(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】含フッ素共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 214/18 20060101AFI20220419BHJP
C08F 230/08 20060101ALI20220419BHJP
C08G 18/62 20060101ALI20220419BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20220419BHJP
C09D 129/10 20060101ALI20220419BHJP
C09D 183/07 20060101ALI20220419BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C08F214/18
C08F230/08
C08G18/62 095
C08G18/62 075
C08G18/62
C09K3/18 104
C09D129/10
C09D183/07
C09D127/12
(21)【出願番号】P 2019513572
(86)(22)【出願日】2018-04-11
(86)【国際出願番号】 JP2018015167
(87)【国際公開番号】W WO2018193926
(87)【国際公開日】2018-10-25
【審査請求日】2020-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2017081202
(32)【優先日】2017-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000157119
【氏名又は名称】関東電化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】深田 匠
(72)【発明者】
【氏名】松田 慶貴
(72)【発明者】
【氏名】彦部 圭政
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-213490(JP,A)
【文献】特開2014-213576(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152631(WO,A1)
【文献】特開2002-309054(JP,A)
【文献】特開2001-163927(JP,A)
【文献】特開2001-206918(JP,A)
【文献】特開2004-115792(JP,A)
【文献】特開2001-207004(JP,A)
【文献】特開2000-313725(JP,A)
【文献】特開2008-024874(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00;301/00
C08G 2/00-85/00
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C09D 127/12
C09D 129/10
C09D 183/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の含フッ素共重合体と、該含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体であって、官能基を3つ以上有する硬化剤である、被膜用組成物。
<含フッ素共重合体>
(A)フルオロオレフィンを構成単量体中15~85モル%、
(B)下記の一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の有機ケイ素化合物を構成単量体中0.001~10モル%、
(C)ビニルエーテル、ビニルエステル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基
である水酸基及びエポキシ基を有さず、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基を有し、該単量体のホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満である単量体から選ばれる1種以上の単量体を構成単量体中5~40モル%、並びに
(D)ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、
水酸基及びエポキシ基から選ばれる1種以上の硬化反応性基を有する単量体から選ばれる1種以上の単量体〔以下、単量体(D)という〕を構成単量体中1~25モル%
含む含フッ素共重合体であって、
ガラス転移温度が-30℃~20℃であり、
数平均分子量が2.0×10
4~7.0×10
4であり、
重量平均分子量が1.0×10
5~3.0×10
5である、
含フッ素共重合体。
【化1】
[ここで、R
1は炭素数1~6のアルキル基、-(CH
2)
r-OOC(CH
3)C=CH
2、-(CH
2)
r-OOC-HC=CH
2又は-CH=CH
2を示し、R
2は-(CH
2)
r-OOC(CH
3)C=CH
2、-(CH
2)
r-OOC-HC=CH
2又は-CH=CH
2を示し、nは1~420の数を示し、rは1~6の数を示す。]
【請求項2】
前記硬化剤が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である、請求項
1記載の被膜用組成物。
【請求項3】
硬化剤を、含フッ素共重合体100質量部に対して、1~300質量部含有する、請求項
1又は
2に記載の被膜用組成物。
【請求項4】
単量体(D)が、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数1~20の脂環式飽和炭化水素基、及びアルキレン基の炭素数が1~20で繰り返し単位数が1~10であるアルキレングリコール基から選ばれる基を有する、請求項
1~
3の何れか1項に記載の被膜用組成物。
【請求項5】
請求項
1~
4の何れか1項に記載の被膜用組成物の製造方法であって、前記含フッ素共重合体と前記硬化剤とを混合する、被膜用組成物の製造方法。
【請求項6】
基材と、該基材上に形成された請求項
1~
4の何れか1項に記載の被膜用組成物の硬化被膜と、を有する塗装物品。
【請求項7】
硬化被膜の膜厚が0.5~1000μmである、請求項
6に記載の塗装物品。
【請求項8】
基材に請求項
1~
4の何れか1項に記載の被膜用組成物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化させて硬化被膜を形成する、硬化被膜の形成方法。
【請求項9】
前記塗膜を、30~250℃で硬化させる、請求項
8に記載の硬化被膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素共重合体、含フッ素共重合体の製造方法、被膜用組成物、被膜用組成物の製造方法、塗装物品及び被膜の形成方法に関する。
【0002】
背景技術
従来、屋外で長期間暴露され、直射日光を受け、酸性雨や鳥糞、洗剤、日焼け止めクリーム等の種々の薬害を受けることになる各種用途、例えば、自動車外装フィルムや自動車塗装保護フィルム、ウィンドウフィルム、マーキングフィルムなど、主として樹脂を基体としたフィルム類、更に屋内外で使用される各種建材や物品に対し、耐候性と耐薬品性などを付与するために、有機溶剤に溶解された含フッ素樹脂を主成分とする塗料又は塗料組成物が塗布されることが行われてきた。特にジメチルシロキサン構造を側鎖あるいは主鎖骨格に有する含フッ素共重合体は、耐候性や耐薬品性を与えるだけでなく、優れた耐汚染性と撥水撥油性、すべり性等を付与できることから、広範な分野で有効に用いられてきたが、耐キズ性の向上が求められていた。
【0003】
従来、擦り傷に対する自己修復性を与える含フッ素共重合体を主成分とした塗料組成物として、特開平5-105840号公報には、a)CH2=CRO(CH2)nOH(RはH又はCH3、nは7~18の整数)で表わされる水酸基含有長鎖アルキルビニルエーテルに基づく単位を5~50モル%、フルオロオレフィンに基づく単位を30~70モル%、の割合で含有し、ガラス転移温度が-30~+50℃、水酸基価が50~160mgKOH/g、酸価が0~30mgKOH/g、数平均分子量が4,000~40,000である含フッ素共重合体、b)水酸基と反応する官能基を有する硬化剤、を必須成分として含有し、a)成分とb)成分の合計に対し、a)成分が50~95重量%、b)成分が5~50重量%の割合であることを特徴とする塗料用組成物が開示されている。
【0004】
また、特開2013-177535号公報には、傷に対する自己修復性に優れた塗膜を形成することができる含フッ素共重合体及びこれを用いた塗料用組成物として、(a)含フッ素単量体に基づく重合単位、(b)ガラス転移温度が25℃以下のホモポリマーを与えるビニルエーテル又はビニルエステル(但し、水酸基及びカルボキシル基を有するものを除く)に基づく重合単位、(c)水酸基を有する単量体(但し、カルボキシル基を有するものを除く)に基づく重合単位、及び、(d)カルボキシル基を有する単量体(但し、水酸基を有するものを除く)に基づく重合単位を含み、かつ、重合単位(b)を全重合単位に対して8.0~40.0モル%含む溶剤可溶な含フッ素共重合体及びこれを用いた塗料用組成物が開示されている。
【0005】
更に、含フッ素共重合体を用いない自己修復型形成性コーティング組成物において、塗膜の傷に対する自己修復性と耐久性を両立し、更に耐水性、耐汚染性、及び耐候性に優れ、特に20μm未満の薄膜において自己修復性に優れた自己修復型形成性コーティング組成物として、特開2012-107101号公報には、アクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート(B)と、添加剤(C)からなる自己修復型形成性コーティング組成物であって、前記アクリル樹脂(A)のガラス転移点が-20~30℃でありアクリル樹脂固形分あたりの水酸基価が40~100mgKOH/gであり、前記ポリイソシアネート(B)が脂肪族有機ジイソシアネート(b1)と数平均分子量が250~750であるポリカーボネートジオール(b2)との反応により得られる平均官能基数が4~6のアロファネート基含有ポリイソシアネートであり、前記添加剤(C)が少なくとも1個の水酸基を有するポリジメチルシロキサン変性体であることを特徴とする自己修復型形成性コーティング組成物が開示されている。
【0006】
また、国際公開第2016/152631号には、(a)含ケイ素フッ素樹脂およびイソシアネート系架橋剤を用いてなるコート層と、(b)ウレタン層と、(c)粘着剤層と、を有する、塗膜保護フィルムが開示されている。
【0007】
また、特開2000-313725号公報、特開2001-163927号公報には、重合単位として、フルオロオレフィン及び所定の有機珪素化合物を、それぞれ、所定の割合で含む含フッ素共重合体が開示されている。
【0008】
発明の概要
従来の自己修復性を与える含フッ素共重合体は、耐候性や耐薬品性と耐キズ性には優れるものの、ジメチルシロキサン構造を側鎖あるいは主鎖骨格に有する含フッ素共重合体にみられる高い耐汚染性や撥水撥油性、すべり性を有さないことから、当該特性が要求される用途への適用が困難であった。また、ポリジメチルシロキサン構造を有し、含フッ素共重合体を含まない自己修復性塗料組成物は、高いすべり性を発現するが、含フッ素共重合体を含んだ塗料組成物に比べて耐候性、耐や薬品性に劣るといった課題があった。
【0009】
本発明は、耐薬品性、耐候性、撥水撥油性、耐汚染性、繰り返しの汚染除去性や滑り性などの被膜特性に優れ、更に、傷に対する自己修復性に優れた被膜が形成できる、含フッ素共重合体及びこれを用いた被膜用組成物、塗装物品、被膜の形成方法を提供する。
【0010】
本発明は、従来から用いられている含ジメチルシリコーン含フッ素共重合体に、ガラス転移温度を室温以下まで低下させる構造を、本来のフッ素樹脂の機能としての耐候性や耐薬品性を著しく低下させることなく導入したものである。
【0011】
すなわち、本発明は、(A)フルオロオレフィン〔以下、単量体(A)という〕を構成単量体中15~85モル%、
(B)下記の一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の有機ケイ素化合物〔以下、単量体(B)という〕を構成単量体中0.001~10モル%、
(C)ビニルエーテル、ビニルエステル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有さず、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基を有し、該単量体のホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満である単量体から選ばれる1種以上の単量体〔以下、単量体(C)という〕を構成単量体中5~40モル%、並びに
(D)ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有する単量体から選ばれる1種以上の単量体〔以下、単量体(D)という〕を構成単量体中1~25モル%
含む含フッ素共重合体であって、
ガラス転移温度が-30℃~20℃であり、
数平均分子量が2.0×104~7.0×104であり、
重量平均分子量が1.0×105~3.0×105である、
含フッ素共重合体に関する。
【0012】
【0013】
[ここで、R1は炭素数1~6のアルキル基、-(CH2)r-OOC(CH3)C=CH2、-(CH2)r-OOC-HC=CH2又は-CH=CH2を示し、R2は-(CH2)r-OOC(CH3)C=CH2、-(CH2)r-OOC-HC=CH2又は-CH=CH2を示し、nは1~420の数を示し、rは1~6の数を示す。]
【0014】
また、本発明は、前記本発明の含フッ素共重合体の製造方法であって、(A)を反応に用いる単量体中15~85モル%、(B)を反応に用いる単量体中0.001~10モル%、(C)を反応に用いる単量体中5~40モル%、(D)を反応に用いる単量体中1~25モル%の割合で反応させる、含フッ素共重合体の製造方法に関する。
【0015】
また、本発明は、前記本発明の含フッ素共重合体含フッ素共重合体と、該含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である、被膜用組成物に関する。
【0016】
また、本発明は、前記本発明の被膜用組成物の製造方法であって、前記含フッ素共重合体と前記硬化剤とを混合する、被膜用組成物の製造方法に関する。
【0017】
また、本発明は、基材と、該基材上に形成された前記本発明の被膜用組成物の硬化被膜と、を有する塗装物品に関する。
【0018】
また、本発明は、基材に前記本発明の被膜用組成物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化させて硬化被膜を形成する、硬化被膜の形成方法に関する。
【0019】
本発明によれば、耐薬品性、耐候性、撥水撥油性、耐汚染性、繰り返しの汚染除去性や滑り性などの優れた被膜特性に加えて、傷に対する自己修復性に優れた被膜が形成できる、含フッ素共重合体及びこれを用いた被膜用組成物、塗装物品、被膜の形成方法が提供される。本発明は、広範な用途における被膜の形成に好適に利用できる。本発明は、例えば、長期に渡り屋外で使用される、自動車外装フィルム、マーキングフィルム、ウィンドウフィルムなどに利用できる。また、本発明は、屋内で高い撥水性、撥油性、耐汚染性や滑らかな手触り感が求められる台所や浴室などにおける被膜の形成に利用できる。また、本発明は、家電、電子機器等の筐体などにおける被膜の形成に利用できる。
【0020】
発明を実施するための形態
以下に本発明の詳細を説明する。
〔含フッ素共重合体及びその製造方法〕
本発明の含フッ素共重合体は、重合単位として、単量体(A)である、フルオロオレフィンを構成単量体中15~85モル%含む。
【0021】
本発明の含フッ素共重合体において、単量体(A)が構成単量体中15モル%以上であれば、該含フッ素共重合体から形成した被膜が充分な耐汚染性を示す。また、単量体(A)が構成単量体中85モル%以下であれば、含フッ素共重合体の各種溶剤に対する溶解性が低下しないため好ましい。フルオロオレフィンの割合は、より好ましくは構成単量体中30~80モル%である。
【0022】
単量体(A)のフルオロオレフィンとしては、分子中に一つ以上のフッ素原子を有するオレフィンが挙げられる。例えば、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン等が好適である。これらのフルオロオレフィンは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せて用いてもよいが、特にフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとの組み合わせが好ましい。テトラフルオロエチレンは、本発明の含フッ素共重合体のTgを低下させ、本発明の含フッ素共重合体を用いた被膜が室温以上において効果的な自己修復性を発現する点で好ましい。フッ化ビニリデン(VDF)とテトラフルオロエチレン(TFE)とを併用する場合、両者の質量比は、VDF/TFEで、0.05/1~2.0/1が好ましく、0.1/1~1.5/1がより好ましい。
【0023】
本発明の含フッ素共重合体は、重合単位として、単量体(B)である、下記の一般式(1)で表される化合物及び(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の有機ケイ素化合物を構成単量体中0.001~10モル%、好ましくは0.005~5モル%、より好ましくは0.005~3モル%、更に好ましくは0.005~2モル%、より更に好ましくは0.008~2モル%、より更に好ましくは0.01~2モル%、より更に好ましくは0.01~1モル%、より更に好ましくは0.05~1モル%含む。
【0024】
【0025】
[ここで、R1は炭素数1~6のアルキル基、-(CH2)r-OOC(CH3)C=CH2、-(CH2)r-OOC-HC=CH2又は-CH=CH2を示し、R2は-(CH2)r-OOC(CH3)C=CH2、-(CH2)r-OOC-HC=CH2又は-CH=CH2を示し、nは1~420の数を示し、rは1~6の数を示す。]
【0026】
本発明の含フッ素共重合体において、単量体(B)が構成単量体中0.001モル%以上であれば、該含フッ素共重合体から形成した被膜に長期における充分な撥水撥油性、防汚性、滑り性と、滑り性に基づくキズの逃がし効果が得られる。また、単量体(B)が構成単量体中10モル%以下であれば、該含フッ素共重合体から形成した被膜に充分な耐薬品性、耐候性、自己修復性が得られる。また、単量体(B)のうち、分子量が大きい化合物、例えば一般式(1)中のnが200~400の単量体を用いる場合は、重合のしやすさの観点から、該単量体の割合は、構成単量体中、好ましくは0.005~5モル%である。
【0027】
更に、単量体(B)は、片末端がメタクリル変性されたポリジメチルシロキサン、片末端がアクリル変性されたポリジメチルシロキサン、両末端がメタクリル変性されたポリジメチルシロキサン等が好適である。これらの反応性シリコーンオイルは、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せてもよい。これらの反応性シリコーンオイルの数平均分子量は、200~30,000が好ましい。
【0028】
単量体(B)は、片末端がメタクリル変性されたポリジメチルシロキサン、片末端がアクリル変性されたポリジメチルシロキサン、両末端がメタクリル変性されたポリジメチルシロキサン等が好適である。一般式(1)あるいは(2)で示される有機ケイ素化合物は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を組み合せてもよい。
一般式(1)あるいは(2)で示される有機ケイ素化合物の数平均分子量は、200~30,000が好ましい。
【0029】
単量体(B)としては、次式(3)、(4)、(5)及び(6)で表される化合物から選ばれる少なくとも1種の有機ケイ素化合物が挙げられる。
CH2=C(CH3)-COO-C3H6-Si(CH3)2-〔O-Si(CH3)2〕m-R3 (3)
(ここで、R3は炭素数1~6のアルキル基を示し、mは1~250、好ましくは5~200を示す。)
CH2=CH-COO-C3H6-Si(CH3)2-〔O-Si(CH3)2〕p-R4 (4)
(ここで、R4は炭素数1~6のアルキル基を示し、pは1~250、好ましくは5~200を示す。)
R5-C3H6-Si(CH3)2-〔O-Si(CH3)2〕q-C3H6-R5 (5)
(ここで、R5は-OOC(CH3)C=CH2を示し、qは1~250、好ましくは5~200を示す。)
CH2=C(CH3)COO-C3H6Si〔O-Si(CH3)3〕3 (6)
【0030】
本発明の含フッ素共重合体は、重合単位として、単量体(C)である、ビニルエーテル、ビニルエステル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有さず、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基を有し、該単量体のホモポリマーのTgが0℃未満である単量体から選ばれる1種以上の単量体を構成単量体中5~40モル%含む。単量体(C)が有する脂肪族飽和炭化水素基は、直鎖、分岐鎖のいずれでもよい。単量体(C)としては、水酸基及びエポキシ基の何れも有しない単量体が挙げられる。
【0031】
単量体(C)は、本発明の含フッ素共重合体のTgを低減させる効果があり、本発明の含フッ素共重合体を用いた被膜が室温以上において効果的な自己修復性を発現するのに貢献する。
【0032】
単量体(C)のホモポリマーのTgが、0℃未満であることで、単量体(C)を本発明の含フッ素共重合体に取り込んだ場合に、該含フッ素共重合体を用いた被膜に効果的な自己修復性を付与できる。単量体(C)のホモポリマーのTgは、例えば、日本の冬季の平均気温である0~2℃においても、含フッ素共重合体を用いた被膜が効果的な自己修復性発現する上で、-5℃以下が好ましい。単量体(C)のホモポリマーのTgは、示差走査熱量計(DSC)にて測定し得られる値である。具体的には、実施例の含フッ素共重合体のTgと同様の方法(ただし測定する温度範囲は変更する)で測定されたものである。
【0033】
単量体(C)のうち、ビニルエーテルとしては、具体的には、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、n-ペンチルビニルエーテル、イソペンチルビニルエーテル、ターシャリーペンチルビニルエーテル、n-ヘキシルビニルエーテル、イソヘキシルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、n-ヘプチルビニルエーテル、n-オクチルビニルエーテル、n-ノニルビニルエーテル、n-デシルビニルエーテル、n-ウンデシルビニルエーテル、n-ドデシルビニルエーテル、n-トリデシルビニルエーテル、n-テトラデシルビニルエーテル、n-ペンタデシルビニルエーテル、n-ヘキサデシルビニルエーテル、n-ヘプタデシルビニルエーテル、n-オクタデシルビニルエーテル、n-ノナデシルビニルエーテル、n-イコシルビニルエーテル等が挙げられる。ビニルエーテルは、炭素数1~20のアルキル基を有するビニルエーテルが好ましい。
【0034】
単量体(C)のうち、ビニルエステルとしては、具体的には、酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ミスチリン酸ビニル、パルチミン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等が挙げられる。
【0035】
単量体(C)のうち、メタクリル酸エステルとしては、具体的には、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、n-ヘプチルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、n-ノニルメタクリレート、n-デシルメタクリレート、n-ウンデシルメタクリレート、n-ドデシルメタクリレート、n-トリデシルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、n-ペンタデシルメタクリレート、n-ヘキサデシルメタクリレート、n-ヘプタデシルメタクリレート、n-オクタデシルメタクリレート、n-ノナデシルメタクリレート、n-イコシルメタクリレート等が挙げられる。
【0036】
単量体(C)のうち、アクリル酸エステルとしては、具体的には、エチルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n-ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ヘプチルアクリレート、n-オクチルアクリレート、n-ノニルアクリレート、n-デシルアクリレート、n-ウンデシルアクリレート、n-ドデシルアクリレート等が挙げられる。
【0037】
単量体(C)は、ビニルエーテルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有さず、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基を有し、該単量体のホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満である単量体から選ばれる1種以上の単量体が好ましい。
【0038】
本発明の含フッ素共重合体において、単量体(C)の割合は構成単量体中5~40モル%である。単量体(C)の割合が構成単量体中5モル%以上であれば、本発明の含フッ素共重合体のTgの効果的な低減が達成され、該含フッ素共重合体を用いた被膜の自己修復性が発現しやすくなる。また、単量体(C)の割合が構成単量体中40モル%以下であれば、該含フッ素共重合体を用いた被膜の充分な耐薬品性、耐候性が得られる。単量体(C)の割合は、同様の観点で、構成単量体中好ましくは5~35モル%である。
【0039】
本発明の含フッ素共重合体は、重合単位として、単量体(D)である、ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有する単量体から選ばれる1種以上の単量体を構成単量体中1~25モル%含む。
【0040】
本発明の含フッ素共重合体は、水酸基、エポキシ基のような硬化反応性基を有するものが好ましく、それにより硬化性となる。本発明の含フッ素共重合体は、例えば、単量体(D)として、水酸基又はエポキシ基を有する単量体を用いることで、硬化性含フッ素共重合体となる。本発明の含フッ素共重合体は、熱硬化性の含フッ素共重合体であってよい。
【0041】
単量体(D)は、硬化反応性基として、水酸基又はエポキシ基を1個以上有するものが好ましい。
【0042】
また、単量体(D)は、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数1~20の脂環式飽和炭化水素基、及びアルキレン基の炭素数が1~20で繰り返し単位数が1~10であるアルキレングリコール基から選ばれる基を有するものであってもよい。更に、単量体(D)は、炭素数1~10の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数1~10の脂環式飽和炭化水素基を構造に含む炭素数1~10の脂肪族炭化水素基、及びアルキレン基の炭素数が1~6で繰り返し単位数が1~10であるアルキレングリコール基から選ばれる基を有するものであってもよい。脂肪族飽和炭化水素基の炭素数は、好ましくは2~9、更に好ましくは4~6である。脂環式飽和炭化水素基の炭素数は、好ましくは3~8、更に好ましくは5~7であり、その脂環式飽和炭化水素を構造に含む脂肪族炭化水素の炭素数は、好ましくは1~9、更に好ましくは2~6である。アルキレングリコール基のアルキレン基の炭素数は、好ましくは1~4、更に好ましくは2~3である。また、その繰り返し単位数は、好ましくは1~5、更に好ましくは2~3である。
【0043】
単量体(D)のうち、ビニルエーテルの具体例としては、グリシジルビニルエーテル、グリシジルオキシメチルビニルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、グリシジルオキシブチルビニルエーテル、グリシジルオキシペンチルビニルエーテル、グリシジルオキシシクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシメチルビニルエーテル、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシプロピルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、ヒドロキシペンチルビニルエーテル、ヒドロキシヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシヘプチルビニルエーテル、ヒドロキシオクチルビニルエーテル、ヒドロキシノニルビニルエーテル、ヒドロキシデシルビニルエーテル、ヒドロキシウンデシルビニルエーテル、ヒドロキシドデシルビニルエーテル、ヒドロキシトリデシルビニルエーテル、ヒドロキシテトラデシルビニルエーテル、ヒドロキシペンタデシルビニルエーテル、ヒドロキシヘキサデシルビニルエーテル、ヒドロキシヘプタデシルビニルエーテル、ヒドロキシオクタデシルビニルエーテル、ヒドロキシノナデシルビニルエーテル、ヒドロキシイコシルビニルエーテル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、トリエチレングリコールモノビニルエーテル等が挙げられる。単量体(D)のビニルエーテルは、水酸基で置換された炭素数1~20、好ましくは炭素数1~6のアルキル基を有するビニルエーテルが好ましい。
【0044】
単量体(D)のうち、ビニルエステルの具体例としては、グリシジルビニルエステル、グリシジルオキシメチルビニルエステル、グリシジルオキシエチルビニルエステル、グリシジルオキシブチルビニルエステル、グリシジルオキシペンチルビニルエステル、グリシジルオキシシクロヘキシルビニルエステル、ヒドロキシメチルビニルエステル、ヒドロキシエチルビニルエステル、ヒドロキシプロピルビニルエステル、ヒドロキシブチルビニルエステル、ヒドロキシペンチルビニルエステル、ヒドロキシヘキシルビニルエステル、ヒドロキシヘプチルビニルエステル、ヒドロキシオクチルビニルエステル、ヒドロキシノニルビニルエステル、ヒドロキシデシルビニルエステル、ヒドロキシウンデシルビニルエステル、ヒドロキシドデシルビニルエステル、ヒドロキシトリデシルビニルエステル、ヒドロキシテトラデシルビニルエステル、ヒドロキシペンタデシルビニルエステル、ヒドロキシヘキサデシルビニルエステル、ヒドロキシヘプタデシルビニルエステル、ヒドロキシオクタデシルビニルエステル、ヒドロキシノナデシルビニルエステル、ヒドロキシイコシルビニルエステル、4-ヒドロキシシクロヘキシルビニルエステル、ジエチレングリコールモノビニルエステル、トリエチレングリコールモノビニルエステルが挙げられる。
【0045】
単量体(D)のうち、アリルエーテルの具体例としては、アリルグリシジルエーテル、3-アルリオキシ-1,2-プロパンジオール、グリセロール-α-モノアリルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル等が挙げられる。
【0046】
単量体(D)のうち、メタクリル酸エステルの具体例としては、グリシジルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート等が挙げられる。
【0047】
単量体(D)のうち、アクリル酸エステルの具体例としては、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、等が挙げられる。
【0048】
単量体(D)は、ビニルエーテルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有する単量体から選ばれる1種以上の単量体が好ましい。
【0049】
本発明の含フッ素共重合体において、単量体(D)の割合は構成単量体中1~25モル%である。単量体(D)の割合が構成単量体中1モル%以上であれば、含フッ素共重合体の良好な硬化反応性が得られる。また、単量体(D)の割合が構成単量体中25モル%以下であれば、該含フッ素共重合体を用いた被膜の充分な耐薬品性、耐候性、耐汚染性、自己修復性が得られる。単量体(D)の割合は、同様の観点で、構成単量体中好ましくは3~20モル%である。更に好ましくは5~18モル%である。
【0050】
本発明の含フッ素共重合体は、本発明の効果を損なわない範囲で、重合単位として、単量体(A)~(D)以外の単量体〔以下、単量体(E)という〕を含むことができる。
単量体(E)としては、シクロヘキシルビニルエーテル、2-(パーフルオロヘキシル)エチルビニルエーテルなどの、その他のビニルエーテル、
エチルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、シクロヘキシルアリルエーテル、イソブチルアリルエーテル、n-プロピルアリルエーテルなどの、その他のアリルエーテル、
メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレートなどの、その他のメタクリル酸エステル、
メチルアクリレート、エチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、2-(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2-(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレートなどの、その他のアクリル酸エステル、
が挙げられる。
また、単量体(E)としては、例えば、エチレン、プロピレン等のオレフィン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロオレフィンが挙げられる。
本発明の含フッ素共重合体は、単量体(E)の割合が構成単量体中20モル%未満、更に15モル%以下、であることが好ましい。
【0051】
本発明の含フッ素共重合体は、単量体(A)~(D)の合計割合が構成単量体中80モル%以上、更に85モル%以上、そして、100モル%以下であることが好ましく、100モル%であってもよい。
【0052】
本発明の含フッ素共重合体は、単量体(A)を反応に用いる単量体中15~85モル%、単量体(B)を反応に用いる単量体中0.001~10モル%、単量体(C)を反応に用いる単量体中5~40モル%、単量体(D)を反応に用いる単量体中1~25モル%の割合で反応させることで製造できる。このモル%の好ましい値は、構成単量体中のモル%と同じである。
【0053】
本発明の含フッ素共重合体は、例えば、所定割合の単量体混合物を、重合開始剤を用いて共重合させることにより製造することができる。該重合開始剤としては、重合形式や所望に応じて用いられる溶媒の種類に応じて、水溶性のものあるいは油溶性のものが適宜用いられる。油溶性開始剤としては、例えばt-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシピバレート等のパーオキシエステル型過酸化物;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルパーオキシジカーボネート等のジアルキルパーオキシジカーボネート;ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチロニトリル等が用いられる。水溶性開始剤としては、例えば過硫酸カリウム等の過硫酸塩、過酸化水素、あるいはこれらと亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤との組み合わせからなるレドックス開始剤、更には、これらに少量の鉄、第一鉄塩、硝酸銀等を共存させた無機系開始剤やコハク酸パーオキサイド、ジグルタル酸パーオキサイド、モノコハク酸パーオキサイド等の二塩基酸塩の有機系開始剤等が用いられる。これらの重合開始剤の使用量は、その種類、共重合反応条件等に応じて適宜選ばれるが、通常、使用する単量体全量に対して、0.005~5質量%、好ましくは0.1~2質量%の範囲である。
【0054】
重合方法については特に制限はなく、例えば塊状重合法、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法等を用いることが出来るが、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸ブチル等のカルボン酸エステル類、ヘキサン等の脂肪族飽和炭化水素類、キシレン等の芳香族炭化水素類、イソプロピルアルコール等のアルコール類、フッ素原子を一個以上有する飽和ハロゲン化炭化水素類等を溶媒とする溶液重合法や水性溶媒中での乳化重合法が好ましい。更に、含フッ素共重合体を溶液重合法により得るための好ましい溶媒としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコール、及びメチルエチルケトンから選ばれる溶媒が挙げられる。
【0055】
水性溶媒中で共重合させる場合(乳化重合法、懸濁重合法)には、通常分散剤として懸濁剤や乳化剤を用い、かつ塩基性緩衝剤を添加して、重合中の反応液のpH値を4以上、好ましくは6以上にすることが望ましい。
【0056】
これらの共重合反応における反応温度は、通常-30℃~150℃での範囲内で重合開始剤の重合媒体の種類に応じて適宜選ばれる。例えば溶媒中で共重合を行う場合には、通常0℃~100℃、好ましくは10℃~90℃の範囲である。尚、反応温度とは、反応中の最大温度を指すものとする。反応圧力については特に制限はないが、通常0.1~10MPa、好ましくは0.1~5MPaの範囲で選ばれる。
【0057】
更に、該共重合反応は、適当な連鎖移動剤を添加して行うことができる。
【0058】
重合中に単量体又は重合体からフッ化水素などの酸性物質が脱離して重合溶液が酸性になり、重合体を含む溶液が貯蔵中に増粘又はゲル化する場合、あるいは、重合体と多価イソシアネート共重合体との硬化反応に硬化触媒を用いる場合に、これらの酸性物質が触媒反応を阻害又は促進する場合、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジイソブチルアミン、ジペンチルアミン、ジイソペンチルアミン、ジヘキシルアミン、ジヘプチルアミン、ジオクチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、トリイソブチルアミン、トリペンチルアミン、トリイソペンチルアミン、オリヘキシルアミン、トリヘプチルアミン、トリオクチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン等の有機アミン類、塩基性陰イオン交
換樹脂等のイオン交換樹脂、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、リン酸ナトリウム等のアルカリ金属塩類又はアルカリ土類金属塩類、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物、モレキュラーシーブス等のゼオライト類等を添加し、フッ化水素等の酸性物質を中和してもよい。添加のタイミングは重合前、重合中、重合後のいずれの場合でもよく、2回以上に分けてもよい。
【0059】
本発明の含フッ素共重合体の製造方法の一例として、単量体(A)を反応に用いる単量体中15~85モル%、単量体(B)を反応に用いる単量体中0.001~10モル%、単量体(C)を反応に用いる単量体中5~40モル%、単量体(D)を反応に用いる単量体中1~25モル%の割合で、パーオキシエステル型過酸化物の存在下、酢酸エチル、酢酸ブチル、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、キシレン、トルエン、イソプロピルアルコール、及びメチルエチルケトンから選ばれる溶媒中、反応圧力0.1~5MPa、反応温度10~90℃で反応させる方法が挙げられる。
【0060】
本発明の含フッ素共重合体は、数平均分子量が2.0×104~7.0×104である。この数平均分子量は、好ましくは2.5×104~6.9×104、より好ましくは2.7×104~6.8×104である。
また、本発明の含フッ素共重合体は、重量平均分子量が1.0×105~3.0×105である。この重量均分子量は、好ましくは1.5×105~2.7×105、より好ましくは1.6×105~2.5×105である。
含フッ素共重合体の数平均分子量が2.0×104以上、且つ重量平均分子量が1.0×105以上であれば、該含フッ素共重合体を含む被膜用組成物のレベリングが良好で、平滑な塗膜を得ることができると同時に被膜の強度も高く、有効な自己修復性が得られる。また、含フッ素共重合体の数平均分子量が7.0×104以下、且つ重量平均分子量が3.0×105以下であれば、該含フッ素共重合体を含む被膜用組成物の粘度が適切となり、ハンドリング性も良好となる。
ここで、含フッ素共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、それぞれ、以下の条件でゲル パーミエーション クロマトグラフィーにより測定されたものである。
測定装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社)
カラム:TDgel SuperHZM-M(東ソー株式会社)
検出器:RI(装置付属の示差屈折計)
標準物質:ポリスチレン
データ処理:EcoSEC-WS(東ソー株式会社)
測定条件:カラム温度(40℃)、溶剤(テトラヒドロフラン)、流速(0.35mL/min)、試料濃度(0.14wt%)、試料注入量(20μL)
【0061】
本発明の含フッ素共重合体は、Tgが-30℃~20℃である。Tgは、好ましくは-25℃~15℃、より好ましくは-20℃~12℃である。Tgが-30℃以上であれば、該含フッ素共重合体を用いた被膜の強靭性や耐薬品性が良好となる。また、Tgが20℃以下であれば、該含フッ素共重合体を用いた被膜の、室温での効果的な自己修復性が得られる。含フッ素共重合体のTgは、示差走査熱量計(DSC)にて測定し得られる値である。具体的には、実施例の方法で測定されたものである。
【0062】
〔被膜用組成物及びその製造方法〕
本発明は、本発明の含フッ素共重合体と、該含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である、被膜用組成物を提供する。例えば、本発明の含フッ素共重合体を用いて、ワニスや塗料組成物を調製し、それらを用いて被膜を形成させることにより、自己修復性に優れた被膜を得ることができる。本発明の被膜用組成物に用いる含フッ素共重合体は、水酸基、エポキシ基のような硬化反応性基を有するものが好ましい。
【0063】
本発明の被膜用組成物中の本発明の含フッ素共重合体の含有量は、用途や対象物などを考慮して適宜決めることができる。例えば、本発明の被膜用組成物は、本発明の含フッ素共重合体を、好ましくは0.5~90質量%、より好ましくは1~80質量%含有する。
【0064】
本発明の被膜用組成物は、本発明の含フッ素共重合体の硬化剤(以下、本発明の硬化剤という)を含有する。本発明の硬化剤は、被膜の自己修復性の観点から、多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である。本発明の硬化剤は、官能基を3つ以上有するものが好ましい。本発明の硬化剤は、NCO基を3つ以上、更に3つ以上5つ以下有するものが好ましい。
【0065】
多価イソシアネートのアダクト変性体としては、多価イソシアネートと多価アルコールとの付加体が挙げられる。多価イソシアネートのアダクト変性体は、官能基を3つ以上有するものが好ましい。多価イソシアネートのアダクト変性体は、NCO基を3つ以上、更に3つ以上5つ以下有するものが好ましい。具体的には、ジイソシアネートと炭素数3~30の多価アルコールとの付加体、更にジイソシアネートとトリメチロールプロパンとの付加体が挙げられる。より詳細には、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートから選ばれる化合物と、トリメチロールプロパンとの付加体が挙げられる。多価イソシアネートのアダクト変性体としては、例えば、下記式(I)に示す構造を有する化合物が挙げられる。式(I)の化合物以外でも、アダクト変性体に分類される構造を含む多価イソシアネート変性体であれば、本発明の硬化剤として使用できる。
【0066】
【0067】
〔式中、R1~R3は、それぞれ、独立に、炭素数5もしくは6のアルキレン基、又はイソホロン基である。〕
【0068】
また、多価イソシアネートのアロファネート変性体としては、多価イソシアネートと1価アルコールとの付加体が挙げられる。多価イソシアネートのアロファネート変性体は、官能基を3つ以上有するものが好ましい。多価イソシアネートのアロファネート変性体は、NCO基を3つ以上、更に3つ以上5つ以下有するものが好ましい。具体的には、ジイソシアネートと1価アルコールとの付加体、更にジイソシアネートと炭素数1~20の1価アルコールとの付加体が挙げられる。より詳細には、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネートから選ばれる化合物と、分岐を含んでもよい炭素数1~20の脂肪族又は脂環式飽和炭化水素基を構造に含む1価アルコールとの付加体が挙げられる。多価イソシアネートのアロファネート変性体としては、例えば、下記式(II)に示す構造を有する化合物が挙げられる。式(II)の化合物以外でも、アロファネート変性体に分類される構造を含む多価イソシアネート変性体であれば、本発明の硬化剤として使用できる。
【0069】
【0070】
〔式中、R1は炭素数5もしくは6のアルキレン基、又はイソホロン基であり、R2は分岐を含んでもよい炭素数1~20の脂肪族又は脂環式飽和炭化水素基である。〕
【0071】
本発明の被膜用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、本発明の硬化剤以外の硬化剤(以下、その他の硬化剤という)を含有することができる。
【0072】
その他の硬化剤としては、多価イソシアネート化合物、多価イソシアネート化合物の変性体であって本発明の硬化剤に該当しない化合物を使用できる。
また、その他の硬化剤として、メラミン硬化剤、尿素樹脂硬化剤、多基塩基酸硬化剤などを用いることもできる。該メラミン硬化剤としては、例えばブチル化メラミン、メチル化メラミン、エポキシ変性メラミン等が挙げられ、用途に応じて各種変性度の硬化剤が適宜用いられ、また自己縮合度も適宜選ぶことができる。尿素樹脂硬化剤としては、例えばメチル化尿素樹脂やブチル化尿素樹脂等が挙げられる。多基塩基酸硬化剤としては、例えば長鎖脂肪族ジカルボン酸、芳香族多価カルボン酸類及びこれらの酸無水物等が挙げられる。
【0073】
更に、ブロック化多価イソシアネート類もその他の硬化剤として用いることができる。また、メラミン硬化剤又は尿素樹脂硬化剤の使用に際しては、酸性触媒の添加によって硬化を促進させることもできる。
【0074】
本発明の含フッ素共重合体が硬化部位としてエポキシ基を含有する場合、通常の硬化性エポキシ塗料に用いられている硬化剤、例えばジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等のような脂肪族アミン類又はその変性物、メタフェニレンジアミン、p-p’-ジアミノジフェニルメタン、ジアミノフェニルスルホン等のような芳香族アミン類又はその変性物、無水フタル酸、無水マレイン酸、無水シュウ酸、ヘキサヒドロフタル酸、ピメリン酸等の多価のカルボン酸又はその無水物等を用いることができる。
【0075】
本発明の被膜用組成物は、含フッ素共重合体が硬化反応性基として水酸基を有する含フッ素共重合体であり、硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体及び多価イソシアネート化合物のアロファネート変性体から選ばれる硬化剤である組み合わせが好ましい。本発明の被膜用組成物は、含フッ素共重合体が硬化反応性基として水酸基を有する含フッ素共重合体であり、硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体であってNCO基を3つ以上有する化合物及び多価イソシアネート化合物のアロファネート変性体であってNCO基を3つ以上有する化合物から選ばれる硬化剤である組み合わせがより好ましい。これらの場合、含フッ素共重合体が有する水酸基(OH)と硬化剤が有するNCO基との当量比は、NCO/OHで、好ましくは0.3~2.0、より好ましくは0.5~1.5である。
【0076】
本発明の被膜用組成物は、本発明の硬化剤を、含フッ素共重合体100質量部に対して、好ましくは1~300質量部、より好ましくは2~250質量部、更に好ましくは3~200質量部含有する。
【0077】
本発明の被膜用組成物は、本発明の含フッ素共重合体以外の他の樹脂を含んでいてもよい。他の樹脂としては、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ケトン系樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、及び本発明の含フッ素共重合体以外のフッ素樹脂等が挙げられる。これらの他の樹脂は、粉体、ワニス、分散液のいずれの形態でも良い。
【0078】
本発明の被膜用組成物が上記の他の樹脂を含む場合は、本発明の効果を損なわない観点から、本発明の含フッ素共重合体100質量部に対し、0.1質量部~500質量部の含有量が好ましい。これらの他の樹脂のTgもまた、-30℃~20℃の範囲内であることが望ましい。
【0079】
本発明の被膜用組成物は溶剤を含んでいてもよい。溶剤は、本発明の含フッ素共重合体を溶解するものが好ましい。溶剤は、有機溶剤が好ましい。有機溶剤としては、エステル、ケトン、アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられる。具体的には、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのカルボン酸エステル類、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、メトキシプロパノール、エトキシプロパノールなどのアルコール類、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、シクロヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタンなどのアルカン類が挙げられる。また、ソルベッソ(商品名)、ミネラルスピリットとして知られている有機溶剤も使用できる。また、メチルセロソルブ、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテルも使用できる。また、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素も使用できる。また、N-メチルピロリドンなどのピロリドンも使用できる。また、ゼオローラH(商品名)、Novec7200(商品名)、Novec7300(商品名)などのフッ素系有機溶剤も使用できる。上記有機溶剤は、1種又は2種以上を使用できる。
【0080】
溶剤として水を使用してもよいが、その場合は有機溶剤も含有することが好ましい。水を含有する場合、水/(水+有機溶剤)の質量比は、0.01~10が好ましい。
【0081】
本発明の被膜用組成物は、上記の溶剤を、被膜用組成物中、好ましくは5~99質量%、より好ましくは10~98質量%、更に好ましくは20~95質量%含有する。
【0082】
本発明の被膜用組成物は、硬化触媒を含有することができる。硬化触媒としては、Sn、Zn、Zr、Ti、Bi、Al、Li、Ca、などの金属を含む金属錯体、金属塩、アミン、有機酸、又は酸性リン酸エステル等の公知触媒及びその混合物が挙げられる。
【0083】
本発明の被膜用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で本発明の含フッ素共重合体、硬化剤、溶剤、硬化触媒以外の任意の成分を含有することができる。任意の成分としては、分散剤、艶消し剤、可塑剤、粘度調節剤、泡消剤、沈降防止剤、レベリング剤、防腐剤、抗菌剤、抗ウィルス剤、防カビ剤、酸化防止剤、抗酸化剤、難燃剤、光安定剤、紫外線吸収剤、潤滑剤、凍結防止剤、造膜助剤、色別れ防止剤、pH調整剤、界面活性剤、皮張り防止剤、触媒類、吸湿剤、顔料、消臭剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、撥水剤、撥油剤、親水化剤などが挙げられる。
【0084】
本発明の被膜用組成物は、本発明の含フッ素共重合体と本発明の硬化剤とを混合することで製造できる。好ましくは、本発明の含フッ素共重合体と、本発明の硬化剤と、溶剤とを混合することで製造できる。これらの成分の混合順序は問わないが、例えば、本発明の含フッ素共重合体と溶剤を混合した後、本発明の硬化剤を混合することができる。
【0085】
溶剤を用いて本発明の被膜用組成物を製造する際、本発明の含フッ素共重合体と本発明の硬化剤と溶剤との混合は、ボールミル、ビーズミル、ペイントシェーカー、サンドミル、三本ロールミル、ニーダー等の通常の塗料化に用いられる種々の機器を用いて行うことが出来る。この際、必要に応じて、顔料、分散剤、粘度調節剤、レベリング剤、紫外線吸収剤等を添加することも出来る。
【0086】
本発明の被膜用組成物は、使用直前に本発明の含フッ素共重合体と本発明の硬化剤とを混合して調製してもよい。本発明は、本発明の含フッ素共重合体を含有する第1の組成物と、前記含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である第2の組成物とを含んで構成される、被膜用組成物用キットを提供する。溶剤や任意成分は、第1、第2の組成物に適宜配合することができる。このキットは、使用時に第1の組成物と第2の組成物とが混合されて本発明の被膜用組成物を調製するものである。
【0087】
本発明の被膜用組成物は、ワニス、塗料組成物として使用できる。その場合、それぞれに公知の成分を適宜配合することができる。
【0088】
〔塗装物品〕
本発明は、基材と、該基材上に形成された本発明の被膜用組成物の硬化被膜と、を有する塗装物品を提供する。本発明の塗装物品には、本発明の含フッ素共重合体及び被膜用組成物で述べた事項を適宜適用することができる。
【0089】
塗装物品の用途としては、例えば次に挙げるところの広範な用途での利用が可能である。外装用途としては、例えば、自動車外装塗装、自動車外装塗装フィルム、自動車塗装保護フィルム、自動車ウィンドウフィルム、自動車マーキングフィルム等の車両用外装フィルム類が挙げられる。具体的には、自動車車体、バンパー、スポイラー、ドアノブ、ヘッドランプ、ウィンカー、サイドミラー、ラジエーターグリル、ホイール等の自動車外装及び外装部品類が挙げられる。また、オートバイ車体、ハンドル、サドル、ガソリンタンクなどのオートバイ外装及び外装部品類が挙げられる。その他電車などの車両類の外装、外装フィルム、外装部品が挙げられる。また、自動車、オートバイ、電車等の車両におけるウィンドウフィルム、ガラス表面コート、マーキングフィルム、保護フィルム、塗装等が挙げられる。また、自動車等の車両における内装用途としては、自動車内装シート、ハンドル、メーターパネル、コントロールパネル、ダッシュボード、ドア内装等の用途、及びこれらの用途における塗料、保護フィルム、意匠性フィルム等が挙げられる。
これら以外の用途として、例えば、携帯電話、スマートフォン、パソコン、テレビ、ポータブル端末(ゲーム機を含む)、プリンター等の電子機器、テレビ、エアコン、電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機、空気清浄機、掃除機、換気扇等の家電類、玩具類、棚、書棚、ベッド、机、椅子、ソファー等のインテリア類、換気扇、レンジフード、キッチンパネル、ステンレスシンク、浴槽、トイレ等の用途、及びこれらの用途における塗料、保護フィルム、意匠性フィルム等が挙げられる。また、建築物等におけるウィンドウフィルム、ガラス表面コート、屋外マーキングフィルム、各種物品の保護フィルム、建材用塗装等が挙げられる。
【0090】
本発明は上記に挙げられた用途例に限定されることなく、各種物品への塗装が可能である。
【0091】
基材としては、例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム等及びその表面処理物の金属類、セメント、石灰、石膏、セラミック等の無機系基材、ポリウレタン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリカーボネート、ABS、アクリル樹脂等の有機系樹脂素材などが挙げられる。また、ガラス、木材、セラミックスなどが挙げられる。これらの基材は、例えば、予め、基材の種類に応じて、シーラーによって下地調整されたものでもよい。また、本発明の被膜用組成物以外の各種塗料によって、表面に塗膜が形成されているものでもよい。本発明に用いられる基材は、上記に挙げられた基材に限定されるものではない。
【0092】
基材は、フィルム状の基材、シート状の基材、及びこれら以外の形状の成型体が挙げられる。基材は、原料用に加工された成型体、製品用に加工された成型体、のいずれであってもよい。具体的には、フィルム状の基材は、ポリウレタンフィルム、塩化ビニルフィルム、PETフィルム、アクリルフィルム類等が挙げられる。また、シート状の基材は、ポリウレタンシート、ポリ塩化ビニルシート、湿式ポリウレタン合皮シート、乾式ポリウレタン合皮シート、ウレタンゴムシート、塩化ビニル合皮シート類等が挙げられる。前記成型体は、任意の形状の、アクリル成型体、ポリカーボネート成型体、ABS成型体、不飽和ポリエステル成型体、ガラス類等が挙げられる。本発明に用いられる基材の形状は、上記に挙げられた基材の形状に限定されるものではない。
【0093】
本発明の塗装物品は、硬化被膜の膜厚が、好ましくは0.5~1000μm、より好ましくは1~1000μm、更に好ましくは1~200μm、より更に好ましくは5~100μmである。
【0094】
〔硬化被膜の形成方法〕
本発明は、基材に前記本発明の被膜用組成物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化させて硬化被膜を形成する、硬化被膜の形成方法を提供する。本発明の硬化被膜の形成方法には、本発明の含フッ素共重合体、被膜用組成物及び塗装物品で述べた事項を適宜適用することができる。
【0095】
基材の具体例は本発明の塗装物品と同じであり、好ましい態様も同じである。基材は、原料用に加工された成型体、製品用に加工された成型体、のいずれであってもよい。
【0096】
基材に本発明の被膜用組成物を塗布する方法は、基材の形状、材質などに応じて、公知の方法を採用でき、例えば、グラビヤコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、コンマコーター、ドクターナイフコーター、バーコーター、キスロールコーター、ローラー塗工、スプレー塗工、静電スプレー塗工、カーテン塗工、浸漬塗工、ロータリースクリーンプリント、刷毛塗りなどの方法が挙げられる。被膜用組成物の塗布量や塗膜の厚みは、目的とする硬化被膜の膜厚を考慮して、被膜用組成物の組成などを踏まえて、適宜決定できる。
【0097】
本発明では、基材に形成された塗膜を、好ましくは30~250℃、より好ましくは40~150℃に、必要により加熱して、硬化させる。
【0098】
本発明は、基材に前記本発明の被膜用組成物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化させて硬化被膜を形成する、塗装物品の製造方法もまた提供する。この方法には、本発明の含フッ素共重合体、被膜用組成物、塗装物品、及び硬化被膜の形成方法で述べた事項を適宜適用することができる。
【0099】
〔本明細書の開示〕
本明細書は、単量体(A)を構成単量体中15~85モル%、単量体(B)を構成単量体中0.001~10モル%、単量体(C)を構成単量体中5~40モル%、及び単量体(D)を構成単量体中1~25モル%含む含フッ素共重合体であって、ガラス転移温度が-30℃~20℃であり、数平均分子量が2.0×104~7.0×104であり、重量平均分子量が1.0×105~3.0×105である、含フッ素共重合体と、
該含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、
該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である、組成物の、被膜用組成物としての使用を開示する。
【0100】
本明細書は、本明細書は、単量体(A)を構成単量体中15~85モル%、単量体(B)を構成単量体中0.001~10モル%、単量体(C)を構成単量体中5~40モル%、及び単量体(D)を構成単量体中1~25モル%含む含フッ素共重合体であって、ガラス転移温度が-30℃~20℃であり、数平均分子量が2.0×104~7.0×104であり、重量平均分子量が1.0×105~3.0×105である、含フッ素共重合体と、
該含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、
該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である、被膜剤のための組成物を開示する。
【0101】
これらの開示には、本発明の塗料組成物、塗装物品、及び塗装物品の製造方法で述べた事項を適用できる。
【0102】
本発明の好ましい態様を以下に示す。
(A)フルオロオレフィンを構成単量体中15~85モル%、
(B)下記の一般式(1)で表される化合物及び下記一般式(2)で表される化合物から選ばれる1種以上の有機ケイ素化合物を構成単量体中0.001~10モル%、
(C)ビニルエーテル、ビニルエステル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有さず、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基を有し、該単量体のホモポリマーのガラス転移温度が0℃未満である単量体から選ばれる1種以上の単量体を構成単量体中5~40モル%、並びに
(D)ビニルエーテル、ビニルエステル、アリルエーテル、メタクリル酸エステル及びアクリル酸エステルから選ばれる単量体であって、硬化反応性基を有する単量体から選ばれる1種以上の単量体〔以下、単量体(D)という〕を構成単量体中1~25モル%
含む含フッ素共重合体であって、
ガラス転移温度が-30℃~20℃であり、
数平均分子量が2.0×104~7.0×104であり、
重量平均分子量が1.0×105~3.0×105である、
含フッ素共重合体。
【0103】
【0104】
[ここで、R1は炭素数1~6のアルキル基、-(CH2)r-OOC(CH3)C=CH2、-(CH2)r-OOC-HC=CH2又は-CH=CH2を示し、R2は-(CH2)r-OOC(CH3)C=CH2、-(CH2)r-OOC-HC=CH2又は-CH=CH2を示し、nは1~420の数を示し、rは1~6の数を示す。]
【0105】
この態様の含フッ素共重合体は、単量体(D)が、硬化反応性基として、水酸基及びエポキシ基から選ばれる1種以上の基を有する単量体であることが好ましい。
【0106】
この態様の含フッ素共重合体は、単量体(D)が前記硬化反応性基を有する場合も含め、単量体(D)が、炭素数1~20の脂肪族飽和炭化水素基、炭素数1~20の脂環式飽和炭化水素基、及びアルキレン基の炭素数が1~20で繰り返し単位数が1~10であるアルキレングリコール基から選ばれる基を有する単量体であることが好ましい。
【0107】
これらの態様の含フッ素共重合体の製造方法は、(A)を反応に用いる単量体中15~85モル%、(B)を反応に用いる単量体中0.001~10モル%、(C)を反応に用いる単量体中5~40モル%、(D)を反応に用いる単量体中1~25モル%の割合で反応させることで製造できる。
【0108】
本発明の好ましい態様を更に示す。
前記いずれかの態様の含フッ素共重合体と、該含フッ素共重合体の硬化剤とを含有し、該硬化剤が多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体である、被膜用組成物。
【0109】
この態様の被膜用組成物は、前記含フッ素共重合体の単量体(D)が、硬化反応性基として、水酸基及びエポキシ基から選ばれる1種以上の基を有する単量体であることが好ましい。
【0110】
この態様の被膜用組成物は、前記含フッ素共重合体の単量体(D)が前記単量体である場合も含め、前記硬化剤が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる多価イソシアネート化合物のアダクト変性体又はアロファネート変性体であることが好ましい。
【0111】
この態様の被膜用組成物は、前記含フッ素共重合体の単量体(D)が前記単量体である場合も含め、前記硬化剤が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる多価イソシアネート化合物のアダクト変性体であってNCO基を3つ以上有する化合物又はアロファネート変性体であってNCO基を3つ以上有する化合物であることがより好ましい。
【0112】
この態様の被膜用組成物は、前記含フッ素共重合体の単量体(D)が前記単量体である場合、硬化剤が前記アダクト変性体又はアロファネート変性体である場合も含め、硬化剤を、含フッ素共重合体100質量部に対して、好ましくは1~300質量部、より好ましくは2~250質量部、更に好ましくは3~200質量部含有する。
【0113】
この態様の被膜用組成物は、前記含フッ素共重合体の単量体(D)が前記単量体である場合、硬化剤が前記アダクト変性体又はアロファネート変性体である場合、硬化剤を前記範囲で含有する場合も含め、溶剤、好ましくは有機溶剤を、被膜用組成物中、好ましくは5~99質量%、より好ましくは10~98質量%、更に好ましくは20~95質量%含有する。
【0114】
本発明の被膜用組成物の好ましい態様を更に示す。
前記いずれかの態様の含フッ素共重合体を、好ましくは0.5~90質量%、より好ましくは1~80質量%、
該含フッ素共重合体の硬化剤を、含フッ素共重合体100質量部に対して、好ましくは1~300質量部、より好ましくは2~250質量部、更に好ましくは3~200質量部、及び
溶剤、好ましくは有機溶剤を、好ましくは5~99質量%、より好ましくは10~98質量%、更に好ましくは20~95質量%
含有し、
前記含フッ素共重合体の単量体(D)が、硬化反応性基として、水酸基及びエポキシ基から選ばれる1種以上の基を有する単量体であり、
前記硬化剤が、ヘキサメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートから選ばれる多価イソシアネート化合物のアダクト変性体であってNCO基を3つ以上、好ましくは5つ以下有する化合物又はアロファネート変性体であってNCO基を3つ以上、好ましくは5つ以下有する化合物である、
被膜用組成物。
【0115】
これらの態様の被膜用組成物は、前記含フッ素共重合体と前記硬化剤とを混合することで製造できる。
【0116】
本発明の好ましい態様を更に示す。
基材と、該基材上に形成された前記いずれかの態様の被膜用組成物の硬化被膜と、を有する塗装物品。
【0117】
この態様の塗装物品は、好ましくは0.5~1000μm、より好ましくは1~1000μm、更に好ましくは1~200μm、より更に好ましくは5~100μmである。
【0118】
本発明の好ましい態様を更に示す。
基材に前記いずれかの態様の被膜用組成物を塗布して塗膜を形成し、該塗膜を硬化させて硬化被膜を形成する、硬化被膜の形成方法。
【0119】
この態様の硬化被膜の形成方法は、前記塗膜を、好ましくは30~250℃、より好ましくは40~150℃で硬化させる。
【0120】
実施例
製造例及び比較製造例
硬化性含フッ素共重合体を、次のようにして調製した。表1~4に共重合体の単量体組成を示した。
(製造例1)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、フッ化ビニリデン(以下VDFと略す)96g、テトラフルオロエチレン(以下TFEと略す)84g、ノルマルブチルビニルエーテル(以下NBVEと略す、ホモポリマーのTg:-55℃)36g、ヒドロキシブチルビニルエーテル(以下HBVEと略す)36g、下記構造式で示されるメタクリル変性シリコーンオイルA(数平均分子量約3500)15g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
メタクリル変性シリコーンオイルA:
CH2=C(CH3)-COO-C3H6-Si(CH3)2-〔O-Si(CH3)2〕44-OSi(CH3)3
【0121】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は205g、単量体の反応率は77%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は85mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は41質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は3.3×104であり、重量平均分子量は1.8×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として実施例1、2、3及び比較例5の被膜用組成物の調製に用いた。
【0122】
(製造例2)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF96g、TFE84g、オクタデシルビニルエーテル(以下ODVEと略す、ホモポリマーのTg:-100℃未満)45g、HBVE36g、シクロヘキシルビニルエーテル(以下CHVEと略す)26g、実施例1と同様のメタクリル変性シリコーンオイルA(数平均分子量約3500)15g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
【0123】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は243g、単量体の反応率は80%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は72mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は35質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は3.0×104であり、重量平均分子量は1.6×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として実施例4、5の被膜用組成物の調製に用いた。
【0124】
(製造例3)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF80g、TFE70g、エチルビニルエーテル(以下EVEと略す、ホモポリマーのTg:-43℃)70g、HBVE39g、実施例1と同様のメタクリル変性シリコーンオイルA(数平均分子量約3500)15g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
【0125】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は164g、単量体の反応率は60%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は115mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は22質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は6.5×104であり、重量平均分子量は1.3×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として実施例6、7の被膜用組成物の調製に用いた。
【0126】
(製造例4)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF96g、TFE84g、NBVE36g、HBVE39g、下記構造式で示されるメタクリル変性シリコーンオイルB(数平均分子量約8000)16g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
メタクリル変性シリコーンオイルB:
CH2=C(CH3)-COO-C3H6-Si(CH3)2-〔O-Si(CH3)2〕140-OSi(CH3)3
【0127】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は208g、単量体の反応率は87%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は67mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は39質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は3.4×104であり、重量平均分子量は2.3×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として実施例8、9の被膜用組成物の調製に用いた。
【0128】
(製造例5)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF56g、TFE87g、NBVE49g、HBVE14g、CHVE13g、実施例1と同様のメタクリル変性シリコーンオイルA(数平均分子量約3500)15g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
【0129】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は204g、単量体の反応率は87%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は34mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は40質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は3.1×104であり、重量平均分子量は1.6×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として実施例10、11の被膜用組成物の調製に用いた。
【0130】
(製造例6)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF96g、TFE84g、NBVE60g、ヒドロキシエチルビニルエーテル(以下HEVEと略す)24g、実施例1と同様のメタクリル変性シリコーンオイルA(数平均分子量約3500)15g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
【0131】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は198g、単量体の反応率は78%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は46mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は43質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は2.1×104であり、重量平均分子量は1.1×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として実施例12、13の被膜用組成物の調製に用いた。
【0132】
(比較製造例1)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF56g、TFE87g、HBVE35g、CHVE53g、実施例1と同様のメタクリル変性シリコーンオイルA(数平均分子量約3500)15g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
【0133】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は204g、単量体の反応率は83%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は83mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は36質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は2.8×104であり、重量平均分子量は1.7×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として比較例1の被膜用組成物の調製に用いた。
【0134】
(比較製造例2)
内容積1Lのステンレス製攪拌機付きオートクレーブ(耐圧10MPa)に、脱気したのち、VDF56g、TFE87g、NBVE28g、HBVE29g、CHVE25g、酢酸ブチル450ml、及びt-ブチルパーオキシピバレート1.0gを入れ、攪拌しながら内温を60℃に昇温した。
【0135】
その後、攪拌しながら反応を続け、17時間後攪拌を停止し、反応を終了した。得られた共重合体を減圧乾燥により単離した。共重合体の収量は190g、単量体の反応率は85%であった。得られた共重合体の無水酢酸によるアセチル化法によって測定した水酸基価は73mgKOH/g樹脂、燃焼法によるフッ素含有量は40質量%、GPC(ゲル パーミエーション クロマトグラフィー)で測定した数平均分子量は3.2×104であり、重量平均分子量は2.1×105であった。この共重合体を酢酸ブチルに溶解させ、20質量%濃度の酢酸ブチル溶液(ワニス)として比較例2~4の被膜用組成物の調製に用いた。
【0136】
〔Tg測定〕
含フッ素共重合体の酢酸ブチル溶液(ワニス)を100℃-24時間の条件で乾燥させ、これを、入力補償型ダブルファーネス示差走査熱量測定装置DSC8000(PerkinElmer株式会社製)を用い、窒素雰囲気下、昇温速度10℃/min、測定範囲-50℃~+150℃にてTgを測定した。結果を表1~4に示した。
【0137】
実施例及び比較例
<被膜用組成物の調製>
[被膜用組成物の調製(1)]
製造例1~6及び比較製造例1~2の各含フッ素共重合体溶液に対し、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンによるアダクト変性体(NCO含有量7%)(旭化成ケミカルズ株式会社製、デュラネートE402-80B)(3官能)をNCO/OH=1.1の割合で加え、酢酸ブチルにて溶液の固形分濃度が23%となるよう希釈し、被膜用組成物を調製した。ここで用いた硬化剤は、表中、「アダクト変性体」と示した。なお、含フッ素共重合体100質量部に対する硬化剤の量は12.8~34.0質量部の範囲であった。
【0138】
[被膜用組成物の調製(2)]
製造例1~6及び比較製造例2の各含フッ素共重合体溶液に対し、硬化剤としてペンタメチレンジイソシアネートによるアロファネート変性体(NCO含有量16.2%)(東ソー株式会社製、コロネート2793)(5官能)をNCO/OH=1.1の割合で加え、酢酸ブチルにて溶液の固形分濃度が23%となるよう希釈し、被膜用組成物を調製した。ここで用いた硬化剤は、表中、「アロファネート変性体1」と示した。なお、含フッ素共重合体100質量部に対する硬化剤の量は5.6~14.8質量部の範囲であった。
【0139】
[被膜用組成物の調製(3)]
製造例1の含フッ素共重合体溶液に対し、比較の硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(NCO含有量21%)(東ソー株式会社製、コロネートHX)(3官能)をNCO/OH=1.1の割合で加え、酢酸ブチルにて溶液の固形分濃度が23%となるよう希釈し、比較例5の被膜用組成物を調製した。ここで用いた硬化剤は、表中、「イソシアヌレート変性体」と示した。なお、含フッ素共重合体100質量部に対する硬化剤の量は10.8質量部であった。
【0140】
[被膜用組成物の調製(4)]
製造例1の含フッ素共重合体溶液に対し、硬化剤としてヘキサメチレンジイソシアネートによるアロファネート変性体(NCO含有量19.5%)(旭化成ケミカルズ株式会社製、デュラネートD101)(2官能)をNCO/OH=1.1の割合で加え、酢酸ブチルにて溶液の固形分濃度が23%となるよう希釈し、実施例3の被膜用組成物を調製した。ここで用いた硬化剤は、表中、「アロファネート変性体2」と示した。なお、含フッ素共重合体100質量部に対する硬化剤の量は17.7質量部であった。
【0141】
<被膜及び塗装物品の作製>
[基材:ガラス板]
被膜用組成物を、表面をアセトンで脱脂した厚さ2mmのガラス板に#20バーコーター(乾燥後膜厚の計算値:約10μm)を用いてハンド塗布し、100℃に加熱された乾燥機で4時間加熱硬化させ、実施例又は比較例の含フッ素共重合体とその硬化剤とからなる被膜が形成された塗装物品を得た。塗装物品の被膜について以下の評価を行った。結果を表1~4に示した。
【0142】
[基材:ウレタンゴムフィルム]
被膜用組成物を、表面をイソプロピルアルコールで脱脂した厚さ1mmのポリエステル系ウレタンゴムフィルムに#10バーコーター(乾燥後膜厚の計算値:約5μm)を用いてハンド塗布し、120℃に加熱された乾燥機で3分加熱硬化させ、50℃で3日養生した。これにより、実施例又は比較例の含フッ素共重合体とその硬化剤とからなる被膜が形成された塗装物品を得た。この塗装物品の被膜について、後述の「耐擦傷試験(真鍮ブラシ)」を行った。結果を表1~4に示した。
【0143】
[基材:塗膜保護フィルムにおける熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン(TPU)フィルム]
剥離紙、粘着剤層、ウレタン層、並びに、含フッ素共重合体とその硬化剤とからなる被膜を有する塗膜保護フィルムを、以下の手順で作製した。
【0144】
(1)複合材(I)の作製
被膜用組成物を、基材である厚さ150μmの熱可塑性ポリエステル系ポリウレタン(TPU)フィルム(SHG2086-CR(6OPP)、シーダム株式会社製)に、#10バーコーター(乾燥後膜厚の計算値:約5μm)及び#20バーコーター(乾燥後膜厚の計算値:約10μm)を用いてハンド塗布し、120℃に加熱された乾燥機で1分加熱硬化させ、60℃で3日養生した。これにより、TPUフィルムの片面に、実施例又は比較例の含フッ素共重合体とその硬化剤とからなる被膜が形成された複合材(I)を得た。
【0145】
(2)複合材(II)の作製
還流器及び攪拌機を備えたフラスコに、アクリル酸ブチル95質量部、アクリル酸5質量部、過酸化物系開始剤及びトルエン(溶剤)を混合し、窒素雰囲気下で加温、撹拌し、重合反応によりアクリル系ポリマーを得た(重量平均分子量=500,000)。
前記アクリル系ポリマー100質量部(固形分換算)、及びエポキシ系架橋剤(商品名:TETRAD-X、三菱ガス化学株式会社製)0.01質量部を混合して粘着剤を得た。
前記粘着剤を剥離紙(厚さ170μm)にナイフコーターを用いて乾燥後膜厚が約20μmとなるように塗工し、乾燥して粘着剤層を剥離紙上に形成し、粘着剤と剥離紙の複合材(II)を得た。
【0146】
(3)塗膜保護フィルムの作製
前記複合材(I)の、TPU基材の含フッ素共重合体とその硬化剤とからなる被膜がコートされた面の逆側にあたるコートされていない面に対して、前記複合材(II)の粘着剤層を貼付して、塗膜保護フィルムを作製した。
【0147】
この塗膜保護フィルムにおける前記被膜の面を対象として、後述の「耐擦傷試験(真鍮ブラシ)」を行った。結果を表1~4に示した。
【0148】
[基材:塗膜保護フィルムにおける塩化ビニル(PVC)フィルム]
基材として厚さ0.3mmの非フタル酸系塩化ビニルフィルム(セレブ 267(硬度#360)、石塚株式会社が販売)を用いた以外は、上記TPUを用いた塗膜保護フィルムと同条件、同処理として、塗膜保護フィルムを作製した。この塗膜保護フィルムにおける前記被膜の面を対象として、後述の「耐擦傷試験(真鍮ブラシ)」を行った。結果を表1~4に示した。
【0149】
[基材:塗膜保護フィルムにおけるPETフィルム]
基材として厚さ125μmの易接着PETフィルム(コスモシャイン A4300、東洋紡株式会社製)を用いた以外は、上記TPUを用いた塗膜保護フィルムと同条件、同処理として、塗膜保護フィルムを作製した。この塗膜保護フィルムにおける前記被膜の面を対象として、後述の「耐擦傷試験(真鍮ブラシ)」を行った。結果を表1~4に示した。
【0150】
〔基材との密着性〕
JIS-K5400 8.5.2(1990)(碁盤目テープ試験)により以下の2通りの方法で測定した。
・被膜表面をそのまま測定に供する(表中、未処理と標記)。
・被膜表面を塗膜が剥離しない程度に軽くサンドペーパー(粒度1200)で処理して測定に供する(表中、サンドペーパー処理と標記)。
【0151】
〔耐酸性〕
10%HCl溶液による24時間スポットテスト後の被膜外観を目視観察し、以下の基準で判定した。
◎:異状なし
○:ほとんど変化なし
△:やや侵される
×:侵される
【0152】
〔耐アルカリ性〕
10%NaOH溶液による24時間スポットテスト後の被膜外観を目視観察し、以下の基準で判定した。
◎:異状なし
○:ほとんど変化なし
△:やや侵される
×:侵される
【0153】
〔耐溶剤性〕
キシレンによる30分スポットテスト後の被膜外観を目視観察し、以下の基準で判定した。
◎:異状なし
○:ほとんど変化なし
△:やや侵される
×:侵される
【0154】
〔油性インク除去性〕
油性フェルトペン(黒色)により被膜表面を塗りつぶし、室温で1時間放置後、乾拭きによりインクを除去した。その際の被膜表面のインクの除去性を以下の基準で評価した。なお、黒色油性フェルトペンはマジックインキ(商品名)、寺西化学工業株式会社製を用いた。
◎:全く跡が付かない
○:ごくわずか跡が付く
△:かなり跡が付く
×:完全に跡が残る
【0155】
〔接触角〕
被膜における純水及びオレイン酸の接触角(単位:度)を、Drop Master DM300(協和界面化学株式会社製)を用い、気温20℃、湿度40%RHの条件下にて、滴下量10μLにて測定した。
【0156】
〔促進耐候性試験〕
被膜の60°光沢値を、GLOSS CHECKER IG-330(株式会社堀場製作所)を用いてn=3の水準で測定した。その後、超促進耐候性試験機メタルウェザーKW-R7TP(ダイプラ・ウィンテス株式会社製)を用い、紫外線強度65mW/cm2、ブラックパネル温度53℃、相対湿度50%の条件で、被膜に対して紫外線を20時間照射後、ブラックパネル温度30℃、相対湿度98%の条件で4時間無照射状態にするサイクルを計8サイクル行うことにより、耐候性促進試験を行った。紫外線照射後の被膜の60°光沢値を照射前と同様の方法で測定し、光沢保持率を、以下の式で求めた。なお、促進耐候性試験を行わなかった例は、表中、「ND」と記載した。
光沢保持率(%)={60°光沢値(照射後)/60°光沢値(照射前)}×100
【0157】
〔耐擦傷試験(真鍮ブラシ)〕
気温20℃環境下にて、180mm真鍮ブラシ(エスコ)に200g荷重を取り付け、被膜上をこれで20往復(移動幅40mm、移動速度80mm/秒)し、傷が修復するまでの時間を最大2分まで計測した。
【0158】
【0159】
【0160】
【0161】