(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】地球大気圏内の電子密度分布を決定する方法
(51)【国際特許分類】
G01S 19/07 20100101AFI20220419BHJP
G01C 21/26 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
G01S19/07
G01C21/26 A
(21)【出願番号】P 2019565613
(86)(22)【出願日】2018-01-04
(86)【国際出願番号】 EP2018050163
(87)【国際公開番号】W WO2018153553
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2019-08-21
(31)【優先権主張番号】102017204580.9
(32)【優先日】2017-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102017202844.0
(32)【優先日】2017-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マークス ランガー
(72)【発明者】
【氏名】マルコ リンベアガー
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0309550(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0050024(US,A1)
【文献】特開2011-137698(JP,A)
【文献】特開2004-271317(JP,A)
【文献】米国特許第05828336(US,A)
【文献】ANTONIO,Angrisano et al.,Benefit of the NeQuick Galileo version in GNSS single-point positioning,International Journal of Navigation and Observation,Hindawi Publishing Corporation,2013年11月,pages 1-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 5/00 - 5/14
G01S 19/00 - 19/55
G01C 21/00 - 21/36
G01C 23/00 - 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号受信機によるポジション決定のために、衛星から送信される信号の伝播時間測定を補正するために使用される、地球大気圏内の電子分布の四次元電離圏モデルを決定する方法であって、少なくとも以下のステップ、即ち、
a)電子の分布を地球大気圏の高度に関して記述するための、少なくとも1つの関数パラメータに基づく少なくとも1つの分布関数を規定するステップと、
b)複数の可動型2周波信号受信機による複数の伝播時間測定に由来するデータを受信して、衛星から1つの2周波信号受信機までの1つの信号伝播経路に沿った電子の総量を表すパラメータを求めるステップと、
c)少なくとも前記パラメータを用いて、前記分布関数に対し場所と時間とに依存する関数パラメータを求めるステップと、
d)ステップc)において求められた前記関数パラメータを、四次元電離圏モデルとして供給するステップと、
を有し、
前記ステップb)において用いられる前記可動型2周波信号受信機は、車両内に又は車両に配置されて
おり、
前記ステップb)において、複数の静止型2周波信号受信機による複数の伝播時間測定に由来するパラメータを付加的に受信し、前記静止型2周波信号受信機は、定置された測定局内に配置されている、
地球大気圏内の電子分布の四次元電離圏モデルを決定する方法。
【請求項2】
前記ステップa)において、分布関数として少なくともチャップマン関数又はエプスタイン関数を用いる、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ステップc)において、前記可動型2周波信号受信機の現在ポジションをそれぞれ考慮する、
請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ステップc)において、前記分布関数の場所と時間とに依存する関数パラメータを、1つの方程式の解として求め、当該解をステップb)において求められた前記パラメータを用いて作成する、
請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
ステップe)において、前記四次元電離圏モデルを用いて補正データを求め、当該補正データを、ポジションデータ補正のために複数の1周波信号受信機へ供給する、
請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ステップe)において、前記四次元電離圏モデルを用いて完全性パラメータを求め、当該完全性パラメータを複数の2周波信号受信機及び/又は1周波信号受信機へ、完全性の尺度として供給する、
請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
コンピュータに請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の方法のすべてのステップを
実行させるためのコンピュータプログラム。
【請求項8】
請求項
7に記載のコンピュータプログラムが記憶されている機械可読記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球大気圏内の電子密度分布を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電離圏とは、おおよそ50kmから1000kmの高度にわたって拡がり、上方でプラズマ圏に移行する(上層の)地球大気圏の領域のことを表す。電離圏は、例えば、イオンや自由電子などのような帯電した粒子の濃度が高められている点で特徴的であり、そのように高められた濃度は、電離プロセスにより太陽の入射に依存して発生する。電離の周波数及び強度に応じて、電磁信号は電離圏で屈折する。これによって、例えば、米国のシステムであるGPS又は欧州のガリレオなどのような全地球測位衛星システム(GNSS)の観測において信号遅延が発生し、これはポジショニング及びナビゲーションの用途における主要な誤差要因として挙げられる。高価な測地用2周波信号受信機を使用すれば、電離圏の1次の影響を取り除く目的で信号の結合を適用することができる。はるかに安価な1周波信号受信機は、信号を補正して1mよりも小さい精度を達成するために、大気圏モデルをどうしても用いなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
例えば、ポジショニング及びナビゲーションの用途において電離圏の影響を補正するために通例、積分された電子密度いわゆる全電子数(英語:Total Electron Content、略してTEC)を補正パラメータとして使用する。このTECを、地理的長さと地理的幅と時間とに依存して、1周波信号受信機の大気圏モデルに格納することができる。2周波GNSS観測からTECを抽出することができるという理由により、場所と時間とに依存するTECデータを供給するために、高価な測地用2周波信号受信機による参照測定が実施される。しかしながら、対応する参照局の個数が少ないこと、及び、それらの参照局間の距離が長いことから、そのようにして決定されたTECデータの分解能は著しく低い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
発明の開示
ここでは、請求項1に従って、地球大気圏内の電子密度分布を決定する方法を提案する。電子密度分布は、この方法によれば四次元電離圏モデルの形態で供給される。電子密度分布は、信号受信機によるポジション決定のために、衛星から送信される信号の伝播時間測定を補正するために使用される。
【0005】
四次元電離圏モデルは特に、電子密度を四次元(3つの空間的次元及び1つの時間的次元)の決定が可能である点で優れている。
【0006】
電離圏内の(局所的な)電子密度は、電離圏内の(局所的な)イオン密度と密接した関係にある。場合によっては、両方の値は同一であり又は比例している。従って、電離圏を記述するために、関係に従い電子密度又はイオン密度が用いられる。
【0007】
ステップa)において、例えば、いわゆるチャップマン関数又はいわゆるエプスタイン関数を分布関数として用いることができる。分布関数を、例えば、大気圏モデル又は電離圏モデルなどのようなモデルによって規定することができ、そのようなモデルにおいてこの方法が用いられ、及び/又は、そのようなモデルと関連してこの方法が用いられる。これらの関数によれば、高度に応じた電子密度分布の推定がそれぞれもたらされる。この分布を推定するために、これらの関数は少なくとも1つの関数パラメータを必要とする。チャップマン関数は、例えば、指数関数の関数成分を含み、鉛直方向の電子密度分布を記述するためにこの関数を用いることができる。チャップマン関数は、例えば、少なくとも3つの関数パラメータを有しており、即ち、高度に沿った最大電子密度と、この最大電子密度が発生した高度と、対応するスケールハイトとを有している。これらの関数パラメータが測地的長さと測地的幅と時間とに依存して存在しているならば、特定の高度における電子密度を決定するためにチャップマン関数を用いることができる。従って、四次元の電子密度モデルが形成されている。関数パラメータの時間的空間的変化の推定により、3つの空間方向すべてにおけるイオン密度分布又は電子密度分布を時間に依存して記述するために、チャップマン関数を用いることができる。チャップマン関数又はエプスタイン関数の適用は、TECベースの古典的な方法とは異なり、大気圏内のイオン分布又は電子分布のモデルを定義するにあたり、特に以下の利点を有する。即ち、空間的なイオン密度分布又は電子密度分布に対し、特に鉛直方向の大気圏構造又は電離圏構造における擾乱の作用に対し、トモグラフィックな視点で見ることができる。しかし、古典的な方法の場合には、TEC即ち積分された電子密度は、地理的長さと地理的幅と時間とについて、高度と関係させずに決定される。しかも、四次元電離圏モデルにおいては、電子密度を規定すべき各測地的ポジション及び各時点のために、プロファイル関数によって僅かな個数のパラメータ(例えば、チャップマン関数のために3つ)しか必要とされない。ステップb)及びc)において求められるパラメータを、特にTEC(英語:Total Electron Content略してTEC)とすることができ、又は、TECを直接的に推定可能なパラメータとすることができる。(第1及び第2の)パラメータを求めるために2周波信号受信機が、2つの周波数におけるナビゲーション衛星からのいわゆるコード位相測定及び搬送波位相測定を記録することができる。例えば、GPSシステムの場合には、周波数L1(1575.42MHz)及びL2(1227.60MHz)である。信号の差分形成(例えば、L1-L2)により、両方の周波数に等しく作用を及ぼす誤差項を取り除くことができる。これを幾何学的に自由な線形結合と称する。ただし、電離圏が信号伝播に及ぼす影響は分散的であり、即ち、この影響は両方の周波数についてそれぞれ異なる。既知の数学的な方法によって、この特性からTECを計算することができる。TECは信号経路に沿って積分された電子密度であるので、これには電子密度分布に関する情報が含まれている。
【0008】
ステップb)において用いられる2周波信号受信機を、静止型(GNSS受信局)又は可動型(車両におけるGNSS受信機)とすることができる。このため多数の第1のパラメータが、種々の局所的なポジションのところで求められる。
【0009】
さらに、ステップb)において用いられる車両(自動車)内及び/又は車両(自動車)における2周波信号受信機と、静止型参照局との組み合わせが好ましい。2周波信号受信機が車両(自動車)内及び/又は車両(自動車)に配置されていれば、付加的に車両データ及び/又は車両ベースのGNSSデータを、パラメータを求めるために利用することができる。車両ベースの2周波信号受信機を用いることによってもたらされる特別な利点とは、関数パラメータを決定するために十分な時間的及び空間的なカバーを達成することができ、かつ、種々の場所に2周波信号受信機をポジショニングするという付加的な措置が不要なことである。自動車内における配置によって、2周波信号受信機の場所の規則的な変更が行われる。このようにすれば、静止型2周波信号受信機だけでは達成することができないであろう最適なカバーが達成される。
【0010】
好ましくは、ステップb)において、付加的に、複数の静止型2周波信号受信機の測定局に由来するパラメータが用いられる。換言すれば、このことは、特に、測地的座標系内のそれぞれ既知の固定されたポジションに配置された測定局内に又は測定局に静止型2周波信号受信機が設置される、ということを意味する。相応の測定局は、参照局とも呼ばれる。
【0011】
好ましくは、ステップb)において、鉛直方向に対し傾斜した信号伝播経路の配向がそれぞれ評価される。換言すれば、ステップb)及びステップc)において、信号伝播経路に沿った伝播時間測定に加えて、信号伝播経路の配向若しくは空間的姿勢及び/又は拡がりも求められる。信号伝播経路の配向が既知であれば、傾斜した又は傾けられた信号伝播経路に沿って求められたイオンの総量(いわゆる傾斜TEC、英語:slant Total Electron Content略してsTEC)を、鉛直方向に沿ったイオン又は電子の総量(いわゆる鉛直TEC、英語:vertical Total Electron Content略してvTEC)に換算することができる。相応の換算方法又は変換方法は公知である。鉛直TECは、通例、単にTECと呼ばれる。
【0012】
衛星が受信機の真上に配置されているならば、その場合には、この受信機により受信されるこの衛星の信号は、受信機の真上の大気圏の高度に沿ったイオン分布又は電子分布を正確に通過している。この場合においては、(第1又は第2の)パラメータは、受信機のポジションにおける又は受信機のポジション上方の電子密度分布をそのまま表すことになる。
【0013】
ただし、実際には、個々の受信機の真上に位置する衛星によって(第1又は第2の)パラメータを決定することができることは、極めて稀にしか起こらない。多くの場合、信号を受信する際の送信元として利用可能な衛星は、個々の受信機の上方に傾斜して位置しており、従って、それらの衛星から受信機までの信号伝播経路は、垂直方向に対し傾斜して(即ち、垂直方向に対し所定の角度で)配向されている。この場合には信号は個々の信号伝播経路に沿って、種々の測地的ポジションにおいて電離圏のそれぞれ異なる高度領域を通過する。このように傾斜した信号伝播経路に沿ったイオン又は電子の総量を表す多数のパラメータから、1つの方程式を立てることができる。この方程式によって、種々の測地的ポジションにおいて高度に関連づけられたイオン分布に対する推定が可能となり、この方程式から、イオン分布乃至電子分布のモデル(又は、イオン分布乃至電子分布のモデルの分布関数の関数パラメータ)を決定することができる。
【0014】
分布関数としてチャップマン関数が規定されるならば、ステップd)において求められる場所と時間とに依存する関数パラメータは、少なくとも以下のパラメータ、即ち、
・高度に沿った最大電子密度、
・この最大電子密度が発生した高度、及び、
・対応するスケールハイト
を含むことができる。
【0015】
関数パラメータは好ましくは、いわゆるモデル係数を用いて数学的な空間的時間的基底関数の級数展開において展開される。ただし、関数パラメータを、第1のパラメータと第2のパラメータとを用いて、(直接)推定することもできる。相応の推定方式は、特にチャップマン関数又はエプスタイン関数の適用について公知である。好ましくは関数パラメータは、数学的な基底関数により、例えば、球面調和関数を介してパラメータ化され、従って、それらを全域的にカバーする表現が可能となる。
【0016】
ステップc)で求められた大気圏モデル又は電離圏モデル、特に四次元電子密度モデルにおける関数パラメータを、ステップd)において供給することができる。このモデルを、ポジションデータの補正に用いられる車両の評価ユニット内に格納しておくことができる。好ましくは、このモデルはデータセンタの評価ユニット又は計算ユニット内に格納されており、そこにおいてモデル形成が中央で行われる。次いで、このモデルを、ネットワークを介して(例えば、移動無線ネットワークを介して)、1周波信号受信機のために供給することができる。
【0017】
ステップd)による分布関数に対する場所と時間とに依存する関数パラメータの算出を受信側で行う場合には、ステップd)において計算された関数パラメータを、例えば、ケーブルコネクション(静止型受信機)、無線コネクション及び/又は衛星コネクションを介して、データセンタに伝達することができる。
【0018】
好ましくは、ステップc)による分布関数に対する場所と時間とに依存する関数パラメータの計算は、データセンタにおいて行われる。従って、ステップb)において求められた(第1及び第2の)パラメータを、例えば、ケーブルコネクション(静止型受信機)、無線コネクション及び/又は衛星コネクションを介して、データセンタに伝達することができる。
【0019】
四次元電子密度モデルによってもたらされる特別な利点とは、これによって特に信頼性及び完全性に関して、安全上重大なGNSS用途に対して明確な付加価値が得られることである。四次元電子密度モデルの場合、(測地的な)長さ、幅、高さ及び時間に依存して電子密度がモデリングされる。電離圏の気候学、即ち、太陽の11年周期による電離圏活動の変動、年間の及び季節的な変動、及び/又は、1日のうちのある時刻の変動などのような周期的作用のほか、四次元電子密度モデルにおいて有利には、ハイダイナミックな不規則的な現象、例えば、(中規模及び大規模の)伝搬性電離圏擾乱(TID、MSTID、LSTID)、突発性電離圏擾乱(SID)、スプレッドF層、スポラディックE層、電離圏嵐、及び/又は、プロファイル構造におけるシンチレーションなどを表現することができる。1つの伝播経路に対するTECにおいて、かかる現象を単に勾配として捕捉することができる。ステップc)における多数のデータをまとめることによって、かかる現象を捕捉することができる。さらに四次元モデルによれば、電離圏の種々の高度領域(D層、E層、F層)への擾乱源の対応づけが可能となる。
【0020】
1つの有利な実施形態によれば、さらなるステップe)において、少なくとも1つの分布関数の積分により、場所と時間とに依存する全電子数を計算することが提案される。この場合、信号伝播経路に沿って、又は、鉛直線に沿って、積分を行うことができる。好ましくは、大気圏層又は電離圏層の最初の高度と最後の高度との間で、積分が行われる。積分法として、例えば、レイトレーシング法及び/又はガウス-ルシャンドル法を用いることができる。ステップe)を、受信側において又はデータセンタ内で実施することができる。
【0021】
さらに別の有利な実施形態によれば、イオン分布又は電子分布の特に四次元モデルを用いて若しくは特にこの四次元モデルから、補正データ特にTECデータを求めることが提案され、このデータを多数の特に可動の又は移動させられる1周波信号受信機に供給することができる。補正データをデータセンタにおいて求めることができ、例えば、無線コネクション及び/又は衛星コネクションを介して、多数の1周波信号受信機に伝達することができる。特に、補正データを場所に依存して供給することができる。1周波信号受信機各々に、完全な四次元電離圏モデルを供給する必要はない。むしろ、特定のポジション及び特定の時点に対して、補正データを供給すれば十分である。場合によっては、補正データをポジション決定という状況で個々の測定のために、衛星によって直接供給することもでき、この衛星によってポジション決定という状況で個々の測定が実施される。1周波信号受信機を、例えば、(2周波信号受信機が設けられていない)車両(自動車)、船舶、ブイ、農業用の機器若しくは機械、携帯型GNSS受信機、携帯電話又は他の電子製品に、又は、それらの中に配置することができる。特に好ましくは、可動型1周波信号受信機は、(自律動作可能な)車両内に又はその車両に配置されている。特に、イオン分布又は電子分布の四次元モデルに基づき求められた補正データによって、1周波信号受信機内に格納された電離圏モデルを補正又は更新することができる。
【0022】
さらに、例えば、データセンタ内などにおけるモデル分析によって、起こり得る電離圏擾乱に対する推定が可能となり、これを例えば、品質インジケータの形態で完全性の尺度として、ユーザに伝送することができる。この付加的な完全性情報により、特に安全上重大な用途において意義のある付加価値がもたらされる。
【0023】
さらに別の態様によれば、四次元電離圏モデルを決定するために可動の又は移動させられる2周波信号受信機を用いることが提案される。場合によっては付加的に、静止型の定置された2周波信号受信機も、四次元電離圏モデルの決定に用いることができる。電離圏モデルを、地球大気圏内又は電離圏内の好ましくは四次元のイオン密度分布及び/又は電子密度分布を記述する電子密度モデルとすることができる。好ましくは、特に可動の又は移動させられる1周波信号受信機内に格納された電離圏モデルを補正又は更新する目的で、四次元電離圏モデルが用いられる。特に好ましくは可動型1周波信号受信機は、(自律動作可能な)車両内に又はその車両に配置されている。
【0024】
1つの有利な実施形態によれば、可動型2周波信号受信機は、車両内に又は車両に配置される。
【0025】
車両内に又は車両に2周波信号受信機を配置することにより特に得られる利点とは、車両内の又は車両における2周波信号受信機は車両の通常の動作中、道路上に存在する、ということである。供給される電離圏モデルのために、特に、車両内に組み込まれる1周波信号受信機の精度を高めることができる。車両は、基本的に多くは又は通例は、道路上で動作させられる。可動型2周波信号受信機を車両内又は車両において用いることによって達成されるのは、電離圏モデルがあとでポジショニング決定のためにも使用されるまさにその場所で求められたデータを用いて、電離圏モデルの関数パラメータが得られる、ということである。まさにその場所において、ここで説明する方法によって作成された電離圏モデルは特に高い精度を達成する。
【0026】
しかも2周波信号受信機を車両内に又は車両に配置することは、車両が場合によってはこの種の2周波信号受信機のための特に低コストのプラットフォームを成すという理由で、有利なものとなる可能性がある。場合によっては、ここではプラットフォームとしての車両は、特別に2周波信号受信機の配置のためにレンタル又はリースされた置き場所よりも、やはりコストがかからない。
【0027】
方法に関連して言及した詳細な点、特徴及び有利な実施形態は、相応にここで提示した方法においても生じる可能性があるし、また、その逆もあり得る。この限りにおいては、特徴を詳しく表すためのそれらの個所の言及をそのまま参照されたい。
【0028】
ここでは、既述の方法を実施する装置及び対応するコンピュータプログラム並びにこのコンピュータプログラムが記憶されている機械可読記憶媒体についても述べるつもりである。既述の方法を実施する装置は通常、コンピュータセンタ又は同等の構造内に実装されている。ここにおいて伝播時間測定に由来する局所的な電子密度データが、既述の方法に従い受信され処理される。
【0029】
以下においては、ここで提示した解決手段及びそれを取り巻く技術的環境について、図面を参照しながら詳しく説明する。なお、ここで述べておくと、本発明は、図示の実施例によって限定されるべきものではない。特に、明示的に別のことが示されていない限り、図面で説明する事項の部分的な態様を抜き出して、別の図面及び/又は本明細書に由来する別の構成部分及び/又は認識と組み合わせることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】電離圏の電子密度プロファイルを概略的に示す図である。
【
図2】ここで提示した方法が適用される電離圏モデルの例示的なモデル構造を概略的に示す図である。
【
図3】衛星から受信機への信号の例示的な信号伝播経路を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1には、電離圏の電子密度プロファイル1が概略的に示されている。横軸には、電子密度3が立方センチメートルあたりの電子として書き込まれており、縦軸には高度2がキロメートルとして書き込まれている。この場合、電子密度と高度とに依存して、D層13、E層14、F1層15及びF2層16という層が区別される。ここに示されているように、F2層16における電子密度が最も高く、従って、F2層16が電離圏を通る信号伝播に最も大きな影響を及ぼす。
【0032】
図2には、ここで提示した方法が適用される電離圏モデル4の例示的なモデル構造が概略的に示されている。これによれば、この方法は、例えば、電離圏内の電子密度分布を決定するために使用され、その際、高度に依存して決定された電子密度が、さらに(場所に依存する)TECを決定するために用いられる。これに加えて、
図2には、GNSS観測に基づき電子密度分布及びTECを決定するための、電離圏モデル4の個々の計算ステップ間の関係も示されている。
【0033】
入力量として、GNSS観測に由来する観測量が電離圏モデル4に供給される。ここで提示した方法の意図するところによれば、観測量には、定置された複数の2周波信号受信機により求められる第1のパラメータ5だけでなく、この目的で車両内に又は車両に配置可能な複数の可動型2周波信号受信機により求められる第2のパラメータ6も含まれる。しかも、第1のパラメータ5及び第2のパラメータ6に基づく観測モデリングをさらに改善する目的で、さらなるGNSS観測7を使用することもできる。この方法の格別な利点は、定置された2周波信号受信機も可動型2周波信号受信機も使用されるため、モデルパラメータに関して高い感度を有する非常に密集したGNSS観測網が電離圏モデル4の基礎を成す、ということである。
【0034】
例えば、この場合、観測量を用いた観測モデリング8という枠組みにおいて、求められた第1のパラメータ5及び第2のパラメータ6をいずれにせよ用いて、モデル係数9が推定される。電離圏の影響を補正するために、これらのモデルパラメータをGNSSユーザに供給することができる。
【0035】
電離圏モデル4の分布関数を記述するための、場所と時間とに依存する関数パラメータ10を、モデル係数9に基づき推定することができる。分布関数として、電離圏モデル4は、ここでは例えばチャップマン関数を使用する。従って、場所と時間とに依存する関数パラメータ10は、少なくとも、高度に沿った最大電子密度と、この最大電子密度が発生した高度と、対応するスケールハイトとを含む。これら3つの関数パラメータ10は、測地的長さ、測地的幅に依存して、さらには時間に依存して、推定される。電離圏の影響を補正するために、これらの関数パラメータをGNSSユーザに供給することができる。
【0036】
次いでこれらの関数パラメータ10に基づき、分布関数ここではチャップマン関数が評価される。従って、これらの関数パラメータ10からチャップマン関数を用いて、電子の四次元分布11を推定することができる。
【0037】
次いで高度に沿った積分によって、電子の四次元分布11に基づき、全電子数(TEC)12を計算することができ、これを測地的長さと測地的幅と時間とに依存して表すことができる。電離圏の影響を補正するために、これらのTECをGNSSユーザに供給することができる。
【0038】
よって、利用可能な帯域幅及び伝送技術に応じて、このモデルに基づきユーザへの以下のような補正伝送、即ち、
・モデル係数9の伝送、及び/又は、
・関数パラメータ10の伝送、及び/又は、
・TEC12の伝送
を考えることができる。
【0039】
提示した解決手段によれば、特に以下の利点を得ることができる。即ち、
・2周波信号受信機を備えた定置された各参照局間のデータ欠落を、可動型2周波信号受信機を用いた密集したカバーによって、低減することができる。
・例えば、4D大気圏モデル又は4D電離圏モデルなどのようなモデルに対する、受信機を用いて求められたパラメータの感度を、定置された参照局に加えて設けられ動作中(ほぼ)常に自身のポジションを変化させる2周波信号受信機によって、改善することができる。
【0040】
図3には、古典的ないわゆる単層TECモデルの問題点が示されている。この図には、衛星18から送信され地球20上の受信機19により受信される信号の信号伝播経路17が示されている。ここで前提とするのは、傾斜したTECからポジション22に向かう鉛直方向のTECへの換算を実施できるよう、すべての電子が無限小の細い高度線21(いわゆる単層)内に集中している、ということである。ここでわかるのは、信号伝播経路がこの高度線21と、受信機19のポジションとは隔たった特定の測地的ポジション22のところで交差している、ということである。高度依存性は単層のアプローチでは考慮されないままであり、従って、鉛直方向の電子密度分布に対する推定は不可能である。