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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】心房細動検出システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/361 20210101AFI20220419BHJP
   A61B 5/352 20210101ALI20220419BHJP
   A61B 5/0245 20060101ALI20220419BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
A61B5/361
A61B5/352
A61B5/0245 100B
A61B5/02 350
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019226464
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021094138
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(72)【発明者】
【氏名】篠▲崎▼ 亮
(72)【発明者】
【氏名】松井 太志
(72)【発明者】
【氏名】中田 章夫
【審査官】▲瀬▼戸井 綾菜
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-504414(JP,A)
【文献】特表2018-525188(JP,A)
【文献】特開2016-140689(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0330134(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/0538
A61B 5/24-5/398
A61B 10/00
G16H 10/00-80/00
G06Q 50/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者の心房細動の有無を検出する心房細動検出システムであって、心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段と、この拍動間隔測定手段により得られた拍動間隔Rを下式(1)により拍動間隔像rに変換する拍動間隔変換手段と、この拍動間隔変換手段で変換された拍動間隔像rからエントロピーSを算出するエントロピー演算手段と、このエントロピー演算手段により算出されたエントロピーSと所定の閾値とを比較し、前記エントロピーSが前記閾値よりも大きかった場合、心房細動が生じていると判定する比較判定手段とを備えたことを特徴とする心房細動検出システム。
【数1】
ここで、α、β及びγは定数である。
【請求項2】
請求項1記載の心房細動検出システムにおいて、前記エントロピー演算手段は下記により前記エントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。

前記拍動間隔変換手段で変換された拍動間隔像rの所定の値域を拍動間隔像空間とし、これを所定数Mで区間分けし、下式(2)により前記拍動間隔変換手段により得られたN個の前記拍動間隔像rから前記エントロピーSを算出する。
【数2】
ここで、nはm番目の区間に含まれる拍動間隔像rの数を意味する。
【請求項3】
請求項1記載の心房細動検出システムにおいて、前記エントロピー演算手段は下記により前記エントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。

前記拍動間隔変換手段で変換された拍動間隔像rの所定の値域を拍動間隔像空間とし、これを所定数Mで区間分けし、下式(3)により前記拍動間隔変換手段により得られたN個の前記拍動間隔像rから前記エントロピーSを算出する。
【数3】
ここで、nはm番目の区間に含まれる拍動間隔像rの数を意味する。
【請求項4】
請求項1記載の心房細動検出システムにおいて、前記エントロピー演算手段は下記により前記エントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。

前記拍動間隔変換手段により得られたN個の前記拍動間隔像rのそれぞれの値 を中心に所定の分布gを持たせ、下式(4)によりN個の分布gの和から得られる分布Gを正規化し、下式(5)により確率密度分布pを算出して、下式(6)により前記エントロピーSを算出する。
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、上式(4)~(6)におけるrは、前記拍動間隔像rの所定の値域である拍動間隔像空間の変数であり、rとrは所定の積分区分の下端と上端である。
【請求項5】
請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記分布gは下式(7)で表されることを特徴とする心房細動検出システム。
【数7】
ここで、rは前記拍動間隔像空間の変数であり、rは前記拍動間隔変換手段で変換された拍動間隔像rのそれぞれの値である。また、cは0以外の任意の定数で、σはgの分布の広がりを表す標準偏差である。
【請求項6】
請求項1~いずれか1項に記載の心房細動検出システムにおいて、前記拍動間隔測定手段は拍動間隔測定用センサに設けられ、前記拍動間隔変換手段、前記エントロピー演算手段及び前記比較判定手段は解析器に設けられていることを特徴とする心房細動検出システム。
【請求項7】
請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記拍動間隔測定用センサは前記拍動間隔Rを前記解析器に送信する拍動間隔送信手段若しくは前記拍動間隔Rを保存する拍動間隔保存手段を有し、この拍動間隔測定用センサに設けられた前記拍動間隔送信手段若しくは前記拍動間隔保存手段を介して前記解析器に前記拍動間隔Rを入力することで心房細動を検出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。
【請求項8】
請求項1~いずれか1項に記載の心房細動検出システムにおいて、前記拍動間隔測定手段で測定された拍動間隔Rのうち期外収縮由来の拍動間隔を除外する期外収縮除外手段を備え、この期外収縮除外手段により期外収縮由来の拍動間隔を除外した拍動間隔Rを前記拍動間隔変換手段により変換した拍動間隔像rから前記エントロピー演算手段によりエントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。
【請求項9】
請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記期外収縮除外手段は、前記拍動間隔測定手段で測定した前記拍動間隔Rとこの拍動間隔Rの平均値との差の大きさに基づいて期外収縮由来の拍動間隔を除外するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。
【請求項10】
請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記期外収縮除外手段は下記により期外収縮由来の拍動間隔を除外するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システム。

前記拍動間隔測定手段で測定した拍動間隔Rの時系列をRとし、正規化拍動間隔NDRを下式(8)で示すものとし、所定方法で算出された平均値をRバーとして、下式(9)~(11)を満たす拍動間隔RとRn+1を除外する。
【数8】
ここで、nは時系列を表しnはn+1に対して過去を意味する。
【数9】
【数10】
【数11】
ここで、閾値A,B,C,D,E及びFはそれぞれ0より大きい値であり、また、E<Fである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心房細動検出システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
心房細動は、心房が細かく震える心疾患で、心房に血液が滞り血栓ができ易くなり、この血栓が突発的に脳に運ばれて脳梗塞を発症するリスクがある。
【0003】
日本循環器学会の疫学調査によると、心房細動の有病率は40代で0.1%、50代で0.6%、60代で0.9%、70代以上で2.7%とされている。また、Framingham Studyによると、65~84歳の男性の有病率は1970年には3.2%であったが1998年では9.1%と経年的に増加している。
【0004】
心房細動が原因で心房に生じる血栓は比較的大きめのサイズとなるため、脳の太い血管を塞ぎ、重篤な後遺症を残す可能性が高いと言われているが、心房細動は治療が可能であるため、早期に発見できれば、脳梗塞のような重篤な疾患が生じるリスクを可及的に低減することができる。
【0005】
心房細動の治療としては、大別すると抗血液凝固剤などを服用する薬物治療とカテーテル治療(カテーテルアブレーション)があり、カテーテル治療は早期の心房細動であれば約80%が完治すると言われている。治療により完治できるのは早期の心房細動だが、このときの心房細動は発作性心房細動と呼ばれ、病院や健康診断で行われる一般的な30秒程度の心電図検査で見つかることはまれである。
【0006】
また、STROKESTOP Studyによると、15日間間欠的に心電図をとり続ければ有病者のほとんどが見つかり、5日間で有病者の60%が見つかるとされている。つまり、数日間心電図を測定するのは発作性心房細動を検出するのに有効であるといえる。たとえば健康診断において、数日間連続で心電図を測定すれば発作性心房細動を検出でき、脳梗塞のような重篤な疾患の発生を防ぐこともできるようになる。
【0007】
しかしながら、健康診断のような同時に数百人を検査するための機材の準備と長時間測定した心電図の解析にはコストがかかり現実的ではない。
【0008】
そこで、出願人は、特許文献1に示すような心臓の拍動間隔のみから心房細動を検出する心房細動検出システムを提案している。
【0009】
この心房細動検出システム(以下、従来システムという。)は心房細動を拍動間隔のみから検出するので、数日に渡って拍動間隔を測定しても、心電図よりもデータ量が少なく、心電図を解析するのに比べてコスト安である。また、拍動間隔のみを測定する装置は、ホルター心電計に比べて安価に構成できるので、心臓の拍動間隔を測定する装置と拍動間隔のみから心房細動を検出するシステムの組み合わせは健康診断に好適なものとなる。
【0010】
しかしながら、この従来システムは心房細動を検出するために隣り合う拍動間隔の差を用いているため、心房細動以外の期外収縮を除外しようとしたとき、期外収縮に関する拍動間隔とこれに隣り合う拍動間隔も同時に除外しなければならず、この除外操作が必要となった場合、拍動間隔数が減少することで偽陽性の判定結果を検出するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6150825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、従来システムの上記の問題に鑑みなされたものであり、測定された拍動間隔そのものの不規則の程度を算出し、期外収縮があった場合でもこの期外収縮を除外しなくても偽陽性の検出を低減し、信頼度の高い判定結果が得られる心房細動検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0014】
対象者の心房細動の有無を検出する心房細動検出システムであって、心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段4と、この拍動間隔測定手段4により得られた拍動間隔Rを下式(1)により拍動間隔像rに変換する拍動間隔変換手段8と、この拍動間隔変換手段8で変換された拍動間隔像rからエントロピーSを算出するエントロピー演算手段9と、このエントロピー演算手段9により算出されたエントロピーSと所定の閾値とを比較し、前記エントロピーSが前記閾値よりも大きかった場合、心房細動が生じていると判定する比較判定手段10とを備えたことを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。
【数1】
ここで、α、β及びγは定数である。
【0015】
また、請求項1記載の心房細動検出システムにおいて、前記エントロピー演算手段9は下記により前記エントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。

前記拍動間隔変換手段8で変換された拍動間隔像rの所定の値域を拍動間隔像空間とし、これを所定数Mで区間分けし、下式(2)により前記拍動間隔変換手段8により得られたN個の前記拍動間隔像rから前記エントロピーSを算出する。
【数2】
ここで、nはm番目の区間に含まれる拍動間隔像rの数を意味する。
【0016】
また、請求項1記載の心房細動検出システムにおいて、前記エントロピー演算手段9は下記により前記エントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。

前記拍動間隔変換手段8で変換された拍動間隔像rの所定の値域を拍動間隔像空間とし、これを所定数Mで区間分けし、下式(3)により前記拍動間隔変換手段8により得られたN個の前記拍動間隔像rから前記エントロピーSを算出する。
【数3】
ここで、nはm番目の区間に含まれる拍動間隔像rの数を意味する。
【0017】
また、請求項1記載の心房細動検出システムにおいて、前記エントロピー演算手段9は下記により前記エントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。

前記拍動間隔変換手段8により得られたN個の前記拍動間隔像rのそれぞれの値 を中心に所定の分布gを持たせ、下式(4)によりN個の分布gの和から得られる分布Gを正規化し、下式(5)により確率密度分布pを算出して、下式(6)により前記エントロピーSを算出する。
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、上式(4)~(6)におけるrは、前記拍動間隔像rの所定の値域である拍動間隔像空間の変数であり、rとrは所定の積分区分の下端と上端である。
【0018】
また、請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記分布gは下式(7)で表されることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。
【数7】
ここで、rは前記拍動間隔像空間の変数であり、rは前記拍動間隔変換手段8で変換された拍動間隔像rのそれぞれの値である。また、cは0以外の任意の定数で、σはgの分布の広がりを表す標準偏差である。
【0019】
また、請求項1~いずれか1項に記載の心房細動検出システムにおいて、前記拍動間隔測定手段4は拍動間隔測定用センサ2に設けられ、前記拍動間隔変換手段8、前記エントロピー演算手段9及び前記比較判定手段10は解析器3に設けられていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。
【0020】
また、請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記拍動間隔測定用センサ2は前記拍動間隔Rを前記解析器3に送信する拍動間隔送信手段5若しくは前記拍動間隔Rを保存する拍動間隔保存手段11を有し、この拍動間隔測定用センサ2に設けられた前記拍動間隔送信手段5若しくは前記拍動間隔保存手段11を介して前記解析器3に前記拍動間隔Rを入力することで心房細動を検出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。
【0021】
また、請求項1~いずれか1項に記載の心房細動検出システムにおいて、前記拍動間隔測定手段4で測定された拍動間隔Rのうち期外収縮由来の拍動間隔を除外する期外収縮除外手段7を備え、この期外収縮除外手段7により期外収縮由来の拍動間隔を除外した拍動間隔Rを前記拍動間隔変換手段8により変換した拍動間隔像rから前記エントロピー演算手段9によりエントロピーSを算出するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。
【0022】
また、請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記期外収縮除外手段7は、前記拍動間隔測定手段4で測定した前記拍動間隔Rとこの拍動間隔Rの平均値との差の大きさに基づいて期外収縮由来の拍動間隔を除外するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。
【0023】
また、請求項記載の心房細動検出システムにおいて、前記期外収縮除外手段7は下記により期外収縮由来の拍動間隔を除外するように構成されていることを特徴とする心房細動検出システムに係るものである。

前記拍動間隔測定手段4で測定した拍動間隔Rの時系列をRとし、正規化拍動間隔NDRを下式(8)で示すものとし、所定方法で算出された平均値をRバーとして、下式(9)~(11)を満たす拍動間隔RとRn+1を除外する。
【数8】
ここで、nは時系列を表しnはn+1に対して過去を意味する。
【数9】
【数10】
【数11】
ここで、閾値A,B,C,D,E及びFはそれぞれ0より大きい値であり、また、E<Fである。
【発明の効果】
【0024】
本発明は上述のように構成したから、測定された拍動間隔そのものの不規則の程度を算出し、期外収縮があった場合でもこの期外収縮を除外しなくても偽陽性の検出を低減し、信頼度の高い判定結果が得られる実用的な心房細動検出システムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1の構成概略説明図である。
図2】実施例2の構成概略説明図である。
図3】実施例3の構成概略説明図である。
図4】実施例3の別例の構成概略説明図である。
図5】実施例3の別例の構成概略説明図である。
図6】心房細動患者の隣り合う拍動間隔の平均に対する拍動間隔の差の分布を示す図である。
図7】心房細動患者の隣り合う拍動間隔Rの平均に対する正規化拍動間隔の分布を示す図である。
図8】健常者の正規化拍動間隔のヒストグラムである。
図9】健常者と心房細動患者の21拍の拍動間隔像のヒストグラムである。
図10】健常者と心房細動患者の21拍の拍動間隔像の確率密度を示す図である。
図11】期外収縮のある拍動間隔の時系列とその平均値を示す図である。
図12】期外収縮のある拍動間隔から期外収縮を除外できることを示す図である。
図13】健常者と心房細動患者の21拍の式(14)から得られたエントロピーを示す表である。
図14】健常者と心房細動患者の21拍の式(15)から得られたエントロピーを示す表である。
図15】健常者と心房細動患者の21拍の式(18)から得られたエントロピーを示す表である。
図16】期外収縮保有者及び心房細動患者の特許文献1の心房細動検出システムによる判定結果、式(18)から得られたエントロピー及び期外収縮除外手段を用いた場合のエントロピーを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0027】
拍動間隔測定手段4で測定した所定の個数(例えば少なくとも20拍程度)の拍動間隔Rを、拍動間隔変換手段8により拍動間隔Rの変化の程度をほぼ一定にする関数によって変換して拍動間隔像rとし、エントロピー演算手段9によりこの拍動間隔像rの不規則の程度を示すエントロピーSを算出し、比較判定手段10によりこのエントロピーSを所定の閾値と比較し、エントロピーSが閾値よりも大きかった場合、心房細動ありと判定する。
【0028】
また、心房細動以外の期外収縮はある一定の規則があるため、これによるエントロピーSの増大は心房細動によるほどではない。したがって、本発明は、心房細動以外の期外収縮に関する拍動間隔Rを除外しなくとも心房細動検出における偽陽性を低減することができ、信頼度の高い判定結果を得ることができる心房細動検出システムとなる。
【0029】
また、本発明は、前述のとおり数十拍程度の拍動間隔Rで心房細動の有無を検出できるから、短時間で心房細動の兆候を検出することが可能となり、よって、対象者の負担を軽減でき、また、短時間に生じる発作性の心房細動の検出も可能となる。
【0030】
さらに、本発明は、拍動間隔RからエントロピーSを計算できるので、ホルター心電計や12誘導心電計など電極位置が厳密に指定される専門的な装置を用いる必要がなく、例えば胸に貼り付ける心拍計やリストバンド型の脈波計など家庭用の簡易で小型の測定器を用いて得られた拍動間隔RからエントロピーSを計算し、心房細動か否かを検出することができる実用的な心房細動検出システムとなる。
【実施例1】
【0031】
本発明の具体的な実施例1について図面に基づいて説明する。
【0032】
本実施例は、対象者の心房細動の有無を検出する心房細動検出システム1であって、図1に示すように、心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段4と、この拍動間隔測定手段4により得られた拍動間隔Rの変化の程度を所定の関数によりほぼ一定に変換する拍動間隔変換手段8と、この拍動間隔変換手段8で変換された拍動間隔像rからエントロピーSを算出するエントロピー演算手段9と、このエントロピー演算手段9により算出されたエントロピーSと所定の閾値とを比較し、前記エントロピーSが前記閾値よりも大きかった場合、心房細動が生じていると判定する比較判定手段10とを備えたものである。
【0033】
以下、本実施例に係る構成各部について詳述する。
【0034】
拍動間隔測定手段4は、例えばマイコン等を用いて電極から得た電圧の変化をもとにした心電図から隣り合うR波同士の間隔、または、隣り合うS波同士の間隔から拍動間隔Rを測定するように構成されている。なお、拍動間隔測定手段4は赤外線の反射光から脈波を測定し、そのピーク間隔などから拍動間隔Rを測定する構成としても良い。また、心音や脈音をとらえ、心音若しくは脈音又はこれらの双方を電気的に処理することによって拍動間隔Rを測定する構成としても良い。
【0035】
また、拍動間隔変換手段8は、前述の拍動間隔測定手段4で測定し得られた対象者の心臓の拍動間隔Rの変化の程度(拍動間隔Rの分布)を所定の関数を用いてほぼ一定(ほぼ対称な分布)となる拍動間隔像rの分布へ変換するように構成されている。
【0036】
具体的には、前記所定の関数とは、例えば下式(12)を採用することができる。なお、式(12)は式(1)と同じである。
【0037】
【数12】
ここで、αは0以外の係数、βは0でも良い係数、γは任意の定数である。
【0038】
本実施例の拍動間隔変換手段8についてより具体的に説明する。
【0039】
図6は心房細動患者の拍動間隔値データ39,061個での隣り合う拍動間隔Rの平均の大きさとその差の大きさとの関係を示したものである。この図6において、横軸は隣り合う拍動間隔Rの平均の大きさRバー=(R+Rn+1)/2であり、縦軸は拍動間隔Rの差の大きさ|ΔR|=|R-Rn+1|である(| |は絶対値記号である。)。
【0040】
ここで、図6の横軸は拍動間隔Rの大きさ、縦軸は拍動間隔Rの変化の程度とみなすことができるから、拍動間隔Rの変化の程度は、図中の回帰直線が示すように拍動間隔Rとともに大きくなる傾向があるので、不規則の程度が拍動間隔Rの大きさに依存し、拍動間隔Rの分布は、拍動間隔Rが大きいほど、広がりが大きくなることがわかる。
【0041】
一般的に、分布が大きいほどエントロピーSが大きくなるので、拍動間隔Rの分布から直接エントロピーSを算出すると、その大きさは拍動間隔Rの大きさに依存することとなり、心房細動かどうかを判定する際にエントロピーSを用いるならば、感度が拍動間隔Rの大きさに依存するのは好ましくないと言える。
【0042】
そこで、拍動間隔Rの大きさに影響を受けることなくエントロピーSを算出するには、拍動間隔Rを所定の関数で変換し、変換で得られた拍動間隔像rにおいて、変化の程度が拍動間隔Rに依存しないようにすれば良く、このように得られた拍動間隔像rは、拍動間隔Rの大きさに依存せず一定なので、拍動間隔像rからエントロピーSを算出すれば、拍動間隔Rの大きさに依らないエントロピーSが得られる。
【0043】
図7図6のプロットに用いたものと同じ拍動間隔値データにおいて、2つの拍動間隔Rの平均の大きさと、その差の大きさを拍動間隔Rの平均値で割った値である正規化拍動間隔の絶対値との関係を示したものである。この図7において横軸は隣り合う拍動間隔Rの平均の大きさRバーであり、縦軸は正規化拍動間隔の絶対値|NDR|≡2|R-Rn+1|/(R+Rn+1)である(| |は絶対値記号である。)。
【0044】
図7中の回帰直線が示すように、正規化拍動間隔の変化の程度はほぼ拍動間隔Rに依らないものとなるので、縦軸の正規化拍動間隔はΔR→0の極限でR-Rn+1=dR、(R+Rn+1)/2=Rと書いて、dR/Rを積分した下式(13)の関数で得られる拍動間隔像rの変化の程度は拍動間隔Rに依らず一定のはずである。
【0045】
【数13】
ここで、αは0以外の係数であり、γは任意の定数である。
【0046】
この図7中の回帰直線は極僅かな拍動間隔依存がみられる。このような場合、図7の正規化拍動間隔NDRに前述した図6の拍動間隔差ΔRをある比率で加算して補正しても良い。
【0047】
このようにして得られた値は、αNDR+βΔRであるから、ΔR→0の極限で(α/R+β)dRと書くことができ、これを積分することで上述した式(12)の関数が得られ、この式(12)の関数の変換により得られた拍動間隔像rの変化の程度はより拍動間隔Rに依存しないものとなる。
【0048】
また、エントロピー演算手段9は、前述した拍動間隔変換手段8で得られた拍動間隔像rの不規則の程度、具体的には、拍動間隔変換手段8で得られた連続する所定の数の拍動間隔像rからエントロピーSを算出するように構成されている。
【0049】
本実施例のエントロピー演算手段9についてより具体的に説明する。
【0050】
拍動間隔変換手段8で得られた所定の拍動間隔像rの数をNとし、拍動間隔変換手段8の拍動間隔像空間をM個に区間分けして、N個の拍動間隔像rのヒストグラムを作る。このヒストグラムにおいてm番目の区間にある拍動間隔像rの数をnとすると、エントロピーSは下式(14)と書くことができる。なお、式(14)の右側の式は式(2)と同じである。
【0051】
【数14】
【0052】
この式(14)をNで除算し、さらにスターリングの公式を用いて変形して下式(15)とすれば、拍動間隔像数Nの大きさに依存しないエントロピーSが得られることになる。なお、式(15)は式(3)と同じである。
【0053】
【数15】
【0054】
なお、エントロピーSの算出において、前記所定の拍動間隔像数Nは、20~100程度とすることが好ましく、これにより発作性心房細動の検出も可能となる。また、拍動間隔像空間の区間は、式(12)の関数fを使用して、f(300)からf(2000)を区間数M=17程度に等分割するのが好適である。
【0055】
また、拍動間隔変換手段8により得られたN個の拍動間隔像rのそれぞれの値を中心に所定の分布gを持たせ、下式(16)によりN個の分布gの和から得られる分布Gを正規化し、下式(17)により確率密度分布pを算出して、エントロピーSを下式(18)により算出することもできる。なお、式(16)は式(4)と同じであり、式(17)は式(5)と同じであり、式(18)は式(6)と同じである。
【0056】
【数16】
【0057】
【数17】
【0058】
【数18】
ここで、rとrはr<rを満たす積分区間の下端と上端である。また、下端と上端は前述した式(12)の関数fを使用してr=f(300)からr=f(2000)としても良く、また、r=0からr=+∞としても良い。
【0059】
このように得られたエントロピーSは、拍動間隔像空間をM個の区間に分ける必要がないため、より普遍的なエントロピーSとなる。なお、式(16)の分布g(r,r)は、正規分布を用いるのが好適であり、具体的には、例えば下式(19)を用いることができる。
【0060】
【数19】
ここで、cは0以外の任意の定数で、σは分布の広がりを表す標準偏差である。任意の定数cは式(17)によっていずれ消去されるので1を採用すると良く、また、標準偏差σは健常者の正規化拍動間隔NDRの標準偏差を採用するのが良い。
【0061】
図8は健常者の拍動間隔74,257個から得られた正規化拍動間隔NDRの分布を示すものである。この分布の標準偏差は0.032なので、式(19)の標準偏差σは0.02から0.06程度が好適である。
【0062】
また、比較判定手段10は、エントロピー演算手段9で算出されたエントロピーSと所定の閾値を比較し、エントロピーSがこの閾値を超えたときに心房細動が発生したと判定するように構成されている。
【0063】
次に、以上のように構成される本実施例の心房細動検出システム1を用いることで、実際の心房細動患者20例と健常者20例のそれぞれの21拍の拍動間隔Rから対象者が心房細動かどうかを検出できることを示す。
【0064】
まず、拍動間隔Rを、式(12)を用いて変換する。この際、式(12)の係数をα=1、β=0、γ=0とした。拍動間隔像空間の区間は、式(12)の関数fを使って、f(300)からf(2000)を17分割(区間数M=17)した。m番目の区間にある拍動間隔像の数nを算出した。心房細動患者と健常者の21拍の拍動間隔像rのヒストグラムを図9に示す。ここから心房細動患者のエントロピーSは大きいと予想されるが、式(14)によれば、心房細動患者20例と健常者20例のエントロピーSは図13に示す通りである。心房細動患者と健常者の平均値及び標準偏差から、閾値を21.97とすれば99.96%の確かさで心房細動かどうか判定できる。
【0065】
式(15)を用いて算出されたエントロピーSは図14の通りである。図14の心房細動患者と健常者の平均値及び標準偏差から、閾値を1.24とすれば99.97%の確かさで心房細動かどうかを判定できる。
【0066】
また、式(14)若しくは式(15)を用いるエントロピーSの計算は、拍動間隔像空間のどこからどこまでの区間を何分割するかにより、得られる値が異なる。この区間分割の方法に依らない式(18)にしたがってエントロピーSを算出した場合について示す。
【0067】
前述した式(14)及び式(15)を用いた場合と同様に、拍動間隔Rを、α=1、β=0、γ=0のもと式(12)を用いて変換する。次に式(19)で標準偏差をσ=0.032とし、式(16)及び式(17)から確率密度分布pを求める。心房細動患者と健常者の21拍の拍動間隔像rから式(17)を使って得られた確率密度分布pを図10に示す。図9のヒストグラムに比べ滑らかなので、区間を気にせず積分できることがわかる。
【0068】
式(18)を用いて算出されたエントロピーSは図15の通りである。図15の心房細動患者と健常者の平均値及び標準偏差から、閾値を8.01とすれば100%の確かさで心房細動かどうかを判定できる。
【0069】
このように、本実施例は、測定された拍動間隔Rそのものの不規則の程度を算出するから、期外収縮があった場合でもこの期外収縮を除外しなくても偽陽性の検出を低減することができ、信頼度の高い判定結果を得ることができる実用的な心房細動検出システムとなる。
【実施例2】
【0070】
本発明の具体的な実施例2について図面に基づいて説明する。
【0071】
本実施例は、前記実施例1において、心房細動以外の期外収縮に由来する拍動間隔Rを除外する期外収縮除外手段7をさらに備え、より誤検出(偽陽性)の少ない心房細動検出システムに構成した場合である。
【0072】
すなわち、従来技術として示した特許文献1(特許第6150825号)の心房細動検出システムでは、隣り合う拍動間隔Rの差をその平均値で除算した正規化拍動間隔NDRを導入し、その絶対値が0.1より大きいものを異常正規化拍動間隔とし、連続する20個の正規化拍動間隔のうち異常正規化拍動間隔が7個以上あるとき、最も良い感度と特異度で健常者と心房細動患者を判別できることを示された。この方法では、心房細動以外の期外収縮があると、この期外収縮に関連する拍動間隔から算出される正規化拍動間隔の絶対値は正常洞調律から算出されるそれに比べ大きいので、心房細動と誤検出される場合がある。実際に、心房細動以外の期外収縮、上室期外収縮と心室期外収縮が含まれる対象者20例と心房細動患者の20例について、前述の方法で心房細動かどうか判定した結果を図16の左側列「特許文献1の方法」に示す。心房細動と判定した対象者を「Yes」と表示し、それ以外を「No」と表示した。なお、後に続く括弧内の数値は、20個の正規化拍動間隔のうちの異常正規化拍動間隔数である。この結果、心房細動患者のすべてを心房細動と判別できたが、期外収縮をもつ20例のうち12例を心房細動と誤判定していることがわかる。
【0073】
次に、実施例1における式(18)にしたがってエントロピーSを算出したとき、心房細動以外の期外収縮に影響されにくいことを示す。式(18)のために、式(19)で標準偏差をσ=0.032とし、式(16)及び式(17)から確率密度分布pを求め、拍動間隔Rは、α=1、β=0、γ=0のもと式(12)を用いて変換した。その結果、図16の中央列に示すように、期外収縮を含む対象者と心房細動患者のエントロピーSの平均値はそれぞれ8.03と8.92で、標準偏差は0.21と0.17であった。したがって閾値を8.52とすれば99.0%の確かさで心房細動を判別でき、つまり心房細動以外の期外収縮に影響されにくいことが示された。
【0074】
しかしながら、エントロピーSを用いたとしても、拍動間隔Rに著しく多くの心房細動以外の期外収縮が含まれる場合、判定精度は悪化すると考えられる。なお、期外収縮には心房細動以外に、上室期外収縮、心室期外収縮、洞停止、房室ブロックその他があり、これらも大きなエントロピーSを導くので、心房細動検出の特異度が悪化する原因となる。
【0075】
本実施例は、このような多くの心房細動以外の期外収縮が含まれることによる判定精度の悪化を防止することを目的として、前記実施例1において、心房細動以外の期外収縮に由来する拍動間隔Rを除外する期外収縮除外手段7をさらに備え、より誤検出(偽陽性)の少ない心房細動検出システム1に構成されるものである。
【0076】
具体的には、本実施例は、図2に示すように、心臓の拍動間隔を測定する拍動間隔測定手段4と、この拍動間隔測定手段4により得られた拍動間隔Rのうち期外収縮に由来する拍動間隔を除外する期外収縮除外手段7と、この期外収縮除外手段7により期外収縮由来の拍動間隔を除外した拍動間隔Rの変化の程度を所定の関数によりほぼ一定に変換する拍動間隔変換手段8と、この拍動間隔変換手段8で変換された拍動間隔像rからエントロピーSを算出するエントロピー演算手段9と、このエントロピー演算手段9により算出されたエントロピーSと所定の閾値とを比較し、前記エントロピーSが前記閾値よりも大きかった場合、心房細動が生じていると判定する比較判定手段10とを備えたものである。なお、本実施例の拍動間隔測定手段4、拍動間隔変換手段8、エントロピー演算手段9及び比較判定手段10は実施例1と同様のものであるため、ここでは期外収縮除外手段7についてのみ説明する。
【0077】
本実施例の期外収縮除外手段7は、心室性及び心房性の期外収縮を除外するように構成されている。
【0078】
具体的には、期外収縮除外手段7は、所定の数の拍動間隔Rの平均値を所定の方法で算出し、当該拍動間隔Rと拍動間隔Rの平均値の差の大きさに基づいて当該拍動間隔を除外するように構成されている。
【0079】
なお、期外収縮除外手段7においては、拍動間隔Rの平均値算出のために種々の方法をとることができ、例えば、拍動間隔Rに対応する平均値を、下式(20)に示す拍動間隔Rを含む前後併せてK個の拍動間隔Rの移動平均を採用しても良い。
【0080】
【数20】
【0081】
また、高周波ノイズを除去する効果のあるSavitzky Golay法を用いることもでき、例えば、K=5の拍動間隔Rの平均は、下式(21)となる。
【0082】
【数21】
【0083】
図11は期外収縮の一例を示したものである。この図11において実線四角印は拍動間隔Rを表し、点線バツ印はSavitzky Golay法の上式(21)から得られた平均値を表している。期外収縮が生じたとき、2つの連続する拍動間隔Rが、それぞれ正常洞調律に比べ短くなり、大きくなる。すなわち、図11中の拍動間隔Rで心臓が早期収縮し、代償性休止のため大きな拍動間隔Rn+1が生じる。
【0084】
早期収縮の拍動間隔Rは、正常洞調律の拍動間隔から10%程度短く、また、代償性休止の大きな拍動間隔Rn+1は、正常洞調律より10%程度大きくなっている。したがって、期外収縮の拍動間隔RとRn+1が含まれる次の正規化拍動間隔NDRn-1とNDRは、下式(22)を満たすこととなる。
【0085】
【数22】
ここでAとBは0より大きい値で、期外収縮の特徴を考慮すると、AとBいずれも0.05から0.2程度が好適である。
【0086】
図11中の平均値RSGnバーとRSGn+1バーはSavitzky Golay法の式(21)から得たものである。期外収縮があると、早期収縮の拍動間隔Rと代償性休止期の拍動間隔Rn+1と平均値RSGnバーとRSGn+1バーは、図11からも分かるように、R<RSGnバー及びRSGn+1バー<Rn+1の関係がある。したがって、期外収縮ならば、下式(23)を満たすこととなる。
【0087】
【数23】
ここで閾値C及びDは0より大きい値で、早期収縮の拍動間隔Rnが、正常洞調律の拍動間隔から10%程度短いことを考慮すると、Cは0.5以上1.0以下が好適であり、また代償性休止期と早期収縮の拍動間隔の差Rn+1-Rから正常洞調律の拍動間隔Rを差し引いた値は、正常洞調律から早期収縮の拍動間隔Rnを差し引いた値よりも小さいことから、Dは1.0以上1.2以下が好適である。
【0088】
さらに、早期収縮時と代償性休止期の拍動間隔を加算したR+Rn+1は、正常洞調律による拍動間隔の2倍にほぼ等しいので、下式(24)を満たすこととなる。
【0089】
【数24】
ここで、閾値EとFは、E<Fを満たす値で、Eは0.8以上1.0以下、Fは1.0以上1.2以下が好適である。
【0090】
このように式(22)、式(23)及び式(24)を同時に満たす拍動間隔RとRn+1を除外すれば、心房性および心室性の期外収縮を除外し、心房細動検出の感度と特異度を向上することができる。
【0091】
実際に図11で示した期外収縮を含む拍動間隔Rに、前述の方法で心室性及び心房性の期外収縮を除外した様子を図12に示す。点線を伴った白抜き四角が除外前の拍動間隔R、実線を伴った黒丸が除外後の拍動間隔Rの時系列である。この図12から除外された拍動間隔Rは、早期収縮および代償性休止期であることが分かる。なお、ここでは式(22)から式(24)のそれぞれの閾値を、A=B=0.1、C=0.9、D=1.05、E=0.95、F=1.1とした。
【0092】
実際の期外収縮を持つ対象者20例、心房細動患者の20例それぞれの21拍の拍動間隔Rを使って、期外収縮除外の効果を調べた結果を図16に示す。なお、式(22)から式(24)の各閾値A~Fは、上記の値を用いた。また、エントロピーSの計算には実施例1で示した式(18)に従うため、式(19)で標準偏差をσ=0.032とし、式(16)及び式(17)から確率密度分布pを求めた。拍動間隔Rは、α=1、β=0、γ=0のもと、式(12)を用いて変換した。
【0093】
期外収縮除外を適用する前の結果(図16の中央列)は、前述したとおり、期外収縮を含む対象者と心房細動患者のエントロピーSの平均値はそれぞれ8.03と8.92で、標準偏差は0.21と0.17である。したがって閾値を8.52とすれば99.0%の確かさで心房細動を判別できる。
【0094】
一方、期外収縮除外を適用した後の結果(図16の右列)は、期外収縮を含む対象者と心房細動患者のエントロピーSの平均値はそれぞれ7.54と8.82で、標準偏差は0.26と0.17である。したがって閾値を8.13とすれば99.9%の確かさで心房細動を判別でき、期外収縮除外を適用しない場合に比べて、より誤検出の少ない心房細動検出システム1となることがわかる。
【実施例3】
【0095】
本発明の具体的な実施例3について図面に基づいて説明する。
【0096】
本実施例は、実施例1の別構成例であり、実施例1の心房細動検出システム1は、図1に示すように拍動間隔測定手段4、拍動間隔変換手段8、エントロピー演算手段9及び比較判定手段10を一体としたシステム構成(装置構成)であるのに対し、本実施例は、図3に示すように、心房細動検出システム1を拍動間隔測定手段4が設けられた拍動間隔測定用の小型軽量な拍動間隔測定用センサ2と、拍動間隔変換手段8、エントロピー演算手段9及び比較判定手段10が設けられた解析器3とからなるシステム構成(装置構成)とした場合である。
【0097】
すなわち、本実施例は、拍動間隔測定手段4を対象者に装着可能な構成として、対象者が拍動間隔測定手段4を備える拍動間隔測定用の小型軽量タイプに構成される拍動間隔測定用センサ2を装着することで日常生活に支障をきたすことなく心房細動かどうかを判定することができるように構成されている。
【0098】
なお、本実施例においては、解析器3は、対象者が持ち歩くことができるように構成しても良いし、遠隔設置可能に構成しても良い。
【0099】
後者の場合、例えば、拍動間隔測定用センサ2と解析器3とを無線や通信回線を用いて接続する構成とすることが好ましい。
【0100】
具体的には、例えば、図4に示すように、拍動間隔測定用センサ2に拍動間隔送信手段5を設け、解析器3に拍動間隔受信手段6を設けて、拍動間隔送信手段5、拍動間隔受信手段6間で測定データの送受信を行うように構成することができ、例えば、解析器3をスマートフォンとした場合、拍動間隔送信手段5と拍動間隔受信手段6はBluetooth(登録商標)やWiFiなどの無線通信を利用する構成とすることができ、このような構成とすることで対象者は自身の状態を常時モニタすることができるようになる。なお、解析器3はインターネット上のサーバーに設ける構成としても良く、この場合、対象者の拍動間隔Rは、スマートフォンを介してサーバーに送られ、例えば離れた場所にいる医師などがリアルタイムで対象者の拍動間隔Rを確認することが可能となる。
【0101】
また、本実施例においては、図5に示すように、拍動間隔測定用センサ2に拍動間隔送信手段5の代わりに拍動間隔Rを保存するための拍動間隔保存手段11を設け、拍動間隔測定手段4による測定が完了した後、解析器3が拍動間隔受信手段6を介して拍動間隔保存手段11から拍動間隔Rを読み込むように構成しても良い。
【0102】
このような構成とすることで、対象者はスマートフォンや無線の状態を気にする必要がなくなり、測定中もより一層日常に近い生活を送ることができる。また、拍動間隔測定用センサ2のみを対象者に渡し、測定の後に解析器3を備えた解析センターなどに拍動間隔測定用センサ2を返送し、解析センターにおいて拍動間隔測定用センサ2に設けられた拍動間隔保存手段11に保存された拍動間隔Rを読み出し、対象者に心房細動が生じているかどうかを判定するようにすれば、健康診断などにも応用することができるようになる。
【0103】
なお、本発明は、実施例1~3に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0104】
2 拍動間隔測定用センサ
3 解析器
4 拍動間隔測定手段
5 拍動間隔送信手段
7 期外収縮除外手段
8 拍動間隔変換手段
9 エントロピー演算手段
10 比較判定手段
11 拍動間隔保存手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16