は、担体上への金属の配置を注意深く制御することができないことが問題となり、それ故、単金属及び二元金属種の二峰性混合物をもたらす。制御されたアセンブリ技術は、まず酸化物担体に、次いで共有結合で固定された金属自体に有機金属化合物を逐次グラフトすること(後者の工程は、合金化を促進する強い金属-金属相互作用を実現する)によりこれらの欠点を解決する。これらの技術は、担体の代わりに互いに選択的に相互作用する金属及び金属錯体に限定され、しばしば第2の析出金属の単金属クラスターを形成する。ガルバニック置換及び無電解析出法は、対照的に、レドックス化学反応により予め形成された単金属クラスターへの二次金属の選択的な配置を可能にする。これらの技術は典型的には、組成が均一に分布した二元金属クラスターをもたらすが、それらの分散は、最終的に単金属シード金属のものに制限される;これらのシード上への析出に利用可能な元素はまた、それらの単金属クラスターの均質な核形成に対して安定な前駆体を有する金属に制約される。懸濁したナノ粒子の凝集を防止するポリマーの存在下で金属カチオン前駆体の還元により典型的に進行するコロイド合成技術は、組成が均一に分布し、サイズが高度に分散した二元金属クラスターを生成し得る。しかしながら、付着したポリマーの除去はしばしば、高温(>573K)での処理を必要とし、これは、二元金属クラスターの意図されたサイズ及び組成の均一性を損なう焼結プロセスにつながり得る。
【0005】
合金ナノ粒子は、代替的に、ゼオライト材料の空隙内で調製され得る。そのような空隙内での閉じ込めは、大きな毒種からの活性金属表面の保護、特定の遷移状態の安定化、及びゼオライトをそのような遍在的に有用な触媒としてきた反応物サイズの選択特性を含む、触媒作用のためのいくつかの追加の明確な利点をもたらす。ゼオライト空隙内の金属封入は、ゼオライト骨格中の負に荷電した部位へのカチオン性金属前駆体のイオン交換により達成される。これらの交換されたゼオライトの還元処理は、ゼオライトの空隙全体にわたって分散した単金属クラスターを形成し、その後、第2の金属の交換及び還元が、封入された二元金属クラスターを形成する。そのような技術は、573Kを超える温度での焼結に対して安定な封入された合金クラスターを調製するために成功裏に実施されてきたが、連続的なイオン交換プロセスは、均一な組成を保証するものではなく、溶媒和された金属カチオンが骨格に入るのに十分な細孔開口部を有するゼオライトに制限される。小細孔及び中細孔ゼオライト内の開口部は、そのようなゼオライト中の小さな開口部を介して拡散することができない溶媒和された金属-オキソオリゴマーの移行を必要とする、水性媒体からのイオン交換による合成後封入プロトコルを妨げる。
【0006】
本開示によれば、サイズ及び組成が狭く分布した二元金属クラスターが、ここで、リガンド補助水熱合成技術により、合成後封入プロトコルを妨げるゼオライトの空隙内に封入された。
【発明の概要】
【0007】
一態様では、本発明は、アルミノシリケートゼオライトの細孔中に封入された合金化された二元金属クラスターを有するアルミノシリケートゼオライトに属する。
【0008】
別の態様では、本発明は、本明細書に記載のアルミノシリケートゼオライトを合成する方法に属し、その方法は、(a)ゼオライトを形成することが可能な反応混合物を調製する工程であって、その反応混合物が、酸化ケイ素の供給源;酸化アルミニウムの供給源;第1または2族金属(X)の供給源;水酸化物イオン;元素の周期表の第8~12族の第1の金属前駆体(M1)及び第2の金属前駆体(M2)の供給源;チオール基及びアルコキシシリル基を有する連結剤(L);及び水を含む、調製する工程;(b)アルミノシリケートゼオライトの結晶が形成されるまで85℃~180℃の温度及び5~250時間の時間を含む結晶化条件下で反応混合物を加熱する工程;(c)工程(b)からアルミノシリケートゼオライトを回収する工程;(d)250℃~500℃の温度及び0.5~5時間の時間を含む酸化条件下で工程(c)のアルミノシリケートゼオライトを酸素と接触させる工程;及び(e)250℃~500℃の温度及び0.5~5時間の時間を含む還元条件下で工程(d)の酸化されたアルミノシリケートゼオライトを水素と接触させる工程を含む。
【0009】
更なる態様では、本発明は、有機化合物を含む供給原料を転化生成物に転化するためのプロセスであって、有機化合物転化条件で供給原料を触媒と接触させる工程を含み、その触媒が本明細書に記載のアルミノシリケートゼオライト材料を含む、プロセスに属する。
【0010】
また更なる態様では、本発明は、窒素酸化物(NOx)を選択的に還元するためのプロセスであって、そのプロセスが、NOxを含有するガス状ストリームを本明細書に記載のアルミノシリケートゼオライト材料を含む触媒と接触させることを含む、プロセスに属する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】いくつかの二元金属の金属-ゼオライト試料及び金属非含有NaLTAゼオライト標準の粉末X線回折(XRD)パターンを示している。
【
図2】
図2A~2
Lは、単金属及び二元金属ゼオライト試料の選択についての透過型電子顕微鏡写真(TEM)及び粒子サイズ分布を示している。
図2Aは
、TEMを示している。
図2Bは、AuNaLTAの粒子サイズ分布を示している。図2Cは
、TEMを示している。
図2Dは、Au
50
Pd
50
NaLTAの粒子サイズ分布を示している。図2Eは
、TEMを示している。
図2Fは、PdNaLTAの粒子サイズ分布を示している。図2Gは
、TEMを示している。
図2Hは、Au
50
Pt
50
NaLTAの粒子サイズ分布を示している。図2Iは
、TEMを示している。
図2Jは、PtNaLTAの粒子サイズ分布を示している。図2Kは
、TEMを示している。
図2Lは、Pd
65
PT
35
NaLTAの粒子サイズ分布を示している。
【
図3】AuNaLTA(o)、Au
50Pd
50NaLTA(△)、及びAu
50Pt
50NaLTA(□)における金属粒子のTEM由来の表面平均クラスター直径(<d
TEM>)に対する流動乾燥空気処理温度(1.67cm
3g
-1s
-1、5時間)の影響を示している。
【
図4】
図4A及び
図4Bは、単金属AuNaLTA(・・・)、単金属PdNaLTA(4A)またはPtNaLTA(4B)(-・-)、単金属AuNaLTA及びPdNaLTA(4A)またはPtNaLTA(4B)の物理的混合物(---)、ならびに二元金属Au
67Pd
33NaLTA(4A)またはAu
67Pt
33NaLTA(4B)(実線)のUV-可視光吸収スペクトルを示している。
【
図5】
図5A~
図5Eは、H
2処理(573K、20kPaのH
2、80kPaのHe)後(灰色スペクトル)及び353KまでのCO中(1kPaのCO、99kPaのHe)での加熱後(黒色スペクトル)の278Kでの金属または二元金属Au
nPd
100-nCaLTA試料で吸着された一酸化炭素(CO)の赤外線(IR)スペクトルを示している。
図5Aは、Auのスペクトルを示している。
図5Bは、Ptのスペクトルを示している。
図5Cは、Pt
33Au
67のスペクトルを示している。
図5Dは、Pt
50Au
50のスペクトルを示している。
図5Eは、Pt
67Au
33のスペクトルを示している。
【
図6】
図6A~6Eは、H
2処理(573K、20kPaのH
2、80kPaのHe)後(灰色スペクトル)及び353KまでのCO中(1kPaのCO、99kPaのHe)での加熱後(黒色スペクトル)の278Kで単金属または二元金属Au
nPd
100-nCaLTA試料で吸着されたCOのIRスペクトルを示している。
図6Aは、Auのスペクトルを示している。
図6Bは、Pdのスペクトルを示している。
図6Cは、Pd
33Au
67のスペクトルを示している。
図6Dは、Pd
50Au
50のスペクトルを示している。
図6Eは、Pd
67Au
33のスペクトルを示している。
【
図7】Pd-CO(架橋(bridged))IR吸収バンドのPd-CO(頂部(atop))バンドに対する積分強度の比をAuPdCaLTA二元金属試料中のPd/Au原子比の関数として示している。
【
図8】H
2処理(573K、20kPaのH
2、80kPaのHe)後に313Kで単金属または二元金属Pd
nPt
100-nCaLTA試料(1kPaのCO、99kPaのHe)で吸着されたCOのIRスペクトルを示している。
【
図9】Pd-CO(架橋)吸収バンド(約1900cm
-1)の積分強度の金属-CO頂部バンド(約2100cm
-1)のそれに対する比をPd
nPt
100-nCaLTA試料中のPd含有量の関数として示している。
【
図10】Au-L
3端で測定されたAu
nPd
100-nNaLTA及びAuホイルについてのk
3加重広域X線吸収微細構造(EXAFS)のフーリエ変換(FT)及びそれらの対応する単一散乱フィッティングを示している。点線は実験データを表している一方で、実線はフィッティングされたデータを表している。
【
図11】Pd-K端で測定されたAu
50Pd
50NaLTA、Pd
65Pt
35NaLTA、及びPdホイルについてのk
3加重EXAFSのフーリエ変換及びそれらの対応する単一散乱フィッティングを示している。点線は実験データを表している一方で、実線はフィッティングされたデータを表している。
【
図12】Pt-L
3端で測定されたPd
65Pt
35NaLTA及びPtホイルについてのk
3加重EXAFSのフーリエ変換及びそれらの対応する単一散乱フィッティングを示している。点線は実験データを表している一方で、実線はフィッティングされたデータを表している。
【発明を実施するための形態】
【0012】
序文
「合金」という用語は、存在する元素の間の任意の特定の配位または元素の同一性に限定されることなく、それらの還元形態または部分還元形態の2つ以上の元素の結合構造を指す。
【0013】
「クラスター」という用語は、2つ以上の原子の識別可能な会合を指す。そのような会合は、典型的には、いくつかの種類の結合-イオン性、共有結合性、ファンデルワールス力などによって確立される。
【0014】
「封入された」という用語は、別の材料によって完全に取り囲まれた物質を指す。本開示の文脈では、封入された金属は、マイクロポーラスゼオライト空隙内に包囲された金属である。
【0015】
本明細書で報告される粉末X線回折(XRD)データは、Cu-Kα放射線(λ=0.15418nm、40kV、40mA)を用いてD8 Discover GADDS粉末回折計で収集した。試料をまず粉砕して微粉末とし、次いで測定のための石英スライド上に置き、平らにした。ディフラクトグラムは、5~50°の範囲の2θ値及び0.00625度s-1の走査速度について測定された。
【0016】
本明細書で報告される透過型電子顕微鏡写真(TEM)は、Philips/FEI Technai12顕微鏡で収集された。TEM画像化のための試料は、微粉砕された粉末をアセトン中に分散させ、それらを400メッシュの銅グリッド(Ted Pella Inc.)に担持された有孔炭素膜上に堆積させることによって調製された。金属クラスターのサイズ分布は、各試料について>300の粒子から測定され、方程式(1)に従って表面平均クラスター直径<d
TEM>を決定するために使用された:
【数1】
(式中、n
iは、直径d
iを有するクラスターの数である)。これらのサイズ分布は更に、方程式2に従って数平均(<d
n>)直径に対する表面平均(<d
TEM>)径の比によって与えられる分散指数(DI)値を計算するために使用された:
【数2】
DI値は、粒子サイズの均一性を示し、1は完全な単分散に相当し、<1.5の値はほぼ単分散の分布として扱う。DI値は、IUPACガイドラインにもかかわらず、広く報告されていない;そのため、平均粒子径の標準偏差もここで報告されて、粒子サイズ均一性の第2の測定基準を提供する。
【0017】
クラスター表面で露出した金属原子の割合として定義される金属分散(D)は、方程式(3)に従って<d
TEM>から推定された:
【数3】
【0018】
本明細書で報告される合成及び処理された金属-ゼオライト試料のUV-可視光スペクトルは、Harrick科学拡散反射率付属物(DRP-XXX)を有するVarian-Cary6000i分光計及び反応チャンバ追加物(DRA-2CR)を使用して得られた。<100μmの集合物を保持するために粉砕され、篩がけされたAuNaLTA、AunPd100-nNaLTA、及びAunPt100-nNaLTA(各0.1g)粉末について周囲温度で100kPaのHe下でスペクトルを収集した。バックグラウンドスペクトルは、スペクトル吸光度に対する埋め込まれた金属の影響を区分けするために使用され、金属-NaLTAとして合成及び処理されたNaLTA試料について収集された。
【0019】
AunPd100-nCaLTA、AunPt100-nCaLTA、及びPdnPt100-nCaLTAウエハ(40mgcm-2)に吸着されたCOの赤外線(IR)スペクトルは、金属粒子の表面組成を調べるために収集された。本明細書で報告されるスペクトルは、現場フローセルを備えたThermo Nicolet 8700分光計で得た。全ての試料ウエハを、まず流動H2/He混合物(8.4cm3g-1s-1のH2、33.6cm3g-1s-1のHe)中で周囲温度から573Kまで1時間加熱(0.033Ks-1)した。次いで、PdnPt100-nCaLTA試料を、He流(42.0cm3g-1s-1)中で313Kに急速に冷却(-0.17Ks-1)し、流動CO/He(42.0cm3g-1s-1;1.0kPaのCO)に曝露してからIRスペクトルを収集した。AunPd100-nCaLTA試料は、573KでのH2/He処理の後、代わりに流動He(42.0cm3g-1s-1)中で278Kに冷却(-0.17Ks-1)し、その後、流動CO/He(42.0cm3g-1s-1;1.0kPaのCO)下でスペクトルをまた収集した。次いで、AunPd100-nCaLTA試料を流動CO/He中で353Kに0.5時間加熱(0.033Ks-1)し、次いで連続的CO流の下で278Kに冷却(-0.17Ks-1)して戻し、その時点で第2のスペクトルを収集した。AunPt100-nCaLTA試料を、それらを278Kの代わりに263Kに冷却したこと以外は、AunPd100-nCaLTAと似たように処理した。AuPd及びAuPt二元金属試料を、合金化されたクラスターの表面組成の変化を誘導する目的で、間欠的な期間のCO曝露及び加熱に供した。細孔窓を拡大し、ゼオライト内部へのCOのアクセス可能性を改善するために、これらの実験の前に、本明細書で報告される合成手順によって生成されたNaLTAゼオライト(0.42nmの開口部)をCa2+と交換した(CaLTAを形成した;0.50nmの開口部)。CO(g)及びCa2+-CO錯体からのスペクトル寄与は、報告された全てのスペクトルから差し引かれた。
【0020】
本明細書で報告されるX線吸収分光法(XAS)データは、LNLS(Laboratorio Nacional do Luz Sincrotron,Campinas,Brazil)のXDSビームラインを使用してAu-L3端(11,919eV)、Pd-K端(24,350eV)、及びPt-L3端(11,564eV)で実施された。2結晶Si(311)またはSi(111)モノクロメーターが、それぞれPd-K端またはAu-L3及びPt-L3端での吸収測定のために用いられた;高調波ビーム成分は、これらのモノクロメーターを使用して1%未満であった。全ての実験は透過モードで実施され、ビーム強度は、周囲温度及び1バールの圧力でN2とArとの混合物で満たされた一連の3つのイオン化チャンバを使用して測定された。光子エネルギーは、第2と第3のイオン化チャンバの間に配置された金属ホイル(Au、Pd、またはPt)の薄膜を介して、試料と同時に、ビーム透過を測定することによって較正された。Au50Pd50NaLTA及びPd65Pt35NaLTA試料についてXASスペクトルを測定した;対応する端の200eV前と1000eV後の範囲において存在する両方の金属(Au-L3及びPd-K、またはPd-K及びPt-L3)の吸収端で二元金属試料のスペクトルを収集した。試料(各0.1g)をまず流動10%H2/Ar(1.67cm3g-1s-1)中で573K(0.033Ks-1)で1時間処理することで調製し、Ar流(1.67cm3g-1s-1)の下で周囲温度に冷却した。次いで、それらを大気圧及び周囲温度でAr下でKAPTON(登録商標)窓で密閉封止されたXASセルに移した。試料をこのセル内で約10時間保存し、その後、周囲温度でXASスペクトルを収集した。
【0021】
本明細書で報告される広域X線吸収微細構造(EXAFS)データ分析は、IFFEFITパッケージ(Athena,Artemis)を使用して行われた。スペクトルのバックグラウンド除去及び端工程正規化は、Athenaに実装されたAUTOBKアルゴリズムを使用して実施された。配位数(N)、原子間距離(D)、及びそれらのデバイ-ワラー因子(σ2)を含む金属の構造情報は、r空間でフーリエ変換されたデータの非線形最小二乗フィッティングを使用してArtemisから得られ、全ての単一散乱経路についての理論振幅及び位相シフトはFEFFによって計算された(S.I.Zabinsky et al.,Phys.Rev.B 1995,52,2995-3009を参照されたい)。全てのデータのフィッティングは、r空間で1.0~3.0Åの間で行われ、Hanning窓を有するk空間で2~13Å-1にわたってk3加重EXAFSをフーリエフィルタリングすることによって生成された。これらのフィッティングに使用される理論的散乱経路の振幅及び位相シフトは、(Au-Au、Pd-Pd、及びPt-Pt経路の場合は)単金属格子または(Pd-Au及びPd-Pt経路の場合は)混合相格子のいずれかの結晶学的構造(これらは全て面心立方(FCC)である)から計算された。これらの二元金属格子における吸収金属の第1の配位殻は、ICPによって各試料において測定される金属のモル比を反映する割合で好まれるまたは好まれない原子で満たされた。二元金属試料から抽出されたEXAFSデータは、両方の金属端で同時にフィッティングされ、それ故、二元金属経路の原子間距離及びデバイ-ワラー因子の一貫性を確保する。金属酸化物(PdO、PtO)または金属硫化物(PdS、PtS、Au2S3)結晶構造から理論振幅及び位相が計算される、低Z種(O及びS)による光電子単一散乱はまた、これらの非金属結合のEXAFSへの寄与を試験するためにフィッティングに含まれていた。各金属についての受動的還元因子(S0
2)(Au:0.95、Pd:0.83、Pt:0.96)は、それぞれの場合に配位数を12に制限することによって金属ホイルのEXAFSスペクトルに対する単一散乱フィッティングから得られた。
【0022】
本明細書で報告される合成及び処理された試料中の金属含有量は、Perkin Elmer 5300 DV光放射ICP分析器を使用して誘導結合プラズマ光放射分光法(ICP-OES)によって測定された。
【0023】
反応混合物
一般に、ゼオライトは:(a)(1)酸化ケイ素の供給源;(2)酸化アルミニウムの供給源;(3)第1または2族金属(X)の供給源;(4)水酸化物イオン;(5)元素の周期表の第8~12族の第1の金属前駆体(M1)及び第2の金属前駆体(M2)の供給源;(6)チオール基及びアルコキシシリル基を有する連結剤(L);及び(7)水を含有する反応混合物を調製し、(b)ゼオライトの結晶を形成するのに十分な結晶化条件に反応混合物を供することによって合成される。
【0024】
反応混合物を形成するために反応器に添加される試薬の相対量はまた、標的ゼオライトに応じて既知の手法で変化するであろう。それ故、標的ゼオライトがLTA骨格タイプを有する一実施形態では、モル比に関してゼオライトが形成される反応混合物の組成が、以下の表1に特定されている:
【表1】
組成変数X、M
1、M
2、及びLは、本明細書で上述したとおりである。
【0025】
酸化ケイ素の好適な供給源には、ヒュームドシリカ、コロイドシリカ、沈降シリカ、アルカリ金属シリケート、及びテトラアルキルオルトシリケートが含まれる。
【0026】
酸化アルミニウムの好適な供給源には、水和アルミナ及び水溶性アルミニウム塩(例えば、硝酸アルミニウム)が含まれる。
【0027】
第1または第2族金属の供給源には、金属酸化物、金属塩化物、金属フッ化物、金属硫酸塩、金属硝酸塩、または金属アルミン酸塩が含まれる。
【0028】
成分X、Al2O3及びSiO2のうちの2つ以上の組み合わされた供給源も使用することができ、例えば、アルミン酸ナトリウム、クレーまたは処理済クレー(例えば、メタカオリン)、及びアルミノシリケートゼオライト(例えば、BEA及びFAU骨格型アルミノシリケートゼオライト)を含み得る。
【0029】
第1及び第2の金属前駆体の金属は、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Pd、Pt、Cu、Ag、及びAuから選択され得る。好適には、第1及び第2の金属前駆体の金属は、Pd、Pt、及びAuから選択され得る。第2の金属前駆体は、第1の金属前駆体とは異なる。金属前駆体は、アミンまたはエチレンジアミン錯体であり得る。金属前駆体はまた、連結金属であり得る。
【0030】
連結剤は、チオール基及びアルコキシシリル基を有する有機化合物である。好適な連結剤には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルエトキシシラン、及びメルカプトメチルトリメトキシシランが含まれる。
【0031】
いかなる特定の理論にも縛られることなく、連結剤中のチオール基(-SH)は、後期遷移金属に強く結合して、リガンド交換を介して安定な金属-硫黄付加物を形成すると考えられる。これらの金属-硫黄付加物は、ゼオライト合成に必要とされる高いpHにおいてさえ、バルク金属水酸化物の形成に耐性である。その上、連結剤のアルコキシシリル基は、アルカリ性媒体中で加水分解を受けて、核形成ゼオライト構造と共有Si-O-SiまたはSi-O-Al結合を形成し、それによってその後のゼオライト結晶成長の間に金属封入を実行する連結を形成する。
【0032】
反応混合物中の第1及び第2の金属前駆体に対する連結剤のモル比[L/(M1+M2)]は、4~10(例えば、5~8)の範囲であり得る。
【0033】
反応混合物はまた、望ましくは反応混合物の0.01~10,000重量ppm(例えば、100~5000重量ppm)の量でゼオライト材料のシードを含有し得る。
【0034】
反応混合物は、有機テンプレート材料を実質的に含まず、ここで、合成プロセスで使用される1種以上の材料に含有される1種以上の有機テンプレートの量に関して本明細書で用いられる「実質的に」は、1種以上の有機テンプレートの0.001重量%以下(例えば、0.0005重量%以下、または0.00001重量%)の量を示す。1種以上の有機テンプレートの量は、仮に合成プロセスで使用される材料のいずれか1つに存在する場合、本開示の意味の範囲内で、「不純物」または「痕跡量」としても示され得る。本開示で用いられる「有機テンプレート」という用語は、CHA、ERI、EUO、FER、GIS、HEU、KFI、LEV、LTA、MEL、MFI、MFS、MTT、MTW、RTH、SOD、TON、及びそれらの組み合わせ(例えば、LTA骨格タイプを有するゼオライト)からなる群から選択される骨格タイプを有するゼオライトなどのゼオライト材料のテンプレート介在合成に好適な任意の考えられる有機材料を示す。
【0035】
反応混合物は、バッチ式または連続式のいずれかで調製され得る。本明細書に記載のゼオライトの結晶サイズ、モルフォロジー及び結晶化時間は、反応混合物の性質及び結晶化条件によって変化し得る。
【0036】
結晶化及び合成後処理
本明細書で開示されるゼオライトの結晶化は、ポリプロピレンジャーまたはTeflonで内張りされたもしくはステンレス鋼のオートクレーブなどの好適な反応容器内で、静的、タンブルまたは撹拌のいずれかの条件下で、約85℃~180℃の温度で、使用される温度で結晶化が生じるのに十分な時間、例えば、5~250時間実施され得る。反応混合物は、自生的圧力下で、または任意に窒素などのガスの存在下で反応し得る。
【0037】
ゼオライト結晶が形成されたら、固体生成物は、遠心分離または濾過などの標準的な機械的分離技術によって反応混合物から分離される。結晶を水洗し、次いで乾燥させて、合成されたままのゼオライト結晶を得る。乾燥工程は典型的には、200℃未満の温度で実施される。
【0038】
次いで、合成されたままのゼオライトは、それぞれ酸素及び水素の存在下で逐次酸化及び還元処理に供される。ゼオライトの逐次酸化及び還元処理は、サイズが狭く分布したままである二元金属クラスターの形成をもたらす。還元された材料は典型的には、周囲空気に曝露される前に不動態化される。
【0039】
酸化及び還元処理のための条件は、周囲圧力下で適切な期間(例えば、0.5~5時間、または1~3時間)250℃~500℃の温度にゼオライトを加熱することを含む。酸化条件下での合成されたままのゼオライトの処理はまた、その合成に使用される有機部分のいずれかの除去を容易にする。
【0040】
ゼオライトの特性化
本明細書に記載のプロセスによって形成されるゼオライトは、小細孔ゼオライトまたは中細孔ゼオライトであり得る。小細孔サイズのゼオライトは、3Å(0.3nm)から5.0Å(0.5nm)未満の平均細孔サイズを有し、例えば、CHA、ERI、GIS、KFI、LEV、LTA、RTH、及びSOD骨格タイプのゼオライト(IUPAC Commission of Zeolite Nomenclature)を含む。中細孔サイズのゼオライトは、5Å(0.5nm)~7Å(0.7nm)の平均細孔径を有し、例えば、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、MFS、MTT、MTW、及びTON骨格タイプのゼオライト(IUPAC Commission of Zeolite Nomenclature)を含む。一実施形態では、本明細書に記載のプロセスによって形成されるゼオライトは、LTA骨格タイプを有する。
【0041】
小及び中細孔ゼオライトの開口部は、そのようなゼオライト中の小さな開口部を介して拡散することができない溶媒和された金属-オキソオリゴマーの移行を必要とする、水性媒体からのイオン交換による従来の合成後封入プロトコルを妨げる(例えば、小細孔ゼオライトでは二価以上及び中細孔ゼオライトでは三価以上)。
【0042】
本明細書に開示されるゼオライトの封入された二元金属クラスターは、小さなサイズを有するものとして特性化され得る。封入されたクラスターは、1.0~2.0nm(例えば、1.1~1.9nm、1.2~1.8nm、または1.3~1.7nm)の表面加重平均クラスター直径<dTEM>を有し得る。表面積加重平均クラスター直径はTEMにより決定される(方程式1を参照されたい)。
【0043】
本明細書に開示されるゼオライトの封入された二元金属クラスターは、狭いサイズ分布を有するものとして特性化され得る。封入されたクラスターは、1.50以下(例えば、1.00~1.50、1.00~1.25、1.00~1.15、1.05~1.50、1.05~1.25、または1.05~1.15)の分散指数を有し得る。分散指数は、表面平均クラスター直径を数平均直径で除したものとして計算される(方程式2を参照されたい)。
【0044】
第8~12族の金属の総量は、複合体の全重量を基準として、0.1~5.0重量%(例えば、0.1~2.5重量%、0.1~2.0重量%、0.1~1.5重量%、0.3~約5.0重量%、または0.3~2.5重量%、0.3~1.5重量%、0.5~5.0重量%、0.5~2.5重量%、または0.5~1.5重量%)であり得る。
【0045】
本明細書で開示されるゼオライトの封入された二元金属クラスター中の金属は、99:1~1:99(例えば、95:5~5:95、75:25~25:75、または60:40~40:60)の第2の金属に対する第1の金属の金属比を有し得る。二元金属の金属は、元素の周期表の第8~12族から選択され得る。二元金属の金属は、金及びパラジウム、金及び白金、またはパラジウム及び白金からなり得る。
【0046】
ゼオライトを使用するプロセス
本開示のゼオライトは、現在の商業的/工業的に重要な多くのものを含む多種多様な有機化合物転化プロセスを触媒するための触媒として使用され得る。本ゼオライトによって触媒され得る有機転化プロセスの例には、アルキル化、(ヒドロ)分解、不均化、(ヒドロ)異性化、オリゴマー化、及び酸素含有物の1種以上のオレフィン、特にエチレン及びプロピレンへの転化が含まれる。
【0047】
本開示のゼオライトは、ガスストリーム中の窒素酸化物の触媒還元のための触媒として使用され得る。
【0048】
多くの触媒の場合と同様に、本ゼオライトを、有機転化プロセスに用いられる温度及び他の条件に対して耐性である別の材料と共に組み込むことが望ましい場合がある。そのような材料には、活性及び不活性材料及び合成または天然に存在するゼオライトならびにクレー、シリカ及び/またはアルミナなどの金属酸化物などの無機材料が含まれる。後者は、天然に存在するか、またはシリカと金属酸化物との混合物を含むゼラチン状沈殿物またはゲルの形態のいずれかであり得る。本ゼオライトと併せられた、すなわち、それと組み合わされた、または活性である材料の合成中に存在する材料の使用は、所定の有機転化プロセスにおける触媒の転化率及び/または選択性を変化させる傾向がある。不活性材料は、所与のプロセスにおいて転化の量を制御するための希釈剤として好適に機能するので、生成物は、反応速度を制御するための他の手段を用いることなく経済的かつ秩序ある手法で得られ得る。これらの材料は、市販の稼働条件下で触媒の圧壊強度を改善するために、天然に存在するクレー(例えば、ベントナイト及びカオリン)に組み込まれ得る。これらの材料(すなわち、クレー、酸化物など)は、触媒のためのバインダーとして機能する。商業的使用において触媒が粉末状材料に分解することを防止することが望ましいため、良好な圧壊強度を有する触媒を提供することが望ましい。これらのクレー及び/または酸化物バインダーは、触媒の圧壊強度を向上させる目的でのみ通常は用いられてきた。
【0049】
本ゼオライトと複合体化され得る天然に発生するクレーには、モンモリロナイト及びカオリン族におけるものが含まれ得、それらの族には、サブベントナイト、ならびにDixie、McNamee、Georgia及びFloridaクレーとして一般的に知られているカオリンまたは主要鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、またはアナウサイトである他のものが含まれる。そのようなクレーは、最初に採掘されたままの未加工状態で使用され得るか、または初めに焼成、酸処理または化学的改質に供され得る。本モレキュラーシーブと複合するのに有用なバインダーにはまた、無機酸化物、例えばシリカ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、ベリリア、アルミナ、及びこれらの混合物が含まれる。
【0050】
上記の材料に加えて、本ゼオライトは、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアなどの多孔質マトリックス材料及びシリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア及びシリカ-マグネシア-ジルコニアなどの三元組成物と複合体化され得る。
【0051】
本ゼオライト及び無機酸化物マトリックスの相対的な割合は、複合体の1~90重量%(例えば、2~80重量%)の範囲の本ゼオライトの含有量で広く変化し得る。
【実施例】
【0052】
以下の例示的な実施例は非限定的であることが意図されている。
ゼオライトに封入されたAu、Pd、Pt及び二元金属AuPd、AuPt、及びPdPtクラスターの調製
二元金属の金属が封入されたNa-LTAゼオライト(M1M2NaLTA(M1及びM2はAu、Pd、またはPtである)のための調製手順は、それらの単金属対応物についての水熱合成プロトコルから適合され(M.Choi et al.,J.Am.Chem.Soc.2010,132,9129-9137;及びT.Otto et al.,J.Catal.2016,339,195-208を参照されたい)、ゼオライト合成ゲルに複数の金属カチオン種を組み込むように変更された。3つの単金属試料(AuNaLTA、PdNaLTA、及びPtNaLTA)及び二元金属試料(AunPd100-nNaLTA、AunPt100-nNaLTA、及びPdnPt100-nNaLTA(0≦n≦100であり、含められた金属の相対%モル量を示している)のための合成プロトコルは、類似の手順に従い、これは、各ゲルに添加される貴金属カチオンの同一性及び割合量のみ異なる。
【0053】
Au50Pd50NaLTAの合成において、例えば、保護リガンド3-メルカプトプロピル-トリメトキシシラン(0.96g)及びNaOH(4.8g)をまず開口125mLポリプロピレンボトル内で脱イオンH2O(17.9MΩ抵抗;18mL)に溶解し、磁気撹拌した(6.7Hz;8時間)。次いで、HAuCl4・3H2O(9mLの脱イオンH2O中0.156g)及びPd(NO3)2(9mLの脱イオンH2O中0.118g)の水溶液を同時かつ滴下で塩基性リガンド溶液に0.5時間の期間にわたって添加しながら、その混合物を磁気棒で連続的に掻き混ぜた(6.7Hz)。次いで、コロイドシリカ(10.67g、LUDOX(登録商標)AS-30)をポリプロピレンボトルに添加し、これをそのキャップで封止し、連続的な磁気棒による撹拌(6.7Hz)もしながら353Kに0.5時間加熱した。次いで、NaAlO2(18mLの脱イオンH2O中6.0g)の水溶液をシリカ、リガンド、及び金属カチオン溶液に滴下して添加し、周囲温度で2時間磁気撹拌(6.7Hz)によって混合した;この混合は、1.7SiO2/1Al2O3/3.2Na2O/110H2O/0.013Au/0.013Pd/0.156リガンドのモル比を有する均質な合成ゲルをもたらした。最後に、ゲルを連続磁気撹拌(6.7Hz)で373Kに12時間加熱して、Au50Pd50NaLTAを形成した。このプロセスによって形成された固体を濾過し(Pyrex 3606フリットファンネル、4~5.5μm)、リンス液がpH7~8に達するまで脱イオンH2Oで洗浄し、対流式オーブン内で373Kで8時間処理した。次いで、固体を流動乾燥空気(1.67cm3g-1s-1)中で周囲温度から623Kに加熱し(0.033Ks-1)、2時間保持し、周囲温度に冷却し、次いで流動H2(1.67cm3g-1s-1)中で623Kに加熱し(0.033Ks-1)、2時間保持した。次いで、723Kでの空気(1.67cm3g-1s-1)中での最終加熱手順(0.033Ks-1)を2時間行った。
【0054】
各二元金属試料に存在する2種の金属のモル比は、1.0重量%の理論的装填量で固定された総金属含有量を維持しつつ、ゲルに添加される貴金属カチオン前駆体(HAuCl4・3H2O、Pd(NO3)2、またはH2PtCl6)の相対量を変えることによって調節した。単金属の金属-ゼオライト試料も1.0重量%の理論的装填量で合成した。添加した金属に対する3-メルカプトプロピル-トリメトキシシランのモル比は、使用した金属カチオンの同一性にかかわらず、各試料の合成について6で固定した。
【0055】
空気及びH2で処理した金属-NaLTA試料を、赤外線研究で使用する前に、Ca2+イオンと交換してホストゼオライトCaLTAに転化した。カルシウム交換は、CaCl2・2H2O(100mL当たり1gのゼオライト)の1M水溶液に単金属または二元金属の金属-ゼオライト試料(1~5g)を添加し、周囲温度で8時間磁気撹拌(6.7Hz)することによって実施された。交換は、十分なCa2+交換を確保するために10回繰り返し、固体を濾過し、脱イオン水(1500mLg-1)で洗浄し、最後に周囲空気中で対流式オーブン内で373Kで12時間処理した。
【0056】
メソポーラスSiO2上でのAu、Pd、及びPtクラスターの合成
メソポーラスSiO2上に分散したAu、Pd、及びPtクラスターを合成し、ゼオライトによって担持された二元金属クラスターとの比較用の酸化的脱水素(ODH)触媒として使用した。Pd(NH3)4Cl2及びH2PtCl6の水溶液をそれぞれ使用して初期湿潤含浸でPd/SiO2及びPt/SiO2触媒を調製した。これらのシリカ担持クラスターを周囲空気中で処理し、乾燥空気を流し、金属-ゼオライト試料と同じ手順を使用してH2を流した。
【0057】
SiO2(Cab-O-Sil、HS-5、310m2g-1上に分散したクラスターをAu(en)2Cl3(en=エチレンジアミン)錯体を使用して調製した。
【0058】
ゼオライト金属装填量及び相純度の特性化
LTA封入金属ナノ粒子試料は、AuとPd(AunPd100-nNaLTA)、AuとPt(AunPt100-nNaLTA)、またはPdとPt(PdnPt100-nNaLTA)及び各金属ペアについて広い範囲のモル比で合成した。合成中に添加された金属前駆体の量は、添加される金属の回収される固体への完全な組み込みを想定して、各試料中に1.0重量%の総金属装填量を達成するように選択した。金属種の公称モル比は、各試料の下付き文字によって示される(例えば、Au67Pd33NaLTA;67Au:33Pdのモル比)。
【0059】
表1は、ICPによって測定された、合成された二元金属試料及びこれらの試料の最終的な金属含有量及び組成をまとめている。元素分析は、実際の金属装填量及び組成が全ての場合においてそれらの公称値と同様であることを確認し、添加された金属種の合成された固体への完全な組み込みと整合する。いかなる特定の理論にも縛られることなく、そのような完全な組み込みは、凝固するシリケートに共有結合で固定し、かつ濾過によって最終的に除去される上澄み溶液中の金属前駆体の溶媒化を妨げる、金属カチオンの付着リガンドに起因し得ると考えられる。
【表2】
【0060】
O2(623K)、次いでH2(623K)中で処理した後に収集された、合成された固体のX線ディフラクトグラムは、全ての試料において意図されたLTA構造の存在を実証した;代表的なディフラクトグラムが1に示されている。ゼオライト結晶化度は、無金属NaLTAを標準として使用して、3つの最も強いブラッグ線の積分領域から決定して、各試料について95%よりも高かった。バルク金属相(Au、Pd、またはPt)の回折線は、これらの試料にはなく、それらの結晶化度は、高温(823K)で空気またはH2中で処理することによって不変であった。それ故、合成されたゼオライトは、結晶性であり、熱的に安定であり、ディフラクトグラムにおいてそれらの特徴的なブラッグ線を示したであろう大きな金属結晶子(>10nm)を含まないと結論付けられ得る。
【0061】
封入された金属クラスターのサイズ分布及び熱安定性の評価
TEM顕微鏡写真を使用して、水熱合成及び結晶化したゼオライトの合成後の空気及びH
2処理によって形成された金属構造のサイズ、位置、及び熱安定性を評価した。これまでの研究では、単一の金属(Au、Pd、またはPt)のみで実施されたこれらの合成プロトコルが、合成デブリを含まず、主にゼオライトの空隙内に位置する高度に分散した単金属クラスターをもたらすことが示されてきた。H
2処理の結果、これらのゼオライト中にクラスターが形成するが、その間、孤立した金属カチオンは還元され、その後、骨格全体にわたって移行して凝集物を形成する;これらの凝集物の最終的なサイズは、より大きなナノ粒子をもたらすより大きな移動度(例えば、より高い処理温度の結果として)と共に、この重要な還元工程の間の金属原子の移動度によって決定される。
図2A~2
Lは、これらの単金属クラスターのTEM顕微鏡写真及び粒子サイズ分布、ならびにこの研究で考慮された二元金属試料の選択を示している。各試料中の総金属含有量は1重量%である。表1はまた、合成されたAu
nPd
100-nNaLTA、Au
nPt
100-nNaLTA、及びPd
nPt
100-nNaLTA試料の各々についてのTEM由来の表面平均クラスター直径(<d
TEM>;方程式1)及び分散指数(DI;方程式2)を要約している。
【0062】
単金属試料の表面平均クラスター直径(AuNaLTA:2.3nm、PdNaLTA:1.6nm、PtNaLTA:1.3nm;表1)は、埋め込まれた金属のタンマン温度(Au:668K、Pd:914K、Pt:1022K)で逆に変化し、より高い移動度を有する金属による比較的より大きなクラスターの形成と整合する。二元金属試料は、それらの最も安定な単金属対応物(すなわち、より高いタンマン温度を有する金属)と同様の表面平均クラスターサイズ(例えば、Au
50Pd
50NaLTA:1.5nm、Au
50Pt
50NaLTA:1.4nm、及びPd
65Pt
35NaLTA:1.3nm;表1)を与え、単分散(DI:1.05~1.15;表1)で単峰性(
図2A~2
L)でもあったクラスターサイズ分布を示した。AuへのPd、AuへのPt、及びPdへのPtの添加は、単金属AuまたはPdと比較してより小さなナノ粒子サイズをもたらし、より高いタンマン温度を有する第2の金属の添加によってもたらされる抑制されたクラスター成長プロセスと整合する。金属クラスターの安定性のそのような向上は一般に、組成によって高度に非線形の様式で変化する;結果として、比較的高いAu含有量(例えば、Au
67Pd
33:1.7nm、Au
67Pt
33:1.4nm)を有する二元金属試料でさえ、単金属AuNaLTA(2.3nm)よりも不相応に小さなクラスター直径を示した。これらの二元金属試料のほぼ単分散のサイズ分布は、それらのクラスターが組成が均一に分布していることを意味しており;組成が不均質に分布した名目上二元金属のクラスターは、対照的に、それらの構成金属の異なる熱安定性のため、典型的には広い範囲のクラスターサイズを示すであろう。例えば、所与の同じ試料中の単金属クラスターの2種類の混合物は、不十分な単分散(すなわち、DI>1.5)を有する二峰性のサイズ分布、及び対応する単金属試料の組成物加重平均値を反映する表面平均クラスター直径を示すことが予想される。そのため、LTA封入二元金属試料の小さなクラスター直径及び単分散のサイズ分布は、合金ナノ粒子の優勢な存在を示唆している。
【0063】
単金属Au及びAu二元金属クラスターの安定性は、流動空気中での処理の間に、623~873Kの最終温度に加熱し(0.033Ks
-1)、5時間保持することによって試験し、比較した。LTAに封入されたPt及びPdクラスターのこれまでの研究は、ゼオライト骨格の閉じ込める環境が、空気中で873Kまでこれらの金属の凝集を完全に妨げる一方で、単金属Auクラスターは、およそ823Kまでそれらのサイズを保持することを明らかにした(M.Choi et al.,J.Am.Chem.Soc.2010,132,9129-9137;及びT.Otto et al.,J.Catal.2016,339,195-208を参照されたい)。AuNaLTA、Au
50Pd
50NaLTA、及びAu
50Pt
50NaLTAのTEM由来の表面平均クラスター直径(<d
TEM>;方程式1)は、最終空気処理温度の関数として
図3に示されている。全ての試料のクラスター直径(AuNaLTA:2.3nm、Au
50Pd
50NaLTA:1.5nm、Au
50Pt
50NaLTA:1.4nm)は、773K以下での処理によって不変であったが、単金属Auクラスターは、873Kでの処理後にサイズが65%(3.8nmまで)増大した。合金化されたクラスターは、対照的に、873Kでの処理後にサイズがわずかにしか増加しなかった;Au
50Pd
50NaLTAにおけるクラスターはサイズが1.8nmまで20%増大し、Au
50Pt
50NaLTAのそれらは1.6nmまで14%増大した。これらの試料の分散指数(DI)値(方程式2)もまた、873Kでのこの処理の結果、増加した。AuNaLTAにおけるクラスターのDIは、1.07から1.62に著しく上昇した一方で、二元金属クラスターは、はるかに小さな上昇(Au
50Pd
50NaLTA:1.09から1.23、Au
50Pt
50NaLTA:1.09から1.17)を示し、それ故、相対的に単分散(DI<1.5)のままであった。より高いタンマン温度を有する、AuとPdまたはPtとの混合物は、移動度を減少させ、それ故、Au種を安定化させるように作用し、単金属Auと比較してクラスター安定性の劇的な改善をもたらす。これらのクラスターは、ゼオライト骨格によって提供される強いクラスター安定性に加えてこの合金化効果の結果としての熱焼結に対する耐性から利益を受け、封入されたクラスターを、メソポーラス担体上に分散したものよりも凝集に対して著しくより耐性にする。
【0064】
AuPd及びAuPt二元金属におけるクラスター内金属混合についてのUV-可視光の証拠
AuNaLTA、AunPd100-nNaLTA、及びAunPt100-nNaLTAのUV-可視スペクトルを使用して、結晶化及び還元された二元金属試料における単金属Auクラスターの不存在を確認した。そのような単金属Auクラスター、及び表面上に純粋なAuを有する芯-殻二元金属構造は、500~600nmの範囲において局在した表面プラズモン共鳴(LSPR)吸収バンドを示すであろう。単金属Pt及びPdクラスターまたはAu-二元金属クラスターは、対照的に、UV-可視光の範囲において際立った吸収特徴を示さない。それ故、LSPRバンドの存在は、Auがプラズモン共鳴を示す最小粒子サイズである直径2nmより大きいAuクラスターのための診断として機能する。
【0065】
AuNaLTA、Au
67Pd
33NaLTA、Au
67Pt
33NaLTA、ならびにAuNaLTA及びPtNaLTAまたはAuNaLTA及びPdNaLTAの2:1の物理的混合物(金属のモルによる)のUV-可視光スペクトルは、
図4A及び4Bに示されている。
【0066】
AuNaLTA試料ならびに単金属系AuNaLTA及びPdNaLTAまたはAuNaLTA及びPtNaLTAの物理的混合物はそれぞれ、LSPR吸収バンドを示し、各試料において直径が2nmより大きい単金属Auクラスターの存在と整合する(<d
TEM>=2.3nm;(
図2A~2
L)。これらのプラズモンバンド(約506nm)の吸収波長は、直径が5nmより小さいAuナノ粒子の特徴であるが、この基準値未満のクラスターサイズに対して非感受性である。二元金属及び単金属Pd及びPt試料は、対照的に、単金属Auを示す区別可能な吸収バンドよりむしろ、プラズモン共鳴について関連する範囲(500~600nm)内の不定のバックグラウンドの特徴のみを示した。PdまたはPtは、可視光範囲における拡散バックグラウンド吸収にわずかに寄与し得る;結果として、金属非含有NaLTAで隠されたUV-可視光スペクトルのバックグラウンド吸収のわずかな差異は、各試料中のこれらの金属の異なる含有量に起因し得る。Au
67Pd
33NaLTA及びAu
67Pt
33NaLTAにおけるLSPRバンドの特徴の欠如は、ICP分析がPtまたはPdとの2:1のモル比でのAuの存在を確認した場合であっても(表1)、直径が≧2nmの単金属Auクラスターの実質的な不存在を確認するものである。より低いAu含有量を有するAu-二元金属試料(すなわち、Au/Pd=1、Au/Pd=0.5、Au/Pt=1、及びAu/Pt=0.5)は同様にLSPR吸収バンドを欠いていた。そのため、これらのスペクトルは、安定性に劣るAu金属で富ませた場合であっても、組成が均質に分布している二元金属クラスターと整合する。しかしながら、Au
67Pd
33NaLTA(1.7nm)及びAu
67Pt
33NaLTA(1.4nm)の表面平均クラスター直径は、プラズモン共鳴(2nm)についてのより低いサイズ限度に近い;これらの試料におけるクラスターのそれぞれ7%及び2%のみが、この限度以上である。Auの比較的低いタンマン温度のため、単金属Auクラスターは、二元金属中に存在する場合、これらのより大きなナノ粒子を優先的に含むことが予想されるが、そのような低い濃度が、LSPR吸収によりUV-可視光スペクトルにおいて証拠であったであろうかどうかは不明である。そのため、Au-二元金属試料中のLSPRバンドの不存在は、小さなクラスターサイズ及び金属合金化と整合するが、この合金化を独立に確認することはできないことが結論付けられる。
【0067】
金属合金化及びCO結合時のクラスター内金属原子移動度についての赤外線証拠
二元金属クラスターにおける原子の配列はしばしば、芯-殻構造、規則的な結合配列を有する密接に混合された金属間相、または各金属種のランダムなクラスター内分布の観点から理解及び分類される。しかしながら、これらの特定の構造は、合金クラスターが、吸着質の結合、温度変化、または金属担体相互作用を含むそれらの環境の変化に応答して動的な再構築を受けるため、まれにしか保存されない。ここで、目的は、ゼオライトに封入された二元金属クラスターにおいて、それらをCOに曝露することによってこの再構築を誘導することである。吸着されたCOの赤外線(IR)スペクトルは、二元金属クラスターの表面組成を推測するため、及びクラスター内の再構築に起因する表面組成の任意の変化を調べるために使用される。
【0068】
本明細書で上述したように合成及び調製された単金属及び二元金属試料について金属クラスターで吸着したCOのIRスペクトルを収集した;封入された金属クラスターへのCOのアクセス可能性を改善するために、これらの測定の前に、NaLTAホストゼオライト(0.42nmの開口部)をCa2+と交換して、CaLTA(0.50nmの開口部)を形成した。AunPd100-nCaLTA及びAunPt100-nCaLTA二元金属試料をまずH2(20kPa)中で573Kで1時間処理してから、He(100kPa)中で周囲温度未満(それぞれ、278K及び263K)に冷却した。この加熱手順は、両方の場合に、ナノ粒子の全体のギブスの自由エネルギーを最小化するために、表面に拡散する傾向のあるより低い表面エネルギー成分Auを有する二元金属クラスター表面の富化に有利に働く。次いで、冷却された試料をCO(1.0kPa)に曝露し、IRスペクトルを収集した。そのようなスペクトルは、Auで富ませた二元金属表面へのCO吸着を反映することが予測された。次に、各試料を1.0kPaのCO下で353Kまで0.5時間加熱し、第2のスペクトルの収集のために278Kまたは263Kに冷却し戻した。COへの曝露を伴うこの加熱は、PtまたはPd原子を表面に引き寄せることが意図されており、それ故、クラスターのAu表面濃度を減少させ、第2の吸収スペクトルが収集されるときに見掛けのヒステリシス効果をもたらす。そのようなクラスター内の再配列は、Au(頂部:50kJmol-1)に対してPt(頂部:136kJmol-1)またはPd(頂部:94kJmol-1;架橋:146kJmol-1)上のCOのより高い結合エネルギーによって推進され、これは、より強く結合する金属による表面Au原子の置換に有利に働き、クラスターの自由エネルギーを減少させる。353Kへの穏やかな加熱を適用して、クラスター内の金属拡散の速度を上昇させ、この再構築をより急速に誘導する。それ故、CO中での間欠的な加熱の前と後のCOのIR吸収の明確な差異は、AunPd100-nCaLTA及びAunPt100-nCaLTAにおけるクラスターが確かに二元金属であるという証拠を提供する。Pd及びPt上のCO結合エネルギーの差異は比較的小さいので、ヒステリシス効果の規模は、PdnPt100-nCaLTA試料では小さいと予想される。これらの試料における金属合金化は、多種多様な金属組成物について収集されたCOのIRスペクトルを使用して、またEXAFS分析を使用して評価した。
【0069】
353KでCO中で間欠的に加熱する前と後に263Kで1.0kPaのCO下で測定された、1重量%(総金属)のAu
nPt
100-nCaLTA試料(n=0、33、50、67、及び100の場合)に吸着されたCOのIRスペクトルが
図5A~5Bに示されている。単金属Au(
図5A)及びPt(
図5B)試料は、それぞれ2120cm
-1及び2070cm
-1に吸収バンドを示し、これらは、Au及びPt上のCOの頂部吸着に対応する。Pt上のCO架橋結合吸収バンド(1800~1900cm
-1)は弱く、識別しにくい。PtCaLTAにおけるPt-COバンドの積分強度は、AuCaLTAにおけるAu-COバンドのそれより18倍大きい。積分バンド領域のこの差異は、(高い吸収断面による)Pt-COバンドの比較的高い強度及びAuCaLTA(0.003mol
表面-Aug
-1)と比較してPtCaLTAにおける表面金属原子のわずかに高い密度(0.005mol
表面-Ptg
-1)を反映している。
図5C~5Eの各二元金属試料スペクトルにおいて明らかであるPt-COバンドは、Pt含有量が増加するにつれて強度が単調に増加し、表面Pt原子の濃度の増加と整合する。Auリッチな二元金属試料(Au
67Pt
33CaLTA)では、明確なAu-COバンドを見ることができるが、より低いAu/Pt比ではぼんやりとなるかまたは区別できなくなる。このAu-COバンド強度の低下は、減少する全体のAu含有量、Pt-COに対するAu-COバンドの相対的に小さな強度、及び二元金属クラスターにおいてより強く結合するPt原子へのCOの優先的吸着に起因し得る。減少するAu-COバンド強度に対してこれらの寄与する影響の各々は、Pt/Au比が増加するにつれてより劇的となり、Pt/Au=2の場合にAu-COバンドのほぼ完全な消失を共にもたらすことが予想される。353KでのCO中でのPt-Au二元金属の間欠的な熱処理は、二元金属試料の各々についてのIR吸光度における有意なヒステリシスをもたらす一方で、単金属Pt及びAu試料についてのIRスペクトルは、この処理によって不変のままである。この介在的熱処理は、合金試料におけるPt-COバンドの強度の増加をもたらし、より強くCO結合するPt原子による表面Au原子の置換と整合する。この再構築によって引き起こされるPt-COバンド強度の割合増加は、PtのAuに対するモル比が増加するにつれて単調に減少する(Pt/Au=0.5、1、及び2の場合それぞれ20%、15%、及び9%の割合増加)。この傾向は、相対的により多くのPtリッチクラスターを有する試料が、再構築中にそれらのPt表面濃度のあまり劇的でない割合変化を受けるはずであるという予想と整合する。これらのデータは、総合すれば、クラスター内再構築の説得力のある証拠を示し、AuPt二元金属試料内の合金ナノ粒子の優勢な存在と整合する。
【0070】
353KでCO中で間欠的に加熱する前と後に278Kで1.0kPaのCO下で測定された、1重量%(総金属)のAu
nPd
100-nCaLTA試料(n=0、33、50、67、及び100の場合)に吸着されたCOのIRスペクトルが
図6A~6Eに示されている。AuCaLTA(
図6A)は、Au上でのCOの頂部吸収に相当する2130cm
-1での弱い吸収バンドを示す一方で、PdCaLTA(
図6B)は、Pd上へのCOの頂部結合及び棟部(ridged)(隣接)結合にそれぞれ割り当てられ得る2090cm
-1及び1930cm
-1での著しくより強い吸収バンドを示す。Au-COバンドの相対的に弱い強度は、測定の条件でのAu表面の不完全な被覆及びAu表面上のCOの小さな吸収断面におそらく起因する。頂部及び架橋Pd-COバンドが各二元金属試料のスペクトルに存在する一方で、Au-COバンドは明確に区別することができない。二元金属試料中のこれらのAu-COバンドの不十分な強度及び分解能は、二元金属クラスターにおいてより強く結合するPd原子上へのCOの好ましい吸着、またはこれらのAu-COバンドとはるかにより強い頂部Pd-COバンドとの部分的な重複に起因し得る。Pd-COバンドの強度は、Pd/Au比と共に単調に増加し(
図6C~6E)、総Pd含有量が増加するにつれて表面Pd原子の濃度が増加することと整合する。架橋Pd-COバンドの積分強度(I)の頂部Pd-COバンドのそれに対する比(α=I
架橋/I
頂部として定義される)もまた、PdのAuに対するモル比と共に単調に増加する。
図7を参照されたい。CO中での間欠的な加熱の前に測定されたα値は、Pd/Au=0.5、1、2、及び∞の場合、それぞれ0.9、1.4、1.9、及び2.4であった;CO中での加熱後に測定されたα値は同様に、純粋なPdクラスターの場合の値に近づいたが、規模はわずかにより大きかった。Pd上の架橋CO結合についてのこの増加優先傾向は、二元金属クラスター上のPd原子ドメインを希釈し、架橋CO結合に必要な隣接Pd原子の割合を減少させることができる表面Au原子の濃度の減少を反映している。単金属Au及びPdクラスターの混合物は、対照的に、AuによるPd表面希釈の不存在のため、Pd/Au比が増加すると共に一定のα値を維持することが予想されるであろう。353KでのCO中の二元金属試料の加熱は、IR吸収スペクトルの変化をもたらす一方で、単金属試料のスペクトルは、同じ処理によって影響を受けない。CO中でのこの処理は、各二元金属試料についてより大きな架橋Pd-COバンド強度をもたらし、クラスター表面へのPd移行によってもたらされる隣接するPd原子の割合の増加と整合する。この処理に続いて頂部Pd-COバンドもわずかに強度が低下するが、これは、隣接する結合部位が利用可能になった場合、より安定な架橋結合構成をとる孤立したPd原子上に直線状に結合したCO分子の優先傾向を反映している。そのため、吸収スペクトルのこれらの傾向は、クラスター合金化と整合し、AuPd二元金属試料中に単金属クラスターが存在しないことを示唆している。
【0071】
AuPt及びAuPdクラスターについて観察された比較的容易な再構築は、二元金属表面が、合成に使用されるリガンドを保護することに由来する強固に結合した硫黄混入物質を含まないことを示唆している。そのような混入物質は、Au-S(126kJmol-1)に対してPt-S(233kJmol-1)及びPd-S(183kJmol-1)の高い結合エネルギーのため、PtまたはPd表面原子に固定する傾向があるであろう。これらの表面結合硫黄種は、存在する場合、拡散Pt-CO及びPd-COバンドをもたらしたであろうし、また、COに対してそれらのより高い結合エネルギーのため、クラスター内の再構築を妨げたであろう。金属表面の見かけの清浄度は、LTAに封入された単金属Pt、Pd、及びAuクラスターのこれまでの化学吸着及びCOのIR研究と整合しており、混入物質種を含まず、本明細書に記載されているように適用される合成後の空気(623K)及びH2(623K)処理の後に十分にアクセス可能となることが示された。
【0072】
図8は、1kPaのCO下で313KでPd
nPt
100-nCaLTA試料(n=100、80、65、50、20、及び0の場合)における金属クラスター上で吸着されたCOのIRスペクトルを示している。313Kでの単金属Pt及びPd試料上でのCOの吸収スペクトルは、わずかにより低い温度(Pt-CO:263K、
図5;Pd-CO:278K、
図6)で収集されたものに酷似している。PtCaLTAは、頂部CO吸着に関連して2070cm
-1で強い吸収バンドを示し、単金属Pdは、頂部及び架橋CO結合にぞれぞれ対応する2090cm
-1及び1930cm
-1での吸収バンドを示す。PdへのPtの添加は、直鎖状に結合したCOバンドの積分強度の単調的な増加及び架橋Pd-COバンドの付随する減少をもたらす。Pd含有量の関数としてのこれらのバンドについての積分強度の比が
図9に示されている。Pt/Pd比に伴う頂部COバンドの増加する強度は、高いIR吸収強度を特徴的に示すPt-CO表面錯体の増加する濃度と整合する。付随するPd-CO架橋バンド強度の低下は、これらの試料の減少するPd含有量の予想される結果であるが、架橋結合に必要とされる隣接Pd原子の割合を減少させるであろうPd表面のPtでの希釈に更に起因し得る。この表面希釈は、金属合金化を必要とし、単金属の金属クラスターの混合物からなる試料では効果を奏することはできない;結果として、そのような混合物における架橋の頂部に対する吸収の比は、Pd含有量と共に単調に低下し、試料中に残存するPdがない場合にのみゼロの値に達することが予想される。合金クラスターについての架橋の頂部に対する吸収バンドの比は、対照的に、Pd表面がPtで十分に希釈されてPdへの隣接CO結合を妨げるとゼロの値に達し、この時点で、残存する表面Pd原子が頂部構成においてCOと排他的に結合することが予想される。
図9における傾向は、架橋の頂部に対する吸収バンド強度の比が、20~50mol%の間のPdでゼロの値に達することを示しており、単金属Pdクラスターの不存在及びPdドメインを取り囲むことによる表面Pd原子の完全な孤立を示唆している。そのため、これらのデータは、Pd
nPt
100-nCaLTA試料における金属合金化と整合する。
【0073】
EXAFS分析での金属クラスターのサイズ及び組成の評価
Au-L
3、Pd-K、及びPt-L
3端で測定された二元金属試料及び参考ホイルについてのk
3加重EXAFSのフーリエ変換及びそれらの対応するフィッティングが
図10、11、及び12にそれぞれ示されている。
図10~12に提示されたX線吸収スペクトルは、H
2処理(573K、10kPaのH
2、90kPaのHe)後に100kPaのAr下で周囲温度で収集された。
【0074】
金属配位数(N)、原子間距離(D)、及びこれらの単一散乱フィッティングから得られたデバイ-ワラー因子(σ
2)が以下の表2に示されている。カッコ内の値は最終桁における誤差を示している。
【表3】
【0075】
図10は、Au
50Pd
50NaLTA及びAuホイルについてのAu-L
3端でのEXAFS振動のフーリエ変換振幅及び対応するフィッティングを示している。Au
50Pd
50NaLTAについてのAu-L
3EXAFSのフィッティングは、Auの周りの2つの固有の配位殻:6±1の配位数及び原子間距離2.73±0.02Åを有する1つのAu殻及び配位数3.2±0.8及び原子間距離2.73±0.01Åを有する1つのPd殻を確認している(表2)。それ故、これらの個々の配位殻は、不確実性の伝播を適用し、有効数字について丸めた後に、9±1の総Au配位数をもたらす。この総配位数は、バルクAuまたはAuPd合金のそれ(12)よりも著しく低く、配位不飽和金属クラスターが行き渡っていることを示している。フィッティングから誘導された原子間距離(2.73Å)はまた、バルクAu
50Pd
50合金のそれ(約2.81Å)よりも小さく、高度に分散したクラスターにおいて原子間距離が縮小する傾向と整合する。フィッティングから誘導された総配位数は、それらがFCC立方八面体構造をとると想定して、直径が1.3~2.1nmの金属クラスターに対応する;この直径は、TEMによって測定されたもの(1.6nm)と整合する(表1)。これらのデータは、合金化された相及び高度に分散したクラスターの存在と整合するが、金属配位の総体的な解釈を提供するためにPd-K端での同等な測定結果と同時に考慮されなければならない。
【0076】
Au
50Pd
50NaLTA及びPdホイルについてのPd-K端でのEXAFS振動のフーリエ変換振幅及びフィッティングが
図11に示されている。これらのフィッティングから誘導された構造パラメータ(表2)は、Pd吸収体の周りの2つの配位殻:配位数3.1±0.7及び原子間距離2.69±0.01Åを有するPd殻及び配位数5±1及び原子間距離2.73±0.01Åを有するAu殻を示した。これらの個々の配位殻は、8±1の総Pd配位数を与える。光散乱体(OまたはS)の添加は、フィッティングの改善をもたらさず、金属相の排他的存在と整合する。Pd-K端でのこれらのフィッティングから誘導された総配位数及びAu-Pd配位数は、Au-L
3EXAFSに由来する同等のパラメータと同一であるか、またはその誤差の範囲内である。総Pd及びAuの配位数における近い一致は、Pd及びAu原子が、同様の第1の包囲を有し、同じサイズのクラスターを占有することを示唆しており、密接な金属混合及び分離された金属相の実質的な不存在と整合する。実験的に測定されたPd/Au比(Pd/Au=1;表1)及びフィッティングされた総配位数(9)を有するランダムに混合された合金クラスターは、それぞれ約4.5のAu-Au、Pd-Pd、及びAu-Pd配位数を与えることが予測されるであろう。平均Au-Pd配位数(4±1)は、この値の誤差の範囲内に入り、金属原子の均一なクラスター内分布を示唆している。そのため、353Kでのこれら試料のH
2前処理によってもたらされたAu表面の富化は、試料がXAS測定の前に不活性ガス下で室温で保存された約10時間の誘導期間中に失われたことが結論付けされる。よく混合された合金クラスターへのそのような再構築は、おそらく、573Kでの処理後の試料の周囲温度未満(278K)への急速な冷却(-0.17Ks
-1)のため、COのIR研究の前に起こらなかった。Au-Au及びPd-Pd配位数(それぞれ、6±1及び3.2±0.8)は、ランダムな混合から予想される配位数(約4.5)からわずかに逸脱したが、これらの値は、平均Au-Pd配位数(4±1)の誤差の範囲内である。そのため、これらのパラメータの精度は、金属種の精確なクラスター内分布または特定の表面部位(例えば、角、テラス)上でのそれらの好ましい占有に関する推論を妨げる。しかしながら、EXAFSから誘導されたこれらのパラメータは、各金属の端において整合しており、小さなサイズ、密接な金属混合、及びAu
50Pd
50NaLTAにおける単金属相の不存在を確認している。
【0077】
図11は、Pd
65Pt
35NaLTAのPd-K端でのEXAFSのフーリエ変換振幅及びフィッティングを示している;これらのフィッティングから誘導された構造パラメータは表2に示されている。Pd吸収体は、配位数4.4±0.4及び4.0±0.3ならびに2.74±0.01Å及び2.73±0.01Åの原子間距離を有するPd及びPt配位殻をそれぞれ示した。これらの配位殻は、FCC立方八面体粒子を想定して、1.1~1.7nmクラスターに対応する8.4±0.5の総Pd原子配位をもたらす。このサイズは、TEMから決定されたものとよく一致している(1.2nm、表2)。O及びSの散乱体を含めることは、フィッティングを改善せず、金属相のみの存在を示唆している。
図12は、Pd
65Pt
35NaLTAのPt-L
3端でのEXAFSの対応するフーリエ変換振幅及びフィッティングを示している。フィッティングから抽出された構造パラメータ(表2)は、Ptの周りの2つの配位殻:配位数4±1及び原子間距離2.73±0.01Åを有するPd殻、ならびに配位数5±1及び原子間距離2.72±0.01Åを有するPt殻を与え、9±1の総配位数をもたらす。Pt-L
3のEXAFSのこれらのフィッティングから抽出された総配位数は、Pd
65P
35NaLTAのPd-K端に由来するそれ(8.4±0.5)の誤差の範囲内である。総配位数におけるこの近い一致は、Pd及びPt原子が同じサイズのクラスターを占有し、同様の配位環境を有することを示しており、合金クラスター中のこれらの金属の優勢な存在及び単金属相の不存在と整合する。実験的に測定されたPd/Pt比(1.56、表1)及び平均総配位数(9±1)を有するランダムに混合されたPdPt合金クラスターは、それぞれ、5、4、5、及び4のPd-Pd、Pd-Pt、Pt-Pd、及びPt-Pt配位数を与えることが予測される。EXAFSフィッティングから誘導されたPd-Pt及びPt-Pd配位数は、これらの予測値の誤差の範囲内であり、金属原子の比較的均一なクラスター内分布を示唆している。フィッティングされたPd-Pd及びPt-Pt配位数(それぞれ、4.4±0.4及び5±0.4)はまた、金属原子のランダムなクラスター内分布から予想される値と同様である。二元金属PdPtクラスターのモンテカルロシミュレーションは、これらのXAS測定の条件でPd原子が低い配位表面部位(例えば角、端)を優先的に占有するはずであることを示しているが、抽出された配位数からは、ゼオライトに封入されたクラスターがまたこの構成をとるかどうかは不明である。しかしながら、Pd
65Pt
35NaLTAのEXAFSから誘導された配位数は、Pd-K及びPt-L
3端での内部整合を示しており、高度に分散し、かつ組成が均一な合金クラスターの優勢な存在を確認している。
【0078】
反応性及び封入の触媒的評価
ゼオライト内の金属クラスター閉じ込めは、所定の反応物質または毒による結晶内活性クラスターへのアクセスを妨げる。そのような制限されたアクセスはまた、拡散によって排出され得るより小さな種にそれらが転化するまで、大きな生成物を保持する役割を果たす一方で、小さな結晶内空隙は、特定の遷移状態を安定化させ得る。全ての場合において、これらの効果は、所与のマイクロポーラス骨格における空隙及びそれらの接続する開口部のサイズによって決定される。ここで、そのようなゼオライト形状選択特性は、金属表面を被毒させる大きな有機硫黄分子(ジベンゾチオフェン、DBT;0.9nmの動的直径)に曝露された試料での小さな分子(エタノール、0.40nmの動的直径)の酸化的脱水素(ODH)ターンオーバー率を測定して、二元金属クラスターがゼオライト結晶内に存在する程度を推定することによって活用される。DBTなどの有機硫黄化合物は、Au、Pd、及びPt表面に不可逆的に吸着し、活性部位をブロックする非反応性種を形成する。結果として、金属-SiO2試料及び金属-NaLTA試料における結晶外二元金属クラスターでのエタノールODHターンオーバー率は、DBTによって抑制されるであろうし、一方で、NaLTA細孔開口部(0.42nm)によって保護されたクラスターは、それらがDBTによって到達され得ないので、それらのODH率を保持するであろう。次いで、DBTとの接触の際の速度の差異は、結晶内ドメイン内の金属封入の選択性の尺度を提供する。
【0079】
アルカノールODH反応は、アルカナールを主要生成物として形成する。これらのアルカナールは、アルカノールとのその後の反応を受けて、ヘミアセタールまたはアルコキシアルカノールを形成し、次いで二次脱水素または縮合反応によりジアルコキシアルカン及びカルボン酸を形成し得る。これらの二次反応は、測定されるターンオーバー率に影響を及ぼさないが、その理由は、形成された各生成物分子が、化学吸着された酸素による吸着されたアルコキシドから動力学的に関連したβ-H引き抜きを介してアルカナールが形成する単一のODH事象を含むからである。この研究でよく見られる低い転化率(<5%)は、二次反応を最小限に抑え、高いアセトアルデヒド選択性(>95%、C-ベース)をもたらす。
【0080】
エタノール酸化的脱水素(ODH)ターンオーバー率は、まずヒュームドSiO2(CAB-O-SIL(登録商標)HS-5、310m2g-1)で質量で10倍に希釈され、次いでペレットにプレスされ、180~250μmの集合物を保持するために篩がけされた触媒粉末で測定された。次いで、これらの希釈された試料を180~250μmの酸洗浄石英顆粒と1:1の質量比で混合して、発熱ODH反応によって引き起こされる任意の温度勾配を防止した。触媒を石英管(10mmのO.D.)内の多孔質石英フリット上に置いた。試料を20%O2/He(1.67cm3g-1s-1)中で周囲温度から393Kまで(0.033Ks-1で)加熱し、率の測定のためにその温度で保持した。液体エタノール及び脱イオン水を、液体シリンジポンプ(Cole Parmer、60061シリーズ)を使用して393Kで流動O2/Heストリームに気化させた。所望の圧力(4kPaのアルカノール、9kPaのO2、87.5kPaのHe、及び0.5kPaのH2O)を達成するためにマスフロー制御器(Porter Instrument)でHe及びO2の流量を調節した。水がODH生成物として形成し、共触媒効果を有し得る。それ故、水を添加して触媒床全体にわたって全ての種の一定濃度を維持し、それによって相違する条件を確保した。アルカノール転化率を5%未満に維持し、移送ラインを393Kに加熱して凝縮を回避した。
【0081】
ターンオーバー率は、方程式3で定義された分散値から推定される表面金属原子当たりのモルのエタノール転化率として定義される。NaLTA、ヒュームドシリカ、及び空の反応器では生成物の形成は検出することができなかった。ターンオーバー率は各実験の開始に外挿された。メチル-シリコーンキャピラリーカラム(HP-1;50m×0.32mm、1.05μmの膜厚)及びフレームイオン化検出器を使用してガスクロマトグラフィ(Shimadzu GC-2014)によって流出物濃度を測定した。
【0082】
貴金属表面を不可逆的に調整する有機硫黄毒であるジベンゾチオフェン(DBT)に現場外で金属-NaLTA試料を曝露してから、エタノールODH反応でそれらを使用した。現場外処理は、金属-NaLTA及び金属-SiO2試料を、液体エタノールに溶解したDBT(300cm3g-1;6のDBT/金属モル比)に周囲温度で磁気撹拌(6.7Hz)しながら4時間曝露した。次いで、試料を濾過し、343Kで12時間周囲空気中で処理し、393KでエタノールODH反応で使用した。対照試料もDBTを用いずに同一手順により調製し、エタノールODHに使用した。
【0083】
DBT(0.9nm)ではなく、エタノール(0.40nmの動的直径)は、NaLTAの開口部(0.42nm)を介して拡散し得る。それ故、DBTへの曝露によって引き起こされる失活の程度は、ゼオライト結晶内に閉じ込められ、結晶外領域に存在する任意の大きな分子から保護された金属表面の割合の評価を提供する。次いで、金属-NaLTA及び金属-SiO2試料でのDBTへの曝露の前後の率の比較は、結晶外の場所に存在する活性表面の割合、及びそれ故、封入の選択性を示す。
【0084】
試料を393KでのODH率測定の前に本明細書で上述したようにDBTに曝露した。ODH率はまた、DBTと接触しなかったが他は同じように処理された試料(「対照試料」と示される)で測定した。これらの対照で測定されたODHターンオーバー率(γ
ODH)及びDBTに曝露された試料で測定されたODHターンオーバー率(γ
ODH,DBT)は、方程式(4)に従ってパラメータΛ
DBTを定義するために使用される:
【数4】
(式中、iは特定の試料(例えば、Au
50Pd
50NaLTA、Pt/SiO
2)を特定する)。Λ
DBT,iの値は、DBT曝露後にODHにとって活性のままである活性表面の割合を反映している。1のΛ
DBT,i値は、十分に保護されたクラスターを反映するであろうし、その一方で、ゼロの値は、全ての活性表面原子がDBTにアクセス可能であり、DBTによって十分に失活されている場合に予想される。ゼオライト内部に封入された金属クラスターはDBTに近づきにくく、それ故、失活から保護されるはずである一方で、ゼオライト結晶外の金属クラスターは、DBTにアクセス可能であり、DBTによって失活されるはずである。それ故、DBTへの曝露は、ゼオライト外のクラスターに由来するODH率への寄与を選択的に抑制する。結果として、Λ
DBT,iの値は、金属-ゼオライト試料中の封入されたクラスターの割合に比例する。メソポーラスSiO
2及び二元金属試料の代表的なグループに担持されたAu、Pd、及びPtクラスターについてのγ
ODH及びΛ
DBT,iの値が表3に示されている。
【表4】
【0085】
エタノール-ODHターンオーバー率は、金属-SiO2(ΛDBT,i=0.03~0.11)試料よりも金属-NaLTA(ΛDBT,i=0.95~0.98)上でのDBTとの接触によってはるかに弱く抑制され(表3)、(a)DBTは、保護されていない貴金属表面を効果的に調整すること;及び(b)金属クラスターの大部分は、金属-NaLTA試料中のLTA結晶内に存在することを示している。SiO2担持試料上の小さな残存ODH活性は、過剰のDBT(6:1のDBT:金属のモル比)との接触後でさえ、DBT由来の種がほぼ飽和した範囲に達するときに残りの開放部位へのアクセスを妨げる立体効果を反映し得る。金属-NaLTA試料におけるDBT被毒に対する顕著な耐性は、1に近いそれらのΛDBT,i値(0.95~0.98)(表3)で明らかであり、同様の水熱合成プロトコルを使用してLTA及び他のゼオライト内に封入された単金属クラスターについても見られるように、これらの二元金属クラスターのほぼ完全な封入についての説得力のある証拠を提供する。
【0086】
本明細書に記載の熱水的封入法は、サイズが小さく均一であり、熱焼結に対して高度に安定であり、組成が均質に分布しており、ゼオライト結晶内に選択的に封入された二元金属クラスターを調製するためにより一般的に適用され得ると結論付けられる。
【0087】
本明細書で使用される場合、「含む」という用語は、その用語の後に特定される要素または工程を含むことを意味するが、任意のそのような要素または工程は徹底的なものではなく、実施形態は他の要素または工程を含み得る。
【0088】
別段特定されない限り、個々の成分または成分の混合物が選択され得る元素、材料または他の成分の属の記述は、列挙された成分及びそれらの混合物の全ての可能な亜属の組み合わせを含むことが意図されている。
【0089】
本明細書に開示された全ての範囲は、端点を含み、独立して組み合わせ可能である。下限及び上限を有する数値範囲が開示されるときはいつでも、その範囲内に入る任意の数値も具体的に開示される。
【0090】
この出願に引用されている全ての文献は、そのような開示がこの文書と矛盾しない程度にそれらの全体が参照により本明細書に組み込まれる。
なお、下記[1]から[15]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
アルミノシリケートゼオライトであって、前記アルミノシリケートゼオライトの細孔中に封入された合金化された二元金属クラスターを有する、前記アルミノシリケートゼオライト。
[2]
前記アルミノシリケートゼオライトが、CHA、ERI、GIS、KFI、LEV、LTA、RTH、またはSOD骨格タイプを有する小細孔ゼオライトである、[1]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[3]
前記小細孔ゼオライトが、前記骨格タイプLTAを有する、[2]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[4]
前記アルミノシリケートゼオライトが、EUO、FER、HEU、MEL、MFI、MFS、MTT、MTW、またはTON骨格タイプを有する中細孔ゼオライトである、[1]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[5]
前記合金化された二元金属クラスターが、1~1.5の分散指数を有する、[1]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[6]
前記合金化された二元金属クラスターが1.0~2.0nmの表面加重平均クラスター直径<d
TEM
>を有する、[1]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[7]
前記合金化された二元金属クラスター中の金属が、周期表の第8~12族から選択される、[1]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[8]
第8~12族の金属の総量が、複合体の全重量の0.1~5.0重量%である、[7]に記載のアルミノシリケートゼオライト。
[9]
前記合金化された二元金属クラスターが、金及びパラジウム、金及び白金、またはパラジウム及び白金を含む、[1]に記載の組成物。
[10]
[1]に記載のアルミノシリケートゼオライトを合成する方法であって、前記方法が、
(a)ゼオライトを形成することが可能な反応混合物を調製する工程であって、前記反応混合物が、酸化ケイ素の供給源;酸化アルミニウムの供給源;第1または2族金属(X)の供給源;水酸化物イオン;元素の周期表の第8~12族の第1の金属前駆体(M
1
)及び第2の金属前駆体(M
2
)の供給源;チオール基及びアルコキシシリル基を有する連結剤(L);及び水を含む、前記調製する工程;
(b)前記アルミノシリケートゼオライトの結晶が形成されるまで85℃~180℃の温度及び5~250時間の時間を含む結晶化条件下で前記反応混合物を加熱する工程;
(c)工程(b)から前記アルミノシリケートゼオライトを回収する工程;
(d)250℃~500℃の温度及び0.5~5時間の時間を含む酸化条件下で工程(c)の前記アルミノシリケートゼオライトを酸素と接触させる工程;及び
(e)250℃~500℃の温度及び0.5~5時間の時間を含む還元条件下で工程(d)の前記酸化されたアルミノシリケートゼオライトを水素と接触させる工程、を含む、前記方法。
[11]
前記アルミノシリケートゼオライトが、モル比に関して、以下を含む反応から調製されるゼオライトである、[10]に記載の方法:
【表5】
[12]
前記反応混合物が、有機テンプレート材料を実質的に含まない、[10]に記載の方法。
[13]
前記連結剤が、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、(メルカプトメチル)ジメチルエトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される、[10]に記載の方法。
[14]
有機化合物を含む供給原料を転化生成物に転化するためのプロセスであって、前記供給原料を有機化合物転化条件で触媒と接触させる工程を含み、前記触媒が、[1]に記載のアルミノシリケートゼオライトを含む、前記プロセス。
[15]
窒素酸化物(NO
x
)を選択的に還元するためのプロセスであって、方法が、NO
x
を含有するガス状ストリームを[1]に記載のアルミノシリケートゼオライトを含む触媒と接触させることを含む、前記プロセス。