(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ビフィドバクテリウムラクティスGKK2の活性物質、それを含む組成物及びそれによって長寿命化を促進する方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/745 20150101AFI20220419BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20220419BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20220419BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220419BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20220419BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20220419BHJP
A61K 9/02 20060101ALI20220419BHJP
A61K 9/50 20060101ALI20220419BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20220419BHJP
A61K 9/12 20060101ALI20220419BHJP
A23K 10/16 20160101ALI20220419BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220419BHJP
A23C 23/00 20060101ALI20220419BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20220419BHJP
C12N 1/20 20060101ALN20220419BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220419BHJP
【FI】
A61K35/745
A61P25/00
A61P21/00
A61P43/00 107
A61K9/14
A61K9/20
A61K9/02
A61K9/50
A61K9/08
A61K9/12
A23K10/16
A23L2/00 F
A23C23/00
A23L33/135
C12N1/20 E
C12N15/12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019149363
(22)【出願日】2019-08-16
【審査請求日】2019-11-08
(32)【優先日】2018-08-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC 15205
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC 14565
【微生物の受託番号】CGMCC CGMCC 14566
(73)【特許権者】
【識別番号】519298765
【氏名又は名称】葡萄王生技股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 勁初
(72)【発明者】
【氏名】陳 炎▲錬▼
(72)【発明者】
【氏名】林 詩偉
(72)【発明者】
【氏名】陳 ▲彦▼博
(72)【発明者】
【氏名】王 ▲啓▼憲
(72)【発明者】
【氏名】侯 毓欣
(72)【発明者】
【氏名】石 仰慈
(72)【発明者】
【氏名】林 ▲静▼▲ウェン▼
(72)【発明者】
【氏名】陳 雅君
(72)【発明者】
【氏名】江 佳琳
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-004768(JP,A)
【文献】生物工学,2013年,Vol.91, No.11,pp.632-636
【文献】月刊メディカル・サイエンス・ダイジェスト,2015年,Vol.41, No.4,pp.176-180
【文献】Bifidobacteria Microflora,1986年,Vol.6, No.1,pp.21-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00 -35/768
A23L 33/135
C12N 1/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2018年1月12日にそれぞれ受託番号BCRC 910826及びCGMCC 15205で生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center;BCRC)、食品工業発展研究所(Food Industry Research and Development Institute)、台湾新竹30062、及び中国普通微生物菌種保蔵管理センター(China General Microbiological Culture Collection Center)(CGMCC)、中国科学院、北京100101、中華人民共和国に寄託されるビフィドバクテリウムラクティスを含み、ビフィドバクテリウムラクティス(CGMCC 15205又はBCRC 910826)が組成物の活性成分として、Cisd2遺伝子の発現を増強する、組成物。
【請求項2】
2018年1月12日にそれぞれ受託番号BCRC 910826及びCGMCC 15205で生物資源保存及び研究センター(BCRC)、食品工業発展研究所、台湾新竹30062、及び中国普通微生物菌種保蔵管理センター(CGMCC)、中国科学院、北京100101、中華人民共和国に寄託される、活性物質を有する有効投薬量のビフィドバクテリウムラクティスを含み、組成物の活性成分としての活性物質がCisd2遺伝子の発現を増強する、組成物。
【請求項3】
前記組成物は、賦形剤、防腐剤、希釈剤、フィラー、吸収剤、甘味剤からなる群から選ばれた添加剤又はその組み合わせを含む請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物は、薬物、飼料、飲料、栄養補給剤、乳製品、老年食品、乳幼児食品、副食品又は健康食品である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物の形態は、粉末、錠剤、丸剤、座剤、マイクロカプセル剤、アンプル、液剤又はスプレー剤である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
対象におけるCisd2遺伝子の発現を増強するための、ビフィドバクテリウムラクティ
スを活性成分として含む組成物
であって、前記ビフィドバクテリウムラクティスが、2018年1月12日にそれぞれ受託番号BCRC 910826及びCGMCC 15205で生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center;BCRC)、食品工業発展研究所(Food Industry Research and Development Institute)、台湾新竹30062、及び中国普通微生物菌種保蔵管理センター(China General Microbiological Culture Collection Center)(CGMCC)、中国科学院、北京100101、中華人民共和国に寄託されたものである、組成物。
【請求項7】
前記組成物は、前記対象のミトコンドリアの損傷を低減及び/又は遅延させる請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物は、神経変性疾患、筋肉減少症、又はそれらの組み合わせを含む前記対象の老化に関連する症状を低減及び/又は遅延させる請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長寿命化を促進する活性物質を有する乳酸菌、それを含む組成物及びその使用方法に関する。より具体的に、本発明は、活性物質を有するビフィドバクテリウムラクティスGKK2、それを含む組成物、及びそれによって長寿命化を促進し、対象に投与する場合にCisd2遺伝子の発現を増強し、ミトコンドリアの損傷を低減し及び/又は老化に関連する症状(例えば、神経変性疾患及び筋肉減少症)を遅延させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
長寿遺伝子
【0003】
科学者らは、長寿の秘密を見付けることを望んでいる。科学者は、ある種がよりその環境に適応するようになると、より長く生存する可能性がより高いと仮定する。そのため、ある科学者は、例えば、暑い天気、食物又は水の剥奪のような、環境ストレスに注目して、ストレスに関わる1組の遺伝子を発見した。実際、個体の年齢に関わらず、これらの遺伝子は、何れも個体の生体分子に対する自然な保護を維持し及びその活性を修復する作用を果たすことができる。なお、これらの遺伝子は、生体の生存能力を増進して、危機を乗り越えさせることができる。これらの遺伝子は、長寿遺伝子と見なされ、また有効でありさえであれば、健康を著しく改善し個体の寿命を延ばすことができる。
【0004】
他の科学者は、100歳以上の高齢者に取り組んで、それらの遺伝子を評価した。科学者は、平均寿命予期を有する個体に比べると、100歳以上の高齢者がある特定の遺伝子のより高い発現を有することを発見して、これらの遺伝子がより長い寿命に関連すると推測した。
【0005】
Cisd2遺伝子
【0006】
Cisd2遺伝子は、進化の過程において高度に保持され、また無脊椎動物、脊椎動物及び哺乳動物に存在する。この観点から、Cisd2遺伝子は、重要な生物機能を制御することができる。Cisd2によってコードされるタンパク質がミトコンドリアの外膜に位置する。Cisd2遺伝子の欠損は、ミトコンドリアを損傷し、ミトコンドリアの構造や機能に影響を与え、その後、老化に関連する症状に繋がっている。Cisd2遺伝子に関連する研究によれば、対照群と比較した場合、Cisd2遺伝子ノックアウトマウスは、よりも著しく薄く且つより小さい体型を有することが判明された。なお、Cisd2遺伝子ノックアウトマウスの平均寿命は対照群の平均寿命に比べ半分と短くされたものである。実験の観察期間中、Cisd2ノックアウトマウスは、第3週くらいで(ヒトの10~12歳に相当)、例えば、神経変性疾患及び筋肉減少症等の症状を示し始め、第4週くらいで(ヒトの15歳に相当)体重が著しく減少した。第8週くらいで(ヒトの18~20歳に相当)、Cisd2ノックアウトマウスは、著しい不透明な眼及び骨粗鬆症を示した。第12週~第48週くらいで(ヒトの30~45歳に相当)、Cisd2ノックアウトマウスは、例えば、脊椎湾曲(lordokyphosis)、失明、脱毛及び皮膚のたるみのような、早老症を示した。野生型マウスの正常な老化プロセスについての更なる研究によると、マウスの老化につれて、Cisd2の発現レベルが低下し、仔マウスに比べると、発現レベルが14ヶ月くらいで(ヒトの60歳に相当)60%まで低下し、また28ヶ月くらいで(ヒトの90歳に相当)30%まで低下することが判明された。これらの知見に基づいて、Cisd2は健康的な老化及び寿命を調節する必須遺伝子であることが証明される。
【0007】
ラクトバチルス属
【0008】
ラクトバチルス属は、一般的な環境に存在し、また発酵によって炭水化物を乳酸に転化して、発酵食品の製造に適用されることができる。1990年代、ラクトバチルス属は、ヒトの健康に多くの利点を提供することができ、消化を助け及び消化管の健康状態を改善する効果を有することが発見される。そのため、人々は、消化環境を改善し及び腸管運動を促進するために、より多くのラクトバチルス属を食べると推奨される。なお、ラクトバチルスが糖(例えば、乳糖、グルコース、スクロース及びフラクトース)を分解して、乳酸及び酢酸を発生して腸環境を酸性化することができるため、ラクトバチルス属(Lactobacillus spp.)は、悪玉菌の生長を抑制して腸内の微生物叢のバランスを保つことができる。
【0009】
ラクトバチルス属において、異なる種類のラクトバチルス属及び同じ種の異なる菌株は、異なる特徴を有し且つ人体に対して異なる効果を持つ。例えば、ラクトバチルスプランタラム(L.plantarum)菌株がヒトの健康を改善することが既に発見され、ラクトバチルスプランタラムPH04が血液におけるコレステロールを低下させること、ラクトバチルスプランタラム299VがIL-10欠損マウスの大腸炎症状を緩和すること、ラクトバチルスプランタラム10hk2が例えば、インターロイキン(IL)-1β、IL-6及び腫瘍壊死因子α(TNF-α)及びIL-10のような炎症促進性メディエータを増加させて、抗炎症効果を発揮すること、ラクトバチルスプランタラムK21が血中コレステロール及びトリグリセリドレベルを低下させ及び抗炎症効果を有することは既知である。
【0010】
ビフィズス菌
【0011】
ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium spp.)は、腸、膣及びヒトや動物の口腔に普遍的に存在している。ビフィドバクテリウム属は、グラム陽性で、非運動性で、Y型のものであり、またしばしば偏性嫌気性菌である。1899年、健康な乳児の胚からビフィズス菌が単離された。下記の研究によると、ビフィズス菌の特定の菌株はプロバイオティクスとして例えば、食品、医薬、飼料等の分野に適用されることができることが判明された。
【0012】
しかしながら、例えば、ラクトバチルス及びビフィズス菌等の乳酸菌の寿命に与える影響を検討する関連研究はなく、また乳酸菌がCisd2遺伝子の発現レベルに影響を与えることで(これは、生理学的変化を引き起こし及び個体の寿命を変える)個体の寿命を制御するかを証明する実験はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、長寿命化を促進する組成物において、2018年1月12日にそれぞれ受託番号BCRC 910826及びCGMCC 15205で生物資源保存及び研究センター(Bioresource Collection and Research Center;BCRC)、食品工業発展研究所(Food Industry Research and Development Institute)、台湾新竹30062、及び中国普通微生物菌種保蔵管理センター(China General Microbiological Culture Collection Center)(CGMCC)、中国科学院、北京100101、中華人民共和国に寄託されるビフィドバクテリウムラクティスを含む組成物を提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、長寿命化を促進する組成物において、2018年1月12日にそれぞれ受託番号BCRC 910826及びCGMCC 15205で生物資源保存及び研究センター(BCRC)、食品工業発展研究所、台湾新竹30062、及び中国普通微生物菌種保蔵管理センター(CGMCC)、中国科学院、北京100101、中華人民共和国に寄託される、活性物質を有する有効投薬量のビフィドバクテリウムラクティスを含む組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
好ましくは、
ビフィドバクテリウムラクティス(BCRC 910826及びCGMCC 15205)を寒天プレートに画線培養して、単離されたコロニーを発生させる工程(a)、及び、
工程(a)からの単離されたコロニーの1つを液体培地液体インキュベーション工程に接種して、液体培養物を得る工程(b)によって、
活性物質を有するビフィドバクテリウムラクティス(B.ifidobacterium lactis)を調製する。
【0016】
好ましくは、更に、
工程(b)からの液体培養物を遠心させて、沈殿物を得る工程(c)、及び、
工程(c)からの沈殿物に対して凍結乾燥を行って、活性物質を有するビフィドバクテリウムラクティス(BCRC 910826、及びCGMCC 15205)を得る工程(d)によって、
活性物質を有するビフィドバクテリウムラクティスを調製する。
【0017】
好ましくは、温度を35~50℃、通気を0~1vvmのN2又はCO2、回転速度を10~100rpm、インキュベーション時間を16~24時間に設定する。
【0018】
好ましくは、工程(d)における凍結乾燥温度を-196~-40℃に設定する。
【0019】
好ましくは、組成物は、賦形剤、防腐剤、希釈剤、フィラー、吸収剤、甘味剤からなる群から選ばれた添加剤及び/又はその組み合わせを含んでよい。
【0020】
好ましくは、前記組成物は、薬物、飼料、飲料、栄養補給剤、乳製品、老年食品、乳幼児食品、副食品又は健康食品であってよい。
【0021】
好ましくは、組成物の形態は、粉末、錠剤、丸剤、座剤、マイクロカプセル剤、アンプル、液剤又はスプレー剤であってよい。
【0022】
本発明の別の目的は、対象に活性物質を有するビフィドバクテリウムラクティス(CGMCC 15205)を含む組成物を投与することで、長寿命化を促進する方法を提供することである。
【0023】
好ましくは、前記組成物は、対象のCisd2遺伝子の発現を増強する。
【0024】
好ましくは、前記組成物は、対象のミトコンドリアの損傷を低減及び/又は遅延させる。
【0025】
好ましくは、前記組成物は、神経変性疾患、筋肉減少症、又はそれらの組み合わせを含む対象の老化に関連する症状を低減及び/又は遅延させる。
【0026】
理解すべきなのは、前記の一般的な説明及び下記の詳しい説明はすべて例示的な説明であり、また保護しようとする本発明を更に解釈するためのものであることである。
【0027】
本発明を、下記の添付図面を参照して、実施形態の以下の詳しい説明を読むことで、十分に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図4】異なる用量の活性物質を有する乳酸菌株号A~Jを含む組成物で処理されたHEK293細胞におけるCisd2プロモーターにより制御されるルシフェラーゼレポーター遺伝子の相対的な活性を示す。
【
図5】異なる用量の活性物質を有する乳酸菌株号A、B、C、D、H、Iを含む組成物で処理されたHEK293細胞における内因性Cisd2 mRNAの発現レベルの電気泳動写真である。
【
図6】
図5の結果に基づいたCisd2 mRNAの相対的な発現レベルの統計結果である。
【
図8】前肢握力試験におけるオスマウスの握力を示す。
【
図9】単一試験受動回避試験におけるメスマウスの潜伏時間を示す。
【
図10】単一試験受動回避試験におけるオスマウスの潜伏時間を示す。
【
図11】能動シャトル回避試験におけるメスマウスの成功に能動的に回避した回数の平均値を示す。
【
図12】能動シャトル回避試験におけるオスマウスの成功に能動的に回避した回数の平均値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
現在、本発明の本実施形態を詳細に参照し、前記実施形態の例示を添付図面に示す。可能な場合、添付図面に同一の参照番号が使用され、また同一又は同様の部品を参照して説明する。
【0030】
菌株の由来
【0031】
実験で用いた乳酸菌は、ラクトバチルス属及びビフィドバクテリウム属を含む。好ましい実施形態において、乳酸菌株は、台湾新竹食品路331号に位置する食品工業発展研究所(FIRDI)の生物資源保存及び研究センター(BCRC)から購入する。好ましい実施形態において、下記実験で用いた乳酸菌株A~Jの番号(NO.)、種及び受託番号を表1に示す。台湾特許出願第106137773号及び第106136134号に、寄託の更なる情報、分離及び精製の過程、及び遺伝子解析及び菌株同定の結果が示される。
【0032】
【0033】
BCRC:台湾新竹食品路331号に位置する食品工業発展研究所(FIRDI)の生物資源保存と研究センター。
CGMCC:中国普通微生物菌種保蔵管理センター、中国科学院、北京100101、中華人民共和国。
ATCC:アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション、バージニア州、VA 20110、米国。
CICC:中国工業微生物菌種保蔵管理センター、中国食品発酵工業研究院(CNIF)、北京100000、中華人民共和国。
NCIMB:国立産業食品及び海洋菌保存管理センター、スコットランド農村学院(SRUC)、アバディーン、AB21 9YA、イギリス。
DCM:DSM 15954、ドイツ微生物細菌保存管理センター(Leibniz-Institut DSMZ-Deutsche Sammlung von Mikroorganismen und Zellkulturen GmbH)、ブラウンシュワイク38124、ドイツ。
【0034】
表現型解析
【0035】
表現型解析は、酸耐性試験、胆汁耐性試験及び熱耐性試験によって乳酸菌株番号Iと他の菌株との間の表現型の差異を比較する研究である。
【0036】
酸耐性試験
【0037】
BCRCから購入するGKK2、BCRC17394、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis Bi 04(Bi 04、受託番号ATCC SD 5219でアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)に寄託される)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis BB-12(BB-12、受託番号DSM 15954でドイツ微生物細菌保存管理センターに寄託される)、及びビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis Bi 07(Bi 07、受託番号ATCC SD 5220でATCCに寄託される)という、合計で5種類の菌株を回収した。そして、HClでpH値約6.5の原始De Man、Rogosa及びSharpe(MRS)液体培地を約pH3.2、pH2.4及びpH2.0の3つの異なるpH値に調節した。菌株を上記MRS液体培地に接種した後で、連続希釈、播種、インキュベーションを行い、最後でコロニー計数を行った。
【0038】
図1に酸耐性試験の結果を示した。横軸は異なる培地のpH値を示し、縦軸は細胞数を1ml当たりのコロニー形成単位(cfu)/mLとして示した。バー101、103、105、107、109は、それぞれ乳酸菌株GKK2、BCRC 17394、DSM 15954(BB-12)、ATCC SD 5220(Bi 07)及びATCC SD 5219(Bi 04)を表した。記号「*」及び「#」は、同じpH値でのGKK2と他の乳酸菌株との間の著しい差異(p<0.05)を表した。
【0039】
図1に示すように、初期のpH値(約pH6.5)で培養される場合、菌株GKK2(バー101)の細胞数及び他の4つの菌株(バー103、105、107及び109)の細胞数は5×10
9cfu/mLに達した。MRS液体培地のpH値がpH3.2まで低下すると、全ての菌株の細胞数はわずかに減少し、またGKK2と他の4つの菌株との間に統計学的に有意な細胞数の差異はなかった。MRS液体培地のpH値がpH2.4又は2.0まで低下すると、BCRC 17394(バー103)、BB-12(バー105)及びBi07(バー107)の細胞数は10
6から10
7cfu/mLまで低下した。これらの数がGKK2の数より明らかに低く、GKK2は、その細胞数が10
8cfu/mL(p<0.05)より大きくなるように維持していた。そのため、酸性の環境において、菌株GKK2の生細胞数が他の菌株の生細胞数より著しく高かった。この実験の結果によると、他の菌株に比べ、GKK2は、より良好な耐酸性を有するで、胃を通過する場合、より良好な胃酸耐性を有することが判明された。
【0040】
胆汁耐性試験
【0041】
BCRCから購入するGKK2、BCRC17394、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis Bi 04(受託番号ATCC SD 5219でATCCに寄託される)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis BB-12(受託番号DSM 15954でドイツ微生物細菌保存管理センターに寄託される)、及びビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis Bi 07(受託番号ATCC SD 5220でATCCに寄託される)という、合計で5種類の菌株を回収した。菌株を0.3%の胆汁酸塩を含む上記MRS液体培地に接種して、37℃で半時間培養した後で、連続希釈、播種、インキュベーションを行い、最後でコロニー計数を行った。
【0042】
図2に胆汁耐量試験の結果を示した。横軸は培地における胆汁酸塩の濃度を示し、また縦軸は乳酸菌株の細胞数を示した。バー201、203、205、207及び209は、それぞれ乳酸菌株GKK2、BCRC 17394、DSM 15954(BB-12)、ATCC SD 5220(Bi 07)及びATCC SD 5219(Bi 04)を表した。記号「*」はGKK2と他の乳酸菌株との間の著しい差異(p<0.05)を示した。
【0043】
図2に示すように、菌株GKK2(バー201)及び他の4つの菌株(バー203、205、207及び209)の細胞数は、これらの菌株が原始MRS液体培地で培養される場合に5×10
9cfu/mLに達することができた。0.3%の胆汁酸塩を有するMRS液体培地で培養される菌株については、BCRC 17394(バー203)、Bi07(バー207)及びBi04(バー209)の細胞数がGKK2の細胞数(p<0.05)より著しく低いが、BB-12(バー205)とGKK2との間に統計学的に有意な細胞数の差異はなかった。そのため、胆汁酸塩の環境において、菌株GKK2の生細胞数が他の菌株の生細胞数より著しく高く、GKK2は、他の菌株よりも良好な耐胆汁性を有するで、生体内の消化管を通過する場合、よりも胆汁酸塩に強いことが判明された。
【0044】
熱耐性試験
【0045】
BCRCから購入するGKK2、BCRC17394、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis Bi 04(受託番号ATCC SD 5219でATCCに寄託される)、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis BB-12(受託番号DSM 15954でドイツ微生物細菌保存管理センターに寄託される)、及びビフィドバクテリウム・アニマリス亜種Lactis Bi 07(受託番号ATCC SD 5220でATCCに寄託される)という、合計で5種類の菌株を回収した。菌株を70℃まで加熱されたMRS液体培地に接種してそれぞれ5、10及び15分間維持した後で、連続希釈、播種、インキュベーションを行い、最後でコロニー計数を行って観察した。
【0046】
図3に熱耐性試験の結果を示した。横軸は70℃で加熱する時間幅を表し、また縦軸は乳酸菌株の細胞数を表した。バー301、303、305、307及び309は、それぞれ乳酸菌株GKK2、BCRC 17394、DSM 15954(BB-12)、ATCC SD 5220(Bi 07)及びATCC SD 5219(Bi 04)を表した。記号「*」はGKK2と他の乳酸菌株との間の著しい差異(p<0.05)を示した。
【0047】
図3に示すように、加熱されない(0分間)場合、菌株GKK2の細胞数及び他の4つの菌株の細胞数は5×10
9cfu/mLに達することができた。70°Cで5分間加熱されると、BCRC 17394(バー303)、Bi07(バー307)及びBi04(バー309)の細胞数がGKK2(バー301)の細胞数(p<0.05)より著しく低くなるが、BB-12(バー305)とGKK2 との間に統計学的に有意な細胞数の差異はなかった。70°Cで15分間加熱されると、4つの他の菌株の細胞数はGKK2の細胞数(p<0.05)より著しく低かった。そのため、高温の環境において、GKK2の生細胞数が他の菌株の生細胞数より著しく高いで、GKK2の耐熱性がよりよいことが判明された。乳酸菌が常に熱不安定性でありまた活性を保持するために低温で保存されるべきであるが、この試験により、GKK2は耐熱性の特徴を有しまた室温で長時間保存されることができることが判明され、これは過程の推進中でGKK2を加えることに有利であった。
【0048】
菌株のインキュベーション
【0049】
各種の上記乳酸菌株番号A~Jの単離したコロニーを固体培地に画線培養した後でピックアップした。好ましい実施形態において、固体培地はMRS寒天であった。単離されたコロニーをフラスコに含まれる液体培地に接種して、液体インキュベーション工程を行って、液体培養物を得た。好ましい実施形態において、液体培養の条件として、温度35~50℃、通気範囲0~1vvmのN2又はCO2、また回転速度の範囲10~100rpmに設定した。好ましい実施形態において、液体インキュベーション工程の時間幅は、16~24時間であるが、より好ましくは18時間であった。好ましい実施形態において、液体培地は、MRS液体培地であった。好ましい実施形態において、液体培地を表2に示すレシピで調製した。
【0050】
【0051】
凍結乾燥粉末の調製
【0052】
液体インキュベーション工程の後で、液体培養物(細菌を含む液体培地)を収集して遠心させて沈殿物を得た。好ましい実施形態において、液体培養物を1000~15000rpmの回転速度で遠心させた。得られた沈殿物と保護剤(6%~30%の脱脂粉乳を含む)とを混合させて凍結乾燥した後で、冷凍保存した。好ましい実施形態において、凍結乾燥温度を-196℃~-40℃に設定した。好ましい実施形態において、凍結乾燥の時間幅は16~72時間であった。好ましい実施形態において、冷凍保存の温度は-30℃~0℃であった。凍結乾燥粉末を下記細胞実験の原料として使用し、つまり、凍結乾燥粉末は、本発明における活性物質を有する乳酸菌の様々な形態の1つであった。本発明における活性物質を有する乳酸菌の別の形態としては、上記単離されたコロニーに対して液体インキュベーション工程を行って得られた液体培養物を含んだ。
【0053】
Cisd2遺伝子に対するルシフェラーゼレポーターアッセイ
【0054】
ヒト胚性腎臓細胞(HEK)293細胞(台湾台北の国立陽明大学から入手した)に対してルシフェラーゼレポーターアッセイを行うことで、Cisd2遺伝子の発現に影響を与える活性物質を有する乳酸菌を決定し、前記乳酸菌のルシフェラーゼレポーター遺伝子はCisd2遺伝子を標的とするために、Cisd2プロモーターにより制御された。ルシフェラーゼレポーター遺伝子を有するHEK293細胞を2×10
5細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートに培養して、37℃の温度下で5%のCO
2インキュベーターで1日間インキュベーションした。そして、上記調製された乳酸菌株番号A~Jの凍結乾燥粉末を0.1%のDMSOの担体で回収して表3に示す異なる濃度の凍結乾燥粉末を含有する溶液を調製して、HEK293細胞の培地に加えて実験群とした。対照群に対しては、0.1%のDMSOの担体のみでHEK293細胞を処理した。HEK293細胞を、活性物質を有する乳酸菌又は担体0.1%のDMSOと共に37℃の温度下で5%のCO
2インキュベーターで24時間インキュベーションした。最後で、HEK293細胞のルシフェラーゼ活性を測定し定量分析した。ルシフェラーゼレポーターアッセイを3回繰り返した。実験結果を
図4に示した。
【0055】
【0056】
内因性Cisd2遺伝子の発現レベル
【0057】
内因性Cisd2遺伝子の発現レベルを検出することで、Cisd2遺伝子の発現に影響を与える活性物質を有する乳酸菌を確認した。まず、HEK293細胞を2×10
5細胞/mLの細胞密度で6ウェルプレートに接種して、37℃、5%のCO
2インキュベーターで1日間培養した。そして、6つの乳酸菌株番号A、B、C、D、H及びIの凍結乾燥粉末を0.1%のDMSOの担体で再水和して、表4に示す異なる濃度を有する溶液を製作し、HEK293細胞の培地に加えて実験群とした。対照群に対しては、0.1%のDMSOの担体のみでHEK293細胞の培地を処理した。HEK293細胞を、活性物質を有する乳酸菌又は担体と共に37℃、5%のCO
2のインキュベーターで24時間インキュベーションした。氷上で6ウェルプレートからHEK293細胞を擦り取って、市販のRNA精製キット(GeneJET RNA精製キット、サーモフィッシャーサイエンティフィック社(Thermo Fisher Scientific)、カタログ番号K0731、米国マサチューセッツ州)によってmRNAを抽出した。適切な濃度まで希釈した後、RNA逆転写キット(RevertAid H Minus First基準cDNA合成キット、サーモフィッシャーサイエンティフィック社、カタログ番号K1632、米国マサチューセッツ州)によってmRNAをcDNAに逆転写した。最後で、PCRによって内因性Cisd2遺伝子の発現レベルを分析した。実験結果の電気泳動写真を
図5に示し、また
図5の分析結果は
図6に示した通りであった。
【0058】
【0059】
Cisd2の関連実験の統計方法
【0060】
全てのデータを平均値±標準偏差(SD)として示した。倍数変化は、対照群と実験群との間の遺伝子活性の変化であった。実験群と対照群との間に統計学的に有意な差異がある場合、*p<0.05は統計学的に有意な差異であり、また**p<0.01は統計学的に高度に有意である差異であった。
【0061】
Cisd2実験の結果
【0062】
図4にCisd2を標的とするルシフェラーゼレポーターアッセイの実験結果を示した。横軸は処理を表し、また縦軸は実験群の対照群に対するルシフェラーゼ活性の倍数を表した。活性物質を有する10種類の乳酸菌株番号A~Jで処理されたHEK293細胞において、乳酸菌株番号A、C、H又はIで処理された細胞は、対照群よりも高いルシフェラーゼ活性を示し、Cisd2遺伝子の発現を増強することができることが判明された。具体的に、12.5μg/mLの濃度又は25μg/mLのより高い濃度の菌株番号Aで処理されたHEK293細胞のルシフェラーゼ活性が対照群のルシフェラーゼ活性よりも高い。結果によると、活性物質を有する乳酸菌株番号AはCisd2遺伝子を活性化してその発現を刺激することができることが判明された。結果によると、実験群における0.25μg/mL又は0.5μg/mLの菌株番号Cで処理されたHEK293細胞は、菌株番号Aで処理されたもののように、ルシフェラーゼ活性が対照群のルシフェラーゼ活性よりも高いことが判明された。また、結果によると、活性物質を有する乳酸菌株番号CはCisd2遺伝子を活性化してその発現を刺激することができることが判明された。実験群における1.5μg/mLの菌株番号Hで処理されたHEK293細胞については、処理されたHEK293細胞のルシフェラーゼ活性は対照群のルシフェラーゼ活性の約1.14倍であった。また、結果によると、活性物質を有する乳酸菌株番号HはCisd2遺伝子を著しく活性化して(p<0.05)、またCisd2遺伝子の発現を刺激する潜力を持つことが証明された。対照群におけるHEK293細胞と比べると、活性物質を有する2.5μg/mL又は5μg/mLの乳酸菌株番号Iで処理されたHEK293細胞もより高いルシフェラーゼ活性を示するので、活性物質を有する乳酸菌株番号IもCisd2遺伝子の発現を活性化する潜力を持つことが判明された。
【0063】
内因性Cisd2遺伝子の発現レベルの実験結果を
図5及び
図6に示した。実験群において、菌株番号A及びCで処理されたHEK293細胞のCisd2 mRNAの発現レベルは、対照群のより著しく大きいわけではない。具体的に、実験群における菌株番号Cで処理されたHEK293細胞のCisd2 mRNAの発現レベルは、更に、対照群のCisd2 mRNAの発現レベルよりも低かった。なお、実験群における1.5μg/mLの菌株番号H、5μg/mLの菌株番号H又は2.5μg/mLの菌株番号Iで処理されたHEK293細胞のCisd2 mRNAの発現レベルは対照群のCisd2 mRNAの発現レベルよりも著しく高いで、乳酸菌株番号H及びIはCisd2 mRNAの発現レベルを増強することができることが判明された。具体的に、対照群と比較した場合、1.5μg/mL及び5μg/mLの菌株番号HでHEK293細胞を処理した後で、Cisd2 mRNAの発現レベルはそれぞれ約1.15倍(p<0.05)及び1.37倍(p<0.01)まで刺激された。活性物質を有する乳酸菌の濃度の増加につれて、内因性Cisd2遺伝子の発現レベルが増加するので、濃度・効果関係が判明された。対照群と比較した場合、2.5μg/mLの乳酸菌株Iは、Cisd2 mRNAの発現レベルを約1.21倍(p<0.05)まで刺激することができた。
【0064】
上記実験結果によると、活性物質を有する特定の乳酸菌株(好ましい実施形態では、ラクトバチルスパラカゼイ、ラクトバチルスプランタラム又はビフィドバクテリウムラクティス)のみが長寿遺伝子Cisd2の発現レベルを向上させたことが証明された。これらの結果に基づいて、医薬分野への乳酸菌の新しい適用が発見された。そのため、活性物質を有する乳酸菌を実際的に適用するために、活性物質を有する乳酸菌を含む組成物を調製して、有効投薬量で対象に投与して所望の効果を達成した。
【0065】
乳酸菌株番号I(GKK2)の老化の遅延及び長寿命化の効果を評価するために、下記実験を行った。
【0066】
老化スコア用の動物実験
【0067】
下記実験の過程を
図7に示した。実験において、加齢を促進した動物モデルを老化促進マウス(SAM)によって製作した。SAMマウスは、日本の東京の東京大学T. Takedaチームにより開発され、選抜育種プログラムによって発生するAKR/Jマウスの亜株を表すものであった。実験用のSAMマウス系は、SAMP8であり、脳ニューロンの喪失、皮質萎縮、リポフスチン、網状構造における海綿状静脈の奇形、及びアミロイド沈着を特徴とする。SAMP8マウスの他の特徴として、他の器官の加速老化及び寿命の短縮化を含む。そのため、SAMP8マウスは、老化の遅延及び繁殖の関連研究に用いられる理想的な動物モデルであった。SAMP8マウスを自動制御のクリーンルームに位置する温度25±2℃また湿度65±5%の動物設備における30(W)×20(D)×10(H)cm
3の透明プラスチックケージに維持した。07:00~19:00を暗闇期間、また19:00~07:00を照明期間と設定した自動タイマーによって、明暗サイクルを制御した。
【0068】
台湾衛生福利部(Ministry of Health and Welfare of Taiwan)の発表した「老化防止用の健康食品の健康上の利点の評価方法」を参照して、下記実験において、マウス実験動物として、3ヶ月のオス及びメスのSAMP8を選んだ。20匹のオスマウス及び20匹のメスマウスを対照群(n=10)及び乳酸菌株番号Iを投与した実験群(n=10)にグループ分けた。対照群のマウスにddH2Oを投与する場合、所望の用量を有する試験試料として、ddH2Oで再水和される乳酸菌株番号I(GKK2)の凍結乾燥粉末を実験群のマウスに投与した。表5に各群の詳細情報及び試験試料の所望の用量を示した。
【0069】
【0070】
実験過程は13週間続いた。実験期間中、毎日マウスに1回投与し、また毎日マウスの食物や水分摂取量を記録した。12週目に老化スコアリングアッセイ及び単一試験受動回避試験を実行した。13週目に前肢握力試験及び能動シャトル回避試験を実行した。試験が終了した後、マウスを二酸化炭素で麻酔して首を切って殺した(マウスを犠牲前に8時間絶食させた)。血及び器官を取って更に分析した。
【0071】
老化スコア
【0072】
Takeda等が1981年に作成した老化スコアを調節してSAMマウスの老化程度の決定に用いた。皮膚光沢度、粗度、脱毛、皮膚潰瘍、眼球周辺の病変及び脊椎湾曲という、6つの項目を選んで老化程度の決定を行った。評価において、各項目の老化スコアとして、低から高への老化程度は0、1、2、3及び4であった。評価した後で、各項目の老化スコアを加算して、高い老化スコアを有するマウスは高い老化程度を有する。
【0073】
前肢握力試験
【0074】
老化する途中で、ヒトの生理機能が次第に劣化する。なお、このヒトは多種の慢性疾病を患って、身体活動量が減少して、廃用性筋萎縮を誘発させる可能性がある。一般的に、ヒトは、30歳後に筋肉量が毎年1%~2%低減し、60歳後に筋肉量の低減速率が著しく高くなり、ひいては、毎年約15%に達する可能性がある。筋肉量の損失は、例えば、身体障害、転倒、機能低下、長期間病臥、更に死亡のような、後の増悪健康イベントのリスク因子である。
【0075】
老化した後で骨格筋減少になり、骨格筋減少が筋肉減少症になることがある。(1)低筋肉量、(2)低筋肉強度、及び(3)低身体活動能力という、3つの方面から筋肉減少症を検討する。欧洲高齢者筋肉減少症ワークグループ(European Working Group on Sarcopenia in Older People)は、2010年に老化関連の筋肉減少症の診断方法及び定義を開発した。慣れた歩行速度が1.0m/sより低く又は両手の握力が低く及び筋肉量が閾値よりも低い65歳以上の高齢者を筋肉減少症と診断する。国立台湾大学付属病院一般医科学及び家庭医学科(Division of General Medicine and the Division of Family Medicine of National Taiwan University Hospital)の高齢者入院の統計データによると、高齢になると、男性の筋肉減少症の有病率が18%から64%まで上昇し、女性の筋肉減少症の有病率が9%から41%まで上昇する。しかしながら、効果的な干渉や診断によって筋肉減少症及び身体衰弱の悪化を遅延させて、その後の如何なる不利の健康イベントを防止することができる。
【0076】
前肢握力試験において、Ugo Basil握力計(GSM、カタログ番号47200、Ugo Basile、21036 VA、イタリア)によってSAMP8マウスの前肢握力を試験して、筋力評価を行った。試験中、各匹のマウスの尾部を端点に保持して、マウスがその前肢でグリップレバーを掴むようにした。そして、マウスがグリップレバーを放すまで、尾部を水平となるように後ろへ引いた。GSMによって結果を3回連続して記録した。
【0077】
単一試験受動回避試験
【0078】
単一試験受動回避試験によってマウスの学習や記憶に影響を与える可能性のある乳酸菌を決定し、この試験は典型的な条件付け原理及びマウスの背光性の習性に基づくものであった。実験で用いた専用ケースの中心にドアがあり、ケースが互いに接続する明室及び暗室に分けられた。ケースの底部に平行して配列され電流に接続される金属ロッドがあった。まず、マウスを明室に置いて、単一試験受動回避試験の開始時に中心でのドアを開けて、マウスを自由に探索させた。一旦、マウスが暗室に入ると、直ちにドアを閉じて、また学習訓練として、マウスに0.5mAの単回ショックを0.5秒間印加した。訓練後の24時間、48時間及び72時間に、ショックを与えずに同じく操作するように、マウスの学習や記憶を試験し、またマウスの明室に留まる潜伏時間を記録した。最大試験時間幅は180秒間であった。マウスの明室での潜伏時間によってマウスの学習や記憶を評価した。マウスの明室での潜伏時間が長いほど、マウスの学習や記憶がよいことを表す。
【0079】
能動シャトル回避試験
【0080】
マウスの学習や記憶に影響を与える乳酸菌を決定するために、典型的な条件付け原理及びマウスの背光性及び負の走音性の習性に基づいて、能動シャトル回避試験を行った。試験に使用される専用ケースの中心にドアがあり、ケースが互いに接続する明室及び暗室に分けられ、底部に電流装置に接続された、平行して配列される金属ロッドを有する。光線、騒音又は電気ショックのタイミングをコンピュータプログラムによって制御した。まず、マウスに光及び音声の条件付け刺激(CS)を与えた。CSを避けられないマウスに、非条件付け刺激(UCS)として、電気ショックを与えた。CSを避けたマウスに、電気ショックを与えなかった。試験のたびに、能動シャトル回避試験を5回し、毎日試験を4回し、CS/UCSを4日間連続して実験動物を試験した。シャトル回避試験によって、マウスがシステムにおいて成功に能動的に回避した回数によって、マウスの活動の学習や記憶を評価した。マウスが成功に能動的に回避した回数が多いほど、マウスの学習や記憶がよいことを表す。
【0081】
動物実験の統計方法
【0082】
統計パッケージソフトウェア統計製品及びサービスソリューション(エスピーエスエス)(Statistical Product and Service Solutions;SPSS)によって研究によるデータを統計し分析して、実験結果値を平均値±試料平均値の標準偏差(SEM)として示した。一元分散分析(一元ANOVA)によってデータを試験して、各群の間の差異を試験して、ダンカンの多重範囲検定(MRT)によって各群内の差異を試験した。*p<0.05は統計学的に有意な差異を示した。
【0083】
動物実験の結果
【0084】
各群の老化スコアを表6及び表7に示した。
【0085】
【0086】
【0087】
上記12週目の老化スコアを参照すると、対照群と実験群との間に統計学的に有意な老化スコア差異があり、3ヶ月のオス及びメスのSAMP8マウスの何れも乳酸菌株番号I(GKK2)によって処理された。具体的に、メスマウスの間の差異はより著しかった(p<0.05)。高い老化スコア(表6及び表7に示す合計のスコア)が高い老化程度を表すため、動物実験から得られた老化スコアによって、マウスに乳酸菌株番号I(GKK2)を投与するとマウスの老化程度を有利的に低下させることが示され、乳酸菌株番号I(GKK2)が老化の遅延に対して著しい効果を有することが。
【0088】
各群におけるオスマウスの前肢握力試験の結果を表8に示し、統計分析としては、
図8に示すように、縦軸は握力を表し、横軸は群別を表し、またバー801及び803はそれぞれ対照群及び実験群を表した。
【0089】
【0090】
上記前肢握力試験における13週目で測定した握力を参照すると、乳酸菌株番号I(GKK2)の投与された実験群におけるマウスの握力(バー803)は(p<0.05)対照群におけるマウスの握力(バー801)より著しく高かった。高い握力がよい筋力を表すため、その結果によると、乳酸菌株番号I(GKK2)の投与されたマウスがよい筋力を有することが示され、乳酸菌株番号I(GKK2)は老化による筋肉減少症の緩和に対して著しい効果ことが判明された。
【0091】
単一試験受動回避試験については、各群におけるメス及びオスマウスの実験結果及び統計学分析をそれぞれ表9、
図9及び表10、
図10に示した。
図9及び
図10において、横軸は訓練後の時間を表し、縦軸は潜伏時間を表し、またバー901/1001及び903/1003はそれぞれ対照群及び実験群を表した。
【0092】
【0093】
【0094】
13週目のマウスの単一試験受動回避の結果を参照すると、3ヶ月のオス及びメスのSAMP8マウスの何れも対照群(バー1001、バー901)と実験群との間に統計学的に有意な潜伏時間の差異があることが示され、前記実験群においてマウスに乳酸菌株番号I(GKK2)が投与された(バー1003、バー903)。なお、学習訓練後の24時間目、マウス潜伏時間の差異はより著しかった。潜伏時間が長いほどマウスの学習や記憶が長いことが示されるため、その結果によると、乳酸菌株番号I(GKK2)試料の投与されたマウスはより良好な学習や記憶を有し、乳酸菌株番号I(GKK2)が老化の遅延に対して著しい効果を有することが判明された。
【0095】
能動シャトル回避試験については、各群のメスマウスの実験結果及び統計分析をそれぞれ表11及び
図11に示した。各群のオスマウスの実験結果及び統計分析をそれぞれ表11、表12及び
図11、
図12に示した。
図11及び
図12において、横軸は訓練後の日数を表し、縦軸は成功に能動的に回避した回数の平均値を表し、またバー1101/1201及び1103/1203はそれぞれ対照群及び実験群を表した。
【0096】
【0097】
【0098】
14週目のマウスが能動シャトル回避試験において成功に能動的に回避した回数を参照すると、試験後の初めての実験日の当日に、まだ学習する途中であるため、各々の間に統計学的に有意な成功に能動的に回避した回数の差異はなかった。しかしながら、試験後の2日目~4日目に、実験群のオス及びメスのマウスの成功に能動的に回避した回数(それぞれバー1203、1103である)は対照群の成功に能動的に回避した回数(それぞれバー1201、1101である)より著しく高かった。具体的に、試験後の3日目に、実験群のメスマウスの成功に能動的に回避した回数は対照群の2倍(p<0.05)であった。成功に能動的に回避した回数が多いほどマウスの学習や記憶がよいことを示すため、その結果によると、乳酸菌株番号I(GKK2)試料の投与されたマウスの学習や記憶はよりよいことが判明された。上記結果によると、乳酸菌株番号I(GKK2)は老化関連の神経変性疾患による学習や記憶悪化の緩和に対して著しい効果を有することが証明された。
【0099】
上記実験の結果によると、乳酸菌、特にビフィドバクテリウムラクティス、又は好ましくは乳酸菌株番号I(GKK2)は、長寿遺伝子Cisd2の発現レベル、老化スコア、前肢握力試験、及び学習や記憶を著しく改善した。そのため、活性物質を有する乳酸菌株菌株番号I(GKK2)を含む組成物は、長寿命化の促進に用いられることができる。
【0100】
ここで、「有効投薬量」とは、上記予防及び/又は治療効果を達成することに十分な使用量であった。インビトロ細胞培養実験については、上記有効投薬量を「μg/mL」と定義し、「mL」は各種の細胞培養物の細胞培地に基づいた総体積であった。動物モデル実験については、上記有効投薬量を「g/60 kg体重/日」と定義した。なお、下記の計算によって、インビトロ細胞培養実験の得られた有効投薬量を動物用の有効投薬量に転換することができた。
【0101】
一般的に(Reagan-Shaw等、2009)、1「μg/mL」(インビトロ細胞培養実験に基づいた有効投薬量)は1「mg/kg体重/日」(動物モデル実験による有効投薬量)と等価であった。なお、マウスの代謝率はヒトの代謝率の6倍であった。
【0102】
そのため、体外細胞実験による有効投薬量が500μg/mLであれば、マウス用の有効投薬量は、500mg/kg体重/日(つまり0.5g/kg体重/日)として計算すべきであつた。なお、上記代謝率の差異に基づいて、ヒトに用いられる合理的な有効投薬量は5g/60kg体重/日として計算すべきであった。
【0103】
上記の経験結果を参照すると、インビトロ細胞培養実験による有効投薬量が1.5μg/mLであるため、マウス実験用の有効投薬量を1.5mg/kg体重/日と推算し、ヒト用の合理的な有効投薬量は0.015g/60kg体重/日であるべきであった。
【0104】
好ましい実施形態において、組成物に含まれる活性物質を有する乳酸菌の有効投薬量は10mg/60kg体重/日であった。
【0105】
前記組成物は、添加剤を更に含む。好ましい実施形態において、添加剤は、賦形剤、防腐剤、希釈剤、充填剤、吸収剤、甘味剤、又はそれらの如何なる組み合わせであってよい。賦形剤は、クエン酸、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、スクロース、又はそれらの如何なる組み合わせであってよい。防腐剤は、組成物の保存期間を延ばすことができ、例えば、ベンジルアルコール及びパラオキシ安息香酸エステル類を加えるように適用されてよい。希釈剤は、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン、又はそれらの如何なる組み合わせからなる群から選ばれてよい。フィラーは、乳糖、ガラクトース、高分子量ポリエチレングリコール、又はそれらの如何なる組み合わせからなる群から選ばれてよい。吸収剤は、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アゾン、プロピレングリコール、グリセリン、又はそれらの如何なる組み合わせであってよい。甘味剤は、アセスルファムカリウム、アスパルテーム、サッカリン、スクラロース、ネオテーム、又はそれらの如何なる組み合わせであってよい。上記の添加剤以外、活性物質を有する乳酸菌を含む組成物の薬効に影響を与えずに、他の好適な添加剤を任意に選択してもよい。
【0106】
前記組成物は、医薬分野で異なる製品として開発されてよい。好ましい実施形態において、組成物は、薬物、飼料、飲料、栄養補給剤、乳製品、高齢者用食品、乳幼児食品又は健康食品であってよい。
【0107】
対象の要求に基づいて、組成物は、異なる形態に調節されてよい。好ましい実施形態において、組成物の形態は、粉末、錠剤、丸剤、座剤、マイクロカプセル剤、アンプル、液剤又はスプレー剤であってよい。
【0108】
組成物を動物又はヒトに投与することができる。乳酸菌の活性物質の機能に影響を与えずに、活性物質を有する乳酸菌を含む組成物を、如何なる薬物形態に調製して、また前記薬物形態に基づいて好ましい形態で動物又はヒトに投与してよい。
【0109】
組成物の調製.
【0110】
組成物1の下記方面を、活性物質を有する乳酸菌を含む組成物の食品用途に用いられる場合の例示として示す。
【0111】
組成物1:活性物質を有する乳酸菌株番号I(GKK2)の凍結乾燥粉末(20重量%又はwt.%)を、防腐剤としてのベンジルアルコール(8重量%)、希釈剤としてのグリセリン(7重量%)及び純水(65重量%)と完全に混合して4℃で保存した。上記wt.%は、各種の複合体の組成物の合計重量に対する重量比を示した。
【0112】
組成物2の下記方面を、活性物質を有する乳酸菌を含む組成物の医療用途に用いられる場合の例示として示す。
【0113】
組成物2:活性物質を有する乳酸菌株番号I(GKK2)の凍結乾燥粉末(20wt.%)を、防腐剤としてのベンジルアルコール(8重量%)、希釈剤としてのグリセリン(7重量%)、賦形剤スクロース(10重量%)及び純水(55重量%)と完全に混合して4℃で保存した。上記wt%は、各種の複合体の組成物の合計重量に対する重量比を示した。