(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-18
(45)【発行日】2022-04-26
(54)【発明の名称】抗A型インフルエンザ抗体の中和及びその使用
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220419BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220419BHJP
C07K 16/10 20060101ALI20220419BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220419BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220419BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220419BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220419BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220419BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220419BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20220419BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20220419BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C07K16/10
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 S
A61P31/16
G01N33/569 L
(21)【出願番号】P 2020114601
(22)【出願日】2020-07-02
(62)【分割の表示】P 2019103432の分割
【原出願日】2014-10-01
【審査請求日】2020-07-30
(32)【優先日】2014-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504333972
【氏名又は名称】メディミューン,エルエルシー
(73)【特許権者】
【識別番号】516097907
【氏名又は名称】ヒューマブス バイオメド エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベンジャミン,エボニー
(72)【発明者】
【氏名】カレウアード-レライ,ニコル
(72)【発明者】
【氏名】マコーリフ,ジョセフィン,メアリー
(72)【発明者】
【氏名】パーマー-ヒル,フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ウェヒター,レスリー
(72)【発明者】
【氏名】ユアン,アンディ
(72)【発明者】
【氏名】ジュー,チン
(72)【発明者】
【氏名】コルティ,ダヴィデ
(72)【発明者】
【氏名】ランザヴェッキア,アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】グアリーノ,バーバラ
(72)【発明者】
【氏名】デマルコ,アンナ
【審査官】伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-530422(JP,A)
【文献】国際公開第2013/011347(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/054007(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/117577(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、単離抗体又はその
抗原結合断片であって、前記抗体又はその
抗原結合断片は配列番号113のHCDR1、配列番号114のHCDR2、配列番号115のHCDR3、配列番号118のLCDR1、配列番号119のLCDR2、及び配列番号120のLCDR3を含み、かつ前記抗体は
非グリコシル化型である、前記単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項2】
Fc領域において存在するグリコシル化部位の除去をもたらす1つ以上のアミノ酸置換を含む、請求項
1に記載の単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項3】
アスパラギン297の除去をもたらす置換を含む、請求項
1に記載の単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項4】
A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、単離抗体又はその
抗原結合断片であって、前記抗体又はその
抗原結合断片は配列番号113のHCDR1、配列番号114のHCDR2、配列番号115のHCDR3、配列番号118のLCDR1、配列番号119のLCDR2、及び配列番号120のLCDR3を含み、前記抗体又はその
抗原結合断片は治療剤、検出可能標識、又は固体支持体にコンジュゲート又は共有結合されている、前記単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項5】
前記抗体又はその
抗原結合断片がアミノ酸、ペプチド、タンパク質、多糖、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、ハプテン、薬物、ホルモン、脂質、脂質集合体、合成高分子、高分子マイクロパーティクル、生体細胞、ウイルス、フルオロフォア、発色団、色素、毒素、ハプテン、酵素、抗体、抗体断片、放射性同位元素、固体マトリックス、半固体マトリックス、又はそれらの組み合わせにコンジュゲートされている、請求項
4に記載の単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項6】
配列番号112のVH及び配列番号117のVLを含む、請求項1~
5のいずれか1項に記載の単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項7】
A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、単離抗体又はその
抗原結合断片であって、配列番号113のHCDR1、配列番号114のHCDR2、配列番号115のHCDR3、配列番号118のLCDR1、配列番号119のLCDR2、及び配列番号120のLCDR3を含み、かつ配列番号112のVHに対して少なくとも
95%の同一性を有するVH、及び配列番号117のVLに対して少なくとも
95%の同一性を有するVLを含む、前記単離抗体又はその
抗原結合断片。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗体又はその
抗原結合断片をコードする単離核酸。
【請求項9】
請求項
8に記載の単離核酸を含むベクター。
【請求項10】
請求項
8に記載の核酸又は請求項
9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗体又はその
抗原結合断片を作製するための方法であって、請求項
10に記載の宿主細胞を、前記抗体又はその
抗原結合断片の発現に適した条件下で培養するステップを含む、方法。
【請求項12】
請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗体又はその
抗原結合断片及び薬学的に許容できる担体を含む組成物。
【請求項13】
被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療のための、請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗体又はその
抗原結合断片を含む組成物。
【請求項14】
被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療のための薬物の製造における、請求項1~
7のいずれか1項に記載の抗体又はその
抗原結合断片の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、A型インフルエンザウイルスに対して広範な中和活性を有する抗体及びかかる抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルス(influenza virus)は、毎年のインフルエンザ流行病や偶発的な世界的大流行を引き起こし、世界規模で公衆衛生に多大な脅威をもたらしている。季節性インフルエンザ感染は、毎年、特に幼児、易感染性患者及び高齢者における200,000~500,000人の死亡に関連している。死亡率は、典型的には、パンデミックインフルエンザの大流行に伴い、季節を通じてさらに増加する。特に十分なサービスを受けていない集団においてインフルエンザ感染を予防し、治療するための強力な抗ウイルス薬を開発するという多くの満たされていない医学的需要が残っている。
【0003】
インフルエンザウイルス(influenza virus)には3つの型、すなわちA型、B型及びC型が存在する。A型インフルエンザウイルスは、ヒト、ブタ、ニワトリ及びフェレットを含む、多種多様な鳥類及び哺乳類に感染し得る。A型インフルエンザウイルスは、表面糖タンパク質のヘマグルチニン(HA)及びノイラミニダーゼ(NA)をコードする2つの遺伝子の抗原領域内の対立遺伝子バリエーションに基づいてサブタイプに分類され得る。HAは、受容体結合性の膜融合糖タンパク質であり、ウイルスの標的細胞への付着及び侵入を媒介し、またHAは、保護的液性免疫応答の主要な標的である。HAタンパク質は、構造が三量体をなし、単一のポリペプチド前駆体HA0の3つの同一コピーから構成され、タンパク質分解成熟時、球状頭部(HA1)及びストーク領域(HA2)を有するpH依存性の準安定な中間体に切断される。膜遠位「球状頭部」は、HA1構造の大部分を構成し、ウイルス侵入におけるシアル酸結合ポケット及び主要な抗原ドメインを有する。HA2及び一部のHA1残基から構築される膜近位「ストーク」構造は、融合機構を有し、後期エンドソームの低pH環境下で立体構造変化を受け、膜融合及び細胞への侵入を誘発する。A型インフルエンザサブタイプ間での配列相同性の程度は、HA1内(サブタイプ間の相同性が34%~59%)ではHA2領域内(相同性が51%~80%)と比べてより小さい。インフルエンザウイルス感染によって誘発される中和抗体は通常、ウイルス受容体結合を阻止するように可変HA1の球状頭部に標的化され、また通常、株に特異的である。まれに、HAの球状頭部を標的にする広範な交差反応性モノクローナル抗体が同定されている(Krause J.C.et al.2011 J.Virol.85;Whittle J.et al.,2011 PNAS 108;Ekiert DC et al.,2012 Nature 489;Lee PS et al.,2012 PNAS109)。それに対し、ストーク領域の構造は、比較的保存されており、ウイルス侵入におけるpH誘発性融合ステップを阻止するようにHAストークに結合する、一握りの広域中和抗体が近年同定されている(Ekiert D.C.et al.,2009 Science 324;Sui J.et al.,Nat Struct Mol Biol 16;Wrammert J et al.,2011 J Exp Med 208;Ekiert D.C et al.,2011 Science 333;Corti D et al.,2010 J Clin Invest 120;Throsby M 2008 PLoS One 3)。これらのストーク反応性の中和抗体の大部分は、A型インフルエンザグループ1ウイルスに特異的であるか又はグループ2ウイルスに特異的であるかのいずれかである。直近では、グループ1及び2ウイルスの双方に対して交差反応性を示す、ストークに結合する抗体が単離された(Corti D.et al.,2011 Science 333;Li GM et al.,2012 PNAS 109及びCyrille D et al.,2012 Science 337;Nakamura G et al.,2013,Cell Host & Microbe 14)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Krause J.C.et al.2011 J.Virol.85
【文献】Whittle J.et al.,2011 PNAS 108
【文献】Ekiert DC et al.,2012 Nature 489
【文献】Lee PS et al.,2012 PNAS109
【文献】Ekiert D.C.et al.,2009 Science 324
【文献】Sui J.et al.,Nat Struct Mol Biol 16
【文献】Wrammert J et al.,2011 J Exp Med 208
【文献】Ekiert D.C et al.,2011 Science 333
【文献】Corti D et al.,2010 J Clin Invest 120
【文献】Throsby M 2008 PLoS One 3
【文献】Corti D.et al.,2011 Science 333
【文献】Li GM et al.,2012 PNAS 109
【文献】Cyrille D et al.,2012 Science 337
【文献】Nakamura G et al.,2013,Cell Host & Microbe 14
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在まで、すべてのA型インフルエンザウイルス感染を広範に中和又は阻害するか或いはA型インフルエンザウイルスによって引き起こされる疾患を減弱させる、市場化された抗体は皆無である。したがって、A型インフルエンザウイルスの複数のグループ1及びグループ2サブタイプに対して保護する新規抗体に対する需要が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、A型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその結合断片を提供する。
【0007】
好ましくは、本発明の抗体又は結合断片は、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつ少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9又は10のA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ及び少なくとも1、2、3、4、5、又は6つのA型インフルエンザウイルスのグループ2サブタイプを中和する能力がある。さらに好ましくは、本発明の抗体又は結合断片は、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつ少なくとも5つのA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つ又は2つのA型インフルエンザウイルスのグループ2サブタイプを中和する能力がある。
【0008】
A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンサブタイプは、サブタイプH1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びH17を含むグループ1、並びにサブタイプH3、H4、H7、H10、H14、及びH15を含むグループ2として同定された2つの主要な系統発生学的分類に分かれる。一実施形態では、本発明に記載の抗体又は結合断片は、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びH17及びそれらの変異体から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ、並びにH3、H4、H7、H10、H14及びH15及びそれらの変異体から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスのグループ2サブタイプに対して結合し、及び/又は中和する能力がある。別の実施形態では、本発明に記載の抗体又は結合断片は、A型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプH1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びH17、並びにA型インフルエンザウイルスのグループ2サブタイプH3、H4、H7、H10、H14及びH15に対して結合し、及び/又は中和する能力がある。別の実施形態では、抗体又は結合断片は、グループ1サブタイプH1、H2、H5、H6、及びH9、並びにグループ2サブタイプH3及びH7に対して結合し、及び/又は中和する能力がある。さらなる実施形態では、抗体又は結合断片は、グループ1サブタイプH1、H2、H5及びH6、並びにグループ2サブタイプH3及びH7に対して結合し、及び/又は中和する能力がある。
【0009】
本発明は、天然に存在するヒトモノクローナル抗体(mAb)の、出発物質として個別のドナーから採取されたIgGメモリーB細胞からの単離に基づく。本明細書に記載されるように、最適化を用いて、改善された特性を有する抗体変異体が作成された。最適化された抗体変異体は、天然に存在せず、それらは組換え技術を用いて作成される。本発明の抗体又はその断片は、HAのストーク領域に結合し、A型インフルエンザウイルスのグループ1及びグループ2のサブタイプから各々選択される2つ以上のサブタイプの感染を中和する。本発明の抗体は、抗A型インフルエンザHAストーク結合抗体であり、A型インフルエンザウイルスに対して、公表された文献に由来する抗体(国際公開第2013/011347A1号パンフレットに記載の抗体FI6v4)及び実施例5の表6に示される抗体と比べて、わずかに広範囲の又はより優れた中和活性を示した。加えて、本発明の抗体は、実施例6の
図1に示されるように、HA成熟を遮断する場合に、他の1つ若しくは複数のmAbよりも有効であり得る。
【0010】
一部の実施形態では、抗体又はその結合断片は、6つのCDRのセットを含み、ここで6つのCDRのセットは、
(a)配列番号3のHCDR1、配列番号4のHCDR2、配列番号5のHCDR3、配列番号8のLCDR1、配列番号9のLCDR2及び配列番号10のLCDR3;
(b)配列番号13のHCDR1、配列番号14のHCDR2、配列番号15のHCDR3、配列番号18のLCDR1、配列番号19のLCDR2、配列番号20のLCDR3;
(c)配列番号23のHCDR1、配列番号24のHCDR2、配列番号25のHCDR3、配列番号28のLCDR1、配列番号29のLCDR2及び配列番号30のLCDR3;
(d)配列番号33のHCDR1、配列番号34のHCDR2、配列番号35のHCDR3、配列番号38のLCDR1、配列番号39のLCDR2及び配列番号40のLCDR3;
(e)配列番号43のHCDR1、配列番号44のHCDR2、配列番号45のHCDR3、配列番号48のLCDR1、配列番号49のLCDR2及び配列番号50のLCDR3;
(f)配列番号53のHCDR1、配列番号54のHCDR2、配列番号55のHCDR3、配列番号58のLCDR1、配列番号59のLCDR2及び配列番号60のLCDR3;
(g)配列番号63のHCDR1、配列番号64のHCDR2、配列番号65のHCDR3、配列番号68のLCDR1、配列番号69のLCDR2及び配列番号70のLCDR3;
(h)配列番号73のHCDR1、配列番号74のHCDR2、配列番号75のHCDR3、配列番号78のLCDR1、配列番号79のLCDR2及び配列番号80のLCDR3;
(i)配列番号83のHCDR1、配列番号84のHCDR2、配列番号85のHCDR3、配列番号88のLCDR1、配列番号89のLCDR2、配列番号90のLCDR3;
(j)配列番号93のHCDR1、配列番号94のHCDR2、配列番号95のHCDR3、配列番号98のLCDR1、配列番号99のLCDR2及び配列番号100のLCDR3;
(k)配列番号103のHCDR1、配列番号104のHCDR2、配列番号105のHCDR3、配列番号108のLCDR1、配列番号109のLCDR2及び配列番号110のLCDR3;
(l)配列番号113のHCDR1、配列番号114のHCDR2、配列番号115のHCDR3、配列番号118のLCDR1、配列番号119のLCDR2及び配列番号110のLCDR3;
(m)配列番号123のHCDR1、配列番号124のHCDR2、配列番号125のHCDR3、配列番号128のLCDR1、配列番号129のLCDR2及び配列番号130のLCDR3;
(n)配列番号133のHCDR1、配列番号134のHCDR2、配列番号135のHCDR3、配列番号138のLCDR1、配列番号139のLCDR2及び配列番号140のLCDR3;及び
(o)配列番号143のHCDR1、配列番号144のHCDR2、配列番号145のHCDR3、配列番号148のLCDR1、配列番号149のLCDR2及び配列番号150のLCDR3;
(p)1つ以上のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を含む、(a)~(o)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット;
(q)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、若しくは24若しくは25のアミノ酸置換を含む、(a)~(p)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット;
(r)
(i)配列番号3に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は3つ以下のアミノ酸残基置換を含むHCDR1;
(ii)配列番号4に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は5つ以下のアミノ酸残基置換を含むHCDR2;
(iii)配列番号5に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は6つ以下のアミノ酸残基置換を含むHCDR3;
(iv)配列番号6に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は5つ以下のアミノ酸残基置換及び/若しくは1つの欠失を含むLCDR1;
(v)配列番号7に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は5つ以下のアミノ酸残基置換を含むLCDR2;及び
(vi)配列番号8に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は1つ以下のアミノ酸残基置換を含むLCDR3;
を含む、(a)~(q)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3
(s)
(i)
Kabat残基31がSであり、
Kabat残基32がN又はYであり、
Kabat残基33がN、S、又はRであり、
Kabat残基34がAであり、
Kabat残基35がV又はTであり、
Kabat残基35AがWであり、
Kabat残基35BがNである
HCDR1
(ii)
Kabat残基50がRであり、
Kabat残基51がTであり、
Kabat残基52がYであり、
Kabat残基52AがYであり、
Kabat残基53がRであり、
Kabat残基54がSであり、
Kabat残基55がK又はGであり、
Kabat残基56がWであり、
Kabat残基57がYであり、
Kabat残基58がN又はYであり、
Kabat残基59がDであり、
Kabat残基60がYであり、
Kabat残基61がAであり、
Kabat残基62がE、V又はdであり、
Kabat残基63がS又はFであり、
Kabat残基64がV又はLであり、
Kabat残基65がKである
HCDR2
(iii)
Kabat残基95がS又はGであり、
Kabat残基96がGであり、
Kabat残基97がHであり、
Kabat残基98がIであり、
Kabat残基99がTであり、
Kabat残基100がV又はEであり、
Kabat残基100AがFであり、
Kabat残基100BがGであり、
Kabat残基100CがV又はLであり、
Kabat残基100DがNであり、
Kabat残基100EがV又はIであり、
Kabat残基100FがDであり、
Kabat残基100GがAであり、
Kabat残基100FがF又はYであり、
Kabat残基101がDであり、
Kabat残基102がM、I又はVである
HCDR3
(iv)
Kabat残基24がRであり、
Kabat残基25がT、A又は存在せず、
Kabat残基26がS又はAであり、
Kabat残基27がQであり、
Kabat残基28がS又はRであり、
Kabat残基29がLであり、
Kabat残基30がS、N又はRであり、
Kabat残基31がSであり、
Kabat残基32がYであり、
Kabat残基33がL、T又はDであり、
Kabat残基34がHである
LCDR1
(v)
Kabat残基50がAであり、
Kabat残基51がA、T又はSであり、
Kabat残基52がS又はTであり、
Kabat残基53がS又はTであり、
Kabat残基54がL又はRであり、
Kabat残基55がQ、L又はGであり、
Kabat残基56がSである
LCDR2;及び
(vi)
Kabat残基89がQであり、
Kabat残基90がQ又はLであり、
Kabat残基91がSであり、
Kabat残基92がRであり、かつ
Kabat残基93がTである
LCDR3
を含む、(a)~(r)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3
からなる群から選択される。
【0011】
本発明は、6つのCDRのセット:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3を含む抗体及びその結合断片を提供し、ここで6つのCDRのセットは、表11及び表13に示される。
【0012】
本発明の変異抗体配列は、本願中に挙げられる配列と75%以上(例えば、80%、85%、90%、95%、97%、98%、99%以上)のアミノ酸配列同一性を共有し得る。一部の実施形態では、配列同一性は、参照配列(すなわち本願中に挙げられる配列)の完全長に対して計算される。一部のさらなる実施形態では、百分率同一性は、本明細書で言及されるとき、NCBI(国立生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information);http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)によって特定されたデフォルトパラメーター[Blosum 62マトリックス;ギャップオープンペナルティ=I1及びギャップ延長ペナルティ=1]を用いるBLASTバージョン2.1.3を用いて決定されたものである。
【0013】
変異抗体もまた、本発明の範囲内に含まれる。従って、本願中で挙げられる配列の変異体もまた、本発明の範囲内に含まれる。改善された親和性及び/又は能力を有する抗体配列の変異体は、当該技術分野で公知の方法を用いて得ることができ、本発明の範囲内に含まれる。例えば、アミノ酸置換を用いて、さらに改善された親和性を有する抗体を得ることができる。或いは、ヌクレオチド配列のコドン最適化を用いて、抗体を産生するための発現系における翻訳の効率を改善することができる。さらに、本発明の核酸配列のいずれかに対する定向進化法の適用による、抗体特異性又は中和活性について最適化された配列を含むポリヌクレオチドもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0014】
本発明は、
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号72のVH及び配列番号77のVL、
(i)配列番号82のVH及び配列番号87のVL、
(j)配列番号92のVH及び配列番号97のVL、
(k)配列番号102のVH及び配列番号107のVL、
(l)配列番号112のVH及び配列番号117のVL、
(m)配列番号122のVH及び配列番号127のVL、
(n)配列番号132のVH及び配列番号137のVL、
(o)配列番号144のVH及び配列番号147のVL、並びに
(p)配列番号152のVH及び配列番号157のVL
からなる群から選択されるVH及び/又はVLに対して、少なくとも75%の同一性を有するVH及び/又は少なくとも75%の同一性を有するVLを含む、本発明に記載の抗体又はその結合断片を提供する。
【0015】
本発明に記載の抗体又はその結合断片は、
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号72のVH及び配列番号77のVL、
(i)配列番号82のVH及び配列番号87のVL、
(j)配列番号92のVH及び配列番号97のVL、
(k)配列番号102のVH及び配列番号107のVL、
(l)配列番号112のVH及び配列番号117のVL、
(m)配列番号122のVH及び配列番号127のVL、
(n)配列番号132のVH及び配列番号137のVL、
(o)配列番号144のVH及び配列番号147のVL、並びに
(p)配列番号152のVH及び配列番号157のVL
からなる群から選択されるVH及びVLを含んでもよい。
【0016】
本発明に記載の抗体又はその結合断片は、免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、単一ドメイン抗体、ダイアボディ、多重特異性抗体、二重特異性抗体(dual-specific antibody)、及び二重特異性抗体(bispecific antibody)からなる群から選択してもよい。
【0017】
本発明に記載の抗体又はその結合断片は、ヒト生殖系列フレームワークを含むVH、好ましくはVH6-1、及び/又はヒト生殖系列フレームワークを含むVL、好ましくはVK1-39を含んでもよい。好ましくは、本発明に記載の抗体又はその結合断片は、ヒト生殖系列フレームワークVH6-1を含むVH及びヒト生殖系列フレームワークVK1-39を含むVLを含む。VH6フレームワークは、抗体において使用されることはまれである。
【0018】
本発明に記載の抗体又はその結合断片は、Fc領域を含んでもよく、好ましくは、抗体は、IgG1、IgG2若しくはIgG4又はその結合断片である。
【0019】
一実施形態では、本発明の抗体は、野生型ヒトIgG定常ドメインに対して1つ以上のアミノ酸置換を有するヒトIgG定常ドメインを含む。本発明の抗体は、M252Y、S254T、及びT256E(「YTE」)アミノ酸置換を有するヒトIgG定常ドメインを含んでもよく、ここでのアミノ酸残基は、Kabatと同様のEUインデックスに従って付番される。
【0020】
本発明はまた、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、A型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、A型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその結合断片であって、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合において上記の本発明の抗体と競合することを特徴とする、抗体又はその結合断片を提供する。従って、本発明は、本発明の抗体と同じエピトープに結合する抗体又はその断片、又は結合において本発明の抗体と競合する抗体を含む。
【0021】
本発明はまた、本発明に記載の抗体又はその断片をコードする単離核酸を提供する。好ましくは、核酸はcDNAである。本発明はまた、本発明の抗体の軽鎖及び重鎖並びにCDRの一部又は全部をコードする核酸配列を含む。従って、本明細書で提供されるのは、本発明の例示的な抗体の軽鎖及び重鎖並びにCDRの一部又は全部をコードする核酸配列である。本発明の例示的な抗体のCDR、重鎖及び軽鎖可変領域をコードする核酸配列に対する配列番号が提供される。遺伝コードの冗長性により、同一のアミノ酸配列をコードするこれらの配列の変異体が存在することになる。
【0022】
本発明は、本発明に記載の単離核酸を含むベクターをさらに提供するが、好ましくは、ベクターは、発現ベクターである。
【0023】
加えて、本発明は、本発明に記載の単離核酸又はベクターを含む宿主細胞を提供する。好適な宿主細胞は、哺乳類細胞株、例えばHEK又はCHO細胞由来のものを含む。
【0024】
さらに、本発明は、本発明の抗体又は断片を作製するための方法であって、本発明の宿主細胞を、抗体又はその断片の発現に適した条件下で培養するステップを含む、方法を提供する。
【0025】
かかる方法は、さらに、抗体又はその断片を宿主細胞培養物から単離するステップと、場合により、単離抗体又は断片を組成物に配合するステップと、を含んでもよい。
【0026】
本発明は、本発明に記載の抗体又はその断片及び薬学的に許容できる担体を含む組成物をさらに提供する。
【0027】
また、本発明によって提供されるのは、本発明に記載の抗体又はその断片、約5.5~約6.5の範囲内のpH、好ましくは約6.0のpHでのヒスチジン及びNaClを含み;さらにより好ましくは、本発明に記載の抗体又はその断片、約5.5~約6.5の範囲内のpH、好ましくは約6.0のpHでの約20~約30mMのヒスチジン及び約0.1~約0.2MのNaClを含み;最も好ましくは、約5.5~約6.5の範囲内のpH、例えば約6.0のpHでの25mMのHis及び0.15MのNaClを含む、組成物である。
【0028】
さらに、本発明は、
-被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療における使用のための本発明に記載の抗体又はその断片;
-被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療用の薬物の製造における本発明に記載の抗体又はその断片の使用;
-本発明に記載の抗体又はその断片の投与を含む、被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法;
-A型インフルエンザウイルスの細胞内への侵入におけるpH誘発性融合ステップを阻止するための本発明に記載の抗体又はその断片の使用;又は
-A型インフルエンザウイルスのHA成熟を阻害するための本発明に記載の抗体又はその断片の使用
を提供する。
【0029】
本発明の例示的抗体は、限定はされないが、抗体3、抗体5、抗体6、抗体8、抗体10、抗体11、抗体12、抗体13、抗体14、及び抗体15を含む。
【0030】
本発明はまた、被験体におけるA型インフルエンザ感染のインビトロ診断における、本発明に記載の抗体又はその結合断片の使用を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0031】
導入
本発明は、A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)ストークに結合し、かつ本明細書に記載されるA型インフルエンザウイルス感染のグループ1及びグループ2サブタイプを中和させる、ヒト型を含む抗体、並びに断片、誘導体/コンジュゲート及びそれらの組成物を提供し、ここで抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体は、本明細書中で本発明の抗体と称される。
【0032】
本明細書で使用されるとき、用語「中和」は、抗体又はその結合断片の、感染病原体、例えばA型インフルエンザウイルスに結合し、かつ感染病原体の生物学的活性、例えば病原性を低減する能力を指す。中和のための最低限の要件は、抗体又はその結合断片の、感染病原体に結合する能力である。一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザウイルスの少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に免疫特異的に結合する。より特定の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザウイルスHAストークタンパク質の少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に免疫特異的に結合する。
【0033】
抗体は、感染病原体、例えばA型インフルエンザウイルスの活性を、ウイルスの生活環の期間中の様々な時点で中和し得る。例えば、抗体は、ウイルスと1つ以上の細胞表面受容体との相互作用に干渉することにより、ウイルスの標的細胞への付着に干渉し得る。或いは、抗体は、例えば、受容体媒介性エンドサイトーシスによるウイルス内部移行に干渉することにより、ウイルスとその受容体との1つ以上の付着後の相互作用に干渉し得る。
【0034】
一実施形態では、抗体又はその結合断片は、融合過程に干渉することにより、例えばウイルスとエンドソーム膜との融合に干渉することにより、A型インフルエンザの活性を中和する。別の実施形態では、抗体又はその結合断片は、プロテアーゼ媒介性のHA0の切断に干渉し、ひいてはウイルス成熟及びHA2ウイルス融合ペプチドの形成に干渉する。例えば、一実施形態では、抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザウイルスの活性化に必要とされるプロテアーゼ媒介性HA0切断に干渉する。
【0035】
本明細書で使用されるとき、免疫グロブリンとしても知られる「抗体(antibody)」及び「抗体(antibodies)」は、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ヒト抗体、ヒト化抗体、ラクダ科動物抗体、キメラ抗体、単鎖Fvs(scFv)、単鎖抗体、単一ドメイン抗体、ドメイン抗体、Fab断片、F(ab’)2断片、所望される生物学的活性を呈する抗体断片(例えば、抗原結合部分)、ジスルフィド結合Fvs(dsFv)、及び抗イディオタイプ(抗Id)抗体(例えば、本発明の抗体に対する抗Id抗体を含む)、細胞内抗体、及び上記のいずれかのエピトープ-結合断片を包含する。特に、抗体は、免疫グロブリン分子及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な断片、すなわち少なくとも1つの抗原結合部位を含む分子、を含む。免疫グロブリン分子は、任意のアイソタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD、IgA及びIgY)、サブアイソタイプ(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はアロタイプ(例えば、Gm、例えば、G1m(f、z、a又はx)、G2m(n)、G3m(g、b、又はc)、Am、Em、及びKm(1、2又は3))であってもよい。
【0036】
ヒト抗体は通常、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、2つの同一の軽(L)鎖と2つの同一の重(H)鎖から構成される。各軽鎖は1つの共有結合性のジスルフィド結合により重鎖に連結される一方、異なる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖間でジスルフィド結合の数は異なる。各重鎖及び軽鎖はまた、規則的間隔の鎖内のジスルフィド架橋も有する。各重鎖は一端に可変ドメイン(VH)を有し、それにいくつかの定常ドメイン(CH)が続く。各軽鎖は一端に可変ドメイン(VL)を有し、その他端に定常ドメイン(CL)を有する;軽鎖の定常ドメインは重鎖の1番目の定常ドメインと整列し、軽鎖可変ドメインは重鎖の可変ドメインと整列する。軽鎖は、軽鎖定常領域のアミノ酸配列に基づきλ鎖又はκ鎖のいずれかに分類される。κ軽鎖の可変ドメインはまた、本明細書中でVKとして表され得る。
【0037】
本発明の抗体は、完全長抗体又はインタクトな抗体、抗原結合断片を含む抗体断片、天然配列抗体又はアミノ酸変異体、ヒト抗体、ヒト化抗体、翻訳後修飾抗体、キメラ又は融合抗体、イムノコンジュゲート、及びそれらの機能断片を含む。抗体は、Fc領域内を修飾することで、所望されるエフェクター機能又は血清半減期を供することができる。下記のセクション内でより詳細に考察されるように、適切なFc領域とともに、細胞表面上に結合されたネイキッド抗体は、例えば抗体依存細胞傷害性(ADCC)を介して、又は補体依存性細胞傷害性(CDC)における補体を動員することにより、又はA型インフルエンザウイルスHAストーク上の結合された抗体を認識する1つ以上のエフェクターリガンドを発現し、その後に抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)における細胞の食作用を引き起こす非特異的細胞毒性細胞を動員することにより、細胞毒性、又はいくつかの他の機構を誘発し得る。或いは、副作用又は治療合併症を最小化するようにエフェクター機能を排除又は低減することが望ましい場合、特定の他のFc領域を使用してもよい。本発明の抗体のFc領域は、修飾により、FcRnに対する結合親和性を増強し、ひいては血清半減期を増加させ得る。或いは、Fc領域は、PEG又はアルブミンにコンジュゲートすることで血清半減期が増加し得、又はいくつかの他のコンジュゲーションにより所望される効果がもたらされる。
【0038】
本抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体は、哺乳類におけるA型インフルエンザウイルス感染の1つ以上の症状を診断し、予防し、治療し、及び/又は軽減するのに有用である。
【0039】
本発明は、本発明の抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体及び担体を含む組成物を提供する。A型インフルエンザウイルス感染を予防又は治療することを意図して、組成物をかかる治療を必要とする患者に投与することができる。本発明はまた、本発明の抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体及び担体を含む製剤を提供する。一実施形態では、製剤は、薬学的に許容できる担体を含む治療製剤である。
【0040】
特定の実施形態では、本発明は、哺乳類におけるA型インフルエンザ感染を予防又は治療するのに有用な方法であって、治療有効量の抗体を哺乳類に投与するステップを含む、方法を提供する。抗体治療組成物は、医師の指示に従って、短期間に(急性的に)、慢性的に、又は間欠的に投与することができる。
【0041】
特定の実施形態では、本発明はまた、少なくとも抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体を含む製品(articles of manufacture)、例えば滅菌剤形及びキットを提供する。キットは、A型インフルエンザウイルスのインビトロでの検出及び定量のため、例えば、ELISA又はウエスタンブロットにおいて、抗体を含むように提供することができる。検出にとって有用なかかる抗体には、蛍光又は放射標識などの標識を提供してもよい。
【0042】
用語
本発明を詳細に記載する前に、この発明が具体的な組成物又は方法ステップに限定されるものでなく、したがって変わり得ることが理解されるべきである。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるとき、単数形「a」、「an」及び「the」は、文脈上明確に別段の指示がない限り、複数形の指示対象を含むことに留意しなければならない。
【0043】
特に定義されない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が関係する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press;The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press;及びOxford Dictionary Of Biochemistry And Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressが、この発明において使用される用語の多くの一般的な辞書を当業者に提供する。
【0044】
アミノ酸は、本明細書中で、IUPAC-IUB生化学命名委員会(IUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commission)により推奨される、その一般に公知の3文字記号又は1文字記号のいすれかによって指すことができる。同様に、ヌクレオチドは、その一般に認められた1文字コードによって指すことができる。
【0045】
抗体の可変ドメイン、相補性決定領域(CDR)及びフレームワーク領域(FR)におけるアミノ酸の付番は、別段の指示がない限り、Kabat et al.Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)に示されるKabat定義に従う。この付番システムを用いて、実際の線状のアミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はCDRの短縮、又はそれへの挿入に対応する、より少ないか又は追加的なアミノ酸を含んでもよい。例えば、重鎖可変ドメインは、H2の残基52の後への単一のアミノ酸の挿入(Kabatによると残基52a)及び重鎖FR残基82の後に挿入された残基(例えば、Kabatによると残基82a、82b、及び82cなど)を含んでもよい。残基のKabat付番は、所与の抗体については、抗体の配列と「標準的な」Kabat付番配列とが相同な領域での整列によって判定してもよい。フレームワーク残基の最大の整列は、Fv領域において使用されるべきである付番システムにおける「スペーサー」残基の挿入が必要である場合が多い。さらに、任意の所与のKabat部位番号での特定の個別の残基の同一性は、種間又は対立遺伝子の相違により、抗体鎖ごとに変化し得る。
【0046】
抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体
特定の実施形態では、抗体は、単離及び/又は精製された抗体及び/又はパイロジェンフリーの抗体である。用語「精製された」は、本明細書で使用されるとき、その天然環境の構成成分から同定され、分離され、及び/又は回収されている他の分子、例えばポリペプチド、核酸分子を指す。従って、一実施形態では、本発明の抗体は、その天然環境の1つ以上の構成成分から分離されている精製抗体である。用語「単離抗体」は、本明細書で使用されるとき、異なる抗原特異性を有する他の抗体分子から実質的に遊離された抗体を指す(例えば、A型インフルエンザウイルスHAストークに特異的に結合する単離抗体は、A型インフルエンザウイルスHAストークの抗原以外の抗原に特異的に結合する抗体から実質的に遊離している)。従って、一実施形態では、本発明の抗体は、異なる特異性を有する抗体から分離されている単離抗体である。典型的には、単離抗体は、モノクローナル抗体である。さらに、本発明の単離抗体は、1つ以上の他の細胞物質及び/又は化学物質から実質的に遊離していてもよく、本明細書中で、単離され、精製された抗体を指す。本発明の一実施形態では、「単離」モノクローナル抗体の組み合わせは、異なる特異性を有し、かつ十分に規定された組成物中で組み合わされている抗体に関する。抗体の産生方法及び精製/単離方法は、以下により詳細に記載される。
【0047】
本発明の単離抗体は、任意の好適なポリヌクレオチドによってコードされた本明細書に開示される抗体アミノ酸配列、又は任意の単離若しくは配合された抗体を含む。
【0048】
本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスのHAストークタンパク質に特異的な、少なくとも1つの特定のエピトープに免疫特異的に結合する。用語「エピトープ」は、本明細書で使用されるとき、抗体に結合する能力があるタンパク質決定基を指す。エピトープは通常、アミノ酸又は糖の側鎖など、分子の化学的活性表面群(groupings)を含み、また通常、特定の三次元構造特性、並びに特定の電荷特性を有する。立体構造エピトープと非立体構造(non-conformational)エピトープは、後者ではなく前者への結合が変性溶媒の存在下で失われるという点から区別される。
【0049】
一実施形態では、抗体又はその結合断片は、少なくともH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16若しくはH17又はすべてのA型インフルエンザHAサブタイプの中で保存されるエピトープに結合する。別の実施形態では、抗体又はその結合断片は、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13及びH16から選択される1つ以上、又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ、並びにH3、H4、H7、H10、H14及びH15から選択される1つ以上、又は少なくとも1、2、3、4、5、若しくは6つのグループ2サブタイプの中で保存されるエピトープに結合する。
【0050】
一実施形態では、抗体又はその結合断片は、少なくとも17のH1、H2、H3、H4、H5、H6、H7、H8、H9、H10、H11、H12、H13、H14、H15、H16若しくはH17又はすべてのA型インフルエンザサブタイプに、約0.01μg/ml~約5μg/ml、又は約0.01μg/ml~約0.5μg/ml、又は約0.01μg/ml~約0.1μg/ml、又は約5μg/ml、1μg/ml、0.5μg/ml、0.1μg/ml、若しくは0.05μg/ml未満のEC50で結合する。別の実施形態では、抗体又はその結合断片は、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13及びH16から選択される1つ以上、又は少なくとも1、2、3、4、5、6、7、8、9、若しくは10のA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ、並びにH3、H4、H7、H10、H14及びH15から選択される1つ以上、又は少なくとも1、2、3、4、5、又は6つのグループ2サブタイプに、約0.01μg/ml~約5μg/ml、又は約0.01μg/ml~約0.5μg/ml、又は約0.01μg/ml~約0.1μg/ml、又は約5μg/ml、1μg/ml、0.5μg/ml、0.1μg/ml、若しくは0.05μg/ml未満のEC50で結合する。
【0051】
一実施形態では、抗体又はその結合断片は、線状エピトープ又は連続エピトープのいすれかのエピトープを認識する。別の実施形態では、抗体又はその結合断片は、非線状又は立体構造エピトープを認識する。一実施形態では、エピトープは、HA2の高度に保存されたストーク領域内に位置する。より特定の実施形態では、抗体又は結合断片は、HA2の高度に保存されたストーク領域内の立体構造エピトープに結合する。一実施形態では、エピトープは、接触残基として、HA2のストーク領域内の位置18、19、42、45(位置は、Weiss et al.,J.Mol.Biol.(1990)212,737-761(1990)に記載のH3付番システムに従って付番される)から選択される1つ以上のアミノ酸を含む。より特定の実施形態では、エピトープは、接触残基として、HA2のストーク領域内の18、19、42及び45から選択される1つ以上のアミノ酸を含む。さらなる実施形態では、エピトープは、接触残基として、HA2のストーク領域内のアミノ酸18、19、42及び45を含む。さらなる実施形態では、エピトープは、接触残基として、HA2のストーク領域内のアミノ酸18、19、及び42を含む。
【0052】
本発明の抗体又はその結合断片によって認識される1つ若しくは複数のエピトープは、多数の用途を有し得る。例えば、精製又は合成形態のエピトープは、免疫応答を高める(すなわち、ワクチンとして、又は他の用途を意図して抗体を産生するため)か、又はエピトープと免疫反応する抗体について血清をスクリーニングするために、使用することができる。一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片によって認識されるエピトープ、又はかかるエピトープを有する抗原は、免疫応答を高めるためのワクチンとして使用してもよい。別の実施形態では、本発明の抗体及び結合断片を使用して、ワクチンの質を、例えばワクチン中の抗原が正しい立体構造中に正確な免疫原性エピトープを含むか否かを判定することにより、監視することができる。
【0053】
可変領域
本明細書で使用されるとき、用語「親抗体」は、本明細書で定義される、変異体又は誘導体の調製に使用されるアミノ酸配列によってコードされる抗体を指す。親ポリペプチドは、天然抗体配列(すなわち、天然に存在する対立遺伝子変異体を含む、天然に存在するもの)又は天然に存在する配列の既存のアミノ酸配列修飾(他の挿入、欠失及び/又は置換など)を有する抗体配列を含み得る。親抗体は、ヒト化抗体又はヒト抗体であってもよい。具体的な実施形態では、本発明の抗体は、親抗体の変異体である。本明細書で使用されるとき、用語「変異体」は、親抗体配列における1つ以上のアミノ酸残基の付加、欠失及び/又は置換の理由で、アミノ酸配列が「親」抗体アミノ酸配列と異なる抗体を指す。
【0054】
抗体の抗原結合部分は、抗原に特異的に結合する能力を保持する抗体の1つ以上の断片を含む。抗体の抗原結合機能が完全長抗体の断片によって実行され得ることは示されている。抗体の用語「抗原結合部分」の内部に包含される結合断片の例として、(i)Fab断片、つまりVL、VH、CL及びCH1ドメインからなる一価断片;(ii)F(ab’)2断片、つまりヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結された2つのFab断片を含む二価断片;(iii)VH及びCH1ドメインからなるFd断片;(iv)抗体の単一アームのVL及びVHドメインからなるFv断片、(v)VHドメインからなるdAb断片(Ward et al.,(1989)Nature 341:544-546);及び(vi)単離された相補性決定領域(CDR)が挙げられる。さらに、Fv断片の2つのドメインであるVL及びVHは、別々の遺伝子によってコードされるが、VL及びVH領域が対合し、一価分子(一本鎖Fv(scFv)として公知;例えば、Bird et al.(1988)Science 242:423-426;及びHuston et al.(1988)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879-5883を参照のこと)を形成するような単一のタンパク質鎖としての作製を可能にする合成リンカーにより、組換え方法を用いて連結され得る。かかる一本鎖抗体はまた、抗体の用語「抗原結合部分」の範囲内に包含されることが意図されている。これらの抗体断片は、当業者に公知の従来の技術を用いて得られ、また断片は、有用性について、インタクトな抗体の場合と同様な方法でスクリーニングされる。抗原結合部分は、組換えDNA技術により、又はインタクトな免疫グロブリンの酵素的又は化学的切断により、産生することができる。
【0055】
本発明の抗体は、本明細書に記載されるVH及びVLドメインを含む、少なくとも1つの抗原結合ドメインを含む。
【0056】
特定の実施形態では、精製抗体は、表1に開示されるVH及び/又はVL配列の少なくとも1つに対して所与のパーセント同一性を有するVH及び/又はVLを含む。本明細書で使用されるとき、用語「パーセント(%)配列同一性」(「相同性」も含む)は、最大のパーセント配列同一性を得るため、必要に応じて、配列を整列し、ギャップを導入した後の(ここでは配列同一性の一部としての任意の保存的置換を考慮しない)、参照配列、例えば親抗体配列におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドと同一である、候補配列におけるアミノ酸残基又はヌクレオチドの百分率と定義される。比較のための配列の最適な整列は、手作業に加えて、Smith and Waterman,1981,Ads App.Math.2,482の局所的相同性アルゴリズムによるか、Neddleman and Wunsch,1970,J.MoI.Biol.48,443の局所的相同性アルゴリズムによるか、Pearson and Lipman,1988,Proc.Natl Acad.Sci.USA85,2444の類似性探索方法によるか、又はこれらアルゴリズム(Wisconsin Genetics Software Package,Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,Wis.におけるGAP、BESTFIT、FASTA、BLAST P、BLAST N及びTFASTA)を用いるコンピュータープログラムによって、生成することができる。
【0057】
本発明の抗体は、本明細書に記載されるVHアミノ酸配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有するか又は100%の同一性を有するVHアミノ酸配列を含んでもよい。抗体は、本明細書に記載されるVHアミノ酸配列のアミノ酸配列に対して、少なくとも、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するか又は100%の同一性を有するVHアミノ酸配列を有してもよい。
【0058】
本発明の抗体は、本明細書に記載されるVLアミノ酸配列に対して、少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%の同一性を有するか又は100%の同一性を有するVLアミノ酸配列を含んでもよい。抗体は、本明細書に記載されるVLアミノ酸配列に対して、少なくとも、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有するか又は100%の同一性を有するVLアミノ酸配列を有してもよい。
【0059】
本発明の範囲内に含まれる抗体は、本明細書に記載されるように、A型インフルエンザウイルスの1つ以上のグループ1サブタイプ及び1つ以上のグループ2サブタイプを中和する能力がある。
【0060】
相補性決定領域(CDR)
可変ドメイン(VH及びVL)が抗原結合領域を含む一方で、その可変性は、抗体の可変ドメインをわたり均等に分布しているわけではない。可変性は、軽鎖(VL又はVK)及び重鎖(VH)可変ドメインの双方で相補性決定領域(CDR)と称される区間に集中している。可変ドメインのなかでより高度に保存されている部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。天然の重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、主としてβシート構成をとる、3つのCDRで接続された4つのFRを含み、CDRが形成するループがこのβシート構造を接続し、ある場合にはβシート構造の一部を形成する。各鎖のCDRは、FRによって近接して一体に保持され、他方の鎖のCDRと共に抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabat et al.,前掲を参照のこと)。重鎖の3つのCDRは、CDR-H1、CDR-H2、及びCDR-H3と命名され、軽鎖の3つのCDRは、CDR-L1、CDR-L2、及びCDR-L3と命名される。Kabat付番システムは、本明細書で使用される。このように、CDR-H1は、大体アミノ酸31(すなわち、1番目のシステイン残基の後から約9残基目)で始まり、約5~7のアミノ酸を含み、かつ次のチロシン残基で終結する。CDR-H2は、CDR-H1の末端の後から15番目の残基で始まり、約16~19のアミノ酸を含み、かつ次のアルギニン又はリジン残基で終結する。CDR-H3は、CDR-H2の末端の後から約33番目のアミノ酸残基で始まり、3~25のアミノ酸を含み、かつ配列W-G-X-G(式中、Xは任意のアミノ酸である)で終結する。CDR-L1は、大体残基24(すなわち、システイン残基の後)で始まり、約10~17の残基を含み、かつ次のチロシン残基で終結する。CDR-L2は、CDR-L1の末端の後から約16番目の残基で始まり、約7つの残基を含む。CDR-L3は、CDR-L2の末端の後から約33番目の残基で始まり;約7~11の残基を含み、かつ配列F-G-X-G(式中、Xは任意のアミノ酸である)で終結する。CDRが抗体と抗体の間でかなり異なる(また定義によると、Kabat共通配列との相同性を呈することはない)ことに留意のこと。
【0061】
本発明は、本明細書に記載されるアミノ酸配列と実質的に同じ配列内のアミノ酸を含む抗A型インフルエンザHAストーク抗体を中和することを包含する。本明細書に記載される配列と実質的に同じアミノ酸配列は、保存的アミノ酸置換、並びに例えば、抗体11、抗体12、抗体13、抗体14若しくは抗体15のアミノ酸配列、又は配列番号102、112、122、132、若しくは142で示されるアミノ酸配列におけるアミノ酸の欠失及び/又は挿入を含む配列を含む。保存的アミノ酸置換は、第1のアミノ酸の、第1のアミノ酸の場合と類似した化学的特性及び/又は物理的特性(例えば、電荷、構造、極性、疎水性/親水性)を有する第2のアミノ酸による置換を指す。保存的置換は、以下の基、すなわち、リジン(K)、アルギニン(R)及びヒスチジン(H);アスパラギン酸塩(D)及びグルタミン酸塩(E);アスパラギン(N)、グルタミン(Q)、セリン(S)、トレオニン(T)、チロシン(Y)、K、R、H、D及びE;アラニン(A)、バリン(V)、ロイシン(L)、イソロイシン(I)、プロリン(P)、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)、メチオニン(M)、システイン(C)及びグリシン(G);F、W及びY;C、S及びTの中での、1つのアミノ酸のもう1つのアミノ酸による置換を含む。
【0062】
フレームワーク領域
重鎖及び軽鎖の可変ドメインは各々、可変ドメインの最も高度に保存された部分である4つのフレームワーク領域(FR1、FR2、FR3、FR4)を含む。重鎖の4つのFRは、FR-H1、FR-H2、FR-H3及びFR-H4と命名され、軽鎖の4つのFRは、FR-L1、FR-L2、FR-L3及びFR-L4と命名される。Kabat付番システムは、本明細書中で使用され、表1、Kabat et al、前掲を参照のこと。このように、FR-H1は、位置1で始まり、大体アミノ酸30で終結し、FR-H2は、大体アミノ酸36~49であり、FR-H3は大体アミノ酸66~94であり、FR-H4は、大体アミノ酸103~113である。FR-L1は、アミノ酸1で始まり、大体アミノ酸23で終結し、FR-L2は、大体アミノ酸35~49であり、FR-L3は、大体アミノ酸57~88であり、FR-L4は、大体アミノ酸98~107である。特定の実施形態では、フレームワーク領域は、Kabat付番システムに従う置換、例えば、FR-L1における106Aでの挿入を含んでもよい。天然に存在する置換に加えて、FR残基の1つ以上の改変(例えば置換)はまた、本発明の抗体に、中和能を保持するという条件で導入してもよい。特定の実施形態では、これらは、抗体のA型インフルエンザウイルスHAストークに対する結合親和性において改善又は最適化をもたらす。修飾対象のフレームワーク領域の残基の例として、抗原に非共有結合的に直接結合するもの(Amit et al.,Science,233:747-753(1986));CDRの立体構造と相互作用又は作用するもの(Chothia et al.,J.Mol.Biol.,196:901-917(1987));及び/又はVL-VH界面に関与するもの(米国特許第5,225,539号明細書)が挙げられる。
【0063】
別の実施形態では、FRは、「ジャームライニング(germlining)」を意図して1つ以上のアミノ酸変化を含んでもよい。例えば、選択された抗体の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列は、生殖系列の重鎖及び軽鎖アミノ酸配列と比較され、選択されたVL及び/又はVH鎖の特定のフレームワーク残基が、(例えばファージライブラリを調製するのに用いられる免疫グロブリン遺伝子の体細胞突然変異の結果として)生殖系列の立体配置と異なる場合、生殖系列の立体配置に対して、選択された抗体の改変されたフレームワーク残基を「逆突然変異する」(すなわち、選択された抗体のフレームワークアミノ酸配列を、生殖系列のフレームワークアミノ酸配列と同じであるように改変する)ことが望ましい場合がある。フレームワーク残基のかかる「逆突然変異」(又は「ジャームライニング」)は、特異的突然変異の導入(例えば、部位特異的変異誘発;PCR媒介性の突然変異誘発など)のための標準的な分子生物学的方法によって達成することができる。
【0064】
本発明の抗体をコードするヌクレオチド配列
上記のアミノ酸配列に加えて、本発明はまた、アミノ酸配列に対応しかつ本発明のヒト抗体をコードするヌクレオチド配列を提供する。一実施形態では、本発明は、本明細書に記載される抗体又はその断片をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを提供する。これらは、限定はされないが、上で参照したアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む。従って、本発明はまた、本明細書に記載される抗体のCDR及びFRを含むVH及びVLフレームワーク領域をコードするポリヌクレオチド配列、並びに細胞(例えば、哺乳類細胞)でのその効率的発現のための発現ベクターを提供する。ポリヌクレオチドを使用して抗体を作製する方法は、以下により詳細に説明される。
【0065】
本発明はまた、例えば本明細書中で定義するとおりの、ストリンジェントな又はより低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の下で、本明細書に記載される本発明の抗体をコードするポリヌクレオチドとハイブリダイズするポリヌクレオチドも包含する。用語「ストリンジェンシー」は、本明細書で使用されるとき、プローブとフィルタに結合した核酸との間の相同性の程度を表す、ハイブリダイゼーション実験の実験条件(例えば、温度及び塩濃度)を指し、ストリンジェンシーが高まると、プローブとフィルタに結合した核酸との間のパーセント相同性が高まる。
【0066】
ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件としては、限定はされないが、6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)中約45℃でのフィルタに結合したDNAとのハイブリダイゼーションと、続く0.2×SSC/0.1%SDS中約50~65℃での1回以上の洗浄、高度にストリンジェントな条件、例えば6×SSC中約45℃でのフィルタに結合したDNAとのハイブリダイゼーションと、続く0.1×SSC/0.2%SDS中約65℃での1回以上の洗浄、又は当業者に公知の任意の他のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件(例えば、Ausubel,F.M.et al.,eds.1989 Current Protocols in Molecular Biology,vol.1,Green Publishing Associates,Inc.and John Wiley and Sons,Inc.,NYの6.3.1~6.3.6頁及び2.10.3頁を参照のこと)が挙げられる。
【0067】
実質的に同一な配列は、多形配列、すなわち、集団内の代替配列又は対立遺伝子であってもよい。対立遺伝子の差異は、1つの塩基対と同程度に小さくてもよい。実質的に同一な配列はまた、サイレント突然変異を含む配列を含む、変異誘発された配列を含んでもよい。突然変異は、1つ以上の残基の変化、1つ以上の残基の欠失、又は1つ以上のさらなる残基の挿入を含んでもよい。
【0068】
当該技術分野で公知の任意の方法により、ポリヌクレオチドを得て、ポリヌクレオチドのヌクレオチド配列を決定してもよい。例えば、抗体のヌクレオチド配列が公知である場合、抗体をコードするポリヌクレオチドは、化学的に合成されたオリゴヌクレオチドから構築してもよく(例えば、Kutmeier et al.,BioTechniques 17:242(1994)に記載のとおり)、それはつまり、抗体をコードする配列の一部分を含むオーバーラップオリゴヌクレオチドの合成、同オリゴヌクレオチドのアニーリング及び連結、及びそれに続くPCRによる連結されたオリゴヌクレオチドの増幅を含む。
【0069】
抗体をコードするポリヌクレオチドはまた、好適な供給源由来の核酸から作成してもよい。特定の抗体をコードする核酸を含むクローンが入手できないが、抗体分子の配列が公知である場合、免疫グロブリンをコードする核酸は、化学的に合成するか、或いは、好適な供給源(例えば、抗体cDNAライブラリ、又は、抗体を発現する任意の組織若しくは細胞、例えば抗体を発現するために選択されるハイブリドーマ細胞から作成されるcDNAライブラリ、又はそれから単離される核酸、好ましくはポリA+RNA)から、配列の3’及び5’末端にハイブリダイズ可能な合成プライマーを用いるPCR増幅により、又は特定の遺伝子配列に特異的なオリゴヌクレオチドプローブを用いるクローニングし、例えば抗体をコードするcDNAライブラリからcDNAクローンを同定することにより、入手してもよい。次に、PCRによって生成される増幅核酸は、当該技術分野で周知の任意の方法を用いて、複製可能なクローニングベクターにクローニングすることができる。
【0070】
抗体のヌクレオチド配列及び対応するアミノ酸配列が決定されると、抗体のヌクレオチド配列は、ヌクレオチド配列の操作のための当該技術分野で周知の方法、例えば、組換えDNA技術、部位特異的突然変異誘発、PCRなど(例えば、Sambrook et al.,1990,Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory,Cold Spring Harbor,N.Y.and Ausubel et al.,eds.,1998,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons,NYに記載の技法を参照のこと)を用いて操作し、異なるアミノ酸配列を有する抗体を作成し、例えばアミノ酸置換、欠失、及び/又は挿入を生じさせることができる。
【0071】
結合特性
上記のように、本発明の抗A型インフルエンザウイルスHAストーク抗体は、A型インフルエンザウイルスHAストークのタンパク質、ペプチド、サブユニット、断片、部分又はそれらの任意の組み合わせの少なくとも1つの特定のエピトープ又は抗原決定基に、他のポリペプチドに関して排他的又は優先的のいずれかで、免疫特異的に結合する。用語「エピトープ」又は「抗原決定基」は、本明細書で使用されるとき、抗体に結合する能力があるタンパク質決定基を指し、本明細書中の用語「結合」は、好ましくは特異的結合に関する。これらのタンパク質決定基又はエピトープは通常、アミノ酸又は糖側鎖などの分子の化学的活性表面群からなり、また通常、特定の三次元構造特性、並びに特定の荷電特性を有する。立体構造エピトープ及び非立体構造エピトープ(non-conformational epitope)は、前者への結合が変性溶媒の存在下で失われるが後者では失われないという点で区別される。用語「不連続エピトープ」は、本明細書で使用されるとき、タンパク質の一次配列内の少なくとも2つの分かれた領域から形成される、タンパク質抗原上の立体構造エピトープを指す。
【0072】
抗原と抗体の間の相互作用は、他の非共有結合的なタンパク質-タンパク質相互作用の場合と同じである。一般に、4種の結合相互作用、すなわち、(i)水素結合、(ii)分散力、(iii)ルイス酸とルイス塩基の間の静電力、及び(iv)疎水性相互作用が、抗原と抗体の間に存在する。疎水性相互作用は、抗体-抗原相互作用における主な駆動力であり、また分子間引力ではなく非極性基による水の反発に基づくものである(Tanford,1978)。しかし、特定の物理的力はまた、抗原-抗体結合、例えば異なる抗体結合部位を有するエピトープ形状のフィット又は優遇(fit or complimentary)に寄与する。さらに、他の材料及び抗原は、抗体と交差反応し、それによって利用可能な遊離抗体と競合し得る。
【0073】
抗原と抗体の間の結合の親和性定数及び特異性の測定は、本発明の抗体を用いての予防、治療、診断及び研究方法の有効性を判定する際に重要な要素である。「結合親和性」は、一般に、分子(例えば抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば抗原)との間の非共有相互作用を合計した力を指す。特に指示されない限り、本明細書で使用されるとき、「結合親和性」は、結合対のメンバー(例えば、抗体及び抗原)間の1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYとの親和性は、一般に、koff/kon比として計算される平衡解離定数(Kd)によって表すことができる。例えば、Chen,Y.,et al.,(1999)J.Mol Biol 293:865-881を参照のこと。親和性は、当該技術分野で公知の一般的方法、例えば本明細書に説明及び例示の方法により、測定することができる。動力学的特性化のための市販システムの例として、機器のOCTET(登録商標)ファミリーが挙げられる。低親和性抗体は、一般に抗原に緩徐に結合し、容易に解離する傾向があり、他方で、高親和性抗体は、一般に抗原により迅速に結合し、結合状態をより長く維持する傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法は、当該技術分野で公知であり、それらのいくつかは、本発明を目的として用いることができる。
【0074】
結合親和性の決定については、実施例セクション中にさらに説明される特定の技法、及び当該技術分野で周知の方法を用いて測定することができる。1つのかかる方法は、非標識抗原の滴定系列の存在下で、(125I)標識抗原の最低濃度で、Fabを平衡化し、次に抗Fab抗体でコーティングしたプレートと結合された抗原を捕獲することにより、Fabの抗原に対する溶液の結合親和性を測定する以下のアッセイに記載のとおりの、目的の抗体のFabバージョン及びその抗原を用いて実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)により、解離定数「Kd」を測定することを含む(Chen, et al.,(1999)J.Mol Biol 293:865-881)。アッセイ用の条件を確立するため、マイクロタイタープレート(Dynex)が、50mMの炭酸ナトリウム(H9.6)中、5μg/mlの捕獲抗Fab抗体(Cappel Labs)で一晩コーティングされ、その後、室温(摂氏約23度)で、PBS中、2%(w/v)ウシ血清アルブミンで2~5時間ブロッキングされる。非吸着プレート(Nunc#269620)内で、100pM又は26pMの[125I]-抗原が、(例えば、Presta et al.,(1997)Cancer Res.57:4593-4599中の、抗VEGF抗体、Fab-12の評価と一致する)目的のFabの連続希釈物と混合される。次に、目的のFabは一晩インキュベートされるが、インキュベーションは、平衡に達することを保証するため、より長い期間(例えば65時間)継続する場合がある。その後、混合物は、室温(例えば1時間)でのインキュベーションのため、捕獲プレートに移される。次に、溶液は除去され、プレートはPBS中、0.1%ツイーン20で8回洗浄される。プレートが乾燥すると、150μl/ウェルのシンチラント(MicroScint-20;Packard)が添加され、プレートは、Topcountガンマカウンター(Packard)で10分間計数される。20%以下の最大結合をもたらす各Fabの濃度は、競合的結合アッセイでの使用のために選択される。
【0075】
別の例では、Kd値は、摂氏25度で固定化抗原CM5チップを約10応答単位(RU)で用いるBIAcore(商標)-2000又はBIAcore(商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を用いる表面プラズモン共鳴アッセイを用いることにより、測定してもよい。つまり、カルボキシメチル化したデキストランバイオセンサーチップ(CM5,BIAcore Inc.)は、供給業者の使用説明書に従い、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)で活性化される。抗原は、5μl/分の流速での注射前、110mMの酢酸ナトリウム(pH4.8)で5μg/ml(約0.2uM)に希釈され、約10応答単位(RU)の共役タンパク質が得られる。抗原の注射後、エタノールアミンが筋肉内注射され、未反応基が遮断される。動力学測定のため、Fabの2倍連続希釈物(0.78nM~500nM)が、約25μl/分の流速で、摂氏25度の0.05%ツイーン20(PBST)を有するPBSに注射される。会合速度(kon)及び解離速度(koff)は、会合及び解離センサーグラムを同時にフィットさせることによる単純一対一ラングミュア結合モデル(simple one-to-one Langmuir binding model)(BIAcore Evaluation Softwareバージョン3.2)を用いて算出される。
【0076】
上記の表面プラズモン共鳴アッセイにより、オン速度が106M-1S-1を超える場合、次にオン速度は、分光計、例えばストップフローを備えた分光光度計(Aviv Instruments)又はスターレッドキュベット(stir red cuvette)を備えた8000シリーズSLM-Aminco分光光度計(ThermoSpectronic)で測定されるように、漸増濃度の抗原の存在下、PBS、pH7.2中、20nMの抗抗原抗体(Fab形態)の摂氏25度での蛍光発光強度(励起=295nm;発光=340nm、16nmの帯域)の増加又は減少を測定する蛍光クエンチング技術を用いることにより、測定することができる。本発明に従う「オン速度」又は「会合の速度」又は「会合速度」又は「kon」はまた、上記のようにBIAcore(商標)-2000又はBIAcore(商標)-3000(BIAcore,Inc.,Piscataway,N.J.)を用いる上記と同じ表面プラズモン共鳴技術を用いて測定することができる。
【0077】
本発明の抗体、又はその改変/変異誘導体(mutant derivative)(下記に考察)の結合特性の判定に適した方法及び試薬は、当該技術分野で公知であり、及び/又は市販されている(米国特許第6,849,425号明細書;同第6,632,926号明細書;同第6,294,391号明細書;同第6,143,574号明細書)。さらに、かかる動力学分析のために設計された機器及びソフトウェアは市販されている(例えば、Biacore(登録商標)A100、及びBiacore(登録商標)2000機器;Biacore International AB,Uppsala,Sweden)。
【0078】
一実施形態では、本発明の抗体(その結合断片又は変異体を含む)はまた、そのA型インフルエンザウイルスポリペプチドに対する結合親和性の観点から説明又は特定され得る。典型的には、高い親和性を有する抗体は、10-7M未満のKdを有する。一実施形態では、抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド、又はその断片又は変異体に、5×10-7M、10-7M、5×10-8M、10-8M、5×10-9M、10-9M、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M、10-12M、5×10-13M、10-13M、5×10-14M、10-14M、5×10-15M又は10-15M以下の解離定数すなわちKdで結合する。A型インフルエンザポリペプチドは、HAポリペプチドを含むことができる。より特定の実施形態では、抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド、又はその断片又は変異体に、5×10-10M、10-10M、5×10-11M、10-11M、5×10-12M又は10-12M以下の解離定数すなわちKdで結合する。本発明は、A型インフルエンザポリペプチドに、個別の列挙された値のいずれかの間の範囲内に含まれる解離定数すなわちKdで結合する抗体を包含する。
【0079】
別の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド又はその断片若しくは変異体に、5×10-2秒-1、10-2秒-1、5×10-3秒-1又は10-3秒-1、5×10-4秒-1、10-4秒-1、5×10-5秒-1、又は10-5秒-1、5×10-6秒-1、10-6秒-1、5×10-7秒-1又は10-7秒-1以下のオフ速度(koff)で結合する。より特定の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド又はその断片若しくは変異体に、5×10-4秒-1、10-4秒-1、5×10-5秒-1、又は10-5秒-1、5×10-6秒-1、10-6秒-1、5×10-7秒-1又は10-7秒-1以下のオフ速度(koff)で結合する。本発明はまた、A型インフルエンザポリペプチドに、個別の列挙された値のいずれかの間の範囲内に含まれるオフ速度(koff)で結合する抗体を包含する。
【0080】
別の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド又はその断片若しくは変異体に、103M-1秒-1、5×103M-1秒-1、104M-1秒-1、5×104M-1秒-1、105M-1秒-1、5×105M-1秒-1、106M-1秒-1、5×106M-1秒-1、107M-1秒-1、又は5×107M-1秒-1以上のオン速度(kon)で結合する。より特定の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、A型インフルエンザポリペプチド又はその断片若しくは変異体に、105M-1秒-1、5×105M-1秒-1、106M-1秒-1、5×106M-1秒-1、107M-1秒-1又は5×107M-1秒-1以上のオン速度(kon)で結合する。本発明は、A型インフルエンザポリペプチドに、個別の列挙された値のいずれかの間の範囲内に含まれるオン速度(kon)で結合する抗体を包含する。
【0081】
一実施形態では、結合アッセイは、直接結合アッセイとして又は競合結合アッセイとしてのいずれかで行ってもよい。結合は、標準ELISA又は標準フローサイトメトリーアッセイを用いて検出することができる。直接結合アッセイでは、候補抗体は、その同種抗原への結合について試験される。他方、競合結合アッセイでは、候補抗体がA型インフルエンザウイルスHAストークに結合する公知の抗体又は他の化合物と競合する能力が評価される。一般に、抗体と検出可能なA型インフルエンザウイルスHAストークとの結合を可能にする任意の方法は、抗体の結合特性を検出し、測定することを意図した本発明の範囲内に包含される。当業者は、これらの周知の方法を理解することになり、この理由から、同方法は本明細書で詳細に提供されない。これらの方法はまた、1群の抗体に対して、所望される特性を提供するものについてスクリーニングするために利用される。
【0082】
本発明の抗体は、A型インフルエンザウイルスHAストークに免疫特異的に結合し、かつA型インフルエンザウイルス感染を中和する能力がある。中和アッセイは、本明細書の実施例の項にて記載されるように、又は当該技術分野で公知の他の方法を用いて実施してもよい。用語「阻害濃度50%」(「IC50」として略記)は、A型インフルエンザウイルスの50%中和に要求される阻害剤(例えば本発明の抗体)の濃度を表す。当業者は、より低いIC50値がより強力な阻害剤に対応することを理解するであろう。
【0083】
一実施形態では、本発明に記載の抗体又はその結合断片は、マイクロ中和アッセイでのA型インフルエンザウイルスの中和における、約0.01μg/ml~約50μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.01μg/ml~約5μg/mlの範囲内、又は抗体の約0.01μg/ml~約0.1μg/mlの範囲内での50%阻害濃度(IC50μg/ml)として表される中和能力を有する。本明細書に記載されるマイクロ中和アッセイにおいて使用される抗体の最高濃度は、50μg/mlであった。本発明の抗体の高い能力は、抗体のより低い濃度を用いて、A型インフルエンザウイルスの50%中和を達成できることを意味する。
【0084】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、細胞死を誘導しうる。「細胞死を誘導する」抗体は、生細胞を生育不能に至らしめるものである。細胞死は、補体及び免疫エフェクター細胞の不在下でインビトロで測定し、抗体依存細胞傷害性(ADCC)又は補体依存性細胞傷害性(CDC)によって誘導される細胞死を区別することができる。従って、細胞死用のアッセイは、熱不活化血清を用いて(すなわち補体の不在下で)かつ免疫エフェクター細胞の不在下で実施してもよい。抗体が細胞死を誘導することができるか否かを判定するため、ヨウ化プロピジウム(PI)、トリパンブルー(Moore et al. Cytotechnology 17:1-11(1995)を参照のこと)、7AADの取り込み又は当該技術分野で周知の方法によって評価される膜完全性の欠損は、未処理細胞と比べて評価することができる。
【0085】
具体的な実施形態では、本発明の抗体は、アポトーシスを介して細胞死を誘導し得る。「アポトーシスを誘導する」抗体は、アネキシンVの結合、DNAの断片化、細胞収縮、小胞体の拡大、細胞断片化、及び/又は(アポトーシス体と呼ばれる)膜小胞の形成によって判定されるプログラム細胞死を誘導するものである。アポトーシスに関連した細胞事象を評価するための様々な方法が利用可能である。例えば、ホスファチジルセリン(PS)転座は、アネキシンの結合によって測定可能であり、DNA断片化は、DNAラダリングを通じて評価可能であり、またDNA断片化に伴う核/クロマチン凝縮は、低二倍体細胞での任意の増加によって評価可能である。好ましくは、アポトーシスを誘導する抗体は、アネキシン結合アッセイにおいて、未処理細胞と比べて約2~50倍、好ましくは約5~50倍、また最も好ましくは約10~50倍のアネキシン結合の誘導をもたらすものである。
【0086】
別の具体的な実施形態では、本発明の抗体は、抗体依存細胞傷害性(ADCC)及び/又は補体依存性細胞傷害性(CDC)及び/又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)を介して細胞死を誘導し得る。ヒトIgG1サブクラス抗体のADCC活性及びCDC活性の発現は、一般に、抗体のFc領域の、キラー細胞、ナチュラルキラー細胞又は活性化マクロファージなどのエフェクター細胞の表面上に存在する抗体に対する受容体(以降「FcγR」と称される)への結合を含む。様々な補体成分が結合され得る。その結合に関しては、抗体のヒンジ領域内の数個のアミノ酸残基及びC領域の2番目のドメイン(以降「Cγ2ドメイン」と称される)が重要であり(Eur.J.Immunol.,23,1098(1993)、Immunology,86,319(1995)、Chemical Immunology,65,88(1997))、Cγ2ドメイン内の糖鎖(Chemical Immunology,65,88(1997))もまた重要であることが示唆されている。
【0087】
目的の抗体のADCC活性を評価するため、インビトロADCCアッセイ、例えば米国特許第5,500,362号明細書に記載のものを用いることができる。アッセイはまた、市販のキット、例えばCytoTox 96(登録商標)(Promega)を用いて実施してもよい。かかるアッセイにとって有用なエフェクター細胞としては、限定はされないが、末梢血単核球(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、及びNK細胞株が挙げられる。トランスジェニックFc受容体(例えばCD16)及びそれに関連するシグナル伝達ポリペプチド(例えば、FCεRI-γ)を発現するNK細胞株もまた、エフェクター細胞として役立ち得る(国際公開第2006/023148号パンフレット)。例えば、任意の特定の抗体が補体活性化及び/又はADCCによって溶解を媒介する能力については、アッセイ可能である。目的の細胞は、インビトロで生育され、標識され;抗体は、抗原抗体複合体によって活性化され得る免疫細胞、すなわち、ADCC応答に関与するエフェクター細胞と組み合わせて細胞培養物に添加される。抗体はまた、補体活性化について試験することができる。いずれの場合においても、細胞溶解は、溶解細胞からの標識の放出によって検出される。細胞溶解の程度はまた、細胞質タンパク質(例えばLDH)の上清への放出を検出することによって判定することができる。事実、抗体は、補体及び/又は免疫細胞の供給源として患者自身の血清を用いてスクリーニングすることができる。次いで、インビトロ試験においてヒトADCCを媒介する能力がある抗体は、その特定の患者において治療的に用いることができる。目的の分子のADCC活性はまた、インビボで、例えばClynes et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)95:652-656(1998)で開示されたものなどの動物モデルで評価してもよい。さらに、抗体のADCC、場合により、CDC活性のレベルを調節する(すなわち増加又は低下させる)ための技法は、当該技術分野で周知である(例えば、米国特許第5,624,821号明細書;米国特許第6,194,551号明細書;米国特許第7,317,091号明細書)。本発明の抗体は、ADCC及び/又はCDCを誘発する能力があるか又はその能力を有するように修飾されている場合がある。ADCC機能を判定するためのアッセイは、ヒトエフェクター細胞を用いて実行し、ヒトADCC機能を評価することができる。かかるアッセイはまた、ネクローシス及び/又はアポトーシス機構により、細胞死を誘発し、媒介し、増強し、遮断する抗体をスクリーニングすることが意図されたものを含んでもよい。実行可能な色素を利用するアッセイ、カスパーゼを検出し、分析する方法、及びDNA切断を測定するアッセイを含むかかる方法を用いて、目的の抗体とともにインビトロで培養された細胞のアポトーシス活性を評価することができる。
【0088】
抗体の産生
以下は、本発明において有用な抗体の産生のための例示的技術を説明する。
【0089】
モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマの使用(Kohler et al.,Nature,256:495(1975);Harlow et al.,Antibodies:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory Press,2nd ed.1988);Hammerling,et al.,in:Monoclonal Antibodies and T-Cell Hybridomas 563-681(Elsevier,N.Y.,1981)、組換え技術、及びファージディスプレイ技術、又はそれらの組み合わせを含めた、当該技術分野において公知の幅広い技術を用いて調製することができる。用語「モノクローナル抗体」は、本明細書で使用されるとき、実質的に同種の抗体又は単離抗体の集団から得られる抗体を指し、例えば、その集団を構成する個別の抗体が、少量存在し得る天然に存在する可能な突然変異を除いては同一である。モノクローナル抗体は高度に特異的であり、単一の抗原部位を標的とする。さらに、異なる決定基(エピトープ)を標的とする異なる抗体を含むポリクローナル抗体製剤と対照的に、各モノクローナル抗体が抗原上の同じ決定基を標的とする。その特異性に加え、モノクローナル抗体は、他の抗体による汚染なしに合成され得る点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とするものと解釈されるべきではない。以下はモノクローナル抗体の代表的な産生方法の説明であり(この説明は限定することを意図するものではない)、例えばモノクローナル哺乳類抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、ドメイン、ダイアボディ、ワクチボディ、線状抗体及び多重特異性抗体の産生に用いることができる。
【0090】
ハイブリドーマ技法
ハイブリドーマ技術を用いた特異的抗体の産生及びスクリーニング方法は、当該技術分野においてルーチンであり、周知されている。ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適切な宿主動物、例えばハムスターを上記のように免疫して、免疫化に用いた抗原に特異的に結合し得る抗体を産生する又はその産生能を有するリンパ球を誘導する。或いは、インビトロでリンパ球を免疫してもよい。免疫後、リンパ球を単離し、次に好適な融剤又は融合パートナー、例えばポリエチレングリコールを使用して骨髄腫細胞株と融合することにより、ハイブリドーマ細胞を形成する(Goding,Monoclonal Antibodies:Principles and Practice,pp.59-103(Academic Press,1986))。特定の実施形態では、選択される骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による安定した高度な抗体産生を支持し、且つ融合しなかった親細胞を選択外にする選択培地に対して感受性を有するものである。一態様において、骨髄腫細胞株はマウス骨髄腫株、例えば、ソーク研究所細胞頒布センター(Salk Institute Cell Distribution Center),San Diego,Calif.USAから入手可能なMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍に由来するもの、並びにアメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection),Rockville,Md.USAから入手可能なSP-2及び誘導体、例えばX63-Ag8-653細胞である。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒト異種骨髄腫細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体の産生について記載されている(Kozbor,J.Immunol.,133:3001(1984);及びBrodeur et al.,Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications,pp.51-63(Marcel Dekker,Inc.,New York,1987))。
【0091】
所望の特異性、親和性、及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定されると、クローンを限界希釈手順によりサブクローニングし、標準方法により成長させることができる(Goding、前掲)。この目的に好適な培養培地としては、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が挙げられる。加えて、ハイブリドーマ細胞は、例えば細胞をマウスに腹腔内注射することにより、動物において腹水腫瘍としてインビボで成長させてもよい。
【0092】
サブクローンにより選択されたモノクローナル抗体は、好適には、従来の抗体精製手順、例えば、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインA又はプロテインGセファロース)又はイオン交換クロマトグラフィー、アフィニティータグ、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析等によって培養培地、腹水、又は血清と分離される。例示的な精製方法を以下にさらに詳細に記載する。
【0093】
組換えDNA技法
組換えDNA技術を用いた特異的抗体の産生及びスクリーニング方法は、当該技術分野においてルーチンであり、周知されている(例えば米国特許第4,816,567号明細書)。モノクローナル抗体をコードするDNAは、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合する能力を有するオリゴヌクレオチドプローブを使用することにより)容易に単離及び/又は配列決定することができる。単離後、DNAを発現ベクターに入れることができ、次にその発現ベクターが、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は骨髄腫細胞などの、本来抗体タンパク質を産生しない宿主細胞にトランスフェクトされ、組換え宿主細胞においてモノクローナル抗体の合成が達成される。抗体をコードするDNAの細菌における組換え発現に関するレビュー論文としては、Skerra et al.,Curr.Opinion in Immunol.,5:256-262(1993)及びPluckthun,Immunol.Revs.,130:151-188(1992)が挙げられる。ファージディスプレイにより作成される抗体及び抗体のヒト化について以下に記載するとおり、組換え抗体用のDNA又は遺伝物質をハイブリドーマ以外の1つ又は複数の供給源から入手して、本発明の抗体を作成することができる。
【0094】
抗体又はその変異体の組換え発現には、概して、抗体をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターの構築が必要である。従って本発明は、プロモーターに作動可能に連結された、抗体分子、抗体の重鎖若しくは軽鎖、抗体若しくはその一部分の重鎖若しくは軽鎖可変ドメイン、又は重鎖若しくは軽鎖CDRをコードするヌクレオチド配列を含む複製可能ベクターを提供する。かかるベクターは、抗体分子の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むことができ(例えば、米国特許第5,981,216号明細書;同第5,591,639号明細書;同第5,658,759号明細書及び同第5,122,464号明細書を参照のこと)、抗体の可変ドメインが、重鎖全体、軽鎖全体、又は重鎖及び軽鎖全体の双方の発現用のかかるベクターにクローニングされてもよい。
【0095】
従来技術によって発現ベクターが宿主細胞に移入されると、次にトランスフェクト細胞が従来技術によって培養され、抗体が産生される。従って、本発明は、異種プロモーターに作動可能に連結された、本発明の抗体又はその断片、又はその重鎖又は軽鎖、又はその一部分、又は本発明の一本鎖抗体をコードするポリヌクレオチドを含む宿主細胞を含む。二重鎖抗体を発現させる特定の実施形態では、以下に詳述するとおり、重鎖及び軽鎖の双方をコードするベクターを、免疫グロブリン分子全体の発現用の宿主細胞で同時に発現させてもよい。
【0096】
組換え抗体の発現用宿主として利用可能な哺乳類細胞株は、当該技術分野において周知されており、アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection:ATCC)から入手可能な多くの不死化細胞株、限定はされないが、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、ヒーラー細胞、ベビーハムスター腎(BHK)細胞、サル腎細胞(COS)、ヒト肝細胞癌細胞(例えば、Hep G2)、ヒト上皮腎293細胞、及び数多くの他の細胞株が挙げられる。異なる宿主細胞は、タンパク質及び遺伝子産物の翻訳後プロセシング及び修飾について特徴的で特異的な機構を有する。発現させた抗体又はその一部分の正しい修飾及びプロセシングが確実となるように、適切な細胞株又は宿主系を選択することができる。このため、適切な一次転写物のプロセシング、遺伝子産物のグリコシル化及びリン酸化のための細胞機構を有する真核生物宿主細胞が用いられ得る。かかる哺乳類宿主細胞としては、限定はされないが、CHO、VERY、BHK、ヒーラー、COS、MDCK、293、3T3、W138、BT483、Hs578T、HTB2、BT2O及びT47D、NS0(いかなる機能性免疫グロブリン鎖も内因的に産生しないマウス骨髄腫細胞株)、SP20、CRL7O3O及びHsS78Bst細胞が挙げられる。ヒトリンパ球を不死化することにより開発されたヒト細胞株を使用してモノクローナル抗体を組換え産生することができる。ヒト細胞株PER.C6.(Crucell,オランダ)を使用してモノクローナル抗体を組換え産生することができる。
【0097】
組換え抗体の発現用宿主として用いられ得るさらなる細胞株としては、限定はされないが、昆虫細胞(例えばSf21/Sf9、イラクサギンウワバ(Trichoplusia ni)Bti-Tn5b1-4)又は酵母細胞(例えばS.セレビシエ(S.cerevisiae)、ピキア属(Pichia)、米国特許第7326681号明細書;他)、植物細胞(米国特許出願公開第20080066200号明細書);及びニワトリ細胞(国際公開第2008142124号パンフレット)が挙げられる。
【0098】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、抗体の安定発現を呈する細胞株で発現させる。安定発現は、組換えタンパク質の長期高収率産生に用いることができる。例えば、抗体分子を安定発現する細胞株を作成してもよい。宿主細胞を、発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位等)と、選択可能なマーカー遺伝子とを含む適切に操作されたベクターで形質転換することができる。外来DNAの導入後、細胞を1~2日間強化培地で成長させてもよく、次に選択培地に切り換える。組換えプラスミドにおける選択可能なマーカーが選択に対する耐性を付与し、プラスミドをその染色体に安定的に組み込んだ細胞の成長及びフォーカスの形成を可能にすることで、次にはそのフォーカスをクローニングし、細胞株へと拡大することができる。安定細胞株を高収率で作製する方法は当該技術分野において周知されており、概して試薬が市販されている。
【0099】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、抗体の一過性発現を呈する細胞株で発現させる。一過性トランスフェクションは、細胞に導入された核酸が当該細胞のゲノム又は染色体DNAに組み込まれないプロセスである。それは実際、染色体外要素、例えばエピソームとして細胞に維持される。エピソームの核酸の転写プロセスは影響を受けず、エピソームの核酸によりコードされるタンパク質が産生される。
【0100】
細胞株は、安定的にトランスフェクトされるものも、或いは一過性にトランスフェクトされるものも、モノクローナル抗体の発現及び産生をもたらす当該技術分野において公知の細胞培養培地及び条件に維持される。特定の実施形態では、哺乳類細胞培養培地は、例えばDMEM又はHam F12を含む市販の培地製剤をベースとする。他の実施形態では、細胞培養培地は、細胞成長及び生物学的タンパク質発現の両方の増加を支援するように修飾される。本明細書で使用されるとき、用語「細胞培養培地」、「培養培地」、及び「培地製剤」は、多細胞生物又は組織の外部の人工インビトロ環境で細胞を維持し、成長させ、増殖させ、又は拡大するための栄養溶液を指す。細胞培養培地は、例えば、細胞の成長を促進するように配合された細胞培養成長培地、又は組換えタンパク質産生を促進するように配合された細胞培養産生培地を含め、特定の細胞培養用途に最適化され得る。用語の栄養素、成分、及び構成成分は、本明細書では、細胞培養培地を構成する構成物を指して同義的に使用される。
【0101】
一実施形態では、細胞株は流加法を用いて維持される。本明細書で使用されるとき、「流加法」は、初めに基礎培地でインキュベートされた後、流加細胞培養物にさらなる栄養素が供給される方法を指す。例えば、流加法は、所与の時間内に所定の補給スケジュールに従い補足培地を添加することを含み得る。従って、「流加細胞培養物」は、細胞、典型的には哺乳類細胞、及び培養培地が培養槽に最初に供給され、且つ培養終了前の定期的な細胞及び/又は産物の回収を伴い、又は伴わずさらなる培養栄養素が培養中に培養物に対して連続的に、又は不連続に徐々に補給される細胞培養物を指す。
【0102】
使用される細胞培養培地及びそこに含まれる栄養素は、当業者に周知されている。一実施形態では、細胞培養培地は、基礎培地と、少なくとも1つの加水分解物、例えば、大豆ベースの加水分解物、酵母ベースの加水分解物、又はこれらの2種類の加水分解物の組み合わせとを含むことで、変法基礎培地をもたらす。別の実施形態では、さらなる栄養素は、濃縮基礎培地など、基礎培地のみを含んでもよく、又は加水分解物、若しくは濃縮加水分解物のみを含んでもよい。好適な基礎培地としては、限定はされないが、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)、DME/F12、最小必須培地(MEM)、イーグル基礎培地(BME)、RPMI 1640、F-10、F-12、α-最小必須培地(α-MEM)、グラスゴー最小必須培地(G-MEM)、PF CHO(例えば、CHOタンパク質不含培地(Sigma)又はCHO細胞用タンパク質不含EX-CELL(商標)325 PF CHO無血清培地(SAFC Bioscience)を参照のこと、及びイスコフ改変ダルベッコ培地が挙げられる。本発明において用いられ得る基礎培地の他の例としては、BME基礎培地(Gibco-Invitrogen;Eagle,H(1965)Proc.Soc.Exp.Biol.Med.89,36もまた参照のこと);ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM、粉末)(Gibco-Invitrogen(#31600);Dulbecco and Freeman(1959)Virology 8,396;Smith et al.(1960)Virology 12,185.Tissue Culture Standards Committee,In Vitro 6:2,93もまた参照のこと);CMRL 1066培地(Gibco-Invitrogen(#11530);Parker R.C.et al(1957)Special Publications,N.Y.Academy of Sciences,5,303もまた参照のこと)が挙げられる。
【0103】
基礎培地は無血清、つまり培地は血清(例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヤギ血清、又は当業者に公知の任意の他の動物由来血清)を含有しないか、又は動物性タンパク質不含培地又は化学限定培地であってもよい。
【0104】
基礎培地は、様々な無機及び有機緩衝剤、1つ又は複数の界面活性剤、及び塩化ナトリウムなどの、標準的な基礎培地に見られる特定の非栄養成分を除去するため、修飾され得る。基礎細胞培地からかかる構成成分を除去することにより、残りの栄養成分の濃度を高めることができ、細胞成長及びタンパク質発現が全体的に向上し得る。加えて、取り除いた構成成分を、細胞培養条件の要件に応じて、変法基礎細胞培地を含有する細胞培養培地に加え戻してもよい。特定の実施形態では、細胞培養培地は、変法基礎細胞培地と、以下の栄養素、すなわち、鉄源、組換え成長因子;緩衝剤;界面活性剤;容量オスモル濃度調節因子;エネルギー源;及び非動物性加水分解物の少なくとも1つとを含有する。加えて、変法基礎細胞培地は、場合により、アミノ酸、ビタミン、又はアミノ酸とビタミンとの両方の組み合わせを含有し得る。別の実施形態では、変法基礎培地は、グルタミン、例えば、L-グルタミン、及び/又はメトトレキサートをさらに含有する。
【0105】
抗体産生は、当該技術分野において公知の流加、バッチ、潅流又は連続供給バイオリアクター法を用いるバイオリアクタープロセスによって大量に行われ得る。大規模バイオリアクターは少なくとも1000リットルの容量、好ましくは約1,000~100,000リットルの容量を有する。このようなバイオリアクターは撹拌機インペラを使用して酸素及び栄養素を分配し得る。小規模バイオリアクターは、概して容積が約100リットル以下の細胞培養を指し、約1リットル~約100リットルの範囲であり得る。或いは、単回使用バイオリアクター(SUB)が、大規模培養又は小規模培養のいずれにも用いられ得る。
【0106】
温度、pH、撹拌、曝気及び接種密度は、使用する宿主細胞及び発現させる組換えタンパク質に応じて異なり得る。例えば、組換えタンパク質細胞培養物は、摂氏30~45℃の温度に維持され得る。培養培地のpHは、培養プロセスの間、pHが至適レベルに保たれるように監視されてもよく、至適レベルは、ある種の宿主細胞に対して6.0~8.0のpH範囲内であり得る。かかる培養方法での撹拌には、インペラ駆動による混合が用いられ得る。インペラの回転速度は約50~200cm/秒の先端速度であってよく、しかしながら培養される宿主細胞の種類に応じて、当該技術分野で公知の他のエアリフト又は他の混合/曝気システムが用いられてもよい。十分な曝気を提供することにより、ここでもやはり培養される特定の宿主細胞に応じて、培養物中約20%~80%空気飽和の溶存酸素濃度が維持される。或いは、バイオリアクターにより空気又は酸素を培養培地中に直接拡散させてもよい。中空糸膜曝気装置を用いる無気泡曝気システムを含め、他の酸素供給方法が存在する。
【0107】
ファージディスプレイ技法
モノクローナル抗体又は抗体断片は、McCafferty et al.,Nature,348:552-554(1990)、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載される技法を用いて作成される抗体ファージライブラリから単離することができる。かかる方法では、抗体は、ヒトリンパ球に由来するmRNAから調製されたヒトVL及びVH cDNAを使用して調製される組換えコンビナトリアル抗体ライブラリ、好ましくはscFvファージディスプレイライブラリのスクリーニングによって単離することができる。かかるライブラリの調製及びスクリーニング方法は、当該技術分野において公知である。ファージディスプレイライブラリ作成用の市販のキットに加えて(例えば、Pharmacia組換えファージ抗体システム、カタログ番号27-9400-01;及びStratagene SurfZAP(商標)ファージディスプレイキット、カタログ番号240612)、抗体ディスプレイライブラリの作成及びスクリーニングに特に適している方法及び試薬の例を、例えば、米国特許第6,248,516号明細書;米国特許第6,545,142号明細書;同第6,291,158号明細書;同第6,291,159号明細書;同第6,291,160号明細書;同第6,291,161号明細書;同第6,680,192号明細書;同第5,969,108号明細書;同第6,172,197号明細書;同第6,806,079号明細書;同第5,885,793号明細書;同第6,521,404号明細書;同第6,544,731号明細書;同第6,555,313号明細書;同第6,593,081号明細書;同第6,582,915号明細書;同第7,195,866号明細書に見出すことができる。従って、これらの技術は、モノクローナル抗体の産生及び単離のための従来のモノクローナル抗体ハイブリドーマ技法に代わる実行可能な手法である。
【0108】
ファージディスプレイ方法では、機能性抗体ドメインが、それをコードするポリヌクレオチド配列を有するファージ粒子の表面に提示される。詳細な実施形態において、かかるファージを利用して、レパートリー又はコンビナトリアル抗体ライブラリ(例えば、ヒト又はマウスのもの)から発現する抗原結合ドメインを提示することができる。目的の抗原に結合する抗原結合ドメインを発現するファージを抗原により、例えば標識された抗原又は固体表面若しくはビーズに結合若しくは捕捉されている抗原を使用して、選択又は同定することができる。これらの方法で用いられるファージは、典型的には、ファージ遺伝子III又は遺伝子VIIIタンパク質のいずれかと組換え融合されたFab、Fv又はジスルフィド安定化Fv抗体ドメインを有するファージから発現するfd及びM13結合ドメインを含む繊維状ファージである。
【0109】
上記の参考文献に記載されるとおり、ファージ選択後、ファージから抗体コード領域を単離し、それを用いてヒト抗体、ヒト化抗体を含む全抗体、又は任意の他の所望の抗原結合断片を作成し、例えば以下に詳細に記載されるとおり、哺乳類細胞、昆虫細胞、植物細胞、酵母、及び細菌を含む任意の所望の宿主で発現させることができる。例えば、Fab、Fab’及びF(ab’)2断片の組換え産生技法もまた、国際公開第92/22324号パンフレット;Mullinax et al.,BioTechniques 12(6):864-869(1992);及びBetter et al.,Science 240:1041-1043(1988)に開示されるものなどの、当該技術分野において公知の方法を用いて採用することができる。
【0110】
単鎖Fv及び抗体の産生に用いることのできる技法の例としては、米国特許第4,946,778号明細書及び同第5,258,498号明細書に記載されるものが挙げられる。従って、上記に記載される技法及び当該技術分野において公知の技法を用いて、組換え抗体を作成することができ、ここで結合ドメイン、例えばScFvは、ファージディスプレイライブラリから単離された。
【0111】
抗体の精製及び単離
組換え発現又はハイブリドーマ発現による産生後、抗体分子は、当該技術分野において公知の免疫グロブリン分子を精製する任意の方法により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、特に特異的抗原プロテインA又はプロテインGに対する親和性によるもの、及びサイズ排除カラムクロマトグラフィー)、遠心、溶解度の差によるか、又は任意の他の標準的なタンパク質精製技法により精製され得る。さらに、本発明の抗体又はその断片は、精製を促進することが知られる異種ポリペプチド配列(本明細書において「タグ」と称される)に融合されてもよい。
【0112】
組換え技術を用いるとき、抗体は細胞内に産生されるか、細胞膜周辺腔に産生されるか、又は培地中に直接分泌され得る。抗体が細胞内に産生される場合、最初の工程として、宿主細胞又は溶解した断片のいずれかである粒子状デブリが、例えば遠心又は限外ろ過により除去される。Carter et al.,Bio/Technology,10:163-167(1992)は、大腸菌(E.coli)の細胞膜周辺腔に分泌される抗体の単離手順を記載している。抗体が培地中に分泌される場合、概して、初めにかかる発現系からの上清が、市販のタンパク質濃縮フィルタ、例えばAmicon又はMillipore Pellicon限外ろ過ユニットを使用して濃縮される。前述の工程のいずれかにPMSFなどのプロテアーゼ阻害薬を含めてタンパク質分解を阻害してもよく、抗生物質を含めて外来性汚染物の成長を防止してもよい。
【0113】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及び/又はアフィニティークロマトグラフィーを、単独で、或いは他の精製工程との組み合わせで用いて精製することができる。親和性リガンドとしてのプロテインAの適合性は、抗体に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプに依存し、当業者は理解するであろう。親和性リガンドが結合するマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスが利用可能である。コントロールド・ポア・グラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼンなどの機械的に安定なマトリックスは、アガロースで達成され得るより高い流量及びより短い処理時間を実現する。抗体がCH3ドメインを含む場合、精製にはBakerbond ABX樹脂(J.T.Baker,Phillipsburg,NJ)が有用である。他のタンパク質精製技術、例えば、イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンでのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなど)でのセファロースクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE、及び硫酸アンモニウム沈殿もまた、回収する抗体に応じて利用可能である。
【0114】
任意の予備的精製工程の後、目的の抗体及び汚染物を含む混合物を、pH約2.5~4.5の溶出緩衝液を使用する、且つ低塩濃度(例えば、約0~0.25M塩)で実施される低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーに供することができる。
【0115】
従って、特定の実施形態では、実質的に精製/単離された本発明の抗体が提供される。一実施形態では、このような単離/精製された組換え発現抗体を患者に投与してもよく、それにより予防又は治療効果が媒介され得る。予防は、疾患、障害又は感染の発生を予防するために設計され、使用される薬物適用又は治療である。治療は、特定の疾患、障害又は感染の治療と特に関係している。治療量は、特定の疾患、障害又は感染を治療するのに必要とされる量である。別の実施形態では、これらの単離/精製抗体を用いて、A型インフルエンザウイルス感染を診断してもよい。
【0116】
ヒト抗体
ヒト抗体は、当該技術分野で周知の方法を用いて作成することができる。ヒト抗体は、マウス又はラット可変及び/又は定常領域を有する抗体に付随する問題の一部を回避する。かかるマウス又はラット由来のタンパク質が存在すると、抗体の急速なクリアランスが引き起こされ得るか、又は患者による抗体に対する免疫応答の発生が引き起こされ得る。
【0117】
ヒト抗体は、インビトロ方法によって得ることもできる。好適な例としては、限定はされないが、ファージディスプレイ(MedImmune(旧CAT)、Morphosys、Dyax、Biosite/Medarex、Xoma、Symphogen、Alexion(旧Proliferon)、Affimed)リボソームディスプレイ(MedImmune(旧CAT))、酵母ディスプレイなどが挙げられる。ファージディスプレイ技術(例えば、米国特許第5,969,108号明細書を参照のこと)を用いることにより、未免疫ドナー由来の免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーからインビトロでヒト抗体又は抗体断片を作製することができる。この技術によれば、抗体Vドメイン遺伝子がM13又はfdなどの繊維状バクテリオファージの主要な或いはマイナーなコートタンパク質遺伝子にインフレームでクローニングされ、ファージ粒子の表面上に機能性抗体断片として提示される。この糸状粒子はファージゲノムの一本鎖DNAコピーを含むため、抗体の機能特性に基づき選択すると、またそれらの特性を示す抗体をコードする遺伝子を選択することになる。従って、ファージはB細胞のいくらかの特性を模倣する。ファージディスプレイは様々なフォーマットで実施することができ、例えば、Johnson,Kevin S.and Chiswell,David J.,Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)にレビューされている。いくつかのV遺伝子セグメント供給源をファージディスプレイに用いることができる。Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)は、免疫化マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小規模なランダムコンビナトリアルライブラリーから、抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを単離した。本質的にMarks et al.,J.Mol.Biol.222:581-597(1991)、又はGriffith et al.,EMBO J.12:725-734(1993)によって記載される技術に従い、非免疫ヒトドナー由来のV遺伝子のレパートリーを構築することができ、及び抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を単離することができる。米国特許第5,565,332号明細書及び同第5,573,905号明細書もまた参照のこと。
【0118】
上記に考察したとおり、ヒト抗体はまた、インビトロ活性化B細胞により作成してもよい(米国特許第5,567,610号明細書及び同第5,229,275号明細書を参照のこと)。
【0119】
免疫グロブリン遺伝子は、可変領域におけるV、D及びJ遺伝子セグメント間の組換え、アイソタイプスイッチング、及び超突然変異を含め、免疫応答が成熟する間に様々な修飾を受ける。組換え及び体細胞超突然変異は抗体多様性及び親和性成熟を生じる基礎であるが、それらはまた配列ライアビリティ(liability)も生じ得るために、かかる免疫グロブリンの治療剤としての商業生産は困難となり、又は抗体の免疫原性リスクが増加し得る。一般に、CDR領域における突然変異は親和性及び機能の向上に寄与するものと思われる一方、フレームワーク領域における突然変異は免疫原性リスクを増加させ得る。このリスクは、抗体の活性が悪影響を受けないことを確実にしながら、フレームワーク突然変異を生殖系列に復帰させることによって低減できる。多様化プロセスにより何らかの構造的ライアビリティが生じることもあり、又はそのような構造的ライアビリティが、重鎖及び軽鎖可変ドメインに寄与する生殖系列配列内に存在することもある。供給源にかかわらず、不安定性、凝集、産物の不均一性、又は免疫原性の増加をもたらし得る潜在的な構造的ライアビリティは除去することが所望され得る。望ましくないライアビリティの例としては、不対のシステイン(これはジスルフィド結合のスクランブリング、又は可変のスルフヒドリル付加物の形成を引き起こし得る)、N-結合型グリコシル化部位(構造及び活性の不均一性をもたらす)、並びにアミド分解(例えばNG、NS)、異性化(DG)、酸化(露出したメチオニン)、及び加水分解(DP)部位が挙げられる。
【0120】
従って、免疫原性リスクを低減し、且つ薬学的特性を向上させるため、フレームワーク配列を生殖系列に復帰させ、CDRを生殖系列に復帰させ、及び/又は構造的ライアビリティを除去することが所望され得る。
【0121】
従って、一実施形態では、特定の抗体がその各々の生殖系列配列とアミノ酸レベルで異なる場合、抗体配列は、生殖系列配列に逆突然変異され得る。かかる修正的な突然変異は、標準的な分子生物学的技法を用いて、1つ、2つ、3つ若しくはそれより多くの位置で、又は突然変異した位置のいずれかの組み合わせにおいて発生し得る。
【0122】
抗体断片
特定の実施形態では、本抗体は、抗体断片又はそれらの断片を含む抗体である。抗体断片は、完全長抗体のうち、概してその抗原結合領域又は可変領域である一部分を含む。抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fd及びFv断片が含まれる。ダイアボディ;線状抗体(米国特許第5,641,870号明細書)及び一本鎖抗体分子である。
【0123】
伝統的には、これらの断片は、当該技術分野において公知の技法を用いたインタクトな抗体のタンパク質消化によって得られた。しかしながら、現在これらの断片は、組換え宿主細胞が直接産生することができる。Fab、Fv及びscFv抗体断片は全て、大腸菌(E.coli)の細胞型で発現させて、そこから分泌させることができるため、これらの断片は大量産生が容易に可能である。一実施形態では、抗体断片は、上記で考察される抗体ファージライブラリから単離することができる。或いは、Fab’-SH断片を大腸菌(E.coli)から直接回収し、化学的にカップリングすることにより、F(ab’)2断片を形成することもできる(Carter et al.,Bio/Technology,10:163-167(1992))。別の手法によれば、F(ab’)2断片を組換え宿主細胞培養物から直接単離することができる。抗体断片を産生する他の技術が、当業者には明らかであろう。他の実施形態では、選択される抗体は単鎖Fv断片(scFv)である。特定の実施形態では、抗体はFab断片でない。Fv及びscFvは、定常領域を欠いたインタクトな結合部位を有する唯一の種である;従ってこれらは、インビボで使用する間の非特異的結合を低減するのに好適である。scFvのアミノ端又はカルボキシ端のいずれかにエフェクタータンパク質の融合が生じるようにscFv融合タンパク質を構築してもよい。
【0124】
特定の実施形態では、本抗体は、ドメイン抗体、例えば、ヒト抗体の重鎖可変(VH)又は軽鎖可変(VL)領域に対応する抗体の小さい機能的結合単位を含む抗体である。ドメイン抗体の例としては、限定はされないが、Domantisのものが挙げられる(例えば、国際公開第04/058821号パンフレット;国際公開第04/081026号パンフレット;国際公開第04/003019号パンフレット;国際公開第03/002609号パンフレット;米国特許第6,291,158号明細書;同第6,582,915号明細書;同第6,696,245号明細書;及び同第6,593,081号明細書を参照のこと)。
【0125】
本発明の特定の実施形態では、本抗体は、線状抗体である。線状抗体は、一対の抗原結合領域を形成する一対のタンデムFdセグメント(VH-CH1-VH-CH1)を含む。Zapata et al.,Protein Eng.,8(10):1057-1062(1995)を参照のこと。
【0126】
他のアミノ酸配列修飾
上述のヒト抗体、ヒト化抗体及び/又はキメラ抗体に加えて、本発明はまた、可変軽鎖(VL)ドメイン及び/又は可変重鎖(VH)ドメイン及び/又はFc領域における1つ以上のアミノ酸残基及び/又はポリペプチド置換、付加及び/又は欠失、及び翻訳後修飾を含む本発明の抗体のさらなる修飾体、並びにその変異体及びその断片も包含する。これらの修飾体には、抗体がある部分に共有結合している抗体コンジュゲートが含まれる。抗体との結合に好適な部分としては、限定はされないが、タンパク質、ペプチド、薬物、標識、及び細胞毒素が挙げられる。このような抗体に対する変化は、A型インフルエンザ感染症の治療及び/又は診断に適切であるように抗体の(生化学的な、結合上の及び/又は機能的な)特性を改変し、又は微調整するために加えられ得る。コンジュゲートを形成し、アミノ酸及び/又はポリペプチド変化並びに翻訳後修飾を加える方法は、当該技術分野において公知であり、その一部を以下に詳述する。
【0127】
抗体に対するアミノ酸変化は、必然的に、上記に同定される抗体配列又は親抗体配列と100%未満の同一性の配列をもたらす。特定の実施形態では、これに関連して抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列と約25%~約95%の配列同一性を有し得る。従って、一実施形態では修飾抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖可変ドメインのいずれかのアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。別の実施形態では、改変抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖CDR1、CDR2、又はCDR3のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。別の実施形態では、改変抗体は、本明細書に記載されるとおりの抗体の重鎖又は軽鎖FR1、FR2、FR3又はFR4のアミノ酸配列と少なくとも25%、35%、45%、55%、65%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%又は99%のアミノ酸配列同一性又は類似性を有するアミノ酸配列を有し得る。
【0128】
特定の実施形態では、改変抗体は、抗体の可変領域の1つ以上に導入された1つ以上のアミノ酸改変(例えば、置換、欠失及び/又は付加)により作成される。別の実施形態では、アミノ酸改変はフレームワーク領域に導入される。フレームワーク領域残基の1つ以上を改変すると、抗原に対する抗体の結合親和性の向上がもたらされ得る。これは特に、フレームワーク領域がCDR領域と異なる種から形成され得るヒト化抗体にそのような変化が加えられるときに該当し得る。修飾するフレームワーク領域残基の例には、抗原を直接非共有結合的に結合するもの(Amit et al.,Science,233:747-753(1986));CDRのコンホメーションと相互作用する/それを生じさせるもの(Chothia et al.,J.Mol.Biol.,196:901-917(1987));及び/又はVL-VH接合部に関与するもの(米国特許第5,225,539号明細書及び同第6,548,640号明細書)が含まれる。一実施形態では、約1~約5個のフレームワーク残基が改変され得る。ときにこれは、超可変領域残基が一つも改変されていない場合であっても、前臨床試験での使用に好適な抗体変異体を得るのに十分であり得る。しかしながら、通常は、改変抗体は1つ又は複数のさらなる超可変領域改変を含み得る。
【0129】
改変抗体の一つの有用な作成手順は、「アラニンスキャニング突然変異生成」と呼ばれる(Cunningham and Wells,Science,244:1081-1085(1989))。この方法では、超可変領域残基の1つ以上がアラニン又はポリアラニン残基に置換されることにより、標的抗原とのアミノ酸の相互作用が改変される。次に、置換に対して機能的感受性を示すそれらの1つ又は複数の超可変領域残基が、置換部位に、又は置換部位用の追加的な又は他の突然変異を導入することによって精緻化される。従って、アミノ酸配列変異の導入部位は予め決めておかれるが、突然変異の性質それ自体を予め決めておく必要はない。このように産生されたAla突然変異体は、本明細書に記載されるとおりのその生物活性についてスクリーニングされる。
【0130】
特定の実施形態において置換変異体には、親抗体(例えばヒト化抗体又はヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基を置換することが関わる。概して、さらなる展開用に選択される得られた1つ又は複数の変異体は、それが作成される元になった親抗体と比べて生物学的特性が向上したものであり得る。かかる置換変異体を作成するための好都合な方法には、ファージディスプレイを使用した親和性成熟が関わる(Hawkins et al.,J.Mol.Biol.,254:889-896(1992)及びLowman et al.,Biochemistry,30(45):10832-10837(1991))。簡潔に言えば、いくつかの超可変領域部位(例えば、6~7個の部位)を突然変異させることにより、各部位にあらゆる可能なアミノ酸置換が作成される。このように作成された抗体突然変異体が、繊維状ファージ粒子から、各粒子内にパッケージされたM13の遺伝子III産物との融合物として一価の形で提示される。次に、ファージが提示する突然変異体が、本明細書に開示されるとおりその生物活性(例えば結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0131】
抗体配列の突然変異には、置換、欠失(内部欠失を含む)、付加(融合タンパク質を生じる付加を含む)、又はアミノ酸配列内の及び/又はそれに隣接したアミノ酸残基の、但し変化が機能的に等価な抗体を生じる点で「サイレント」な変化をもたらす保存的置換が含まれ得る。保存的アミノ酸置換は、関与する残基の極性、電荷、溶解度、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質の類似性を基準として作製されてもよい。例えば、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン、及びメチオニンが挙げられ;極性中性アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、及びグルタミンが挙げられ;正電荷(塩基性)アミノ酸としては、アルギニン、リジン、及びヒスチジンが挙げられ;及び負電荷(酸性)アミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられる。加えて、グリシン及びプロリンは、鎖配向に影響を及ぼすことのできる残基である。非保存的置換は、これらのクラスのうちの一つのメンバーを別のクラスのメンバーに交換することを伴い得る。さらに、必要であれば、非古典的アミノ酸又は化学的アミノ酸類似体を置換又は付加として抗体配列に導入することができる。非古典的アミノ酸としては、限定はされないが、共通アミノ酸のD-異性体、α-アミノイソ酪酸、4-アミノ酪酸、Abu、2-アミノ酪酸、γ-Abu、ε-Ahx、6-アミノヘキサン酸、Aib、2-アミノイソ酪酸、3-アミノプロピオン酸、オルニチン、ノルロイシン、ノルバリン、ヒドロキシプロリン、サルコシン、シトルリン、システイン酸、t-ブチルグリシン、t-ブチルアラニン、フェニルグリシン、シクロヘキシルアラニン、β-アラニン、フルオロアミノ酸、デザイナーアミノ酸、例えばβ-メチルアミノ酸、Cα-メチルアミノ酸s、Nα-メチルアミノ酸、及び一般にアミノ酸類似体が挙げられる。
【0132】
別の実施形態では、抗体の適切なコンホメーションの維持に関与しない任意のシステイン残基もまた、概してセリンと置換されてよく、それにより分子の酸化安定性を向上させ、異常な架橋を防止し得る。逆に、1つ又は複数のシステイン結合を抗体に加えることで、その安定性を向上させてもよい(特に抗体がFv断片などの抗体断片である場合)。
【0133】
変異Fc領域
Fc領域の変異体(例えば、アミノ酸置換及び/又は付加及び/又は欠失)は、抗体のエフェクター機能を増強又は減退させ(例えば、米国特許第5,624,821号明細書;同第5,885,573号明細書;同第6,538,124号明細書;同第7,317,091号明細書;同第5,648,260号明細書;同第6,538,124号明細書;国際公開第03/074679号パンフレット;国際公開第04/029207号パンフレット;国際公開第04/099249号パンフレット;国際公開第99/58572号パンフレット;米国特許出願公開第2006/0134105号明細書;同第2004/0132101号明細書;同第2006/0008883号明細書を参照)、及び抗体の薬物動態特性(例えば半減期)を改変し得る(米国特許第6,277,375号明細書及び同第7,083,784号明細書を参照)ことが知られている。従って、特定の実施形態では、本発明の抗体は、改変されたFc領域(本明細書では「変異Fc領域」とも称される)を含み、ここでは抗体の機能特性及び/又は薬物動態特性を変化させるため、Fc領域に1つ以上の改変が加えられている。かかる改変は、IgGに関して、Clq結合及び補体依存性細胞傷害性(CDC)又はFcγR結合、及び抗体依存細胞傷害性(ADCC)、又は抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)の減少又は増加をもたらし得る。本発明は、エフェクター機能を増強するか又は減退させるかの微調整により所望のエフェクター機能が提供されるように変化を生じさせた変異Fc領域を有する本明細書に記載される抗体を包含する。従って、本発明の抗体は、変異Fc領域(すなわち、以下で考察するとおり改変されているFc領域)を含む。変異Fc領域を含む本発明の抗体はまた、本明細書では「Fc変異抗体」とも称される。本明細書で使用されるとき、天然とは、修飾されていない親配列を指し、天然Fc領域を含む抗体は、本明細書では「天然Fc抗体」と称される。Fc変異抗体は、当業者に周知されている数多くの方法で作成することができる。非限定的な例としては、抗体コード領域を(例えばハイブリドーマから)単離し、その単離した抗体コード領域のFc領域に1つ以上の所望の置換を作製することが挙げられる。或いは、抗体の抗原結合部分(例えば可変領域)を、変異Fc領域をコードするベクターにサブクローニングしてもよい。一実施形態では、変異Fc領域は、天然Fc領域と比較したとき同程度のエフェクター機能の誘導レベルを呈する。別の実施形態では、変異Fc領域は、天然Fcと比較したときより高いエフェクター機能の誘導を呈する。変異Fc領域のいくつかの具体的な実施形態を以下に詳述する。エフェクター機能の計測方法は、当該技術分野において周知されている。
【0134】
抗体のエフェクター機能は、限定はされないが、アミノ酸置換、アミノ酸付加、アミノ酸欠失及びFcアミノ酸に対する翻訳後修飾(例えばグリコシル化)の変化を含め、Fc領域を変化させることにより修飾される。以下に記載される方法を用いることにより、本抗体のエフェクター機能、所望の特性を有する治療用抗体をもたらす、FcRに対するFc領域の結合特性(例えば、親和性と特異性)の比率を微調整し得る。
【0135】
本明細書で使用されるとおりのFc領域には、第1定常領域免疫グロブリンドメインを除く抗体の定常領域を含むポリペプチドが含まれることが理解される。従ってFcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、及びこれらのドメインに対する可動性ヒンジN末端を指す。IgA及びIgMに関しては、FcはJ鎖を含み得る。IgGに関しては、Fcは免疫グロブリンドメインCガンマ2及びCガンマ3(Cγ2及びCγ3)、及びCガンマ1(Cγ1)とCガンマ2(Cγ2)との間のヒンジを含み得る。Fc領域の境界は変わり得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、残基C226又はP230からそのカルボキシル端を含むように定義され、ここで付番は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスに基づく。Fcは、単離におけるこの領域を指してもよく、又は抗体、抗体断片、若しくはFc融合タンパク質の文脈におけるこの領域を指してもよい。限定はされないが、EUインデックスにより付番するときの270位、272位、312位、315位、356位、及び358位を含む複数の異なるFc位置で多型が観察されており、従って提示される配列と先行技術の配列との間には、僅かな違いが存在し得る。
【0136】
一実施形態では、Fc変異抗体は天然Fc抗体と比較したとき、限定はされないが、FcRn、アイソフォームFcγRIA、FcγRIB、及びFcγRICを含むFcγRI(CD64);FcγRII(CD32、アイソフォームFcγRIIA、FcγRIIB、及びFcγRIICを含む);及びFcγRIII(CD16、アイソフォームFcγRIIIA及びFcγRIIIBを含む)を含め、1つ以上のFc受容体に対して改変された結合親和性を呈する。
【0137】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて1つ以上のFcリガンドに対する結合が増強されている。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcリガンドに対する親和性の増加又は減少を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcリガンドに対する親和性を呈する。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、Fcリガンドに対する親和性が増加している。他の実施形態では、Fc変異抗体は、Fcリガンドに対する親和性が低下している。
【0138】
具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIAに対して増強された結合性を有する。別の具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIBに対して増強された結合性を有する。さらに具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIA及びFcγRIIBの双方に対して増強された結合性を有する。特定の実施形態では、FcγRIIIAに対して増強された結合性を有するFc変異抗体は、天然Fc抗体と比較したとき、FcγRIIB受容体との結合性の付随する増加を有しない。具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIIAに対して低下した結合性を有する。さらに具体的な実施形態において、Fc変異抗体は、Fc受容体FcγRIIBに対して低下した結合性を有する。さらに別の具体的な実施形態において、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、Fc受容体FcRnに対して増強された結合性を有する。さらに別の具体的な実施形態において、FcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてC1qに対して改変された結合性を有する。
【0139】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高い又は低いFcγRIIIA受容体に対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcγRIIIAに対する親和性を呈する。
【0140】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍高い又は低いFcγRIIB受容体に対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いFcγRIIBに対する親和性を呈する。
【0141】
一実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増加又は低下したC1qに対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍、又は少なくとも7倍、又は少なくとも10倍、又は少なくとも20倍、又は少なくとも30倍、又は少なくとも40倍、又は少なくとも50倍、又は少なくとも60倍、又は少なくとも70倍、又は少なくとも80倍、又は少なくとも90倍、又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍高い又は低いC1q受容体に対する親和性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて少なくとも90%、少なくとも80%、少なくとも70%、少なくとも60%、少なくとも50%、少なくとも40%、少なくとも30%、少なくとも20%、少なくとも10%、又は少なくとも5%高い又は低いC1qに対する親和性を呈する。さらに別の具体的な実施形態において、Ciqに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、Fc受容体FcRnに対して増強された結合性を有する。さらに別の具体的な実施形態において、C1qに対して改変された親和性を呈するFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べてFcγRIIIA及び/又はFcγRIIBに対して改変された結合性を有する。
【0142】
当該技術分野においてまとめて抗体エフェクター機能として知られる複数のプロセスを介して攻撃及び破壊を誘導する能力が抗体にあることは、当該技術分野において公知である。「抗体依存性細胞媒介性細胞傷害」又は「ADCC」として知られるこれらのプロセスの一つは、ある種の細胞傷害性細胞(例えば、ナチュラルキラー(NK)細胞、好中球、及びマクロファージ)上に存在するFc受容体(FcR)に結合した分泌Igが、これらの細胞傷害性エフェクター細胞を抗原保持細胞に特異的に結合させ、続いて細胞を細胞毒で死滅させることを可能にする細胞傷害性の一形態を指す。細胞の表面を指向する特異的高親和性IgG抗体が細胞傷害性細胞を「装備」し、かかる死滅には必須である。細胞の溶解は細胞外であり、直接的な細胞間接触が必要で、且つ相補体は関与しない。
【0143】
用語エフェクター機能に包含される別のプロセスは、補体依存性細胞傷害性(以下、「CDC」と称する)であり、これは、補体系による細胞破壊の生化学的イベントを指す。補体系は、正常な血漿に認められるタンパク質の複合系であり、抗体と組み合わさって病原性細菌及び他の外来細胞を破壊する。
【0144】
用語エフェクター機能に包含されるさらに別のプロセスは、抗体依存性細胞媒介性食作用(ADCP)であり、これは、1つ以上のエフェクターリガンドを発現する非特異的細胞傷害性細胞が細胞上の結合した抗体を認識し、続いて細胞の食作用を生じる細胞媒介性反応を指す。
【0145】
Fc変異抗体は、1つ以上のFcγR媒介性エフェクター細胞機能を決定するためのインビトロ機能アッセイにより特徴付けられることが企図される。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、インビボモデル(本明細書に記載及び開示されるものなど)において、インビトロベースのアッセイの場合と同様の結合特性及びエフェクター細胞機能を有する。しかしながら、本発明は、インビトロベースのアッセイで所望の表現型を呈しないが、インビボで実に所望の表現型を呈するFc変異抗体を除外しない。
【0146】
特定の実施形態では、Fc変異体を含む抗体は、天然Fc領域を含む抗体と比べて、細胞毒性又は食作用活性(例えば、ADCC、CDC及びADCP)を増強している。具体的な実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍高い細胞毒性又は食作用活性を有する。或いは、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、細胞毒性又は食作用活性を低下させている。具体的な実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍低い細胞毒性又は食作用活性を有する。
【0147】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて低下したADCC活性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100倍~200倍低いADCC活性を呈する。さらに別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%低下したADCC活性を呈する。特定の実施形態では、Fc変異抗体は、検出不能なADCC活性を有する。具体的な実施形態では、ADCC活性の低下及び/又は低減(ablatement)は、Fc変異抗体がFcリガンド及び/又は受容体に対して呈する低下した親和性に起因し得る。
【0148】
他の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたADCC活性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍高いADCC活性を呈する。さらに別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%増強されたADCC活性を呈する。具体的な実施形態では、増強されたADCC活性は、Fc変異抗体がFcリガンド及び/又は受容体に対して呈する増強された親和性に起因し得る。
【0149】
特定の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、Fc受容体FcγRIIIAへの結合を増強し、かつADCC活性を増強している。他の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、増強されたADCC活性及び増加した血清半減期の双方を有する。別の具体的な実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、Fc受容体FcγRIIIAへの結合を低下させ、かつADCC活性を低下させている。他の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、低下したADCC活性及び増加した血清半減期の双方を有する。
【0150】
特定の実施形態では、細胞毒性は、CDCによって媒介され、ここでFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、増強されるか又は低下したCDC活性のいずれかを有する。補体活性化経路は、補体系(C1q)の第1の構成成分の、ある分子、例えば同種抗原と複合体を形成した抗体への結合によって開始される。補体活性化を評価するため、例えば、Gazzano-Santoro et al.,1996,J.Immunol.Methods,202:163に記載のCDCアッセイを実施してもよい。
【0151】
一実施形態では、本発明の抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたCDC活性を呈する。別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体の場合と比べて、少なくとも2倍、又は少なくとも3倍、又は少なくとも5倍又は少なくとも10倍又は少なくとも50倍又は少なくとも100倍、又は少なくとも200倍、又は2倍~10倍、又は5倍~50倍、又は25倍~100倍、又は75倍~200倍、又は100~200倍高いCDC活性を呈する。さらに別の実施形態では、Fc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて、少なくとも10%、又は少なくとも20%、又は少なくとも30%、又は少なくとも40%、又は少なくとも50%、又は少なくとも60%、又は少なくとも70%、又は少なくとも80%、又は少なくとも90%、又は少なくとも100%、又は少なくとも200%、又は少なくとも300%、又は少なくとも400%、又は少なくとも500%増強されたCDC活性を呈する。具体的な実施形態では、CDC活性の増強は、Fc変異抗体がC1qに対して呈する増強された親和性に起因し得る。
【0152】
本発明の抗体は、抗体の主要な作用機構の一つであるCDCを増強するCOMPLEGENT(登録商標)技術(Kyowa Hakko Kirin Co.,Ltd.)のおかげで、天然Fc抗体と比べて増強されたCDC活性を呈し得る。抗体のアイソタイプであるIgG3の一部分が、治療抗体における標準的アイソタイプであるIgG1の対応する領域内に導入される、アイソタイプキメラ(isotype chimerism)と呼ばれる手法を用いて、COMPLEGENT(登録商標)技術は、IgG1又はIgG3のいずれかの場合と比べてCDC活性を著しく増強し、他方でIgG1の所望される特徴、例えばADCC、PK特性及びプロテインA結合を保持する。さらに、COMPLEGENT(登録商標)技術はPOTELLIGENT(登録商標)技術と併用することができ、それにより、増強されたADCC及びCDC活性を伴うさらに優れた治療用Mab(ACCRETAMAB(登録商標))が創出される。
【0153】
本発明のFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたADCC活性及び増加した血清半減期を有し得る。
【0154】
本発明のFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたCDC活性及び増加した血清半減期を有し得る。
【0155】
本発明のFc変異抗体は、天然Fc抗体と比べて増強されたADCC活性、増強されたCDC活性及び増加した血清半減期を有し得る。
【0156】
Fc領域を含むタンパク質の血清半減期は、FcRnに対するFc領域の結合親和性を増加させることにより、増加させることができる。用語「抗体半減期」は、本明細書で使用されるとき、抗体分子のその投与後の平均生存時間の尺度である抗体の薬物動態特性を意味する。抗体半減期は、例えば血清中(すなわち循環半減期)又は他の組織で計測するときに、既知量の免疫グロブリンの50パーセントを患者の体内(又は他の哺乳類)又はその特定のコンパートメントから排出するのに必要な時間として表すことができる。半減期は免疫グロブリン毎又は免疫グロブリンのクラス毎に異なり得る。一般に、抗体半減期が増加すると、投与された抗体についての循環中の平均滞留時間(MRT)が増加する。
【0157】
半減期の増加により、患者に投与する薬物の量を低減するとともに投与頻度を低減することが可能になる。抗体の血清半減期を増加させるためには、例えば米国特許第5,739,277号明細書に記載されるとおり、抗体(特に抗体断片)にサルベージ受容体結合エピトープを組み込んでもよい。本明細書で使用されるとき、用語「サルベージ受容体結合エピトープ」は、IgG分子の生体内血清半減期の増加に関与するIgG分子(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4)のFc領域のエピトープを指す。
【0158】
或いは、半減期が増加した本発明の抗体を、Fc受容体とFcRn受容体との間の相互作用に関与すると特定されたアミノ酸残基を修飾することにより作成してもよい(例えば、米国特許第6,821,505号明細書及び同第7,083,784号明細書;及び国際公開第09/058492号パンフレットを参照のこと)。加えて、本発明の抗体の半減期は、当該技術分野で広く利用されている技術によってPEG又はアルブミンとコンジュゲートすることにより増加させてもよい。一部の実施形態では、本発明のFc変異領域を含む抗体は、天然Fc領域を含む抗体と比較したとき、約5%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約60%、約65%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%又はそれ以上の半減期の増加を有する。一部の実施形態では、Fc変異領域を含む抗体は、天然Fc領域を含む抗体と比較したとき、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約10倍、約20倍、約50倍又はそれ以上、又は2倍~10倍、又は5倍~25倍、又は15倍~50倍の半減期の増加を有する。
【0159】
一実施形態では、本発明はFc変異体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの221、225、228、234、235、236、237、238、239、240、241、243、244、245、247、250、251、252、254、255、256、257、262、263、264、265、266、267、268、269、279、280、284、292、296、297、298、299、305、308、313、316、318、320、322、325、326、327、328、329、330、331、332、333、334、339、341、343、370、373、378、392、416、419、421、428、433、434、435、436、440、及び443からなる群から選択される1つ以上の位置に修飾(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。場合により、Fc領域は、当業者に公知の追加的及び/又は代替的な位置に修飾を含み得る(例えば、米国特許第5,624,821号明細書;同第6,277,375号明細書;同第6,737,056号明細書;同第7,083,784号明細書;同第7,317,091号明細書;同第7,217,797号明細書;同第7,276,585号明細書;同第7,355,008号明細書;米国特許出願公開第2002/0147311号明細書;同第2004/0002587号明細書;同第2005/0215768号明細書;同第2007/0135620号明細書;同第2007/0224188号明細書;同第2008/0089892号明細書;国際公開第94/29351号パンフレット;及び国際公開第99/58572号パンフレットを参照のこと)。さらに、有用なアミノ酸位置及び特定の置換が、米国特許第6,737,056号明細書の表2、及び表6~表10;米国特許出願公開第2006/024298号明細書の
図41に提示される表;米国特許出願公開第2006/235208号明細書の
図5、
図12、及び
図15に提示される表;米国特許出願公開第2006/0173170号明細書の
図8、
図9及び
図10に提示される表、並びに国際公開第09/058492号パンフレットの
図8~
図10、
図13及び
図14に提示される表に例示される。
【0160】
具体的な実施形態において、本開示はFc変異体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの221K、221Y、225E、225K、225W、228P、234D、234E、234N、234Q、234T、234H、234Y、234I、234V、234F、235A、235D、235R、235W、235P、235S、235N、235Q、235T、235H、235Y、235I、235V、235E、235F、236E、237L、237M、237P、239D、239E、239N、239Q、239F、239T、239H、239Y、240I、240A、240T、240M、241W、241L、241Y、241E、241R、243W、243L、243Y、243R、243Q、244H、245A、247L、247V、247G、250E、250Q、251F、252L、252Y、254S、254T、255L、256E、256F、256M、257C、257M、257N、262I、262A、262T、262E、263I、263A、263T、263M、264L、264I、264W、264T、264R、264F、264M、264Y、264E、265A、265G、265N、265Q、265Y、265F、265V、265I、265L、265H、265T、266I、266A、266T、266M、267Q、267L、268E、269H、269Y、269F、269R、270E、280A、284M、292P、292L、296E、296Q、296D、296N、296S、296T、296L、296I、296H、296G、297S、297D、297E、298A、298H、298I、298T、298F、299I、299L、299A、299S、299V、299H、299F、299E、305I、308F、313F、316D、318A、318S、320A、320S、322A、322S、325Q、325L、325I、325D、325E、325A、325T、325V、325H、326A、326D、326E、326G、326M、326V、327G、327W、327N、327L、328S、328M、328D、328E、328N、328Q、328F、328I、328V、328T、328H、328A、329F、329H、329Q、330K、330G、330T、330C、330L、330Y、330V、330I、330F、330R、330H、331G、331A、331L、331M、331F、331W、331K、331Q、331E、331S、331V、331I、331C、331Y、331H、331R、331N、331D、331T、332D、332S、332W、332F、332E、332N、332Q、332T、332H、332Y、332A、333A、333D、333G、333Q、333S、333V、334A、334E、334H、334L、334M、334Q、334V、334Y、339T、370E、370N、378D、392T、396L、416G、419H、421K、428L、428F、433K、433L、434A、424F、434W、434Y、436H、440Y及び443Wからなる群から選択される少なくとも1つの置換を含む。場合により、Fc領域は、限定はされないが、米国特許第6,737,056号明細書の表2、及び表6~表10;米国特許出願公開第2006/024298号明細書の
図41に提示される表;米国特許出願公開第2006/235208号明細書の
図5、
図12、及び
図15に提示される表;米国特許出願公開第2006/0173170号明細書の
図8、
図9及び
図10に提示される表、並びに国際公開第09/058492号パンフレットの
図8、
図9及び
図10に提示される表に例示されるものを含む当業者に公知の追加的及び/又は代替的なアミノ酸置換を含み得る。
【0161】
具体的な実施形態において、本発明はFc変異抗体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228、234、235及び331からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾(例えば、アミノ酸置換、アミノ酸挿入、アミノ酸欠失)を含む。一実施形態では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228P、234F、235E、235F、235Y、及び331Sからなる群から選択される少なくとも1つの置換である。
【0162】
別の具体的な実施形態において、本発明はFc変異抗体を提供し、ここではFc領域がIgG4 Fc領域であり、且つKabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228及び235からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの修飾を含む。さらに別の具体的な実施形態において、Fc領域はIgG4 Fc領域であり、天然に存在しないアミノ酸は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの228P、235E及び235Yからなる群から選択される。
【0163】
別の具体的な実施形態において、本発明はFc変異体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの239、330及び332からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの天然に存在しないアミノ酸を含む。一実施形態では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの239D、330L、330Y、及び332Eからなる群から選択される少なくとも1つの置換である。
【0164】
具体的な実施形態において、本発明はFc変異抗体を提供し、ここではFc領域が、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの252、254、及び256からなる群から選択される1つ以上の位置に少なくとも1つの天然に存在しないアミノ酸を含む。一実施形態では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの252Y、254T及び256Eからなる群から選択される少なくとも1つの置換である。本発明の特に好ましい抗体では、修飾は、Kabatに示されるとおりのEUインデックスにより付番したときの3つの置換252Y、254T及び256E(「YTE」として公知)であり、米国特許第7,083,784号明細書を参照のこと。
【0165】
特定の実施形態では、IgG抗体により誘発されるエフェクター機能は、タンパク質のFc領域に連結した炭水化物部分に強く依存する(Claudia Ferrara et al.,2006,Biotechnology and Bioengineering 93:851-861)。従って、Fc領域のグリコシル化を、エフェクター機能が増加又は低下するように修飾することができる(例えば、Umana et al,1999,Nat.Biotechnol 17:176-180;Davies et al.,2001,Biotechnol Bioeng 74:288-294;Shields et al,2002,J Biol Chem 277:26733-26740;Shinkawa et al.,2003,J Biol Chem 278:3466-3473;米国特許第6,602,684号明細書;同第6,946,292号明細書;同第7,064,191号明細書;同第7,214,775号明細書;同第7,393,683号明細書;同第7,425,446号明細書;同第7,504,256号明細書;米国特許出願公開第2003/0157108号明細書;同第2003/0003097号明細書;同第2009/0010921号明細書;Potillegent(商標)技術(Biowa,Inc.Princeton,N.J.);GlycoMAb(商標)グリコシル化操作技術(GLYCART biotechnology AG,Zurich,スイス)を参照のこと)。従って、一実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、アミノ酸残基の改変されたグリコシル化を含む。別の実施形態では、アミノ酸残基の改変されたグリコシル化によりエフェクター機能が低下する。別の実施形態では、アミノ酸残基の改変されたグリコシル化によりエフェクター機能が増加する。具体的な実施形態において、Fc領域はフコシル化が低下している。別の実施形態では、Fc領域は非フコシル化型である(例えば、米国特許出願公開第2005/0226867号明細書を参照のこと)。一態様において、宿主細胞(例えば、CHO細胞、コウキクサ(Lemna minor))で作成されるとおりの、エフェクター機能、特にADCCが増加したこれらの抗体は、親細胞によって産生される抗体と比較して、100倍超高いADCCを有する高度に脱フコシル化した抗体を産生するように操作される(Mori et al.,2004,Biotechnol Bioeng 88:901-908;Cox et al.,2006,Nat Biotechnol.,24:1591-7)。
【0166】
IgG分子上のオリゴ糖類に対するシアル酸の付加は、その抗炎症活性を増進し、且つその細胞傷害性を改変し得る(Keneko et al.,Science,2006,313:670-673;Scallon et al.,Mol.Immuno.2007 Mar;44(7):1524-34)。上記に参照する研究は、シアリル化を増加させたIgG分子が抗炎症特性を有する一方、シアリル化を低減したIgG分子は免疫賦活特性が増加する(例えば、ADCC活性が増加する)ことを実証している。従って、抗体を、特定の治療適用に適切なシアリル化プロファイルで修飾することができる(米国特許出願公開第2009/0004179号明細書及び国際公開第2007/005786パンフレット)。
【0167】
一実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、天然Fc領域と比較して改変されたシアリル化プロファイルを含む。一実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、天然Fc領域と比較して増加したシアリル化プロファイルを含む。別の実施形態では、本発明の抗体のFc領域は、天然Fc領域と比較して減少したシアリル化プロファイルを含む。
【0168】
一実施形態では、本発明のFc変異体は、Ghetie et al.,1997,Nat Biotech.15:637-40;Duncan et al,1988,Nature 332:563-564;Lund et al.,1991,J.Immunol 147:2657-2662;Lund et al,1992,Mol Immunol 29:53-59;Alegre et al,1994,Transplantation 57:1537-1543;Hutchins et al.,1995,Proc Natl.Acad Sci U S A 92:11980-11984;Jefferis et al,1995,Immunol Lett.44:111-117;Lund et al.,1995,Faseb J 9:115-119;Jefferis et al,1996,Immunol Lett 54:101-104;Lund et al,1996,J Immunol 157:4963-4969;Armour et al.,1999,Eur J Immunol 29:2613-2624;Idusogie et al,2000,J Immunol 164:4178-4184;Reddy et al,2000,J Immunol 164:1925-1933;Xu et al.,2000,Cell Immunol 200:16-26;Idusogie et al,2001,J Immunol 166:2571-2575;Shields et al.,2001,J Biol Chem 276:6591-6604;Jefferis et al,2002,Immunol Lett 82:57-65;Presta et al.,2002,Biochem Soc Trans 30:487-490);米国特許第5,624,821号明細書;同第5,885,573号明細書;同第5,677,425号明細書;同第6,165,745号明細書;同第6,277,375号明細書;同第5,869,046号明細書;同第6,121,022号明細書;同第5,624,821号明細書;同第5,648,260号明細書;同第6,528,624号明細書;同第6,194,551号明細書;同第6,737,056号明細書;同第7,122,637号明細書;同第7,183,387号明細書;同第7,332,581号明細書;同第7,335,742号明細書;同第7,371,826号明細書;同第6,821,505号明細書;同第6,180,377号明細書;同第7,317,091号明細書;同第7,355,008号明細書;米国特許出願公開第2004/0002587号明細書;及び国際公開第99/58572号パンフレットに開示されるものなどの他の公知のFc変異体と組み合わされてもよい。Fcドメインの他の修飾及び/又は置換及び/又は付加及び/又は欠失が、当業者には容易に明らかであろう。
【0169】
グリコシル化
グリコシル化が抗体のエフェクター機能を改変する能力に加えて、可変領域の修飾されたグリコシル化は、抗原に対する抗体の親和性を改変することができる。一実施形態では、本抗体の可変領域におけるグリコシル化パターンが修飾される。例えば、非グリコシル化抗体を作製することができる(すなわち、この抗体はグリコシル化を欠いている)。グリコシル化は、例えば抗原に対する抗体の親和性が増加するように改変することができる。かかる炭水化物修飾は、例えば、抗体配列内の1つ以上のグリコシル化部位を改変して達成することができる。例えば、1つ以上の可変領域フレームワークグリコシル化部位の除去をもたらし、それにより当該の部位のグリコシル化を除去する1つ以上のアミノ酸置換を作製することができる。かかる非グリコシル化により、抗原に対する抗体の親和性が増加し得る。かかる手法は、米国特許第5,714,350号明細書及び同第6,350,861号明細書にさらに詳細に記載されている。Fc領域に存在するグリコシル化部位(例えば、IgGのアスパラギン297)の除去をもたらす1つ以上のアミノ酸置換もまた作製することができる。さらには、非グリコシル化抗体は、必須のグリコシル化機構を欠く細菌細胞において産生され得る。
【0170】
抗体コンジュゲート
特定の実施形態では、本発明の抗体は、当該技術分野において公知の方法を用いて物質とコンジュゲート又は共有結合される。一実施形態では、結合される物質は、治療剤、検出可能標識(本明細書ではレポーター分子とも称される)又は固体支持体である。抗体との結合に好適な物質としては、限定はされないが、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、多糖、ヌクレオシド、ヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、核酸、ハプテン、薬物、ホルモン、脂質、脂質集合体、合成高分子、高分子マイクロパーティクル、生体細胞、ウイルス、フルオロフォア、発色団、色素、毒素、ハプテン、酵素、抗体、抗体断片、放射性同位元素、固体マトリックス、半固体マトリックス及びそれらの組み合わせが挙げられる。別の物質を抗体にコンジュゲート又は共有結合する方法は、当該技術分野において公知である。
【0171】
特定の実施形態では、本発明の抗体は固体支持体にコンジュゲートされる。抗体は、スクリーニング及び/又は精製及び/又は製造プロセスの一部として固体支持体にコンジュゲートされてもよい。或いは本発明の抗体は、診断方法又は組成物の一部として固体支持体にコンジュゲートされてもよい。本発明での使用に好適な固体支持体は、典型的には液相に対して実質的に不溶性である。多数の支持体が利用可能であり、当業者には周知されている。従って、固体支持体には、固体及び半固体マトリックス、例えばエーロゲル及びハイドロゲル、樹脂、ビーズ、バイオチップ(薄膜被覆バイオチップを含む)、マイクロ流体チップ、シリコンチップ、マルチウェルプレート(マイクロタイタープレート又はマイクロプレートとも称される)、膜、導電性及び非導電性金属、ガラス(顕微鏡スライドを含む)及び磁気支持体が含まれる。固体支持体のより具体的な例には、シリカゲル、高分子膜、粒子、誘導体化プラスチックフィルム、ガラスビーズ、綿、プラスチックビーズ、アルミナゲル、多糖、例えばセファロース、ポリ(アクリレート)、ポリスチレン、ポリ(アクリルアミド)、ポリオール、アガロース、寒天、セルロース、デキストラン、デンプン、フィコール(FICOLL)、ヘパリン、グリコーゲン、アミロペクチン、マンナン、イヌリン、ニトロセルロース、ジアゾセルロース、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン(ポリ(エチレングリコール)を含む)、ナイロン、ラテックスビーズ、磁気ビーズ、常磁性ビーズ、超常磁性ビーズ、デンプンなどが含まれる。
【0172】
一部の実施形態では、固体支持体は、限定はされないが、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ、チオール、アルデヒド、ハロゲン、ニトロ、シアノ、アミド、尿素、カーボネート、カルバメート、イソシアネート、スルホン、スルホネート、スルホンアミド、スルホキシド等を含めた、本発明の抗体を結合するための反応性官能基を含み得る。
【0173】
好適な固相支持体は、所望の最終用途及び様々な合成プロトコルの適合性を基準として選択することができる。例えば、本発明の抗体を固体支持体に結合するのにアミド結合形成が望ましい場合、ポリスチレン(例えば、Bachem Inc.、Peninsula Laboratories等から入手可能なPAM樹脂)、POLYHIPE(商標)樹脂(Aminotech,カナダから調達可能)、ポリアミド樹脂(Peninsula Laboratoriesから調達可能)、ポリエチレングリコールにグラフトされたポリスチレン樹脂(TentaGel(商標)、Rapp Polymere,Tubingen,ドイツ)、ポリジメチルアクリルアミド樹脂(Milligen/Biosearch,Californiaから入手可能)、又はPEGAビーズ(Polymer Laboratoriesから調達可能)などの、概してペプチド合成に有用な樹脂が用いられ得る。
【0174】
特定の実施形態では、本発明の抗体は、抗体及び/又はそれに関連したリガンドが検出可能である診断及び他のアッセイを目的として、標識にコンジュゲートされる。抗体にコンジュゲートされ、また本明細書に記載される本方法及び本組成物で使用される標識は、280nmを超える波長で最大吸収を呈し、かつ抗体に共有結合的に結合されるときにそのスペクトル特性を保持する、任意の化学的部分(有機的又は無機的)である。標識としては、限定はされないが、発色団、フルオロフォア、蛍光タンパク質、りん光色素、タンデム色素、粒子、ハプテン、酵素及び放射性同位元素が挙げられる。
【0175】
特定の実施形態では、抗体はフルオロフォアにコンジュゲートされる。このように、本発明の抗体を標識するのに用いられるフルオロフォアには、限定なしに;ピレン(米国特許第5,132,432号明細書に開示される対応する誘導体化合物のいずれかを含む)、アントラセン、ナフタレン、アクリジン、スチルベン、インドール又はベンズインドール、オキサゾール又はベンゾオキサゾール、チアゾール又はベンゾチアゾール、4-アミノ-7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)、シアニン(米国特許第6,977,305号明細書及び同第6,974,873号明細書における任意の対応する化合物を含む)、カルボシアニン(米国特許出願第09/557,275号明細書;米国特許第4,981,977号明細書;同第5,268,486号明細書;同第5,569,587号明細書;同第5,569,766号明細書;同第5,486,616号明細書;同第5,627,027号明細書;同第5,808,044号明細書;同第5,877,310号明細書;同第6,002,003号明細書;同第6,004,536号明細書;同第6,008,373号明細書;同第6,043,025号明細書;同第6,127,134号明細書;同第6,130,094号明細書;同第6,133,445号明細書;及び国際公開第02/26891号パンフレット、国際公開第97/40104号パンフレット、国際公開第99/51702号パンフレット、国際公開第01/21624号パンフレット;欧州特許出願公開第1 065 250 A1号明細書における任意の対応する化合物を含む)、カルボスチリル、ポルフィリン、サリチル酸塩、アントラニル酸塩、アズレン、ペリレン、ピリジン、キノリン、ボラポリアザインダセン(米国特許第4,774,339号明細書;同第5,187,288号明細書;同第5,248,782号明細書;同第5,274,113号明細書;及び同第5,433,896号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、キサンテン(米国特許第6,162,931号明細書;同第6,130,101号明細書;同第6,229,055号明細書;同第6,339,392号明細書;同第5,451,343号明細書;同第5,227,487号明細書;同第5,442,045号明細書;同第5,798,276号明細書;同第5,846,737号明細書;同第4,945,171;米国特許出願第09/129,015号明細書及び同第09/922,333号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、オキサジン(米国特許第4,714,763号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)又はベンゾキサジン、カルバジン(米国特許第4,810,636号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、フェナレノン、クマリン(米国特許第5,696,157号明細書;同第5,459,276号明細書;同第5,501,980号明細書及び同第5,830,912号明細書に開示される対応する化合物を含む)、ベンゾフラン(米国特許第4,603,209号明細書及び同第4,849,362号明細書に開示される対応する化合物を含む)及びベンズフェナレノン(米国特許第4,812,409号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)及びこれらの誘導体が含まれる。本明細書で使用されるとき、オキサジンには、レゾルフィン(米国特許第5,242,805号明細書に開示される任意の対応する化合物を含む)、アミノオキサジノン、ジアミノオキサジン、及びこれらのベンゾ置換類似体が含まれる。
【0176】
具体的な実施形態において、本明細書に記載される抗体にコンジュゲートされるフルオロフォアには、キサンテン(ロドール(rhodol)、ローダミン、フルオレセイン及びこれらの誘導体)、クマリン、シアニン、ピレン、オキサジン及びボラポリアザインダセンが含まれる。他の実施形態では、かかるフルオロフォアは、スルホン化キサンテン、フッ素化キサンテン、スルホン化クマリン、フッ素化クマリン及びスルホン化シアニンである。また、ALEXA FLUOR(登録商標)、DyLight、CY(登録商標)Dyes、BODIPY(登録商標)、オレゴングリーン(OREGON GREEN)(登録商標)、パシフィックブルー(PACIFIC BLUE)(商標)、IRDYE(登録商標)、FAM、FITC、及びROX(商標)の商標で販売され、且つそのように一般に知られている色素も含まれる。
【0177】
抗体に結合するフルオロフォアの選択が、コンジュゲート抗体の吸収及び蛍光発光特性を決定し得る。抗体及び抗体結合リガンドに用いることのできるフルオロフォア標識の物理的特性としては、限定はされないが、スペクトル特性(吸収、発光及びストークスシフト)、蛍光強度、寿命、偏光及び光退色速度、又はそれらの組み合わせが挙げられる。これらの物理的特性は全て、あるフルオロフォアを別のフルオロフォアと区別するために用いることができ、従って多重化解析を可能にする。特定の実施形態では、フルオロフォアは480nmより大きい波長に吸収極大を有する。他の実施形態では、フルオロフォアは、488nm~514nm若しくはその近傍(アルゴンイオンレーザー励起源の出力による励起に特に好適)又は546nm近傍(水銀アークランプによる励起に特に好適)を吸収する。他の実施形態ではフルオロフォアは、組織又は全生物体適用にNIR(近赤外領域)で発光することができる。蛍光標識の他の望ましい特性としては、例えば抗体の標識が細胞又は生物体(例えば、生きている動物)で実施される場合に、細胞透過性及び低毒性を挙げることができる。
【0178】
特定の実施形態では、酵素が標識であり、本明細書に記載される抗体にコンジュゲートされる。酵素は、検出可能なシグナルの増幅を達成することができ、アッセイ感度の増加がもたらされるため、望ましい標識である。酵素それ自体は検出可能な反応を生じないが、適切な基質を接触させると基質を分解する働きをし、それにより変換された基質が蛍光、比色又は発光シグナルを生じる。標識試薬の一つの酵素が複数の基質についての検出可能なシグナルへの変換をもたらし得るため、酵素は検出可能なシグナルを増幅する。酵素基質は、好ましい計測可能な生成物、例えば比色、蛍光又は化学発光生成物が得られるように選択される。かかる基質は当該技術分野で広範に用いられており、当業者には周知されている。
【0179】
一実施形態では、比色基質又は蛍光発生基質及び酵素の組み合わせは、西洋ワサビペルオキシダーゼなどのオキシドレダクターゼと、3,3’-ジアミノベンジジン(DAB)及び3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)などの識別性のある色(それぞれ褐色及び赤色)を生じる基質とを使用する。検出可能な生成物を生じる他の比色オキシドレダクターゼ基質としては、限定はされないが、2,2-アジノ-ビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPD)、3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)、o-ジアニシジン、5-アミノサリチル酸、4-クロロ-1-ナフトールが挙げられる。蛍光発生基質としては、限定はされないが、ホモバニリン酸又は4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル酢酸、還元型フェノキサジン及び還元型ベンゾチアジン、例えばAmplex(登録商標)レッド試薬及びその変種(米国特許第4,384,042号明細書)及び還元型ジヒドロキサンテン、例えばジヒドロフルオレセイン(米国特許第6,162,931号明細書)及びジヒドロローダミン、例えばジヒドロローダミン123が挙げられる。チラミドであるペルオキシダーゼ基質(米国特許第5,196,306号明細書;同第5,583,001号明細書及び同第5,731,158号明細書)は、酵素が作用する前に本質的に検出可能であり得るが、チラミドシグナル増幅(TSA)として記載される過程でペルオキシダーゼの作用によって「その場に固定」される点で、ペルオキシダーゼ基質のユニークなクラスに相当する。これらの基質は、細胞、組織又はアレイである試料中の抗原を、後に顕微鏡法、フローサイトメトリー、光学走査及び蛍光定量法によって検出するために標識するのに広範に利用されている。
【0180】
別の実施形態において、比色(及びある場合には蛍光発生)基質と酵素との組み合わせは、ホスファターゼ酵素、例えば酸性ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ又はかかるホスファターゼの組換え型を、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、6-クロロ-3-インドリルリン酸、5-ブロモ-6-クロロ-3-インドリルリン酸、p-ニトロフェニルリン酸、又はo-ニトロフェニルリン酸などの比色基質と組み合わせて、又は4-メチルウンベリフェリルリン酸、6,8-ジフルオロ-7-ヒドロキシ-4-メチルクマリニルリン酸(DiFMUP、米国特許第5,830,912号明細書)、フルオレセイン二リン酸、3-O-メチルフルオレセインリン酸、レゾルフィンリン酸、9H-(1,3-ジクロロ-9,9-ジメチルアクリジン-2-オン-7-イル)リン酸(DDAOリン酸)、又はELF 97、ELF 39若しくは関連するリン酸(米国特許第5,316,906号明細書及び同第5,443,986号明細書)などの蛍光発生基質と組み合わせて用いる。
【0181】
グリコシダーゼ、特にβ-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ及びβ-グルコシダーゼが、さらなる好適な酵素である。適切な比色基質としては、限定はされないが、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルβ-D-ガラクトピラノシド(X-gal)及び同様のインドリルガラクトシド、グルコシド、及びグルクロニド、o-ニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシド(ONPG)及びp-ニトロフェニルβ-D-ガラクトピラノシドが挙げられる。一実施形態では、蛍光発生基質には、レゾルフィンβ-D-ガラクトピラノシド、フルオレセインジガラクトシド(FDG)、フルオレセインジグルクロニド及びこれらの構造的変種(米国特許第5,208,148号明細書;同第5,242,805号明細書;同第5,362,628号明細書;同第5,576,424号明細書及び同第5,773,236号明細書)、4-メチルウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド、カルボキシウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド及びフッ素化クマリンβ-D-ガラクトピラノシド(米国特許第5,830,912号明細書)が含まれる。
【0182】
さらなる酵素としては、限定はされないが、コリンエステラーゼ及びペプチダーゼなどのヒドロラーゼ、グルコースオキシダーゼ及びシトクロムオキシダーゼなどのオキシダーゼ、及びそれに対する好適な基質が知られるレダクターゼが挙げられる。
【0183】
一部のアッセイには、化学発光を生じる酵素及びその適切な基質が好ましい。それらとしては、限定はされないが、天然及び組換え形態のルシフェラーゼ及びエクオリンが挙げられる。ホスファターゼ、グリコシダーゼ及びオキシダーゼに対する化学発光生成基質、例えば、安定ジオキセタン、ルミノール、イソルミノール及びアクリジニウムエステルを含有するものが、さらに有用である。
【0184】
別の実施形態では、ビオチンなどのハプテンもまた標識として利用される。ビオチンは、酵素系において検出可能なシグナルをさらに増幅するよう機能することができ、且つ単離目的でアフィニティークロマトグラフィーにおいて使用するタグとして機能することができるため、有用である。検出目的では、アビジン-HRPなどの、ビオチンに対して親和性を有する酵素コンジュゲートが用いられる。続いてペルオキシダーゼ基質を添加すると、検出可能なシグナルが生成される。
【0185】
ハプテンにはまた、ホルモン、天然に存在する及び合成の薬物、汚染物、アレルゲン、作用因子分子、成長因子、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、アミノ酸、ペプチド、化学的中間体、ヌクレオチドなども含まれる。
【0186】
特定の実施形態では、蛍光タンパク質が標識として抗体にコンジュゲートされてもよい。蛍光タンパク質の例には、緑色蛍光タンパク質(GFP)及びフィコビリタンパク質及びこれらの誘導体が含まれる。蛍光タンパク質、特にフィコビリタンパク質は、タンデム色素で標識された標識試薬を作り出すのに特に有用である。このようなタンデム色素は、より大きいストークスシフトの達成を目的として蛍光タンパク質及びフルオロフォアを含み、ここでは発光スペクトルが蛍光タンパク質の吸収スペクトルの波長からさらに遠くにシフトする。これは、試料中の低量の抗原を検出するのに特に有利であり、ここでは放たれる蛍光の光が最大限最適化され、換言すれば、放たれる光がほとんど乃至全く蛍光タンパク質に再吸収されない。これが機能するには、蛍光タンパク質とフルオロフォアとがエネルギー伝達対として働き、ここで蛍光タンパク質はフルオロフォアが吸収する波長で発光し、次にそのフルオロフォア(fluorphore)が、その蛍光タンパク質のみで達成され得たより蛍光タンパク質からさらに遠い波長を発光する。特に有用な組み合わせは、米国特許第4,520,110号明細書;同第4,859,582号明細書;同第5,055,556号明細書に開示されるフィコビリタンパク質と、米国特許第5,798,276号明細書に開示されるスルホローダミンフルオロフォア、又は米国特許第6,977,305号明細書及び同第6,974,873号明細書に開示されるスルホン化シアニンフルオロフォア;又は米国特許第6,130,101号明細書に開示されるスルホン化キサンテン誘導体、及び米国特許第4,542,104号明細書に開示されるそれらの組み合わせである。或いは、フルオロフォアがエネルギー供与体として働き、且つ蛍光タンパク質がエネルギー受容体である。
【0187】
特定の実施形態では、標識は放射性同位体である。好適な放射性物質の例としては、限定はされないが、ヨウ素(121I、123I、125I、131I)、炭素(14C)、硫黄(35S)、トリチウム(3H)、インジウム(111In,、112In、113mIn、115mIn)、テクネチウム(99Tc、99mTc)、タリウム(201Ti)、ガリウム(68Ga、67Ga)、パラジウム(103Pd)、モリブデン(99Mo)、キセノン(135Xe)、フッ素(18F)、153Sm、177Lu、159Gd、149Pm、140La、175Yb、166Ho、90Y、47Sc、186Re、188Re,142Pr、105Rh及び97Ruが挙げられる。
【0188】
治療及び使用
本発明の抗体及びその結合断片及びその変異体は、A型インフルエンザウイルス感染の治療、A型インフルエンザウイルス感染の予防、並びに/或いはA型インフルエンザウイルス感染の検出、診断及び/又は予後に使用してもよい。
【0189】
診断の方法は、抗体又は抗体断片を試料に接触させることを含んでもよい。かかる試料は、例えば、鼻道、洞腔(sinus cavities)、唾液腺、肺、肝臓、膵臓、腎臓、耳、目、胎盤、消化管、心臓、卵巣、下垂体、副腎、甲状腺、脳又は皮膚から採取された組織試料であってもよい。検出、診断、及び/又は予後の方法もまた、抗原/抗体複合体の検出を含んでもよい。
【0190】
一実施形態では、本発明は、被験体に、本発明に記載の抗体又はその結合断片、又は抗体又はその結合断片を含む医薬組成物を有効量で投与することにより、被験体を治療する方法を提供する。一実施形態では、抗体又はその結合断片は、実質的に精製される(すなわち、その効果を制限するか又は望ましくない副作用をもたらす物質から実質的に遊離される)。一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、暴露後、或いは被験体がA型インフルエンザウイルスに暴露されているか又はA型インフルエンザウイルスに感染した後、投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、暴露前、或いはA型インフルエンザウイルスにまだ暴露されていないか又はA型インフルエンザウイルスにまだ感染していない被験体に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、1つ以上のA型インフルエンザサブタイプに対して血清陰性である被験体に投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、1つ以上のA型インフルエンザサブタイプに対して血清陽性である被験体に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、感染又は症状発症から1、2、3、4、5日以内に被験体に投与される。別の実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、感染又は症状発症から1、2、3、4、5、6、若しくは7日後、及び2、3、4、5、6、7、8、9若しくは10日以内に被験体に投与され得る。
【0191】
一実施形態では、本方法は、被験体におけるA型インフルエンザウイルス感染を低下させる。別の実施形態では、本方法は、被験体において、A型インフルエンザウイルス感染に対して、予防し、そのリスクを低下させるか又は遅延させる。一実施形態では、被験体は、哺乳類である。より特定の実施形態では、被験体は、ヒトである。一実施形態では、被験体は、限定はされないが、例えば易感染性被験体を含む、A型インフルエンザウイルス感染に対して特にリスクがあるか又は感受性が高い被験体を含む。
【0192】
治療は、単回用量スケジュール又は複数回用量スケジュールが可能であり、また本発明の抗体又はその結合断片は、受動免疫で使用することができる。
【0193】
一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、1つ以上の抗ウイルス薬と組み合わせて被験体に投与される。一実施形態では、本発明の抗体又はその結合断片は、1つ以上の小分子抗ウイルス薬と組み合わせて被験体に投与される。小分子抗ウイルス薬は、オセルタミビル(TAMIFLU(登録商標))、ザナミビル(RELENZA(登録商標))などのノイラミニダーゼ阻害剤並びにアマンタジン及びリマンタジンなどのアダマンタンを含む。
【0194】
別の実施形態では、本発明は、A型インフルエンザウイルス感染の予防又は治療のための薬物として使用される組成物を提供する。別の実施形態では、本発明は、本発明の抗体又はその結合断片、及び/又は、本発明の抗体又はその結合断片が被験体の治療及び/又は被験体における診断のための薬物の作製において結合する対象のエピトープを含むタンパク質の使用を提供する。
【0195】
本発明に記載される抗体及びその断片はまた、A型インフルエンザウイルス感染の診断用のキットの中で使用してもよい。さらに、本発明の抗体に結合する能力があるエピトープは、ワクチン接種手順の有効性を、保護的な抗A型インフルエンザウイルス抗体の存在を検出することによって監視するためのキットの中で使用してもよい。本発明に記載される抗体、抗体断片、又はその変異体及び誘導体はまた、所望される免疫原性を伴うワクチン製造を監視するためのキットの中で使用してもよい。
【0196】
本発明はまた、医薬組成物を調製する方法であって、本明細書に記載される本発明に記載のモノクローナル抗体であるモノクローナル抗体を、1つ以上の薬学的に許容できる担体と混合するステップを含む、方法を提供する。
【0197】
限定はされないが、リポソーム中のカプセル封入、微小粒子、マイクロカプセル、抗体又は抗体断片を発現する能力がある組換え細胞、受容体媒介性エンドサイトーシス、レトロウイルス又は他のベクターの一部分としての核酸の構築、電気穿孔法による送達技術(electroporation delivery technology)(Muthumani et al.,PLoS One.2013 Dec 31;8(12):e84234.doi:10.1371/journal.pone.0084234.eCollection 2013に記載のとおり)によるネイキッドヌクレオチド酸の送達等を含む様々な送達系は、公知であり、本発明の抗体又はその結合断片を投与するのに用いてもよい。導入方法は、限定はされないが、皮内、筋肉内、腹腔内、静脈内、皮下、鼻腔内、硬膜外、及び経口経路を含む。組成物は、任意の便宜的経路により、例えば注入又はボーラス注射により、上皮又は皮膚粘膜裏層(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管粘膜等)を介した吸収により、投与してもよく、限定はされないが、小分子抗ウイルス組成物を含む他の生物活性剤とともに投与してもよい。投与は、全身性又は局所性であり得る。経肺投与はまた、例えば、吸入器又は噴霧器の使用やエアロゾル化剤(aerosolizing agent)との配合により、用いることができる。さらに別の実施形態では、組成物は、徐放システムで送達することができる。
【0198】
本発明はまた、医薬組成物を提供する。かかる組成物は、本発明の抗体又はその結合断片、及び薬学的に許容できる担体を治療有効量で含む。用語「薬学的に許容できる」は、本明細書で使用されるとき、動物、より詳細にはヒトで使用するため、連邦政府若しくは州政府の規制機関によって認可されている、又は米国薬局方若しくは他の一般に認められている薬局方において収載されていることを意味する。用語「担体」は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は媒体を指す。かかる薬学的担体は、滅菌液体、例えば水及び油、例えば石油、動物、植物又は合成起源のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油等であり得る。水は、医薬組成物が静脈内投与される場合に好ましい担体である。生理食塩水及び水性デキストロース及びグリセロール溶液もまた、特に注射可能溶液用に、液体担体として使用することができる。好適な薬学的賦形剤は、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、モルト、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥脱脂乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノール等を含む。組成物はまた、必要に応じて、少量の湿潤剤又は乳化剤、又はpH緩衝剤も含有し得る。これらの組成物は、溶液、懸濁剤、乳剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、徐放性製剤等の形態をとることができる。組成物は、坐剤として、従来型の結合剤及びトリグリセリドなどの担体と配合することができる。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウム等などの標準担体を含み得る。一実施形態では、医薬組成物は、患者に対する適切な投与のための形態を提供するように、治療有効量の抗体又はその結合断片を、適量の担体とともに、好ましくは精製形態で含有する。製剤は、投与方法に適合させるべきである。
【0199】
典型的には、抗体治療薬においては、患者に投与される用量は、患者の体重に対して約0.1mg/kg~100mg/kgである。本発明の様々な態様を以下に示す。
1.A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、単離抗体又はその結合断片。
2.H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13、H16及びそれらの変異体から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ;並びにH3、H4、H7、H10、H14及びH15及びそれらの変異体から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスのグループ2サブタイプを中和する能力がある、上記1に記載の抗体又は結合断片。
3.グループ1サブタイプ:H1、H2、H5、H6及びH9並びにグループ2サブタイプH3及びH7を中和する能力があるか;或いはグループ1サブタイプ:H1、H2、H5及びH6並びにグループ2サブタイプH3及びH7を中和する能力がある、上記1又は2のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
4.マイクロ中和アッセイにおいて、A型インフルエンザウイルスの中和における抗体の約0.01μg/ml~約50μg/mlの範囲内での50%阻害濃度(IC50μg/ml)として表される高い中和能力を有する、上記1~3のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
5.6つのCDRのセット:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3を含み、ここで6つのCDRの前記セットが、
(a)配列番号3のHCDR1、配列番号4のHCDR2、配列番号5のHCDR3、配列番号8のLCDR1、配列番号9のLCDR2及び配列番号10のLCDR3;
(b)配列番号13のHCDR1、配列番号14のHCDR2、配列番号15のHCDR3、配列番号18のLCDR1、配列番号19のLCDR2、配列番号20のLCDR3;
(c)配列番号23のHCDR1、配列番号24のHCDR2、配列番号25のHCDR3、配列番号28のLCDR1、配列番号29のLCDR2及び配列番号30のLCDR3;
(d)配列番号33のHCDR1、配列番号34のHCDR2、配列番号35のHCDR3、配列番号38のLCDR1、配列番号39のLCDR2及び配列番号40のLCDR3;
(e)配列番号43のHCDR1、配列番号44のHCDR2、配列番号45のHCDR3、配列番号48のLCDR1、配列番号49のLCDR2及び配列番号50のLCDR3;
(f)配列番号53のHCDR1、配列番号54のHCDR2、配列番号55のHCDR3、配列番号58のLCDR1、配列番号59のLCDR2及び配列番号60のLCDR3;
(g)配列番号63のHCDR1、配列番号64のHCDR2、配列番号65のHCDR3、配列番号68のLCDR1、配列番号69のLCDR2及び配列番号70のLCDR3;
(h)配列番号73のHCDR1、配列番号74のHCDR2、配列番号75のHCDR3、配列番号78のLCDR1、配列番号79のLCDR2及び配列番号80のLCDR3;
(i)配列番号83のHCDR1、配列番号84のHCDR2、配列番号85のHCDR3、配列番号88のLCDR1、配列番号89のLCDR2、配列番号90のLCDR3;
(j)配列番号93のHCDR1、配列番号94のHCDR2、配列番号95のHCDR3、配列番号98のLCDR1、配列番号99のLCDR2及び配列番号100のLCDR3;
(k)配列番号103のHCDR1、配列番号104のHCDR2、配列番号105のHCDR3、配列番号108のLCDR1、配列番号109のLCDR2及び配列番号110のLCDR3;
(l)配列番号113のHCDR1、配列番号114のHCDR2、配列番号115のHCDR3、配列番号118のLCDR1、配列番号119のLCDR2及び配列番号110のLCDR3;
(m)配列番号123のHCDR1、配列番号124のHCDR2、配列番号125のHCDR3、配列番号128のLCDR1、配列番号129のLCDR2及び配列番号130のLCDR3;
(n)配列番号133のHCDR1、配列番号134のHCDR2、配列番号135のHCDR3、配列番号138のLCDR1、配列番号139のLCDR2及び配列番号140のLCDR3;及び
(o)配列番号143のHCDR1、配列番号144のHCDR2、配列番号145のHCDR3、配列番号148のLCDR1、配列番号149のLCDR2及び配列番号150のLCDR3
(p)1つ以上のアミノ酸の置換、欠失又は挿入を含む、(a)~(o)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット;
(q)1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、若しくは24若しくは25のアミノ酸置換を含む、(a)~(p)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット;
(r)(i)配列番号3に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は3つ以下のアミノ酸残基置換を含むHCDR1;
(ii)配列番号4に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は5つ以下のアミノ酸残基置換を含むHCDR2;
(iii)配列番号5に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は6つ以下のアミノ酸残基置換を含むHCDR3;
(iv)配列番号6に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は5つ以下のアミノ酸残基置換及び/若しくは1つの欠失を含むLCDR1;
(v)配列番号7に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は5つ以下のアミノ酸残基置換を含むLCDR2;及び
(vi)配列番号8に対して同一のアミノ酸配列を有するか又は1つ以下のアミノ酸残基置換を含むLCDR3;
を含む、(a)~(q)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3
(s)(i)Kabat残基31がSであり、
Kabat残基32がN又はYであり、
Kabat残基33がN、S、又はRであり、
Kabat残基34がAであり、
Kabat残基35がV又はTであり、
Kabat残基35AがWであり、
Kabat残基35BがNである
HCDR1
(ii)Kabat残基50がRであり、
Kabat残基51がTであり、
Kabat残基52がYであり、
Kabat残基52AがYであり、
Kabat残基53がRであり、
Kabat残基54がSであり、
Kabat残基55がK又はGであり、
Kabat残基56がWであり、
Kabat残基57がYであり、
Kabat残基58がN又はYであり、
Kabat残基59がDであり、
Kabat残基60がYであり、
Kabat残基61がAであり、
Kabat残基62がE、V又はdであり、
Kabat残基63がS又はFであり、
Kabat残基64がV又はLであり、
Kabat残基65がKである
HCDR2
(iii)Kabat残基95がS又はGであり、
Kabat残基96がGであり、
Kabat残基97がHであり、
Kabat残基98がIであり、
Kabat残基99がTであり、
Kabat残基100がV又はEであり、
Kabat残基100AがFであり、
Kabat残基100BがGであり、
Kabat残基100CがV又はLであり、
Kabat残基100DがNであり、
Kabat残基100EがV又はIであり、
Kabat残基100FがDであり、
Kabat残基100GがAであり、
Kabat残基100FがF又はYであり、
Kabat残基101がDであり、
Kabat残基102がM、I又はVである
HCDR3
(iv)Kabat残基24がRであり、
Kabat残基25がT、A又は存在せず、
Kabat残基26がS又はAであり、
Kabat残基27がQであり、
Kabat残基28がS又はRであり、
Kabat残基29がLであり、
Kabat残基30がS、N又はRであり、
Kabat残基31がSであり、
Kabat残基32がYであり、
Kabat残基33がL、T又はDであり、
Kabat残基34がHである
LCDR1
(v)Kabat残基50がAであり、
Kabat残基51がA、T又はSであり、
Kabat残基52がS又はTであり、
Kabat残基53がS又はTであり、
Kabat残基54がL又はRであり、
Kabat残基55がQ、L又はGであり、
Kabat残基56がSである
LCDR2;及び
(vi)Kabat残基89がQであり、
Kabat残基90がQ又はLであり、
Kabat残基91がSであり、
Kabat残基92がRであり、かつ
Kabat残基93がTである
LCDR3
を含む、(a)~(r)のいずれか1つに記載の6つのCDRのセット:HCDR1、HCDR2、HCDR3、LCDR1、LCDR2、LCDR3、
からなる群から選択される、上記1~4のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
6.
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号72のVH及び配列番号77のVL、
(i)配列番号82のVH及び配列番号87のVL、
(j)配列番号92のVH及び配列番号97のVL、
(k)配列番号102のVH及び配列番号107のVL、
(l)配列番号112のVH及び配列番号117のVL、
(m)配列番号122のVH及び配列番号127のVL、
(n)配列番号132のVH及び配列番号137のVL、
(o)配列番号144のVH及び配列番号147のVL、並びに
(p)配列番号152のVH及び配列番号157のVL
からなる群から選択されるVH及び/又はVLに対して、少なくとも75%の同一性を有するVH及び/又は少なくとも75%の同一性を有するVLを含む、上記1~5のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
7.
(a)配列番号2のVH及び配列番号7のVL、
(b)配列番号12のVH及び配列番号17のVL、
(c)配列番号22のVH及び配列番号27のVL、
(d)配列番号32のVH及び配列番号37のVL、
(e)配列番号42のVH及び配列番号47のVL、
(f)配列番号52のVH及び配列番号57のVL、
(g)配列番号62のVH及び配列番号67のVL、
(h)配列番号72のVH及び配列番号77のVL、
(i)配列番号82のVH及び配列番号87のVL、
(j)配列番号92のVH及び配列番号97のVL、
(k)配列番号102のVH及び配列番号107のVL、
(l)配列番号112のVH及び配列番号117のVL、
(m)配列番号122のVH及び配列番号127のVL、
(n)配列番号132のVH及び配列番号137のVL、
(o)配列番号144のVH及び配列番号147のVL、並びに
(p)配列番号152のVH及び配列番号157のVL
からなる群から選択されるVH及びVLを含む、上記1~6のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
8.免疫グロブリン分子、モノクローナル抗体、キメラ抗体、CDR-移植抗体、ヒト化抗体、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合Fv、scFv、単一ドメイン抗体、ダイアボディ、多特異性抗体、二重特異性抗体、及び二特異性抗体からなる群から選択される、上記1~7のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
9.前記VHがヒト生殖系列フレームワークVH6-1を含み、前記VLがヒト生殖系列フレームワークVK1-39を含む、上記1~8のいずれかに記載の抗体又はその結合断片、及びその組み合わせ。
10.Fc領域を含む、上記1~9のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
11.前記抗体が、IgG1、IgG2又はIgG4又はその断片である、上記1~10のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
12.A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力がある、A型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその結合断片であって、H1、H2、H5、H6、H8、H9、H11、H12、H13及びH16から選択される1つ以上のA型インフルエンザウイルスのグループ1サブタイプ、並びにH3、H4、H7、H10、H14及びH15から選択される1つ以上のグループ2サブタイプの中で保存されるエピトープに結合する、抗体又はその結合断片。
13.A型インフルエンザウイルスヘマグルチニン(hemaglutinin)に結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力があるA型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその結合断片であって、HA2の保存されたストーク領域内に位置するエピトープに結合する、抗体又はその結合断片。
14.前記エピトープが、H3付番方式に従い、HA2の位置18、19、42及び45から選択される1つ以上のアミノ酸を含む、上記12に記載の抗体又はその結合断片。
15.A型インフルエンザウイルスヘマグルチニンに結合し、かつA型インフルエンザウイルスの少なくとも1つのグループ1サブタイプ及び少なくとも1つのグループ2サブタイプを中和する能力があり、上記1~14のいずれかに記載の抗体と同じエピトープに結合するか、又はA型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合において競合する、A型インフルエンザウイルスに対する抗体又はその結合断片。
16.配列番号112で示されるアミノ酸配列を有する抗体と同じエピトープに結合するか、又はA型インフルエンザウイルスヘマグルチニンへの結合において競合する、上記14に記載の抗体又はその結合断片。
17.上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片をコードする単離核酸。
18.上記17に記載の単離核酸を含むベクター。
19.上記17に記載の核酸又は上記18に記載のベクターを含む宿主細胞。
20.上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片を作製するための方法であって、上記19に記載の宿主細胞を、前記抗体又はその断片の発現に適した条件下で培養するステップを含む、方法。
21.前記宿主細胞培養物から前記抗体又はその結合断片を単離するステップをさらに含む、上記20に記載の方法。
22.上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片及び薬学的に許容できる担体を含む組成物。
23.上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片、25mM His及び0.15M NaClをpH6.0で含む組成物。
24.被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療における使用のための、上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片。
25.被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療のための薬物の製造における、上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片の使用。
26.被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法であって、上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片の有効量を前記被験体に投与するステップを含む、方法。
27.被験体におけるA型インフルエンザ感染の予防又は治療のための方法であって、小分子抗ウイルス組成物と組み合わせて上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその結合断片の有効量を投与するステップを含む、方法。
28.前記小分子抗ウイルス組成物が、ノイラミダーゼ(neuramidase)阻害剤又はアダマンタンである、上記27に記載の方法。
29.前記小分子抗ウイルス組成物が、オセルタミビル、ザナミビル、アマンタジン、リマンタジン、及びそれらの組み合わせから選択される、上記27に記載の方法。
30.被験体におけるA型インフルエンザ感染のインビトロ診断における、上記1~16のいずれかに記載の抗体又はその断片の使用。
【図面の簡単な説明】
【0200】
【
図1】
図1Aは、抗体3及び抗体12の、サブタイプH11、H12、H13、H16、H17、H4、H10、H14、及びH15の表面発現HAタンパク質への結合を示す。ヒストグラムは、細胞の数に対する、白色のHAトランスフェクト細胞又は灰色のモックトランスフェクト細胞に結合する抗体の蛍光強度を示す。
図1Bは、抗体3、抗体12、又はMPE8v3(非関連ウイルス融合タンパク質抗体)(Corti D et al.,2013,Nature 501)の存在下での、ニワトリ赤血球とA/Puerto Rico/8/34との低pH誘発性融合のパーセント阻害を示す。
図1C及び1Dは、トリプシンで5、10若しくは20分間消化後の非切断(HA0)の組換えH1 HAのイムノブロットを示す。消化反応は、1Cでは、HA単独(インプット)、又はFI6v4(国際公開第2013/011347A1号パンフレットで開示)、抗体3、FE17.23(球状頭部に特異的なmAb)(Corti D et al.,2010,J Clin Invest 120)若しくは非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で前処理したHA、及び1Dでは、HA単独(インプット)、又は抗体3、抗体12、抗体14、若しくは非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で前処理したHAを含んだ。
【
図2】
図2は、漸増量の抗体3、抗体11、抗体12、及び抗体14の存在下での、A/HK/8/68に感染したMDCK細胞のNK細胞媒介性死滅の百分率を示す。
【
図3】
図3は、漸増量の抗体3、抗体11、抗体12、及び抗体14、又は非関連アイソタイプ対照(Ctrl.IgG)の存在下での、A/HK/8/68HAを発現するMDCK標的細胞を貪食したマクロファージの百分率を示す。
【
図4】
図4は、漸増量の抗体3、抗体11、抗体12、及び抗体14の存在下での、A/PR/8/34に感染したMDCK細胞の補体依存性殺滅の百分率を示す。
【
図5】
図5は、異なる濃度の抗体3又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)が、マウスに致死量のH1N1インフルエンザウイルス(influenza virus)への感染の4時間前に投与された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図6】
図6は、異なる濃度の抗体3又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)が、マウスに致死量のH3インフルエンザウイルス(influenza virus)への感染の4時間前に投与された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図7】
図7は、マウスが致死量のH1N1インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、かつ異なる時点(感染の1日後及び2日後)に30mg/kgの抗体3又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で治療された場合での各群における生存動物の百分率を示す。
【
図8】
図8は、マウスが致死量のH3インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、かつ異なる時点(感染の3、4及び5日後)に30mg/kgの抗体3又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で治療された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図9】
図9は、マウスが致死量のH1N1インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、かつ感染の1日後に2mg/kgの抗体3、抗体11、抗体12、抗体14又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で治療された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図10】
図10は、マウスが致死量のH3インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、かつ感染の2日後に3mg/kgの抗体3、抗体11、抗体12、抗体14又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で治療された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図11】
図11は、マウスが致死量のH1N1インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、かつ25mg/kg、5日間のオセルタミビル、10mg/kgの抗体12、又は10mg/kgの非関連対照抗体(Ctrl.IgG)での治療が異なる時点(感染の4時間前、1日後、又は2日後)に開始された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図12】
図12は、マウスが致死量のH3インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、25mg/kg、1日2回(BID)、5日間のオーラルオセルタミビル(oraloseltamivir)、又は単回用量10mg/kgの抗体12、又は10mg/kgの非関連対照抗体(Ctrl.IgG)での治療が様々な時点(感染の1、2、3又は4日後)に開始された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図13】
図13は、マウスが致死量のH3インフルエンザウイルス(influenza virus)に感染され、感染の2日後、2.5mg/kg若しくは0.3mg/kg単回用量での抗体12、25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビル、又は2.5mg/kg若しくは0.3mg/kgでの抗体12と25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビルとの組み合わせで治療された場合の試験の各群における生存動物の百分率を示す。
【
図14】
図14は、致死量のH5N1インフルエンザウイルス(influenza virus)への感染後、感染の1、2、若しくは3日後、25mg/kg単回用量の抗体12、25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビル、又は非関連対照抗体(Ctrl.IgG)で治療した場合の試験の各群における生存フェレットの百分率を示す。
【
図15】
図15は、MARM選択において用いられるA型インフルエンザ株のHA2タンパク質のアライメントを示す。
【実施例】
【0201】
実施例1 メモリーB細胞から単離したヒトモノクローナル抗体の構築及び最適化
CD22+IgG+B細胞は、高力価のヘテロサブタイプ抗体について選択したドナーの凍結保存した末梢血単核球(PBMC)から選別し、エプスタイン・バーウイルス(Epstein Barr Virus)(EBV)及びCpGオリゴデオキシヌクレオチド2006及び支持細胞を用いて、3細胞/ウェルで不死化した。抗体を含有する培養上清を14日後に回収し、ELISA結合アッセイによってスクリーニングし、H5(A/Vietnam/1203/04)及びH7(A/NLD/03)ヘマグルチニン(HA)に対する結合活性を各々判定した。4つのB細胞クローン(抗体1、抗体4、抗体7、及び抗体9)は、両方のHAに特異的に結合することが見出されたので、回収した。これらのクローンのVH及びVL遺伝子は、配列決定し、Kabatデータベースを用いてVH及びVL V、D及びJ断片対して実施した相同性分析によると、クローン的に関連性があることが見出された。注目すべきことには、抗体4のVHは、(抗体5においてコードされる)バリン又は(抗体6においてコードされる)グルタミン酸塩のいずれかをコードするHCDR3における縮重ヌクレオチド部位を有することが見出された。4つの抗体のVH及びVL遺伝子は、IgG1発現ベクターにクローニングし(クローニング及び 又はコドン最適化を促進するための少数の配列修飾により、5つの抗体;抗体3、抗体5、抗体6、抗体8及び抗体10が得られた;以下の実施例中で使用)、HEK又はCHO細胞由来の哺乳類細胞株の一過性トランスフェクションによって組換え抗体を産生した。トランスフェクト細胞からの上清を培養の7~10日後に回収し、IgGをプロテインAクロマトグラフィーによって親和性精製し、PBSに透析した。抗体3は、さらに最適化して変異体を産生し、ここではフレームワーク領域内に位置する非生殖系列コード化体細胞突然変異は、生殖系列コード化アミノ酸に変化し、CDR領域は、簡素な突然変異誘発を受けた。異なる突然変異を有する完全IgG構築物は、上記のように発現させ、粗上清は、ELISAによってスクリーニングし、H3及びH1 HAタンパク質への結合活性が増強したクローンを選択した。ELISAは、IgGを上清から捕獲し、正規化するように、0.15μg/mlのコーティング濃度のウサギ抗ヒトIgGを用いて実施し、次に0.5μg/mlのビオチン化HAサブタイプH1(A/California/7/04(H1N1))又はサブタイプH3(A/Perth/16/09(H3N2))を添加し、1時間インキュベートした。結合は、ストレプトアビジン-HRP(1:5000)の添加によって検出し、発色(development)吸光度を450nmで読み取った。より優れた結合をもたらす有利な単一の突然変異を組み合わせ、コンビナトリアルライブラリ中にクローニングし、発現させ、上記のとおりのELISAによってスクリーニングした。このライブラリ手法により、5つの追加的な抗体3変異体の産生がもたらされ、それらをさらに特徴づけた(抗体11~15)。
【0202】
実施例2 抗HA中和抗体(nAb)は異なるサブタイプのHAに結合する
抗HA抗体のエピトープが異なるサブタイプのHAの中で保存されるか否かを試験するため、HA交差反応性のELISA結合アッセイを実施した。384ウェルのMaxisorb ELISAプレート(Nunc)は、PBS中、0.5ug/mlの組換えHA(rHA)、サブタイプH1(A/California/7/09(H1N1))、サブタイプH2(A/Swine/MO/06(H2N3))、サブタイプH3(A/Perth/16/09(H3N2))、サブタイプH5(A/Vietnam/1203/04(H5N1))、サブタイプH6(A/teal/HK/W312/97(H6N1))、サブタイプH7(A/Netherlands/219/03(H7N7))及びサブタイプH9(A/chicken/HK/G9/97(H9N2))で、摂氏4度で一晩コーティングした。プレートは、0.1% v/v Tween-20を含有するPBSで洗浄し、コーティングされていないタンパク質を除去し、その後1%(w/v)カゼインを含有するブロッキング溶液(Thermo Scientific)を添加し、室温で1時間インキュベートした。ブロッキング溶液は廃棄し、ブロッキング溶液(カゼイン-PBS(Thermo Scientific)中の3倍連続希釈抗HA抗体を添加し、室温で1時間インキュベートした。プレートを3回洗浄し、結合した抗体を、ペルオキシダーゼコンジュゲートマウス抗ヒトIgG抗体(Jackson)を用いて検出した。抗体の結合活性は、Supersignal Pico基質(ThermoScientific)の添加後に化学発光シグナルを測定するか、又は1つの基質成分(KPL)のテトラメチルベンジジン(TMB)とのインキュベーション、その後の反応を停止するための2N硫酸の添加後、450nmでの色変化を測定することにより、算出した。
【0203】
【0204】
表1は、試験したすべての抗HA IgGがサブタイプH1、H2、H3、H5、H6、H9及びH7の組換えHAに結合したことを示す。サブタイプH9の組換えHAは、試験した抗体の最高濃度(6ug/ml)で、抗体3及び抗体10によって認識されたが、抗体5、抗体6及び抗体8によって認識されなかった。これは、これらの大半の抗HA IgGのエピトープが異なるサブタイプのHA分子の中で保存されることを示す。
【0205】
【0206】
表2は、試験したすべての抗HA IgG変異体がグループ1サブタイプH1、H2、H5、H6及びH9の組換えHAに類似のEC50値で結合したことを示す。すべての変異体がグループ2のHAタンパク質(H3及びH7)に結合したが、抗体11及び抗体3は、抗体12~15と比べて増加したEC50値で低下した活性を示した。
【0207】
これらの結合の結果を拡張し、より多様なHAサブタイプを含めるように、発明者らは、HAトランスフェクト細胞に対するフローサイトメトリーに基づく結合を用いて、さらなる結合試験を実施した。このアッセイでは、HEK細胞に、サブタイプH4 A/duck/Czechoslovakia/56(H4N6))、サブタイプH10(A/chicken/Germany/N49(H10N7))、サブタイプH11(A/duck/Memphis/546/74(H11N9))、サブタイプH12(A/duck/Alberta/60/76(H12N5))、サブタイプH13(A/gull/Maryland/704/77(H13N6))、サブタイプH14(A/mallard/Astrakhan/263/82(H14N5))、サブタイプH15(A/shearwater/West Australia/2576/79(H15N9))、サブタイプH16(A/black-headed gull/Sweden/2/99(H16N3))、及びサブタイプH17(A/little yellow-shouldered bat/Guatemala/164/2009(H17N10))の完全長野生型HAを発現するプラスミドを一過性にトランスフェクトした。トランスフェクションの48時間後、細胞は、トリプシンで剥離し、5μg/mlの抗体3又は抗体12とともに氷上で1時間インキュベートした。1時間のインキュベーション後、細胞-表面に発現されたHAタンパク質に結合した抗体は、次にヤギ抗ヒトIgG Daylight 649(Jackson ImmunoResearch)で染色し、フローサイトメトリーによって検出した。
図1Aは、抗体がサブタイプの各々からのHA発現細胞(白色)対モックトランスフェクト細胞(灰色)に結合される際の蛍光強度の変化を示す。抗体3は、両方のグループ(グループ1のH11、H12、H13、H16、及びH17並びにグループ2のH4、H10、H14、及びH15)から試験したH12を例外とするすべてのHAに結合した一方で、抗体12は、試験したすべてのHAに結合した。
【0208】
実施例3 Octetを用いた抗体3及び抗体5 IgG1へのHAの結合の動力学的特徴づけ
384傾斜ウェルプレート内でForteBio Octet QK384 Kinetic Analyzer(Menlo Park,CA)を用いて、親和性測定を実施した。すべての試薬は、Octet Kinetics Buffer(ForteBio)で希釈した。異なるサブタイプ、すなわちサブタイプH1(A/California/7/04(H1N1))及びサブタイプH3(A/Perth/16/09(H3N2))のHisタグ化HAを、10μg/mLで抗Hisセンサ上に固定化した。次に、抗HA mAbの会合/解離を、ゼロmAb対照に加えて、100nMからの2倍希釈において監視した。
【0209】
会合及び解離の生データは、ゼロmAb対照において任意のドリフトについて訂正し、次に親和性をカーブフィッティングするため、GraphPad Prism(San Diego,CA)にエクスポートした。データは、5×10-6/秒-1を超える課された限界でのグローバルな会合/解離フィッティングを用いてフィッティングした。表3に示すように、両抗体は、検出限界を下回る緩徐な解離速度で、H1に対してpMレベルで非常に高い親和性結合を有する。H3三量体の場合に、両抗体の類似したkon、koff及びKdがサブnMレベルで認められた。
【0210】
【0211】
実施例4 異なるサブタイプのウイルスに対する抗HA IgG1のインビトロ交差反応性中和活性
マイクロ中和アッセイ(MNA)は、読み取りとしてノイラミニダーゼ活性(NA)を用いる前述の迅速なウイルス阻害アッセイから変更した(Hassantoufighi,A.et al.2010,Vaccine 28:790)。つまり、MNAは、抗生物質、グルタミン及び10%(v/v)ウシ胎仔血清を添加したMEM培地(Invitrogen)(完全MEM培地)中で培養したMDCK細胞に対して実施した。60TCID50(50%組織培養感染用量)のウイルスを、室温で30分のインキュベーション後、2通りのウェルで、0.75ug/mlのトリプシン(Worthington)を含有する完全MEM培地中、384ウェルプレート内の3倍希釈抗体に添加し、2×104個の細胞/ウェルをプレートに添加した。摂氏33度の5%CO2インキュベーターで約40時間インキュベーション後、蛍光標識物質メチルウンベリフェリル-N-アセチルノイラミン酸(ΜU-NANA)(Sigma)を各ウェルに添加し、摂氏37度で1時間インキュベートすることにより、NA活性を測定した。NA活性によって表されるウイルス複製は、次の設定、すなわち励起355nm、発光460nm;10フラッシュ/ウェルを用いて、Fluorometer Envison(PerkinElmer)で蛍光を読み取ることによって定量した。中和力価(50%阻害濃度[IC50])は、細胞対照ウェルと比べて、蛍光シグナルが50%低下した最終抗体濃度として表される。表4及び表5は、抗HA抗体が、以下、すなわち、H1-PR34(A/Puerto Rico/8/34(H1N1));H1-PR34-OR(オセルタミビル耐性を与えるNA274Y(N2付番)突然変異を有するA/Puerto Rico/8/34(H1N1));H1-FM47(A/Fort Monmouth/1/47(H1N1));H1-NJ76(A/New Jersey/8/76(H1N1));H1-Kaw86(A/Kawasaki/9/86(H1N1));H1-TX91(caA/Texas/36/91(H1N1)):H1-BJ95(ca A/Beijing/262/95(H1N1));H1-Ncal99(ca A/NewCaledonia/20/99(H1N1));H1-SD07(ca A/SouthDakota/6/07(H1N1));H1-CA09(ca A/California/7/09(H1N1));H1-CA09-OR(オセルタミビル耐性を与えるNA274Y(N2付番)突然変異を有するca A/California/7/09(H1N1));H5-VN04(ca A/Vietnam/1203/04(H5N1));H5-HK03(ca A/Hong kong/213/03(H5N1));H9-HK97(ca A/chicken/Hong kong/G9/97(H9N2);H2-JP57(ca A/Japan/57(H2N2));H2-MO06(ca A/swine/Missouri/06(H2N3));H6-HK97(ca A/teal/Hong kong/W312/97(H6N1));H6-AB85(ca A/mallard/Alberta/89/85(H6N2));H3-HK68(A/Hong kong/8/68(H3N2));H3-Vic75(A/Victoria/3/75(H3N2));H3-LA87(A/Los Angeles/7/09(H3N2));H3-SD93(A/Shan dong/9/93(H3N2));H3-WH95(ca A/Wuhan/359/95(H3N2));H3-Syd97(ca A/Sydney/5/97(H3N2));H3-WH95-OR(オセルタミビル耐性を与えるNA274Y(N2付番)突然変異を有するca A/Wuhan/359/95(H3N2));H3-Pa99(ca A/Panama/2007/99(H3N2));H3-Wy03(A/Wyoming/03/03(H3N2));H3-WI05(A/Wisconsin/67/05(H3N2));H3-Perth09(ca A/Perth/16/09(H3N2))、H3-VC11(A/Victoria/361/11(H3N2));H7-NLD03(ca A/Netherlands/219/03(H7N7));H7-BC04(ca A/Brit.Columbia/CN-6/04(H7N3-LP);H7-ANU13(ca A/Anhui/1/13(H7N9)といった試験した異なるサブタイプのA型インフルエンザウイルスを中和することを示した。
【0212】
【0213】
表4は、抗HA抗体が試験したすべてのグループ1のA型インフルエンザウイルスを中和させることを示す。抗体8を除くすべての抗HA抗体は、試験したすべてのH3のA型インフルエンザウイルスに対して中和活性を呈し、抗体6を除くすべての抗HA抗体は、H7-NLD03(ca A/Netherlands/219/03(H7N7));H7-BC04(ca A/Brit.Columbia/CN-6/04(H7N3-LP)に対して中和活性を呈した。
【0214】
【0215】
表5は、抗体変異体(抗体11~15)が、試験したすべてのA型インフルエンザウイルスのグループ1及びグループ2を中和する場合に、低下したIC50値で、親抗体3より有効であることを示す。さらに、抗体はまた、オセルタミビル耐性(OR)を与えるNAタンパク質へと操作された突然変異を有する3つのウイルスを中和した。
【0216】
実施例5 ブタ由来H3N2ウイルスに対する抗HA IgGの中和活性
新たに出現したブタ由来H3N2ウイルス(A/Minnesota/11/2010及びA/Indiana/10/2011)に対する抗HA抗体3及び変異体(抗体11~15)の中和活性を、実施例4に記載のとおりのマイクロ中和アッセイで測定した。抗体FI6v4(国際公開第2013/011347A1号パンフレットに記載)を対照抗体として用いた。2つの独立実験から得た表6に示されるように、抗体3及び抗体変異体(抗体11~15)は、ブタ由来A/Indiana/10/2011 H3N2ウイルスを中和する場合にFI6v4より有効であった。抗体3及び抗体変異体はブタ由来A/Minnesota/11/2010 H3N2ウイルスを強力に中和し、他方でFI6v4は試験した抗体を最高濃度(50ug/ml)で中和することができなかった。
【0217】
【0218】
実施例6 抗HA中和抗体はインフルエンザ融合及びプロテアーゼ媒介性HA0切断を阻害する
抗体媒介性の融合阻害について試験するため、低pH誘発性赤血球融合アッセイを、前述の変更したプロトコルを通じて実施した(Wang T.T.et al.,2010 PLoS Pathog.6)。つまり、A/Puerto Rico/8/34ウイルス(10×10
6のTCID
50)を、ヒト赤血球(2%の最終赤血球濃度)とともに氷上で10分間インキュベートした。希釈した抗体3、抗体12、及び非関連抗体MPE8v3を、ウイルスとともに室温で30分間インキュベートした。次に、赤血球をウイルス-抗体混合物に摂氏37度で30分間添加し、最終的に酢酸ナトリウム緩衝液(0.5M pH5.0)を摂氏37度でさらに45分間添加した。試料を400×gで6分間遠心し、室温でさらに45分間インキュベートし、次に400×gで6分間再び遠心し、赤血球をペレット化した。次に、上清をELISAプレートに移し、放出されたNADPHの量を540nmで吸光度を測定することによって判定した(
図1B)。結果は、抗体3及び抗体12がウイルス融合を強力に阻害し、他方で、パラミクソウイルス(paramyxovirus)の融合タンパク質に対するヒトモノクローナル抗体、MPE8v3(Corti et al.,2013 Nature 501)が低pH誘発性融合を阻害できないことを示した。
【0219】
HA成熟の抗体媒介性遮断について試験するため、A/New Caledonia/20/99(H1N1)の組換えHAを、抗体3、FI6v4、FE17.23又は同位体対照抗体とともに15:1のモル比(mAb:HA)で40分間インキュベートした。次に、抗体-HA混合物を、2.5ug/mlのTPCKで処理したトリプシンに暴露し、摂氏37度で5、10及び20分間インキュベートした。試料を、ポリアクリルアミドゲル上で分離し、次にA型インフルエンザ株のHA2及びHA0を認識するビオチン化ヒトmAb(FO32)(Humabs)を用いるウエスタンブロット解析用のニトロセルロース膜に移した(
図1C)。結果は、抗体3が、プロテアーゼ媒介性HA0切断を遮断する場合にFI6v4より強力であることを示した。それに対し、HA球状頭部を認識するヒトモノクローナル抗体FE17.23及び対照抗体は、プロテアーゼ媒介性HA0切断を阻害できなかった。別の実験において、発明者らは、上記と同じ条件を用いて、抗体12及び抗体14のプロテアーゼ切断阻害を抗体3に対して比較した(
図1D)。結果は、抗体12、抗体13が、抗体3と同様のプロテアーゼ切断に対する遮断能を有することを示した。
【0220】
実施例7 抗HA抗体はFcエフェクター機能を呈する
抗体は、抗体依存細胞傷害性(ADCC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、及び補体依存性細胞傷害性(CDC)などのFcエフェクター機能を通じて、ウイルス感染細胞を除去する能力を有する。抗HA抗体がADCC活性を呈したことを確認するため、発明者らは、ヒトナチュラルキラー(NK)細胞の存在下でウイルス感染細胞を殺滅するその能力を試験した。ADCCアッセイは、20のMOIでA/Hong kong/8/68に感染したMDCK細胞に対して実施した。感染細胞は、抗体の希釈系列とともにインキュベートし、次に6:1のエフェクター対標的比でヒトPBMC(Miltenyi)からネガティブセレクションした精製NK細胞とともにインキュベートした。感染細胞、抗体、及びNK細胞の混合物を4時間インキュベートし、細胞死滅をLDH放出によって測定した(Roche)。
図2は、4つすべての抗HAストーク抗体が感染MDCK細胞の死滅を用量依存的に呈したことを示す。
【0221】
抗HA抗体の食作用を媒介する能力を測定するため、発明者らは、標的細胞として、A/Hong kong/8/68由来のHAが安定的にトランスフェクトされたMDCK細胞を用いた。ヒト単球を、PBMCから単離し、M-CSFの存在下で7日間培養し、マクロファージに分化させた。ヒトマクロファージ及びHAを発現する標的細胞を各々、青紫色及び緑色に蛍光標識した(CellTrace Violet又はCSFE,Invitrogen)。標識したエフェクター及び標的細胞を、6:1の比で、抗体の希釈系列の存在下で2時間インキュベートし、次にフローサイトメトリーによって分析した。パーセント食作用を、緑色の標的細胞でも陽性(二重陽性)である青紫色に染色したマクロファージのパーセントとして測定した。
図3は、すべての抗HA抗体が同様のADCPレベルを示し、予想どおり、非特異的対照抗体が食作用を全く示さなかったことを示す。
【0222】
抗HA抗体が補体と共働し、感染細胞の死滅を媒介する能力を測定するため、発明者らは、CDCアッセイを実施した。このアッセイでは、MDCK細胞を、2のMOIでA/Puerto Rico/8/34に感染させ、1:18のエフェクター対標的比で、抗体の希釈系列、及びウサギ由来の補体(Cedarlane)とともにインキュベートした。細胞死滅を、LDH放出によって測定した(Roche)。
図4は、すべての抗HA抗体が、補体の存在下で細胞死滅を媒介する能力を示したことを示す。
【0223】
実施例8 抗HA抗体の予防及び治療効果
インフルエンザウイルス感染に対するヒト中和抗体(nAb)の保護的有効性を、6~8週齢BALB/c(Harlan Laboratories)マウスモデルで評価した。マウスは、致死性ウイルス負荷の前又は後のいずれかに異なる用量のnAbで治療した。
【0224】
予防活性(
図5及び6)
8群のマウスに、100μlの容量で、0.1、0.3、1、3及び10mg/kgの用量で単回腹腔内注射(IP)として抗体3を、又は10mg/kgでヒトアイソタイプ非関連対照IgGを投与した。投与の4時間後、マウスの鼻腔内に、50μlの容量で、50%マウス致死量の7倍(7MLD
50)のA/California/7/09(H1N1)(H1-CA09)又は7:1 A/PR/8:A/HK/8/68HA(H3N1)(H3-HK68)リアソータントを接種した。マウスは、ウイルス負荷の当日又は1日前に秤量し、体重減少及び生存について14日間毎日監視した(25%以上の体重減少を伴うマウスは安楽死させた)。抗体3は、用量依存的な様式で保護を与えた。1mg/kg以上の抗体3のIP注射は、H1-CA09(
図5)及びH3-HK68(
図6)を負荷した動物に完全な保護をもたらした。より低い抗体用量(0.3mg/kg)もまた、90%の保護で非常に保護的であった。予想どおり、10mg/kgでのアイソタイプ対照mAbを受けたマウスは、感染の致死的負荷に対して全く生存しなかった。
【0225】
治療活性(
図7及び8)
マウスに、3MLD
50のH1-CA09を接種し、感染から24及び48時間後(h.p.i.)に抗体3(
図7)又は感染から72、96及び120時間後に5MLD
50のH3-HK68(
図8)を注射した。30mg/kgの抗体3によるIP治療によると、感染から24及び48時間後では、H1-CA09を負荷したマウスの75~100%が保護され、また感染から72及び96時間後では、H3-HK68を負荷したマウスの87.5~100%が保護された。H1及びH3モデルにおける感染から0又は24時間後での同じ用量の非関連アイソタイプ対照抗体での治療によると、マウスは致死性負荷から保護できず、生存率は各々0%又は12.5%であった。
【0226】
抗体3変異体の治療活性(
図9及び10)
マウスに、3MLD
50のH1-CA09を接種し、感染から24時間後に抗体を注射するか(
図9)、又は7MLD
50のH3-HK68を接種し、感染から48時間後に抗体を注射した(
図10)。2mg/kgの抗体3及び変異体mAb(抗体11、抗体12、及び抗体14)によるIP治療によると、H1-CA09を負荷したマウスの87.5~100%が保護され、また3mg/kg用量の異なるnAbによるIP治療によると、H3-HK68を負荷したマウスの50~87.5%が保護された。予想どおり、H1及びH3モデルにおける感染から24又は48時間後での同じ用量の非関連アイソタイプ対照抗体での治療によると、マウスは保護できず、生存率は各々0%又は12.5%であった。
【0227】
実施例9 抗HA抗体及び小分子阻害剤オセルタミビルの治療効果
小分子ノイラミニダーゼ(NA)阻害剤、オセルタミビルに対する抗HA nAbの保護的有効性、及び併用療法の効果を直接的に比較するため、発明者らは、実施例8に記載の感染のインフルエンザマウスモデルを用いた。
【0228】
抗HA nAb及びオセルタミビルの治療比較(
図11及び12)
マウスに、3MLD
50のH1-CA09を接種し、感染の4時間前、1日後、又は2日後のいずれかに開始した、10mg/kgの抗体12又は25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビルでの治療を行った(
図11)。感染の1日前及び1日後の抗体12での治療によると、H1-CA09を負荷したマウスの100%が保護され、他方で、オセルタミビルで治療したすべての動物が感染に屈した。感染の4時間前に同じ用量の非関連アイソタイプ対照で治療したすべての動物が死滅し、生存率は0%であった。加えて、マウスに、7MLD
50のH3-HK68を接種し、次に、感染の1、2、3、又は4日後のいずれかに開始した、10mg/kgの抗体12又は25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビルの治療を行った(
図12)。感染から1、2、又は3日後に抗体12で治療した動物が100%の生存率を示し、他方で、これらと同じ時点でのオセルタミビルによる治療では、わずか60%~20%の生存率を示した。予想どおり、感染の1日後に同じ用量の非関連アイソタイプ対照抗体で治療したマウスは感染に屈し、生存率は10%であった。
【0229】
抗HA nAbとオセルタミビルとの治療的組み合わせ(
図13)
抗HA mAbとオセルタミビルとの組み合わせの相加効果を評価するため、マウスに、7MLD
50のH3-HK68を接種し、感染の3日後、準最適濃度の抗体12(2.5又は0.3mg/kg)、25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビル、又は抗体12(2.5又は0.3mg/kg)と25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビルとの組み合わせで治療した(
図13)。抗体12又はオセルタミビル単独のいずれかでの治療によると、動物のわずか10~20%が保護され、他方で、オセルタミビルと組み合わせた2.5mg/kgの抗体12での治療によると、動物の80%が保護され、またオセルタミビルと組み合わせた0.3mg/kgの抗体12での治療によると、動物の50%が保護された。
【0230】
実施例10 フェレットにおけるH5N1インフルエンザ感染に対する抗HA抗体及び小分子阻害剤の治療効果
高病原性のインフルエンザウイルス感染に対する抗HA nAb及びオセルタミビルの保護的有効性を、5~6月齢のインフルエンザ血清陰性フェレット(Triple F Farms)において評価した。すべてのフェレットの鼻腔内に、1.0mL(約0.5mL/鼻孔)で、1LD
90のA/VN/1203/04(H5N1)高病原性トリインフルエンザウイルス(influenza virus)を負荷し、次に、感染から1、2、又は3日後に開始した、単回用量の、25mg/kgの抗体12又は25mg/kg、1日2回、5日間のオセルタミビルのいずれかでの治療を行った。各群(n=7)に対して、パーセント生存を算出した(
図14)。感染から1、2、及び3日後に開始した抗体12での治療を行ったフェレット、ならびに感染から1日後にオセルタミビルで治療したものは、保護され、100%の生存率を有した。しかし、感染から2及び3日後にオセルタミビル治療が開始された時、フェレットは各々、71%の生存率(死滅の平均日が12)及び29%の生存率(死滅の平均日が9)しか有しなかった。予想どおり、感染から1日後に25mg/kgの非関連アイソタイプ対照抗体で治療した動物は、生存できず、生存率は0%であった。
【0231】
実施例11 モノクローナル抗体耐性突然変異体(MARM)の選択によるエピトープの同定
抗体耐性突然変異体を、3つのH3N2ウイルスから2つの異なる方法を用いて単離した。A/Aichi/2/68(Aichi/68)H3N2を、高濃度の抗体12(125×IC50)とともに、ウイルスと抗体の混合物が10×96ウェルプレート内、30,000TCID50/ウェルのMDCK細胞に吸着される前に1時間インキュベートし、抗体12(10×IC50)の存在下で培養した。感染から最大3日以内に、感染細胞に対する細胞変性効果(CPE)を呈する3つの推定上の抗体12 HK2/68 MARMを単離した。HA遺伝子を、RT-PCRによって増幅し、その後、配列決定した。配列分析によると、親配列と比べて、2つの非同義置換が示された(表7)。これら2つのヌクレオチド変化は各々、HA2の高度に保存されたストーク領域内のアミノ酸位置18及び19での、イソロイシン(I)からアルギニン(R)へ、及びアスパラギン酸(D)からチロシン(Y)への単一のアミノ酸置換をコードする。或いは、連続継代したインフルエンザH3N2ウイルス、A/Wisconsin/67/2005(WI05)及びca A/Panama/2007/1999(Pa99)を、2~5×IC50から最大で100×IC50まで増加する濃度の抗体12の存在下で増殖させた。有望なエスケープ変異体を、限界希釈によりサブクローニングし、それと同種のHA遺伝子に対して配列分析を行った。HA2中、位置19でのDからYへ、及び位置42でのグルタミン(Q)からRへの単一のアミノ酸変化が同定された。加えて、二重突然変異が、D19Yと併せてHA1中の位置156でのヒスチン(Histine)(H)からQへのアミノ酸置換、又はHA2中の残基45でのIからNへのアミノ酸変化と併せて位置19でのDからアスパラギン(N)へのアミノ酸置換、或いはQ42Rと併せてHA1中の位置196でのアラニン(A)からトレオニン(T)へのアミノ酸置換の場合に認められた(表7)。同様に、Pa99を最大100×IC50の濃度の抗体12の存在下で連続継代した時、単一のアミノ酸置換が、HA2残基42(Q42R)及び45(I45T)で選択された(表7)。表7に示される代表的なMARM変異体を、マイクロ中和アッセイで用いて、抗体12による中和に対するこれらMARMの表現型感受性をさらに評価した。結果は、インビトロで選択された、突然変異D19Y、H156Q/D19Y、D19N/I45N、Q42R又はA196T/Q42Rを有するWI05 MARM;Q42R又はI45Tを有するPa99 MARM、及び突然変異D19Y又はI18Rを有するAichi/68 MARMが、それらの親野生型株と各々比べたとき、抗体中和に対してより低い感受性を示し、IC50計算値の増加がPa99耐性クローンにおける8倍超からWI05耐性変異体における180倍超にかけての範囲であることを示した(表8)。これらのアミノ酸置換の抗体12による中和への感受性に対する効果を評価するため、個別の突然変異をコードする組換えA/Hong kong/1-5/68(rHK68)H3変異体を作成し、マイクロ中和アッセイを用いて評価した。表9に示されるとおり、H3 rHK68_I18R及びrHK68_D19Y変異体は、試験した最高濃度(約200μg/mL)で抗体12に対する耐性を呈し、抗体12による中和への感受性において、野生型rHK68ウイルスと比べて130倍を超える低下をもたらした。rHK68における単一のアミノ酸変化Q42Rは、抗体12による中和への感受性において中程度の約8倍の低下をもたらした。しかし、選択したMARMのHAタンパク質において同定されたアミノ酸置換(K156Q、A196T、I45N又はI45T)は、マイクロ中和アッセイにおいて、かかる置換をコードする組換えHK68ウイルスの抗体12に対する感受性を改変しなかった。これらの結果は、抗体12がHA2の高度に保存されたストーク領域内の立体構造エピトープを認識し、また位置18、19 42又は45でのアミノ酸が重要な接触残基であることを示唆している。
【0232】
【0233】
【0234】
【0235】
【0236】
【0237】
【0238】
【0239】
A型インフルエンザ 参考文献:
Corti,D.,et al.2010.Heterosubtypic neutralizing antibodies are produced by individuals immunized with a seasonal influenza vaccine.J Clin Invest 120:1663-1673.
Corti,D.,et al.2011.A neutralizing antibody selected from plasma cells that binds to group 1 and group 2 influenza A hemagglutinins.Science 333:850-856.
Corti D.,et al.2013.Cross-neutralization of four paramyxoviruses by a human monoclonal antibody.Nature 501(7467):439-43.Ekiert,D.C.et al.2009.Antibody recognition of a highly conserved influenza virus epitope.Science 324:246-251.
Ekiert,D.C.et al .2011.A highly conserved neutralizing epitope on group 2 influenza A viruses.Science 333:843-850.
Ekiert,D.C.,et al.2012.Cross-neutralization of influenza A viruses mediated by a single antibody loop.Nature 489:526-532.
Krause,J.C.,et al.2011.A broadly Neutralizing human monoclonal antibody that recognizes a conserved,novel epitope on the globular head of the influenza H1N1 virus hemagglutinin.J.Virol.85:10905-10908.Lee,P.S.,et al.2012.Heterosubtypic antibody recognition of the influenza virus hemagglutinin receptor binding site enhanced by avidity.Proc Natl Acad Sci U S A.109:17040-17045
Li G.M.et al 2012.Pandemic H1N1 influenza vaccine induces a recall response in humans that favors broadly cross-reactive memory B cells.Proc Natl Acad Sci U S A.109:9047-9052.
Nakamura G.et al 2013.An in vivo human-plasmablast enrichment technique allows rapid identification of therapeutic influenza a antibodies.Cell host microbe 14:93-103
Sui,J.,et al.2009.Structure and functional bases for broad-spectrum neutralization of avian and human influenza A viruses.Nat Struct Mol Biol 16:265-273.
Throsby,M.,et al.2008.Heterosubtypic neutralizing monoclonal antibodies cross-protective against H5N1 and H1N1 recovered from human IgM+ memory B cells.PLoS One 3:e3492
Wang T.T.,et al.,2010.Broadly protective monoclonal antibodies against H3 influenza viruses following sequential immunization with different hemagglutinins.PLoS Pathog.6(2):e1000796.
Whittle,J.R.R.,et al.2011.Broadly neutralizing human antibody that recognizes the receptor-binding pocket of influenza virus hemagglutinin.Proc Natl Acad Sci U S A.108:14216-14221.
Wrammert,J.,et al.2011.Broadly cross-reactive antibodies dominate the human B cell response against 2009 pandemic H1N1 influenza virus infection.J Exp Med.208:181-193.
【0240】
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【配列表】