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▶ エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲーの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】ナノポア電圧方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/00 20060101AFI20220419BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220419BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220419BHJP
【FI】
G01N27/00 Z
G01N33/50 P
C12Q1/6869 Z
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2019519408
(86)(22)【出願日】2017-10-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 EP2017075782
(87)【国際公開番号】W WO2018069302
(87)【国際公開日】2018-04-19
【審査請求日】2020-09-18
(31)【優先権主張番号】62/407,257
(32)【優先日】2016-10-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(72)【発明者】
【氏名】デービス,ランドール
(72)【発明者】
【氏名】ウォールグレン,マーカス
【審査官】佐藤 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-520568(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0107996(US,A1)
【文献】特表2015-505458(JP,A)
【文献】特表2013-519088(JP,A)
【文献】特開2006-105985(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0011402(US,A1)
【文献】特表2015-517401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C12M 1/00-C12M 3/10,
C12Q 1/00-C12Q 3/00,
G01N 27/00-G01N 27/10,
G01N 27/14-G01N 27/24,
G01N 33/48-G01N 33/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェル上に存在する膜内のナノポアと、前記ウェルの下部の第1の電極と、前記膜上のチャンバ内の第2の電極と、前記ウェルおよび前記チャンバ内の電解質とを備える、配列決定セルを用いた、核酸分子を配列決定する方法であって、
前記第1の電極は、イオン電流の非ファラデー性伝導を促進するように構成され、前記電解質内のイオンでキャパシタンスを形成する、前記方法において、
第1の電圧信号を、前記第1の電極と前記第2の電極とを横断して印加し、それにより、前記配列決定セル内の核酸分子を、前記ナノポアを通して移動させる力を生じさせるステップであって、前記第1の電圧信号は、前記第1の電圧信号の印加中に、前記第1の電極での前記キャパシタンスの変化を補償する第1の変化率で増大するように構成される前記ステップ、および、
前記第1の電圧信号の間に測定された第1の信号値のセットを決定するステップであって、前記第1の信号値のセットは、前記核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応する前記ステップ、を含み、
さらに、
事前設定された参照電圧と比較して、前記ナノポア全体にかかるナノポア電圧を監視するステップ、
ナノポア電圧の振幅が、前記事前設定された参照電圧より低く降下したことが検出されると、前記第1の電圧信号の振幅を、前記事前設定された参照電圧より高い第2の電圧まで増大するステップ、および、
前記第1の電圧信号の間に測定された第2の信号値のセットを決定するステップであって、前記第2の信号値のセットは、前記核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記第1の電極および前記第2の電極を横断する第2の電圧信号と、前記第1の電圧信号と反対の極性を有する前記第2の電圧信号とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに応じた信号値の測定を可能にするために、前記核酸分子が、前記核酸分子が前記ナノポアを通り移動する速度を変更するように構成された、1つまたは複数のスピードバンプを備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の変化率を、任意選択的にRC(抵抗-キャパシタンス)時定数を有する、前記配列決定セルの放電特性から決定するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の電圧信号が、線形的に増大する振幅、指数関数的に増大する振幅、または振幅を増大させる階段状の信号によって、特徴づけられる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナノポア全体にかかる電圧の前記振幅を監視するステップが、前記配列決定セルを通る電流を監視するステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の電圧信号が、ベース電圧に重畳された複数の電圧パルス信号を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記第1の信号値のセットが、電圧信号を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記第1の信号値のセットが、電流信号を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ウェル上に存在する膜内のナノポアと、前記ウェルの下部の第1の電極と、前記膜上のチャンバ内の第2の電極と、前記ウェルおよび前記チャンバ内の電解質とを備える、配列決定セルを用いた、核酸分子を配列決定する方法であって、
第1の電圧信号を、前記第1の電極と前記第2の電極とを横断して印加し、それにより、前記配列決定セル内の核酸分子を、前記ナノポアを通して移動させる力を生じさせるステップ、
前記第1の電圧信号の間に測定された第1の1つまたは複数の信号値のセットを決定するステップであって、前記第1の信号値のセットは、前記核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応するステップ、
事前設定された参照電圧と比較して、前記ナノポア全体にかかるナノポア電圧の振幅を監視するステップ、
前記ナノポア電圧の振幅が、前記事前設定された参照電圧より低いと判定されると、前記第1の電圧信号の振幅を、前記ナノポア電圧が前記事前設定された参照電圧に等しくまたはそれより高くなるように、第2の電圧まで増大するステップ、および、
前記第1の電圧信号が前記第2の電圧にある間に測定された第2の1つまたは複数の信号値のセットを決定するステップであって、前記第2の信号値のセットは、前記核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項11】
前記ナノポア全体にかかる電圧の前記振幅を監視するステップが、前記配列決定セルを通る電流を監視するステップを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の電極が、イオン電流の非ファラデー性伝導を促進するように構成され、前記電解質内のイオンでキャパシタンスを形成する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
ウェル上に存在する膜内のナノポアと、前記ウェルの下部の第1の電極と、前記膜上のチャンバ内の第2の電極と、前記ウェルおよび前記チャンバ内の電解質とを備える、配列決定セルを用いた、核酸分子を配列決定する方法であって、
第1の電圧信号を、前記第1の電極と前記第2の電極とを横断して印加し、それにより、前記配列決定セル内の核酸分子を、前記ナノポアを通して移動させる力を生じさせるステップであって、前記第1の電圧信号が、ベース電圧に重畳された複数の電圧パルス信号を含むステップ、
前記第1の電圧信号の間に測定された第1の信号値のセットを決定するステップであって、前記第1の信号値のセットは、前記核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項14】
前記第1の電極が、イオン電流の非ファラデー性伝導を促進するように構成され、前記電解質内のイオンでキャパシタンスを形成する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記複数の電圧パルス信号が、前記核酸分子を前記配列決定セル内のナノポアを通して加速させるように構成された、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
信号値の測定を可能にするために、前記核酸分子が、前記核酸分子が前記ナノポアを通り移動する速度を変更するように構成された、1つまたは複数のスピードバンプを備え、
前記複数の電圧パルス信号は、前記スピードバンプを、前記複数の電圧パルス信号がないときより高い変化率で、ナノポアを通して除去されるまたは通過するようにさせる、請求項13~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ベース電圧が、時間と共に増大するように構成された、請求項13~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記第1の電圧信号が、正の部分と負の部分とを有するACスイッチング印加電圧を含む、請求項13~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の電圧パルス信号の各々が、一定の振幅を有する、請求項13~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の電圧パルス信号の各々が、増大する振幅を有する、請求項13~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記複数の電圧パルス信号が、2ミリ秒の周期を有し、各電圧パルスが、0.1ミリ秒の持続時間を有する、請求項13~18のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
[0001]内径が1ナノメートル程度のポアサイズを有するナノポア膜装置は、迅速なヌクレオチド配列決定において見込みを示してきた。電位が導電性流体に浸漬されたナノポア全体に印加されたとき、ナノポア全体のイオンの伝導に起因するわずかなイオン電流が存在し得る。電流の量は、ナノポア内のポアサイズおよび分子の特性に影響される。いくつかの事例では、分子は、特定のヌクレオチドに取り付けられた特定のタグであり得て、それにより核酸の特定の位置にあるヌクレオチドの検出が可能になる。他の事例では、分子は、ポアによって充填され得て、それにより核酸のヌクレオチド配列の検出が可能になる。ナノポアを含む回路内の電圧または他の信号は、分子の抵抗を測定する方法として測定され得て(例えば、積分コンデンサにおいて)、それによりナノポア内の分子の検出が可能になる。
【0002】
[0002]ナノポアベースの配列決定チップは、DNA配列決定に用いられ得る。ナノポアベースの配列決定チップは、アレイとして構成される多数のセンサセルを組み込み得る。例えば、100万個のセルのアレイは、1000行×1000列のセルを含み得る。
【0003】
[0003]測定される信号は、製造のばらつきにより、チップ毎に、かつ同一チップ内のセル毎に変化し得る。そのため、セル内の特定の核酸または他の重合体の中の本当のヌクレオチドに対応し得る、本当の分子を測定することは困難であり得る。加えて、他の時間に依存する測定信号の非理想性が、不正確の原因となり得る。例えば、配列決定セルの電圧は、時間とともに変化し得る。また、これらの回路は、例えば、脂質二重層、ナノポアなどの生化学的な回路素子を利用するので、電気的特性の変動性が、従来の半導体回路より、はるかに高くなり得る。さらに、配列決定プロセスは、本質的に確率的であり、それゆえ、変動性が、ナノポアを使用しない配列決定装置を含めて、多種多様なシステム全体で発生し得る。
【0004】
[0004]したがって、配列決定プロセスの精度および安定性を向上させる、改善された評価技術が所望される。
【発明の概要】
【0005】
[0005]多様な実施形態が、配列決定セルのアレイ内に配置され得る(例えば、チップ上のナノポアのアレイ)、配列決定セル内の核酸の配列測定に関する技術およびシステムを提供する。
【0006】
[0006]本発明のいくつかの実施形態では、例えば単鎖のDNA分子などの核酸分子を配列決定する方法が、提供される。方法は、延長された期間にわたり、単鎖の核酸を配列決定するための十分な印加電圧を供給し得る。増大する振幅を有する電圧が、印加電圧の持続時間の間中、配列決定を実行するのに十分な振幅を有するナノポア電圧を維持するために、ナノポアセルに印加され得る。配列決定作業は、電圧がより長い持続時間印加され得ることで、より多くの核酸分子が配列決定されることを可能にすることにより、さらに効果的にされ得る。高められた精度はまた、ナノポア電圧が比較的一定(例えば、指定された期間内のしきい値量より低く減じられた)となる結果として、得られ得る。
【0007】
[0007]いくつかの実施形態によれば、核酸分子を配列決定する方法は、配列決定セルを提供するステップを含む。配列決定セルは、ウェル上に存在する膜内のナノポア、ウェルの下部の第1の電極、膜上のチャンバ内の第2の電極、およびウェルおよびチャンバ内の電解質を含み得る。第1の電極は、イオン電流の非ファラデー性伝導を促進するように構成され得て、電解質内のイオンでキャパシタンスを形成する。方法は、第1の電圧信号を、第1の電極と第2の電極とを横断して印加するステップをさらに含み得て、それにより、配列決定セル内の核酸分子を、ナノポアを通して移動させる力を、生じさせる。第1の電圧信号は、第1の電圧信号の印加中に、第1の電極でのキャパシタンスの変化を補償するために、第1の変化率で増大するように構成され得る。方法は、第1の電圧信号の間に測定された第1の信号値のセットを決定するステップをさらに含み得て、第1の信号値のセットは、核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応する。
【0008】
[0008]代替の実施形態によれば、核酸分子を配列決定する方法は、配列決定セルを提供するステップを含み得る。配列決定セルは、ウェル上に存在する膜内のナノポア、ウェルの下部の第1の電極、膜上のチャンバ内の第2の電極、およびウェルおよびチャンバ内の電解質を有し得る。第1の電圧信号は、第1の電極と第2の電極とを横断して印加され得て、それにより、配列決定セル内の核酸分子を、ナノポアを通して移動させる力を、生じさせ、第1の電圧信号の間に測定された1つまたは複数の信号値の第1のセットが決定され得る。第1の信号値のセットは、核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応し得る。方法は、事前設定された参照電圧と比較して、ナノポア全体にかかるナノポア電圧の振幅を監視するステップを含み得る。ナノポア電圧の振幅が、事前設定された参照電圧より低いと判定されると、第1の電圧信号の振幅は、ナノポア電圧が事前設定された参照電圧に等しくまたはそれより高くなるように、第2の電圧まで増大され得る。1つまたは複数の信号値の第2のセットが、測定されてもよい。第2の信号値のセットは、核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応し得る。
【0009】
[0009]他の実施形態によれば、核酸分子を配列決定する方法は、配列決定セルを提供するステップを含み得る。配列決定セルは、ウェル上に存在する膜内のナノポア、ウェルの下部の第1の電極、膜上のチャンバ内の第2の電極、およびウェルおよびチャンバ内の電解質を有し得る。方法は、第1の電圧信号を、第1の電極と第2の電極とを横断して印加するステップを含み得て、それにより、配列決定セル内の核酸分子を、ナノポアを通して移動させる力を、生じさせる。第1の電圧信号は、ベース電圧に重畳された複数の電圧パルス信号を含み得る。方法は、第1の電圧信号の間に測定された第1の信号値のセットを決定するステップをさらに含み得る。第1の信号値のセットは、核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応し得る。
【0010】
[0010]他の実施形態は、本明細書で説明される方法に関連付けられるシステムおよびコンピュータ可読媒体、ならびにそのようなコンピュータ可読媒体を備える機器に向けられる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[0011]本発明の実施形態による、ナノポアセルのアレイを備えるナノポアセンサチップの一実施形態の上面図である。
図2】[0012]本発明の実施形態による、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを特徴づけるために使用され得る、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一実施形態である。
図3】[0013]本発明の実施形態による、ナノポアベースの、合成による配列決定(ナノ-SBS)技術を用いてヌクレオチド配列決定を実行するナノポアセルの一実施形態である。
図4】[0014]本発明の実施形態による、ナノポアセル内の電気回路である。
図5】[0015]本発明の実施形態による、ACサイクルの明期間(部分)および暗期間(部分)中のナノポアセルから取得されたデータポイントの例である。
図6】[0016]本発明の実施形態による、単鎖のDNAを特徴づけるために使用され得る、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一実施形態である。
図7】[0017]本発明の実施形態による、ナノポアを通過する単鎖のDNAを有する、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一部の一実施形態である。
図8】[0018]本発明の実施形態による、ナノポアを通過するスピードバンプを伴う単鎖のDNAを有する、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一部の一実施形態である。
図9】[0019]本発明の実施形態による、ナノポアを通過する単鎖のDNAを有する、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一実施形態において測定された電気的信号の一例である。
図10A】[0020]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、測定された電気的信号の減衰を示すグラフである。
図10B】[0021]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、測定された電気的信号の減衰の別の例を示すグラフである。
図11】[0022]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、一定の印加電圧に対するナノポア電圧の減衰を示すグラフである。
図12】[0023]本発明の実施形態による、核酸分子を配列決定する方法を示すフローチャートである。
図13A】[0024]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、線形的に増大する印加電圧に対するナノポア電圧を示すグラフである。
図13B】[0025]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、階段状の印加電圧に対するナノポア電圧を示すグラフである。
図14】[0026]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、指数関数的に増大する印加電圧に対するナノポア電圧を示すグラフである。
図15】[0027]本発明の実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、揺動パルスを含む増大する印加電圧に対するナノポア電圧を示すグラフである。
図16】[0028]本発明の実施形態による、ナノポアセルの電気回路である。
図17】[0029]本発明のいくつかの実施形態による、揺動パルスを伴う印加電圧の降下を示す、ナノポアセルから取得されたデータポイントの例である。
図18】[0030]本発明の実施形態による、核酸分子を配列決定する方法を示すフローチャートである。
図19】[0031]本発明の実施形態による、フィードバック制御を用いた、非ファラデー性ナノポアセル内の、動的に印加される電圧に対するナノポア電圧を示すグラフである。
図20】[0032]本発明の実施形態による、本明細書で説明するシステムおよび方法と共に使用可能な一例のコンピュータシステムのブロック図である。
【0012】
用語
[0033]別途定義されない限り、本明細書で用いられる技術的および科学的な用語は、当業者によって一般に理解される意味と同様の意味を有する。本明細書で説明される方法、装置、および材料と同様のまたは同等のものが、開示された技術の実施で使用され得る。以下の用語は、頻繁に使用される一定の用語の理解を促進するために提供され、本開示の範囲を限定することを意味しない。本明細書で用いられる略語は、化学的および生物学の分野でのその従来の意味を有する。
【0013】
[0034]「核酸」は、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチド、および一本または二本鎖の何れかの形態の、その重合体を指し得る。この用語は、合成の、自然発生的、非自然発生的であり、参照核酸と同様の結合特性を有し、参照ヌクレオチドと同様の挙動で代謝する、周知のヌクレオチドの類似物または修飾された主鎖の残基または連鎖を含む核酸を包含し得る。そのような類似物の例は、それだけには限らないが、ホスホロチオエート、ホスホルアミダイト、メチルホスホン酸塩、キラルメチルホスホン酸塩、2-O-メチルリボヌクレオチド、ペプチド核酸(PNA)を含み得る。別途規定されていない限り、個々の核酸配列は、明示的に示された配列だけでなく、従来の方法で修飾されたその変形形態(例えば、縮重コドン置換)および相補的配列を、暗黙的に包含する。具体的には、縮重コドン置換は、1つまたは複数の選択された(または全ての)コドンの第3の位置が、混合塩基および/またはデオキシイノシン残基で置換される、配列を発生させることによって達成され得る(Batzerら、Nucleic Acid Res.19:5081 (1991)、Ohtsukaら、J.Biol.Chem.260:2605-2608(1985)、Rossoliniら、Mol.Cell.Probes 8:91-98(1994))。用語、核酸は、遺伝子、cDNA、mRNA、オリゴヌクレオチド、およびポリヌクレオチドと交換可能に用いられ得る。
【0014】
[0035]用語「鋳型」は、DNA合成のためのDNAヌクレオチドの相補的鎖へ複製される一本鎖核酸分子を示し得る。場合によっては、鋳型は、mRNAの合成中に複製されるDNAの配列を示し得る。
【0015】
[0036]用語「プライマ」は、DNA合成の開始点を提供する短い核酸配列を示し得る。DNAポリメラーゼなどのDNA合成を触媒する酵素は、新らたなヌクレオチドをDNA複製用プライマに加え得る。
【0016】
[0037]「ポリメラーゼ」は、鋳型を用いたポリヌクレオチドの合成を行う酵素を示し得る。この用語は、完全な長さのポリペプチドとポリメラーゼ活性を有する範囲とを両方とも包含する。DNAポリメラーゼは、当業者によく知られており、それだけに限定されないが、パイロコッカス・フリオサス、サーモコッカス・リトラリス、およびサーモトガ・マリティマから分離もしくは派生したDNAポリメラーゼ、またはその変形版を含む。それらは、DNA依存性ポリメラーゼと、逆転写酵素などのRNA依存性ポリメラーゼとを両方とも含む。DNA依存性DNAポリメラーゼは、ほとんどがファミリーA、B、およびCに分類されるものの、少なくとも5つのファミリーが知られている。多様なファミリー間での、配列の類似性はわずかまたは皆無である。最多のファミリーAポリメラーゼは、ポリメラーゼ、3’→5’エキソヌクレアーゼ活性および5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を含む、複数の酵素機能を含み得る、単鎖のタンパク質である。ファミリーBポリメラーゼは通常、ポリメラーゼおよび3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有する単一の触媒領域、ならびに副次的要素を有する。ファミリーCポリメラーゼは通常、ポリメラーゼおよび3’→5’エキソヌクレアーゼ活性を有するマルチサブユニットのタンパク質である。大腸菌では、DNAポリメラーゼI(ファミリーA)、II(ファミリーB)、およびIII(ファミリーC)の、3つのタイプのDNAポリメラーゼが見つかっている。真核細胞では、3つの異なるファミリーBのポリメラーゼである、DNAポリメラーゼα、δ、およびεが、核の複製に関与し、ファミリーAポリメラーゼであるポリメラーゼγが、ミトコンドリアDNA複製に使用される。他のタイプのDNAポリメラーゼは、ファージポリメラーゼを含む。同様に、RNAポリメラーゼは通常、ファージおよびウイルスポリメラーゼだけでなく、真核性RNAポリメラーゼI、II、およびIII、ならびにバクテリアRNAポリメラーゼを含む。RNAポリメラーゼは、DNA依存性およびRNA依存性であり得る。
【0017】
[0038]「ナノポア」は、膜内に、形成または配置された、細孔、流路または通路を示す。膜は、脂質二重層などの有機膜、または高分子材料から形成される膜などの合成膜であり得る。ナノポアは、例えば相補型金属酸化膜半導体(CMOS)または電界効果トランジスタ(FET)回路などの、検知回路に結合された検知回路または電極に、隣接または近接して配置され得る。いくつかの実施例では、ナノポアは、0.1ナノメートル(nm)~約1000nmの水準の特徴的な幅または直径を有する。いくつかの実施態様では、ナノポアは、タンパク質であり得る。
【0018】
[0039]用語「ヌクレオチド」は、自然に発生するリボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチド単量体を指すことに加えて、状況が明確にそうでないことを示さない限り、ヌクレオチドが使用されている個々の状況(例えば、相補的塩基へのハイブリッド形成法)に関して、機能的に同等である誘導体および類似物を含む、関連するその構造的変形形態を指すと理解され得る。
【0019】
[0040]用語「タグ」は、原子または分子、あるいは原子または分子の集合であり得る、検出可能な部分を指し得る。タグは、光学的、電気化学的、磁気的、静電的(例えば、誘導性、容量性)識別特性を提供し得て、その識別特性がナノポアの促進により検出され得る。通常、ヌクレオチドにタグが取り付けられているとき、それは、「タグ付けされたヌクレオチド」と呼ばれる。タグは、リン酸塩部分を介してヌクレオチドに取り付けられ得る。
【0020】
[0041]用語「明期間」は、通常、タグ付けされたヌクレオチドのタグが、AC信号を通して印加される電界によってナノポア内に押し込まれる期間を指す。用語「暗期間」は、通常、タグ付けされたヌクレオチドのタグが、AC信号を通して印加される電界によってナノポア外に押し出される期間を指す。ACサイクルは、明期間および暗期間を含み得る。異なる実施形態では、ナノポアセルを明期間(または暗期間)内に入れるためにナノポアセルに印加される電圧信号の極性は、異なり得る。明期間および暗期間は、参照電圧に対する交流信号の異なる部分に対応し得る。
【0021】
[0042]用語「信号値」は、配列決定セルからの配列決定信号出力値を指し得る。ある一定の実施形態によれば、配列決定信号は、1つまたは複数の配列決定セルの回路内のある点から測定されたおよび/または出力である、電気的信号であり得て、例えば、信号値は、電圧または電流であり得る(またはそれを表し得る)。信号値は、電圧および/または電流の直接測定の結果を表し得て、かつ/あるいは間接測定値を表し得て、例えば、信号値は、電圧または電流が指定された値に到達するのにかかる測定された持続時間であり得る。信号値は、ナノポアの抵抗率と相関を示しナノポア(充填されたかつ/または未充填の)の抵抗率および/またはコンダクタンスが導出され得る、任意の測定可能な量を表し得る。別の実施例として、信号値は、例えば、揺動されているヌクレオチドに取り付けられた蛍光体からポリメラーゼを有する核酸への、光の強度に対応し得る。
【0022】
[0043]用語「バルキー構造」は、単鎖の試験DNA分子内の前バルキー構造から形成されるヌクレオチド構造を指し得る。前バルキー構造は、本明細書で用いられるように、ある一定の状態下でバルキー構造を形成し得る、DNA分子内のオリゴヌクレオチド構造である。前バルキー構造は、単鎖のDNAまたは二本鎖のDNAであり得る。バルキー構造は、試験DNA分子を、作用状態が別の状態に変化するまで、作用状態にあるナノポア内に閉じ込め、ここでバルキー構造は、前バルキー構造に、すなわち試験DNA分子をもはや閉じ込めることができない他の構造に、変換される。バルキー構造の例は、それだけには限らないが、DNA二重鎖構造、DNAヘアピン構造、多ヘアピン構造、および多アーム構造などの2Dおよび3D構造を含む。
【0023】
[0044]用語「スピードバンプ」は、試験DNA分子の結合部分と複合体を形成する、オリゴヌクレオチド分子を指し得る。試験DNA分子が、電位下でナノポアを通過するとき、スピードバンプと結合部分との間に形成された複合体は、試験DNA分子を、ナノポア検出器が試験DNA分子の構造情報を取得するのに十分な滞留時間中、ナノポア内に閉じ込める。滞留時間後、複合体は解離し、試験DNA分子は、ナノポアを通り前方へ移動する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[0045]理想的には、ナノポアを通過するDNAなどの単鎖(ss)の核酸の個々のヌクレオチドは、ナノポアを通り流れるイオン電流を固有に変調することになり、電流を記録することで、DNA配列情報を提供することを可能にする。しかしながら、ナノポア配列決定の共通の課題は、単鎖の試験DNA移動が迅速で、取得される電気的信号が、信頼できるDNA配列決定用に分析できない。DNAの二重鎖部分が、より分析可能な電気的信号を適用するために、単鎖の試験DNAの移動を遅くするために使用されてきた。非ファラデー性配列決定セルでは、ナノポア電圧は、単鎖のDNAを、ナノポアを通して移動させるために必要とされる、使用可能な電圧の下まで、降下し、その結果、非効率的な配列決定作業となることが、観察されている。
【0025】
[0046]以下の項では、紹介の項が、多様な実施形態で使用され得る多様な生物学プロセスおよび電気的装置を説明する。非ファラデー性セルでの単鎖(ss)のDNAの配列決定が、説明される。非ファラデー性セルの容量性の特質によるナノポア電圧の損失が、説明される。有効なナノポア電圧を維持する多様な方法が、次に説明される。その結果、単鎖のDNAの配列決定は、延長された期間にわたって実行され得て、配列決定作業の効率を向上させる。
【0026】
I.ナノポアベースの配列決定チップ
[0047]図1は、ナノポアセル150のアレイ140を備えるナノポアセンサチップ100の一実施形態の上面図である。各ナノポアセル150は、ナノポアセンサチップ100のシリコン基板上に集積化された制御回路を備える。いくつかの実施形態では、側壁136は、アレイ140に含まれ、ナノポアセル150のグループを分離し得て、その結果、各グループは、特徴づけのための異なるサンプルを受け取り得る。各ナノポアセルは、核酸を配列決定するために用いられ得る。いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、カバープレート130を備え得る。いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、コンピュータプロセッサなどの他の回路とインタフェースする複数のピン110も備え得る。
【0027】
[0048]いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、例えばマルチチップモジュール(MCM)またはシステムインパッケージ(SiP)などのように同一のパッケージ内に複数チップを含み得る。チップは、例えば、メモリ、プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、データコンバータ、高速I/Oインタフェースなどを含み得る。
【0028】
[0049]いくつかの実施形態では、ナノポアセンサチップ100は、例えば、脂質懸濁液または他の膜構造化懸濁液、分析物溶液、および/または他の液体、懸濁液、または固体を送達するためのピペット、ロボットアーム、コンピュータプロセッサ、ならびに/あるいはメモリなどの分析物送達メカニズムを含む、本明細書で開示されるプロセスの多様な実施形態を実行する(例えば、自動的に実行する)ための多様な構成要素を含み得るナノチップワークステーション120に結合され(例えば、ドッキングされ)得る。複数のポリヌクレオチドが、ナノポアセル150のアレイ140上で検出され得る。いくつかの実施形態では、各々のナノポアセル150は、個別にアドレス可能であり得る。
【0029】
II.ナノポア配列決定セル
[0050]ナノポアセンサチップ100内のナノポアセル150は、多数の異なる方法で実施され得る。例えば、いくつかの実施形態では、異なるサイズおよび/または化学的構造のタグが、配列決定されるために、核酸分子内の異なるヌクレオチドに取り付けられ得る。いくつかの実施形態では、配列決定されることになる核酸分子の鋳型への相補鎖が、別の仕方で重合体がタグ付けされたヌクレオチドを鋳型とハイブリッド形成することによって、合成され得る。いくつかの実施態様では、核酸分子および取り付けられたタグは、両方ともナノポアを通り移動し、ナノポアを通過するイオン電流が、ヌクレオチドに取り付けられたタグの個々のサイズおよび/または構造によって、ナノポア内に存在するヌクレオチドを示し得る。いくつかの実施態様では、タグだけが、ナノポア内へ移動し得る。ナノポア内で異なるタグを検出するために、多数の異なる方法も存在し得る。
【0030】
A.ナノポア配列決定セル構造
[0051]図2は、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドを特徴づけるために使用され得る、図1のナノポアセンサチップ100内のナノポアセル150のような、ナノポアセンサチップ内のナノポアセル200の一実施形態を示す。ナノポアセル200は、誘電体層201および204から形成されたウェル205と、ウェル205を覆って形成された脂質二重層214と、脂質二重層214上の、脂質二重層214によってウェル205から分離された試料室215とを、含み得る。ウェル205は、ある体積の電解質206を収容し得て、試料室215は、例えば、可溶性タンパク質ナノポア膜貫通分子複合体(PNTMC)などのナノポア、および対象の分析物(例えば、配列決定されることになる核酸分子)を収容するバルク電解質208を保持し得る。
【0031】
[0052]ナノポアセル200は、ウェル205の底部に作用電極202と、試料室215内に配置された対電極210とを含み得る。信号源228は、電圧信号を作用電極202と対電極210との間に印加し得る。単一のナノポア(例えば、PNTMC)が、電圧信号による電気穿孔法プロセスによって脂質二重層214内へと挿入され、それにより脂質二重層214内のナノポア216を形成し得る。アレイ内の個々の膜(例えば、脂質二重層214または他の膜構造)は、化学的にも電気的にも互いに接続されていないこともある。それゆえ、アレイ内の各ナノポアセルは、独立した配列決定機械であり、対象の分析物に対して作用し、そうでなければ不透過性の脂質二重層を介してイオン電流を調節するナノポアに関連付けられる、単一のポリマー分子に固有のデータを生成する。
【0032】
[0053]図2に示すように、ナノポアセル200は、シリコン基板などの基板230上に形成され得る。誘電体層201は、基板230上に形成され得る。誘電体層201を形成するために用いられる誘電体材料は、例えば、ガラス、酸化物、窒化物、その他を含み得る。電気的刺激を制御し、ナノポアセル200から検出される信号を処理する電気回路222は、基板230上および/または誘電体層201内部に形成され得る。例えば、複数のパタニングされた金属層(例えば、金属1~金属6)が、誘電体層201内に形成され、複数の能動デバイス(例えば、トランジスタ)が、基板230上に製造され得る。いくつかの実施形態では、信号源228は、電気回路222の一部に含まれる。電気回路222は、例えば、増幅器、積算器、アナログデジタル変換器、ノイズフィルタ、フィードバック制御ロジック、および/または多様な他の構成要素を含み得る。電気回路222は、メモリ226に結合されたプロセッサ224にさらに結合され得て、ここでプロセッサ224は、アレイ内に配列されている重合体分子の配列を決定するために、配列決定データを分析することができる。
【0033】
[0054]作用電極202は、誘電体層201上に形成され、ウェル205の底部の少なくとも一部を形成し得る。いくつかの実施形態では、作用電極202は、金属電極である。非ファラデー性伝導のために、作用電極202は、腐食および酸化に耐性を示す、例えば、白金、金、チタン窒化物、およびグラファイトなどの金属または他の材料で形成され得る。例えば、作用電極202は、電気めっきを用いた白金電極であってもよい。別の実施例では、作用電極202は、チタン窒化物(TiN)作用電極であってもよい。作用電極202は、多孔質であってもよく、それによりその表面積および結果として生じる作用電極202に付随するキャパシタンスを増大させ得る。ナノポアセルの作用電極は、別のナノポアセルの作用電極から独立していることもあることから、作用電極は、本開示内でセル電極と呼ばれ得る。
【0034】
[0055]誘電体層204は、誘電体層201上に形成され得る。誘電体層204は、ウェル205を囲む壁を形成する。誘電体層204を形成するために用いられる誘電体材料は、例えば、ガラス、酸化物、シリコン一窒化物(SiN)、ポリイミド、または他の適切な疎水性の絶縁材料を含み得る。誘電体層204の上面は、シラン処理され得る。シラン処理は、誘電体層204の上面の上に疎水性層220を形成し得る。いくつかの実施形態では、撥水性層220は、約1.5ナノメートル(nm)の厚さを有する。
【0035】
[0056]誘電体層204の壁によって形成されるウェル205は、作用電極202の上の電解質206の体積を含む。電解質206の体積は、緩衝性を有し、以下の、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化マンガン(MnCl)、および塩化マグネシウム(MgCl)、のうちの1つまたは複数を含み得る。いくつかの実施形態では、電解質206の体積は、約3マイクロメートル(μm)の厚さを有する。
【0036】
[0057]図2にも示すように、膜は、誘電体層204の上面に形成され、ウェル205全体に及ぶ。いくつかの実施形態では、膜は、疎水性層220の上面に形成された脂質単一層218を含み得る。膜がウェル205の開口に達したとき、脂質単一層218は、ウェル205の開口全体に及ぶ脂質二重層214に遷移し得る。脂質二重層は、例えば、ジフィタノイル-ホスファチジルコリン(DPhPC)、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロ-3-ホスホコリン(DoPhPC)、パルミトイル-オレオイル-ホスファチジルコリン(POPC)、ジオレオイル-ホスファチジル-メチルエステル(DOPME)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、スフィンゴミエリン、1,2-ジ-O-フィタニル-sn-グリセロール、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-350]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-550]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-750]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-1000]、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000]、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-ラクトシル、GM1ガングリオシド、リゾホスファチジルコリン(LPC)またはその任意の組合せから選択されるリン脂質を含み、またはそれらから構成され得る。
【0037】
[0058]示したように脂質二重層214には、例えば、単一のPNTMCによって形成された単一のナノポア216が埋め込まれる。上述のように、ナノポア216は、単一のPNTMCを脂質二重層214内に電気穿孔法によって挿入することによって、形成され得る。ナノポア216は、対象の分析物および/または小さなイオン(例えば、Na、K、Ca2+、Cl)の少なくとも一部分を脂質二重層214の両側間を通過させるのに十分に大きくてもよい。
【0038】
[0059]試料室215は、脂質二重層214を覆っており、特徴づける対象の分析物の溶液を保持し得る。溶液は、バルク電解質208を含み、最適なイオン濃度への緩衝性を有し、ナノポア216を開口状態に維持するために最適なpHに維持された水性溶液であり得る。ナノポア216は、脂質二重層214を横切り、バルク電解質208から作用電極202へのイオン流のための唯一の経路を提供する。ナノポア(例えば、PNTMC)および対象の分析物に加えて、バルク電解質208は、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、グルタミン酸リチウム、グルタミン酸ナトリウム、グルタミン酸カリウム、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、塩化カルシウム(CaCl)、塩化ストロンチウム(SrCl)、塩化マンガン(MnCl)、および塩化マグネシウム(MgCl)、のうちの1つまたは複数をさらに含み得る。
【0039】
[0060]対電極210は、電気化学的電位センサであり得る。いくつかの実施形態では、対電極210は、複数ナノポアセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称され得る。いくつかの場合では、共通の電位および共通電極は、全てのナノポアセルに対して、または少なくとも個々のグループ内の全てのナノポアセルに対して共通であり得る。共通電極は、共通の電位を、ナノポア216と接触するバルク電解質208に印加するように構成可能である。対電極210および作用電極202は、脂質二重層214を横断する電気的刺激(例えば、電圧バイアス)を供給するための信号源228に結合され、脂質二重層214の電気的特性(例えば、抵抗、電気容量、およびイオン電流)を検知のために用いられ得る。いくつかの実施形態では、ナノポアセル200は、参照電極212も含み得る。
【0040】
[0061]いくつかの実施形態では、多様なチェックが、較正の一部としてナノポアセルの作成中に実施され得る。ナノポアセルが作成された後、さらなる較正ステップが、例えば、所望されるように(例えば、セル中に1ナノポア)実行しているナノポアセルを識別するために、実行されてもよい。そのような較正チェックは、物理的チェック、電圧較正、開放流路較正、および単一のナノポアを有するセルの識別を含み得る。
【0041】
B.ナノポア配列決定セルの信号検出
[0062]ナノポアセンサチップ100内のナノポアセル150などのナノポアセンサチップ内のナノポアセルは、合成による単分子ナノポアベースの配列決定(ナノ-SBS)技術を用いる並行配列決定を可能にし得る。
【0042】
[0063]図3は、ナノ-SBS技術を用いてヌクレオチド配列決定を実行するナノポアセル300の一実施形態を示す。ナノ-SBS技術では、配列決定されることになる鋳型332(例えば、ヌクレオチド酸分子または別の対象の分析物)およびプライマは、ナノポアセル300の試料室内のバルク電解質308内に導入され得る。例として、鋳型332は、円形状または直線状であり得る。核酸プライマは、4つの別の仕方で重合体がタグ付けされたヌクレオチド338が付加され得る、鋳型332の一部にハイブリッド形成され得る。
【0043】
[0064]いくつかの実施形態では、酵素(例えば、DNAポリメラーゼなどのポリメラーゼ334)が、鋳型332への相補鎖を合成するのに用いるナノポア316に関連付けられ得る。例えば、ポリメラーゼ334は、ナノポア316に共有結合していてもよい。ポリメラーゼ334は、ヌクレオチド338のプライマ上への、一本鎖核酸分子を鋳型として用いる取り込みを触媒する。ヌクレオチド338は、4つの異なるタイプA、T、GまたはCのうちの1つであるヌクレオチドを伴うタグ種(「タグ」)を含み得る。タグ付けされたヌクレオチドが、ポリメラーゼ334と正しく結合されるとき、タグは、電気的な力、例えば、脂質二重層314および/またはナノポア316を横断して印加される電圧により生成される電界の存在下で生成される力によってナノポア内に引き込まれ(装填され)得る。タグの尾部は、ナノポア316の筒内に位置決めされ得る。ナノポア316の筒内に保たれるタグは、タグの別個の化学的な構造および/またはサイズにより、固有のイオン遮断信号340を生成し、それにより、タグが取り付けられた付加された塩基を、電子的に同定する。
【0044】
[0065]本明細書で用いられるとき、「装填された」または「充填された」タグは、認識可能な長さの時間、例えば、0.1ミリ秒(ms)から10,000ミリ秒の間、ナノポア内に位置決めされる、および/または、ナノポア内または近くに留まるタグでもよい。いくつかの場合では、タグは、ヌクレオチドから放出される前に、ナノポア内に装填される。いくつかの例では、装填されたタグが、ヌクレオチド組み込み事象の際に放出された後にナノポアを通過する(および/またはナノポアにより検出される)確率が適度に高く、例えば90%から99%である。
【0045】
[0066]いくつかの実施形態では、ポリメラーゼ334がナノポア316に接続される前に、ナノポア316のコンダクタンスは、例えば約300ピコジーメンス(300pS)のように高いことがあり得る。タグがナノポア内に装填されるとき、固有のコンダクタンス信号(例えば、信号340)は、タグの別個の化学構造および/またはサイズにより生成される。例えば、ナノポアのコンダクタンスは、約60pS、80pS、100pSまたは120pSであり、それぞれは、タグ付けされたヌクレオチドの4つのタイプのうちの1つに対応する。ポリメラーゼは、次に異性化およびリン酸基転移反応を経て、ヌクレオチドを成長している核酸分子内に組み込み、タグ分子を放出する。
【0046】
[0067]いくつかの場合では、タグ付けされたヌクレオチドのいくつかは、核酸分子(鋳型)の目下の位置(相補的塩基)と一致し得ない。核酸分子と塩基対合されていないタグ付けされたヌクレオチドも、ナノポアを通過し得る。これらの対合されていないヌクレオチドは、典型的には、正しく対合されたヌクレオチドがポリメラーゼと結合したままである時間スケールより短い時間スケール内で、ポリメラーゼによって拒絶される。対合されていないヌクレオチドに結合されたタグは、ナノポアを迅速に通過し、短期間(例えば、10ms未満)の間検出され得て、一方、対合したヌクレオチドに結合されたタグは、ナノポア内に装填され、長期間(例えば、少なくとも10ms)の間検出され得る。それゆえ、対合されていないヌクレオチドは、ヌクレオチドがナノポア内で検出される時間に少なくとも部分的に基づいて、下流のプロセッサによって識別され得る。
【0047】
[0068]装填された(充填された)タグを含むナノポアのコンダクタンス(または等価的に抵抗)が、ナノポアを通過する電流を介して測定され得て、タグ種の識別、それによる目下の位置にあるヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、直流(DC)信号が、ナノポアセルに印加され得る(例えば、タグがナノポアを通って移動する方向が反転しないように)。しかし、直流を用いた長期間のナノポアセンサの運転は、電極の組成を変化させ得て、ナノポア全体のイオン濃度を不平衡にさせ、ナノポアセルの寿命に影響し得る他の望ましくない効果を有し得る。交流(AC)波形を印加することは、電界移動を低減し、これらの望ましくない効果を回避し、下記のある一定の利点を有し得る。タグ付けされたヌクレオチドを利用する本明細書で説明される核酸配列決定方法は、印加されるAC電圧に完全に共存可能であり、それゆえAC波形が、これらの利点を達成するために用いられ得る。
【0048】
[0069]AC検出サイクルの間に電極を再充電する能力は、犠牲電極、電流通過反応で分子特性を変化させる電極(例えば、銀を含む電極)が使用されるとき、有益であり得る。電極は、直流信号が使用されるとき、検出サイクル中に消耗し得る。再充電は、電極が小さいとき(例えば、平方ミリメートル当たり少なくとも500の電極を有する電極アレイに供給するために十分に小さいとき)問題になり得る、電極が完全に枯渇するなどの消耗限界に到達することを防止し得る。電極寿命は、場合によっては、電極の幅および総面積と共に進み、少なくとも部分的に、それに依存する。
【0049】
[0070]ナノポアを通過するイオン電流を測定する好適な状態は、当技術分野で知られており、例が本明細書で提供される。測定は、膜および細孔を横断して印加される電圧により実行され得る。いくつかの実施形態では、電圧は、-400mV~+400mVの範囲にあり得る。用いられる電圧は、-400mV、-300mV、-200mV、-150mV、-100mV、-50mV、-20mV、および0mVから選択される下限と、+10mV、+20mV、+50mV、+100mV、+150mV、+200mV、+300mV、および+400mVから別々に選択される上限とを有する範囲にあることが好ましい。用いられる電圧は、100mV~240mVの範囲にあることがさらに好ましく、160mV~240mVの範囲にあることが最も好ましい。増大された印加電位を用いたナノポアによって異なるヌクレオチド間の識別能力を増大させることが可能である。AC波形およびタグ付けされたヌクレオチドを用いた核酸の配列決定は、その全体が引用することにより本明細書に組み込まれる、2013年11月6日に提出された「Nucleic Acid Sequencing Using Tags(タグを用いた核酸配列決定)」という名称の米国特許公開第US2014/0134616で説明されている。米国2014/0134616で説明されたタグ付けされたヌクレオチドに加えて、配列決定は、例えば、5つの一般的な核酸塩基、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、およびチミンの(S)-グリセロール・ヌクレオシド・三リン酸塩(gNTP)などの糖または非環式の部分を欠く、ヌクレオチド類似物を用いて実行され得る(Horhotaら、Organic Letters、8:5345-5347[2006])。
【0050】
C.ナノポア配列決定セルの電気回路
[0071]図4は、ナノポアセル200などのナノポアセル内の電気回路400(図2の電気回路222の一部分を含み得る)の一実施形態を示す。上述のように、いくつかの実施形態では、電気回路400は、ナノポアセンサチップ内の複数のナノポアセルまたは全てのナノポアセル間で共有され得、それゆえ、共通電極とも称され得る対電極410を含む。共通電極は、電圧源VLIQ420に接続することによって、共通の電位を、ナノポアセル内の脂質二重層(例えば、脂質二重層214)と接触するバルク電解質(例えば、バルク電解質208)に印加するように構成されることが可能である。いくつかの実施形態では、AC非ファラデー性モードが、電圧VLIQをAC信号(例えば、方形波)で変調するために利用され、それをナノポアセル内で脂質二重層に接触するバルク電解質に印加し得る。いくつかの実施形態では、VLIQは、±200~250mVの大きさおよび例えば25~400Hzの周波数を有する方形波である。例えば100μF以上などの大きなコンデンサ426によってモデル化される対電極410と脂質二重層(例えば、脂質二重層214)との間のバルク電解質。
【0051】
[0072]図4は、作用電極402(例えば、作用電極202)および脂質二重層(例えば、脂質二重層214)の電気特性を表す電気モデル422も示す。電気モデル422は、脂質二重層に関連付けられたキャパシタンスをモデル化するコンデンサ426(CBilayer)と、ナノポア内の個々のタグの存在に基づいて変化し得る、ナノポアに関連付けられた可変抵抗をモデル化する抵抗器428(RPORE)とを含む。電気モデル422は、2重層キャパシタンス(CDouble Layer)を有し、作用電極402およびウェル205の電気特性を表すコンデンサ424も含む。作用電極402は、他のナノポアセル内の作用電極から独立した別個の電位を印加するように構成され得る。
【0052】
[0073]パスデバイス406は、脂質二重層および作用電極を電気回路400から接続または切断するために使用され得るスイッチである。パスデバイス406は、電圧刺激がナノポアセル内の脂質二重層を横断して印加されることを有効化または無効化するために、制御ライン407によって制御され得る。脂質が、脂質二重層を形成するために堆積される前では、2つの電極間のインピーダンスは、セルのウェルが封止されていないため、非常に低く、それゆえパスデバイス406は、短絡状態を回避するために開路に維持され得る。パスデバイス406は、脂質溶媒がナノポアセルに堆積されてナノポアセルのウェルを封止した後、閉じられ得る。
【0053】
[0074]回路400は、オンチップ積分コンデンサ408(ncap)をさらに含み得る。積分コンデンサ408は、リセット信号403を使用しスイッチ401を閉じ、その結果、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405に接続されることによって、事前充電され得る。いくつかの実施形態では、電圧源VPRE405は、例えば、900mVの大きさの固定の参照電圧を提供する。スイッチ401が閉じられているとき、積分コンデンサ408は、電圧源VPRE405の参照電圧レベルまで事前充電され得る。
【0054】
[0075]積分コンデンサ408が事前充電された後、リセット信号403が使用されスイッチ401が開路され、その結果、積分コンデンサ408は、電圧源VPRE405から切断される。この時点では、電圧源VLIQのレベルにより、対電極410の電位は、作用電極402(および積分コンデンサ408)の電位より高いレベルにあるか、その反対でもあり得る。例えば、電圧源VLIQからの方形波の正位相の間(例えば、AC電圧源信号サイクルの明または暗期間)、対電極410の電位は、作用電極402の電位より高いレベルにある。電圧源VLIQからの方形波の負位相の間(例えば、AC電圧源信号サイクルの暗または明期間)、対電極410の電位は、作用電極402の電位より低いレベルにある。したがって、いくつかの実施形態では、積分コンデンサ408は、対電極410と作用電極402との間の電位差により、明期間の間に電圧源VPRE405の事前充電された電圧レベルからさらに高いレベルまで充電され、暗期間中により低いレベルに放電され得る。他の実施形態では、充電および放電は、それぞれ暗期間および明期間に発生し得る。
【0055】
[0076]積分コンデンサ408は、1kHz、5kHz、10kHz、100kHz、またはそれを超え得る、アナログデジタル変換器(ADC)435のサンプリング速度による固定された期間に、充電または放電され得る。例えば、1kHzのサンプリング速度で、積分コンデンサ408は、約1msの期間中、充電/放電し、次に、電圧レベルがサンプリングされ、積分期間の終わりにADC435によって変換され得る。個々の電圧レベルは、ナノポア内の個々のタグ種に対応し、それゆえ、鋳型上の目下の位置でのヌクレオチドに対応し得る。
【0056】
[0077]ADC435によるサンプリングされた後、積分コンデンサ408は、リセット信号403を使用しスイッチ401を閉じ、その結果、積分コンデンサ408が電圧源VPRE405に再接続されることによって、再び事前充電され得る。積分コンデンサ408を事前充電するステップと、積分コンデンサ408が充電または放電する一定の期間待機するステップと、積分コンデンサの電圧レベルをADC435によってサンプリングおよび変換するステップとが、配列決定プロセスの間中サイクルで繰り返され得る。
【0057】
[0078]デジタルプロセッサ430は、例えば、正規化、データバッファリング、データフィルタリング、データ圧縮、データ削減、イベント抽出、またはナノポアセルアレイからのADC出力データを多様なデータフレームへのアセンブリングなどのために、ADC出力データを処理し得る。いくつかの実施形態では、デジタルプロセッサ430は、塩基判定などのさらに下流の処理を実行し得る。デジタルプロセッサ430は、ハードウェア(例えば、GPU、FPGA、ASICなどの内部の)またはハードウェアとソフトウェアとの組合せとして実装され得る。
【0058】
[0079]したがって、ナノポアを横断して印加される電圧信号は、ナノポアの個々の状態を検出するために用いられ得る。ナノポアの可能な状態の1つは、タグが取り付けられたポリホスフェートがナノポアの筒に存在しない場合、開放チャネル状態であり、本明細書ではナノポアの未充填状態とも呼ぶ。ナノポアの別の4つの可能な状態は、タグが取り付けられたポリホスフェートヌクレオチドの4つの異なるタイプ(A、T、GまたはC)のうちの1つがナノポアの筒内に保持されるときの状態に各々対応する。ナノポアのさらに別の可能な状態は、脂質二重層が断裂するときである。
【0059】
[0080]積分コンデンサ408での電圧レベルが、固定された期間後に測定されるとき、ナノポアの異なる状態は、異なる電圧レベルの測定値をもたらし得る。これは、積分コンデンサ408(すなわち、時間に対する積分コンデンサ408の電圧のグラフの傾きの程度)での電圧減衰率(放電による減少または充電による増大)が、ナノポアの抵抗(例えば、抵抗器RPORE428の抵抗)に依存するからである。より詳しくは、異なる状態のナノポアに関連付けられた抵抗が、分子(タグ)の別個の化学構造に起因して異なるので、異なる対応する電圧減衰率は、観察され得るようになり、ナノポアの異なる状態を識別するために用いられ得る。電圧減衰曲線は、RC時定数τ=RCを有する指数関数曲線であり得て、ここで、Rは、ナノポアに関連付けられた抵抗(すなわち、RPORE428)であり、Cは、Rに並列の膜に関連付けられたキャパシタンス(すなわち、コンデンサ426(CBilayer))である。ナノポアセルの時定数は、例えば、約200~500msであり得る。減衰曲線は、二重層の詳細な実施により、指数関数曲線に正確に一致し得ないが、減衰曲線は、指数関数曲線に類似し、単調であり得て、それゆえ、タグの検出を可能にする。
【0060】
[0081]いくつかの実施形態では、開放チャネル状態にあるナノポアに関連付けられた抵抗は、100MΩ~20GΩまでの範囲内にあり得る。いくつかの実施形態では、タグが、ナノポアの筒内部に存在する状態にあるナノポアに関連付けられた抵抗は、200MΩ~40GΩまでの範囲内にあり得る。他の実施形態では、積分コンデンサ408は、ADC435へ導く電圧が、電気モデル422内の電圧減衰によりやはり変化することになるため、省略され得る。
【0061】
[0082]積分コンデンサ408での電圧の減衰率は、異なる方法で決定され得る。上で説明したように、電圧減衰率は、一定の時間間隔の間の電圧減衰を測定することによって決定され得る。例えば、積分コンデンサ408での電圧は、最初に時間t1でADC435により測定され、次に、電圧は、時間t2でADC435により再び測定される。時間曲線に対する積分コンデンサ408での電圧の傾きがより急であるとき、電圧差はより大きく、電圧曲線の傾きがより緩やかなとき、電圧差はより小さい。このように、電圧差は、積分コンデンサ408での電圧の減衰率を、ゆえに、ナノポアセルの状態を決定するための測定基準として用いられ得る。
【0062】
[0083]他の実施形態では、電圧減衰率は、選択された電圧減衰量のために必要な持続時間を測定することによって決定され得る。例えば、電圧が第1の電圧レベルV1から第2の電圧レベルV2に降下または増大するのに必要な時間が測定され得る。時間に対する電圧曲線の傾きがより急であるとき、必要な時間はより少なく、時間に対する電圧曲線の傾きがより緩やかなとき、必要な時間はより大きい。このように、必要な測定時間は、積分コンデンサncap408での電圧の減衰率を、ゆえに、ナノポアセルの状態を決定するための測定基準として用いられ得る。当業者には、例えば、電流測定技術を含む、ナノポアの抵抗を測定するために必要とされ得る多様な回路を理解されよう。
【0063】
[0084]いくつかの実施形態では、電気回路400は、オンチップに、パスデバイス(例えば、パスデバイス406)および追加のコンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap))を含まないことがあり、それによりナノポアベースの配列決定チップのサイズの削減を促進する。膜(脂質二重層)の薄い性質のため、膜に関連付けられたキャパシタンス(例えば、コンデンサ426(CBilayer))のみで、追加のオンチップのキャパシタンスを必要とすることなく必要なRC時定数を生み出すのに十分とすることができる。それゆえ、コンデンサ426は、積分コンデンサとして使用され得て、電圧信号VPREによって事前充電され、続いて、電圧信号VLIQによって放電または充電され得る。そうでなければ電気回路内にオンチップで作製される追加のコンデンサおよびパスデバイスをなくすことにより、ナノポア配列決定チップ内の単一のナノポアセルのフットプリントを著しく減少させることができ、それにより、(例えば、ナノポア配列決定チップ内の数百万ものセルを有する)ますます多くのセルを含むためにナノポア配列決定チップを拡大することが容易になる。
【0064】
D.ナノポアセル内でのデータサンプリング
[0085]核酸の配列決定を実行するために、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap))またはコンデンサ426(CBilayer)の電圧レベルは、タグ付けされたヌクレオチドが核酸に加えられている間に、ADC(例えば、ADC435)によってサンプリングされ変換され得る。ヌクレオチドのタグは、例えば、VLIQがVPREより低いような印加電圧のとき、対電極および作用電極を介して印加される、ナノポアを横断する電界によって、ナノポアの筒内へと押し入れられ得る。
【0065】
1.充填
[0086]充填事象は、タグ付けされたヌクレオチドが、鋳型(例えば、核酸断片)に取り付けられ、タグがナノポアの筒の内外に進むときにあたる。これは、充填事象の間に複数回発生し得る。タグが、ナノポアの筒内にあるとき、ナノポアの抵抗は、より高く、より低い電流がナノポアを通り流れ得る。
【0066】
[0087]配列決定の間、タグは、いくつかのACサイクル状態でナノポア内に存在しないことがあり(開放チャネル状態と呼ぶ)、この場合電流は、ナノポアのより低い抵抗のために、最も高い。タグがナノポアの筒内へと取り付けられるとき、ナノポアは、明モードである。タグがナノポアの筒外へと押し出されるとき、ナノポアは、暗モードである。
【0067】
2.明および暗期間
[0088]ACサイクルの間、積分コンデンサでの電圧は、ADCによって複数回サンプリングされ得る。例えば、ある実施形態では、AC電圧信号が、システム全体に、例えば、約100Hzで印加され、ADCの取得速度は、セルあたり約2000Hzであり得る。このように、ACサイクル(AC波形のサイクル)毎に取得される約20のデータポイント(電圧測定値)が存在し得る。AC波形の1サイクルに対応するデータポイントは、1セットと呼ばれ得る。ACサイクル毎のデータポイントの1セット内には、例えば、明モード(期間)に対応し得る、VLIQがVPREより低いときキャプチャされるサブセットが存在し得て、このときタグは、ナノポアの筒内へと押し込まれる。別のサブセットは、暗モード(期間)に対応し得て、このときタグは、例えば、VLIQがVPREより高いとき、印加される電界によってナノポアの筒外へと押し出される。
【0068】
3.測定電圧
[0089]データポイント毎に、スイッチ401が開路のとき、積分コンデンサ(例えば、積分コンデンサ408(ncap)またはコンデンサ426(CBilayer))における電圧は、例えば、VLIQがVPREより高いとき、VPREからVLIQに増大し、VLIQがVPREより低いとき、VPREからVLIQに減少するように、VLIQによる充電/放電の結果として減衰する挙動で変化していく。最終的な電圧値は、VLIQから作用電極の電荷だけずれる。積分コンデンサでの電圧レベルの変化率は、ナノポアを含み、結果としてナノポア内の分子(例えば、タグ付けされたヌクレオチドのタグ)を含み得る、二重層の抵抗の値によって支配され得る。電圧レベルは、スイッチ401が開路した後の所定時間に測定され得る。
【0069】
[0090]スイッチ401は、データ収集速度で動作し得る。スイッチ401は、通常、ADCによる測定の直後の2回のデータ取得間の比較的短時間、閉路され得る。スイッチは、複数データポイントがVLIQの各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)中に収集されることを可能にする。スイッチ401が開路のままのとき、積分コンデンサでの電圧レベルおよび、それゆえ、ADCの出力値は、完全に減衰し、そこに留まり得る。代わりに、スイッチ401が閉路のとき、積分コンデンサは、再び事前充電され(VPREに)、別の測定の準備がなされる。したがって、スイッチ401は、複数データポイントが各ACサイクルの各サブ期間(明または暗)に収集されることを可能にする。そのような複数の測定は、固定されたADC(例えば、平均化され得る、より多数の測定による8ビットから14ビット)を用いたより高い分解能を可能にさせ得る。複数の測定は、ナノポア内に充填される分子に関する動態情報をさらに提供し得る。時間の情報により、どれだけの長さで充填が発生するかの決定を可能にさせ得る。これは、核酸鎖に加えられる複数のヌクレオチドが配列決定されつつあるか否かを判定することを促進することにも用いられ得る。
【0070】
[0091]図5は、ACサイクルの明期間および暗期間中のナノポアセルから取得されたデータポイントの例を示す。図5では、データポイントでの変化は、図解目的用に強調されている。作用電極または積分コンデンサに印加される電圧(VPRE)は、例えば、900mVなどの一定のレベルにある。ナノポアセルの対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、方形波として示されるAC信号であり、このときデューティサイクルは、50%以下、例えば約40%のような任意の好適な値であり得る。
【0071】
[0092]明期間520の間、対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加される電圧VPREより低く、その結果、タグは、作用電極および対電極に印加される、異なる電圧レベルに起因する電界によって、ナノポアの筒内に押し込まれ得る(例えば、タグ上の電荷および/またはイオンの流れにより)。スイッチ401が開路のとき、ADCの前のノードでの(例えば、積分コンデンサでの)電圧は、減少していく。電圧データポイントが取得された後(例えば、指定された期間の後)、スイッチ401は、閉路され得て、測定ノードでの電圧は、VPREへと再び戻るように増大していく。プロセスは、複数の電圧データポイントを測定するために繰り返され得る。このようにして、複数のデータポイントは、明期間の間に取得され得る。
【0072】
[0093]図5に示すように、VLIQ信号の符号の変化の後の明期間内の第1のデータポイント522(第1のポイントデルタ(FPD)とも呼ばれる)は、後続のデータポイント524よりも低いことがあり得る。これは、ナノポア内にタグが存在しないからであり(開流路)、それゆえ、それは低抵抗および高放電率を有するためであり得る。いくつかの例では、第1のデータポイント522は、図5に示すようなVLIQレベルを超え得る。これは、信号をオンチップコンデンサに結合する二重層のキャパシタンスに起因し得る。データポイント524は、充填事象が発生した、すなわち、タグがナノポアの筒内に押し込まれた後に取得され得て、この場合ナノポアの抵抗、およびそれゆえの積分コンデンサの放電速度は、ナノポアの筒内に押し込まれるタグの個々のタイプに依存する。データポイント524は、以下で説明するように、CDouble Layer424で生成される電荷により、測定毎にわずかに減少し得る。
【0073】
[0094]暗期間530の間、対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加される電圧VPREより高く、その結果、何れのタグも、ナノポアの筒外に押し出され得る。スイッチ401が開路のとき、測定ノードでの電圧は、電圧信号510(VLIQ)の電圧レベルがVPREより高いので、増大する。電圧データポイントが取得された後(例えば、指定された期間の後)、スイッチ401は、閉路され得て、測定ノードでの電圧は、VPREへと再び戻るように減少していく。プロセスは、複数の電圧データポイントを測定するために繰り返され得る。このように、複数のデータポイントは、第1のポイントデルタ532および後続のデータポイント534を含む暗期間の間に取得され得る。上述のように、暗期間の間に、何れのヌクレオチドタグもナノポアの外に押し出され、それゆえ、任意のヌクレオチドタグに関する最小限度の情報が取得され、さらに正規化に用いられる。
【0074】
[0095]図5は、明期間540の間、対電極に印加される電圧信号510(VLIQ)は、作用電極に印加される電圧VPREより低いにもかかわらず、充填事象が発生しない(開経路)ことも示す。したがって、ナノポアの抵抗は低く、積分コンデンサの放電速度は高い。結果的に、第1のデータポイント542および後続のデータポイント544を含む、取得されたデータポイントは、低電圧レベルを示す。
【0075】
[0096]明または暗期間の間に測定される電圧は、ナノポアの一定の抵抗(例えば、1つのタグがナノポア内にある間に所与のACサイクルの明モードの間に形成される)の測定毎にほぼ同一であると期待され得るが、このことは、電荷が2重層コンデンサ424(CDouble Layer)で生成する場合であり得ない。この電荷生成は、ナノポアセルの時定数をより長くさせる結果をもたらし得る。結果的に、電圧レベルは移動し、それにより測定値がサイクル内のデータポイント毎に減少するという結果をもたらし得る。このように、サイクル内で、データポイントは、図5に示すように、ある程度データポイントから別のデータポイントへ変化し得る。
【0076】
[0097]測定に関するさらなる詳細は、例えば、「Nanopore-Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus(電圧刺激を変化させるナノポアベースの配列決定)」という名称の米国特許公開第2016/0178577、「Nanopore-Based Sequencing With Varying Voltage Stimulus(電圧刺激を変化させるナノポアベースの配列決定)」という名称の米国特許公開第2016/0178554、「Non-Destructive Bilayer Monitoring Using Measurement Of Bilayer Response To Electrical Stimulus(電気的刺激に応答した二重層の測定を用いた非破壊二重層モニタリング)」という名称の米国特許出願第15/085,700、および「Electrical Enhancement Of Bilayer Formation(二重層形成の電気的促進)」という名称の米国特許出願第15/085,713の中で見つけることができ、開示のその全体があらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0077】
4.正規化および塩基分類
[0098]ナノポアセンサチップの有効なナノポアセル毎に、生成モードが、核酸を配列決定するために実行され得る。配列決定中に取得されるADC出力データは、より高い精度を提供するために、正規化され得る。正規化は、サイクル形状、ゲインドリフト、電荷注入オフセット、およびベースラインシフトなどの偏位効果を引き起こし得る。いくつかの実施態様では、充填事象に対応する明期間サイクルの信号値は、単一の信号値がサイクル毎に取得される(例えば、平均)ように、平坦化され得る、またはサイクル内減衰(一種のサイクル形状効果)を低減するために測定された信号に対して調整がなされ得る。ゲインドリフトは、通常完全な信号を基準の大きさとし、数百から数千秒までのオーダーで変化する。例として、ゲインドリフトは、溶液の変化(ポア抵抗)または二重層キャパシタンスの変化がトリガとなり得る。ベースラインシフトは、約100msの時間尺度で発生し、作用電極の電圧オフセットに関係する。ベースラインシフトは、配列決定セル内の電荷バランスを明期間から暗期間へ維持する必要の結果として、充填からの有効調整比の変化によって駆動され得る。
【0078】
[0099]正規化の後、実施形態は、充填された経路の電圧のクラスタを決定し得て、ここで各クラスタは、異なるタグ種、およびそれゆえの異なるヌクレオチドに対応する。クラスタは、所与のヌクレオチドに対応する所与の電圧の確率を算出するために使用され得る。別の例として、クラスタは、異なるヌクレオチド(塩基)間での差別化のための分離電圧を決定するために用いられ得る。
【0079】
[0100]単一の測定に基づく核酸の塩基決定の例示の方法が以下に提供される。実施例は、説明のために電圧測定を使用し得るが、例示の技術は、電流測定などの他の信号測定に同様に適用する。
【0080】
III.単鎖のDNAの配列決定
[0101]上述の核酸サンプルを配列決定するシステムおよび方法では、タグ付けされたヌクレオチドの個々のタグ付けされたヌクレオチドは、核酸サンプルから導出された単鎖の核酸分子と相補的な成長している鎖に組み込まれ得る。ナノポアの援助により、個々のタグ付けされたヌクレオチドに関連付けられたタグは、個々のタグ付けされたヌクレオチドの組み込み中に検出され得る。
【0081】
[0102]以下に説明する実施形態では、スピードバンプまたはあおり丁番などのある種の変形を有するDNAなどの単鎖(ss)の核酸は、ナノポアを通り移動する。ナノポアを通過する単鎖の核酸の個々のヌクレオチドは、ナノポアを通り流れるイオン電流を固有に変調することになり、電流を記録することで、DNA配列情報を提供することを可能にする。
【0082】
A.ナノポアによる単鎖のDNA用のナノポア配列決定セル
[0103]図6は、本発明の実施形態による、単鎖のヌクレオチド配列決定を実行するナノポアセル600を示す。ナノポアセル600は、図3のナノポアセル300と同様のセル構造を有する。例えば、ナノポアセル600は、バルク電解質608と、脂質二重層614内に配置されたナノポア616と、ナノポアの下のウェル内の電解質606の体積とを含む、試料室を備える。ナノポアセル600は、信号源628から印加電圧Vを受ける作用電極602および対電極610も備える。
【0083】
[0104]配列決定されることになる単鎖のヌクレオチド酸分子632(または別の対象の分析物)は、ナノポアセル600の試料室内のバルク電解質608内に導入され得る。単鎖のヌクレオチド酸分子632は、脂質二重層614および/またはナノポア616全体に印加される電圧によって生成される電界の存在下で生成される電気的な力によって、ナノポア内に引き込まれ得る。電流計629は、ナノポアセルを通る電流を測定するために使用される。別法として、電流源が電気的な力を供給するために用いられる場合、電圧計が測定に使用される。ナノポア616の筒内に保持された単鎖のヌクレオチド酸分子632の部分は、その部分内の塩基の別個の化学的構造および/またはサイズにより、固有のイオン遮断信号640を生成し、それにより分子内の塩基を電子的に識別し得る。塩基は、図6で示したコンダクタンス信号640で表されるように、4つの異なるタイプ、A、T、GまたはCのうちの1つであり得る。
【0084】
[0105]装填された(充填された)単鎖のヌクレオチド酸分子を含むナノポアのコンダクタンス(または同等の抵抗)が、ナノポアを通過する電流を介して測定され得て、タグ種の識別、それによる目下の位置にあるヌクレオチドを提供する。いくつかの実施形態では、直流(DC)信号が、ナノポアセルに印加され得る(例えば、分子がナノポアを通って移動する方向が反転しないように)。しかし、直流を用いた長期間のナノポアセンサの運転は、セルの容量特性を変化させ得て、ナノポア全体のイオン濃度を不平衡にさせ、ナノポアセルの寿命に影響し得る他の望ましくない効果を有し得る。交流(AC)波形を印加することは、これらの望ましくない効果を低減し、下記のある一定の利点を有し得る。ナノポアを通過するイオン電流を測定する好適な状態は、図1~5に関連して上述したものと同様であり得る。
【0085】
[0106]図7は、本発明の実施形態による、ナノポアを通過する単鎖のDNAを有する、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一部を示す。図7に示したように、単鎖(ss)のDNA分子は、印加電位下でナノポアを通過し得る。単鎖の試験DNA分子によるナノポアを通るイオン流の簡潔な遮断に応じた一連の電気的信号は、単鎖の試験DNA分子がナノポアを通って充填されたときに、検出され得る。スピードバンプまたはバルキー構造がない場合、単鎖の試験DNA分子は、ほとんど抵抗を受けずに、ナノポアを過剰に速く通り過ぎるので、電気的信号が単鎖の試験DNAの配列決定のために、信頼して記録できない。
【0086】
[0107]図8および9は、単鎖(ss)の試験DNA内のサンプルDNAの配列情報を取得するためにナノポアを使用する方法に関する。方法は、スピードバンプの位置の近傍のサンプル核酸のヌクレオチドの配列情報を取得するために、単鎖の試験核酸をナノポア内に閉じ込めるスピードバンプを使用し、サンプルDNAの配列全体を構成する。方法はさらに、スピードバンプによって促進されるナノポア検出器を用いて、所望の配列を有する試験DNAの識別および/または分離することに関する。より詳細には、その内容は、その全体において参照により本明細書に組み込まれている、2014年8月28日に提出された米国特許出願公開第20150011402で説明されている。例えば、核酸は、自然発生するヌクレオチドの間に挿入された合成された配列を有し得る。そのような合成された配列によって、スピードバンプ間により大きな間隔をとることが可能になるので、スピードバンプは、各ヌクレオチドの配列決定を可能にするように取り付けられ得る。別の例では、合成された配列は、それ自体を、例えば、特定のヌクレオチドの代理として、検出し得る。
【0087】
[0108]図8は、本発明の実施形態による、ナノポアを通過するスピードバンプを有する単鎖のDNAを備える、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルの一部を示す。図8は、2つのバルキー構造803および804によって、ナノポア802内に捕獲された単鎖の試験DNA801を示す。両端に形成されたバルキー構造を有する単鎖の試験DNAは、ナノポア内にロックされ、複数のスピードバンプ805でスピードバンプと試験DNAとの複合体を形成する。いくつかの実施形態では、バルキー構造(BS)は、単鎖の試験DNAの終端をそれ自体の上で包むことによって、単鎖の試験DNAの一端において形成される、ヘアピン構造であり得る。スピードバンプは、試験DNA分子の結合部分と複合体を形成する、オリゴヌクレオチド分子であり得る。単鎖の試験DNAは、スピードバンプと単鎖の試験DNAとの複合体を形成するために、単鎖の試験DNAと共に貯められた任意のスピードバンプと接触し得る。
【0088】
[0109]ナノポア検出は、1つまたは複数のより短いDNA二重鎖部分がスピードバンプと単鎖の試験DNAとの間に形成され得るように実行される(スピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分)。スピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分は、スピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分、および単鎖の試験DNAの流動方向でスピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分の第1の塩基対の前側で、単鎖の試験DNA部分の配列情報を取得するのに十分な滞留時間の間、単鎖の試験DNAを閉じ込める。次に、スピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分は、解離し、単鎖の試験DNAは、別のスピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分によって閉じ込められるまで、または単鎖の試験DNAの一端のバルキー構造によって停止されるまで、ナノポアを通って前方へ移動する。単鎖の試験DNAが一端に到達した後、電位は、任意選択で低減された値におかれ、または単鎖の試験DNAを移動させるために極性が反対方向に反転させられ、所望されるようにプロセスを繰り返し得る。
【0089】
[0110]単鎖の試験DNAの一連の電気的信号は、単鎖の試験DNAが、滞留時間中にナノポア内にスピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分によって、閉じ込められる度に取得され、次に、スピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分は解離し、単鎖の試験DNAは、次のスピードバンプと試験DNAとの二重鎖部分によって閉じ込められるまで前方に移動する。この、閉じ込め-検出-解離-閉じ込めのプロセスは、単鎖の試験DNAが、一端のバルキー構造によって停止されるまで、繰り返される。
【0090】
[0111]図9は、本発明の実施形態による、ナノポアを通過する単鎖のDNAを有する、ナノポアセンサチップ内のナノポアセルにおいて測定された電気的信号の一例を示す。説明を容易にするために、電気的信号は、何れのスピードバンプに関するレベルも示さず、塩基に関するレベルのみを示すように簡易化される。スピードバンプと識別子との二重鎖部分は、単鎖の試験DNAを閉じ込め、一連の電気的信号が取得され、そこでは閉じ込め中に比較的平坦なレベルが見られる。これらの信号は、識別子の存在を示すため、または単鎖の試験DNAの流動方向で識別子の以前の部分の配列を識別するために、特徴づけられ得る。
【0091】
[0112]スピードバンプは、配列決定用の電気的信号測定を可能にするために、ナノポアを通る核酸分子の経路を閉じ込める一方向を示す。スピードバンプは、多様な形状を取り得て、一方向であり得ることで、それらは、順方向でナノポアを通過し得るが(小停止した後であっても)、反対方向(例えば、ACサイクルの負の部分の間)ではナノポアを通過し得ない。図2を参照し、いくつかの実施形態によると、脂質二重層214(ナノポア216を備える)は、トランス側およびシス側を有するとき、さらに定義される。一実施形態では、トランス側は、電解質206の体積を備えるウェル205である。別の実施形態では、シス側は、バルク電解質208を含む試料室215である。一実施形態では、一方向のスピードバンプは、ナノポアを通過することになる核酸分子の主鎖に接続された、単鎖の核酸を備える。別の実施形態では、単鎖の核酸は、(i)ナノポアから離れる向きの角度で、または(ii)脂質二重層214(ナノポア216を備える)のシス側の方に向くように(およびトランス側から離れる)、一方、核酸分子は、ナノポアを通過するように、核酸分子の主鎖に接続される。単鎖の核酸は、米国特許第9,605,309号(その全体において参照により本明細書に組み込まれる)の図20または図32に示すように、かかりを付けられ得る。別の実施形態では、一方向のスピードバンプは、ゲートが、第2方向でなく第1方向にある核酸分子に調整されたとき、十分薄くナノポア通過できる、核酸分子に取り付けられた丁番式ゲートを備える。一実施形態では、丁番式ゲートは、第2の部分よりも狭い第1の部分を備え、第2の部分は、ナノポアの最も狭い開口よりも小さい幅を有する。他の一実施形態では、丁番式ゲートは、第1の端部および第2の端部を有する重合体の連鎖をさらに備える。他の実施形態では、第1の端部は、第2の部分と隣接する位置で核酸分子に取り付けられ、第2の端部は、核酸分子に取り付けられていない。あおり丁番を有する核酸分子は、重合体の連鎖が第2の部分に隣接するように調整される第1方向で、ナノポアを通り充填されることが可能である。いくつかの事例では、タグ分子は、重合体の連鎖が第2の部分に隣接するように調整されていない第2方向で、ナノポアを通り充填されることが不可能である。一実施形態では、第2方向は、第1方向の反対である。丁番式ゲートは、米国特許第9,605,309号(その全体において参照により本明細書に組み込まれる)の図31に示すようであり得る。
【0092】
B.ナノポアの電圧降下に起因する非ファラデー性セルの限界
[0113]上述の通り、図6は、非ファラデー性で容量性に結合された測定用に構成されたナノポアベースの配列決定チップ内セルの一実施形態を示す。セルは、非ファラデー性で容量性に結合された測定をするためにアナログ測定回路(図示せず)を備える。測定は、デジタル情報に変換され、セル外部へ送信され得る。いくつかの実施形態では、送信データ速度は、ギガビット毎秒のオーダーにあり得る。いくつかの実施形態では、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)または特定用途向け集積回路(ASIC)が送信データを受信し、データ処理を行い、そのデータをコンピュータに転送する。
【0093】
[0114]非ファラデー性伝導では、化学反応(化学物質の還元または酸化)が、金属電極の表面で発生しない。金属電極と電解質との間の二重層キャパシタンス全体の電位を変化させることで、イオンは流れる。非ファラデー性伝導のために、金属電極は、腐食および酸化に耐性を示す金属で、例えば、チタンまたは白金もしくは金などの貴金属で、形成され得る。電極と電解質との間の化学的な相互作用の欠如にもかかわらず、印加される電位に応じて、金属-液体界面でのイオン空乏領域の成長および収縮からの電解質内での過渡的なイオンの物理的置換が存在する。このイオン空乏領域は、電気化学で「二重層」と称される。電気工学モデルを用いて、平行平板コンデンサは、金属が一方のプレート、空乏領域が誘電体、液体内のイオン拡散分布がもう一方のプレートである形をとる。非ファラデー性伝導用の小信号回路は、単純な抵抗器として表されるナノポアと、キャパシタとして表される2重層キャパシタンスとを含み得る。
【0094】
[0115]ファラデー性伝導の場合と異なり、電極に印加される絶対電圧は、ナノポアに印加される電圧と同一でなく、すなわち、二重層の電圧が、ナノポアに印加される電位をバイアスする。図10Aは、一実施形態による、二重層の容量性応答の一例を示す。この図は、電解質と作用電極との間に短絡回路を有する二重層の特性を示す。水の粘性は、印加される電界に応じたイオンの流れやすさを妨げ、このことは、二重層の容量性応答における直列抵抗を示す。この抵抗は、図10Aに示すように、ピーク電流を制限する。RC電気化学的接続の直列形状が、RC時定数を特徴とする応答減衰に見られる。非ファラデー性セルの電気特性は、内容が、その全体において参照により本明細書に組み込まれている、米国特許第9,551,697でより詳細に説明されている。
【0095】
[0116]図10Bは、本発明の実施形態による、配列決定作業中の、非ファラデー性ナノポアセル内の、測定された電気的信号の減衰の一例を示す。上側の図では、1020は、配列決定作業の未処理の測定された電気的信号を示す。下側の図では、1030は、電気的信号1020のタイムスライスを示す。下側の図は、配列決定セル1031の電極全体に印加される電圧、測定された開経路電気的信号1033、および核酸サンプルがナノポア1035内部に存在するときの測定信号を示す。ナノポア電圧は、開経路信号1033によって表されるように、一定の印加電圧1020を用いても、時間と共に減少し続けることが見られる。
【0096】
[0117]図11は、いくつかの実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、印加電圧およびナノポア電圧を示す。この例では、印加電圧信号1110は、周期Tを有する周期的信号である。各周期Tでは、電圧信号1110は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1111および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1112を有する。持続時間D1では、印加電圧信号1110の振幅は、一定である。持続時間D2では、印加電圧信号1110は、反対の極性を有し、印加電圧信号1112の振幅も、一定である。配列決定は、核酸がナノポアを通り移動する持続時間D1に実行される。持続時間D2では、印加電圧は、反転される。反対の電圧を印加することにより、キャパシタにかかる有効電圧を減少させる原因となる、2重層キャパシタにおけるイオンが、ナノポアを通り逆流することを可能にし、その結果、セルが初期化され、さらなる配列決定のために開始状態に戻り得るようになる。AC信号のそのような負の部分は、一方向のスピードバンプと組み合わせて使用され得て(本明細書でさらに説明するように)、その結果、核酸は、ナノポアを通り後方向へ移動しない。図11の例では、第1の部分1111の持続時間D1は、周期Tのおよそ3分の1(33%)であり、約33%のデューティサイクルをもたらす。他の例では、デューティサイクルは、40%、または他の適切な値であり得る。
【0097】
[0118]図11では、ナノポア電圧1120は、核酸分子を、ナノポアを通して移動させる、ナノポア全体にかかる有効電圧を表す。いくつかの事例では、ナノポア電圧1120は、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧1120は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。各周期Tでは、ナノポア電圧信号1120は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1121および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1122を有する。持続時間D1では、非ファラデー性伝導での容量性効果のため、ナノポア電圧信号1121の振幅は、時間と共に減少する。減少率は、ナノポアセルの容量性および抵抗性の成分により、指数関数的であり得る。説明を簡単にするために、ナノポア電圧1121は、線形的に減少するように示す。同様に、持続時間D2では、ナノポア電圧信号1122は、反対の極性を有し、ナノポア電圧信号1122の振幅も、時間と共に減少する。D1およびD2の両方において、減少率は、非ファラデー性ナノポアセル内の、印加電圧1111およびキャパシタンスに依存する。
【0098】
[0119]図11では、時間t1で、持続時間D1が開始し、印加電圧1111が、ナノポアセルに印加され、ナノポア電圧1124は、配列決定作業のためにナノポアを通り核酸分子を移動させるのに要する電圧を表す、参照電圧Vrefより高い。しかしながら、ナノポア電圧の正の部分1121は、非ファラデー性ナノポアセル内の容量性効果のため、時間と共に減少する。時間t2では、ナノポア電圧1121は、Vrefに等しい1125まで降下する。時間t2を越えて、ナノポア電圧1121は、Vrefより低く降下し、ナノポアセルは、配列決定作業のためにナノポアを通して核酸分子を移動させることが、もはや不可能になる。結果として、ナノポアセルは、印加電圧持続時間の限られた部分の間のみ動作する。例示として、印加電圧は、約2秒の正の部分を有し、使用可能な部分は、約500ミリ秒(msec)のみであり得る。したがって、ナノポア作業のより効果的な方法が、非常に所望される。
【0099】
IV.非ファラデー性セルへの増大する電圧
[0120]本発明のいくつかの実施形態では、例えば単鎖のDNA分子などの核酸分子を配列決定する方法が、提供される。方法は、延長された期間にわたり、単鎖のDNAを配列決定するための十分な印加電圧を供給する。例えば、増大する振幅を有する電圧が、印加電圧の持続時間の間中、配列決定を実行するのに十分な振幅を有するナノポア電圧を維持するために、ナノポアセルに印加され得る。
【0100】
[0121]図12は、いくつかの実施形態による、核酸分子を配列決定する方法を示すフローチャートである。方法は、図1~6に関連して上述されたセルと組み合わせて使用され得る。
【0101】
[0122]ブロック1210では、方法1200は、非ファラデー性伝導用に構成された配列決定セルを提供するステップを含む。配列決定セルは、ウェル上に存在する膜内のナノポアを有する。そのような配列決定セルの一例が、図6に関連して上に示した。配列決定セルは、ウェルの下部の第1の電極、膜上のチャンバ内の第2の電極、およびウェルおよびチャンバ内の電解質を含む。第1の電極は、イオン電流の非ファラデー性伝導を促進するように構成され、電解質内のイオンでキャパシタンスを形成する。
【0102】
[0123]ブロック1220では、方法は、増大する振幅を有する電圧信号を印加するステップを含む。第1の電圧信号は、第1の電極と第2の電極とを横断して印加され、それにより、配列決定セル内の核酸分子を、ナノポアを通して移動させる力を、生じさせる。上述のように、ナノポア全体にかかる電圧が使用可能な電圧値よりも低く降下する場合、配列決定セルは、ナノポアを通して核酸分子を移動させることを停止する。ナノポア全体にかかる電圧が使用可能な電圧値より低く降下することを避けるために、第1の電圧信号は、第1の電圧信号の印加中に、第1の電極でのキャパシタンスの変化を補償するために、増大するように構成される。
【0103】
[0124]ブロック1230では、方法は、1つまたは複数のヌクレオチドに対応する第1の信号値のセットを決定するステップをさらに含む。配列決定は、第1の電圧信号の間に測定された第1の信号値のセットを決定するステップによって実行され、第1の信号値のセットは、核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応する。
【0104】
[0125]本実施形態により、印加電圧信号は、異なる形態で増大され得る。例えば、電圧信号は、所定の変化率で増大され得る。電圧信号が増大する変化率は、配列決定セルの放電特性から決定され得る。配列決定セルの放電特性は、RC(抵抗-キャパシタンス)時定数によって説明され得る。別法として、配列決定セルの放電特性は、例えば、時間と共に変化する一連の電圧信号によって、数値的に説明され得る。放電特性に基づいて、電圧信号の変化率は、決定され得る。例えば、電圧信号は、線形的に増大する振幅を有し得る。別の例では、電圧信号は、指数関数的に増大する振幅であり得る。さらに別の例では、電圧信号は、フィードバック制御メカニズムを用いて、監視され修正され得る。これらの代替案は、以下の例でより詳細に説明される。
【0105】
A.線形的に増大する印加電圧
[0126]図13Aは、いくつかの実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、線形的に増大する印加電圧およびナノポア電圧を示す。この例では、印加電圧1310は、周期Tを有する周期的信号である。各期間では、電圧信号1310は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1311および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1312を有する。持続時間D1では、印加電圧信号1310の振幅は、非ファラデー性セルでの容量性効果を補償するために、R1mV/secの変化率で線形的に増大する。持続時間D2では、印加電圧信号1310は、反対の極性を有し、印加電圧信号1312の振幅は、R2mV/secの変化率で線形的に増大する。図13Aの例では、第1の部分1311の持続時間D1は、周期Tのおよそ3分の1(33%)であり、約33%のデューティサイクルをもたらす。他の例では、デューティサイクルは、40%、または他の適切な値であり得る。
【0106】
[0127]図13Aでは、ナノポア電圧1320は、核酸分子を、ナノポアを通り移動させる、ナノポア全体にかかる有効電圧を表す。いくつかの事例では、ナノポア電圧1320は、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧1320は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。
【0107】
[0128]各周期Tでは、ナノポア電圧信号1320は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1321および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1322を有する。持続時間D1では、ナノポア電圧信号1321の振幅は、印加電圧1310が容量性効果を克服するのに不十分な場合、時間と共に減少する。同様に、持続時間D2では、ナノポア電圧信号1322は、反対の極性を有し、ナノポア電圧信号1322の振幅も、時間と共に減少する。D1およびD2の両方において、減少率は、非ファラデー性ナノポアセル内の、印加電圧1311およびキャパシタンスに依存する。なお、持続時間D1では、ナノポア電圧信号1321の振幅は、ナノポアを通して核酸分子を移動させるために要する電圧Vrefより高いことに留意されたい。したがって、期間D1の間中、ナノポアは、配列決定のために、ナノポアを通して核酸分子を継続的に移動し得る。
【0108】
[0129]印加電圧1310では、正の部分1311の増大率R1は、ナノポア電圧がナノポアを通して核酸分子を移動させるのに要する電圧Vrefより高く維持することを保証するために、試験的に決定され得る。いくつかの例では、印加電圧の正の部分1311の持続時間D1は、0.5~2.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1311の持続時間D1は、2.0~5.0秒であり得る。さらに他の例では、印加電圧の正の部分1311の持続時間D1は、5.0~20.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1311の持続時間D1は、20.0秒より長い、例えば30秒、50秒、またはさらに長い時間であり得る。
【0109】
B.階段状に増大する印加電圧
[0130]図13Bは、いくつかの実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、階段状の印加電圧およびナノポア電圧を示す。使用可能なナノポア電圧を維持するために、印加電圧の振幅は、階段状に増大され、その結果、ナノポア電圧は、配列決定作業に使用可能なナノポア電圧を表す事前設定された参照電圧に、またはそれよりも高く、維持される。電圧階段の高さおよび電圧変更のタイミングは、実験によりまたはシミュレーションの促進により、あるいはこれらの方法の組合せにより、決定され得る。
【0110】
[0131]図13Bの例では、印加電圧信号1350は、周期Tを有する周期的信号である。各期間では、電圧信号1350は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1351および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1352を有する。持続時間D1では、印加電圧信号1350の振幅は、階段状の様式で増大するように構成される。各周期Tでは、ナノポア電圧信号1360は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1361および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1362を有する。ナノポア電圧1360は、核酸分子を、ナノポアを通して移動させる、ナノポア全体にかかる有効電圧を表す。いくつかの事例では、ナノポア電圧1360は、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧1360は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。
【0111】
[0132]持続時間D2では、印加電圧信号1350は、反対の極性を有し、印加電圧信号1352の振幅は、図13Bで、一定に示されているが、必要ならば時間と共に増大され得る。図13Bの例では、第1の部分1351の持続時間D1は、周期Tのおよそ3分の1(33%)であり、約33%のデューティサイクルをもたらす。他の例では、デューティサイクルは、40%、または他の適切な値であり得る。
【0112】
[0133]図13Bでは、時間t1で、振幅V1を有する印加電圧が、配列決定セルに印加され、Vrefよりも大きく配列決定に使用可能なナノポア電圧である、ナノポア電圧Vpをもたらす。非ファラデー性セルの容量性の特質により、ナノポア電圧は、時間と共に降下する。時間t2では、ナノポア電圧は、Vrefまで降下する。この時間に、システムは、印加電圧をV2まで増大させ、ナノポア電圧をVpに戻す。配列決定作業は、ナノポア電圧が再びVrefまで降下するとき、t3まで継続される。この状態により、システムが印加電圧をV3まで増大させる。V1、V2、およびV3などへの電圧階段の振幅およびt1、t2、およびt3などへの電圧変更のタイミングは、実験によりまたはシミュレーションの促進により、あるいはこれらの方法の組合せにより、決定され得る。印加電圧の階段状の増大は、ナノポア電圧をVrefに、またはそれより高く維持するために、持続時間D1中継続される。したがって、期間D1中、ナノポアは、配列決定のために、ナノポアを通して核酸分子を継続的に移動し得る。
【0113】
[0134]持続時間D2では、ナノポア電圧信号1362は、反対の極性を有し、ナノポア電圧信号の振幅は、印加電圧が一定の場合、時間と共に減少する。図面を単純化するために、持続時間D2での印加電圧1352およびナノポア電圧信号1362の両方が、一定として示されている。いくつかの実施形態では、階段状の印加電圧は、持続時間D2でも印加され得る。
【0114】
[0135]いくつかの例では、印加電圧の正の部分1351の持続時間D1は、0.5~2.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1351の持続時間D1は、2.0~5.0秒であり得る。さらに他の例では、印加電圧の正の部分1351の持続時間D1は、5.0~20.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1351の持続時間D1は、20.0秒より長い、例えば30秒、50秒、またはさらに長い時間であり得る。
【0115】
C.指数関数的に増大する印加電圧
[0136]図14は、いくつかの実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、指数関数的に増大する印加電圧およびナノポア電圧を示す。この例では、印加電圧信号1410は、周期Tを有する周期的信号である。各期間では、電圧信号1410は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1411および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1412を有する。持続時間D1では、印加電圧信号1410の振幅は、指数関数的に増大する。持続時間D2では、印加電圧信号1410は、反対の極性を有し、印加電圧信号1412の振幅は、線形的または指数関数的に増大する。図14の例では、第1の部分1411の持続時間D1は、周期Tのおよそ3分の1(33%)であり、約33%のデューティサイクルをもたらす。他の例では、デューティサイクルは、40%、または他の適切な値であり得る。
【0116】
[0137]図14では、ナノポア電圧1420は、核酸分子を、ナノポアを通して移動させる、ナノポア全体にかかる有効電圧を表す。いくつかの事例では、ナノポア電圧1420は、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧1420は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。
【0117】
[0138]各周期Tでは、ナノポア電圧信号1420は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1421および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1422を有する。持続時間D1では、ナノポア電圧信号1421の振幅は、印加電圧1410が容量性効果を克服するのに不十分な場合、時間と共に減少する。同様に、持続時間D2では、ナノポア電圧信号1422は、反対の極性を有し、ナノポア電圧信号1422の振幅も、時間と共に減少する。D1およびD2の両方において、減少率は、非ファラデー性ナノポアセル内の、印加電圧1411およびキャパシタンスに依存する。なお、持続時間D1では、ナノポア電圧信号1421の振幅は、ナノポアを通して核酸分子を移動させるために要する電圧Vrefより高いことに留意されたい。したがって、期間D1の間中、ナノポアは、配列決定のために、ナノポアを通して核酸分子を継続的に移動し得る。
【0118】
[0139]印加電圧1410では、正の部分1411の増大率は、ナノポア電圧がナノポアを通して核酸分子を移動させるのに要する電圧Vrefより高く維持することを保証するために、試験的に決定され得る。いくつかの例では、印加電圧の正の部分1411の持続時間D1は、0.5~2.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1411の持続時間D1は、2.0~5.0秒であり得る。さらに他の例では、印加電圧の正の部分1411の持続時間D1は、5.0~20.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1411の持続時間D1は、20.0秒より長い、例えば30秒、50秒、またはさらに長い時間であり得る。
【0119】
V.揺動パルスを伴う印加電圧
[0140]スピードバンプを用いる実施形態に関して、揺動パルス用いることは、スピードバンプが、より迅速にナノポアを通り除去されるまたは通過するようにさせるために、有益であり得る。スピードバンプを有することは、核酸が、過剰に高速に移動し、正確さが得られなくなることの回避を促進し得るが、それにより配列決定処理能力が、過剰に減少し得る。揺動パルスは、トレードオフのバランスをとることを促進し、ナノポアを通る核酸の速度を制御し得る。
【0120】
A.印加信号
[0141]図15は、いくつかの実施形態による、非ファラデー性ナノポアセル内の、揺動パルスを含む増大する印加電圧およびナノポア電圧を示す。これらの実施形態では、印加電圧信号は、ベース電圧上に重畳された、いくつかの狭小な電圧パルスを有し得る。
【0121】
[0142]図15では、印加電圧信号1510は、周期Tを有する周期的信号である。各期間では、電圧信号1510は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1511および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1512を有する。持続時間D1では、印加電圧1511は、ベース電圧1501と、複数の揺動電圧パルス1502とを含む。この例では、ベース電圧信号1501の振幅は、線形的に増大するように見えるが、例えば指数関数的に増大するなど、異なる方法で増大することもあり得る。いくつかの事例では、ベース電圧は、一定である。揺動パルス1502は、W1の幅およびW2の周期を有し得る。持続時間D2では、印加電圧信号は、反対の極性を有し、印加電圧信号1512の振幅は、例えば線形的または指数関数的など異なる様式で時間と共に増大し得る。持続時間D2では、印加電圧1512は、揺動パルスを有するまたは有さない可能性がある。図15の例では、第1の部分1511の持続時間D1は、周期Tのおよそ3分の1(33%)であり、約33%のデューティサイクルをもたらす。他の例では、デューティサイクルは、40%、50%、または他の適切な値であり得る。
【0122】
[0143]図15では、ナノポア電圧1520は、核酸分子を、ナノポアを通して移動させる、ナノポア全体にかかる有効電圧を表す。いくつかの事例では、ナノポア電圧1520は、例えば回路分析またはシミュレーション技術を用いて、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧1520は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。図15に示すように、ナノポア電圧1520の正の部分1521は、ナノポアを通して核酸分子を移動させるのに要する電圧を表す、参照電圧Vrefより高く留まる。
【0123】
[0144]各周期Tでは、ナノポア電圧信号1520は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1521および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1522を有する。持続時間D1では、ナノポア電圧信号1521の振幅は、平坦なベース電圧を有するように見える。しかしながら、ベース電圧は、印加電圧1510が容量性効果を克服するのに不十分な場合、時間と共に減少し得る。持続時間D1のナノポア電圧信号1521は、印加電圧に応じた複数の揺動パルスをさらに有し得る。持続時間D2では、ナノポア電圧信号1522は、反対の極性を有し、ナノポア電圧信号1522の振幅も、時間と共に減少する。D1およびD2の両方において、ナノポア電圧の変化率は、非ファラデー性ナノポアセル内の、印加電圧1511およびキャパシタンスに依存する。なお、持続時間D1では、ナノポア電圧信号1521の振幅は、ナノポアを通して核酸分子を移動させるために要する電圧Vrefより高いことに留意されたい。したがって、期間D1の間中、ナノポアは、配列決定のために、ナノポアを通して核酸分子を継続的に移動し得る。
【0124】
[0145]印加電圧1510では、正の部分1511の増大率R1は、ナノポア電圧がナノポアを通して核酸分子を移動させるのに要する電圧Vrefより高く維持することを保証するために、試験的に決定され得る。いくつかの例では、印加電圧の正の部分1511の持続時間D1は、0.5~2.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1511の持続時間D1は、2.0~5.0秒であり得る。さらに他の例では、印加電圧の正の部分1511の持続時間D1は、5.0~20.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1511の持続時間D1は、20.0秒より長い、例えば30秒、50秒、またはさらに長い時間であり得る。
【0125】
[0146]一例として、核酸分子の鎖は、ナノポアを通して引っ張られ、ストッパまたはスピードバンプは、鎖を期間中ナノポアに保持し、二重鎖部分は、デハイブリタイズされ浮き上がる。この時間中、配列決定読取りが、実行され得る。本発明の実施形態では、揺動パルスは、ナノポアを通る配列決定セル内の核酸分子の移動を、高速化し得る。いくつかの実施形態では、揺動パルスW1の幅は、約0.1ミリ秒であり得て、揺動パルスW2の周期は、約2.0ミリ秒であり得る。いくつかの実施形態では、ベース電圧の振幅は、約120ミリボルトであり得て、揺動パルスの高さは、約80ミリボルトであり得る。いくつかの例では、印加電圧は、40%のデューティサイクルのため、1.5秒~2秒の正の部分D1と、2または3秒の負の部分D2とを有し得る。この場合、印加電圧の周期Tは約5秒であり、2秒のD1および3秒のD2を有し得る。これらのパラメータは、個別の用途により調整され得る。
【0126】
[0147]いくつかの実施形態では、図15の方法を用いて、配列決定セルは、DNA塩基を、100ミリ秒毎にナノポアを通り移動させるように構成され得る。この配置では、20の塩基が、2秒毎に配列決定され得る。いくつかの実施形態では、DNAの150の塩基または200の塩基が、1分間に配列決定され得て、このことが多くの有用な用途を可能にさせ得る。
[0148]図15では、揺動パルス1502は、一定の振幅を有するように示される。しかしながら、揺動電圧パルスは、異なる形状を有し得る。図15の挿入図1530に示すように、揺動電圧パルス1503は、一定の振幅を有し、揺動パルス1504は、傾斜した形状を有する。いくつかの例では、揺動パルスの形状は、印加電圧信号のベース部分の形状を反映し得る。他の実施例では、揺動パルスの形状は、独立的に構成され得る。
【0127】
B.ナノポア配列決定セルにおける揺動パルス用電気回路
[0149]図16は、図2のナノポアセル200および図6のナノポアセル600などのナノポアセル内の電気回路1600(図2の電気回路222の部分を含み得る)の一実施形態を示す。いくつかの実施形態では、電気回路1600は、図4の電気回路400と同様であり、同様の構成要素の詳細な説明を、ここでは繰り返さない。例えば、電気回路1600は、ナノポアセンサチップ内の複数ナノポアセルまたは全てのナノポアセル間で共有され、それゆえ、共通電極とも称され得る対電極1610を含む。共通電極は、電圧源VLIQ1620または電圧源VLIQB1621に接続することによって、共通の電位を、ナノポアセル内の脂質二重層(例えば、脂質二重層614)と接触するバルク電解質(例えば、図6のバルク電解質608)に印加するように構成され得る。いくつかの実施形態では、AC非ファラデー性モードが、電圧VLIQをAC信号(例えば、方形波)で変調するために利用され、それをナノポアセル内で脂質二重層に接触するバルク電解質に印加し得る。電圧源VLIQ1620およびVLIQB1621は、スイッチ1641および1642と共に、図15に関連して上述したように、ベース電圧上に重畳される揺動パルスを印加するために、使用され得る。
【0128】
[0150]図16は、作用電極1602および脂質二重層の電気特性を表す電気モデル1622をさらに示す。電気モデル1622は、脂質二重層に関連付けられたキャパシタンスをモデル化するコンデンサ1626(C二重層)と、ナノポア内の個々のタグの存在に基づいて変化し得る、ナノポアに関連付けられた可変抵抗をモデル化する抵抗器1628(Rポア)とを含む。電気モデル1622は、2重層キャパシタンス(C2重層)を有し、作用電極およびウェルの電気特性を表すコンデンサ1624をさらに含む。作用電極は、他のナノポアセル内の作用電極から独立した別個の電位を印加するように構成され得る。
【0129】
[0151]オペアンプ1607およびトランジスタ1606は、電圧調整器を形成する。オペアンプ1607は、2つの入力VAおよびVBを有する。電圧調整器は、ナノポアセル内のナノポア全体に印加されることになる電圧刺激を供給するために、作用電極電圧をVAに維持する。回路のそのような任意選択の構成要素は、定電圧を維持するのに要する電流の変化を測定するとき、使用され得る。
【0130】
[0152]回路1600は、オンチップ積分コンデンサ1608(ncap)をさらに含み得る。積分コンデンサ1608は、リセット信号1603を用いてスイッチ1601を閉じ、その結果、積分コンデンサ1608が電圧源VPRE_A1605またはVPRE_B1615に接続されることによって、予備充電される。いくつかの実施形態では、電圧源は、固定の参照電圧を提供する。スイッチ1601が閉じられているとき、積分コンデンサ1608は、電圧源VPRE_A1605またはVPRE_B1615の参照電圧レベルまで予備充電され得る。
【0131】
[0153]デジタルプロセッサ1630は、例えば、正規化、データバッファリング、データフィルタリング、データ圧縮、データ削減、イベント注出、またはナノポアセルアレイからのADC出力データを多様なデータフレームへのアセンブリングなどのために、ADC出力データを処理し得る。いくつかの実施形態では、デジタルプロセッサ1630は、塩基判定などのさらに下流の処理を実行し得る。デジタルプロセッサ1630は、ハードウェア(例えば、GPU、FPGA、ASICなどの内部の)またはハードウェアとソフトウェアとの組合せとして実装され得る。
【0132】
C.揺動パルスを用いる利点
[0154]図17は、本発明のいくつかの実施形態による、揺動パルスを伴う印加電圧の効果を示し得る、ナノポアセルから取得されたデータポイントの例を示す。図17は、ナノポアセルからの出力データポイントを、印加電圧の6つのサイクル1701~1706を用いて示す。第1から第3のサイクル1701、1702、および1703の各々では、ベース電圧およびベース電圧に重畳された複数の揺動パルスを各々有する、パルスDC波形が印加された。第4から第6のサイクル1704、1705、および1706の各々では、平坦なDC波形が印加された。
【0133】
[0155]第1から第3のサイクル1701、1702、および1703での出力データポイントは、3つ以上のスピードバンプが、通過、または除去され、その結果、配列決定測定値が、核酸の3つの部分のために取得されたことを示す。他方で、第4から第6のサイクル1704、1705、および1706での出力データポイントは、配列決定されつつある核酸の同一の部分のみの、1サイクル全体を示す。
【0134】
VI.フィードバックを伴い動的に印加される電圧
[0156]いくつかの実施形態では、核酸分子を配列決定する方法は、動的に印加される電圧を含み得る。この方法では、印加電圧は、配列決定作業を継続するために、使用可能なナノポア電圧を維持する必要に応じて調整される。
【0135】
[0157]図18は、いくつかの実施形態による、核酸分子を配列決定する方法を示すフローチャートである。方法は、図1~6に関連して上述されたセルと組み合わせて使用され得る。ブロック1810では、方法1800は、非ファラデー性伝導用に構成された配列決定セルを提供するステップを含む。方法は、ウェル上に存在する膜内のナノポアを有する配列決定セルを提供するステップを含む。そのような配列決定セルの一例が、図6に関連して上に示した。配列決定セルは、ウェルの下部の第1の電極、膜上のチャンバ内の第2の電極、およびウェルおよびチャンバ内の電解質も含む。第1の電極は、イオン電流の非ファラデー性伝導を促進するように構成され、電解質内のイオンでキャパシタンスを形成する。
【0136】
[0158]ブロック1820では、方法は、電圧信号を配列決定セルに印加するステップを含む。第1の電圧信号は、第1の電極と第2の電極とを横断して印加され、それにより、核酸分子を、ナノポアを通して配列決定セル内に移動させる力を、生じさせる。上述のように、ナノポア全体にかかる電圧が使用可能な電圧値よりも低く降下する場合、配列決定セルは、ナノポアを通して核酸分子を移動させることを停止する。
【0137】
[0159]ブロック1830では、ナノポア全体にかかる電圧が使用可能な電圧値より低く降下するのを予防するために、方法は、ナノポア電圧信号の振幅を監視するステップを含む。ここで、ナノポア電圧は、例えば回路分析またはシミュレーション技術を用いて、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。
【0138】
[0160]ブロック1840では、方法は、ナノポア電圧が事前設定された参照電圧よりも低いか否かを判定するステップをさらに含む。参照電圧は、配列決定作業に使用可能なナノポア電圧を表す。上述のように、配列決定中、電気的な力が、ナノポアを通して核酸分子を引っ張るために、ナノポアに印加される。容量性の効果により、ナノポア電圧は、時間と共に減少し得て、配列決定作業に要する電圧より低く降下し得る。事前設定された参照電圧は、実験的に、または回路分析もしくはシミュレーション技術によって、決定され得る。ナノポア電圧は、参照電圧と比較され得て、判断がなされる。
【0139】
[0161]ブロック1850では、ナノポア電圧の振幅が、事前設定された参照電圧より低く降下する場合、印加電圧は、ナノポア電圧が事前設定された参照電圧よりも高くなるように増大される。
【0140】
[0162]ブロック1860では、ナノポア電圧が、参照電圧よりも低くない場合、方法は、配列決定を実行するために、前に進む。配列決定は、第1の電圧信号の間に測定された第1の信号値のセットを決定するステップによって実行され得て、第1の信号値のセットは、核酸分子内の1つまたは複数のヌクレオチドに対応する。
【0141】
[0163]方法は、動的に調整された印加電圧を用いて、核酸分子の配列決定の実行を継続し得る。ナノポア電圧は、ナノポアを通して核酸分子を移動させるのに要する電圧を表す、参照電圧Vrefより高く維持され得る。
【0142】
[0164]代替の実施形態では、方法1800は、ブロック1820で、電圧信号を印加する代わりに、電流信号を配列決定セルに印加することによって、実行され得る。印加される電流信号は、ブロック1840で判定されたナノポアの電流または電圧に基づいて、調整され得る。
【0143】
[0165]図19は、いくつかの実施形態による、フィードバック制御を用いた、非ファラデー性ナノポアセル内の、印加電圧およびナノポア電圧を示す。使用可能なナノポア電圧を維持するために、ナノポア電圧の振幅は、配列決定作業に使用可能なナノポア電圧を表す事前設定された参照電圧と比較して、監視される。ナノポア電圧の振幅が、事前設定された参照電圧より低く降下する場合、印加電圧は、ナノポア電圧が事前設定された参照電圧よりも高くなるように増大される。
【0144】
[0166]この例では、印加電圧信号1910は、周期Tを有する周期的信号である。各期間では、電圧信号1910は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1911および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1912を有する。持続時間D1では、印加電圧信号1910の振幅は、ナノポア電圧内の変化に応じて増大する。各周期Tでは、ナノポア電圧信号1920は、持続時間D1を有する第1の(正の)部分1921および持続時間D2を有する第2の(負の)部分1922を有する。ナノポア電圧1920は、核酸分子を、ナノポアを通して移動させる、ナノポア全体にかかる有効電圧を表す。いくつかの事例では、ナノポア電圧1920は、ナノポアを通る電流から導出され得る。別法として、ナノポア電圧1920は、実験の配置で、探針を用いて直接測定され得る。
【0145】
[0167]持続時間D2では、印加電圧信号1910は、反対の極性を有し、印加電圧信号1912の振幅は、図19で、一定に示されているが、必要ならば時間と共に増大され得る。図19の例では、第1の部分1911の持続時間D1は、周期Tのおよそ3分の1(33%)であり、約33%のデューティサイクルをもたらす。他の例では、デューティサイクルは、40%、または他の適切な値であり得る。
【0146】
[0168]図19では、時間t1で、振幅V1を有する印加電圧が、配列決定セルに印加され、Vrefよりも大きく配列決定に使用可能なナノポア電圧である、ナノポア電圧Vpをもたらす。非ファラデー性セルの容量性の特質により、ナノポア電圧は、時間と共に降下する。時間t2では、ナノポア電圧は、Vrefまで降下する。この時間に、システムは、印加電圧をV2まで増大させ、ナノポア電圧をVpに戻す。配列決定作業は、ナノポア電圧が再びVrefまで降下するとき、t3まで継続される。この状態により、システムが印加電圧をV3まで増大させる。フィードバック制御サイクルは、ナノポア電圧をVrefに、またはそれより高く維持するために、持続時間D1中継続される。したがって、期間D1中、ナノポアは、配列決定のために、ナノポアを通して核酸分子を継続的に移動し得る。
【0147】
[0169]持続時間D2では、ナノポア電圧信号1922は、反対の極性を有し、ナノポア電圧信号の振幅は、印加電圧が一定の場合、時間と共に減少する。図面を単純化するために、持続時間D2での印加電圧1912およびナノポア電圧信号1922の両方が、一定として示されている。いくつかの実施形態では、フィードバック方法は、持続時間D2でも印加され得る。
【0148】
[0170]いくつかの例では、印加電圧の正の部分1911の持続時間D1は、0.5~2.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1911の持続時間D1は、2.0~5.0秒であり得る。さらに他の例では、印加電圧の正の部分1911の持続時間D1は、5.0~20.0秒であり得る。他の例では、印加電圧の正の部分1911の持続時間D1は、20.0秒より長い、例えば30秒、50秒、またはさらに長い時間であり得る。
【0149】
VII.コンピュータシステム
[0171]本明細書で説明したコンピュータシステムの任意のものは、任意の適切な数のサブシステムを利用し得る。そのようなサブシステムの例は、図20のコンピュータシステム10内で示した。いくつかの実施形態では、コンピュータシステムは、単一のコンピュータ装置を含み、ここでサブシステムは、コンピュータ装置の構成要素であり得る。他の実施形態では、コンピュータシステムは、各々がサブシステムであり、内部に構成要素を有する、複数のコンピュータ装置を含み得る。コンピュータシステムは、デスクトップおよびラップトップコンピュータ、タブレット、携帯電話、ならびに他の携帯機器を含み得る。
【0150】
[0172]図20で示したサブシステムは、システムバス75を介して相互接続されている。プリンタ74、キーボード78、記憶デバイス79、ディスプレイアダプタ82に結合されているモニタ76、およびその他などの付加的なサブシステムを示す。I/O制御装置71に結合された外付けおよび入出力(I/O)デバイスは、入出力(I/O)ポート77(例えば、USB、Fire Wire(登録商標))などの当技術分野で知られている任意の数の手段によって、コンピュータシステムに接続され得る。例えば、I/Oポート77または外部インタフェース81(例えば、イーサネット(登録商標)、Wi-Fi、など)は、コンピュータシステム10をインターネットなどの広域ネットワーク、マウス入力装置、またはスキャナに接続するために用いられ得る。システムバス75を介した相互接続により、サブシステム間での情報交換を可能にするだけでなく、セントラルプロセッサ73が、各サブシステムと通信すること、システムメモリ72または記憶デバイス79(例えば、ハードドライブまたは光ディスクなどの固定ディスク)からの複数の命令実行を制御することを可能にする。システムメモリ72および/または記憶デバイス79は、コンピュータ可読媒体を含み得る。別のサブシステムは、カメラ、マイクロフォン、加速度計、その他などのデータ収集デバイス85である。本明細書で説明したデータの任意のものは、ある構成要素から別の構成要素へ出力され得て、ユーザに出力され得る。
【0151】
[0173]コンピュータシステムは、例えば、外部インタフェース81によって、内部インタフェースによって、またはある構成要素から別の構成要素へ接続および取り外しされ得る取り外し可能な記憶デバイスを介して、共に接続される、複数の同一の構成要素またはサブシステムを含み得る。いくつかの実施形態では、コンピュータシステム、サブシステム、または装置は、ネットワークを通して通信し得る。そのような事例では、あるコンピュータは、クライアント、別のコンピュータは、サーバと考えることができ、ここで各々は、同一のコンピュータシステムの一部であり得る。クライアントおよびサーバは、各々複数のシステム、サブシステム、または構成要素を含み得る。
【0152】
[0174]実施形態の態様は、ハードウェア回路(例えば、特定用途向け集積回路またはフィールドプログラマブルゲートアレイ)を用いて、および/またはモジュラーまたは統合された様式の一般にプログラム可能なプロセッサを伴う、コンピュータソフトウェアを用いて、制御ロジックの形態で実施され得る。本明細書で使用されるとき、プロセッサは、専用のハードウェアだけでなく、同一の集積チップ上のシングルコアプロセッサ、マルチコアプロセッサ、または単一の回路基板上のマルチプロセシングユニット、あるいはネットワーク接続されたプロセッサを含み得る。本開示および本明細書で提供された教示に基づいて、ハードウェアならびにハードウェアおよびソフトウェアの組合せを用いて、本発明の実施形態を実施するための他の方法および/または方法が、当業者には、知られ、かつ理解されよう。
【0153】
[0175]本出願で説明されるソフトウェアの構成要素または機能の任意のものは、例えばJava(登録商標)、C、C++、C#、Objective-C、Swiftなどの任意の好適なコンピュータ言語、または例えば、従来のまたはオブジェクト指向の技術を用いたPerlもしくはPythonなどのスクリプト言語を用いてプロセッサによって実行されるソフトウェアコードとして実装され得る。ソフトウェアコードは、一連の命令または指令として、保存および/または伝送用の、コンピュータ可読媒体上に格納され得る。好適な非一時的コンピュータ可読媒体は、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、ハードドライブ、フロッピーディスクなどの磁気媒体、コンパクトディスク(CD)もしくはDVD(デジタル多用途ディスク)などの光学的媒体、またはフラッシュメモリ、などを含み得る。コンピュータ可読媒体は、そのような記憶または伝送デバイスの任意の組合せであり得る。
【0154】
[0176]そのようなプログラムは、さらにエンコードされ、インターネットを含む、多様なプロトコルに従う有線、光学、および/または無線ネットワークを介した伝送に適応された、搬送波信号を用いて伝送され得る。そのように、コンピュータ可読媒体は、そのようなプログラムを用いてエンコードされたデータ信号を使用して作成され得る。プログラムコードを用いてエンコードされたコンピュータ可読媒体は、互換性のあるデバイスを用いて包装され得て、または別個に他のデバイスから供給され得る(例えば、インターネットでのダウンロード)。任意のそのようなコンピュータ可読媒体は、個々のコンピュータ製品(例えば、ハードドライブ、CD、または完全なコンピュータシステム)上にまたは内部に備えられ得て、また、システムまたはネットワーク内部の異なるコンピュータ製品上にまたは内部に存在し得る。コンピュータシステムは、本明細書で説明した成果の任意のものをユーザに提供するための、モニタ、プリンタ、または他の好適なディスプレイを含み得る。
【0155】
[0177]本明細書で説明した方法の任意のものは、ステップを実行するように構成され得る1つまたは複数のプロセッサを含むコンピュータシステムを用いて、全体的にまたは部分的に実行され得る。したがって、各ステップまたはステップの各グループを実行する異なる構成要素を潜在的に有する、本明細書で説明した方法の任意のもののステップを、実行するように構成されたコンピュータシステムに、実施形態は、向けられ得る。番号を付されたステップが提示されたが、本明細書の方法のステップは、同時に、もしくは異なる時間で、または異なる順序で実行され得る。さらに、これらのステップの部分は、他の方法からの他のステップの部分と共に用いられ得る。また、ステップの全てまたは部分は、任意選択的であり得る。さらに、任意の方法の任意のステップは、モジュール、ユニット、回路、またはこれらのステップを実行するためのシステムの他の手段を用いて、実行され得る。
【0156】
[0178]個々の実施形態の個別の詳細が、本発明の実施形態の技術概念および範囲から逸脱することのなく、任意の好適な方法で組み合わされ得る。しかし、本発明の他の実施形態は、各々の個別の態様に関する特定の実施形態に、またはこれらの個別の態様の特定の組合せに、向けられ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20